JP2012114131A - 薄膜トランジスタ、その製造方法、および表示装置 - Google Patents

薄膜トランジスタ、その製造方法、および表示装置 Download PDF

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Abstract

【課題】高性能な電気特性を実現しうるpoly−Si膜の結晶性分布を有した薄膜トランジスタおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の薄膜トランジスタは、絶縁性の基板と、前記絶縁性基板の上に形成されたゲート電極と、前記ゲート電極を覆うように形成されたゲート絶縁膜と、前記ゲート絶縁膜の上に形成された結晶シリコン膜と、前記結晶シリコン膜の端部の上方に形成されたソース電極と、前記結晶シリコン膜における前記ソース電極が形成された端部と対向する端部の上方に形成され、前記ソース電極と離間しているドレイン電極とを具備する薄膜トランジスタにおいて、前記結晶シリコン膜におけるソース電極又はドレイン電極が形成されている前記結晶シリコン膜の端部から、前記結晶シリコン膜におけるソース電極又はドレイン電極が形成されていない前記結晶シリコン膜の中央部に向かって、前記結晶シリコン膜の結晶化率が小さくなっている。
【選択図】図1

Description

本発明は薄膜トランジスタ、その製造方法、および表示装置に関する。
液晶ディスプレイパネル又は有機材料のエレクトロルミネッセンス(EL:electroluminescense)を利用した有機ELディスプレイパネルにおいて、その画素を駆動するために、薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)が用いられる。例えば、非晶質シリコン(a−Si:amorphous silicon)をチャネル材料に用いたa−Si TFT、又は多結晶シリコン(Poly−Si:poly−crystalline silicon)をチャネル材料に用いたPoly−Si TFTが用いられる。
a−Si TFTは、大きな面積の基板上に、均一な膜を生産できる。また、a−Si TFTは、低コストで生産することができる。しかし、a−Si TFTの電界効果移動度(field effect mobility)μは、1cm2/Vs以下と小さい。電界効果移動度とは、素子の高速動作に関する指標の一つである。また、a−Si膜は、構造が不安定であるため、電気的ストレス印加に対する電気特性の時間変動が大きい。
一方、Poly−Si TFTは、1cm2/Vsより大きく600cm2/Vs以下の大きな電界効果移動度μを有する。また、Poly−Si TFTは、高速動作が可能であり、電気特性の安定性にも優れている。しかし、低コストで、かつ、大きな面積の基板上に、均一な膜を生産することが困難である。
TFTには、チャネル層に対してゲート電極が上側に形成されているトップゲート構造と、チャネル層に対してゲート電極が下側に形成されているボトムゲート構造とが存在する。
a−Si TFTは、ボトムゲート構造で主に用いられる。poly−Si TFTは、トップゲート構造で主に用いられる。
近年、a−Si TFT及びpoly−Si TFTの両方の長所を有するデバイスの研究が行われている。生産性に優れたボトムゲート型構造のa−Si TFTの製造工程に、a−Siをpoly−Siに結晶化するレーザアニール等の工程を追加し、ボトムゲート型構造のpoly−Si TFTを形成する試みが行われている。
非特許文献1には、308nmのエキシマ紫外光パルスレーザと515nmの可視光(緑)パルスレーザを用いる例が開示されている。図20Aは、非特許文献1に開示されているボトムゲート構造を有するTFTの断面模式図である。
図20Aに示すTFTは、ガラス基板20と、ゲート電極21と、ゲート絶縁膜22と、微結晶シリコン膜23と、上部a−Si膜24と、高濃度n型a−Si膜25と、ソースドレイン電極26と、保護膜27とを有する。
ここで微結晶シリコン膜とはPoly−Si膜の一種であり、粒径が約100nm以下と小さいものを指す。ゲート絶縁膜22上にa−Si膜(不図示)を堆積した後、レーザ照射を行いa−Si膜を結晶化し、微結晶シリコン膜23を形成する。レーザ光源波長やプロセス条件を最適化し、図20BのTFT電気特性を得ている。
また、特許文献1においては、紫〜青色波長領域の半導体レーザを用いてa−Si膜を結晶化するアニール装置、及びボトムゲート型TFT形成プロセスへの適用例が開示されている。
特開2004−342785号公報
T. Okabe et al., The 16th International Display Workshops (IDW'09), 2009, AMD2-2, pp.257-260, Microcrystalline Silicon Thin Film Transistors by Excimer Laser Annealing for Large-sized TFT-LCDs S. Higashi et al., Japanese Journal of Applied Physics, Vol.45, No.5B, 2006, pp. 4313-4320, Crystallization of Si in Millisecond Time Domain Induced by Thermal Plasma Jet Irradiation
非特許文献1では、前記2種類のレーザ光源を用いたa−Si結晶化を検討している。、a−Si膜は、515nmの波長を有するレーザ光の光吸収度が低い。よって、a−Si膜に515nmの波長を有するレーザ照射した場合、a−Si膜を透過したレーザ光が、a−Si膜の下層に配置されたゲート絶縁膜やゲート電極に熱損傷を与える。
従って、a−Si膜の光吸収が高い308nmの波長を有するエキシマレーザが最適であるとしている。そして、308nmの波長を有するエキシマレーザを用いたプロセス最適化を図っている。以下、308nmの波長を有するエキシマレーザを、308nmエキシマレーザとも呼ぶ。
しかしながら、308nmエキシマレーザを照射するためのレーザ光源は、、励起ガスチャンバーや発振管が必要なため装置サイズが大きく、更に装置価格及びメンテナンスコストも非常に高い。具体的には、出力するレーザの波長が紫外領域であるため光学部品が短寿命であるため、XeCl等の励起ガス交換が頻繁に必要である。さらに、数ヶ月に一度、高価な発振管を交換する必要がある。
また、励起ガス劣化に伴う光出力低下や、パルス毎の光強度がばらつく出力安定性に課題があり、結晶化されたSi膜の結晶性にばらつきを生じさせてしまう。TFTチャネル領域のSi膜の結晶性は、電界効果移動度を含むTFTパラメータに大きな影響を与える。その結果、ディスプレイパネルにおいて、表示ムラなどの不具合が生じてしまう。

一方、特許文献1では、エキシマレーザに比べ小型、安価、超寿命であり、かつa−Si膜の光吸収度が高い紫〜青色波長の半導体レーザ光源を用いたレーザアニール装置が開示されている。しかしながら、ボトムゲート型TFTの一般的構成と、前記レーザアニール装置がa−Si結晶化工程に適用可能との記載があるのみで、エキシマレーザに対するTFT性能面での具体的優位性等については一切開示されていない。

本願発明者らは、可視光レーザを用いてボトムゲート型poly−Si TFT形成プロセスの鋭意検討を行った結果、次の効果を見出した。すなわち可視光レーザをスキャンしてa−Si膜を結晶化する際、レーザ光のa−Si膜侵入深さが膜厚と同等、もしくは大きくなった場合、一部の光がa−Si膜を透過し、a−Si結晶化プロセスに影響を及ぼす。より詳細には、レーザ照射時にa−Si膜を透過した光は、その一部の光がゲート電極に吸収され、一部の光がa−Si膜に反射して干渉し、残りの一部のみがa−Si膜に吸収されると考えられる。このa−Si膜に吸収された光により、a−Si膜の温度が上昇し、poly−Siに結晶化する。本願発明者らは、この光干渉効果がゲート電極上の結晶性分布に影響を及ぼすこと、更に結晶性分布とTFT電気特性の相関関係を詳細に調べた結果、優れたTFT特性を実現しうる結晶性分布を初めて明らかにした。
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、高性能な電気特性を実現しうるpoly−Si膜の結晶性分布を有した薄膜トランジスタおよびその製造方法を提供することを目的とする。
前記従来の課題を解決するために、本発明の薄膜トランジスタは、絶縁性の基板と、ゲート電極と、ゲート絶縁膜と、結晶シリコン膜と、ソースドレイン電極と、を少なくとも備えた薄膜トランジスタ構造において、前記結晶シリコン膜のラマンスペクトルを、約480cm-1にピークを有する非晶質シリコンの第1のラマンスペクトルと、約509cm-1にピークを有する微結晶シリコンの第2のラマンスペクトルと、約517cm-1にピークを有する多結晶シリコンの第3のラマンスペクトルにスペクトル分離し、前記結晶シリコン膜の結晶化率Cが、前記第1、第2、第3のそれぞれのスペクトル面積Pa、Pm、PcからC=(Pc+Pm)/(Pa+Pc+Pm)×100にて定義され、前記ゲート電極直上の前記結晶シリコン膜の前記結晶化率Cが、前記ゲート中央部から端部に向かって高くなる結晶性分布を有している。
また本発明の薄膜トランジスタの製造方法は、絶縁性の基板上に、ゲート電極に用いる金属膜を形成する第1の工程と、前記金属膜を覆うように、絶縁膜を形成する第2の工程と、前記絶縁膜上に第1の非晶質シリコン膜を形成する第3の工程と、前記第1の非晶質シリコン膜に、レーザ光を照射し、前記第1の非晶質シリコン膜を結晶シリコン膜に変化させる第4の工程と、前記結晶シリコン膜上に第2の非晶質シリコン膜を形成し、前記結晶シリコン膜と前記第2の非晶質シリコンとで構成されるチャネル層を形成する第5の工程と、前記チャネル層の上方に、ソース電極及びドレイン電極に用いる金属膜を形成する第6の工程とを含み、前記ゲート電極直上の前記第1の非晶質シリコン膜に対する前記レーザ光の吸収率をA1とし、前記ゲート電極領域以外の前記第1の非晶質シリコン膜に対する前記レーザ光の吸収率をA2とし、A1<A2であることを含む。
以上により、エキシマレーザに比べ、プロセスコスト優位性の高い可視光波長領域の固体レーザもしくは半導体レーザを用いて、良好な電気特性を得るために最適な結晶シリコン膜の結晶化率分布が高精度に制御でき、高性能な薄膜トランジスタを低コストで実現することができる。
また従属項に記載された発明は、本発明に係る薄膜トランジスタおよび製造方法の具体的なものを規定する。
可視光波長領域でも、例えば532nmの緑色波長ではa−Si膜の光吸収係数が低いので、ボトムゲート構造TFTで主に用いられるa−Si膜厚領域(50nm以下)では光吸収度が低く、エネルギー効率の良好なa−Si膜結晶化が容易ではない。更に532nm固体レーザ光源の電力・光変換効率は約15%程度であり、投入電力の約85%が熱などのエネルギーロスとなってしまう。しかし、従属項で規定した半導体発光素子の発振波長405nmを用いてa−Si膜結晶化を行えば、a−Si膜厚50nm以下でも十分な光吸収度が得られる。また光源のエネルギーロスも532nm固体レーザの半分以下に抑制できるため、非常に効率的なプロセスにて結晶シリコン膜の結晶化率分布制御ができる。加えて半導体発光素子の小型、安価、超寿命という特長より、高性能な薄膜トランジスタを一層低コストにて実現することができる。
本発明の薄膜トランジスタ、およびその製造方法によれば、結晶シリコン膜の結晶性分布の高精度制御を行い、優れた電気特性の薄膜トランジスタを低コストにて実現することができる。
実施の形態1における有機EL表示装置を構成する薄膜トランジスタの構造を示す断面図 実施の形態1における有機EL表示装置を構成する薄膜トランジスタの構造を示す断面図において、結晶シリコン膜の結晶性分布を示した図 結晶シリコン膜のラマンスペクトル例と結晶化率導出式を示した図 実施の形態1における有機EL表示装置の等価回路を示す図 実施の形態1における有機EL表示装置の薄膜トランジスタの製造工程を示すフローチャート 実施の形態1における有機EL表示装置の薄膜トランジスタの製造工程を説明するための断面模式図 実施の形態1における有機EL表示装置の薄膜トランジスタの製造工程を説明するための断面模式図 実施の形態1における有機EL表示装置の薄膜トランジスタの製造工程を説明するための断面模式図 実施の形態1における有機EL表示装置の薄膜トランジスタの製造工程を説明するための断面模式図 実施の形態1における有機EL表示装置の薄膜トランジスタの製造工程を説明するための断面模式図 実施の形態1における有機EL表示装置の薄膜トランジスタの製造工程を説明するための断面模式図 実施の形態1における有機EL表示装置の薄膜トランジスタの製造工程を説明するための断面模式図 実施の形態1における有機EL表示装置の薄膜トランジスタの製造工程を説明するための断面模式図 図3のS4におけるレーザ結晶化工程を模式的に示した図 振幅透過率および振幅透過率の計算方法を説明するための図 振幅透過率および振幅透過率の計算方法を説明するための図 振幅透過率および振幅透過率の計算方法を説明するための図 振幅透過率および振幅透過率の計算方法を説明するための図 本実施例での計算に用いたモデル構造およびそのパラメータを示す図 本実施例での計算に用いたモデル構造およびそのパラメータを示す図 a−Si膜の膜厚が35nmの場合におけるSiO2膜厚を変化させたときの、Moゲート上でのa−Si膜における405nm光の反射率、透過率、吸収率を計算した結果を示す図 a−Si膜の膜厚が35nmの場合におけるSiO2膜厚を変化させたときの、SiO2直上でのa−Si膜における405nm光の反射率、透過率、吸収率を計算した結果を示す図 a−Si膜の膜厚が35nmの場合におけるSiO2膜厚を変化させたときの、Moゲート上でのa−Si膜における532nm光の反射率、透過率、吸収率を計算した結果を示す図 a−Si膜の膜厚が35nmの場合におけるSiO2膜厚を変化させたときの、SiO2直上でのa−Si膜における532nm光の反射率、透過率、吸収率を計算した結果を示す図 レーザ照射によるa−Si膜の最高到達温度分布を求める際に用いたシミュレーション条件を示す図 レーザ照射によるa−Si膜の最高到達温度分布を求める際に用いたシミュレーション条件を示す図 レーザ照射によるa−Si膜の最高到達温度分布を求める際に用いたシミュレーション条件を示す図 405nmおよび532nm波長レーザ光を照射したときのa−Si膜の最高到達温度分布シミュレーション結果を示す図 532nm波長レーザ光でa−Si結晶化した際の、結晶シリコン膜の結晶化率分布を示した図 405nm波長レーザ光でa−Si結晶化した際の、結晶シリコン膜の結晶化率分布を示した図 405nm波長レーザ光で、図17で用いた基板走査速度よりも遅い走査速度にてa−Si結晶化した際の、結晶シリコン膜の結晶化率分布を示した図 実施の形態1における製造方法にて形成した薄膜トランジスタのゲート電圧−ドレイン電流特性を示す図 実施の形態1における製造方法にて形成した薄膜トランジスタの電気特性パラメータを示す図 従来の薄膜トランジスタの構造を示す断面図 従来の薄膜トランジスタの電気特性パラメータを示す図
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1における薄膜トランジスタの構造を示す断面図である。図1では、例えば、駆動トランジスタ2を構成する薄膜トランジスタ100の断面図を示している。
(薄膜トランジスタ100の構成)
図1に示す薄膜トランジスタ100は、ボトムゲート構造である。薄膜トランジスタ100は、絶縁性基板10と、絶縁性基板10上に形成されているゲート電極11と、ゲート電極11を覆うように形成されているゲート絶縁膜12と、ゲート絶縁膜12上に形成されている結晶シリコン膜14と、結晶シリコン膜14上に形成されている非晶質シリコン膜15と、ゲート絶縁膜12と結晶シリコン膜14と非晶質シリコン膜15上に形成されているn+シリコン膜16と、n+シリコン膜上に形成されているソース・ドレイン電極17とを備える。
絶縁性基板10は、透明なガラスまたは石英である。
ゲート電極11は、絶縁性基板10上に形成される。ゲート電極11は、典型的には、Mo(モリブデン)、Ta(タンタル)、チタン(Ti)等の高融点金属から構成される。
また、ゲート電極11は、MoW、TiW、TaC、TiNなど、高融点金属と他の金属との合金で形成されていてもよい。
また、ゲート電極11は、Al、CuまたはWのうちのいずれかで形成されていてもよい。また、ゲート電極11は、Al合金またはCu合金などで形成されていてもよい。
ゲート絶縁膜12は、ゲート電極11を覆うように形成される。ゲート絶縁膜12は、典型的には酸化珪素(SiO2)から構成される。また、ゲート絶縁膜12は、好ましくは60nm以上200nm以下の膜厚を有する。より好ましくは120nmである。ゲート絶縁膜12が60nm未満の膜厚を有する場合、初期耐圧不良やリーク電流増大により素子信頼性が低くなる懸念がある。ゲート絶縁膜12が200nmより大きい膜厚を有する場合、ゲート電界がTFTチャネル部に十分かからず、電流駆動力不足や電流立ち上がり特性の劣化を引き起こす可能性がある。
なお、ゲート絶縁膜12は、シリコン酸化膜(SiOx)とシリコン窒化膜(SiNx)とを積層した膜でも良い。
結晶シリコン膜14は、ゲート絶縁膜12上に形成される。結晶シリコン膜14は、多結晶のシリコン(Poly−Si)から構成される。
図1に、結晶シリコン膜14の部位名を示している。ソース・ドレイン電極17の直下の部位がソース・ドレイン電極接続領域であり、両ソース・ドレイン電極17の間を電流が流れる領域をチャネル領域とした。
図2に、図1に示す結晶シリコン膜14の各部位における結晶化率を示している。ここで、結晶化率について、図3を用いて説明する。図3は、結晶シリコン膜のラマンスペクトルの一例を示す。
結晶シリコン膜14は、完全な単結晶で構成された膜でなくも良い。例えば、結晶シリコン膜14は、非晶質シリコン成分、微結晶シリコン成分、多結晶シリコン成分などを含む。したがって、ラマン分光法により、結晶シリコン膜14を分析した場合、それぞれの成分に対応したラマンスペクトルが重畳されたスペクトルが観測される。
具体的には、非晶質シリコン成分のラマンスペクトルはピーク位置が約480cm-1で半値幅約40cm-1以上50cm-1以下のローレンツ型分布を有する。微結晶シリコン成分のラマンスペクトルはピーク位置が約509cm-1で半値幅約20cm-1以上〜30cm-1以下のローレンツ型分布を有する。多晶質シリコン成分のラマンスペクトルはピーク位置が約517cm-1で半値幅約5cm-1以上15cm-1以下のローレンツ型分布を有する。
ここで、非晶質シリコン成分のラマンスペクトルのピークの位置が約480cm-1とは、
477cm-1以上483cm-1以下の範囲に、ラマンスペクトルのピークの位置があることを含む。ラマンスペクトルのピークの位置は、3cm-1程度ずれても、膜内の応力や測定精度等の理由により、同じピークであるとみなせるからである。
よって、微結晶シリコン成分のラマンスペクトルはピーク位置が約509cm-1とは、
506cm-1以上512cm-1以下の範囲に、ラマンスペクトルのピークの位置があることを含む。また、ポリシリコン成分のラマンスペクトルはピーク位置が約517cm-1とは、514cm-1以上520cm-1以下の範囲に、ラマンスペクトルのピークの位置があることを含む。
図3に示すように、結晶シリコン膜14のラマンスペクトルは、3つのラマンスペクトルに分離できる。ラマンスペクトルの分離は、前記3つの成分のラマンスペクトルを合成したスペクトルと、測定された実際のラマンスペクトルの値の差が460cm-1から530cm-1の波数範囲において最小になるようにカーブフィッテイングを行うことにより実施可能である。フィッティングに用いる非晶質成分のラマンスペクトルのピーク位置は477cm-1以上483cm-1であり、スペクトル形状はローレンツ型で半値幅は40cm-1以上50cm-1以下である。また、微結晶成分のラマンスペクトルのピーク位置は506cm-1以上512cm-1であり、スペクトル形状はローレンツ型で半値幅は20cm-1以上30cm-1以下である。さらにポリシリコン成分のラマンスペクトルのピーク位置は514cm-1以上520cm-1であり、スペクトル形状はローレンツ型で半値幅は5cm-1以上15cm-1以下である。
非晶質シリコン成分のラマンスペクトルの面積をPa、微結晶シリコン成分のラマンスペクトルの面積をPm、多結晶シリコン成分のラマンスペクトルの面積をPcとする。結晶化率Cを(Pm+Pc)/(Pa+Pm+Pc)×100とする。結晶化率の単位はパーセント(%)である。
結晶シリコン膜14の結晶化率が高くなってくると、Pmが極めて小さな値となる。その結果、結晶化率は近似的にC=Pc/(Pa+Pc)×100として求められる。
ここで、図2を用いて、結晶シリコン膜14の結晶化率Cの分布について説明する。図2に示すように、結晶化率Cはチャネル領域でほぼ一定値C1である。ソース・ドレイン
電極接続領域の外側(端部)に向かうほど結晶化率が高くなる。つまり、チャネル領域からの距離が遠くなるほど、結晶化率が高くなっている。言い換えると、結晶シリコン膜14の外側(端部)から中央に向かって、結晶化率が小さくなっている。
チャネル領域と接する部分と反対の端において、結晶化率C2となっている。
実験結果では、C1は、約55%以上66%以下であった。また、C2はC1に比べて約4%以上大きい。
結晶シリコン膜14の形成方法を説明する。まず、ゲート絶縁膜12上にa−Siからなる非晶質シリコン膜13(不図示)を形成する(S2)。形成した非晶質シリコン膜13に対して、レーザを照射する。その結果非晶質シリコン膜13を多結晶質化し、結晶シリコン膜14に変化させる(S3)。図2に示す結晶シリコン膜14の結晶化率の分布を形成する方法は、あとで詳細に説明する。
本明細書において、「多結晶」とは、多数の微小な結晶から構成されていることを示す。なお、多結晶は、狭義の意味での多結晶である50nm以上の結晶だけでなく、50nm以下の結晶を含んだ広義の意味とする。
レーザ照射に用いられるレーザはエキシマレーザよりプロセスコストの低い固体レーザもしくは半導体レーザであり、a−Si膜の光吸収度が良好な紫色から緑色領域の波長を有する。ここで、「紫色から緑色の光領域」とは、380nm以上570nm以下の範囲の波長を意味する。
好ましくはa−Si膜の光吸収度が高く、かつ半導体レーザである、発振波長405nmの青紫色半導体レーザを用いる。ここで、半導体レーザの製造工程がばらつくことにより、発振波長405nmは、概ね±5nm程度の幅を有する。したがって、青紫色半導体レーザは、400nm以上410nm以下の波長の光を意味する。
非晶質シリコン膜13は、ゲート絶縁膜12上に形成される。非晶質シリコン膜13は、非晶質のシリコン(a−Si)から構成される。非晶質シリコン膜13は、好ましくは20nm以上55nm以下の膜厚を有する。より好ましくは35nmである。
a−Si膜は、成膜できる膜厚の最小値付近が20nmである。
上限の55nmは、一般的に、ボトムゲート構造の結晶化シリコン膜の膜厚が約50nm以下であるためである。
約50nm以上の領域では、オフ電流増大、電流立ち上がり特性劣化など、良好なTFT性能が得られ難くなってしまう。また、非晶質シリコン膜厚が20nm以下の場合、前述したように、プロセスバラツキにより安定的に大面積基板上に形成困難である点と、結晶化させ難くなってしまう可能性がある。
非晶質シリコン膜15は、パターニングで残された結晶シリコン膜14上に形成されている。
このように、駆動トランジスタ2を構成する薄膜トランジスタ100は、結晶シリコン膜14に非晶質シリコン膜15が積層された構造のチャネル層を有する。実施の形態1においては、電流が流れる半導体の役割を果たす「チャネル層」は、結晶シリコン膜14と非晶質シリコン膜15との積層膜を意味する。この「チャネル層」は、図1で説明した「チャネル領域」とは定義が異なる。
n+シリコン膜16は、ゲート絶縁膜12上に形成される。また、n+シリコン膜16は、非晶質シリコン膜15の側面と結晶シリコン膜14の側面とを覆うように形成されている。
ソース・ドレイン電極17は、互いに離間して形成されるソース電極及びドレイン電極である。チャネルとなる半導体を介して、ソース電極からドレイン電極に電流が流れる。
実施の形態1においては、ソース・ドレイン電極17は、n+シリコン膜16上に形成される。ソース・ドレイン電極17は、例えば、モリブデン(Mo)、MoW等のMoを含む合金、チタニウム(Ti)、アルミニウム(Al)、Alを含む合金、銅(Cu)、Cuを含む合金、銀(Ag)、クロム(Cr)、タンタル(Ta)、タングステン(W)等の金属膜から構成される。
実施の形態1の薄膜トランジスタ100は、液晶表示装置又は有機EL表示装置に用いられる。以下、有機EL表示装置に薄膜トランジスタ100を適用した例を説明する。
図4は、実施の形態1の有機EL表示装置1000の等価回路を示す。
(有機EL表示装置1000の構成)
有機EL表示装置1000は、スイッチングトランジスタ1と、図1に示す駆動トランジスタ2と、データ線3と、走査線4と、電流供給線5と、キャパシタンス6と、有機EL素子7とを備える。
スイッチングトランジスタ1は、データ線3と走査線4とキャパシタンス6とに接続されている。駆動トランジスタ2は、電流供給線5とキャパシタンス6と有機EL素子7とに接続されている。
データ線3は、有機EL素子7の画素の明暗を決めるデータ(電圧値の大小)が、有機EL素子7の画素に伝達される配線である。走査線4は、有機EL素子7の画素のスイッチ(ON/OFF)を決めるデータが有機EL素子7の画素に伝達される配線である。電流供給線5は、駆動トランジスタ2に大きな電流を供給するための配線である。キャパシタンス6は、電圧値(電荷)を一定時間保持する。
以上のように、本実施の形態1における有機EL表示装置1000は構成されている。
(製造方法)
次に、製造方法について説明する。まず基本的な製造方法を述べた後、結晶シリコン膜14の結晶化率分布をいかに制御可能するかについて詳細を説明する。
図5に、実施の形態1に係る有機EL表示装置1000の薄膜トランジスタ100の製造工程のフローチャートを示す。図6Aから図6Hは、薄膜トランジスタ100、実施の形態1に係る有機EL表示装置1000の薄膜トランジスタ100の製造工程を示す。図7は、図5のS4におけるレーザアニールを模式的に示す。
(S1)
まず、ゲート電極11の形成、パターニングを行う。
絶縁基板10を準備する。絶縁基板10上に、スパッタ法によりゲート電極11を構成する金属を形成する。形成した金属をフォトリソグラフィーおよびエッチングすることより、ゲート電極11を形成する(図6A)。
例えば、絶縁基板10を覆うように、スパッタ法によりゲート電極11を構成する金属を形成する。フォトリソグラフィーおよびエッチングを用いて、形成した金属のうちゲート電極11を形成する部分以外を除去することで、ゲート電極11を形成する。
ゲート電極11は、Mo(モリブデン)、Ta(タンタル)、チタン(Ti)、Al(アルミニウム)、Cu(銅)、W(タングステン)である。または、ゲート電極11は、MoW等のMoを含む合金、TaC等のTaを含む合金、TiW及びTiN等のTiを含む合金、Al合金、またはCu合金などでもよい。
(S2)
絶縁基板10及びゲート電極11上にゲート絶縁膜12を形成(成膜)する。ここで、ゲート絶縁膜12は、例えば、シリコン酸化膜(SiO2)から構成されている。好ましくは、60nm以上200nm以下の膜厚を有するゲート絶縁膜12を成膜する。より好ましくは120nmの膜厚を有するゲート絶縁膜12を成膜する。
(S3)
ゲート絶縁膜12上に非晶質シリコン膜13を形成(成膜)する。例えば、プラズマCVD法により、絶縁基板10とゲート電極11とを覆うように、ゲート絶縁膜12を成膜する(図6B)。成膜したゲート絶縁膜12上に非晶質シリコン膜13を連続的に成膜することにより、ゲート絶縁膜12表面の空気暴露、不純物汚染を抑制することができ、良好なゲート絶縁膜/非晶質シリコン膜界面を形成することができる(図6C)。好ましくは、20nm以上55nm以下の範囲の膜厚、より好ましくは35nmの膜厚を有する非晶質シリコン膜13を、ゲート絶縁膜12上に成膜する。
(S4)
レーザアニール法により、非晶質シリコン膜13を結晶シリコン膜14にする。具体的には、成膜された非晶質シリコン膜13に対して脱水素処理をする。その後、非晶質シリコン膜13をレーザアニール法により、多結晶(微結晶を含む)にすることにより結晶シリコン膜14を形成する(図6D)。
ここで、このレーザアニール法において、レーザ光源は、紫から緑色の光領域の波長のレーザを照射する。紫から緑色の光領域の波長とは、380nm以上580nm以下を意味する。半導体レーザの製造工程がばらつくことにより、±5nm程度の幅を有する。したがって、本明細書における380nm以上580nm以下の波長を有するレーザは、375nm以上585nm以下の波長を有するレーザも含む。
好ましくはa−Si膜の光吸収度が高い、発振波長405nmの青紫色半導体レーザである可視光領域の波長のレーザを用いる。
S4の工程(図6Cから図6D)では、図7に示すように、線状に集光された例えば405nm光波長の半導体レーザが、非晶質シリコン膜13に照射されることで結晶シリコン膜14が形成される。
以下、具体的に説明する。非晶質シリコン膜13が形成された絶縁性基板10をステージ上に載せる。線状に集光された波長405nmの光の照射位置は固定しておく。ステージを移動させることにより、波長405nmの光が、非晶質シリコン膜13に照射される。波長405nmの光を照射された非晶質シリコン膜13は、波長405nmの光のエネルギーを吸収することで、温度上昇する。非晶質シリコン膜13は、温度の上昇により加熱融解し、再結晶化することで、結晶シリコン膜14になる。
(S5)
結晶シリコン膜14上に、2層目の非晶質シリコン膜15を形成(成膜)する。
薄膜トランジスタ100のチャネル領域のシリコン膜層をパターニングする。プラズマCVD法により、ゲート絶縁膜12上に、2層目の非晶質シリコン膜15を成膜する(図6E)。
(S6)
そして、薄膜トランジスタ100のシリコン膜層(結晶シリコン膜14および非晶質シリコン膜15の層)をパターニングし、除去すべき非晶質シリコン膜15と結晶シリコン膜14とをエッチングにより除去する(図6F)。それにより、薄膜トランジスタ100において所望のチャネル層を形成することができる。
(S7)
n+シリコン膜16とソース・ドレイン電極17とを形成(成膜)する。
プラズマCVD法により、非晶質シリコン膜15と結晶シリコン膜14の側面とゲート絶縁膜12とを覆うようにn+シリコン膜16を成膜する(図6G)。そして、成膜したn+シリコン膜16上に、スパッタ法によりソース・ドレイン電極17となる金属が堆積される(図6G)。
(S8)
ソース・ドレイン電極17のパターニングを行う。そして、n+シリコン膜17をエッチングし、また、2層目の非晶質シリコン膜15を一部エッチングする。
ソース・ドレイン電極17をフォトリソグラフィーおよびエッチングにより形成する(図6H)。また、n+シリコン膜17をエッチングし、薄膜トランジスタ100のチャネル領域の非晶質シリコン膜15を一部エッチングする。言い換えると、非晶質シリコン膜15は、薄膜トランジスタ100のチャネル領域の非晶質シリコン膜15を一部残すようにチャネルエッチングされる。以上のような製造方法を用いて、有機EL表示装置1000の薄膜トランジスタ100は製造される。
本願発明者らは、可視光レーザを用いてボトムゲート型poly−Si TFT形成プロセスの鋭意検討を行った結果、次の効果を見出した。可視光レーザをスキャンしてa−Si結晶化する際、レーザ光のa−Si膜侵入深さが膜厚と同等、もしくは大きくなった場合、一部の光がa−Si膜を透過し、a−Si結晶化プロセスに影響を及ぼす。より詳細には、レーザ照射時にa−Si膜を透過した光は、その一部の光がゲート電極に吸収され、一部の光がa−Si膜に反射して干渉し、残りの一部のみがa−Si膜に吸収されると考えられる。このa−Si膜に吸収された光により、a−Si膜の温度が上昇し、poly−Siに結晶化する。本願発明者らは、この光干渉効果がゲート電極上の結晶性分布に影響を及ぼすこと、更に結晶性分布とTFT電気特性の相関関係を詳細に調べた結果、優れたTFT特性を実現しうる結晶性分布を初めて明らかにした。
以下、ゲート電極上の結晶シリコン膜の結晶性分布に光干渉効果が与える影響を説明する。
図8A〜図8Dは、振幅反射率および振幅透過率の計算方法を説明するための図である。図8Aは、5つの層からなる多層膜構造の膜構造モデルを示す。
この膜構造モデルは、屈折率n1からなる膜801と、屈折率n2からなる膜802と、屈折率n3からなる膜803と、屈折率n4からなる膜804と、屈折率n5からなる膜805とを備える。この膜構造モデルは、膜805、膜804、膜803、膜802および膜801がこの順に積層されている。
図8の膜801の上部に示す屈折率ninの領域は、膜構造モデルの外部である。屈折率ninの領域は、光が膜構造モデルに入射される側を示している。同様に屈折率noutの領域は、膜構造モデルの外部であり、光が膜構造モデルから出射される側を示している。
図8Bに示すように、この膜構造モデルの最下層すなわち膜805の反射率は、式1により計算される。なお、図8Bにおいて、E0は、膜805に入射された光エネルギーの振幅を示している。
Figure 2012114131
ここで、r5は、膜805の振幅反射率を示し、r45は、膜804から膜805への振幅反射率を示す。r5outは、膜805から外部への振幅反射率を示す。また、Δ5は、膜805の光路長を示す。
そして、図8Cに示すように、膜805および膜804の2層における振幅反射率は、式2により計算される。
Figure 2012114131
ここで、r4+5は、膜805および膜804を1層とみなしたときの振幅反射率を示し、r34は膜803から膜804への振幅反射率を示す。r5は、膜805の振幅反射率を示す。また、Δ4は、膜804の行路長を示す。このような計算を繰り返すことにより、5つの層からなる多層膜構造の膜構造モデルの振幅反射率は、式3のように計算することができる。
Figure 2012114131
また、同様の計算により振幅透過率を計算することができる。具体的には、図8Dに示す膜802および膜803の2層での振幅透過率は、式4により計算される。
Figure 2012114131
ここで、t13は、膜802および膜803を1層とみなしたときの振幅透過率を示す。t12は、膜801から膜802への振幅透過率を示し、t23は、膜802から膜803への振幅透過率を示す。また、r23は、膜802から膜803への振幅反射率を示し、r21は、膜802から膜801への振幅反射率を示す。Δは、行路長を示している。
続いて、次の層すなわち膜803を考慮した場合、t13を用いて、これら3層の振幅透過率は、式5により計算される。
Figure 2012114131
このような計算を繰り返すことにより、5つの層からなる多層膜構造の膜構造モデルの振幅透過率を計算することができる。なお、このような計算は、すべて複素数の屈折率を使って計算されているため、結果は複素数となる。
また、パワー反射率Rおよびパワー透過率Tは、式6および式7に示す複素共役との積をとる。
R=r×r* (式6)
T=t×t* (式7)
上記のパワー反射率Rおよびパワー透過率Tを用いると、膜801における光の吸収率は、以下の式8で計算される。
A(膜801)=1−T−R (式8)
図9Aおよび図9Bは、本実施例での計算に用いたパラメータおよびそのモデル構造を示す図である。ここで、kは消衰係数であり、吸収係数につながる係数である。
図9Bに示すモデル構造では、基板としてガラス基板901(計算結果には全く影響を及ぼさない)を準備し、その上にMoからなる金属膜902(膜厚未設定)を配置した。その上にSiO2膜903(膜厚可変)、a−Si膜904(膜厚可変)を配置し、その上部は空気層(屈折率1)とした。
このモデル構造は、図1に示すボトムゲート構造のTFTをモデル化したものである。
ガラス基板901は、図1に示す絶縁基板10に対応し、金属膜902は、ゲート電極11に対応する。SiO2膜903は、ゲート絶縁膜12に対応し、a−Si膜904は、非晶質シリコン膜13に対応する。
上述した計算方法を用いて、図9Bに示すモデル構造におけるa−Si膜904の表面と垂直な方向から、波長405nmや532nmの光を入射した場合の多重干渉によって計算されるa−Si膜への光吸収率(式8より記号Aとする)を算出した。ここで、図9Aは、波長405nmおよび532nmにおける屈折率を示している。図9A中に示した屈折率の値を用いて、a−Si膜904への光の吸収率Aを算出した。
最初に、405nm光を用いた場合の計算結果について説明する。
図10に、a−Si膜の膜厚が35nmの場合におけるSiO2の膜厚を変化させたときの計算した結果を示す。波長405nmの光に対して、Moで構成したゲート電極上のa−Si膜の反射率R、透過率T、吸収率Aを計算した結果を示す。
図10では、a−Si膜904の膜厚を35nmに固定して、a−Si膜904への吸収率A、系全体の透過率Tおよび反射率Rを計算した。このとき、計算上、吸収項(屈折率の虚数項)を持っている。しかし、a−SiとMoとを用いているため、それぞれの材料の特性から考えて、透過する部分はMoに吸収され、透過および反射を除いた部分がa−Si膜904に吸収されると計算している。
図10に示すように、a−Si膜904への吸収率Aは、SiO2膜903の膜厚を変化させると、光干渉効果により約10%変動する。
SiO2の膜厚が約125nmと約260nmにおいて、反射率Rがやや増大している。反射率Rが増大するのに対応して、吸収率Aもそれらの波長で数%下がっていることがわかる。
また、Moからなる金属膜902に吸収される光エネルギーは、SiO2膜903を透過する透過率T(パワー透過率)として計算される。この透過率Tは、SiO2膜903の膜厚が約120nmと約260nm付近で約5%程度の極大値を持っている。しかし、a−Si膜での吸収率Aに比べると1/10以下であり、a−Si膜を結晶させるための熱エネルギーとして、ゲート電極11の発熱分が貢献する割合は小さい。
図11も同様に、a−Si膜の膜厚が35nmの場合における、SiO2直上のa−Si膜の反射率R、透過率T、吸収率Aを計算した結果を示す。図10のMoゲート上の計算結果に比べて、吸収率Aは高くなっており、SiO2膜厚変動に対する吸収率変動も少ない。
次に、532nm光を用いた場合の計算結果について説明する。
図12では、a−Si膜904の膜厚を35nmに固定して、a−Si膜904への吸収率(A=1−T−R)、系全体の透過率Tおよび反射率Rを計算した。このとき、計算上、吸収項(屈折率の虚数項)を持っている。しかし、a−SiとMoとを用いているため、それぞれの材料の特性から考えて、透過する部分はMoに吸収され、透過および反射を除いた部分がa−Si膜904に吸収されると計算している。
図12に示すように、a−Si膜904への吸収率Aは、SiO2膜903の膜厚を変化させると、光干渉効果により約10%以上変動する。
SiO2の膜厚が約160nmと約340nmにおいて、反射率Rが急激に低下している。反射率Rが減少するに対応して吸収率Aもそれらの波長で約10%上がっていることがわかる。
また、Moからなる金属膜902に吸収される光エネルギーは、SiO2膜903を透過する透過率T(パワー透過率)として計算される。この透過率Tは、SiO2膜903の膜厚が約160nmと約340nm付近で約45%程度の極大値を持っている。これはa−Si膜での吸収率に比べて約1.5倍であり、a−Si膜を結晶させるための熱エネルギーとして、ゲート電極11の発熱分が貢献する割合は極めて大きい。この反射率Rの極大値付近以外でも、532nm光のレーザ照射では、透過率T/吸収率Aの比が約1/5程度あり、ゲート電極11の発熱分が無視できないことがわかる。
図13も同様に、a−Si膜の膜厚が35nmの場合における、SiO2直上のa−Si膜の反射率R、透過率T、吸収率Aを計算した結果を示す。図12のMoゲート上の計算結果に比べて、吸収率Aは低く、SiO2膜厚変動に対する吸収率変動が少ない。
308nmの波長を有する光を用いた場合、a−Si膜厚35nmでは、光がa−Si膜でほぼ完全に吸収され透過しないため光干渉効果の影響を受けない。図10と同様な計算を行うと、透過率T、反射率R、吸収率AはSiO2膜厚によらず一定となり、光吸収率Aは約45%となる。光がa−Si膜でほぼ完全に吸収されても吸収率Aが100%にならいのはa−Si膜表面で55%が光反射されてしまうことによる。
図10において、405nm光照射時の光吸収率AはSiO2膜厚により約10%程度変動するものの、約42%以上あり、308nm紫外光と同等な吸収率を有することがわかる。従って、エネルギー効率の良好な結晶化プロセスを実現することができる。
以上のような計算方法で求めたa−Si膜の光吸収率Aが、どの程度均一なレーザ結晶化プロセスを実現できるか定量的に調べるため、2次元熱シミュレーションを行った。
図14A、B、Cは、それぞれレーザ照射によるa−Si膜の最高到達温度分布を求める際に用いた熱シミュレーションのおける、素子断面図、ビーム形状、シミュレーション条件である。半値幅30μmのガウシアン形状を持った波長405nmもしくは532nm波長のレーザビームを図14Aの−70μmから+70μmの領域まで、走査速度500mm/sでスキャンして、ゲート電極11近辺のa−Si膜13の最高到達温度分布を調べた。熱シミュレーションは以下の式9に基づき有限要素法による数値計算を行った。
Figure 2012114131
式9でxはビームの挿引方向に沿った位置座標で、yは基板と垂直方向の座標軸を有し、a−Si膜13表面からの位置座標を示す。式9においてT、(、(、cはそれぞれ、温度、熱伝導率、密度、比熱である。Sはレーザ照射により生成された単位面積当たりの熱エネルギーである。これまでに説明してきた多重干渉効果を考慮した計算方法により求めた光吸収率がSに関係する。レーザエネルギー密度は最高到達温度が約1300Kになるよう設定した。1300Kではa−Siが0.1ms程度で固相結晶化することが期待できる(非特許文献2の4317頁Fig.7)。
シミュレーションに用いたデバイス構造は、a−Si膜厚を35nm、SiO2膜厚を120nmとする。405nm光に対するゲート電極上とSiO2膜直上のa−Si膜の光吸収率AをそれぞれA1、A2と定義すると、図10と図11より、A1=45.3%、A2=48.5%となる。同様に532nm光に対するゲート電極上とSiO2膜直上のa−Si膜の光吸収率A1、A2は、図12と図13より、A1=19.0%、A2=17.5%となる。
図15に、405nmおよび532nm波長レーザ光を照射したときのa−Si膜の最高到達温度分布シミュレーション結果を示す。図15より、いずれの波長でも最高到達温度は約1300℃になることがわかるが、405nmの場合はゲート電極上が最高到達温度が最も低くなり(下に凸)、532nmの場合はゲート電極上の最高到達温度が最も高い(上に凸)ことがわかる。熱シミュレーションの詳細解析により、この最高温度プロファイル形状(上に凸か下に凸)は、前述の光吸収率差(A1−A2)の符号でよく説明がつくことがわかった。すなわち、(A1−A2)の符号が負の場合はプロファイル形状が下に凸となり、正の場合は上に凸となる。また(A1−A2)の絶対値が大きいほど、ゲート電極上での最高到達温度ムラが大きくなる。図14の熱シミュレーションに用いたデバイス構造では、A1とA2の相対比(A1−A2)/A1×100は、
405nmの場合、
(45.3−48.5)/45.3×100≒−7.1(%)
532nmの場合、
(19.0−17.5)/19.0×100≒+7.9(%)
となり、(A1−A2)/A1×100の絶対値はほぼ同じであるが、532nmの方が、ゲート電極上の最高到達温度ムラが大きいのは、図12で説明したゲート電極自身の発熱分が寄与していると考えられる。
以上の熱シミュレーション結果と、図5、6、7で説明した製造方法をもとに、a−Si膜のレーザ結晶化を実際に行い、結晶シリコン膜の結晶性分布を調べた。405nmと532nm光源と光学系(例えば405nm用にはコリメータレンズ、非球面レンズ、集光用レンズ)を組み合わせ200μm×30μmの長尺状ビーム成形を行い、図14Aに示した構造を作製してa−Si膜のレーザ結晶化を行った。その後、結晶シリコン膜の結晶化率分布をラマンスペクトル測定により行った。
図16は532nm波長レーザ光でa−Si結晶化した(条件1とする)際の、結晶シリコン膜の結晶化率分布を示した図である。縦軸の結晶化率は図3で説明した手順にて導出した。また横軸の位置は、図2で定義した通りである。図16と図2から、ゲート電極上の結晶シリコン膜の結晶化率C1は約55%、ソース・ドレイン電極接続領域での結晶化率C2は約51%である。図16では位置10μm以下と40μm以上で結晶化率がプロットされていないが、その領域では非晶質シリコン成分のラマンスペクトルしか観測されず、殆ど結晶化されていなかったことによる。図16の結晶化率のプロファイルは、図15の532nm光照射時の最高到達温度シミュレーション結果に良く対応していることがわかる。
図17は405nm波長レーザ光でa−Si結晶化した(条件2とする)際の、結晶シリコン膜の結晶化率分布を示した図である。C1は約54%、C2は約58%であり、ゲート電極周辺部に向かうに従って結晶化率が約4%高くなっていることがわかる。この結晶化率のプロファイルも図15の405nm光照射時の最高到達温度シミュレーション結果に良く対応している。
図18は同じく405nm波長レーザ光でa−Si結晶化した際の結晶シリコン膜の結晶化率分布を示した図である。図17の条件2から基板走査速度は20%遅くした(条件3とする)。レーザ照射時間が長くなったことに対応し、結晶化率は図17に比べて全般に高くなり、C1は約66%、C2は約73%と、ゲート電極周辺部に向かうに従って結晶化率が約7%高くなっていることがわかる。
以上のように、同じTFT構造に対して、レーザ照射条件を変化させることで結晶シリコン膜の結晶化率分布を制御することが出来ることがわかる。この事は当該技術であっても容易に類推することは極めて困難である。
(薄膜トランジスタ特性)
図5、図6A〜図6H及び、図7で説明した製造方法を用いてボトムゲート構造の薄膜トランジスタを作製した。
図14Aに、作製した薄膜トランジスタのゲート酸化膜及びa−Si膜の膜厚を示す。また、図16、17、18を用いて説明した3種類のレーザ結晶化条件により、薄膜トランジスタを作製した。図19Aに、実施の形態1における製造方法にて形成した薄膜トランジスタの典型的なゲート電圧−ドレイン電流特性を示す。図19Bに、レーザ照射各条件と図19Aより抽出した薄膜トランジスタの電気特性パラメータの関係を示す。
図19Bより、条件1と条件2を比べると、チャネル領域の結晶化率が55%と同じであっても、条件2の方が全てのパラメータで良好な結果が得られていることがわかる。この結果から下記の2つの知見を得ることができる。第1の知見は、ソース・ドレイン接続領域の結晶シリコンの結晶性がわずかチャネル領域の結晶化率よりも4%程度でも高いか低いかで電気特性に大きな差異が生じることである。第2の知見は、ソース・ドレイン接続領域の結晶化率がチャネル領域のそれよりも高い場合に、より電気特性が改善できることである。これらの知見は、可視光レーザを用いてボトムゲート型poly−Si TFT形成プロセス及び電気特性評価の詳細検討を行って初めて明らかになったものである。
図20Bは、非特許文献1にて開示されたプロセス最適化後のボトムゲート型TFTの電気特性パラメータを示している。非特許文献1ではレーザ光源として、a−Si膜の光吸収率が極めて高い308nmのエキシマ紫外光パルスレーザを用いているため光干渉効果は殆ど発生せず、結晶シリコン膜の結晶化率は下地膜構成によらず、一定であると考えられる。図19Bと図20Bでレーザ照射していないTFT(a−Si TFT)のTFT特性パラメータが殆ど変わらないことから、レーザ照射した場合についても特性比較が可能である。図19Bの条件2のTFTは、図20Bのレーザ照射したTFTより全てのパラメータで優位であることがわかる。このように、ソース・ドレイン接続領域の結晶シリコンの結晶化率をチャネル領域の結晶化率よりも高くすることにより、従来の装置コスト、製造コストの極めて高価なエキシマレーザ結晶化により製造したTFTより、高性能なデバイス特性を実現することができる。また図19Bの条件2によるTFTパラメータから、ソース・ドレイン接続領域の結晶シリコンの結晶化率がチャネル領域の結晶化率よりも高いという結晶性分布を維持したまま、全体に結晶化率を10%程度増加させれば、さらに良好な結果が得られることがわかった。
以上のように、本発明の薄膜トランジスタによれば、結晶シリコン膜の結晶性分布をチャネル領域からソース・ドレイン電極接続部に向かって結晶性が高くなるよう制御することにより、良好な電気特性を得ることができる。
また、本発明に係る製造方法を用いれば、エキシマレーザに比べ、プロセスコスト優位性の高い405nm光波長領域の半導体レーザを用いて、良好な電気特性を実現できる結晶シリコン膜の結晶化率分布を高精度に制御することができ、高性能な薄膜トランジスタを低コストで実現することができる。
なお、本発明はa−Si膜を結晶化する手段としてレーザ結晶化を挙げているが、他の結晶化方法であっても、結晶シリコン膜の結晶性分布が、チャネル領域からソース・ドレイン電極接続部に向かって結晶性が高くなるよう制御できれば同様の効果を得ることが出来ることはいうまでもない。
さらに、本発明はa−Si膜を結晶化する光源として半導体レーザを挙げているが、半導体レーザの代替として、例えば高出力のLEDでも良く、上述の結晶化は可能である。つまり、これらの光源を用いても上述した本発明と同様の効果を実現できることはいうまでもない。従って、これら光源を用いた場合も本発明の範囲内に含まれる。
1 スイッチングトランジスタ
2 駆動トランジスタ
3 データ線
4 走査線
5 電流供給線
6 キャパシタンス
7 有機EL素子
10 絶縁性基板
11 ゲート電極
12、23 ゲート絶縁膜
13、15 非晶質シリコン膜
14 結晶シリコン膜
16 n+シリコン膜
17 ソース・ドレイン電極
18 長尺状に成形された可視光レーザ
20 ガラス基板
21 ゲート電極
22 ゲート絶縁膜
23 微結晶シリコン膜
24 上部a−Si膜
25 高濃度n型a−Si膜
26 ソースドレイン電極
27 保護膜
100、200 薄膜トランジスタ
801、802、803、804、805 膜
901 ガラス基板
902 金属膜
903 SiO2膜
904 a−Si膜
1000 有機EL表示装置
Figure 2012114131
Figure 2012114131
Figure 2012114131
Figure 2012114131
Figure 2012114131
Figure 2012114131

Claims (6)

  1. 絶縁性の基板と、
    前記絶縁性基板の上に形成されたゲート電極と、
    前記ゲート電極を覆うように形成されたゲート絶縁膜と、
    前記ゲート絶縁膜の上に形成された結晶シリコン膜と、
    前記結晶シリコン膜の端部の上方に形成されたソース電極と、
    前記結晶シリコン膜における前記ソース電極が形成された端部と対向する端部の上方に形成され、前記ソース電極と離間しているドレイン電極と
    を具備する薄膜トランジスタにおいて、
    前記結晶シリコン膜におけるソース電極又はドレイン電極が形成されている前記結晶シリコン膜の端部から、前記結晶シリコン膜におけるソース電極又はドレイン電極が形成されていない前記結晶シリコン膜の中央部に向かって、前記結晶シリコン膜の結晶化率が小さくなっている
    薄膜トランジスタ。
  2. 前記結晶シリコン膜のラマンスペクトルにおいて、約480cm-1にピークを有する非晶質シリコンの第1のラマンスペクトルの面積をPa、約509cm-1にピークを有する微結晶シリコンの第2のラマンスペクトルの面積をPm、約517cm-1にピークを有する多結晶シリコンの第3のラマンスペクトルの面積をPcとしたとき、
    前記結晶化率Cは、C=(Pc+Pm)/(Pa+Pc+Pm)×100で定義される、
    請求項1に記載の薄膜トランジスタ。
  3. 前記結晶シリコン膜の中央部から前記結晶シリコン膜の端部に向かって、前記結晶シリコン膜の結晶化率Cが4%以上大きくなる請求項1に記載の薄膜トランジスタ。
  4. 絶縁性の基板上に、ゲート電極に用いる金属膜を形成する第1の工程と、
    前記金属膜を覆うように、絶縁膜を形成する第2の工程と、
    前記絶縁膜上に第1の非晶質シリコン膜を形成する第3の工程と、
    前記第1の非晶質シリコン膜に、レーザ光を照射し、前記第1の非晶質シリコン膜を結晶シリコン膜に変化させる第4の工程と、
    前記結晶シリコン膜上に第2の非晶質シリコン膜を形成し、前記結晶シリコン膜と前記第2の非晶質シリコンとで構成されるチャネル層を形成する第5の工程と、
    前記チャネル層の上方に、ソース電極及びドレイン電極に用いる金属膜を形成する第6の工程とを含み、
    前記ゲート電極直上の前記第1の非晶質シリコン膜に対する前記レーザ光の吸収率をA1とし、前記絶縁膜直上の前記第1の非晶質シリコン膜に対する前記レーザ光の吸収率をA2とした場合、前記A1が前記A2より小さい
    薄膜トランジスタの製造方法。
  5. 前記絶縁膜は、シリコン酸化膜であり、前記第4の工程において、前記レーザ光は405nmの波長を有し、ビーム形状が長尺状でビーム短軸方向にレーザ走査を行い、前記チャネル層でのキャリアの流れる方向が前記レーザ走査方向と平行に設定され、前記ゲート電極の有無による第1の非晶質シリコン膜のレーザ光の吸収率の差(A2−A1)/A1×100が7%以上である
    請求項4に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
  6. 液晶パネルまたは有機ELパネルを含む表示装置であって、
    請求項1又は2に記載の薄膜トランジスタを備え、
    前記トランジスタは、前記液晶パネルまたは有機ELパネルを駆動させる、
    表示装置。
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