JP2012136370A - 単結晶炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材及び単結晶炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長方法 - Google Patents

単結晶炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材及び単結晶炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長方法 Download PDF

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【課題】安価な炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材を提供する。
【解決手段】単結晶炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材12は、結晶多形が3Cである多結晶炭化ケイ素を含む表層を有する。表層のX線回折により、(111)結晶面、(200)結晶面、(220)結晶面及び(311)結晶面の少なくとも一つに対応した1次回折ピークが観察される。少なくとも一つの1次回折ピークから算出される平均結晶子径が、700Åより大きい。
【選択図】図1

Description

本発明は、単結晶炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材及びそれを用いた単結晶炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長方法に関する。
炭化ケイ素(SiC)は、ケイ素(Si)やガリウムヒ素(GaAs)等の従来の半導体材料では実現できない高温耐性、高耐電圧性、耐高周波性及び高耐環境性を実現することが可能であると考えられている。このため、炭化ケイ素は、次世代のパワーデバイス用の半導体材料や高周波デバイス用半導体材料として期待されている。
従来、単結晶炭化ケイ素を成長させる方法として、例えば、下記の特許文献1などにおいて、昇華再結晶法(改良レーリー法)が提案されている。この改良レーリー法では、坩堝内の低温側領域に単結晶炭化ケイ素からなるシード材を配置し、高温側領域に原料となるSiを含む原料粉末を配置する。そして、坩堝内を不活性雰囲気とした上で、1450℃〜2400℃の高温に加熱することにより、高温側領域に配置されている原料粉末を昇華させる。その結果、低温側領域に配置されているシード材の表面上に炭化ケイ素をエピタキシャル成長させることができる。
しかしながら、改良レーリー法は、気相中で温度勾配を設けることにより炭化ケイ素結晶を成長させる方法である。このため、改良レーリー法を用いた場合、炭化ケイ素のエピタキシャル成長に大型の装置を要し、かつ、炭化ケイ素エピタキシャル成長のプロセス制御が困難となる。よって、炭化ケイ素エピタキシャル成長膜の製造コストが高くなるという問題がある。また、気相中における炭化ケイ素エピタキシャル成長は、非平衡である。このため、形成される炭化ケイ素エピタキシャル成長膜に結晶欠陥が生じやすく、また、結晶構造に荒れが生じやすいという問題がある。
改良レーリー法以外の炭化ケイ素のエピタキシャル成長法としては、例えば特許文献2などで提案されている、液相において炭化ケイ素をエピタキシャル成長させる方法である準安定溶媒エピタキシー(Metastable Solvent Epitaxy:MSE)法が挙げられる。
MSE法では、単結晶炭化ケイ素や多結晶炭化ケイ素などの結晶性炭化ケイ素からなるシード材と、炭化ケイ素からなるフィード材とを、例えば100μm以下といった小さな間隔をおいて対向させ、その間にSiの溶融層を介在させる。そして、真空高温環境で加熱処理することにより、シード材の表面上に炭化ケイ素をエピタキシャル成長させる。
このMSE法では、シード材の化学ポテンシャルと、フィード材の化学ポテンシャルとの差に起因して、Si溶融層に溶解する炭素の濃度勾配が生じることにより炭化ケイ素エピタキシャル成長膜が形成されるものと考えられている。このため、改良レーリー法を用いる場合とは異なり、シード材とフィード材との間に温度差を設ける必要が必ずしもない。従って、MSE法を用いた場合、簡素な装置で、炭化ケイ素のエピタキシャル成長プロセスを容易に制御できるばかりか、高品位な炭化ケイ素エピタキシャル成長膜を安定して形成することができる。
また、大きな面積を有するシード基板の上にも炭化ケイ素エピタキシャル成長膜を形成できるという利点、Si溶融層が極めて薄いため、フィード材からの炭素が拡散しやすく
、炭化ケイ素のエピタキシャル成長プロセスの低温化を図れるという利点もある。
従って、MSE法は、単結晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長法として極めて有用な方法であると考えられており、MSE法に関する研究が盛んに行われている。
特開2005−97040号公報 特開2008−230946号公報
上述のように、MSE法においては、フィード材の自由エネルギーがシード材の自由エネルギーよりも高くなるように、フィード材及びシード材を選択する必要があるものと考えられている。このため、例えば上記特許文献2には、フィード基板とシード基板との結晶多形を異ならしめることにより、フィード基板とシード基板とで自由エネルギーを異ならしめることが記載されている。具体的には、フィード基板を多結晶3C−SiC基板により構成した場合は、3C−SiC基板よりも低い自由エネルギーを有する単結晶4H−SiC基板などによりシード基板を構成することが記載されている。
ここで、多結晶3C−SiC基板は、CVD法により容易に作製できる。このため、特許文献2に記載のように、3C−SiC基板をフィード基板として用いることにより、炭化ケイ素エピタキシャル成長膜の形成コストを低く抑えることができる。
しかしながら、4H−SiC基板や3C−SiC基板などの炭化ケイ素基板のなかで、3C−SiC基板が最も高い自由エネルギーを有する。このため、自由エネルギーが低いことが要求されるシード基板として3C−SiC基板を用いることはできないと考えられていた。従って、特許文献2では、製造が困難で高コストな単結晶4H−SiC基板がシード基板として用いられており、炭化ケイ素エピタキシャル成長層の形成コストが高くなっているという問題がある。
本発明は、係る点に鑑みてなされたものであり、その目的は、安価な炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材を提供することにある。
本発明者は、鋭意研究の結果、結晶多形が3Cである多結晶炭化ケイ素材の中に、ケイ素溶融層への溶出が生じやすいものと溶出が生じにくいものがあり、ケイ素溶融層への溶出が生じにくいものは、炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長のシード材として好適に用いることができることを見出した。その結果、本発明者は、本発明を成すに至った。
すなわち、本発明に係る単結晶炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材は、単結晶炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長方法に用いられるシード材である。本発明に係る単結晶炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材は、結晶多形が3Cである多結晶炭化ケイ素を含む表層を有する。表層のX線回折により、(111)結晶面、(200)結晶面、(220)結晶面及び(311)結晶面の少なくとも一つに対応した1次回折ピークが観察される。少なくとも一つの1次回折ピークから算出される平均結晶子径が、700Åより大きい。このため、本発明に係る単結晶炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材からは、ケイ素溶融層への溶出が生じにくい。よって、本発明に係る単結晶炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材を用いることにより、ケイ素溶融層における濃度勾配を好適に形成することができ、炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長を好適に行うこ
とができる。なお、平均結晶子径が700Åより大きい場合にケイ素溶融層への溶出が生じにくくなるのは、表層において多結晶炭化ケイ素結晶の高い反応性を有する粒界が占める割合が少なくなるためであると考えられる。
なお、本発明において、「結晶子径」は、下記の式(1)に示すHallの式に基づいて算出された結晶子径をいう。
β・(cosθ)/λ=2η・(sinθ)/λ+1/ε ……… (1)
但し、
β:半値幅、
θ:回折線のブラック角、
λ:測定に用いたX線の波長、
η:結晶の不均一歪みの値、
ε:結晶子径の平均の大きさ、
である。
また、本発明に係る単結晶炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材の表層は、結晶多形が3Cである多結晶炭化ケイ素を含むものである。このため、表層を、結晶多形が4Hや6Hなどである多結晶炭化ケイ素を含むものとしたり、単結晶炭化ケイ素からなるものとしたりする場合とは異なり、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により容易かつ安価に製造することができる。
すなわち、本発明に係る単結晶炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材を用いることにより、単結晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長膜を容易かつ安価に形成することができる。
本発明において、「液相エピタキシャル成長方法」とは、シード材とフィード材とをケイ素溶融層を介して対向させた状態で加熱することによりケイ素溶融層中に溶融する黒鉛の濃度勾配を形成し、その濃度勾配により、シード材の上に単結晶炭化ケイ素をエピタキシャル成長させる方法をいう。
本発明において、「X線回折」とは、8.048keVであるX線(CuKα線)を用いた回折をいう。
本発明において、「フィード材」とは、例えば、Si、C、SiCなどの単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長の材料となるものを供給する部材をいう。一方、「シード材」とは、表面上に単結晶炭化ケイ素が成長していく部材をいう。
少なくとも一つの1次回折ピークの合計強度に対する(111)結晶面に対応した1次回折ピークの強度の比(((111)結晶面に対応した1次回折ピークの強度)/(少なくとも一つの1次回折ピークの合計強度))は、5以上であることが好ましい。この構成によれば、単結晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長速度を高めることができる。これは、ケイ素溶融層への溶出が生じにくい(111)結晶面の露出割合が高まるので、ケイ素溶融層における濃度勾配が大きくなるためであると考えられる。
また、優れた特性を有する六方晶の単結晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長膜を形成することが可能となる。これは、(111)結晶面が六方晶の(0001)結晶面と等価であるため、スタッキングエラーが容易に生じる。この結果、(111)結晶面が多く露出している場合、六方晶の単結晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長が好適に進行すると考えられる。
本発明において、表層のX線回折により観察される(111)結晶面のうち、配向角度が67.5°以上であるものの占める割合が80%以上であることが好ましい。この構成によれば、単結晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長速度をさらに効果的に高めることができる。これは、(111)結晶面を露出させている結晶の、(111)結晶面よりも安定性が低い面の露出度を低くすることができるため、(111)結晶面を露出させている結晶の溶出を抑制できるためであると考えられる。
本発明において、表層は、結晶多形が3Cである多結晶炭化ケイ素を主成分として含むことが好ましく、実質的に、結晶多形が3Cである多結晶炭化ケイ素からなることが好ましい。この構成によれば、単結晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長速度をさらに効果的に高めることができる。
なお、本発明において、「主成分」とは、50質量%以上含まれる成分のことをいう。
本発明において、「実質的に、結晶多形が3Cである多結晶炭化ケイ素からなる」とは、不純物以外に、結晶多形が3Cである多結晶炭化ケイ素以外の成分を含まないことを意味する。通常、「実質的に、結晶多形が3Cである多結晶炭化ケイ素からなる」場合に含まれる不純物は、5質量%以下である。
本発明に係る単結晶炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材は、支持材と、支持材の上に形成されており、表層を構成している多結晶炭化ケイ素膜とを備えていてもよい。その場合において、多結晶炭化ケイ素膜の厚みは、30μm〜800μmの範囲内にあることが好ましい。
また、本発明に係る単結晶炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材は、結晶多形が3Cである多結晶炭化ケイ素を含む多結晶炭化ケイ素基板により構成されていてもよい。
本発明に係る単結晶炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長方法では、上記本発明に係る単結晶炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材の表層と、炭化ケイ素からなる表層を有するフィード材の表層とをケイ素溶融層を介して対向させた状態で加熱することによりシード材の表層上に単結晶炭化ケイ素をエピタキシャル成長させる。この方法によれば、単結晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長膜を安価に形成することができる。また、シード材とフィード材との間に温度差を設ける必要が必ずしもない。従って、簡素な装置で、単結晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長プロセスを容易に制御できるばかりか、高品位な単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜を安定して形成することができる。
本発明によれば、安価な炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材を提供することができる。
本発明の一実施形態における単結晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長方法を説明するための模式図である。 本発明の一実施形態におけるフィード基板の略図的断面図である。 本発明の一実施形態におけるシード基板の略図的断面図である。 変形例におけるフィード基板の略図的断面図である。 変形例におけるシード基板の略図的断面図である。 サンプル1〜4のX線回折チャートである。 (111)結晶面の配向性の測定方法を説明するための模式図である。 サンプル1における(111)結晶面の配向性を示すグラフである。 サンプル2における(111)結晶面の配向性を示すグラフである。 サンプル3における(111)結晶面の配向性を示すグラフである。 サンプル4における(111)結晶面の配向性を示すグラフである。 サンプル1,2及び4における単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜の成長速度を示すグラフである。 サンプル3,4における単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜の成長速度を示すグラフである。 実施例における液相エピタキシャル成長実験実施後のシード基板(サンプル3)のSEM写真である。 比較例における液相エピタキシャル成長実験実施後のシード基板(サンプル2)のSEM写真である。
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示である。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されない。
図1は、本実施形態における単結晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長方法を説明するための模式図である。
本実施形態では、MSE法を用いて単結晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長膜を形成する例について説明する。
本実施形態では、図1に示すように、容器10内において、シード材としてのシード基板12と、フィード材としてのフィード基板11とを、シード基板12の主面12aとフィード基板11の主面11aとがシリコンプレートを介して対向するように配置する。その状態でシード基板12及びフィード基板11とを加熱し、シリコンプレートを溶融する。そうすることにより、シード基板12とフィード基板11とがケイ素溶融層13を介して対向した状態となる。この状態を維持することにより、シード基板12側からケイ素、炭素、炭化ケイ素などの原料がケイ素溶融層13に溶出する。これにより、ケイ素溶融層13に濃度勾配が形成される。その結果、シード基板12の主面12a上に単結晶炭化ケイ素がエピタキシャル成長し、単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜20が形成される。なお、ケイ素溶融層13の厚みは、極めて薄く、例えば、10μm〜100μm程度とすることができる。
(シード基板12)
シード基板12は、結晶多形が3Cである多結晶炭化ケイ素を含む表層を有する。具体的には、図3に示すように、本実施形態では、シード基板12は、黒鉛からなる支持材12bと、多結晶炭化ケイ素膜12cとを有する。黒鉛からなる支持材12bは、炭化ケイ素のエピタキシャル成長プロセスに十分に耐えることのできる高い耐熱性を有している。また、黒鉛からなる支持材12bは、単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜20と似通った熱膨張率を有する。従って、黒鉛からなる支持材12bを用いることにより、炭化ケイ素エピタキシャル成長膜20を好適に形成することができる。
なお、黒鉛の具体例としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、石油コークス、石炭コークス、ピッチコークス、カーボンブラック、メソカーボン等が挙げられる。黒鉛からなる支持材12bの製造方法は、例えば、特開2005−132711号公報に記載の製造方法などが挙げられる。
多結晶炭化ケイ素膜12cは、支持材12bの主面及び側面を覆うように形成されている。多結晶炭化ケイ素膜12cは、多結晶炭化ケイ素を含む。この多結晶炭化ケイ素膜12cによって、シード基板12の表層が形成されている。なお、本実施形態における多結晶炭化ケイ素膜12cは、多結晶3C−SiCを主成分として含むことが好ましく、実質的に多結晶3C−SiCからなることが好ましい。すなわち、本実施形態において、シード基板12の表層は、多結晶3C−SiCを主成分として含むことが好ましく、実質的に多結晶3C−SiCからなることが好ましい。そうすることにより単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜20の成長速度を高めることができる。
多結晶炭化ケイ素膜12cの厚みt12は、30μm〜800μmの範囲内にあることが好ましく、40μm〜600μmの範囲内にあることがより好ましく、100μm〜300μmの範囲内にあることがさらに好ましい。多結晶炭化ケイ素膜12cの厚みt12が薄すぎると、単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜20の形成時に、黒鉛からなる支持材12bが露出し、支持材12bからの溶出に起因して好適な単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜20が得られなくなる場合がある。一方、多結晶炭化ケイ素膜12cの厚みt12が厚すぎると、多結晶炭化ケイ素膜12cにクラックが生じやすくなる場合がある。
多結晶炭化ケイ素膜12cの形成方法は特に限定されない。多結晶炭化ケイ素膜12cは、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法や、スパッタリング法などにより形成することができる。特に、本実施形態では、多結晶炭化ケイ素膜12cが多結晶3C−SiCを含むものであるため、CVD法により緻密な多結晶炭化ケイ素膜12cを容易かつ安価に形成することができる。
シード基板12の表層を構成している多結晶炭化ケイ素膜12cは、X線回折により、(111)結晶面、(200)結晶面、(220)結晶面及び(311)結晶面の少なくとも一つに対応した1次回折ピークが観察され、それら少なくとも一つの1次回折ピークから算出される平均結晶子径が、700Åより大きいものである。
ところで、従来、上述のように、フィード材の自由エネルギーがシード材の自由エネルギーよりも高くなるように、フィード材及びシード材を選択する必要があり、自由エネルギーの低い3C−SiC基板をフィード基板として用いた場合は、3C−SiC基板をシード基板として用いることができず、4H−SiC基板や6H−SiC基板などの他の結晶多形を有する炭化ケイ素基板をシード基板として用いる必要があるものと考えられていた。
しかしながら、本発明者は、鋭意研究の結果、3C−SiC基板のなかにも、ケイ素溶融層への溶出が生じやすいものとケイ素溶融層への溶出が生じにくいものとがあり、ケイ素溶融層への溶出が生じにくいものは、炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長のシード材として好適に用いることができることを見出した。そして、本発明者は、さらなる鋭意研究の結果、平均結晶子径が大きいほどケイ素溶融層への溶出が生じにくくなることを見出した。この知見に従い、本発明者は、結晶多形が3Cである多結晶炭化ケイ素を含む表層の平均結晶子径が700Å以下である基板をシード基板12として用いた。そうすることにより、表層が多結晶3C−SiCを含み、CVD法により安価に作製できるシード基板12を用いた際にも炭化ケイ素を好適に液相エピタキシャル成長させることができた。この理由としては、平均粒子径が大きくなるほど、表層において多結晶炭化ケイ素結晶の高い反応性を有する粒界が占める割合が少なくなり、表層のケイ素溶融層への溶出がより生じにくくなることが考えられる。
また、多結晶炭化ケイ素膜12cのX線回折により観察される少なくとも一つの1次回
折ピークの合計強度に対する(111)結晶面に対応した1次回折ピークの強度の比(((111)結晶面に対応した1次回折ピークの強度)/(少なくとも一つの1次回折ピークの合計強度))は、5以上であることが好ましい。この場合、単結晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長速度を高めることができる。これは、ケイ素溶融層への溶出が生じにくい(111)結晶面の露出割合が高まるためであると考えられる。また、この場合には、優れた特性を有する六方晶の単結晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長膜20を形成することが可能となる。これは、(111)結晶面が六方晶の(0001)結晶面と等価であるため、(111)結晶面が多く露出している場合、六方晶の単結晶炭化ケイ素のエピタキシャル成長が好適に進行するためであると考えられる。
なお、六方晶の単結晶炭化ケイ素の代表例としては、結晶多形が4Hまたは6Hである単結晶炭化ケイ素が挙げられる。これらの結晶多形が4Hまたは6Hである単結晶炭化ケイ素(4H−SiC、6H−SiC)は、他の結晶多形の炭化ケイ素と比較して、バンドギャップが広く、優れた耐熱性を有する半導体デバイスの実現が可能となるという利点を有する。
また、多結晶炭化ケイ素膜12cは、X線回折により観察される(111)結晶面のうち、配向角度が67.5°以上であるものの占める割合が80%以上であるものであることが好ましい。この場合、単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜20の成長速度をさらに効果的に高めることができる。これは、(111)結晶面を露出させている結晶の、(111)結晶面よりも安定性が低い面の露出度を低くすることができるため、(111)結晶面を露出させている結晶の溶出を抑制できるためであると考えられる。
(フィード基板11)
本実施形態においては、フィード基板11は、シード基板12よりもケイ素溶融層13への溶出が生じにくいものである限りにおいて特に限定されない。このため、フィード基板11としては、例えば、結晶多形が3Cである多結晶炭化ケイ素を含む表層を有し、その表層のX線回折により、(111)結晶面、(200)結晶面、(220)結晶面及び(311)結晶面の少なくとも一つに対応した1次回折ピークが観察され、それら少なくとも一つの1次回折ピークから算出される平均結晶子径が、700Å以下である基板を好適に用いることができる。
図2に、本実施形態のフィード基板11の略図的断面図を示す。図2に示すように、本実施形態では、具体的には、フィード基板11は、黒鉛からなる支持材11bと、多結晶炭化ケイ素膜11cとを有する。黒鉛からなる支持材11bは、炭化ケイ素のエピタキシャル成長プロセスに十分に耐えることのできる高い耐熱性を有している。また、黒鉛からなる支持材11bは、単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜20と似通った熱膨張率を有する。従って、黒鉛からなる支持材11bを用いることにより、単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜20を好適に形成することができる。
なお、黒鉛の具体例としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、石油コークス、石炭コークス、ピッチコークス、カーボンブラック、メソカーボン等が挙げられる。黒鉛からなる支持材11bの製造方法は、例えば、特開2005−132711号公報に記載の製造方法などが挙げられる。
多結晶炭化ケイ素膜11cは、支持材11bの主面及び側面を覆うように形成されている。多結晶炭化ケイ素膜11cは、多結晶炭化ケイ素を含む。この多結晶炭化ケイ素膜11cによって、フィード基板11の表層が形成されている。なお、多結晶炭化ケイ素膜11cは、多結晶3C−SiCを主成分として含むことが好ましく、実質的に多結晶3C−SiCからなることが好ましい。すなわち、フィード基板11の表層は、多結晶3C−S
iCを主成分として含むことが好ましく、実質的に多結晶3C−SiCからなることが好ましい。そうすることにより単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜20の成長速度を高めることができる。
多結晶炭化ケイ素膜11cの厚みt11は、30μm〜800μmの範囲内にあることが好ましく、40μm〜600μmの範囲内にあることがより好ましく、100μm〜300μmの範囲内にあることがさらに好ましい。多結晶炭化ケイ素膜11cの厚みt11が薄すぎると、単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜20の形成時に、黒鉛からなる支持材11bが露出し、支持材11bからの溶出に起因して好適な単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜20が得られなくなる場合がある。一方、多結晶炭化ケイ素膜11cの厚みt11が厚すぎると、多結晶炭化ケイ素膜11cにクラックが生じやすくなる場合がある。
多結晶炭化ケイ素膜11cの形成方法は特に限定されない。多結晶炭化ケイ素膜11cは、例えばCVD法や、スパッタリング法などにより形成することができる。特に、本実施形態では、多結晶炭化ケイ素膜11cが多結晶3C−SiCを含むものであるため、CVD法により緻密な多結晶炭化ケイ素膜11cを容易かつ安価に形成することができる。
フィード基板11の表層を構成している多結晶炭化ケイ素膜11cは、X線回折により、(111)結晶面、(200)結晶面、(220)結晶面及び(311)結晶面の少なくとも一つに対応した1次回折ピークが観察され、それら少なくとも一つの1次回折ピークから算出される平均結晶子径が、700Å以下であるものである。従って、本実施形態においては、単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜20を高い成長速度で形成することができる。これは、平均粒子径が小さくなるほど、表層において多結晶炭化ケイ素結晶の高い反応性を有する粒界が占める割合が多くなり、表層のケイ素溶融層への溶出がより生じやすくなるためであると考えられる。
また、多結晶炭化ケイ素膜11cは、X線回折により観察される(111)結晶面のうち、配向角度が67.5°以上であるものの占める割合が80%未満であるものであることが好ましい。この場合、単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜20の成長速度をさらに効果的に高めることができる。これは、(111)結晶面を露出させている結晶の、(111)結晶面よりも安定性が低い面の露出度が高くなるため、(111)結晶面を露出させている結晶の反応性が高くなるためであると考えられる。
なお、上記実施形態では、フィード基板11及びシード基板12のそれぞれが支持材11b、12bと、多結晶炭化ケイ素膜11c、12cとによって構成されている例について説明した。但し、本発明は、この構成に限定されない。例えば、図4に示すように、フィード基板11は、炭化ケイ素を含む炭化ケイ素基板により構成されていてもよい。また、図5に示すように、シード基板12は、結晶多形が3Cである多結晶炭化ケイ素を含む多結晶ケイ素基板により構成されていてもよい。
なお、炭化ケイ素基板は、例えば、黒鉛基材にCVD法により多結晶炭化ケイ素を被覆し、その後、黒鉛を機械的あるいは化学的に除去することにより作製することができる。また、炭化ケイ素基板は、黒鉛材とケイ酸ガスとを反応させて黒鉛材を炭化ケイ素に転化させることによっても作製することができる。また、炭化ケイ素基板は、炭化ケイ素粉末に焼結助剤を添加して1600℃以上の高温で焼結させることによっても作製することができる。
以下、具体例に基づいて、本発明についてさらに説明するが、本発明は、以下の具体例に何ら限定されない。
(作製例1)
かさ密度1.85g/cm、灰分5ppm以下である高純度等方性黒鉛材料からなる黒鉛材(15mm×15mm×2mm)を基材として用いた。この基材をCVD反応装置内に入れ、CVD法により基材上に厚み30μmの多結晶炭化ケイ素被膜を形成し、サンプル1を作製した。なお、原料ガスとしては、四塩化ケイ素及びプロパンガスを用いた。成膜は、常圧、1200℃で行った。成膜速度は、30μm/hとした。
(作製例2)
反応温度を1400℃とし、成膜速度を60μm/hとしたこと以外は、上記作製例1と同様にして黒鉛材の表面上に50μmの多結晶炭化ケイ素被膜を形成し、サンプル2を作製した。
(作製例3)
反応温度を1250℃とし、成膜速度10μm/hとし、四塩化ケイ素に代えてCHSiClを用いたこと以外は、上記作製例1と同様にして黒鉛材の表面上に50μmの多結晶炭化ケイ素被膜を形成し、サンプル3を作製した。
(作製例4)
四塩化ケイ素及びプロパンガスに代えてジクロロシラン(SiHCl)及びアセチレンを用い、反応温度を1300℃とし、成膜速度10μm/hとしたこと以外は、上記作製例1と同様にして黒鉛材の表面上に50μmの多結晶炭化ケイ素被膜を形成し、サンプル4を作製した。なお、サンプル4では、多結晶炭化ケイ素被膜の厚みは、約1mmであった。
(X線回折測定)
上記作製のサンプル1〜4の表層のX線回折を行った。なお、X線回折は、リガク社製アルティマ(Ulutima)を用いて行った。測定結果を図6に示す。また、サンプル1〜4における、観察された回折ピークと、(111)結晶面に対応した1次回折ピークの強度を100としたときの各結晶面に対応した回折ピークの相対強度をまとめる。
Figure 2012136370
なお、(111)結晶面に対応した1次回折ピークの強度)/(少なくとも一つの1次回折ピークの合計強度)は、サンプル1〜4では、それぞれ、100/(100+13+12+12)=0.730、100/(100+40+51+47)=0.420、100/(100+0+0+1)=0.990、100/(100+0+0+0)=1.00であった。
(平均結晶子径の算出)
上記X線回折測定の結果に基づいて、Hallの式を用いて、サンプル1〜4のそれぞれの平均結晶子径を算出した。なお、算出には、(111)結晶面、(200)結晶面、(220)結晶面及び(311)結晶面に関する回折ピークのデータを用いた。結果を、下記の表2に示す。
Figure 2012136370
上記表2に示す結果から、サンプル1,2では、平均結晶子径が700Å以下、より詳細には、500Å以下である一方、サンプル3,4では、平均結晶子径が700Åより大きく、より詳細には、1000Å以上であった。
((111)結晶面の配向性評価)
次に、サンプル1〜4について、図7に示すように、サンプルを回転させながら(111)面の回折ピークが現れる角度を測定した。結果を図8〜図11に示す。なお、図8〜図11に示すグラフにおいて、横軸は、図7に示す配向角度(α)である。縦軸は強度である。
また、下記の表3に、配向角度(α)が15°〜90°における全領域の強度積分値に対する配向角度(α)が67.5°以上の領域の強度積分値の割合((配向角度(α)が67.5°以上の領域の強度積分値)/(配向角度(α)が15°〜90°における全領域の強度積分値))を示す。なお、((配向角度(α)が67.5°以上の領域の強度積分値)/(配向角度(α)が15°〜90°における全領域の強度積分値))は、X線回折により観察された(111)結晶面のうち、配向角度が67.5°以上であるものの占める割合に相当する。
Figure 2012136370
図8及び図9並びに上記表3に示すように、サンプル1,2では、配向角度(α)が67.5°未満の領域にも大きな強度分布が存在し、(111)結晶面のうち、配向角度(α)が67.5°以上であるものの割合が80%未満であった。それに対して、サンプル3,4では、図10及び図11並びに上記表3に示すように、配向角度(α)が67.5°未満の領域には大きな強度分布が存在せず、配向角度(α)が67.5°以上であるものの割合が80%以上であった。
(単結晶炭化ケイ素液相エピタキシャル成長膜の成長速度評価)
上記実施形態において説明した液相エピタキシャル成長方法により、サンプル1〜4をフィード基板として用い、下記の条件で単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜20を作製した。そして、単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜20の断面を光学顕微鏡を用いて観察することにより、単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜20の厚みを測定した。測定された厚みを炭化ケイ素エピタキシャル成長を行った時間で除算することにより、単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜20の成長速度を求めた。
結果を図12及び図13に示す。なお、図12及び図13において、縦軸は、単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜20の成長速度であり、横軸はケイ素溶融層13の厚み(L)の逆数(1/L)である。
図12及び図13に示す結果から、フィード基板11の表層を構成している多結晶炭化ケイ素膜11cにおける平均結晶子径が700Å以下であるサンプル1,2を用いた場合は、単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜20の成長速度が高かった。一方、フィード基板11の表層を構成している多結晶炭化ケイ素膜11cにおける平均結晶子径が700Åより大きなサンプル3,4を用いた場合は、単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜20の成長速度が低かった。このことから、サンプル3,4からは、ケイ素溶融層13への溶出が生じにくいことが分かる。
(単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜20の成長速度の測定条件)
シード基板:結晶多形が4Hである炭化ケイ素基板
雰囲気の圧力:10−6〜10−4Pa
雰囲気温度:1900℃
(実施例)
上記作製のサンプル1をフィード基板11として用い、上記作製のサンプル3をシード基板12として用い、上記成長速度評価実験と同様の条件で単結晶炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長実験を行った。その後、シード基板12としてのサンプル3の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影した。サンプル3の表面のSEM写真を図14に示す。図14に示す写真より、平均結晶子径が700Åより大きく、(111)結晶面に対応した1次回折ピークの強度)/(少なくとも一つの1次回折ピークの合計強度)が25であるサンプル3をシード基板12として用いることにより、六方晶である単結晶炭化ケ
イ素エピタキシャル成長膜を得ることができることが分かる。
(比較例)
上記作製のサンプル1をフィード基板として用い、上記作製のサンプル2をシード基板として用い、上記成長速度評価実験と同様の条件で単結晶炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長実験を行った。その後、シード基板としてのサンプル2の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影した。サンプル2の表面のSEM写真を図15に示す。図15に示す写真より、平均結晶子径が700Å以下であるサンプル2をシード基板として用いた場合は、ほとんどエピタキシャル成長が進行しないことが分かる。
10…容器
11…フィード基板
11a…主面
11b…支持材
11c…多結晶炭化ケイ素膜
12…シード基板
12a…主面
12b…支持材
12c…多結晶炭化ケイ素膜
13…ケイ素溶融層
20…単結晶炭化ケイ素エピタキシャル成長膜

Claims (9)

  1. 単結晶炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長方法に用いられるシード材であって、
    結晶多形が3Cである多結晶炭化ケイ素を含む表層を有し、
    前記表層のX線回折により、(111)結晶面、(200)結晶面、(220)結晶面及び(311)結晶面の少なくとも一つに対応した1次回折ピークが観察され、
    前記少なくとも一つの1次回折ピークから算出される平均結晶子径が、700Åより大きい、単結晶炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材。
  2. 前記少なくとも一つの1次回折ピークの合計強度に対する前記(111)結晶面に対応した1次回折ピークの強度の比(((111)結晶面に対応した1次回折ピークの強度)/(少なくとも一つの1次回折ピークの合計強度))が5以上である、請求項1に記載の単結晶炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材。
  3. 前記表層のX線回折により観察される前記(111)結晶面のうち、配向角度が67.5°以上であるものの占める割合が80%以上である、請求項1または2に記載の単結晶炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材。
  4. 前記表層は、結晶多形が3Cである多結晶炭化ケイ素を主成分として含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の単結晶炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材。
  5. 前記表層は、実質的に、結晶多形が3Cである多結晶炭化ケイ素からなる、請求項4に記載の単結晶炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材。
  6. 支持材と、前記支持材の上に形成されており、前記表層を構成している多結晶炭化ケイ素膜とを備える、請求項1〜5のいずれか一項に記載の単結晶炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材。
  7. 前記多結晶炭化ケイ素膜の厚みは、30μm〜800μmの範囲内にある、請求項6に記載の単結晶炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材。
  8. 結晶多形が3Cである多結晶炭化ケイ素を含む多結晶炭化ケイ素材により構成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の単結晶炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材。
  9. 請求項1〜8のいずれか一項に記載の単結晶炭化ケイ素液相エピタキシャル成長用シード材の表層と、炭化ケイ素からなる表層を有するフィード材の表層とをケイ素溶融層を介して対向させた状態で加熱することにより前記シード材の表層上に単結晶炭化ケイ素をエピタキシャル成長させる、単結晶炭化ケイ素の液相エピタキシャル成長方法。
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