JP2012104424A - 質量分析装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】前段線形多重極電極Q0と後段線形多重極電極Q1の中心軸の延長線P0、P1が互いにずれていても、イオンが後段線形多重極電極Q1を確実に透過できる質量分析装置を提供する。
【解決手段】前段線形多重極電極Q0と、前段線形多重極電極Q0から出射したイオンが入射する後段線形多重極電極Q1とを有する質量分析装置において、イオンが、後段線形多重極電極Q1に入射するまでに、前段線形多重極電極Q0と後段線形多重極電極Q1の中心軸P0、P1の延長線の互いの軸ずれ量ΔX、ΔY分を偏向するように、前段線形多重極電極Q0を構成する複数のロッド電極に直流オフセット電圧Vofs1、Vofs2、Vofs3、Vofs4を印加するように制御する制御部を有する。制御部は、直流オフセット電圧Vofs1、Vofs2、Vofs3、Vofs4を、後段線形多重極電極Q1に入射させるイオンの質量数に応じて変更する。
【選択図】図8

Description

本発明は、線形多重極電極を有する質量分析装置に関する。
質量分析装置には、従来、測定試料をイオン化するイオン化部と、そのイオンの質量分離を行う線形多重極電極(例えば、四重極電極)の間に、イオンを移送するイオン移送系として線形多重極電極(例えば、四重極イオンガイド)が設けられている。従来の四重極イオンガイドでは、四重極イオンガイドに入射したイオンを高効率に透過させるために、四重極イオンガイドを構成するロッド電極に印加する高周波電圧を制御する方法(例えば、特許文献1等参照)や、四重極イオンガイドに入射するイオンの運動エネルギーを制御する方法(例えば、特許文献2等参照)が提案されている。
特開2002−260575号公報 特開平2−276147号公報
特許文献1や特許文献2で提案されている方法は、四重極イオンガイド単体をイオンが透過する透過率を向上させる方法であり、前段の四重極イオンガイドを透過したイオンは、後段の四重極電極を必ず透過できることを保証するものではなかった。特に、前段の四重極イオンガイドの中心軸の延長線と後段の四重極電極の中心軸の延長線が、互いにずれていると、前段の四重極イオンガイドを透過できたイオンでも、後段の四重極電極を透過できない場合があると考えられた。
実際、質量分析装置の組立では、四重極イオンガイドと四重極電極の中心軸の延長線を合わせるためにμmオーダー前後の高い精度で組立が行われている。しかしながら、機械加工精度や組立誤差などが原因で、四重極イオンガイドと四重極電極の中心軸の延長線を完全に一致させることは困難であり、多少のずれは生じ、このずれにより、四重極イオンガイドを透過してきたイオンが、その後段の四重極電極を透過できない場合があると考えられた。そして、このずれは、前段が四重極イオンガイドであり、後段が四重極電極の場合に限らず、前段と後段が共に線形多重極電極であれば、生じうると考えられた。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、前段の線形多重極電極(前段線形多重極電極)と後段の線形多重極電極(後段線形多重極電極)の中心軸の延長線が互いにずれていても、イオンが後段線形多重極電極を確実に透過できる質量分析装置を提供することである。
本発明は、前段線形多重極電極と、前記前段線形多重極電極から出射したイオンが入射する後段線形多重極電極とを有する質量分析装置において、
前記イオンが、前記後段線形多重極電極に入射するまでに、前記前段線形多重極電極と前記後段線形多重極電極の中心軸の延長線の互いの軸ずれ量分を偏向するように、前記前段線形多重極電極を構成する複数のロッド電極に直流オフセット電圧を印加するように制御する制御部を有することを特徴としている。
本発明によれば、前段線形多重極電極と後段線形多重極電極の中心軸の延長線が互いにずれていても、イオンが後段線形多重極電極を確実に透過できる質量分析装置を提供できる。
本発明の第1の実施形態に係る質量分析装置の構成図である。 質量分析装置の四重極イオンガイドのZ軸方向(中心軸方向)に垂直な平面で切断した断面図である。 四重極イオンガイドと一段目四重極電極の中心軸の延長線が一致している様子を示した図である。 四重極イオンガイドと一段目四重極電極の中心軸の延長線がずれている様子を示した図である。 一段目四重極電極に入射角度をもって入射したイオンの軌道を示した図である。 質量分析装置で生成される質量スペクトルの一例である。 質量スペクトルの質量ピークから求められる分解能と、四重極イオンガイドを出射したイオンの一段目四重極電極への入射角度の関係を示すグラフである。 四重極イオンガイドと一段目四重極電極の中心軸がずれているが、直流オフセット電圧が四重極イオンガイドに印加されることにより、四重極イオンガイドを出射したイオンの一段目四重極電極に入射する入射角度が小さくなる様子を示した図である。 本発明の第1の実施形態に係る質量分析方法(測定前の処理方法)のフローチャートである。 本発明の第1の実施形態に係る質量分析方法(測定中の処理方法)のフローチャートである。 本発明の第2の実施形態に係る質量分析方法(測定前の処理方法)(その2)のフローチャートである。
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し重複した説明を省略している。
(第1の実施形態)
図1に、本発明の第1の実施形態に係る質量分析装置10の構成図を示す。第1の実施形態では、本発明を、3連四重極形質量分析計(QMS: Quadrupole Mass Spectrometer)の質量分析装置10に適用した場合について説明する。
質量分析装置10には、イオン化部1が設けられている。イオン化部1には、数kVの直流電圧が印加されており、測定試料をイオン化して、イオンを生成することができる。正または負に帯電したイオンは、サンプリングコーン17とスキマーコーン18のそれぞれに設けられた直径0.2〜0.8mm程度の細孔を通り、ロータリーポンプ(RP)19によって減圧された前室に導入される。この前室は、スキマーコーン18と引き出し電極8で仕切られている。スキマーコーン18の後段には、引き出し電極8が設けられている。引き出し電極8は、前室に入ったイオンをZ軸方向に加速させる。イオンは、引き出し電極8に設けられた細孔を通り、ターボ分子ポンプ(TMP)20によって減圧された次室に導入される。この次室は、引き出し電極8とイオンレンズ9で仕切られている。この次室内には、四重極イオンガイドQ0が設けられている。
引き出し電極8の後段には、四重極イオンガイド(前段線形四重極電極)Q0が設けられている。四重極イオンガイドQ0は、イオンを効率よくイオンレンズ9、さらには一段目四重極電極Q1まで移送するために設けられている。四重極イオンガイドQ0は、4本の円柱状または双曲面をもったポール状のロッド電極を有している。なお、ロッド電極の本数は、4本に限らず、6本や8本、又はそれ以上でも良く、この場合は、線形多重極電極を構成することになる。
四重極イオンガイドQ0のロッド電極には、加算部4が接続され、その加算部4には、DCオフセット電源2と高周波電源3とが接続されている。制御部11は、四重極イオンガイドQ0のロッド電極に、高周波電源3にて発生させる高周波電圧±Vcosωtと、DCオフセット電源2にて発生させるDCオフセット電圧(直流オフセット電圧)Vofs1、Vofs2、Vofs3、Vofs4(図2参照)を同時に印加する。四重極イオンガイドQ0のロッド電極に、高周波電圧を印加することにより、ロッド電極間に四重極電界を形成し、擬似的な井戸型ポテンシャルを作り、イオンをロッド電極間に収束させ輸送することができる。
図2に、四重極イオンガイドQ0を構成する4本のロッド電極Q0a、Q0b、Q0c、Q0dを、Z軸方向(中心軸方向)に垂直な平面で切断した断面図を示す。ロッド電極Q0aとQ0bは、X軸方向に沿って互いに対向するように平行に配置されている。ロッド電極Q0cとQ0dは、Y軸方向に沿って互いに対向するように平行に配置されている。4本のロッド電極Q0a、Q0b、Q0c、Q0dは、中心軸から等距離(図5のr0に相当)に配置されている。ロッド電極Q0aの隣には、ロッド電極Q0c、Q0dが配置され、ロッド電極Q0bの隣には、ロッド電極Q0c、Q0dが配置されている。ロッド電極Q0cの隣には、ロッド電極Q0a、Q0bが配置され、ロッド電極Q0dの隣には、ロッド電極Q0a、Q0bが配置されている。
そして、ロッド電極Q0a、Q0b、Q0c、Q0dには、隣り合う電極に符号を逆転した高周波電圧±Vcosωtが印加され、それに加算(重畳)するように、ロッド電極Q0a、Q0b、Q0c、Q0dの各々に独立にDCオフセット電圧Vofs1、Vofs2、Vofs3、Vofs4が印加されている。具体的に、ロッド電極Q0a、Q0bには、ロッド電極Q0c、Q0dとは、正負は反転した高周波電圧±Vcosωtが、制御部11によって制御され印加されるようになっている。また、ロッド電極Q0aに印加されるDCオフセット電圧Vofs1と、ロッド電極Q0bに印加されるDCオフセット電圧Vofs2と、ロッド電極Q0cに印加されるDCオフセット電圧Vofs3と、ロッド電極Q0dに印加されるDCオフセット電圧Vofs4とは、互いに独立に、制御部11によって設定し印加することが可能になっている。
図1に示すように、四重極イオンガイドQ0の後段には、イオンレンズ9が設けられている。イオンレンズ9は、次室とチャンバ室内を仕切っている。イオンレンズ9は、イオンを集束させ、イオンの次室からチャンバ室内への移動を可能にしている。チャンバ室内は、ターボ分子ポンプ(TMP)21によって減圧にされている。チャンバ室内には、一段目四重極電極Q1と、衝突ガス12が導入される衝突室13内に収められる二段目四重極電極Q2と、三段目四重極電極Q3と、検出器(二次電子増倍管)7が設けられている。
イオンレンズ9の後段には、一段目四重極電極(後段線形四重極電極)Q1が設けられている。一段目四重極電極Q1は、4本の円柱状または双曲面をもったポール状のロッド電極を有している。なお、ロッド電極の本数は、4本に限らず、6本や8本、又はそれ以上でも良く、この場合は、線形多重極電極を構成することになる。
一段目四重極電極Q1のロッド電極には、加算部22が接続され、その加算部22には、DCオフセット電源5と高周波電源6と図示を省略した直流電源が接続されている。制御部11は、一段目四重極電極Q1のロッド電極に、高周波電源6にて発生した高周波電圧と、直流電源(図示省略)にて発生した直流電圧と、DCオフセット電源5にて発生したDCオフセット電圧を同時に印加する。なお、一段目四重極電極Q1の構成や、DCオフセット電源5と高周波電源6からの印加の態様は、図2に示した四重極イオンガイドQ0と同様である。
一段目四重極電極Q1のロッド電極に、高周波電圧を印加することにより、ロッド電極間に四重極電界を形成し、擬似的な井戸型ポテンシャルを作り、イオンをロッド電極間に収束させ輸送することができる。さらに、高周波電圧が印加されているロッド電極に、直流電圧を、高周波電圧と直流電圧の比が一定となるように重畳すれば、特定の質量電荷比(質量数)のイオンを、それ以外の質量数のイオンを透過させることなく、透過させることができる。特定の質量数には、構造解析する目的のイオン、いわゆる、プリカーサーイオンの質量数が選択される。このプリカーサーイオンは、衝突室13において、衝突誘起解離される。
一段目四重極電極Q1は、四重極イオンガイドQ0を前段線形四重極電極とした場合に、後段線形四重極電極となっていると考えることができる。逆に、四重極イオンガイドQ0は、一段目四重極電極Q1を後段線形四重極電極とした場合に、前段線形四重極電極となっていると考えることができる。前段線形多重極電極(四重極イオンガイドQ0)の中心軸の延長線と、後段線形多重極電極(一段目四重極電極Q1)の中心軸の延長線とは、完全には一致しておらず、多少のずれ(軸ずれ)が存在する。その軸ずれ量分をプリカーサーイオンが偏向するように、制御部11は、DCオフセット電源2に、DCオフセット電圧Vofs1、Vofs2、Vofs3、Vofs4(図2参照)を印加させる。これにより、プリカーサーイオンは、後段線形多重極電極(一段目四重極電極Q1)を確実に透過することができる。
一段目四重極電極Q1の後段には、衝突室13に設けられた細孔を介して、二段目四重極電極Q2が設けられている。二段目四重極電極Q2は、衝突室13内に設けられている。プリカーサーイオンは、衝突室13に設けられた細孔を通り、衝突室13に導入される。衝突室13内部は、ヘリウム(He)や窒素(N2)等の中性の衝突ガス12を導入することで数百ミリPa(数ミリTorr)程度の圧力に維持されている。二段目四重極電極Q2は、4本の円柱状または双曲面をもったポール状のロッド電極を有している。なお、ロッド電極の本数は、4本に限らず、6本や8本、又はそれ以上でも良く、この場合は、線形多重極電極を構成することになる。
二段目四重極電極Q2のロッド電極には、加算部25が接続され、その加算部25には、DCオフセット電源14と高周波電源15と図示を省略した直流電源が接続されている。制御部11は、二段目四重極電極Q2のロッド電極に、高周波電源15にて発生した高周波電圧と、直流電源にて発生した直流電圧と、DCオフセット電源14にて発生したDCオフセット電圧を同時に印加する。なお、二段目四重極電極Q2の構成や、DCオフセット電源14と高周波電源15からの印加の態様は、図2に示した四重極イオンガイドQ0と同様である。
二段目四重極電極Q2のロッド電極に、高周波電圧を印加することにより、ロッド電極間に四重極電界を形成し、擬似的な井戸型ポテンシャルを作り、プリカーサーイオンをロッド電極間に収束させることができる。さらに、ロッド電極に直流電圧を重畳させれば、プリカーサーイオンを開裂(衝突誘起解離(Collision Induced Dissociation; CID))させ、プロダクトイオンを生成することができる。プリカーサーイオンは、一段目四重極電極Q1の直流電圧と、二段目四重極電極Q2の直流電圧との電位差により、衝突誘起解離(開裂)する。
二段目四重極電極Q2は、一段目四重極電極Q1を前段線形四重極電極とした場合に、後段線形四重極電極となっていると考えることができる。逆に、一段目四重極電極Q1は、二段目四重極電極Q2を後段線形四重極電極とした場合に、前段線形四重極電極となっていると考えることができる。前段線形多重極電極(一段目四重極電極Q1)の中心軸の延長線と、後段線形多重極電極(二段目四重極電極Q2)の中心軸の延長線とは、完全には一致しておらず、多少のずれ(軸ずれ)が存在する。その軸ずれ量分をプリカーサーイオンが偏向するように、制御部11は、DCオフセット電源5に、DCオフセット電圧を印加させる。これにより、プリカーサーイオンは、後段線形多重極電極(二段目四重極電極Q2)を確実に透過することができる。
二段目四重極電極Q2の後段には、衝突室13に設けられた細孔を介して、三段目四重極電極Q3が設けられている。三段目四重極電極Q3は、4本の円柱状または双曲面をもったポール状のロッド電極を有している。なお、ロッド電極の本数は、4本に限らず、6本や8本、又はそれ以上でも良く、この場合は、線形多重極電極を構成することになる。三段目四重極電極Q3のロッド電極には、図示を省略した高周波電源と直流電源が接続されている。制御部11は、三段目四重極電極Q3のロッド電極に、高周波電源にて生成される高周波電圧と、直流電源にて生成された直流電圧を印加する。なお、三段目四重極電極Q3の構成や、高周波電源からの印加の態様は、図2に示した四重極イオンガイドQ0のそれらと同様である。
衝突室13の細孔から排出されたプロダクトイオンは、三段目四重極電極Q3のロッド電極間に導入される。三段目四重極電極Q3のロッド電極に、高周波電圧を印加することにより、ロッド電極間に四重極電界を形成し、擬似的な井戸型ポテンシャルを作り、プロダクトイオンをロッド電極間に収束させ輸送することができる。さらに、高周波電圧が印加されているロッド電極に、直流電圧を、高周波電圧と直流電圧の比が一定となるように重畳すれば、特定の質量電荷比(質量数)のプロダクトイオンを、それ以外の質量数のプロダクトイオンを透過させることなく、透過させることができる。特定の質量数は、予め、既知のプロダクトイオンの質量数の中から選択し設定しておくことができる。
三段目四重極電極Q3は、二段目四重極電極Q2を前段線形四重極電極とした場合に、後段線形四重極電極となっていると考えることができる。逆に、二段目四重極電極Q2は、三段目四重極電極Q3を後段線形四重極電極とした場合に、前段線形四重極電極となっていると考えることができる。前段線形多重極電極(二段目四重極電極Q2)の中心軸の延長線と、後段線形多重極電極(三段目四重極電極Q3)の中心軸の延長線とは、完全には一致しておらず、多少のずれ(軸ずれ)が存在する。その軸ずれ量分をプロダクトイオンが偏向するように、制御部11は、DCオフセット電源14に、DCオフセット電圧を印加させる。これにより、プロダクトイオンは、後段線形多重極電極(三段目四重極電極Q3)を確実に透過することができる。
そして、三段目四重極電極Q3は、その特定の質量数のプロダクトイオンを検出器(二次電子増倍管)7に輸送する。検出器7は、そのプロダクトイオンの量を、電荷量として測定することができる。検出器7で検出された質量数毎のプロダクトイオンの量は、電気信号として、制御部11内の信号処理部16へ送信される。信号処理部16では、受信した電気信号を信号処理する。具体的には、信号処理部16は、三段目四重極電極Q3のロッド電極に印加される高周波電圧と直流電圧を電圧掃引し、検出器7へ透過できるプロダクトイオンの質量数を、小さい質量数から順に大きい質量数になるように掃引することができる。これにより、信号処理部16は、マススペクトルを得ることができる。
次に、DCオフセット電源2、5、14によって、DCオフセット電圧Vofs1等を前段線形多重極電極(四重極イオンガイドQ0、一段目四重極電極Q1、二段目四重極電極Q2)に印加することで、イオン(プリカーサーイオン、プロダクトイオン)が、後段線形多重極電極(一段目四重極電極Q1、二段目四重極電極Q2、三段目四重極電極Q3)を透過できるようになる理由を説明する。なお、以下の説明では、前段線形多重極電極として四重極イオンガイドQ0を例に、後段線形多重極電極として一段目四重極電極Q1を例に説明する。他の場合は同様に説明することができるので省略している。
図3に、四重極イオンガイド(前段線形多重極電極)Q0の中心軸の延長線P0と、一段目四重極電極(後段線形多重極電極)Q1の中心軸の延長線P1が、一致している様子を示す。なお、理解を容易にするために、図3では、四重極イオンガイドQ0と一段目四重極電極Q1とイオン化部1以外の記載は省いている。以下に説明する図4、図5、図8でも適宜省いて記載している。イオン化部1でイオン化されたイオン(プリカーサーイオン)は、四重極イオンガイドQ0の中心軸上を透過すると、図3中の矢印で示すように、そのまま真っ直ぐ進むだけで、一段目四重極電極Q1の中心軸上に沿って入射し、一段目四重極電極Q1を確実に透過することができる。
図4に、四重極イオンガイド(前段線形多重極電極)Q0の中心軸の延長線P0と、一段目四重極電極(後段線形多重極電極)Q1の中心軸の延長線P1が、ずれている様子を示す。イオン化部1でイオン化されたイオン(プリカーサーイオン)は、図4中の矢印で示すように、まず、四重極イオンガイドQ0内では、その中心軸上を透過しようとし、一段目四重極電極Q1内でも、その中心軸上を透過しようとする。この結果、イオンの軌跡は四重極イオンガイドQ0と一段目四重極電極Q1の距離ΔLの間隙において屈曲し、イオンは、一段目四重極電極Q1に対して、入射角度θをもって入射することになる。
図5に、一段目四重極電極(後段線形多重極電極)Q1に、入射速度Vと入射角度θをもって入射したイオンの軌道を示す。不破敬一郎、藤井敏博著の「四重極質量分析計−原理と応用」(株式会社講談社、1977年1月30日発行)の13頁には、四重極電極Q1に入射角度θを持って入射するイオンが、100%の透過率を持つためのX方向、Y方向の最大許容速度Vx、Vyは、後記する(1)式で与えられる旨の記載がある。ここで、r0は対向する一段目四重極電極Q1のロッド電極間の距離の半値であり、ωはそのロッド電極に印加する高周波電圧±Vcosωtの角周波数であり、Mはイオンの質量数である。また、ΔMは、図6に示すようなマススペクトルにおいて質量数Mのところに現れた質量ピークの半値幅である。
Figure 2012104424
(1)式より求めることのできる最大許容速度Vx、Vyと、入射速度Vの関係から、X方向、Y方向の入射角度θx、θy(θ)と分解能M/ΔMの関係を求めることができる。この関係を、図7に示す。この関係は、シミュレーションによる計算によって求められている。このシミュレーションでは、イオンの質量数Mを500(M=500)とし、ロッド電極間の距離の半値r0を5mm(r0=5[mm])とし、イオンの入射エネルギーを3eVとしている。図7より入射角度θx、θy(θ)が大きくなるにつれ、分解能M/ΔMが低下することがわかる。そして、0.5〜1.0degという小さな入射角度θx、θy(θ)において、分解能M/ΔMが敏感に変化し低減していることがわかる。なお、分解能M/ΔMが低いということは、半値幅ΔMが大きいことを意味し、質量数Mのイオンが、マススペクトルの横軸の質量数(質量電荷比)がその質量数Mのときに、一段目四重極電極(後段線形多重極電極)Q1を透過し難くなっていること(透過率が低いこと)を意味していると考えられる。これらより、逆に、0.5〜1.0degという既に小さな入射角度θx、θy(θ)においても、さらに、入射角度θx、θy(θ)を小さくすることにより、一段目四重極電極(後段線形多重極電極)Q1における透過率を高めることができると考えられる。
図8に、四重極イオンガイドQ0の中心軸の延長線P0と、一段目四重極電極Q1の中心軸の延長線P1が、軸ずれ量ΔX、ΔYだけずれているが、DC(直流)オフセット電圧Vofs1、Vofs2、Vofs3、Vofs4が四重極イオンガイドQ0に印加されることにより、四重極イオンガイドQ0を出射したイオンの一段目四重極電極Q1に入射する入射角度θx、θy(θ)が小さくなる様子を示す。
イオンが、四重極イオンガイドQ0の入射端から、一段目四重極電極Q1の入射端までを通過する時間tは、(2)式で求められる。ここで、Lは、四重極イオンガイドQ0のZ方向(軸方向)の長さであり、ΔLは、四重極イオンガイドQ0と一段目四重極電極Q1間のZ方向の距離であり、Vzは、四重極イオンガイドQ0に入射したイオンのZ方向の速度である。
Figure 2012104424
この時間tの間に、イオンがX、Y方向に軸ずれ量ΔX、ΔYだけ移動するための、イオンのX、Y方向の速度Vx、Vyは、(3)式で求められる。
Figure 2012104424
(3)式に(2)式を代入し、時間tを消すと、(4)式が求められる。
Figure 2012104424
後記の運動エネルギーの式と(4)式より、図2の四重極イオンガイドQ0のX方向に並べられたロッド電極Q0aとQ0bに印加するDCオフセット電圧Vofs1とVofs2の電位差ΔExは、(5)式のように表される。ここで、mは、イオンの質量であり、qは、電荷量である。
Figure 2012104424
同様に、後記の運動エネルギーの式と(4)式より、図2の四重極イオンガイドQ0のY方向に並べられたロッド電極Q0cとQ0dに印加するDCオフセット電圧Vofs3とVofs4の電位差ΔEyは、(6)式のように表される。
Figure 2012104424
(5)式、(6)式により、イオンが、四重極イオンガイドQ0の入力端から一段目四重極電極Q1の入力端までを通過する時間tの間に、軸ずれ量ΔX、ΔYだけ偏向するために必要な電位差ΔEx、ΔEyを求めることができる。電位差ΔEx、ΔEyは、(7)式、(8)式のように表されるので、電位差ΔEx、ΔEyが求まれば、(7)式、(8)式を満たすように、DCオフセット電圧Vofs1、Vofs2、Vofs3、Vofs4を設定することができる。
Figure 2012104424
Figure 2012104424
例えば、電位差ΔEx(ΔEy)が1Vであった場合(ΔEx(ΔEy)=1[V])、DCオフセット電圧Vofs1(Vofs3)を1Vとし(Vofs1(Vofs3)=1[V])、DCオフセット電圧Vofs2(Vofs4)を0Vとしても良いし(Vofs2(Vofs4)=0[V])、DCオフセット電圧Vofs1(Vofs3)を0Vとし(Vofs1(Vofs3)=0[V])、DCオフセット電圧Vofs2(Vofs4)を−1Vとしても良い(Vofs2(Vofs4)=−1[V])。
また、(5)式、(6)式より、電位差ΔEx、ΔEyは、イオン(プリカーサーイオン)の質量mに依存し比例するため、イオンの質量m毎に電位差ΔEx、ΔEyは異なり、一定でない。そのため、電位差ΔEx、ΔEyは目的とするプリカーサーイオンの質量m毎に求めておき、質量分析の測定時には目的とするプリカーサーイオンにあわせて電位差ΔEx、ΔEy、さらには、DCオフセット電圧Vofs1、Vofs2、Vofs3、Vofs4を設定する。
そして、四重極イオンガイドQ0に、DCオフセット電圧Vofs1、Vofs2、Vofs3、Vofs4を印加した場合に、イオンが一段目四重極電極Q1に入射する際の、Z方向からX方向への仰角(入射角度)θx’は(9)式で表され、Z方向からY方向への仰角(入射角度)θy’は(10)式で表される。
Figure 2012104424
Figure 2012104424
一方、図4に示すように、四重極イオンガイドQ0に、DCオフセット電圧Vofs1、Vofs2、Vofs3、Vofs4を印加しない場合に、イオンが一段目四重極電極Q1に入射する際の、Z方向からX方向への仰角(入射角度)θxは(11)式で表され、Z方向からY方向への仰角(入射角度)θyは(12)式で表される。
Figure 2012104424
Figure 2012104424
(9)式の入射角度θx’と(11)式の入射角度θxの大小関係を比較すると、(9)式の入射角度θx’は、(11)式の入射角度θxより小さくなっている(θx’<θx)。また、(10)式の入射角度θy’と(12)式の入射角度θyの大小関係を比較すると、(10)式の入射角度θy’は、(12)式の入射角度θyより小さくなっている(θy’<θy)。四重極イオンガイドQ0に、DCオフセット電圧Vofs1、Vofs2、Vofs3、Vofs4を印加することにより、イオンが一段目四重極電極Q1に入射する際の入射角度θx’、θy’を小さくすることができるので、イオンの一段目四重極電極Q1における透過率を向上させ、イオンは確実に一段目四重極電極Q1を透過できるようになる。
図9に、本発明の第1の実施形態に係る質量分析方法(測定前の処理方法)のフローチャートを示す。第1の実施形態の質量分析方法は、質量分析装置10を用いて、実施することができる。第1の実施形態の質量分析方法では、質量分析の測定前に、予め、測定前の処理方法を実施しておくことが好ましい。そして、オペレータは、プリカーサーイオンの質量数Mや、プロダクトイオンの質量数Mのわかっている標準サンプルを用意し、さもなくば想定することが好ましい。
まず、ステップS1で、制御部11は、対象とする前段線形四重極電極と後段線形四重極電極の対の選択を、グラフィックユーザーインターフェース(GUI)を介してオペレータに促し、その促しに応じてオペレータが選択した対を選択する。具体的には、前段線形四重極電極と後段線形四重極電極の対として、四重極イオンガイドQ0と一段目四重極電極Q1の対か、一段目四重極電極Q1と二段目四重極電極Q2の対か、二段目四重極電極Q2と三段目四重極電極Q3の対かのどれかを選択する。そして、四重極イオンガイドQ0と一段目四重極電極Q1の対、又は、一段目四重極電極Q1と二段目四重極電極Q2の対が選択された場合は、以後のステップで、質量数Mとして、プリカーサーイオンの質量数Mを用い、二段目四重極電極Q2と三段目四重極電極Q3の対が選択された場合は、以後のステップで、質量数Mとして、プロダクトイオンの質量数Mを用いる。なお、以下では、四重極イオンガイドQ0と一段目四重極電極Q1の対が選択されたとして説明する。そして、最終的には3対をすべて選択するまでこの質量分析方法(測定前の処理方法)を繰り返す。
ステップS2で、制御部11は、GUIを介してオペレータに促し、その促しに応じたオペレータの計測とその計測結果の入力によって、前段線形四重極電極(四重極イオンガイドQ0)のZ方向の長さL、前段線形四重極電極(四重極イオンガイドQ0)と後段線形四重極電極(一段目四重極電極Q1)間のZ方向の距離ΔL、軸ずれ量ΔX、ΔYを、取得する。
ステップS3で、制御部11は、質量数Mに基づいて、イオンの質量mを算出し、加速電圧と質量mに基づいて、イオンのZ方向の速度Vzを算出する。
ステップS4で、制御部11は、(5)式と(6)式を用い、ステップS2とS3の計算結果に基づいて、偏向に必要な電位差ΔEx、ΔEyを算出する。
ステップS5で、制御部11は、(7)式と(8)式を用い、電位差ΔEx、ΔEyに基づいて(を満たすように)、隣接するロッド電極間の電圧の差の最大値が最小になるように、DCオフセット電圧Vofs1、Vofs2、Vofs3、Vofs4を算出(設定)する。
ステップS6で、制御部11は、DCオフセット電圧Vofs1、Vofs2、Vofs3、Vofs4を、質量m(質量数M)と関係付けて、制御部11内の記憶部に記憶する。
ステップS7で、制御部11は、質量m(質量数M)をスキャンして変化させ、変化させた質量m(質量数M)毎に、電位差ΔEx、ΔEy(DCオフセット電圧Vofs1、Vofs2、Vofs3、Vofs4)を算出する。これは、(5)式と(6)式に示すように、電位差ΔEx、ΔEyはイオンの質量mに依存するため、イオンの質量m毎に予め電位差ΔEx、ΔEy(DCオフセット電圧Vofs1、Vofs2、Vofs3、Vofs4)を用意しておくものである。例えば、質量m1のイオンに対する電位差ΔEx1、ΔEy1を算出する場合を説明する。まず、質量数Mの標準サンプルのイオンの質量mは、(13)式で表される。ここで、NAは、アボガドロ定数である。
Figure 2012104424
(5)式、(6)式から明らかなように、電位差ΔEx、ΔEyは質量mと比例関係あるため、イオンの質量m1のときの電位差ΔEx1、ΔEy1は、標準サンプルで求めたイオンの質量mのときの電位差ΔEx、ΔEyを用いて、(14)式、(15)式のように表すことができる。ステップS7では、この(14)式、(15)式を用いて、変化させた質量m(質量数M)毎に、電位差ΔEx(ΔEy)を算出し、さらに、DCオフセット電圧Vofs1、Vofs2、Vofs3、Vofs4を算出する。なお、このステップS7と後記するステップS8とS14は、後記するステップS15を実施する場合は省くことが可能である。
Figure 2012104424
Figure 2012104424
ステップS8で、制御部11は、質量m(質量数M)毎に、対応する電位差ΔEx、ΔEy(DCオフセット電圧Vofs1、Vofs2、Vofs3、Vofs4)を関係付けたデータマップを、制御部11内の記憶部に記憶する。以上で、第1の実施形態の質量分析方法(測定前の処理方法)を終了する。
図10に、本発明の第1の実施形態に係る質量分析方法(測定中の処理方法)のフローチャートを示す。測定中の処理方法では、測定前の処理方法で予め実施しておいた実施結果を用いて実施される。質量分析方法(測定中の処理方法)のスタートとして、オペレータは、測定試料を用意する。
まず、ステップS11で、制御部11は、対象とする前段線形四重極電極と後段線形四重極電極の対の選択を、GUIを介してオペレータに促し、その促しに応じてオペレータが選択した対を選択する。具体的には、制御の対象とする前段線形四重極電極と後段線形四重極電極の対として、四重極イオンガイドQ0と一段目四重極電極Q1の対、一段目四重極電極Q1と二段目四重極電極Q2の対、二段目四重極電極Q2と三段目四重極電極Q3の対を選択する。1つに限らず、複数選択しても良く、すべて選択しても良い。そして、四重極イオンガイドQ0と一段目四重極電極Q1の対、又は、一段目四重極電極Q1と二段目四重極電極Q2の対が選択された場合は、以後のステップで、質量数Mとして、測定試料のオペレータが目的とするプリカーサーイオンの質量数M1を用い、二段目四重極電極Q2と三段目四重極電極Q3の対が選択された場合は、以後のステップで、質量数Mとして、測定試料からオペレータが予想するプロダクトイオンの質量数M1を用いる。なお、以下では、四重極イオンガイドQ0と一段目四重極電極Q1の対が選択されたとして説明する。
ステップS12で、制御部11は、GUIを介してオペレータに促し、その促しに応じたオペレータによる質量数M1の入力(指定)によって、質量数M1を取得する。
ステップS13で、制御部11は、(13)式を用い、質量数M1に基づいて、質量m1を算出する。
ステップS14で、制御部11は、データマップから、質量m1(質量数M1)に関係付けられた電位差ΔEx1、ΔEy1(DCオフセット電圧Vofs11、Vofs21、Vofs31、Vofs41)を読み出す。
ステップS15で、制御部11は、データマップを用いることなく、ステップS7と同様に比例関係を利用し、(14)式、(15)式と質量mとm1と電位差ΔEx、ΔEyに基づいて、電位差ΔEx1、ΔEy1を算出し、さらに、DCオフセット電圧Vofs11、Vofs21、Vofs31、Vofs41を算出することができる。
ステップS16で、制御部11は、イオン化部1で測定試料をイオン化し、イオンを生成させる。
ステップS17で、制御部11は、前段線形四重極電極(前段電極:四重極イオンガイドQ0)にDCオフセット電圧Vofs11、Vofs21、Vofs31、Vofs41を印加する。
ステップS18で、制御部11は、四重極イオンガイド(前段電極:前段線形四重極電極)Q0に高周波電圧を、ステップS17のDCオフセット電圧Vofs11、Vofs21、Vofs31、Vofs41に重畳させるように同時に印加する。これにより、目的とするプリカーサーイオンは、四重極イオンガイドQ0だけでなく、一段目四重極電極Q1を高い透過率で透過することができる。
ステップS19で、制御部11は、一段目四重極電極Q1に直流電圧と高周波電圧を印加し、目的のプリカーサーイオンを選択し透過させる。なお、ステップS11において、一段目四重極電極Q1が前段線形四重極電極(前段電極)となる対が選択されている場合は、一段目四重極電極Q1用のステップS17のDCオフセット電圧Vofs11、Vofs21、Vofs31、Vofs41が重畳させるように同時に印加される。これにより、目的とするプリカーサーイオンは、一段目四重極電極Q1だけでなく、二段目四重極電極Q2を高い透過率(入射率)で透過(入射)することができる。
ステップS20で、制御部11は、二段目四重極電極Q2に直流電圧と高周波電圧を印加し、目的のプリカーサーイオンを衝突誘起解離して、プロダクトイオンを生成し透過(出射)させる。なお、ステップS11において、二段目四重極電極Q2が前段線形四重極電極(前段電極)となる対が選択されている場合は、二段目四重極電極Q2用のステップS17のDCオフセット電圧Vofs11、Vofs21、Vofs31、Vofs41が重畳させるように同時に印加される。これにより、生成が予想されるプロダクトイオンは、二段目四重極電極Q2だけでなく、三段目四重極電極Q3を高い透過率で透過することができる。
ステップS21で、制御部11は、三段目四重極電極Q3に直流電圧と高周波電圧を印加し、プロダクトイオンを質量分離させる。
ステップS22で、制御部11は、検出器7に、質量数毎にプロダクトイオンを検出させる。
ステップS23で、制御部11の信号処理部16は、質量スペクトルを生成する。以上で、質量分析方法(測定中の処理方法)は終了する。
(第2の実施形態)
第2の実施形態でも、第1の実施形態の質量分析装置10をそのまま用いることができる。第2の実施形態では、第1の実施形態と比べて、質量分析方法、特に、測定前の処理方法が、異なっている。第1の実施形態では、図9のステップS2に示すように、軸ずれ量ΔX、ΔYを、オペレータ等が計測し、制御部11に取得させる必要があった。しかしながら、軸ずれ量ΔX、ΔYは、概念としては存在するが実体としては存在しない中心軸の延長線P0、P1間の距離であるので、測定し難く、時間やコストがかかるため、例えば量産時などにおいては、軸ずれ量ΔX、ΔYの測定がコスト的に困難となる場合もある。そこで、第2の実施形態では、軸ずれ量ΔX、ΔYの取得を省ける質量分析方法(測定前の処理方法)について記載する。
図11に、本発明の第2の実施形態に係る質量分析方法(測定前の処理方法)のフローチャートを示す。第2の実施形態の質量分析方法(測定前の処理方法)では、オペレータは、プリカーサーイオンの質量数Mや、プロダクトイオンの質量数Mのわかっている標準サンプルを用意する。第2の実施形態の質量分析方法(測定前の処理方法)は、ステップS1からスタートするが、第1の実施形態のステップS1と同じであるので、説明を省略する。ステップS1の後に、ステップS31に進む。
ステップS31で、制御部11は、DCオフセット電圧Vofs1、Vofs2、Vofs3、Vofs4をそれぞれスキャンしながら変化させ、変化させたDCオフセット電圧Vofs1、Vofs2、Vofs3、Vofs4毎に、標準サンプルの質量分析の測定を行い、質量数M前後の範囲の質量ピークを伴った質量スペクトルを取得し、質量ピークの信号強度H(図6参照)と半値幅ΔM(図6参照)を対応するDCオフセット電圧Vofs1、Vofs2、Vofs3、Vofs4に関係付けて記憶する。これにより、複数の質量スペクトルが取得されることになる。
なお、DCオフセット電圧Vofs1、Vofs2、Vofs3、Vofs4は、4つあるので、それらの変化のさせ方は、煩雑になりやすい、そこで、具体的なDCオフセット電圧Vofs1、Vofs2、Vofs3、Vofs4の調整方法の一例を説明する。はじめに、X軸に関わるDCオフセット電圧Vofs1、Vofs2を決定する。DCオフセット電圧Vofs2を0Vに固定し、DCオフセット電圧Vofs1を正方向もしくは負方向に変化(スキャン)させる。DCオフセット電圧Vofs1を変化させることで、マススペクトルの信号強度Hと半値幅ΔMが増減するため、増減した範囲の中で信号強度Hが最大、かつ、半値幅ΔMが最小となるようにDCオフセット電圧Vofs1の値を決定する。次に、同様の手順で、Y軸に関わるDCオフセット電圧Vofs3、Vofs4も決定する。
次に、ステップS32で、制御部11は、複数の質量スペクトルの中から、質量ピークの信号強度H(図6参照)が最大となるか、質量ピークの半値幅ΔM(図6参照)が最小となるかの、少なくともどちらか一方の条件を満たすDCオフセット電圧Vofs1、Vofs2、Vofs3、Vofs4を抽出し決定する。なお、抽出条件としては、質量ピークの信号強度Hが最大となり、かつ、質量ピークの半値幅ΔMが最小となる条件の方が好ましい。
次に、ステップS33で、制御部11は、決定したDCオフセット電圧Vofs1、Vofs2、Vofs3、Vofs4に基づいて、(7)式と(8)式を用いて、偏向に必要な電位差ΔEx、ΔEyを算出する。
次に、ステップS6、S7、S8と順に進むが、第1の実施形態のステップS6、S7、S8と同じであるので、説明を省略する。以上で、第2の実施形態の質量分析方法(測定前の処理方法)が終了する。
なお、第1と第2の実施形態の説明は、イオンを正イオンとしていたが、負イオンでも良い。この場合は電位差ΔEx、ΔEyの極性を反転することで、第1と第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。
1 イオン化部
2 DCオフセット電源
3 高周波電源
4 加算部
5 DCオフセット電源
6 高周波電源
7 検出器(二次電子増倍管)
8 引き出し電極
9 イオンレンズ
10 質量分析装置
11 制御部
12 衝突ガス
13 衝突室
14 DCオフセット電源
15 高周波電源
16 信号処理部
17 サンプリングコーン
18 スキマーコーン
19 ロータリーポンプ
20、21 ターボ分子ポンプ
Q0 四重極イオンガイド(前段線形四重極電極)
Q1 一段目四重極電極(後段線形四重極電極)
Q2 二段目四重極電極
Q3 三段目四重極電極
Q0a、Q0b、Q0c、Q0d ロッド電極

Claims (17)

  1. 前段線形多重極電極と、前記前段線形多重極電極から出射したイオンが入射する後段線形多重極電極とを有する質量分析装置において、
    前記イオンが、前記後段線形多重極電極に入射するまでに、前記前段線形多重極電極と前記後段線形多重極電極の中心軸の延長線の互いの軸ずれ量分を偏向するように、前記前段線形多重極電極を構成する複数のロッド電極に直流オフセット電圧を印加するように制御する制御部を有することを特徴とする質量分析装置。
  2. 前記前段線形多重極電極は、三連四重極質量分析装置における四重極イオンガイドであり、
    前記後段線形多重極電極は、前記三連四重極質量分析装置においてプリカーサーイオンの選択を行う一段目四重極電極であることを特徴とする請求項1に記載の質量分析装置。
  3. 前記前段線形多重極電極は、三連四重極質量分析装置においてプリカーサーイオンの選択を行う一段目四重極電極であり、
    前記後段線形多重極電極は、前記三連四重極質量分析装置において前記プリカーサーイオンの衝突誘起解離を行う二段目四重極電極であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の質量分析装置。
  4. 前記前段線形多重極電極は、三連四重極質量分析装置においてプリカーサーイオンの衝突誘起解離を行いプロダクトイオンを生成する二段目四重極電極であり、
    前記後段線形多重極電極は、前記三連四重極質量分析装置において前記プロダクトイオンの質量分離を行う三段目四重極電極であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の質量分析装置。
  5. 前記制御部は、前記直流オフセット電圧を、前記後段線形多重極電極に入射させる前記イオンの質量数に応じて変更することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の質量分析装置。
  6. 前記制御部は、前記前段線形四重極電極の中心軸の方向の長さ、前記前段線形四重極電極と前記後段線形四重極電極間の距離、前記軸ずれ量、前記イオンの質量数、前記イオンを前記前段線形四重極電極に入射する前に中心軸の方向に加速する加速電圧に基づいて、前記直流オフセット電圧が印加される複数の前記ロッド電極間の複数の電位差を算出することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の質量分析装置。
  7. 前記制御部は、複数の前記電位差の条件を満たし、隣接するロッド電極間の電圧の差の最大値が最小になるように、前記直流オフセット電圧を算出することを特徴とする請求項6に記載の質量分析装置。
  8. 前記制御部は、
    前記直流オフセット電圧を変化させながら印加し、
    変化させた前記直流オフセット電圧毎に、質量分析の測定を実施し、質量スペクトルを取得し、
    前記質量スペクトルのピークの信号強度が最大となるか、前記ピークの半値幅が最小となるかの、少なくともどちらか一方の条件を満たす前記直流オフセット電圧を抽出することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の質量分析装置。
  9. 前記制御部は、
    抽出された前記直流オフセット電圧に基づいて、前記直流オフセット電圧が印加される複数の前記ロッド電極間の複数の電位差を算出することを特徴とする請求項8に記載の質量分析装置。
  10. 前記制御部は、質量分析の測定に先立って、前記電位差を、前記質量数と関係付けて記憶することを特徴とする請求項7又は請求項9に記載の質量分析装置。
  11. 前記制御部は、質量分析の測定に先立って、前記直流オフセット電圧を、前記質量数と関係付けて記憶することを特徴とする請求項7又は請求項9に記載の質量分析装置。
  12. 前記制御部は、質量分析の測定に先立って、
    前記直流オフセット電圧と前記質量数の比例関係を利用し、変化させた前記質量数毎に前記直流オフセット電圧を算出し、
    複数の前記質量数毎に前記直流オフセット電圧が関係付けられたデータマップを記憶することを特徴とする請求項11に記載の質量分析装置。
  13. 前記制御部は、質量分析の測定に先立って、
    前記電位差と前記質量数の比例関係を利用し、変化させた前記質量数毎に前記電位差を算出し、
    複数の前記質量数毎に前記電位差が関係付けられたデータマップを記憶することを特徴とする請求項10に記載の質量分析装置。
  14. 前記制御部は、質量分析の測定において、
    オペレータによる指定に応じて、測定試料から生成されるイオンの前記質量数を取得し、
    前記データマップから、取得した前記質量数に関係付けられた前記電位差を読み出し、
    読み出された複数の前記電位差の条件を満たすように、前記直流オフセット電圧を算出することを特徴とする請求項13に記載の質量分析装置。
  15. 前記制御部は、質量分析の測定において、
    オペレータによる指定に応じて、測定試料から生成されるイオンの前記質量数を取得し、
    前記データマップから、取得した前記質量数に関係付けられた前記直流オフセット電圧を読み出すことを特徴とする請求項12に記載の質量分析装置。
  16. 前記制御部は、質量分析の測定において、
    オペレータによる指定に応じて、測定試料から生成されるイオンの前記質量数を取得し、
    関係付けて記憶された前記直流オフセット電圧と前記質量数を読み出し、
    前記直流オフセット電圧と前記質量数の比例関係を利用し、前記測定試料から生成されるイオンの前記質量数に対応する前記直流オフセット電圧を算出することを特徴とする請求項11に記載の質量分析装置。
  17. 前記制御部は、質量分析の測定において、
    オペレータによる指定に応じて、測定試料から生成されるイオンの前記質量数を取得し、
    関係付けて記憶された前記電位差と前記質量数を読み出し、
    前記電位差と前記質量数の比例関係を利用し、前記測定試料から生成されるイオンの前記質量数に対応する前記電位差を算出し、
    算出された複数の前記電位差の条件を満たすように、前記直流オフセット電圧を算出することを特徴とする請求項10に記載の質量分析装置。
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