JP2012109176A - 電池の劣化分析方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】電極の導電層中に含まれる結着剤の劣化度合に基づいて、電池の性能がどの程度低下しているかを精度よく判定する。
【解決手段】導電層5にレーザ光Rを照射し、発生したラマン散乱光Zに基づいてラマンスペクトルを得る。そして、得られたラマンスペクトルに基づいて、導電層5中に含まれる導電助剤および結着剤の両方に関連するピーク強度IAと、導電助剤に関連する一方、結着剤に関連しないピーク強度IBとの比率Xを算出し、この比率Xの値に基づいて電池の劣化度合を判定する。
【選択図】図5
【解決手段】導電層5にレーザ光Rを照射し、発生したラマン散乱光Zに基づいてラマンスペクトルを得る。そして、得られたラマンスペクトルに基づいて、導電層5中に含まれる導電助剤および結着剤の両方に関連するピーク強度IAと、導電助剤に関連する一方、結着剤に関連しないピーク強度IBとの比率Xを算出し、この比率Xの値に基づいて電池の劣化度合を判定する。
【選択図】図5
Description
本発明は、活物質、炭素系の導電助剤、および樹脂系の結着剤が混合された導電層と、この導電層が表面に付着された集電体とを含む電極を備えた電池の劣化度合をラマン分光法を用いて分析する方法に関する。
エンジンとモータとを駆動源として併用するハイブリッド自動車や、モータのみを駆動源とする電気自動車、もしくは各種モバイル装置等には、繰り返し充放電が可能な二次電池が用いられる。とりわけ、この二次電池として、最近は容量の大きなLiイオン電池の研究開発、普及が急速に進んでいる。Liイオン電池の場合、その正極には、アルミニウムや銅等からなる金属製の集電体と、この集電体の表面に形成された導電層とを備えた電極が用いられる。導電層には、例えばMnやCo等を含む複合酸化物粒子からなる活物質と、導電性を確保するための導電助剤と、これら活物質および導電助剤を固めるための結着剤(バインダー)とが含まれ、かつ電解液(例えばプロピレンカーボネートおよびジメチルカーボネートの混合溶媒にLiPF6等の電解質を混合した溶液)が含浸されている。
ここで、一般的に、導電助剤としてはグラファイトやアセチレンブラック(AB)、またはケッツェンブラック(KB)等が用いられ、結着剤としてはC−C結合を有する樹脂系のものが用いられる。これら導電助剤および結着剤は、活物質の粒子間の導電性を確保する役割、換言すれば、導電層内の内部抵抗を減らす役割を担っている。
一方、Liイオン電池の負極では、その導電層として、例えば、比表面積が大きく多数のLiイオンを吸着可能な活性炭粒子、またはLiイオンを層間にインターカレート可能なグラファイトと、導電助剤と、結着剤と、電解液とを含んだものが用いられる。
ところで、上記のようなLiイオン等の電池が劣化するしくみについては未だ充分に解明されていないのが現状であるが、電池の劣化度合を調べるための方法としては、これまでも種々の方法が提案されている。その一例として、下記特許文献1には、プラスチック電極に備わる活性層の活性炭素繊維について、レーザーラマン分光法によりラマンスペクトルを特定し、そのスペクトルの1355cm-1のピーク面積と1580cm-1のピーク面積とを求め、これら2種類のピーク面積の比から黒鉛化度を測定するとともに、その測定結果に基づいて電極の劣化度合を診断するという方法が開示されている。
ここで、電池の性能が劣化する原因としては、上記のような活性炭素繊維の黒鉛化以外に、集電体に対する導電助剤等の密着性が結着剤の劣化により低下することも一因として考えられる。しかしながら、導電助剤および結着剤はともにC−C結合を有するため、上記特許文献1のような方法では、結着剤の劣化に関するデータを充分に得ることは困難である。また、例えば赤外分光法を用いて結着剤の成分を分析することも考えられるが、結着剤は少量しか存在せず、また、導電助剤に使用される黒色炭素系物質が赤外線を吸収するため、結着剤の成分を正しく検出できないという問題がある。
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、電極の導電層中に含まれる結着剤の劣化度合に基づいて、電池の性能がどの程度低下しているかを精度よく判定することが可能な電池の劣化分析方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、活物質と、C−C結合を有する炭素系の導電助剤と、C−C結合を有する樹脂系の結着剤とが混合された導電層と、この導電層が表面に形成された集電体とを含む電極を備えた電池の劣化度合をラマン分光法を用いて分析する方法であって、上記導電層にレーザ光を照射し、発生したラマン散乱光に基づいてラマンスペクトルを得る工程と、得られたラマンスペクトルに基づいて、上記導電助剤および結着剤の両方に関連するピーク強度IAと、上記導電助剤に関連する一方、結着剤に関連しないピーク強度IBとの比率Xを算出し、この比率Xの値に基づいて劣化度合を判定する工程とを含むことを特徴とするものである(請求項1)。
本発明によれば、電極の導電層にレーザ光を照射することで得られるラマンスペクトルの中に、導電助剤および結着剤の両方に関連するピーク強度IAと、導電助剤のみに関連するピーク強度IBとが存在することを利用して、両者のピーク強度の比率Xを算出することにより、その比率Xに基づいて、導電助剤のみに関連する(結着剤には関連しない)ピーク強度IBが相対的にどの程度強くなっているかを調べることができる。これにより、同じC−C結合を有する導電助剤および結着剤を含む導電層を対象としながら、その中の結着剤がどの程度劣化しているか、つまり、結着剤を介して集電体に固定されている導電助剤や活物質の密着性がどの程度低下しているかを調べることができ、その密着性の低下(電極としての機能の低下)に伴う電池性能の低下を精度よく判定することができる。
ここで、上記ピーク強度IAを求める波数としては、1590〜1600cm-1の範囲が好適であり、上記ピーク強度IBを求める波数としては、1565〜1575cm-1の範囲が好適である(請求項2)。
上記比率Xとして、上記ピーク強度IBをピーク強度IAで割った値IB/IAを算出した場合、当該値が大きいほど電池の劣化が進行していると判定するとよい(請求項3)。
これにより、比率X(=IB/IA)に基づいて電池の劣化度合を適正に判定することができる。
本発明においては、未使用の電池に対して得られる上記比率Xを初期比率X0として特定しておき、この初期比率X0と、使用済の電池に対して得られる上記比率Xとの相違に基づいて劣化度合を判定するようにしてもよい(請求項4)。
このようにすれば、初期比率X0が製品の特性等により異なる場合でも、正確に電池の劣化度合を判定することができる。
本発明において、好ましくは、上記電池として、上記電極を内部に収納するケース体の一部に窓部を設けたものを用い、上記ラマン分光法用の光を、上記窓部を通じて上記電極の導電層に照射する(請求項5)。
このようにすれば、電池を分解しなくてもラマン分光法による劣化分析を適正に行うことができる。
以上説明したように、本発明の電池の劣化分析方法によれば、電極の導電層中に含まれる結着剤の劣化度合に基づいて、電池の性能がどの程度低下しているかを精度よく判定することができる。
(1)電池の構成
図1は、本発明の一実施形態にかかる電池の劣化分析方法が適用される電池(電池セル)の概略構成を示す図である。本図に示される電池は、いわゆる積層タイプの二次電池であり、シート状をなす複数の正極1および負極2と、これらを収納するラミネートフィルム等からなるケース体11を備える。上記複数の正極1および負極2は、リチウム塩等の電解質を保持するセパレータ3を介して1枚ずつ交互に積層されている。
図1は、本発明の一実施形態にかかる電池の劣化分析方法が適用される電池(電池セル)の概略構成を示す図である。本図に示される電池は、いわゆる積層タイプの二次電池であり、シート状をなす複数の正極1および負極2と、これらを収納するラミネートフィルム等からなるケース体11を備える。上記複数の正極1および負極2は、リチウム塩等の電解質を保持するセパレータ3を介して1枚ずつ交互に積層されている。
図2は、図1の一部を拡大して示す図である。図1および図2に示すように、正極1は、金属製(例えばアルミニウム、銅、ステンレス等)のシート状体からなる集電体4と、集電体4の表面に形成された導電層5とを有する。同様に、負極2は、金属製のシート状体からなる集電体6と、集電体6の表面に形成された導電層7とを有する。なお、図1では、集電体4,6、およびセパレータ3を実線で表し、導電層5,7を破線で表している。
上記正極1、負極2、およびセパレータ3は、その積層状態が崩れないようにテープ(図示省略)にて保持されている。上記正極1の各集電体4は、長手方向(積層方向と直交する方向)の一方側に延出され、そこでクリップ13により一体に束ねられている。また、上記負極2の各集電体6は、長手方向の他方側に延出され、そこでクリップ14により一体に束ねられている。
上記正極1の導電層5には、電気反応を促進するための活物質と、導電性を確保するための導電助剤と、これら活物質および導電助剤の粉体を固めるための結着剤(バインダー)とが含まれる。この導電層5を形成する際には、上記活物質、導電助剤、および結着剤が混練されてペースト状にされ、集電体4の表面に層状に塗布されることにより、集電体4上に導電層5が固定される。なお、導電層5には、プロピレンカーボネートやジエチルカーボネート等からなる電解液が含浸される。
上記活物質としては、例えばMnやCo等を含む複合酸化物が用いられ、上記導電助剤としては、例えばカーボンブラックやグラファイト等を含む炭素材が用いられる。また、上記結着剤としては、例えば有機フッ素化合物等の樹脂系材料が用いられる。
上記負極2の導電層7にも、活物質、導電助剤、および結着剤が含まれむ。ただし、正極1の導電層5の場合と異なり、活物質にはカーボンブラック等が用いられる。また、導電助剤は必須ではなく、場合によっては省略してもよい。
図2に示すように、上記正極1および負極2を収納するケース体11には、その一部を切り欠いた孔が設けられており、そこには、例えば透明な石英からなる窓部15が設けられている。この窓部15は、後述するラマン分光法による劣化測定において使用されるレーザ光を正極1に照射するための窓である。このため、窓部15の大きさは、レーザ光を内部に照射できるものであれば充分であり、例えば外径が1mm程度、厚みが0.5mm程度とされる。
(2)劣化分析
本実施形態では、上記のような構成の二次電池の劣化を分析するために、以下に示すようなラマン分光法による測定を行う。
本実施形態では、上記のような構成の二次電池の劣化を分析するために、以下に示すようなラマン分光法による測定を行う。
ラマン分光法による劣化測定では、まず、図3に示すように、二次電池のケース体11に設けられた窓部15を通じて、アルゴンレーザ等からなる単色のレーザ光Rを正極1の導電層5に照射する。これにより、導電層5から反射光Zが発生するが、この反射光は、導電層5での分子の振動・回転により変調したもので、ラマン散乱光(ラマン信号)と呼ばれる。そこで、このラマン散乱光Zを分光器等を用いて解析し、いわゆるラマンスペクトルを得ることにより、分子の構造や状態を調べることができる。
本願発明者は、上記のようなラマン分光法を用いて正極1の導電層5を調べたときに、電池が未使用の場合と使用済みの場合とで、得られるラマンスペクトルのパターンが異なることを発見した。そこで、2種類の波数(cm-1)でピーク強度を調べて相互に比較し、その結果に基づいて電池の劣化を分析することを案出した。
次に、具体的な例を挙げながら、電池の劣化分析の詳細な中身について説明する。図4は、未使用(新品)の電池と、容量が17%低下した電池と、容量が53%低下した電池とを対象に、それぞれラマン分光法による測定を行い、その結果得られたラマンスペクトルを図示したものである。図4のグラフは、横軸に波数(cm-1)(=10000/波長)をとり、縦軸に強度をとったものである。
なお、図4において、測定に使用したラマン分光装置、測定対象とした電池、およびこれを劣化させるための条件は、それぞれ以下のようなものである。
(使用したラマン分光装置)
装置名(型式):RENISHAW社製顕微ラマン分光装置(Ramascope 1000)
(対象とした電池)
形式:積層タイプ、容量:4Ah
活物質:Co,Ni,Mnの3元系複合酸化物(正極)、カーボンブラック(負極)
導電助剤:カーボンブラック(正極)、アセチレンブラック(負極)
結着剤:PVdF(ポリフッ化ビニリデン)
電解質:LiPF6(六フッ化リン酸リチウム)
電解液:DEC(ジエチルカーボネート)、PC(プロピレンカーボネート)、およびEC(エチレンカーボネート)の混合液
(電池劣化の条件)
未使用の電池をSOC(State of Charge)=100%まで充電した後、60℃の恒温槽で一定期間保存することにより、電池を劣化させた。この恒温槽での保存期間を変化させることにより、未使用時と比較して、電池容量(充電量の最大値)をそれぞれ17%および53%低下させた。なお、以下では、未使用時の電池を電池C1、容量が17%低下した電池を電池C2、容量が53%低下した電池を電池C3と称する。
装置名(型式):RENISHAW社製顕微ラマン分光装置(Ramascope 1000)
(対象とした電池)
形式:積層タイプ、容量:4Ah
活物質:Co,Ni,Mnの3元系複合酸化物(正極)、カーボンブラック(負極)
導電助剤:カーボンブラック(正極)、アセチレンブラック(負極)
結着剤:PVdF(ポリフッ化ビニリデン)
電解質:LiPF6(六フッ化リン酸リチウム)
電解液:DEC(ジエチルカーボネート)、PC(プロピレンカーボネート)、およびEC(エチレンカーボネート)の混合液
(電池劣化の条件)
未使用の電池をSOC(State of Charge)=100%まで充電した後、60℃の恒温槽で一定期間保存することにより、電池を劣化させた。この恒温槽での保存期間を変化させることにより、未使用時と比較して、電池容量(充電量の最大値)をそれぞれ17%および53%低下させた。なお、以下では、未使用時の電池を電池C1、容量が17%低下した電池を電池C2、容量が53%低下した電池を電池C3と称する。
次に、図4のグラフに基づいて、電池の劣化に伴い現れるラマンスペクトルのパターン変化について説明する。本図に示すように、上記電池C1,C2,C3のそれぞれに対し得られたラマンスペクトルのパターンを比較すると、波数が1600cm-1の付近において得られるピーク強度が異なることが分かる。
具体的には、ピーク強度を求める波数として、1590〜1600cm-1の範囲に波数Aを設定し、これよりもわずかに小さい1565〜1575cm-1の範囲に波数Bを設定した場合、電池が劣化してその容量が低下するほど、波数Bにおいて得られるピーク強度が、波数Aにおいて得られるピーク強度に対し相対的に高くなることが分かる。
図5は、上記波数Aのピーク強度をIA、波数Bのピーク強度をIBとした場合に、ピーク強度IBをピーク強度IAで割った値である比率X(=IB/IA)を、上記電池C1,C2,C3についてプロットしたグラフである。なお、図5において、比率Xの算出にあたっては、ピーク強度IAを求める波数Aを1590cm-1とし、ピーク強度IBを求める波数Bを1575cm-1とした。
ここで、図4に示したようなラマンスペクトルから、ある特定の波数(波数A,B)のピーク強度を求める操作は、ラマンスペクトルのパターンをフォークト関数を用いて波形近似させる、いわゆるカーブフィッティングにより行った。なお、フォークト関数とは、正規分布の特性関数であるガウス関数と、コーシー分布の特性関数であるローレンツ関数との畳み込みによって得られる関数である。
図5に示すように、未使用の電池C1では、上記比率Xがほぼゼロであり、波数Aのピーク強度IAと比べて、波数Bのピーク強度IBが極めて小さいことが分かる。すなわち、未使用の電池C1に対し得られたラマンスペクトル(図4)についてカーブフィッティングを行うと、そのほとんどが波数Aでピークを迎える波形成分として得られ、波数Bでピークを迎える波形成分は相対的に極めて小さいものとなる。この結果、ピーク強度IBをピーク強度IAで割った値である上記比率Xは、ほぼゼロになる。
一方、容量が17%低下した電池C2では、波数Bのピーク強度IBが相対的に増大し、上記比率Xが0.4程度となる。さらに、容量が53%低下した電池C3に至っては、上記比率Xが2を超えており、波数Bのピーク強度IBが波数Aのピーク強度IAの2倍以上にまで増大していることが分かる。このことは、図4のスペクトルパターンにおいて、強度の値が最も大きくなる波形の山の位置が、電池C1→C2→C3にかけて波数Aの付近から波数Bの付近へと徐々に変化していることからも、類推することができる。
上記のような測定結果に基づいて、図5の一点鎖線に示すような特性線Pを規定することができる。電池の劣化分析の際には、この特性線Pを利用することで、電池の容量低下を実測することなく、その劣化度合を判定することができる。具体的には、ラマン分光法に基づき得られた上記比率Xを、上記特性線Pに当てはめることにより、電池の容量がどの程度低下したか、つまり電池の劣化がどの程度進行しているかを判定することができる。
例えば、比率Xが1の場合には、電池の容量が35%程度低下していると判定でき、比率Xが2の場合には、電池の容量が50%程度低下していると判定することができる。このように、電池の劣化度合は、比率Xが大きいほど、より進行していると判定されることになる。
次に、電池の劣化に伴って上記のようなスペクトルパターンの変化が見られた理由について考察する。
図4に示したような、1600cm-1付近の波数においてピークを迎えるようなラマンスペクトルは、主にC−C結合の振動に起因して生じるラマン散乱光によるものである。すなわち、正極1の導電層5には、カーボンブラックからなる導電助剤と、ポリフッ化ビニリデン(有機フッ素化合物)からなる結着剤とが含まれ、これらはC−C結合を有するため、このC−C結合に起因したラマン散乱光が生じ、図4に示すようなスペクトルが得られる。
しかしながら、実際には、樹脂系材料からなる結着剤は、アモルファスカーボン(ガラス状炭素)を含む一方、カーボンブラックからなる導電助剤は、炭素の結晶体であるグラファイトを含む。このように、結着剤と導電助剤とは、同じC−C結合をもつものでありながら、分子構造が異なるため、得られるラマンスペクトルのピーク位置(ピーク強度が得られる波数)が微妙に異なる。
ここで、未使用の電池C1のように、上記比率X(=IB/IA)の値がほぼゼロになる、つまり波数Aのピーク強度IAが波数Bのピーク強度IBに対し極端に大きくなるのは、結着剤がほとんど劣化しておらず、これに含まれるアモルファスカーボンに起因したピーク波長が強く出るためと考えられる。
これに対し、電池の使用時間が長くなると、結着剤は、温度条件や充放電による作用により、電解液中に溶出する(C−C結合が部分的に切断される)という性質がある。このように、結着剤の劣化が進行すると、導電層5全体としては、結着剤がもつアモルファスカーボンの性質が相対的に弱くなり、導電助剤がもつグラファイトの性質が強くなる。すると、図4における電池C2,C3の波形に示すように、グラファイトのみに起因して生じるピーク強度として、波数Bのピーク強度IBが強く出るようになり、その結果、ピーク強度の比率X(=IB/IA)が増大するものと考えられる。
すなわち、上述した波数Aのピーク強度IAは、導電助剤および結着剤の両方に関連するピーク強度であり、これよりもわずかに小さい波数Bのピーク強度IBは、導電助剤のみに関連する(結着剤には関連しない)ピーク強度であると考えられる。このため、電池がある程度の時間使用されて結着剤の劣化が進行すると、導電助剤のみに関連するピーク強度IBが、導電助剤および結着剤の両方に関連するピーク強度IAに対し相対的に強くなり、上記比率X(=IB/IA)が徐々に増大するものと考えられる。
また、上記のようにして結着剤が劣化すると、集電体4に対する導電助剤および活物質の密着性が低下するため、これら導電助剤等の働きが鈍ることで、電池の性能(容量)に悪影響が及ぶ。このため、上記比率Xが大きいほど(つまり結着剤が劣化しているほど)、図5に示すように、電池の容量が低下していると判定することができる。
(3)作用効果等
以上説明したように、当実施形態では、電池の劣化度合を分析するために、正極1の導電層5にレーザ光Rを照射し、発生したラマン散乱光Zに基づいてラマンスペクトル(図4)を得た(ラマン分光法)。そして、得られたラマンスペクトルに基づいて、上記導電層5中の導電助剤および結着剤の両方に関連するピーク強度IAと、導電助剤のみに関連する(結着剤には関連しない)ピーク強度IBとの比率Xを算出し、この比率Xに基づいて劣化度合を判定するようにした。このような方法によれば、導電層5中に含まれる結着剤の劣化度合に基づいて、電池の性能がどの程度低下しているかを精度よく判定できるという利点がある。
以上説明したように、当実施形態では、電池の劣化度合を分析するために、正極1の導電層5にレーザ光Rを照射し、発生したラマン散乱光Zに基づいてラマンスペクトル(図4)を得た(ラマン分光法)。そして、得られたラマンスペクトルに基づいて、上記導電層5中の導電助剤および結着剤の両方に関連するピーク強度IAと、導電助剤のみに関連する(結着剤には関連しない)ピーク強度IBとの比率Xを算出し、この比率Xに基づいて劣化度合を判定するようにした。このような方法によれば、導電層5中に含まれる結着剤の劣化度合に基づいて、電池の性能がどの程度低下しているかを精度よく判定できるという利点がある。
すなわち、上記実施形態では、正極1の導電層5にレーザ光Rを照射することで得られるラマンスペクトルの中に、導電助剤および結着剤の両方に関連するピーク強度IAと、導電助剤のみに関連するピーク強度IBとが存在することを利用して、両者のピーク強度の比率Xを算出することにより、その比率Xに基づいて、導電助剤のみに関連する(結着剤には関連しない)ピーク強度IBが相対的にどの程度強くなっているかを調べることができる。これにより、同じC−C結合を有する導電助剤および結着剤を含む導電層5を対象としながら、その中の結着剤がどの程度劣化しているか、つまり、結着剤を介して集電体4に固定されている導電助剤や活物質の密着性がどの程度低下しているかを調べることができ、その密着性の低下(電極としての機能の低下)に伴う電池性能の低下を精度よく判定することができる。
特に、上記実施形態では、正極1および負極2を内部に収納するケース体11の一部に窓部15を設け、この窓部15を通じて上記レーザ光Rを照射するようにしたため、電池を分解しなくてもラマン分光法による劣化分析を適正に行うことができる。また例えば、電池を使用している状態で、その窓部15からレーザ光を照射し、正極1の導電層5からのラマン散乱光(ラマン信号)を逐次モニターするようにすれば、正極1の劣化に基づく電池の性能低下を診断するシステムを構築することができる。
なお、上記実施形態では、導電助剤および結着剤の両方に関連するピーク強度IA(波数1590〜1600cm-1におけるピーク強度)と、導電助剤のみに関連するピーク強度IB(波数1565〜1575cm-1におけるピーク強度)とから、両者の比率Xとして、ピーク強度IBをピーク強度IAで割った値であるIB/IAを算出し、その値が大きいほど劣化が進行しているものと判定したが、上記比率Xとして、ピーク強度IAをピーク強度IBで割った値であるIA/IBを算出してもよい。ただしこの場合には、IA/IBが小さいほど劣化が進行していると判定されることになる。
また、上記実施形態では、ピーク強度IBをピーク強度IAで割った値である比率X(=IB/IA)が、電池の未使用時にほぼゼロになることから(図5)、使用済の電池に対する上記比率Xをそのまま用いて電池の劣化度合を判定するようにしたが、製品の特性、もしくは上記ピーク強度を求める波数A,Bの設定の仕方等によっては、未使用時の電池C1に対し得られる上記比率Xが、必ずしもゼロにならないこともあり得る。そこで、このような場合には、未使用の電池C1に対して得られる上記比率Xを初期比率X0として特定しておき、この初期比率X0と、使用済の電池(C2またはC3)に対して得られる上記比率Xとの相違に基づいて劣化度合を判定するとよい。このようにすれば、初期比率X0が製品の特性等により異なる場合でも、正確に電池の劣化度合を判定することができる。
1 正極(電極)
4 集電体
5 導電層
11 ケース体
15 窓部
R レーザ光
Z ラマン散乱光
4 集電体
5 導電層
11 ケース体
15 窓部
R レーザ光
Z ラマン散乱光
Claims (5)
- 活物質と、C−C結合を有する炭素系の導電助剤と、C−C結合を有する樹脂系の結着剤とが混合された導電層と、この導電層が表面に形成された集電体とを含む電極を備えた電池の劣化度合をラマン分光法を用いて分析する方法であって、
上記導電層にレーザ光を照射し、発生したラマン散乱光に基づいてラマンスペクトルを得る工程と、
得られたラマンスペクトルに基づいて、上記導電助剤および結着剤の両方に関連するピーク強度IAと、上記導電助剤に関連する一方、結着剤に関連しないピーク強度IBとの比率Xを算出し、この比率Xの値に基づいて劣化度合を判定する工程とを含むことを特徴とする電池の劣化分析方法。 - 請求項1記載の電池の劣化分析方法において、
上記ピーク強度IAを求める波数が、1590〜1600cm-1の範囲にあり、上記ピーク強度IBを求める波数が、1565〜1575cm-1の範囲にあることを特徴とする電池の劣化分析方法。 - 請求項1または2記載の電池の劣化分析方法において、
上記比率Xは、上記ピーク強度IBをピーク強度IAで割った値IB/IAであり、当該値が大きいほど電池の劣化が進行していると判定することを特徴とする電池の劣化分析方法。 - 請求項1〜3のいずれか1項に記載の電池の劣化分析方法において、
未使用の電池に対して得られる上記比率Xを初期比率X0として特定しておき、この初期比率X0と、使用済の電池に対して得られる上記比率Xとの相違に基づいて劣化度合を判定することを特徴とする電池の劣化分析方法。 - 請求項1〜4のいずれか1項に記載の電池の劣化分析方法において、
上記電池として、上記電極を内部に収納するケース体の一部に窓部を設けたものを用い、
上記ラマン分光法用の光を、上記窓部を通じて上記電極の導電層に照射することを特徴とする電池の劣化分析方法。
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