JP2012129497A - 量子カスケードレーザ - Google Patents
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Abstract
【課題】 消費電力を低減することが可能な量子カスケードレーザを提供する。
【解決手段】 半導体基板10と、基板10上に設けられ、量子井戸発光層及び注入層からなる単位積層体が多段に積層されることで発光層と注入層とが交互に積層されたカスケード構造を有し、量子井戸構造でのサブバンド間遷移によって光を生成する活性層15とを備えて量子カスケードレーザ1Aを構成する。また、活性層15で生成される所定波長の光に対するレーザ共振器構造において、レーザ光の出力面となる前方端面12に、レーザ発振光に対する反射率が40%以上99%以下の前方反射膜20を形成し、かつ、後方端面13に、レーザ発振光に対する反射率が前方反射膜20よりも高い後方反射膜30を形成する。
【選択図】 図3
【解決手段】 半導体基板10と、基板10上に設けられ、量子井戸発光層及び注入層からなる単位積層体が多段に積層されることで発光層と注入層とが交互に積層されたカスケード構造を有し、量子井戸構造でのサブバンド間遷移によって光を生成する活性層15とを備えて量子カスケードレーザ1Aを構成する。また、活性層15で生成される所定波長の光に対するレーザ共振器構造において、レーザ光の出力面となる前方端面12に、レーザ発振光に対する反射率が40%以上99%以下の前方反射膜20を形成し、かつ、後方端面13に、レーザ発振光に対する反射率が前方反射膜20よりも高い後方反射膜30を形成する。
【選択図】 図3
Description
本発明は、量子井戸構造でのサブバンド間遷移を利用した量子カスケードレーザに関するものである。
中赤外の波長領域(例えば波長5〜30μm)の光は、分光分析分野において重要な波長領域となっている。このような波長領域での高性能な半導体光源として、近年、量子カスケードレーザ(QCL:Quantum Cascade Laser)が注目を集めている(例えば、特許文献1〜3、非特許文献1、2参照)。
量子カスケードレーザは、半導体量子井戸構造中に形成されるサブバンドによる準位構造を利用し、サブバンド間での電子遷移によって光を生成するモノポーラタイプのレーザ素子であり、量子井戸構造で構成され活性領域となる量子井戸発光層を多段にカスケード結合することによって、高効率、高出力動作を実現することが可能である。また、この量子井戸発光層のカスケード結合は、発光上準位へと電子を注入するための電子注入層を用い、量子井戸発光層と注入層とを交互に積層することによって実現される。
S. Blaser et al.,"Room-temperature, continuous-wave, single-mode quantum-cascade lasers at λ=5.4μm", Appl. Phys. Lett. Vol.86(2005) pp. 041109-1 - 041109-3
J. S. Yu et al.,"High-power, room-temperature, and continuous-wave operation ofdistributed-feedback quantum-cascade lasers at λ〜4.8μm", Appl. Phys. Lett. Vol.87 (2005) pp. 041104-1 - 041104-3
量子カスケードレーザでは、一般に、上記したように量子井戸発光層と注入層とが複数段交互に積層されるモノポーラ型のカスケード構造、また、通常のLDに比べて長い共振器長などのため、駆動電流、駆動電圧が高く、消費電力が10W程度と大きくなり(例えば、非特許文献1、2参照)、給電のために専用電源等が必要になるという問題がある。近年、量子カスケードレーザの環境計測分野への応用が始まっているが、例えば、野外での計測、航空機搭載、衛星搭載などの電源供給が限られた使用条件では、量子カスケードレーザの駆動が困難となる場合がある。
これに対して、活性層における量子井戸構造、及びそれによるサブバンド準位構造を工夫することで、量子カスケードレーザの駆動電圧を低減する方法が考えられる。しかしながら、そのような構成では、レーザ動作の閾値電流の低減、あるいは動作効率の向上などの素子特性の向上との両立が難しい。また、レーザ共振器構造での共振器長を短くして、注入電流量を低減する方法が考えられる。しかしながら、このような短共振器構造では、電流密度が同じでも駆動電流を低減することができるが、発振閾値が高くなってしまい、充分な省電力効果を得ることができない。
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたものであり、消費電力を低減することが可能な量子カスケードレーザを提供することを目的とする。
このような目的を達成するために、本発明による量子カスケードレーザは、(1)半導体基板と、(2)半導体基板上に設けられ、量子井戸発光層及び注入層からなる単位積層体が多段に積層されることで、量子井戸発光層と注入層とが交互に積層されたカスケード構造を有し、量子井戸構造でのサブバンド間遷移によって光を生成する活性層とを備え、(3)活性層で生成される所定波長の光に対するレーザ共振器構造において、レーザ光の出力面となる前方端面にレーザ発振光に対する反射率が40%以上99%以下の前方反射膜が形成され、後方端面にレーザ発振光に対する反射率が前方反射膜よりも高い後方反射膜が形成されていることを特徴とする。
本発明では、量子カスケードレーザの駆動電流、消費電力の低減に関して、レーザ共振器構造でのミラー損失に着目している。すなわち、量子カスケードレーザの共振器構造では、例えばへき開によってレーザ共振器の両端面が形成される。これに対して、上記した量子カスケードレーザでは、共振器構造の後方端面に高反射率の後方反射膜を形成することで、レーザの高出力化を実現するとともに、後方端面に対向する前方端面に、レーザ発振光に対する反射率が40%以上99%以下であって、レーザ発振光の一部を透過してレーザ光として外部へと出力する前方反射膜を形成している。このように、レーザ素子の両端面に高反射率コーティングを施すことにより、共振器構造におけるミラー損失を抑制して、量子カスケードレーザの駆動電流、消費電力を低減することが可能となる。
ここで、上記した量子カスケードレーザにおいて、後方反射膜は、レーザ発振光に対する反射率が実質的に100%であることが好ましい。これにより、レーザの高出力化と、ミラー損失の低減とが可能なレーザ共振器構造を好適に実現することができる。
また、レーザ共振器構造の両端面に設けられる前方反射膜及び後方反射膜は、それぞれAu膜を含んで形成されていることが好ましい。また、この場合の前方、後方反射膜のそれぞれの膜厚については、前方反射膜のAu膜厚は20nm以下であり、かつ、後方反射膜のAu膜厚は100nm以上であることが好ましい。
また、量子カスケードレーザにおいて、レーザ共振器構造は、前方端面と後方端面との間の共振器長が0.15mm以上2mm以下であることが好ましい。上記したように共振器構造の両端面に反射膜を設けた構成によれば、このように共振器長を短く設定した場合でも、発振閾値を従来と同等以下に抑制して、素子特性を落とすことなく駆動電流の低減を実現することが可能である。
本発明の量子カスケードレーザによれば、カスケード構造を有する活性層でサブバンド間遷移によって生成される所定波長の光に対するレーザ共振器構造において、レーザ光の出力面となる前方端面にレーザ発振光に対する反射率が40%以上99%以下の前方反射膜を形成し、かつ、後方端面にレーザ発振光に対する反射率が前方反射膜よりも高い後方反射膜を形成することにより、共振器構造におけるミラー損失を抑制して、量子カスケードレーザの駆動電流、消費電力を低減することが可能となる。
以下、図面とともに本発明による量子カスケードレーザの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
図1は、本発明による量子カスケードレーザの基本構成を概略的に示す図である。本実施形態の量子カスケードレーザ1Aは、半導体量子井戸構造におけるサブバンド間の電子遷移を利用して光を生成するモノポーラタイプのレーザ素子である。この量子カスケードレーザ1Aは、半導体基板10と、基板10上に形成された活性層15とを備えて構成されている。なお、図1では、レーザ共振器構造については図示を省略している。
活性層15は、光の生成に用いられる量子井戸発光層と、発光層への電子の注入に用いられる電子注入層とが交互かつ多段に積層されたカスケード構造を有する。具体的には、量子井戸発光層及び注入層からなる半導体積層構造を1周期分の単位積層体16とし、この単位積層体16が多段に積層されることで、カスケード構造を有する活性層15が構成されている。量子井戸発光層及び注入層を含む単位積層体16の積層数は適宜設定されるが、例えば数100程度である。また、活性層15は、半導体基板10上に直接に、あるいは他の半導体層を介して形成される。
図2は、図1に示した量子カスケードレーザの活性層の構成、及びその活性層において形成されるサブバンド準位構造の一例を示す図である。なお、図2においては、量子カスケードレーザ1Aの活性層15における単位積層体16による多段の繰返し構造のうちの一部について、その量子井戸構造及びサブバンド準位構造を模式的に示している。また、この図において、横方向は活性層内での積層方向の位置に相当し、縦方向はエネルギーに相当する。
図2に示すように、活性層15に含まれる複数の単位積層体16のそれぞれは、量子井戸発光層17と、電子注入層18とによって構成されている。これらの発光層17及び注入層18は、それぞれ量子井戸層及び量子障壁層を含む所定の量子井戸構造を有して形成される。これにより、単位積層体16中においては、量子井戸構造によるエネルギー準位構造であるサブバンド準位構造が形成される。
本構成例では、活性層15における1周期分の単位積層体16は、11個の量子井戸層161〜164、181〜187、及び11個の量子障壁層171〜174、191〜197が交互に積層された量子井戸構造として構成されている。また、このような積層構造において、4層の井戸層161〜164及び障壁層171〜174からなる積層部分が発光層17となり、7層の井戸層181〜187及び障壁層191〜197からなる積層部分が注入層18となっている。
発光層17の各半導体層のうちで、1段目の量子障壁層171が、前段の注入層と発光層17との間に位置し、前段の注入層から発光層への電子に対する注入障壁(injection barrier)層となっている。また、注入層18の各半導体層のうちで、1段目の量子障壁層191が、発光層17と注入層18との間に位置し、発光層から注入層への電子に対する抽出障壁(exit barrier)層となっている。
図2に示す単位積層体16は、そのサブバンド準位構造において、サブバンド間遷移による発光に関わる準位として、発光上準位(準位3)及び発光下準位(準位2)を有している。また、単位積層体16は、これらの発光上準位、下準位に加えて、上準位3よりも高いエネルギー準位である注入準位(準位4)、及び下準位2よりも低いエネルギー準位である緩和準位(準位1)を有している。
このようなサブバンド準位構造において、前段の注入層からの電子e−は、注入障壁層171を介して、共鳴トンネル効果によって発光層17の注入準位4へと注入される。また、注入準位4に注入された電子は、例えば縦光学(LO)フォノン散乱などによって上準位3へと供給される。さらに、上準位3に供給された電子は下準位2へと発光遷移し、このとき、準位3及び準位2のサブバンド準位間のエネルギー差に相当する波長の光hνが生成される。また、下準位2へと遷移した電子は、LOフォノン散乱などによって緩和準位1へと緩和されて引き抜かれる。これにより、上準位3と下準位2との間でレーザ発振を実現するための反転分布が形成される。
また、緩和準位1に緩和された電子は抽出障壁層191及び注入層18を介して、後段の発光層の注入準位へと注入される。このような電子の注入、発光遷移、及び緩和を活性層15の複数の単位積層体16で繰り返すことにより、活性層15においてカスケード的な光の生成が起こる。すなわち、発光層17及び注入層18を多数交互に積層することにより、電子は積層体16をカスケード的に次々に移動するとともに、各積層体でのサブバンド間遷移の際に光hνが生成される。また、このような光がレーザ1Aのレーザ共振器構造において共振されることにより、所定波長のレーザ光が生成される。
なお、活性層15の単位積層体16における半導体積層構造、量子井戸構造、及びサブバンド準位構造については、図2はその一例を示すものであり、具体的には上記した構成に限らず、様々な構成を用いて良い。一般には、活性層15は、カスケード構造を有し、量子井戸構造でのサブバンド間遷移によって光を生成することが可能に構成されていれば良い。例えば、図2に示したサブバンド準位構造のうち、注入準位4、緩和準位1については、不要であれば設けない構成としても良い。また、発光層17、注入層18を構成する量子井戸層、障壁層の層数、各層厚についても、発光動作に必要な具体的な準位構造等に応じて適宜に設定して良い。
図3は、図1に示した量子カスケードレーザにおけるレーザ共振器構造について示す図である。本実施形態による量子カスケードレーザ1Aでは、活性層15で生成される所定波長の光hνに対するレーザ共振器構造において、共振方向に対向して設けられた前方、後方の各端面について、レーザ光の出力面となる前方端面12上に前方反射膜20を形成し、かつ、後方端面13上に後方反射膜30を形成している。
前方反射膜20は、例えばAu膜を含んで構成され、共振器内で発振する所定波長λのレーザ発振光に対する反射率が40%以上99%以下(例えば60%または95%)となるように形成される。また、後方反射膜30は、前方反射膜20と同様に例えばAu膜を含んで構成され、レーザ発振光に対する反射率が前方反射膜20よりも高くなる(例えば100%)ように形成される。
図3に示す構成例では、具体的に、レーザ1Aの共振器構造の前方端面12上に、膜厚λ/4のAlN膜21、膜厚5nmのTi膜22、前方反射膜20となる所定膜厚のAu膜、及び膜厚15nmのAlN膜23がこの順で形成されている。また、レーザ共振器構造の後方端面13上に、膜厚λ/4のAlN膜31、膜厚5nmのTi膜32、後方反射膜30となる所定膜厚のAu膜、及び膜厚15nmのAlN膜33がこの順で形成されている。なお、前方、後方端面12、13上にそれぞれ形成される前方、後方反射膜20、30を含む全体の層構造については、具体的には図3に示した構成以外にも様々な構成を用いることが可能である。
本実施形態による量子カスケードレーザ1Aの効果について説明する。
上記実施形態では、量子カスケードレーザ1Aの駆動電流、消費電力の低減に関して、レーザ共振器構造でのミラー損失に着目している。ここで、従来の量子カスケードレーザの共振器構造では、例えば、へき開によってレーザ共振器の両端面を形成した構成が用いられている。この場合、へき開面でのレーザ発振光の反射率は30%程度である。また、レーザの高出力化のために後方端面に全反射膜を形成する構成も考えられるが、このような構成においても、駆動電流を充分に低減することは難しい。
これに対して、図1〜図3に示した量子カスケードレーザ1Aでは、共振器構造の後方端面13上に高反射率の後方反射膜30を形成することで、レーザの高出力化を実現している。さらに、後方端面13に対向する前方端面12上に、レーザ発振光に対する反射率が40%以上99%以下であって、レーザ発振光の一部を透過してレーザ光として外部へと出力する前方反射膜20を形成している。このように、レーザ素子の両端面にレーザ発振光の波長における高反射率コーティングを施すことにより、共振器構造におけるミラー損失を抑制して、量子カスケードレーザ1Aの実効的な駆動電流を低減し、それによってレーザの消費電力を下げることが可能となる。
上述した前方、後方反射膜を用いたレーザ共振器構造におけるミラー損失の抑制、及びそれによる量子カスケードレーザの駆動電流、消費電力の低減について、さらに具体的に説明する。
レーザ素子は、利得が損失に打ち勝つことで発振に至るものであり、その発振閾値電流Ithは、下記の式(1)のように表すことができる。
ここで、gは利得係数、Γは閉じ込め係数、αiは内部損失、αmはミラー損失である。また、この式(1)において、右辺の分母は利得を、分子は損失をそれぞれ表しており、この式から、利得が大きく、損失が小さくなるほど閾値が低くなることがわかる。
ここで、gは利得係数、Γは閉じ込め係数、αiは内部損失、αmはミラー損失である。また、この式(1)において、右辺の分母は利得を、分子は損失をそれぞれ表しており、この式から、利得が大きく、損失が小さくなるほど閾値が低くなることがわかる。
量子カスケードレーザ1Aにおける損失のうち、内部損失αiは、主にレーザ素子内の導波路構造での自由キャリア吸収によって発生する。量子カスケードレーザでは、発光波長が中赤外領域であるために自由キャリア吸収の影響が大きく、通信波長帯のLD等に比べて内部損失が本質的に大きい。例えば、通信波長帯のLDでは、内部損失αiは10〜20cm−1程度である。これに対して、従来構造の量子カスケードレーザでは、内部損失αiは40〜50cm−1程度である。
一方、ミラー損失αmは、下記の式(2)のように表すことができる。
ここで、Lは共振器長、R1は前方端面での反射率、R2は後方端面での反射率である。この式から、レーザ共振器構造での共振器長Lが長く、端面反射率R1、R2が高いほどミラー損失αmが小さくなることがわかる。例えば、通信波長帯のLDでは、共振器長Lは0.25〜0.5mm程度、ミラー損失αmは20〜40cm−1程度である。
ここで、Lは共振器長、R1は前方端面での反射率、R2は後方端面での反射率である。この式から、レーザ共振器構造での共振器長Lが長く、端面反射率R1、R2が高いほどミラー損失αmが小さくなることがわかる。例えば、通信波長帯のLDでは、共振器長Lは0.25〜0.5mm程度、ミラー損失αmは20〜40cm−1程度である。
通常、前方、後方端面をそれぞれへき開面とすると、レーザ発振光の反射率は30%程度である。したがって、共振器構造の両端面をへき開面とした量子カスケードレーザでのミラー損失αmは、共振器長L=1mmで12cm−1、L=3mmで4cm−1程度となる。一般に、量子カスケードレーザでは、損失に対して充分な利得を得て発振させるために、通常のLDに比べて共振器長Lを長くしており、例えば、共振器長Lは3〜4mm程度、ミラー損失αmは3〜4cm−1程度である。しかしながら、共振器長Lを長くする構成では、ミラー損失を低減することが可能である一方で、レーザ素子の駆動電流、消費電力が増大する。
これに対して、図3に示したようにレーザ共振器構造の前方、後方端面12、13にそれぞれ高反射率の反射膜20、30を形成する構成によれば、共振器長Lを増大させず、短共振器化と同時にミラー損失の低減を実現することが可能である。例えば、共振器長がL=3mmの場合に、前方反射膜20でのレーザ発振光の反射率を60%、後方反射膜30での反射率を100%とすると、ミラー損失αmは0.85cm−1程度である。
上記した量子カスケードレーザ1Aにおいて、後方反射膜30は、レーザ発振光に対する反射率が前方反射膜20よりも高い充分な高反射率に設定されていれば良いが、特に、レーザ発振光に対する反射率が実質的に100%であることが好ましい。このように、後方反射膜30を全反射膜とし、前方端面を一部透過ミラー、後方端面を全反射ミラーとすることにより、レーザの高出力化と、ミラー損失αmの低減とが可能なレーザ共振器構造を好適に実現することができる。
また、レーザ共振器構造の両端面に設けられる前方反射膜20及び後方反射膜30は、それぞれAu膜を含んで形成されていることが好ましい。また、このような反射膜20、30の材料については、レーザ発振光の波長領域、例えば中赤外領域において高い反射率を有する材料であれば、Au以外の材料を用いることも可能である。
反射膜20、30のそれぞれでのレーザ発振光の反射率については、その材料及び膜厚等によって制御することが可能である。上記したように前方、後方反射膜20、30としてAu膜を用いる場合、そのそれぞれの膜厚については、前方反射膜20のAu膜厚は、20nm以下(200Å以下)であることが好ましい。また、後方反射膜30のAu膜厚は、100nm以上(1000Å以上)であることが好ましい。このように各反射膜のAu膜厚を設定することにより、上記条件を満たすレーザ共振器構造での反射率を好適に実現することができる。
また、量子カスケードレーザ1Aにおいて、レーザ共振器構造は、前方端面12と後方端面13との間の共振器長Lが0.15mm以上2mm以下であることが好ましい。上記したように、共振器構造の両端面12、13に反射膜20、30を設けた構成によれば、このように共振器長Lを短く設定した場合でも、発振閾値を従来と同等以下に抑制して、素子特性を落とすことなく実効的な駆動電流の低減を実現することが可能である。
なお、上記実施形態による量子カスケードレーザ1Aは、ミラー損失αmを小さくすることによって発振閾値電流、駆動電流を低減するものであるが、このような共振器構造に対して、活性層15において内部損失αiを小さくすることが可能な量子井戸構造、サブバンド準位構造を組み合わせて用いることとしても良い。これにより、レーザ1Aの発振閾値電流、駆動電流をさらに低減することができる。
そのような構成としては、例えば、図2に示したように、活性層15のサブバンド準位構造において、発光上準位3、下準位2に加えて、上準位よりも高いエネルギー準位4を設ける構成がある。この場合、高エネルギー準位4は、例えば、発光上準位3へと電子を供給する注入準位、あるいは上準位3とともに発光に寄与する第2発光上準位として機能する。このような構成では、注入層に溜まったキャリアの大部分が発光層の発光上準位へと注入されるために、自由キャリア吸収の影響が大幅に低減され、内部損失αiを例えば10〜20cm−1程度まで低減することができる。
本発明による量子カスケードレーザの構成の具体例について説明する。図4は、量子カスケードレーザの具体的な構成の一例を示す図である。なお、量子カスケードレーザの素子構造の形成方法については、充分に高品質な単結晶薄膜が成長できる方法であれば、様々な方法を用いて良い。そのような形成方法としては、例えば、分子線エピタキシー(MBE)法、有機金属気相エピタキシー(MOVPE)法による結晶成長がある。
図4に示す量子カスケードレーザ1Bの半導体積層構造では、半導体基板10として、n型InP単結晶基板50を用いている。そして、このInP基板50上に、基板側から順に、厚さ3.5μmのInP下部クラッド層51、厚さ0.25μmのInGaAs下部ガイド層52、単位積層体16が多段に積層された活性層15、厚さ0.25μmのInGaAs上部ガイド層53、厚さ3.5μmのInP上部クラッド層54、及び厚さ20nmのInGaAsコンタクト層55が順次積層されることで、量子カスケードレーザ1Bの素子構造が形成されている。なお、本構成例においても、そのレーザ共振器構造については、図3と同様の構造(図4においては図示省略)を用いている。
本構成例における活性層15は、量子井戸発光層17及び電子注入層18を含む単位積層体16が40周期で積層されて構成されている。また、1周期分の単位積層体16は、図2に模式的に示した構成例と同様に、11個の量子井戸層161〜164、181〜187、及び11個の量子障壁層171〜174、191〜197が交互に積層された量子井戸構造として構成されている。
これらの単位積層体16の各半導体層のうち、量子井戸層は、それぞれInGaAs層によって構成されている。また、量子障壁層は、それぞれInAlAs層によって構成されている。これにより、活性層15は、InGaAs/InAlAs量子井戸構造によって構成されている。図5に、活性層15における1周期分の単位積層体16の具体的な構造の一例を示す。本構成例でのレーザ発振光の波長は、λ=8.5μmである。
また、このような半導体積層構造に対し、そのレーザ共振器構造の両端面にAu蒸着によって高反射率コーティングを施すことで、量子カスケードレーザ1Bを構成する。具体的には、共振器構造の前方端面12(図3参照)に、前方反射膜20となる厚さ10nm(100Å)のAu膜を形成する。また、後方端面13に、後方反射膜30となる厚さ150nm(1500Å)のAu膜を形成する。
上記の共振器構造において、前方端面でのレーザ発振光の反射率はR1=95.6%、後方端面での反射率はR2=100%である。また、このとき、共振器長をL=3mmとするとミラー損失はαm=0.075cm−1、共振器長をL=1mmとするとミラー損失はαm=0.22cm−1である。また、共振器長がL=1mmの構成において、光出力は5mW程度、消費電力は2.5W以下である。
図6は、上記構成を有する量子カスケードレーザの電流−電圧−光出力特性を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸は電流(A)または電流密度(kA/cm2)を示し、縦軸は電圧(V)またはピーク値で規格化した光出力に対応する規格化出力パワーを示している。また、図6のグラフにおいて、グラフA1は、へき開面−へき開面(CL−CL)によって共振器を構成した場合の出力パワーの電流密度依存性を示し、グラフA2は、反射膜−反射膜(HR−HR)によって共振器を構成した場合の出力パワーの電流密度依存性を示している。また、グラフA3は、反射膜−反射膜によって共振器を構成した場合の電圧の電流密度依存性を示している。これらのグラフによれば、レーザ共振器構造の両端面に反射膜を形成する上記構成では、端面コーティング無しでへき開面を利用する構成に比べて、閾値電流の低減、スロープ効率の向上が確認できる。
図7は、スロープ効率の温度依存性を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸は駆動温度(K)を示し、縦軸はスロープ効率(W/A)を示している。このグラフによれば、温度の上昇にもかかわらず、スロープ効率が上昇していることがわかる。これらの結果は、ミラー損失αmが1cm−1以下と極めて小さく、かつ、電流注入によって動的に内部損失αiが減少していることを示している。また、この場合、ピーク光出力は約5mWで、分光分析用途には充分な光出力が得られている。
図8は、ミラー損失の共振器長依存性を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸は共振器長L(cm)を示し、縦軸はミラー損失αm(cm−1)を示している。また、図8のグラフにおいて、グラフB1は、へき開面(反射率30%)−へき開面(30%)によって共振器を構成した場合のミラー損失を示し、グラフB2は、へき開面(30%)−反射膜(100%)によって共振器を構成した場合のミラー損失を示し、グラフB3は、反射膜(95%)−反射膜(100%)によって共振器を構成した場合のミラー損失を示している。このグラフによれば、レーザ共振器構造の両端面に高反射率の反射膜を形成する上記構成では、両端面でへき開面を利用する構成、あるいは一方の端面に反射膜を形成する構成と比べて、ミラー損失αmが充分に低減されていることが確認できる。
上述したように、レーザ共振器構造の両端面に反射膜を形成する構成によれば、閾値電流の低減、スロープ効率の向上などの素子特性の向上を実現することができる。また、前方、後方反射膜を用いた共振器構造において、さらに量子カスケードレーザを短共振器化すれば、レーザ特性を低下させることなく、サイズ効果によって駆動電流の低減が可能になる。
例えば、共振器長がL=0.5mm(500μm)で、閾値電流は100mA以下、消費電力は1〜2W程度となる。この場合、乾電池や、パーソナルコンピュータのUSBバスパワーなどによる給電が可能である。また、量子カスケードレーザのバッテリー駆動が可能となれば、野外での24時間モニタリング、航空機搭載あるいは衛星搭載による地球規模での環境計測などが可能となる。
また、上記したレーザ共振器構造における量子カスケードレーザの短共振器化は、サイズ効果による駆動電流の低減、低消費電力化のみでなく、単一軸モード発振を得る上でも有効である。
上記の式(3)からわかるように、共振器長Lを短くしていけば、軸モード間隔が大きくなり、したがって、レーザ発振は見かけ上、単一軸モード発振に近い状態となる。ここで、図9は、量子カスケードレーザの発振スペクトルを示すグラフである。このグラフにおいて、横軸は波数(cm−1)を示し、縦軸は強度(a.u.)を示している。また、このグラフは、共振器長をL=0.2mm(200μm)、駆動電流をI/Ith=2.5とし、温度300K、パルス幅100nsec、繰返し周波数100kHzで量子カスケードレーザをパルス動作させたときの発振スペクトルを示している。
図9のグラフより、上記した構成及び動作条件では、DFBレーザのような回折格子等が無い構成でも、単一軸モード発振が得られていることがわかる。また、この構成では、閾値の4倍近くの高注入電流領域まで単一軸モード発振が得られた。低消費電力で、かつ単一軸モード発振が可能なレーザ素子は、例えば分光計測、24時間リアルタイムフィールド計測などにおいて非常に有効である。
本発明による量子カスケードレーザは、上記した実施形態及び構成例に限られるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記した構成例では、半導体基板としてInP基板を用い、活性層をInGaAs/InAlAsによって構成した例を示したが、量子井戸構造でのサブバンド間遷移による発光遷移が可能なものであれば、具体的には様々な構成を用いて良い。
このような半導体材料系については、上記したInGaAs/InAlAs以外にも、例えばAlGaAs/GaAs、InAs/AlGaSb、AlGaN/InGaN、Si/SiGeなど、様々な材料系を用いることが可能である。また、半導体の結晶成長方法についても、様々な方法を用いて良い。また、量子カスケードレーザの活性層における積層構造、及びレーザ素子全体としての半導体積層構造についても、上記した構造以外にも様々な構造を用いて良い。
本発明は、駆動電流、消費電力を低減することが可能な量子カスケードレーザとして利用可能である。
1A、1B…量子カスケードレーザ、10…半導体基板、12…前方端面、13…後方端面、15…活性層、16…単位積層体、17…量子井戸発光層、18…注入層、20…前方反射膜、30…後方反射膜、21、31…AlN膜、22、32…Ti膜、23、33…AlN膜、
50…InP基板、51…InP下部クラッド層、52…InGaAs下部ガイド層、53…InGaAs上部ガイド層、54…InP上部クラッド層、55…InGaAsコンタクト層。
50…InP基板、51…InP下部クラッド層、52…InGaAs下部ガイド層、53…InGaAs上部ガイド層、54…InP上部クラッド層、55…InGaAsコンタクト層。
Claims (5)
- 半導体基板と、
前記半導体基板上に設けられ、量子井戸発光層及び注入層からなる単位積層体が多段に積層されることで前記量子井戸発光層と前記注入層とが交互に積層されたカスケード構造を有し、量子井戸構造でのサブバンド間遷移によって光を生成する活性層とを備え、
前記活性層で生成される所定波長の光に対するレーザ共振器構造において、レーザ光の出力面となる前方端面にレーザ発振光に対する反射率が40%以上99%以下の前方反射膜が形成され、後方端面に前記レーザ発振光に対する反射率が前記前方反射膜よりも高い後方反射膜が形成されていることを特徴とする量子カスケードレーザ。 - 前記後方反射膜は、前記レーザ発振光に対する反射率が実質的に100%であることを特徴とする請求項1記載の量子カスケードレーザ。
- 前記前方反射膜及び前記後方反射膜は、それぞれAu膜を含んで形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の量子カスケードレーザ。
- 前記前方反射膜のAu膜厚は20nm以下であり、かつ、前記後方反射膜のAu膜厚は100nm以上であることを特徴とする請求項3記載の量子カスケードレーザ。
- 前記レーザ共振器構造は、前記前方端面と前記後方端面との間の共振器長が0.15mm以上2mm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の量子カスケードレーザ。
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