JP2012016333A - 細胞膜上分子と相互作用する化合物の検出方法 - Google Patents

細胞膜上分子と相互作用する化合物の検出方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、標識用化合物の非選択的な結合を極力排除し、細胞膜において標的分子と相互作用する化合物を高精度で検出できる方法と、当該方法で用い得るキットを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る細胞膜上分子と相互作用する化合物を検出する方法は、標的細胞膜上分子への選択的結合部分とラジカル化促進部分とを有する化合物を、細胞に作用させる工程;特定の化合物(I)を、さらに細胞に作用させる工程;および、化合物(I)が結合した化合物を特定する工程を含むことを特徴とする。
【選択図】なし

Description

本発明は、細胞膜上分子と相互作用する化合物を検出する方法と、当該方法を実施するためのキットに関するものである。
細胞膜を構成するリン脂質二重層中には、多数のタンパク質やリン脂質以外の脂質などが存在しており、増殖因子受容体や細胞接着因子、イオンチャネル等として機能しているものがある。これら細胞膜上分子は、細胞膜内を比較的自由に移動することができ、集合や解離を繰り返している。特に、細胞膜上分子が複数集合し、細胞膜表面に露出したラフトと呼ばれるものは、細菌やウィルスなどの受容体や、細胞外情報が細胞内に伝達される際のプラットフォームになるなど、重要な役割を担う。よって、ある細胞膜上分子が、他のいかなる細胞膜上分子と協働して機能するかを知ることは、生化学的研究において極めて重要である。
ところが、細胞膜上分子間の相互作用の解析は、非常に難しい。例えば、ある標的タンパク質と相互作用するタンパク質を分離検出する方法として、標的タンパク質に特異的な抗体を作用させて選択的に沈殿させる免疫沈降法が知られている。しかし、この方法では、標的タンパク質と他のタンパク質が生理条件下で相互作用した状態を反映させるのは困難である。何故ならこの方法では、細胞膜上で標的タンパク質に他のタンパク質が相互作用している場合であっても、細胞膜から標的タンパク質を分離した段階でかかる相互作用が解消される可能性があるためである。また、生細胞の細胞膜上では相互作用していないにも関わらず、タンパク質の分離段階で擬性の相互作用が生じる場合もある。
他には、標的タンパク質にクロスリンカーを結合し、相互作用するタンパク質と架橋させて特定するクロスリンカー法が知られている。しかし、当該方法では、クロスリンカー分子の長さと形状が固定されるため、架橋され検出されるのは一部の密着したタンパク質のみとなる。その結果、このクロスリンカー法による細胞膜上分子間の相互作用の解析では、成功例が少ない。
従って、上記以外の方法で、細胞膜上分子間の相互作用を検出することに特化した技術が検討されている。
本発明者らは、細胞膜上分子間の相互作用を検出するための技術を開発している(特許文献1)。当該技術では、先ず、細胞膜上の標的分子へ選択的に結合するものであり、且つ西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)などラジカル化を促進する化合物(第1試薬)を細胞に作用させた後、さらにラジカル化される基と標識基とを有する化合物(第2試薬)を作用させる。その結果、標的分子へ選択的に結合した第1試薬のHRPなどにより第2試薬がラジカル化され、標的分子の近傍に存在する化合物へ結合する。第2試薬は標識基を有するため、細胞膜において標的分子と相互作用をしていた化合物を特定することができる。なお、特許文献1には、第2試薬の標識基として、ビオチン、蛍光発色基、放射性同位元素含有基、標識ペプチド、ハプテンが例示されている。
国際公開第2008/093595号パンフレット
上述したように、本発明者らは、細胞膜において標的分子と相互作用している化合物を検出するための技術を開発している(特許文献1)。しかし、当該技術にも依然として問題があった。
即ち、特許文献1で具体的に開示されている試薬を用いて反応を行ったところ、標的分子へ選択的に結合する第1試薬を用いない場合であっても多数の化合物が標識され、標的分子と相互作用する化合物の検出が難しいことがあった。
そこで、本発明は、標識用化合物の非選択的な結合を極力排除し、細胞膜において標的分子と相互作用する化合物を高精度で検出できる方法と、当該方法で用い得るキットを提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、上記特許文献1には標識基として多くの置換基が例示されている一方で、実際に合成されている試薬は標識基としてビオチンを有するもののみであったところ、アジドアリール基と共にフルオレセイン誘導体基を有する試薬を用いれば、非選択的な結合を有効に排除でき、標的分子と相互作用する化合物を高い精度をもって検出できることを見出して、本発明を完成した。
具体的には、標識基としてビオチンを有する上記特許文献1の試薬では、非選択的な結合を排除しきれないことがあった。即ち、上記の第1試薬を使う場合でも、また、使わない場合でも、標的分子と相互作用しない多くの化合物が第2試薬により標識されてしまうことがあった。本発明者らの実験によれば、かかる非選択的な結合は、特に、核、ミトコンドリア、ペルオキシソームなど比較的重い細胞内小器官を含む画分で顕著に見られたことから、第2試薬が細胞内に取り込まれ、細胞内のペルオキシダーゼによりラジカル化されることが原因であると考えられた。
一方、本発明方法によれば、上述したような非選択的結合が顕著に抑制され、標的分子と相互作用する化合物をより高い精度で検出することができた。その理由としては、当初、ビオチン基に対してフルオレセイン誘導体基が構造的に大きいために第2試薬が細胞膜を通過できないことが予測されたが、共焦点顕微鏡による観察の結果、本発明に係る第2試薬も温度依存的に細胞内に取り込まれることが明らかにされた。また、フルオレセイン基と同じく蛍光発色基である4−フルオロ−7−ニトロベンゾフラザン基を有する第2試薬を用いた場合には、非選択的結合を十分に抑制することはできなかった。本発明方法によれば、第2試薬が細胞内に取り込まれるにもかかわらず非選択的結合が顕著に抑制される理由は必ずしも明らかではないが、標識基の選択により著しい精度の向上が見られたことは驚くべきことであった。
本発明に係る細胞膜上分子と相互作用する化合物を検出する方法は、
標的細胞膜上分子への選択的結合部分とラジカル化促進部分とを有する化合物を、細胞に作用させる工程;
式(I)で表される化合物を、さらに細胞に作用させる工程;
X−Y−Z−N3 (I)
[式中、Xは蛍光フルオレセイン誘導体基を示し、Yはリンカー基を示し、Zは置換基を有していてもよいC6-12アリーレン基を示す]
化合物(I)が結合した化合物を特定する工程
を含むことを特徴とする。
本発明において「C6-12アリーレン基」は、炭素数が6〜12の二価芳香族炭化水素基を意味する。例えば、フェニレン基、インデニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基等であり、好適にはフェニレン基である。
6-12アリーレン基の置換基は、反応を阻害するものでない限り特に制限されないが、例えば、C1-6アルキル基、C1-6アルコキシ基、C1-7アシル基、水酸基、カルボキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基およびシアノ基からなる群より選択される1以上の置換基を挙げることができる。
本発明において「C1-6アルキル基」とは、炭素数が1〜6の直鎖状または分枝鎖状の一価脂肪族炭化水素基を意味する。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソアミル基、ヘキシル基などを挙げることができ、C1-4アルキル基がより好ましく、C1-2アルキル基がより好ましく、メチル基がより好ましい。
「C1-6アルコキシ基」とは、炭素数が1〜6の直鎖状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素オキシ基を意味する。例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペントキシ基、n−ヘキソキシ基等であり、好ましくはC1-4アルコキシ基であり、より好ましくはC1-2アルコキシ基であり、最も好ましくはメトキシ基である。
「C1-7アシル基」とは、ホルミル基、または上記C1-6アルキル基に置換されたカルボニル基を意味する。例えば、ホルミル基、アセチル基、エチルカルボニル基、イソプロピルカルボニル基、t−ブチルカルボニル基、イソアミルカルボニル基、n−ヘキシルカルボニル基などを挙げることができ、C2-4アシル基が好ましく、C2-3アシル基がより好ましく、アセチル基がより好ましい。
「ハロゲン原子」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子を例示することができ、塩素原子または臭素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
6-12アリーレン基上の置換基の数は、置換が可能であれば、1つであっても複数であってもよい。また、当該置換基が複数である場合、置換基は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
上記本発明方法において、ラジカル化促進部分としては西洋ワサビペルオキシダーゼまたはヘム化合物を挙げることができ、また、蛍光フルオレセイン誘導体基としてはフルオロセイン基を挙げることができる。
また、化合物(I)が結合した化合物の特定方法としては、SDS−PAGEを挙げることができる。
本発明に係るキットは、上記本発明方法を実施するためのキットであって、
標的細胞膜上分子への選択的結合部分とラジカル化促進部分とを有する化合物、および
式(I)で表される化合物
X−Y−Z−N3 (I)
[式中、Xは蛍光フルオレセイン誘導体基を示し、Yはリンカー基を示し、Zは置換基を有していてもよいC6-12アリーレン基を示す]
を含むことを特徴とする。
本発明方法によれば、細胞膜上に存在する生体分子と相互作用する化合物を、生細胞を用いて、極めて高い精度で広く検出することができる。その際、相互作用するであろう化合物を事前に予測し、単離して使用する必要がない。その上、本発明方法は非常に簡便かつ低コストで実施することができる。さらに本発明方法によれば、通常の蛍光化合物の検出手段によって、二次抗体などを用いなくても、上記化合物を直接検出することも可能である。従って、本発明方法および本発明方法を実施するためのキットは、生化学研究のみならず、薬剤開発などにも利用できるものとして、産業上極めて重要である。
図1は、本発明に係る方法(EMARS(Enzyme-Mediated Activation of Radical Source)反応)を実施した結果を示すSDS−PAGEゲルの写真である。 図2は、本発明に係る第2試薬の分布を示す顕微鏡写真である。Aはヒト子宮頸がん細胞での結果を示し、BはヒトB細胞リンパ腫細胞での結果を示す。 図3は、本発明に係る方法(EMARS反応)を実施した結果を示すSDS−PAGEゲルの写真である。 図4は、本発明に係る方法(EMARS反応)を実施した結果を示すSDS−PAGEゲルの写真である。 図5は、本発明に係る方法(EMARS反応)を実施した結果を示すSDS−PAGEゲルの写真である。 図6は、NBDを有する第2試薬を用いてEMARS反応を行った結果を示すSDS−PAGEゲルの写真である。 図7は、標識基としてビオチン基を有する第2試薬を用いてEMARS反応を行った結果を示すSDS−PAGEゲルの写真である。 図8は、ウシ血清アルブミン(BSA)に本発明に係る第2試薬を接合させたものをSDS−PAGEにより分離した結果を示すゲルの写真である。 図9は、本発明に係る方法(EMARS反応)を実施した試料から、免疫沈降法を用いてEMARS反応産物を精製・濃縮した結果を示すSDS−PAGEゲルの写真である。
本発明に係る細胞膜上分子と相互作用する化合物を検出する方法は、
標的細胞膜上分子への選択的結合部分とラジカル化促進部分とを有する化合物を、細胞に作用させる工程(以下、「第一工程」という);
式(I)で表される化合物を、さらに細胞に作用させる工程(以下、「第二工程」という);
X−Y−Z−N3 (I)
[式中、Xは蛍光フルオレセイン誘導体基を示し、Yはリンカー基を示し、Zは置換基を有していてもよいC6-12アリーレン基を示す]
化合物(I)が結合した化合物を特定する工程(以下、「第三工程」という)
を含む。
本発明方法は、細胞膜上に存在する生体分子と相互作用する化合物を検出するものである。よって、本発明方法によれば、標的となる細胞膜上分子の役割に関する基礎的な研究や、組織間における相互作用の相違を検出することなどが可能になる。例えば、がん細胞と正常細胞における相違を明らかにでき、治療薬を開発するための情報を提供できる可能性がある。
細胞膜には様々な細胞膜上分子が存在する。例えば細胞膜上に存在するタンパク質としては、リン脂質二重層の表層に存在する表在性タンパク質や、少なくとも一部がリン脂質二重層中に存在する内在性タンパク質などがある。本発明において「細胞膜上」に存在するとは、少なくとも一部が細胞膜の外側に露出していることを意味する。例えば、細胞膜上タンパク質としては、その一部が細胞内に存在し一部が細胞膜の外側に露出しているものの他、リン脂質に直接結合しているもの、或いは脂質やオリゴ糖を介して細胞膜に結合しているもの、細胞膜の外側に露出しているタンパク質にさらに結合しているものなどがある。当該タンパク質の機能は特に制限されず、例えば、細胞外由来の化合物からの情報を細胞内に伝達したり、また、細胞内の情報を細胞外に伝えるなどの機能などが考えられる。
細胞膜上分子の種類は、特に制限されない。例えば、上述したタンパク質の他、脂質などがある。また、タンパク質に結合した糖鎖の一部または全部が細胞膜外に露出している場合があるが、そのような糖鎖も含むものとする。特に、糖鎖を含む脂質は、細胞膜の重要な構成成分の一つであり、脂質部分はリン脂質二重層に存在しており、糖鎖部分を細胞外に露出している。この糖脂質は、ラフト内に濃縮されて存在しており、ラフトの生成に関与すると考えられる。
「相互作用」の種類は特に制限されず、共有結合や静電結合など具体的な結合のみならず、タンパク質と1以上の化合物が比較的近接し、機能を発揮する場合をいう。
標的となる細胞膜上分子と相互作用する化合物は特に制限されず、例えば、細胞膜中に存在するタンパク質、糖脂質、リン脂質、コレステロールなど、また、イオンやリガンドなど細胞外に由来する情報伝達物質等を例示することができる。
以下、実施の順番に従って、本発明方法を詳細に説明する。
(1)第一工程
本発明では、先ず、標的となる細胞膜上分子への選択的結合部分とラジカル化促進部分とを有する化合物(以下、「第1試薬」という場合がある)を、細胞に作用させる。当該工程によって、標的となる細胞膜上分子へ、ラジカル化機能を有する部分を選択的に結合させることができる。
標的となる細胞膜上分子は、その分子と相互作用する化合物を特定すべきものを適宜選択すればよく、特にその種類などに制限はない。この細胞膜上分子への選択的結合部分は、標的となる細胞膜上分子により適宜選択することができる。例えば、細胞膜上分子に特異的な抗体や、当該分子に結合している糖鎖などに特異的に結合するペプチドなどを挙げることができる。好適には、抗体を用いる。また、当該選択的結合部分は、標的細胞膜上分子に一次抗体を結合させた場合には、この一次抗体を二次的に標識する抗体であってもよい。即ち、本発明で用いる第1試薬は、標的となる細胞膜上分子に対する一次抗体と、当該一次抗体へ結合し且つラジカル化機能を有する部分を有する二次抗体との組合せであってもよい。
ラジカル化促進部分とは、後述する第二工程で用いる化合物(I)のアジド基をラジカル化することができる部分をいう。化合物をラジカル化する際には、通常、過酸化水素などの過酸化物や光などが用いられるが、これらは生細胞にダメージを与え得る。本発明方法は、生細胞の細胞膜における化合物間の相互作用を検出できることを特徴としているため、生細胞にダメージを与えるものは用いないものとする。かかるラジカル化促進部分としては、西洋ワサビペルオキシダーゼなどのペルオキシダーゼや、ヘミンなどのヘム化合物などを例示することができる。
本工程で用いる第1試薬は、細胞膜上分子への選択的結合部分とラジカル化促進部分とを有する。これら部分は、直接結合されていてもよいし、ペプチド鎖やアルキレン基などのリンカー基で結合されていてもよい。かかるリンカー基としては、後述する化合物(I)のリンカー基と同様のものを挙げることができる。これら部分が直接結合されているものとしては、標的細胞膜上分子の抗体等であってラジカル化促進部分で修飾されているものを例示することができる。当該化合物は、市販のものを利用することができ、或いはHRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)標識キット等を使用した常法により調製することができる。
第1試薬を細胞に作用させるには、細胞へ当該化合物の水溶液を添加した上で、インキュベートすればよい。第1試薬の水溶液の濃度は適宜調整すればよいが、通常、培養液に対する濃度で1〜100μg/mL程度とすればよい。インキュベートの条件も、用いる細胞の種類や酵素の至適温度を考慮して適宜調整すればよいが、通常、0℃から37℃程度で10分間〜5時間程度とすればよい。
インキュベート後は、過剰の第1試薬を除去するために細胞を洗浄する。洗浄は、上清を除去した後にPBS等を加え穏やかに攪拌するという操作を数回繰り返せばよい。
(2)第二工程
次に、第一工程を経た細胞へ、下記化合物(I)(以下、「第2試薬」という場合がある)を、さらに細胞に作用させる。
X−Y−Z−N3 (I)
[式中、Xは蛍光フルオレセイン誘導体基を示し、Yはリンカー基を示し、Zは置換基を有していてもよいC6-12アリーレン基を示す]
蛍光フルオレセイン誘導体基は、フルオレセイン誘導体であり且つ蛍光性を示す基であれば特に制限されない。例えば、以下のものを例示することができる。
「リンカー基」は、本発明に係る化合物(I)の製造を容易にする、即ち、蛍光フルオレセイン誘導体基Xとアジドアリール基(−Z−N3)とを結合するためのものである。また、比較的バルキーな蛍光フルオレセイン誘導体基Xにより、ラジカル化されたアジド基の化合物への結合が阻害されないようにするという役割も有する。
「リンカー基」としては、前述した作用を有するものであれば特に限定されないが、例えば、C1-6アルキレン基、アミノ基(−NR−(Rは水素原子またはC1-6アルキル基を示す))、エーテル基(−O−)、チオエーテル基(−S−)、カルボニル基(−C(=O)−)、チオニル基(−C(=S)−);並びに、C1-6アルキレン基、アミノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基およびチオニル基からなる群より選択される2以上の基が直線状に結合した基を挙げることができる。
なお、化合物(I)(第2試薬)は、当業者公知の方法を用い、蛍光フルオレセイン誘導体基Xとアジドアリール基(−Z−N3)を結合させることにより容易に製造できる。例えば、イソチオシアネートやN−ヒドロキシスクシンイミドに置換されたフルオレセインや、同じくN−ヒドロキシスクシンイミドに置換されているフルオレセイン誘導体であるAlexa(登録商標)488などが市販されており、これら置換基は−NH2基と容易に結合できるため、当該化合物と、先端に−NH2基を有する置換基に置換されたアリールアジドとを反応させれば、化合物(I)を製造することができる。
当該工程では、第1試薬を作用させた細胞へ、さらに化合物(I)(第2試薬)を作用させる。当該工程において、標的化合物へ選択的に結合した第1試薬のラジカル化促進部分により第2試薬のアジド基がラジカル化され、近傍の化合物へ結合する。
化合物(I)(第2試薬)は、溶液状態で細胞に添加すればよい。具体的には、10〜100μg/mL程度の水溶液とすればよい。化合物(I)が水に溶解し難い場合には、使用する細胞に悪影響を及ぼさない程度にジメチルスルホキシドやエタノールなどの有機溶媒を添加してもよい。
標的細胞膜上分子に結合した第1試薬のラジカル化促進部分によりラジカル化された第2試薬は、反応性が高いことからラジカルのまま移動できる距離は短いため、標的細胞膜上分子の近傍に存在する分子のみに結合する。例えば、レーザー分子不活性法で生じるヒドロキシラジカルの移動距離は最高で半径約1.5nm、Fluorophore-assisted light inactivation法で生じる一重項酸素ラジカルの移動距離は約10〜50nmであるとの知見がある(J.C.Liaoら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91,2659(1994年);S.Beckら,Proteomics,2,247(2002年)など)。また、本発明者らが金コロイド粒子と電子顕微鏡を使って別途実験を行ったところ、西洋ワサビペルオキシダーゼにより生じたラジカルは、プローブ分子から300nm以内に存在することが示唆された。以上の知見から、本発明に係る反応により生じたラジカルは、標的細胞膜上分子から300nm以内に存在する分子に結合できる一方で、それより離れた位置に存在する分子には結合しないと考えられる。
反応の条件は適宜調整すればよいが、例えば、0℃〜37℃で5分〜1時間程度とすることができる。また、光によるラジカル化を抑制するために、反応は暗所で行うことが好ましい。
上記反応後は、過剰の試薬を洗浄により除去する。より具体的には、上清を除去した後にPBS等で穏やかに攪拌するという操作を数回繰り返せばよい。
(3)第三工程
当該工程では、ラジカル化された化合物(I)(第2試薬)が結合した化合物を特定する。より具体的には、先ず、ホモジェナイザーなどで細胞を物理的に破砕する。その結果、細胞膜は細かく千切れ、ミクロソームと呼ばれる直径約100nmの小胞となる。このミクロソームを、遠心分離などにより核から分離し、得られたミクロソーム画分をlysis bufferなどにより溶解する。
次に、得られた溶解液を用いて、例えば、ウェスタンブロット、抗体アレイ、マススペクトロメトリー、免疫沈降法、免疫組織染色などの常法により、第2試薬により標識された化合物を特定する。
より具体的な方法としては、例えば、先ず得られた溶解液に含まれる化合物を分離する。具体的な分離方法は、生化学分野で一般的に用いられている方法から適宜選択すればよい。例えば、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)やゲル濾過クロマトグラフィなど分子量により化合物を分離できるものや、抗体が結合されているマイクロアレイなどを用いることができる。
化合物を分離した後には、化合物(I)(第2試薬)が結合した化合物を特定する。例えば、使用した蛍光フルオレセイン誘導体基に固有の蛍光波長で解析したり、蛍光フルオレセイン誘導体基に特異的な標識抗体を使って解析すればよい。
本発明のキットは、上記本発明方法を実施するためのキットであって、
標的細胞膜上分子への選択的結合部分とラジカル化促進部分とを有する化合物、および
式(I)で表される化合物
X−Y−Z−N3 (I)
[式中、Xは蛍光フルオレセイン誘導体基を示し、Yはリンカー基を示し、Zは置換基を有していてもよいC6-12アリーレン基を示す]
を含むことを特徴とする。
本発明のキットにおいて、各化合物や特定手段は、本発明方法で説明したものと同様のものを用いることができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
実施例1 フルオレセイン標識アリールアジドの製造
4−アジドサリチル (ω−アミノヘキサメチレン)アミド(33mg,ASAHA)をDMF(5mL)に溶解した。当該溶液へ、フルオレセインイソチオシアネート(40mg,Sigma社製,FITC)をDMF(5mL)に溶解した溶液を添加した。当該反応混合液を、遮光しつつ、室温で12時間反応させた。反応終了後、陽イオン交換樹脂(1mL,Bio−Rad社製,AG−50WX8)を用い、未反応のASAHAを除去した。フルオレセイン標識アリールアジドを含むフラクションを集め、薄層クロマトグラフィによりASAHAが除去されていることを確認した。当該フラクションは、使用時まで−20℃で保管した。以下、得られたフルオレセイン標識アリールアジドは、「FLA」(Fluorescein-Labbeled Arylazide)と略記する場合がある。
比較例1 NBD標識アリールアジドの製造
ASAHA(14mg)をDMF(5mL)に溶解した。当該溶液へ、4−フルオロ−7−ニトロベンゾフラザン(NBD,3.1mg,Sigma社製)をDMF(5mL)に溶解した溶液を添加した。以降は上記実施例1と同様にして、NBD標識アリールアジドの溶液を得た。以下、得られたNBD標識アリールアジドは、「NLA」(NBD-Labbeled Arylazide)と略記する場合がある。
実施例2 本発明方法(EMARS(Enzyme-Mediated Activation of Radical Source)反応)の実施
ヒト子宮頸がん細胞(HeLa S3 cell)とヒトグリオーマ細胞(T98 human glioma cell)を、5%CO2を含む加湿雰囲気下、10%ウシ胎仔血清(FBS)が添加されたRPMI1640培地中、37℃で培養した。
別途、マウスハイブリドーマTS2/16細胞をASF104培地(味の素社製)で培養した。当該培地の上清から、プロテインG−セファロース(Amersham Bioscience社製)を用い、抗β1インテグリンモノクローナル抗体TS2/16を精製した。
上記各細胞をPBSで1回洗浄した後、上記抗β1インテグリンモノクローナル抗体TS2/16の5μg/mL PBS溶液を加え、室温で20分間処理した。さらに、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)が結合した抗マウスIgG二次抗体(Promega社製)の5μg/mL PBS溶液を加え、室温で20分間処理した。また、比較試料(ネガティブコントロール試料)として、抗β1インテグリンモノクローナル抗体TS2/16を用いない以外は同様の処理を行った試料を用意した。細胞を洗浄した後、上記実施例1で製造したFLAの0.1mM PBS溶液を加え、遮光下、室温で15分間インキュベートした。次いで、細胞をPBSにて2回洗浄した後、100mM Tris−HCl(500μL)を入れたプラスチックチューブに集めた。当該細胞懸濁液をシリンジ針によりホモジェナイズすることにより、細胞膜を破壊した。得られた細胞破壊液を800gで5分間遠心分離することにより、細胞核を沈殿させた。さらに、その上清を20,000gで15分間遠心分離することにより、細胞膜成分を含むミクロソーム画分を沈殿させた。各沈殿物を100mM Tris−HCl(pH7.4)で洗浄した後、溶解バッファー(20mM Tris−HCl(pH7.4),150mM塩化ナトリウム,5mM EDTA,1% NP−40,10%グリセロール)で溶解した。
続いて、各試料をSDS−PAGE(ゲル濃度:8%または10%,非還元性条件下)に付した後、ゲルをPVDF膜にブロットし、ヤギ抗FITC抗体(Rockland社製)とHRP接合抗ヤギIgG抗体(Santa Cruz社製)で処理した後、イモビロンウェスタンブロッティング化学発光検出試薬(Millipore社製)で検出した。結果を図1に示す。
図1のとおり、ミクロソーム画分(20,000gの遠心分離で得られた画分)においては、抗β1インテグリンモノクローナル抗体を用いなかった場合(ネガティブコントロール試料)にはバンドはほとんど見られないのに対して、抗β1インテグリンモノクローナル抗体を用いたEMARS(Enzyme-Mediated Activation of Radical Source)反応試料では、膜タンパク質であるβ1インテグリンと相互作用すると考えられるタンパク質のバンドが検出されている。一方、細胞核画分(800gの遠心分離で得られた画分)においては、ヒトグリオーマ細胞で一部バンドが見られるのみで、本発明に係る第2試薬の非特異的な結合はほぼ見られないことが証明された。
実施例3 本発明に係る第2試薬の動態
ヒト子宮頸がん細胞(HeLa S3 cell)を35mmガラス底皿(松浪硝子工業社製)上で16時間培養した。培養細胞へ、上記実施例1で製造したFLAの0.1mM PBS溶液を添加した後、4℃、室温または37℃で15分間処理した。
また、別途、ヒトB細胞リンパ腫細胞(Daudi human B-cell lymphoma cell)をプラスチックチューブに集め、上記実施例1で製造したFLAの0.1mM PBS溶液を添加した後、上記と同様に処理した。
上記処理細胞をPBSで注意深く洗浄し、共焦点レーザースキャン顕微鏡(オリンパス社製,FLUOVIEW FV1000)で観察した。ヒト子宮頸がん細胞での結果を図2Aに、ヒトB細胞リンパ腫細胞での結果を図2Bに示す。
図2のとおり、ヒト子宮頸がん細胞でもヒトB細胞リンパ腫細胞においても、温度が高まるほど本発明に係る第2試薬(実施例1のFLA)は細胞内に多く取り込まれることが明らかとなった。上記実施例2において、本発明方法によれば非選択的な結合が抑制され、標的細胞膜分子と相互作用する化合物を高精度で検出できる理由は、当初、第2試薬が細胞内に取り込まれ難いことによると考えていた。しかし、本発明に係る第2試薬が細胞内に取り込まれながらも、細胞内の内因性酵素の影響を受けることなく、非選択的な結合を起こさないことは、予想外の結果であった。
実施例4 本発明方法(EMARS反応)の実施
上記実施例2と同様に処理したヒト子宮頸がん細胞(HeLa S3 cell)またはヒトグリオーマ細胞(T98 human glioma cell)をSDS−PAGE(ゲル濃度:8%または10%,非還元性条件下)に付した後、青色ライトとY515−Diフィルターを備えたLAS−4000 Bio−imaging analyzer(富士フィルム社製)を用い、蛍光モードでゲルを直接分析した。LAS−4000で分析した後、クーマシーブリリアントブルー(CBB)G−250(ナカライテスク社製)を用いてゲルを染色した。ヒト子宮頸がん細胞での結果を図3に、ヒトグリオーマ細胞での結果を図4に示す。
図3〜4のとおり、全てのタンパク質バンドを染色するCBB(クーマシーブリリアントブルー)で染色すると、抗β1インテグリンモノクローナル抗体を用いた場合(EMARS反応試料)と用いない場合(ネガティブコントロール試料)とで差は見られないことから、両試料とも同じ量のタンパク質がSDS−PAGEにより分離されていることが確認できた。一方、本発明に係るEMARS反応物のバンドを特異的に観察するために、本発明に係る第2試薬(実施例1のFLA)に応じた蛍光イメージャーでバンドを検出すると、EMARS反応試料では、ネガティブコントロール試料では見られないバンドが強く検出されていた。このように、本発明方法によれば、細胞膜上分子であるβ1インテグリンと相互作用する化合物を第2試薬(FLA)により特異的に標識でき、且つ蛍光イメージャーという簡便な検出装置にて分析できることが実証された。
実施例5 本発明方法(EMARS反応)の実施
上記実施例2において、抗β1インテグリンモノクローナル抗体TS2/16とHRP−接合抗マウスIgG抗体との組合せの代わりに、HRP−接合CTxB(LIST Biological Laboratories社製,2μg/mL PBS溶液)を用いた以外は同様にして、ヒト子宮頸がん細胞(HeLa S3 cell)を処理した。なお、CTxBはコレラ毒素のBサブユニットであり、細胞膜に存在するスフィンゴ糖脂質GM1を特異的に認識する。
次いで、得られた試料をSDS−PAGE(ゲル濃度:8%または10%,非還元性環境下)に付した後、青色ライトとY515−Diフィルターを備えたLAS−4000 Bio−imaging analyzer(富士フィルム社製)を用い、蛍光モードでゲルを直接分析した。LAS−4000で分析した後、クーマシーブリリアントブルー(CBB)G−250(ナカライテスク社製)を用いてゲルを染色した。結果を図5に示す。
図5のとおり、全てのタンパク質バンドを染色するCBB(クーマシーブリリアントブルー)で染色すると、第1試薬であるHRP−接合CTxBを用いた場合(EMARS反応試料)と用いない場合(ネガティブコントロール試料)とで差は見られないことから、両試料とも同じ量のタンパク質がSDS−PAGEにより分離されていることが確認できた。一方、本発明に係るEMARS反応物のバンドを特異的に観察するために、本発明に係る第2試薬(実施例1のFLA)に応じた蛍光イメージャーでバンドを検出すると、ネガティブコントロール試料にはバンドがほとんど見られないのに対して、EMARS試料では多くのバンドが検出されている。このように、本発明方法によれば、細胞膜上分子であるスフィンゴ糖脂質GM1と相互作用する化合物を第2試薬(FLA)により特異的に標識でき、且つ蛍光イメージャーという簡便な検出装置にて分析できることが実証された。
比較例2 比較例1のNLAを用いたEMARS反応
上記実施例5において、フルオレセン誘導体基を有する本発明に係る実施例1のFLAの代わりに、蛍光発色基であるNBDを有するNLAを用いた以外は同様にして、実験を行った。結果を図6に示す。
図6のとおり、NLAを用いた場合には、本発明に係るFLAの場合とは異なり、非特異的なバンドが多く、HRP−接合CTxBを用いた場合に特異的に検出されるはずの、スフィンゴ糖脂質GM1と相互作用する化合物のバンドを特定することができなかった。即ち、HRP−接合CTxBを用いても、HRP−接合CTxBを用いない場合(ネガティブコントロール試料)と同じ非特異的バンドしか検出できなかった。その原因としては、NBDの蛍光特性が比較的弱いことの他、NLAにはFLAのように非特異的結合を抑制できる特性が無いことから、EMARS産物を特異的に検出できないためであると考えられる。
比較例3 ビオチン化合物を用いたEMARS反応
上記実施例2において、ヒト子宮頸がん細胞(HeLa S3 cell)とヒトグリオーマ細胞(T98 human glioma cell)に加えてヒトB細胞リンパ腫細胞(Daudi human B-cell lymphoma cell)も用い、且つ、第2試薬として、実施例1で製造したFLAの代わりに、4−アジドサリチルアミノ基にリンカー基を介してビオチンが結合したEZ−Link ビオチン−LC−ASAを用いた以外は同様にして実験を行った。ヒト子宮頸がん細胞の結果を図7Aに、ヒトグリオーマ細胞の結果を図7Bに、ヒトB細胞リンパ腫細胞の結果を図7Cに示す。
図7A〜Cのとおり、標識基としてビオチン基を有する化合物を第2試薬として用いた場合には、第1試薬を用いたときと用いなかったときで全く違いが無く、非特異的結合を抑制できないことが明らかとなった。
実施例6 本発明方法(EMARS反応)を用いた化合物の精製
(1) 予備実験
上記実施例1で製造したFLAの10mM DMF溶液(5μL)をウシ血清アルブミン(ナカライテスク社製,BSA)の370μM PBS溶液へ加えた。当該混合液へ、氷上、紫外線を15分間照射することにより、アリールアジド基をラジカル化させ、BSAにFLAを結合させた。当該混合液をBSAで段階的に希釈した後、SDS−PAGE(ゲル濃度:10%,非還元性環境下)に付し、蛍光イメージャー(富士フィルム社製,LAS−4000 Bio−imaging analyzer)でバンドを検出した。また、ゲルをクーマシーブリリアントブルー(CBB)G−250で染色した。結果を図8に示す。
図8のとおり、本発明に係るFLAを接合したBSAの蛍光イメージャーによる検出限界は25ngで、CBB染色による検出限界とほぼ同じであった。かかる結果より、本発明に係るEMARS反応物は、蛍光イメージャーで検出可能であれば、少なくともナノグラムオーダーで存在することが分かった。
(2) EMARS反応物の精製
ヒト子宮頸がん細胞(HeLa S3 cell)を15cmプレートで培養し、HRP−接合CTxBを用いず、または用いて、上記実施例5と同様に、上記実施例1のFLAを用いたEMARS反応を行った。ミクロソーム画分を100mM Tris−HCl(pH7.4)で洗浄した後、クロロホルム:メタノール=2:1の混合溶媒を添加し、静かに攪拌した。さらに、脱イオン水(500μL)を加え、静かに攪拌した。これを10,000gで5分間遠心分離することで有機相と水相を分離し、中間層に存在するミクロソーム画分を残して有機相と水相両方を除去した。残ったミクロソーム画分に、50%メタノール水溶液(1mL)を加えて洗浄した後、同様に遠心分離し、沈殿したミクロソーム画分以外の液相を除去した。この操作を3回繰り返した後、エバポレーターを使って、沈殿したミクロソーム画分を減圧乾燥した。得られたミクロソーム画分に、SDSを1%含む100mM Tris−HCl(pH7.4)を加え、100℃で5分間加熱した。不溶物を除去した後、400μLの溶解バッファー(20mM Tris−HCl(pH7.4),150mM塩化ナトリウム,5mM EDTA,1% NP−40,10%グリセロール)を加えた。この溶解液に、ビオチン標識されたヤギ抗フルオレセイン抗体(Rockland社製,20μg)を添加し、4℃で1時間インキュベートした。次いで、Dynabeads M−280ストレプトアビジン(Invitrogen社製)を添加し、再度4℃で1時間インキュベートすることにより、フルオレセインを有する化合物を免疫沈降させた。本発明に係るFLAが結合したDynabeadsを、上記溶解バッファーで5回、0.5M NaClを含むPBSで2回、蒸留水で1回洗浄した。次いで、吸着しているFLAを、非還元性SDS−PAGEサンプルバッファーを用い、50℃で15分間溶出した。溶出液をSDS−PAGE(ゲル濃度:10%)に付した。なお、これら一連の免疫沈降実験が成功しているか否かを検討するために、免疫沈降実験前の溶解液の5%容量と、免疫沈降実験後の非吸着画分の5%容量を採取し、免疫沈降試料(IP)と同様にSDS−PAGEに付した。SDS−PAGE後、蛍光イメージャーで分析した。さらに、シルベスト ステイン ネオ 銀染色キット(ナカライテスク社製)を用いて銀染色を行った。結果を図9に示す。
図9のとおり、蛍光イメージャーで分析した結果、HRP−接合CTxBを用いた場合(EMARS反応物)の溶解液を免疫沈降した試料(IP)には、HRP−接合CTxBを用いない場合(ネガティブコントロール試料)と比較して、細胞膜上分子であるスフィンゴ糖脂質GM1と相互作用する化合物に関する特異的なバンドが複数検出された。また、HRP−接合CTxBを用いた場合の免疫沈降前の溶解液にも、免疫沈降試料(IP)と同様のバンドが検出されたが、薄いものであった。さらに、免疫沈降後の非吸着画分では、それらのバンドは消失していた。また、全タンパク質のバンドを検出できる銀染色を行った結果では、免疫沈降試料(IP)では、免疫沈降処理前の溶解液よりも銀染色バンドの数が少なくなり、これらのバンドは蛍光イメージャーで検出されたバンドに相当する泳動位置にあることが分かった。
以上の結果から、本発明方法に免疫沈降処理を組み合わせることにより、FLA接合分子、即ち、細胞膜に存在するスフィンゴ糖脂質GM1と相互作用している多くの化合物を精製でき、同時に銀染色で染色可能な量まで濃縮できることが分かった。なお、銀染色可能なタンパク質量は質量分析でタンパク質の同定が可能なレベルと同程度である。

Claims (5)

  1. 細胞膜上分子と相互作用する化合物を検出する方法であって、
    標的細胞膜上分子への選択的結合部分とラジカル化促進部分とを有する化合物を、細胞に作用させる工程;
    式(I)で表される化合物を、さらに細胞に作用させる工程;
    X−Y−Z−N3 (I)
    [式中、Xは蛍光フルオレセイン誘導体基を示し、Yはリンカー基を示し、Zは置換基を有していてもよいC6-12アリーレン基を示す]
    化合物(I)が結合した化合物を特定する工程
    を含むことを特徴とする方法。
  2. ラジカル化促進部分として、西洋ワサビペルオキシダーゼまたはヘム化合物を用いる請求項1に記載の方法。
  3. 蛍光フルオレセイン誘導体基がフルオロセイン基である請求項1または2に記載の方法。
  4. 化合物(I)が結合した化合物を、SDS−PAGEを利用して特定する請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の方法を実施するためのキットであって、
    標的細胞膜上分子への選択的結合部分とラジカル化促進部分とを有する化合物、および
    式(I)で表される化合物
    X−Y−Z−N3 (I)
    [式中、Xは蛍光フルオレセイン誘導体基を示し、Yはリンカー基を示し、Zは置換基を有していてもよいC6-12アリーレン基を示す]
    を含むことを特徴とするキット。
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