以下、発明を実施するための形態について説明する。なお、説明は以下の順序とする。
1.実施の形態
2.他の実施の形態
<1.実施の形態>
〔1.データ転送システムの構成〕
図1において、本一実施の形態によるデータ転送システム1を示す。データ転送システム1は、通信ユニット2及びパーソナルコンピュータ3により構成される。通信ユニット2は、ドック10及び記憶装置20により構成される。
通信ユニット2は、記憶装置20がドック10に対して着脱可能になされており、記憶装置20がドック10に載置(装着)された際に、ドック10及び記憶装置20が非接触通信により高速通信及び低速通信を行い得るようになされている。
ドック10とパーソナルコンピュータ3とは、所定のケーブルを介して有線接続される。従ってパーソナルコンピュータ3は、ドック10を介して記憶媒体20と高速通信及び低速通信を行うことができる。
〔1−1.ドックの外観構成〕
ドック10は、図2に示すように、略直方体の筐体部11の上面11Aに、2つの記憶媒体20(図1)を載置し得るように2対の固定部12A及び12Bが記憶装置20の奥行長さ(Y軸方向の長さ)と同じ長さだけ離れるようにして設けられる。
固定部12A及び12Bは、それぞれの両端にガイド12Cが記憶装置20の横幅(X軸方向の長さ)と同じ長さだけ離れようにして設けられる。
これによりドック10は、記憶装置20が載置される際、固定部12A及び12Bの間の決められた位置に精度よく固定し得るようになされている。
固定部12A及び12Bには、記憶装置20が上面11Aに載置された際に該記憶装置20の嵌合部24(図3)と嵌合するアクチュエータ機構13が対向する側に突出するようにして設けられる。
アクチュエータ機構13は、記憶装置20が上面11Aに載置される際にだけ嵌合し、記憶媒体20がドック10から取り外される際には嵌合部24から外れるようになされている。これにより記憶媒体20がドック10から脱着可能となる。
アクチュエータ機構13は、詳しくは後述するように、上面11Aに載置された記憶装置20を、上面11Aに直交する方向(Z軸方向)に移動させ得るようになされている。
筐体部11の上面11Aには、固定部12A及び12Bの間の所定の位置に、筐体部11の内部に固定された通信モジュール301のアンテナ40(図5)が全て露出する程度の大きさの開口部11Cが設けられる。
通信モジュール301は、アンテナ40が配される面が記憶装置20と対向するようにして設けられる。
筐体部11の前面11Bには、記憶媒体20との接続状態や通信状態をユーザに通知するための例えばLED(Light Emitting Diode)でなるインジケータ14が設けられる。
〔1−2.記憶装置の外観構成〕
記憶装置20は、図3(A)及び(B)に示すように、筐体部21及びカバー22で内部が覆われた略直方体に形成される。なお、図3(A)においてカバー22は、説明の便宜上、内部を透過するように示しているが、実際は、透明又は半透明でなくてもかまわない。
筐体21及びカバー22の内部には、4つの記憶媒体としてのSSD(Solid State Drive)23(23A、23B、23C及び23D)が並ぶようにして設けられており、これらSSD23には種々のデータが記憶し得るようになされている。
筐体部21の前面21Aには、ドック10に載置された際にアクチュエータ機構13と嵌合する嵌合部24が設けられる。また前面21Aとは反対側のカバー22の後面22Aにも、ドック10に載置された際にアクチュエータ機構13と嵌合する嵌合部24(図示せず)が設けられる。
筐体部21の下面21Bには、通信モジュール302のアンテナ40(図5)が露出する程度の大きさの開口部21Cが、ドック10に記憶装置20が載置された際に開口部11Cと対向する位置に設けられる。
通信モジュール302は、開口部11Cからアンテナ40が露出し、ドック10に記憶装置20が載置された際に該アンテナ40が配される面がドック10と対向するようにして設けられる。
カバー22の側面22Bには、表示部25が設けられており、SDD23に記憶されたデータのデータ名やデータサイズ等を表示し得るようになされている。
筐体部21の前面21Aには、ドック10との接続状態や通信状態をユーザに通知するための例えばLEDでなるインジケータ26が設けられる。
通信モジュール302は、図3及び図4に示すように、筐体部21の側面の一部が内側に折り曲げられることにより形成された突出部21Dに挿通されたネジ27と、筐体部21上のネジ27と対向する位置に配される土台部28とにバネ27Aを介して挟まれて固定される。この通信モジュール302は、ネジ27を回転させることにより通信モジュール40をZ軸方向に上下に移動させ得るようになされている。
筐体部21の下面21Bには、開口部21Cを覆うように保護フィルム29が設けられており、アンテナ40を保護し得るようになされている。同様にドック10の上面にもアンテナ40を保護する保護フィルム(図示せず)が設けられる。なお、保護フィルムの素材の誘電率が大よそ10以下であればアンテナ40による通信に影響を与えることはないので、フィルムに代えて例えば樹脂製の平板を設けるようにしてもよい。
筐体部21の嵌合部24は、ドック10から電力供給を受けるためのコネクタを兼ねている。記憶装置20は、2つの嵌合部24とそれぞれ対向する位置に設けられるドック10のコネクタ(図示せず)を通して、ドック10に載置された際に該ドック10の電源回路のグランドと電源にそれぞれに接続される。これにより、後述する位置調整に関わらず、安定して電源を供給できる。
因みに、ドック10に設けられた通信モジュール301と記憶装置20に設けられた通信モジュール302は、説明の便宜上、異なる番号を付しているが、実際には同一のものであり、区別する説明しない場合には単に通信モジュール30ともよぶ。また後述する通信モジュール30の各部について、それぞれの通信モジュール301、302のものであることを区別して説明する場合には対応する各部の符号に添え字1、2を付けて説明する。
〔1−3.通信モジュールの外観構成〕
通信モジュール30は、図5に示すように、扁平な略H型に形成された基板31の表面31Aに、中央付近に変換回路32、電源コネクタ33、miniSASコネクタ34、USBコネクタ35が配される。また基板31の表面31Aには、長手方向における一端側(Y軸負方向側)に送信LSI(Large Scale Integration)36が配され、他端側(Y軸正方向側)に受信LSI37が配される。
基板31の裏面31Bには、一端側(Y軸負方向側)に送信アンテナ40A〜40Dが所定間隔(例えば3mm)あけて隣接して配され、これら送信アンテナ40A〜40Dと送信LSI36が基板31を介して電気的に接続される。
また基板31の裏面31Bには、他端側(Y軸正方向側)に受信アンテナ40E〜40Hが4つX軸方向に所定間隔(本実施の場合、3mm)あけて隣接して配され、これら受信アンテナ40A〜40Dと受信LSI37が基板31を介して電気的に接続される。従って送信アンテナ40A〜40Dと受信アンテナ40E〜40Hとは十分に離れて配される。
なお、送信アンテナ40A〜40D及び受信アンテナ40E〜40Hは同一の構造をしており、区別することなく説明する場合には単にアンテナ40とよぶ。
通信モジュール301は、ドック10の内部に設けられた電源(図示せず)から所定のケーブル(図示せず)及び電源コネクタ331を介して電力の供給を受けて動作する。また通信モジュール301は、miniSASコネクタ341及びSATA2規格に準拠したケーブル(図示せず)を介してRAID(Redundant Arrays of Inexpensive Disks)カード81(図18)と接続される。また通信モジュール301は、USBコネクタ351及びUSB規格に準拠したケーブル(図示せず)を介して例えばUSBインターフェイス82(図18)と接続される。
一方、通信モジュール302は、所定のケーブル及び電源コネクタ332を介して電力の供給を受けて動作する。また通信モジュール302は、miniSASコネクタ342、SATA2規格に準拠したケーブル(図示せず)を介してSSD23A〜23Dと接続される。また通信モジュール302は、USBコネクタ352及びUSB規格に準拠したケーブル(図示せず)を介して例えば表示部25と接続される。
通信モジュール301と通信モジュール302とは、図6に示すように、記憶装置20がドック10に載置された際に対向するようになされている。
より具体的には、通信モジュール301の送信アンテナ40A1と通信モジュール302の受信アンテナ40E2とが例えば1mmに設定された基準間隔を離して対向する。同様に、通信モジュール301の送信アンテナ40B1〜40D1と、通信モジュール302の受信アンテナ40F2〜40H2とが極近距離(例えば1mm)の間隔を離してそれぞれ対向する。また通信モジュール301の受信アンテナ40E1〜40H1と、通信モジュール302の送信アンテナ40A2〜40D2とが極近距離(例えば1mm)の間隔を離してそれぞれ対向する。
そして通信モジュール30では、送信アンテナ40A〜40Dから出力される信号を対向する位置に配される受信アンテナ40E〜40Hで受信するようになされている。
〔1−4.アンテナの構成〕
〔1−4−1.基本構造〕
アンテナ40の基本構造について説明する。図7に示すように、アンテナ40は、Y軸方向に細長い平板で形成されたアンテナ素子51及び52が同一平面上で平行に配された差動線状アンテナ41と、略長方形の平板で形成されたパッチアンテナ42とを含む構成とされる。
アンテナ40は、差動線状アンテナ41とパッチアンテナ42がZ軸方向に所定間隔離間して配された2層構造になされている。またアンテナ40は、送信又は受信のどちらか一方だけを行うようになされている。
パッチアンテナ42は、アンテナ素子51及び52が配される平面と平行に配され、該アンテナ素子51及び52の全体が面の延長上に入る大きさでなる。
差動線状アンテナ41は、例えばSATA2規格と同等(最大で6Gbps)のデータ通信(高速通信)を行い得るようになされており、大よそ6〜8GHzで通信する。一方、パッチアンテナ42は、例えばUSB規格と同等(最大で600Mbps)のデータ通信(低速通信)を行い得るようになされており、大よそ1〜2GHzで通信する。
パッチアンテナ42には、アンテナ素子51及び52の両端にそれぞれ対向する位置に孔が設けられおり、アンテナ素子51及び52の両端から該孔を通ってパッチアンテナ42の下側(Z軸負方向)に延びる給電部53、54及び接続部55、56が配される。
給電部53及び54は、アンテナ40が送信用として用いられる場合(送信アンテナ40A〜40Dの場合)、それぞれ逆極性の信号が入力される。この入力される信号は、例えばSATA2規格に準拠した+及び−の電圧1200mVの転送信号が大よそ6〜8GHzで高速に切り換えられながら入力される。
また給電部53及び54は、アンテナ40が受信用として用いられる場合(受信アンテナ40E〜40Hの場合)、それぞれ接続されたアンテナ素子51及び52で受信した信号の電圧を出力する。
接続部55及び56は、所定の抵抗値でなる抵抗を介して接続される。
送信アンテナ40A〜40Dの差動線状アンテナ41は、給電部53及び54を介してアンテナ素子51及び52に逆極性の信号が入力されるため、一方のアンテナ素子51又は52から他方のアンテナ素子52又は51にかけて電界を発生させる。
受信アンテナ40E〜40Hの差動線状アンテナ41は、極近距離に配される送信アンテナ40A〜40Dの差動線状アンテナ41が発生させた電界により、アンテナ素子51及び52が帯電される。
すなわち送信アンテナ40A〜40Dのアンテナ素子51及び52は、該アンテナ素子51及び52にそれぞれ対向する位置に配される受信アンテナ40E〜40Hのアンテナ素子51及び52(52及び51)と静電結合して電圧を変化させる。
これにより受信アンテナ40E〜40Hは、帯電されたアンテナ素子51及び52の電圧の差分を後段に接続された装置に算出させることにより、送信アンテナ40A〜40Dの差動線状アンテナ41から送信された信号を取得させることができる。
このように、送信アンテナ40A〜40Dの差動線状アンテナ41と受信アンテナ40E〜40Hの差動線状アンテナ41とは、極近距離でかつ高周波数で通信を行うため、電磁界及び誘導電磁界より準静電界が優位な通信、すなわち準静電界を用いた通信を行う。
一方、パッチアンテナ42は、詳しくは後述するように、該パッチアンテナ42におけるアンテナ素子51及び52間の中央線上の一端に給電点が設けられる。
パッチアンテナ42は、アンテナ40が送信用として用いられる場合、給電点に例えばUSB規格に準拠した送受信信号のうちの送信信号が分離されて入力される。またパッチアンテナ42は、アンテナ40が受信用として用いられる場合、該アンテナで受信した信号を給電点から外部(受信LSI37)に出力する。
従って、送信アンテナ40A〜40Dのパッチアンテナ42は、給電点に入力された信号を電波として放射する。受信アンテナ40E〜40Hのパッチアンテナ42は、対向して配される送信アンテナ40A〜40Dのパッチアンテナ42から放射された電波を受信することができる。
なお、パッチアンテナ42は、該パッチアンテナ42の面に直交する方向に指向性を有しているため、隣接して配される他のアンテナ40に影響を与えることはない。
ところでパッチアンテナ42は、差動アンテナ41のアンテナ素子51及び52が発生させる電界を吸収及び鏡像させるグランドプレーンとしても機能する。
〔1−4−2.アンテナの構造〕
実際のアンテナ40は、図8及び図9に示すように、幅(X軸方向)、奥行(Y軸方向)及び高さ(Z軸方向)がそれぞれ8mm、11mm及び1.5mmの長さでなる略直方体に形成される。なお、図8に示したアンテナ40は、金属部分のみを示したものであり、実際には図9に示すように基材のセラミック材がその内部に包埋されている。
アンテナ40は、4層構造になっており、最上層には差動線状アンテナ41が配され、上から2層目にはパッチアンテナ42が配される。またアンテナ40は、上から3層目には給電部53及び54のインピーダンスを調整するために該給電部53及び54から所定距離だけ空間を設けるように形成されたインピーダンス調整板43が配され、最下層は基板31に接続される。
アンテナ40は、差動線状アンテナ41のアンテナ素子51及び52と同一平面上(最上層)に該アンテナ素子51及び52を囲むように遮蔽枠44が配される。
遮蔽枠44とアンテナ素子51及び52との距離は、アンテナ素子51及び52間で発生する電界が、対向するアンテナ40のアンテナ素子51及び52の電位を変化させ、かつ同一基板31上に隣接した他のアンテナ40に影響を与えないように設定される。
すなわちアンテナ素子51及び52との距離が近すぎると、アンテナ素子51とアンテナ素子52との結合が強くなり電界の影響を与える範囲が狭くなりすぎる。一方、遮蔽枠44とアンテナ素子51及び52との距離が近くなると、アンテナ素子51及び52と遮蔽枠44との結合が強くなってしまう。従ってこれらの要因を考慮して隣接する他のアンテナ40に影響を与えず、かつ対向するアンテナ40に確実に信号を伝達できるような距離に設定される。
アンテナ40は、該アンテナ40と同じ高さで所定幅の遮蔽柱45が該アンテナ40の外周を囲むように、奥行方向に11本ずつ等間隔に配され、幅方向の一面に5本が等間隔に配され、幅方向の他面の両端よりに1本ずつが配される。またアンテナ40は、幅方向の他面の中央に遮蔽柱45と同一の形状をした給電柱46が配される。
これら遮蔽柱45及び給電柱46は、遮蔽枠44、パッチアンテナ42及びインピーダンス調整板43とそれぞれ接続される。また遮蔽柱45は、基板31を介してグランドに接地される。給電柱46は、基板31にプリントされた給電線61に接続される。
アンテナ40は、幅方向の他面の給電柱45と遮蔽柱44とのそれぞれの間に、基板31にプリントされた給電線62及び63と給電部53及び54とをそれぞれ接続する給電柱47及び48が配される。
そしてアンテナ40は、図10に示すように、差動線状アンテナ41のアンテナ素子51及び52に対して給電線62、63及び給電柱47及び48を介して逆極性の信号が入力される給電点64が設けられる。
またアンテナ40は、パッチアンテナ42に対して給電線61及び給電柱46を介して信号が入力される給電点65が設けられる。従って、パッチアンテナ42は、給電柱46との接続点に信号が入力されることになる。
〔1−4−3.差動線状アンテナとパッチアンテナの干渉〕
ところでアンテナ40は、1つのアンテナで、差動線状アンテナ41による高速通信とパッチアンテナ42による低速通信とを共に非接触の無線通信により行うようになされているため、一方から他方への干渉が考えられる。
そこで、送信アンテナ40A〜40Dの差動線状アンテナ41から出力された信号による、対向した位置に配される受信アンテナ40E〜40Hのパッチアンテナ42への干渉量を図11に示す。
また、送信アンテナ40A〜40Dのパッチアンテナ42から出力された信号による、対向した位置に配される受信アンテナ40E〜40Hの差動線状アンテナ41への干渉量の実験結果を図12に示す。
なお、この実験では、送信アンテナ40A〜40Dの差動線状アンテナ41とパッチアンテナ42にはそれぞれ同一の周波数の信号が入力されている。
また、この実験結果との対比のために、図13に示すように、パッチアンテナ42の隅に遮蔽柱45を介して給電点66が設けられた場合において、送信アンテナ40A〜40Dの差動線状アンテナ41から出力された信号による、対向した位置に配される受信アンテナ40E〜40Hのパッチアンテナ42への干渉量を図14に示す。
またパッチアンテナ42の隅に遮蔽柱45を介して給電点66が設けられた場合において、送信アンテナ40A〜40Dのパッチアンテナ42から出力された信号による、対向した位置に配される受信アンテナ40E〜40Hの差動線状アンテナ41への干渉量の実験結果を図15示す。
図14及び図15からも明らかなように、パッチアンテナ42の隅に給電点66を設けた場合、それぞれの干渉量が大きく、独立した通信が困難であることが分かる。特に図14に示した送信アンテナ40A〜40Dの差動線状アンテナ41から出力された信号に対する受信アンテナ40E〜40Hの干渉量が非常に大きい。
これに対して、図11からも明らかなように、受信アンテナ40E〜40Hのパッチアンテナ42は、送信アンテナ40A〜40Dの差動線状アンテナ41から出力された信号にはほとんど干渉されていないことが分かる。
これは、送信アンテナ40A〜40Dの差動線状アンテナ41におけるアンテナ素子51及び52にはそれぞれ逆極性の信号が入力されるため、受信アンテナ40E〜40Hのパッチアンテナ42ではそれぞれのアンテナ素子51及び52とほぼ同一量の静電結合がなされる。また、差動線状アンテナ41はパッチアンテナ42の中央にあるため、差動線状アンテナ41の存在がパッチアンテナ42の指向性に影響することはなく、通常のパッチアンテナと同様に正対して結合することができる。
従って、受信アンテナ40E〜40Hのパッチアンテナ42では、送信アンテナ40A〜40Dの差動線状アンテナ41におけるアンテナ素子51及び52の影響が打ち消しあって合計としてはほぼゼロとなり、その結果としてほとんど干渉されなくなる。
また図12からも明らかなように、受信アンテナ40E〜40Hの差動線状アンテナ41は、送信アンテナ40A〜40Dのパッチアンテナ42から出力された信号にはほとんど干渉されていないことが分かる。
これは、受信アンテナ40E〜40Hの差動線状アンテナ41におけるアンテナ素子51及び52は、送信アンテナ40A〜40Dのパッチアンテナ42から出力された信号がほとんど同じ大きさで受信することになる。
しかしながら、上述したように、受信アンテナ40E〜40Hの差動線状アンテナ41では、アンテナ素子51及び52の電位の差分をとることにより信号を受信するので、パッチアンテナ42からの信号は差分を取ることにより相殺される。そのため、受信アンテナ40E〜40Hの差動線状アンテナ41は、送信アンテナ40A〜40Dのパッチアンテナ42から出力された信号にはほとんど干渉されなくなる。
かくして差動線状アンテナ41間の通信と、パッチアンテナ42間の通信とは、同じ周波数を用いた場合でも−20dB程度のアイソレーションが取れる。実際上は、差動線状アンテナ41間の通信に対してパッチアンテナ42間の通信は1/10程度の周波数を用いて行われるため、−30dB〜−40dB程度のアイソレーションが取れる。
〔2.データ転送システムの電気的構成〕
次に、データ転送システムの電気的構成について説明する。
〔2−1.パーソナルコンピュータの電気的構成〕
パーソナルコンピュータ3は、図16に示すように、CPU(Central Processing Unit)71、ROM(Read Only Memory)72、RAM(Random Access Memory)73、操作入力部74、表示部75、記憶部76、及びインターフェイス部77がバス78を介して接続される。
CPU71は、ROM72に格納された基本プログラムをワークメモリとして機能するRAM73に展開して実行することにより全体を統括制御する。またCPU71は、ROM72又は記憶部76に格納されたアプリケーションプログラムをRAM73に展開して実行することにより各種プログラムを実行する。
操作入力部74は、マウス、キーボード、タッチパネル等が適応される。表示部75は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ、ブラウン管ディスプレイ等が適応される。記憶部76は、磁気ディスク、フラッシュメモリ等が適応される。
インターフェイス部77は、所定のケーブルを介して通信ユニット2のドック10と接続される。
〔2−2.通信ユニットの電気的構成〕
通信ユニット2は、図17に概略を示すように、ドック10のRAIDカード81と記憶装置20のSSD23とが通信モジュール301及び通信モジュール302を介して非接触接続される。
また通信ユニット2は、ドック10のUSBインターフェイス82と記憶装置20のSSD23A〜23Dとが通信モジュール301及び通信モジュール302を介して非接触接続される。
ドック10のRAIDカード81及びUSBインターフェイス82は、所定のケーブルを介してパーソナルコンピュータ3と接続される。
通信ユニット2は、図18に詳細を示すように、ドック10及び記憶装置20にそれぞれ、CPU、ROM、RAM等により構成されるマイクロコンピュータ(以下、これをマイコンとも呼ぶ)83及び84が設けられる。
マイコン83及び84は、ROMに格納された基本プログラムをRAMに展開して実行することによりドック10及び記憶装置20全体を統括制御し、また、ROMに格納されたプログラムをRAMに展開して実行することにより各種プログラムを実行する。
RAIDカード81は、4つのSSD23A〜23Dを使って例えばRAID0、RAID1又はRAID5等のRAID構成を構築する装置であり、SATA2規格のインターフェイスを有し、1CH〜4CHにそれぞれSSD23A〜23Dが接続される。
RAIDカード81とSSD23A〜23Dとは、SATA2規格に準拠した形で、非接触通信によりデータの送受信を同時平行で行う。
送信LSI36は、詳しくは後述するように、RAIDカード81のチャンネル数(本実施の場合、4チャンネル)分の差動送信回路91及び送信回路93(図19)が設けられており、各チャンネルのデータを同時に送信し得るようになされている。
受信LSI37は、RAIDカード81のチャンネル数(本実施の場合、4チャンネル)分の差動受信回路92及び受信回路94(図19)が設けられており、各チャンネルのデータを同時に受信し得るようになされている。
パーソナルコンピュータ3から出力されたデータをSSD23に記憶する場合、RAIDカード81は、パーソナルコンピュータ3から出力されたデータをどのSSD23に記憶するか設定し、設定したSSD23にデータを出力する。
例えば、SSD23Aにデータを記憶する際、RAIDカード81は、SSD23Aと接続された1CHからデータを出力する。その出力された信号は、送信LSI361の1CHに入力される。送信LSI361は、1CHに入力されたデータを送信アンテナ40A1で送信できるように波形整形して送信信号として該送信アンテナ40A1の差動線状アンテナ41に出力する。
送信アンテナ40A1の差動線状アンテナ41から出力された送信信号は、記憶装置20の受信アンテナ40E2の差動線状アンテナ41で受信信号として受信され受信LSI372の1CHに入力される。受信LSI372は、受信アンテナ40E2で受信した受信信号を波形整形してデータとしてSSD23Aに送信して記憶させる。
SSD23B〜23Dにデータを記憶する場合も、SSD23Aの場合と同様に、RAIDカード81のCH2〜CH4からデータが出力され、送信LSI361の2CH〜4CHを介して送信アンテナ40B1〜40D1の差動線状アンテナ41により送信信号として出力される。そして記憶装置20の受信アンテナ40F2〜40H2の差動線状アンテナ41で受信信号として受信され、受信LSI372のCH2〜CH4を介してSSD23B〜23Dに記憶される。
一方、SSD23に記憶されたデータをパーソナルコンピュータ3に出力する場合、RAIDカード81は、出力対象のデータの保存場所を特定し、その保存場所であるSSD23からデータを読み出す。
例えば、SSD23Aからデータを読み出す場合、SSD23Aから読み出されたデータは、送信LSI362の1CHに入力され、波形整形されて送信信号として送信アンテナ40A2の差動線状アンテナ41に出力される。
送信アンテナ40A2の差動線状アンテナ41から出力された送信信号は、ドック10の受信アンテナ40E1の差動線状アンテナ41で受信信号として受信され受信LSI371の1CHに入力される。受信LSI371は、受信アンテナ40E1で受信した受信信号を波形整形してデータとしてRAIDカード81のCH1に送信する。RAIDカード81は、1CHから入力されたデータを受信することにより、SSD23Aに記憶されたデータを読み出す。
SSD23B〜23Dに記憶されたデータを読み出す場合も、SSD23Aの場合と同様に、SSD23B〜23Dからデータが出力され、送信LSI362の2CH〜4CHを介して送信アンテナ40B2〜40D2の差動線状アンテナ41により送信信号として出力される。そしてドック10の受信アンテナ40F1〜40H1の差動線状アンテナ41で受信信号として受信され、受信LSI371を介してRAIDカード81の2CH〜4CHに入力される。
このようにRAIDカード81とSSD23とは、送信アンテナ40A〜40D及び受信アンテナ40E〜40Hの差動線状アンテナ41を用いて非接触通信を行うので、最大で6Gbpsでデータを送受信することができる。すなわち、SATA2規格の最大転送レートに対応した通信を非接触により行うことができる。
ところで、ドック10は、表示部25に表示すべきデータがパーソナルコンピュータ3からUSBインターフェイス82を介して入力された場合、そのデータが変換回路321に入力される。変換回路321は、入力されたデータを送信データとして送信LSI361に送出する。
送信LSI361は、入力された送信データを送信アンテナ40A1で送信し得るように波形整形して送信信号として送信アンテナ40A1のパッチアンテナ42に出力する。
送信アンテナ40A1のパッチアンテナ42から出力された送信信号は、記憶装置20の受信アンテナ40E2のパッチアンテナ42で受信信号として受信され受信LSI372に入力される。受信LSI372は、受信アンテナ40E2のパッチアンテナ42で受信した受信信号を波形整形して受信データとして変換回路322に送出する。
変換回路322は、受信LSI372から入力される受信データを半二重に変換して表示部25に送出する。表示部25は、供給される送信データに対応する表示画面を表示する。
一方、表示部25からパーソナルコンピュータ3へデータを送信する場合、表示部25から出力されたデータは、変換回路322に入力される。変換回路322は、入力されたデータを送信データとして送信LSI362に送出する。送信LSI362は、入力された送信データを波形整形して送信信号として送信アンテナ40A2のパッチアンテナ42に出力する。
送信アンテナ40A2のパッチアンテナ42から出力された送信信号は、ドック10の受信アンテナ40E1のパッチアンテナ42で受信され受信LSI371の1CHに入力される。受信LSI371は、受信アンテナ40E1で受信された受信信号を波形整形して受信データとして変換回路321に送出する。変換回路321は、受信LSI371から入力される受信データを半二重に変換してUSBインターフェイス82を介してパーソナルコンピュータ3に出力する。
このようにしてパーソナルコンピュータ3と表示部25は、送信アンテナ40A〜40D及び受信アンテナ40E〜40Hのパッチアンテナ42を用いて非接触通信を行うことによりデータを送受信する。
なお、本実施の形態においては、USBでの通信は1チャンネル分しか行わない。従って、ドック10における送信アンテナ40B1〜40D1及び受信アンテナ40F1〜40H1のパッチアンテナ42と、記憶装置20における送信アンテナ40F2〜40H2及び送信アンテナ40B2〜40D2のパッチアンテナ42との間の非接触通信は行わない。
〔2−3.送信LSI及び受信LSIの構成〕
送信LSI36は、図19に示すように、各チャンネル分の差動送信回路91及び送信回路93等を含む構成とされる。また受信LSI37は、各チャンネル分の差動受信回路92及び受信回路94等を含む構成とされる。送信LSI36及び受信LSI37には、図示していないが、送信LSI36及び受信LSI37全体を制御する制御回路、データを一時的に記憶するレジスタ、波形を整形するイコライザ及びエンファシス・デエンファシス回路等も含まれる。
なお、図19においては、送信LSI36においては、1チャンネル分の差動送信回路91及び送信回路93しか図示していないが、実際には他の3チャンネル分の差動送信回路91及び送信回路93がそれぞれ設けられている。同様に、受信LSI37においても、1チャンネル分の差動受信回路92及び受信回路94しか図示していないが、実際には他の3チャンネル分の差動受信回路92及び受信回路94がそれぞれ設けられている。
また、送信LSI36及び受信LSI37は、回路的には同一の構成とされるが、後述するように、マイコン83及び84の制御に基づいて送信用及び受信用してそれぞれ機能するようになされている。
送信LSI36の差動送信回路91は、図20に示すように、増幅回路101、出力バッファ102、自動利得制御回路(以下、これをAGC回路とも呼ぶ)103及び信号検出回路104により構成される。
増幅回路101は、RAIDカード81又はSSD23からSATA2規格に準拠された一定電圧(1.2V)のデータが入力されるため、その機能が無効にされ、入力されたデータをそのまま出力バッファ102、AGC回路103及び信号検出回路104に送出する。またAGC回路103は、増幅回路101と同様の理由から、その機能が無効にされる。
出力バッファ102は、信号検出回路104から供給される有効を示す信号が供給された場合には増幅回路101から入力されたデータを送出し、有効を示す信号が供給されるまでは増幅回路101から入力されたデータを送出しない。
信号検出回路104は、増幅回路101から信号が入力されたことを検出し、マイコン83又は84にその旨を示す信号を送出し、また、マイコン83又は84の制御に応じて出力バッファ103を有効にする信号を該出力バッファ102に送出する。
一方、差動受信回路92は、増幅回路111、出力バッファ112、AGC回路113及び信号検出回路114により構成される。
増幅回路111は、入力された信号(受信アンテナ40E〜40Hの差動線状アンテナ41で受信された受信信号)をAGC回路113から供給される増幅率に応じて増幅する。そして増幅回路111は、その増幅した受信信号を出力バッファ112、AGC回路113及び信号検出回路114に送出する。
出力バッファ112は、信号検出回路114から供給される有効を示す信号が供給された場合には増幅回路111から供給されたデータを送出し、有効を示す信号が供給されるまでは増幅回路111から入力されたデータを送出しない。
AGC回路113は、増幅回路111から供給される受信信号の電圧が、予め設定されているSATA2規格に準拠した電圧(1.2V)となるような増幅率を算出し、その増幅率をレジスタに記憶すると共に増幅回路111に送出する。
ここで、AGC回路113による増幅率の算出方法として、増幅回路111から供給される受信信号の電圧を直接測定して増幅率を算出する方法を用いてもよい。また、6GHzのような高周波数で電圧を測定することができない場合、例えば特開2009−60415号公報に記載されているような時間方向のずれを検出して増幅率を最適化する方法を使用してもよい。
信号検出回路114は、増幅回路111から信号が入力されたことを検出し、マイコン83又は84にその旨を示す信号を送出し、また、マイコン83又は84の制御に応じて出力バッファ103を有効にする信号を該出力バッファ102に送出する。
ところで、送信LSI36の送信回路93は、変換回路32から供給される送信データを波形変形して送信信号として送信アンテナ40A〜40Dのパッチアンテナ42に出力する。
一方、受信LSI37の受信回路94は、受信アンテナ40E〜40Hのパッチアンテナ42で受信された受信信号を一定の電圧に増幅し、その増幅した受信信号を波形整形して受信データとして変換回路32に送出する。
このようにしてドック10及び記憶装置20は、SATA2規格に準拠したRAIDカード81及びSSD23間の高速通信、及びUSB規格に準拠したパーソナルコンピュータ3及び表示装置25間の低速通信を送信アンテナ40A〜40D及び受信アンテナ40E〜40Hを介して非接触通信により行うようになされている。
〔3.位置制御処理〕
次に、ドック10のマイコン83及び記憶装置20のマイコン84により行われる位置制御処理について説明する。
〔3−1.アンテナ間の位置ずれの影響〕
ところで、上述したように、ドック10に設けられた通信モジュール301に配されるアンテナ401と、記憶装置20に設けられた通信モジュール302に配されるアンテナ402とは、それぞれ対向して配されたもの同士が非接触により通信を行う。
このとき、アンテナ40の差動線状アンテナ41同士は、電界の強度が距離の3乗に反比例して減衰する準静電界により通信が行われている。従って、予め設定されたアンテナ40間の距離からのずれ量が通信状態に大きな影響を与える。
具体的に、対向して配されるアンテナ40の差動線状アンテナ41同士は、XY平面上で同位置であり、Z軸方向に1mm離間して用いられるように設定(設計)されている。以下、対向して配されるアンテナ40の相対位置が、XY平面上で同位置であり、Z軸方向に1mm離間した位置を基準位置とも呼ぶ。また、予め設定されたアンテナ40間の距離、すなわちZ軸方向に1mm離間した距離を基準距離とも呼ぶ。
そして、対向して配されるアンテナ40の相対位置を基準位置からX軸、Y軸及びZ軸方向にそれぞれ移動させた(ずらした)際の、送信アンテナ40A〜40Dの差動線状アンテナ41から出力された送信信号を受信アンテナ40E〜40Hの差動線状アンテナ41で受信した際の電圧(受信電圧)のシミュレーション結果を図21に示す。
図21において、送信アンテナ40A〜40Dの差動線状アンテナ41に入力される送信信号の電圧は1.2V(1200mV)である。また、受信アンテナ40E〜40Hの差動線状アンテナ41で受信可能な受信信号の電圧の限界値(以下、これを閾値とも呼ぶ)を30mVとしている。
また図21において、Z軸方向の基準位置からのずれ量は、対向して配されるアンテナ40間の距離が離れる方向がプラス方向であり、該距離が縮まる方向がマイナス方向である。
さらに図21において、X軸及びY軸方向の受信電圧は、アンテナ40がX軸及びY軸に対称な構造となっているため、プラス方向及びマイナス方向へのずれ量は基本的には対称となる。
そして、図21からも明らかなように、対向して配されるアンテナ40同士が基準位置に位置しているとき、受信電圧は約53mVの最適値となる。
また、対向して配されるアンテナ40間の相対位置をY軸方向に基準位置から移動させた場合、移動距離すなわちアンテナ40同士のずれ量が±2mmとなっても受信電圧は閾値未満となることはない。従って、Y軸方向に対するずれ量は、事実上、無視できるものである。
一方、対向して配されるアンテナ40間の相対位置をX軸方向に基準位置から移動させた場合、ずれ量が約±1mmを超えると受信電圧は閾値未満となる。従って、X軸方向に対するずれ量は、±1mmの許容範囲があり、後述する機械精度で十分保証できるものである。
他方、対向して配されるアンテナ40間の距離をZ軸方向に基準位置(基準距離)から移動させた場合、アンテナ40間の距離が1.5mm(図21では+0.5mm)を超えると受信電圧は閾値未満となる。またアンテナ40間の距離が短くなるにつれて受信電圧は大きくなるが、最適値(約53mV)から離れていくことになり、0.75mm(図21では−0.25mm)までが許容範囲とされる。
従って、対向して配されるアンテナ40間のZ軸方向に対する距離は0.75mm〜1.5mmが許容範囲となる。これは、X軸、Y軸方向に対するずれ量の許容範囲より大幅に狭く、機械精度では保証することができない。そのため、ドック10に設けられた通信モジュール301に配されるアンテナ401と、記憶装置20に設けられた通信モジュール302に配されるアンテナ402との距離を調整することが必要になる。
因みに、通信モジュール30の基板31と同等の大きさの基板に、アンテナ40を1/2に縮小してX軸方向にそれぞれ8つずつ等間隔で並べた場合における図21と同様にしたシミュレーション結果を図22に示す。
図22からも分かるように、対向して配されるアンテナ40間のX軸、Y軸及びZ軸方向に対するずれ量の許容範囲は、±0.4mm、±2.0mm及び0.5mm〜1.2mmとなる。
このように、アンテナを小型化することにより、Z軸方向だけでなく、X軸方向の位置精度も厳しくなることがわかる。さらにアンテナ数を増やす場合、より許容範囲は狭くなり、位置精度も厳しくなる。
〔3−2.アンテナ間の位置ずれの要因〕
ドック10に設けられた通信モジュール301に配されるアンテナ401と、記憶装置20に設けられた通信モジュール302に配されるアンテナ402との位置ずれの要因としては以下の誤差が考えられる。
〔3−2−1.機械誤差〕
1つめの誤差としては、ドック10及び記憶装置20の各部がそれぞれ製造される際の機械誤差である。これらの誤差は、全体として約500μm程度であると考えられる。
〔3−2−2.歪誤差〕
2つ目の誤差として、基板31に例えば半田リフロー等によりアンテナ40を固定する際に、形状が加熱による歪んでしまうことにより発生する誤差である。
半田リフローは例えば250℃程度に加熱して半田を溶かして基板31にアンテナ40を固定するため、基板31は、素材ごとの膨張率の違いから歪が発生し、温度が下がった後でもその歪が残ってしまうことがある。この誤差は、約100〜200μm程度であると考えられる。
〔3−2−3.使用時の熱膨張誤差〕
3つ目の誤差として、実際に通信を行っている際に温度が上昇して基板31が熱膨張することにより生じる誤差である。通信が行われている際に例えば40℃程度になった場合、基板31は、XY平面で10mmあたり約4μm膨張し、Z軸方向に約20μm膨張する。
〔3−2−4.全体としての誤差〕
従って、ドック10に設けられた通信モジュール301に配されるアンテナ401と、記憶装置20に設けられた通信モジュール302に配されるアンテナ402と間は、使用時には750μm程度の位置ずれが発生する可能性がある。
これに対して、対向して配されるアンテナ40間のZ軸方向の位置ずれの許容範囲は0.75mm〜1.5mmであり、750μmの位置ずれが発生した場合には通信が行えなくなる可能性がある。
従って、ドック10に設けられた通信モジュール301に配されるアンテナ401と、記憶装置20に設けられた通信モジュール302に配されるアンテナ402との距離を調整することが必要になる。
〔3−3.AGCとアンテナ間距離の関係〕
上述したように、受信アンテナ40E〜40Hの差動線状アンテナ41で受信した受信信号は、AGC回路113から供給されるAGC信号に応じて増幅回路111により一定の電圧に増幅される。AGC回路113は、増幅回路111から供給される受信信号の受信電圧(受信振幅)が、一定の電圧(例えば1200mV)となるような増幅率を算出する。
従って、受信アンテナ40E〜40Hの差動線状アンテナ41で受信した信号の受信電圧と、AGC回路113で算出される増幅率とは図23に示すように反比例の関係となる。
一方、差動線状アンテナ41は準静電界により通信が行われており、また通信距離が充分に近傍であるため、フレネル領域に現れるような電波の干渉がなく、アンテナ40間の距離に反比例して受信電圧が一様に減衰する。
従って、図24に示すように、AGC回路113で算出される増幅率と、対向して配されるアンテナ40間の距離とは、AGC回路113で算出される増幅率を対数にとると、対向して配されるアンテナ40間の距離が対数をとった増幅率によってほぼ直線の関係で表される。
この関係により、AGC回路113で算出される増幅率を基に、対向して配されるアンテナ40間の距離が推定できる。
〔3−4.具体的な位置制御処理〕
以上のように、ドック10に設けられた通信モジュール301に配されるアンテナ401と、記憶装置20に設けられた通信モジュール302に配されるアンテナ402との距離には位置ずれが発生する。しかし、アンテナ40の差動線状アンテナ41同士が準静電界を用いて通信を行うので、AGC回路113で算出される増幅率を基に、対向して配されるアンテナ40間の距離が推定できる。そこで、ドック10のマイコン83及び記憶装置20のマイコン84は、位置制御処理を実行し、この推定された距離からアンテナ40間の距離が基準距離となるように調整する。
具体的には、ドック10のマイコン83及び記憶装置20のマイコン84は、電力が供給されると、ROMに記憶されたプログラムを読み出してRAMに展開することにより位置制御処理を実行する。
マイコン83は、図25に示すように、位置制御処理を実行する際、初期化部121、接続設定部122、距離推定部123、位置制御部124、通知制御部125及び通信制御部126として機能する。またマイコン84は、位置制御処理を実行する際、初期化部131、接続設定部132、距離推定部133、位置制御部134、通知制御部135及び通信制御部136として機能する。
ドック10は、パーソナルコンピュータ3と常時接続されて使用されることを前提としているため、例えばパーソナルコンピュータ3に電源電力が供給されると同時に電源電力が供給される。
マイコン83は、電源電力が供給されると位置制御処理を実行する。
通信モジュール301に配される送信LSI361及び受信LSI371は、電源電力が供給されると、所定のウェイト時間の間に、内部に設けられたリセット回路によりレジスタを含む各部が初期化される。
初期化部121は、位置制御処理を実行してからウェイト時間経過後に、送信LSI361及び受信LSI371のレジスタを明示的に初期化する。その際、初期化部121は、送信LSI361及び受信LSI371をそれぞれ送信用及び受信用として設定する。
また初期化部121は、送信LSI361の信号検出回路104を有効にすると共に、受信LSI371のAGC回路113及び信号検出回路114を有効にする初期設定を行う。
ところで、SATA2規格では、電源電力が供給されたホストとデバイスが接続を確認するためにOOB(Out of Band)信号と呼ばれるバースト信号を相互に送信するようになされている。
そこで接続設定部122は、RAIDカード81から送信されるOOB信号が送信LSI361の全チャンネルの信号検出回路104で検出された場合、RAIDカード81が全チャンネルで通信可能であると判断して送信LSI361の全出力バッファ102を有効にする。
これによりドック10では、RAIDカード81から出力されるOOB信号を送信信号として送信アンテナ40A1〜40D1の差動線状アンテナ41からそれぞれ出力している状態となり、ドック10に記憶装置20が載置されるまでこの状態を維持する。
これに対して接続設定部122は、RAIDカード81から送信されるOOB信号が送信LSI361のいずれかのチャンネルの信号検出回路104で検出されなかった場合、異常である旨をインジケータ14を例えば点滅させることによりユーザに通知して処理を終了する。
これは、ドック10内部のいずれか部品の故障や、コネクタが外れてRAIDカード81との接続がされていない場合などにおき、このような場合には自動復帰ができないので、ユーザに異常を通知して処理を終了する。
一方、記憶装置20は、ドック10に載置されることにより該ドック10から電源電力が供給される。マイコン84は、電源電力が供給されると1〜3秒のウェイト時間経過後に位置制御処理を実行する。なお、記憶装置20はユーザの手によりドック10に載置されるので、載置の仕方によっては電力供給の安定に若干長めの時間が必要になる場合があるためウェイト時間が1〜3秒と若干長めに設定される。
通信モジュール302に配される送信LSI362及び受信LSI372は、電源電力が供給されると、ウェイト時間の間に、内部に設けられたリセット回路によりレジスタを含む各部が初期化される。
初期化部131は、送信LSI362及び受信LSI372のレジスタを明示的に初期化する。その際、初期化部131は、送信LSI362及び受信LSI372をそれぞれ送信用及び受信用として設定する。また初期化部131は、送信LSI362の信号検出回路104を有効にすると共に、受信LSI372のAGC回路113及び信号検出回路114を有効にする。
接続設定部132は、SSD23から送信されるOOB信号が送信LSI361のいずれかのチャンネルの信号検出回路104で検出されなかった場合、異常である旨をインジケータ26を例えば点滅させることによりユーザに通知して処理を終了する。
これは、記憶装置20内部のいずれかの故障や、コネクタが外れてSSD23との接続がされていない場合などにおき、このような場合には自動復帰ができないので、ユーザに異常を通知して処理を終了する。特に可搬型の記憶装置20にあっては、故障やコネクタが外れることが起こりやすいため重要となる。
これに対して接続設定部132は、SSD23から送信されるOOB信号が送信LSI362の全チャンネルの信号検出回路104で検出された場合、SSD23が全チャンネルで通信可能であると判断して送信LSI362の全出力バッファ102を有効にする。
これによりドック10では、RAIDカード81から出力されるOOB信号を送信アンテナ40A2〜40D2の差動線状アンテナ41からそれぞれ出力する。
ドック10は、記憶装置20が該ドック10に載置されて送信アンテナ40A2〜40D2の差動線状アンテナ41からOOB信号が出力されると、そのOOB信号を受信アンテナ40A1〜40D1で受信する。
受信LSI371のAGC回路113は、受信アンテナ40A1〜40D1で受信されたOOB信号の受信電圧に応じて増幅率を算出する。
ところで、対向して配されるアンテナ40間の距離の許容範囲は0.75mm〜1.5mmであり、この範囲に対応する増幅率は、図24に示した直線関数を用いて算出すると18〜34の範囲(以下、これを正常動作範囲とも呼ぶ)になる。因みに、対向して配されるアンテナ40間の距離が基準距離である場合、増幅率は23の最適値となる。
すなわち、受信LSI371のAGC回路113で算出された増幅率がこの正常動作範囲内であればビットエラーレートは0(エラーフリー状態)で通信することができ、そこから外れるほどエラーレートが上昇していき、一定以上離れると通信不能状態になる。
そこでマイコン83では、この正常動作範囲と、該正常通常範囲より狭く設定され差動線状アンテナ41同士の通信が最適に行われるとされる20〜26の範囲(以下、これを正常初期化範囲とも呼ぶ)とがROMに記憶されており、必要に応じて読み出される。
これら正常初期化範囲及び正常動作範囲は、差動線状アンテナ41の特性と、アンテナ40間の距離、増幅回路111の特性により、最適な状態で通信が行える範囲に設定される。なぜなら、理想的に減衰した信号を理想的な増幅回路で処理するならば、増幅率が大きいほどスルーレートが改善されてジッタ成分などの信号品質は改善する。しかし、一例として、図26に増幅率とジッタとの関係を示すように、増幅回路の非線形歪や、増幅することにより受信信号のDC(Direct Current)オフセットまでの強調してしまうなどの弊害により、実際には信号品質の改善は頭打ちとなるからである。
接続設定部122は、受信LSI371のAGC回路113で算出された増幅率が全てのチャンネルで正常初期化範囲以内である場合、対向して配されるアンテナ40間の距離が通信可能な距離であると判断する。そして接続設定部122は、受信LSI371の出力バッファ102を有効にし、送受信が可能な状態にする。
これに対して接続設定部122は、受信LSI371のAGC回路113で算出された増幅率がいずれかのチャンネルで正常初期化範囲以内でない場合、対向して配されるアンテナ40間の距離が通信可能な距離でないと判断する。このとき距離推定部123は、AGC回路113で算出された増幅率を基に、図24に示した直線関数を用いて対向するアンテナ間の距離を推定する。
位置制御部124は、距離推定部123で推定された距離と基準距離との差分を算出し、対向して配されるアンテナ40間の距離が基準距離となるようにアクチュエータ13を駆動して記憶装置20をZ軸方向に移動させる。
より具体的には位置制御部124は、距離推定部123で推定された距離が基準距離より大きかった場合には、その差分だけ記憶装置20をドック10に近づく方向に移動させる。また位置制御部124は、距離推定部123で推定された距離が基準より小さかった場合には、その差分だけ記憶装置20をドック10から遠ざかる方向に移動させる。
接続設定部122、距離推定部123及び位置制御部124は、AGC回路113で算出された増幅率が全てのチャンネルで正常初期化範囲以内でない場合、上述した処理を例えば10回繰り返し行う。
接続設定部122、距離推定部123及び位置制御部124が上述した処理を例えば10回繰り返し行っても受信LSI371のAGC回路113で算出された増幅率が全てのチャンネルで正常初期化範囲以内でない場合、なんらかの異常が発生していると考えられる。例えば、アンテナ40間に金属片が挟まっていたり、アンテナ40が破損していたり、基板31が大きくX軸又はY軸方向にずれていたり、基板31が熱等の影響で変形しているなどが考えられる。
このような場合、接続設定部122、距離推定部123及び位置制御部124が上述した処理を何回繰り返しても改善されることがないので、通知設定部125は、インジケータ16を介して通信が開始できない旨をユーザに通知して処理を終了する。
一方、記憶装置20も、ドック10に載置されて該ドック10の送信アンテナ40A1〜40D1の差動線状アンテナ41から出力されたOOB信号を受信アンテナ40A2〜40D2で受信し、受信LSI372のAGC回路113により増幅率が算出される。
接続設定部132は、受信LSI372のAGC回路113で算出された増幅率が全チャンネルで正常初期化範囲以内である場合、対向して配されるアンテナ40間の距離が通信可能な距離であると判断する。そして接続設定部132は、受信LSI372の出力バッファ112を有効にし、送受信が可能な状態にする。
これに対して接続設定部132は、受信LSI372のAGC回路113で算出された増幅率がいずれかのチャンネルで正常初期化範囲以内でない場合、対向して配されるアンテナ40間の距離が通信可能な距離でないと判断する。
この実施の形態では、記憶装置20にはアンテナ40間の距離を調整する機構が設けられていないので、距離推定部133及び位置制御部134は機能しない。
そこで接続設定部132は、ドック10によりアンテナ40間の距離が調整されるとされる時間経過後、再び受信LSI372のAGC回路113で算出された増幅率が全てのチャンネルで正常初期化範囲以内であるかを判断する。
そして通知設定部135は、受信LSI372のAGC回路113で算出された増幅率が全てのチャンネルで正常初期化範囲以内でない場合、インジケータ16を介して通信が開始できない旨をユーザに通知して処理を終了する。
ドック10の接続設定部122及び記憶装置20の接続設定部132が共に受信LSI371の出力バッファ112及び受信LSI372の出力バッファ112を全て有効にし、送受信が可能な状態になると、RAIDカード81とSSD23との間でSATA2規格に準拠してデータ通信が開始される。
ここで、アンテナ40の差動線状アンテナ41を用いた通信は、極近距離で通信するので外乱の影響がほとんどないため、一度正常に通信が開始されると異常をきたすことはほとんどなく安定して通信を行うことができる。しかし、通信が行われている最中にユーザが記憶装置20をドック10から取り外そうとする場合なども考えられるため、ドック10及び記憶装置20では、異常を検出すると安全に通信が行われている間に通信を終了させてデータの破損を防止する。
具体的には、ドック10の通信制御部126は、例えば所定間隔ごとに受信LSI371のAGC回路103で算出される増幅率を取得し、全てのチャンネルで増幅率が正常動作範囲以内であるかを監視する。
そして通信制御部126は、いずれかのチャンネルで増幅率が正常動作範囲以内でなくなった場合、通信を正常に終了させる。このとき通知設定部125は、インジケータ14を介して異常が検出されたため通信を終了した旨をユーザに通知する。
同様に、記憶装置20の通信制御部136も、例えば所定間隔ごとに受信LSI372のAGC回路103で算出される増幅率を取得し、全てのチャンネルで増幅率が正常動作範囲以内であるかを監視する。
そして通信制御部136は、いずれかのチャンネルで増幅率が正常動作範囲以内でなくなった場合、通信を正常に終了させる。このとき通知設定部135は、インジケータ26を介して異常が検出されたため通信を終了した旨をユーザに通知する。
このようにしてドック10のマイコン83及び記憶装置20のマイコン84は、アンテナ40の差動線状アンテナ41による非接触通信が行われる際の位置制御を行うようになされている。
〔3−5.位置制御処理手順〕
次に、上述した位置制御処理の手順についてフローチャートを用いて説明する。
〔3−5−1.ドックのマイコンによる位置制御処理手順〕
マイコン83は、図27に示すフローチャートのルーチンRT1の開始ステップから入って次のステップSP1へ移り、所定時間経過するまで待機し、次のステップSP2に移る。この間に、送信LSI361及び受信LSI371は、内部に設けられたリセット回路により初期化される。
ステップSP2においてマイコン83は、送信LSI361及び受信LSI371のレジスタを初期化する等の初期設定を行い、次のステップSP3に移る。
ステップSP3においてマイコン83は、RAIDカード81から送出されるOOB信号が送信LSI361の全てのチャンネルの信号検出回路104で検出されたか否かを判断する。
ここで、いずれかのチャンネルのOOB信号が検出されなかった場合、マイコン83はステップSP4に移って異常である旨をユーザに通知して処理を終了する。
これに対して、全てのチャンネルのOOB信号で検出された場合、マイコン83はステップSP5に移って送信LSI361の出力バッファ102を有効にし、記憶装置20からOOB信号が送信されてくるまでこの状態を維持し、次のステップSP6に移る。
ステップSP6においてマイコン83は、受信アンテナ40E1〜40H1で受信されたOOB信号に基づいて受信LSI371のAGC回路103で算出された増幅率が正常初期化範囲内であるか否かを判断する。そしてマイコン83は、増幅率が正常初期化範囲内でなかった場合にはステップSP7に移る。
ステップSP7においてマイコン83は、受信LSI371のAGC回路113で算出された増幅率を基に対向して配されるアンテナ40間の距離を推定し、次のステップSP8に移る。
ステップSP8においてマイコン83は、推定された距離と基準距離とに基づいて対向して配されるアンテナ40間の距離が基準距離となるように記憶装置20をZ軸方向に移動させ、次のステップSP9に移る。
ステップSP9においてマイコン83は、ステップSP8で記憶装置20の移動調整が10回行われたか否かを判断し、10回行われていない場合にはステップSP6に戻り、10回行われた場合には通信が開始できない旨をユーザに通知して処理を終了する。
一方、ステップSP6において増幅率が正常初期化範囲内であった場合、マイコン83はステップSP10に移り、受信LSI371の出力バッファ102を有効にし、ATA2規格に準拠してデータ通信が開始できる状態にし、次のステップSP11に移る。
ステップSP11においてマイコン83は、RAIDカード81とSSD23との間でSATA2規格に準拠してデータ通信が行われている状態で、受信LSI371のAGC回路113で算出される全チャンネルの増幅率が正常動作範囲以内であるかを検出する。
ステップSP11で全てのチャンネルで増幅率が正常動作範囲以内である場合、マイコン83はステップSP11を繰り返し行う。
これに対してステップSP11でいずれかのチャンネルの増幅率が正常動作範囲以内でなくなった場合、マイコン83はステップSP12に移って、通信を正常に終了させ、ステップSP2に戻る。
〔3−5−2.記憶装置のマイコンによる位置制御処理手順〕
マイコン84は、図28に示すフローチャートのルーチンRT2の開始ステップから入って次のステップSP21へ移り、1〜3秒に設定された時間が経過するまで待機し、次のステップSP22に移る。この間に、送信LSI362及び受信LSI372は、内部に設けられたリセット回路により初期化される。
ステップSP22においてマイコン84は、送信LSI362及び受信LSI372のレジスタを初期化する等の初期設定を行い、次のステップSP23に移る。
ステップSP23においてマイコン84は、SSD23から送出されるOOB信号が送信LSI362の全てのチャンネルの信号検出回路114で検出されたか否かを判断する。
ここで、いずれかのチャンネルのOOB信号が検出されなかった場合、マイコン84はステップSP24に移って異常である旨をユーザに通知して処理を終了する。
これに対して、全てのチャンネルのOOB信号が検出された場合、マイコン84はステップSP25に移って送信LSI362の出力バッファ112を有効にし、次のステップSP26に移る。
ステップSP26においてマイコン84は、受信アンテナ40E2〜40H2で受信したOOB信号に基づいてAGC回路113で算出された増幅率が正常初期化範囲内であるか否かを判断する。そしてマイコン84は、増幅率が正常初期化範囲内でなかった場合にはステップSP27に移り、通信が開始できない旨をユーザに通知して処理を終了する。
一方、ステップSP26において増幅率が正常初期化範囲内であった場合、マイコン84はステップSP28に移り、受信LSI372の出力バッファ112を有効にし、ATA2規格に準拠してデータ通信が開始できる状態にし、次のステップSP29に移る。
ステップSP29においてマイコン84は、RAIDカード81とSSD23との間でSATA2規格に準拠してデータ通信が行われている状態で、受信LSI372のAGC回路113で算出される全チャンネルで増幅率が正常動作範囲以内であるかを検出する。
ステップSP29で全てのチャンネルで増幅率が正常動作範囲以内である場合、マイコン84はステップSP29を繰り返し行う。
これに対してステップSP29でいずれかのチャンネルで増幅率が正常動作範囲以内でなくなった場合、マイコン84はステップSP30に移って、通信を正常に終了させ、ステップSP22に戻る。
〔4.動作及び効果〕
以上の構成においてアンテナ40は、所定間隔離して同一平面上に配される所定長さのアンテナ素子51及び52からなる作動線状アンテナ41と、アンテナ素子51及び52が配される平面と平行に配されるパッチアンテナ42とによる2層構造でなる。
送信用として用いられるアンテナ40(送信アンテナ40A〜40D)の差動線状アンテナ41は、アンテナ素子51及び52に逆極性の電圧が給電され、該アンテナ素子51及び52で磁界を発生させる。
送信アンテナ40A〜40Dと対向して配される受信用として用いられるアンテナ40(受信アンテナ40A〜40D)の差動線状アンテナ41は、送信アンテナ40A〜40Dのアンテナ素子51及び52で発生された磁界によりアンテナ素子51及び52が逆極性に帯電される。
これにより送信アンテナ40A〜40Dの差動線状アンテナ41から出力された信号が送信アンテナ40A〜40Dの差動線状アンテナ41で受信される。このとき送信アンテナ40A〜40Dの差動線状アンテナ41と送信アンテナ40A〜40Dの差動線状アンテナ41とは、電界の強度が距離の3乗に反比例して減衰する準静電界により通信が行われるので、数Gbpsの高速通信ができる。
一方、パッチアンテナ42は、アンテナ素子51及52の延長線を通り該パッチアンテナ42に対して垂直な仮想面に挟まれる領域に給電点が設けられる。
これによりアンテナ40は、差動線状アンテナ41におけるアンテナ素子51及び52にはそれぞれ逆極性の電圧が給電されるためパッチアンテナ42へはそれぞれの極性が同等の影響を与えるために相殺されてほとんど干渉することない。
またアンテナ40は、パッチアンテナ42から放出される電波もアンテナ素子51及び52にほぼ同等に影響を与えるために該アンテナ素子51及び52が受信する電圧の差分をとることによりその影響が相殺される。
かくしてアンテナ40は、差動線状アンテナ41及びパッチアンテナ42が互いに干渉することなくそれぞれ通信を行うことができる。これによりアンテナ40は、異なる信号を無線通信する差動線状アンテナ41及びパッチアンテナ42を2層構造にすることができるので小型化することができる。
また、ドック10及び記憶装置20は、対向して配されるアンテナ40間の距離をAGC回路113及び123により算出される増幅率に基づいて推定するようにした。
これは、アンテナ40の差動線状アンテナ41が、対向して配されるアンテナ40間の距離に反比例して受信電圧が一様に減衰する特性を有しているので、増幅率と該アンテナ40間の距離が比例の関係で表されることによるものである。
これによりドック10及び記憶装置20は、対向して配されるアンテナ40間の距離を測定するために別途装置や回路を設けることなく推定することができるので、構成を簡易にすることができる。
さらに、ドック10は、推定されたアンテナ40間の距離に基づいて、アクチュエータ装置13を駆動して記憶装置20をZ軸方向に移動させ、該アンテナ40間の距離を予め設定された最適に通信できるとされる基準距離に調整するようにした。
これによりドック10及び記憶装置20は、距離のずれが通信に大きな影響を与える準静電界を用いて通信する差動線状アンテナ41を最適な距離間隔にすることができ、差動線状アンテナ41同士の通信を最適な環境で行わせることができる。
<2.他の実施の形態>
なお上述した実施の形態においては、パッチアンテナ42に対して、X軸方向における中央の隅に給電点63が設けられるようにした場合について述べた。本発明はこれに限らず、アンテナ素子51及び52の延長線を通りパッチアンテナ42の面に垂直な仮想面に挟まれる領域内であればどこに給電点が設けられていてもよい。ただし、差動線状アンテナ41への干渉を考慮すると、アンテナ素子51及びアンテナ素子52が線対称となる基準とされる線上、すなわちパッチアンテナ42におけるY軸方向の中央線上のいずれかの位置がよりよい。
また上述した実施の形態においては、アンテナ素子51及び52が平行に配されるようにした場合について述べた。本発明はこれに限らず、パッチアンテナ42に電流が流れる方向に沿った基準線に対して所定間隔離間して線対称にアンテナ素子51及び52が配されていればよい。
また上述した実施の形態においては、遮蔽枠44及びパッチアンテナ42と接するように、アンテナ40の側面に等間隔に複数の遮蔽柱45が設けられるようにした場合について述べた。この遮蔽柱45は、アンテナ素子51及び52により発生された電界を他の隣接するアンテナ40に届かせないようにするために設けられたものである。従って本発明ではこれに限らず、例えば、アンテナ40の側面を導電性の平板で覆うようにしてもよい。これにより遮蔽柱45が設けられた場合と同様の効果を得ることができる。
また上述した実施の形態においては、アンテナ素子51及び52と同一平面上に遮蔽枠44が設けられている場合について述べたが、本発明はこれに限らず、遮蔽枠44がアンテナ素子51及び52とは異なる高さの位置に設けられるようにしてもよい。但し、遮蔽枠44は、アンテナ素子51及び52と同一平面上に設けられた場合が一番アンテナ素子51及び52により発生された電界がアンテナ40の外に放射されるのを防ぐことができる。
また上述した実施の形態においては、アンテナ40の差動線状アンテナ41がSATA2規格に準拠して接続されるRAIDカード81及びSSD23の間の通信を非接触通信にした場合について述べた。本発明はこれに限らず、アンテナ40の差動線状アンテナ41は、例えばPCI Express規格に準拠して接続される装置間の通信を非接触通信にするようにしてもよい。
また上述した実施の形態においては、アンテナ40のパッチアンテナ42がUSB規格に準拠して接続されるパーソナルコンピュータ3及び表示部25の間の通信を非接触通信にした場合について述べた。本発明はこれに限らず、アンテナ40のパッチアンテナ42は、例えばRS232CやUART(Universal Asynchronous Receiver Transmitter)等の規格に準拠して接続される装置間の通信を非接触通信にするようにしてもよい。因みに、RS232CやUARTは、全二重通信の規格なので、半二重と全二重を変換する変換回路を設ける必要がない。またUART規格の場合、特別なネゴシエーションを必要としないため、送信アンテナ40A〜40Dと受信アンテナ40E〜40Hが近い距離で対向していれば、いつでも通信が可能になり、例えばSSD23の挿抜確認や存在確認等に用いることもできる。
また上述した実施の形態においては、ドック10の通信モジュール301と記憶装置20の通信モジュール302との間に何も設けないようにした場合について述べた。本発明はこれに限らず、図29に示すように、ドック10の通信モジュール301と記憶装置20の通信モジュール302との間に、対向する送信アンテナ40A〜40Dと受信アンテナ40E〜40Hとの間が1mmとなるスペーサ150を設けるようにしてもよい。これにより、対向する送信アンテナ40A〜40Dと受信アンテナ40E〜40Hとの間が常に基準距離である1mmに保持されるので、常に最適な通信状態を維持できる。
また別例として図30に示すように、ドック10の通信モジュール301と保護フィルタ291の間、及び記憶装置20の通信モジュール302と保護フィルタ292の間にそれぞれスペーサ151及び152を設けるようにしてもよい。このスペーサ151及び152は、対向する送信アンテナ40A〜40Dと受信アンテナ40E〜40Hとの間が1mmとなる厚さでなる。これにより上述した場合と同様の効果を得ることができる。
また上述した実施の形態においては、調整部としてのアクチュエータ機構13をドック10に設けるようにした場合について述べた。本発明はこれに限らず、対向して配されるアンテナ40間の距離を調整する調整部を記憶装置20に設けるようにしてもよい。この場合、例えば通信モジュール302だけをZ軸方向に移動させるアクチュエータ機構を記憶装置20の内部に設けることにより実現できる。
調整部を記憶装置20に設けた場合、その制御をドック10に設けられた位置制御部124及び記憶装置20に設けられた位置制御部134のどちらで行うようにしてもよい。ドック10に設けられた位置制御部124が行う場合、例えば使用されていないパッチアンテナ42を用いて制御信号をドック10から記憶装置20に送信することにより実現できる。
因みに位置制御部134が位置制御を行う場合は、距離推定部133及び位置制御部134は機能を機能させる。そして位置制御部134は、位置制御部124と同様に、距離推定部133で推定された距離と基準距離との差分を算出し、対向して配されるアンテナ40間の距離が基準距離となるようにアクチュエータ13を駆動して記憶装置20をZ軸方向に移動させる。
また上述した実施の形態においては、ドック10に設けられた位置制御部124によりアクチュエータ機構13を制御するようにした場合について述べた。本発明はこれに限らず、記憶装置20に設けられた位置制御部134によりアクチュエータ機構13を制御するようにしてもよい。この場合、例えば使用されていないパッチアンテナ42を用いて制御信号を記憶装置20からドック10に送信することにより実現できる。
また上述の実施の形態においては、調整部としてのアクチュエータ機構13を位置制御部124が制御することにより対向して配されるアンテナ40間の距離を調整するようにした場合について述べた。本発明はこれに限らず、ユーザが手動によりアンテナ40間の距離を調整するようにしてもよい。
また上述の実施の形態においては、通知設定部125及び135は、通信が開始できない旨及び異常が検出されたため通信を終了した旨をユーザに通知するためにインジケータ14及び26を点滅させるようにした場合について述べた。本発明はこれに限らず、受信LSI371のAGC回路103及び受信LSI372のAGC回路113で算出された増幅率に応じて異なる色でインジケータ14及び26を点灯させるようにしてもよい。
例えば通知設定部125及び135は、受信LSI371のAGC回路103及び受信LSI372のAGC回路113で算出された増幅率が正常動作範囲内であるときには青色に点灯させる。また通知設定部125及び135は、該増幅率が正常動作範囲外で正常動作範囲内であるときには緑色に点灯させ、該増幅率が正常動作範囲外であるときには赤色に点灯させる。これにより、ユーザが手動により対向して配されるアンテナ40間の距離を調整する場合に、該インジケータ14及び26を目視させながら調整させることにより、容易にユーザに調製させることができる。
因みにインジケータ14及び26は、RAIDのチャンネル分のLEDを設けるようにして、各チャンネルごとに別々にLEDを点灯させるようにしてもよい。
また別例として、通知設定部125及び135は、受信LSI371のAGC回路103及び受信LSI372のAGC回路113で算出された増幅率が正常動作範囲の最小値(18)より小さい値であったときには例えば赤色でインジケータ14及び26を点灯させる。また通知設定部125及び135は、該増幅率が正常動作範囲の最大値(34)より多きい値であったときには例えば橙色でインジケータ14及び26を点灯させる。これによりユーザが手動で対向して配されるアンテナ40間の距離を調整する場合に、どちらの方向に移動させるかを容易に分からせることができる。
また上述した実施の形態においては、Z軸方向の位置のみ調整するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、X軸方向、Y軸方向についても位置調整するようにしてもよい。
具体的には、図31に示すように、通信ユニット200のドック210は、筐体部211の上面211Aに、通信モジュール301に対してY軸方向に添った所定の位置にZ軸正方向に突出した突出部212が設けられる。
通信ユニット200の記憶装置220は、筐体部221の底面221Bに、ドック210の突起部212が嵌合する嵌合部222が設けられる。従って、記憶装置220は、嵌合部222がドック210の突出部212に嵌合するようにして載置されると、該嵌合部222を回転中心としてXY平面上で回転移動できる。これにより対向して配されるアンテナ40間のX軸及びY軸方向の位置を調整することができる。なお、記憶装置220を回転移動させるのは、別途設けられたアクチュエータ機構をマイコン83又は84が制御することにより行わせてもよく、また手動で行わせてもよい。また、Z軸方向の移動に関しては例えば通信モジュール30だけを移動させるアクチュエータ機構を別途設けるようにすれば、X軸、Y軸及びZ軸の全ての方向で対向して配されるアンテナ40間の距離を調整することができる。
また別例として図32に示すように、通信ユニット300のドック310は、筐体部311の上面311Aに、通信モジュール301を挟んで対称の位置にX軸方向に添ってレール312A及び312Bが設けられる。
通信ユニット300の記憶装置320は、筐体部321の底面321Bに、ドック310のレール312A及312Bに係合するレール溝322A及び322Bが設けられる。従って、記憶装置320は、レール溝322A及び322Bがドック310のレール312A及び312Bに係合するようにして載置されると、レール312A及び312Bに沿ってX軸方向に移動できる。これにより対向して配されるアンテナ40間のX軸方向の位置を調整することができる。なお、記憶装置320を回転移動させるのは、別途設けられたアクチュエータ機構をマイコン83又は84が制御することにより行わせてもよく、また手動で行わせてもよい。また、Z軸方向の移動に関しては例えば通信モジュール30だけを移動させるアクチュエータ機構を別途設けるようにすれば、X軸及びZ軸の全ての方向で対向して配されるアンテナ40間の距離を調整することができる。
さらに別例として図33に示すように、通信モジュール430を用いることによりX軸方向の位置を調整するようにしてもよい。通信モジュール430は、略H型の基板431の四隅にX軸方向に沿った長孔431A、431B、431C及び431Dが設けられる。また通信モジュール430は、アンテナ40A〜40Hが配される面側に例えばネオジウム磁石等の磁石432A〜432Dが設けられる。
そしてドック10及び記憶装置20に通信モジュール30に変えてこの通信モジュール430を取り付ける。その際、通信モジュール430の長孔431A、431B、431C及び431Dにネジ27を挿通させ、バネ27Aで通信モジュール430を押し付けるようにして固定させる。
これにより、ドック10に設けられた通信モジュール4301の磁石432A1〜432D1と、記憶装置20に設けられた通信モジュール4302の磁石432A2〜432D2とが引き付けあってXY平面の位置がほぼ対向するように固定されることができる。
また上述した実施の形態においては、Z軸方向の位置のみ調整するようにした場合について述べた。本発明はこれに限らず、Z軸方向の位置を調整しても増幅率が正常動作範囲以内にならない場合には、X軸方向、Y軸方向についても位置を調整するようにしてもよい。
また上述した実施の形態においては、通信制御部126は、受信LSI371のAGC回路103で算出される増幅率を取得し、全てのチャンネルで増幅率が正常動作範囲以内であるかを監視し、いずれかのチャンネルで増幅率が正常動作範囲以内でなくなった場合、通信を正常に終了させるようにした場合について述べた。本発明はこれに限らず、通信制御部126は、所定間隔ごとに取得される受信LSI371のAGC回路103で算出される増幅率を時系列で記憶する。そして制御部126は、増幅率が正常動作範囲の最大値又は最小値へ近づく方向に推移している場合、増幅率が正常動作範囲外になる前に通信を終了させるようにしてもよい。
また上述した実施の形態においては、位置制御部124が、距離推定部123で推定された距離と基準距離との差分を算出し、対向して配されるアンテナ40間の距離が基準距離となるようにアクチュエータ13を駆動して記憶装置20をZ軸方向に移動させるようにした場合について述べた。本発明はこれに限らず、位置制御部124は、距離推定部123で推定された距離と基準距離との差分を算出し、その差分がアクチュエータ13の駆動範囲内であった場合には記憶装置20をZ軸方向に移動させる。また移動制御部124は、差分がアクチュエータ13の駆動範囲外であった場合には通知制御部125及びインジケータ14を介してその旨を通知し、記憶装置20を移動させないようにしてもよい。
また上述した実施の形態においては、マイコン83及び84がROMに格納されているプログラムに従い、上述した各種処理を行うようにした場合について述べた。本発明はこれに限らず、例えば記憶媒体からインストールしたり、インターネットからダウンロードしたプログラムに従って上述した各種処理を行うようにしても良い。またその他種々のルートによってインストールしたプログラムに従って上述した各種処理を行うようにしても良い。
また上述した実施の形態においては、差動線状アンテナとして差動線状アンテナ41、パッチアンテナとしてパッチアンテナ42が設けられるようにした場合について述べた。本発明はこれに限らず、その他種々の構成でなる差動線状アンテナ、パッチアンテナを設けるようにしても良い。