以下、本発明を好適に実施するための形態(以下、実施形態という。)につき、詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に記載した内容により限定されるものではない。また、以下に記載した実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。更に、以下に記載した実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
<積層型セラミック電子部品>
本発明の誘電体磁器組成物を含む誘電体層を適用した積層型セラミック電子部品の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、積層型セラミック電子部品としてLCフィルターを用いた場合について説明する。図1は、本発明の誘電体磁器組成物を誘電体層として適用したLCフィルターの一実施形態を模式的に示す概念断面図である。図1に示すように、LCフィルター10は、複数の誘電体層11と、コイル部12と、キャパシタパターン部13−1〜13−3と、ビア(ビア導体)14とを含む。誘電体層11は、本実施形態の誘電体磁器が用いられている。コイル部12およびキャパシタパターン部13−1から13−3はAg導体で形成されている。ビア部14は、コイル部12とキャパシタパターン部13−1とを導通させるAg導体が充填されたビアホール部分であり、LC共振回路が形成されている。キャパシタパターン部13−1はビア部14によってコイル部12と接続されている。LCフィルター10はキャパシタパターン部13−1〜13−3を設け、LCフィルター10のコンデンサ部は3層構造としているが、LCフィルター10は3層構造に限定されず、任意の多層構造とすることができる。
[誘電体層]
誘電体層11は、主成分および副成分が異なる材料で構成される誘電体層を複数含んでいる。誘電体層11は、本実施形態に係る誘電体磁器組成物を含んでいる。図2は、本発明の誘電体磁器組成物を用いて形成された誘電体層の一部の構成を模式的に示す概念断面図である。図2に示すように、本実施形態の誘電体層11は、第1の誘電体層21と、第2の誘電体層22とを含むものである。第1の誘電体層21は、BaOとNd2O3とTiO2(以下、BaNdTiO系酸化物という。)とを含む層であり、第2の誘電体層22は第1の誘電体層21とは異なる材料を含む層であり、本実施形態に係る誘電体磁器組成物を含んで形成される層である。
なお、本実施形態において、誘電体磁器組成物とは、誘電体磁器の原料組成物であり、誘電体磁器とは、誘電体磁器組成物を焼結させることによって得られる焼結体である。また、焼結とは、誘電体磁器組成物を加熱することで、誘電体磁器組成物が焼結体(誘電体磁器)となり、緻密な物体になる現象である。一般に、加熱前の誘電体磁器組成物に比べて、焼結体(誘電体磁器)の密度、機械的強度等は大きくなる。また、焼結温度とは、誘電体磁器組成物が焼結する際の誘電体磁器組成物の温度である。また、焼成とは、焼結を目的とした加熱処理を意味し、焼成温度とは、加熱処理の際に誘電体磁器組成物が曝される雰囲気の温度である。
誘電体磁器組成物を低温で焼成することが可能であるか否か(低温焼結性)の評価は、誘電体磁器組成物の焼成温度を徐々に下げて焼成し、本実施形態に係る誘電体磁器が所望の誘電体高周波特性が得られる程度に誘電体磁器組成物が焼結しているかどうかで判断することができる。また、本実施形態に係る誘電体磁器についての誘電特性は、Q・f値、温度変化による共振周波数の変化(共振周波数の温度係数τf)、および比誘電率εrによって評価することができる。Q・f値、比誘電率εrは、日本工業規格「マイクロ波用ファインセラミックスの誘電特性の試験方法」(JIS R1627 1996年度)に従って測定することができる。
(第1の誘電体層)
第1の誘電体層21は、主成分と副成分とを含んで構成されている。
(主成分)
第1の誘電体層21の主成分は、後述する第2の誘電体層22と異なる材料であればよく、その種類は特に限定されるものではない。第1の誘電体層21の主成分は、公知のものを用いることができる。第1の誘電体層21に含まれる主成分は、例えば、BaOとNd2O3とTiO2とを含むBaNdTiO系酸化物で構成されている。第2の誘電体層22と異なる材料を含む誘電体層とは、第1の誘電体層21の成分が、第2の誘電体層22の成分と完全同一でなければよい。例えば、第2の誘電体層22の成分の一部が第1の誘電体層21に含まれていてもよい。
第1の誘電体層21の主成分としては、例えば、BaO−Nd2O3−TiO2系、Bi2O3−BaO−Nd2O3−TiO2系等の誘電体セラミックスが挙げられる。BaOとNd2O3とTiO2との各々の含有量は特に限定されるものではなく、適宜調整するようにしてもよい。
BaO−Nd2O3−TiO2系の化合物の場合、好ましくは、下記式(1)で表される組成式において下記式(2)から式(5)で表される関係を満たすものが好ましい。なお、下記式(1)から(5)のx、y、zは、モル%である。
xBaO・yNd2O3・zTiO2 ・・・(1)
6.0≦x≦23.0 ・・・(2)
13.0≦y≦30.0 ・・・(3)
64.0≦z≦68.0 ・・・(4)
x+y+z=100 ・・・(5)
第1の誘電体層21は、主成分としてBaOとNd2O3とTiO2と以外に他の材料を更に含んでもよい。他の主成分としては、例えば、Mg2SiO4、エンスタタイト(MgO・SiO2)、ディオプサイド(CaO・MgO・2SiO2)、チタン酸マグネシウム(MgTiO3)、チタン酸カルシウム(CaTiO3)等を含んでいてもよい。これらの中でも、特に、Mg2SiO4が好ましい。Mg2SiO4は誘電損失を小さくするという観点からフォルステライト結晶の形態で第1の誘電体層21に含まれていることが好ましい。第1の誘電体層21にフォルステライト結晶が含有されているか否かは、X線回折装置(X-Ray Diffraction spectroscopy:XRD)によって確認できる。
BaO−Nd2O3−TiO2系化合物は高い比誘電率εrを有し、比誘電率εrの値は55から105程度である。Mg2SiO4は単体で低い比誘電率εrを有し、比誘電率εrの値は6.8程度である。第1の誘電体層21は、主成分が比誘電率εrの高いBaO−Nd2O3−TiO2系化合物と、比誘電率εrの低いMg2SiO4を含有することにより、第1の誘電体層21の比誘電率εrを下げる。
BaO−Nd2O3−TiO2系化合物のQ・f値は2000GHz以上8000GHz以下である。一方、Mg2SiO4のQ・f値は200000GHz程度であり、Mg2SiO4の誘電損失はBaO−Nd2O3−TiO2系化合物の誘電損失に比べて小さい。本実施形態では、第1の誘電体層21の主成分がBaO−Nd2O3−TiO2系化合物とMg2SiO4とを含むことで誘電損失が小さい誘電体層とすることができる。
なお、Q・f値とは、誘電損失の大きさを表し、現実の電流と電圧の位相差と、理想の電流と電圧の位相差90度との差である損失角度δの正接tanδの逆数Q(Q=1/tanδ)と、共振周波数fとの積である。
通常、理想的な誘電体磁器に交流を印加すると電流と電圧は90度の位相差を持つ。しかし、交流の周波数が高くなり高周波となると誘電体磁器の電気分極又は極性分子の配向が高周波の電場の変化に追従できないか、電子又はイオンが伝導することにより電束密度が電場に対して位相の遅れ(位相差)を持ち、現実の電流と電圧は90度以外の位相を持つことになる。このような位相差に起因して高周波のエネルギーの一部が熱となって放散する現象を誘電損失という。誘電損失の大きさは、上記のQ・f値で表される。誘電損失が小さくなればQ・f値は大きくなり、誘電損失が大きくなればQ・f値は小さくなる。
(副成分)
第1の誘電体層21は、更にその副成分を含んでいてもよい。副成分は、誘電体磁器組成物を焼成する際に液相を形成する。副成分が誘電体磁器組成物に含有されることによって誘電体磁器組成物の焼結温度を低下させることができる。これにより、後述するように、積層型セラミック電子部品の内部導体としてAg系金属からなる導体材を用いることができる。第1の誘電体層21に含まれる副成分としては、例えば、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、ビスマス酸化物、コバルト酸化物、マンガン酸化物、銅酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ガラスなどが挙げられるが、特にこれに限定されるものでない。副成分としてアルカリ土類金属酸化物を用いる場合、アルカリ土類金属酸化物は、炭酸カルシウム(CaCO3)であることがより好ましい。ガラスは酸化リチウム(Li2O)を含有するガラスであることが好ましい。
上記の各副成分が第1の誘電体層21に含有されることによって第1の誘電体層21の焼結温度を低下させることができる。LCフィルター10の内部導体等はAg系金属からなる導体材などが用いられる。第1の誘電体層21に各副成分を含め、第1の誘電体層21の焼結温度を導体材の融点より低くすることで、第1の誘電体層21を低い温度で焼成することができる。
副成分の含有量は特に限定されるものでないが、全ての主成分の和に対する全ての副成分の和の量は1.0質量%以上20.0質量%以下であることが好ましい。
副成分としては、亜鉛酸化物を含むことが好ましい。亜鉛酸化物(特に、ZnO)は、誘電体磁器組成物をAg系金属と同時焼成する際に、低温(Ag系金属の融点より低い温度)で焼成するのに寄与するため、亜鉛酸化物を含めることで、低温(Ag系金属の融点より低い温度)で誘電体磁器組成物をAg系金属と安定して同時焼成させることができる。
副成分として酸化亜鉛が含まれる場合、酸化亜鉛の含有量は、酸化亜鉛の質量をZnOとして換算したとき、ZnOの質量比率は主成分100質量%に対して0.1質量%以上7.0質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以上7.0質量%以下であることがより好ましい。
副成分として酸化ホウ素が含まれる場合、酸化ホウ素の含有量は、酸化ホウ素の質量をB2O3として換算したとき、B2O3の質量比率は主成分100質量%に対して0.1質量%以上3.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上2.5質量%以下であることがより好ましい。
副成分として酸化ビスマスが含まれる場合、酸化ビスマスの含有量は、酸化ビスマスの質量をBi2O3として換算したとき、Bi2O3の質量比率は主成分100質量%に対して1.0質量%以上4.0質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以上3.5質量%以下であることがより好ましい。
副成分として酸化コバルトが含まれる場合、酸化コバルトの含有量は、酸化コバルトの質量をCoOとして換算したとき、CoOの質量比率は主成分100質量%に対して0.5質量%以上2.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上1.5質量%以下であることがより好ましい。
副成分として酸化マンガンが含まれる場合、酸化マンガンの含有量は、酸化マンガンの質量をMnOとして換算したとき、MnOの質量比率は主成分100質量%に対して0.3質量%以上1.5質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上1.0質量%以下であることがより好ましい。
副成分として酸化銅が含まれる場合、酸化銅の含有量は、酸化銅の質量をCuOとして換算したとき、CuOの質量比率は主成分100質量%に対して0.1質量%以上2.0質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以上1.3質量%以下であることがより好ましい。
副成分としてアルカリ土類金属酸化物である炭酸カルシウムが含まれる場合、酸化カルシウムの含有量は、酸化カルシウムの質量をCaCO3として換算したとき、CaCO3の質量比率は主成分100質量%に対して0.1質量%以上1.5質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上1.5質量%以下であることがより好ましい。
副成分としてガラスが含まれる場合、ガラスの含有量は、主成分100質量%に対して2.0質量%以上7.0質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以上5.5質量%以下であることがより好ましい。
[第2の誘電体層]
第2の誘電体層22は、本実施形態に係る誘電体磁器組成物を含んで形成される誘電体層である。
本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、Mg2SiO4を含む主成分と、副成分とを含み、前記Mg2SiO4を含む主成分原料と副成分原料とを混合した原料混合粉末を、酸素雰囲気下において800℃以上950℃以下の温度で熱処理することにより得られ、X線回折において、主相であるMg2SiO4の2θが10.0°から70.0°の間におけるX線回折ピーク強度IAに対する、熱処理後の未反応なまま存在する副成分原料の2θが10.0°から70.0°の間におけるX線回折ピーク強度IBのピーク強度比IB/IAが、40%以下である。
(主成分)
本実施形態に係る誘電体磁器組成物には、Mg2SiO4(フォルステライト)が主成分として含まれる。第2の誘電体層22の主成分は、Mg2SiO4のみに限定されるものではなく、他の成分を含んでいてもよく、第2の誘電体層22に含まれる主成分としては、例えば、エンスタタイト(MgO・SiO2)、ディオプサイド(CaO・MgO・2SiO2)等を含んでいてもよい。これらの中でも、特に、Mg2SiO4が好ましい。Mg2SiO4は誘電損失を小さくするという観点からフォルステライト結晶の形態で第2の誘電体層22に含まれていることが好ましい。第2の誘電体層22にMg2SiO4結晶が含有されているか否かは、X線回折装置(X-Ray Diffraction spectroscopy:XRD)によって確認できる。
Mg2SiO4は、単体でのQ・f値が200000GHz以上であり、誘電損失が小さいため、誘電体磁器(焼結体)の誘電損失を低下させる機能を有する。また、Mg2SiO4は、その比誘電率εrが6から7程度と低いため、誘電体磁器組成物の比誘電率εrを低下させる機能も有する。ここで、誘電損失は、高周波のエネルギの一部が熱となって放散する現象である。誘電損失の大きさは、現実の電流と電圧の位相差と理想の電流と電圧の位相差90度との差である損失角度δの正接tanδの逆数Q(Q=1/tanδ)で表わされる。誘電体磁器組成物の誘電損失の評価は、このQと共振周波数fの積であるQ・f値を用いている。誘電損失が小さくなればQ・f値は大きくなり、誘電損失が大きくなればQ・f値は小さくなる。誘電損失は高周波デバイスの電力損失を意味するため、誘電体磁器のQ・f値は大きいことが好ましい。
Mg2SiO4は、比誘電率εrが低く、かつQ・f値が大きいという観点から、第2の誘電体層22は、Mg2SiO4を主成分とする誘電体層とすることで、比誘電率εrを低くすると共に、Q・f値を大きくすることができる。
誘電体磁器組成物の誘電損失を下げるという観点から、主成分に占めるMg2SiO4の割合が100質量%であることが好ましいが、比誘電率εrを調整するため、Mg2SiO4以外の主成分をMg2SiO4と併用することができる。Mg2SiO4以外の主成分としては、例えば比誘電率εrが17前後であるチタン酸マグネシウム(MgTiO3)、および比誘電率εrが200前後であるチタン酸カルシウム(CaTiO3)等が挙げられる。
Mg2SiO4を構成するMgOとSiO2とのモル比は、化学量論的にはMgO対SiO2が2対1であるが、本実施形態はこれに限定されるものではなく、本実施形態に係る誘電体磁器の効果を損なわない範囲内で化学量論比から外れてもよい。例えば、MgO対SiO2は、1.9対1.1から2.1対0.9の範囲内とすることができる。
本実施形態の誘電体磁器中のMg2SiO4の含有量は、誘電体磁器組成物全体から後述する各副成分を除いた残部であることが好ましい。誘電体磁器組成物がこのような条件で主成分であるMg2SiO4を含むことで、誘電損失および比誘電率εrを低下する効果が確実に得られるようになる。なお、主成分として上記のようなMg2SiO4以外の成分を含む場合、主成分の合計は誘電体磁器組成物全体から後述の各副成分を除いた残部となる。
(副成分)
本実施形態の誘電体磁器組成物は、主成分であるMg2SiO4に対する副成分を含んでいる。第2の誘電体層22に含まれる副成分は、第1の誘電体層21に含まれる副成分と同様のものが用いられる。また、第2の誘電体層22に含まれる主成分がフォルステライトのみである場合、フォルステライトのみを低温焼結させる場合は副成分の含有量は多くなる。このため、第2の誘電体層22に含まれる副成分の含有量は、全ての主成分の和に対する全ての副成分の和の量は16.1質量%以上48.0質量%以下であることが好ましい。
亜鉛酸化物としては、例えばZnO等が挙げられる。副成分として酸化亜鉛が含まれる場合、酸化亜鉛の含有量は、酸化亜鉛の質量をZnOとして換算したとき、ZnOの質量比率は主成分100質量%に対して9.0質量%以上18.0質量%以下であることが好ましく、10.0質量%以上16.0質量%以下であることがより好ましく、12.0質量%以上16.0質量%以下であることが更に好ましい。亜鉛酸化物(特に、ZnO)は、誘電体磁器組成物をAg系金属と同時焼成する際に、低温(Ag系金属の融点より低い温度)で焼成するのに寄与する。このため、亜鉛酸化物の含有量を上記範囲内とすることで、低温(Ag系金属の融点より低い温度)で誘電体磁器組成物をAg系金属と安定して同時焼成させることが可能となる。
亜鉛酸化物の含有量が9.0質量%未満となると、低温焼結効果(即ち、より低い温度での誘電体磁器組成物の焼結を可能とする効果)が不充分となる傾向があり、誘電体磁器(焼結体)の焼結密度は小さくなり、品質係数Qが低下して、誘電損失が大きくなる傾向がある。また、亜鉛酸化物の含有量が18質量%を超えると、品質係数Qが低下して、誘電損失が大きくなる傾向がある。そこで、亜鉛酸化物の含有量を上記範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。
副成分としてホウ素酸化物が含まれる場合、ホウ素酸化物の含有量は、ホウ素酸化物の質量をB2O3に換算した場合、主成分100質量%に対して、3.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以上8.0質量%以下であることがより好ましい。
副成分として銅酸化物が含まれる場合、銅酸化物の含有量は、銅酸化物の質量をCuOとして換算したとき、CuOの質量比率は主成分100質量%に対して1.0質量%以上8.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以上6.0質量%以下であることがより好ましい。
副成分としてアルカリ土類金属酸化物が含まれる場合、アルカリ土類金属酸化物の含有量は、アルカリ土類金属酸化物の質量をRO(Rはアルカリ土類金属元素を示す)に換算した場合、主成分100質量%に対して、1.0質量%以上4.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましい。アルカリ土類金属酸化物を誘電体磁器組成物に含有させることによって、誘電体磁器組成物の低温焼結効果が顕著となる。
アルカリ土類金属酸化物の含有量が1.0質量%未満となると、低温焼結効果が十分に得られなくなる傾向があり、誘電体磁器(焼結体)の焼結密度が低くなりやすく、品質係数Qが低下して誘電損失が大きくなる傾向がある。また、アルカリ土類金属酸化物の含有量が4.0質量%を超えると、低温焼結効果は顕著となるものの、品質係数Qが低下して、誘電損失が大きくなる傾向がある。そこで、アルカリ土類金属酸化物の含有量を上記範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。
アルカリ土類金属であるRとしては、Ba、Sr、Caの何れかが好ましく、これらの2種以上を混合して用いてもよい。具体的なアルカリ土類金属酸化物ROとしては、MgO、CaO、SrO、BaO等が挙げられる。副成分としてアルカリ土類金属酸化物を用いる場合、アルカリ土類金属酸化物は、炭酸カルシウム(CaCO3)であることがより好ましい。
副成分としてアルカリ土類金属酸化物である炭酸カルシウムが含まれる場合、炭酸カルシウムの含有量は、酸化カルシウムの質量をCaCO3として換算したとき、CaCO3の質量比率は主成分100質量%に対して0.1質量%以上6.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上4.0質量%以下であることがより好ましい。
ガラス成分は、酸化リチウム(Li2O)を含むガラスを少なくとも1つ以上含むものであることが好ましい。ガラス成分がLi2Oを含むことで、更に未反応な副成分原料とMg2SiO4との反応性を促進し、焼成後、誘電体磁器組成物に未反応で残る副成分原料を更に低減すると共に、副成分原料を完全に反応させることができるので、誘電体磁器(焼結体)の焼結性は更に安定して確保できる。これにより、得られる誘電体磁器(焼結体)のQ値は更に上昇させることができ、誘電損失を更に小さくすることができる。また、低温(Ag系金属の融点より低い温度)で誘電体磁器組成物をAg系金属と同時焼成することを可能とする。
副成分として含まれるガラス成分としては、例えば、SiO2−RO−Li2O(ROはアルカリ土類金属酸化物を1種類以上含む)系ガラスとB2O3−RO−Li2O系ガラスとの何れか一方又は両方を含んで構成されるものが好ましい。ガラス成分として、具体的には、SiO2−RO−Li2O系ガラスとしては、SiO2−CaO−Li2O系ガラス、SiO2−SrO−Li2O系ガラス、SiO2−BaO−Li2O系ガラス、SiO2−CaO−SrO−Li2O系ガラス、SiO2−BaO−CaO−Li2O系ガラス、SiO2−SrO−BaO−Li2O系ガラス、SiO2−CaO−SrO−BaO−Li2O系ガラスなどが挙げられる。B2O3−RO−Li2O系ガラスとしては、B2O3−CaO−Li2O系ガラス、B2O3−SrO−Li2O系ガラス、B2O3−BaO−Li2O系ガラス、B2O3−CaO−SrO−Li2O系ガラス、B2O3−BaO−CaO−Li2O系ガラス、B2O3−SrO−BaO−Li2O系ガラス、B2O3−CaO−SrO−BaO−Li2O系ガラスなどが挙げられる。これらの中でも、SiO2−BaO−CaO−Li2O系ガラスが好ましい。
副成分としてガラス成分が含まれる場合、副成分の一種であるガラス成分の含有量は、ガラス成分の質量をSiO2−BaO−CaO−Li2O系ガラスに換算した場合、副成分からガラス成分を除いた誘電体組成100質量%に対して、2.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以上7.0質量%以下であることがより好ましく、4.0質量%以上6.0質量%以下であることが更に好ましい。
ガラス成分の含有量が2.0質量%未満となると、低温焼結効果が不充分となり、焼結が不足し、誘電体磁器(焼結体)の焼結密度は小さくなり、品質係数Qは低下し、誘電損失が大きくなる傾向がある。また、ガラス成分の含有量が10.0質量%を超えると、品質係数Qは低下し、誘電損失が大きくなる傾向がある。そこで、ガラス成分の含有量を上記範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。
また、X線回折において、主相であるMg2SiO4と、未反応なまま存在する副成分原料との各々のX線回折ピーク強度を測定することで、主相中に含まれる未反応なまま存在する副成分原料の含有割合を求めることができる。第2の誘電体層22に含まれる本実施形態の誘電体磁器組成物では、X線回折において、主相であるMg2SiO4の2θが10.0°から70.0°の間におけるX線回折ピーク強度IAに対する、熱処理後の未反応なまま存在する副成分原料の2θが10.0°から70.0°の間におけるX線回折ピーク強度IBのピーク強度比IB/IAが、40%以下であり、好ましくは30%以下であり、更に好ましくは25%である。未反応なまま存在する副成分原料として、X線回折においてピーク強度が観察しやすいなどいつ観点から、例えば、亜鉛酸化物が挙げられるが、これに限定されるものではない。ピーク強度比IB/IAが40%を越えると、異なる材料を含む主成分および副成分を含む誘電体磁器組成物の熱収縮率に合うように調整することが困難であり、例えば第1の誘電体層21に含まれる異なる材料を含む主成分および副成分を含む誘電体磁器組成物と剥離が生じやすくなるなど誘電体磁器組成物の特性等に影響を及ぼし、異なる材料を含む主成分および副成分を含む誘電体磁器組成物と同時に焼成することができないからである。このため、ピーク強度比IB/IAを上記範囲内とすることで、異なる材料を含む主成分および副成分を含む誘電体磁器組成物の熱収縮率と合うように熱収縮率を調整することが可能となる。
主相であるMg2SiO4のX線回折ピーク強度IAは、2θが10.0°から70.0°の間で求められるが、X線回折ピーク強度IAは、特に2θが35.0°から37.0°の間に最大ピークを生じることから、2θが35.0°から37.0°の間に生じる最大ピークをX線回折ピーク強度IAとするのが好ましい。熱処理後の未反応なまま存在する副成分原料として亜鉛酸化物のX線回折ピーク強度IBは、2θが10.0°から70.0°の間で求められるが、X線回折ピーク強度IBは、30℃から39℃の間(図5中、破線部分参照)に生じる最大ピークをX線回折ピーク強度IAとするのが好ましく、特に2θが31.0°から32.0°および34.0°から35.0°の間に最大ピークを生じることから、2θが31.0°から32.0°および34.0°から35.0°の間に生じる最大ピークをX線回折ピーク強度IBとするのがより好ましい。このX線回折ピーク強度IBから未反応なまま残存する亜鉛酸化物を確認することができ、X線回折ピーク強度IAと比較することで、主成分中に未反応なまま残存する亜鉛酸化物の割合を確認することができる。主成分中に未反応なまま残存する亜鉛酸化物は、誘電体磁器組成物を焼結した際、熱収縮率に影響し、第1の誘電体層21に含まれる異なる材料を含む主成分および副成分を含む誘電体磁器組成物と同時焼成する際、異なる材料を含む主成分および副成分を含む誘電体磁器組成物の熱収縮率に合うように調整し、第1の誘電体層21に含まれる異なる材料を含む主成分および副成分を含む誘電体磁器組成物と剥離が生じやすくなるなど誘電体磁器組成物の特性等に影響を与えることを抑制する。
X線回折ピーク強度IAおよびX線回折ピーク強度IBは、後述するように、主成分原料粉末と副成分原料粉末とを混合し、熱処理(仮焼き)する際の仮焼き温度を800℃以上950℃以下とすることで、X線回折ピーク強度IBのピーク強度を低くすることができ、未反応な副成分原料を減らすことができる。
図3は、誘電体磁器組成物の熱収縮挙動を示す図である。図3中、実線は、第1の誘電体層21に含まれる第1の誘電体磁器組成物の熱収縮挙動を示し、一点鎖線は、第2の誘電体層22に含まれる本実施形態に係る誘電体磁器組成物(第2の誘電体磁器組成物)の熱収縮挙動を示し、破線は、従来の第2の誘電体層に含まれる従来の第2の誘電体磁器組成物の熱収縮挙動を示す。図3に示すように、本実施形態に係る誘電体磁器組成物の熱収縮挙動(図3中、一点鎖線)の方が、従来の第2の誘電体磁器組成物の熱収縮挙動(図3中、破線)よりも第1の誘電体磁器組成物の熱収縮挙動(図3中、実線)に近づけることができる。よって、本実施形態に係る誘電体磁器組成物を、第1の誘電体磁器組成物の熱収縮挙動に近づけることで、第1の誘電体磁器組成物と本実施形態に係る誘電体磁器組成物とを同時焼成しても、本実施形態に係る誘電体磁器組成物の熱収縮率を第1の誘電体磁器組成物の熱収縮率に合うように調整できるので、第1の誘電体層21と第2の誘電体層22との間に剥離が生じるのを抑制することができる。
X線回折ピーク強度IAのMg2SiO4の2θの角度は、35.0°から37.0°の間の範囲内としているが、誘電体磁器組成物を作製する際、Mg2SiO4結晶粉末に、副成分原料粉末として亜鉛酸化物以外の副成分を添加しており、誘電体磁器に含まれる副成分の組成比に応じて若干変動することから、Mg2SiO4の2θの角度は、35.5°から36.5°の間の範囲内が好ましく、36.3°付近がより好ましい。
X線回折ピーク強度IBの未反応なまま存在する亜鉛酸化物の2θの角度は、31.0°から32.0°および34.0°から35.0°の間の範囲内と各々しているが、上記と同様に、誘電体磁器に含まれる副成分の組成比に応じて若干変動することから、未反応なまま存在する亜鉛酸化物の2θの角度のうち31.0°から32.0°の値は、31.5°から32.0°の間の範囲内が好ましく、31.8°付近がより好ましい。また、未反応なまま存在する亜鉛酸化物の2θの角度のうち34.0°から35.0°の角度は、34.0°から35.0°の間の範囲内が好ましく、34.5°付近がより好ましい。
よって、第2の誘電体層22に含まれる本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、後述するように、主成分原料と副成分原料との原料混合粉末を熱処理(仮焼き)することで得られる。本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、このときのX線回折におけるピーク強度比IB/IAを40%以下とする。これにより、本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、原料混合粉末における主成分原料と副成分原料の充填性が変化し、原料混合粉末の密度が増加する傾向にある。第1の誘電体層21に含まれる第1の誘電体磁器組成物は、第2の誘電体層22に含まれる本実施形態に係る誘電体磁器組成物とは異なる材料を含む主成分および副成分を含む誘電体磁器組成物であるが、本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、材料の組成を調整することなく第1の誘電体磁器組成物の熱収縮率に合うように熱収縮率を調整することが可能となる。このため、本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、第1の誘電体磁器組成物と同時焼成する際、第1の誘電体層21と第2の誘電体層22とで剥離が生じるのを抑制しつつ、第1の誘電体磁器組成物と同時に焼成することができる。
また、酸素雰囲気下において800℃以上950℃以下の温度で熱処理した後の原料混合粉末を含むスラリーをシート状に成型してプレスした後であって焼成する前における原料混合粉末の密度は、5%以上15%以下の範囲内で向上させることが好ましい。主成分と副成分との原料混合粉末の密度が増加することで焼成前の原料混合粉末の密度が向上する。また、焼成後の原料混合粉末の密度は一定である。このため、プレスした後であって焼成する前における原料混合粉末の密度を、上記範囲内で向上させることで、原料混合粉末の熱収縮率の変動を抑制できる。これにより、異なる材料を含む主成分および副成分を含む誘電体磁器組成物との熱収縮率をより安定して一致させることができる。
また、第2の誘電体層22となる本実施形態に係る誘電体磁器組成物に含まれる主成分と副成分との原料混合粉末を熱処理する前の一次平均粒子径と、第1の誘電体層21となる誘電体磁器組成物に含まれる原料混合粉末の熱処理する前の一次平均粒子径との差が、0.0μm以上0.7μm以下であることが好ましい。これにより、微粉砕後に得られる本実施形態に係る誘電体磁器組成物の粒径を第1の誘電体層21となる誘電体磁器組成物の熱収縮挙動と合わせる等の調整をしなくても、一次平均粒子径の差から本実施形態に係る誘電体磁器組成物の熱収縮挙動を第1の誘電体層21となる誘電体磁器組成物の熱収縮挙動に更に安定して調整することができる。
このように、本実施形態に係るLCフィルター10は、第2の誘電体層22に本実施形態に係る誘電体磁器を含んでいることから、第1の誘電体層21となる誘電体磁器組成物と本実施形態に係る誘電体磁器組成物とは、双方の熱収縮挙動をほぼ一致させて同時に焼成することができる。よって、本実施形態に係るLCフィルター10は、第1の誘電体層21と第2の誘電体層22のように異なる材料の主成分と副成分とを含む誘電体磁器組成物同士を積層して同時に焼成し、誘電体層を形成しても、積層された第1の誘電体層21と第2の誘電体層22との間で剥離が生じるのを抑制することができるため、第1の誘電体層21と第2の誘電体層22とは、強い接着力を有しながら積層させることができる。従って、第1の誘電体層21と第2の誘電体層22とを複数積層させて電子デバイスを形成しても誘電体層同士の接着は安定して形成することができるので、信頼性の高い積層型セラミック電子部品を提供することができる。
LCフィルター10は、はんだ付け等によってプリント基板上に実装され、各種電子機器に用いられる。LCフィルター10は、多層型のSMD(Surface Mount Device)として好適に用いることができる。
本実施形態に係る積層型セラミック電子部品は、LCフィルター10のように、誘電体層11とキャパシタパターン部13−1から13−3とが交互に積層される積層型セラミック電子部品に限定されるものではなく、誘電体層を含む積層型セラミック電子部品であれば好適に用いることができる。また、本実施形態に係る積層型セラミック電子部品は、外部に更に素子が個別に実装される積層型セラミック電子部品であっても好適に用いることができる。
本実施形態においては、LCフィルター10の誘電体層として、第2の誘電体層22に本発明に係る誘電体磁器組成物を用いた場合について説明したが、本実施形態は、これに限定されるものではない。本実施形態に係る誘電体磁器組成物を含む他の積層型セラミック電子部品としては、例えば、コンデンサ、共振器、回路基板、ロー・パス・フィルタ(Low-pass filter:LPF)、バンド・パス・フィルタ(Band-pass filter:BPF)、ダイプレクサ(DPX)、カプラ(方向性結合器)、バルン(又はバラン;平衡不平衡インピーダンス変換器)等の積層型セラミック電子部品の一部を構成する誘電体層として好適に用いることができる。
<積層型セラミック電子部品の製造方法>
本実施形態に係る積層型セラミック電子部品の製造方法の一例について図面を用いて説明する。図4は、本実施形態に係る積層型セラミック電子部品の製造方法の一例を示すフローチャートである。図4に示すように、本実施形態に係る積層型セラミック電子部品の製造方法は、次のような(A)から(C)の工程を含んでなる。
(A) 第2の主成分原料とは異なる材料を含む第1の主成分原料と第1の副成分原料とを混合し、酸素雰囲気下において800℃以上950℃以下の温度で仮焼きして第1の誘電体磁器組成物を作製すると共に、Mg2SiO4を含む第2の主成分原料と第2の副成分原料とを混合し、酸素雰囲気下において800℃以上950℃以下の温度で仮焼きして第2の誘電体磁器組成物を作製する誘電体磁器組成物の作製工程(ステップS11)
(B) 第1の誘電体磁器組成物を含む第1のスラリーをシート状に形成する第1のシート体(第1のグリーンシート)と、第2の誘電体磁器組成物を含む第2のスラリーをシート状に形成する第2のシート体(第2のグリーンシート)を作製するシート体作製工程(ステップS12)
(C) 第1のシート体と第2のシート体とを交互に積層し、シート積層体を形成するシート積層体形成工程(ステップS13)
(D) シート積層体を酸素雰囲気下において800℃以上1000℃以下の温度で焼成して、積層焼結体を得る焼成工程(ステップS14)
<誘電体磁器組成物の作製工程:ステップS11>
誘電体磁器組成物の作製工程(ステップS11)は、第1の主成分原料と第1の副成分原料とを混合し、仮焼きした後、微粉砕して第1の誘電体磁器組成物を作製すると共に、第2の主成分原料と第2の副成分原料とを混合し、仮焼きして第2の誘電体磁器組成物を作製する工程である。
誘電体磁器組成物の作製工程(ステップS11)は、第1の誘電体磁器組成物および第2の誘電体磁器組成物を各々製造するにあたり、以下の工程を含む。
(A−1) 主成分原料の粉末に副成分原料を添加して原料混合粉末を作製する原料混合粉末の作製工程(ステップS11−1)
(A−2) 原料混合粉末を熱処理(仮焼き)する原料混合粉末の熱処理(仮焼き)工程(ステップS11−2)
(第1の誘電体磁器組成物の作製)
第1の主成分原料は、BaとNdとTiとを含むものである。第1の主成分原料は、BaとNdとTiの他に、MgとSiを含むようにしてもよい。第1の副成分原料は、ZnO、B2O3、Bi2O3、CoO、MnO、CuO、アルカリ土類金属酸化物、ガラス等の少なくとも一つ以上を含むものである。第1の副成分原料は、低温焼結性を向上させる観点から、ZnOを含むことが好ましい。
第1の主成分原料として、炭酸バリウム(BaCO3)の原料粉末と水酸化ネオジム(Nd(OH)3)の原料粉末と酸化チタン(TiO2)の原料粉末とを混合して熱処理(仮焼き)し、BaNdTiO系酸化物の粉末を作製する。具体的には、第1の主成分原料として、BaNdTiO系酸化物の原料となるBaCO3の原料粉末とNd(OH)3の原料粉末とTiO2の原料粉末とをそれぞれ所定量秤量した後、混合する。これにより、第1の主成分原料の混合粉末を得る。また、BaCO3の原料粉末とNd(OH)3の原料粉末とTiO2の原料粉末との混合は、乾式混合又は湿式混合等の混合方式で行うことができ、例えば、ボールミルなどの混合分散機で純水、エタノール等の溶媒を用いて混合する。ボールミルの場合の混合時間は4時間から24時間程度とする。
第1の主成分原料の混合粉末を、好ましくは100℃以上200℃以下、より好ましくは120℃以上140℃以下で12時間から36時間程度乾燥させた後、熱処理(仮焼き)する。この仮焼きによって、BaNdTiO系酸化物が得られる。仮焼温度は、1100℃以上1500℃以下であることが好ましく、1100℃以上1350℃以下であることが好ましい。また、仮焼時間は1時間から24時間程度行うことが好ましい。
得られたBaNdTiO系酸化物を、粉砕して粉末とした後、乾燥する。これにより、BaNdTiO系酸化物の粉末が得られる。粉砕は乾式粉砕又は湿式粉砕等の粉砕方式で行なうことができ、例えば、ボールミルで純水、エタノール等を用いて湿式粉砕する。粉砕時間は、特に限定されるものではなく、所望の平均粒子径の大きさのBaNdTiO系酸化物の粉末が得られればよく、粉砕時間は例えば4時間から24時間程度とすればよい。Mg2SiO4結晶粉末の乾燥は、好ましくは100℃以上200℃以下、より好ましくは120℃以上140℃以下の乾燥温度で、12時間から36時間程度行なう。
第1の主成分原料は第1の副成分原料と混合する前に、BaNdTiO系酸化物を予め粉体に粉砕し、仮焼きをしておくことで、第1の主成分原料を第1の副成分原料と効率よく混合することができる。
得られたBaNdTiO系酸化物の粉末と第1の副成分原料とを混合し、第1の原料混合粉末を作製する(ステップS11−1)。第1の原料混合粉末を酸素雰囲気下において仮焼きし、所望の粒度に粉砕した後、乾燥する。これにより、第1の誘電体磁器組成物が得られる(ステップS11−2)。
第1の原料混合粉末を仮焼きする際の焼成温度は、800℃以上950℃以下であることが好ましく、800℃以上900℃以下であることがより好ましく、830以上870℃以下が最も好ましい。焼成時間は、特に限定されないが、2時間以上5時間以下であることが好ましい。第1の誘電体磁器組成物は粉体状となっているが、湿式ボールミル等により、微粉砕する。
(第2の誘電体磁器組成物の作製)
第2の主成分原料は、上述のように、Mg2SiO4を含むものであり、第2の副成分原料は、ZnO、B2O3、Bi2O3、CoO、MnO、CuO、アルカリ土類金属酸化物、ガラス等の少なくとも一つ以上を含むものであり、上述の本実施形態に係る誘電体磁器組成物に用いられる副成分原料が用いられる。
第2の主成分原料として、酸化マグネシウム(MgO)の原料粉末と酸化珪素(SiO2)の原料粉末とを混合して熱処理(仮焼き)し、フォルステライト(Mg2SiO4)結晶粉末を作製する。具体的には、第2の主成分原料として、Mg2SiO4結晶粉末の原料となるMgOの原料粉末とSiO2の原料粉末とをそれぞれ所定量秤量した後、混合する。これにより、第2の主成分原料の混合粉末を得る。また、MgOの原料粉末およびSiO2の原料粉末との混合は、乾式混合又は湿式混合等の混合方式で行うことができ、例えば、ボールミルなどの混合分散機で純水、エタノール等の溶媒を用いて混合する。ボールミルの場合の混合時間は4時間から24時間程度とする。
第2の主成分原料の混合粉末を、好ましくは100℃以上200℃以下、より好ましくは120℃以上140℃以下で12時間から36時間程度乾燥させた後、熱処理(仮焼き)する。この仮焼きによって、Mg2SiO4結晶が得られる。仮焼温度は、1100℃以上1500℃以下であることが好ましく、1100℃以上1350℃以下であることが好ましい。また、仮焼時間は1時間から24時間程度行うことが好ましい。
合成されたMg2SiO4結晶を、粉砕して粉末とした後、乾燥する。これにより、Mg2SiO4結晶粉末が得られる。粉砕は乾式粉砕又は湿式粉砕等の粉砕方式で行なうことができ、例えば、ボールミルで純水、エタノール等を用いて湿式粉砕する。粉砕時間は、特に限定されるものではなく、所望の平均粒子径の大きさのMg2SiO4結晶粉末が得られればよく、粉砕時間は例えば4時間から24時間程度とすればよい。Mg2SiO4結晶粉末の乾燥は、好ましくは100℃以上200℃以下、より好ましくは120℃以上140℃以下の乾燥温度で、12時間から36時間程度行なう。
なお、Mg2SiO4結晶による効果を大きくするためには、Mg2SiO4中に含まれる未反応のMgOやSiO2の原料成分を少なくする必要があるため、MgOとSiO2とを混合した原料混合粉末を調製する際、マグネシウムのモル数がケイ素のモル数の2倍となるように、MgOとSiO2とを混合することが好ましい。
Mg2SiO4結晶粉末は、MgOの原料粉末およびSiO2の原料粉末からMg2SiO4結晶を合成する方法に限定されるものではなく、市販のMg2SiO4を用いてもよい。この場合、市販のMg2SiO4を、上述と同様の方法で粉砕し、乾燥してMg2SiO4結晶粉末を得るようにしてもよい。
Mg2SiO4結晶粉末を得た後、得られたMg2SiO4結晶粉末と、第2の誘電体磁器組成物の副成分の原料である第2の副成分原料粉末を所定量秤量し、これらを混合する。具体的には、Mg2SiO4結晶粉末と第2の副成分原料粉末とを混合し、第2の原料混合粉末を得る(ステップS11−1)。この原料混合粉末を熱処理(仮焼き)した後、熱処理後の原料混合粉末に対し、第2の副成分原料粉末の残りであるガラス成分を添加し、所望の粒度に粉砕した後、乾燥する。これにより、第2の誘電体磁器組成物が得られる(ステップS11−2)。本実施形態では、ガラス成分は、Mg2SiO4結晶粉末と第2の副成分原料粉末とを混合した後、熱処理して得られる粉に添加するようにしているが、本実施形態はこれに限定されるものではなく、ガラス成分は、Mg2SiO4結晶粉末と第2の副成分原料粉末とを混合し熱処理する時に混合してもよい。
副成分原料粉末としては、例えば、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、アルカリ土類金属酸化物、およびガラス成分、又はこれらを焼成(後述する仮焼き等の熱処理)することによってこれらの酸化物となる化合物などが挙げられる。亜鉛酸化物としては、上記のように、例えばZnOが挙げられる。ホウ素酸化物としては、B2O3等が挙げられる。アルカリ土類金属酸化物としては、BaO、SrO、CaO、MgO等が挙げられる。ガラス成分としては、上記のように、Li2Oを含むガラスなどが挙げられる。Li2Oを含むガラスとしては、例えば、SiO2−RO−Li2O系ガラスやB2O3−RO−Li2O系ガラスなどが挙げられる。焼成により上記酸化物となる化合物としては、例えば、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、硫化物、有機金属化合物等が例示される。ガラス成分がLi2Oを含むことで、更に未反応なまま存在する副成分原料とMg2SiO4との反応を促進させることができるので、誘電体磁器(焼結体)の焼結性を安定して確保できると共にAg系金属が溶融しない程度の低温で誘電体磁器組成物をAg系金属と同時焼成することができる。
第2の副成分原料粉末の各原料の秤量は、完成後の誘電体磁器組成物において、副成分原料粉末の含有量が、主成分に対して所望の上記質量比率(質量%)となるように行う。
Mg2SiO4結晶粉末と第2の副成分原料粉末との混合は、乾式混合又は湿式混合等の混合方式で行うことができ、例えば、ボールミルなどの混合分散機で溶媒として純水を用いて混合方式により行うことができる。混合時間は、4時間から24時間程度とすればよい。
第2の原料混合粉末を、好ましくは100℃以上200℃以下、より好ましくは120℃以上140℃以下の乾燥温度で、12時間から36時間程度乾燥する。
乾燥させた第2の原料混合粉末は、例えば800℃以上950℃以下で、1時間から10時間程度、熱処理(仮焼き)して仮焼き粉を作製する。このように仮焼を焼成温度以下の温度で行うことによって、第2の原料混合粉末中のフォルステライトが融解することを抑制でき、誘電体磁器組成物中に、結晶の形でMg2SiO4を含有させることができる。上述した第2の原料混合粉末の作成方法により、誘電体磁器組成物の主成分と副成分とは均一に混合されて、材質が均一な第2の誘電体磁器組成物を作製することができ、本実施形態に係る誘電体磁器組成物を得ることができる。また、未反応な副成分原料を減らすことができる。
このとき、X線回折において、主相であるMg2SiO4の2θが10.0°から70.0°の間におけるX線回折ピーク強度IAに対する、熱処理後の未反応なまま存在する副成分原料の2θが10.0°から70.0°の間におけるX線回折ピーク強度IBのピーク強度比IB/IAを、40%以下とする。これにより、本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、材料の組成を調整することなく第1の誘電体磁器組成物の熱収縮率に合うように熱収縮率を調整することが可能となる。このため、本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、後述する焼成工程(ステップS14)において第1の誘電体磁器組成物と同時焼成する際、第1の誘電体層21と第2の誘電体層22との間で剥離が生じるのを抑制しつつ、第1の誘電体磁器組成物と同時に焼成することができる。
熱処理する際の焼成温度は、未反応な副成分原料を減らすという観点から、800℃以上950℃以下であることが好ましく、800℃以上900℃以下であることがより好ましく、830以上870℃以下が更に好ましく、850℃近傍が最も好ましい。後述するように、角度2θが、30℃から39℃の間にMg2SiO4のX線回折ピーク強度IAおよび第2の副成分原料粉末のX線回折ピーク強度IBが各々見られる。仮焼き温度が 750℃程度の時よりも仮焼き温度を850℃程度の時の方が、X線回折ピーク強度IBが低下していることから、誘電体磁器組成物中の未反応な副成分原料を減らすことができるといえる。
粉砕は乾式粉砕又は湿式粉砕等の粉砕方式で行なうことができる。粉砕時間は4時間から24時間程度とすればよい。粉砕後の原料混合粉末の乾燥は、好ましくは100℃以上200℃以下、より好ましくは120℃以上140℃以下の処理温度で12時間から36時間程度行えばよい。
第1の原料混合粉末を熱処理する前における混合時の一次平均粒子径と、第2の原料混合粉末を熱処理する前における一次平均粒子径との差は、0.0μm以上0.7μm以下とすることが好ましい。第2の誘電体層22となる本実施形態に係る誘電体磁器組成物の粒径を第1の誘電体層21となる誘電体磁器組成物の熱収縮挙動と合わせる等の調整をしなくても、一次平均粒子径の差から第2の誘電体層22となる本実施形態に係る誘電体磁器組成物の熱収縮挙動を第1の誘電体層21となる誘電体磁器組成物の熱収縮挙動に更に安定して調整することができる。
<成型体作製工程:ステップS12>
第1の誘電体磁器組成物および第2の誘電体磁器組成物を作製した後、第1の誘電体磁器組成物を含む第1のスラリーをシート状に形成した第1のグリーンシート(第1のシート体)と、第2の誘電体磁器組成物を含む第2のスラリーをシート状に形成する第2のグリーンシート(第2のシート体)とを作製する(ステップS12)。
第1の誘電体磁器組成物を、アクリル系、又はエチルセルロース系等の有機バインダー等に所定量配合し、第1の誘電体磁器組成物を含む第1のスラリーを作製した。第1のスラリーはシート成形用に用いられ、ドクターブレード法などにより基板上にシート状に塗布され、基板上に塗布した第1のスラリーが乾燥して、第1のグリーンシートを得る。第1のグリーンシートの成形方法はシート状に塗布できる方法であれば特に限定されるものではなく、シート法や印刷法等の湿式成形法でもよく、プレス成形等の乾式成形でもよい。
また、第2の誘電体磁器組成物についても第1の誘電体磁器組成物と同様に、第2の誘電体磁器組成物を含む第2のスラリーを作製する。第2のスラリーも第1のスラリーと同様に、シート成形用に用いられる。第2のスラリーは基板上にシート状に形成された第1のグリーンシート体の上に塗布される。第2のスラリーは第1のグリーンシートの上にドクターブレード法などにより塗布され、第1のグリーンシート上に塗布した第2のスラリーは乾燥され、複数の第2のグリーンシートが形成される。
<シート積層体形成工程:ステップS13>
第1のグリーンシートおよび第2のグリーンシートを作製した後、成型して得た第1のグリーンシートおよび第2のグリーンシート上に、所定形状の内部電極が形成されるようにAgを含有する導電性ペーストを塗布し、導電性ペーストが塗布された第1のグリーンシートと第2のグリーンシートとを交互に複数積層する。第1のグリーンシートと第2のグリーンシートとの間に内部電極となる導体材のAg系金属を配した状態で交互に複数積層してプレスすることで、シート積層体が形成される(ステップS13)。
シート積層体を焼成する前における第2のグリーンシートに含まれる第2の原料混合粉末の密度は、5%以上15%以下の範囲内で向上させることが好ましい。第2のグリーンシートに含まれる第2の原料混合粉末の密度が増加することで、焼成前の第2の原料混合粉末の密度が向上する。また、焼成後の第2の原料混合粉末の密度は一定である。このため、シート積層体を焼成する前における第2の原料混合粉末の密度を、上記範囲内で向上させることで、第2の原料混合粉末の熱収縮率の変動を抑制できる。これにより、第1の誘電体層21となる誘電体磁器組成物との熱収縮率をより安定して一致させることができる。
<焼成工程:ステップS14>
シート積層体を作製した後、シート積層体を基板から除去し、シート積層体を所定形状に切断して面取りを行った後、チップ型のシート積層体を形成し、第1のグリーンシートおよび第2のグリーンシートに含まれるバインダーを除去した後、シート積層体を焼成し、積層焼結体が生成される(ステップS14)。焼成は、空気中のような酸素雰囲気にて行うことが好ましい。焼成温度は境界反応層が形成されるのに好ましい温度が最適であり、例えば、850℃以上950℃以下であることが好ましく、880℃以上920℃以下であることがより好ましく、900℃以上920℃以下が最も好ましい。
第1のグリーンシートは焼成により第1の誘電体層21となり、第2のグリーンシートは焼成により第2の誘電体層22となる。第1のグリーンシートは第1の主成分原料をシート状に形成したものであるから、第1の主成分原料に含まれているBaとNdとTiとは、第1のグリーンシートにも含まれている。シート積層体を焼成することによって、第1のグリーンシートに含まれていたBaとNdとTiとは、BaOとNd2O3とTiO2となり、第1の誘電体層21はBaOとNd2O3とTiO2とを主成分とするBaNdTiO系酸化物を含む。第2のグリーンシートに含まれていたMg2SiO4は、そのまま第2の誘電体層22に主成分として含まれる。
積層焼結体の冷却後、必要に応じて、得られた積層焼結体に外部電極等を形成することで、積層焼結体に外部電極等が形成された後、積層焼結体に所定の膜厚となるまでめっきを行なうことで、Ag系金属からなる内部電極を備える積層型セラミック電子部品が得られる。外部電極については、電極中にガラスフリットや酸化物等の助剤が含まれることが多い。そのため、焼付け温度は、チップを焼成する温度よりは低い温度で焼付け焼成する。例えば、650℃以上700℃以下の温度で焼付けする。
このように、本実施形態に係る積層型セラミック電子部品の製造方法により得られる積層型セラミック電子部品は、第1のグリーンシートと第2のグリーンシートとを同時焼成する際、第1の誘電体層21と第2の誘電体層22との間で剥離が生じるのを抑制防ぐことができるので、第1の誘電体層21と第2の誘電体層22とを複数積層させても誘電体層同士の接着は安定して形成することができるので、信頼性の高い積層型セラミック電子部品を製造することができる。
以上、本発明に係る積層型セラミック電子部品の好適な実施形態について説明したが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明に係る積層型セラミック電子部品は、主成分および副成分が異なる材料で構成される誘電体層同士の熱収縮挙動を合わせ、同時に焼成させることができる効果を阻害しない範囲内で、他の化合物を含むようにしてもよい。
以下、本発明を実施例および比較例を挙げて更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<誘電体層の作製>
[実施例1]
第1の誘電体層と第2の誘電体層とを各々構成する成分が含まれる第1の誘電体磁器組成物および第2の誘電体磁器組成物と、第1の誘電体層および第2の誘電体層を形成するために用いられる第1のシート体および第2のシート体と、第1のシート体および第2のシート体を積層して焼結し、第1の誘電体層と第2の誘電体層とを含む積層焼結体との作製方法について説明する。第1の誘電体層と第2の誘電体層とは、図2に示す第1の誘電体層21と第2の誘電体層22に各々対応する。第1の誘電体層に含まる第1の誘電体組成物の主成分は、BaNdTiO系酸化物であり、第2の誘電体層に含まる第2の誘電体組成物の主成分は、Mg2SiO4とである。また、グリーンシートは、BaNdTiO系酸化物の第1のグリーンシートと、Mg2SiO4の第2のグリーンシートとである。
(1−1.第1の誘電体磁器組成物の作製)
炭酸バリウム(BaCO3)24.36質量%と、水酸化ネオジム(Nd(OH)3)40.29質量%と、酸化チタン(TiO2)35.35質量%とを秤量した。BaCO3とNd(OH)3とTiO2との和を100質量%とし、秤量した粉体をナイロン製ボールミルに入れ、イオン交換水と市販の分散剤を添加してスラリー濃度が25%のスラリーを作製し、16時間混合した。
混合したスラリーを回収し、120℃で24時間乾燥した後、粉砕機(商品名:WT−50、三喜製作所社製)にて乾燥塊を粉砕し、#30メッシュを使い振動でふるい分けして粉体を通過させた。回収した粉体を匣鉢に詰め、電気炉にて空気中雰囲気で1270℃、2時間仮焼きを行い、主成分原料の仮焼き粉(「1次仮焼き粉」という)を得た。
1次仮焼き粉100質量%に対し、酸化ホウ素(B2O3)1.5質量%と酸化亜鉛(ZnO)2.0質量%と酸化銅(CuO)1.0質量%とを秤量した。秤量した粉体をナイロン製ボールミルに入れ、イオン交換水を添加してスラリー濃度が33%のスラリーを作製し、16時間混合した。
混合したスラリーを回収し、120℃で24時間乾燥後、粉砕機にて乾燥塊を粉砕し、#300メッシュを使い振動でふるい分けして通過させた。回収した粉体を匣鉢に詰め、電気炉にて空気中雰囲気で850℃、2時間仮焼きを行い、主成分原料と副成分原料との原料混合粉末の仮焼き粉(「2次仮焼き粉」という)を得た。
得られた2次仮焼き粉を99質量%秤量し、Ag粉末を1質量%秤量し、その粉体をボールミルに入れ、アルコールを添加してスラリー濃度が33%のスラリーを作製し、16時間混合した。その後、スラリーを回収して乾燥した後、粉砕機にて乾燥塊を微粉砕し、BaNdTiO系酸化物(BaO−Nd2O3−TiO2)を主成分として含む第2の誘電体磁器組成物を得た。
(1−2.第1のシート体の作製)
上述の方法により得た第1の誘電体磁器組成物に、有機バインダーなどを添加し、ボールミルに入れて混合し、第1のシート体の成型用のスラリーを得た。これをドクターブレード法によって基板上に塗布して第1のグリーンシートを作製した。
(2−1.第2の誘電体層磁器組成物の作製)
主成分としてMg2SiO4を含み、副成分として、ZnO、CuO、B2O3、CaOおよびLi系ガラスを含み、フォルステライト(Mg2SiO4)100質量%に対し、ZnOの含有率が16質量%であり、CuOの含有率が4.0質量%であり、B2O3の含有率が6.0質量%であり、CaOの含有率が2.0質量%であり、副成分からガラス成分を除いた誘電体組成100質量%に対して、SiO2−BaO−CaO−Li2O系ガラスの含有率が5.0質量%である第2の誘電体磁器組成物を、以下に示す手順で作製した。
まず、主成分の原料であるMgOおよびSiO2を、マグネシウム原子のモル数がケイ素原子のモル数の2倍となるようにそれぞれ秤量した。秤量した原料に純水を加え、スラリー濃度が25質量%であるスラリーを調製した。このスラリーを、ボールミルにて16時間湿式混合した後、120℃程度で24時間乾燥して、原料混合粉末を得た。この原料混合粉末を、空気中で、3時間、1200℃程度で仮焼して、Mg2SiO4結晶を得た。このMg2SiO4結晶に純水を加えて、スラリー濃度が25%であるスラリーを調製した。このスラリーを、ボールミルにて16時間粉砕した後、120℃で24時間乾燥して、第2の誘電体磁器組成物の主成分であるMg2SiO4結晶粉末を作製した。
次に、得られたMg2SiO4結晶粉末に対して、第2の誘電体磁器組成物の副成分の原料であるZnO、CuO、B2O3、CaO、Li系ガラスを各々配合して調整し、ボールミルにより24時間湿式混合した。湿式混合後、得られたスラリーを乾燥機にて乾燥させ、更に、乾燥させた第2の原料混合粉末をバッチ炉にて850℃で熱処理(仮焼き)して、仮焼き粉を得た。この仮焼き粉に対し、副成分の原料であるSiO2−BaO−CaO−Li2O系ガラスを添加し、ボールミルに入れてアルコールを添加して16時間湿式混合し、得られたスラリーを乾燥機にて、乾燥させた後、微粉砕し、第2の誘電体磁器組成物を得た。第2の誘電体磁器組成物の各成分の配合量は、Mg2SiO4結晶粉末100質量%に対して、ZnOが16質量%、CuOが4.0質量%、B2O3が6.0質量%、CaCO3が2.0質量%、副成分からガラス成分を除いた誘電体磁器組成物100質量%に対して、SiO2−BaO−CaO−Li2O系ガラスが5.0質量%となるように調整した。
(2−2.第2のシート体の作製)
上述の方法により得た第2の誘電体磁器組成物に、有機バインダーなどを添加し、ボールミルに入れて混合し、第2のシート体の成形用のスラリーを得た。これをドクターブレード法によって基板上に塗布して第2のグリーンシートを複数作製した。
(3.積層焼結体の作製)
第1のグリーンシートおよび第2のグリーンシートを複数積層後、プレスして基板状に成型し、シート積層体を作製した。このシート積層体を所望のサイズに切断後、チップの面取りを行い、これをAgが溶融しない焼成温度(900℃)で2.5時間焼成して、積層焼結体を作製した。
第2の誘電体層における副成分の成分からCuOを除いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、第1の誘電体磁器組成物および第2の誘電体磁器組成物をそれぞれ作製した。そして、得られた第1の誘電体磁器組成物および第2の誘電体磁器組成物を用いて実施例1と同様の方法で、シート積層体を作製し、積層焼結体を得た。作製した積層焼結体の第1の誘電体層の主成分と、副成分と、第2の誘電体層の主成分と、副成分との各々の配合量は実施例1と同様である。
[実施例3]
第2の誘電体層を形成する原料混合粉末の熱処理(仮焼き)温度を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、第1の誘電体磁器組成物および第2の誘電体磁器組成物をそれぞれ作製した。そして、得られた第1の誘電体磁器組成物および第2の誘電体磁器組成物を用いて実施例1と同様の方法で、シート積層体を作製し、積層焼結体を得た。作製した積層焼結体の第1の誘電体層の主成分と、副成分と、第2の誘電体層の主成分と、副成分との各々の配合量は実施例1と同様である。
[実施例4]
第2の誘電体層における副成分の成分からCuOを除き、第2の誘電体層を形成する原料混合粉末の熱処理(仮焼き)温度を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、第1の誘電体磁器組成物および第2の誘電体磁器組成物をそれぞれ作製した。そして、得られた第1の誘電体磁器組成物および第2の誘電体磁器組成物を用いて実施例1と同様の方法で、シート積層体を作製し、積層焼結体を得た。作製した積層焼結体の第1の誘電体層の主成分と、副成分と、第2の誘電体層の主成分と、副成分との各々の配合量は実施例2と同様である。
[実施例5]
第2の誘電体層における副成分の成分からCuOを除き、第2の誘電体層を形成する原料混合粉末の熱処理(仮焼き)温度を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、第1の誘電体磁器組成物および第2の誘電体磁器組成物をそれぞれ作製した。そして、得られた第1の誘電体磁器組成物および第2の誘電体磁器組成物を用いて実施例1と同様の方法で、シート積層体を作製し、積層焼結体を得た。作製した積層焼結体の第1の誘電体層の主成分と、副成分と、第2の誘電体層の主成分と、副成分との各々の配合量は実施例2と同様である。
[実施例6]
第2の誘電体層と第1の誘電体層との熱処理前の一次平均粒子径を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、第1の誘電体磁器組成物および第2の誘電体磁器組成物をそれぞれ作製した。そして、得られた第1の誘電体磁器組成物および第2の誘電体磁器組成物を用いて実施例1と同様の方法で、シート積層体を作製し、積層焼結体を得た。作製した積層焼結体の第1の誘電体層の主成分と、副成分と、第2の誘電体層の主成分と、副成分との各々の配合量は実施例1と同様である。
[実施例7]
第2の誘電体層と第1の誘電体層との熱処理前の一次平均粒子径を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、第1の誘電体磁器組成物および第2の誘電体磁器組成物をそれぞれ作製した。そして、得られた第1の誘電体磁器組成物および第2の誘電体磁器組成物を用いて実施例1と同様の方法で、シート積層体を作製し、積層焼結体を得た。作製した積層焼結体の第1の誘電体層の主成分と、副成分と、第2の誘電体層の主成分と、副成分との各々の配合量は実施例2と同様である。
[実施例8]
第2の誘電体層を形成する第2の原料混合粉末の熱処理(仮焼き)温度を変更し、原料混合粉末の熱処理後の副成分原料の未反応量と、第2の誘電体層と第1の誘電体層との熱処理前の一次平均粒子径とを変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、第1の誘電体磁器組成物および第2の誘電体磁器組成物をそれぞれ作製した。そして、得られた第1の誘電体磁器組成物および第2の誘電体磁器組成物を用いて実施例1と同様の方法で、シート積層体を作製し、積層焼結体を得た。作製した積層焼結体の第1の誘電体層の主成分と、副成分と、第2の誘電体層の主成分と、副成分との各々の配合量は実施例1と同様である。
[実施例9]
第2の誘電体層を形成する原料混合粉末の熱処理(仮焼き)温度を変更し、第1の誘電体層を形成する原料混合粉末の熱処理後の副成分原料の未反応量と、第2の誘電体層と第1の誘電体層との熱処理前の一次平均粒子径とを変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、第1の誘電体磁器組成物および第2の誘電体磁器組成物をそれぞれ作製した。そして、得られた第1の誘電体磁器組成物および第2の誘電体磁器組成物を用いて実施例1と同様の方法で、シート積層体を作製し、積層焼結体を得た。作製した積層焼結体の第1の誘電体層の主成分と、副成分と、第2の誘電体層の主成分と、副成分との各々の配合量は実施例2と同様である。
[比較例1、3]
第2の誘電体層を形成する原料混合粉末の熱処理温度を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、第1の誘電体磁器組成物および第2の誘電体磁器組成物をそれぞれ作製した。そして、得られた第1の誘電体磁器組成物および第2の誘電体磁器組成物を用いて実施例1と同様の方法で、シート積層体を作製し、積層焼結体を得た。作製した積層焼結体の第1の誘電体層の主成分と、副成分と、第2の誘電体層の主成分と、副成分との各々の配合量は実施例1と同様である。
[比較例2、4]
第2の誘電体層における副成分の成分からCuOを除き、第2の原料混合粉末の熱処理温度を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、第1の誘電体磁器組成物および第2の誘電体磁器組成物をそれぞれ作製した。そして、得られた第1の誘電体磁器組成物および第2の誘電体磁器組成物を用いて実施例1と同様の方法で、シート積層体を作製し、積層焼結体を得た。作製した積層焼結体の第1の誘電体層の主成分と、副成分と、第2の誘電体層の主成分と、副成分との各々の配合量は実施例2と同様である。
[比較例5]
第2の誘電体層における副成分の成分からCuOを除き、第2の原料混合粉末の熱処理温度を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、第1の誘電体磁器組成物および第2の誘電体磁器組成物をそれぞれ作製した。このとき、第2の原料混合粉末の熱処理温度が、960℃程度と高温で行ったため、仮焼粉の解砕は困難であり、それ以降の仮焼粉の粉末を含むスラリーを作製してグリーンシートを作製する工程を行なうことは困難であり、その後の操作は行わなかった。
<評価>
得られた積層焼結体の第1の誘電体層と第2の誘電体層との熱収縮挙動の一致の有無と、一体化時の剥離の有無を確認した。第1の誘電体層と第2の誘電体層との熱収縮挙動の一致の有無と、一体化時の剥離の有無を表1に示す。
表1に示すように、実施例1〜9では、第1の誘電体層と第2の誘電体層との熱収縮挙動が一致しており、一体化時の剥離は確認されなかった。このとき、実施例1〜9では、第2の原料混合粉末の熱処理後の副成分原料の未反応量が35%以下であり、第2のグリーンシートでの密度向上率が5%以上15%以下の範囲内であり、第2の原料混合粉末と第1の原料混合粉末との熱処理前の一次平均粒子径の差が、0.7μm以下であったことが確認された。
これに対し、比較例1〜5では、第1の誘電体層と第2の誘電体層との熱収縮挙動は一致せず、一体化時の剥離が確認された。このとき、比較例1〜5では、何れも第2の原料混合粉末の熱処理後の副成分原料の未反応量が40%を越えており、第2のグリーンシートでの密度向上率が5%以上15%以下の範囲外であり、第2の原料混合粉末と第1の原料混合粉末との熱処理前の一次平均粒子径の差が、0.0μm以上0.7μm以下の範囲外であったことが確認された。なお、比較例5においては、上述のように、第2の原料混合粉末の熱処理温度を960℃程度と高温で行ったため、得られた仮焼粉の解砕は困難であり、それ以降の仮焼粉の粉末を含むグリーンシートを作製する工程を行なわなかった。そのため、比較例5の第2のグリーンシートでの密度向上率、第2のグリーンシートの密度の測定は行なえなかったが、実施例1〜5の試験結果から、グリーンシートの密度は仮焼き温度に比例すると考えられるため、比較例5のように、960℃の高温で熱処理した際の第2のグリーンシートでの密度向上率は15%より明らかに高くなると考えられる。
第1の誘電体層と第2の誘電体層との熱収縮挙動を一致させ、一体化時の剥離を抑制するためには、第1の誘電体層と第2の誘電体層とを焼成して一体化する際に、第1の誘電体層と第2の誘電体層とのいずれか一方の熱収縮挙動を合わせる必要がある。その際、誘電体磁器組成物を作製する際の仮焼き温度を調整し、誘電体磁器組成物の熱処理後の未反応な副成分原料を減らすことで、一方の誘電体層を形成する誘電体磁器組成物の熱収縮挙動を調整し、他方の誘電体層を形成する誘電体磁器組成物の熱収縮挙動に合わせることが考えられる。
図5は、実施例1および比較例1の第2の誘電体磁器組成物を作製する際の仮焼き温度とX線回折ピーク強度との関係を示す図である。図5に示すように、角度2θが、30℃から39℃の間にMg2SiO4のX線回折ピーク強度IAおよび第2の副成分原料粉末のX線回折ピーク強度IBが各々見られた。仮焼き温度が750℃程度の時(比較例1参照)よりも仮焼き温度を850℃程度(実施例1参照)の時の方が、X線回折ピーク強度IBが低下していた。よって、第2の誘電体磁器組成物の熱処理(仮焼き)温度を850℃程度とすることで、誘電体磁器組成物中の未反応な副成分原料を減少させることができるといえる。
実施例1および比較例1の第2の誘電体磁器組成物の温度と熱収縮率との関係を図6に示す。図6中、実線は、第1の誘電体層21に含まれる第1の誘電体磁器組成物の熱収縮挙動を示し、破線は、実施例1の第2の誘電体磁器組成物の熱収縮挙動を示し、一点鎖線は、比較例1の第2の誘電体磁器組成物の熱収縮挙動を示す。図6に示すように、実施例1の第2の誘電体磁器組成物の熱収縮挙動(図6中、破線)の方が、比較例1の第2の誘電体磁器組成物の熱収縮挙動(図6中、一点鎖線)よりも第1の誘電体磁器組成物の熱収縮挙動(図6中、実線)に近づけることができ、実施例1の第2の誘電体磁器組成物の熱収縮挙動(図6中、破線)は、第1の誘電体磁器組成物の熱収縮挙動(図6中、実線)とほぼ一致した。
これは、仮焼き温度が700℃〜750℃程度まで低いと、粒度差が小さくなり、グリーン密度が上がらないため、より収縮し易いため、密度差が大きくなり易いと考えられる。これに対し、仮焼き温度を800℃〜850℃程度とすることで、粒度が粗くなり、粒度差が大きくなり、グリーン密度が上がるため、より収縮し難いためと考えられる。
よって、第2の誘電体層の第2の原料混合粉末のX線回折におけるピーク強度比IB/IAを40%以下とすることで、第1のグリーンシートと第2のグリーンシートとを一体化する際、第1の原料混合粉末と第2の原料混合粉末との熱収縮率を合わせて同時に焼成することが可能となる。このため、第1のグリーンシートと第2のグリーンシートとを積層させても、双方の熱収縮挙動を一致させて同時に焼成することができるため、熱処理後一体化時の誘電体層間の剥離を抑制することができることが判明した。