JP2012132060A - 低降伏比高強度電縫鋼管およびその製造方法 - Google Patents

低降伏比高強度電縫鋼管およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】TS:655MPa以上を有する低降伏比高強度電縫鋼管の製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.38〜0.45%、Si:0.15〜0.25%、Mn:1.0〜1.8%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、sol.Al:0.01〜0.07%、N:0.005%以下を含む組成を有する鋼素材に、仕上圧延開始温度を950℃以下、仕上圧延終了温度が820〜920℃の範囲の温度となる仕上圧延を施し熱延鋼帯とし、該熱延鋼帯を、仕上圧延終了後、巻取温度を650〜800℃の範囲の温度としてコイル状に巻き取る。コイル状に巻き取られた熱延鋼帯を、払い出し、成形、電縫溶接からなる造管工程を、加熱することなく室温で行い、電縫鋼管とする。これにより、管長手方向の材質ばらつきがΔTS:20MPa未満と少なく、降伏比:80%以下の低降伏比と、降伏強さYS:379〜552MPa、引張強さTS:655MPa以上の高強度とを有する電縫鋼管となる。
【選択図】図2

Description

本発明は、油井管用高強度電縫鋼管に係り、とくに、API 5CT K55相当の高強度電縫鋼管における材質の均一性向上に関する。なお、ここでいう「高強度」とは、降伏強さYS:379〜552MPa、引張強さTS:655MPa以上を有する場合をいうものとする。
帯鋼を連続的に成形し、電縫溶接して製造される電縫鋼管では、造管時に大きな曲げ歪が導入され、とくに造管後の降伏強さYSの上昇が著しくなるため、従来から、加えられた歪により降伏強さYSが著しく高くなる傾向を有する析出硬化型鋼板は、造管後の熱処理なしでは、低降伏比の高強度電縫鋼管用素材として使用することができなかった。そのため、従来は、C、Mn含有量を高めた成分系の固溶強化型鋼板を低降伏比高強度電縫鋼管用素材として使用してきた。
例えば特許文献1には、C:0.0002〜0.5%、Si:0.003〜3.0%、Mn:0.003〜3.0%、Al:0.002〜2.0%、P:0.003〜0.15%、S:0.03%以下、N:0.01%以下を含む組成を有する母材鋼管に、Ae点以上1300℃以下に加熱し、圧延終了温度:(Ae点−50℃)以上とする絞り圧延を施し、その後2秒以内に冷却を開始し、(Ae点−70℃)までは5〜20℃/sで、(Ae点−150℃)までは1.0〜20℃/sで冷却する電縫鋼管の製造方法が記載されている。これにより、母材部が微細で均一な結晶粒径を有し、しかも表面層のみさらに微細化され、強度−延性バランスに優れた鋼管が得られるとしている。
特開2004−217992号公報
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、母材鋼管を加熱して絞り圧延を施すことを必須の要件としており、母材鋼管を加熱するため、表面性状が低下するとともに、製造コストも高騰するという問題を残していた。
さらに、固溶強化型鋼板で高強度を確保しようとすると、C、Mn量が多くならざるを得ず、そのため、熱延条件の不可避的な変動によって強度等の材質が大きくばらつくうえ、コイル状に巻き取ったときに、コイル内周部がコイル外周部に比べて軟質化しやすく、コイル位置による強度等の材質のばらつきが大きくなるという問題があった。とくに、板厚10mm以上の厚肉鋼板(厚物)では、この傾向が顕著になる。このため、固溶強化型鋼板を素材として、造管時の加熱なしに、材質ばらつきの少ない、とくに厚肉の高強度電縫鋼管を安定して製造することは難しい。また、造管時に鋼管用素材を加熱すると、加熱用の設備を必要とするうえ、生産性の低下を招き、さらに加熱に伴い酸化スケールが形成されるため、造管時に鋼板とローラとの接触により、表面疵が多発し表面性状が低下するという問題がある。このようなことから、加熱することなく造管できる低降伏比高強度電縫鋼管の製造方法が強く望まれていた。
本発明は、かかる従来技術の問題を有利に解決し、固溶強化型熱延鋼板(固溶強化型熱延鋼帯)を素材として、造管時の加熱を行うことなく、また、造管後にさらに熱間の縮径圧延や、回転矯正等を施すことなく、強度等の材質ばらつきが少ない、降伏比:80%以下の低降伏比と、降伏強さYS:379〜552MPa、引張強さTS:655MPa以上の高強度とを有する電縫鋼管を製造できる、材質均一性に優れた低降伏比高強度電縫鋼管の製造方法を提供することを目的とする。なお、「材質ばらつきが少ない」とは、例えば引張強さTSのばらつきが20MPa未満である場合をいうものとする。
本発明者らは、上記した目的を達成するために、まず、コイル状に巻き取った熱延鋼板(熱延鋼帯)を素材として造管された電縫鋼管の管長手方向の強度ばらつき(材質ばらつき)について、鋭意調査した。
質量%で、0.39%C−0.24%Si−1.37%Mn−0.017%P−0.005%S−0.041%sol.Al−0.0042%Nを含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材を、加熱温度:1220℃に加熱し、粗圧延と、仕上圧延入側温度:930℃、仕上圧延出側温度:860℃とする仕上圧延とからなる熱間圧延を行い、板厚:12.4mmの熱延鋼板(熱延鋼帯)とし、巻取温度:620℃でコイル状に巻き取った。得られたコイルを連続的に払い出し、室温で、ロールによる連続成形により略円筒状のオープン管に造管したのち、端部を突合せて電縫溶接し、外径:508mmφの電縫鋼管とした。
得られた電縫鋼管の、コイルの各位置(コイル外周部(コイル尾端から10m)、コイル中央部(コイル尾端から120m)、コイル内周部(コイル先端から10m))に相当する位置から、ASTM A370の規定に準拠して、引張方向がコイル長手方向(管長手方向)となるように引張試験片(板状試験片:幅38mm)を採取し、引張試験を実施し、引張特性(降伏強さYS、引張強さTS、伸びEl)を求めた。
得られた結果を図1に示す。図1から、製造条件のばらつきがほとんどない、同一コイル(熱延鋼板(鋼帯))を使用して造管したにもかかわらず、得られた電縫鋼管の管長手方向の引張特性が、コイル内位置で大きく変動していることがわかる。コイル内周部を素材として用いて造管された電縫鋼管(コイル内周部相当)の強度(YS、TS)が、コイル外周部相当電縫鋼管に比べて大きく低下している。
そこで、本発明者らは、上記した管長手方向の強度ばらつきの原因について、さらに、鋭意研究した。その結果、この強度のばらつきは、巻取り時に存在する残留歪にその一因があることを知見した。
これは、次のような機構によると考えている。
巻取温度が低くなり、再結晶が完了したのちに巻き取られる場合には、鋼帯温度が再結晶温度より低温となるため巻取り時の歪(巻取り歪)が開放されず、鋼帯の長手方向に圧縮歪が残留したまま冷却される。そのため、冷却後、引張試験を実施すると、バウシンガー効果により、引張強さが低下する。残留している圧縮歪が大きいほど、強度の低下量は大きくなる。したがって、巻取られる曲率半径が小さくなるコイル内周部ほど、残留歪は大きくなり、強度の低下量も大きくなると考えられる。
このような機構による強度ばらつきは、固溶強化型鋼板、なかでも硬質材において顕著となる。析出強化型鋼板では、微細析出物による析出強化の影響が大きく、上記したような機構による強度ばらつきは隠され、現出しないままとなる。また、固溶強化型鋼板でも、軟質材の場合には、AlN析出による析出強化の影響が大きくなり、上記したような機構による強度ばらつきは隠されることになる。
また、この機構は、コイル(鋼帯)長手方向が引張方向となるように引張試験を実施した場合に顕著となるが、圧延方向に直角な方向が引張方向となるように引張試験を行った場合には現出しないこと、また、硬さ測定のような局部的な試験では、現出しにくいことも知見した。
そこで、本発明者らは、更に検討を重ねた結果、かかる機構による強度ばらつきを防止するためには、巻取温度を高温(650℃以上)に限定し、巻取り後に、回復による歪開放を図ることに思い至った。そして、更なる検討により本発明者らは、仕上圧延をオーステナイトの未再結晶温度域における圧延とし、結晶粒を微細化して高強度化を図ることにより、高温巻取りによる強度低下を回避することができることを知見した。
まず、本発明の基礎となった実験結果について説明する。
質量%で、0.39%C−0.24%Si−1.37%Mn−0.017%P−0.005%S−0.041%sol.Al−0.0042%Nを含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成のスラブ(鋼素材)を、1200〜1240℃の温度に加熱したのち、粗圧延と、種々の仕上圧延入側温度(仕上圧延開始温度)FETと、仕上圧延出側温度(仕上圧延終了温度)FDT:910〜880℃とする仕上圧延とを施し、種々の巻取温度CTで、コイル状に巻取り、熱延鋼帯(板厚:12.7mm)とした。得られた熱延鋼帯(コイル)を払い出し、冷間でのロールによる連続成形で略円筒状のオープン管としたのち、該オープン管の円周方向端部同士をスクイズロールで突合せ、高周波抵抗溶接により電縫溶接する造管工程を施して、電縫鋼管(外径508mmφ×肉厚12.7mm)とした。
得られた電縫鋼管の、コイルの各位置(コイル外周部(コイル尾端から10m)、コイル中央部(コイル尾端から60m)、コイル内周部(コイル先端から10m))に相当する位置から、ASTM A370の規定に準拠して、引張方向がコイル長手方向(管長手方向)となるように引張試験片(板状試験片:幅38mm)を採取し、引張試験を実施し、引張強さTSを求めた。そして、同一コイルから製造された各電縫鋼管について、得られた引張強さTSから、最大値と最小値との差ΔTSを算出した。
ΔTSに及ぼす、巻取温度CTと仕上圧延入側温度FETとの関係を、図2に示す。
図2から、仕上圧延入側温度FETが950℃以下、巻取温度CTが650℃以上を満足する場合にはじめて、ΔTSが20MPa未満と、強度のばらつきが少なくなることがわかる。このようなCT、FETを満足するように製造した熱延鋼帯(コイル)を管素材とすることによりはじめて、材質均一性に優れた電縫鋼管を製造できることを知見した。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)鋼素材を加熱し、粗圧延および仕上圧延を施し熱延鋼帯とし、該熱延鋼帯をコイル状に巻取る熱延工程と、前記コイル状に巻取られた熱延鋼帯を、連続的に払い出し、ロール成形により略円筒状のオープン管としたのち、該オープン管の円周方向端部同士を突き合せ、電縫溶接する造管工程を施して電縫鋼管とするに当たり、前記鋼素材を、質量%で、C:0.38〜0.45%、Si:0.1〜0.3%、Mn:1.0〜1.8%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、sol.Al:0.01〜0.07%、N:0.01%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材とし、前記仕上圧延を、仕上圧延開始温度が950℃以下、仕上圧延終了温度が820〜920℃の範囲の温度となる圧延とし、前記熱延鋼帯をコイル状に巻取る巻取温度を650〜800℃の範囲の温度とし、前記造管工程を、室温で行う工程とすることを特徴とする材質均一性に優れた低降伏比高強度電縫鋼管の製造方法。
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.03〜0.4%、Ni:0.03〜0.3%、Sn:0.001〜0.005%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする低降伏比高強度電縫鋼管の製造方法。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.001〜0.003%を含有する組成とすることを特徴とする低降伏比高強度電縫鋼管の製造方法。
(4)質量%で、C:0.38〜0.45%、Si:0.1〜0.3%、Mn:1.0〜1.8%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、sol.Al:0.01〜0.07%、N:0.01%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、降伏強さYS:379〜552MPa、引張強さTS:655MPa以上の高強度と、降伏比:80%以下の低降伏比とを有することを特徴とする材質均一性に優れた低降伏比高強度電縫鋼管。
(5)(4)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.03〜0.4%、Ni:0.03〜0.3%、Sn:0.001〜0.005%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする低降伏比高強度電縫鋼管。
(6)(4)または(5)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.001〜0.003%を含有する組成とすることを特徴とする低降伏比高強度電縫鋼管。
本発明によれば、造管後の熱間縮径圧延や、回転矯正等を施すことなく、強度等の材質ばらつきが少なく、降伏比:80%以下の低降伏比と、降伏強さYS:379〜552MPa、引張強さTS:655MPa以上の高強度とを有し、材質均一性に優れた低降伏比高強度電縫鋼管を、安定して容易に製造でき、産業上格段の効果を奏する。
電縫鋼管の管長手方向の引張特性に及ぼす試験片採取位置(コイル位置)の影響を示すグラフである。 引張強さTSのばらつきΔTS ((TSの最大値)−(TSの最小値)) に及ぼす、巻取温度CTと仕上圧延入側温度(仕上圧延開始温度)FETとの関係を示すグラフである。
本発明では、質量%で、C:0.38〜0.45%、Si:0.1〜0.3%、Mn:1.0〜1.8%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、sol.Al:0.01〜0.07%、N:0.005%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材を使用する。
まず、本発明で使用する鋼素材の組成限定理由について説明する。なお、とくに断わらないかぎり質量%は単に%と記す。
C:0.38〜0.45%
Cは、鋼の強度を増加させる元素であり、本発明では所望の高強度を確保するために0.38%以上の含有を必要とするが、0.45%を超える含有は、熱間圧延後の冷却過程で水のり等で局部的に温度が低下した箇所でマルテンサイトが生成しやすくなり、強度等の材質ばらつきが生じやすくなる。このため、Cは0.38〜0.45%の範囲に限定した。
Si:0.1〜0.3%
Siは、脱酸剤として作用するとともに、固溶強化により鋼の強度を増加させる作用を有する元素であり、Al含有量を低く調整し、Alの悪影響を低減することを可能とする。このような効果を得るためには0.1%以上の含有を必要とするが、0.3%を超える含有は、鋼板表層に赤スケールを多発する。この赤スケールが発生した箇所は、熱延後の冷却時に局部的に急冷されて強度等の材質ばらつきの一因となる。このため、Siは0.1〜0.3%の範囲に限定した。
Mn:1.0〜1.8%
Mnは、固溶強化あるいは焼入れ性の向上を介し、鋼の強度を増加させる元素であり、所望の高強度を確保するために、本発明では1.0%以上の含有を必要とする。しかし、1.8%を超える含有は、偏析を助長するとともに、焼入れ性が増加しすぎて、マルテンサイトを形成しやすくなり、強度等の材質ばらつきを促進する。このようなことから、Mnは1.0〜1.8%の範囲に限定した。
P:0.03%以下
Pは、固溶して鋼の強度を増加させる元素であるが、粒界等に偏析しやすく、材質の不均質を招く。このため、不可避的不純物としてできるだけ低減することが好ましいが、0.03%までは許容できる。このようなことから、Pは0.03%以下に限定した。なお、好ましくは0.002%以下である。
S:0.03%以下
Sは、鋼中では硫化物MnSを形成しやすく、AlNの析出サイトとなりやすい。AlNの析出は、強度増加に影響するため、Sは、強度ばらつきの増加に影響することになる。このような影響は、Sが0.03%を超える含有で顕著となる。このため、Sは0.03%以下に限定した。なお、好ましくは0.005%以下である。また、AlNがMnSと複合析出する場合には、その影響は小さくなる。
sol.Al:0.01〜0.07%
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、このような効果を得るためには、0.01%以上の含有を必要とする。一方、0.07%を超える含有は、AlN量の増加を招き、AlN析出による強度ばらつきの発生に繋がる。このため、sol.Alは、0.01〜0.07%の範囲に限定した。
N:0.005%以下
Nは、鋼中に不可避的に含有されるが、固溶して強度増加に寄与するとともに、Alと結合しAlNを形成し、AlNの析出を介して強度増加に影響する。0.005%を超える多量の含有は、AlNの、コイル内不均一析出を生じやすく、強度ばらつきの要因となる。このため、Nは0.005%以下に限定した。
上記した成分が基本の成分であるが、これら基本の組成に加えてさらに選択元素として、Cu:0.03〜0.4%、Ni:0.03〜0.3%、Sn:0.001〜0.005%のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ca:0.001〜0.003%を必要に応じて選択して含有する組成とすることができる。
Cu:0.03〜0.4%、Ni:0.03〜0.3%、Sn:0.001〜0.005%のうちから選ばれた1種または2種以上
Cu、Ni、Snはいずれも、固溶強化型の元素であり、低降伏比化を損ねることなく、高強度化に寄与する元素であり、必要に応じて選択して、1種または2種以上を含有できる。このような効果を得るためには、Cu:0.03%以上、Ni:0.03%以上、Sn:0.001%以上含有することが望ましいが、Cu:0.4%、Ni:0.3%、Sn:0.005%を、それぞれ超える含有は、靭性を低下させる。
Caは、硫化物の形態を制御する作用を有する元素であり、必要に応じて0.001〜0.003%を含有できる。
Ca:0.001〜0.003%
Caは、延伸した硫化物を球状の硫化物とする硫化物の形態を制御する作用を有する元素であり、このような効果を得るためには0.001%以上含有することが好ましい。一方、0.003%を超える含有は、鋼の清浄度が低下し、介在物起因の造管時の割れが発生しやすくなるため、0.003%以下に限定することが好ましい。このため、Caは0.001〜0.003%の範囲に限定することが好ましい。
つぎに、本発明の鋼管の製造方法について説明する。本発明では上記した組成の鋼素材を出発素材として用いる。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。なお、不可避的不純物としては、Cr:0.1%以下、Co:0.1%以下、Ti:0.01%以下、Nb:0.01%以下、V:0.01%以下、Mo:0.05%以下、B:0.001%以下が許容できる。
上記した組成を有する鋼素材の製造方法は、とくに限定する必要はなく、転炉等の常用の溶製手段を適用し、好ましくは連続鋳造等の鋳造手段を用いて、スラブ等の鋼素材とすることが好ましい。また、偏析防止のために、軽圧下鋳造、電磁撹拌を用いることが好ましい。
上記した組成を有する鋼素材に、まず、熱延工程を施す。熱延工程では、鋼素材を加熱し、粗圧延および仕上圧延からなる熱間圧延を施し熱延鋼帯とし、仕上圧延終了後、コイル状に巻取る。
鋼素材の加熱温度は、1200〜1280℃とすることが好ましい。なお、鋼素材の加熱は、一旦室温まで冷却したのち、再加熱しても、また、冷却を行うことなく加熱してもよい。加熱温度が1200℃未満では、粗大なMnS、AlNを十分に再溶解させることが難しくなる。そのため、熱間圧延時に未溶解のMnS、AlNに再析出し、コイル内の強度ばらつきを大きくする。熱間圧延時未溶解の粗大析出物と熱間圧延中に析出した微細な析出物とが混在すると強度ばらつきが大きくなる。
一方、1280℃を超えて高温となると、オーステナイト粒が粗大化し、熱間圧延後、マルテンサイト相を形成しやすくなり、局部的に高強度となり、強度ばらつきを助長することになる。このようなことから、熱間圧延工程における鋼素材の加熱温度は1200〜1280℃とすることが好ましい。
加熱された鋼素材は、ついで粗圧延、仕上圧延からなる熱間圧延を施される。粗圧延の条件については、本発明では、所定の寸法形状のシートバーとすることができればよく、とくに限定する必要はないが、仕上圧延でオーステナイトの未再結晶温度域での圧下率を確保するという観点からは、シートバーの厚さは45mm以上とすることが望ましい。なお、シートバーを一旦、巻き取ってから、仕上圧延に供してもよい。
仕上圧延は、仕上圧延入側温度(仕上圧延開始温度)FETを950℃以下、仕上圧延出側温度(仕上圧延終了温度)FDTを820〜920℃の範囲の温度とする圧延とする。
仕上圧延入側温度(仕上圧延開始温度)FET:950℃以下
仕上圧延入側温度(仕上圧延開始温度)FETを950℃以下と低く制御し、仕上圧延をオーステナイトの未再結晶温度域での圧延とする。なお、FETの下限は、所望の仕上圧延終了温度を確保するという観点から900℃以上とすることが好ましい。これにより、結晶粒が微細化し、所望の高強度を確保できる。一方、仕上圧延入側温度(仕上圧延開始温度)FETが950℃を超えて高温となると、結晶粒の微細化が達成できなくなる。
なお、FETを950℃以下と低く制御する方法としては、粗圧延におけるパス数を増加する、所望の仕上圧延開始温度となるまで粗圧延後のシートバーを待機させる、あるいは粗圧延と仕上圧延の間で水冷する、などが例示できる。
仕上圧延出側温度(仕上圧延終了温度)FDT:820〜920℃
仕上圧延出側温度(仕上圧延終了温度)FDTが820℃未満では、仕上圧延が変態点未満の圧延となり、鋼板端部(エッジ部)と中央部(センター部)との組織差から大きな強度差が生じやすくなる。一方、仕上圧延終了温度が920℃を超えて高温となると、オーステナイト粒が粗大化し、巻取温度を高くしてもマルテンサイト相を生成しやすくなり、強度ばらつきを生じやすくなる。このようなことから、仕上圧延の仕上圧延出側温度(仕上圧延終了温度)FDTを820〜920℃の範囲の温度に限定した。
なお、上記した仕上圧延出側温度(仕上圧延終了温度)FDTを確保するために、仕上圧延前に誘導加熱装置等で、シートバー全体を、あるいは端部(エッジ部)のみを加熱してもよい。なお、ここでいう仕上圧延における温度は、放射温度計による表面温度とする。
仕上圧延終了後、コイル状に巻取られるまでの間、熱延鋼帯はランアウトテーブル上で冷却される。なお、巻取温度の精度を向上させるという観点から、50℃/s以上の冷却速度で冷却してもよい。
仕上圧延終了後、熱延鋼帯はコイル状に巻取られる。本発明では、巻取温度は650〜800℃の範囲の温度とする。
巻取温度:650〜800℃
巻取温度が650℃未満では、仕上圧延終了後の冷却中にマルテンサイトを生成する恐れがあり、強度ばらつきが増大する傾向となる。一方、800℃を超えて高くなると、粗大なAlNが析出し、また、結晶粒が粗大化し、強度ばらつきが増大する傾向となる。このため、熱延鋼帯をコイル状に巻取る温度(巻取温度)は650〜800℃の範囲の温度に限定した。なお、好ましくは690〜730℃である。
コイル状に巻き取られた鋼帯は、室温まで冷却される。なお、冷却時間の短縮のために、コイルが400℃以下まで冷却されたのちは、水冷により冷却してもよい。400℃以下まで冷却されれば、その後、水冷してもマルテンサイトが生成する恐れはなくなる。
コイル状に巻取られた熱延鋼帯は、ついで、連続的に払い出され、加熱することなく室温で、造管工程を施される。
連続的に払い出された熱延鋼帯は、造管工程で、まず略円筒状のオープン管に成形される。成形温度は室温とする。オープン管への成形は、例えば、ブレークダウンロール、ケージフォーミングロール、フィンパスロール等を直列に複数基配設した、ロール成形装置等を利用して連続的に行なうことが好ましいが、これに限定されないことは言うまでもない。略円筒状に成形されたオープン管は、ついでスクイズロールにより円周方向端部同士を突き合せ、高周波抵抗溶接等により、該突き合せ部を電縫溶接され、電縫鋼管となる。
なお、電縫溶接された溶接部(シーム部)のみは、組織改善のために900〜1050℃程度に加熱する熱処理(シームアニール)を施しても良い。
また、造管工程後、得られた電縫鋼管に、形状矯正を目的とした、縮径率:0.3〜5%の縮径圧延を施してもよい。縮径率が0.3%未満では、形状矯正という所期の目的を達成できない。一方、縮径率が5%を超えて大きくなると、割れが発生しやすくなる。このため、縮径圧延の縮径率は0.3〜5%の範囲とすることが好ましい。なお、より好ましくは1.5%以下である。
表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法でスラブ(鋼素材)とした。これらスラブを、加熱温度:1210〜1240℃に加熱した後、970〜1000℃の温度範囲で粗圧延を施し、表2に示す条件の仕上圧延を含む熱間圧延を施し、表2に示す巻取温度でコイル状に巻き取る熱延工程を施し、熱延鋼帯(板厚:12.4mm)とした。ついで、コイル状に巻き取られた熱延鋼帯を、払い出し、ロールによる連続成形で略円筒状のオープン管とし、さらにスクイズロールにより、該オープン管の円周方向端部同士を突き合せ、高周波抵抗溶接により電縫溶接する造管工程を施し、電縫鋼管(外径508mmφ×肉厚12.7mm)とした。なお、電縫溶接部のみ、組織改善のため980℃に加熱する熱処理(シームアニール処理)を施した。造管後、サイザーにより縮径率:0.6%の縮径圧延を施し、形状矯正を行なった。
得られた電縫鋼管から、ASTM A370の規定に準拠して、管長手方向が引張方向となるように引張試験片(幅:38mm)を切り出し、引張試験を実施して、引張特性(降伏強さYS、引張強さTS、伸びEl)を求めた。なお、引張試験片は、同一コイル内の各位置(コイル外周部(コイル尾端から10m)、コイル中央部(コイル尾端から60m)、コイル内周部(コイル先端から10m))に相当する位置から、採取した。
得られたコイル長手方向各位置における引張強さTSから、最大値と最小値との差ΔTSを算出し、コイル内の材質ばらつき(強度ばらつき)を評価した。
得られた結果を表3に示す。
Figure 2012132060
Figure 2012132060
Figure 2012132060
本発明例はいずれも、造管時の加熱を行うことなく、また、造管後にさらに熱間の縮径圧延や、回転矯正等を施すことなく、ΔTS:20MPa未満と材質ばらつきが少なく、降伏比:80%以下の低降伏比と、降伏強さYS:379〜552MPa、引張強さTS:655MPa以上の高強度とを有する電縫鋼管となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、材質ばらつきがΔTS:20MPa以上と大きいか、あるいは所望の高強度(TS:655MPa以上)を安定して満足できていない。

Claims (6)

  1. 鋼素材を加熱し、粗圧延および仕上圧延を施し熱延鋼帯とし、該熱延鋼帯をコイル状に巻取る熱延工程と、前記コイル状に巻取られた熱延鋼帯を、連続的に払い出し、ロール成形により略円筒状のオープン管としたのち、該オープン管の円周方向端部同士を突き合せ、電縫溶接する造管工程を施して電縫鋼管とするに当たり、
    前記鋼素材を、質量%で、
    C:0.38〜0.45%、 Si:0.1〜0.3%、
    Mn:1.0〜1.8%、 P:0.03%以下、
    S:0.03%以下、 sol.Al:0.01〜0.07%、
    N:0.01%以下
    を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材とし、
    前記仕上圧延を、仕上圧延開始温度が950℃以下、仕上圧延終了温度が820〜920℃の範囲の温度となる圧延とし、
    前記熱延鋼帯をコイル状に巻取る巻取温度を650〜800℃の範囲の温度とし、
    前記造管工程を、室温で行う工程とする
    ことを特徴とする材質均一性に優れた低降伏比高強度電縫鋼管の製造方法。
  2. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.03〜0.4%、Ni:0.03〜0.3%、Sn:0.001〜0.005%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1に記載の低降伏比高強度電縫鋼管の製造方法。
  3. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.001〜0.003%を含有する組成とすることを特徴とする請求項1または2に記載の低降伏比高強度電縫鋼管の製造方法。
  4. 質量%で、
    C:0.38〜0.45%、 Si:0.1〜0.3%、
    Mn:1.0〜1.8%、 P:0.03%以下、
    S:0.03%以下、 sol.Al:0.01〜0.07%、
    N:0.01%以下
    を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、降伏強さYS:379〜552MPa、引張強さTS:655MPa以上の高強度と、降伏比:80%以下の低降伏比とを有することを特徴とする材質均一性に優れた低降伏比高強度電縫鋼管。
  5. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.03〜0.4%、Ni:0.03〜0.3%、Sn:0.001〜0.005%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項4に記載の低降伏比高強度電縫鋼管。
  6. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.001〜0.003%を含有する組成とすることを特徴とする請求項4または5に記載の低降伏比高強度電縫鋼管。
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