JP2012011400A - 溶接継手の製造方法及びその方法を実施するための溶接装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】2本の溶接トーチを搭載する台車を、溶接しようとする鋼板の開先に沿って一定の速度で上昇させ、溶接電圧を一定となるように制御するとともに、溶接電流の変化に応じてワイヤ送給速度を変化させて溶接電流が一定となるよう制御して、溶接時の入熱を一定にして2電極立向エレクトロガスアーク溶接することにより溶接継手を製造する。
【選択図】図2
Description
このため、EGW法をベースに、溶接部の溶け込み安定化とさらなる溶接能率の向上を図ることを目的に、特許文献1、2に示す2電極立向エレクトロガス溶接法が開発された。
しかし、近年では、50mm超、特に70mm以上の極厚鋼板がコンテナ船等で使用されるようになるなど、鋼材への入熱がさらに大入熱となる傾向があり、溶接継手の靭性確保が困難な状況が見られるようになってきた。
2電極立向エレクトロガス溶接では、縦方向に配置された2枚の鋼板1、1の上下方向に延びる開先2に2本のフラックス入り溶接ワイヤ3、3を供給しつつ、上方に向かって溶接が行われる。
溶接を自動的に行うために、溶接ワイヤ3、3を支持案内する第1と第2の溶接トーチ4、5は、開先2に沿って取付けられたレール7に支持案内されて上昇する台車6に搭載される。溶接中に発生する溶融プールの流出を防止するために、開先表面側に台車6とともに上昇する水冷式銅当金8が、また、開先裏面側にはセラミックス製などの裏当材9が配置される。
台車には、溶接トーチの他に溶接トーチを揺動させる駆動装置や台車の駆動装置及びそれらの制御装置などが搭載される。
溶接の進行に伴い開先内には溶融プールが形成され、台車6はまず低速で上昇する。台車の走行速度が低速で上昇している場合は、溶融プール表面(以下、湯面という場合がある。)の上昇速度の方が、台車の上昇速度より大きくなるように設定されているので、溶融プ−ルの表面が溶接トーチ先端に近づくので、溶接ト−チ4、5の溶接チップからのワイヤ突き出し長が短くなり、溶接電流値が上昇してゆく。その後、溶接電流値が所定値を上回ると、制御装置15は、台車走行制御手段16に台車6を高速走行させるように指令を出す。そして、台車6が高速で上昇し、再び溶融プールの表面から溶接ト−チの先端が離れ、ワイヤの突き出し長が長くなり、溶接電流値が所定値以下となると、制御装置15から台車走行制御手段16に台車の低速走行の指令が出力され、台車6は低速で上昇する。
この動作を繰り返すことにより、溶融プ−ルの表面と溶接ト−チの先端との距離が略一定となり、ワイヤの突き出し長が略一定に制御される。
しかし、以上のような従来の溶接制御方法を用いてさらに板厚が厚い鋼板、特に板厚が50mm超の鋼板の溶接継手を製造する際、鋼板の形成された開先部の途中に、ルートギャップ等の工作精度に起因して開先断面積が変動した箇所がある場合に、次のような問題が生じてきた。
厚板の溶接では、基本的に大入熱での溶接となっているが、開先幅の増大している箇所では、溶接速度の低下による入熱量の増加分がさらに重畳されるため、入熱が過大となり、溶接熱影響部の幅が増大して、溶接継手の靭性が確保できない結果となる。
また、途中に開先の狭い箇所がある場合には逆に入熱が過少となり、溶接継手部の強度が過大になり、この場合でも溶接継手の靭性が確保できない結果となる。
そのための手段としては、開先幅や開先角度などの開先形状を検知して、検知した開先形状に応じて、ワイヤ供給速度を制御することが考えられるが、溶接環境では外乱となる要因も多く、開先形状をリアルタイムに正確に検知することは困難であり、コストもかかるという問題がある。
また、アーク溶接の特性を利用して、低コストで実施できる溶着金属量の制御方法として、被溶接物の形状変化などの要因により溶接電流値が変化した場合に、それに対応して自動的にワイヤの送給速度を変化させて、常に一定の大きさの溶接ビードとすることなども、特許文献3等によって知られているが、従来は、均一な溶接ビードの形成と同時に入熱量を一定にすることについては、特に考慮されていなかった。
その結果、ワイヤ送給速度を可変速にし、溶接電流、溶接電圧、台車の上昇速度をプリセットして一定となるように制御すれば、溶融プール表面の上昇速度と台車の上昇速度を同期させることができ、溶接速度を一定にして開先長手方向の入熱量を一定にできることを見出した。
そのような本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)2電極立向エレクトロガスアーク溶接を用いた溶接継手の製造方法において、
2本の溶接トーチを搭載する台車を、溶接しようとする鋼板の開先に沿って一定の速度で上昇させ、溶接電圧を一定となるように制御するとともに、溶接電流の変化に応じてワイヤ送給速度を変化させて溶接電流が一定となるよう制御して、溶接時の入熱を一定にして2電極立向エレクトロガスアーク溶接することを特徴とする溶接継手の製造方法。
(2)板厚50mm超の鋼板からなることを特徴とする(1)に記載の溶接継手の製造方法。
(3)2本の溶接トーチを搭載し、溶接しようとする鋼板の開先に沿って一定の速度で上昇する台車と、各溶接トーチに案内される溶接ワイヤと鋼板との間に一定の電圧を供給する溶接電源と、溶接ワイヤの送給速度を可変に制御できる溶接ワイヤ送給手段と、溶接電流を検出する電流検出手段と、検出された溶接電流が予め設定された一定値になるように溶接ワイヤの送給速度を制御するワイヤ送給速度制御手段とを備えることを特徴とする(1)または(2)に記載の溶接継手の製造方法を実施するための2電極立向エレクトロガスアーク溶接装置。
開先長手方向の入熱量を一定にするには、溶接速度を一定にする必要があり、そのための前提として、台車の上昇速度を一定にすることを考えた。
その際、従来のように溶接ワイヤの送給速度が一定の場合は、溶接中に開先断面積が変化した場合には、溶融プールの表面は、台車の上昇速度に追随して上昇しなくなるため、溶接ワイヤの送給速度を変化させて両者を同期して上昇させる必要がある。
台車(溶接トーチ)が一定の速度で上昇している場合、溶融プール表面の上昇速度が変化すると溶接トーチのチップと溶融プール表面との間の距離、すなわち溶接ワイヤの突き出し長さが変化して、溶接電流も変化する。本発明では、この現象を利用し、溶接電流の変化に応じてワイヤの送給速度を変化させて、溶接電流が予め設定した一定値になるようにする。これにより、溶接速度を一定に維持して、入熱も一定にできるようにした。
溶接が開始されると、溶接トーチは溶接開始前に設定された速度で上昇を始める。しかしながら、開先断面積が基準のものよりも広いと、溶融プールの上昇速度は遅く、溶接トーチの上昇速度に追随できない。このため、溶接トーチの溶接チップと溶融プール表面との間隔が広まり、ワイヤ突出長が長くなり、溶接電流が低下する。
この時に、電流が一定となる制御を掛けておけば、ワイヤ送給速度がワイヤ突出長に応じて速くなり、湯面の上昇速度が増加し、やがて溶接トーチの上昇速度と等しくなる。溶接トーチの上昇速度と湯面の上昇速度が一旦等しくなれば、これ以降は、溶接開始前に設定された電流、電圧、溶接速度で溶接が行われ、設定された入熱で溶接が実行される。
この時に電流が一定となる制御を掛けておけば、ワイヤ送給速度がワイヤ突出長に応じて遅くなり、湯面の上昇速度も遅くなるため、やがてトーチの上昇速度と等しくなる。溶接トーチの上昇速度と湯面の上昇速度が一旦等しくなれば、これ以降は、溶接開始前に設定された電流、電圧、溶接速度で溶接が行われ、設定された入熱で溶接が実行される。
なお、本発明の製造方法では、以上説明した工作精度が原因でルートギャップ等が変動している場合に限らず、溶接途中において熱変形が原因で開先形状が変形しても、入熱が一定の状態を維持して溶接することができる。
すなわち、図2に示す溶接装置において、図1を用いて説明した従来の溶接装置にさらに、ワイヤ送給速度を可変速制御するワイヤ送給速制御手段17を設けるとともに、台車走行制御手段16に、台車の上昇速度を予め設定された一定値に制御にする機能を付加する。また、溶接電源12、13とそれに付随する制御装置15としては、一定の電圧を供給するとともに、電流検出手段14により溶接電流を検出して、その変動に応じてワイヤ送給制御手段17によってワイヤ送給速度を可変速制御して、溶接電流を予め設定された一定値に制御する機能を付加する。
そのような機能を有する溶接電源12、13及び制御装置15としては、市販されているデジタルインバータ制御方式の溶接電源を有する溶接装置(例えば、ダイヘン社のデジタルオートDM500(登録商標)など)を用いることにより、実現することができる。
また、従来の定電圧インバータ溶接電源においては、特開2007−190594号公報、特許第3886029号公報等に開示されている電流一定の制御機構を別途追加することで上述の制御機能を実現することができる。
また、図2では、電源装置12、13と制御装置15などを別体としているが、一体であってもよい。
表1に示す供試鋼材と溶接ワイヤを用いて、表2に示す溶接条件によって2電極での立向エレクトロスラグ溶接を実施して溶接継手を製造した。
なお、用いた供試鋼材は、日本海事協会が定めるKE47−H鋼の規格に準ずる鋼材であり、溶接ワイヤは、日本海事協会が定めるKEW63Y47に準ずる1.6mmφのフラックス入りワイヤである。
本発明の溶接方法では、サーボモータで駆動される台車を一定の速度で上昇させ、溶接電流が一定になるようにワイヤ送給速度を可変速制御する方式を採用した。
これに対し、比較例の溶接方法では、ワイヤ送給速度を一定速度とし、溶接電流に応じて台車の上昇速度を2段階に切り替える方式を採用した。
なお、溶接長方向において開先形状が変化する変わり目部分(例えばAとBの境目)の前後10cmは不安定域であるため、当該部分からは試験片採取は行っていない。
そして、採取した試験片を用いて引張試験とシャルピー試験を実施した。
まず、個々の溶接試験体のA〜G〜採取した試験片の降伏強度(YP)、引張強度(TS)、シャルピー試験の結果を次の基準で評価した。
YP;400MPa以上を合格とした。
TS;600MPa以上を合格とした。
シャルピー試験;-20℃での吸収エネルギーが50J以上を合格とした。
さらに、1つの溶接試験体において、AからE、又はFからGの全ての採取位置で以上の合否基準を満たすものを合格とした。逆に何れかの位置で1か所でも基準を満たさない試験体は不合格とした。
表3に、評価結果を示す。
また、ルートギャップが14mmのD部分と16mmのE部分では溶接速度が遅くなり70mmという極厚鋼板使用による入熱増加と、ルートギャップが広くなったことによる入熱増加が重畳したため、入熱が過大となり、必要な焼入れ性が確保されず、溶接金属の引張強さとシャルピー衝撃吸収エネルギーが共に劣化した溶接継手となった。
2 開先
3 溶接ワイヤ
4 第1の溶接トーチ
5 第2の溶接トーチ
6 レール
7 台車
8 銅当金
9 裏当材
10、11 ワイヤ送給装置
12、13 溶接電源
14 電流検出手段
15 制御装置
16 台車走行制御手段
17 ワイヤ送給制御手段
Claims (3)
- 2電極立向エレクトロガスアーク溶接を用いた溶接継手の製造方法において、
2本の溶接トーチを搭載する台車を、溶接しようとする鋼板の開先に沿って一定の速度で上昇させ、溶接電圧を一定となるように制御するとともに、溶接電流の変化に応じてワイヤ送給速度を変化させて溶接電流が一定となるよう制御して、溶接時の入熱を一定にして2電極立向エレクトロガスアーク溶接することを特徴とする溶接継手の製造方法。 - 板厚50mm超の鋼板からなることを特徴とする請求項1に記載の溶接継手の製造方法。
- 2本の溶接トーチを搭載し、溶接しようとする鋼板の開先に沿って一定の速度で上昇する台車と、各溶接トーチに案内される溶接ワイヤと鋼板との間に一定の電圧を供給する溶接電源と、溶接ワイヤの送給速度を可変に制御できる溶接ワイヤ送給手段と、溶接電流を検出する電流検出手段と、検出された溶接電流が予め設定された一定値になるように溶接ワイヤの送給速度を制御するワイヤ送給速度制御手段とを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の溶接継手の製造方法を実施するための2電極立向エレクトロガスアーク溶接装置。
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