JP2012046023A - タイヤ、及びタイヤの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】熱可塑性樹脂を用いて形成され、耐久性及び製造性に優れたタイヤ、及びこのタイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂材料で形成された環状のタイヤ骨格体17を有するタイヤ10であって、前記熱可塑性樹脂材料が、ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマーを酸変性してなる酸変性エラストマー、又は前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマー及び該エラストマーを酸変性してなる酸変性エラストマーの混合物と、を含むタイヤ10、及びその製造方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、リムに装着されるタイヤ、及び、タイヤの製造方法にかかり、特に、少なくとも一部が熱可塑性材料で形成されたタイヤ、及び、タイヤの製造方法に関する。
従来、乗用車等の車両には、ゴム、有機繊維材料、スチール部材などから構成された空気入りタイヤが用いられている。
近年では、軽量化や、成形の容易さ、リサイクルのしやすさから、樹脂材料、特に熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーなどをタイヤ材料として用いることが検討されている。
例えば、特許文献1及び特許文献2には、熱可塑性の高分子材料を用いて成形された空気入りタイヤが開示されている。
特開2003−104008号公報 特開平03−143701号公報
熱可塑性の高分子材料を用いたタイヤは、ゴム製の従来タイヤと比べて、製造が容易で且つ低コストであるが、従来のゴム製タイヤと比して遜色のない耐久性を実現することが求められる。しかしながら、熱可塑性高分子材料を用いつつも、耐久性及び製造性に優れたタイヤは未だ提供されていないのが現状である。
本発明は、上記問題を解決すべく成されたものであり、熱可塑性高分子材料を用いて形成され、耐久性及び製造性に優れたタイヤ、及びこのタイヤの製造方法を提供することが目的である。
(1)本発明のタイヤは、熱可塑性樹脂材料で形成された環状のタイヤ骨格体を有するタイヤであって、前記熱可塑性樹脂材料が、ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマーを酸変性してなる酸変性エラストマー、又は前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマー及び該エラストマーを酸変性してなる酸変性エラストマーの混合物と、を含むタイヤである。
すなわち、本発明のタイヤは、特定の熱可塑性樹脂材料で形成された環状のタイヤ骨格体を有しており、当該特定の熱可塑性樹脂材料は、1)ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマーを酸変性してなる酸変性エラストマーとの組合せ、又は、2)ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマーと、ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマーを酸変性してなる酸変性エラストマーとの組合せ、が少なくとも含まれている。
ここで、「熱可塑性エラストマー」とは、弾性を有する高分子化合物であり、結晶性で融点の高いハードセグメントを構成するポリマーと、非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成するポリマーとを有する共重合体からなる熱可塑性樹脂材料をいう。
「ポリエステル系熱可塑性エラストマー」とは、結晶性で融点の高いハードセグメントを構成するポリエステルを含むポリマーと非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成するポリマーとを有する共重合体からなる熱可塑性樹脂材料であって、その構造中にポリエステルからなる部分構造を有するものを意味する。
「ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマー」とは、熱可塑性エラストマーのうち、ポリエステルからなる部分構造を含まないものを言う。以下では、この熱可塑性エラストマーを、適宜「他の熱可塑性エラストマー」とも称する。
「ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマーを酸変性してなる酸変性エラストマー」とは、ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマー(他の熱可塑性エラストマー)に、酸性基を有する化合物を結合させたものを意味する。以下では、この熱可塑性エラストマーを、適宜「酸変性エラストマー」とも称する。
なお、他の熱可塑性エラストマーには、酸変性エラストマーは含まれない。
また、本発明における熱可塑性樹脂は、熱可塑性を有する樹脂を意味し、従来の天然ゴムや合成ゴム等の加硫ゴムは含まれない。
本発明において、熱可塑性樹脂材料に含まれるポリエステル系熱可塑性エラストマーは、耐熱性、耐衝撃性、耐油性を有すると共に、引張弾性率、引張強度及び破断ひずみに優れるという利点がある。さらに、熱可塑性樹脂材料が酸変性エラストマーを含有することで、ポリエステル系熱可塑性エラストマーに由来する上記特性は有しつつも、弾性が強くなりすぎず、柔軟性を有するものとなり、仮に樹脂材料が破断した場合にも、樹脂材料が引き裂け、決裂して破断しにくく、延伸した状態となり易い。
また、ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、他の熱可塑性エラストマーに比して、その弾性率の温度変化による変動が小さいという利点があるため、タイヤの使用時における温度条件の選択範囲を広くできる。さらに、酸変性エラストマーが併用されても、タイヤ骨格体の形成時には熱可塑性樹脂材料の流動性が確保されて、製造性に対する影響が少ない。
このため、本発明のタイヤは優れた製造性を有しながらも、使用環境の温度変動による変形や硬さの変化が小さく衝撃性に強く、該タイヤを備えた車の乗り心地への影響が少ないものとなるとともに、タイヤに傷が付いた場合にもパンクしにくく、タイヤの破裂を回避することができる。
(2)本発明のタイヤは、前記熱可塑性樹脂材料の酸価が、0.1mg−CHONa/g以上10mg−CHONa/g以下であるように構成することができる。
このように、熱可塑性樹脂材料の酸価を上記範囲とすることで、特に、熱可塑性樹脂材料の溶融粘度の増大が抑えられ、流動性に優れるため、射出成形性に優れる。そのため、タイヤの生産効率がより向上する。従って、タイヤ性能としての引張り特性と、射出成形性の観点からの製造性とを両立させることができる。
熱可塑性樹脂材料は、ポリエステル系熱可塑性エラストマーで構成されるマトリックス相(以下「海相」とも称する。)と、酸変性エラストマー、又は、酸変性エラストマー及び他の熱可塑性エラストマー(未変性)で構成される分散相(以下「島相」とも称する。)とを有する海島構造を有する。当該海島構造において、酸価が高いほど島相が小さく、酸価が低いほど島相が大きくなる傾向にある。酸変性エラストマーの酸価が上記範囲であることで、島相が熱可塑性樹脂中に微分散することとなり、耐衝撃性、引張り特性が向上する。
(3)本発明のタイヤは、前記熱可塑性樹脂材料中の前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーの質量(A)と、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマー及び前記酸変性エラストマーの合計質量(B)との割合(A:B)が、90:10〜50:50であるように構成することができる。
熱可塑性樹脂材料中の前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーに対する前記酸変性エラストマーの割合を上記範囲とすることで、熱可塑性樹脂材料が有する性能を十分に発揮でき、タイヤ性能としての引張り特性をより向上させることができる。
(4)本発明のタイヤは、前記熱可塑性樹脂材料中のポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有量が50質量%〜95質量%であるように構成することができる。
熱可塑性樹脂材料中のポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有量が上記範囲であると、ポリエステル系熱可塑性エラストマーに由来する特性が十分に発揮されると共に、熱可塑性樹脂材料が有する性能を十分に発揮でき、タイヤ性能としての引張り特性をより向上することができる。
(5)本発明のタイヤは熱可塑性樹脂材料で形成されたタイヤ骨格体の外周部に補強コード部材が巻回されて補強コード層が形成されていてもよい。タイヤ骨格体の外周部に補強コード層が形成されていると、タイヤの耐パンク性、耐カット性、及びタイヤ(タイヤ骨格体)の周方向剛性が向上する。なお、周方向剛性が向上することで、熱可塑性材料で形成されたタイヤ骨格体のクリープ(一定の応力下でタイヤ骨格体の塑性変形が時間とともに増加する現象)が抑制される。
(6)本発明のタイヤの製造方法は、ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマーを酸変性してなる酸変性エラストマー又は前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマー及び該エラストマーを酸変性してなる酸変性エラストマーの混合物と、を含む熱可塑性樹脂材料によって環状のタイヤ骨格体の一部を構成するタイヤ骨格片を形成するタイヤ骨格片形成工程と、前記タイヤ骨格片の接合面に熱を付与し対となる2以上の前記タイヤ骨格片を融着させて前記タイヤ骨格体を形成するタイヤ骨格片接合工程を含む。
本発明のタイヤの製造方法は、熱可塑性樹脂材料によって環状のタイヤ骨格体のタイヤ骨格片を形成する。本発明の製造方法に用いる熱可塑性樹脂材料は、引張り特性に優れるため、製造されたタイヤを用いた自動車の乗り心地に優れ、またタイヤの耐炸裂性や、耐パンク性を向上させることができる。
(7)本発明のタイヤの製造方法は、前記熱可塑性樹脂材料の酸価が、0.1mg−CHONa/g以上10mg−CHONa/g以下であるように構成することができる。
このように、酸変性エラストマーの酸価を上記範囲とすることで、特に、熱可塑性樹脂材料の溶融粘度の増大を抑え、流動性に優れるため、射出成形性に優れる。そのため、タイヤの生産効率が向上し、省エネ等の環境の観点においても好ましい。
(8)本発明のタイヤの製造方法は、前記タイヤ骨格片形成工程において、前記熱可塑性樹脂材料を用いて射出成形する工程を含むように構成することができる。
本発明の製造方法に用いる熱可塑性樹脂材料は、射出成形性に優れるため、タイヤの生産性を高めることができる。
以上説明したように、本発明によれば、熱可塑性高分子材料を用いて形成され、耐久性及び製造性に優れたタイヤ、及びこのタイヤの製造方法を提供することができる。
(A)は本発明の一実施形態に係るタイヤの一部の断面を示す斜視図であり、(B)は、リムに装着したビード部の断面図である。 第1実施形態のタイヤのタイヤケースのクラウン部に補強コードが埋設された状態を示すタイヤ回転軸に沿った断面図である。 コード加熱装置、及びローラ類を用いてタイヤケースのクラウン部に補強コードを埋設する動作を説明するための説明図である。 (A)は本発明の一実施形態に係るタイヤのタイヤ幅方向に沿った断面図である。(B)はタイヤにリムを嵌合させた状態のビード部のタイヤ幅方向に沿った断面の拡大図である。 第2の実施形態のタイヤの補強層の周囲を示すタイヤ幅方向に沿った断面図である。
まず、本発明におけるタイヤ骨格体を構成する熱可塑性樹脂材料について説明し、続いて本発明のタイヤの具体的な実施形態について図を用いて説明する。
[熱可塑性樹脂材料]
本発明のタイヤは、ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマーを酸変性してなる酸変性エラストマー、又は前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマー及び該エラストマーを酸変性してなる酸変性エラストマーの混合物と、を含む熱可塑性樹脂材料で形成された環状のタイヤ骨格体を有する。
既述のように、熱可塑性樹脂材料は、1)ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマーを酸変性してなる酸変性エラストマーとの組合せ、又は、2)ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマーと、ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマーを酸変性してなる酸変性エラストマーとの組合せ、が少なくとも含まれている。
本発明においては、熱可塑性樹脂材料として、上記1)及び2)いずれの組み合わせを適用した場合であっても、該樹脂材料により形成されたタイヤ骨格体は、優れた引張り特性を発揮すると共に、射出成形性等の製造性にも優れる。さらに、上記2)の組み合わせを適用した場合には、ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマーを酸変性してなる酸変性エラストマーの合計量を一定にして、酸価を制御できることから、射出成形性と弾性率の両立が図れる。
以下、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマー(他の熱可塑性エラストマー)、及びポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマーを酸変性してなる酸変性エラストマーについて、説明する。
「熱可塑性エラストマー」とは、既述の如く、弾性を有する高分子化合物であり、結晶性で融点の高いハードセグメントを構成するポリマーと、非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成するポリマーとを有する共重合体からなる熱可塑性樹脂材料を言う。
「ポリエステル系熱可塑性エラストマー」とは、既述の如く、弾性を有する高分子化合物であり、結晶性で融点の高いハードセグメントを形成するポリエステルを含むポリマーと非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを形成するポリマーとを有する共重合体からなる熱可塑性樹脂材料であって、その構造中にポリエステルからなる部分構造を有するものである。ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、JIS K6418に規定されるエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)等が挙げられる。
ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、特に限定されるものではないが、結晶性のポリエステルが融点の高いハードセグメントを構成し、非晶性のポリマーがガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成している共重合体が挙げられる。
ハードセグメントを形成する結晶性のポリエステルとしては、芳香族ポリエステルを用いることができる。芳香族ポリエステルは、例えば、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と脂肪族ジオールとから形成することができる。
ハードセグメントを形成する芳香族ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられ、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。
ハードセグメントを形成する好適な芳香族ポリエステルの一つとしては、テレフタル酸及び/又はジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレートが挙げられ、更に、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸、あるいはこれらのエステル形成性誘導体などのジカルボン酸成分と、分子量300以下のジオール〔例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメチロールなどの脂環式ジオール、キシリレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2−ヒドロキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシ−p−ターフェニル、4,4’−ジヒドロキシ−p−クオーターフェニルなどの芳香族ジオール〕などから誘導されるポリエステル、あるいはこれらのジカルボン酸成分およびジオール成分を2種以上併用した共重合ポリエステルであってもよい。また、3官能以上の多官能カルボン酸成分、多官能オキシ酸成分及び多官能ヒドロキシ成分などを5モル%以下の範囲で共重合することも可能である。
ソフトセグメントを形成するポリマーとしては、例えば、脂肪族ポリエステル及び脂肪族ポリエーテルから選択されたポリマーが挙げられる。
脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体等が挙げられる。
脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが挙げられる。
これらの脂肪族ポリエーテル及び脂肪族ポリエステルの中でも、得られる共重合体の弾性特性の観点から、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが好ましい。
ハードセグメントを形成するポリマー(ポリエステル)の数平均分子量としては、強靱性及び低温柔軟性の観点から、300〜6000が好ましい。また、ソフトセグメントを形成するポリマーの数平均分子量としては、強靱性及び低温柔軟性の観点から、300〜6000が好ましい。更に、ハードセグメント(x)及びソフトセグメント(y)との体積比(x:y)は、成形性の観点から、99:1〜20:80が好ましく、98:2〜30:70が更に好ましい。
ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、上記ハードセグメントを形成するポリマー及びソフトセグメントを形成するポリマーを公知の方法によって共重合することで合成することができる。
ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、市販品を用いることもでき、例えば、東レ・デュポン(株)製の「ハイトレル」シリーズ(例えば、3046、5557、6347、4047、4767)、東洋紡(株)製の「ペルプレン」シリーズ(例えば、P30B、P40B、P40H、P55B、P70B、P150B、P250B、E450B、P150M、S1001、S2001、S5001、S6001、S9001等)等を用いることができる。
「ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマー(他の熱可塑性エラストマー)」とは、既述の如く、熱可塑性エラストマーのうち、ポリエステルからなる部分構造を含まないものである。なお、他の熱可塑性エラストマーには、該他の熱可塑性エラストマーを酸変性してなる酸変性エラストマーは含まない。
他の熱可塑性エラストマーとしては、例えば、オレフィン系熱可塑性エラストマー(未変性オレフィン系熱可塑性エラストマー)、スチレン系熱可塑性エラストマー(未変性スチレン系熱可塑性エラストマー)等が挙げられる。
なお、オレフィン系熱可塑性エラストマー、及びスチレン系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントを構成するポリマーが、それぞれ、オレフィン、及びポリスチレンであるものを言う。
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(未変性オレフィン系熱可塑性エラストマー)としては、市販品を用いることもでき、例えば、三井化学(株)製の「タフマー」シリーズ(例えば、A1050S、A4050S、P275)等が挙げられる。
ポリスチレン系熱可塑性エラストマー(未変性スチレン系熱可塑性エラストマー)としては、市販品を用いることもでき、例えば、旭化成(株)製の「タフテック」シリーズ(例えば、H1031、H1041、H1043、H1051、H1052、H1053、H1082、H1141、H1221、H1272)、Kraton社製のG1641H、G1643M、等が挙げられる。
「ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマーを酸変性してなる」とは、他の熱可塑性エラストマーに、カルボン酸基、硫酸基、燐酸基等の酸性基を有する不飽和化合物を結合させることを言う。例えば、酸性基を有する不飽和化合物として、不飽和カルボン酸(一般的には、無水マレイン酸)を用いる場合であれば、オレフィン系熱可塑性エラストマーに、不飽和カルボン酸の不飽和結合部位を結合(例えば、グラフト重合)させる態様が挙げられる。
他の熱可塑性エラストマーを酸変性させたエラストマー(以下、「酸変性エラストマー」とも称する。)としては、例えば、未変性オレフィン系熱可塑性エラストマー、又は未変性スチレン系熱可塑性エラストマーに、酸性基を有する化合物を結合させたものが挙げられる。
酸性基を有する化合物は、ポリエステル系熱可塑性エラストマー及び他の熱可塑性エラストマーの劣化抑制の観点からは、弱酸基であるカルボン酸基を有する化合物が好ましく、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等が挙げられる。
酸変性オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、、市販品を用いることもでき、例えば、三井化学(株)製の「タフマー」シリーズ(例えば、MA8510、MH7007、MH7010、MH7020、MP0610、MP0620)等が挙げられる。
酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、市販品を用いることもでき、例えば、旭化成(株)製の「タフテック」シリーズ(例えば、M1943、M1911、M1913、Kraton社製のFG19181G、等が挙げられる。
他の熱可塑性エラストマー及び酸変性エラストマーは、熱可塑性樹脂材料が意図しない架橋反応を起こすことを抑制するため、水素添加されていることが好ましい。水素添加型(SEBS)の酸変性エラストマーとしては、前記旭化成(株)製のタフテック等が挙げられる。
本発明において、熱可塑性樹脂材料の酸価は、0mg−CHONa/gを超えるものであればよい。
ここで、本明細書において、「熱可塑性樹脂材料の酸価」とは、熱可塑性樹脂材料の全質量に対する酸変性エラストマーの酸変性部位の中和に必要なナトリウムメトキシド(CHONa)の総質量であり、熱可塑性樹脂材料に含まれる酸変性エラストマーが1種である場合には、下記式(1)から算出され、熱可塑性樹脂材料に含まれる酸変性エラストマーが2種以上である場合には、下記式(2)から算出される。
式(1)
〔(酸変性エラストマーAの酸価)×(酸変性エラストマーAの全質量)〕/〔熱可塑性樹脂材料の全質量〕
式(2)
〔(酸変性エラストマーAの酸価)×(酸変性エラストマーAの全質量)+(酸変性エラストマーBの酸価)×(酸変性エラストマーBの全質量)+・・・〕/〔熱可塑性樹脂材料の全質量〕
なお、本明細書において、酸変性エラストマーの酸価は、酸変性エラストマー1〔g〕に対して、ナトリウムメトキシド(CHONa)を用いて中和滴定を行なった際に用いられるナトリウムメトキシド(CHONa)の質量〔mg〕として測定される。
熱可塑性樹脂材料の射出成形性の観点からは、熱可塑性樹脂材料の酸価は、0.1mg−CHONa/g以上10mg−CHONa/g以下であることが好ましく、0.1mg−CHONa/g以上7mg−CHONa/g以下であることがより好ましく、0.1mg−CHONa/g以上5mg−CHONa/g以下であることが更に好ましい。
熱可塑性樹脂材料の酸価は、酸変性エラストマーの酸価を制御することによって制御してもよいし、熱可塑性樹脂材料に含有する他の熱可塑性エラストマーと酸変性エラストマーとの混合比を制御することによって制御してもよい。
熱可塑性樹脂材料は、ポリエステル系熱可塑性エラストマーで構成される海相と、酸変性エラストマー及び他の熱可塑性エラストマー(未変性)で構成される島相とを有する海島構造を有する。海相と島相との相界面の相互作用が弱いと、熱可塑性樹脂材料の流動性が増し、射出成形性に優れる。酸変性エラストマーは、分子内に酸変性部位を有するため、酸変性されていないエラストマーに比べ、ポリエステル系熱可塑性エラストマーとの相互作用が強い。
一方、海島構造において、エラストマーの酸価が高いほど島相が小さく、酸価が低いほど島相が大きくなる傾向にある。エラストマーの酸価が前記範囲であることで、島相が熱可塑性樹脂中に微分散することとなり、熱可塑性樹脂材料の衝撃性が特に向上する。また、熱可塑性樹脂材料の溶融粘度の増大が抑えられるため、熱可塑性樹脂材料の射出成形性に優れる。従って、熱可塑性樹脂材料を用いてタイヤケースを作製するときに、熱可塑性樹脂を高温に加熱しなくて済むため、熱可塑性樹脂材料の過加熱損傷を抑制することができる。
なお、酸変性エラストマーの島相が熱可塑性樹脂中に微分散していることは、SEM(走査型電子顕微鏡、scanning electron microscope)を用いた写真観察から確認することができる。
熱可塑性樹脂材料として含まれる酸変性エラストマーの酸価は、0mg−CHONa/gを超え20mg−CHONa/g以下であることが好ましく、0mg−CHONa/gを超え17mg−CHONa/g以下であることがより好ましく、0mg−CHONa/gを超え15mg−CHONa/g以下であることがさらに好ましい。
酸変性エラストマーの酸価は、熱可塑性樹脂材料に含まれる酸変性エラストマーが1種の場合には、当該酸変性エラストマーの酸価が上記の範囲であり、2種以上の場合には、各々の酸変性エラストマーの酸価が上記の範囲であることが好ましい。
熱可塑性樹脂材料中のポリエステル系熱可塑性エラストマーの質量(A)と、他の熱可塑性エラストマー及び酸変性エラストマーの合計質量(B)との割合(A:B)は、ポリエステル系熱可塑性エラストマーを海相とする観点から、95:5〜50:50であることが好ましい。より好ましくは、90:10〜55:45である。
また、本発明において熱可塑性樹脂材料中のポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有率は、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂材料の総量に対して、50質量%〜95質量%であることが好ましく、50質量%〜90質量%であることがさらに好ましい。
ポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有量を、熱可塑性樹脂材料の総量に対して、
50質量%〜95質量%とすることで、熱可塑性樹脂材料の特性を十分に発揮させることができ、タイヤの引張り特性を向上させることができる。
熱可塑性樹脂材料には、所望に応じて、各種充填剤(例えば、シリカ、炭酸カルシウム、クレイ)、老化防止剤、オイル、可塑剤、着色剤、耐候剤、補強材等の各種添加剤を含有させてもよい。
熱可塑性樹脂材料は、既述のポリエステル系熱可塑性エラストマー、及び酸変性エラストマー、(熱可塑性樹脂材料が他の熱可塑性エラストマーを含むときは、更に他の熱可塑性エラストマー)を混合し、必要に応じて各種添加剤を添加して、溶融混合することにより得ることができる。ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、酸変性エラストマーと、他の熱可塑性エラストマーとの混合比は、既述の割合に準ずる。溶融混合して得られた樹脂は、必要に応じてペレット状にして用いることができる。
熱可塑性樹脂材料のJIS K7113:1995に規定される引張弾性率(以下、特に特定しない限り本明細書で「弾性率」とは引張弾性率を意味する。)としては、100MPa〜1000MPaが好ましく、100MPa〜800MPaがさらに好ましく、100MPa〜700MPaが特に好ましい。ポ熱可塑性樹脂材料の引張弾性率が、100MPa〜1000MPaであると、タイヤ骨格の形状を保持しつつリム組みを効率的におこなうことができる。
熱可塑性樹脂材料のJIS K7113:1995に規定される引張降伏強さは、5MPa以上が好ましく、5MPa〜20MPaが好ましく、5MPa〜17MPaがさらに好ましい。熱可塑性樹脂材料の引張降伏強さが、5MPa以上であると、走行時などにタイヤにかかる荷重に対する変形に耐えることができる。
熱可塑性樹脂材料のJIS K7113:1995に規定される引張降伏伸びは、10%以上が好ましく、10〜70%が好ましく、15〜60%がさらに好ましい。ポリエステル系熱可塑性エラストマーの引張降伏伸びが、10%以上であると、弾性領域が大きく、リム組み性を良くすることができる。
熱可塑性樹脂材料のJIS K7113:1995に規定される引張破壊伸びは、50%以上が好ましく、100%以上が好ましく、150%以上がさらに好ましく、200%以上が特に好ましい。熱可塑性樹脂材料の引張破壊伸びが、50%以上であると、リム組み性がよく、衝突に対して破壊しにくくすることができる。
熱可塑性樹脂材料のISO75−2又はASTM D648に規定される荷重たわみ温度(0.45MPa荷重時)としては、50℃以上が好ましく、50〜150℃が好ましく、50〜130℃がさらに好ましい。熱可塑性樹脂材料の荷重たわみ温度が、50℃以上であると、タイヤの製造において加硫行う場合であってもたタイヤ骨格体の変形を抑制することができる。
[補強コード層を構成する樹脂材料]
本発明のタイヤは、タイヤ骨格体の外周部に周方向に巻回されて補強コード層を形成する補強コード部材を有していてもよい。
また、補強コード層には、樹脂材料を含めて構成することができる。このように、補強コード層に樹脂材料が含まれていると、補強コード部材をクッションゴムで固定する場合と比して、タイヤと補強コード層との硬さの差を小さくできるため、更に補強コード部材をタイヤ骨格体に密着・固定することができる。上述のように「樹脂材料」とは、熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む)及び熱硬化性樹脂を含む概念であり、加硫ゴムは含まない。
補強コード層に用いることのできる前記熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、オレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
前記熱可塑性エラストマーとしては、例えば、JIS K6418:2007に規定されるアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、エステル系熱可塑性エラストマー(TPC)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、熱可塑性ゴム架橋体(TPV)、若しくはその他の熱可塑性エラストマー(TPZ)等が挙げられる。なお、走行時に必要とされる弾性と製造時の成形性等を考慮すると熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。
また、樹脂材料の同種とは、エステル系同士、スチレン系同士などの形態を指す。
補強コード層に用いられる樹脂材料の弾性率(JIS K7113に規定される引張弾性率)は、タイヤ骨格体を形成する熱可塑性樹脂の弾性率の0.1倍から10倍の範囲内に設定することが好ましい。前記樹脂材料の弾性率がタイヤ骨格体を形成する熱可塑性樹脂材料の弾性率の10倍以下の場合は、クラウン部が硬くなり過ぎずリム組み性が容易になる。また、前記樹脂材料の弾性率がタイヤ骨格体を形成する熱可塑性樹脂材料の弾性率の0.1倍以上の場合には、補強コード層を構成する樹脂が柔らかすぎず、ベルト面内せん断剛性に優れコーナリング力が向上する。
[第1の実施形態]
以下に、図面に従って本発明のタイヤの第1の実施形態に係るタイヤを説明する。
本実施形態のタイヤ10について説明する。図1(A)は、本発明の一実施形態に係るタイヤの一部の断面を示す斜視図である。図1(B)は、リムに装着したビード部の断面図である。図1に示すように、本実施形態のタイヤ10は、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと略同様の断面形状を呈している。
図1(A)に示すように、タイヤ10は、図1(B)に示すリム20のビードシート21及びリムフランジ22に接触する1対のビード部12と、ビード部12からタイヤ径方向外側に延びるサイド部14と、一方のサイド部14のタイヤ径方向外側端と他方のサイド部14のタイヤ径方向外側端とを連結するクラウン部16(外周部)と、からなるタイヤケース17を備えている。
ここで、本実施形態のタイヤケース17は、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(東レ・デュポン(株)製「ハイトレル 6347」)と、酸変性されたα−オレフィン系熱可塑性エラストマー(三井化学(株)製「タフマー MA7010」)との混合材料〔熱可塑性樹脂材料の酸価=1.11mg−CHONa/g〕で形成されている。本実施形態においてタイヤケース17は、単一の熱可塑性樹脂材料で形成されているが、本発明はこの構成に限定されず、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと同様に、タイヤケース17の各部位毎(サイド部14、クラウン部16、ビード部12など)に異なる特徴を有する熱可塑性樹脂材料を用いてもよい。また、タイヤケース17(例えば、ビード部12、サイド部14、クラウン部16等)に、補強材(高分子材料や金属製の繊維、コード、不織布、織布等)を埋設配置し、補強材でタイヤケース17を補強してもよい。
本実施形態のタイヤケース17は、熱可塑性樹脂材料で形成された一対のタイヤケース半体(タイヤ骨格片)17A同士を接合させたものである。タイヤケース半体17Aは、一つのビード部12と一つのサイド部14と半幅のクラウン部16とを一体として射出成形等で成形された同一形状の円環状のタイヤケース半体17Aを互いに向かい合わせてタイヤ赤道面部分で接合することで形成されている。熱可塑性樹脂材料には、ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、酸変性エラストマーとが含まれている。特に、熱可塑性樹脂材料の酸価が0.1mg−CHONa/g〜5mg−CHONa/gである場合には、熱可塑性樹脂材料の流動性に優れ、溶融粘度の増大が抑えられ、射出成形性に優れる。
なお、タイヤケース17は、2つの部材を接合して形成するものに限らず、3以上の部材を接合して形成してもよい。
熱可塑性樹脂材料で形成されるタイヤケース半体17Aは、例えば、真空成形、圧空成形、インジェクション成形、メルトキャスティング等で成形することができる。このため、従来のようにゴムでタイヤケースを成形する場合に比較して、加硫を行う必要がなく、製造工程を大幅に簡略化でき、成形時間を省略することができる。
また、本実施形態では、タイヤケース半体17Aは左右対称形状、即ち、一方のタイヤケース半体17Aと他方のタイヤケース半体17Aとが同一形状とされているので、タイヤケース半体17Aを成形する金型が1種類で済むメリットもある。
本実施形態において、図1(B)に示すようにビード部12には、従来一般の空気入りタイヤと同様の、スチールコードからなる円環状のビードコア18が埋設されている。しかし、本発明はこの構成に限定されず、ビード部12の剛性が確保され、リム20との嵌合に問題なければ、ビードコア18を省略することもできる。なお、スチールコード以外に、有機繊維コード、樹脂被覆した有機繊維コード、または硬質樹脂などで形成されていてもよい。
本実施形態では、ビード部12のリム20と接触する部分や、少なくともリム20のリムフランジ22と接触する部分に、タイヤケース17を構成する熱可塑性樹脂材料よりもシール性に優れた材料、例えば、ゴムからなる円環状のシール層24が形成されている。このシール層24はタイヤケース17(ビート部12)とビードシート21とが接触する部分にも形成されていてもよい。タイヤケース17を構成する熱可塑性樹脂材料よりもシール性に優れた材料としては、タイヤケース17を構成する熱可塑性樹脂材料に比して軟質な材料を用いることができる。シール層24に用いることのできるゴムとしては、従来一般のゴム製の空気入りタイヤのビード部外面に用いられているゴムと同種のゴムを用いることが好ましい。また、熱可塑性樹脂材料のみでリム20との間のシール性が確保できれば、ゴムのシール層24は省略してもよく、シール性に優れる熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む。)を用いてもよい。このような熱可塑性樹脂としては、ポリウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル樹脂等の樹脂やこれら樹脂とゴム若しくはエラストマーとのブレンド物等が挙げられる。また、熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマー、或いは、これらエラストマー同士の組み合わせや、ゴムとのブレンド物等が挙げられる。
図1に示すように、クラウン部16には、タイヤケース17を構成する熱可塑性樹脂材料よりも剛性が高い補強コード26がタイヤケース17の周方向に巻回されている。補強コード26は、タイヤケース17の軸方向に沿った断面視で、少なくとも一部がクラウン部16に埋設された状態で螺旋状に巻回されており、補強コード層28を形成している。補強コード層28のタイヤ径方向外周側には、タイヤケース17を構成する熱可塑性樹脂材料よりも耐摩耗性に優れた材料、例えばゴムからなるトレッド30が配置されている。
図2を用いて補強コード26によって形成される補強コード層28について説明する。図2は、第1実施形態のタイヤのタイヤケースのクラウン部に補強コードが埋設された状態を示すタイヤ回転軸に沿った断面図である。図2に示されるように、補強コード26は、タイヤケース17の軸方向に沿った断面視で、少なくとも一部がクラウン部16に埋設された状態で螺旋状に巻回されており、タイヤケース17の外周部の一部と共に図2において破線部で示される補強コード層28を形成している。補強コード26のクラウン部16に埋設された部分は、クラウン部16(タイヤケース17)を構成する熱可塑性樹脂材料と密着した状態となっている。補強コード26としては、金属繊維や有機繊維等のモノフィラメント(単線)、又は、スチール繊維を撚ったスチールコードなどこれら繊維を撚ったマルチフィラメント(撚り線)などを用いることができる。なお、本実施形態において補強コード26としては、スチールコードが用いられている。
また、図2において埋設量Lは、タイヤケース17(クラウン部16)に対する補強コード26のタイヤ回転軸方向への埋設量を示す。補強コード26のクラウン部16に対する埋設量Lは、補強コード26の直径Dの1/5以上であれば好ましく、1/2を超えることがさらに好ましい。そして、補強コード26全体がクラウン部16に埋設されることが最も好ましい。補強コード26の埋設量Lが、補強コード26の直径Dの1/2を超えると、補強コード26の寸法上、埋設部から飛び出し難くなる。また、補強コード26全体がクラウン部16に埋設されると、表面(外周面)がフラットになり、補強コード26が埋設されたクラウン部16上に部材が載置されても補強コード周辺部に空気が入るのを抑制することができる。なお、補強コード層28は、従来のゴム製の空気入りタイヤのカーカスの外周面に配置されるベルトに相当するものである。
上述のように補強コード層28のタイヤ径方向外周側にはトレッド30が配置されている。このトレッド30に用いるゴムは、従来のゴム製の空気入りタイヤに用いられているゴムと同種のゴムを用いることが好ましい。なお、トレッド30の代わりに、タイヤケース17を構成する熱可塑性樹脂材料よりも耐摩耗性に優れる他の種類の熱可塑性樹脂材料で形成したトレッドを用いてもよい。また、トレッド30には、従来のゴム製の空気入りタイヤと同様に、路面との接地面に複数の溝からなるトレッドパターンが形成されている。
以下、本発明のタイヤの製造方法について説明する。
(タイヤケース成形工程)
まず、薄い金属の支持リングに支持されたタイヤケース半体同士を互いに向かい合わせる。次いで、タイヤケース半体の突き当て部分の外周面と接するように図を省略する接合金型を設置する。ここで、前記接合金型はタイヤケース半体Aの接合部(突き当て部分)周辺を所定の圧力で押圧するように構成されている。次いで、タイヤケース半体の接合部周辺を、タイヤケースを構成する熱可塑性樹脂材料の融点以上で押圧する。タイヤケース半体の接合部が接合金型によって加熱・加圧されると、前記接合部が溶融しタイヤケース半体同士が融着しこれら部材が一体となってタイヤケース17が形成される。尚、本実施形態においては接合金型を用いてタイヤケース半体の接合部を加熱したが、本発明はこれに限定されず、例えば、別に設けた高周波加熱機等によって前記接合部を加熱したり、予め熱風、赤外線の照射等によって軟化又は溶融させ、接合金型によって加圧して。タイヤケース半体を接合させてもよい。
(補強コード部材巻回工程)
次に、補強コード巻回工程について図3を用いて説明する。図3は、コード加熱装置、及びローラ類を用いてタイヤケースのクラウン部に補強コードを埋設する動作を説明するための説明図である。図3において、コード供給装置56は、補強コード26を巻き付けたリール58と、リール58のコード搬送方向下流側に配置されたコード加熱装置59と、補強コード26の搬送方向下流側に配置された第1のローラ60と、第1のローラ60をタイヤ外周面に対して接離する方向に移動する第1のシリンダ装置62と、第1のローラ60の補強コード26の搬送方向下流側に配置される第2のローラ64と、及び第2のローラ64をタイヤ外周面に対して接離する方向に移動する第2のシリンダ装置66と、を備えている。第2のローラ64は、金属製の冷却用ローラとして利用することができる。また、本実施形態において、第1のローラ60または第2のローラ64の表面は、溶融又は軟化したポリアミド系熱可塑性エラストマーの付着を抑制するためにフッ素樹脂(本実施形態では、テフロン(登録商標))でコーティングされている。なお、本実施形態では、コード供給装置56は、第1のローラ60または第2のローラ64の2つのローラを有する構成としているが、本発明はこの構成に限定されず、何れか一方のローラのみ(即ち、ローラ1個)を有している構成でもよい。
また、コード加熱装置59は、熱風を生じさせるヒーター70及びファン72を備えている。また、コード加熱装置59は、内部に熱風が供給される、内部空間を補強コード26が通過する加熱ボックス74と、加熱された補強コード26を排出する排出口76とを備えている。
本工程においては、まず、コード加熱装置59のヒーター70の温度を上昇させ、ヒーター70で加熱された周囲の空気をファン72の回転によって生じる風で加熱ボックス74へ送る。次に、リール58から巻き出した補強コード26を、熱風で内部空間が加熱された加熱ボックス74内へ送り加熱(例えば、補強コード26の温度を100〜200℃程度に加熱)する。加熱された補強コード26は、排出口76を通り、図3の矢印R方向に回転するタイヤケース17のクラウン部16の外周面に一定のテンションをもって螺旋状に巻きつけられる。ここで、加熱された補強コード26がクラウン部16の外周面に接触すると、接触部分の熱可塑性樹脂材料が溶融又は軟化し、加熱された補強コード26の少なくとも一部がクラウン部16の外周面に埋設される。このとき、溶融又は軟化した熱可塑性樹脂材料に加熱された補強コード26が埋設されるため、熱可塑性樹脂材料と補強コード26とが隙間がない状態、つまり密着した状態となる。これにより、補強コード26を埋設した部分へのエア入りが抑制される。なお、補強コード26をタイヤケース17のポリエステル系熱可塑性エラストマーの融点よりも高温に加熱することで、補強コード26が接触した部分の熱可塑性樹脂材料の溶融又は軟化が促進される。このようにすることで、クラウン部16の外周面に補強コード26を埋設しやすくなると共に、効果的にエア入りを抑制することができる。
また、補強コード26の埋設量Lは、補強コード26の加熱温度、補強コード26に作用させるテンション、及び第1のローラ60による押圧力等によって調整することができる。そして、本実施形態では、補強コード26の埋設量Lが、補強コード26の直径Dの1/5以上となるように設定されている。なお、補強コード26の埋設量Lとしては、直径Dの1/2を超えることがさらに好ましく、補強コード26全体が埋設されることが最も好ましい。
このようにして、加熱した補強コード26をクラウン部16の外周面に埋設しながら巻き付けることで、タイヤケース17のクラウン部16の外周側に補強コード層28が形成される。
次に、タイヤケース17の外周面に加硫済みの帯状のトレッド30を1周分巻き付けてタイヤケース17の外周面にトレッド30を、接着剤などを用いて接着する。なお、トレッド30は、例えば、従来知られている更生タイヤに用いられるプレキュアトレッドを用いることができる。本工程は、更生タイヤの台タイヤの外周面にプレキュアトレッドを接着する工程と同様の工程である。
そして、タイヤケース17のビード部12に、加硫済みのゴムからなるシール層24を、接着剤等を用いて接着すれば、タイヤ10の完成となる。
(作用)
本実施形態のタイヤ10では、タイヤケース17が、前記の熱可塑性樹脂材料によって形成されているため、引張弾性率、及び破断性に優れる。さらに、本実施形態のタイヤ10は、熱可塑性樹脂材料を用いたことで、その構造を簡素化できるため、従来のタイヤに用いられてきたゴムに比して重量が軽い。このため、本実施形態のタイヤ10を自動車に適用すると、軽量化することができ、燃費を抑えることができる。
特に、タイヤケース17の形成に用いる熱可塑性樹脂材料の酸価が、0.1mg−CHONa/g以上10mg−CHONa/g以下であることで、ポリエステル系熱可塑性エラストマーを海相、酸変性エラストマー、又は、酸変性エラストマー及び他の熱可塑性エラストマー(未変性)を島相とする海島構造を有する熱可塑性樹脂材料中に、島相が微分散することとなり、タイヤ10の耐衝撃性、引張り特性が向上する。
また、熱可塑性樹脂材料に含まれる酸変性エラストマーは、補強コード26に対する密着性が高い。このため、補強コード巻回工程において補強コード26の周囲に空気が残る現象(エア入り)を抑制することができる。補強コード26への密着性が高く、補強コード部材周辺へのエア入りが抑制されていると、走行時の入力などによって補強コード26が動くのを効果的に抑制することができる。これにより、例えば、タイヤ骨格体の外周部に補強コード部材全体を覆うようにタイヤ構成部材が設けられた場合であっても、補強コード部材は動きが抑制されているため、これらの部材間(タイヤ骨格体含む)の剥離などが生じるのが抑制されタイヤ10の耐久性が向上する。
また、熱可塑性樹脂材料は、酸変性エラストマーを含むために流動性に優れ、酸変性エラストマーの変性率を既述の範囲とすることで、特に射出成形性に優れる。これにより、タイヤの生産効率を向上させると共に、省エネルギーともなり環境上も好ましい。
また、本実施形態のタイヤ10では、熱可塑性樹脂材料で形成されたタイヤケース17のクラウン部16の外周面に熱可塑性樹脂材料よりも剛性が高い補強コード26が周方向へ螺旋状に巻回されていることから耐パンク性、耐カット性、及びタイヤ10の周方向剛性が向上する。なお、タイヤ10の周方向剛性が向上することで、熱可塑性樹脂材料で形成されたタイヤケース17のクリープが防止される。
また、タイヤケース17の軸方向に沿った断面視(図1に示される断面)で、熱可塑性樹脂材料で形成されたタイヤケース17のクラウン部16の外周面に補強コード26の少なくとも一部が埋設され且つ熱可塑性樹脂材料に密着していることから、製造時のエア入りが抑制されており、走行時の入力などによって補強コード26が動くのが抑制される。これにより、補強コード26、タイヤケース17、及びトレッド30に剥離などが生じるのが抑制され、タイヤ10の耐久性が向上する。
そして、図2に示すように、補強コード26の埋設量Lが直径Dの1/5以上となっていることから、製造時のエア入りが効果的に抑制されており、走行時の入力などによって補強コード26が動くのがさらに抑制される。
このように補強コード層28が、ポリエステル系熱可塑性エラストマーを含む熱可塑性樹脂材料により構成されていると、補強コード26をクッションゴムで固定する場合と比してタイヤケース17と補強コード層28との硬さの差を小さくできるため、更に補強コード26をタイヤケース17に密着・固定することができる。これにより、上述のエア入りを効果的に防止することができ、走行時に補強コード部材が動くのを効果的に抑制することができる。
更に、補強コード26が特にスチールコードである場合において、タイヤ処分時に補強コード26を加熱によって熱可塑性樹脂材料から容易に分離・回収が可能であるため、タイヤ10のリサイクル性の点で有利である。
また、ポリエステル系熱可塑性エラストマーは加硫ゴムに比して損失係数(Tanδ)が低いため、補強コード層28がポリエステル系熱可塑性エラストマーを多く含んでいると、タイヤの転がり性を向上させることができる。
更には、ポリエステル系熱可塑性エラストマーは加硫ゴムに比して、面内せん断剛性が大きく、タイヤ走行時の操安性や耐摩耗性にも優れるといった利点がある。
また、路面と接触するトレッド30をポリエステル系熱可塑性エラストマーよりも耐摩耗性のあるゴム材で構成していることから、タイヤ10の耐摩耗性が向上する。
さらに、ビード部12には、金属材料からなる環状のビードコア18が埋設されていることから、従来のゴム製の空気入りタイヤと同様に、リム20に対してタイヤケース17、すなわちタイヤ10が強固に保持される。
またさらに、ビード部12のリム20と接触する部分に、ポリエステル系熱可塑性エラストマーよりもシール性のあるゴム材からなるシール層24が設けられていることから、タイヤ10とリム20との間のシール性が向上する。このため、リム20とアミドエラストマーとでシールする場合と比較して、タイヤ内の空気漏れがより一層抑制される。また、シール層24を設けることでリムフィット性も向上する。
第1の実施形態では、補強コード26を加熱し、加熱した補強コード26が接触する部分のポリエステル系熱可塑性エラストマーを溶融又は軟化させる構成としたが、本発明はこの構成に限定されず、補強コード26を加熱せずに熱風生成装置を用い、補強コード26が埋設されるクラウン部16の外周面を加熱した後、補強コード26をクラウン部16に埋設するようにしてもよい。
また、第1の実施形態では、コード加熱装置59の熱源をヒーター及びファンとしているが、本発明はこの構成に限定されず、補強コード26を輻射熱(例えば、赤外線など)で直接加熱する構成としてもよい。
さらに、第1の実施形態では、補強コード26を埋設した熱可塑性樹脂材料が溶融又は軟化した部分を金属製の第2のローラ64で強制的に冷却する構成としたが、本発明はこの構成に限定されず、熱可塑性樹脂材料が溶融又は軟化した部分に冷風を直接吹きかけて、熱可塑性樹脂材料の溶融又は軟化した部分を強制的に冷却固化する構成としてもよい。
また、第1の実施形態では、補強コード26を加熱する構成としたが、例えば、補強コード26の外周をタイヤケース17と同じ熱可塑性樹脂材料で被覆する構成としてもよく、この場合には、被覆補強コードをタイヤケース17のクラウン部16に巻き付ける際に、補強コード26と共に被覆した熱可塑性樹脂材料も加熱することで、クラウン部16への埋設時におけるエア入りを効果的に抑制することができる。
第1の実施形態のタイヤ10は、ビード部12をリム20に装着することで、タイヤ10とリム20との間で空気室を形成する、所謂チューブレスタイヤであるが、本発明はこの構成に限定されず、完全なチューブ形状であってもよい。
また、補強コード26は螺旋巻きするのが製造上は容易だが、幅方向で補強コード26を不連続とする方法等も考えられる。
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の範囲がこれらの実施形態に限定されないことは言うまでもない。
[第2の実施形態]
次に、図面に従って本発明のタイヤの製造方法及びタイヤの第2の実施形態について説明する。本実施形態のタイヤは、上述の第1実施形態と同様に、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと略同様の断面形状を呈している。このため、以下の図において、上記第1実施形態と同様の構成については同様の番号が付される。図10(A)は、第2の実施形態のタイヤのタイヤ幅方向に沿った断面図であり、図10(B)は第2の実施形態のタイヤにリムを嵌合させた状態のビード部のタイヤ幅方向に沿った断面の拡大図である。また、図11は、第2の実施形態のタイヤの補強層の周囲を示すタイヤ幅方向に沿った断面図である。
第2の実施形態のタイヤは、上述の第1実施形態と同様に、タイヤケース17が熱可塑性樹脂材料〔ポリエステル系熱可塑性エラストマー〔東レ・デュポン(株)製「ハイトレル 6347」)と、酸変性されたα−オレフィン系熱可塑性エラストマー(三井化学(株)製「タフマー MA7010」)との混合材料;熱可塑性樹脂材料の酸価=1.11mg−CHONa/g〕で形成されている。本実施形態においてタイヤ200は、図4及び図5に示すように、クラウン部16に、被覆コード部材26Bが周方向に巻回されて構成された補強コード層28(図11では破線で示されている)が積層されている。この補強コード層28は、タイヤケース17の外周部を構成し、クラウン部16の周方向剛性を補強している。なお、補強コード層28の外周面は、タイヤケース17の外周面17Sに含まれる。
この被覆コード部材26Bは、タイヤケース17を形成する熱可塑性樹脂材料よりも剛性が高いコード部材26Aにタイヤケース17を形成する熱可塑性樹脂材料とは別体の被覆用樹脂材料27を被覆して形成されている。また、被覆コード部材26Bはクラウン部16との接触部分において、被覆コード部材26Bとクラウン部16とが接合(例えば、溶接、又は接着剤で接着)されている。
被覆用樹脂材料27の弾性率がタイヤケース17を形成する熱可塑性樹脂材料の弾性率の10倍以下の場合は、クラウン部が硬くなり過ぎずリム組み性が容易になる。また、被覆用樹脂材料27の弾性率がタイヤケース17を形成する熱可塑性樹脂材料の弾性率の0.1倍以上の場合には、補強コード層28を構成する樹脂が柔らかすぎず、ベルト面内せん断剛性に優れコーナリング力が向上する。なお、本実施形態では、被覆用樹脂材料27として、タイヤケース17を構成している熱可塑性樹脂材料と同種の材料〔東レ・デュポン(株)製「ハイトレル 6347」)と、酸変性されたα−オレフィン系熱可塑性エラストマー(三井化学(株)製「タフマー MA7010」)との混合材料;熱可塑性樹脂材料の=酸価1.11mg−CHONa/g〕が用いられている。
また、図5に示すように、被覆コード部材26Bは、断面形状が略台形状とされている。なお、以下では、被覆コード部材26Bの上面(タイヤ径方向外側の面)を符号26Uで示し、下面(タイヤ径方向内側の面)を符号26Dで示す。また、本実施形態では、被覆コード部材26Bの断面形状を略台形状とする構成としているが、本発明はこの構成に限定されず、断面形状が下面26D側(タイヤ径方向内側)から上面26U側(タイヤ径方向外側)へ向かって幅広となる形状を除いた形状であれば、いずれの形状でもよい。
図5に示すように、被覆コード部材26Bは、周方向に間隔をあけて配置されていることから、隣接する被覆コード部材26Bの間に隙間28Aが形成されている。このため、補強コード層28の外周面は、凹凸とされ、この補強コード層28が外周部を構成するタイヤケース17の外周面17Sも凹凸となっている。
タイヤケース17の外周面17S(凹凸含む)には、微細な粗化凹凸96が均一に形成され、その上に接合剤を介して、クッションゴム29が接合されている。このクッションゴム29は、径方向内側のゴム部分が粗化凹凸96に流れ込んでいる。
また、クッションゴム29の上(外周面)にはタイヤケース17を形成している樹脂材料よりも耐摩耗性に優れた材料、例えばゴムからなるトレッド30が接合されている。
なお、トレッド30に用いるゴム(トレッドゴム30A)は、従来のゴム製の空気入りタイヤに用いられているゴムと同種のゴムを用いることが好ましい。また、トレッド30の代わりに、タイヤケース17を形成する樹脂材料よりも耐摩耗性に優れる他の種類の樹脂材料で形成したトレッドを用いてもよい。また、トレッド30には、従来のゴム製の空気入りタイヤと同様に、路面との接地面に複数の溝からなるトレッドパターン(図示省略)が形成されている。
次に本実施形態のタイヤの製造方法について説明する。
(骨格形成工程)
(1)まず、上述の第1実施形態と同様にして、タイヤケース半体17Aを形成し、これを接合金型によって加熱・押圧し、タイヤケース17を形成する。
(補強コード部材巻回工程)
(2)本実施形態におけるタイヤの製造装置は、上述の第1実施形態と同様であり、上述の第1実施形態の図3に示すコード供給装置56において、リール58にコード部材26Aを被覆用樹脂材料27(本実施形態では熱可塑性材料)で被覆した断面形状が略台形状の被覆コード部材26Bを巻き付けたものが用いられる。
まず、ヒーター70の温度を上昇させ、ヒーター70で加熱された周囲の空気をファン72の回転によって生じる風で加熱ボックス74へ送る。リール58から巻き出した被覆コード部材26Bを、熱風で内部空間が加熱された加熱ボックス74内へ送り加熱(例えば、被覆コード部材26Bの外周面の温度を、被覆用樹脂材料27の融点以上)とする。ここで、被覆コード部材26Bが加熱されることにより、被覆用樹脂材料27が溶融又は軟化した状態となる。
そして被覆コード部材26Bは、排出口76を通り、紙面手前方向に回転するタイヤケース17のクラウン部16の外周面に一定のテンションをもって螺旋状に巻回される。このとき、クラウン部16の外周面に被覆コード部材26Bの下面26Dが接触する。そして、接触した部分の溶融又は軟化状態の被覆用樹脂材料27はクラウン部16の外周面上に広がり、クラウン部16の外周面に被覆コード部材26Bが溶着される。これにより、クラウン部16と被覆コード部材26Bとの接合強度が向上する。
(粗化処理工程)
(3)次に、図示を省略するブラスト装置にて、タイヤケース17の外周面17Sに向け、タイヤケース17側を回転(矢印R方向)させながら、外周面17Sへ投射材を高速度で射出する。射出された投射材は、外周面17Sに衝突し、この外周面17Sに算術平均粗さRaが0.05mm以上となる微細な粗化凹凸96を形成する。
このようにして、タイヤケース17の外周面17Sに微細な粗化凹凸96が形成されることで、外周面17Sが親水性となり、後述する接合剤の濡れ性が向上する。
(積層工程)
(4)次に、粗化処理を行なったタイヤケース17の外周面17Sに接合剤を塗布する。 なお、接合剤としては、トリアジンチオール系接着剤、塩化ゴム系接着剤、フェノール系樹脂接着剤、イソシアネート系接着剤、ハロゲン化ゴム系接着剤など、特に制限はないが、クッションゴム29が加硫できる温度(90°C〜140°C)で反応することが好ましい。
(5)次に、接合剤が塗布された外周面17Sに未加硫状態のクッションゴム29を1周分巻き付け、そのクッションゴム29の上に例えば、ゴムセメント組成物などの接合剤を塗布し、その上に加硫済み又は半加硫状態のトレッドゴム30Aを1周分巻き付けて、生タイヤケース状態とする。
(加硫工程)
(6)次に生タイヤケースを加硫缶やモールドに収容して加硫する。このとき、粗化処理によってタイヤケース17の外周面17Sに形成された粗化凹凸96に未加硫のクッションゴム29が流れ込む。そして、加硫が完了すると、粗化凹凸96に流れ込んだクッションゴム29により、アンカー効果が発揮されて、タイヤケース17とクッションゴム29との接合強度が向上する。すなわち、クッションゴム29を介してタイヤケース17とトレッド30との接合強度が向上する。
加硫工程においては、クッションゴム29を加硫できる温度(90℃〜140℃)まで温度を上昇させる必要があり、タイヤケースにポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性樹脂のみを用いている場合、加硫時における温度上昇により、タイヤケース17にたわみを生じさせ、延いてはタイヤの形成維持性に影響する場合がある。この点において、ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、他の熱可塑性エラストマーに比して荷重たわみ温度が高いことから、タイヤの形状維持性をより向上させると共に、タイヤの製造性をも向上させることができる。
(7)そして、タイヤケース17のビード部12に、樹脂材料よりも軟質である軟質材料からなるシール層24を、接着剤等を用いて接着すれば、タイヤ200の完成となる。
(8)最後に、タイヤ支持部40の径を縮小し、完成したタイヤ200をタイヤ支持部40から取り外し、内部のタイヤ内面支持リング43を曲げ変形させてタイヤ外へ取り外す。
(作用)
本実施形態のタイヤ200では、タイヤケース17が、前記の熱可塑性樹脂材料によって形成されているため、耐熱性、引張弾性率、引張強度及び破断ひずみに優れる。また、本実施形態のタイヤ10は、熱可塑性樹脂材料を用いたことで、その構造を簡素化できるため、従来のタイヤに用いられてきたゴムに比して重量が軽い。このため、本実施形態のタイヤ200は、耐摩擦性及び耐久性が高い。
また、熱可塑性樹脂材料の一つとして用いられるポリエステル系熱可塑性エラストマーは、補強コード層28を構成する被覆コード部材26Bに対する接着性が高い。
このように補強コード層28が、被覆コード部材26Bを含んで構成されていると、コード部材26Aを単にクッションゴム29で固定する場合と比してタイヤケース17と補強コード層28との硬さの差を小さくできるため、更に被覆コード部材26Bをタイヤケース17に密着・固定することができる。これにより、エア入りを効果的に防止することができ、走行時に補強コード部材が動くのを効果的に抑制することができる。
更に、コード部材26Aが特にスチールコードである場合には、タイヤ処分時に被覆コード部材26Bからコード部材26Aを加熱によって容易に分離・回収が可能であるため、タイヤ200のリサイクル性の点で有利である。また、ポリエステル系熱可塑性エラストマーは加硫ゴムに比して損失係数(Tanδ)が低いため、補強コード層28がポリエステル系熱可塑性エラストマーを多く含んでいると、タイヤの転がり性を向上させることができる。更には、ポリエステル系熱可塑性エラストマーは加硫ゴムに比して、面内せん断剛性が大きく、タイヤ走行時の操安性や耐摩耗性にも優れるといった利点がある。
本実施形態のタイヤの製造方法では、タイヤケース17とクッションゴム29及びトレッドゴム30Aとを一体化するにあたり、タイヤケース17の外周面17Sが粗化処理されていることから、アンカー効果により接合性(接着性)が向上する。また、タイヤケース17を形成する樹脂材料が投射材の衝突により掘り起こされることから、接合剤の濡れ性が向上する。これにより、タイヤケース17の外周面17Sに接合剤が均一な塗布状態で保持され、タイヤケース17とクッションゴム29との接合強度を確保することができる。
特に、タイヤケース17の外周面17Sに凹凸が構成されていても、凹部(隙間28A)に投射材を衝突させることで凹部周囲(凹壁、凹底)の粗化処理がなされ、タイヤケース17とクッションゴム29との接合強度を確保することができる。
一方、クッションゴム29がタイヤケース17の外周面17Sの粗化処理された領域内に積層されることから、タイヤケース17とクッションゴムとの接合強度を効果的に確保することができる。
加硫工程において、クッションゴム29を加硫した場合、粗化処理によってタイヤケース17の外周面17Sに形成された粗化凹凸96にクッションゴム29が流れ込む。そして、加硫が完了すると、粗化凹凸96に流れ込んだクッションゴム29により、アンカー効果が発揮されて、タイヤケース17とクッションゴム29との接合強度が向上する。
このような、タイヤの製造方法にて製造されたタイヤ200は、タイヤケース17とクッションゴム29との接合強度が確保される、すなわち、クッションゴム29を介してタイヤケース17とトレッド30との接合強度が確保される。これにより、走行時などにおいて、タイヤ200のタイヤケース17の外周面17Sとクッションゴム29との間の剥離が抑制される。
また、タイヤケース17の外周部を補強コード層28が構成していることから、外周部を補強コード層28以外のもので構成しているものと比べて、耐パンク性及び耐カット性が向上する。
また、被覆コード部材26Bを巻回して補強コード層28が形成されていることから、タイヤ200の周方向剛性が向上する。周方向剛性が向上することで、タイヤケース17のクリープ(一定の応力下でタイヤケース17の塑性変形が時間とともに増加する現象)が抑制され、且つ、タイヤ径方向内側からの空気圧に対する耐圧性が向上する。
本実施形態では、タイヤケース17の外周面17Sに凹凸を構成したが、本発明はこれに限らず、図9に示すタイヤケース17の変形例1のように、外周面17Sを平らに形成する構成としてもよい。以下に、外周面17Sを平らに形成したタイヤケース17の変形例1について説明する。
本実施形態では、タイヤケース17の外周面17Sに凹凸を構成したが、本発明はこれに限らず、外周面17Sを平らに形成する構成としてもよい。
また、タイヤケース17は、タイヤケースのクラウン部に巻回され且つ接合された被覆コード部材を被覆用熱可塑性材料で覆うようにして補強コード層を形成してもよい。この場合、溶融又は軟化状態の被覆用熱可塑性材料を補強コード層28の上に吐出して被覆層を形成することができる。また、押出機を用いずに、溶着シートを加熱し溶融又は軟化状態にして、補強コード層28の表面(外周面)に貼り付けて被覆層を形成してもよい。
第2の実施形態では、ケース分割体(タイヤケース半体17A)を接合してタイヤケース17を形成する構成としたが、本発明はこの構成に限らず、金型などを用いてタイヤケース17を一体的に形成してもよい。
第2の実施形態のタイヤ200は、ビード部12をリム20に装着することで、タイヤ200とリム20との間で空気室を形成する、所謂チューブレスタイヤであるが、本発明はこの構成に限定されず、タイヤ200は、例えば、完全なチューブ形状であってもよい。
第2の実施形態では、タイヤケース17とトレッド30との間にクッションゴム29を配置したが、本発明はこれに限らず、クッションゴム29を配置しない構成としてもよい。
また、上述の第2の実施形態では、被覆コード部材26Bをクラウン部16へ螺旋状に巻回する構成としたが、本発明はこれに限らず、被覆コード部材26Bが幅方向で不連続となるように巻回する構成としてもよい。
第2の実施形態では、被覆コード部材26Bを形成する被覆用樹脂材料27を熱可塑性材料とし、この被覆用樹脂材料27を加熱することにより溶融又は軟化状態にしてクラウン部16の外周面に被覆コード部材26Bを溶着する構成としているが、本発明はこの構成に限定されず、被覆用樹脂材料27を加熱せずに接着剤などを用いてクラウン部16の外周面に被覆コード部材26Bを接着する構成としてもよい。
また、被覆コード部材26Bを形成する被覆用樹脂材料27を熱硬化性樹脂とし、被覆コード部材26Bを加熱せずに接着剤などを用いてクラウン部16の外周面に接着する構成としてもよい。
さらに、被覆コード部材26Bを形成する被覆用樹脂材料27を熱硬化性樹脂とし、タイヤケース17を熱可塑性材料で形成する構成としてもよい。この場合には、被覆コード部材26Bをクラウン部16の外周面に接着剤などを用いて接着してもよく、タイヤケース17の被覆コード部材26Bが配設される部位を加熱して溶融又は軟化状態にして被覆コード部材26Bをクラウン部16の外周面に溶着してもよい。
またさらに、被覆コード部材26Bを形成する被覆用樹脂材料27を熱可塑性材料とし、タイヤケース17を熱可塑性材料で形成する構成としてもよい。
この場合には、被覆コード部材26Bをクラウン部16の外周面に接着剤などを用いて接着してもよく、タイヤケース17の被覆コード部材26Bが配設される部位を加熱して溶融又は軟化状態としつつ、被覆用樹脂材料27を加熱し溶融又は軟化状態にして被覆コード部材26Bをクラウン部16の外周面に溶着してもよい。なお、タイヤケース17及び被覆コード部材26Bの両者を加熱して溶融又は軟化状態にした場合、両者が良く混ざり合うため接合強度が向上する。また、タイヤケース17を形成する樹脂材料、及び被覆コード部材26Bを形成する被覆用樹脂材料27をともに熱可塑性材料とする場合には、同種の熱可塑性材料、特に同一の熱可塑性材料とすることが好ましい。
また、さらに、粗化処理を行なったタイヤケース17の外周面17Sに、コロナ処理やプラズマ処理等を用い、外周面17Sの表面を活性化し、親水性を高めた後、接着剤を塗布してもよい。
またさらに、タイヤ200を製造するための順序は、第2の実施形態の順序に限らず、適宜変更してもよい。
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の範囲がこれらの実施形態に限定されないことは言うまでもない。
以上、本発明の具体的な態様について第1の実施形態及び第2の実施形態を用いて説明したが本発明は上述の態様に限定されるものではない。
本発明のタイヤは第1実施形態に示されるように以下のように構成することができる。
(1−1)本発明のタイヤは、タイヤ骨格体の軸方向に沿った断面視で、本発明に係る熱可塑性樹脂材料で形成されたタイヤ骨格体の外周部に補強コード部材の少なくとも一部が埋設されるように構成することができる。
このように、補強コード部材の一部がタイヤ骨格体の外周部に埋設していると、補強コード部材巻回時にコード周辺に空気が残る現象(エア入り)を更に抑制することができる。補強コード部材周辺へのエア入りが抑制されると、走行時の入力などによって補強コード部材が動くのが抑制される。これにより、例えば、タイヤ骨格体の外周部に補強コード部材全体を覆うようにタイヤ構成部材が設けられた場合、補強コード部材は動きが抑制されているため、これらの部材間(タイヤ骨格体含む)に剥離などを生じるのが抑制され耐久性が向上する。
(1−2)本発明のタイヤは、前記補強コード層の径方向外側に熱可塑性樹脂材料よりも耐摩耗性を有する材料から形成されるトレッドを設けてもよい。
このように路面と接触するトレッドを熱可塑性樹脂材料よりも耐摩耗性のある材料で構成することでタイヤの耐摩耗性を更に向上させることができる。
(1−3)本発明のタイヤは、前記タイヤ骨格体の軸方向に沿った断面視で、前記補強コード部材の直径1/5以上を前記タイヤ骨格体の外周部に周方向に沿って埋設させることができる。
このようにタイヤ骨格体の軸方向に沿った断面視で補強コード部材の直径の1/5以上がタイヤ骨格体の外周部に埋設されていると、補強コード部材周辺へのエア入りを効果的に抑制することができ、走行時の入力などによって補強コード部材が動くのをより抑制することができる。
(1−4)本発明のタイヤは、前記タイヤ骨格体は、径方向内側にリムのビードシート及びリムフランジに接触するビード部を有し、前記ビード部に金属材料からなる環状のビードコアが埋設されるように構成することができる。
このように、タイヤ骨格体にリムとの嵌合部位であるビード部を設け、さらに、このビード部に金属材料からなる環状のビードコアを埋設することで、従来のゴム製の空気入りタイヤと同様に、リムに対して、タイヤ骨格体(すなわちタイヤ)を強固に保持させることができる。
(1−5)本発明のタイヤは、前記ビード部が前記リムと接触する部分に熱可塑性樹脂材料よりもシール性(リムとの密着性)の高い材料からなるシール部を設けることが出来る。
このように、タイヤ骨格体とリムとの接触部分に、熱可塑性樹脂材料よりもシール性の高い材料からなるシール部を設けることで、タイヤ(タイヤ骨格体)とリムとの間の密着性を向上させることができる。これにより、リムと熱可塑性樹脂材料とのみを用いた場合に比較して、タイヤ内の空気漏れを一層抑制することができる。また、上記シール部を設けることでタイヤのリムフィット性も向上させることができる。
(1−6)本発明のタイヤの製造方法は、少なくともポリエステル系熱可塑性エラストマーを含む熱可塑性樹脂材料によって環状のタイヤ骨格体の一部を構成するタイヤ骨格片を形成するタイヤ骨格片形成工程と、前記タイヤ骨格片の接合面に熱を付与し対となる2以上の前記タイヤ骨格片を融着させて前記タイヤ骨格体を形成するタイヤ骨格片接合工程と、前記タイヤ骨格体の外周部に補強コード部材を周方向に巻回して補強コード層を形成する補強コード部材巻回工程と、によって構成することができる。
(1−7)本発明のタイヤの製造方法は、前記タイヤ骨格片接合工程において、前記タイヤ骨格片の接合面を、タイヤ骨格片を構成する熱可塑性樹脂材料の融点以上に加熱するように構成することができる。
このように、前記分割体の接合面を、タイヤ骨格片を構成する熱可塑性樹脂材料の融点以上に加熱すると、タイヤ骨格片同士の融着を十分に行うことができるため、タイヤの耐久性を向上させつつ、タイヤの生産性を高めることができる。
(1−8)本発明のタイヤの製造方法は、前記補強コード部材巻回工程において、前記タイヤ骨格片接合工程において形成された前記タイヤ骨格体の外周部を溶融又は軟化させながら補強コード部材の少なくとも一部を埋設して前記タイヤ骨格体の外周部に前記補強コード部材を巻回するように構成することができる。
このように、前記タイヤ骨格体の外周部を溶融又は軟化させながら補強コード部材の少なくとも一部を埋設して前記タイヤ骨格体の外周部に前記補強コード部材を巻回することで、埋設された補強コード部材の少なくとも一部と溶融又は軟化した熱可塑性樹脂材料とを溶着させることができる。これにより、タイヤ骨格体の軸方向に沿った断面視でタイヤ骨格体の外周部と補強コード部材との間のエア入りを更に抑制することができる。また、補強コード部材を埋設した部分が冷却固化されると、タイヤ骨格体に埋設された補強コード部材の固定具合が向上する。
(1−9)本発明のタイヤの製造方法は、前記補強コード部材巻回工程において、前記タイヤ骨格体の軸方向に沿った断面視で前記補強コードの直径の1/5以上を前記タイヤ骨格体の外周部に埋設させるように構成することができる。
このように、タイヤ骨格体の軸方向に沿った断面視で、タイヤ骨格体の外周部に補強コード部材を直径の1/5以上埋設すると、製造時の補強コード周辺へのエア入りを効果的に抑制することができ、更に、埋設された補強コード部材がタイヤ骨格体から抜け難くすることができる。
(1−10)本発明のタイヤの製造方法は、前記補強コード部材巻回工程において、加熱した前記補強コード部材を前記タイヤ骨格体に埋設するように構成することができる。
このように、補強コード巻回工程において、補強コード部材を加熱しながらタイヤ骨格体に埋設させると、加熱された補強コード部材がタイヤ骨格体の外周部に接触した際に接触部分が溶融又は軟化するため、補強コード部材をタイヤ骨格体の外周部に埋設し易くなる。
(1−11)本発明のタイヤの製造方法は、前記コード部材巻回工程において、前記タイヤ骨格体の外周部の前記補強コード部材が埋設される部分を加熱するように構成することができる。
このように、タイヤ骨格体の外周部の補強コード部材が埋設される部分を加熱することで、タイヤ骨格体の加熱された部分が溶融又は軟化するため、補強コード部材を埋設し易くなる。
(1−12)本発明のタイヤの製造方法は、前記コード部材巻回工程において、前記補強コード部材を前記タイヤ骨格体の外周部に押圧しながら前記タイヤ骨格体の外周部の周方向に前記補強コード部材を螺旋状に巻回するように構成することができる。
このように、補強コード部材を前記タイヤ骨格体の外周部に押圧しながら前記補強コード部材を螺旋状に巻回すると、補強コード部材のタイヤ骨格体の外周部への埋設量を調整することができる。
(1−13)本発明の製造方法によれば、前記コード部材巻回工程において、前記補強コード部材を前記タイヤ骨格体に巻回した後、前記タイヤ骨格体の外周部の溶融又は軟化した部分を冷却するように構成することができる。
このように、補強コード部材が埋設された後で、タイヤ骨格体の外周部の溶融又は軟化した部分を強制的に冷却することで、タイヤ骨格体の外周部の溶融又は軟化した部分を自然冷却よりも早く迅速に冷却固化することができる。タイヤ外周部を自然冷却よりも早く冷却することで、タイヤ骨格体の外周部の変形を抑制できると共に、補強コード部材が動くのを抑制することができる。
また、本発明のタイヤは第2の実施形態において説明したように以下のように構成することができる。
(2−1)本発明のタイヤの製造方法は、更に、タイヤ骨格体の外周面に粒子状の投射材を衝突させて、タイヤ骨格体の外周面を粗化処理する粗化処理工程と、粗化処理された前記外周面に接合剤を介してタイヤ構成ゴム部材を積層する積層工程と、を備えて構成することができる。
このように、粗化処理工程を設けると、熱可塑性樹脂材料を用いて形成された環状のタイヤ骨格体の外周面に粒子状の投射材が衝突して、当該外周面に微細な粗化凹凸が形成される。なお、タイヤ骨格体の外周面に投射材を衝突させて微細な粗化凹凸を形成する処理を粗化処理という。その後、粗化処理された外周面に接合剤を介してタイヤ構成ゴム部材が積層される。ここで、タイヤ骨格体とタイヤ構成ゴム部材とを一体化するにあたり、タイヤ骨格体の外周面が粗化処理されていることから、アンカー効果により接合性(接着性)が向上する。また、タイヤ骨格体を形成する樹脂材料が投射材の衝突により掘り起こされることから、外周面の濡れ性が向上する。これにより、タイヤ骨格体の外周面に接合剤が均一な塗布状態で保持され、タイヤ骨格体とタイヤ構成ゴム部材との接合強度を確保することができる。
(2−2)本発明のタイヤは、前記タイヤ骨格体の外周面の少なくとも一部が凹凸部であり、前記凹凸部が前記粗化処理工程において粗化処理を施して作成することができる。
このように、タイヤ骨格体の外周面の少なくとも一部が凹凸部とされていても、凹凸部に投射材を衝突させることで凹部周囲(凹壁、凹底)の粗化処理がなされ、タイヤ骨格体とタイヤ構成ゴム部材との接合強度を確保することができる。
(2−3)本発明のタイヤは、前記タイヤ骨格体の外周部が、外周面に前記凹凸部を構成する補強層で構成されており、前記補強層が前記タイヤ骨格体を形成する樹脂材料とは同体又は別体の樹脂材料で補強コードを被覆して構成された被覆コード部材を前記タイヤ骨格体の周方向に巻回して構成することができる。
このように、被覆コード部材をタイヤ骨格体の周方向に巻回して構成された補強層でタイヤ骨格体の外周部を構成することで、タイヤ骨格体の周方向剛性を向上させることができる。
(2−4) 本発明のタイヤは、前記被覆コード部材を構成する樹脂材料に熱可塑性樹脂材料を用いることができる。
このように、被覆コード部材を構成する樹脂材料に熱可塑性を有する熱可塑性材料を用いることで、前記樹脂材料として熱硬化性材料を用いたとする場合と比べて、タイヤ製造が容易になり、リサイクルしやすくなる。
(2−5) 本発明のタイヤは、前記粗化処理工程において、前記タイヤ構成ゴム部材の積層領域よりも広い領域を粗化処理するように構成することができる。
このように、粗化処理工程において、タイヤ構成ゴム部材の積層領域よりも広い領域に粗化処理を施すと、タイヤ骨格体とタイヤ構成ゴム部材との接合強度を確実に確保することができる。
(2−6) 本発明のタイヤは、前記粗化処理工程において、算術平均粗さRaが0.05mm以上となるように前記外周面を粗化処理するように構成することができる。
このように、粗化処理工程において算術平均粗さRaが0.05mm以上となるようにタイヤ骨格体の外周面を粗化処理すると、粗化処理された外周面に接合剤を介して、例えば、未加硫又は半加硫状態のタイヤ構成ゴム部材を積層し加硫した場合に、粗化処理により形成された粗化凹凸の底まで、タイヤ構成ゴム部材のゴムを流れ込ませることができる。粗化凹凸の底まで、タイヤ構成ゴム部材のゴムを流れ込ませると、外周面とタイヤ構成ゴム部材との間に十分なアンカー効果が発揮されて、タイヤ骨格体とタイヤ構成ゴム部材との接合強度を向上させることができる。
(2−7) 本発明のタイヤは、前記タイヤ構成ゴム部材として、未加硫、又は半加硫状態のゴムを用いることできる。
このように、前記タイヤ構成ゴム部材として未加硫又は半加硫状態のゴムを用いると、タイヤ構成ゴム部材を加硫した際に、粗化処理によってタイヤ骨格体の外周面に形成された粗化凹凸にゴムが流れ込む。そして、加硫が完了すると、粗化凹凸に流れ込んだゴム(加硫済み)により、アンカー効果が発揮されて、タイヤ骨格体とタイヤ構成ゴム部材との接合強度を向上させることができる。
なお、加硫済みとは、最終製品として必要とされる加硫度に至っている状態をいい、半加硫状態とは、未加硫の状態よりは加硫度が高いが、最終製品として必要とされる加硫度に至っていない状態をいう。
(2−8) 本発明のタイヤは、本発明に係る熱可塑性樹脂材料を用いて形成され、外周面に粒子状の投射材を衝突させて該外周面を粗化処理した環状のタイヤ骨格体と、粗化処理された前記外周面に接合剤を介して積層されたタイヤ構成ゴム部材と、を備えるように構成することができる。
このように、粗化処理した環状のタイヤ骨格体を用いると、タイヤ骨格体とタイヤ構成ゴム部材との接合強度をアンカー効果によって向上させることができる。また、外周面が粗化処理されていることから、接合剤の濡れ性がよい。これにより、タイヤ骨格体の外周面に接合剤が均一な塗布状態で保持され、タイヤ骨格体とタイヤ構成ゴム部材との接合強度が確保されて、タイヤ骨格体とタイヤ構成ゴム部材との剥離を抑制することができる。
以下、本発明について実施例を用いてより具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
まず。上述の第1実施形態に従って、実施例及び比較例のタイヤを成形した。この際、タイヤケースを形成する材料については下記表1に記載の材料を用いた。また、実施例及び比較例と同条件で形成したタイヤケースと同じ成分組成である127mm×12.7mm、厚さ1.6mmのシート状の試料片を作製し、射出成形性、引張強さ、破断伸び、引張弾性率、及び破断状態について評価した。結果を表1に示す。
また、各試料片の作製方法、各評価方法及び評価条件は以下の通りである。
<試料片の作製>
1.ポリエステル系熱可塑性エラストマー
東レ・デュポン(株)製「ハイトレル 6347」
2.ポリアミド系熱可塑性エラストマー
宇部興産(株)製「UBESTA XPA9055X1」
3.α−オレフィン系熱可塑性エラストマー
1)三井化学(株)製「タフマー MA8510」
2)三井化学(株)製「タフマー MH7007」
3)三井化学(株)製「タフマー MH7010」
4)三井化学(株)製「タフマー MH7020」
5)三井化学(株)製「タフマー A1050S」
4.スチレン系熱可塑性エラストマー〔完全水素添加型(SEBS)〕
1)旭化成(株)製「タフテック H1052」
2)旭化成(株)製「タフテック M1943」
上記熱可塑性エラストマーを、表1に示す組成で混合(質量基準)して、(株)東洋精機製作所製、LABOPLASTOMILL 50MR 2軸押出し機により混練し、ペレットを得た。
次いで、得られたペレットを成形材料として、127mm×12.7mm、厚さ1.6mmの金型を用いて、次の条件で射出成形を行い試料片を得た。
・射出成形機:SE30D、住友重機械工業(株)製
・成形温度(熱可塑性樹脂の温度):200℃〜235℃
・金型温度:50℃〜70℃
得られた各試料片を打ち抜き、JISK6251−1993:1993に規定されるダンベル状試験片(5号形試験片)を作製した。
なお、上記条件にて射出成形できなかった比較例1及び4の各ペレットについては、(株)小平製作所製の電熱プレスを用いて、ペレットを200℃ 12MPaにて、5分間加熱することで、熱プレスを行い、120mm×120mm、厚さ2mmの試料片を得た。
<熱可塑性樹脂材料の酸価の測定>
熱可塑性樹脂材料の酸価は、実施例及び比較例で用いた各エラストマーについて、ナトリウムメトキシド(CHONa)を用いて中和滴定を行った際に用いられたナトリウムメトキシド(CHONa)の質量〔mg〕から、前記式(1)又は式(2)に基づき算出した。結果を表1に示す。
<評価>
1.引張り特性(引張強さ、破断伸び、引張弾性率、及び破断状態)の評価
得られた試験片を用いて、下記のようにして、引張強さ、破断伸び、引張弾性率、及び破断状態について評価した。結果を下記表1に示す。
引張強さ、破断伸び、及び引張弾性率は、(株)島津製作所製、島津オートグラフ「AGS−J(5KN)」、JIS 5号ダンベルを用いて、試料片を引張速度200mm/minで引っ張ることにより測定した。
破断状態は、目視にて各試験片の破断面を観察し、下記評価基準に基づき評価した。
−評価基準−
○:試料片は、延性破壊により破断した。
△:試料片は、層状破壊により破断した。
×:試料片は、脆性破壊により破断した。
2.射出成形性の評価
流動性評価〔MFR(g/10分、230℃)〕及び射出成形性評価
実施例、及び比較例の各ペレットについて、(株)東洋精機製作所製、セミメルトインデクサ 2A型を用い、ASTM A1238(B法)に基づき、21.18N、49.03N、又は98.07Nの荷重をかけて、流動性(MFR)を測定した。
なお、測定は、荷重の小さいもの(21.18N)から始め、この条件ではMFRが測定できない場合には、より大きい荷重をかけて測定した。測定開始後、3分経過した後も測定が開始されないものについては、表1に「−」を示した。
また、上記の住友重機械工業(株)製、SE30Dを用い、成形温度200℃〜235℃、金型温度50℃〜70℃の条件での射出成形性評価を行ない、表1に示した。当該条件での射出成形が可能であったものを○、当該条件では射出成形ができなかったものについては△として表1に示した。
射出成形性の評価が○であるものが、タイヤを作製するに際して実用上問題のない射出成形性を有することを示す。結果を下記表1に示す。
表1に示されるように、各実施例で作製した試料片は、比較例で作製された試料片との対比において、引張り特性及び破断状態のいずれもが良好であり、試料片の作製時における射出成形性にも優れていることが分る。このことは、実施例1〜12に示す試料片と同じ熱可塑性樹脂材料を用いて形成されたタイヤケースを用いて製造されたタイヤは、耐久性を有し且つ製造性にも優れることを示す。
なお、実施例及び比較例で得られた各タイヤについて、ドラム走行試験を行ったところ、走行上の安全性はいずれのタイヤも問題なかった。
10、200 タイヤ
12 ビード部
16 クラウン部(外周部)
18 ビードコア
20 リム
21 ビードシート
22 リムフランジ
17 タイヤケース(タイヤ骨格体)
24 シール層(シール部)
26 補強コード(補強コード部材)
26A コード部材(補強コード部材)
28 補強コード層
30 トレッド
D 補強コードの直径(補強コード部材の直径)
L 補強コードの埋設量(補強コード部材の埋設量)

Claims (8)

  1. 熱可塑性樹脂材料で形成された環状のタイヤ骨格体を有するタイヤであって、
    前記熱可塑性樹脂材料が、ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマーを酸変性してなる酸変性エラストマー、又は前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマー及び該エラストマーを酸変性してなる酸変性エラストマーの混合物と、を含むタイヤ。
  2. 前記熱可塑性樹脂材料の酸価が、0.1mg−CHONa/g以上10mg−CHONa/g以下である請求項1に記載のタイヤ。
  3. 前記熱可塑性樹脂材料中の前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーの質量(A)と、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマー及び前記酸変性エラストマーの合計質量(B)との割合(A:B)が、90:10〜50:50である請求項1又は請求項2に記載のタイヤ。
  4. 前記熱可塑性樹脂材料中の前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有率が、
    50質量%〜95質量%である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のタイヤ。
  5. さらに、前記タイヤ骨格体の外周部に周方向に巻回されて補強コード層を形成する補強コード部材を有する請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のタイヤ。
  6. 少なくとも、ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマーを酸変性してなる酸変性エラストマー、又は前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性エラストマー及び該エラストマーを酸変性してなる酸変性エラストマーの混合物と、を含む熱可塑性樹脂材料によって環状のタイヤ骨格体の一部を構成するタイヤ骨格片を形成するタイヤ骨格片形成工程と、
    前記タイヤ骨格片の接合部に熱を付与し対となる2以上の前記タイヤ骨格片を融着させて前記タイヤ骨格体を形成するタイヤ骨格片接合工程を含むタイヤの製造方法。
  7. 前記熱可塑性樹脂材料の酸価が、0.1mg−CHONa/g以上10mg−CHONa/g以下である請求項6に記載のタイヤの製造方法。
  8. 前記タイヤ骨格片形成工程は、前記熱可塑性樹脂材料を用いて射出成形する工程を含む請求項7に記載のタイヤの製造方法。
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