JP2012077355A - 構造部材の製造方法 - Google Patents

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Yuichi Hirakawa
裕一 平川
Shuho Tsubota
秀峰 坪田
Takayuki Kurimura
隆之 栗村
Koji Oyama
宏治 大山
Keiichiro Miyajima
慶一郎 宮島
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Abstract

【課題】曲面形状を有する構造部材に対しても、母材の表面改質により強固な硬化層を形成可能な製造方法を提供する。
【解決手段】母材からなる基体53の所定の範囲にレーザLを照射して、オーステナイト逆変態が完了する温度である800℃以上かつ融点未満の温度まで加熱するレーザ照射工程と、該レーザ照射工程でレーザLが照射された基体53に対して時効熱処理を行うことにより、所定の範囲に、母材が析出硬化することで形成される硬化層54を形成する時効熱処理工程とを備える。
【選択図】図2

Description

本発明は、構造部材の製造方法に関する
蒸気タービンにおいては、蒸気を作動流体として静翼及び動翼が配された作動流路に流通させることにより、動翼にトルクを与えてロータを回転させる。このため、作動流路内に配される静翼や動翼などの構造部材は、稼動中常に蒸気に曝される環境となっており、必要に応じて蒸気によるエロージョンを防止する対策が施されている。特に、最終段翼が配される下流側の蒸気は、温度が上流側と比較して低く、水滴が含まれる湿り蒸気となりやすいため、エロージョンの原因となりやすい。また、最終段の動翼では、上流側の動翼と比較して翼高さが高くなり、それ故に外周側においては周速が高くなって、よりエロージョンが発生しやすい条件となっている。
蒸気タービンの翼のエロージョン対策としては、翼のエロージョンが発生しやすい翼前縁部に、母材よりも耐エロージョン性に優れる材料、例えばステライトをロウ付け、溶射または溶接する対策が知られている。また、電子ビームを照射することで、当該部位に異種材料の微粒子を溶融させて表面改質する方法も示されている(例えば、特許文献1参照)。
特開2009−191733号公報
しかしながら、長時間の使用に伴ってエロージョンを受ける範囲が広がり、上記対策を施した翼前縁部以外の周囲(例えば、シュラウド付根部近傍)にまでエロージョンが及ぶことがある。シュラウド付根部は曲面形状を有しており、従来技術のステライトをロウ付けする方法では、複雑な表面形状では板の成型や施工が困難である。また、溶射や電子ビーム照射による異種材料の肉盛では、複雑な表面形状の部分での応力集中に対して必ずしも十分な密着力を得るのが困難である。さらに、溶接による肉盛では、局所的に大きな熱量が付与されることによる熱変形の問題が懸念される。このため、異種材料を用いたエロージョン防止技術では、シュラウド付根部のような曲面形状に対する補修技術としては課題があり、密着力の観点からは母材の表面改質が望ましく、所定の範囲を効果的に硬化させて翼を継続使用させられる方法が望まれていた。
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、曲面形状を有する構造部材に対しても、母材の表面改質により強固な硬化層を形成可能な製造方法を提供するものである。
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の構造部材の製造方法は、母材からなる基体の所定の範囲にレーザを照射して、オーステナイト逆変態が完了する温度である800℃以上かつ融点未満の温度まで加熱するレーザ照射工程と、該レーザ照射工程でレーザが照射された基体に対して時効熱処理を行うことにより、前記所定の範囲に、母材が析出硬化することで形成される硬化層を形成する時効熱処理工程とを備えることを特徴とする。
この方法では、レーザ照射工程として、基体の所定の範囲にレーザを照射することによって、所定の範囲ではオーステナイト逆変態が完了する温度である800℃以上かつ融点未満の温度まで加熱され溶体化する。次に、時効熱処理工程として、時効熱処理を行うことで、溶体化した所定の範囲では、母材が析出硬化し硬化層が形成されることとなる。また、加熱する手段をレーザとすることにより、所定の範囲を限定的にかつ均一に加熱することができ、加熱よる歪等が基体に生じてしまうことを抑制することができる。このため、構造部材に対して、母材の表面改質により強固な硬化層を形成可能である。
また、上記の構造部材の製造方法において、前記母材が析出硬化ステンレス鋼であり、前記時効熱処理工程では、硬化層を形成する部分の温度を470℃とし、保持時間を1時間として時効熱処理を行うことを特徴としている。
この方法では、上記条件で時効熱処理を行うことにより、より強固な硬化層が形成されることとなる。
また、上記の構造部材の製造方法において、前記レーザ照射工程では、前記硬化層の目標とする深さに応じて、前記レーザの出力を照射速度で除した値を調整することを特徴とする。
この方法では、レーザの出力を照射速度で除した値を調整することによって硬化層の深さを目標とする深さに正確に形成することができる。
また、上記の構造部材の製造方法において、前記レーザ照射工程の前工程として、前記基体の前記所定の範囲に対して表面形状の測定を行う表面形状測定工程を備えることを特徴とする。
この方法では、表面形状測定工程として、基体の所定の範囲に対して表面形状を測定することで、レーザ照射工程では、測定した表面形状に倣って正確にレーザを照射することができる。このため、所定の範囲において、所望の条件で正確に加熱することができる。
また、上記の構造部材の製造方法において、前記構造部材はタービンの翼体であり、 前記所定の範囲は、該翼体の前縁部の一部であることを特徴としている。
この方法では、タービンの翼体において、作動流体に曝され、エロージョンが発生しやすい前縁部の一部を所定の範囲としてレーザ照射工程及び時効熱処理工程を実施することで、耐エロージョン性の高い翼体を製造することができる。
また、上記の構造部材の製造方法において、前記翼体は、翼本体と、該翼本体の端部に設けられたシュラウドとを有し、前記所定の範囲は、前記翼体の前記前縁部で、前記シュラウドとの接続部分を含むことを特徴としている。
この方法では、翼本体とシュラウドとの接続部分を含んで所定の範囲として、レーザ照射工程及び時効熱処理工程を実施し、硬化層を形成する。ここで、翼本体とシュラウドとの接続部分は一般に複雑な表面形状を有している。しかしながら、本方法では、レーザを照射し、その後時効熱処理を実施するだけであるので、複雑な表面形状であっても他の範囲と同様に正確に硬化層を形成することができる。
本発明の構造部材の製造方法では、構造部材に、より強固な硬化層を形成することができる。
本発明の実施形態の動翼を備えた蒸気タービンを示す概略構成図である。 本発明の実施形態の蒸気タービンの最終段動翼群を内周側から外周側を視た斜視図である。 本発明の実施形態の蒸気タービンの最終段動翼群を外周側から内周側を視た平面図である。 本発明の実施形態の動翼を製造する製造装置の概略構成図である。 本発明の実施例において、供試体における硬化層のビッカース硬さHVと、レーザの出力・照射速度比の関係を示すグラフである。 本発明の実施例において、供試体の硬化層の深さと、レーザの出力・照射速度比の関係を示すグラフである。 本発明の実施例において、供試体の硬化層におけるエロージョン深さと、ビッカース硬さHVとの関係を示すグラフである。
本発明の実施形態について図1から図7を参照して説明する。図1から図3は、本実施形態の構造部材の製造方法で製造される動翼を備えた蒸気タービンを示している。
蒸気タービン1は、ケーシング10と、ケーシング10に流入する蒸気Jの流量と圧力を調整する調整弁20と、ケーシング10の内方に回転自在に設けられ、動力を不図示の発電機等の機械に伝達する軸体(ロータ)30と、ケーシング10に保持された翼体である静翼40と、軸体30に設けられた翼体である動翼50と、軸体30を軸回りに回転可能に支持する軸受部60とを備えている。
ケーシング10は、内部空間が気密に封止されているとともに、静翼40及び動翼50が配される内部が作動流体である蒸気Jの作動流路10Aとされている。このケーシング10の内壁面には、軸体30が挿通されたリング状の仕切板外輪11が強固に固定されている。
軸体30は、軸本体31と、この軸本体31の外周から径方向に延出した複数のディスク32とを備えている。この軸体30は、不図示の発電機等の機械に回転エネルギーを伝達するようになっている。
静翼40は、軸体30を囲繞するように放射状に複数配置されて環状静翼群を構成しており、それぞれ仕切板外輪11に保持されている。これら静翼40の径方向内側(先端側)には、軸体30が挿通されたリング状のハブシュラウド41で連結されている。また、複数の静翼40からなる環状静翼群は、回転軸方向に間隔をあけて6段設けられている。環状静翼群は、蒸気Jの圧力エネルギーを速度エネルギーに変換し、下流側に隣接する動翼50側に案内するようになっている。
また、動翼50は、軸体30が有するディスク32の外周部に強固に取り付けられている。動翼50は、各環状静翼群の下流側において、放射状に複数配置されて環状動翼群を構成している。複数の静翼40からなる環状静翼群は、回転軸方向に間隔をあけて6段設けられている。このうち、最終段における動翼50は、断面翼形状をした翼本体51を備えるとともに、翼本体51の先端に設けられたシュラウド52を備える。
図2及び図3に示すように、翼本体51は、蒸気Jから正圧が作用する正圧面51aと、蒸気Jから正圧面51aに対して相対的に負圧が作用する負圧面51bとを有する。また、シュラウド52は、翼本体51の前縁51c側で、負圧面51b側に張り出す前縁張出部52aと、翼本体51の後縁51d側で、正圧面51a側に張り出す後縁張出部52bとを有する。そして、隣り合う動翼50A同士は、互いのシュラウド52の一方の前縁張出部52aが、他方の後縁張出部52bに当接することで、互いに連結されている。また、本実施形態の動翼50Aでは、前縁51c側には、負圧面51b側において、翼本体51とシュラウド52の前縁張出部52aとが接続される部分として凹面50aが前縁51c側に向くように形成されている。
ここで、翼本体51及びシュラウド52からなる最終段の動翼50Aは、母材からなり翼本体51及びシュラウド52を概略形成する基体53と、基体53の一部に形成された硬化層54とを有する。基体53を形成する母材としては、12%クロム鋼、析出硬化ステンレス鋼、チタン合金など様々な材質が選択されるが、強度および耐食性に優れる析出硬化ステンレス鋼のうち、例えば17−4PH(SUS630)が好ましい。
また、硬化層54は、基体53を形成する母材が、後述する製造方法により析出硬化することで形成されるものである。また、硬化層54は、基体53の表面から所定の深さまで形成されている。また、硬化層54の表面上の範囲は、前縁51c先端側において、翼本体51とシュラウド52の凹面50aを含む範囲として設定されている。なお、選択される範囲としては、特に制限はなく、エロージョン対策を必要とする範囲に適宜設定することが可能である。また、硬化層54の硬さとしては、ビッカース硬さHVで450以上であることが好ましい。450以上であることで、効果的に耐エロージョン性を発揮することができる。また、硬化層54の深さとしては、ビッカース硬さHV450以上となる範囲で100μm以上であることが好ましい。100μm以上であることで効果的に長期の使用に耐えうる耐エロージョン性を発揮することができる。
次に、このような動翼50Aを製造する方法の詳細について説明する。具体的には、まず、基体形成工程として、母材から所望の形状の基体53を形成する。本実施形態では、例えば、鍛造により、翼体51及びシュラウド52の外形をなす基体53が形成される。なお、基体53を形成する方法は限定されるものではなく、例えば鋳造などでも良く、さらに切削等の機械加工を組み合わせても良い。
次に、表面形状測定工程として、上記硬化層54を形成する範囲について表面形状を測定する。表面形状の測定方法としては特に限定されるものではなく、例えばマイクロメータを基体53の表面上に操作させて表面形状を測定するような接触式でも良いし、基体53を撮像して画像処理を行うことで表面形状を測定するような非接触式の測定方法でも良い。
次に、レーザ照射工程として、上記硬化層54を形成する範囲についてレーザを照射して加熱し、基体53を溶体化させる。加熱に際しては、オーステナイト逆変態が完了する温度である800℃以上かつ融点未満の温度まで加熱され溶体化することが好ましい。
また、レーザの出力を照射速度で除した値である出力・速度比と、形成された硬化層54の深さとの間には相関性があり、形成する硬化層54に応じて、出力・速度比を決定し、出力・速度比に基づいてレーザの出力と照射速度とを設定する。
次に、時効熱処理工程として、レーザが照射された基体53を一定温度で保持し、時効熱処理を行う。時効熱処理の時間及び温度条件としては、基体53を形成する母材によって異なる。
例えば、析出硬化ステンレス鋼17−4PHでは、硬化層54を形成する部分の温度を470℃とし、保持時間を1時間として時効熱処理を行うことにより最高硬さを得ることが好ましい。
なお、加熱する手段としては特に限定されないが、ヒータや高周波加熱器による加熱が局所的な温度上昇を抑制し均一に加熱できる点で好ましい。そして、このように時効熱処理を行うことで、レーザが照射された範囲においては、母材が析出硬化して硬化層54が形成されることとなる。また、本レーザ照射後の時効温度は、母材製作時の時効温度よりも十分低いため、翼全体を加熱してレーザ照射後の時効処理を行っても良い。
なお、上記においては、新規の動翼50Aを製造するものとして説明したが、これに限るものではなく、既設の動翼50について、エロージョン対策を施す必要がある部位に硬化層54を形成して耐エロージョン性が向上した新たな動翼50を製造するものとしても良い。この場合には、上記基体形成工程は不要であり、基体形成工程後の工程から行えば良い。また、この場合、レーザ照射工程の前工程として、表面処理工程を実施しても良い。具体的には、表面形状測定工程に先立って、表面処理工程として、硬化層54を形成する範囲についてグラインダーで研磨処理を行うなどにより、表面を平滑化させる。そして、表面処理が施された範囲について表面形状測定工程で表面形状を測定し、測定された結果に基づいてレーザ照射工程及び時効熱処理工程を実施すれば良い。
次に、上記製造方法において、基体形成工程よりも後工程を実現する製造装置の一例について図4に基づいて説明する。
図4に示すように、製造装置100は、動翼50などの被加工物Wが載置される載置台101と、載置台101を囲むように設けられたシールド102と、レーザLを発振し、載置台101に載置された被加工物Wに向かって照射するレーザ発振器103と、レーザ発振器103から発振されたレーザLの照射方向を設定するビーム走査手段104と、載置台101に載置された被加工物Wの表面形状を測定する表面形状測定手段105と、被加工物Wに加熱を行う加熱手段106と、各構成を制御する制御部107と、各種条件を入力可能な入力部108とを備える。ここで、図4において、X方向及びY方向は互いに直交する水平方向を示しており、Z方向は鉛直方向を示している。
入力部108で入力する各種条件としては、例えば、被加工物Wにおける硬化層54を形成する表面上の範囲を示し、X方向の位置及びY方向の位置で特定される2次元データや、硬化層54の深さなどが挙げられる。レーザ発振器103は、制御部107の制御に基づいて所望の出力でレーザLを発振させることが可能である。
ビーム走査手段104は、図示しないが、レーザLの照射方向を設定するための反射ミラーと、レーザLの焦点位置を設定するためのレンズとを備える。レンズ位置及び反射ミラーの角度は、制御部107により制御されており、これにより、被加工物Wに対して所望の位置に所望の照射面積で、また、所望の照射速度で照射することが可能となっている。
表面形状測定手段105は、マイクロメータからなり、Z方向の位置を測定可能な表面位置測定部105aと、表面位置測定部105aをX方向及びY方向に走査する走査部105bとを有する。走査部105bは、制御部107による制御のもと表面位置測定部105aを所定の位置に移動させる。また、表面位置測定部105aで測定された測定情報であるZ方向の位置は、制御部107に出力される。制御部107では、測定情報として取得されたZ方向の位置と、走査部105bによって制御された表面位置測定部105aのX方向及びY方向の位置に基づいて、3次元の表面形状データを構築する。
また、加熱手段106は、電源106aと、電源106aに接続されたヒータ106bと、ヒータ106bをX方向、Y方向及びZ方向に走査するヒータ移動部106cと、被加工物Wの表面に設置されて被加工物Wの表面温度を測定する温度センサ106dとを備える。温度センサ106dで検出された温度情報は、制御部107に出力される。制御部107では、取得した温度情報に基づいて、予め設定された温度となるように電源106a出力を制御し、ヒータ106bによる加熱温度を調整する。
このような製造装置100によれば、表面形状測定工程においては、制御部107による制御のもと、表面形状測定手段105によって被加工物Wの形状を測定することができる。また、レーザL照射工程では、制御部107は、取得した3次元の表面形状データに基づいて、被加工物Wの各照射位置における適切な焦点位置を調整しつつ、所定の出力及び照射速度でレーザLを、硬化層54を形成する範囲全体にわたって照射することができる。なお、出力及び照射速度については、例えば、予め対象となる被加工物Wの母材の材質に基づいて決定される硬化深さと、レーザLの出力・速度比との関係を記憶しておき、当該関係と入力部108で入力された硬化深さに基づいて、レーザLの出力・速度比を決定し、レーザLの出力と照射速度を設定するものとしても良い。
また、時効熱処理工程では、制御部107は、加熱手段106のヒータ移動部106cを制御して、硬化層54を形成する範囲にヒータ106bを移動させる。そして、制御部107は、温度センサ106dから取得した温度情報に基づいて、電源106aを制御し、ヒータ106bによって所定温度で、所定時間加熱を行う。なお、加熱温度や加熱時間は、上記のとおり母材の材質よって異なり、予め記憶されているものしても良いし、入力部108によって指定されるものでも良い。
次に、蒸気タービンの動翼50の材質として好適に使用される析出硬化ステンレス鋼17−4PHからなる供試体に、上記製造方法により硬化層54を形成した場合の実施例について説明する。
本実施例では、析出硬化ステンレス鋼17−4PHからなる供試体に、所定の条件にてレーザ照射工程及び時効熱処理工程を実施し、各条件において形成された硬化層54の深さ、ビッカース硬さ、耐エロージョン性について評価を行った。本実施例で使用したレーザはディスクレーザで波長1030nmであるが、他の種類のレーザを用いても条件調整可能であり、これに限定されるものではない。
表1は、各実施例での、レーザLの出力、レーザLの照射速度、形成された硬化層54の深さ及びビッカース硬さHVを示している。
Figure 2012077355
ここで、ビッカース硬さHVは、マイクロビッカース測定機(JIS Z 2244に準拠)で試験力0.4903Nで測定した。また、硬化層54の深さは、深さ方向にビッカース硬度を測定する位置を25μm単位で変化させ、ビッカース硬度HVが450以下にまで著しく低下するまでの範囲を深さとした。また、時効熱処理工程における条件は、加熱温度470℃、加熱時間1時間で、その後空冷によって常温まで下げるものとして一定とした。
図5は、表1に示す試験結果についてレーザLの出力・速度比と硬化層54のビッカース硬さとの関係を示したグラフである。図5に示すように、レーザLの照射条件(出力、照射速度)に係らず、ビッカース硬さHVが450以上となった。
図6は、表1に示す試験結果についてレーザLの出力・速度比と硬化層54の深さとの関係を示したグラフである。図6に示すように、レーザLの出力・速度比(P/V)(W/(m/min))と硬化層54の深さH(μm)との間には相関性を有することが明らかとなった。本実施例のように析出硬化ステンレス鋼17−4PHでは、両者の相関式は以下の<数1>とおりとなった。
Figure 2012077355
このため、当該相関式に基づいてレーザLの照射条件(出力、照射速度)を決定することで、所望の深さの硬化層54を形成することができる。
次に、析出硬化ステンレス鋼17−4PH母材に各々の条件の時効処理を施し、硬さを変化させた各試験片の耐エロージョン性を評価した結果を表2及び図7に示す。なお、比較例は、母材従来条件の硬さにおける耐エロージョン性を評価した結果を示す。
Figure 2012077355
耐エロージョン性は、ウォータジェット法により、エロージョンを発生させその深さを測定することによる。
ウォータジェット法とは、具体的には、平板の試験片に高圧水を高速で所定の時間照射して、平板の減肉量を加速条件にて比較評価する手法である。本試験におけるウォータジェット試験条件は、噴射時間5min、ノズル径0.3mm、ノズルと試験片の距離30mm、水圧700気圧にて実施した。
また、エロージョン深さは、表面形状(粗さ)測定により最深部のエロージョン深さを測定した。
図7に示すように、ビッカース硬さHVとエロージョン深さとは、線形の相関性を有している。そして、ビッカース硬さHVが450以上の場合には、エロージョン深さが、析出硬化ステンレス鋼17−4PHである母材従来条件に対して1/2以下となり、すなわち耐エロージョン性が2倍以上に向上したことが確認できる。
以上のように、本実施形態の製造方法で、硬化層54を有する動翼50Aを製造することにより、耐エロージョン性を向上させた動翼50Aを得ることができる。ここで、加熱する手段をレーザLとすることにより、所定の範囲を限定的にかつ均一に加熱することができ、加熱よる歪等が基体53に生じてしまうことを抑制することができる。また、加熱する手段をレーザLとすることにより、硬化層54を形成する範囲が、翼本体51とシュラウド52との接合部分のように、表面の位置及び向きが変化する複雑な表面形状でも、正確に同じ条件で加熱することができる。また、硬化層54を形成する範囲以外を不必要に加熱してしまうことを防止できる。
また、上記のとおり、硬化層54を形成する部分の温度を470℃とし、保持時間を1時間として時効熱処理を行うことで、最高硬さを有する硬化層54が形成することができる。
さらに、レーザLの出力・速度比を調整することによって硬化層54の深さを目標とする深さに正確に形成することができる。
また、表面形状測定工程として、基体53の所定の範囲に対して表面形状を測定することで、レーザ照射工程では、測定した表面形状に倣って正確にレーザLを照射することができる。このため、所定の範囲において、所望の条件で正確に加熱することができ、所望の範囲に、所望の深さの硬化層を正確に形成することができる。
なお、上記においては、最終段の動翼50Aに硬化層54を形成するものとして説明したが、これに限るものではなく、上流側の動翼50にも適用可能である。また、動翼50に限らず、静翼40やその他作動流路に面し、蒸気に曝されることでエロージョン対策を必要とする構造部材に好適に適用可能である。また、蒸気タービンの構造部材に限らず、ガスタービンやその他、様々な耐エロージョン対策を必要とする装置の構造部材に好適に適用可能である。
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
40 静翼(翼体、構造部材)
50、50A 動翼(翼体、構造部材)
51 翼本体
52 シュラウド
53 基体
54 硬化層
L レーザ

Claims (6)

  1. 母材からなる基体の所定の範囲にレーザを照射して、オーステナイト逆変態が完了する温度である800℃以上かつ融点未満の温度まで加熱するレーザ照射工程と、
    該レーザ照射工程でレーザが照射された基体に対して時効熱処理を行うことにより、前記所定の範囲に、母材が析出硬化することで形成される硬化層を形成する時効熱処理工程とを備えることを特徴とする構造部材の製造方法。
  2. 請求項1に記載の構造部材の製造方法において、
    前記母材が析出硬化ステンレス鋼であり、
    前記時効熱処理工程では、硬化層を形成する部分の温度を470℃とし、保持時間を1時間として時効熱処理を行うことを特徴とする構造部材の製造方法。
  3. 請求項1または請求項2に記載の構造部材の製造方法において、
    前記レーザ照射工程では、前記硬化層の目標とする深さに応じて、前記レーザの出力を照射速度で除した値を設定することを特徴とする構造部材の製造方法。
  4. 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の構造部材の製造方法において、
    前記レーザ照射工程の前工程として、前記基体の前記所定の範囲に対して表面形状の測定を行う表面形状測定工程を備えることを特徴とする構造部材の製造方法。
  5. 請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の構造部材の製造方法において、
    前記構造部材はタービンの翼体であり、
    前記所定の範囲は、該翼体の前縁部の一部であることを特徴とする構造部材の製造方法。
  6. 請求項5に記載の構造部材の製造方法において、
    前記翼体は、翼本体と、該翼本体の端部に設けられたシュラウドとを有し、
    前記所定の範囲は、前記翼体の前記前縁部で、前記シュラウドとの接続部分を含むことを特徴とする構造部材の製造方法。
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