以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。各機能要素について形態別に区別する際には、A,B,C,…等のように大文字のアルファベットの参照子を付して記載し、特に区別しないで説明する際にはこの参照子を割愛して記載する。図面においても同様である。
説明は以下の順序で行なう。
1.全体概要
2.通信処理系統:基本構成1
3.通信処理系統:基本構成2
4.実施例1:変調機能部及び復調機能部の第1例
5.実施例2:変調機能部及び復調機能部の第2例
6.実施例3:周波数特性補正処理
7.実施例4:双方向通信時のエコーキャンセラ技術
8.実施例5:空間分割多重(受信側でのMIMO処理)
9.実施例6:空間分割多重(送信側でのMIMO処理)
10.実施例7:変調機能部及び復調機能部の第3例(インジェクションロック方式)
11.実施例8:インジェクションロック方式での位相差補正対応
12.実施例9:拡散符号方式
13:実施例10:伝送データの高速化対応
14:実施例11:電子機器への適用事例
<全体概要>
[無線伝送装置、無線伝送方法]
本発明の第1の態様や第4の態様と対応する本実施形態の第1の構成においては、送信部(例えば送信側の伝送路結合部)と受信部(例えばの伝送路結合部)の内の少なくとも一方を備えて無線伝送装置を構成する。送信部は、伝送対象信号に対しての信号処理済みの信号を無線信号として送信する。受信部は、送信部から送信された無線信号を受信する。ここで、送信部と受信部との間の伝送特性が既知であるものとする。例えば、1つの筐体内の送信部と受信部の配置位置が変化しない場合(機器内通信の場合)や、送信部と受信部のそれぞれが各別の筐体内に配置される場合でも使用状態のときの送信部と受信部の配置位置が予め定められた状態となる場合(比較的近距離の機器間の無線伝送の場合)のように、送受信間の伝送条件が実質的に変化しない(つまり固定である)環境下においては、送信部と受信部との間の伝送特性を予め知ることができる。そして、送信部の前段及び受信部の後段の内の少なくとも一方には更に、信号処理部と設定値処理部とを備える。信号処理部は、設定値に基づいて、予め定められた信号処理を行なう。設定値処理部は、予め定められた信号処理用の設定値を信号処理部に入力する。
伝送特性に対応した設定値や機器内や機器間の信号伝送には限るものではなく、例えば、回路素子のバラツキ補正のためのパラメータ設定も含むが、好ましくは、設定値処理部は、送信部と受信部との間の伝送特性に対応して予め定められた信号処理用の設定値を信号処理部に入力するのがよい。送受信間の伝送条件が実質的に変化しない(つまり固定である)環境下においては、信号処理部の動作を規定する設定値を固定値として扱っても、つまり、パラメータ設定を固定にしても、信号処理部を不都合なく動作させることができる。信号処理用の設定値を予め定められた値(つまり固定値)にすることでパラメータ設定を動的に変化させずに済むので、パラメータ演算回路を削減できるし、消費電力を削減することもできる。機器内や比較的近距離の機器間の無線伝送においては通信環境が固定されるため、通信環境に依存する各種回路パラメータを予め決定することができるし、伝送条件が固定である環境下においては、信号処理部の動作を規定する設定値を固定値として扱っても、つまり、パラメータ設定を固定にしても、信号処理部を不都合なく動作させることができる。例えば、工場出荷時に最適なパラメータを求めておき、そのパラメータを装置内部に保持しておくことで、パラメータ演算回路の削減や消費電力の削減を行なうことができる。
各種回路パラメータを予め決定する際には、機器内で自動的に生成する第1の手法と、無線伝送装置(あるいは電子機器)の外部で生成したものを利用する第2の手法の何れをも採り得る。第1の手法をとる際には、設定値処理部は、設定値を決定する設定値決定部と、設定値決定部が決定した設定値を記憶する記憶部と、記憶部から読み出した設定値に基づいて信号処理部を動作させる動作制御部とを有するものとするのがよい。第2の手法をとる際には、設定値処理部は、設定値を外部から受け付ける設定値受付部と、設定値受付部が受け付けた設定値を記憶する記憶部と、記憶部から読み出した設定値に基づいて信号処理部を動作させる動作制御部とを有するものとするのがよい。
信号処理のパラメータ設定としては種々のものがある。例えば、信号増幅回路(振幅調整部)のゲイン設定(信号振幅設定)がある。信号増幅回路は、例えば、送信電力設定や復調機能部に入力される受信レベル設定や自動利得制御(AGC:Automatic Gain Control)等に利用される。これらの場合、信号処理部は、入力信号の大きさを調整し調整済みの信号を出力する信号処理を行なう振幅調整部を有するものとし、設定値処理部は、入力信号の大きさを調整するための設定値を振幅調整部に入力する。
信号処理のパラメータ設定の他の例としては、位相調整量の設定がある。例えば、搬送信号やクロックを別送する系で、送信信号の遅延量に合わせて位相を調整する場合である。これらの場合、信号処理部は、入力信号の位相を調整し調整済みの信号を出力する信号処理を行なう位相調整部を有するものとし、設定値処理部は、入力信号の位相を調整するための設定値を位相調整部に入力する。この位相調整量の設定を前述のゲイン設定と組み合わせた態様とすることもできる。
信号処理のパラメータ設定の他の例としては、周波数特性の設定がある。例えば、送信側で予め低域周波数成分や高域周波数成分の振幅を強調する場合である。これらの場合、信号処理部は、入力信号の周波数特性を補正し補正済みの信号を出力する周波数特性補正処理部を有するものとし、設定値処理部は、入力信号の周波数特性を補正するための設定値を周波数特性補正処理部に入力する。
信号処理のパラメータ設定の他の例としては、双方向通信を行なう場合のエコーキャンセル量の設定がある。この場合、信号処理部は、送信側から出力される信号のうちの入力側に混入したエコー成分を抑制するエコー抑制部を有するものとし、設定値処理部は、エコー成分を抑制するための設定値をエコー抑制部に入力する。
信号処理のパラメータ設定の他の例としては、送信部と受信部はそれぞれ複数のアンテナを有し、送受信間で空間多重通信を行なう場合のクロストークのキャンセル量の設定がある。この場合、信号処理部は、送受信間の各アンテナ対の伝達関数を要素とするチャネル行列に基づいて行列演算を行なう行列演算処理部を有するものとし、設定値処理部は、行列演算を行なうための設定値を行列演算処理部に入力する。
信号処理のパラメータ設定の他の例としては、受信した信号に基づく注入同期方式により送信側の搬送信号生成部で生成された変調用の搬送信号(変調搬送信号)と同期した復調用の搬送信号(復調搬送信号)を生成する場合の注入信号の振幅値(注入量)や位相シフト量、あるいは復調機能部に入力される受信信号と復調搬送信号の位相差の補正量等の設定がある。注入信号の振幅値や位相シフト量、あるいは受信信号と復調搬送信号の位相差の補正量等、注入同期に関する設定値を「注入同期を行なうための設定値」と称する。この場合、送信用の信号処理部は、変調用の搬送信号を生成する第1の搬送信号生成部と、伝送対象信号を第1の搬送信号生成部で生成された変調用の搬送信号で周波数変換して変調信号を生成する第1の周波数変換部を有し、変調信号を無線信号伝送路へ送出するものとする。受信用の信号処理部は、無線信号伝送路を介して受信した信号が注入されることで第1の搬送信号生成部で生成された変調用の搬送信号と同期した復調用の搬送信号を生成する第2の搬送信号生成部と、無線信号伝送路を介して受信した変調信号を第2の搬送信号生成部で生成された復調用の搬送信号で周波数変換する第2の周波数変換部を有するものとする。そして、設定値処理部は、注入同期を行なうための設定値を送信用の信号処理部及び/又は受信用の信号処理部に入力する。
復調機能部に入力される受信信号と復調搬送信号の位相差によって復調機能部で復調された信号(復調信号)の直流成分の大きさが決まるが、その直流成分が最大のときが位相差がゼロとなり、注入信号とインジェクションロックで生成される復調搬送信号の自走周波数差がなくなるので、復調信号の直流成分が大きくなるように「注入同期を行なうための設定値」を決定するのがよい。但し、注入信号レベル(注入量)の大きさによってロックレンジが変化するので、ロック状態を維持しつつ最大値を早く探すためには、復調搬送信号の自走周波数を変化させる変化量(ステップ)を最適に選ぶ必要がある。この対処のためには、予め復調機能部に入力される受信信号の振幅から最適ステップを計算して記憶部に記憶しておき、復調搬送信号の自走周波数を変化させる際に利用するとよい。あるいは、注入量が一定になるように最適ゲインを求めて記憶部に記憶しておき、注入量の設定に利用するとよい。なお、復調機能部に入力される受信信号と復調搬送信号にはパス差があるので、その影響が位相差に表れ、復調信号の直流成分の変化の仕方が変わる。よって、位相差を補正する位相調整部(移相器)を、注入信号や復調搬送信号や受信信号の各経路の少なくとも1つに挿入し、位相調整量(位相シフト量)の値を予め記憶部に保持しておき、位相調整の設定に利用するとよい。
「注入同期を行なうための設定値」を決定する構成としては、例えば、注入同期判定とその判定結果に基づく調整機構を利用するとよい。例えば、受信用の信号処理部は、第2の搬送信号生成部における注入同期の状態を示す情報を検出する注入同期検出部を備えるものとし、送信用の信号処理部および受信用の信号処理部の少なくとも一方は、注入同期検出部が検出した注入同期の状態を示す情報に基づき、第2の搬送信号生成部で生成される復調用の搬送信号が、第1の搬送信号生成部で生成された変調用の搬送信号と同期するように同期調整を行なう注入同期調整部を備えるものとするのがよい。設定値処理部は、注入同期調整部により調整された設定値を記憶部に保持し読み出して信号処理部の動作設定に利用する。
注入同期調整部による同期調整は、受信側で行なってもよいし、送信側で行なってもよい。例えば、受信側で行なう場合には、注入同期調整部は、第2の搬送信号生成部に注入される信号の振幅及び/又は第2の搬送信号生成部の自走発振時の出力信号の周波数を変更させることで同期調整を行なうのがよい。送信側で行なう場合には、注入同期調整部は、第1の搬送信号生成部で生成される変調用の搬送信号の周波数及び/又は無線信号伝送路に送出される信号の振幅を変更させることで同期調整を行なう。なお、同期調整を受信側と送信側の何れで行なうかということであり、送信側で行なう場合の制御主体は、受信側と送信側の何れに配置されていてもよい。
注入同期方式により復調搬送信号を生成する場合、好ましくは、送信側の信号処理部は、変調される伝送対象情報の直流近傍成分を抑圧する変調対象信号処理部を有するものとして、送信側の周波数変換部は、変調対象信号処理部で処理された処理済み信号を送信側の搬送信号生成部で生成された変調搬送信号で周波数変換して伝送信号を生成するとよい。要するに、注入同期し易いように、予め直流カットするのである。好ましくは、変調対象信号処理部は、デジタルの伝送対象情報に対してDCフリー符号化を行なうとよい。
信号処理のパラメータ設定の他の例としては、拡散符号方式の無線通信における拡散符号列の同期機構のために拡散符号列に同期したクロック信号を送出する場合のクロック位相の補正量の設定がある。この場合、基準信号を出力する基準信号出力部、及び、基準信号出力部から出力された基準信号に基づいて拡散符号方式の無線通信処理に関する信号処理用のクロック信号を基準信号と同期して生成するクロック生成部をさらに備えるものとする。クロック生成部は、設定値に従って位相補正を行なう位相補正部を有するものとし、信号処理部は、位相補正部により位相補正がされたクロック信号に基づいて信号処理を行ない、設定値処理部は、位相補正を行なうための設定値を位相補正部に入力する。信号処理部は、クロック生成部で生成されたクロック信号に同期して拡散符号列を生成する拡散符号列発生部、及び、拡散符号列発生部で生成された拡散符号列に基づいて伝送対象データの拡散処理を信号処理として行なう拡散処理部を有するものとするのがよい。
信号処理のパラメータ設定の他の例としては、搬送周波数に対する送受信間の伝送周波数特性の非対称性を利用して伝送データの高速化対応を図る際の、送信側や受信側の搬送周波数のずらし量の設定がある。この場合、変調用の搬送信号を生成する第1の搬送信号生成部及び伝送対象信号を前記第1の搬送信号生成部で生成された変調用の搬送信号で周波数変換して伝送信号を生成する第1の周波数変換部を具備する送信側の信号処理部と、復調用の搬送信号を生成する第2の搬送信号生成部及び受信した伝送信号を前記第2の搬送信号生成部で生成された復調用の搬送信号で周波数変換する第2の周波数変換部を具備する受信側の信号処理部を備えるものとする。そして、変調用の搬送信号と復調用の搬送信号の少なくとも一方を、送受信間の伝送特性の帯域中心に対してずれて設定する。例えば送信系と受信系の何れか一方のみを周波数シフトすればよく、送信系(送信側の信号処理部、変調機能部だけでなく送信側の増幅回路を含んでよい)の帯域中心と受信系(受信側の信号処理部、復調機能部だけでなく受信側の増幅回路を含んでよい)の帯域中心の何れか一方のみを搬送信号の周波数に対してずれて設定すればよい。あるいは、送信系と受信系の双方を同方向に周波数シフトしてもよく。この場合、送信系の帯域中心と受信系の帯域中心の双方を、搬送信号の周波数に対して同方向にずれて設定する。
好ましくは、復調は同期検波で行なう、つまり、受信側の周波数変換部は、同期検波方式により周波数変換を行なうことで伝送対象信号を復調する。好ましくは、注入同期方式により復調搬送信号を生成するとよい。この際には、好ましくは、前述のように「注入同期の設定値」を固定化するとよく、「注入同期を行なうための設定値」を決定する構成としては、例えば、注入同期判定とその判定結果に基づく調整機構を利用するとよい。注入同期方式の場合、好ましくは、注入同期し易いように送信側で予め直流カット(例えばDCフリー符号化)を行なうとよいのは前述の通りである。
[電子機器]
本発明の第2の態様や本発明の第3の態様と対応する本実施形態の電子機器においては、各部がひとつの筐体内に収容された状態の装置構成で1つの電子機器とすることもできるし、複数の装置(電子機器)の組合せで1つの電子機器の全体が構成されることもある。本実施形態の無線伝送装置は、例えば、デジタル記録再生装置、地上波テレビ受像装置、携帯電話装置、ゲーム装置、コンピュータ等の電子機器において使用される。
以下で説明する本実施形態の無線伝送装置では、ミリ波帯(波長が1〜10mm)の搬送周波数を使用するものとして説明するが、ミリ波帯に限らず、より波長の短い、例えばサブミリ波帯等、ミリ波帯近傍の搬送周波数を使用する場合にも適用可能である。
無線伝送装置を構成する場合、送信側単独の場合と、受信側単独の場合と、送信側と受信側の双方を有する場合とがある。送信側と受信側は無線信号伝送路(例えばミリ波信号伝送路)を介して結合されミリ波帯で信号伝送を行なうように構成される。伝送対象の信号を広帯域伝送に適したミリ波帯域に周波数変換して伝送するようにする。例えば、第1の通信部(第1のミリ波伝送装置)と第2の通信部(第2のミリ波伝送装置)で、無線伝送装置を構成する。そして、比較的近距離に配置された第1の通信部と第2の通信部の間では、伝送対象の信号をミリ波信号に変換してから、このミリ波信号をミリ波信号伝送路を介して伝送するようにする。本実施形態の「無線伝送」とは、伝送対象の信号を一般的な電気配線(単純なワイヤー配線)ではなく無線(この例ではミリ波)で伝送することを意味する。
「比較的近距離」とは、放送や一般的な無線通信で使用される野外(屋外)での通信装置間の距離に比べて距離が短いことを意味し、伝送範囲が閉じられた空間として実質的に特定できる程度のものであればよい。「閉じられた空間」とは、その空間内部から外部への電波の漏れが少なく、逆に、外部から空間内部への電波の到来(侵入)が少ない状態の空間を意味し、典型的にはその空間全体が電波に対して遮蔽効果を持つ筐体(ケース)で囲まれた状態である。例えば、1つの電子機器の筐体内での基板間通信や同一基板上でのチップ間通信や、一方の電子機器に他方の電子機器が装着された状態のように複数の電子機器が一体となった状態での機器間の通信が該当する。「一体」は、装着によって両電子機器が完全に接触した状態が典型例であるが、両電子機器間の伝送範囲が閉じられた空間として実質的に特定できる程度のものであればよい。例えば数センチ以内あるいは10数センチ以内等、比較的近距離で、両電子機器が多少離れた状態で定められた位置に配置されていて「実質的に」一体と見なせる場合も含む。要するに、両電子機器で構成される電波が伝搬し得る空間内部から外部への電波の漏れが少なく、逆に、外部からその空間内部への電波の到来(侵入)が少ない状態であればよい。
以下では、1つの電子機器の筐体内での信号伝送を筐体内信号伝送と称し、複数の電子機器が一体(以下、「実質的に一体」も含む)となった状態での信号伝送を機器間信号伝送と称する。筐体内信号伝送の場合は、送信側の通信装置(通信部:送信部)と受信側の通信装置(通信部:受信部)が同一筐体内に収容され、通信部(送信部と受信部)間に無線信号伝送路が形成された無線伝送装置が電子機器そのものとなる。一方、機器間信号伝送の場合、送信側の通信装置(通信部:送信部)と受信側の通信装置(通信部:受信部)がそれぞれ異なる電子機器の筐体内に収容され、両電子機器が定められた位置に配置され一体となったときに両電子機器内の通信部(送信部と受信部)間に無線信号伝送路が形成されて無線伝送装置が構築される。
ミリ波信号伝送路を挟んで設けられる各通信装置においては、送信系統と受信系統が対となって組み合わされて配置される。各通信装置に送信系統と受信系統を併存させることで双方向通信ができる。各通信装置に送信系統と受信系統を併存させる場合、一方の通信装置と他方の通信装置との間の信号伝送は片方向(一方向)のものでもよいし双方向のものでもよい。例えば、第1の通信部が送信側となり第2の通信部が受信側となる場合には、第1の通信部に送信部が配置され第2の通信部に受信部が配置される。第2の通信部が送信側となり第1の通信部が受信側となる場合には、第2の通信部に送信部が配置され第1の通信部に受信部が配置される。
送信部は、例えば、伝送対象の信号を信号処理してミリ波の信号を生成する送信側の信号生成部(伝送対象の電気信号をミリ波の信号に変換する信号変換部)と、ミリ波の信号を伝送する伝送路(ミリ波信号伝送路)に送信側の信号生成部で生成されたミリ波の信号を結合させる送信側の信号結合部を備えるものとする。好ましくは、送信側の信号生成部は、伝送対象の信号を生成する機能部と一体であるのがよい。
例えば、送信側の信号生成部は変調回路を有し、変調回路が伝送対象の信号を変調する。送信側の信号生成部は変調回路によって変調された後の信号を周波数変換してミリ波の信号を生成する。原理的には、伝送対象の信号をダイレクトにミリ波の信号に変換してもよい。送信側の信号結合部は、送信側の信号生成部によって生成されたミリ波の信号をミリ波信号伝送路に供給する。
受信部は、例えば、ミリ波信号伝送路を介して伝送されてきたミリ波の信号を受信する受信側の信号結合部と、受信側の信号結合部により受信されたミリ波の信号(入力信号)を信号処理して通常の電気信号(伝送対象の信号)を生成する受信側の信号生成部(ミリ波の信号を伝送対象の電気信号に変換する信号変換部)を備えるものとする。好ましくは、受信側の信号生成部は、伝送対象の信号を受け取る機能部と一体であるのがよい。例えば、受信側の信号生成部は復調回路を有し、ミリ波の信号を周波数変換して出力信号を生成し、その後、復調回路が出力信号を復調することで伝送対象の信号を生成する。原理的には、ミリ波の信号からダイレクトに伝送対象の信号に変換してもよい。
つまり、信号インタフェースをとるに当たり、伝送対象の信号に関して、ミリ波信号により接点レスやケーブルレスで伝送する(電気配線での伝送でない)ようにする。好ましくは、少なくとも信号伝送(特に高速伝送や大容量伝送が要求される映像信号や高速のクロック信号等)に関しては、ミリ波信号により伝送するようにする。要するに、従前は電気配線によって行なわれていた信号伝送を本実施例ではミリ波信号により行なう。ミリ波帯で信号伝送を行なうことで、Gbpsオーダーの高速信号伝送を実現することができるし、ミリ波信号の及ぶ範囲を容易に制限でき、この性質に起因する効果も得られる。
ここで、各信号結合部は、第1の通信部と第2の通信部がミリ波信号伝送路を介してミリ波の信号が伝送可能となるようにするものであればよい。例えばアンテナ構造(アンテナ結合部)を備えるものとしてもよいし、アンテナ構造を具備せずに結合をとるものであってもよい。「ミリ波の信号を伝送するミリ波信号伝送路」は、空気(いわゆる自由空間)であってもよいが、好ましくは、ミリ波信号を伝送路中に閉じ込めつつミリ波信号を伝送させる構造(ミリ波閉込め構造あるいは無線信号閉込め構造と称する)を持つものがよい。ミリ波閉込め構造を積極的に利用することで、例えば電気配線のようにミリ波信号伝送路の引回しを任意に確定することができる。このようなミリ波閉込め構造のものとしては、例えば、典型的にはいわゆる導波管が該当するが、これに限らない。例えば、ミリ波信号伝送可能な誘電体素材で構成されたもの(誘電体伝送路やミリ波誘電体内伝送路と称する)や、伝送路を構成し、かつ、ミリ波信号の外部放射を抑える遮蔽材が伝送路を囲むように設けられその遮蔽材の内部が中空の中空導波路がよい。誘電体素材や遮蔽材に柔軟性を持たせることでミリ波信号伝送路の引回しが可能となる。空気(いわゆる自由空間)の場合、各信号結合部はアンテナ構造をとることになり、そのアンテナ構造によって近距離の空間中を信号伝送することになる。一方、誘電体素材で構成されたものとする場合は、アンテナ構造をとることもできるが、そのことは必須でない。
[電気配線による信号伝送と無線伝送との対比]
電気配線を介して信号伝送を行なう信号伝送では、次のような問題がある。
i)伝送データの大容量・高速化が求められるが、電気配線の伝送速度・伝送容量には限界がある。
ii)伝送データの高速化の問題に対応するため、配線数を増やして、信号の並列化により一信号線当たりの伝送速度を落とす手法がある。しかしながら、この手法では、入出力端子の増大に繋がってしまう。その結果、プリント基板やケーブル配線の複雑化、コネクタ部や電気的インタフェースの物理サイズの増大等が求められ、それらの形状が複雑化し、これらの信頼性が低下し、コストが増大する等の問題が起こる。
iii)映画映像やコンピュータ画像等の情報量の膨大化に伴い、ベースバンド信号の帯域が広くなるに従って、EMC(電磁環境適合性)の問題がより顕在化してくる。例えば、電気配線を用いた場合は、配線がアンテナとなって、アンテナの同調周波数に対応した信号が干渉される。又、配線のインピーダンスの不整合等による反射や共振によるものも不要輻射の原因となる。このような問題を対策するために、電子機器の構成が複雑化する。
iv)EMCの他に、反射があると受信側でシンボル間での干渉による伝送エラーや妨害の飛び込みによる伝送エラーも問題となってくる。
これに対して、電気配線ではなく無線(例えばミリ波帯を使用)で信号伝送を行なう場合、配線形状やコネクタの位置を気にする必要がないため、レイアウトに対する制限があまり発生しない。ミリ波による信号伝送に置き換えた信号については配線や端子を割愛できるので、EMCの問題から解消される。一般に、通信装置内部で他にミリ波帯の周波数を使用している機能部は存在しないため、EMCの対策が容易に実現できる。送信側の通信装置と受信側の通信装置を近接した状態での無線伝送となり、固定位置間や既知の位置関係の信号伝送であるため、次のような利点が得られる。
1)送信側と受信側の間の伝搬チャネル(導波構造)を適正に設計することが容易である。
2)送信側と受信側を封止する伝送路結合部の誘電体構造と伝搬チャネル(ミリ波信号伝送路の導波構造)を併せて設計することで、自由空間伝送より、信頼性の高い良好な伝送が可能になる。
3)無線伝送を管理するコントローラの制御も一般の無線通信のように動的にアダプティブに頻繁に行なう必要はないため、制御によるオーバーヘッドを一般の無線通信に比べて小さくすることができる。その結果、制御回路や演算回路等で使用する設定値 (いわゆるパラメータ)を定数(いわゆる固定値)にすることができ、小型、低消費電力、高速化が可能になる。例えば、製造時や設計時に無線伝送特性を校正し、個体のばらつき等を把握すれば、そのデータを参照できるので、信号処理部の動作を規定する設定値は、プリセットや静的な制御にできる。その設定値は信号処理部の動作を概ね適正に規定するから、簡易な構成かつ低消費電力でありながら、高品位の通信が可能になる。
例えば、いわゆるセルラ等の野外通信とは異なり、機器内や機器間の無線伝送においては、伝搬路の状況が変化しない、受信電力変動やタイミング変動が実質的にない(皆無あるいは極めて少ない)、伝搬距離が短い、マルチパスの遅延スプレッドが小さい、等の特徴がある。これらを纏めて、「機器内又は機器間の無線伝送」の特徴と記す。「機器内又は機器間の無線伝送」では、野外の無線通信のように、常に伝搬路の状況を調べる必要はなく、予め定められた設定値を使用できると考えてよい。即ち、「機器内又は機器間の無線伝送」では静的な環境での無線信号伝送と考えてよく、通信環境特性は概ね不変であると考えてよい。このことは、「通信環境が不変(固定)であるからパラメータ設定も不変(固定)でよい」ことを意味する。よって、例えば、製品出荷時に通信環境特性を示すパラメータを決定し、そのパラメータをメモリに保存しておき、動作時はこのパラメータを元に信号処理部の動作設定を行なえばよい。設定値に基づいて動作を行なうので調整機構そのものは存在するが、通信環境特性を常に監視してその結果に基づいて設定値を最適な状態にする機構(制御機構)は不要であるから、回路規模を小さくでき、又、消費電力を小さくできる。
又、波長の短いミリ波帯での無線通信にすることで、次のような利点が得られる。
a)ミリ波通信は通信帯域を広く取れるため、データレートを大きくとることが簡単にできる。
b)伝送に使う周波数が他のベースバンド信号処理の周波数から離すことができ、ミリ波とベースバンド信号の周波数の干渉が起こり難い。
c)ミリ波帯は波長が短いため、波長に応じてきまるアンテナや導波構造を小さくできる。加えて、距離減衰が大きく回折も少ないため電磁シールドが行ない易い。
d)通常の野外での無線通信では、搬送波の安定度については、干渉等を防ぐため、厳しい規制がある。そのような安定度の高い搬送波を実現するためには、高い安定度の外部周波数基準部品と逓倍回路やPLL(位相同期ループ回路)等が用いられ、回路規模が大きくなる。しかしながら、ミリ波は(特に固定位置間や既知の位置関係の信号伝送との併用時は)、容易に遮蔽でき、外部に漏れないようにできる。安定度を緩めた搬送波で伝送された信号を受信側で小さい回路で復調するのには、注入同期方式(詳細は後述する)を採用するのが好適である。
例えば、比較的近距離(例えば10数センチ以内)に配置されている電子機器間や電子機器内での高速信号伝送を実現する手法として、例えばLVDS(Low Voltage Differential Signaling)が知られている。しかしながら、最近のさらなる伝送データの大容量高速化に伴い、消費電力の増加、反射等による信号歪みの影響の増加、不要輻射の増加(いわゆるEMIの問題)、等が問題となる。例えば、映像信号(撮像信号を含む)やコンピュータ画像等の信号を機器内や機器間で高速(リアルタイム)に伝送する場合にLVDSでは限界に達してきている。
データの高速伝送に対応するため、配線数を増やして、信号の並列化により一信号線当たりの伝送速度を落としてもよい。しかしながら、この対処では、入出力端子の増大に繋がってしまう。その結果、プリント基板やケーブル配線の複雑化や半導体チップサイズの拡大等が求められる。また、高速・大容量のデータを配線で引き回すことでいわゆる電磁界障害が問題となる。
LVDSや配線数を増やす手法における問題は何れも、電気配線により信号を伝送することに起因している。そこで、電気配線により信号を伝送することに起因する問題を解決する手法として、電気配線を無線化して伝送する手法を採ってもよい。電気配線を無線化して伝送する手法としては例えば、筐体内の信号伝送を無線で行なうとともに、UWB(Ultra Wide Band )通信方式を適用してもよいし(第1の手法と記す)、波長の短い(1〜10mm)ミリ波帯の搬送周波数を使用してもよい(第2の手法と記す)。しかしながら、第1の手法のUWB通信方式では、搬送周波数が低く、例えば映像信号を伝送するような高速通信に向かないし、アンテナが大きくなる等、サイズ上の問題がある。さらに、伝送に使う周波数が他のベースバンド信号処理の周波数に近いため、無線信号とベースバンド信号との間で干渉が起こり易いという問題点もある。また、搬送周波数が低い場合は、機器内の駆動系ノイズの影響を受け易く、その対処が必要になる。これに対して、第2の手法のように、より波長の短いミリ波帯の搬送周波数を使用すると、アンテナサイズや干渉の問題を解決し得る。
ここでは、ミリ波帯で通信を行なう場合で説明したが、その適用範囲はミリ波帯で通信を行なうものに限定されない。ミリ波帯を下回る周波数帯や、逆にミリ波帯を超える周波数帯での通信を適用してもよい。例えばマイクロ波帯、あるいはミリ波帯より波長の短い(0.1〜1mm)サブミリ波帯を適用してもよい。ただし、筐体内信号伝送や機器間信号伝送においては、過度に波長が長くも短くもないミリ波帯を使用するのが効果的である。
以下、本実施例の無線伝送装置や電子機器について具体的に説明する。なお、最も好適な例として、多くの機能部が半導体集積回路(チップ)に形成されている例で説明するが、このことは必須でない。
<通信処理系統:基本構成1>
図1及び図2は、本実施形態の無線伝送装置(信号伝送装置)の信号インタフェースを機能構成面から説明する第1の基本構成(基本構成1)である。
[機能構成]
図1及び図2に示すように、信号伝送装置1は、第1の無線機器の一例である第1通信装置100と第2の無線機器の一例である第2通信装置200がミリ波信号伝送路9を介して結合されミリ波帯で信号伝送を行なうように構成されている。図では、第1通信装置100側に送信系統を設け、第2通信装置200に受信系統を設けた場合で示している。
第1通信装置100にはミリ波帯送信に対応した半導体チップ103が設けられ、第2通信装置200にはミリ波帯受信に対応した半導体チップ203が設けられている。
本実施例では、ミリ波帯での通信の対象となる信号を、高速性や大容量性が求められる信号のみとし、その他の低速・小容量で十分なものや電源等直流と見なせる信号に関してはミリ波信号への変換対象としない。これらミリ波信号への変換対象としない信号(電源を含む)については、従前と同様の手法で基板間の信号の接続をとるようにする。ミリ波に変換する前の元の伝送対象の電気信号を纏めてベースバンド信号と称する。
[第1通信装置]
第1通信装置100は、基板102上に、ミリ波帯送信に対応した半導体チップ103と伝送路結合部108が搭載されている。半導体チップ103は、LSI機能部104と信号生成部107(ミリ波信号生成部)を一体化したLSI(Large Scale Integrated Circuit)である。
半導体チップ103は伝送路結合部108と接続される。伝送路結合部108は、送信部の一例であり、例えば、アンテナ結合部やアンテナ端子やマイクロストリップ線路やアンテナ等を具備するアンテナ構造が適用される。
LSI機能部104は、第1通信装置100の主要なアプリケーション制御を司るもので、例えば、相手方に送信したい各種の信号を処理する回路が含まれる。
信号生成部107(電気信号変換部)は、LSI機能部104からの信号をミリ波信号に変換し、ミリ波信号伝送路9を介した信号送信制御を行なうための送信側信号生成部110を有する。送信側信号生成部110と伝送路結合部108で送信系統(送信部:送信側の通信部)が構成される。
送信側信号生成部110は、入力信号を信号処理してミリ波の信号を生成するために、多重化処理部113、パラレルシリアル変換部114、変調部115、周波数変換部116、増幅部117を有する。増幅部117は、入力信号の大きさを調整して出力する振幅調整部の一例である。なお、変調部115と周波数変換部116は纏めていわゆるダイレクトコンバーション方式のものにしてもよい。
多重化処理部113は、LSI機能部104からの信号の内で、ミリ波帯での通信の対象となる信号が複数種(N1とする)ある場合に、時分割多重、周波数分割多重、符号分割多重等の多重化処理を行なうことで、複数種の信号を1系統の信号に纏める。例えば、高速性や大容量性が求められる複数種の信号をミリ波での伝送の対象として、1系統の信号に纏める。
パラレルシリアル変換部114は、パラレルの信号をシリアルのデータ信号に変換して変調部115に供給する。変調部115は、伝送対象信号を変調して周波数変換部116に供給する。パラレルシリアル変換部114は、本実施例を適用しない場合に、パラレル伝送用の複数の信号を使用するパラレルインタフェース仕様の場合に備えられ、シリアルインタフェース仕様の場合は不要である。
変調部115としては、基本的には、振幅・周波数・位相の少なくとも1つを伝送対象信号で変調するものであればよく、これらの任意の組合せの方式も採用し得る。例えば、アナログ変調方式であれば、例えば、振幅変調(AM:Amplitude Modulation)とベクトル変調がある。ベクトル変調として、周波数変調(FM:Frequency Modulation)と位相変調(PM:Phase Modulation)がある。デジタル変調方式であれば、例えば、振幅遷移変調(ASK:Amplitude shift keying)、周波数遷移変調(FSK:Frequency Shift Keying)、位相遷移変調(PSK:Phase Shift Keying)、振幅と位相を変調する振幅位相変調(APSK:Amplitude Phase Shift Keying)がある。振幅位相変調としては直交振幅変調(QAM:Quadrature Amplitude Modulation)が代表的である。本実施例では、特に、受信側で同期検波方式を採用し得る方式を採る。
周波数変換部116は、変調部115によって変調された後の伝送対象信号を周波数変換してミリ波の電気信号を生成して増幅部117に供給する。ミリ波の電気信号とは、概ね30GHz〜300GHzの範囲のある周波数の電気信号をいう。「概ね」と称したのはミリ波通信による効果が得られる程度の周波数であればよく、下限は30GHzに限定されず、上限は300GHzに限定されないことに基づく。
周波数変換部116としては様々な回路構成を採り得るが、例えば、周波数混合回路(ミキサー回路)と局部発振回路とを備えた構成を採用すればよい。局部発振回路は、変調に用いる搬送波(キャリア信号、基準搬送波)を生成する。周波数混合回路は、パラレルシリアル変換部114からの信号で局部発振回路が発生するミリ波帯の搬送波と乗算(変調)してミリ波帯の伝送信号を生成して増幅部117に供給する。
増幅部117は、周波数変換後のミリ波の電気信号を増幅して伝送路結合部108に供給する。増幅部117には図示しないアンテナ端子を介して双方向の伝送路結合部108に接続される。
伝送路結合部108は、送信側信号生成部110によって生成されたミリ波の信号をミリ波信号伝送路9に送信する。伝送路結合部108は、アンテナ結合部で構成される。アンテナ結合部は伝送路結合部108(信号結合部)の一例やその一部を構成する。アンテナ結合部とは、狭義的には半導体チップ内の電子回路と、チップ内又はチップ外に配置されるアンテナを結合する部分をいい、広義的には、半導体チップとミリ波信号伝送路9を信号結合する部分をいう。例えば、アンテナ結合部は、少なくともアンテナ構造を備える。アンテナ構造は、ミリ波信号伝送路9との結合部における構造をいい、ミリ波帯の電気信号をミリ波信号伝送路9に結合させるものであればよく、アンテナそのもののみを意味するものではない。
ミリ波の伝搬路であるミリ波信号伝送路9は、自由空間伝送路として、例えば筐体内の空間を伝搬する構成にしてもよい。又、好ましくは、導波管、伝送線路、誘電体線路、誘電体内等の導波構造で構成し、ミリ波帯域の電磁波を伝送路に閉じ込める構成にして、効率よく伝送させる特性を有するものとするのが望ましい。例えば、一定範囲の比誘電率と一定範囲の誘電正接を持つ誘電体素材を含んで構成された誘電体伝送路9Aにするとよい。例えば、筐体内の全体に誘電体素材を充填することで、伝送路結合部108と伝送路結合部208の間には、自由空間伝送路ではなく誘電体伝送路9Aが配される。又、伝送路結合部108のアンテナと伝送路結合部208のアンテナの間を誘電体素材で構成されたある線径を持つ線状部材である誘電体線路で接続することで誘電体伝送路9Aを構成してもよい。なお、ミリ波信号を伝送路に閉じ込める構成のミリ波信号伝送路9としては、誘電体伝送路9Aの他に、伝送路の周囲が遮蔽材で囲まれその内部が中空の中空導波路としてもよい。
又、本実施例の第1通信装置100は、第1設定値決定部7110と、第1設定値記憶部7130と、第1動作制御部7150とを具備した第1設定値処理部7100を基板102上に備える。第1設定値決定部7110は、半導体チップ103の各機能部の動作(換言すると第1通信装置100の全体動作)を指定するための設定値(変数、パラメータ)を決定する。設定値を決定する処理は、例えば、工場での製品出荷時に行なう。第1設定値記憶部7130は、第1設定値決定部7110により決定された設定値を記憶する。第1動作制御部7150は、第1設定値記憶部7130から読み出した設定値に基づいて半導体チップ103の各機能部(この例では、変調部115、周波数変換部116、増幅部117等)を動作させる。
図1に示す例では、第1設定値処理部7100を基板102上に備える例で示しているが、図2に示す例のように、第1設定値処理部7100は半導体チップ103が搭載されている基板102とは別の基板7102に搭載されていてもよい。又、図1に示す例では、第1設定値処理部7100は半導体チップ103の外部に備える例で示しているが、第1設定値処理部7100を半導体チップ103に内蔵してもよく、この場合は、第1設定値処理部7100は制御対象となる各機能部(変調部115、周波数変換部116、増幅部117等)が搭載されている基板102と同一の基板102に搭載されることになる(図示は割愛する)。
[第2通信装置]
第2通信装置200は、基板202上に、ミリ波帯受信に対応した半導体チップ203と伝送路結合部208が搭載されている。半導体チップ203は、LSI機能部204と信号生成部207(ミリ波信号生成部)を一体化したLSIである。図示しないが、第1通信装置100と同様に、LSI機能部204と信号生成部207を一体化しない構成にしてもよい。
半導体チップ203は伝送路結合部108と同様の伝送路結合部208と接続される。伝送路結合部208は、受信部の一例であり、伝送路結合部108と同様のものが採用され、ミリ波信号伝送路9からミリ波の信号を受信し受信側信号生成部220に出力する。
信号生成部207(電気信号変換部)は、ミリ波信号伝送路9を介した信号受信制御を行なうための受信側信号生成部220を有する。受信側信号生成部220と伝送路結合部208で受信系統(受信部:受信側の通信部)が構成される。
受信側信号生成部220は、伝送路結合部208によって受信したミリ波の電気信号を信号処理して出力信号を生成するために、増幅部224、周波数変換部225、復調部226、シリアルパラレル変換部227、単一化処理部228を有する。増幅部224は、入力信号の大きさを調整して出力する振幅調整部の一例である。周波数変換部225と復調部226は纏めていわゆるダイレクトコンバーション方式のものにしてもよい。
伝送路結合部208には受信側信号生成部220が接続される。受信側の増幅部224は、伝送路結合部208に接続され、アンテナによって受信された後のミリ波の電気信号を増幅して周波数変換部225に供給する。周波数変換部225は、増幅後のミリ波の電気信号を周波数変換して周波数変換後の信号を復調部226に供給する。復調部226は、周波数変換後の信号を復調してベースバンドの信号を取得しシリアルパラレル変換部227に供給する。
シリアルパラレル変換部227は、シリアルの受信データをパラレルの出力データに変換して単一化処理部228に供給する。シリアルパラレル変換部227は、パラレルシリアル変換部114と同様に、本実施例を適用しない場合に、パラレル伝送用の複数の信号を使用するパラレルインタフェース仕様の場合に備えられる。第1通信装置100と第2通信装置200の間の元々の信号伝送がシリアル形式の場合は、パラレルシリアル変換部114とリアルパラレル変換部227を設けなくてもよい。
第1通信装置100と第2通信装置200の間の元々の信号伝送がパラレル形式の場合には、入力信号をパラレルシリアル変換して半導体チップ203側へ伝送し、又半導体チップ203側からの受信信号をシリアルパラレル変換することにより、ミリ波変換対象の信号数が削減される。
単一化処理部228は、多重化処理部113と対応するもので、1系統に纏められている信号を複数種の信号_@(@は1〜N)に分離する。例えば、1系統の信号に纏められている複数本のデータ信号を各別に分離してLSI機能部204に供給する。
LSI機能部204は、第2通信装置200の主要なアプリケーション制御を司るもので、例えば、相手方から受信した種々の信号を処理する回路が含まれる。
又、本実施例の第2通信装置200は、第2設定値決定部7210と、第2設定値記憶部7230と、第2動作制御部7250とを具備した第2設定値処理部7200を基板202上に備える。第2設定値決定部7210は、半導体チップ203の各機能部の動作(換言すると第2通信装置200の全体動作)を指定するための設定値(変数、パラメータ)を決定する。設定値を決定する処理は、例えば、工場での製品出荷時に行なう。第2設定値記憶部7230は、第2設定値決定部7210により決定された設定値を記憶する。第2動作制御部7250は、第2設定値記憶部7230から読み出した設定値に基づいて半導体チップ203の各機能部(この例では、増幅部224、周波数変換部225、復調部226等)を動作させる。
図1に示す第1例では、第2設定値処理部7200 を基板202上に備える例で示しているが、図2に示す第2例のように、第2設定値処理部7200は半導体チップ203が搭載されている基板202とは別の基板7202に搭載されていてもよい。又、図1に示す例では、第2設定値処理部7200は半導体チップ203の外部に備える例で示しているが、第2設定値処理部7200を半導体チップ203に内蔵してもよく、この場合は、第2設定値処理部7200は制御対象となる各機能部(増幅部224、周波数変換部225、復調部226)が搭載されている基板202と同一の基板202に搭載されることになる(図示は割愛する)。
[双方向通信への対応]
信号生成部107と伝送路結合部108や信号生成部207と伝送路結合部208はデータの双方向性を持つ構成にすることで、双方向通信にも対応できる。例えば、信号生成部107や信号生成部207には、それぞれ受信側の信号生成部、送信側の信号生成部を設ける。伝送路結合部108や伝送路結合部208は、送信側と受信側に各別に設けてもよいが、送受信に兼用されるものとすることもできる。
なお、ここで示す「双方向通信」は、ミリ波の伝送チャネルであるミリ波信号伝送路9が1系統(一芯)の一芯双方向伝送となる。この実現には、時分割多重(TDD:Time Division Duplex)を適用する半二重方式と、周波数分割多重(FDD:Frequency Division Duplex)等が適用される。
[接続と動作]
入力信号を周波数変換して信号伝送するという手法は、放送や無線通信で一般的に用いられている。これらの用途では、どこまで通信できるか(熱雑音に対してのS/Nの問題)、反射やマルチパスにどう対応するか、妨害や他チャンネルとの干渉をどう抑えるか等の問題に対応できるような比較的複雑な送信器や受信器等が用いられている。
これに対して、本実施例で使用する信号生成部107と信号生成部207は、放送や無線通信で一般的に用いられる複雑な送信器や受信器等の使用周波数に比べて、より高い周波数帯のミリ波帯で使用され、波長λが短いため、周波数の再利用がし易く、近傍に配置された多くのデバイス間での通信をするのに適したものが使用される。
本実施例では、従来の電気配線を利用した信号インタフェースとは異なり、前述のようにミリ波帯で信号伝送を行なうことで高速性と大容量に柔軟に対応できるようにしている。例えば、高速性や大容量性が求められる信号のみをミリ波帯での通信の対象としており、装置構成によっては、第1通信装置100と第2通信装置200は、低速・小容量の信号用や電源供給用に、従前の電気配線によるインタフェース(端子・コネクタによる接続)を一部に備えることになる。
信号生成部107は、設定値に基づいて予め定められた信号処理を行なう信号処理部の一例であり、この例では、LSI機能部104から入力された入力信号を信号処理してミリ波の信号を生成する。信号生成部107は、例えば、マイクロストリップライン、ストリップライン、コプレーナライン、スロットライン等の伝送線路で伝送路結合部108に接続され、生成されたミリ波の信号が伝送路結合部108を介してミリ波信号伝送路9に供給される。
伝送路結合部108は、アンテナ構造を有し、伝送されたミリ波の信号を電磁波に変換し、電磁波を送出する機能を有する。伝送路結合部108はミリ波信号伝送路9と結合されており、ミリ波信号伝送路9の一方の端部に伝送路結合部108で変換された電磁波が供給される。ミリ波信号伝送路9の他端には第2通信装置200側の伝送路結合部208が結合されている。ミリ波信号伝送路9を第1通信装置100側の伝送路結合部108と第2通信装置200側の伝送路結合部208の間に設けることにより、ミリ波信号伝送路9にはミリ波帯の電磁波が伝搬する。
ミリ波信号伝送路9には第2通信装置200側の伝送路結合部208が結合されている。伝送路結合部208は、ミリ波信号伝送路9の他端に伝送された電磁波を受信し、ミリ波の信号に変換して信号生成部207(ベースバンド信号生成部)に供給する。信号生成部207は、設定値に基づいて予め定められた信号処理を行なう信号処理部の一例であり、この例では、変換されたミリ波の信号を信号処理して出力信号(ベースバンド信号)を生成しLSI機能部204へ供給する。
ここまでは第1通信装置100から第2通信装置200への信号伝送の場合で説明したが、第1通信装置100と第2通信装置200をともに双方向通信へ対応した構成にすることで、第2通信装置200のLSI機能部204からの信号を第1通信装置100へ伝送する場合も同様に考えればよく双方向にミリ波の信号を伝送できる。
<通信処理系統:基本構成2>
図3及び図4は、本実施形態の無線伝送装置(信号伝送装置)の信号インタフェースを機能構成面から説明する第2の基本構成(基本構成2)である。図3に示す第1例は図1に対する変形例であり、図4に示す第2例は図2に対する変形例である。
第2の基本構成は、装置外部にて決定された設定値を記憶する点に特徴がある。以下では、第1の基本構成との相違点を中心に説明する。第2の基本構成は、第1設定値決定部7110に代えて第1入出力インタフェース部7170を備え、第2設定値決定部7210に代えて第2入出力インタフェース部7270を備えている。第1入出力インタフェース部7170と第2入出力インタフェース部7270のそれぞれは、設定値を外部から受け付ける設定値受付部の一例である。
第1入出力インタフェース部7170は、第1設定値記憶部7130との間のインタフェース機能をなし、外部から与えられる設定値を第1設定値記憶部7130に記憶し、又、第1設定値記憶部7130に記憶されている設定値を読み出して外部に出力する。第2入出力インタフェース部7270は、第2設定値記憶部7230との間のインタフェース機能をなすもので、外部から与えられる設定値を第2設定値記憶部7230に記憶し、又、第2設定値記憶部7230に記憶されている設定値を読み出して外部に出力する。
第2の基本構成の場合、第1設定値処理部7100や第2設定値処理部7200にて設定値を決定するのではなく、外部にて設定値を決定する。例えば、設計パラメータと実機の状態から設定値を決定してもよいし、装置の実働試験に基づいて設定値を決定してもよい。又、何れの場合も、装置ごとに個別の設定値を決定するのではなく、各装置に共通の設定値を決定してもよい。設計パラメータから設定値を決定する場合は、概ねこの場合に該当するし、標準の装置での実働試験に基づいて設定値を決定する場合も、この場合に該当する。
次に、本実施例の特徴点であるパラメータ設定の固定化について、具体的な事例を挙げる。なお、本発明について実施例を用いて説明するが、本発明の技術的範囲は後述の実施例に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で後述の実施例に多様な変更又は改良を加えることができ、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。又、後述の実施例は、クレーム(請求項)に係る発明を限定するものではなく、又実施例の中で説明される特徴の組合せの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。後述の実施例には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜の組合せにより種々の発明を抽出できる。後述する各実施例は、それぞれ単独で適用されることに限らず、可能な範囲で、それぞれ任意に組み合わせて適用することもできる。実施例に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、効果が得られる限りにおいて、この幾つかの構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
図5は、実施例1を説明する図である。ここでは、特に、変調機能部及び復調機能部の第1例として説明する。
[変調機能部:第1例]
図5(A)には、送信側に設けられる第1例の変調機能部8300Aの構成が示されている。伝送対象の信号(ベースバンド信号:例えば12ビットの画像信号)はパラレルシリアル変換部8114(P−S:パラレルシリアル変換部114と対応)により、高速なシリアル・データ系列に変換され変調機能部8300Aに供給される。変調機能部8300Aは、パラレルシリアル変換部8114からの信号を変調信号として、予め定められた変調方式に従ってミリ波帯の信号に変調する。
変調機能部8300Aとしては、変調方式に応じて様々な回路構成を採り得るが、例えば、振幅を変調する方式であれば、2入力型の周波数混合部8302(ミキサー回路、乗算器)と送信側局部発振部8304を備えた構成を採用すればよい。
送信側局部発振部8304(第1の搬送信号生成部)は、変調に用いる搬送信号(変調搬送信号)を生成する。周波数混合部8302(第1の周波数変換部)は、パラレルシリアル変換部8114からの信号で送信側局部発振部8304が発生するミリ波帯の搬送波と乗算(変調)してミリ波帯の伝送信号(被変調信号)を生成して増幅部8117(増幅部117と対応)に供給する。伝送信号は増幅部8117で増幅されアンテナ8136から放射される。
[復調機能部:第1例]
図5(B)には、受信側に設けられる第1例の復調機能部8400Aの構成が示されている。復調機能部8400Aは、送信側の変調方式に応じた範囲で様々な回路構成を採用し得るが、ここでは、変調機能部8300Aの前記の説明と対応するように、振幅が変調されている方式の場合で説明する。
第1例の復調機能部8400Aは、2入力型の周波数混合部8402(周波数変換部、ミキサー回路、乗算器等とも称する)と搬送波再生部8403とを備え、いわゆる同期検波方式により復調を行なう。同期検波方式では、受信信号に含まれる搬送波を周波数混合部8402とは別の搬送波再生部8403で再生し、再生搬送波を利用して復調を行なう。図示しないが、同期検波方式に限らず、包絡線検波や自乗検波を適用し得る。
搬送波再生部8403としては、種々の構成を採り得るが、ここでは搬送周波数に一致した線スペクトルを発生させこれを共振回路や位相同期ループ(PLL:Phase Locked Loop) 回路に入力して搬送波を再生する方式、周波数逓倍による方式、逆変調による方式の何れかを採用する。
搬送波再生部8403は、周波数及び位相が送信側の搬送波と完全に同一の、つまり、周波数同期及び位相同期した復調用の搬送信号(復調搬送信号:再生搬送信号と称する)を抽出し、周波数混合部8402に供給する。周波数混合部8402は、再生搬送波と受信信号とを乗算する。その乗算出力には伝送対象の信号成分である変調信号成分(ベースバンド信号)と高調波成分(場合によっては直流成分も)が含まれる。
図示した例では、周波数混合部8402の後段にフィルタ処理部8410とクロック再生部8420(CDR:クロック・データ・リカバリ /Clock Data Recovery)とシリアルパラレル変換部8227(S−P:シリアルパラレル変換部227と対応)が設けられている。フィルタ処理部8410には、例えば低域通過フィルタ(LPF)が設けられ、乗算出力に含まれる高調波成分を除去する。
アンテナ8236で受信されたミリ波受信信号は可変ゲイン型でかつローノイズ型の増幅部8224(増幅部224と対応:LNA)に入力され振幅調整が行なわれた後に復調機能部8400Aに供給される。振幅調整された受信信号は周波数混合部8402と搬送波再生部8403に入力され、前述のようにして同期検波により周波数混合部8402にて乗算信号が生成され、フィルタ処理部8410に供給される。周波数混合部8402で生成された乗算信号は、フィルタ処理部8410の低域通過フィルタで高域成分が除去されることで送信側から送られてきた入力信号の波形(ベースバンド信号)が生成され、クロック再生部8420に供給される。
クロック再生部8420(CDR)は、このベースバンド信号を元にサンプリング・クロックを再生し、再生したサンプリング・クロックでベースバンド信号をサンプリングすることで受信データ系列を生成する。生成された受信データ系列はシリアルパラレル変換部8227(S−P)に供給され、パラレル信号(例えば12ビットの画像信号)が再生される。クロック再生の方式としては様々な方式があるが例えばシンボル同期方式を採用する。
[問題点]
ここで、第1例の変調機能部8300Aと復調機能部8400Aで無線伝送装置を構成する場合、次のような難点がある。先ず、発振回路については、次のような難点がある。例えば、野外(屋外)通信においては、多チャンネル化を考慮する必要がある。この場合、搬送波の周波数変動成分の影響を受けるため、送信側の搬送波の安定度の要求仕様が厳しい。筐体内信号伝送や機器間信号伝送において、ミリ波でデータを伝送するに当たり、送信側と受信側に、屋外の無線通信で用いられているような通常の手法を用いようとすると、搬送波に安定度が要求され、周波数安定度数がppm(parts per million)オーダー程度の安定度の高いミリ波の発振回路が必要となる。
周波数安定度が高い搬送信号を実現するためには、例えば、安定度の高いミリ波の発振回路をシリコン集積回路(CMOS:Complementary Metal-oxide Semiconductor)上に形成する手法を採り得る。通常のCMOSプロセスで使用される典型的なLC発振回路の場合、シリコン基板は絶縁性が低く、ディスクリート部品に比べてインダクタを構成する配線が薄い。したがって、容易にQ値(Quality Factor)の高いタンク回路が形成できず、実現が容易でない。例えば、CMOSチップ上でインダクタンスを形成した場合、そのQ値は30〜40程度になってしまう。
よって、安定度の高い発振回路を実現するには、例えば、発振回路の本体部分が構成されているCMOS外部に水晶振動子等で高いQ値のタンク回路を設けて低い周波数で発振させ、その発振出力を逓倍してミリ波帯域へ上げるという手法を採り得る。しかし、LVDS(Low Voltage Differential Signaling)等の配線による信号伝送をミリ波による信号伝送に置き換える機能を実現するのに、このような外部タンクを全てのチップに設けることは好ましくない。
周波数安定度数高い搬送信号を実現するための他の手法として、高い安定度の周波数逓倍回路やPLL回路等を使用する手法を採り得るが、回路規模が増大してしまう。この問題点を対策する手法については後述する実施例7等で説明する。
[実施例1の作用効果]
実施例1では、図5(A)に示すように、送信側においては、増幅部8117から出力される送信信号のレベルを制御する第1設定値処理部7100Aが設けられている。第1設定値処理部7100Aは、第1動作制御部7150として、増幅部8117の出力レベルを設定する出力レベルDAC7152を備えている。第1設定値処理部7100Aは、第2の基本構成のものを採用しているが、第1の基本構成のように、第1入出力インタフェース部7170に代えて第1設定値決定部7110を備えてもよい。出力レベルDAC7152は、第1設定値記憶部7130に記憶されている設定値を読み出して、その設定値に基づいて増幅部8117を制御することで、送信出力レベルが適正な値になるようにする。増幅部8117は、送信出力レベルが大きいときには消費電力が大きいが、過大でもなく過小でもない丁度よい受信レベルとなるように、送信出力レベルを下げることで低消費電力化が実現できる。
つまり、送信電力を管理するための機構が設けられるのであるが、その目的は、過剰レベルにならないよう、あるいは、過小レベルにならないように、あるいはSNR(Signal Noise Ratio:信号雑音比、信号対雑音比、S/N)が過小レベルにならないようにすることである。送受信器の配置による伝送距離や伝送路の状態等の伝送特性(通信環境特性)に基づき送信出力レベルを適切に管理することで、送信レベルを必要最低限とし、低消費電力の通信(さらに好ましくは不要輻射の少ない通信)を実現するのである。
送信電力を管理するための機構として、固定設定(いわゆるプリセット設定)にするのか自動制御にするのか、又、設定レベルの判断を如何様にするのか等の観点から様々な手法を採り得るが、実施例1では少なくとも固定設定の手法を採用する。
例えば、送受信間の伝送特性(通信環境)に基づいて送信出力レベルをプリセット設定する手法を採る。その際には、好ましい態様として、送信装置である送信チップと受信装置である受信チップの間の伝送特性の状態を検知する伝送特性指標検知部を設け、その検知結果である伝送特性指標信号を参照して、送信チップ側の送信出力レベルをプリセット設定できるようにする。例えば、第1設定値決定部7110や第2設定値決定部7210が伝送特性指標検知部の機能をなすようにする。例えば伝送特性指標検知部を受信チップ側に設け(あるいは、伝送特性指標検知部は受信チップに内蔵しなくてもよい)、受信した無線信号の状態を検知し、その検知結果である状態検知信号を参照して、送信チップ側の送信出力レベルをプリセット設定する(決定した設定値を第1設定値記憶部7130に記憶しておく)。
受信レベルが過剰な場合や過小な場合にはSNRが低下する等受信レベルとSNRに一定の対応関係があれば受信レベルを判断指標とすることはSNRを判断指標とすることと等価である。受信レベルとSNRに一定の対応関係がない装置構成の場合は、受信レベルに代えて、例えばエラーレート等を判断指標にする等、SNRに着目したレベル管理を行なってもよい。つまり、受信レベルやSNR等の実際の伝送特性を反映した判断指標を検知する検知機構(伝送特性指標検知部)を受信チップ側に設け、その検知結果を参照して送信側の出力レベルをマニュアルで設定する。あるいは、図示のように、外部で決定した設定値を第1入出力インタフェース部7170を介して第1設定値記憶部7130に記憶しておく。
この実施例1の手法は、フィードバックによる自動制御の手法ではないが、送信レベルをプリセット設定する際の判断指標として受信側の受信レベルやSNRを参照する趣旨である。送受信器の配置による伝送距離や伝送路の状態等の伝送特性に応じて受信レベルやSNRが変化するので、送受信間の距離を直接に判断するのではなく、実際の伝送特性を反映した受信レベルやSNRを判断指標として使用して、送信レベルを管理するようにする。つまり、送信チップは、送信出力レベルを可変の構成とし、送信出力レベルを下げることで消費電力が小さくなるものを使用し、送受信器の配置による伝送距離や伝送路の状態等の伝送特性に応じて変化する受信レベルやSNRを参照して、受信状態が適切な状態となるように、送信出力レベルを適切に設定する。例えば、受信レベル(つまり受信強度)が高いときには送信出力レベルを低くし、受信レベルが低いときには送信出力レベルを高くすることで、受信レベルが過大でもなく過小でもない丁度よいレベルとなるように送信出力レベルを設定する。送信出力レベルを必要最低限とすることで、出力増幅器を低消費電力で動作させ、低消費電力の通信を実現する。
通信環境(通信範囲や伝送路特性等)を勘案して送信器の出力レベルを必要最低限のレベルに設定することで、送信器の出力を最低限のレベルに下げて使用することができるので、送信出力増幅器の消費電力を下げることができる。送信出力増幅器を低消費電力で動作させることで低消費電力の通信を実現できる。受信器への入力レベルが一定レベルとなることで、強入力への耐性を緩和することができ、受信器の消費電力も下げることができる。送信出力が必要最低限のレベルとなるため機器外への輻射も緩和される。フィードバックによる自動制御の手法ではないので、自動制御の場合よりも、出力レベルを制御(設定)する回路規模が小さくて済むし消費電力も小さくて済む。
実施例1では、フィードバック制御を行なわないので通信環境が変化したことに連動して適正なレベルに管理できるとはいえないが、通信環境の変化があったときに、マニュアルで設定値を変更することで対処できる。
又、実施例1では、図5(B)に示すように、受信側においては、増幅部8224から出力される受信信号のレベルを制御する第2設定値処理部7200Aが設けられている。第2設定値処理部7200Aは、第2動作制御部7250として、増幅部8224の出力レベルを設定する出力レベルDAC7252を備えている。第2設定値処理部7200Aは、第2の基本構成のものを採用しているが、第1の基本構成のように、第2入出力インタフェース部7270に代えて第2設定値決定部7210を備えてもよい。出力レベルDAC7252は、第2設定値記憶部7230に記憶されている設定値を読み出して、その設定値に基づいて増幅部8224を制御することで、増幅部8224の出力レベル(換言すると、復調機能部8400への入力レベル)が適正な値になるようにする。こうすることで、アンテナ8236での受信レベルに関わらず、復調機能部8400にて適正な復調処理ができる。
図5(C)に示す構成例では、受信チップ8002(受信装置)には、増幅部8224と、復調機能部8400と、伝送環境指標検知部8470が設けられている。伝送環境指標検知部8470は、送信チップ8001(送信装置)と受信チップ8002の間の伝送環境の状態を検知し、検知結果に基づいて伝送環境指標信号を出力する。特に、本例では、受信レベルを検知するものとして説明する。つまり、本例の伝送環境指標検知部8470は、受信レベル(入力レベル)を検知する機構をなすもので、受信レベル検波を行ない、入力レベルを検知し、その検知結果であるレベル検知信号Vdetを出力する。伝送環境指標検知部8470には、復調機能部8400の入力信号(つまり受信した信号、詳しくは増幅部8224の出力)を供給してもよいし、復調機能部8400で復調されたベースバンド信号(つまり復調機能部8400の出力信号)を供給してもよい。伝送環境指標検知部8470は、それら入力された信号に基づいて入力レベルを検知する。
伝送環境指標検知部8470から出力されたレベル検知信号Vdetが示す受信器の入力レベルに基づいて送受信器の距離や伝送路による減衰量を求めることができ、送信器の出力レベルを最適値に設定することができる。レベル検知信号Vdetに基づいて送信出力レベルのフィードバック制御を行なうが、機器内や機器間の信号伝送の場合は、一旦送信出力レベルを最適状態に設定してしまえば、動的にアダプティブに頻繁に行なう必要はなく、フィードバック制御を停止させて、最適値として記憶した設定値を使用すればよい。フィードバック制御とは異なるが、実際の伝送特性を反映した判断指標を検知する検知機構(伝送特性指標検知部)を受信チップ8002側に設け、その検知結果であるレベル検知信号Vdetを参照して、送信チップ8001の送信出力レベルを適正レベル(過小でもなく過大でもない丁度よいレベル)とすることができる。減衰量が小さいときには、出力レベルを下げ、低消費電力での通信を行なうことが可能となる。つまり、利得可変の増幅部8117を持つ送信チップ8001(送信器の一例)と伝送環境指標検知部8470を持つ受信チップ8002(受信器の一例)により、低消費電力の通信を行なうことができる。
例えば、図示しないが、伝送環境指標検知部8470で検知された情報を、図5(A)に示す第1設定値処理部7100Aで利用してもよい。この場合、例えば、伝送環境指標検知部8470で取得される検知情報(レベル検知信号Vdet)が操作者による送信出力レベル設定時に参照される。操作者は、伝送環境指標検知部8470から出力された検知結果に基づいて、送信チップ8001の送信出力レベルが適正レベル(過小でもなく過大でもない丁度よいレベル)となる設定値を第1入出力インタフェース部7170を介して第1設定値記憶部7130に記憶する。
伝送環境指標検知部8470で検知された情報を、図5(C)に示す第1設定値処理部7100Aで自動的に利用する構成にしてもよい。構成的には、フィードバック制御を実行する利得制御部8090を備えている。図示した例では、利得制御部8090は、送信チップ8001及び受信チップ8002の外部に設けている。図示しないが、利得制御部8090は、送信チップ8001と受信チップ8002の何れか一方に内蔵してもよい。伝送特性指標検知部8470と利得制御部8090の間のレベル検知信号Vdetの伝送及び利得制御部8090と第1設定値処理部7100Aの間の信号Gconttの伝送は無線、有線の何れでもよい。無線にする場合、光・電波の何れでもよく、周波数帯は無線信号Smと同じでもよいし異なっていてもよい。
利得制御部8090は、伝送特性指標検知部8470から出力されたレベル検知信号Vdetに基づき、送信チップ8001の送信出力レベルが適正レベル(過小でもなく過大でもない丁度よいレベル)となる設定値を決定する。その決定された設定値が第1入出力インタフェース部7170を介して第1設定値記憶部7130に記憶される。例えば、動作開始当初は、送信チップ8001(増幅部8117)は最大出力で動作を開始し、受信チップ8002(伝送特性指標検知部8470)は受信信号レベルを検出し、利得制御部8090にレベル検知信号Vdetを供給する。利得制御部8090は、レベル検知信号Vdetに基づいて送信出力レベルが適正レベルとなるように利得制御信号Gcontを生成し、送信チップ8001の増幅部8117の利得を制御する。通信環境の変化に対応できるように、通信処理時の一定時間間隔でフィードバック制御を行なってもよい。一定時間間隔でのフィードバック制御には対応できなくなるが、決定された設定値を第1設定値記憶部7130に記憶しておけばよいので、利得制御部8090は製品に搭載することは必須ではなく、例えば、工場出荷時などに接続して調整を行なって、その後外してしまってもよい。
実施例1を適用しない場合、送信器出力を大きなレベルで一定とし、受信側では信号を検波し、受信器内で利得の制御を行なうことで、一定のベースバンド信号を得ることができる。しかしながら、通信距離が近い送受信間では、必要以上に大きなレベルでの通信となり、消費電力も大きい。無駄な電力を消費することになる。受信器は強入力の信号でも受信できる必要があるため、リニアリティの良い回路が必要となり、受信器の消費電力も大きくなる。送信出力が大きい場合には、外部への輻射が大きくなるという問題もある。
これに対して、実施例1の手法によれば、送信出力レベルを送受信間の伝送特性に応じた適正なレベルに管理(設定)するので、これらの問題を解決できる。又、受信側において、復調機能部8400の前段の増幅部8224でその出力レベルが適正になるように調整することで、仮に送信出力レベルが過剰であっても、復調機能部8400は適正に復調処理を行なえる。特に、機器内や機器間の信号伝送においては、送受信間の距離や伝送路の状態等の伝送特性が特定されたものとなる固定位置間や既知の位置関係の信号伝送であるから、送受信間の伝搬チャネルを適正に設計することが容易である。このため、無線伝送を管理するコントローラの制御(本例の場合は利得制御部)は一般の無線通信のように動的にアダプティブに頻繁に行なう必要はなく、製造時や設計時に無線伝送特性を校正し、個体のばらつき等を把握することで、送信出力レベルの設定は、プリセットや静的な制御が可能であり、全体構成の小型や低消費電力化が可能になる。
図6は、実施例2を説明する図である。ここでは、特に、変調機能部及び復調機能部の第2例として、変調機能部及び復調機能部の第1例との相違点を中心に説明する。なお、図示しないが、この実施例2に対してさらに前述の実施例1を適用して、増幅部8117の出力レベルを第1設定値処理部7100Aで設定し、増幅部8224の出力レベルを第2設定値処理部7200Aで設定してもよい。このことは、後述する他の実施例でも同様である。
実施例2は、伝送対象信号とは別に搬送信号を送信する系(搬送周波数別送の系)で、アンテナ8136からアンテナ8236へ無線で伝送される送信信号の遅延量に合わせて、送信側から受信した搬送信号の位相を調整する機構を備える場合に、第2設定値処理部7200Bにて位相の調整量を設定する点に特徴がある。図示しないが、同様の考え方は、伝送対象のデータとは別にクロック再生用のクロックを送信する系(クロック別送の系)で、送信データ(送信信号)の遅延量に合わせて受信したクロックの位相を調整する場合にも適用できる。
例えば、受信側には、位相調整回路(移相器)の機能を備える位相振幅調整部8406を復調機能部8400Bに設けている。位相振幅調整部8406には、送信側の送信側局部発振部8304から搬送信号が有線又は無線で供給される。さらに、受信側においては、第2設定値処理部7200Bは、第2動作制御部7250として、位相振幅調整部8406(の位相調整回路)の位相シフト量を設定する移相量DAC7253を備えている。第2設定値処理部7200Bは、第2の基本構成のものを採用しているが、第1の基本構成のように、第2入出力インタフェース部7270に代えて第2設定値決定部7210を備えてもよい。
[実施例2の作用効果]
第2設定値記憶部7230には、復調機能部8400(の位相調整回路)による位相シフト量の最適値を設定するための設定値を予め保持しておく。移相量DAC7253は、第2設定値記憶部7230に記憶されている設定値を読み出して、その設定値に基づいて復調機能部8400(の位相振幅調整部8406の移相器の機能部)を制御することで、位相振幅調整部8406から出力される搬送信号の位相シフト量が適正な値になるようにする。こうすることで、送受信間の伝送特性に左右される信号の伝送遅延量に関わらず、復調機能部8400にて適正な復調処理ができる。つまり、伝送対象信号の遅延量に合わせて搬送信号の位相を適正に設定することで適正な復調処理ができる。
図7は、実施例3を説明する図である。実施例3は、再生される伝送対象信号の高域成分あるいは低域成分を補正する機能部(周波数特性補正処理部)を設ける場合に、その周波数特性補正処理部の動作設定を第1設定値処理部7100Cや第2設定値処理部7200Cにて行なう点に特徴がある。
例えば、図7(A)に示した例は、復調機能部8400の後段に設けられたフィルタ処理部8410が周波数特性補正処理部として波形等化機能を備える場合に、等化器の動作設定を第2設定値処理部7200Cにて行なう。フィルタ処理部8410は、低域通過フィルタ8412と等化器8414を有する。等化器8414は、例えば符号間干渉を低減させるため、受信した信号の高周波帯域に、低下した分の利得を加えるイコライザ(つまり波形等化)フィルタを有する。復調機能部8400で復調されたベースバンド信号は低域通過フィルタ8412で高域成分が除去され、等化器8414により高域成分が補正される。
[実施例3の作用効果]
実施例3の第2設定値処理部7200Cは、第2動作制御部7250として、等化器8414の動作設定(詳しくはタップ係数の設定)を行なう等化器DAC7254を備えている。第2設定値処理部7200Cは、第2の基本構成のものを採用しているが、第1の基本構成のように、第2入出力インタフェース部7270に代えて第2設定値決定部7210を備えてもよい。第2設定値記憶部7230には、等化器8414に対する最適な設定値(タップ係数)を予め保持しておく。等化器DAC7254は、第2設定値記憶部7230に記憶されている設定値を読み出して、その設定値に基づいて等化器8414のタップ係数を調整する。
ミリ波帯あるいはその前後の波長帯を用いた機器内や機器間の無線伝送の場合、反射が存在していても、固定の反射であるので、小さい等化器で容易にその影響を受信側で除去できる。等化器の設定も、プリセットや静的な制御で可能であり、実現が容易である。
図7(A)では、受信側に、周波数特性補正処理部として波形等化機能を備える場合で説明したが、送信側に、周波数特性補正処理部としてプリエンファシス部を備えるようにして、このプリエンファシス部の動作を第1設定値処理部7100Cで制御してもよい。例えば、図7(B)に示すように、変調機能部8300A(周波数混合部8302)の前段に、プリエンファシス部の機能を備える変調対象信号処理部8301を設ける。変調対象信号処理部8301(のプリエンファシス部)は、予め伝送対象信号の高周波成分を強調して変調機能部8300に供給する。
この場合において、実施例3の第1設定値処理部7100Cは、第1動作制御部7150として、変調対象信号処理部8301の動作設定(詳しくは高域強調度合いの設定)を行なうプリエンファシスDAC7154を備えている。第1設定値処理部7100Cは、第2の基本構成のものを採用しているが、第1の基本構成のように、第1入出力インタフェース部7170に代えて第1設定値決定部7110を備えてもよい。第1設定値記憶部7130には、変調対象信号処理部8301のプリエンファシス部に対する最適な設定値(高域強調度合い)を予め保持しておく。プリエンファシスDAC7154は、第1設定値記憶部7130に記憶されている設定値を読み出して、その設定値に基づいて変調対象信号処理部8301における伝送対象信号の高周波成分の強調度合いを調整する。さらには、図示しないが、送信側に周波数特性補正処理部としての高域強調処理部を設けこれを第1設定値処理部7100Cで制御しつつ、受信側に周波数特性補正処理部としての等化器8414を設けこれを第2設定値処理部7200Cで制御してもよい。
図8は、実施例4を説明する図である。実施例4は、双方向通信を行なう構成の場合に、エコーキャンセラ技術を適用する点に特徴を有する。送信信号が受信信号に被る場合に、公知のエコーキャンセラ技術を用いて、エコー成分を抑制する。「エコーキャンセラ技術」とは、送信側から出力される信号が入力側に拾われてエコーやハウリング等と称されるノイズ(以下エコー成分と称する)が混入することを防止する(つまりエコー成分を抑制する)技術を意味する。エコー成分を抑制する技術としては種々の方式があるが、実施例4では、最も簡易な手法として、振幅位相調整した送信信号を受信信号から差し引く手法を採用する。「振幅位相調整」とは、入力信号の振幅と位相の双方を調整対象として、処理済み信号のエコー成分が抑制(キャンセル)されるように(最適にはエコー成分がゼロとなるように)調整を行なうことを意味する。なお、実施例4では「振幅位相調整」によりエコー成分を抑制するが、必ずしもこれには限らず、エコー成分を抑制することのできる手法である限り、何れの手法を採用してもよい。
双方向通信を行なう構成とするべく、第1通信装置100と第2通信装置200のそれぞれには、送信系統の機能部と受信系統の機能部が設けられる。例えば、第1通信装置100は、送信系統の機能部として、増幅部8117_1とアンテナ8136_1を備えるとともに、受信系統の機能部として、アンテナ8236_1と増幅部8224_1と復調機能部8400_1を備える。第2通信装置200は、送信系統の機能部として、増幅部8117_2とアンテナ8136_2を備えるとともに、受信系統の機能部として、アンテナ8236_2と増幅部8224_2と復調機能部8400_2を備える。さらにエコーキャンセラ技術を適用するべく、第1通信装置100は位相振幅調整部8386_1と加減算部8388_1を有するエコーキャンセル部8380_1を備え、第2通信装置200は位相振幅調整部8386_2と加減算部8388_2を有するエコーキャンセル部8380_2を備える。
エコーキャンセル部8380_1及びエコーキャンセル部8380_2は、送信側から出力される信号のうちの入力側に混入したエコー成分を抑制するエコー抑制部の一例である。本構成では、各位相振幅調整部8386は位相反転して出力するようにしており、これに対応して、加減算部8388は加算処理部としている。各位相振幅調整部8386は位相反転せずに出力する場合、これに対応して、加減算部8388は減算処理部とすればよい。各位相振幅調整部8386は、変調機能部8300で変調され増幅部8117に入力される信号の位相と振幅を調整し、調整済みの信号を加減算部8388に供給する。加減算部8388は、位相振幅調整部8386により振幅と位相を調整した送信信号と増幅部8224から出力された受信信号を加算する。実態としては、受信信号から振幅と位相を調整した送信信号を減算することになり受信信号に被る送信信号の成分がキャンセルされる。
[実施例4の作用効果]
第1設定値処理部7100Dは、第1動作制御部7150として、エコーキャンセル部8380_1の位相振幅調整部8386_1の位相シフト量と振幅調整量を設定するエコーキャンセルDAC7156を備えている。第2設定値処理部7200Dは、第2動作制御部7250として、エコーキャンセル部8380_2の位相振幅調整部8386_2の位相シフト量と振幅調整量を設定するエコーキャンセルDAC7256を備えている。第1設定値処理部7100D及び第2設定値処理部7200Dは、第2の基本構成のものを採用しているが、第1の基本構成のように、第1入出力インタフェース部7170に代えて第1設定値決定部7110を備え、第2入出力インタフェース部7270に代えて第2設定値決定部7210を備えてもよい。第1設定値記憶部7130と第2設定値記憶部7230のそれぞれには、受信信号に被る送信信号の成分をキャンセルできるように、位相振幅調整部8386による位相シフト量及び振幅調整量の最適値を設定するための設定値を予め保持しておく。各エコーキャンセルDAC7156は、第1設定値記憶部7130や第2設定値記憶部7230に記憶されている設定値を読み出し、その設定値に基づいて位相振幅調整部8386から出力される信号の位相(のシフト量)と振幅レベルを調整する。
図9は、実施例5を説明する図である。実施例5は、伝送路結合部108と伝送路結合部208の対(組)が複数設けられ、これによって、複数系統のミリ波信号伝送路9を備える、換言すると、多チャネル化を図る点に特徴を有する。なお、実施例5(後述の実施例6も)では、ミリ波信号伝送路9は自由空間伝送路9Bであるとするがこのことは必須でない。さらに、実施例5では、チャネル間の干渉対策としてMIMO(Multi-Input Multi-Output)処理を適用するが、後述の実施例6との相違点として、干渉対策の要求度合いを緩和する信号処理を受信側にて行なう点に特徴がある。「干渉対策の要求度合いを緩和する」とは、無線信号の遮蔽体を用いずにチャネル間距離を短縮できるようにすることや、干渉対策を軽減できるようにすることを意味する。
複数系統のミリ波信号伝送路9は、空間的に干渉しない(干渉の影響がない)ように設置され複数系統の信号伝送において同一周波数や同一時間に通信を行なうことができるものとする。「空間的に干渉しない」ということは、複数系統の信号を独立して伝送できることを意味する。このような手法を「空間分割多重」と称する。伝送チャネルの多チャネル化を図る際に、空間分割多重を適用しない場合は例えば周波数分割多重を適用して各チャネルでは異なる搬送周波数を使用することが必要になるが、空間分割多重を適用すれば、同一の搬送周波数の搬送信号を使用する場合でも干渉の影響を受けずに伝送できる。実施例5(後述の実施例6も)では、各チャネルの搬送周波数を共通化するがこのことは必須でなく、各チャネルの搬送周波数が少なくとも同期した関係にあればよい。
ここで、「空間分割多重」を適用するに当たっては、ミリ波信号を伝送可能な3次元空間において、複数系統のミリ波信号伝送路9を形成するものであればよく、自由空間中に複数系統のミリ波信号伝送路9を構成することに限定されない。例えば、ミリ波信号(電磁波)を伝送可能な3次元空間が誘電体素材(有体物)から構成されている場合に、その誘電体素材中に複数系統のミリ波信号伝送路9を形成するものでもよい。又、複数系統のミリ波信号伝送路9のそれぞれも、自由空間であることに限定されず、誘電体伝送路や中空導波路等の形態を採ってよい。
多チャネル化を図る一手法としては、複数の送受信対のそれぞれが異なる搬送周波数を用いるいわゆる周波数分割多重方式がある。全二重双方向化も異なる搬送周波数を用いれば容易に実現でき、電子機器の筐体内で複数の送受信対が独立して通信するような状況も実現できる。しかしながら、周波数分割多重で多チャネル化を採ると、ミリ波信号伝送路の全体の使用帯域をかなり広くする必要がある。自由空間伝送路であればこの要求に応え得るが、誘電体伝送路のような帯域幅が限られた伝送路では問題となる。
一方、機器内や機器間の無線伝送では、回路部材やアンテナその他の配置位置を規定することが容易であるから、空間分割多重方式の適用が容易である。空間分割多重の場合、基本的には、各チャネル(複数の送受信対のそれぞれ)が同一の搬送周波数を使えるため伝送帯域幅の制約から解放される利点がある。ただし、空間分割多重では、各チャネル間の干渉(いわゆるクロストーク)対策が必要となる。例えば、自由空間伝送路では、送信アンテナ間(あるいは受信アンテナ間)の距離を十分とることが肝要となる。しかし、このことはチャネル間距離に制約があることを意味し、狭い空間内に多数のアンテナ対(つまり伝送チャネル)を配置する必要があるときには問題となる。
別の干渉対策手法としては、例えば送信アンテナ間(あるいは受信アンテナ間)に電波伝搬を妨げる構造を採り得る。又、誘電体伝送路や中空導波路等のような無線信号を閉込める構造を採用することでチャネル間距離を縮める手法を採り得る。しかしながらこれらの手法は、自由空間伝送路に比べるとコストアップになる。
これに対して、送信側と受信側とにそれぞれ複数のアンテナ(送信側と受信側でアンテナの本数が異なっていてもよい)を設けて、複数のアンテナによって空間分割多重を利用したMIMO方式により伝送容量の拡大を行なう技術が知られている。MIMO方式では、送信側は、k個の送信データを符号化して多重化し、例えばM本のアンテナにそれぞれ分配して伝送空間(チャネルとも称される)に送出し、受信側は伝送空間経由でm本(M≠m又はM=mの何れでもよい)のアンテナにより受信した受信信号を復号してK個の受信データを得る。つまり、MIMO方式は、送信側において複数アンテナに送信データを分配して送信し、受信側で複数アンテナにより受信した信号から信号処理によって受信データを得るものであり、伝送空間の伝送特性を利用した空間分割多重方式による通信方式である。MIMO方式では、同一の周波数及び同一の時間で、クロストークのない複数の独立な論理的なパスを得ることができ、同時刻に同一周波数を使用して複数のデータを無線通信で伝送することができ、伝送速度の向上を実現できる。
MIMO方式によるデータ伝送の構成方式には、チャネル行列の特異値分解(SVD:Singular Value Decomposition)や固有値分解を利用した固有モード伝送等種々の方式があるが、従来の手法は一般的に演算量が大きい。例えば、固有モード伝送を行なうためには、送信側のアンテナ数をM、受信側のアンテナ数をmとして、m行×M列のチャネル行列に対する演算を行なわなければならない。
このようなMIMO方式を利用した空間分割多重方式における問題点を緩和する手法として、実施例5(後述の実施例6も)では、干渉対策の要求度合いを緩和する信号処理を受信側にて行なう。基本的には、図9に示すように、受信側において、MIMO処理部604を設けて、ベースバンド信号処理の側面から干渉対策をとることで、アンテナ間隔を狭くできるようにする。MIMO処理部604は、送受信間の各アンテナ対の伝達関数を要素とするチャネル行列に基づいて行列演算を行なう行列演算処理部(伝達特性補正部)の一例である。具体的には、MIMO処理部604は、複数のアンテナ136のそれぞれと対応する複数の送信対象信号のそれぞれに対して、送信側のアンテナ136と受信側のアンテナ236との間におけるミリ波信号伝送路9(伝送空間)の伝達特性に基づく補正演算を行なう。伝達特性はチャネル行列で表わされ、補正演算としては、各チャネルの伝送対象信号に対して逆行列演算を行なうことになる。
その補正演算(逆行列演算)の意義は、復調信号に対して伝達特性分を補正することで、処理済み信号としては、伝達特性の影響を排除した送信対象信号を取得できるようにすることである。各チャネルの変調方式が同じ場合は、アンテナ236で受信される不要波に基づく復調成分が完全に相殺される。各チャネルの変調方式が異なる場合には、不要波の成分が完全に相殺されると言うことにはならないが復調処理の対応によりその影響を受けないようにできる。
ここで、実施例5のMIMO処理部604におけるMIMO処理は、送受間の直接波のみを対象とするMIMO処理である点に特徴がある。このことは、通常採り得る機器間や筐体内での無線伝送におけるMIMO処理では、筐体内の部品や壁等によって送信側から送信された電波が反射・回折するマルチパス環境下に置かれ、複数の経路から同一の電波が受信側に届くというマルチパス対策のため、1つの受信アンテナが同じ送信アンテナから発せられた直接波とは異なる経路を辿った反射波も対象とした複数の受信信号を扱う信号処理となるのと大きく異なる。これは、機器内や機器間での無線信号伝送において波長が比較的短いミリ波(あるいはマイクロ波)を使用することで、空間分割多重が適用されているミリ波信号伝送路9が形成される空間には、無線伝送に対して実質的に邪魔になる障害物がないようにすることができ、その場合は、反射波の影響を考慮する必要は殆どないからである。
マルチパス環境下では、複数の経路からの電波を受信側において受信すると、複数の経路の距離が異なることにより、送信側からの電波が受信側に到達するのに要する時間が経路によって異なる。このため、位相がずれた複数の電波が受信側で受信され、その結果、受信信号の波形が歪み、信号を復号できなくなる虞れがある。その対策としてMIMO処理を適用し得る。この場合、当然にチャネル行列の考え方もマルチパス対策に適合する。
これに対して、実施例5や後述の実施例6のMIMO処理は、このようなマルチパス対策のためのMIMO処理とは異なり、チャネル行列の考え方も、マルチパス対策用のものとは異なる。ただし、反射波が豊富にある環境下ではチャネル行列の逆行列は解き易いが、直接波のみが存在して反射波が全く存在しない実環境下では、チャネル行列の逆行列が得難くなるということが懸念される。実施例5や実施例6では、アンテナ配置を制約することで、チャネル行列の逆行列が得難くなることを防止する。
その際には、実施例5では、MIMO処理で必要となる掛算器(増幅器の要素)と加算器の数を低減できるようにアンテナ配置(送信側及び受信側の各アンテナ間隔)を決められたものに設定し、それに応じた受信側でのMIMO処理にする。つまりMIMO処理数を低減できるようにアンテナ配置を決め、それに合わせた直接波のみを対象とする受信側でのMIMO処理にすると言うことである。ただし、これらの関係によっては、復調機能部8400において直交検波や同期検波の要否が左右される。直交検波や同期検波が不要な条件であれば、包絡線検波や自乗検波を適用し得る。直交検波や同期検波が不要な条件となるように送信側の各アンテナ136と受信側の各アンテナ236のアンテナ間距離を設定することで、包絡線検波や自乗検波を適用する構成を採るとよい。何れにしても、受信側にMIMO処理を適用することで、自由空間伝送路とした場合の干渉対策の要請を緩和する。好ましくは、各チャネルの搬送周波数を共通化することで受信側においてベースバンドでMIMO処理を行ない、さらに好ましくは、アンテナ配置を制約することでMIMO処理量(逆行列演算量)を削減する。
なお、各チャネルの搬送周波数を共通化することが好ましいが、このことは必須でない。各チャネルの搬送周波数が少なくとも同期した関係にあればよい。空間分割多重の基本的な考え方としては、通常、搬送信号の周波数を共通化(同一に)する。送信側の搬送信号の周波数を共通化すると各チャネルで搬送周波数の影響が確実に同じになるため、ベースバンド領域でのMIMO処理を確実かつ効率的に行なうことができる。搬送周波数がチャネルによって異なる場合には、受信側では、各搬送周波数に対応した復調回路や周波数選択フィルタをチャネルごとに設ける等の対処が必要になり装置規模が大きくなる。これらの点においては、各チャネルの搬送周波数を共通にすることの利点が大きい。
図9(A)に示した第1例は、N系統に対して、受信側が1チップ構成であり、送信側は変調機能部8300(MOD)を収容した半導体チップ103を系統別に使用する構成(N対1の構成と称する)である。図9(B)に示す第2例は、受信側が1チップ構成であり、又、送信側も1チップ構成の1対1の構成である。第2例の構成を採る場合、送信側が1チップ構成であることから、送信側信号生成部110内の変調機能部8300は、系統別に送信側局部発振部8304を備えることは必須でない。すなわち、送信側局部発振部8304を1系統のみ設け、残りの系統は、送信側局部発振部8304で生成された搬送信号そのものを使って周波数変換(変調)するとよい。図9(C)に示す第3例は、送信側が1チップ構成であり、受信側は系統別のチップを使用する構成(1対Nの構成と称する)である。図9(D)に示す第4例は、送信側は系統別のチップを使用する構成であり、受信側も系統別のチップを使用する構成(N対Nの構成)である。第3例や第4例の場合、各系統の復調機能部8400(DEMOD)とシリアルパラレル変換部8227との間に、全系統に共有されるMIMO処理部604を設ける。
第1例〜第4例の何れにおいても、MIMO処理部604の動作を制御する第2設定値処理部7200Eが設けられる。実施例5の第2設定値処理部7200Eは、第2動作制御部7250(図示せず)として、MIMO処理部604の動作設定(詳しくはMIMO処理のマトリクス演算の係数(行列要素と対応する)の設定)を行なうMIMO係数DAC7257を備えている。第2設定値処理部7200Eは、第2の基本構成のものを採用しているが、第1の基本構成のように、第2入出力インタフェース部7270に代えて第2設定値決定部7210を備えてもよい。クロストークを好適にキャンセルできる最適なMIMO処理のパラメータ(後述する各行列要素の値)を予め調べておき、その値(設定値の一例)を予め第2設定値処理部7200Eの第2設定値記憶部7230に保持しておく。第2動作制御部7250は、第2設定値記憶部7230に記憶されている設定値(各行列要素の値)を読み出してMIMO処理部604に設定する。
以下、受信側のMIMO処理に着目して、具体的に説明する。なお、以下では特段の断りのない限り、説明を簡単にするため、第1通信装置100から第2通信装置200への片方向の通信で説明する。又、送信系のチップ構成としては、最適な形態として、M系統分の送信側信号生成部110(変調機能部8300を収容)を1つの半導体チップ103に収容する場合で示す。受信系に関しても、最適な形態として、M系統分の全ての受信側信号生成部220(復調機能部8400を収容)を1つの半導体チップ203に収容する場合で示す。つまり、M系統分の送信側信号生成部110を収容した1つの半導体チップ103を搭載している第1通信装置100から、M系統分の受信側信号生成部220を収容した1個の半導体チップ203を搭載した第2通信装置200への片方向の通信で説明する。
[受信側に適用するMIMO処理の概要]
図10〜図11は、受信側に適用するMIMO処理の概要を説明する図である。ここで、図10は、受信側に適用するMIMO処理の演算を説明する図である。図11は、受信側に適用するMIMO処理の演算手法の基本を説明する図である。
図10中において、空間分割多重における伝送チャネルをM本とするべく、アンテナ136及びアンテナ236をそれぞれM本にしている。送信側の各アンテナ136からは、対向して配置された受信側のアンテナ236へミリ波信号が伝送される。図10中において、実線で示しているのは、アンテナ136_a(aは1〜Mの何れか)から、そのアンテナ136_aに対して対向配置されたアンテナ236_aへ直接に伝達される所望波である。点線で示しているのは、アンテナ136_aから、そのアンテナ136_aに対して対向配置されていない他のアンテナ236_b(bは1〜Mの何れかで、かつ、b≠a)へ直接に伝達される不要波(干渉波)である。所望波及び不要波の何れも、アンテナ136_aからアンテナ236_aとアンテナ236_bへ直接に伝達される直接波である。
ここで、MIMO処理演算に適用されるチャネル行列Hは、式(1−1)で示される。M行M列のチャネル行列Hにおいて、行列要素hi,jの内で、i=jの要素は所望波に関する要素であり、i≠jの要素は不要波に関する要素である。又、このときの受信信号rは式(1−2)で示される。なお、sは送信信号、vはノイズである。
図10(B)に示すように、MIMO処理部604における受信側でのMIMO処理では、チャネル行列Hの逆行列H-1を受信信号rに掛ける。その結果、受信側では、送信対象信号s(詳しくは、さらにノイズ成分H-1・vも)が得られる。送信対象信号sは変調前のベースバンド信号である。つまり、MIMO処理部604におけるMIMO処理は、行列要素hi,jの値を使用したマトリクス演算となる。詳しくは、逆行列H-1に基づくMIMO処理部604での逆行列演算は、受信側のアンテナ236で受信される不要波に基づく成分が相殺(キャンセル)されるように、所望波と不要波とが混在した受信信号の復調出力に対して、ベースバンド領域で不要波に基づく成分と逆の成分を重畳する処理となる。受信側において復調後にベースバンド領域でMIMO処理を適用すれば、干渉波の影響を受けない送信対象信号sを取得できる。この結果、空間分割多重により多重伝送を実現する場合に、ミリ波信号伝送路9を自由空間伝送路9Bとした場合でも、干渉対策の要求度合いを緩和でき、干渉対策が不要になる、又は、干渉対策を軽減できる。なお、図10(B)では、図示の都合から、第2設定値処理部7200Eを半導体チップ203の外部に示している。
図11には、受信側に適用するMIMO処理と搬送周波数の関係が示されている。第1通信装置100は、変調機能部8300として、チャネル別に周波数混合部8302を備えている。この例では、各チャネル(系統)の周波数混合部8302は振幅を変調する方式であって直交変調を採っていない。そして、変調機能部8300は、全チャネルに共有される送信側局部発振部8304を1つ有している。送信側局部発振部8304で生成された搬送信号そのものを各チャネルの周波数混合部8302が使って変調を行なう。この構成は、送信側の半導体チップ103が1チップ構成であるので都合がよい。
第2通信装置200は、復調機能部8400として、チャネル別に振幅検波回路8403を備えている。振幅検波回路8403は、直交検波や同期検波を採用せず、単純に振幅変調波の振幅成分を復調する方式のもので、例えば包絡線検波回路や自乗検波回路を採用する。
全チャネルに共有される送信側局部発振部8304を1つ設け、送信側局部発振部8304で生成された搬送信号そのものを各チャネルの周波数混合部8302が使って変調を行なうようにすると、各系統で搬送周波数の影響が同じになる。空間分割多重の基本的な利点を活かすべく全系統の搬送周波数を共通化することで、各系統で搬送周波数の影響が同じになるため受信側においてベースバンド領域でMIMO処理が行なえる。
[アンテナ配置の制約とMIMO処理量の関係]
図12には、アンテナ配置の制約とMIMO処理量(逆行列演算量)の関係が示されている。図12には、最も単純な構成として、2チャネル(アンテナ対が2つ)の場合が示されている。図12(A)に示すように、送信側の半導体チップ103には、アンテナ136_1とアンテナ136_2が設けられ、半導体チップ203にはアンテナ136_1と正対するようにアンテナ236_1が設けられ、アンテナ136_2と正対するようにアンテナ236_2が設けられている。アンテナ136はアンテナ8136と等価であり、アンテナ236はアンテナ8236と等価である。以下、この点は他の記載においても同様である。
「正対」とは、アンテナが指向性に依存した位相特性を持たないようにアンテナ対が配置されていることを意味する。換言すると、所望波のアンテナ136からの放射角や対応するアンテナ236への入射角がゼロであることを意味する。「正対」の関係が崩れた場合は、アンテナの指向性に依存した位相特性に基づく補正を行なえばよい。以下では、特段の断りのない限り、アンテナ対が「正対」の状態で配置されるものとする。
所望波と関係するアンテナ間距離はd1である。すなわち、半導体チップ103のアンテナ136_1と半導体チップ203のアンテナ236_1との間の正対距離はd1であり、同じく、半導体チップ103のアンテナ136_2と半導体チップ203のアンテナ236_2との間の正対距離もd1である。一方、不要波と関係するアンテナ間距離はd2である。すなわち、半導体チップ103のアンテナ136_1と半導体チップ203のアンテナ236_2との間の距離はd2であり、同じく、半導体チップ103のアンテナ136_2と半導体チップ203のアンテナ236_1との間の距離もd2である。アンテナ136_1から送信された所望波は、直接にアンテナ236_1で受信される。アンテナ136_2から送信された所望波は、直接にアンテナ236_2で受信される。アンテナ136_1から送信された不要波は、直接にアンテナ236_2で受信される。アンテナ136_2から送信された不要波は、直接にアンテナ236_1で受信される。「距離d1<距離d2」であるから、アンテナ136_1とアンテナ136_2の送信レベルが同じであっても、距離減衰により、アンテナ236_1(あるいはアンテナ236_2)で受信される所望波の受信レベルの方がアンテナ236_2(あるいはアンテナ236_1)で受信される不要波の受信レベルよりも大きい。このことはチャネル行列の逆行列が必ず存在することの要因ともなっている。
MIMO処理は、一般に複素数演算(あるいはそれに相当する処理)が必要となり回路規模が大きくなってしまう。これに対して、直接波のみを対象とする点に着目してアンテナ配置を制約するとともに、それに合わせた信号処理にすることで、MIMO処理量(逆行列演算量)を削減できる。例えば、2チャネルの場合における所望波のアンテナ間距離d1と不要波のアンテナ間距離d2との距離差(パス差とも称する)をΔd(=d2−d1)とし、距離減衰要素をαとする。M行M列のチャネル行列Hにおいて、行列要素hi,jを複素数で表すとき、それぞれは、実数項(cos項)と虚数得項(sin項)の合成で表される。この場合、パス差Δdに一定の条件を設定すれば、チャネル行列Hの各行列要素hi,jは、実数項(cos項)又は虚数得項(sin項)のみとなる。又、距離減衰要素αの存在により、チャネル行列Hの逆行列H-1が必ず求められ、逆行列H-1の各要素も、実数項(cos項)又は虚数項(sin項)のみとなる。例えば、2チャネルの場合のチャネル行列Hにおいて正規化して考えた場合、所望波の要素(1行1列、2行2列の各要素)はパス差Δdに関わらずそれぞれ実数項(Re==1)であり、逆行列H-1の各要素も、実数項(Re’)である。これに対して、不要波の要素(1行2列、2行1列の各要素)はパス差Δdによって、実数項のみ、虚数項のみ、「実数項+虚数項」の何れかとなる。
例えば、図12(B)に示すように、「Δd=(n/2+1/4)λc(nは0又は1以上の正の整数)」を満たす場合(パス条件1と称する)、パス差Δdは位相的にはπ/2の奇数倍の関係となり、実数項はゼロとなるため虚数項(Im)のみとなり、逆行列H-1の各要素も虚数項(Im’)のみとなる(図12(B−1))。パス条件1の関係からズレると「実数項+虚数項」となるが、パス条件1の関係に近いときには、虚数項成分に対する実数項成分が遙かに小さく、実質的に虚数項のみとして扱ってもよい。つまり、Δd=(n/2+1/4)λcを完全に満たすことが最適であるが、この関係から多少ずれていても構わない。本明細書で「虚数項のみ」とは、このような多少のズレがある場合も含むものとする。ここで、詳細には、nが0又は偶数の場合は、虚数項は「+1」となるので、不要波は所望波に対して、パス差で位相がπ/2だけ回る。このとき、パス差Δdに対応する時間差をΔtとし、D=exp(−jωΔt)としたとき、「detH=1−(α・D)2=1−(α・−j)2>1」であるからチャネル行列Hの逆行列H-1が存在し得る。MIMO処理では、「−α・D=−j・α」となるから、不要成分が所望成分に対して位相的には「−π/2」となるようにする。一方、nが奇数の場合は、虚数項は「−1」となるので、不要波は所望波に対して、パス差で位相が−π/2だけ回る。このとき、「detH=1−(α・D)2=1−(α・j)2>1」であるからチャネル行列Hの逆行列H-1が存在し得る。MIMO処理では、「−α・D=j・α」となるから、不要成分が所望成分に対して位相的には「π/2」となるようにする。
何れにしても、1行1列と2行2列の所望波の要素は実数項のみであり、1行2列と2行1列の不要波の要素は虚数項のみである。そのため、MIMO処理量が削減できる。虚数項Im’(直交成分)が存在するので、本構成例を適用しない場合の変調方式が、例えばASK方式やBPSK方式等のように、元々は直交成分を伴わない変調のときであっても、復調機能部8400としては直交成分の復調回路(つまり直交検波回路)が必要となる。例えば、図12(B−2)には、変調方式をBPSK方式とする場合に対しての、パス条件1を適用して受信側でMIMO処理する場合の各チャネルの受信信号の状態が示されている。図示のように、第1チャネルch1の成分は、本来(所望信号用)の所望波のI軸成分(Ch1_I)と第2チャネルch2による不要信号用の不要波のQ軸成分(Ch2_Q’)の合成としてアンテナ236_1が受信することになる。第2チャネルch2の成分は、本来(所望信号用)の所望波のI軸成分(Ch2_I)と第1チャネルch1による不要信号用の不要波のQ軸成分(Ch1_Q’)の合成としてアンテナ236_2が受信することになる。図からも分かるように、所望波と不要波が直交しているので、復調機能部8400としては直交検波回路が必要となる。受信側でのMIMO処理では、所望信号に対して直交成分として現われる不要波の成分をキャンセルするので、復調機能部8400としては直交検波回路が必要である。
図12(C)に示すように、「Δd=(n/2)λc(nは1以上の正の整数)」を満たす場合(パス条件2と称する)、パス差Δdは位相的にはπの整数倍の関係となり、虚数項はゼロとなるため実数項(Re”)のみとなり、逆行列H-1の各要素も実数項(Re”’)のみとなる(図12(C−1))。パス条件2の関係からズレると「実数項+虚数項」となるが、このパス条件の関係に近いときには、実数項成分に対する虚数項成分が遙かに小さく、実質的に実数項のみとして扱ってもよい。つまり、Δd=(n/2)λcを完全に満たすことが最適であるが、この関係から多少ずれていても構わない。本明細書で「実数項のみ」とは、このような多少のズレがある場合も含むものとする。ここで、詳細には、nが偶数の場合は、実数項は「+1」となるので、不要波は所望波に対して、パス差で位相が2πだけ回る(つまり同相・同極性となる)。このとき、「detH=1−(α・D)2=1−(α・1)2>1」であるからチャネル行列Hの逆行列H-1が存在し得る。MIMO処理では、「−α・D=−α」となるから、不要成分が所望成分に対して位相的には「−π」(つまり同相・逆極性)となるようにする。一方、nが奇数の場合は、実数項は「−1」となるので、不要波は所望波に対して、パス差で位相がπだけ回る(つまり同相・逆極性となる)。このとき、「detH=1−(α・D)2=1−(α・−1)2>1」であるからチャネル行列Hの逆行列H-1が存在し得る。MIMO処理では、「−α・D=α」となるから、不要成分が所望成分に対して位相的には「2π」(つまり同相・同極性)となるようにする。
何れにしても、1行1列と2行2列の所望波の要素は実数項であるし、1行2列と2行1列の不要波の要素も実数項のみである。そのため、MIMO処理量が削減できる。この場合、虚数項(直交成分)が存在しないので、本構成例を適用しない場合の変調方式が、例えばASK方式のように、元々は直交成分を伴わない変調のときであれば、復調機能部8400としては直交成分の復調回路(つまり直交検波回路)が不要になる。例えば、図12(C−2)には、本構成例を適用しない場合の変調方式をASK方式とする場合に対しての、パス条件2を適用して受信側でMIMO処理する場合の各チャネルの送信信号の状態が示されている。図示のように、第1チャネルch1の成分は、本来(所望信号用)の所望波のI軸成分(Ch1_I)と第2チャネルch2による不要信号用の不要波のI軸成分(Ch2_I’)の合成としてアンテナ236_1が受信することになる。第2チャネルch2の成分は、本来(所望信号用)の所望波のI軸成分(Ch2_I)と第1チャネルch1による不要信号用の不要波のI軸成分(Ch1_I’)の合成としてアンテナ236_2が受信することになる。図からも分かるように、受信側でのMIMO処理では、所望波に対して同相成分として現われる不要信号の成分をキャンセルすればよく、復調機能部8400としては直交検波回路が不要である。
送信側のアアンテナ136と受信側のアンテナ236との間における所望波のアンテナ間距離d1と不要波のアンテナ間距離d2の差が、伝送空間(この例では自由空間伝送路9B)の伝達特性を規定するチャネル行列H(やその逆行列H-1も)の不要波の各要素が、実質的に、実数項のみ又は虚数項のみで表わし得るように設定されているものとすればよい。このようなパス差Δdの設定値に基づく特徴に着目して、アンテナ配置を前記のパス条件1又はパス条件2を満たすようにすることで、チャネル行列の不要波の要素を虚数項のみ又は実数項のみにでき、MIMO処理部604における逆行列演算処理を簡略化できる。特に、実数項のみとなるパス条件2を満たすようにすることで、復調機能部8400が、直交検波回路を使用せずに構成でき構成を極めて簡易にできる。
[実施例5の作用効果]
ここで、各行列要素hi,jの値は、アンテナ136とアンテナ236との間における伝送空間(ミリ波信号伝送路9)の伝達特性に依存するが、「機器内又は機器間の無線伝送」であれば、通信環境特性は概ね不変であると考えてよいので、固定値を使用できる。そこで、クロストークを好適にキャンセルできる最適な各行列要素hi,jの値を予め調べておき、その値に基づく逆行列の行列要素(設定値の一例)を予め第2設定値処理部7200Eの第2設定値記憶部7230に保持しておく。つまり、この場合、送受信間の各アンテナ対の伝達関数を要素とするチャネル行列に基づいて行列演算を行なうための設定値は、チャネル行列の逆行列の行列要素が該当する。MIMO処理部604は、第2設定値記憶部7230に記憶されている設定値(各行列要素hi,jの値)を読み出して、その設定値に基づいてMIMO処理を行なう。こうすることで、受信側のMIMO処理部604にて、クロストークを好適にキャンセルできる。
図13は、実施例6を説明する図である。実施例6は、多チャネル化を図る際に、チャネル間の干渉対策としてMIMO処理を適用する点では実施例5と同様であるが、干渉対策の要求度合いを緩和する信号処理を送信側にて行なう点が実施例5と異なる。基本的には、図13に示すように、送信側において、MIMO処理部601を設けて、ベースバンド信号処理の側面から干渉対策をとることで、アンテナ間隔を狭くできるようにする。
MIMO処理部601は、MIMO処理部604は、送受信間の各アンテナ対の伝達関数を要素とするチャネル行列に基づいて行列演算を行なう行列演算処理部(伝達特性補正部)の一例である。具体的には、MIMO処理部601は、複数のアンテナ136のそれぞれと対応する複数の送信対象信号のそれぞれに対して、送信側のアンテナ136と受信側のアンテナ236との間におけるミリ波信号伝送路9(伝送空間)の伝達特性に基づく補正演算を行なう。伝達特性はチャネル行列で表わされ、補正演算としては、各チャネルの伝送対象信号に対して逆行列演算を行なうことになる。MIMO処理部601におけるMIMO処理は、各アンテナにおける送受間の直接波のみを対象とするMIMO処理である点に特徴がある。これらの点は、受信側に設けたMIMO処理部604の場合と同様である。ただし、MIMO処理部601の補正演算(逆行列演算)の本質的な意義は、伝達特性分を予め補正して送信することで、受信側では伝達特性の影響を受けることなく送信対象信号を受信できるようにすることである。アンテナ236で受信される不要信号の成分が完全に相殺され、信号成分はそれぞれ所望信号に基づく成分のみが復調機能部8400に入力される。
実施例6でも、好ましくはアンテナ配置を制約することで、チャネル行列の逆行列が得難くなることを防止する。その際には、MIMO処理で必要となる掛算器(増幅器の要素)と加算器の数を低減できるようにアンテナ配置(送信側及び受信側の各アンテナ間隔)を決められたものに設定し、それに応じた送信側でのMIMO処理にする。つまりMIMO処理数を低減できるようにアンテナ配置を決め、それに合わせた直接波のみを対象とする送信側でのMIMO処理にする。これらの関係によっては、変調機能部における直交変調の要否や、復調方法(注入同期方式にするか包絡線検波や自乗検波にするか)等が左右される。何れにしても、送信側にMIMO処理を適用することで、自由空間伝送路9Bとした場合の干渉対策の要請を緩和し、又、各チャネルの搬送周波数を共通化することで送信側においてベースバンドでMIMO処理を行ない、さらに、アンテナ配置を制約することでMIMO処理量(逆行列演算量)を削減する。
図13(A)に示した第1例は、N系統に対して、送信側が1チップ構成であり、受信側は復調機能部8400(DEMOD)を収容した半導体チップ203を系統別に使用する構成(1対Nの構成)である。第1例の構成を採る場合、送信側局部発振部8304を1系統のみ設け、残りの系統は、送信側局部発振部8304で生成された搬送信号そのものを使って周波数変換(変調)するとよい。図13(B)に示す第2例は、送信側が1チップ構成であり、又、受信側も1チップ構成の1対1の構成である。第2例の構成を採る場合、受信側が1チップ構成であることから、受信側信号生成部220内の復調機能部8400は、系統別に受信側局部発振部8404を備えることは必須でなく、受信側局部発振部8404を1系統のみ設け、残りの系統は、受信側局部発振部8404で生成された再生搬送信号そのものを使って同期検波で受信信号を復調するとよい。図13(C)に示す第3例は、受信側が1チップ構成であり、送信側は系統別のチップを使用する構成(N対1の構成)である。図13(D)に示す第4例は、送信側は系統別のチップを使用する構成であり、受信側も系統別のチップを使用する構成(N対Nの構成)である。第3例や第4例の場合、各系統の変調機能部8300(MOD)とパラレルシリアル変換部8114との間に、全系統に共有されるMIMO処理部601を設ける。
第1例〜第4例の何れにおいても、MIMO処理部601の動作を制御する第1設定値処理部7100Fが設けられる。実施例6の第1設定値処理部7100Fは、第1動作制御部7150(図示せず)として、MIMO処理部601の動作設定(詳しくはMIMO処理のマトリクス演算の係数(行列要素と対応する)の設定)を行なうMIMO係数DAC7157を備えている。第1設定値処理部7100Fは、第2の基本構成のものを採用しているが、第1の基本構成のように、第1入出力インタフェース部7170に代えて第1設定値決定部7110を備えてもよい。クロストークを好適にキャンセルできる最適なMIMO処理のパラメータ(後述する各行列要素の値)を予め調べておき、その値(設定値の一例)を予め第1設定値処理部7100Fの第1設定値記憶部7130に保持しておく。第1動作制御部7150は、第1設定値記憶部7130に記憶されている設定値(各行列要素の値)を読み出してMIMO処理部601に設定する。
以下、送信側のMIMO処理に着目して、具体的に説明する。なお、以下では特段の断りのない限り、説明を簡単にするため、第1通信装置100から第2通信装置200への片方向の通信で説明する。又、送信系のチップ構成としては、最適な形態として、M系統分の送信側信号生成部110(変調機能部8300を収容)を1つの半導体チップ103に収容する場合で示す。受信系に関しては、M系統分の受信側信号生成部220(復調機能部8400を収容)を各別の半導体チップ203に収容する場合で示す。つまり、M系統分の送信側信号生成部110を収容した1つの半導体チップ103を搭載している第1通信装置100から、1系統分の受信側信号生成部220を収容したM個の半導体チップ203を搭載した第2通信装置200への片方向の通信で説明する。
[送信側に適用するMIMO処理の概要]
図14〜図15は、送信側に適用するMIMO処理の概要を説明する図である。ここで、図14は、送信側に適用するMIMO処理の演算を説明する図である。図15は、送信側に適用するMIMO処理の演算手法の基本を説明する図である。
図14中において、空間分割多重における伝送チャネルをM本とするべく、アンテナ136及びアンテナ236をそれぞれM本にする。送信側の各アンテナ136からは、対向して配置された受信側のアンテナ236へミリ波信号が伝送される。図14中において、実線で示しているのは、アンテナ136_a(aは1〜Mの何れか)から、そのアンテナ136_aに対して対向配置されたアンテナ236_aへ直接に伝達される所望波である。点線で示しているのは、アンテナ136_aから、そのアンテナ136_aに対して対向配置されていない他のアンテナ236_b(bは1〜Mの何れかで、かつ、b≠a)へ直接に伝達される不要波(干渉波)である。所望波及び不要波の何れも、アンテナ136_aからアンテナ236_aとアンテナ236_bへ直接に伝達される直接波である。
図10(A)と図14(A)との比較から推測されるように、MIMO処理演算に適用されるチャネル行列Hは、実施例5と同様に、式(1−1)で示される。ただし、実施例6では、送信側でMIMO処理演算を行なうので、図14(B)に示すように、MIMO処理部601における送信側でのMIMO処理では、チャネル行列Hの逆行列H-1を送信対象信号s^(sハット)に掛ける。その結果、受信側では、送信対象信号s^(詳しくは、さらにノイズvも)が得られる。送信対象信号s^はMIMO処理部601に入力される信号である。これからも分かるように、送信側にMIMO処理を適用すれば、干渉波の影響を受けない送信対象信号s^を取得できる。この結果、空間分割多重により多重伝送を実現する場合において、ミリ波信号伝送路9を自由空間伝送路9Bとした場合でも、干渉対策の要求度合いを緩和でき、干渉対策が不要になる、又は、干渉対策を軽減することができる。
逆行列H-1に基づくMIMO処理部601での逆行列演算は、実施例6を適用しない場合に受信側のアンテナ236で自チャネルの伝送対象信号(所望信号)に基づく所望波とともに受信される他チャネルの伝送対象信号(不要信号)に基づく不要波の成分が相殺されるようにする処理となる。より詳しくは、不要信号に基づく不要波の成分と逆の成分を予め重畳して所望波として送信できるようにする処理となる。
図15には、送信側に適用するMIMO処理と搬送周波数の関係が示されている。第1通信装置100は、MIMO処理部601の後段に、変調機能部8300として、チャネル別に周波数混合部8302を備えている。この例では、周波数混合部8302は直交変調を行なうもので示しているが、このことは必須でない。そして、変調機能部8300は、全チャネルに共有される送信側局部発振部8304を1つ有している。送信側局部発振部8304で生成された搬送信号そのものを各チャネルの周波数混合部8302が使って変調を行なう。この構成は、送信側の半導体チップ103が1チップ構成であるので都合がよい。第2通信装置200は、周波数混合部8402と受信側局部発振部8404を有する変調機能部8300をチャネル別に備えている。この例では、周波数混合部8402は、送信側の直交変調と対応するように、直交検波を行なうもので示している。送信側が直交変調でなければ、周波数混合部8402は直交検波を行なうものでなくてもよい。このように、全チャネルに共有される送信側局部発振部8304を1つ設け、送信側局部発振部8304で生成された搬送信号そのものを各チャネルの周波数混合部8302が使って変調を行なうようにすると、各系統で搬送周波数の影響が同じになる。空間分割多重の基本的な利点を活かすべく全系統の搬送周波数を共通化することで、各系統で搬送周波数の影響が同じになるためベースバンドでMIMO処理が行なえる。
[実施例6の作用効果]
実施例5と同様に、各行列要素hi,jの値は、アンテナ136とアンテナ236との間におけるミリ波信号伝送路9の伝達特性に依存するが、「機器内又は機器間の無線伝送」であれば、通信環境特性は概ね不変であると考えてよいので、固定値を使用できる。そこで、クロストークを好適にキャンセルできる最適な各行列要素hi,jの値を予め調べておき、その値に基づく逆行列の行列要素(設定値の一例)を予め第1設定値記憶部7130に保持しておく。つまり、この場合、送受信間の各アンテナ対の伝達関数を要素とするチャネル行列に基づいて行列演算を行なうための設定値は、チャネル行列の逆行列の行列要素が該当する。MIMO処理部601は、第1設定値記憶部7130に記憶されている設定値(各行列要素hi,jの値)を読み出して、その設定値に基づいてMIMO処理を行なう。こうすることで、受信側でクロストークを好適にキャンセルできるように、送信側のMIMO処理部601にて予めベースバンド信号を補正しておくことができる。
[実施例5及び実施例6の変形例]
アンテナ対が指向性に依存した位相特性φaを持つ場合は、パス差Δd以外に、この位相特性φaの影響も考慮する必要がある。基本的には、位相特性φaの影響を補正して考えればよい。その際には例えば、位相特性φaの影響分を距離に換算して表し、その影響分を考慮した上でパス条件1やパス条件2を算出し直せばよい。
3チャネル(送受信のアンテナ対が3つ)以上になった場合でも、アンテナ配置の制約条件の考え方が2チャネルの場合に準じて適用できる。例えば、アンテナ対が3つ以上になった場合でも、パス差Δdをパス条件1を満たすようにすることで、アンテナ対が2つのときと同様に、チャネル行列とその逆行列は、実数項Re又は虚数項Imのみの成分となる。つまり、i=jの所望波の要素は実数項Reとなるし、i≠jの不要波の要素は虚数項Imとなる。又、アンテナ対が3つ以上になった場合でも、パス差Δdをパス条件2を満たすようにすることでアンテナ対が2つのときと同様に、チャネル行列とその逆行列は、実数項Reのみの成分となる。つまり、i=jの所望波の要素は実数項Reとなるし、i≠jの不要波の要素も実数項Reとなる。
一般にMチャネルになると、チャネル行列から推測されるように、パス条件1及びパス条件2の何れも、実数乗算は、QPSK等のような2軸変調では2・M2個必要になるし、ASK方式やBPSK方式等のような1軸変調ではM2個必要になる。このことは、アンテナ対が3つ以上の場合に、単純に、2つのときと同様の考えをそのまま適用していては、実数乗算の演算量がアンテナ対数の自乗で増えてしまうことを意味する。そこで、3チャネル以上の場合には、そのアンテナ配置の特徴に基づき、実数乗算数がチャネル数の自乗とならないように(実数乗算数の増加を抑えるように)する。具体的には、隣接するアンテナからの干渉波の影響が一番大きいという点と、その他のアンテナからの干渉波は比較的小さいという点に着目する。これにより、隣接するアンテナからの不要波(干渉波)を考慮してアンテナ間隔を決めて、これを他のアンテナにも適用する。これにより、全体としての実数乗算量の低減を図る。
例えば、パス条件1を適用する場合は、両端を除く内側のチャネルでは、所望波のアンテナ136についての実数項と、その両側の不要波のアンテナ136についての虚数項のみを考えればよい。つまり、i番目のチャネルに着目したとき、i番目のアンテナ136_iからアンテナ236_iへの所望波と、i−1番目のアンテナ136_i-1からアンテナ236_iへの不要波及びi+1番目のアンテナ136_i+1からアンテナ236_iへの不要波についてのみ考えればよい。そのため、チャネル行列やその逆行列は、i行では、i列の所望波の要素は実数項であり、i−1列とi+1列の不要波の要素は虚数項であり、その他の不要波の要素はゼロとなる。
パス条件2を適用する場合は、両端を除く内側のチャネルでは、所望波のアンテナ136についての実数項と、その両側の不要波のアンテナ136についての実数項のみを考えればよい。つまり、i番目のチャネルに着目したとき、i番目のアンテナ136_iからアンテナ236_iへの所望波と、i−1番目のアンテナ136_i-1からアンテナ236_iへの不要波及びi+1番目のアンテナ136_i+1からアンテナ236_iへの不要波についてのみ考えればよい。そのため、チャネル行列やその逆行列は、i行では、i列の所望波の要素は実数項であり、i−1列とi+1列の不要波の要素も実数項であり、その他の不要波の要素はゼロとなる。
パス条件1及びパス条件2の何れも、両端のチャネルにおける実数乗算数は2つであり、両端のチャネルを除く内側のチャネルにおける実数乗算数は3つであり、本手法を適用しない場合よりもMIMO処理量を削減できる。つまり、Mチャネルの場合(Mは3以上の整数)、パス条件1及びパス条件2の何れも、実数乗算は、QPSK等のような2軸変調では2・{2・2+(M−2)・3}個となるし、ASK方式やBPSK方式等のような1軸変調では{2・2+(M−2)・3}個となる。このことは、アンテナ対が3つ以上の場合に、2つのときと同様の考えを単純にそのまま適用した場合に対して、実数乗算の演算量を低減できることを意味する。
実施例5や実施例6で説明した事項は、送信側のアンテナ136と受信側のアンテナ236が2次元状に配置される場合への適用事例であった。しかしながら、実施例5や実施例6の手法は、送受信のアンテナが2次元状に配置される場合に限らず、送受信のアンテナが3次元状に配置される場合にも同様に適用できる。3次元空間的に送信側の半導体チップ103から受信側の対向配置されているアンテナ間での所望波と、対向配置されていないアンテナ間での不要波について、前述の2次元配置の場合と同様に考えればよい。そして、3次元配置の場合においても、所望波と不要波のパス差Δdを前述のパス条件1又はパス条件2となるようにすることで、それぞれ前述と同様の作用効果が得られる。
実施例5や実施例6では、好ましい態様として、MIMO方式による空間分割多重方式における干渉対策の要求度合いを緩和するための信号処理を受信側あるいは送信側にて行なうことを前提とし、さらにチャネル行列の行列要素hi,jの値を固定値として扱い、MIMO処理の逆行列演算を行なうことを説明したが、これには限定されない。MIMO方式による空間分割多重方式におけるクロストークのキャンセル量を調整(補正)する方式の何れにも、パラメータを固定値として扱う技術を同様に適用できる。例えば、特開2009−272823号公報、特開2009−272822号公報、特開2008−124533号公報等には、アンテナ重み係数行列を演算する手法が開示されているが、このアンテナ重み係数行列の行列要素の値を固定値として扱い、重み行列演算(重み係数行列に基づく重み付け処理)を行なってもよい。この場合、送受信間の各アンテナ対の伝達関数を要素とするチャネル行列に基づいて行列演算を行なうための設定値は、アンテナ重み係数行列の行列要素が該当する。
図16〜図17は、実施例7を説明する図である。ここでは、特に、変調機能部及び復調機能部の第3例として説明する。ここで、図16は、送信側に設けられる第3例の変調機能部8300C(変調部115と周波数変換部116)とその周辺回路で構成される送信側信号生成部8110(送信側の通信部)の基本構成例を説明する図である。図17は、受信側に設けられる第3例の復調機能部8400C(周波数変換部225と復調部226)とその周辺回路で構成される受信側信号生成部8220(受信側の通信部)の基本構成例を説明する図である。
実施例7(変調機能部及び復調機能部の第3例)は、インジェクションロック(注入同期)方式を適用する点に特徴がある。特に、後述の実施例8との相違点として、第2設定値処理部7200Aにより受信側局部発振部8404の自走周波数やインジェクションロック用の注入量を適正に設定する点に特徴がある。
インジェクションロック方式を適用するのは、以下の理由による。即ち、ミリ波帯を適用した無線伝送にする場合に、一般的な野外(屋外)で使用されているような無線方式(無線通信手法)を適用すると、搬送周波数に高い安定度が要求される。このことは、周波数安定度の高い回路構成の複雑な発振回路が必要となることを意味するし、全体としての装置構成も複雑になることを意味する。例えば、ppm(parts per million)オーダーの安定度の高い周波数の搬送信号を実現するために、外部の基準部品と周波数逓倍回路やPLL回路等を用いると回路規模が大きくなる。又、タンク回路(インダクタとキャパシタでなる共振回路)を含む発振回路の全体をシリコン集積回路で実現しようとした場合、実際の所は、Q値の高いタンク回路を形成することは困難でQ値の高いタンク回路を集積回路外に配置せざるを得ない。
しかしながら、比較的近距離に配置されている電子機器間や電子機器内での無線による高速信号伝送をより波長の短い周波数帯(例えばミリ波帯)で実現することを考えた場合、搬送周波数に高い安定度を求めることは賢明でないと思料される。むしろ、搬送周波数の安定度を緩和することで回路構成の簡易な発振回路を使用し、又、全体としての装置構成も簡易にすることを考えた方がよいと思料される。ただし、搬送周波数の安定度を単純に緩和したのでは、変復調方式にもよるが、周波数変動(送信回路で使用する搬送周波数と受信回路で使用する搬送周波数の差)が問題となり、適切な信号伝送ができない(適切に復調できない)ことが懸念される。
これに対して、インジェクションロック方式を適用すれば、機器間や機器(筐体)内で無線信号伝送を行なう場合に、変調用の搬送信号の周波数の安定度を緩和しても、受信側では適切に伝送対象信号を復調できる。搬送信号の周波数の安定度を緩和してもよいので、回路構成の簡易な発振回路を使用でき、又、全体としての装置構成も簡易にできる。搬送信号の周波数の安定度を緩和してもよいので、タンク回路を含む発振回路の全体(や周波数変換部も)を同一の半導体基板上に形成できる。タンク回路内蔵の1チップ発振回路(半導体集積回路)やタンク回路内蔵の1チップ通信回路(半導体集積回路)が実現される。以下具体的に説明する。
実施例1(変調機能部及び復調機能部の第1例)における問題に対する対処として、第3例の復調機能部8400Cは、注入同期(インジェクションロック)方式を採用する。搬送波の同期手段として、注入同期方式を用いることで、簡素かつ低消費電力な回路を構成できる。注入同期方式にする場合には、好ましくは、受信側での注入同期がし易くなるように変調対象信号に対して予め適正な補正処理を施しておく。典型的には、変調対象信号に対して直流近傍成分を抑圧してから変調する、つまり、DC(直流)付近の低域成分を抑圧(カット)してから変調することで、搬送周波数fc近傍の変調信号成分ができるだけ少なくなるようにし、受信側での注入同期がし易くなるようにしておく。デジタル方式の場合、例えば同符号の連続によってDC成分が発生してしまうことを解消するべくDCフリー符号化を行なう。
又、受信側での注入同期の基準として使用するために、変調に使用した搬送信号と対応した基準搬送波周波数を、ミリ波帯に変調された伝送信号(被変調信号)に加えて送出することが望ましい。基準搬送信号は、送信側局部発振部8304から出力される変調に使用した搬送信号と対応する周波数と位相(さらに好ましくは振幅も)が常に一定(不変)の信号であり、典型的には変調に使用した搬送信号そのものであるが、少なくとも搬送信号に同期していればよく、これに限定されない。例えば、変調に使用した搬送信号と同期した別周波数の信号(例えば高調波信号)や同一周波数ではあるが別位相の信号(例えば変調に使用した搬送信号と直交する直交搬送信号)でもよい。
変調方式や変調回路によっては、変調回路の出力信号そのものに搬送信号が含まれる場合(例えば標準的な振幅変調やASK等)と、搬送波を抑圧する場合(搬送波抑圧方式の振幅変調やASKやPSK等)がある。よって、送信側からミリ波帯に変調された信号と合わせて基準搬送信号も送出するための回路構成は、基準搬送信号の種類(変調に使用した搬送信号そのものを基準搬送信号として使用するか否か)や変調方式や変調回路に応じた回路構成を採ることになる。
[変調機能部:第3例]
図16には、変調機能部8300Cとその周辺回路の第3例の構成例が示されている。変調機能部8300C(周波数混合部8302)の前段に変調対象信号処理部8301が設けられている。図16に示す各例は、デジタル方式の場合に対応した構成例であり、変調対象信号処理部8301は、パラレルシリアル変換部8114から供給されたデータに対して、同符号の連続によってDC成分が発生し得ることを解消するべく、8−9変換符号化(8B/9B符号化)や8−10変換符号化(8B/10B符号化)やスクランブル処理等のDCフリー符号化を行なう。図示しないが、アナログ変調方式では変調対象信号に対してハイパスフィルタ処理(又はバンドパスフィルタ処理)をしておくのがよい。
ここで、図16(A)に示す基本構成1は、基準搬送信号処理部8306と信号合成部8308を設けて、変調回路(第1の周波数変換部)の出力信号(伝送信号)と基準搬送信号を合成(混合)するという操作を行なう。基準搬送信号の種類や変調方式や変調回路に左右されない万能な方式である。ただし、基準搬送信号の位相によっては、合成された基準搬送信号が受信側での復調時に直流オフセット成分として検出されベースバンド信号の再現性に影響を与えることもある。その場合は、受信側で、その直流成分を抑制する対処をとるようにする。換言すると、復調時に直流オフセット成分を除去しなくても良い位相関係の基準搬送信号にするのがよい。
基準搬送信号処理部8306では、必要に応じて送信側局部発振部8304から供給された変調搬送信号に対して位相や振幅を調整し、その出力信号を基準搬送信号として信号合成部8308に供給する。例えば、本質的には周波数混合部8302の出力信号そのものには周波数や位相が常に一定の搬送信号を含まない方式(周波数や位相を変調する方式)の場合や、変調に使用した搬送信号の高調波信号や直交搬送信号を基準搬送信号として使用する場合に、この基本構成1が採用される。
この場合、変調に使用した搬送信号の高調波信号や直交搬送信号を基準搬送信号に使用することができるし、伝送信号と基準搬送信号の振幅や位相を各別に調整できる。すなわち、増幅部8117では伝送信号の振幅に着目した利得調整を行ない、このときに同時に基準搬送信号の振幅も調整されるが、注入同期との関係で好ましい振幅となるように基準搬送信号処理部8306で基準搬送信号の振幅のみを調整できる。
基本構成1では、信号合成部8308を設けて伝送信号と基準搬送信号を合成しているが、このことは必須ではない。図16(B)に示す基本構成2のように、伝送信号と基準搬送信号を各別のアンテナ8136_1,8136_2で、好ましくは干渉を起さないように各別のミリ波信号伝送路9で受信側に送ってもよい。基本構成2では、振幅も常に一定の基準搬送信号を受信側に送出でき、注入同期の取り易さの観点では最適の方式である。
基本構成1と基本構成2の場合、変調に使用した搬送信号(換言すると送出される伝送信号)と基準搬送信号の振幅や位相を各別に調整できる利点がある。したがって、伝送対象情報を載せる変調軸と注入同期に使用される基準搬送信号の軸(基準搬送軸)を、同相ではなく、異なる位相にして復調出力に直流オフセットが発生しないようにするのに好適な構成である。
周波数混合部8302の出力信号そのものに周波数や位相が常に一定の搬送信号が含まれ得る場合には、基準搬送信号処理部8306や信号合成部8308を具備しない図16(C)に示す基本構成3を採用し得る。周波数混合部8302によりミリ波帯に変調された伝送信号のみを受信側に送出し、伝送信号に含まれる搬送信号を基準搬送信号として扱えばよく、周波数混合部8302の出力信号にさらに別の基準搬送信号を加えて受信側に送る必要はない。例えば、振幅を変調する方式(例えばASK方式)の場合に、基本構成3が採用され得る。この場合、好ましくは、DCフリー処理を行なっておく。
ただし、振幅変調やASKにおいても、周波数混合部8302を積極的に搬送波抑圧方式の回路(例えば平衡変調回路や二重平衡変調回路)にして、基本構成1や基本構成2のように、その出力信号(伝送信号)と合わせて基準搬送信号も送るようにしてもよい。
基本構成1〜基本構成3の何れも、受信側での注入同期検出結果に基づく情報を受信側から受け取り、変調搬送信号の周波数やミリ波(特に受信側で注入信号に使用されるもの:例えば基準搬送信号や伝送信号)や基準搬送信号の位相を調整する手法を採ることができる。受信側から送信側への情報の伝送はミリ波で行なうことは必須ではなく、有線・無線を問わず任意の方式でよい。インジェクションロックを好適に実現するための最適な情報が受信側から通知されるので、例えば第1設定値処理部7100Gの第1設定値決定部7110はそれを取り込み、この情報に基づく最適な設定値を決定し、その決定した値を予め第1設定値記憶部7130に保持しておく。第1動作制御部7150は、第1設定値記憶部7130に記憶されている設定値を読み出して、その設定値に基づいて送信側局部発振部8304、基準搬送信号処理部8306、増幅部8117等を制御する。こうすることで、受信側にてインジェクションロックを好適に実現できるように、送信側にて、搬送信号レベル等を適正レベルに調整しておくことができる。第1設定値処理部7100Gを設けずに、後述する受信側の第2設定値処理部7200Gが直接に送信側の各機能部(制御対象となる機能部の一部又は全部)を制御する構成にしてもよい。
基本構成1〜基本構成3の何れも、送信側局部発振部8304を制御することで変調搬送信号(や基準搬送信号)の周波数が調整される。基本構成1と基本構成2では、基準搬送信号処理部8306や増幅部8117を制御することで基準搬送信号の振幅や位相が調整される。なお、基本構成1では、送信電力を調整する増幅部8117により基準搬送信号の振幅を調整してもよいが、その場合は伝送信号の振幅も一緒に調整されてしまう難点がある。
振幅を変調する方式(アナログの振幅変調やデジタルのASK)に好適な基本構成3では、変調対象信号に対する直流成分を調整するか、変調度(変調率)を制御することで、伝送信号中の搬送周波数成分(基準搬送信号の振幅に相当)が調整される。例えば、伝送対象信号に直流成分を加えた信号を変調する場合を考える。この場合において、変調度を一定にする場合、直流成分を制御することで基準搬送信号の振幅が調整される。又、直流成分を一定にする場合、変調度を制御することで基準搬送信号の振幅が調整される。
ただしこの場合、信号合成部8308を使用するまでもなく、周波数混合部8302から出力される伝送信号のみを受信側に送出するだけで、自動的に、搬送信号を伝送対象信号で変調した伝送信号と変調に使用した搬送信号とが混合された信号となって送出される。必然的に、伝送信号の伝送対象信号を載せる変調軸と同じ軸(変調軸と同相で)に基準搬送信号が載ることになる。受信側では、伝送信号中の搬送周波数成分が基準搬送信号として注入同期に使用されることになる。なお、位相平面で考えたとき、伝送対象情報を載せる変調軸と注入同期に使用される搬送周波数成分(基準搬送信号)の軸が同相となり、復調出力には搬送周波数成分(基準搬送信号)に起因する直流オフセットが発生する。
図示しないが、位相や周波数を変調する方式の場合、変調機能部8300(例えば直交変調を使用する)でミリ波帯に変調(周波数変換)した変調信号のみを送出する構成にしてもよい。ただし、受信側で注入同期がとれるか否かは、注入レベル(注入同期方式の発振回路に入力される基準搬送信号の振幅レベル)や変調方式やデータレートや搬送周波数等も関係し、適用範囲に制限がある。
[復調機能部:第3例]
図17には、復調機能部8400Cとその周辺回路の第3例の構成例が示されている。第3例の復調機能部8400Cは、受信側局部発振部8404を備え、注入信号を受信側局部発振部8404に供給することで、送信側で変調に使用した搬送信号に対応した出力信号を取得する。典型的には送信側で使用した搬送信号に同期した発振出力信号を取得する。そして、受信したミリ波伝送信号と受信側局部発振部8404の出力信号に基づく復調用の搬送信号(再生搬送信号)を周波数混合部8402で乗算する(同期検波する)ことで同期検波信号を取得する。この同期検波信号はフィルタ処理部8410で高域成分の除去が行なわれることで送信側から送られてきた入力信号の波形(ベースバンド信号)が得られる。以下、第1例と同様である。
周波数混合部8402は、同期検波により周波数変換(ダウンコンバート・復調)を行なうことで、例えばビット誤り率特性が優れる、直交検波に発展させることで位相変調や周波数変調を適用できる等の利点が得られる。
受信側局部発振部8404の出力信号に基づく再生搬送信号を周波数混合部8402に供給して復調するに当たっては、位相ずれを考慮する必要があり、同期検波系において位相調整回路を設けることが肝要となる。例えば、受信した伝送信号と受信側局部発振部8404で注入同期により出力される発振出力信号には、位相差があるからである。
この例では、その位相調整回路の機能部(位相調整部)だけでなく注入振幅を調整する機能部(振幅調整部)も持つ位相振幅調整部8430を復調機能部8400Cに設けている。位相調整部は、受信側局部発振部8404への注入信号、受信側局部発振部8404の出力信号の何れに対して設けてもよく、その両方に適用してもよい。受信側局部発振部8404と位相振幅調整部8430で、変調搬送信号と同期した復調搬送信号を生成して周波数混合部8402に供給する復調側(第2)の搬送信号生成部として機能する搬送波再生部8403が構成される。
図中に破線で示すように、周波数混合部8402の後段には、伝送信号に合成された基準搬送信号の位相に応じて(具体的には変調信号と基準搬送信号が同相時)、同期検波信号に含まれ得る直流オフセット成分を除去する直流成分抑制部8407を設ける。直流成分抑制部8407は、周波数混合部8402から出力される同期検波信号に含まれる不要な直流成分(直流オフセット成分)を抑制する。例えば、変調信号と合わせて基準搬送信号も送信側から受信側に伝送する場合、変調信号と基準搬送信号の位相関係によっては、同期検波信号に直流オフセット成分が大きく発生する場合がある。その直流オフセット成分を除去するのに直流成分抑制部8407が機能する。
受信側局部発振部8404に注入信号を供給するに当たっては、図17(A)に示す基本構成1のように、受信したミリ波信号を注入信号として受信側局部発振部8404に供給してもよい。送信側で予め、変調対象信号に対して低域成分を抑圧(DCフリー符号化等を)してから変調することで、搬送周波数近傍に変調信号成分が存在しないようにしておけば基本構成1でも差し支えない。
図17(B)に示す基本構成2のように、周波数分離部8401を設け、受信したミリ波信号から伝送信号と基準搬送信号を周波数分離し、分離した基準搬送信号成分を注入信号として受信側局部発振部8404に供給してもよい。注入同期に不要な周波数成分を予め抑制してから供給するので、注入同期が取り易くなる。
図17(C)に示す基本構成3は、送信側が図16(B)に示す基本構成2を採っている場合に対応する。伝送信号と基準搬送信号を各別のアンテナ8236_1,8236_2で、好ましくは干渉を起さないように各別のミリ波信号伝送路9で受信する方式である。受信側の基本構成3では、振幅も常に一定の基準搬送信号を受信側局部発振部8404に供給でき、注入同期の取り易さの観点では最適の方式である。
アンテナ8236で受信されたミリ波信号は図示を割愛した分配器(分波器)で周波数混合部8402と受信側局部発振部8404に供給される。受信側局部発振部8404は、注入同期が機能することで、送信側で変調に使用した搬送信号に同期した再生搬送信号を出力する。
受信側で注入同期がとれる(送信側で変調に使用した搬送信号に同期した再生搬送信号を取得できる)か否かは、注入レベル(注入同期方式の発振回路に入力される基準搬送信号の振幅レベル)や変調方式やデータレートや搬送周波数等も関係する。又、伝送信号は注入同期可能な帯域内の成分を減らしておくことが肝要であり、そのためには送信側でDCフリー符号化をしておくことで、伝送信号の中心(平均的な)周波数が搬送周波数に概ね等しく、又、中心(平均的な)位相が概ねゼロ(位相平面上の原点)に等しくなるようにするのが望ましい。
図示しないが、送信側が位相や周波数を変調する方式の場合、構成としては基本構成1と同様のものを採用できる。ただし、復調機能部8400の構成は、実際には、直交検波回路等位相変調や周波数変調に対応した復調回路とされる。
基本構成1〜基本構成3の何れにおいても、注入電圧Viや自走発振周波数foを制御することでロックレンジを制御する、換言すると、注入同期がとれるように、注入電圧Viや自走発振周波数foを調整することが肝要となる。例えば、周波数混合部8402の後段の信号(図の例では直流成分抑制部8407の前段の信号)に基づいて処理を行なう注入同期制御部8440を設ける。注入同期制御部8440は、搬送波再生部8403(受信側局部発振部8404)の注入同期状態を示す情報を検出する注入同期検出部の機能を持つ。本実施例では、注入同期制御部8440を、必要に応じて、第2設定値処理部7200Gで構成することもある。この点は後で詳しく説明する。
周波数混合部8402で取得された同期検波信号(ベースバンド信号)に基づき注入同期制御部8440にて注入同期の状態を判定し、その判定結果に基づいて、注入同期がとれるように、調整対象の各部を制御する。その際には、受信側で対処する手法と、図中に破線で示すように、送信側に制御に資する情報(制御情報のみに限らず制御情報の元となる検知信号等)を供給して送信側で対処する手法の何れか一方又はその併用を採り得る。何れの場合も、受信側局部発振部8404で生成される復調用の搬送信号が、送信側局部発振部8304で生成された変調用の搬送信号と同期するように同期調整を行なう注入同期調整部を設ける。例えば、基準搬送信号処理部8306や注入同期制御部8440が注入同期調整部の機能を担当する。受信側で対処する手法は、ミリ波信号(特に基準搬送信号成分)をある程度の強度で伝送しておかないと受信側で注入同期がとれないという事態に陥るので、消費電力や干渉耐性の面で難点があるが、受信側だけで対処できる利点がある。これに対して、送信側で対処する手法は、受信側から送信側への情報の伝送が必要になるものの、受信側で注入同期がとれる最低限の電力でミリ波信号を伝送でき消費電力を低減できる、干渉耐性が向上する等の利点がある。
筐体(機器)内信号伝送や機器間信号伝送において注入同期方式を適用することにより、次のような利点が得られる。送信側の送信側局部発振部8304は、変調に使用する搬送信号の周波数の安定度の要求仕様を緩めることができる。注入同期する側の受信側局部発振部8404は、送信側の周波数変動に追従できるような低いQ値であることが必要である。詳細説明は割愛するが、注入同期方式では、Q値がロックレンジに影響を与え、Q値が低い方がロックレンジが広くなる。このことは、タンク回路(インダクタンス成分とキャパシタンス成分)を含む受信側局部発振部8404の全体をCMOS上に形成する場合に都合がよい。受信側では、受信側局部発振部8404はQ値の低いものでもよいが、この点は送信側の送信側局部発振部8304についても同様であり、送信側局部発振部8304は周波数安定度が低くてもよく、Q値の低いものでもよい。
CMOSは微細化が今後さらに進み、その動作周波数はさらに上昇する。より広帯域で小型の伝送装置を実現するには、高い搬送周波を使うことが望まれる。本例の注入同期方式は、発振周波数安定度についての要求仕様を緩めることができるため、より高い周波数の搬送信号を容易に用いることができる。高い周波数ではあるが周波数安定度が低くてもよい(換言するとQ値の低いものでもよい)ということは、高い周波数で安定度も高い搬送信号を実現するために、高い安定度の周波数逓倍回路やキャリア同期のためのPLL回路等を使用することが不要で、より高い搬送周波数でも、小さな回路規模で簡潔に通信機能を実現し得る。受信側局部発振部8404により送信側で使用した搬送信号に同期した再生搬送信号を取得して周波数混合部8402に供給し同期検波を行なうので周波数混合部8402の前段に波長選択用のバンドパスフィルタを設けなくてもよい。受信周波数の選択動作は、事実上、送受信の局部発振回路を完全に同期させる(注入同期がとれるようにする)制御を行なえばよく受信周波数の選択が容易である。ミリ波帯であれば注入同期に要する時間も低い周波数比べて短くて済み、受信周波数の選択動作を短時間で済ませることができる。
送受信の局部発振回路が完全に同期するため、送信側の搬送周波数の変動成分が打ち消される。後述する本実施例の周波数シフト方式では、位相ずれに弱くなるが、注入同期方式を適用することで、その難点が解消される。注入同期を適用すれば、同期検波との併用により、波長選択用のバンドパスフィルタを受信側で使用しなくても、多チャンネル化や全二重の双方向化を行なう場合等のように複数の送受信ペアが同時に独立な伝送をする場合でも干渉の問題の影響を受け難くなる。
図18は、位相振幅調整部8406の構成例を示す図である。ここでは、伝送情報と基準搬送信号は直交関係にあるものとする。位相振幅調整部8406としては、図18(A)に示す第1例のように位相調整のみ行なう構成と、図18(B)に示す第2例のように位相と振幅の両方を調整する構成の何れをも採り得る。位相と振幅の両方を調整する場合は受信側局部発振部8404の注入側で行なう場合と発振出力側で行なう場合の何れをも採り得る。図18(C)に示す第3例のように注入同期を適正に機能させるか否かを調整するためには、受信側局部発振部8404の注入側で注入振幅を調整してもよい。
図19は、注入同期方式を適用する送信器側の構成例の第1例を説明する図である。図20は、注入同期方式を適用する受信器側の構成例の第1例を説明する図である。第1例は、受信側で注入同期がとれるように制御する方式を適用する態様である。
図19には、第1例の送信側信号生成部8110(送信側信号生成部110と対応)の構成が示されている。送信側信号生成部8110は、図示しないパラレルシリアル変換部8114と変調機能部8300の間に、エンコード部8322、マルチプレクサ部8324、波形整形部8326を備える。これらの機能部を全て備えることは必須ではなく、それらの機能を必要とする場合に設ければよい。
送信側信号生成部8110は、各機能部を制御する注入同期制御部8340を備える。
本構成の注入同期制御部8340は、第1設定値処理部7100Gの構成を採用しており、第1設定値決定部7110は予めインジェクションロックに好適な設定値を決定し第1設定値記憶部7130に記憶する。第1動作制御部7150の一例であるコントローラ部8346は、第1設定値記憶部7130に記憶されている設定値に基づいて、エンコードやマルチプレクスの設定、波形整形の設定、変調モードの設定、発振周波数の設定、基準搬送信号の位相や振幅の設定、増幅部8117の利得及び周波数特性の設定、アンテナの特性の設定、等を行なう。各設定情報は対応する機能部へ供給される。注入同期制御部8340は、第1設定値処理部7100Gとして第1の基本構成のものを採用しているが、第2の基本構成のように、第1設定値決定部7110に代えて第1入出力インタフェース部7170を備えてもよい。
エンコード部8322は、コントローラ部8346からのエンコード(Encode)パターンの設定情報に基づいて、図示しないパラレルシリアル変換部8114によりシリアル化されたデータに対してエラー訂正等のコーディング処理を行なう。このとき、エンコード部8322は、変調対象信号処理部8301の機能として、8−9変換符号や8−10変換符号等のDCフリー符号化を適用して、搬送周波数近傍に変調信号成分が存在しないようにし、受信側での注入同期がし易くなるようにしておく。
マルチプレクサ部8324は、データをパケット化する。受信器側の注入同期検出部が既知パターンの相関で注入同期の検出を行なう構成の場合は、マルチプレクサ部8324は、コントローラ部8346からの同期検出用パケットの設定情報に基づいて、既知の信号波形や既知のデータパターン(例えば擬似ランダム信号:PN信号)を定期的に挿入しておく。
波形整形部8326は、コントローラ部8346からの波形整形の設定情報に基づいて、周波数特性補正、プリエンファシス、帯域制限等の波形整形処理を行なう。
送信側信号生成部8110は、周波数混合部8302(変調回路)と送信側局部発振部8304(送信側発振部)を有する変調機能部8300を備える。又、送信側信号生成部8110Aは、変調機能部8300の他に、位相振幅調整回路8307を有する基準搬送信号処理部8306と信号合成部8308を備える。この例では、基準搬送信号処理部8306は、送信側局部発振部8304から出力された搬送信号そのものを基準搬送信号とし、その基準搬送信号を位相振幅調整回路8307により振幅と位相を調整して信号合成部8308に供給する。
ここで、図19に示す構成では、送信側局部発振部8304は、CMOSチップ上のタンク回路を用いてCMOSチップ上で変調に用いる搬送信号を生成する。図示しないが、第1通信装置100に、基準として使えるクロック信号が存在する場合は、変調機能部8300は、送信側局部発振部8304の前段に周波数逓倍部8303を備えるようにしてもよい。周波数逓倍部8303は、図示しないクロック信号生成部から供給される「基準として使えるクロック信号」を逓倍し、その逓倍信号を送信側局部発振部8304に供給する。この場合、送信側局部発振部8304は、同期発振回路として機能し、逓倍信号に同期して、変調に用いる搬送信号を生成する。
周波数混合部8302は、送信側局部発振部8304で生成された搬送信号を、波形整形部8326からの処理済入力信号で変調して信号合成部8308に供給する。位相振幅調整回路8307は、コントローラ部8346からの位相・振幅の設定情報に基づいて、送信する基準搬送信号の位相と振幅を設定する。
信号合成部8308は、アンテナ8136とアンテナ8236がそれぞれ1つの場合に、ミリ波帯に変調された変調信号と合わせて基準搬送信号を受信側に送るために設けられている。周波数混合部8302で生成された変調信号と基準搬送信号処理部8306で生成された基準搬送信号を各別のアンテナで伝送する構成にする場合には信号合成部8308は不要である。
信号合成部8308は、ミリ波帯に変調された信号と合わせて基準搬送信号も受信側に送出する場合に、周波数混合部8302によりミリ波帯に変調された変調信号と位相振幅調整回路8307からの基準搬送信号を合成処理してから増幅部8117に渡す。周波数混合部8302によりミリ波帯に変調された変調信号のみを受信側に送出する場合には、信号合成部8308は、合成処理を行なわずに、周波数混合部8302によりミリ波帯に変調された変調信号のみを増幅部8117に渡す。増幅部8117は、信号合成部8308から受け取ったミリ波信号に対して、必要に応じて送信出力の振幅や周波数特性を調整してアンテナ8136に供給する。
前述の説明から理解されるように、ミリ波帯に変調された信号と合わせて基準搬送信号も受信側に送出する場合に、信号合成部8308を機能させるか否かは変調方式や周波数混合部8302の回路構成にも関係する。変調方式や周波数混合部8302の回路構成によっては信号合成部8308を機能させなくてもミリ波帯に変調された信号と合わせて基準搬送信号も受信側に送出することは可能である。
振幅変調やASKにおいて周波数混合部8302を積極的に搬送波抑圧方式の変調回路にして、その出力と合わせて送信側局部発振部8304で生成された基準搬送信号も送信してもよい。この場合、変調に使用した搬送信号の高調波を基準搬送信号に使用することができるし、変調信号と基準搬送信号の振幅を各別に調整できる。すなわち、増幅部8117では変調信号の振幅に着目した利得調整を行ない、このときに同時に基準搬送信号の振幅も調整されるが、注入同期との関係で好ましい振幅となるように位相振幅調整回路8307で基準搬送信号の振幅のみを調整するようにすることができる。
図20には、受信側信号生成部8220(受信側信号生成部220と対応)の構成が示されている。復調機能部8400、直流成分抑制部8407、フィルタ処理部8410、クロック再生部8420については、既に述べたものと同様であり、ここではそれらの説明を割愛し、以下では、本構成に特有の事項に着目して説明する。
受信側信号生成部8220は、各機能部を制御するコントローラ部8446(第2動作制御部7250の一例である)を備える。又、受信側信号生成部8220は、復調機能部8400の後段に、直流成分抑制部8407と注入同期検出部8442(第2設定値決定部7210の一例)と第2設定値記憶部7230とを備える。コントローラ部8446は、増幅部8224の利得及び周波数特性の設定、受信した基準搬送信号の位相や振幅の設定、発振周波数の設定、変調モードの設定、フィルタ及び等化の設定、コーディング及びマルチプレクスの設定等の機能を持つ。各設定情報は対応する機能部へ供給される。
受信側局部発振部8404への注入信号側に(例えば位相振幅調整部8406の前段に)、基準搬送信号成分のみを抽出する回路(バンドパスフィルタ回路等)を配置してもよい。この場合、受信したミリ波信号から変調信号成分と基準搬送信号成分が分離され、基準搬送信号成分のみが受信側局部発振部8404に供給されるようになり注入同期がとり易くなる。
位相振幅調整部8406は、コントローラ部8446からの位相・振幅の設定情報に基づいて、受信した基準搬送信号の位相と振幅を設定する。図では、受信側局部発振部8404への注入信号入力端側に位相振幅調整部8406を配置する構成で示しているが、受信側局部発振部8404と周波数混合部8402の信号系路上に位相振幅調整部8406を配置する構成にしてもよいし、その両者を併用する構成にしてもよい。
コントローラ部8446は、注入同期検出部8442が検出した注入同期の状態を示す情報に基づき、受信側局部発振部8404で生成される復調搬送信号が、変調搬送信号と同期するように同期調整を行なう注入同期調整部の機能部を備えている。注入同期検出部8442とコントローラ部8446の注入同期調整に関わる機能部(注入同期調整部)で注入同期制御部8440が構成される。
ここで、本構成の注入同期制御部8440は、第2設定値処理部7200Gの構成を採用しており、第2設定値決定部7210の一例である注入同期検出部8442は、検出した注入同期の状態を示す情報(検出結果)及びこの情報(検出結果)に基づく設定値を第2設定値記憶部7230に記憶する。第2動作制御部7250の一例であるコントローラ部8446は、第2設定値記憶部7230から読み出した設定値に基づいて制御対象の各機能部(この例では、増幅部224、周波数変換部225、復調部226等)を動作させる。つまり、注入同期検出部8442は、周波数混合部8402で取得されたベースバンド信号に基づき注入同期の状態を判定し、その判定結果が第2設定値記憶部7230を介してコントローラ部8446に通知される。「注入同期の状態」とは、受信側局部発振部8404から出力される出力信号(発振回路出力)が送信側の基準搬送信号に同期したか否かである。発振回路出力と送信側の基準搬送信号が同期したことを「注入同期がとれた」とも称する。
受信側信号生成部8220は、注入同期がとれるように、送信側局部発振部8304の自走発振周波数、受信側局部発振部8404への注入信号の振幅(注入振幅)や位相(注入位相)の少なくとも1つを制御する。何れを制御するかは、装置構成に依存し、必ずしもその全ての要素を制御しなければならないというものではない。例えば、コントローラ部8446は、注入同期がとれるように、注入同期検出部8442の検出結果と連動して、受信側局部発振部8404の自走発振周波数を制御し、位相振幅調整部8406を介して受信側局部発振部8404への注入振幅と注入位相を制御する。
例えば、先ず、送信側からミリ波信号伝送路9を介して送られたミリ波信号(変調信号や基準搬送信号)はアンテナ8236を経て増幅部8224で増幅される。増幅されたミリ波信号の一部は、位相振幅調整部8406で振幅と位相が調整された後に受信側局部発振部8404に注入される。周波数混合部8402では、増幅部8224からのミリ波信号を受信側局部発振部8404からの出力信号(再生基準搬送信号)でベースバンド信号へ周波数変換する。変換されたベースバンド信号の一部は注入同期検出部8442に入力され、受信側局部発振部8404が送信側の基準搬送信号に同期したか否かを判断するための情報が注入同期検出部8442により取得されコントローラ部8446に通知される。
コントローラ部8446は、注入同期検出部8442からの「注入同期の状態」の情報(注入同期判定情報と称する)に基づいて、同期したかどうかの判定を、例えば次の2つの手法の何れか、又はそれらの併用で行なう。
1)注入同期検出部8442は、復元された波形と既知の信号波形や既知のデータパターンとの相関をとり、その相関結果を注入同期判定情報とする。コントローラ部8446は、強い相関が得られたとき同期したと判断する。
2)注入同期検出部8442は、復調されたベースバンド信号の直流成分を監視(モニタ)し、その監視結果を注入同期判定情報とする。コントローラ部8446は、直流成分が安定したとき、同期したと判断する。
前記の1)や2)の仕組みについては様々な手法を採り得るが、ここではその詳細については説明を割愛する。又、同期したかどうかの判定手法は、ここで示した1),2)の他にも考えられ、それらも本実施例に採用し得る。
コントローラ部8446は、注入同期がとれていないと判断した場合は、予め決められた手順に従い、送信側で変調に使用した搬送信号と受信側局部発振部8404から出力される信号(発振回路出力)の同期がとれるように(注入同期がとれるように)、受信側局部発振部8404への発振周波数の設定情報や位相振幅調整部8406への振幅及び位相の設定情報を変更する。この後、コントローラ部8446は、再度、注入同期状態を判定するという手順を良好な同期がとれるまで繰り返す。
受信側局部発振部8404の注入同期が正しく行なわれ周波数混合部8402で周波数変換(同期検波)されたベースバンド信号はフィルタ処理部8410へ供給される。フィルタ処理部8410には、低域通過フィルタ8412の他に等化器8414が設けられている。等化器8414は、例えば符号間干渉を低減させるため、受信した信号の高周波帯域に、低下した分の利得を加えるイコライザ(つまり波形等化)フィルタを有する。ベースバンド信号は低域通過フィルタ8412で高域成分が除去され、等化器8414により高域成分が補正される。クロック再生部8420は、シンボル同期した後、コントローラ部8446からのコーディング(Coding)パターンの設定情報及びマルチプレクスの設定に基づいて、元の入力信号を復元する。
CMOSは微細化が今後さらに進み、その動作周波数はさらに上昇する。より高帯域で小型の伝送装置を実現するには、高い搬送周波を使うことが望まれる。本例の注入同期方式は、発振周波数安定度についての要求仕様を緩めることができるため、より高い搬送周波数を容易に用いることができる。注入同期で発振する受信側局部発振部8404は送信側の周波数変動に追従できるような低いQであることが必要である。これは、タンク回路を含む受信側局部発振部8404の全体をCMOS上で形成する場合に都合がよい。もちろん、受信側局部発振部8404と同様の回路構成の発振回路を送信側局部発振部8304として使用してもよく、タンク回路を含む送信側局部発振部8304の全体をCMOS上で形成することができる。
図21〜図22は、注入同期方式を適用する送信器側の構成例の第2例を説明する図である。図23〜図24は、注入同期方式を適用する受信器側の構成例の第2例を説明する図である。
第2例は、送信側の機能部を調整して注入同期がとれるように制御する方式を適用する態様である。送信側の機能部を調整して注入同期がとれるように制御するに当たって何の情報を受信側から送信側に送るかや、制御主体を送信側におくのか受信側におくのかで、様々な構成を採り得る。以下では、その中で代表的な2つの手法について第1例との相違点のみを説明する。
図21及び図23の第2例(その1)は、注入同期判定情報を送信側に送り、送信側に制御主体をおく態様である。具体的には、受信側信号生成部8220B_1のコントローラ部8446は、注入同期検出部8442が取得した注入同期判定情報を送信側信号生成部8110B_1の注入同期制御部8340に送る。コントローラ部8446は注入同期判定情報の送信側への伝送に介在するだけで実態としては制御主体とはならない。なお、コントローラ部8446を介在させずに、注入同期検出部8442が注入同期判定情報を送信側信号生成部8110B_1の注入同期制御部8340に送るように構成してもよい。
ここで、本構成の注入同期制御部8340は、第1設定値処理部7100Gの構成を採用しており、第1入出力インタフェース部7170は、受信側からの注入同期判定情報を受け取り、第1設定値記憶部7130に記憶する。第1動作制御部7150の一例であるコントローラ部8346は、受信側の注入同期検出部8442が検出した注入同期の状態を示す情報に基づき、受信側局部発振部8404で生成される復調搬送信号が、変調搬送信号と同期するように同期調整を行なう注入同期調整部の機能部を備えている。注入同期検出部8442とコントローラ部8346の注入同期調整に関わる機能部(注入同期調整部)で注入同期制御部8440と同様の注入同期制御部が構成される。コントローラ部8346は、注入同期がとれるように、送信側局部発振部8304の自走発振周波数やミリ波信号の送信振幅(送信電力)を制御する。同期がとれているか否かの判断手法はコントローラ部8446の場合と同様の手法でよい。コントローラ部8346は、第1設定値記憶部7130から読み出した設定値に基づいて、第1例と同様に、制御対象の各機能部を動作させる。
コントローラ部8346は、注入同期がとれていないと判断した場合は、予め決められた手順に従い、送信側局部発振部8304への発振周波数の設定情報や位相振幅調整回路8307への振幅及び位相の設定情報を変更し、又、増幅部8117への利得の設定情報を変更する。振幅変調やASK方式を採用している場合には、変調度を制御することでミリ波信号に含まれる搬送信号の無変調成分の振幅を調整してもよい。この後、コントローラ部8346は、再度、注入同期状態を判定するという手順を良好な同期がとれるまで繰り返す。
一方、図22及び図24の第2例(その2)は、受信側に制御主体をおき、送信側に制御コマンドを送って受信側から送信側を制御する構成である。具体的には、コントローラ部8446は、注入同期検出部8442により取得された注入同期判定情報に基づき同期がとれているか否かを判定し、注入同期がとれていないと判断した場合は、変調機能部8300と増幅部8117を制御する制御コマンドを送信側に送る。つまり、コントローラ部8446が直接に変調機能部8300と増幅部8117を制御する。換言すると、コントローラ部8346は、変調機能部8300に対して、発振周波数、基準搬送信号の位相や振幅の各初期設定を行ない、又、増幅部8117に対して利得の初期設定を行なうが、注入同期に関わる設定情報の変更制御は行なわない。
コントローラ部8446は、注入同期がとれていないと判断した場合は、第1例のコントローラ部8346と同様に、予め決められた手順に従い、送信側局部発振部8304への発振周波数の設定情報や位相振幅調整回路8307への振幅及び位相の設定情報を変更し、又、増幅部8117への利得の設定情報を変更する。振幅変調やASK方式を採用している場合には、変調度を制御することでミリ波信号に含まれる搬送信号の無変調成分の振幅を調整してもよい。この後、コントローラ部8446は、再度、注入同期状態を判定するという手順を良好な同期がとれるまで繰り返す。
ここで、「機器内又は機器間の無線伝送」では、通信環境が不変(固定)であるから、インジェクションロックに関するパラメータ設定は不変(固定)でよい。例えば、製品出荷時に注入同期状態が最適になるように第1設定値記憶部7130や第2設定値記憶部7230に記憶する値を決めれば、その後の動作時は、第1設定値記憶部7130や第2設定値記憶部7230に保存した値に元にインジェクションロックの制御を実行すればよい。常に第1設定値記憶部7130や第2設定値記憶部7230により監視してその結果に基づいて制御することは不要といえる。よって、コントローラ部8346やコントローラ部8446による制御は、一般の無線通信のように動的にアダプティブに頻繁に行なう必要はないため、制御によるオーバーヘッドを一般の無線通信に比べて小さくすることができ、小型、低消費電力、高速化が可能になる。
[注入信号と発振出力信号との関係]
図25には、注入同期における各信号の位相関係が示されている。ここでは、基本的なものとして、注入信号(ここでは基準搬送信号)の位相は変調に使用した搬送信号の位相と同相である場合で示す。
受信側局部発振部8404の動作としては、注入同期モードと増幅器モードの2つを採り得る。注入同期方式を採用する上では、基本的な動作としては、注入同期モードで使用し、特殊なケースで増幅器モードを使用する。特殊なケースは、基準搬送信号を注入信号に使用する場合に、変調に使用した搬送信号と基準搬送信号の位相が異なる(典型的には直交関係にある)場合である。注入同期したときの受信側局部発振部8404の出力信号Vout(復調搬送信号)と受信側局部発振部8404の自走出力Voとの位相差がψであり、受信側局部発振部8404への注入信号Sinjと受信側局部発振部8404の自走出力Voとの位相差が「θ+ψ」である。
受信側局部発振部8404が注入同期モードで動作する場合、図示のように、受信した基準搬送信号と注入同期により受信側局部発振部8404から出力される発振出力信号には位相差がある。周波数混合部8402にて直交検波をするには、この位相差を補正する必要がある。図から分かるように、受信側局部発振部8404の出力信号に対して変調信号の位相とほぼ一致するように位相振幅調整部8406で位相調整を行なう位相シフト分は図中の「θ」である。 換言すると、位相振幅調整部8406は、受信側局部発振部8404が注入同期モードで動作しているときの出力信号Voutの位相を、受信側局部発振部8404への注入信号Sinjと注入同期したときの出力信号Voutとの位相差「θ」の分を相殺するように位相シフトすればよい。ただし、詳細は実施例8で説明するが、実際には、周波数混合部8402に入力される受信信号とインジェクションロック機能を介して周波数混合部8402に入力される搬送信号のパス差の分があるので、その分を加味した補正を行なうのが適当である。
[注入量と自走周波数の設定]
図26〜図29は、実施例7において、注入同期(インジェクションロック)用の信号の注入量を適正に設定する手法を説明する図である。ここで、図26は、注入同期に対応した変復調の基本構成を示す図である。図27は、変調に使用する搬送信号f1と受信側局部発振部8404から出力される自走時の復調搬送信号の周波数差と、注入信号とインジェクションロック時の搬送信号との位相差θの関係の一例を示す図である。図28は、注入信号とインジェクションロック時の復調搬送信号との位相差θと復調出力s2のDC成分の関係の一例を示す図である。図29は、受信レベル(換言すると周波数混合部8402への入力レベル)とロックレンジの関係の一例を示す図である。
図26に示すように、位相振幅調整部8406は、増幅率(ゲインA)に基づいて受信信号(つまり周波数混合部8402へ入力される復調対象信号m2)の大きさを調整し、調整済みの信号を注入信号として受信側局部発振部8404に供給する振幅調整部8434を有する。注入同期制御部8440の注入同期検出部8442は、復調信号s2のDC(直流)成分を検出し、その検出結果及びこの検出結果に基づく設定値を第2設定値記憶部7230に記憶する。注入同期検出部8442の検出結果に基づく設定値の詳細については後述する。第2動作制御部7250の一例であるコントローラ部8446は、第2設定値記憶部7230から読み出した設定値に基づいて受信側局部発振部8404の自走周波数を制御する周波数制御部の機能を持つ。
前述の説明から理解されるように、受信側局部発振部8404から出力される自走時の搬送信号f2(自走搬送信号Vo)の周波数(自走周波数f2)が、送信側で変調に使用する送信側局部発振部8304から出力される変調搬送信号f1の周波数(変調周波数f1)に近いほどインジェクションロックし易い。温度変化等の環境変化があると、変調搬送信号f1の周波数f1や自走時の搬送信号f2(=自走搬送信号Vo)の自走周波数f2の変動や受信レベル(換言すると受信側局部発振部8404への注入量)の変動が起こるが、自走時の搬送信号f2の自走周波数f2を変調周波数f1に近くなるように制御することでロックを安定化できる。
ここで、図27に示すように、変調搬送信号f1(換言すると周波数混合部8402へ入力される復調対象信号m2)の周波数f1と受信側局部発振部8404から出力される自走時の搬送信号f2の自走周波数f2の差によって、インジェクションロック後の搬送信号f2(=注入同期出力Vout)と復調対象信号m2との位相差θが決まる。換言すると、インジェクションロック後の復調対象信号m2に対する搬送信号f2の位相オフセットが位相差θであり、参考文献Aより、ロックレンジfLOCKは式(2−1)で表され、位相差θは式(2−2)で表される。式(2)(式(2−1)及び式(2−2))中において、Iinjは注入信号レベル(A|m2|)であり、Ioscはインジェクションロック発振器としての受信側局部発振部8404の発振レベル(|f2|)であり、Qは受信側局部発振部8404のQ値である。
参考文献A:Narasimha Lanka, et al、University of Minneapolis、“Understanding the Transient Behavior of Injection Lock LC Oscillators”、IEEE2007 Custom Integrated Circuits Conference (CICC)
[実施例7の作用効果]
図28に示すように、復調機能部8400における復調処理では、位相差θによって、復調信号s2のDC(直流)成分の大きさが決まる。これより、復調信号s2のDC成分が最大のとき、位相差θが「0」となり、変調搬送信号f1と受信側局部発振部8404から出力される自走時の搬送信号f2の周波数差がなくなることが分かる。よって、復調出力s2のDC成分が大きくなるように、自走時の搬送信号f2の周波数を制御することが好ましいことになる。
ただし、図29に示すように、受信レベル(つまり周波数混合部8402へ入力される復調対象信号m2の大きさ)によって、ロックレンジが変化する。詳しくは、復調対象信号m2のレベルが小さいときは変調搬送信号f1に対する自走時の搬送信号f2の周波数差に対しての位相差θの変化が大きく、復調対象信号m2のレベルが大きいときは変調搬送信号f1に対する自走時の搬送信号f2の周波数差に対しての位相差θの変化が小さい。よって、ロック状態を維持しつつ、復調信号s2のDC成分の最大値を早く探すためには、自走時の搬送信号f2の周波数を変化させる変化量(ステップ)を最適に選ぶことが好ましい。
以上のことを考慮すると、コントローラ部8446(の周波数制御部)や振幅調整部8434は第2動作制御部7250の一例として次のように機能するとよい。例えば、予め|m2|から最適ステップを計算して第2設定値記憶部7230に記憶しておき、コントローラ部8446の周波数制御部は、その記憶情報に基づいて、搬送信号f2の自走周波数f2を調整するとよい。又は、注入量が一定になるように位相振幅調整部8430(の振幅調整部8434)でのゲイン調整の最適値を求めて第2設定値記憶部7230に記憶しておき、振幅調整部8434は、その記憶情報に基づいて、ゲイン調整を行なって注入量を最適にするとよい。
図30〜図32は、実施例8を説明する図である。ここで、図30は、周波数混合部8402に供給される受信信号(つまり周波数混合部8402へ入力される復調対象信号m2)と周波数混合部8402に供給される復調搬送信号との位相差を説明する図である。図31は、周波数混合部に供給される受信信号と復調搬送信号との位相差と、復調信号のDC成分との関係を説明する図である。図32は、周波数混合部に供給される受信信号と復調搬送信号との位相差の影響を抑制する手法を説明する図である。
実施例8は、実施例7と同様にインジェクションロックを適用する点に特徴があるが、前述の実施例7との相違点として、第2設定値処理部7200Hによりインジェクションロックの位相差を適正に設定する点に特徴がある。以下では、説明を簡単にするべく、実施例7を適用しない形態で示すが、実施例7を採用した形態にさらに実施例8を適用してもよい。
実施例7でも述べたが、図30に示すように、周波数混合部8402に入力される受信信号(復調対象信号m2)とインジェクションロック機能を介して周波数混合部8402に入力される搬送信号のパス差があるので、実際には、パス差に対応した位相差φの影響が現れる。よって、その位相差φの分を加味した補正を行なうのが適当である。
ここで、図31に示すように、位相差φによって復調出力s2のDC成分の変化の仕方が変わる。例えば、図31(C)に一例が示されており、位相差φがゼロのときは、変調搬送信号f1に対する自走時の搬送信号f2の周波数差に対してのDC成分の変化は周波数差ゼロを中心に対称性を持つ。これに対して、位相差φが正の方向に大きくなるほどピーク位置が自走周波数f2の低周波数側にシフトし、逆に、位相差φが負の方向に大きくなるほどピーク位置が自走周波数f2の高周波数側にシフトし、何れも対称性のない崩れた特性になる。
したがって、例えば図32(A)に示すように、位相振幅調整部8406として、位相差φの影響を補正する位相調整部8432を、注入信号Sinjの経路と搬送信号f2の経路の少なくとも一方に設けるのがよい(図32(A)は搬送信号f2の経路に設ける場合で示す)。そして、位相調整部8432による位相補正量を最適なものとするべく、位相補正量を予め第2設定値処理部7200Hの第2設定値記憶部7230に記憶しておき、位相調整部8432は、その記憶情報に基づいて位相補正を行なうとよい。注入信号の経路と搬送信号f2の経路の何れでも、位相調整部8432は搬送信号f2の周波数f2の帯域に対応したものであればよい。図32(B)に示すように、周波数混合部8402への復調対象信号m2の系統に位相調整部8432を設けてもよい。ただし、この場合は、位相調整部8432は搬送信号f2の周波数f2の帯域だけでなく復調対象信号m2全体の帯域に対応した広帯域性が求められる。
図33は、実施例9の通信装置を説明する図である。実施例9は、基準信号伝送装置3Iを信号伝送装置1Iに適用して通信装置8Iを構成した事例である。
実施例9は、拡散符号方式の無線通信にパラメータ設定の固定化を適用する。実施例9の通信装置8Iは、伝送対象信号を無線で伝送する複数の通信装置2Iを備えた信号伝送装置1Iと、基準信号伝送装置3Iを備えている。送信側の通信装置2Iを送信器(送信機)と称し、受信側の通信装置2Iを受信器(受信機)と称し、送信器と受信器を纏めて送受信器とも称する。
信号伝送装置1Iは、拡散符号方式を採用した通信を行なう。伝送帯域はミリ波帯を使用するものとする。ミリ波帯に代えて、さらに波長の短い(0.1〜1mm)サブミリ波帯を使用してもよい。符号多重方式の参考資料としては、参考文献Bを参照するとよい。
参考文献B:Proakis 、“Digital Communications”、特に13章(Spread Spectrum Signals for Digital Communication)、McGrawHill社
通信装置2Iは、通信チップ8000を有する。通信チップ8000は、後述の送信チップ8001(TX)と受信チップ8002(RX)の何れか一方又は両方でもよいし、送信チップ8001と受信チップ8002の双方の機能を1チップ内に具備し双方向通信に対応したものでもよい。好ましい態様は、図示のように通信装置2Iに通信チップ8000と基準信号受信装置7Iが組み込まれた場合であるが、これには限定されない。図の例は、通信チップ8000と基準信号受信装置7Iを各別の機能部として示しているが、通信チップ8000が基準信号受信装置7Iの機能部を包含する構成にしてもよい。
実施例9の基準信号伝送装置3Iは、通信装置2Iが使用する基準信号(本例では拡散符号列等のタイミング信号の基準となる信号)を無線で送信する基準信号送信装置5I(基準信号出力装置の一例)と、通信装置2Iごとに設けられた基準信号受信装置7Iを備えている。図の例は、5台の通信装置2I_1〜通信装置2I_5と、1台の基準信号送信装置5Iと、4台の基準信号受信装置7I_1〜基準信号受信装置7I_4とが1つの電子機器の筐体内に収容された例で示しているが、通信装置2I及び基準信号受信装置7Iの設置台数はこの例に限らないし、これらが1つの電子機器の筐体内に収容されていることも必須でない。
拡散符号列(拡散符号周期信号)は、シンボル周期Tsymの基準クロックであり、シンボル周期信号Sig1とも記す。シンボル周期信号Sig1に対する拡散率をSFとし、拡散符号レートをTchip/秒(chip/s)とする。拡散符号方式を採用した通信を行なうに当たり、基準信号送信装置5Iは、シンボル周期信号Sig1と同じ周波数の基準信号(以下基準クロックとも称する)を送信する。
このとき、図の例は、通信装置2I間の伝送対象信号と各通信装置2Iと基準信号送信装置5I間の基準信号の無線周波数が異なるので通信装置2Iは伝送対象信号の無線信号と基準信号の無線信号のそれぞれに各別のアンテナ(アンテナ5400、アンテナ7100、アンテナ8080)を使用するようにしているがこのことは必須でない。例えば、各通信装置2Iと基準信号送信装置5Iと基準信号受信装置7Iが同期した信号を送受信することに着目して1つのアンテナを共用する形態にしてもよい。
信号伝送装置1Iでは、先ず、基準信号送信装置5Iは、拡散符号周期の基準クロック(基準信号)を無線送出し、この基準クロックを通信装置2I(送信器及び受信器)で受信する。つまり、拡散符号列(シンボル周期Tsymの基準クロック:シンボル周期信号Sig1)に同期する基準クロックを基準信号送信装置5Iで生成し、伝送信号とは別に各通信装置2Iと対応して設けられている基準信号受信装置7Iに送信する。
通信装置2Iごとに設けられている基準信号受信装置7Iは、受信したシンボル周期Tsymの基準クロックに同期したシンボル周期信号Sig1や拡散符号レートTchip/秒のクロックを生成する。そして、通信装置2Iでは、基準信号送信装置5I(クロック送出器)から送出される基準クロックに同期して拡散符号列を生成し、この拡散符号列に基づいて、拡散処理や逆逆拡散処理を行なう。
拡散符号方式を適用した通信では、送信側と受信側の符号タイミングの同期をとることが必要となる。拡散符号方式を採用して無線通信を行なうに当たり、その通信環境がある程度固定された形態(例えば機器内通信や比較的近距離の機器間通信)では、通常の野外における通信とは異なる事象を考慮することが好ましい。
例えば、いわゆるセルラ等の野外通信とは異なり、1)伝搬路の状況が変化しない、2)受信電力変動やタイミング変動が実質的にない(皆無あるいは極めて少ない)、3)伝搬距離が短い、4)マルチパスの遅延スプレッドが小さい、5)拡散符号に擬似ランダム系列を用いる必要性が低い、等の特徴がある。1)〜5)を纏めて、「機器内又は機器間の無線伝送」の特徴と記す。「機器内又は機器間の無線伝送」では通常の符号分割多重無線通信のように、常に伝搬路の状況を調べる必要はなく、予め定められた拡散符号列を使用できる。
そのため、基準クロックを基準信号送信装置5Iから各基準信号受信装置7Iに送信し、各基準信号受信装置7Iで基準クロックを受信し、各通信装置2Iでは、基準信号受信装置7Iが受信した基準クロックに基づき符号分割多重処理用のタイミング信号を生成することができる。そして、通信装置2Iでは、予め調べておいた伝搬遅延やその他の通信環境特性に基づいてタイミング補正を行なうことで、前述の符号タイミング同期をとれる。マッチドフィルタ等の複雑な手法を使用せずに済むので、通信装置2Iの回路規模や消費電力を削減できる。
さらに、「機器内又は機器間の無線伝送」では静的な環境での無線信号伝送と見なしてよく、通信環境特性は概ね不変であると見なしてよい。このことは、「通信環境が不変(固定)であるからパラメータ設定も不変(固定)でよい」ことを意味する。よって、例えば、製品出荷時に通信環境特性を示すパラメータを決定し、そのパラメータをメモリ等の記憶装置に保存しておき、動作時はこのパラメータを元に位相補正を実行すればよい。本例の場合、位相補正機構を搭載することにはなるが、通信環境特性を常に監視してその結果に基づいて位相補正する機構は不要であるから、回路規模を小さくでき、又、消費電力を小さくできる。
[通信装置の動作]
図34及び図35は、実施例9の通信装置8Iにおける全体動作を説明する図である。ここで、図34に示す第1例は、送信側及び受信側の何れもが基準信号受信装置7Iを利用したクロック生成部を通信チップ8000に備えた態様であり、図35に示す第2例は、送信側及び受信側の何れもが基準信号受信装置7Iを利用したクロック生成部を通信チップ8000とは別に備えた態様である。図示しないが、送信側と受信側の一方が基準信号受信装置7Iを利用したクロック生成部を通信チップ8000に備えた態様とし、送信側と受信側の他方が基準信号受信装置7Iを利用したクロック生成部を通信チップ8000とは別に備えた態様としてもよい。変調方式としてはBPSKを採用するものとする。クロック生成部を通信チップに内蔵するか否かの違いだけであるので、以下では、クロック生成部を通信チップ8000に内蔵した第1例で説明する。
なお、機器内(筐体内)の信号伝送への適用とする場合には、送信チップ8001、受信チップ8002等の各部(好ましくは基準信号送信装置5Iも)を同一の筐体内に収容する。そして、筐体内において、第1の信号処理部の一例である符号拡散処理部8200と第2の信号処理部の一例である符号逆拡散処理部8500との間で、無線による伝送を可能にする無線信号伝送路を形成する。又、機器間の信号伝送への適用とする場合には、送信チップ8001を第1の電子機器の筐体内に収容し、受信チップ8002を第2の電子機器の筐体内に収容する。好ましくは、基準信号送信装置5Iを第1の電子機器と第2の電子機器の何れかの筐体内に収容する。そして、第1の電子機器と第2の電子機器が定められた位置に配置されたとき、第1の信号処理部の一例である符号拡散処理部8200と第2の信号処理部の一例である符号逆拡散処理部8500との間で、無線による伝送を可能にする無線信号伝送路を形成する。
基準信号REFCLKが必要な送信チップ8001(TX)と受信チップ8002(RX)、並びにその前後に備えられたデータインタフェース部8100とデータインタフェース部8600で信号伝送装置1Iの基本が構成される。送信チップ8001には、符号拡散処理部8200と変調機能部8300が設けられている。受信チップ8002には、復調機能部8400と符号逆拡散処理部8500が設けられている。符号拡散処理部8200と符号逆拡散処理部8500のそれぞれには、後述のクロック生成部から、シンボル周期信号Sig1と拡散符号レート信号Sig2が基準信号REFCLKとして供給されるようになっている。本構成では、後述のように、クロック生成部として基準信号受信装置7Iを利用する。
[データインタフェース部:送信側]
送信側のデータインタフェース部8100は、第1のデータ列x1と第2のデータ列x2の供給を受け、それぞれを送信チップ8001(特に符号拡散処理部8200)に渡す。例えば、1.25ギガビット/秒(Gbps)のデータがデータインタフェース部8100を介して符号拡散処理部8200に供給される。
[符号拡散処理部]
送信側の符号拡散処理部8200は、図示しない基準信号受信装置7Iから供給されるシンボル周期信号Sig1と拡散符号レート信号Sig2を使用し、互いに直交する2つの拡散符号列を、2つのデータ列x1及びデータ列x2に乗じて、それらを加算して変調機能部8300に渡す。
[変調機能部]
伝送対象の信号(ベースバンド信号:例えば12ビットの画像信号)は図示しない信号生成部により、高速なシリアル・データ系列に変換され変調機能部8300に供給される。変調機能部8300は、逓倍基準信号CLK2(低周波基準信号)に基づいて信号処理を行なう信号処理部の一例であり、パラレルシリアル変換部からの信号を変調信号として、予め定められた変調方式に従ってミリ波帯の信号に変調する。
変調機能部8300としては、変調方式に応じて様々な回路構成を採り得るが、例えば、2入力型の周波数混合部8302(周波数変換部、ミキサー回路、乗算器等とも称する)と送信側局部発振部8304(第1の搬送信号生成部)を備えた構成を採用すればよい。周波数混合部8302は、符号拡散処理部8200から出力された信号を送信側局部発振部8304で生成された搬送信号Lo_TX で変調する。
送信側局部発振部8304は、変調に用いる搬送信号Lo_TX (変調搬送信号)を生成する。送信側局部発振部8304は、基準信号再生部により生成された逓倍基準信号CLK2と同期したより高い周波数の搬送信号(第2の高周波基準信号の一例)を生成する第2の高周波基準信号出力部の一例である。送信側局部発振部8304は、逓倍基準信号CLK2_TX に基づいて搬送信号Lo_TX を生成するものであればよく、種々の回路構成を採り得るが、例えば、PLLやDLL等で構成するのが好適である。
周波数混合部8302は、パラレルシリアル変換部からの信号で送信側局部発振部8304が発生するミリ波帯の搬送信号Lo_TX と乗算(変調)してミリ波帯の伝送信号(被変調信号)を生成し増幅部8360に供給する。伝送信号は増幅部8360で増幅され送信アンテナ8380からミリ波帯の無線信号Smとして放射される。
[復調機能部]
復調機能部8400は、送信側の変調方式に応じた範囲で様々な回路構成を採用し得るが、少なくとも、変調機能部8300の変調方式と対応するものが採用される。復調機能部8400は、逓倍基準信号CLK2(低周波基準信号)に基づいて信号処理を行なう信号処理部の一例である。復調機能部8400は、例えば2入力型の周波数混合部8402と受信側局部発振部8404(第2の搬送信号生成部)とを備え、アンテナ8236で受信された受信信号からいわゆる同期検波方式により信号復調を行なう。
周波数混合部8402は、増幅部8460から出力された信号を受信側局部発振部8404で生成された搬送信号Lo_RX で復調する。図示しないが、周波数混合部8402の後段に例えば低域通過フィルタ(LPF)を設け乗算出力に含まれる高調波成分を除去するとよい。同期検波方式では、搬送波を周波数混合部8402とは別の受信側局部発振部8404で再生し、再生搬送波を利用して復調を行なう。同期検波を使用した通信では、送受信の搬送信号は、周波数同期及び位相同期がとれていることが必要である。
受信側局部発振部8404は、基準信号再生部により生成された逓倍基準信号CLK2と同期したより高い周波数の搬送信号(第2の高周波基準信号の一例)を生成する第2の高周波基準信号出力部の一例である。受信側局部発振部8404は、逓倍基準信号CLK2_RX に基づいて搬送信号を生成するものであればよく、種々の回路構成を採り得るが、例えば、PLLやDLL等で構成するのが好適である。
[符号逆拡散処理部]
受信側の符号逆拡散処理部8500は、図示しない基準信号受信装置7Iから供給されるシンボル周期信号Sig1と拡散符号レート信号Sig2を使用し、拡散符号列を既知としていて、復調機能部8400で復調された受信信号(ベースバンド信号)中の拡散符号列のタイミングを検出し、受信信号に拡散符号列を乗じ積分することで逆拡散を行ないデータインタフェース部8600に渡す。このため、拡散符号方式では、符号の同期機構が必要である。
[データインタフェース部:受信側]
受信側のデータインタフェース部8600は、受信チップ8002(符号逆拡散処理部8500)から第1のデータ列D1と第2のデータ列D2の供給を受け、それぞれを後段回路に渡す。例えば、符号拡散処理部8500から供給される1.25ギガビット/秒(Gbps)のデータがデータインタフェース部8600を介して後段に渡される。
[送信側]
送信チップ8001において、符号拡散処理部8200は、データ列x1と対応して拡散符号列発生部8212と拡散処理部8214を有し、データ列x2と対応して拡散符号列発生部8222と拡散処理部8224を有し、さらに加算部8230を有する。さらに、送信チップ8001は、基準信号受信装置7Iを利用したクロック生成部7002(第1のクロック生成部の一例)を備えている。クロック生成部7002は、増幅部7202(増幅部7200と対応)と、シュミットトリガ7402(基準信号再生部の一例)と、クロック発生部7502(逓倍基準信号出力部の一例と対応)を有する。
シュミットトリガ7402は、二値データとしての基準クロック(シンボル周期信号Sig1)を取得する二値化部の機能を備えている。具体的には、シュミットトリガ7402は、増幅部7202で増幅された基準信号CLK0(基準信号J1を元にしたもの)を波形整形して周期Tsymのシンボル周期信号Sig1を取得し、シンボル周期信号Sig1をデータインタフェース部8100、拡散符号列発生部8212、拡散符号列発生部8222に供給する。
クロック発生部7502は、シュミットトリガ7402から供給されるシンボル周期信号Sig1に同期する周期Tchipの基準クロック(拡散符号レート信号Sig2)を発生し、拡散符号レート信号Sig2を、拡散処理部8214と拡散処理部8224に供給する。シンボル周期信号Sig1と拡散符号レート信号Sig2の周波数関係は、Tsym=SF×Tchipである。クロック生成部7002側で生成されるシンボル周期信号Sig1と拡散符号レート信号Sig2は、拡散符号方式の無線通信処理に関する第1の信号処理(符号拡散処理)用の第1の基準クロックの一例である。
データインタフェース部8100は、データ列x1とデータ列x2とを、シンボル周期信号Sig1に同期して、符号拡散処理部8200に出力する。
拡散符号列発生部8212は、クロック生成部7002から供給されるシンボル周期信号Sig1と拡散符号レート信号Sig2に基づいて、クロック周期と符号列周期が同じ拡散符号F1を拡散処理部8214に出力する。拡散処理部8214は、データインタフェース部8100を介してシンボル周期信号Sig1に同期して供給されるデータ列x1と拡散符号列発生部8212から供給される拡散符号F1を乗じることで符号拡散を行ない処理済みデータを加算部8230に供給する。同様に、拡散符号列発生部8222は、クロック生成部7002から供給されるシンボル周期信号Sig1と拡散符号レート信号Sig2に基づいてクロック周期と符号列周期が同じ拡散符号F2を拡散処理部8224に出力する。拡散処理部8224は、データインタフェース部8100を介してシンボル周期信号Sig1に同期して供給されるデータ列x2と拡散符号列発生部8222から供給される拡散符号F2を乗じることで符号拡散を行ない処理済みデータを加算部8230に供給する。
[受信側]
受信チップ8002において、符号逆拡散処理部8500は、再生されるデータ列D1と対応して拡散符号列発生部8512と逆拡散処理部8514を有し、再生されるデータ列D2と対応して拡散符号列発生部8522と逆拡散処理部8524を有する。受信チップ8002は、基準信号受信装置7Iを利用したクロック生成部7004(第2のクロック生成部の一例)を備えている。クロック生成部7004は、増幅部7204(増幅部7200と対応)と、位相補正回路として機能する移相部7404(基準信号再生部の一例)と、クロック発生部7504(逓倍基準信号出力部の一例)を有する。
クロック発生部7504は、移相部7404から供給されるシンボル周期信号Sig1に同期する周期Tchipの基準クロック(拡散符号レート信号Sig2)を発生し、拡散符号レート信号Sig2を逆拡散処理部8514と逆拡散処理部8524に供給する。シンボル周期信号Sig1と拡散符号レート信号Sig2の周波数関係はTsym=SF×Tchipである。クロック生成部7004側で生成されるシンボル周期信号Sig1と拡散符号レート信号Sig2は、拡散符号方式の無線通信処理に関する第2の信号処理(符号逆拡散処理)用の第2の基準クロックの一例である。
拡散符号列発生部8512は、クロック生成部7004から供給されるシンボル周期信号Sig1と拡散符号レート信号Sig2とに基づいて、クロック周期と符号列周期が同じ拡散符号F3を逆拡散処理部8514に出力する。逆拡散処理部8514は、復調機能部8400で復調されたベースバンドと拡散符号列発生部8512から供給される拡散符号F3を乗じることで符号逆拡散を行ない処理済みデータをデータインタフェース部8600に供給する。同様に、拡散符号列発生部8522は、クロック生成部7004から供給されるシンボル周期信号Sig1と拡散符号レート信号Sig2に基づいて、クロック周期と符号列周期が同じ拡散符号F4を逆拡散処理部8524に出力する。逆拡散処理部8524は、復調機能部8400で復調されたベースバンドと拡散符号列発生部8522から供給される拡散符号F4を乗じることで符号逆拡散を行ない、処理済みデータをデータインタフェース部8600に供給する。
データインタフェース部8600は、逆拡散処理部8514と逆拡散処理部8524から供給される逆拡散処理済みデータを、それぞれデータ列D1やデータ列D2として、シンボル周期信号Sig1に同期して出力する。
図示を割愛するが、拡散符号列発生部8212、拡散符号列発生部8222、拡散符号列発生部8512、拡散符号列発生部8522は、拡散符号列a{a0,a1,a2,…aN-1}の各値aiを記憶した複数のレジスタと、基準クロック(ここではシンボル周期信号Sig1)を予め定められた値(ここではSF)で周波数逓倍する逓倍部と、選択部(セレクタ)を有する構成にするとよい。選択部の各入力端には、レジスタから拡散符号列a{a0,a1,a2,…aN-1}の各値aiが入力される。選択部の制御入力端には、逓倍部の出力信号が出力切替信号として供給される。逓倍部は、例えば、1.25ギガヘルツ(GHz)のシンボル周期信号Sig1を4逓倍し5ギガヘルツの出力切替信号を生成し、選択部8806の制御入力端に供給する。選択部は、逓倍部からの出力切替信号に基づいて、レジスタからの拡散符号列a{a0,a1,a2,…aN-1}の各値aiの何れか1つを順番に選択して出力することで、クロック周期(シンボル周期Tsym )と符号列周期が同じ拡散符号F@(@は1,2,3,4)を出力する。
信号伝送装置1Iにおいては、例えば、拡散率SF=4、チップレート5ギガchip/秒(Gchip/s)、変調方式をBPSKとする。したがって、伝送対象データの伝送速度は1.25ギガビット/秒である。基準信号送信装置5は、シンボル周期信号Sig1と同じ1.25ギガヘルツの基準信号CLK0(基準信号J1に相当)を送信する。データインタフェース部8100、送信チップ8001、受信チップ8002、データインタフェース部8600のそれぞれは基準信号送信装置5から送信された基準信号CLK0に同期して動作する。
例えば、送信側では、基準信号CLK0を受信し、増幅部7202で増幅した後にシュミットトリガ7402で波形整形して周期Tsym のシンボル周期信号Sig1を得る。さらにこれに同期してクロック発生部7502で周期Tchipの拡散符号レート信号Sig2を発生する。受信側も同様に基準クロック(シンボル周期信号Sig1及び拡散符号レート信号Sig2)を受信するが、その位相を移相部7404で調整することができる。
データインタフェース部8100は、シンボル周期信号Sig1に同期してデータ列x1とデータ列x2を出力する。拡散処理部8214と拡散処理部8224はクロック周期と符号列周期が同じ拡散符号F1や拡散符号F2を同期して出力する。拡散処理部8214と拡散処理部8224は、データ列D1やデータ列D2に、それぞれ対応する拡散符号F1あるいは拡散符号F2をそれぞれ乗じることで拡散する。その後、変調機能部8300で所定周波数(例えば60ギガヘルツ)に周波数変換し送出する。
受信チップ8002は、送信チップ8001から送信された無線信号を受信し、復調機能部8400でベースバンドに変換し、符号逆拡散処理部8500(の逆拡散処理部8514や逆拡散処理部8524)で逆拡散する。このときの拡散符号列のタイミングは基準信号送信装置5から送信チップ8001や受信チップ8002までの信号の伝搬遅延で定まるので、これを移相部7404が補正する。
[実施例9の作用効果]
無線信号を使用して信号伝送を行なうに当たっては、複数の信号を多重化して伝送してもよい。その一例として例えば、互いに直交する符号列をデータ列に乗じて加算多重し伝送する符号分割多重が知られている。符号分割多重方式は、単一の搬送波に複数のデータ列を多重できるという特徴がある。例えば、符号分割多重方式を適用してミリ波を使った無線伝送装置を実現することで、高速データ伝送を実現できる。特にこのような装置を機器内の通信に使用した場合(チップ間、基板間、モジュール間等)、導体による伝送路が不要であり、基板等の配置の自由度向上、実装コスト低減、LVDS等で顕著なEMI問題も低減できる。フレキシブル基板はコネクタ部の信頼性が問題となっているが、無線伝送に置き換えることで信頼性を向上できる。
機器内や機器間では、伝送レートやデータ幅の異なる複数の信号が通信回路間に伝送されている。これらを多重する方法としては、大きくは、周波数分割多重、時間分割多重、空間分割多重、そして、符号分割多重の4つの手法を挙げることができる。ここで、機器内や機器間の伝送装置では、これら4つの多重方式を1つあるいは何れか複数を併用してもよい。
周波数分割多重は、搬送波周波数を変えて複数のデータを伝送する方式であり、搬送波周波数の異なる送信器と受信器を複数用意する必要がある。時間分割多重は、複数のデータの送出タイミングを変えて伝送する方式であり、それぞれのデータの送出タイミングを定義する機構が送信器と受信器の双方に必要である。空間分割多重は、複数のデータを、アイソレーションのとれる複数の伝搬路を通じて伝送する方式であり、例えば、複数の伝送線路を用意することとアンテナの指向性を使うことが挙げられる。符号分割多重は、前述のように、互いに直交する符号列をデータ列に乗じて加算多重し伝送する方式であり、伝送レートの異なるデータ列も多重することが可能であるが、拡散符号の同期機構が必要である。実施例9を採用しない従前の拡散符号方式の受信器では、マッチドフィルタ等を使用しているが、受信器は複雑になり、消費電力や回路規模の点から難点がある。
一方、実施例9の信号伝送装置1Iは、送受信器で構成された通信装置8Iに、基準信号送信装置5I及び基準信号受信装置7Iを備える基準信号伝送装置3Iを付加して全体装置を構築している。基準信号送信装置5Iから送出された基準クロックは送信器としての送信チップ8001に供給され、符号拡散処理部8200の拡散符号列発生部8212と拡散符号列発生部8222に入力される。受信側も同様で、基準信号送信装置5Iから送出されたシンボル周期信号Sig1及び拡散符号レート信号Sig2の基準となる基準クロックは受信器としての受信チップ8002に供給され、符号逆拡散処理部8500の拡散符号列発生部8512と拡散符号列発生部8522に入力される。
これにより、送受信器が扱う拡散符号は、シンボル周期信号Sig1の一周期に同期する。したがって、受信器には、マッチドフィルタ等逆拡散のための符号のタイミング検出回路は不要となる。つまり、シンボル周期信号Sig1や拡散符号レート信号Sig2の基準となる基準クロックを基準信号伝送装置3の基準信号送信装置5から送信し、それを送信器と受信器で受信し拡散符号列を同期させることで、受信器の同期機構が簡略化される。これにより、消費電力や回路サイズを抑えることができる。例えば、機器内伝送に符号分割多重方式が使えるため、データレートの異なる複数のデータ列でも多重できる利点が得られる。
さらに、実施例9の信号伝送装置1Iは、第2設定値処理部7200Iを備える。第2設定値処理部7200Iは、第2入出力インタフェース部7270、第2設定値記憶部7230、及び、第2動作制御部7250を有する。基準信号送信装置5Iから送信器(特に送信チップ8001)や受信器(特に受信チップ8002)までの信号の伝搬遅延等の通信環境特性に基づいて規定される予め定められた補正量の設定値が、第2入出力インタフェース部7270を介して予め第2設定値記憶部7230に記憶される。第2動作制御部7250は、その記憶された補正量の設定値を移相部7404に通知(設定)する。
移相部7404は、二値データとしての基準クロック(シンボル周期信号Sig1)を取得する二値化部の機能と、取得したシンボル周期信号Sig1の位相を補正する位相補正部の機能を備えている。具体的には、移相部7404の二値化部は、増幅部7204で増幅された基準信号CLK0を波形整形し、周期Tsymのシンボル周期信号Sig1を取得し、シンボル周期信号Sig1を、拡散符号列発生部8512、拡散符号列発生部8522、データインタフェース部8600に供給する。このとき移相部7404の位相補正部は、第2動作制御部7250から通知された補正量に従って位相補正を行なう。つまり、移相部7404は、基準信号送信装置5Iから送信器(特に送信チップ8001)や受信器(特に受信チップ8002)までの信号の伝搬遅延等の通信環境特性に基づいて規定される予め定められた補正量に従って位相補正を行なう。通信環境特性を常に監視してその結果に基づいて位相補正する機構ではないので、回路規模を小さくでき、又、消費電力を小さくできる。
[実施例9の変形例]
変形例として、図示しないが例えば、第2のデータ列x2に代えて基準クロックの供給を受けて、それを送信チップ8001に供給してもよい。通信装置8I(信号伝送装置1I、基準信号伝送装置3I)は、送信側や受信側の何れかの通信装置2Iに基準信号送信装置5Iを設け、その通信装置2Iで使用している発振器(基準発振器,局部発振回路等)で生成される信号を、他の通信装置2Iに送出する基準基準クロック(基準信号J1に相当)として利用する形態となる。データ(伝送対象信号)とともにクロックも伝送する信号伝送装置に適用する場合に好適な事例である。この場合、基準信号送信装置5Iは特に基準信号J1を生成する機能を備えていなくてもよく、単に、基準信号を出力する基準信号出力部として機能することになる。前述の実施例9よりも簡易な装置を実現できる。
例えば、送信側の通信装置2Iの送信チップ8001には、送信しようとするデータ列とそれに同期した基準クロック(同期クロック)を入力する。この場合、基準信号送信装置5Iに、入力された同期クロックをそのまま伝送し、基準信号送信装置5Iはその同期クロックを送出する。前述の実施例9との対比では、送信チップ8001はクロック生成部7002以外の部分を備え、受信チップ8002はクロック生成部7004以外の部分を備えるものとする。基準信号受信装置7Iはクロック生成部7004と同一の構成であるとする。この場合、送信チップ8001は、同期クロックを使って拡散符号列は同期するとともに、基準信号送信装置5Iから同期クロックを無線送出する。受信側の通信装置2Iでは、基準信号送信装置5Iから送出された同期クロックを受信し、受信チップ8002は、実施例9の復調機能部8400と符号逆拡散処理部8500を備え、基準信号受信装置7Iで生成された同期クロックに基づいて逆拡散処理を行なう。データインタフェース部8600には、符号逆拡散処理部8500からの信号と基準信号受信装置7Iからのクロックを供給する。
他の変形例としては、前述の実施例9をベースに、送信側と受信側の少なくとも一方(何れか一方又は両方、好ましくは両方)の局部発振回路(送信側局部発振部8304、受信側局部発振部8404)で生成する搬送信号も、基準信号送信装置5Iから送出された基準信号J1に同期させる構成にする。つまり、局部発振器を基準信号送信装置5Iから送出される基準信号J1に同期させる方法である。この同期処理時には、注入同期方式を適用することが好ましい。
前述の実施例9では、拡散符号列のチップレートとのタイミング同期に関して説明したが、符号分割多重方式では、搬送波周波数同期もとることが好ましい。実施例9では、受信側では一般的な手法により搬送信号の同期をとることを前提に説明したが、この変形例では、基準信号送信装置5Iから送出される基準信号J1を元に同期処理を行なう。この例では、送信側と受信側の双方の通信装置2Iにおいて、局部発振器を基準信号送信装置5Iから送出される基準信号J1に同期させる。基準信号送信装置5Iから送出された基準信号J1に基づいて送信側のクロック生成部7002(シュミットトリガ7402)や受信側のクロック生成部7004(移相部7404)でシンボル周期信号Sig1が生成されるが、これを各局部発振回路(例えばPLL構成や注入同期構成のもの)の基準クロックとして使う。
図36及び図37は、実施例10を説明する図である。ここで、図36は、実施例10を適用した信号伝送装置1Jの全体概要を示す図である。図37は送信側Tx及び受信側Rxの搬送波に対する周波数ずれを説明する周波数振幅特性例を示す図である。詳しくは、図37(A)は実施例10を適用しない比較例を説明する図であり、図37(B)は実施例10の第1基本例を説明する図であり、図37(C)は実施例10の第2基本例を説明する図である。
実施例10は、伝送データの高速化対応を図る際にパラメータ設定の固定化を適用する。先ず、送信系統と受信系統のそれぞれについては実体的な伝送帯域を広げずに広帯域伝送を可能にする場合に、その伝送データの高速化のための動作設定を第1設定値処理部7100Jや第2設定値処理部7200Jにて行なう。伝送データの高速化のために、送信系や受信系の帯域幅を広げたり搬送周波数の使用帯域を波長のより短い帯域に設定することは、装置構成上限界がでてくる。送信系や受信系の帯域幅を広げたり搬送周波数の使用帯域を変更したりせずに、伝送データの高速化を実現する手法が求められる所であるが、その要求に応えられていないのが実情であり、実施例10はその対策手法を提供する。
この実施例10の手法は、実施例10を適用しない場合と同じ帯域幅を持つ送受信間の伝送特性(総合通信特性)において、その帯域の中心に対して搬送周波数(搬送波周波数)をずらすことで、高速伝送を実現する。換言すると、搬送周波数に対する送受信間の伝送周波数特性の非対称性を利用して広帯域伝送に対応するのである。送受信間の伝送周波数特性の帯域中心に対して搬送周波数をずらす手法としては、Tx(送信)帯域とRx(受信)帯域の何れか一方のみを搬送周波数に対してシフトする第1の周波数シフト手法と、Tx帯域とRx帯域の双方を搬送周波数に対して同じ方向にシフトする第2の周波数シフト手法とがある。何れにしても、Tx系統とRx系統の周波数特性を搬送波(キャリア)に対してずらすことで、広帯域伝送が可能となる。実施例10を適用しない場合と同じ帯域幅を持つ送信部と受信部の組合せに比べて、広い信号帯域を得ることができ、高速伝送が可能である。限られた帯域で高データレートを実現するための手法として極めて効果的な手法といえる。以下では、このような実施例10の手法を単に「周波数シフト方式」とも称する。
図36に示すように、送信側には、変調処理時の搬送周波数を規定する機能部である変調機能部8300(例えば変調機能部8300A)の動作(特に送信側局部発振部8304の搬送信号の出力動作)を制御する第1設定値処理部7100Jを備える。変調機能部8300Aは信号処理部の一例であり、送信側局部発振部8304は変調用の搬送信号を生成する第1の搬送信号生成部の一例であり、周波数混合部8302は伝送対象信号を第1の搬送信号生成部(送信側局部発振部8304)で生成された変調用の搬送信号で周波数変換して伝送信号を生成する第1の周波数変換部の一例である。第1設定値処理部7100Jは、伝送特性の帯域中心に対しての搬送信号の周波数のずれ量を規定するための設定値を信号処理部の一例である変調機能部8300(詳しくは送信側局部発振部8304)に入力する。第1設定値処理部7100Jは、第2の基本構成のものを採用しているが、第1の基本構成のように、第1入出力インタフェース部7170に代えて第1設定値決定部7110を備えてもよい。
受信側には、復調処理時の搬送周波数を規定する機能部である復調機能部8400(例えば復調機能部8400A)の動作(特に受信側局部発振部8404の搬送信号の出力動作)を制御する第2設定値処理部7200Jを備える。復調機能部8400Aは、信号処理部の一例であり、搬送波再生部8403は復調用の搬送信号を生成する第2の搬送信号生成部の一例であり、周波数混合部8402は受信した伝送信号を第2の搬送信号生成部(搬送波再生部8403)で生成された復調用の搬送信号で周波数変換する第2の周波数変換部の一例である。第2設定値処理部7200Jは、伝送特性の帯域中心に対しての搬送信号の周波数のずれ量を規定するための設定値を信号処理部の一例である復調機能部8400(詳しくは搬送波再生部8403)に入力する。第2設定値処理部7200Jは、第2の基本構成のものを採用しているが、第1の基本構成のように、第2入出力インタフェース部7270に代えて第2設定値決定部7210を備えてもよい。実施例10では、受信側(つまり復調機能部8400A)は同期検波方式を採用する。同期検波方式を基本とするものであればよく、注入同期を利用するものも含む。
なお、この例では、変調用の搬送信号と復調用の搬送信号の双方を、送受信間の伝送特性の帯域中心に対してずれて設定可能なように(つまり第2の周波数シフト手法を適用可能なように)、送信側と受信側の双方に設定値処理部を設けているが、このことは必須ではない。変調用の搬送信号と復調用の搬送信号の少なくとも一方を、送受信間の伝送特性の帯域中心に対してずれて設定するものであればよく、第1の周波数シフト手法を適用する場合には、Tx帯域とRx帯域の何れか一方の中心を搬送周波数に一致させ、Tx帯域とRx帯域の他方のみを搬送周波数に対してシフトさせればよい。例えば、Tx帯域のみを搬送周波数に対してシフトさせるときには第1設定値処理部7100Jのみを設ければよく、Rx帯域のみを搬送周波数に対してシフトさせるときには第2設定値処理部7200Jのみを設ければよい。
ミリ波帯あるいはその前後の波長帯を用いた機器内や機器間の無線伝送の場合、例えば反射が存在していても固定の反射であるので、受信帯域(復調周波数特性の帯域)及び送信帯域(変調周波数特性の帯域)、送信側及び受信側の増幅器の伝送特性、並びに伝送空間の伝送特性を含む総合的な伝送特性は固定と扱ってもよい。よって、実施例10を適用しない場合と同じ帯域幅を持つ送受信間の伝送特性において、その帯域の中心に対して搬送周波数を伝送特性に応じてずらす際に、ずらし量(設定値の一例)を予め固定しておくことができる。
搬送周波数のずらし量を設定(決定)する際には、例えば、シミュレーション解析結果を参照するのがよい。シミュレーションにおいては、先ず、送信チップ(送信側の半導体チップ103)と受信チップ(受信側の半導体チップ203)のそれぞれについて、振幅特性の測定データから周波数特性を求める。例えば、送信チップの周波数特性としては変調周波数特性を測定する。
具体的には、ミリ波信号伝送路9による影響を無視するべく、つまり送信チップ単体の特性を把握するべく、測定点を増幅部8117の出力端とし、一意の搬送周波数の搬送波で変調信号を変調し、搬送波に対する出力信号の比(変換ゲイン=出力信号/搬送波[dB])の周波数特性を測定する。なお、変調信号(伝送対象信号)はパラレルシリアル変換部8114の前段(例えば図1等に示したLSI機能部104)から供給すればよい。
受信チップの周波数特性としては変換利得の周波数特性を測定する。具体的には、ミリ波信号伝送路9による影響を無視するべく、つまり受信チップ単体の特性を把握するべく、ミリ波信号(無変調波=RF入力)の入力点を増幅部8224の入力端とし、一意の搬送周波数の再生搬送波でミリ波信号を復調し、RF入力に対する復調出力の比(変換ゲイン=復調出力/RF入力[dB])の周波数特性を測定する。なお、復調出力に含まれる直流成分や高調波成分の影響を排除し易くするために、測定点をフィルタ処理部8410の出力端等にしてもよい。
そして、求めた両チップの各周波数特性の合成(Tx 値・Rx値)によるデータ点を、2次関数や3次関数により、近似、外挿(補外:Extrapolation)することで、総合周波数特性を求める(近似する)。ミリ波信号伝送路9の周波数特性が、伝送帯域範囲内では平坦かつ無損失と仮定すると、求めた総合周波数特性は、受信系の信号入力端(LSI機能部104)から送信系の信号出力端(LSI機能部204)までの総合的な周波数特定と考えることができる。その後、近似した総合周波数特性をベースバンド側に搬送周波数の分だけ遷移(シフト)する。この状態で、I軸成分(同相成分)とQ軸成分(直交成分)のインパルス応答をシミュレーションし、その結果からデータ伝送能力を考察する。又、周波数特性の非対称性とインパルスレスポンスの関係から、伝送データの高速化の条件を考察して、周波数シフト量を決めればよい。高速通信を行なうためには広い帯域が必要であるが、広い帯域を得ることが困難な場合もある。そのような場合でも、実施例10の周波数シフトは実体的には帯域幅を広げるものではないので効果が高い。この場合の総合周波数特性は“Tx 値・Rx値”で示されミリ波信号伝送路9の伝送特性を加味していないが、実際には、その特性も影響されるので、ミリ波信号伝送路9の伝送特性分をTRx 値とした場合、全体的な周波数特性の合成は“Tx 値・Rx値・TRx 値”とすればよい。
例えば、図37(A)に示すように、比較例は、通常の振幅を変調する場合(例えば特表2005−513866号公報を参照)と同様に、受信帯域(復調周波数特性の帯域)及び送信帯域(変調周波数特性の帯域)に対して、中心に搬送周波数を設定する例である。この場合、高速通信を行なうためには、広い周波数帯域が必要である。しかしながら、送信系統、伝送路(ミリ波信号伝送路9と対応)、受信系統の各周波数帯域を広くするには限度がある。ミリ波帯に代えてサブミリ波帯を使用する等、搬送周波数の使用帯域を波長のより短い帯域に設定することで伝送データの高速化に対応しようとしても、無限に対応できるものではなく、装置構成上限界がでてくる。
一方、図37(B)に示す実施例10の第1基本例は、第1の周波数シフト手法を適用したもので、Rx帯域の中心は搬送周波数ωcに一致させ、Tx帯域のみを搬送周波数ωcに対して上側にシフトした場合を示している。図示しないが、Rx帯域の中心は搬送周波数ωcに一致させ、Tx帯域のみを搬送周波数ωcに対して下側にシフトしてもよい。又、図示しないが、Tx帯域の中心は搬送周波数ωcに一致させ、Rx帯域のみを搬送周波数ωcに対して上側又は下側にシフトしてもよい。実際の周波数配置の設定に当たっては、測定等で求めた送信帯域(変調周波数特性の帯域)の中心に対して、送信側局部発振部8304が使用する搬送周波数の設定をずらすことで実現する。
図37(C)に示す実施例10の第2基本例は、第2の周波数シフト手法を適用したもので、Tx帯域とRx帯域の双方を搬送周波数ωcに対して上側にシフトした場合を示している。図示しないが、Tx帯域とRx帯域の双方を搬送周波数ωcに対して下側にシフトしてもよい。なお、Tx帯域とRx帯域の搬送周波数ωcに対するシフト方向は同一であることが必要であり、互いに逆方向にシフトさせたのでは(殆ど)効果がない。実際の周波数配置の設定に当たっては、測定等で求めた受信帯域(復調周波数特性の帯域)の中心に対して、受信側局部発振部8404が使用する再生搬送波の周波数(つまり送信側局部発振部8304が使用する搬送周波数)の設定をずらすことで実現する。
[実施例10の作用効果]
実施例10の第1の周波数シフト手法や第2の周波数シフト手法を適用して、Tx帯域やRx帯域を搬送周波数の中心に対してずらすことで広帯域伝送が可能となるのは、次のことに由来する。実施例10の周波数シフトを適用した場合、非対称性によって虚数軸成分が大きく復調されるが、同期検波によりベースバンド化すれば、この虚数軸成分の影響を抑制できる。周波数軸の関係で説明すると、いわゆる折返しにより、送信系統Txと受信系統Rxのそれぞれは実体的な伝送帯域が広がることはないが、両者の合成による総合的な周波数帯域が見かけ上拡大される。インパルスレスポンスの関係で説明すれば、虚数軸成分のインパルスレスポンス(Impulse Responses at Different Phases)は、パルス幅が狭くなるので、より高速の伝送ができる。送信系統Txと受信系統Rxの周波数特性を搬送波に対してずらすことで、送信系統Txと受信系統Rxのそれぞれについては実体的な伝送帯域を広げずに広帯域伝送が可能になる。ただし、同期検波用の搬送周波数(局部発振周波数)に対する虚数軸成分が大きい。つまり、図37(B)に示す第1基本例や図37(C)に示す第2基本例のように非対称な周波数特性で用いた方が、インパルスの幅は狭くなり高速のデータが送れるが、同期検波用の局部発振器(搬送波再生部8403)から出力される再生搬送波(いわゆる局部発振波、局発)の位相ずれには敏感になる。
[参考例との比較]
無線通信の分野では、高速信号伝送とそのための占有周波数帯域(の低減)の両立を図ることが、効率的な装置構築に必要な条件となる。例えば、振幅変調の周波数スペクトラムは、搬送周波数を中心として、送信対象信号のスペクトラムが両方の側波帯に保存される。搬送波成分を抑圧しつつ、両側波帯をそのまま伝送する方式がDSB(Double Side Band-Suppressed Carrier :両側波帯)伝送であり、上側波帯と下側波帯の何れか一方だけを伝送する方式がSSB(Single Side Band-Suppressed Carrier :単側波帯)伝送である。DSB伝送は搬送波を抑圧して伝送するものであり電力効率は良好である。しかし、DSB伝送では搬送波を抑圧するための理想的な帯域通過フィルタが必要となり、直流成分や直流近傍の低周波成分の信号伝送が難しくなる。通常のAM変調はこれに対応できるが広い占有周波数帯域が必要である。又、DSB伝送は、通常のAM変調と同様に、伝送対象信号の帯域幅に対して2倍の帯域幅が必要である。SSB伝送は、DSB伝送と同様に搬送波を抑圧して伝送するものであり電力効率は良好である。又、SSB伝送は、伝送対象信号の帯域幅と同じ帯域幅でよいが、片側の側波帯のみとするための理想的な帯域通過フィルタが必要となる。
一方、DSB伝送とSSB伝送の中間に相当する方式として、VSB(Vestigial SideBand)伝送がある。VSB伝送では、SSB伝送で必要とされるフィルタの遮断周波数特性を緩やかにして、搬送周波数の付近でなだらかな遮断特性をもつフィルタを通してAM変調された高周波信号における消去する側波帯のスペクトラムを少し残留させたVSB信号を伝送する。受信側では、搬送周波数の部分で点対称な遮断特性を呈するVSBフィルタを用いて受信する。復調はSSB方式と同じように行なうが、VSBフィルタの位相特性が直線であれば、搬送波の左側の成分が右に折り返されて重なるので復調された信号は平坦な特性となり、受信信号から正しい信号を復元することができる。VSB伝送は、直流成分の伝送と比較的狭い占有周波数帯域を両立させる方式であるといえる。
ここで、実施例10の周波数シフト方式における周波数配置は、一見すると、VSB伝送での周波数配置に似通っている。しかしながら、VSB伝送は、送信側及び受信側の双方で特定のフィルタが必要であるのに対して、実施例10の周波数シフト方式はこれらのフィルタに相当するものを使用しない点で異なる。これは、実施例10では、VSB伝送における送受信でのフィルタ処理と等価な処理を、送信側の増幅部8117や受信側の増幅部8224の使用帯域の設定(周波数シフト)により行なっていることに基づく。又、VSB伝送は、周波数利用効率を高めつつ、直流付近の情報の伝送を確実にすることを目的として、搬送波に対して片側の側波帯の全部と他方の側波帯の一部(搬送波側)を使用するようにしている。これに対して、実施例10の周波数シフト方式は、搬送周波数を帯域(詳しくは送受信間の伝送帯域:前例では総合周波数特性の帯域)の中心に対してずらすことで高速伝送を可能にするものであり、作用効果の相違もある。VSB伝送と実施例10の周波数シフト方式は、見かけ上、周波数配置が同じように見えるというだけであり、VSB伝送には「送受信間の伝送帯域の中心に対して搬送周波数をずらす」という実施例10の周波数シフト方式が採用している技術思想は存在しない。
実施例11は、前述の各実施例のパラメータ設定の固定化を電子機器へ適用する事例である。以下に3つの代表的な事例を示す。
[第1例]
図38は、実施例11の電子機器の第1例を説明する図である。第1例は、1つの電子機器の筐体内で無線により信号伝送を行なう場合での適用例である。電子機器としては固体撮像装置を搭載した撮像装置への適用例で示す。この種の撮像装置は、例えばデジタルカメラやビデオカメラ(カムコーダ)あるいはコンピュータ機器のカメラ(Webカメラ)等として市場に流通される。
第1通信装置(通信装置2に相当)が制御回路や画像処理回路等を搭載したメイン基板に搭載され、第2通信装置(通信装置2に相当)が固体撮像装置を搭載した撮像基板(カメラ基板)に搭載されている装置構成となっている。
撮像装置500の筐体590内には、撮像基板502とメイン基板602が配置されている。撮像基板502には固体撮像装置505が搭載される。例えば、固体撮像装置505はCCD(Charge Coupled Device)で、その駆動部(水平ドライバや垂直ドライバ)も含めて撮像基板502に搭載する場合や、CMOS(Complementary Metal-oxide Semiconductor)センサの場合が該当する。
メイン基板602に第1通信装置として機能する半導体チップ103を搭載し、撮像基板502に第2通信装置として機能する半導体チップ203を搭載する。図示しないが、撮像基板502には、固体撮像装置505の他に撮像駆動部等周辺回路が搭載され、又、メイン基板602には画像処理エンジンや操作部や各種のセンサ等が搭載される。
半導体チップ103と半導体チップ203のそれぞれには、基準信号送信装置5の機能を組み込むとともに基準信号受信装置7の機能も組み込む。さらに、半導体チップ103と半導体チップ203のそれぞれには、送信チップ8001や受信チップ8002と同等の機能を組み込む。送信チップ8001と受信チップ8002の両機能を組み込むことで双方向通信にも対処できる。これらの点は、後述する他の適用事例でも同様である。
固体撮像装置505や撮像駆動部は、第1通信装置側のLSI機能部のアプリケーション機能部に該当する。LSI機能部には送信側の信号生成部が接続され、さらに伝送路結合部を介してアンテナ236と接続される。信号生成部や伝送路結合部は固体撮像装置505とは別の半導体チップ203に収容してあり撮像基板502に搭載される。
画像処理エンジンや操作部や各種のセンサ等は第2通信装置側のLSI機能部のアプリケーション機能部に該当し、固体撮像装置505で得られた撮像信号を処理する画像処理部が収容される。LSI機能部には受信側の信号生成部が接続され、さらに伝送路結合部を介してアンテナ136と接続される。信号生成部や伝送路結合部は画像処理エンジンとは別の半導体チップ103に収容してありメイン基板602に搭載される。
送信側の信号生成部は例えば、多重化処理部、パラレルシリアル変換部、変調部、周波数変換部、増幅部等を具備し、受信側の信号生成部は例えば、増幅部、周波数変換部、復調部、シリアルパラレル変換部、単一化処理部等を具備する。これらの点は、後述する他の適用事例でも同様である。
アンテナ136とアンテナ236との間で無線通信が行なわれることで、固体撮像装置505で取得される画像信号は、アンテナ間の無線信号伝送路9を介してメイン基板602へと伝送される。双方向通信に対応するように構成してもよく、この場合例えば、固体撮像装置505を制御するための基準クロックや各種の制御信号は、アンテナ間の無線信号伝送路9を介して撮像基板502へと伝送される。
図38(A)及び図38(B)の何れも、2系統のミリ波信号伝送路9が設けられている。後述の第2例と同様に、ミリ波信号伝送路9を1系統としてもよい。図38(A)では自由空間伝送路9Bとしているが、図38(B)では中空導波路9Lとしている。中空導波路9Lとしては、周囲が遮蔽材で囲まれ内部が中空の構造であればよい。たとえば、周囲が遮蔽材の一例である導電体MZで囲まれ内部が中空の構造にする。たとえば、メイン基板602上にアンテナ136を取り囲む形で導電体MZの囲いが取り付けられている。アンテナ136と対向する位置に撮像基板502側のアンテナ236の移動中心が配置されるようにする。導電体MZの内部が中空であるので誘電体素材を使用する必要がなく低コストで簡易にミリ波信号伝送路9を構成できる。
第1例では、1つの筐体内に半導体チップ103と半導体チップ203が配置され、送信部と受信部の配置位置が変化しない機器内通信が実行される。送受信間の伝送条件が実質的に変化しない(つまり固定である)環境になるから、送信部と受信部との間の伝送特性を予め知ることができる。その伝送特性に基づき、例えば、実施例1の振幅調整等の送受信の動作を規定するパラメータ設定を固定(プリセット)にする。
[第2例]
図39は、実施例11の電子機器の第2例を説明する図である。第2例は、複数の電子機器が一体となった状態での電子機器間で無線により信号伝送を行なう場合での適用例である。特に、一方の電子機器が他方の電子機器に装着されたときの両電子機器間の信号伝送への適用である。
例えば、中央演算処理装置(CPU)や不揮発性の記憶装置(例えばフラッシュメモリ)等が内蔵されたいわゆるICカードやメモリカードを代表例とするカード型の情報処理装置を本体側の電子機器に装着可能(着脱自在)にしたものがある。一方(第1)の電子機器の一例であるカード型の情報処理装置を以下では「カード型装置」とも称する。本体側となる他方(第2)の電子機器を以下では単に電子機器とも称する。
メモリカード201Bの構造例(平面透視及び断面透視)が図39(A)に示されている。電子機器101Bの構造例(平面透視及び断面透視)が図39(B)に示されている。 電子機器101Bのスロット構造4(特に開口部192)にメモリカード201Bが挿入されたときの構造例(断面透視)が図39(C)に示されている。
スロット構造4は、電子機器101Bの筺体190にメモリカード201B(その筐体290)を開口部192から挿抜して固定可能な構成となっている。スロット構造4のメモリカード201Bの端子との接触位置には受け側のコネクタ180が設けられる。無線伝送に置き換えた信号についてはコネクタ端子(コネクタピン)が不要である。
図39(A)に示すようにメモリカード201Bの筐体290に円筒状の凹形状構成298(窪み)を設け、図39(B)に示すように電子機器101Bの筺体190に円筒状の凸形状構成198(出っ張り)を設けている。メモリカード201Bは、基板202の一方の面に半導体チップ203を有し、基板202の一方の面にはアンテナ236が形成されている。筐体290は、アンテナ236と同一面に凹形状構成298が形成され、凹形状構成298の部分が無線信号伝送可能な誘電体素材を含む誘電体樹脂で構成される。
基板202の一辺には、筐体290の決められた箇所で電子機器101Bと接続するための接続端子280が決められた位置に設けられている。メモリカード201Bは、低速・小容量の信号用や電源供給用に、従前の端子構造を一部に備える。ミリ波での信号伝送の対象となり得るものは、図中に破線で示すように、端子を取り外している。
図39(B)に示すように、電子機器101Bは、基板102の開口部192側の面に半導体チップ103を有し、基板102の一方の面にアンテナ136が形成されている。筺体190は、スロット構造4として、メモリカード201Bが挿抜される開口部192が形成されている。筺体190には、メモリカード201Bが開口部192に挿入されたときに、凹形状構成298の位置に対応する部分に、ミリ波閉じ込め構造(導波路構造)を持つ凸形状構成198が形成され誘電体伝送路9Aとなるように構成されている。
図39(C)に示すように、スロット構造4の筺体190は開口部192からのメモリカード201Bの挿入に対し、凸形状構成198(誘電体伝送路9A)と凹形状構成298が凹凸状に接触するようなメカ構造を有する。凹凸構造が嵌合するときに、アンテナ136とアンテナ236が対向するとともに、その間に無線信号伝送路9として誘電体伝送路9Aが配置される。メモリカード201Bは、誘電体伝送路9Aとアンテナ236の間に筐体290を挟むが、凹形状構成298の部分の素材が誘電体素材であるのでミリ波帯での無線伝送に大きな影響を与えるものではない。
第2例では、半導体チップ103と半導体チップ203のそれぞれが各別の筐体内に配置されることになるが、その場合でも、メモリカード201Bがスロット構造4に装着された使用状態のときには、送信部と受信部の配置位置が予め定められた状態で無線通信が実行される。第1例と同様に、送受信間の伝送条件が実質的に変化しない(つまり固定である)環境になるから、送信部と受信部との間の伝送特性を予め知ることができる。その伝送特性に基づき、例えば、実施例1の振幅調整等の送受信の動作を規定するパラメータ設定を固定(プリセット)にする。
[第3例]
図40は、実施例11の電子機器の第3例を説明する図である。信号伝送装置1は、第1の電子機器の一例として携帯型の画像再生装置201Kを備えるとともに、画像再生装置201Kが搭載される第2(本体側)の電子機器の一例として画像取得装置101Kを備えている。画像取得装置101Kには、画像再生装置201Kが搭載される載置台5Kが筐体190の一部に設けられている。なお、載置台5Kに代えて、第2例のようにスロット構造4にしてもよい。一方の電子機器が他方の電子機器に装着されたときの両電子機器間において、無線で信号伝送を行なうという点では第2例と同じである。以下では、第2例との相違点に着目して説明する。
画像取得装置101Kは概ね直方体(箱形)の形状をなしており、もはやカード型とは言えない。画像取得装置101Kとしては、例えば動画データを取得するものであればよく、例えばデジタル記録再生装置や地上波テレビ受像機が該当する。画像再生装置201Kには、アプリケーション機能部として、画像取得装置101K側から伝送されてくる動画データを記憶する記憶装置や、記憶装置から動画データを読み出して表示部(例えば液晶表示装置や有機EL表示装置)にて動画を再生する機能部が設けられる。構造的には、メモリカード201Bを画像再生装置201Kに置き換え、電子機器101Bを画像取得装置101Kに置き換えたと考えればよい。
載置台5Kの下部の筺体190内には、例えば第2例(図39)と同様に、半導体チップ103が収容されており、ある位置にはアンテナ136が設けられている。アンテナ136と対向する筺体190の部分には、無線信号伝送路9として誘電体素材により誘電体伝送路9Aが構成されるようにしてある。載置台5Kに搭載される画像再生装置201Kの筺体290内には、例えば第2例(図39)と同様に、半導体チップ203が収容されており、ある位置にはアンテナ236が設けられている。アンテナ236と対向する筺体290の部分は、誘電体素材により無線信号伝送路9(誘電体伝送路9A)が構成されるようにしてある。これらの点は前述の第2例と同様である。
第3例は、嵌合構造という考え方ではなく壁面突当て方式を採り、載置台5Kの角101aに画像取得装置101Kが突き当てられるように置かれたときにアンテナ136とアンテナ236が対向するようにしているので、位置ズレによる影響を確実に排除できる。このような構成により、載置台5Kに対する画像再生装置201Kの搭載(装着)時に、画像再生装置201Kの無線信号伝送に対する位置合せ行なうことが可能となる。アンテナ136とアンテナ236との間に筐体190と筐体290を挟むが、誘電体素材であるのでミリ波帯での無線伝送に大きな影響を与えるものではない。
第3例では、第2例と同様に、半導体チップ103と半導体チップ203のそれぞれが各別の筐体内に配置されることになるが、その場合でも、画像取得装置101Kが載置台5Kに搭載された使用状態のときには、送信部と受信部の配置位置が予め定められた状態で無線通信が実行される。第1例や第2例と同様に、送受信間の伝送条件が実質的に変化しない(つまり固定である)環境になるから、送信部と受信部との間の伝送特性を予め知ることができる。その伝送特性に基づき、例えば、実施例1の振幅調整等の送受信の動作を規定するパラメータ設定を固定(プリセット)にする。