JP2012062539A - 低摩擦摺動部材 - Google Patents

低摩擦摺動部材 Download PDF

Info

Publication number
JP2012062539A
JP2012062539A JP2010208696A JP2010208696A JP2012062539A JP 2012062539 A JP2012062539 A JP 2012062539A JP 2010208696 A JP2010208696 A JP 2010208696A JP 2010208696 A JP2010208696 A JP 2010208696A JP 2012062539 A JP2012062539 A JP 2012062539A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
carbon
layer
friction
self
base material
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Granted
Application number
JP2010208696A
Other languages
English (en)
Other versions
JP5689634B2 (ja
Inventor
Kanji Aoki
寛治 青木
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Air Water Inc
Original Assignee
Air Water Inc
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Air Water Inc filed Critical Air Water Inc
Priority to JP2010208696A priority Critical patent/JP5689634B2/ja
Publication of JP2012062539A publication Critical patent/JP2012062539A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP5689634B2 publication Critical patent/JP5689634B2/ja
Expired - Fee Related legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Landscapes

  • Solid-Phase Diffusion Into Metallic Material Surfaces (AREA)

Abstract

【課題】工業材料としては安価で量産可能な方法により鋼の表面に炭素の拡散浸透層を形成することで、鉄鋼材料を基材として密着性を確保した表面層を形成し、低摩擦性、耐摩耗性、耐焼付き性、なじみ性等の特性を具備し、無潤滑で摩擦係数を0.1近傍まで低減した耐久性のある自己潤滑性低摩擦摺動部材を提供する。
【解決手段】Cr、W、V、Nb、Moのうち少なくとも1つ以上の炭化物生成元素の含有量が4.5重量%未満である炭素鋼もしくは低合金鋼を基材とし、上記基材の表面に、粒状あるいは群島状に析出した鉄炭化物とその間を埋めるように存在する遊離炭素とを含んでなる表面層を形成することにより、摩擦に対する耐性が高くなるうえ、それらの間を埋めるように存在する遊離炭素の固体潤滑効果により、優れた摺動特性を発揮する。
【選択図】なし

Description

本発明は、固体潤滑層が摺動面に形成されて摩擦係数が小さく、摺動特性を向上させた自己潤滑性低摩擦摺動部材に関するものである。
従来から、例えば軸受けやベーン等のように機械装置における摺動部材に対しては、金属材料に潤滑性あるいは低摩擦性を発揮する表面層を形成させた摺動部材が用いられてきた。
このような潤滑性あるいは低摩擦性の表面層を形成させる方法としては、(1)固体潤滑剤のコーティング、(2)PVDやCVDによる低摩擦コーティング、(3)浸硫処理、(4)リン酸マンガン処理、(5)めっき、(6)固体潤滑ショット処理、等の処理が行われている。
(1)固体潤滑剤のコーティング
この方法は、例えば、二硫化モリブデン、四フッ化エチレン樹脂、酸化スズ等の固体潤滑剤をバインダー樹脂に分散して塗布することが行なわれている(例えば下記の特許文献1)。
(2)PVDやCVDによる低摩擦コーティング
この方法は、摩擦係数の低い素材であるDLCをコーティングする方法が行なわれている。あるいは二硫化モリブデンをスパッタで皮膜生成させてコーティングする方法が考案されている。
(3)浸硫処理
この方法は、大別して2種類の方法がある。一つは電解浸硫処理であり、溶融塩の中で部品を陽極として電解処理し、硫化鉄FeSを表面に形成する。もう一つは浸硫窒化法で、塩浴、ガス、プラズマを使った方法が工業化されている。硫化物と窒化物の多孔質の化合物層を表面に形成し、窒素による拡散層を母材に形成する。化合物層の厚さは5〜15μmのものが利用されている。
(4)リン酸マンガン皮膜処理
リン酸マンガン皮膜は、他の化成皮膜に比べて硬く、皮膜全体が剥離することもないため、主に鉄製品の回転摺動をはじめとする耐摩耗性を要する製品に用いられている。この方法は化学処理であるため、複雑形状品でも均一な2〜15μm厚さの皮膜を形成させることができる。処理温度が低いため材質の変化が少ないという利点がある。
(5)めっき
摺動性めっきとして、硬さを重視するものは耐摩耗性めっきと同様に硬質クロムめっき、無電解ニッケルめっきが利用されている。また、自己潤滑性を持たせるめっきとして、銅、ニッケル、銀めっきを基材とし、PTFE、グラファイト、二硫化モリブデン、窒化ホウ素等の固体潤滑剤を分散させたコンポジットめっきが行なわれている。また、摩擦を低減するためのめっきとして、銅鉛合金めっき、鉛めっき、はんだめっき等が行なわれている。また、かじり付を防止するめっきとして、銀めっき、カドミウムめっき、ニッケルめっき、錫めっき、鉛めっき、銅めっき等が行なわれている。
(6)固体潤滑ショット処理
二硫化モリブデンや黒鉛等の固体潤滑剤をショット処理することにより、金属表面に固体潤滑皮膜を形成することが行なわれている。
図1に示すように、一方では、低摩擦を実現する層構成として、硬質基板にせん断抵抗の小さい軟質薄膜を表面に形成する方法が知られている。すなわち、硬質基板が荷重を分担し、表面の軟質薄膜でせん断が生じる。このモデルでは、接触面積Aは硬質基板の剛性により小さくなり、軟質薄膜のせん断抵抗Sが小さいために摩擦力F=ASが低減できる。
(7)上記のように、硬質基板の上に軟質な表面層が積層された構造の例として下記の公知技術がある。例えば、特開平2−221714(下記の特許文献4)には、TiCコーティング層の上に層状固体潤滑剤層を形成した複層構造の固体潤滑軸受けが開示されている。さらに、特開平3−162563(下記の特許文献5)には、摺動面に耐摩耗性に優れた耐摩耗性層を形成し、この耐摩耗性層の表面に、耐摩耗性層よりも軟質な耐焼付性層を形成した複層構造の摺動部品が開示されている。さらにまた特開平5−52265(下記の特許文献6)には、摺動面に耐摩耗性に優れた硬質クロムメッキ層を形成し、この硬質クロムメッキ層の表面に軟質合金めっき層を形成した複層構造のピストンリングが開示されている。
(8)さらにまた上記開示例の問題点を解決する層構成として、特開2001−140057(下記の特許文献7)には、固体潤滑層に硬質成分を含ませて固体潤滑剤層の耐久性を確保した自己潤滑摺動材料が開示されている。
特許第2818226号 国際公開WO2002/040743 特開2007−131884号 特開平2−221714号 特開平3−162563号 特開平5−52265号 特開2001−140057号
しかしながら、上記各方法には、それぞれつぎのような問題がある。
(1)固体潤滑剤をバインダ樹脂に塗布する方法では、バインダ樹脂中に固体潤滑剤が混ざっていることから、潤滑に寄与する固体潤滑剤の絶対量がそれほど多くなく、固体潤滑剤自体の潤滑機能を十分に発揮できるものではない。また、バインダ樹脂の塗装によって皮膜を形成するため、塗膜の厚みだけ部材の寸法が変わってしまううえ、皮膜厚みの管理が極めて困難である。さらに、皮膜の特性上、皮膜の剥離が起こりやすく、潤滑材の機能を長時間維持することができずに寿命が短いという問題もある。
(2)PVDやCVDによる低摩擦コーティングについては、以下の問題がある。DLCコーティングは現状ではまだ極めて高価であるうえ、剥離の問題があり信頼性に懸念が残り、自動車部品等の信頼性が要求される分野での適用は極めて限定的である。しかも、複雑形状品や孔部のように凹んだ場所への均一なコーティングが困難で、適用できる部材形状にも制約がある。また、スパッタリングによる二硫化モリブデンのコーティングに至っては、実験室レベルでは試行されているものの、現在までのところ実用化されていないのが実情である。
(3)浸硫処理は、親油性(油のぬれ性)は良好で多孔質なため、油膜保持性が良いので油潤滑下においては有効で、硫化物の作用により耐焼付き性には有効であるが、それ自身の摩擦係数は0.3〜0.5の範囲であり、無潤滑下で低摩擦係数が要求される分野に適用はできない。
(4)リン酸マンガン皮膜は、比較的硬い化成皮膜を形成するため、金属同士の直接接触を防止する目的で利用され、初期なじみは向上するが、摩擦係数を下げる効果はなく、摺動には基本的に潤滑油を必要とする。
(5)各種めっき処理は、電気化学的処理の場合は部材形状に制約が生じ、コンポジットめっきでは、固体潤滑剤自体の潤滑機能を十分に発揮できるものではない。また、皮膜の特性上、皮膜剥離が起こりやすく、潤滑材の機能を長時間維持することができず、寿命が短いという問題もある。
(6)固体潤滑ショット処理は、二硫化モリブデンのショットが内燃機関用ピストンの初期なじみ向上用途が提案されている(上記特許文献2)。しかしながら、表面に形成された微細なディンプルをオイルプールとして機能させることによって潤滑性を維持するものであり、乾式摩擦条件下における固体潤滑性能は期待できない。
その他、熱処理分野では、窒化層を介してカーボンナノコイル、カーボンナノチューブ、カーボンナノフィラメントなどを含む炭素膜を被覆した低摩擦摺動部材が報告されている(上記特許文献3)。この炭素膜の摩擦係数は、0.2〜0.3に留まり、窒化に比べると摩擦係数は小さいものの、DLCほどの低摩擦係数のものは得られていない。
以上に述べたように、浸硫窒化層は安価で量産可能であるが、窒化層に比べても摩擦係数がさほど小さくないので低摩擦摺動部材としての使い方は適切でない。また、DLCや二硫化モリブデンなどのコーティングでは摩擦係数は低いものの量産性、信頼性やコストの面で不利である。このように、摩擦係数が0.1近傍となる自己潤滑性皮膜の低摩擦材で、安価で量産可能なものは現在のところ実用例がないのが実情である。
一方、上述した(7)の公報技術(特許文献4および特許文献5)は、層状固体潤滑剤層はせん断力に対して弱いため、激しい環境下において層状固体潤滑層は過剰に剥離してしまい、摩滅し易い傾向を示し、長期にわたる優れた潤滑性能を期待することができない。
上述した(7)を解決するものである(8)の固体潤滑層に硬質成分を含ませて固体潤滑剤層の耐久性を確保した自己潤滑摺動材料は、二硫化モリブデンやグラファイトの固体潤滑剤層をPVDやCVDで形成しており、この層にチタンやクロムを硬質成分として混ぜている。しかし、これらは基本的に(2)と同様に剥離や信頼性に問題が残り、層の種類が異なるのみでこれらの欠点を本質的に解決したものではない。
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、鉄鋼材料を基材とした低摩擦性、耐摩耗性、耐焼付き性、なじみ性等の特性を具備した自己潤滑性低摩擦摺動部材を提供することを目的とする。具体的には、鋼の表面に、工業材料として安価で量産可能な方法で炭素の拡散浸透層を形成することにより、密着性に優れ、無潤滑で摩擦係数を0.1近傍まで低減した耐久性のある自己潤滑性低摩層を形成した摺動部材を提供する。
上記課題を解決するために、本発明者は、セメンタイト(FeC)が熱力学的に準安定物質であり、350〜700℃の低温度域で浸炭雰囲気にさらされると、黒鉛と金属鉄(Fe)に分解して遊離炭素が生じるという学理に着目し、これを固体潤滑層の形成に応用することを着想した。これを工業的に応用すべく種々の試作と検討を繰り返し、ついに、基材である鋼の表面に、粒状に析出した鉄炭化物、鉄酸化物、金属鉄とその間を埋めるように存在する遊離炭素とを含んでなる表面層は、無潤滑で摩擦係数が0.1近傍まで低減した耐久性のある自己潤滑性低摩擦摺動層であることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の自己潤滑性低摩擦摺動部材は、Cr、W、V、Nb、Mo、Mn、Tiのうち少なくとも1つ以上の炭化物生成元素の含有量が4.5重量%未満である炭素鋼もしくは低合金鋼を基材とし、
上記基材の表面に、粒状あるいは群島状に析出した鉄炭化物と、その間を埋めるように存在する遊離炭素とを含んでなる表面層が形成されていることを要旨とする。
本発明の自己潤滑性低摩擦摺動部材は、Cr、W、V、Nb、Mo、Mn、Tiのうち少なくとも1つ以上の炭化物生成元素の含有量が4.5重量%未満である炭素鋼もしくは低合金鋼を基材とし、上記基材の表面に、粒状あるいは群島状に析出した鉄炭化物と、その間を埋めるように存在する遊離炭素とを含んでなる表面層が形成されている。
このため、表面には硬質の鉄炭化物が多量に粒状に析出し、この鉄炭化物と遊離炭素という新規な構成体の表面層は、摩耗に対する耐性が高くなるうえ、鉄炭化物の間を埋めるように存在する遊離炭素の固体潤滑効果により摩擦係数が著しく低くなる。この遊離炭素は鉄炭化物の分解によって生成するため基材と強固に結合している。また、炭素拡散浸透層が基材との間に形成されているので、自己潤滑性を付与する遊離炭素を含む表面層と基材の密着性はPVDやCVD等で形成された層よりも強固になる。さらに、摺動初期において固体潤滑剤である遊離炭素が相手材に移着し、基材側の固体潤滑性を有する表面層との摺動になるので摩擦係数が一段と低下し、耐摩耗性、なじみ性、耐焼付き性が大幅に向上する。このように、表面には硬質の鉄炭化物が粒状あるいは群島状に析出していることから、摩擦に対する耐性が高くなるうえ、それらの間を埋めるように存在する遊離炭素の固体潤滑効果により、優れた摺動特性を発揮する。
さらに、上記基材は、Cr、W、V、Nb、Mo、Mn、Tiのうち少なくとも1つ以上の炭化物生成元素の含有量が4.5重量%未満であるため、
炭化物生成元素が4.5重量%未満で炭化物の生成が少ない分、鉄炭化物が良好に形成され、上記表面層の耐久性が確保される。基材中の炭化物生成元素量が多くて炭化物が多く生成すると、鉄炭化物が十分形成されず、鉄炭化物中にそれ以外の炭化物が混在する構造となり、層の耐久性が低下すると考えられるからである。
本発明において、上記表面層の下の基材に炭素拡散浸透層が形成され、炭素拡散浸透層の表面側に鉄炭化物を含んでいる場合には、
炭素拡散浸透層は、基材中に炭素原子が侵入固溶しているため、基材を構成する鉄原子の格子に歪が生じ、転位のすべりを抑制して強度アップが図られる。また、炭素拡散浸透層の表面側に鉄炭化物を含んでいることから、炭素拡散浸透層は表面側においてより強度が高くなる。このため、硬質の基材が荷重を分担して密着性が良好になるとともに、表面層のせん断抵抗が小さくなって摩擦力が低減する。
本発明において、上記基材には、上記表面層の下に調質、窒化処理、浸炭焼入れ、高周波焼入れ、析出硬化処理、時効硬化処理を行った硬化層が形成されている場合には、
上記硬化層が荷重を分担して密着性が良好になるとともに、表面層のせん断抵抗が小さくなって摩擦力が低減する。また、特に、窒化層では、クロムを含む基材中のクロムが窒化クロムを生成することにより消費されるため、結果的に基材表層部に固溶するクロムの量が少なくなるため、クロム炭化物の生成が少なくなる分、鉄炭化物が良好に形成され、上記表面層の耐久性が確保される。基材中のクロム量が多くてクロム炭化物が多く生成すると、鉄炭化物が十分形成されず、鉄炭化物中にクロム炭化物が混在する構造となり、層の耐久性が低下すると考えられるからである。
本発明において、上記表面層は、炭素濃度(重量%)をC、Fe濃度(重量%)をF、表面からの距離(μm)をX、Xとしたとき、CとFは、それぞれ下記の(式A)と(式B)の範囲内であり、かつ(式C)の関係を満たす場合には、
硬質の鉄炭化物が多量に粒状に析出した鉄炭化物と遊離炭素を含む表面層が効果的に現出し、粒状あるいは群島状に析出した硬質の鉄炭化物により摩擦に対する耐性が高くなり、それらの間を埋める遊離炭素の固体潤滑効果により、優れた摺動特性を発揮する。
(100−20X)≧C≧(40−80X)…(式A)
(60+80X)≧F≧(0+20X)…(式B)
ただし 0≦X≦0.5、0≦X≦5
C+F=100(ただし不可避的不純物及び合金元素を除く)…(式C)
本発明において、上記表面層は、摩擦係数が0.25以下である場合には、
上記表面層は、耐摩耗性、固体潤滑性ともに優れた性能を発揮する。
本発明において、上記表面層は、層厚さが0.5〜5μmの範囲である場合には、
摩擦に対して十分に耐久性のある層になり、極めて長時間の処理が必要となることもなく、工業的に現実的である。
本発明において、上記基材は、炭素鋼もしくは低合金鋼である場合には、
基材に固溶する炭化物生成元素量が少ないため、炭化物の生成が少ない分、鉄炭化物が良好に形成され、表面層の耐久性が確保される。すなわち、基材中の炭化物生成元素量が多くて炭化物が多く生成すると、そこに炭素が消費されて鉄炭化物が十分形成されず、鉄炭化物とそれ以外の炭化物が混在する構造となり、層の耐久性が低下すると考えられるからである。
本発明の自己潤滑性低摩擦摺動部材の表層部の断面構造を示す模式図である。 表面からの距離と炭素濃度、Fe濃度の関係を示す図である。 低摩擦摺動層の表面状態の一例を示す模式図である。 S45Cの断面SEM像と断面EDX炭素濃度プロファイルである。 S45CのGDSで測定した炭素濃度、Fe濃度プロファイルである。 S45Cの表面組織CCD写真である。 S45C、(a)は表面SEM像、(b)は炭素マッピング、(c)はFeマッピングである。 SCM435、GDSで測定した炭素濃度、Fe濃度プロファイルである。 SCM435のXRD測定結果である。 実施例1(S45C)の摩擦摩耗試験結果(相手材SUJ2)。 実施例1(S45C)の摩擦摩耗試験結果(相手材アルミナ)。 実施例2(SCM435)の摩擦摩耗試験結果(相手材SUJ2)。 実施例2(SCM435)の摩擦摩耗試験結果(相手材アルミナ)。 実施例3(SCM435+窒化)の摩擦摩耗試験結果(相手材SUJ2)。 実施例3(SCM435+窒化)の摩擦摩耗試験結果(相手材アルミナ)。 比較例1(SKD61)の摩擦摩耗試験結果(相手材SUJ2およびアルミナ)。 比較例2(SUS420J2)の摩擦摩耗試験結果(相手材SUJ2およびアルミナ)。 比較例5(S45C未処理材)の摩擦摩耗試験結果(相手材SUJ2)。 比較例5(S45C未処理材)の摩擦摩耗試験結果(相手材アルミナ)。 比較例4(DLC)の摩擦摩耗試験結果(相手材SUJ2およびアルミナ)。 基材のCr量と表面層消失距離の関係(相手材SUJ2)。
つぎに、本発明を実施するための最良の形態を詳しく説明する。
この実施形態の自己潤滑性低摩擦摺動部材は、炭素鋼、低合金鋼等の非オーステナイト鋼を基材に用いることができる。この基材の硬度をさらに向上させた、調質材や窒化材、浸炭焼入れ材などを用いることもできる。次に工業的に安価に提供するためにPVDやCVD法ではなく、プラズマや高真空を使わない熱化学的プロセスを用いて低温で炭素をこれらの基材に拡散浸透させた層を形成する。炭素拡散浸透層における炭素は固溶もしくは鉄炭化物を形成しているが、さらに過剰な炭素の浸透によって表面側の鉄炭化物は黒鉛と金属鉄に分解し、遊離炭素が生じる。この金属鉄が新たな炭素析出の触媒となり鉄炭化物を形成することを繰り返し、遊離炭素を析出した層が厚く形成されるのである。この遊離炭素を主体とする層は比較的軟質であるが、硬質(HV1150〜1340)の鉄炭化物および金属鉄が粒状に析出しているのでこの層全体は耐摩耗性に優れる。このように、本実施形態では、表面層と硬質の基材との間に炭素拡散浸透層が形成されているので密着性は極めて良好であり、鉄炭化物の分解反応で生じた遊離炭素は緻密で潤滑性に優れた層であり、硬質の鉄炭化物を含有することで耐久性が向上した自己潤滑性低摩擦摺動部材である。
以下、詳しく説明する。
本実施形態の自己潤滑性低摩擦摺動部材は、基材である鋼の表面に、本発明の表面層として炭素遊離層が形成されている。上記炭素遊離層は、粒状あるいは群島状に析出した鉄炭化物と、その間を埋めるように存在する遊離炭素とを含んでなるものである。上記鉄炭化物が析出した粒状あるいは群島状の領域には、微量の鉄酸化物および金属鉄が同時に析出することがある。
図1は、本実施形態の自己潤滑性低摩擦摺動部材の構造を示す表層部の断面図である。
図1(a)は第1例であり、基材の鉄鋼材料と、炭素拡散浸透層と、遊離炭素層(本発明の表面層としての炭素遊離層)とを備えている。
図1(b)は第2例であり、基材の鉄鋼材料と、基材硬化層と、炭素拡散浸透層と、遊離炭素層(本発明の表面層としての炭素遊離層)とを備えている。上記基材硬化層は、基材の上記表面層の下に形成されたもので、例えば、調質、浸炭焼入れ、高周波焼入れ、析出硬化処理、時効硬化処理を行った硬化層を形成することができる。また、上記基板硬化層として、窒化による硬化層を形成することもできる。
基材の鉄鋼材料は、一般の炭素鋼、たとえば冷間圧延鋼板(SPC材)、機械構造用炭素鋼(SC材)、低合金鋼(SCr材、SCM材、SNC材、SNCM材、SACM材、SMn材など)、炭素工具鋼(SK材)、合金工具鋼(SKS材)、軸受鋼(SUJ材)、ばね鋼(SUP材)、さらには鋳鋼や鋳鉄などが使用できる。また、通常調質して用いられる鋼種は、調質の有無にかかわらず使用できる。
また、上述したように、焼入れ、浸炭焼入れ、高周波焼入れ、窒化、軟窒化、析出硬化などの硬化処理した鉄鋼材料も基材として利用できる。
また、事前に窒化や軟窒化処理を行うことで硬質の基材を形成できるので、調質のみの基材よりも本発明の自己潤滑性低摩擦摺動部材としては好都合である。
また、上記基材は、Cr、W、V、Nb、Mo、Mn、Tiのうち少なくとも1つ以上の炭化物生成元素の含有量が4.5重量%未満とすることができる。このようにすることにより、炭化物生成元素が4.5重量%未満で炭化物の生成が少ない分、鉄炭化物が良好に形成され、上記表面層の耐久性が確保される。基材中の炭化物生成元素量が多くて炭化物が多く生成すると、鉄炭化物が十分形成されず、鉄炭化物中にそれ以外の炭化物が混在する構造となり、層の耐久性が低下すると考えられるからである。
上記炭素拡散浸透層は、上記鉄鋼材料の表面に形成されるもので、350〜700℃の低温域好ましくは500℃近傍の低温で、炭素を鋼表面から拡散浸透して形成する。CO−CO−H−HO−N系の浸炭性ガス雰囲気の下では、下記の式(1)に従って過飽和になるまで炭素を固溶する。フェライト組織の炭素の固溶量は0.022重量%と低いため、式(2)に従って、セメンタイト(鉄炭化物の1種である)が形成され、炭素拡散浸透層(鉄炭化物と固溶炭素の存在する層)を生じる。炭化物形成傾向の大きなCr、Mo、Wなどを多量に(4.5%以上)含有する鋼種では式(3)に従い、これらの合金元素と炭化物を生成することになる。
CO(気体)+H(気体)→HO(気体)+C(固溶炭素)…(1)
3Fe(金属)+C(固溶炭素)→FeC…(2)
3Cr(金属)+C(固溶炭素)→CrまたはCr23…(3)
炭素拡散浸透層が形成された後、さらに浸炭性ガス雰囲気下にさらされると、炭素拡散浸透層の最表面ではセメンタイトや過炭化物などの他の鉄炭化物が多量に形成され、これらの鉄炭化物中の炭素の拡散係数は小さいので、さらに押し寄せてくる炭素によって炭素活量が大きくなる結果、黒鉛の核が生成し、下記の反応式(4)に従い、セメンタイトの分解反応が起こる。鉄炭化物は本来準安定物質であり、黒鉛と鉄に分解した方が系の自由エネルギーは減少するため、遊離炭素が生じるのである。また、過炭化物はセメンタイトよりも不安定であり、下記の式(5)のように、セメンタイトと黒鉛もしくはFeと黒鉛に分解し、遊離炭素を生成する。
FeC→3Fe(金属)+C(黒鉛)…(4)
FeC→X/3FeC または XFe(金属)+C(黒鉛)…(5)
遊離炭素は上記式(4)(5)に従って生成するが、同時に金属鉄が生成する。この金属鉄は浸炭性ガス雰囲気の炭素源であるCOを吸着し、吸着したCOガスと金属鉄の反応によって新たにセメンタイトを生成することができる。反応式は下記の式(6)〜(9)の通りである。したがって、式(1)(2)(4)(5)〜(9)の反応を繰り返すことで遊離炭素は連続的に生成される。すなわち式(2)の逆反応でセメンタイトが生じるわけではないので、一定の厚みをもった表面層としての炭素遊離層を形成することができるのである。
CO(気体)→CO(吸着)…(6)
CO(吸着)+Fe(金属)→3Fe(金属)+C(固溶炭素)…(7)
CO(吸着)+3Fe(金属)→FeC…(8)
3Fe(金属)+C(固溶炭素)→FeC…(9)
雰囲気側のFeCは、(4)(5)のように分解し消滅していく一方、基材側のFeCフロントは、内方に拡散成長する。
炭素遊離層の形成は式(4)(5)によって黒鉛で形成されるほかに、式(1)もしくは(10)によって雰囲気ガスからも直接炭素が生成するが、この場合は無定形炭素になる。この無定形炭素は基材表面のFeC上に析出する。
2CO(気体)→C+CO(気体)…(10)
また、500℃近傍の温度域では、Fe−O−C系還元平衡図で知られるように、下記の式(11)で酸化が同時に生じることが可能である。セメンタイトの分解によって生成した金属鉄は一部、雰囲気の酸化性成分(HOやCO)によって式(11)のように酸化され、マグネタイト(Fe)を形成することが熱力学的に十分起こりうる。したがって、金属鉄の一部は鉄酸化物となって存在する。
3Fe(金属)+4CO(気体)→Fe(酸化物)+4CO(気体)…(11)
セメンタイトの分解は、式(3)以外に、内部応力による自己破壊によっても生じる。セメンタイトに対してFe(フェライト)と黒鉛では14%もの体積膨張があり、その生成と成長過程で大きな内部応力を生じる。内部応力が臨界以上になると自ら崩壊し、そのセメンタイト自己破壊片は、基材表面のFeC上に膜状に析出した無定形炭素を通して上方に集合的に偏析する結果、セメンタイトが群島状を呈するのである。内部応力は低温ほど大きくなり、500℃以上では処理中に緩和が生じるため自己破壊は少なくなる。炭素析出処理温度が400〜470℃が好適となる一因である。
基材表面のセメンタイト(FeC)は、粒界に析出しやすいので、基材表面に対して粒界に沿ってくし歯状にフロント面が生じる。また、自己破壊によってミクロな局所的ピットを生じる。このピットは炭素によって埋められ、その上部はセメンタイト自己破壊片が群島状に偏在した独特の形態の炭素遊離層となる。単純な炭素膜ではなしえない耐久性はこの形態によって達成されるのである。
図2は、表面層(炭素遊離層)を表面から見た構成を示す模式図である。図における黒色部が群島状に析出した鉄炭化物、鉄酸化物、金属鉄である。このように鉄炭化物、鉄酸化物、金属鉄は、大小に析出した粒が析出の過程で部分的に結合して入り組んだ複雑形状を呈した島状の粒によって群島状を呈している。あるいは鉄炭化物、鉄酸化物、金属鉄の量が少なくて析出した粒同士の結合が少なければ粒状を呈する。そして上記群島状あるいは粒上に析出した鉄炭化物、鉄酸化物、金属鉄同士の間隙を埋めるように遊離炭素が存在している(図示の白色部)。
図3は、本実施形態の断面の構成を示す。上記表面層の炭素濃度(C)及びFe濃度(F)は、表面からの距離(μm)をX、Xとしたとき、CとFは、それぞれ下記の(式A)と(式B)の範囲内であり、かつ(式C)の関係を満たすことが必要である。
(100−20X)≧C≧(40−80X)…(式A)
(60+80X)≧F≧(0+20X)…(式B)
ただし 0≦X≦0.5、0≦X≦5
C+F=100(ただし不可避的不純物及び合金元素を除く)…(式C)
言い換えると、炭素濃度(C)は、表面からの距離(μm)をXとしたとき、下記の関係式で表される直線C1とC2を含んでそれらに挟まれる領域である。
C1=100−20X(0≦X≦5)
C2=40−80X(0≦X≦0.5)
また、Fe濃度(F)は、表面からの距離(μm)をXとしたとき、下記の関係式で表される直線F1とF2を含んでそれらに挟まれる領域である。
F1=60+80X(0≦X≦0.5)
F2=0+20X(0≦X≦5)
炭素濃度(C)はC1とC2の直線の間の範囲にあり、かつ、Fe濃度(F)はF1とF2の直線の間の範囲にあることが好ましい。なお、基材に含まれる元素(炭素、合金元素、不純物など)についてはこの式には含まれず、不可避的不純物および他の合金元素を除くとC+Fはおよそ100になる。
遊離炭素は雰囲気からの炭素析出としても生じることがあり、この場合は炭素濃度100%になるが、炭素膜としての膜強度が著しく弱く、耐性がないので炭素のみからなる膜厚は実質的に0である。炭素濃度と表面からの距離の関係は、図示の実線で挟まれた範囲である。また、Fe濃度と表面からの距離の関係は、図示の点線で挟まれた範囲である。なお、上記式(A)(B)の関係には、不可避的不純物、基材に含まれる炭素は考慮しない。
本発明の自己潤滑性低摩擦摺動部材における表面層(炭素遊離層)の厚さは、層厚さが0.5μm以上5μm以下程度に形成され、好ましくは1μm以上3μm以下程度に形成される。層厚が薄すぎると、摩擦に対して十分に耐久性のある層にならず、反対に厚すぎるのは、極めて長時間の処理が必要で工業的に現実的でないからである。
Cr含有量の多い鉄鋼材料(4.5%以上)では、炭素拡散浸透層が形成された後、さらに浸炭性ガス雰囲気下にさらされても、Cr炭化物は分解することはない。なぜならば、Cr炭化物は熱力学的安定物質であり、この系において完全に雰囲気と平衡しているからである。したがって遊離炭素を生成する機能はないので、Cr炭化物を生成しただけでは遊離炭素膜は形成しない。
また、上記基材は、Cr、W、V、Nb、Mo、Mn、Tiのうち少なくとも1つ以上の炭化物生成元素の含有量が4.5重量%未満で、合金元素で形成される特殊炭化物の生成が少ない分、鉄炭化物が良好に形成され、上記表面層の耐久性が確保される。基材中の炭化物生成元素量が多くて特殊炭化物が多く生成すると、鉄炭化物が十分形成されず、鉄炭化物中にそれ以外の炭化物が混在する構造となり、鉄炭化物の分解が起こり難くなり、十分な厚さの遊離炭素が形成されず、層の耐久性が低下すると考えられるからである。
SUS304などのオーステナイト鋼では、Crと炭素の親和力が大きいので、炭化物を形成する場合には鉄炭化物ではなく、Cr炭化物を形成する。Cr炭化物が飽和するまで形成され、さらに炭素が過剰になる場合でも鉄炭化物は形成しない。状態図によれば400〜500℃近傍では炭素2.5重量%以上のときは、黒鉛とオーステナイト相が共存する。すなわち、鉄炭化物を形成せず、黒鉛がオーステナイト組織から直接成長することになり、鉄炭化物の分解による遊離炭素の形成は原理的に起こりえないのである。
次に、自己潤滑性低摩擦摺動部材の製造方法について説明する。
基材である鋼を、必要に応じて機械加工、塑性加工等の加工を行うことにより所定の部材形状まで加工する。この基材に対して例えばつぎのようにして、表面層(低摩擦摺動層、炭素遊離層)を形成する。
基材の金属組織は、フェライト、マルテンサイト、トルースタイト、ベイナイト、ソルバイト、パーライトなどの炭素固溶度が小さい非オーステナイト組織である(残留オーステナイトは除く)。これらの基材において、最も重要な反応である式(1)の炭素固溶反応は、気相(COガス)からの移行反応を促す表面の活性化、すなわち触媒作用が必須であり、鋼表面のフッ化が鋼中への炭素移行に著しい活性化作用を有することを見出した。フッ化反応は反応式(6)(7)(8)の反応を著しく促進することが推察される。フッ化しなければ、ほとんど炭素は鋼中に移行せず、はなはだしい場合には処理後も金属の光輝面が残る。そこまでいかなくても、一定の固溶炭素やセメンタイトを形成するのに数十時間を要する。
上記フッ化処理に用いられるフッ素系ガスとしては、NF,BF,CF,HF,SF,C,WF,CHF,SiF,ClF等からなるフッ素化合物ガスがあげられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて使用される。
また、これらのガス以外にも、分子内にフッ素(F)を含むフッ素系ガスも本発明のフッ素系ガスとして用いることができる。また、このようなフッ素化合物ガスを熱分解装置で熱分解させて生成させたFガスや、あらかじめ作られたFガスも上記フッ素系ガスとして用いることができる。このようなフッ素化合物ガスとFガスとは、場合によって混合使用することができる。
これらのなかでも、本発明に用いるフッ素系ガスとして最も実用性を備えているのはNFである。上記NFは、常温においてガス状を呈し、化学的安定性が高く、取扱いが容易だからである。このようなNFガスは、通常、後述するように、Nガスと組み合わせて、所定の濃度範囲内で希釈して用いることができる。
フッ素系ガスの濃度は、容量基準で0.5〜15%の範囲とするのが好ましい。より好ましくは2〜10%である。加熱温度は160〜500℃が好ましく、より好ましいのは200〜300℃である。加熱時間は通常10分〜3時間程度に設定される。これによって表面に鉄フッ化物(FeFおよびFeF)が形成される。
つぎに、炭素固溶処理とセメンタイト生成および分解処理すなわち炭素析出処理について述べる。
本処理は、上述したフッ化処理後に行ない、雰囲気はCO−CO−H−HO−N系ガスを用いる。従来のいわゆる浸炭処理の雰囲気に比べ、酸化性ガス(COおよびHO)の濃度が高くても良好な処理が可能である。
ガス組成は容量基準で、COは5〜70%、COは0〜20%、Hは10〜90%、HOは0〜20%、Nは0〜70%とすることができる。これら以外に、炭化水素系ガスが50%まで含まれていても問題はない。加熱温度は350〜600℃が好適であり、より好ましくは400〜470℃である。
また、上記炭素析出処理の後は、低摩擦摺動層が形成された基材の表面に、炭素粉が付着した場合には、その炭素粉の除去が必要である。形成された低摩擦摺動層を破壊しない軽度のショットブラストやホーニング、バレル研磨を行うことが好ましい。
以下、実施例について説明する。
下記の表1に示す実施例および比較例を調整した。
(フッ化処理と炭素析出処理)
フッ化処理は、室温から昇温し、NFガスを濃度6%、残部94%Nの雰囲気で280℃、1時間保持して行ない、基材表面にフッ化膜を形成した。
炭素析出処理は、10%CO−90%H組成の雰囲気ガスで、470℃、22時間、加熱して行った。
実施例1は、S45C(調質材)に上述したフッ化処理と炭素析出処理を施すことで得た本発明の自己潤滑性低摩擦摺動部材である。
実施例2は、基材をSCM435(Cr:0.9〜1.2重量%)とした以外は、実施例1と同様にして得た本発明の自己潤滑性低摩擦摺動部材である。
実施例3は、基材としてSCM435を使用し、基材硬化処理として窒化処理下後、実施例1と同様のフッ化処理および炭素析出処理を行ったものである。窒化条件は、50%NH−50%N雰囲気で520℃×4時間とした。
比較例1は、基材としてSKD61を使用した以外は、実施例1と同様のフッ化処理および炭素析出処理を行ったものである。
比較例2は、基材としてSUS420J2を使用した以外は、実施例1と同様のフッ化処理および炭素析出処理を行ったものである。
比較例3は、基材としてSUS304を使用した以外は、実施例1と同様のフッ化処理および炭素析出処理を行ったものである。
比較例4は、基材としてSCM435の調質材にUBMS法でDLCを成膜した。
比較例5は、S45Cの未処理材である。
(実施例1)
図4は、実施例1の自己潤滑性低摩擦摺動部材であり、(a)表層部の断面SEM像、(b)EDX測定した断面炭素濃度プロファイルである。この実施例では、約2μm厚さの表面層が観察され、基材にも炭素は約1μm深さまで拡散浸透している。
図5は、実施例1の上記断面部分をGDSで測定した炭素濃度とFe濃度のプロファイルを示す。表面炭素濃度は約65重量%に達し、深さ方向において減少している。一方Fe濃度は、表面で約25重量%であり、深さ方向において増加している。
図6は、実施例1の表面層の平面方向の組織観察を行った結果であり、CCDカメラで観察した表面組織を示す。他の測定結果と併せて判断すると、明瞭に観察される黒色部が鉄炭化物、鉄酸化物、金属鉄であり、その間隙を埋めているのが遊離炭素である。
図7(a)に実施例1のSEM像を、図7(b)図7(c)に、それに対応した炭素とFeのマッピングをそれぞれ示す。図7(a)SEM像の白色部、図7(b)の黒色部、図7(c)の白色部がそれぞれ鉄炭化物、鉄酸化物、金属鉄の存在比率が多い部位であり、図7(a)SEM像の黒色部、図7(b)の白色部、図7(c)の黒色部が、それぞれ遊離炭素の存在比率が多い部位である。鉄炭化物、鉄酸化物、金属鉄が集まって群島状を呈し、その間隙を埋めるように遊離炭素が存在していることがわかる。
(実施例2)
図8は、実施例2の断面をGDSで測定した炭素濃度とFe濃度のプロファイルを示す。表面炭素濃度は約80重量%に達し、深さ方向において減少している。一方Fe濃度は、表面で約10重量%であり、深さ方向において増加している。
図9は、実施例2の表面層のX線回折による分析を行った結果を示す。FeC(セメンタイト)およびα−Fe(フェライト鉄)とグラファイト(黒鉛)が同定され、表面層はセメンタイトおよびFeと遊離炭素で構成されていることがわかる。なお、Feなどの鉄酸化物やFeなどの過炭化物も含まれる可能性はあるが、存在しても微量と思われ、このX線回折では検出できなかった。
(摺動特性評価:実施例1、実施例2、実施例3、比較例1、比較例2、比較例4、比較例5)
摩擦摩耗試験を実施して評価を行った。摩擦摩耗試験には、ナノテック(株)のボールオンディスク試験機(CSM TRIBOMETER HT−800)を用いた。
ディスク材(φ50×10mm厚さ)として上記の実施例1、実施例2、実施例3、比較例1、比較例2、比較例4、比較例5に従って処理を行ったものを使用した。ボール材はSUJ2(φ6mm、HV780)またはアルミナ(φ6mm)を用いて行った。試験条件は、ディスク回転速度を線速度で15cm/秒、荷重を5N、摺動距離を1000mとし、いずれの試験も無潤滑の室温環境で実施した。ただし、比較例5については、摺動距離500mで試験を打ち切った。また、摩擦係数の測定の信頼性をより確かなものにするため、実施例1、実施例2および比較例4については、往復動摩擦摩耗試験機での測定も実施した。
図10〜図20は、摩擦摩耗試験の測定結果を示す。往復動摩擦摩耗試験機での摩擦係数測定結果は、ボールオンディスク試験機と完全に一致した結果が得られたので図表は省略した。
図10は実施例1(S45C)の摩擦摩耗試験結果(相手材SUJ2)、
図11は実施例1(S45C)の摩擦摩耗試験結果(相手材アルミナ)、
図12は実施例2(SCM435)の摩擦摩耗試験結果(相手材SUJ2)、
図13は実施例2(SCM435)の摩擦摩耗試験結果(相手材アルミナ)、
図14は実施例3(SCM435+窒化)の摩擦摩耗試験結果(相手材SUJ2)、
図15は比較例2(SCM435+窒化)の摩擦摩耗試験結果(相手材アルミナ)、
図16は比較例1(SKD61)の摩擦摩耗試験結果(相手材SUJ2/アルミナ)、
図17は比較例2(SUS420J2)の摩擦摩耗試験結果(相手材SUJ2/アルミナ)、
図18は比較例5(S45C未処理材)の摩擦摩耗試験結果(相手材SUJ2)、
図19は比較例5(S45C未処理材)の摩擦摩耗試験結果(相手材アルミナ)、
図20は比較例4(DLC)の摩擦摩耗試験結果(相手材SUJ2/アルミナ)である。
ボール材がSUJ2のときは、実施例1、2の摩擦係数は0.1〜0.15の範囲にあり、無潤滑下で著しく低い摩擦係数を達成できた。低摩擦係数といわれるDLCでも、本条件の下での摩擦摩耗試験では、摩擦係数が0.3〜0.4の範囲にあり、本実施例はDLC(図20)よりも摩擦係数が低いことがわかった。スパッタ膜にありがちなドロップレットによる相手材(SUJ2)への攻撃が生じたもので、摺動痕の幅もDLCは大きかった。
上記自己潤滑性低摩擦摺動層は、摩擦係数が0.25以下であることが好ましい。このような低摩擦摺動層は、耐摩耗性、自己潤滑性ともに優れた性能を発揮する。
ボール材がアルミナのときは、実施例1、2の摩擦係数は0.1〜0.15の範囲にあり、無潤滑下で著しく低い摩擦係数を達成できた。比較例4のDLC(図20)は、本条件の下での摩擦摩耗試験では、摩擦係数が0.1〜0.15の範囲にあり、本条件では、本実施例はDLCと同等の摩擦係数が得られることがわかった。
図14、図15は実施例3の摩擦摩耗試験結果を示した。これらの摩擦係数は0.1近傍にあり、窒化処理を施したときでも摩擦係数は0.1近傍を維持することができた。また、摩擦距離を1000m以上とした場合の試験結果は省略したが、基材にあらかじめ窒化処理を加えることにより、調質のまま基材としたものに比べ、より高荷重に耐え、耐久性も向上することを確認した。
図16および図17は、それぞれ比較例1および比較例2の摩擦摩耗試験結果を示した。これらの高合金鋼はS45CやSCM425等の炭素鋼や低合金鋼の場合と異なり、摺動距離が長くなると低摩擦係数を維持できない結果となった。これは、低摩擦表面層の膜厚が薄いかもしくは耐久性が不足するためと考えられる。
上記基材は、Cr、W、V、Nb、Mo、Mn、Tiのうち少なくとも1つ以上の炭化物生成元素の含有量が4.5重量%未満とすることができる。炭化物生成元素が4.5重量%未満で、合金元素で形成される特殊炭化物の生成が少ない分、鉄炭化物が良好に形成され、上記表面層の耐久性が確保される。基材中の炭化物生成元素量が多くて特殊炭化物が多く生成すると、鉄炭化物が十分形成されず、鉄炭化物中にそれ以外の特殊炭化物が混在する構造となり、鉄炭化物の分解が起こり難くなり、十分な厚さの炭素遊離膜が形成されず、層の耐久性が低下すると考えられるからである。
図21は、基材のCr含有量と摩擦係数が急激に大きくなったときの摺動距離(表面層消失距離)の関係を示す図である。基材のCr含有量が多いほど表面層が消失するまでの距離が短いことがわかる。
基材は、炭素鋼もしくは低合金鋼で、炭化物形成元素の含有量が4.5重量%未満であることが好ましいことがわかる。

Claims (5)

  1. Cr、W、V、Nb、Mo、Mn、Tiのうち少なくとも1つ以上の炭化物生成元素の含有量が4.5重量%未満である鋼を基材とし、
    上記基材の表面に、粒状あるいは群島状に析出した鉄炭化物と、その間を埋めるように存在する遊離炭素とを含んでなる表面層が形成されていることを特徴とする自己潤滑性低摩擦摺動部材。
  2. 上記表面層の下の基材に炭素拡散浸透層が形成され、炭素拡散浸透層の表面側に鉄炭化物を含んでいることを特徴とする自己潤滑性低摩擦摺動部材。
  3. 上記基材には、上記表面層の下に調質、窒化処理、浸炭焼入れ、高周波焼入れ、析出硬化処理、時効硬化処理を行った硬化層が形成されている請求項1または2記載の自己潤滑性低摩擦摺動部材。
  4. 上記表面層は、炭素濃度(重量%)をC、Fe濃度(重量%)をF、表面からの距離(μm)をX、Xとしたとき、CとFは、それぞれ下記の(式A)と(式B)の範囲内であり、かつ(式C)の関係を満たす請求項1〜3のいずれか一項に記載の自己潤滑性低摩擦摺動部材。
    (100−20X)≧C≧(40−80X)…(式A)
    (60+80X)≧F≧(0+20X)…(式B)
    ただし 0≦X≦0.5、0≦X≦5
    C+F=100(ただし不可避的不純物及び合金元素を除く)…(式C)
  5. 上記表面層は摩擦係数が0.25以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載の自己潤滑性低摩擦摺動部材。
JP2010208696A 2010-09-17 2010-09-17 低摩擦摺動部材 Expired - Fee Related JP5689634B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2010208696A JP5689634B2 (ja) 2010-09-17 2010-09-17 低摩擦摺動部材

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2010208696A JP5689634B2 (ja) 2010-09-17 2010-09-17 低摩擦摺動部材

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2012062539A true JP2012062539A (ja) 2012-03-29
JP5689634B2 JP5689634B2 (ja) 2015-03-25

Family

ID=46058550

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2010208696A Expired - Fee Related JP5689634B2 (ja) 2010-09-17 2010-09-17 低摩擦摺動部材

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP5689634B2 (ja)

Cited By (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2015008692A1 (ja) * 2013-07-18 2015-01-22 本田技研工業株式会社 無段変速機用ベルト

Families Citing this family (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP7406005B1 (ja) 2022-04-07 2023-12-26 東芝三菱電機産業システム株式会社 無停電電源装置

Citations (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH07188844A (ja) * 1993-12-28 1995-07-25 Kawasaki Steel Corp 被削性および冷間鍛造性に優れた機械構造用炭素鋼
JP2005036279A (ja) * 2003-07-14 2005-02-10 Air Water Inc 鋼の表面硬化方法およびそれによって得られた金属製品
JP2009228049A (ja) * 2008-03-21 2009-10-08 Nippon Steel Corp 面圧疲労強度と低騒音性に優れた浸炭高周波焼入れ鋼部品

Patent Citations (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH07188844A (ja) * 1993-12-28 1995-07-25 Kawasaki Steel Corp 被削性および冷間鍛造性に優れた機械構造用炭素鋼
JP2005036279A (ja) * 2003-07-14 2005-02-10 Air Water Inc 鋼の表面硬化方法およびそれによって得られた金属製品
JP2009228049A (ja) * 2008-03-21 2009-10-08 Nippon Steel Corp 面圧疲労強度と低騒音性に優れた浸炭高周波焼入れ鋼部品

Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2015008692A1 (ja) * 2013-07-18 2015-01-22 本田技研工業株式会社 無段変速機用ベルト
CN105339704A (zh) * 2013-07-18 2016-02-17 本田技研工业株式会社 无级变速器用带
JPWO2015008692A1 (ja) * 2013-07-18 2017-03-02 本田技研工業株式会社 無段変速機用ベルト

Also Published As

Publication number Publication date
JP5689634B2 (ja) 2015-03-25

Similar Documents

Publication Publication Date Title
Neville et al. Compatibility between tribological surfaces and lubricant additives—how friction and wear reduction can be controlled by surface/lube synergies
Carrera-Espinoza et al. Tribological behavior of borided AISI 1018 steel under linear reciprocating sliding conditions
Bansal et al. Surface engineering to improve the durability and lubricity of Ti–6Al–4V alloy
JP4333794B2 (ja) 摺動構造
GB2388415A (en) Wear resistant chain
RU2718482C2 (ru) Стальные изделия, покрытые твердой смазкой, способ и устройство для их изготовления, и закалочное масло, применяемое в их изготовлении
CN104662329B (zh) 链元件、链销及其制造方法
EP1686295B1 (en) Three piece-combined oil ring
JP2008195903A (ja) 摺動構造
Özkan et al. Tribological behavior of TiAlN, AlTiN, and AlCrN coatings at boundary lubricating condition
Zang et al. Comparative tribological and friction behaviors of oil-lubricated manganese phosphate conversion coatings with different crystal sizes on AISI 52100 steel
JP5298451B2 (ja) 摺動構造
JP5689634B2 (ja) 低摩擦摺動部材
US20150247553A1 (en) Chain element and method for the production thereof
US20190301528A1 (en) Sliding member and production method therefor
JP4598499B2 (ja) 複合層被覆部材の製造方法
JP7040532B2 (ja) 低摩擦摺動機構
US5653822A (en) Coating method of gas carburizing highly alloyed steels
Doan et al. Improvement of wear resistance for C45 steel using plasma nitriding, nitrocarburizing and nitriding/manganese phosphating duplex treatment
Hintermann et al. Chemical vapour deposition applied in tribology
US9556531B2 (en) Method for ultra-fast boriding
US5786098A (en) Iron oxide coated low alloy steel substrate for improved boundary lubrication
US11781195B2 (en) High-strength steels for the formation of wear-protective lubricious tribofilms directly from hydrocarbon fluids
EP3798459A1 (en) Sliding spline shaft device
JP2011208215A (ja) 浸硫層被覆部材およびその製造方法

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20130610

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20140206

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20140218

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20140415

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20140729

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20140807

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20150127

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20150129

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 5689634

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

LAPS Cancellation because of no payment of annual fees