以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、図面中、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。また、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。さらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
(第1実施形態)
図1は、本発明による静電気対策素子の一実施形態を概略的に示す模式平面図である。また、図2は、図1のII−II断面図であり、図3は、図1のIII−III断面図である。
本実施形態の静電気対策素子100は、絶縁性基板11と、この絶縁性基板11上に設けられた一対の電極21、22と、これら電極21、22の間に設けられた機能層31と、この機能層上に設けられた中間電極層41と、この中間電極層41を覆うように形成された保護層51とを備える。本実施形態の静電気対策素子100において、電極21、22は、端子電極61と電気的に接続されている(図8参照)。
絶縁性基板11は、絶縁性表面11aを有する。絶縁性基板11は、少なくとも電極21、22および機能層31を支持可能なものであれば、その寸法形状は特に制限されない。ここで、絶縁性表面11aを有する絶縁性基板11とは、絶縁性材料からなる基板の他、基板上の一部にまたは全面に絶縁膜が製膜されたものを含む概念である。
絶縁性基板11の具体例としては、例えば、NiZnフェライト、アルミナ、シリカ、マグネシア、窒化アルミ、フォルステライト等の誘電率が50以下、好ましくは20以下の低誘電率材料を用いたセラミック基板や、単結晶基板等が挙げられる。また、セラミック基板や単結晶基板等の表面に、NiZnフェライトやアルミナ、シリカ、マグネシア、窒化アルミ、フォルステライト等の誘電率が50以下、好ましくは20以下の低誘電率材料からなる絶縁膜を形成したものも、好適に用いることができる。なお、絶縁膜の形成方法は、特に限定されず、真空蒸着法、反応性蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVDやPVD等の気相法等の公知の手法を適用できる。また、基板および絶縁膜の膜厚は、適宜設定可能である。
絶縁性基板11の絶縁性表面11a上には、一対の電極21、22が相互に離間して設けられている。本実施形態では、一対の電極21、22は、絶縁性基板11の平面略中央位置にギャップ距離ΔG1を置いて、対向配置されている。ここで、ギャップ距離ΔG1は、一対の電極21、22間の最短距離を意味する。
電極21、22を構成する素材としては、例えば、Ni、Cr、Al、Pd、Ti、Cu、Ag、AuおよびPtから選ばれた少なくとも一種類の金属、或いはこれらの合金等が挙げられるが、これらに特に限定されない。なお、本実施形態では、電極21、22は、平面視で矩形状に形成されているが、その形状は特に制限されず、例えば、櫛歯状、或いは、鋸状に形成されていてもよい。
電極21、22間のギャップ距離ΔG1は、所望の放電特性を考慮して適宜設定すればよく、特に限定されないが、通常、0.1〜50μm程度であり、低電圧初期放電を確保するという観点から、より好ましくは0.1〜20μm程度、さらに好ましくは0.1〜10μm程度である。なお、電極21、22の厚さΔT1は、適宜設定することができ、特に限定されないが、通常、0.05〜10μm程度である。
電極21、22の形成方法は、特に限定されず、公知の手法を適宜選択することができる。具体的には、例えば、塗布、転写、電解めっき、無電解めっき蒸着或いはスパッタリング等により、絶縁性基板11上に所望の厚さΔT1を有した電極層を作製する方法が挙げられる。さらに、このように形成された電極層を、例えば、イオンミリング等の公知の手法を用いて加工することにより、所望のギャップ距離ΔG1を有した電極21、22を形成することができる。
上記の電極21、22間には、機能層31が設けられている。本実施形態では、上述した絶縁性基板11の絶縁性表面11a上および電極21、22上に、機能層31が積層された構成となっている。この機能層31の寸法形状およびその配設位置は、過電圧が印加された際に自身を介して電極21、22間で初期放電が確保されるように設計されている限り、特に限定されない。
機能層31を構成する素材は、過電圧が印加された際に自身を介して電極21、22間で初期放電が確保されるように設計されている限り、特に限定されない。低電圧放電タイプの静電気保護材料として、例えば、Al2O3、TiO2およびSiO2、フォルステライト等の金属酸化物や金属窒化物等の絶縁性無機材料の他、絶縁性有機材料および/または絶縁性無機材料のマトリックス中に導電性無機材料が不連続に含まれる(一様にまたはランダムに分散した)コンポジット等が知られている。低静電容量化を図る観点から、絶縁性無機材料のマトリックス中に導電性無機材料が分散したコンポジットであることが好ましい。絶縁性無機材料のマトリックス中に導電性無機材料が分散したコンポジットは、従来の機能層に比して薄膜化が容易であり、しかも、有機材料を用いた場合に比して耐久性および耐熱性に優れ、その上さらに、温度や湿度等の外部環境への耐候性にも優れる傾向にある。
図4は、機能層31を説明するための模式平面図である。本実施形態では、機能層31として、絶縁性無機材料32のマトリックス中に導電性無機材料33が不連続に分散したコンポジットが採用されている。
機能層31は、絶縁性無機材料32のマトリックス中に島状の導電性無機材料33の集合体が不連続に点在した海島構造を有する。本実施形態では、機能層31は、逐次スパッタリングを行うことにより形成されている。より具体的には、絶縁性基板11の絶縁性表面11a上および/または電極21、22上に、導電性無機材料33をスパッタリングして部分的に(不完全に)成膜した後、引き続き絶縁性無機材料32をスパッタリングすることにより、謂わば、島状に点在した導電性無機材料33の層とこれを覆う絶縁性無機材料32の層との積層構造のコンポジットが形成されている。
マトリックスを構成する絶縁性無機材料32の具体例としては、例えば、金属酸化物、金属窒化物等が挙げられるが、これらに特に限定されない。絶縁性やコスト面を考慮すると、Al2O3、TiO2、SiO2、ZnO、NiO、CoO、V2O5、CuO、MgO、ZrO2、Mg2SiO4、AlN、BNおよびSiCが好ましい。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、絶縁性マトリックスに高度の絶縁性を付与する観点からは、Al2O3、SiO2、フォルステライト等を用いることがより好ましい。一方、絶縁性マトリックスに半導体性を付与する観点からは、TiO2やZnOを用いることがより好ましい。絶縁性マトリックスに半導体性を付与することで、放電開始電圧およびクランプ電圧に優れる静電気対策素子を得ることができる。ここで、絶縁性マトリックスに半導体性を付与する方法は、特に限定されないが、例えば、これらTiO2やZnOを単独で用いたり、これらを他の絶縁性無機材料32と併用すればよい。特に、TiO2は、アルゴン雰囲気中でスパッタリングする際に酸素が欠損し易く、電気伝導度が高くなる傾向にあるので、絶縁性マトリックスに半導体性を付与するにはTiO2を用いることが特に好ましい。
導電性無機材料33の具体例としては、例えば、金属、合金、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属ホウ化物等が挙げられるが、これらに特に限定されない。導電性を考慮すると、C、Ni、Cu、Au、Ti、Cr、Ag,PdおよびPt、或いは、これらの合金が好ましい。
機能層31の層の厚さ(本実施形態においては、後述するギャップ距離ΔG2に相当する。)は、特に限定されるものではなく、適宜設定することができる。繰り返し使用の耐久性を確保する観点から、機能層31の層の厚さは、少なくとも電極21、22間のギャップ距離ΔG1より大きな値に設定することが好ましい。具体的には、10nm〜60μmであることが好ましく、100nm〜25μmであることがより好ましい。
本実施形態の如く、謂わば、不連続に点在した島状の導電性無機材料33の層と絶縁性無機材料32のマトリックスの層とを形成する場合、導電性無機材料33の層の厚さは、1〜10nmであることが好ましく、絶縁性無機材料32の層の厚さは、10nm〜30μmであることが好ましい。
機能層31の形成方法は、上述したスパッタリング法に限定されない。絶縁性基板11の絶縁性表面11a上および/または電極21、22上に、真空蒸着法、反応性蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVDやPVD等の気相法等の公知の薄膜形成方法を適用して、上述した絶縁性無機材料32および導電性無機材料33を付与することにより、所望の厚さを有した機能層31を形成することができる。
上記の機能層31の表面31a上には、中間電極層41が設けられている。本実施形態では、中間電極層41は、断面視における電極21、22の上方に、より具体的には、断面視における電極21、22の上面からギャップ距離ΔG2(すなわち、機能層31の厚さ)を置いて配置されている。ここで、ギャップ距離ΔG2は、電極21、22と中間電極層41との間の最短距離を意味する。
中間電極層41の厚さΔT2は、適宜設定することができ、特に限定されない。放電最大電圧(ピーク電圧)の上昇を長期に亘って抑制し、静電気対策素子100の繰り返し使用の耐久性を高める観点から、厚い方が好ましい。具体的には、中間電極層41の厚さΔT2は、電極21、22の厚さΔT1より厚いこと好ましい。中間電極層41の厚さΔT2は、通常、1〜100μm程度で適宜設定すればよく、より好ましくは3〜50μmである。
平面視における中間電極層41の外径サイズ、すなわち中間電極層41の実装領域を構成する最大幅(図1において、紙面の上下方向)ΔWと最大長さ(図1において、紙面の左右方向)ΔLは、放電経路の担保と低静電容量化のバランスを考慮して適宜設定することができ、特に限定されない。本実施形態の如く、中間電極層41の幅が電極21、22の幅に対して幅広に設定され、中間電極層41の幅方向の両端部が平面視における電極21、22の幅方向の端部より外方に配置されていると、中間電極層41と電極21、22との間の放電経路を幅広く確保しやすい傾向にある。また、本実施形態の如く、中間電極層41の長さが比較的に短く設定され、中間電極層41の長さ方向の両端部が電極21、22の長さ方向の端部より内方に配置されている(平面視で電極21、22間のギャップΔG1周辺のみが中間電極層41によって覆われている/平面視で長さ方向において一部の電極21、22が中間電極層41によって覆われていない)と、低静電容量化を確保しやすい傾向にある。
具体的には、例えば、中間電極層41の最大長さ(図1において、紙面の左右方向)ΔLは、ギャップ距離ΔG1の初期値をaとし、ギャップ距離ΔG2の初期値をbとし、中間電極層41の実装領域を構成する最大長さΔLをcとし、a<b<cとした場合に、a〜0.8cの範囲内であることが好ましく、3a〜0.5cであることがより好ましい。電極21、22の破壊が生じて2b<2ΔG2になった際であっても、中間電極層41の長さ方向における長さを上記範囲内に設定すると、電極21、22の面内において、ギャップ距離ΔG2と略同等の距離(または、ギャップ距離ΔG2より僅かに長い距離)に位置する中間電極層41の存在確率が増加する傾向にあるため、放電最大電圧(ピーク電圧)の急激な上昇が抑制される。なお、図2では、ギャップ距離ΔG2について、電極21、22面から垂直方向のみ図示したが、ギャップ距離ΔG2はこれに限られない。
電極21と中間電極層41との間の放電経路、および、電極22と中間電極層41との間の放電経路の双方を最短距離で構成する観点から、中間電極層41の実装領域は、平面視における電極21、22間を覆うように(電極21、22間にまたがるように)設定することが好ましい。
中間電極層41は、絶縁性材料42のマトリックス中に導電性材料33が不連続に分散したコンポジットからなる。本実施形態では、中間電極層41は、絶縁性材料42と導電性材料43との混合ペーストを形成した後、スクリーン印刷法を用いて形成されている。
より具体的には、まず、絶縁性樹脂等の絶縁性材料42と導電性フィラー等の導電性材料43とを所定の割合で調合し、この調合物に有機溶剤を加え、得られた混合物に混練処理或いは分散処理を施すことにより、混合ペーストを調製する。得られた混合ペーストをスクリーン印刷法により機能層31上に塗布した後、乾燥処理および加熱硬化処理を行うことにより、所定形状の中間電極層41を形成する。なお、混練処理および分散処理の際には、公知の混練装置或いは分散装置を用いることができ、例えば、3本ロールミル等の原料練り装置を用いることができる。
なお、静電気対策素子100表面の絶縁性を確保する観点から、乾燥処理、加熱硬化処理を行った後、仮硬化した混合ペースト上の略全面に絶縁性材料42をさらに形成させてもよい。
また、例えば、絶縁性材料42として、セラミックスまたはセラミックスが含有された混合材料を使用する場合には、導電性材料43とセラミックス仮焼粉末とを所定の割合で調合後、バインダーと溶剤とを加えた混合物を混練および分散させることにより、混合ペーストを調製してもよい。
中間電極層41の作製方法は、公知の手法を適宜採用することができ、上記の方法に限定されない。例えば、混合ペーストの塗布方法として、スピンコートやスプレーコートを採用することができる。また、中間電極層41の作製にフォトリソ法を用いてもよい。例えば、調製した混合ペーストを機能層31上の略全面に塗布し、乾燥処理および加熱硬化処理を行ってベタ状の中間電極層の作製した後、レジストを混合ペースト上に塗布し、マスクを用いてレジストにパターン露光および現像処理を行なってマスクパターンを形成し、しかる後に、エッチング処理或いはミリング処理を行ってパターン形成することにより、所定のパターンを有する中間電極層41を形成することができる。ここで、混合ペーストの乾燥処理および加熱硬化処理は、また、混合ペーストの塗布やレジストの塗布には、例えば、スピンコーターやスリットコーター等の公知の塗布装置を用いることができる。
中間電極層41のマトリックスを構成する絶縁性材料42の具体例としては、例えば、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール樹脂、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂等の有機材料、フォルステライト、アルミナ、フェライト、ムライト、ケイ酸ガラス(ケイ酸塩ガラス)等の無機材料等が挙げられるが、これらに特に限定されない。絶縁性を維持する観点から、中間電極層41の絶縁性材料42は、抵抗率が0.1Ωcm超であることが好ましい。絶縁性マトリックスに高度の絶縁性および難燃性を付与する観点から、中間電極層41の絶縁性材料42は、有機材料であることが好ましく、とりわけ、ポリイミド系樹脂またはエポキシ系樹脂が好ましい。
中間電極層41の導電性材料43の具体例としては、例えば、C、Ni、Cu、Au、Ti、Cr、Ag、Pd、Ta、WおよびPt等の金属、或いは、これらの合金、SnO2、TiO2、ZnO等の金属酸化物、SiC等の金属炭化物、TiB2等の金属ホウ化物、TiN等の金属窒化物等が挙げられるが、これらに特に限定されない。導電性を維持する観点から、中間電極層41の導電性材料43は、抵抗率が0.1Ωcm以下であることが好ましい。抵抗率が0.1Ωcm以下である限り、公知の半導体材料を導電性材料43として用いることもできる。導電性を確保する観点から、導電性材料43は、C、Ni、Cu、Au、Ti、Cr、Ag、Pd、Ta、WおよびPt、或いは、これらの合金を用いた金属フィラーであることが好ましい。
放電経路の担保と低静電容量化のバランス並びに強度および繰り返し使用の耐久性の観点から、導電性材料43の充填量(中間電極層41の外径サイズの体積に対する導電性材料の体積の割合(%))は、10〜50vol%であることが好ましく、より好ましくは、20〜50vol%である。
また、放電経路の担保と導電性を確保する観点から、中間電極層41中の導体材料の体積抵抗率は、0.1Ωcm以下であることが好ましく、より好ましくは、0.01Ωcm以下である。さらにまた、同観点から、導電性材料43に金属フィラーを用いた場合、金属フィラーの平均粒径(D50)ΔRは、0.1〜10μmであることが好ましく、より好ましくは、0.3〜3μmである。
保護層51は、上記中間電極層41を覆うように、機能層31上および中間電極層41上に設けられている。保護層51を構成する素材は、絶縁性を有するものであれば、特に限定されない。その具体例としては、例えば、絶縁性無機材料32で説明した絶縁性無機材料の他、ポリイミド、エポキシ等の樹脂等の絶縁性有機材料等が挙げられる。
保護層51の形成方法は、特に限定されない。上述した方法で形成された機能層31の表面31a上および/または中間電極層41上に、公知の形成方法を適用して、絶縁性無機材料または絶縁性有機材料を付与することにより、所望の厚さを有した保護層51を形成することができる。また、別途予め形成した保護層51を、機能層31の表面31a上および/または中間電極層41上に積層させてもよい。
以上、詳述したように、本実施形態の静電気対策素子100においては、中間電極層41が配置されているので、放電時における一対の電極の負荷を軽減できるとともに放電による電極破壊にともなう(最短)ギャップ距離の意図せぬ急激な増大を抑制できるので、繰り返し放電にともなう放電最大電圧(ピーク電圧)の上昇を長期に亘り抑制することができる。
また、一対の電極21と中間電極層41との間に放電が生じた際、中間電極層41の一部に破壊が生じていても、中間電極層41には、導電性材料43が不連続に分散しているので、破壊が生じた局部に隣接する導電性材料43、43間に電流が流れ、この結果、中間電極層41の面内方向へ電流を流すことができる。そのため、繰り返し放電にともなう放電最大電圧(ピーク電圧)の急激な上昇が、長期に亘り抑制することができる。
さらに、中間電極層41には、導電性材料43が不連続に分散されているので、従来技術の如く中間電極を板状に構成した場合に比して平面視における一対の電極と導電性材料との重なり面積を低減することができる。よって、中間電極層41の採用にともなう静電容量(一対の電極21、22と中間電極層41から形成される総静電容量)の増大を確実に抑制することができる。この結果、本実施形態による静電気対策素子100では、静電容量が小さく、且つ、繰り返し使用の耐久性に優れるという結果を得ることができる。
また、本実施形態の静電気対策素子100においては、絶縁性無機材料32のマトリックス中に不連続に点在した島状の導電性無機材料33を含む機能層31が、低電圧放電タイプの静電気保護材料として機能する。そして、かかる構成を採用することにより、静電容量が小さく、ピーク電圧が低く、且つ、放電耐性に優れる、高性能な静電気対策素子100が容易に実現される。しかも、機能層31として、少なくとも絶縁性無機材料32と導電性無機材料33とから構成されるコンポジットが採用されているため、従来の有機−無機複合膜に比して、耐熱性が高められ、また、温度や湿度等の外部環境により特性が変動し難いので、信頼性が高められる。その上さらに、スパッタリング法により機能層31が形成可能であり、これにより、生産性および経済性がより一層高められる。
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
図5に示すように、まず、絶縁性基板11(NiZnフェライト基板、誘電率:13、TDK株式会社製)の一方の絶縁性表面11aに、スパッタリング法により、厚さ0.7μmのCuの金属薄膜を略全面に形成し、形成されたCu薄膜をフォトリソ法によりエッチングすることにより、相互に離間して対向配置された一対の帯状の電極21、22を形成した。このとき電極21、22の電極長さは0.5mm、電極幅は0.2mm、電極21、22間のギャップ距離△G1は3μmとした。
次いで、図6に示すように、上記の絶縁性基板11上および電極21、22上に、以下の手順で、スパッタリング法により、機能層31を形成した。
まず、絶縁性基板11の電極21、22が形成された面側に、スパッタリング法によりAuを部分的に成膜することにより、厚さ3nmの島状のAuの薄膜が不連続に点在した導電性無機材料33の層を形成した。このスパッタリングは、マルチターゲットスパッタ装置(商品名:ES350SU、株式会社エイコー・エンジニアリング製)を使用し、アルゴン圧力が10mTorr、投入電力が20W、スパッタ時間が40秒の条件下で実施した。
次に、島状のAu薄膜の層および電極21、22を厚さ方向に完全に覆うように、絶縁性基板11の電極21、22が形成された面側に、スパッタリング法によりアルミナを略全面に成膜することにより、厚さ3μmの絶縁性無機材料32の層を形成した。このスパッタリングは、マルチターゲットスパッタ装置(商品名:ESU350、株式会社エイコー・エンジニアリング製)を使用し、アルゴン圧力が10mTorr、投入電力が400W、スパッタ時間が600分の条件下で実施した。
次いで、ポリイミド樹脂(抵抗率1015Ωcm以上)と、Cuからなる導体フィラー(平均粒径0.4μm、抵抗率1.7×10-6Ωcm)とを60:40の体積割合で調合し、この調合物にさらに有機溶剤を加え、得られた混合物を混練および分散することにより混合ペーストを調製した。次に、スクリーン印刷法により、調製した混合ペーストを機能層31上に厚さ10μmの厚膜を形成した。その後、形成した厚膜に対して、乾燥処理および加熱硬化処理を行うことにより、図7に示すように、ポリイミド樹脂中に金属フィラーの層が不連続に分散したコンポジットからなる中間電極層41(外径サイズの最大幅80μm、最大長100μm、厚さ10μm、金属フィラーの充填量40vol%)を作製した。
その後、中間電極層41を厚さ方向に完全に覆うように、露出した機能層31および中間電極層41の機能層31と接触していない面側に、スパッタリング法によりアルミナを略全面に成膜することにより、厚さ10μmの保護層51を形成した。このスパッタリングは、マルチターゲットスパッタ装置(商品名:ESU350、株式会社エイコー・エンジニアリング製)を使用し、アルゴン圧力が10mTorr、投入電力が400W、スパッタ時間が600分の条件下で実施した。
その後、図8に示すように、電極21、22の外周端部に接続するように、Cuを主成分とする端子電極61を形成することにより、図1および図2と略同等の構造を有する、実施例1の静電気対策素子100を得た。
(比較例1)
中間電極層41に代えて、以下の手順で板状の中間電極を形成すること以外は、実施例1と同様に操作して、比較例1の静電対策素子を得た。
ここでは、機能層31が形成された面側に、スパッタリング法により、厚さ700nmのCuの金属薄膜を順次、略全面に形成し、形成された積層金属薄膜片をフォトリソ法によりエッチングすることにより、機能層31の略中央に幅80μm、長さ100μm、厚さ50nmの積層金属薄膜片を1つ形成し、その後、マスクを用いた電解めっき法により、この金属薄膜片上でCuをめっき成長させ、これにより、幅80μm、長さ100μm、厚さ5μmのCuからなる中間電極を1つ形成した。
<静電気放電試験>
次に、上記のようにして得られた実施例1および比較例1の静電気対策素子について、図9に示す静電気試験回路を用いて、静電気放電試験を実施した。
この静電気放電試験は、国際規格IEC61000−4−2の静電気放電イミュニティ試験およびノイズ試験に基づき、人体モデルに準拠(放電抵抗330Ω、放電容量150pF、印加電圧8kV、接触放電)して行った。具体的には、図10の静電気試験回路に示すように、評価対象の静電気対策素子の一方の端子電極をグランドに接地するとともに、他方の端子電極に静電気パルス印加部を接続した後、静電気パルス印加部に放電ガンを接触させて静電気パルスを印加した。ここで印加する静電気パルスは、放電開始電圧以上の電圧を印加した。
なお、放電開始電圧は、静電気試験を0.4kVから0.2kV間隔で増加させながら行なった際に観測される静電気吸収波形において、静電気吸収効果が現れた電圧とする。また、ピーク電圧は、IEC61000−4−2に基づく静電気試験を充電電圧8kVの接触放電で行なった際における、静電気パルスの最大電圧値とする。さらに、クランプ電圧は、IEC61000−4−2に基づく静電気試験を充電電圧8kVの接触放電で行なった際における、静電気パルスの波頭値から30ns後の電圧値とする。
なお、静電容量は、1MHzにおける静電容量(pF)を測定した。また、放電後のピーク電圧は、静電気放電試験を100回繰り返した後のピーク電圧を測定したものである。表1に評価結果を示す。
表1に示す結果より、実施例1の静電気対策素子は、放電開始電圧が2kV以下で静電容量が0.1pF程度と小さく、高速伝送系において適用可能な性能を有することが確認された。しかも、実施例1の静電気対策素子は、繰り返し放電後のピーク電圧も初期ピーク電圧も十分に低く、放電耐性においても優れた性能を有することが確認された。
また、実施例1と比較例1との比較から、絶縁性材料のマトリックス中に導電性材料が不連続に分散したコンポジットからなる中間電極層を採用することにより、平面視における一対の電極と中間電極との重なり面積が低減され、静電容量(中間電極と一対の電極とから形成される総静電容量)が大幅に低減されることが確認された。
さらに、実施例1の静電気対策素子は、繰り返し放電後のピーク電圧が十分に低いことから、補償回路として機能していることが確認され、静電容量の増大が抑制されるとともに、繰り返し放電後のピーク電圧の急激な上昇が長期に亘り抑制されることが確認された。