JP2011528224A - ポリアクリル酸エステルの酵素触媒加水分解法およびそれに使用するエステラーゼ - Google Patents

ポリアクリル酸エステルの酵素触媒加水分解法およびそれに使用するエステラーゼ Download PDF

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Abstract

【課題】 本発明は、ポリアクリル酸エステルを酵素触媒により加水分解するための方法に関する。
【解決手段】 前記方法にしたがって、少なくとも1つのポリアクリル酸エステルが与えられ、それを、エステル結合に作用する酵素(EC 3.1)から選択される少なくとも1つの酵素とともに、ポリアクリル酸エステルに含まれるエステル基が部分的に、または完全に開裂するまでインキュベートし、さらに必要に応じて、得られた改変ポリマーを単離する。本発明はまた、使用される酵素およびその変異体、酵素をコードする核酸、核酸を含有するベクター、ベクターを保有する微生物、ならびにポリアクリル酸エステルの酵素触媒加水分解法を実施するための前記酵素、ベクターまたは微生物の使用に関する。本明細書はまた、前記方法により得られるポリマー反応生成物、ならびにエステラーゼの製造法に関する。
【選択図】 なし

Description

本発明は、ポリアクリル酸エステルを酵素触媒により加水分解するための方法、使用する酵素およびその変異体、酵素をコードする核酸、核酸を含有するベクター、ベクターを保有する微生物、ポリアクリル酸エステルの酵素触媒加水分解法を実施するための酵素、ベクターまたは微生物の使用に関する。さらに本明細書は、前記方法によって得られる重合反応生成物、ならびにエステラーゼの製造法に関する。
ポリアクリル酸エステル(ポリアクリレート類)は、多くの用途を有する化合物である。ホモポリマーからなるポリアクリレートについては、想定される用途はやや限定されるが、コポリマーからなるポリアクリレートの場合、使用するコモノマー(たとえば、メタクリル酸エステル、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、およびブタジエン)を選択することによって、ポリアクリレートの性質にさまざまに影響を及ぼすことが可能であり、したがってもっとも変化に富んだ用途の可能性にアクセスすることができる。
ポリアクリル酸エステルの化学的分解法、たとえば、アルカリ加水分解(US 3,926,891)は、当業者に知られている。米国特許出願2004/0082023 A1は、リパーゼまたはエステラーゼなどの酵素を用いた、カルボキシル基を持つポリマーの酵素的エステル化法を記載している。想定されるポリマーとしてポリアクリレートが明確に指定されているわけではなく、ポリアクリル酸エステルの酵素触媒エステル分解法の適合性については何の記載もない。
O'SullivanおよびBirkinshawは、ブタ肝臓由来エステラーゼでポリ-(n-ブチルシアノアクリル酸)のナノ粒子を加水分解する試みについて記述した(O'Sullivan, Birkinshaw, Polymer Degradation and Stability 78: 7-15, 2002)。Belucciらは、リパーゼを用いて塗装表面からアクリル樹脂の塗膜を慎重に除去することについて報告した(Belluci et al., Study in Conservation 44: 278-281, 1999)。
多くのエステラーゼが当業者に知られている。Burkholderia gladioliのエステラーゼは、たとえば、Peterson et al., J. Biotechnol. 89:11-25 (2001);Valinger et al., J. Biotechnol. 129:98-108 (2007);Ivancic et al., J. Biotechnol. 129:109-122 (2007);およびReiter et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 54:778-785 (2000)に記載されている。ポリマー基質の分解に対する上記エステラーゼの適合性は、これまで報告されていない。
米国特許第3,926,891号明細書 米国特許出願第2004/0082023号明細書
O'Sullivan, Birkinshaw, Polymer Degradation and Stability 78: 7-15, 2002 Belluci et al., Study in Conservation 44: 278-281, 1999 Peterson et al., J. Biotechnol. 89:11-25 (2001) Valinger et al., J. Biotechnol. 129:98-108 (2007) Ivancic et al., J. Biotechnol. 129:109-122 (2007) Reiter et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 54:778-785 (2000)
したがって、本発明の基礎をなす問題を構成しているのは、ポリアクリル酸エステルを酵素触媒により加水分解する方法、およびそれに適した酵素、その核酸、核酸を含有するベクター、またはベクターを有する微生物、ならびにその方法で得られる反応生成物を提供することである。
発明の簡単な説明
驚くべきことに、前記の問題は、ポリアクリル酸エステルの酵素触媒による加水分解法において、エステラーゼ、詳細にはカルボキシエステラーゼ、トリアシルリパーゼおよびクチナーゼから選択される酵素を使用すること、ならびに、対応するエステラーゼおよびそれをコードする核酸を提供することによって、解決された。
図1は、EstBの構造モデルを示す。触媒活性中心への入り口を覆っているものとして同定された2つのループをハイライトで強調し、矢印で示す。ハイライト表示し、同様に矢印で指示したアミノ酸残基は、活性中心の求核性セリンを表す。 図2は、フェニルアラニン138がアラニンで置き換えられた配列番号2のEstCの構造モデルを示す(Phe138Ala; 図5の変異体1K22に対応する)。ポリペプチド鎖の主鎖を示す。138位のアミノ酸、フェニルアラニン(矢印)は、空間充填モデルとして表されるが、図中で、空間充填モデルとしてPhe138の下に示されるアミノ酸は、触媒活性中心に属するアミノ酸Ser112、Asp242およびHis275に相当する。 図3は、ロイシン193がアラニンで置き換えられた配列番号2のEstCの構造モデルを示す(Leu193Ala; 図5の変異体2K20に対応する)。ポリペプチド鎖の主鎖を示す。193位のアミノ酸、ロイシン(矢印)は、空間充填モデルとして表されるが、図中で、空間充填モデルとしてLeu193の上に示されるアミノ酸は、触媒活性中心に属するアミノ酸Ser112、Asp242およびHis275に相当する。 図4は、フェニルアラニン138がアラニンで置き換えられ、ロイシン193がアラニンで、加えてスレオニン188がセリンで置き換えられた配列番号2のEstCの構造モデルを示す(Phe138Ala、Leu193Ala、Thr188Ser; 図5の変異体B48に対応する)。ポリペプチド鎖の主鎖を示す。空間充填モデルとして表されたアミノ酸、Phe138、Thr188およびLeu193は、矢印で指示する。空間充填モデルとして与えられる他のアミノ酸は、触媒活性中心に属するアミノ酸Ser112、Asp242およびHis275に相当する。 活性のある変異体および活性の概要を示す。結果は、エステラーゼC(図5A)ならびにそれらのさまざまな機能性変異体を用いた、pHシフトアッセイにより得られた。活性に関して以下の記号を使用した:+++ = 高活性、++ = 活性、+ = 低活性、O = 不活性。 活性のある変異体および活性の概要を示す。結果は、エステラーゼB(図5b)、ならびにそれらのさまざまな機能性変異体を用いた、pHシフトアッセイにより得られた。活性に関して以下の記号を使用した:+++ = 高活性、++ = 活性、+ = 低活性、O = 不活性。 EstBおよびその変異体は、これらのデータを採る際に酢酸α-ナフチルについて調べなかったが、本発明者は、3つのEstBバリアントがすべてこの基質に関して活性を有することを示すデータを有する。 図6は、(EstB_NJ70の1000ユニットに相当する)エステラーゼ産生株NJ70の粗溶菌液を添加した後の、PBAの酵素触媒エステル分解を、変性後の粗溶菌液を添加した後の化学的エステル分解と比較して示す。 図7は、基質PBAを用いたEstBエステラーゼ(野生型および変異体)の自動滴定を示す。Sokalan(ポリアクリル酸)の阻害作用の可能性を調べた。 図8は、酵素触媒エステル分解をpHの関数として示す。測定はすべて、1000ユニットのEstB_NJ70(p-NPBにより測定)および750μl PBAを用いて行った。 図9は、酵素触媒エステル分解の温度依存性を示す。自動滴定はすべて、1000ユニットのEstB_NJ70(p-NPBにより測定)および750μl PBAを用いて行った。 図10は、溶解状態のEstB_NJ70または固定化されたEstB_NJ70によるエステル分解の反応経過を示す。Eupergit上に固定化された、または固定化されていないEstB_NJ70について、4.66 mmol PBAを用いた自動滴定の結果を示す。 図11は、鎖長の異なるポリアクリル酸メチルエステルの分解を、対照として変性酵素を用いて示す。
発明の詳細な説明
I. 一般用語の説明
本発明の範囲において、特に指示しない限り、「エステラーゼ」という用語は、広く、エステル結合の加水分解を触媒する酵素を意味する。
「エステル結合に作用する酵素」は、EC分類によるクラス3.1の酵素を意味する。「カルボン酸エステル加水分解酵素」はEC分類のクラス3.1.1の酵素を意味する。「カルボキシエステラーゼ」、「トリアシルグリセロールリパーゼ」または「クチナーゼ」はECクラス3.1.1.1、3.1.1.3および/または3.1.1.74の酵素を意味する。
「ファミリーVIIIのエステラーゼ」は、Petersen et al., J Biotechnol 89:11-25 (2001) およびArpigny and Jaeger, Biochem J 343:177-183 (1999)で与えられる定義の適用を受ける。それゆえ、ファミリーVIIIのエステラーゼは、Ser-X-X-Lysモチーフ(Xは任意のアミノ酸を表す)を有する活性部位によって特徴付けられ、したがってクラスCのβラクタマーゼの活性部位との類似性を有しており、エステラーゼ活性は、必要に応じてPetersenら(前記)に記載のエステラーゼ活性測定法の1つによって検出することができる。
本発明において、タイプCエステラーゼは、配列番号2のBurkholderia gladioli由来EstC(Reiter et al., Appl Microbiol Biotechnol 54:778-785 (2000))と、アミノ酸レベルで少なくとも50%の同一性を有し、その上、配列番号58のパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)由来ヒドロキシニトリルリアーゼ(Hasslacher M et al., J Biol Chem 271:5884-5891 (1996), GenBankアクセッション番号AAC49184)、および/または配列番号59のキャッサバ(Manihot esculenta)由来ヒドロキシニトリルリアーゼ(Hughes et al., Arch Biochem Biophys 311:96-502 (1994), Swiss-Protアクセッション番号P52705)と、アミノ酸レベルで少なくとも20%の同一性を有する酵素として理解されるべきである。
本発明の範囲において、ポリアクリル酸エステルの「酵素触媒加水分解」は、部分的な自己分解などの反応も含んでいる。「部分的自己分解」において、エステル基のうち0-90 モル%、0-50モル%、 0-25モル%、 0-20モル%、特に0-15モル%、 0-10 モル%、0-5 モル%、または0-1モル%の部分が自己分解する。
ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素を意味する。
ループまたはループ構造は、一次構造において連続するアミノ酸の一部分であって、タンパク質の三次構造においてループ型の構造要素を形成する前記部分を意味する。
ポリアクリル酸エステルの加水分解、またはポリアクリル酸エステルに対する加水分解活性は、ポリアクリル酸エステルのエステル結合の不完全または完全な加水分解を意味する。
「約」という言い方は、任意に与えられた値が、上下25%までの偏差を有すること、特に上下10%まで、または上下5%までの偏差を有することを意味する。
平均分子量は、特に指定のない限り、重量平均分子量を意味する。
交互コポリマーは、AおよびBの2つのモノマーからなるコポリマーであって、そのモノマーが厳密に交互の順序で並んでいるもの(AB)nとして理解されるべきである。ランダムコポリマーは、モノマー(たとえばAおよびB)が、共重合時に生じる高分子にランダムに、すなわちまったく無秩序な順序で、組み込まれているコポリマーを意味する。グラジエントコポリマーは、コポリマー鎖に沿ってモノマービルディングブロック(たとえばビルディングブロックAおよびB)の分布に勾配のあるコポリマーである。ブロックポリマーは、ポリマー分子が線状に連結されているブロックからなるポリマーである。ブロックは、いくつかの同一繰り返し単位を含有し、隣接する部分(ブロック)とは異なる少なくとも1つの構成または配置の特徴を有する、ポリマー分子の一部分として理解されるべきである。ブロックは、直に、または構成単位を介して連結されるが、この構成単位はブロックの一部ではない。ブロックコポリマーは、2種類以上のモノマーからなるブロックポリマーであって、2種類のモノマー、AおよびBから構成されたブロックコポリマーについては、一般式 -Ak-Bl-Am-Bn-で表現することができるが、このk、l、mおよびnは、個々のブロック中の繰り返し単位の数を表す。グラフトコポリマーは、グラフト共重合法によって作製されるポリマーであって、その構造は、主鎖上に、すでにポリマーと見なすことができるような長さの側鎖を有するという特徴を示す。主鎖および側鎖は、化学的に同一であっても異なっていてもよい。
アルコール誘導体は、アルコールから誘導された分子、たとえば、アルコールの1つもしくは複数のヒドロキシ基が他の官能基、たとえばアミノ基またはスルフヒドリル基で置き換えられたアルコールとして理解されるべきである。
「部分的な」エステル分解は、本発明の方法を実施した後、もとからあるエステル基(すなわち基本的に分解可能なエステル基)が切断されていない場合に生じる。たとえば、部分分解は、もともと含まれているエステル基の0.1から99.9%までの値、たとえば、少なくとも1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 17, 18, 19 もしくは20%、または多くても99, 98, 97, 96, 95, 94, 93, 92, 91, 90, 89, 88, 87, 86, 85, 84, 83, 82, 81, 80%、たとえば、1から95、2から90、3から85、4から80、5から75、6から70、7から65、8から60、9から55、10から50、11から45、12から40、13から35、14から30、15から25、または16から20%に関する可能性がある。分解は、部位に非特異的に、すなわち基本的にポリマー分子内にランダムに分散して、または部位特異的に、すなわちランダムではなく、大部分は1つもしくは複数の分子の特定領域内、たとえば1つもしくは複数の分子の末端領域に分布して起こりうる。
「配列番号Xに記載のエステラーゼの変異体」または「配列番号Xに由来する変異体」は、この変異体が、この配列番号Xからスタートして、本明細書に記載の少なくとも1つの変異、または本明細書に記載の少なくとも1つの一連の変異を受けることによって作製されることを意味する。
特に以下の略号を使用する:
DG: 2,4-ジメチルグルタル酸ジメチルエステル
DB: 2,4-ジメチルグルタル酸ジブチルエステル
PMA: ポリメチルアクリレート
PBA: ポリブチルアクリレート
α-N: 酢酸α-ナフチル
p-NPA: パラニトロフェニルアセテート
p-NPB: パラニトロフェニルブチレート
II. 本発明の特別な目的
本発明の第1の目的は、ポリアクリル酸エステルを酵素触媒により加水分解するための方法に関するものであって、少なくとも1つのポリアクリル酸エステルを調製し、この少なくとも1つのポリアクリル酸エステルを、エステル結合に作用する酵素(EC 3.1)から選択される少なくとも1つの酵素とともに、ポリアクリル酸エステル中に含まれるエステル基が部分的に、または完全に加水分解されるまでインキュベートし、さらに必要に応じて、結果として得られた改変ポリマーを単離する。本方法において、ポリアクリル酸エステルは、ホモポリマー、または2つ以上の異なるモノマーからなるコポリマーとすることができる。
他の実施形態によれば、酵素はカルボン酸エステル加水分解酵素(EC 3.1.1)から選択される。特に好ましい実施形態によると、カルボン酸エステル加水分解酵素は、カルボキシエステラーゼ(E.C 3.1.1.1)、トリアシルグリセロールリパーゼ(EC 3.1.1.3)およびクチナーゼ(EC 3.1.1.74)から選択される。
他の実施形態のよれば、ポリアクリル酸エステルは、ホモポリマーまたはコポリマーである。コポリマーの例には、交互コポリマー、統計コポリマー、グラジエントコポリマー、ブロックコポリマーまたはグラフトコポリマーがある。コポリマーのモノマーは、たとえば、本明細書に記載のあらゆるモノマーとすることができる。
本発明の好ましい実施形態によると、ポリマーは、一般式I
R1R2C=CR3-COOR4 (I)
のモノマービルディングブロックを含んでなり、
式中、
R1、R2およびR3は、同一でも、異なっていてもよいが、H、直鎖C1-C20ヒドロカルビル基および分岐C3-C20ヒドロカルビル基から選択され、R4は、H、直鎖C1-C20もしくはC1-C6ヒドロカルビル基、分岐C3-C20もしくはC3-C6ヒドロカルビル基、および環状C3-C20もしくはC5-C7ヒドロカルビル基から選択されるが、ヒドロカルビル基は1つもしくは複数の、同一または異なる基で置換されていてもよく、こうした基はヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基およびハロゲン原子から選択されるものであり、
さらに、ポリマー中、少なくとも1つの式Iのモノマービルディングブロックにおいて、R4は、直鎖C1-C20 もしくはC1-C6 ヒドロカルビル基、分岐C3-C20 もしくはC3-C6 ヒドロカルビル基、および環状C3-C20 もしくはC5-C7 ヒドロカルビル基から選択されるが、ヒドロカルビル基は1つもしくは複数の、同一または異なる基で置換されていてもよく、こうした基はヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基、チオール基およびハロゲン原子から選択される。
直鎖C1-C20 ヒドロカルビル基には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシルおよびエイコシル基が含まれる。分岐C3-C20 ヒドロカルビル基には、たとえば、イソプロピル、イソブチル、イソペンチル、2,2-ジメチルプロピル、イソヘキシル、3-メチルペンチル、2,2-ジメチルブチル、2,3-ジメチルブチル、イソヘプチル、3-メチルヘキシル、2,2-ジメチルペンチル、2,3-ジメチルペンチル、2,4-ジメチルペンチル、2,2,3-トリメチルブチル、イソオクチル、3-メチルヘプチル、4-メチルヘプチル、2,2-ジメチルヘキシル、2,4-ジメチルヘキシル、2,5-ジメチルヘキシル、2,2,3-トリメチルペンチル、2,2,4-トリメチルペンチル、2,2,5-トリメチルペンチル、およびイソノニル基が含まれる。C3-C20 シクロアルキル基の例には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル、シクロウンデシル、シクロドデシル、シクロトリデシル、シクロテトラデシル、シクロペンタデシル、シクロヘキサデシル、シクロヘプタデシル、シクロオクタデシル、シクロノナデシル、およびシクロエイコシル基がある。置換されたヒドロキシカルビル基の限定的でない例としては、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル、ヒドロキシペンチル、ヒドロキシヘキシル、ヒドロキシヘプチル、ヒドロキシオクチル、ヒドロキシノニル、およびヒドロキシデシル基がある。したがって、一般式(I)のポリマーは、複数のヒドロキシ基が存在するならば、ポリオールであるといえる。他の限定的でない例によれば、ヒドロキシカルビル基は、炭水化物、したがってより詳細には、ポリヒドロキシアルデヒドおよびポリヒドロキシケトンから選択され、これらはモノマー、オリゴマーまたはポリマーの形をとることができる。1つのポリアクリル酸エステル中に、同一モノマーが存在しても、異なるモノマーが存在してもよく、オリゴマーもしくはポリマーは、同一モノマーまたは異なるモノマーを含有することができる。炭水化物は当業者に知られており、ポリヒドロキシアルデヒドの限定的でない例としては、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソースがあり;ポリヒドロキシケトンの非限定的な例としては、ジヒドロキシアセトン、エリトルロース、リブロース、キシルロース、フルクトース、ソルボース、マンノヘプツロースがある。
他の実施形態によると、本発明の方法は、ポリアクリル酸エステルが式Iのモノマーに加えて、それとは別の少なくとももう1つのモノマー成分をモル比で0から15モル%まで含有することを特徴とし、この成分は好ましくは、N-ビニルホルムアミド、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、イタコン酸、イタコン酸エステル、ビニルホスホン酸、ビニルスルホン酸、ビニルアルコール、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルホルムアミド、スチレン、マレイン酸、マレイン酸エステル、エチレン、プロピレン、アクリルアミドおよび置換アクリルアミドから選択されるが、この置換基は、直鎖 C1-C20 もしくはC1-C6 ヒドロカルビル基、分岐C3-C20 もしくはC3-C6 ヒドロカルビル基および環状C3-C20 もしくはC5-C7 ヒドロカルビルから選択され、ヒドロキシカルビル基は1つもしくは複数の、同一または異なる基で置換されていてもよく、こうした基は、ヒドロキシ、アミノ、エポキシ、チオール基およびハロゲン原子から選択される。
本発明のある実施形態において、ポリアクリル酸エステルのアクリル酸基は、加水分解に先だって、完全にまたは実質的に完全にエステル化されている。
本発明の方法において、ポリアクリル酸エステルの平均分子量は、約3,000,000以下で、たとえば、約1000から約3,000,000まで、特に約200,000、150,000、100,000または50,000以下である。ポリアクリル酸エステルは好ましくは、平均分子量が約20,000から約3,000,000まで、特に約30,000から約50,000まで、中でも約40,000であるポリアクリル酸メチルエステル、および、平均分子量が約20,000から約3,000,000まで、特に約90,000から約110,000まで、なかでも約99,000であるポリアクリル酸ブチルエステルから選択される。
本発明の方法の他の実施形態において、5から14までのpHで、好ましくは7から12まで、8.5から11.5まで、特に9から11まで、または7から9までのpHでインキュベーションが行われる。
本発明の方法の他の実施形態によれば、酵素は溶液中に存在するが、特に水溶液、有機もしくは水性有機溶液、有機水溶液、または有機溶液中である。本発明の範囲において、有機水溶液または水性有機溶液には、完全に混和性の成分からなる均一溶液(たとえば水または有機溶媒)だけでなく、二相系または多相系、たとえば油中水型エマルション、水中油型エマルション、水中油中水型エマルションなども含まれる。そこで酵素は、好ましくは、完全に、または大部分が、水相中に存在し、ポリアクリル酸エステルは好ましくは完全に、または大部分が、有機相に存在する。特別な実施形態によれば、水性成分の有機成分に対する割合、または水相の有機相に対する割合は約75:25から25:75まで、たとえば約60:40から約40:60まで、約55:45から約45:55まで、特に約50:50である。
特別な実施形態によれば、酵素は固定化されない状態で存在する。
本発明の方法の他の実施形態によると、酵素は固定化された形で存在する。固定化酵素はたとえば、ミクロスフェアまたはフラットな形の担体上に共有結合または非共有結合した酵素である。酵素の固定化に適した方法は、当業者に知られており、たとえば、S. Fukui, A. Tanaka, "Enzymes": Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 5th edition, Wiley-VCH, New York, Berlin, 1985; J.E. Prenosil, O.M. Kut, I.J. Dunn, E. Heinzle, "Immobilized Biocatalysts": Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 6th edition, VCH, New York, Berlin, 2003, p. 503-554; J.F. Kennedy, J.M.S. Cabral: H.J. Rehm, G. Reed (Eds.), Biotechnology: A comprehensive treatise in 8 volumes; Vol. 7a, p. 349-404; VCH, Weinheim, 1987に記載されている。酵素の非共有結合は、たとえば、酵素をビオチンで標識し、アビジンもしくはストレプトアビジンの付いた担体に固定化すること、酵素のアミノ酸配列中にヒスチジンタグを組み入れて酵素を標識し、ニッケルキレートを備えた担体に固定化すること、酵素に対する抗体によって酵素を固定化すること(結合するエピトープは、抗体と結合エピトープとの結合が、活性部位への基質分子のアクセスを損なわない、または実質的に損なわないように選択することが好ましい)、酵素および異種タンパク質から融合タンパク質を調製し、その異種タンパク質に対する抗体によって融合タンパク質を固定化することによって達成することができる。上記との類推によって、固定化された状態で存在する酵素は、二相系もしくは多相系の構成成分であってもよい。たとえば、固体担体(たとえばミクロスフェア)上に固定化された酵素は固相と見なすことができるが、それは液相(水または有機溶媒)中で二相系の中に存在する、あるいは、固体担体上に固定化された酵素は、すでに二相または多相の液体系(たとえば、油中水型エマルションまたは水中油型エマルション)の中で固相として存在することができる。
ほかの実施形態によれば、本方法はバイオリアクター中で実施される。
本発明の方法の他の実施形態において、酵素はエステラーゼであって、それはファミリーVIIIのエステラーゼ、タイプCエステラーゼ、配列番号5のクチナーゼまたはそれに由来するクチナーゼ、および配列番号6のトリアシルグリセロールリパーゼまたはそれに由来するトリアシルグリセロールリパーゼから選択される。特別な実施形態において、タイプVIIIのエステラーゼは、配列番号1に記載のBurkholderia gladioli (ATCC 10248)由来のエステラーゼBであり、別の特別な実施形態において、タイプCエステラーゼは配列番号2に記載のBurkholderia gladioli (ATCC 10248)由来のエステラーゼCである。本発明はまた、前記エステラーゼの機能性変異体に関する。
本発明の他の実施形態によれば、エステラーゼは、ポリアクリル酸エステルの加水分解に関して配列番号1または配列番号2と比べて同等もしくは高い活性を有する、配列番号1または配列番号2に記載のエステラーゼの機能性変異体、および/または、たとえば有機溶媒の影響に対して、または温度上昇による変性に関して、配列番号1または配列番号2と比べて安定性の増した、配列番号1または配列番号2に記載のエステラーゼの機能性変異体である。
本発明の方法の他の実施形態によると、変異体は、配列番号1または配列番号2に記載のエステラーゼと比べて、ポリアクリル酸メチルエステルおよび/またはポリアクリル酸ブチルエステルに関して加水分解活性の増加を示す。加水分解活性は、たとえば、滴定アッセイによって定量的に測定することができるが、このアッセイでは、溶液中でエステルの分解が起こり、遊離した酸基によって生じるpHの低下をNaOH(または別のpH補正剤)の添加によって埋め合わせる。加水分解活性の増加は、たとえば、変異体が、配列番号1または配列番号2に記載の対応するエステラーゼと比べて、速く反応平衡に達するようになる(すなわち、同量のNaOHを短時間に加えなければならない)場合、および/またはより完全な加水分解へ向かう平衡状態を示す(すなわち、もっと多くのNaOHを加えなければならない)場合に生じる。加水分解活性はその他に、酵素変異体または酵素変異体を産生する微生物をポリアクリル酸エステル含有基質とともにインキュベートすること(この基質はたとえば寒天培地中またはフィルター膜上に供給することができる)、ならびに遊離された酸基に起因するpH低下を、含まれているpH指示薬の色の変化により判定することによって、pHシフトアッセイで半定量的に測定することができる。配列番号1または配列番号2に記載の対応するエステラーゼと比べて、変異体が、低いpH値へのより速い変化、またはもっと低いpH値へのより大きな変化(酵素含有部分の周りに、より大きな色変化のハロー)をもたらすならば、加水分解活性の増加が認められる。
他の実施形態によれば、本発明の方法は、
(a)エステラーゼが、配列番号1に記載のエステラーゼの変異体であって、その変異体が少なくとも1つの変異、たとえば1、2、3、4、5、6または7個の変異を、アミノ酸残基Ser17、Gly132、Trp134、Arg155、Glu251、Ala311およびGlu316のうち1つもしくは複数の中に有すること;または
(b) エステラーゼが、配列番号2に記載のエステラーゼの変異体であって、その変異体が少なくとも1つの変異、たとえば1、2、3、4、または5個の変異を、アミノ酸残基Phe138、Val150、Leu160、Thr188およびLeu193のうち1つもしくは複数の中に有すること
を特徴とする。
他の実施形態において、本発明の方法は、エステラーゼが配列番号1に由来し、
a) 変異Ser17Leu、Gly132Ser、Glu251Gly、Ala31ValおよびGlu316Lysのうち少なくとも1つ、たとえば1、2、3、4、または5個の変異;および/または
b) 変異Pro8Leu、Gly132Ser、Trp134Arg、Arg155Cys、Glu251Gly、Ala311ValおよびGlu316Lysのうち少なくとも1つ、たとえば1、2、3、4、5、6または7個の変異
を有することを特徴とする。
特に好ましい実施形態において、本発明の方法は、エステラーゼが配列番号1に由来し、
a) 変異Ser17Leu、Gly132Ser、Glu251Gly、Ala31ValおよびGlu316Lys;および/または
b) 変異Pro8Leu、Gly132Ser、Trp134Arg、Arg155Cys、Glu251Gly、Ala311ValおよびGlu316Lys
を有することを特徴とする。
配列番号3または配列番号4に記載のエステラーゼは特別な実施形態を表す。
さらに特別な実施形態において、本発明の方法は、エステラーゼが配列番号2に由来し、下記の変異、または変異の組み合わせのうち1つ(すなわち、以下に記載の単一もしくは複数変異のうちの1つ)を含有するという特徴を有する:
(a) Phe138Ala
(b) Phe138Ala, Thr188Ser
(c) Phe138Ala, Leu160Ala, Thr188Ser
(d) Leu193Ala
(e) Leu193Ala, Phe138Ala, Thr188Ser, Val150Ala
(f) Leu193Ala, Phe138Ala, Thr188Ser
(g) Leu193Ala, Phe138Ala, Thr188Ser, Leu160Ala, Val150Ala
(h) Val150Ala
(i) Val150Ala, Thr188Ser
(j) Leu193Ala, Phe138Val
(k) Leu193Ala, Phe138Val, Thr188Ser, Val150Ala
(l) Leu193Ala, Thr188Ser
(m) Leu193Ala, Phe138Val, Thr188Ser
(n) Leu193Ala, Phe138Val, Thr188Ser, Leu160Ala
(o) Phe138Val, Val150Ala, Thr188Ser
(p) Phe138Val
(q) Phe138Val, Thr188Ser
本発明の方法の他の実施形態によれば、エステラーゼは、タイプVIIIのエステラーゼまたはタイプCエステラーゼの欠失変異体である。好ましくはエステラーゼはループ短縮を有する。配列番号1に記載のエステラーゼ(B. gladioliのEstB)の場合ループ短縮に適した領域は、たとえば、Glu246からArg258まで、およびGly312から323までの領域である。ループ短縮は1つもしくは複数のアミノ酸を除去することによって達成することができるが、複数のアミノ酸を除去する場合、順に、配列番号1のなかで1つもしくは複数の隣接する、または隣接しないアミノ酸を除去することができる。配列番号37および配列番号38で与えられるアミノ酸配列を有する欠失変異体は、特別な実施形態を示す。
本発明のもう一つの目的は、前記の機能性エステラーゼ変異体に関する。
本発明のもう一つの目的は、
a)機能性エステラーゼ変異体をコードする核酸、または
b) a)に相補的な核酸に相当する核酸、および/または
c)ストリンジェントな条件下でa)またはb)に記載の核酸とハイブリダイズする核酸、特に、少なくとも80%の配列同一性を有し、かつファミリーVIIIのエステラーゼの変異体、またはタイプCエステラーゼ変異体をコードする核酸であって、ポリアクリル酸エステルを加水分解する前記核酸、
に関する。
本発明のもう一つの目的は、前記核酸の1つを含有するベクターに関する。特別な実施形態によれば、核酸は機能しうるようにプロモーターに連結されている。
本発明のもう一つの目的は、前記ベクターの少なくとも1つを含有する微生物に関する。
本発明のもう一つの目的は、前記の機能性エステラーゼ変異体の1つを作製する方法に関するものであって、その方法では、
a)エステラーゼを発現することができる宿主生物、たとえば前記微生物(少なくとも1つの前記ベクターを含有する)を培養し、
b)必要に応じてエステラーゼの発現を誘導し、加えて
c)必要に応じて宿主生物および/または培地からエステラーゼを単離する。
本発明のもう一つの目的は、前記エステラーゼのうち1つ、前記ベクターのうち1つ、または前記微生物のうち1つを、エステル加水分解の前記方法のうち1つを実行するために、または前記ポリアクリル酸エステルの対応するエステル交換のために使用することに関する。
本発明のもう一つの目的は、前記方法の1つによって得られる、ポリマー反応生成物に関する。
III 本発明の実施に関する詳細
1. ポリアクリル酸エステルの酵素触媒による加水分解のための方法
本発明の方法は、ポリアクリル酸エステルの酵素触媒による加水分解に関するが、本明細書では、酵素的エステル分解(または、簡単に:エステル分解)とも称する。
少なくとも1つのポリアクリル酸エステルを調製し、それを少なくとも1つのエステラーゼとともにインキュベートすることが、本発明の方法に含まれる範囲として想定される。調製は、好ましくは溶液中で行われ、それは、水溶液、有機溶液(1つもしくは複数の有機溶媒を含む)、または水性有機溶液(その有機溶媒成分が1つもしくは複数の有機溶媒を含んでいる)とすることができる。使用可能な有機溶媒にはたとえば、アルコール類、たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールおよびブタノール;芳香族炭化水素、たとえばベンゼンおよびトルエン;エーテル類、たとえばジメチルエーテル、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタンおよびテトラヒドロフランがある。水溶液または水性有機溶液が好ましい。水性有機溶液において、有機溶液、または複数の有機溶媒成分の合計は、容量比で1から80容量%まで、好ましくは1から60容量%まで、そして特に約40容量%の割合に相当することになる。本発明の範囲に含まれる水性有機溶液または有機水溶液は、均一溶液、または二相もしくは多相系(たとえば、水中油、油中水、水中油中水型エマルション)とすることができる。酵素とポリアクリル酸エステルとを容易に接触させるために、溶液はゲル状でないことが好ましい。溶液は、粘度が4000 mPa・s未満、特に2000 mPa・s未満、1000 mPa・s未満、500 mPa・s未満、400 mPa・s未満、200 mPa・s未満、100 mPa・s未満、 50 mPa・s未満、25 mPa・s未満、10 mPa・s未満、5 mPa・sまたは2.5 mPa・s未満であることが好ましい。水溶液、または水性有機溶液の水性成分は、バッファーとすることができる。バッファーのpHは、酵素触媒エステル分解が起こるはずのpHに調整することが好ましい。本発明の方法をバイオリアクター中で行う場合、バイオリアクター中では、少なくとも1つのポリアクリル酸エステルを分解する、少なくとも1つのエステラーゼが微生物により産生されるが、そのpHは微生物の培養に適した値に調整することが好ましい。当業者は適当なpH値の決定に精通している。本発明の方法で使用するのに適したバッファーも当業者に知られており、たとえば、PBS、Tris-HClバッファー、トリエタノールアミン塩酸塩/NaOHバッファー、ジエタノールアミン/HClバッファー、ホウ酸ナトリウム/HClバッファー、グリシン/NaOHバッファー、炭酸ナトリウム/炭酸水素ナトリウムバッファー、Na2HPO4/NaOHバッファー、2-(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸/NaOHバッファー、および3-(シクロヘキシルアミノ)-1-プロパンスルホン酸/NaOHバッファーがある。他のバッファー系が当業者に知られており、たとえば、Harris and Angal (Eds.), Protein purification methods - a practical approach, IRL Press at Oxford University Press, 1st edition (reprint) 1990に記載されている。
本発明の方法は、使用するエステラーゼが活性を有するあらゆる温度、たとえば、5℃から85℃まで、好ましくは10℃から50℃まで、特に好ましくは20℃から40℃までの温度で実施することができる。当業者には当然のことであるが、酵素には、その安定性および/または触媒活性について至適温度があり、それは使用する溶媒もしくは溶媒混合物によっても変動する可能性があるが、当業者は、使用するそれぞれのエステラーゼについて至適温度もしくは至適温度範囲を決定することができる。ポリアクリル酸エステルの加水分解に使用される少なくとも1つのエステラーゼを産生する微生物を用いて、本発明の方法を実施する場合、当業者は、処理温度を選択する際に、その微生物の温度要求生も考慮することができる。
調製されたポリアクリル酸エステルは、完全にエステル化されている(すなわち、それぞれのアクリル酸基は、アルコールまたはアルコール誘導体でエステル化されている)こともあるが、部分的にエステル化されている(すなわち、ポリアクリル酸エステル分子内にまだ遊離のアクリル酸基が存在する)こともある。好ましい実施形態によれば、調製されたポリアクリル酸エステル(単数もしくは複数)は完全に、または実質的に完全にエステル化されている。ポリアクリル酸のアクリル酸基のうち少なくとも75%、特に少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%がエステル化されたならば、エステル化は実質的に完全である。したがって、実質的に完全にエステル化されたポリアクリル酸エステルのエステル化度は、たとえば、75%から100%、75%から99%、75%から98%、75%から97%、75%から96%、75%から95%、85%から100%、85%から99%、85%から98%、85%から97%、85%から96%、85%から95%、90%から100%、90%から99%、90%から98%、90%から97%、90%から96%、90%から95%、95%から100%、95%から99%、95%から98%、95%から97%、または95%から96%である。
本発明の方法は、バッチ式または連続式で行うことができる。バッチ式では、少なくとも1つのポリアクリル酸エステルおよび少なくとも1つのエステラーゼを調製してインキュベーションを行い、選択した時点で、反応混合物を反応容器から出して、必要に応じて次の処理(たとえば、反応生成物の単離、または少なくとも1つのエステラーゼの回収)に送る。取り出しは、エステル分解の完了後(すなわち、一方のポリアクリル酸エステルと、他方のポリアクリル酸もしくは一部エステル化されたポリアクリル酸との間の平衡が確立した後)、または不完全なエステル分解後に行うことができる。当業者は、さまざまな方法で(たとえば、事前のサンプリングおよび分析によって、または、たとえば溶液のpHもしくは粘度といった、エステル分解の進行につれて変動する適当なパラメーターに基づく反応経過の連続モニタリングによって)、それぞれのバッチを取り出す適当な時点を決定することができる。バッチは、必要に応じて、所定の反応時間の終了時点で取り出すこともできる。バッチ式では、少なくとも1つのポリアクリル酸エステルおよび少なくとも1つのエステラーゼを最初に供給した後、反応混合物を最後に取り出す前に、ポリアクリル酸エステルおよび/またはエステラーゼを、互いに独立して、1回または複数回追加して添加することができる。連続式では、少なくとも1つのポリアクリル酸エステルおよび少なくとも1つのエステラーゼを最初に供給した後、指定された時点で、反応混合物の一部を取り出し、反応容器内に残った反応混合物は、ポリアクリル酸エステルおよび/またはエステラーゼを添加することによって補充される。上記時点は定期的とすることができるが、反応経過の測定結果に応じて選択することもできる。少なくとも1つのポリアクリル酸エステルおよび/または少なくとも1つのエステラーゼの連続添加も可能である。このこととは無関係に、反応混合物の連続排出も可能である。当業者には、望ましい反応生成物を得るために、個別のプロセス変数(たとえば、添加および取り出しの量および時点)を最適化する方法が知られている。さまざまの期間にわたって(たとえば、数時間、数日、数週間、数ヶ月または数年間)、連続運転を行うことができるが、たとえば、清掃、検査もしくは維持管理のために、中断もしくは休止してもよい。
エステル分解の結果得られた改変ポリマーの単離を想定した場合、これは、当該分野で通常用いられる方法、たとえば、クロマトグラフィー法、透析、化学沈殿法、溶媒抽出、もしくは反応混合物に含まれる溶媒の蒸発によって行うことができる。少なくとも1つのエステラーゼを再利用するつもりならば、好ましくは、酵素を損なう可能性のある方法で改変ポリマーの単離を行う前に、当該分野で通常使用される方法によって、それを分離することができる。エステラーゼは、たとえば、エステラーゼ結合分子(たとえば抗体)を用いたアフィニティ精製、透析、または(たとえば硫酸アンモニウムを用いた)沈殿法によって分離することができる。他の実施形態によれば、少なくとも1つのエステラーゼは、固定化された形で存在する。さまざまな固定化法が当業者に知られており、それはたとえば、S. Fukui, A. Tanaka, "Enzymes", : Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 5th edition, Wiley-VCH, New York, Berlin, 1985; J.E. Prenosil, O.M. Kut, I.J. Dunn, E. Heinzle, "Immobilized Biocatalysts", : Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 6th edition, VCH, New York, Berlin, 2003, p. 503-554; J.F. Kennedy, J.M.S. Cabral, : H.J.Rehm, G. Reed (Eds.), Biotechnology: A comprehensive treatise in 8 volumes; Vol. 7a, p. 349-404; VCH, Weinheim, 1987に記載されている。酵素の非共有結合は、たとえば、酵素をビオチンで標識し、アビジンもしくはストレプトアビジンの付いた担体に固定化すること、酵素のアミノ酸配列中にヒスチジンタグを組み入れて酵素を標識し、ニッケルキレートを備えた担体に固定化すること、酵素に対する抗体によって酵素を固定化すること(結合するエピトープは、抗体と結合エピトープとの結合が、活性部位への基質分子のアクセスを損なわない、または実質的に損なわないように選択することが好ましい)、酵素および異種タンパク質から融合タンパク質を作製し、その異種タンパク質に対する抗体によってタンパク質を固定化すること、または微粒子(ビーズ)もしくはキャリア材料表面への吸着付着によって達成することができる。固定化した結果、エステラーゼ分子は、反応容器内において(たとえば、反応容器の壁面上で、または反応容器内に存在する表面上で)依然として安定であり、しかも反応混合物を取り出す際に、ポリアクリル酸エステル、および/または、エステル分解で改変されたポリマーだけが取り出される。あるいはまた、微粒子に付着している場合、エステラーゼ分子は、反応溶液中に自由に浮遊することができ、ポリアクリル酸エステル分子と相互作用することができるが、さまざまな手段(たとえば、フィルター、または流動床バイオリアクターの使用)により、エステラーゼ分子が、反応容器からポリアクリル酸エステル分子および/またはポリアクリル酸分子といっしょに出ないようにすることができる。ポリアクリル酸エステル分子および/またはポリアクリル酸分子とともに微粒子を取り出した後、たとえば遠心分離もしくは濾過によって分離することも可能である。
本発明の方法は、ポリアクリル酸エステルに含まれるエステル基の、部分的または完全な加水分解が生じるまで行うことができるが、完全な加水分解の場合には、ポリアクリル酸が得られることになる。部分的加水分解後に取り出すことが好ましい。この場合、最初に供給されたポリアクリル酸エステルはまだエステル基を含有しているので、反応過程で改変されたポリマーに特定の性質が付与された。改変ポリマーをその後、他の目的、たとえば他の化学修飾のための出発基質として、使用することができる。
2. 酵素
本発明の方法において、エステラーゼ全般を使用することができるが、より詳細には、"Nomenclature Committee of the International Union of Biochemistry and Molecular Biology"の分類によればECクラス3.1の、エステル結合に作用する酵素を使用することができる。ECクラスの分類は、"Enzyme Nomenclature"、1992年Academic Press社刊、International Union of Biochemistry and Molecular Biology、ISBN 0-12-227164-5(増補版)、またはインターネット上http://www.chem.qmul.ac.uk/iupac/jcbn/index.html#6にてオンラインで得られる。好ましい実施形態は、カルボン酸エステル加水分解酵素(E.C.3.1.1)であるが、より詳細には、カルボキシエステラーゼ(E.C.3.1.1.1)、トリアシルグリセロールリパーゼ(E.C.3.1.1.3)、およびクチナーゼ(E.C.3.1.1.74)である。
本発明の方法のために、具体的に明示されたエステラーゼの「機能性変異体」(「機能性エステラーゼ変異体」、「エステラーゼ変異体」、または「変異体」とも称される)を使用することもできるが、必要に応じて機能性変異体を産生する微生物から単離された後の機能性変異体は、それ自体、本発明の目的である。本発明の範囲において、機能性変異体は、具体的に明示されたエステラーゼとは異なるポリペプチド、たとえば配列番号1から配列番号38に記載のエステラーゼとの同一性が100%未満(たとえば40%以上100%未満、50%以上100%未満、60%以上100%未満、75%以上100%未満、85%以上100%未満、90%以上100%未満、95%以上100%未満、または99%以上100%未満)のポリペプチドであるが、しかしそれは依然として望ましい酵素活性を有している。望ましい酵素活性はたとえば、ポリアクリル酸エステル、たとえばポリアクリル酸メチルエステルまたはポリアクリル酸ブチルエステルの分解によって検出することができる。機能性変異体が、基準と見なされるエステラーゼの分解活性(たとえば、単位時間における基質の変換として検出することができる)の少なくとも10%を有し、特に、前記分解活性の少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%を有するならば、望ましい酵素活性が存在すると見なされる。機能性変異体が、基準と見なされるエステラーゼより高い分解活性、たとえば、当該エステラーゼの分解活性の105%、110%、120%、150%、200%までの、または200%を超える分解活性を有する場合にも、もちろん特に、望ましい酵素活性が存在する。さらに、機能性変異体が新たな基質を分解することができるならば、すなわち基準と見なされるエステラーゼによって分解されない、または同等の条件(たとえば、温度、pH、溶媒または溶媒の組み合わせ、塩濃度、基質濃度、酵素濃度)下では分解されないポリアクリル酸エステルを分解することができるならば、やはり望ましい酵素活性は存在する。
「機能性変異体」は、本発明によれば、特に、改変されたタンパク質を意味しており、この改変タンパク質は、前記の具体的な配列の少なくとも1つの配列位置に、明記されたアミノ酸とは異なるアミノ酸を有するが、それにもかかわらず望ましい酵素活性を保有する。したがって、「機能性変異体」には、1つもしくは複数の、たとえば1-50、1-40、1-30、もしくは1-20個の、すなわち、たとえば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個のアミノ酸付加、置換、欠失および/または逆位によって得られる改変タンパク質が含まれるが、上記の変化は、それが本発明の性質の特徴を有する機能性変異体をもたらすならば、いかなる配列位置にも起こりうる。また、変異体と非改変ポリペプチドとの間で、反応性のパターンが質的に一致する、すなわち、たとえば酵素パラメーター(たとえば、基質親和性、ターンオーバー数)が同じである場合には、特に機能性変異体が存在するが、量的にはさまざまな程度で存在する。アミノ酸残基の適当な置換の例を下記に示す:
元の残基 置換例
Ala Val, Gly, Ser
Arg Lys
Asn Gln; His
Asp Glu
Cys Ser
Gln Asn
Glu Asp
Gly Pro
His Asn; Gln
Ile Leu; Val
Leu Ile; Val
Lys Arg; Gln; Glu
Met Leu; Ile
Phe Met; Leu; Tyr
Ser Thr
Thr Ser
Trp Tyr
Tyr Trp; Phe
Val Ile; Leu
上記エステラーゼの前駆体、ならびにエステラーゼの機能性誘導体および塩も、上記の意味における「機能性変異体」である。「塩」という用語は、本発明のタンパク質分子のカルボキシル基の塩、ならびにアミノ基の酸付加塩を意味する。カルボキシル基の塩は、それ自体既知の方法で調製可能であって、無機塩、たとえばナトリウム、カルシウム、アンモニウム、鉄および亜鉛塩、ならびに有機塩基、たとえばアミン類、たとえばトリエタノールアミン、アルギニン、リジン、ピペリジンなどによる塩がある。酸付加塩、たとえば無機酸、たとえば塩酸もしくは硫酸による塩、ならびに有機酸、たとえば酢酸およびシュウ酸による塩も本発明に含まれる。本発明に記載のエステラーゼの「機能性誘導体」、または本発明の機能性エステラーゼ変異体はまた、機能的アミノ酸側鎖またはN-もしくはC-末端の位置で、既知の技術によって調製することができる。こうしたタイプの誘導体にはたとえば、カルボン酸基の脂肪族エステル、カルボン酸基のアミド(アンモニア、または第1級もしくは第2級アミンとの反応によって得られる)、遊離アミノ基のN-アシル誘導体(アシル基との反応により調製される)、または遊離ヒドロキシ基のO-アシル誘導体(アシル基との反応により調製される)がある。
「機能性変異体」には当然、他の生物から入手できるエステラーゼ、および天然に存在するバリアントが含まれる。たとえば、相同配列の領域を、配列比較によって見いだすことができるが、本発明の明確なガイドラインに基づいて、機能性変異体を決定することができる。生物の例としては、Burkholderia属(たとえば、B. gladioli、鼻疽菌(B. mallei)、類鼻疽菌(B. pseudomallei)、B. thailandensis、B. cenocepacia、B. aurantiaca、B. vietnamensis、B. dolosa、B. multivorans、B. ambifaria)、Stigmatella属(たとえば、S. aurantiaca)、Streptomyces属(たとえば、S. ambofaciens、S. coelicolor)、Saccharopolyspora属(たとえば、S. erythraea)、Mycobacterium属(たとえば、M. smegmatis、M. bovis、M. tuberculosis、M. leprae)がある。
「機能性変異体」はさらに、融合タンパク質であって、これはエステラーゼの前記ポリペプチド配列またはそれから誘導された機能性変異体のうち1つ、およびそれとは機能的に異なる、少なくとももう1つの異種配列を、機能的にN-またはC-末端結合した状態で(すなわち、融合タンパク質部分の機能障害が互いにあまりない状態で)有している。このようなタイプの異種配列の限定的でない例としては、たとえば、酵素、プロテインA、および免疫グロブリンがあるが、プロテインA および免疫グロブリン融合体をたとえば、担体(たとえば微粒子)への、機能性変異体の非共有結合による固定化に使用することができる。
さらに、機能性変異体の作成方法は当業者に知られている。遺伝子を改変し、それによって、その遺伝子によりコードされるタンパク質を改変する方法は、だいぶ以前から当業者によく知られており、たとえば、部位特異的変異誘発(遺伝子の単一ヌクレオチドもしくは複数のヌクレオチドを標的とする交換が行われる(Trower MK (ed.) 1996; In vitro mutagenesis protocols. Humana Press, New Jersey))、飽和変異誘発(遺伝子の任意の位置で、任意の望ましいアミノ酸に対するコドンを交換もしくは付加することができる(Kegler-Ebo DM, Docktor CM, DiMaio D (1994) Nucleic Acids Res 22:1593; Barettino D, Feigenbutz M, Valcarel R, Stunnenberg HG (1994) Nucleic Acids Res 22:541; Barik S (1995) Mol Biotechnol 3:1))、エラープローンポリメラーゼ連鎖反応(エラープローンPCR)(機能の不完全なDNAポリメラーゼによってヌクレオチド配列を変異させる(Eckert KA, Kunkel TA (1990) Nucleic Acids Res 18:3739)、変異誘発株における遺伝子の継代(たとえば欠損DNA修復メカニズムにより、ヌクレオチド配列の変異率の増加が認められる株のける継代(Greener A, Callahan M, Jerpseth B (1996) An efficient random mutagenesis technique using an E.coli mutator strain. In: Trower MK (ed.) In vitro mutagenesis protocols. Humana Press, New Jersey))、またはDNAシャッフリング(密接に関連した遺伝子のプールを作製して消化し、その断片をPCRのテンプレートとして使用するが、鎖分離を繰り返し、再結合することによって、最終的に全長モザイク遺伝子が作製される(Stemmer WPC (1994) Nature 370:389; Stemmer WPC (1994) Proc Natl Acad Sci USA 91:10747))がある。使用する技術に応じて、当業者は、完全にランダムな変異またはもっと標的化された変異を、遺伝子内に、または(たとえば、発現制御に重要である)非コード領域内にも挿入することができ、その後、遺伝子バンクを構成することができる。このために必要な分子生物学の方法は当業者に知られており、たとえば、Sambrook and Russell, Molecular Cloning. 3rd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001に記載されている。
いわゆる進化工学(特に、Reetz MT and Jaeger K-E (1999), Topics Curr Chem 200:31; Zhao H, Moore JC, Volkov AA, Arnold FH (1999), Methods for optimizing industrial enzymes by directed evolution, Demain AL, Davies JE (Eds.) Manual of industrial microbiology and biotechnology. American Society for Microbiologyに記載)を用いて、当業者は、標的化された形で、かつ大規模に、機能性変異体を作製することができる。この場合、第1ステップでは、たとえば、上記の方法を用いて、それぞれのタンパク質の遺伝子バンクを最初に作製する。この遺伝子バンクを、適切な方法で、たとえば細菌によって、もしくはファージディスプレイシステムによって発現させる。さらに、適当な発現ベクターを選択することによって、宿主におけるタンパク質の局在を制御する方法が当業者に知られているが、それは、たとえば、細胞質中の細胞内タンパク質として、または膜アンカーを付け足すことにより膜タンパク質として、またはシグナルペプチダーゼの認識部位を有するシグナルペプチドを付け足すことによって細胞外タンパク質として、局在を制御するものである。次に第2ステップでは、望ましい性質を有するタンパク質を発現するクローンを選択またはスクリーニングする。選択の際に、望ましい性質は宿主生物に生存上の利点(たとえば、特定の基質を利用できる酵素、または特定の温度での増殖)をもたらすので、望ましい性質を有するタンパク質を発現するクローンだけが生き残る。スクリーニングの際にはすべてのクローンが生存するので、どのクローンが望ましい性質を有するタンパク質を発現するかを判定するために適当なアッセイが用いられる。どのようにしたら特定の目的に適合するようにアッセイを設定できるかは、当業者に明らかである。たとえば、特定の結合特性を有するタンパク質を探索する場合、当該タンパク質を表面上に発現していて、その結合パートナーでコーティングされた支持層に付着する宿主生物を、(機能性タンパク質を発現していない宿主生物と対比して)スクリーニングすることができる;触媒活性を有する機能性変異体を探索する場合、たとえば、基質含有培地を用いてマイクロタイタープレートで、または基質含有寒天平板上で、宿主生物を培養し、(培地と接触できるように、必要に応じて宿主生物を溶解した後)機能性変異体の存在をたとえば、基質の反応後の呈色反応によって指示することができる。これに関連して、ハイスループット・スクリーニングを可能にするために、自動化システム(たとえば、マイクロタイタープレート用ピペッティングロボット、スクリーニングロボット、寒天平板上のコロニー識別用画像認識システム)を利用することができる。望ましい性質におおむね一致する特性を有する機能性変異体を発現する宿主生物の関連遺伝子を、再度変異に供する。一方、変異および選択またはスクリーニングのステップは、存在する機能性変異体が十分に望ましい特性を有するまで、反復して繰り返すことができる。
タンパク質配列中への多数の変異挿入は、望ましい機能の取得または改善よりも、機能の喪失をもたらしがちであるが、反復法によって、望ましい性質を有するタンパク質の標的スクリーニングを行うことができる。この反復法に従って、本発明者らは、基準となるタンパク質、たとえば野生型タンパク質から出発し、そのヌクレオチド配列に基づいて、変異を有する遺伝子ライブラリーを調製する。こうした目的のために、変異率は、変異した核酸の発現後、翻訳されたペプチドもしくはタンパク質において比較的少数のアミノ酸、たとえば1〜3アミノ酸だけが変異しているように、ヌクレオチドレベルで選択される。得られた変異ペプチドもしくはタンパク質は、望ましい性質(たとえば、1つもしくは複数の基質に対する高い触媒活性、基質スペクトルの拡大もしくは変化、温度もしくはpH値が上昇もしくは変化した状態または特定の溶媒中での安定性の向上)を有する代表例を求めてスクリーニングする。発見された、望ましい性質(ごくわずかしかないかもしれない)を有するペプチドもしくはタンパク質の配列に基づいて、第2の遺伝子ライブラリーを構築し、そこでもう一度、比較的低率の変異を導入し、それから翻訳されたタンパク質を、望ましい性質で再度スクリーニングする。変異した遺伝子ライブラリーの構築、ならびにそれから発現されたペプチドもしくはタンパク質の望ましい性質に関するスクリーニングのこうしたサイクルは、必要な回数だけ繰り返すことができる。一方では、サイクルごとに適用される変異率が低いので、アミノ酸配列中に変異が多すぎるせいで事実上すべてのタンパク質が機能を喪失することは回避され、他方では、変異および選択の繰り返しによって好ましい変異が蓄積されるので、最終的に、大幅に改善された望ましい性質を有するタンパク質の調製に成功する見込みが高い。その上、改善された性質を有する変異体の配列分析を通じて、当業者は、ペプチドもしくはタンパク質のどの配列位置または配列領域が望ましい性質にとって重要であるかを示す配列情報を手に入れる。この情報に基づいて、当業者はこうした部位または領域に意図的に変異を導入することができ、それにより所望の特性を有するさらに標的化された変異体を得ることが可能である。望ましい性質を有するタンパク質の作製例は、文献では、Zhao and Arnold, Protein Engineering 12:47-53 (1999)またはMay et al., Nature Biotechnology 18:317-320 (2000)に記載されており、それから変異をもたらす関連の方法を知ることもできる。
本発明に含まれる他の「機能性変異体」は、具体的に明記されたエステラーゼのホモログである。こうしたホモログは、具体的に明記された配列の1つに対して少なくとも40%、少なくとも50%、または少なくとも60%、たとえば、少なくとも75%または具体的には少なくとも85%、たとえば90%、95%または99%の相同性を有し、それはたとえばPearson and Lipman, Proc. Natl. Acad, Sci. (USA) 85(8), 1988, 2444-2448のアルゴリズムにしたがって計算される。本発明の相同ペプチドの相同性パーセントは、具体的には、本明細書に明記されたアミノ酸配列のうち1つの全長と比較したアミノ酸残基の同一性パーセントを意味する。
「由来する」アミノ酸配列とは、本明細書によれば、他の情報が与えられないならば、出発配列と少なくとも80%、または少なくとも90%、具体的には約91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%および99%の同一性を有する配列を意味する。たとえば、本発明は、本明細書に記載の全アミノ酸配列に由来するアミノ酸配列に関する。
2つの配列間の「同一性」または「相同性」は、いずれの場合にも、配列の全長にわたるアミノ酸残基の同一性を意味しており、たとえば、Informax社 (USA)製Vector NTI Suite 7.1ソフトウェアを用いて、Clustal法(Higgins DG, Sharp PM. Fast and sensitive multiple sequence alignments on a microcomputer. Comput Appl. Biosci. 1989 Apr; 5(2): 151-1)により下記のパラメーターを設定して、比較することによって算出される同一性を意味する:
マルチプルアラインメントパラメーター:
ギャップ開きペナルティ 10
ギャップ伸長ペナルティ 10
ギャップ分断ペナルティ範囲 8
ギャップ分断ペナルティ オフ
アライメント遅延についての%同一性 40
残基特異的ギャップ オフ
親水性残基ギャップ オフ
遷移重み付け 0

ペアワイズアラインメントパラメーター:
FASTアルゴリズム オン
K-組サイズ 1
ギャップペナルティ 3
ウィンドウサイズ 5
ベスト対角数 5
これらの値は、比較すべき具体的な配列との関連で、必要ならば当業者が変更することができる。
タンパク質に糖鎖が付いている可能性がある場合、本発明の機能性変異体には、グリコシル化パターンを変更することによって得られる、糖鎖除去(脱グリコシル化)もしくは糖鎖付加(グリコシル化)された形の、または改変された形の、上記のタイプのタンパク質が含まれる。
記載されたエステラーゼまたはその機能性変異体のホモログは、本発明にしたがって、変異体(たとえば短縮型変異体)のコンビナトリアルバンクをスクリーニングすることにより同定することができる。たとえば、核酸レベルでコンビナトリアル変異を誘発することによって(たとえば、合成オリゴヌクレオチドの混合物について酵素で連結することによって)、ペプチドバリアントのバンクを作製することができる。縮重オリゴヌクレオチド配列から可能性のあるホモログのバンクを作製するために用いることができる、多くの方法がある。縮重遺伝子配列の化学合成は、自動DNA合成装置で行うことができ、次に、その合成遺伝子を、適当な発現ベクターに連結することができる。遺伝子の縮重セットを使用することによって、1つの混合物中で、望ましい一連の可能性のあるタンパク質配列をコードしたあらゆる配列を提供することが可能になる。縮重オリゴヌクレオチドの合成法は当業者に知られている(たとえば、Narang, S.A. (1983) Tetrahedron 39:3; Itakura et al. (1984) Annu. Rev. Biochem. 3:323; Itakura et al. (1984) Science 198:1056; Ike et al. (1983) Nucleic Acids Res. 11:477)。
本発明の基礎をなす研究において、本発明者らは、驚くべきことに、ポリマー基質であるポリアクリル酸エステルのエステル結合が、エステラーゼによって切断されることがありうることを見いだした。さまざまな生物由来のエステラーゼが使用可能であって、下記は限定的でない例として言及される:Burkholderia属(たとえば、B. gladioli、鼻疽菌(B. mallei)、類鼻疽菌(B. pseudomallei)、B. thailandensis、B. cenocepacia、B. aurantiaca、B. vietnamensis、B. dolosa、B. multivorans、B. ambifaria)、Stigmatella属(たとえば、S. aurantiaca)、Streptomyces属(たとえば、S. ambofaciens、S. coelicolor)、Saccharopolyspora属(たとえば、S. erythraea)、Mycobacterium属(たとえば、M. smegmatis、M. bovis、M. tuberculosis、M. leprae)。
本発明の方法を行うために好ましいエステラーゼは、エステル結合に作用する、ECクラス3.1の、特にカルボン酸エステル加水分解酵素(ED 3.1.1)の酵素である。カルボキシエステラーゼ、トリアシルグリセロールリパーゼおよびクチナーゼが特に好ましい。ファミリーVIIIのエステラーゼ(具体的には、配列番号1に記載のBurkholderia gladioli由来のエステラーゼBおよびその機能性変異体)およびタイプCエステラーゼ(具体的には、配列番号2に記載のBurkholderia gladioli由来のエステラーゼCおよびその機能性変異体)は、さらに特別な実施形態を表す。他に使用可能なエステラーゼの限定的でない例として、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36に記載の配列があるが、それに基づいて機能性変異体を順に作製または導き出すことができる。
さらに、本発明にしたがって、既知のエステラーゼの機能性変異体がこうして作製されたが、それもまた本発明の方法に使用することが可能であって、その上、−機能性変異体を産生する微生物から必要に応じて単離した後−それ自体が本発明に含まれる。
こうした機能性変異体は、具体的には、既知の野生型に対して改変されたアミノ酸配列を有するエステラーゼに関するが、新規エステラーゼがその改変配列によって与えられ、それに伴って、ポリマー基質の触媒活性部位へのアクセスが可能もしくは容易になる、および/または、エステラーゼの安定性、たとえば特定のpH値での安定性、もしくは本発明の範囲に含まれるさまざまな溶媒もしくは溶媒混合物中での安定性が高まることがありうるので、前記機能性変異体は、特に、活性部位への基質のアクセスを阻止もしくは阻害する構造成分(たとえばループ)が改変もしくは除去された、エステラーゼの機能性変異体に関するものである。配列番号1に記載のエステラーゼ(B.gladioli由来のEstB)の場合、ループ短縮に適した領域はたとえば、Glu246からArg 258まで、およびGly312から323までの領域である。この場合、ループの短縮は、1つもしくは複数のアミノ酸を除去することによって行うことができるが、複数のアミノ酸を除去する場合、再度、1つもしくは複数のアミノ酸を、配列番号1において隣接位置または隣接していない位置で除去することができる。本発明はさらに、エステラーゼの周囲から触媒活性部位(いわゆる活性中心)(これはたとえば、穴、漏斗、溝または隙間の形をとることができる)へのアクセスが分子にとってより到達しやすくなった、エステラーゼの機能性変異体に関する。これは、たとえば、触媒活性部位へのアクセスの構成成分である、大きな側鎖を有するアミノ酸を除去すること、またはそうしたアミノ酸をより小さい側鎖を有するアミノ酸で置き換える(たとえば、アラニンをグリシンで、バリンをアラニンもしくはグリシンで、ロイシンをバリンで置き換える)ことによって行うことができる。結果として、大きな空間充填を有する巨大分子であるポリアクリル酸エステルの一部領域の、触媒中心への空間的アクセスが可能または容易になる。ポリアクリル酸エステルの電荷に関しては、遊離のカルボキシル基が残存しているため負電荷を有する可能性があるので、活性部位のアクセス領域にある酸性アミノ酸を中性もしくは塩基性アミノ酸に交換することによってさらに上記を達成することができる。ポリアクリル酸エステルのアルコール成分が塩基性の基で置き換えられているためにむしろ正電荷を有する可能性のあるエステルに関してはそれに対応して、触媒活性部位のアクセス領域内にある塩基性アミノ酸を、塩基性の弱いアミノ酸、あるいは中性もしくは酸性のアミノ酸に替えることによって、触媒活性部位へのアクセスを可能もしくは容易にすることができる。たとえば、側鎖の小さいアミノ酸に替えることで活性部位へのアクセスが改善されるに違いない適当なアミノ酸は、配列番号1の場合にはTyr181、Trp348およびTrp149である。配列番号2については、たとえば、Leu163、Val213およびPro168がこうした可能性のあるものであるが、特にPro168の場合、AlaまたはGlyへの交換は、関連するループの可動性を高めることができるので、より大きな基質を受け入れることができる。本発明はさらに、安定性、たとえば、高pH、温度または溶媒安定性、の向上したエステラーゼの機能性変異体に関する。こうした安定性の向上は、たとえば、アミノ酸を交換することによって達成することができるが、それに伴って、タンパク質分子内の分子内相互作用がはじめて可能になり、または強化され、それによって、タンパク質分子の不安定なループがうまく固定され、あるいは個々のタンパク質ドメインが高い凝集性を獲得する。
したがって、本発明の特別な実施形態は、配列番号1に記載のEstBの機能性変異体であり、その触媒活性中心上にあるループは、ループを形成するアミノ酸を完全か否か程度の差はあれ欠失させることによって、除去もしくは短縮されている。図1は配列番号1に示すEstBの分子モデルを示しているが、ここで、EstBの触媒活性中心と外部の媒体との間にある2つのループが確認された。
それに応じて、本発明のさらに特別な実施形態は、配列番号2に記載のEstCの機能性変異体である。本発明にしたがって、EstCの構造モデルが使用されたが、それに基づいて構造変異体が作製された。これに関連して、本発明者らは、触媒活性中心へのアクセスを塞ぐタンパク質領域を同定した。次に、部位特異的変異誘発により、アクセスを広げて大きな高分子の基質によりよいアクセスをもたらすために、配列番号2の単一または数個のアミノ酸を意図的に改変した。Phe138(すなわちアミノ酸138位にあるフェニルアラニン)が活性部位へのアクセスを塞ぐアミノ酸であると同定された(図2)。図2から、Phe138は、その側鎖によって、触媒活性部位のアミノ酸Ser112、Asp242およびHis275と、タンパク質の外部媒体との間に位置していることがわかる。Phe138をアラニンで置き換えることによって(Phe138Ala)、アラニンの方が側鎖が小さいことを考慮すると、大きな基質分子、たとえばポリアクリル酸エステルの触媒活性中心へのアクセスは容易になる(図5の変異1K22に対応する)。138位のタンパク質表面の物理化学的性質は、疎水性アミノ酸を別の疎水性アミノ酸で置き換えているので基本的に同じである。本発明によれば、Leu193は、触媒活性部位へのアクセスを阻むもう一つのアミノ酸であると同定され(図4)、ある実施形態において、アラニンで置き換えられた(図5の変異2K20に対応する)。挙げることができるもう一つの例はThr188であるが、これは触媒活性部位へのアクセスの縁に位置し、基質分子のアクセスにまだある程度影響を与えうる(図4)。ある実施形態によれば、Thr188はセリンに置き換えられ、たとえばPhe138Ala、Leu193Ala、Thr188Serの三重の変異においてそうである(図4)。上記の、または図5に示す変異の、いかなる組み合わせも本発明に含まれる。当業者は、上記の方法によって、EstCと相同のタンパク質の場合にも、アミノ酸を交換するのに適当な位置を決定することができる。たとえば、Sybly社 (St. Louis, MO, USA)製Triposソフトウェアを用いて、当業者は、本明細書に記載のEstCおよび同様の立体構造を有するエステラーゼの構造を重ね合わせ、そこで適当な位置を決定することができるので、本発明は、本明細書に明記されたタンパク質および変異に限定されない。
3. 核酸
本発明はさらに、上記の機能性エステラーゼ変異体をコードする核酸配列、たとえば、具体的には配列番号54から配列番号57に関する。
本発明のすべての核酸配列(一本鎖および二本鎖DNAおよびRNA配列、たとえばcDNAおよびmRNA)は、それ自体既知の方法で化学合成によって、ヌクレオチドビルディングブロックから、たとえば個々のオーバーラップした相補的な、二重らせんの核酸ビルディングブロックのフラグメント縮合によって、作製することができる。オリゴヌクレオチドの化学合成はたとえば、既知の方法で、ホスホロアミダイト法によって行うことができる(Voet, Voet, 2nd edition, Wiley Press New York, pages 896-897)。DNAポリメラーゼのKlenow断片および連結反応ならびに一般的なクローニング法を用いて合成オリゴヌクレオチドを付加し、ギャップを埋めることは、Sambrook et al. (1989), Molecular Cloning: A laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載されている。
「由来する」核酸配列とは、本明細書によれば、特に指示しない限り、出発配列と少なくとも80%、または少なくとも90%、具体的には約91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%および99%の同一性を有する配列を意味する。たとえば、本発明は、本明細書に記載の核酸配列に由来するあらゆる核酸配列に関する。
2つの核酸の間の「同一性」は、いずれの場合にも、核酸の全長にわたるヌクレオチドの同一性を意味しており、具体的には、Informax社 (USA)製Vector NTI Suite 7.1ソフトウェアを用いて、Clustal法(上記)により比較することによって確定される同一性を意味する。
本発明はまた、上記エステラーゼおよびその機能性変異体をコードする核酸配列に関するが、これらは、たとえば人為的なヌクレオチドアナログを用いて達成できる。
本発明はまた、本発明のエステラーゼまたはその酵素活性のあるセグメントをコードする、単離された核酸分子、および、たとえば、本発明のコード核酸の同定または増幅のためのハイブリダイゼーションプローブもしくはプライマーとして使用することができる核酸断片に関する。
本発明の核酸分子はさらに、コード遺伝子領域の3'-および/または5'-末端側の非翻訳配列を含有することができる。
「単離された」核酸分子は、その核酸の天然起源の中に存在する他の核酸分子から分離されており、その上、それが組換え技法によって作製されるならば、他の細胞物質もしくは培地を実質的に含んでおらず、化学合成で作られるならば、化学的前駆体もしくは他の化学物質を含まない。
本発明の核酸分子は、分子生物学の標準的な方法および本発明により与えられる配列情報を用いて単離することができる。たとえば、cDNAは、明記された完全な配列のうち1つ、またはそのセグメントをハイブリダイゼーションプローブとして使用し、(たとえば、Sambrook, J., Fritsch, E.F. and Maniatis, T. Molecular Cloning: A laboratory manual. 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989に記載のように)標準的なハイブリダイゼーション技法を用いて、適当なcDNAバンクから単離することができる。その上、核酸分子は、本発明の配列のうち1つ、またはそのセグメントを含めて、ポリメラーゼ連鎖反応によって、この配列に基づいて調製されたオリゴヌクレオチドプライマーを用いて単離することができる。こうして増幅された核酸を適当なベクターにクローニングし、DNA配列分析によって特徴を明らかにすることができる。さらに本発明のオリゴヌクレオチドは、標準的な合成法、たとえば自動DNA合成装置によって作成することができる。
本発明はさらに、記載のヌクレオチド配列もしくはそのセグメントに相補的な核酸分子に関する。
本発明に記載のヌクレオチド配列は、他の細胞型および生物において相同配列を同定および/またはクローニングするために使用することができるプローブおよびプライマーの作製を可能にする。このようなプローブもしくはプライマーは通常、ストリンジェントな条件下で、本発明の核酸配列のセンス鎖または対応するアンチセンス鎖の少なくとも約12、好ましくは少なくとも約25、たとえば約40、50、または70個の連続したヌクレオチドに対してハイブリダイズする、ヌクレオチド配列領域を含有する。
本発明による追加的な核酸配列が、本発明に記載のエステラーゼのコード配列に由来して得られ、それらは単一もしくは複数のヌクレオチドの、1つまたは複数の、たとえば1-50、1-40、1-30または1-20の、すなわち、たとえば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20箇所の付加、置換、挿入または欠失によって、前記コード配列と異なっているが、なおその上に、望ましい酵素活性を有するエステラーゼをコードしている。
本発明はまた、いわゆるサイレント変異を有する核酸配列、または明記された配列と比較して、特別な独自の、または宿主生物のコドン使用頻度にしたがって改変された核酸配列、ならびにその天然に存在するバリアント、たとえばスプライスバリアントもしくはアレルバリアントに関する。本発明はまた、保存的ヌクレオチド置換(すなわち、当該アミノ酸が、電荷、サイズ、極性および/または溶解性が同じアミノ酸で置換される)によって得られる配列に関する。
本発明はまた、明記された核酸配列に由来し配列多型によって得られる分子に関する。こうした遺伝子多型は、自然変異に起因して集団内の個体間に存在しうる。このような自然変異は通常、遺伝子のヌクレオチド配列中で1-5%の差異をもたらす。
さらに、本発明には、上記コード配列とハイブリダイズする核酸配列、またはそれに対して相補的な配列も含まれる。これらのポリヌクレオチドは、ゲノムもしくはcDNAライブラリーを調べることによって見いだすことができ、必要に応じてそのライブラリーから適当なプライマーを用いてPCRによって増幅した後、たとえば適当なプローブを用いて単離することができる。もう一つの可能性は、適当な微生物を本発明のポリヌクレオチドもしくはベクターで形質転換し、その微生物を増殖させることによってポリヌクレオチドを増やした後、それを単離することである。さらに、本発明のポリヌクレオチドは化学的に合成することもできる。
ポリヌクレオチドと「ハイブリダイズする」ことができるという性質は、ポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチドがストリンジェントな条件下でほぼ相補的な配列と結合することができる能力を意味するが、こうした条件下で相補的でないパートナー間では非特異的結合は起こらない。このためには、配列は70-100%、特に90-100%、たとえば、95%、96%、97%、98%または99%相補的でなければならない。互いに特異的に結合することができるという相補配列の特性は、たとえば、ノーザンもしくはサザンブロッティング、またはPCRもしくはRT-PCRにおけるプライマー結合に利用される。通常、オリゴヌクレオチドは、30塩基対の長さからこれに使用される。「ストリンジェントな条件下」は、たとえば、ノーザンブロットで、非特異的にハイブリダイズしたcDNAプローブもしくはオリゴヌクレオチドを溶出するために、温度が50-70℃、好ましくは60-65℃の洗浄溶液、たとえば、0.1% SDS含有0.1x SSCバッファー(20x SSC: 3M NaCl、0.3M クエン酸Na、pH 7.0)を使用することを意味する。上記のように、相補性の高い核酸だけが、相互に結合したまま維持される。ストリンジェントな条件の設定は当業者に明らかであり、たとえば、Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y. (1989), 6.3.1-6.3.6に記載されている。
4. 発現構築物およびベクター
本発明はさらに、核酸制御配列の遺伝子制御下で、本発明のエステラーゼもしくは機能性変異体をコードする核酸配列を含有する発現構築物;およびこれらの発現構築物の少なくとも1つを含有するベクターに関する。
好ましくは、本発明の前記構築物は、それぞれのコード配列の5'上流にプロモーターを、3'下流に転写終結配列を、さらに必要に応じて他の通常の調節エレメントを、いずれの場合も、機能しうるようにコード配列に連結して含有する。「機能しうる連結」は、プロモーター、コード配列、転写終結コドン、および必要に応じて他の調節エレメントが、そのいずれもが指定のコード配列の発現においてその機能を果たすことができるように、順次配列されることを意味する。機能しうるように連結することができる配列の例には、ターゲッティング配列およびエンハンサー、ポリアデニル化シグナルなどがある。他の調節エレメントには、選択可能なマーカー、増幅シグナル、複製起点などが含まれる。適当な制御配列は、たとえば、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)に記載されている。
人工的な制御配列に加えて、天然の制御配列が実在の構造遺伝子の前に、依然として存在しうる。遺伝的多様性により、この天然の調節はスイッチオフであるかもしれず、遺伝子の発現は増加することも減少することもありうる。しかしながら、遺伝子構築物はもっと単純な構造をとることができ、すなわち、追加の調節シグナルを構造遺伝子の前に挿入せず、その制御を行う天然プロモーターを除去しない。その代わり、天然制御配列を変異させ、その結果もはや制御は存在せず、遺伝子発現は増加または減少する。核酸配列は、遺伝子構築物中1コピーまたは複数コピーが含まれる可能性がある。
使用できるプロモーターの例には、グラム陰性細菌に有利に適用されるcos-、tac-、trp-、tet-、trp-tet-、lpp-、lac-、laclq-、T7-、T5-、T3-、gal-、trc-、ara-、SP6-、ラムダ-PR-またはラムダ-PLプロモーター;ならびにグラム陽性プロモーターamyおよびSPO2、酵母プロモーターADC1、MFalpha、AC、P-60、CYC1、GAPDH、または植物プロモーターCaMV/35S、SSU、OCS、lib4、usp、STLS1、B33、not、またはユビキチンもしくはファセオリンプロモーターがある。誘導プロモーター、たとえば、光誘導プロモーター、および特に、温度誘導プロモーター(たとえば、PrPl-プロモーター)の使用は特に好ましい。原則として、すべての天然プロモーターを、それらの制御配列とともに使用することができる。さらに、合成プロモーターも有利に使用することができる。
前記制御配列は、核酸配列およびタンパク質発現の標的発現を可能にすべきである。これは、たとえば、宿主生物に応じて、遺伝子が誘導後にのみ、発現、もしくは過剰発現されること、または遺伝子がただちに発現および/または過剰発現されることを意味する。
制御配列もしくは制御因子は、発現にプラスの影響を与えることができるのが好ましく、したがって、発現を増加または減少させることができる。したがって、調節エレメントの強化は、プロモーターおよび/または「エンハンサー」などの強力な転写シグナルを使用することによって、転写レベルで行うことができると好都合である。しかしながらその他に、たとえば、mRNAの安定性の向上による、翻訳の強化も可能である。
適当なプロモーターと、適当なコードヌクレオチド配列および転写終結コドンまたはポリアデニル化シグナルとの融合により、発現カセットが作製される。これを目的として一般的な組換えおよびクローニング技術が使用されるが、それはたとえば、T. Maniatis, E.F. Fritsch and J. Sambrook, Molecular Cloning: A laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1989) 、およびT.J. Silhavy, M.L. Berman and L.W. Enquist, Experiments with Gene Fusions, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1984)、およびAusubel, F.M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Assoc. and Wiley Interscience (1987)に記載されている。
組換え核酸構築物または遺伝子構築物は、適当な宿主生物での発現のために、その宿主における遺伝子の最適な発現を可能にする、宿主特異的ベクターに挿入されると好都合である。ベクターは当業者によく知られており、たとえば、"Cloning Vectors" (Pouwels P.H. et al., Eds., Elsevier, Amsterdam-New York-Oxford, 1985)から選ぶことができる。ベクターは、プラスミドに加えて、当業者に周知の他のあらゆるベクター、たとえば、ファージ、ウイルス(たとえばSV40、CMV、バキュロウイルスおよびアデノウイルス)、トランスポゾン、ISエレメント、ファスミド、コスミド、および直鎖もしくは環状DNAであると理解されるべきである。これらのベクターは、宿主生物において自律的に複製されるが、染色体により複製されることもある。
適当な発現ベクターの例として挙げられるのは下記のとおりである:
通常の融合発現ベクター、たとえば、pGEX (Pharmacia Biotech Inc; Smith, D.B. and Johnson, K.S. (1988) Gene 67:31-40)、pMAL (New England Biolabs, Beverly, MA)およびpRIT 5 (Pharmacia, Piscataway, NJ)であるが、これらにおいてグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質またはプロテインAが組換え標的タンパク質に融合されている。
非融合タンパク質発現ベクター、たとえばpTrc (Amann et al., (1988) Gene 69:301-315) およびpET 11d (Studier et al. Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, California (1990) 60-89)。
酵母S. cerevisiaeでの発現を目的とする酵母発現ベクター、たとえば、pYepSec1 (Baldari et al., (1987) EMBO J. 6:229-234)、pMFa (Kurjan and Herskowitz (1982) Cell 30:933-943)、pJRY88 (Schultz et al. (1987) Gene 54:113-123)およびpYES2 (Invitrogen Corporation, San Diego, CA)。糸状菌などの他の真菌で使用するのに適したベクターおよびベクターを構築する方法には、van den Hondel, C.A.M.J.J. & Punt, P.J. (1991) "Gene transfer systems and vector development for filamentous fungi, Applied Molecular Genetics of Fungi, J.F. Peberdy et al., Eds., p. 1-28, Cambridge University Press: Cambridgeに詳細に記載されるものがある。
バキュロウイルスベクター、これは培養昆虫細胞(たとえば、Sf9細胞)でタンパク質を発現させるために利用可能であって、pAc系(Smith et al., (1983) Mol. Cell Biol., 3:2156-2165)およびpVL系(Lucklow and Summers (1989) Virology 170:31-39)がある。
植物発現ベクター、たとえば、Becker, D., Kemper, E., Schell, J. and Masterson, R. (1992) "New plant binary vectors with selectable markers located proximal to the left border", Plant Mol. Biol. 20:1195-1197;およびBevan, M.W. (1984) "Binary Agrobacterium vectors for plant transformation", Nucl. Acids Res. 12:8711-8721に詳細に記載されるベクター。
哺乳類発現ベクター、たとえば、pCDM8 (Seed, B. (1987) Nature 329:840) およびpMT2PC (Kaufman et al. (1987) EMBO J. 6:187-195)。
原核および真核細胞のための他の適当な発現系が、Sambrook, J., Fritsch, E.F. and Maniatis, T., Molecular Cloning: A laboratory manual, 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989の第16および17章に記載されている。
5. 組換え宿主生物
本発明のベクターを用いて、たとえば本発明の少なくとも1つのベクターで形質転換された、組み換え生物を作製し、本発明のドメインもしくはポリペプチドの作製に使用することができる。上記の本発明の組換え構築物を適当な宿主系に挿入し発現させれば好都合である。当業者に公知の一般的なクローニングおよびトランスフェクション法、たとえば、共沈殿、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、化学的形質転換、レトロウイルストランスフェクションなどを、特定の発現系において指定の核酸の発現をもたらすために使用することが好ましい。適当な系は、たとえば、Current Protocols in Molecular Biology, F. Ausubel et al., Eds., Wiley Interscience, New York 1997、またはSambrook et al. Molecular Cloning: A laboratory manual. 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989に記載されている。
本発明の核酸、それらのアレルバリアント、それらに由来する核酸(これらは機能性変異体もしくはそれに由来するものをコードしている)の発現を可能にするすべての生物が、原則的に、宿主生物として好適である。宿主生物はたとえば、細菌、真菌、酵母、植物または動物細胞である。好ましい生物は、細菌(Escherichia属、たとえば大腸菌(Escherichia coli)、Streptomyces属、Bacillus属、Pseudomonas属またはBurkholderia属の細菌など)、真核微生物(Saccharomyces cerevisiae、Aspergillusなど)、動物もしくは植物由来の高等真核細胞(Sf9、CHOまたはHEK293細胞など)であって、本発明の範囲において、動物もしくは植物などの高等真核生物由来の個別の細胞、または凝集もしくは増殖して細胞クラスターを形成した前記細胞も、微生物と称する。
うまく形質転換された生物の選択は、ベクター中または発現カセット中に同様に含まれているマーカー遺伝子によって行うことができる。前記マーカー遺伝子の例には、抗生物質耐性遺伝子または発色反応を触媒する酵素の遺伝子があるが、この発色反応は形質転換細胞の着色または蛍光を生じさせる。こうした細胞は次に自動セルソーティングによって選択することができる。該当の抗生物質耐性遺伝子(たとえば、G418またはハイグロマイシン)を保有するベクターによる形質転換に成功した微生物は、それに対応する抗生物質を含有する培地もしくは培養液を用いて選択することができる。細胞表面に提示されるマーカータンパク質は、アフィニティクロマトグラフィーによる選択に用いることができる。
本発明はさらに、エステラーゼ産生組換え宿主生物を培養し、必要に応じてエステラーゼの発現を誘導して、培養物からエステラーゼを単離することによって、本発明のエステラーゼ、またはその酵素活性のある機能性断片を組換え生産するための方法に関する。1つもしくは複数のエステラーゼを、必要ならば、工業規模でこのように生産することもできる。
組換え宿主は、既知の方法で培養し、発酵させることができる。細菌は、たとえば、TBまたはLB培地で、20から40℃までの温度で、6から9までのpHで増殖させることができる。適当な培養条件は、たとえば、T. Maniatis, E.F. Fritsch and J. Sambrook, Molecular Cloning: A laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1989)に詳細に記載されている。
次に、エステラーゼが培地中に分泌されない場合、細胞を溶解し、その溶解物から既知のタンパク質単離技術により産物を得る。細胞は、必要に応じて、高周波数超音波によって、高圧によって(たとえばフレンチ圧力セル(フレンチプレス)内で)、浸透圧によって、界面活性剤、溶菌酵素もしくは有機溶媒の作用によって、ホモジナイザーを用いて、または上記方法のうちいくつかを組み合わせることによって、破砕することができる。
エステラーゼは既知のクロマトグラフ法、たとえば分子篩クロマトグラフィー(ゲル濾過)、Q-セファロースクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーおよび疎水性クロマトグラフィーなどによって、加えて他の通常の方法、たとえば限外濾過、結晶化、塩析、透析、およびネイティブゲル電気泳動によって精製することができる。適当な方法はたとえば、Cooper, F.G., Biochemical Procedures, Verlag Walter de Gruyter, Berlin, New York or in Scopes, R., Protein Purification, Springer Verlag, New York, Heidelberg, Berlinに記載されている。
組換えエステラーゼを単離するためにベクター系もしくはオリゴヌクレオチドを使用することは、特に適している;これによってcDNAは、指定のヌクレオチド配列だけ長くなり、したがって改変ポリペプチドまたは融合タンパク質をコードしているが、これらはたとえば、より簡単な精製のために役立つ。このような好適な修飾はたとえば、アンカーとして機能するいわゆる「タグ」、たとえばヘキサヒスチジンアンカーとして知られている修飾、または抗体によって抗原として認識されうるエピトープである(たとえば、Harlow, E. and Lane, D., 1988, Antibodies: A Laboratory Manual. Cold Spring Harbor (N.Y.) Press)に記載されている)。これらのアンカーは、固体担体、たとえば高分子マトリックスへのペプチドの付着に役立つ可能性がある(たとえばクロマトグラフィーカラム内の充填剤として使用することができる、またはマイクロタイタープレートもしくは他の担体上で使用することができる)。
同時に、これらのアンカーは、エステラーゼを認識するために使用することもできる。エステラーゼを認識するために、通常のマーカー、たとえば蛍光色素、酵素マーカー(基質との反応後に検出可能な反応生成物を形成する)または放射性マーカーを、単独で、またはエステラーゼを誘導体化するためのアンカーと組み合わせて、用いることもできる。
6. 反応器
本発明の方法は、この分野で通例の反応器内で、さまざまな規模で、たとえば実験室規模(数ミリリッターから数十リッターまで)もしくは工業的規模(数リッターから数千立方メートルまで)で実施することができる。エステラーゼが、単離された、ほぼ精製酵素の形で使用されるならば、化学反応器を使用することができる。本発明の方法において、使用されるエステラーゼが微生物によって産生され、適宜、反応培地中に放出されて、その結果そこでエステル分解が起こる可能性があるならば、バイオリアクター(発酵槽)を使用して、バイオリアクター内で、エステル分解に適した処理条件だけでなく、エステル産生微生物にとって好適な生存条件も与えられなければならない(たとえば、適当な栄養培地およびpH、適当な温度、酸素もしくは他の気体の供給、抗生物質などを提供することによって)。したがって、バイオリアクターは、全細胞系によるエステラーゼの調製に適しており、そこで生きた微生物(たとえば、細菌もしくは古細菌などの原核細胞、または酵母、哺乳動物細胞または昆虫細胞などの真核細胞)が培養される。当業者は、反応器の使用に関するさまざまな態様、たとえば、化学的もしくはバイオ技術的プロセスの実験室スケールから大規模工業生産へのスケールアップを熟知しており、必要に応じて関連技術文献を参照することができる(バイオ技術プロセスについては、たとえば、Crueger and Crueger, Biotechnologie - Lehrbuch der angewandten Mikrobiologie [Biotechnology - textbook of applied microbiology], 2nd edition, R. Oldenbourg Verlag, Munich, Vienna, 1984)。
7. 反応生成物
本発明はまた、本発明の方法によって得られる反応生成物に関する。反応生成物は、本発明の方法に使用される反応混合物と共存してもよいが、部分的に、もしくは大規模に精製されていてもよい。適当な精製の程度は、必要に応じて、またその後の使用に応じて、当業者がルーチン的に決定することができ、この精製度にはたとえば、化学的純度または分析的純度がある。適当な精製法は、当業者に知られており、たとえば、沈殿法およびクロマトグラフ法がある。
得られた反応生成物は、先行するエステル分解の程度に応じて、ポリアクリル酸または部分的にエステル化されたポリアクリル酸を含有しており、たとえば、壁用ペイント、(たとえば、金属表面用、特に自動車産業における)コーティング剤および塗料などの、ペイントおよびコーティング剤に使用することができる。用途は他に、製紙業(たとえば、印刷適性、外観または光沢に影響を与えるため)、接着剤およびシーラント、繊維工業(たとえば、顔料着色もしくはプリント工程のためのバインダーとして)または皮革工業(たとえば、革表面を疎水性にするため)に見いだされる。他の用途には、繊維およびガラス繊維の製造;床、車もしくは靴磨き剤;水硬性セメント、モルタルもしくはコンクリート用添加剤がある。ポリアクリレート類はまた、植物の保護および肥料散布に使用され、イオン交換体用マトリックスとしても用いられる。ポリメタクリレート類(すなわちポリメタクリル酸メチル類)の用途には、特に、いわゆるアクリルガラス、ならびに石油工業用の添加剤、分散系のための、および化粧品業界における、増粘剤がある。ポリメタクリレート類は、歯科の補綴物として、外科の骨セメントとして、さらに徐放性錠剤の医薬品添加物としても使用される。
本発明の方法によって、具体的には、位置特異的に改変されたポリマーを調製することができる。驚くべきことに、ポリマー分子の末端のエステル基の加水分解だけを引き起こすが、ポリマー分子のもっと奥のエステル基の加水分解は起こさない酵素を使用することによって、このように選択的に改変されたポリマーを、化学的な方法と比べて比較的簡単に作製できることが明らかになった。
(実施例)
本発明を、下記の限定的でない実施例を参照して、より詳細に説明する。
EstC遺伝子バンクの作製
EstCの機能性変異体を得るために、Burkholderia gladioli由来の変異したEstC(配列番号51)を用いて遺伝子ライブラリーを作製した。エラープローンPCRにおいてテンプレートとしてプラスミドpMSP1.17を用いて、プロトコールにしたがってランダム変異導入法によりEstCに変異を導入し、GeneMorph(登録商標)IIランダム変異導入キット(Stratagene)を用いて、配列エラーをPCR増幅したEstC遺伝子に導入した。資料: GeneMorph(登録商標)IIランダム変異導入キット(Cat# 200550)取扱説明書。次に、PCR増幅した遺伝子を、Promega製Wizard SVゲルおよびPCRクリーンアップシステムを用いてプロトコールにしたがって精製し、Fermentas社製バッファーR中、制限酵素NdeIおよびHindIIIを用いて切断した。それとは独立して、プラスミドpMS470A8(Balzer et al., Nucleic Acids Research, 1992, Vol. 20, No. 8, 1851-1858)をベクター-DNAとして同じ制限酵素で消化し、制限酵素を熱失活(80℃20分)させた後、Fermentas社製仔牛腸アルカリホスファターゼ(CIAP)1μlで37℃にて1時間、脱リン酸化した。全DNAをアガロースゲルにアプライし、対応するベクター部分を切り出して、Promega製Wizard SVゲルおよびPCRクリーンアップシステムで、プロトコールにしたがって精製した。その後、ベクターDNAおよび作製された挿入物を、Fermentas社製T4 DNAリガーゼを用いて20℃にて1時間、連結した。この連結産物を次に、Promega製Wizard SVゲルおよびPCRクリーンアップシステムで精製し、脱塩してから、BioRad製Micropulser(登録商標)を用いて、80μlのプラスミドDNAのうちそれぞれ2μlのエレクトロポレーション(2.5kV)により、大腸菌BL21(DE3)のコンピテントセルに形質転換した。電気刺激後ただちに細胞を1 mlのSOC培地中に取り、37℃で550 rpmにて35分間、エッペンドルフのサーモミキサーコンフォート(Thermomixer comfort)中で再生させた。コンピテントセルは、"Current Protocols in Molecular Biology" 1.8.4にしたがって作製した。形質転換されたクローンは、LB-Ampプレート(100μg/ml)上で選択し、10個の形質転換体を前記選択プレート上に画線塗沫して、Qiagen製のQIAprep(登録商標)Spin Miniprepキットにしたがってプラスミドを調製するために使用した。単離したプラスミドを前記制限酵素で消化し、正しいサイズのインサートがあることをアガロースゲル電気泳動によって確認した。さらに、配列決定により変異率を確定した。
部位特異的変異誘発による変異型EstCバリアントの作製
部位特異的変異誘発のために、Stratagene社製QuickChange Multi-Site-directed Kit(カタログ番号#200514および#100515)を使用したが、これは、5カ所までの部位で同時にプラスミドDNAの部位特異的変異を誘発するための迅速かつ確実な方法を提供する。それぞれの部位の変異は、二本鎖DNAテンプレートを用いて、単一の変異誘発性オリゴヌクレオチドを必要とする。QuickChange Multi-Site-directed Kitのプロトコールの指示に従って考案され、Invitrogenにより合成された下記の変異誘発性オリゴヌクレオチドプライマーを使用したが、生じた変異はかっこ内に示す:
配列番号39:
(Phe138Val) 5'-gctgctcttgtatatcttgctgcggtcatgcctgc- 3'
配列番号40:
(Phe138Ala) 5'-gctgctcttgtatatcttgctgcggccatgcctgc-3'
配列番号41:
(Glu154Ala) 5'-gtaagagcaccagcaaaccatggcgaaatgctggc- 3'
配列番号42:
(Leu163Ala) 5'-ctggcctcggcgatctgcgccagccct- 3'
配列番号43:
(Leu189Ala) 5'-cggcctatctcgccacggcgaagca- 3'
配列番号44:
(Leu189AlaLeu193Ala) 5'-gccacggcgaagcaggcggcgttcgaggatgttga- 3'
配列番号45:
(Leu193Ala) 5'-gcaggcggcgttcgaggatgttgac-3'
配列番号46:
(Val150Ala) 5'-gtacctggtcttgattacgcgagagctcct- 3'
配列番号47:
(Thr188Ser) 5'-gcctatctcgcctcgctgaagcagg- 3'
配列番号48:
(Leu160Ala) 5'-cgaaatggcggcctcgctgatctgc- 3'
配列番号49:
(Thr188AlaLeu189AlaLeu193Ala) 5'-tatctcgcctcggcgaagcaggcggcgttcgagga-3'
部位特異的変異誘発のために、DNA少量調製用の通常のプロトコール(Qiagen社製 QIAprep Spin Miniprep Kit)を用いて、二本鎖DNAテンプレートを作製した。次に、変異したストランドを合成するための反応混合物を、下記の一覧にしたがってPCRにより調製したが、それぞれの成分は一覧に示す順序で反応容器に入れた後、混合した:
実験の反応:
2.5μl 10xQuikChange multi-reaction buffer
2.0μl ds-DNAテンプレート: pMS470[EstC] (50 ng)
1.0μl dNTP-mix
1.0μl QuikChange multi-enzyme mixture
xμl 変異誘発性プライマー(1-3個のプライマーを使用する場合、各プライマー約100 ngを添加し、4-5個のプライマーを使用する場合には、各プライマー50 ngを添加した)
xμl 再蒸留水で最終容量of 25μlとする
対照の反応:
2.5μl 10xQuikChange multi-reaction buffer
18.5μl 再蒸留水
1.0μl (50 ng/μl) QuikChange multi-control template
1.0μl QuikChange multi-control primer mixture (プライマー当たり100 ng/μl)
1.0μl dNTP-mix
1.0μl QuikChange multi-enzyme mixture
下記の表1に記載のパラメーターを用いて反応を行ったが、対照反応にはストランド合成に8分の時間を採用した:
Figure 2011528224
次に、個別の増幅反応の各反応混合物に制限酵素DpnIを1μl加えた。それぞれの反応混合物を数回ピペットに吸い上げて排出することによって、慎重にかつ完全に混合した。次に、反応混合物を、微量遠心機で1分間遠心した後、親(未変異)二本鎖DNAを消化するために、ただちに、37℃にて1時間インキュベートした。
次に、得られたPCR断片を、Promega製Wizard SVゲルおよびPCRクリーンアップシステムを用いてプロトコールにしたがって精製した後、バッファーR (Fermentas)中で制限酵素NdeIおよびHindIIIにより消化し、実施例1に記載の手順で、やはり制限酵素NdeIおよびHindIIIで切断されたベクターpMS470Δ8に連結した。
その後、メーカーの使用説明書(Stratagene)にしたがって、XL10-Gold Ultra-コンピテントセルの形質転換を行った。
それぞれの形質転換反応のために、表2のデータにしたがって、適当な容量をLBampプレートに蒔いた。変異誘発の対照とするために、80μg/ml X-galおよび20 mM IPTGを用いて調製した細胞を、LBampプレートに蒔いた。
Figure 2011528224
形質転換プレートはその後37℃にて一晩インキュベートした。
変異誘発対照形質転換から予想されるコロニー数は、50から800コロニーの間である。変異誘発対照形質転換から、コロニーの50%より多くが、3つすべての変異を有し、IPTG-およびX-gal-含有寒天プレート上で青いコロニーとして見えるはずである。実験変異誘発形質転換から予想されるコロニー数は、10から1000コロニーの間である。予想コロニー数に達した後、約150個の形質転換体を、LBamp-IPTGプレート(0.2 mM IPTG)上に画線塗沫し、37℃にて一晩インキュベートした。
フィルターアッセイによる活性の検出
実施例2で調製されたEstC変異体が、エステル結合を有する基質を切断する能力について調べた。この目的で、対応するプラスミドをいずれの場合も発現菌株大腸菌BL21 (DE3) (Invitrogen)に形質転換した。まず最初に、同一変異を有する10コロニーを、酢酸αナフチルを用いてテストした。
a) ナフトールエステルの分解に関するFast Blue Bを用いた発色アッセイ
このために、コロニー、ならびにポジティブコントロールEstC、EstB、およびネガティブコントロールの大腸菌BL21 [pMS470Δ8]をLB-amp-IPTGプレート(100μg/mlアンピシリン、0.2 mM IPTG)上に、決まったパターンで画線塗沫して、一晩インキュベートした。その後、細胞コロニーを、滅菌濾紙(Whatman、カタログ番号1001-085)を用いて寒天プレートから移し、この濾紙を37℃にて10分間乾燥させた。細菌細胞を、500μl Bug Buster (Novagen)を用いて室温にて25分間消化し、次にその濾紙を0.02 Mリン酸カリウムバッファー(pH7.0)で10分間平衡化した。酢酸αナフチルを用いたテストのために、5 mlのバッファー(0.05 M Tris-HCl、pH 7.0)を、ガラス製ペトリ皿の中で、100μlの基質溶液(10 mg/ml酢酸αナフチル/アセトン溶液)および100μlの色素溶液(10 mg/ml Fast Blue B塩/水溶液)と混合し、濾紙を浸漬した。赤紫色の着色が生じることで、エステラーゼ活性が示された。
b) pHシフトアッセイ
酢酸αナフチル基質について、それぞれの場合にもっとも活性のあるクローンを、ポリアクリル酸メチル(PMA)、ポリアクリル酸ブチル(PBA)、ならびに2,4-ジメチルグルタル酸ジメチルエステル(DG)および2,4-ジメチルグルタル酸ジブチルエステル(DB)という基質についてテストした。このために、上記のように、コロニーを寒天プレート上で増殖させ、実施例3aに記載のように、濾紙上に移した。
基質溶液を調製するために、まず最初に、400μLリン酸バッファー(0.1 M、pH = 7.0)、800μL蒸留水、500μL DMSO、750μL フェノールレッド(10 g/l)および400μL NaOH (0.1 M)を含有するスクリーニング溶液を調製した。DGおよび/またはDBを用いたpHシフトアッセイのために、いずれの場合も200μlの前記基質を、いずれの場合も9.5 mlスクリーニング溶液に溶解し、こうして調製された基質溶液1 ml中に、上記で調製されたフィルターメンブランを浸漬した。基質PMAおよび/またはPBAを用いたpHシフトアッセイのために、いずれの場合も、前記基質を乾いたメンブラン上にピペットで載せ、溶菌した細胞コロニーを用いて上記で調製されたフィルターメンブランは、1 mlスクリーニング溶液を含浸させてから、基質を含んだメンブラン上に置いた。室温でインキュベートした後、エステル分解後の酸基の形成によって引き起こされる赤から黄への色の変化が、それを測定した。色の変化は約20分後に検出された。
使用したクローンの活性を図5に示すが、以下の記号を使用する:
+++: 強い活性
++: 活性
+: 弱い活性
o: 不活性
エステラーゼを含有する細菌粗溶菌液の調製
酵素を含有する細菌粗溶菌液を作製するために、まず最初に、前培養として、100 mlエーレンマイヤーフラスコ中の100μl/mlアンピシリン含有LB培地(以後LBamp)30 mlに、細菌コロニーを接種し、振盪台に載せて37℃にて180回転/分で一晩培養した。その後、主培養のために500 mlの培地[2xTY (10g/L酵母エキス、16g/L トリプトン、5g/L NaCl)]に、前培養を取り分けてOD600 0.1となるまで接種し、30℃にてOD600 0.5-0.8に達するまで培養した。これに続いて、0.1 mM IPTGにより発現を誘導し、28℃にて16時間インキュベートした。細菌培養物を、その後、1000 ml遠心管で4℃にて30分間、4000回転/分(3062 ×g)で遠心し、ペレットをいずれの場合も20 mlの0.1 Mリン酸バッファー(pH7)中に懸濁した。細胞溶解は5分間の超音波処理によって行われ、その後1分おいて、もう5分間超音波処理したが、Branson Sonifier 250を使用して、デューティーサイクルは50%にセットし、出力制御はレベル5とした。得られた溶解産物は、40000回転/分(= 117734 ×g)で1時間遠心し、孔径0.2μmのメンブランで無菌濾過して、使用するまで-20℃で保存した。
酵素活性の標準化(標定)
実施例4と同様に調製された粗溶菌液を、酪酸p-ニトロフェニル(p-NPB)の分解に関する測光アッセイにおいて基質として使用した(さらに、当業者は、専門知識に基づいて、他の適当な基質、たとえば酢酸p-ニトロフェニル、p-NPAを基にしたアッセイを展開することができる)。このテストで、p-ニトロフェニルエステルについてエステラーゼ活性を測定するために、キュベット内で980μlのバッファー(1M Trisバッファー、pH7.0)を10μl酵素溶液(または酵素溶液の1M Tris buffer, pH 7.0による希釈物)と混合した。10μl基質溶液(400 mM p-ニトロフェニルエステル/DMSO溶液)で反応をスタートさせ、p-ニトロフェノールの増加をBeckmann UV分光光度計で波長405nmでモニターした。
ε = (p-ニトロフェノール) 11.86 mM-1cm-1 (pH 7.0で測定)
活性の計算式:
Figure 2011528224
エステラーゼの1ユニット(U)はこのアッセイにおいて1μmol/分の変換をもたらす量に当たる。
酵素触媒分解の検出
酵素による基質の分解と化学的な基質分解とを区別するために、(配列番号4に記載の、Burkholderia gladioli由来エステラーゼBの機能性変異体、EstB_NJ70を含有する)NJ70株の粗溶菌液を実施例4にしたがって調製した。基質溶液として、PBA溶液(CAS No.: 9003-49-0, Sigma Aldrich、25-30重量%トルエン溶液)750μl(単量体エステル基1.75 mmolに相当)をマスターミックス(340 ml 0.9% NaCl、220 mlトルエン、70 ml Emulgen (10% 水溶液)、pH 7) Emulgen 913、Batch 2265、Kao Chemicals、Osaka Japan、あるいは代わりにAldrich社製Tergitol NP-9を使用することができる)35 mlに加え、10 mM NaOH溶液を用いて溶液のpHを10に調整した。次に粗溶菌液500μl(実施例5で確立された基準に従って1000ユニットに相当する)を加え、エステル結合の分解の過程で遊離された酸基によるpHの低下は、10 mM NaOHの添加により補正した。化学的自己分解を測定するために、別のアッセイにおいて、80℃にて30分間煮沸することにより酵素を変性させた粗溶菌液500μlを加えた。結果を図6に示す。活性のある酵素の添加後は、遊離した酸基のため、pHを10に保つために10 mM NaOHの大量添加が必要である(図6の菱形印(◆)の曲線)。これに対して、変性酵素を添加すると、化学的自己分解によるごくわずかなエステル分解が見られる(図6の三角印(▲)の曲線)。変性酵素を有する粗溶菌液を添加した直後に、pH補正剤(NaOH)の消費が突然増加するのは、粗溶菌液のpHが7であることで説明することができる。
ポリアクリル酸による酵素触媒分解の阻害
対応するテストは、水溶液中で実施例6と同様に実施し、使用した基質、ポリブチルアクリレート(PBA)のエステル結合の酵素触媒による分解によって、酸基が生成した。こうした酸基はpHの低下をもたらすので、10 mM NaOHを添加して補正した。したがって、添加したNaOH量は、反応の進行を反映している。測定はすべて、35 mlの反応混合物中でpH 9.0、37℃にて行った。エステラーゼEstB_NJ70(配列番号4)350ユニットおよびPBA溶液750μlを使用したが、これは単量体エステル基1.75mmolに相当する。滴定溶液として10 mM NaOHを使用した。
起こりうる生成物阻害を測定するために、並行したアッセイで、測定の開始時に、20% Sokalan溶液850μlを添加した(Sokalan PA: 15 (ポリアクリル酸、Mw 1200、pH 8.0)が、これは、単量体アクリル酸ユニット1.74 mmolに相当する。図7に示す結果から分かるように、使用されたBurkholderia gladioli由来酵素(配列番号1;図7のWT)およびその機能性変異体EstB_N27(配列番号3)またはEstB_NJ70(配列番号4)は、Sokalanにより阻害されないか、ごくわずかしか阻害されなかった。
酵素触媒エステル分解のpH依存性
実施例6と同様に、酵素触媒エステル分解をpHの関数として調べた。NJ70株(機能性変異体NJ70、すなわち配列番号4を発現する)の粗溶菌液を実施例4にしたがって調製し、1000ユニット相当量を基質溶液に加えたが、この溶液はあらかじめpH5から11までのさまざまなpH値に調整しておいた。高pH値(約pH9.0からpH11.0)で起こる可能性のある化学的自己加水分解を検出するために、粗溶菌液は、10分後になるまで添加しなかったが、いずれの場合も添加前に検出可能なpH補正剤(NaOH)の明らかな消費は観察されなかった。図8に示す結果から、エステル分解はpH 5から11までの範囲で起こったことがわかる。
酵素触媒エステル分解の温度依存性
酵素触媒エステル分解の温度依存性を、pHを一定の9として実施例6と同様に調べた。実施例4に記載のように、NJ70株の粗溶菌液を調製し、いずれの場合も1000ユニット相当量を基質溶液に添加し、10℃から50℃までの範囲内のさまざまな温度で自動滴定した。化学的な自己加水分解に関する対照として、pH9の基質溶液を10分間、指定の温度でインキュベートした。pH変化がない(pH補正剤の消費がない)場合、自己加水分解はないと結論付けられた。図9に示すデータから、20℃から40℃までの範囲に至適温度があり、特に30℃であったことがわかる。
固定化エステラーゼの酵素活性
PBA溶液(Sigma Aldrich, Mw 99 000, 25-30重量%トルエン溶液)2ml(単量体エステル基4.66 mmolに相当する)を含有するマスターミックス(0.9% NaCl溶液340 ml、トルエン220 ml、およびTergitol(10%水溶液)70 ml)35mlのpHを9に調整し、温度は37℃に維持した。EstB_NJ70を含有する粗溶菌液3.6 mlをEupergit C250L (Aldrich)および0.5 M K2HPO4バッファー(pH 9.5) 30 mlとともに室温にて48時間回転攪拌した。その後、懸濁液を取り出し、マトリックス物質を0.1 M Tris buffer (pH 7.0)で洗浄した。次に、・・・を、した。
Bradfordによるタンパク質測定により、タンパク質の86%が担体に結合していることが判明した。EstB_NJ70を50ユニット、Eupergitに固定化されたEstB_NJ70を50ユニット、Eupergitに固定化し、かつ変性させたEstB_NJ70を50ユニット、またはそれらに相当する量の固定化酵素なしのEupergitを、いずれの場合も、前記反応混合物35 mlに添加した。pHは10 mM NaOHの添加により補正した。図10に示すように、2つの対照(EstB_NJ70なしのEupergit、または変性EstB_NJ70を有するEupergit)の添加に伴って、酸基のわずかな遊離が観察された。これに対して、EstB_NJ70、または固定化EstB_NJ70の添加は、はるかに多くの酸基の遊離をもたらし、EstB_NJ70の場合反応の進行は、比較的高い初速度で後に減速する飽和曲線に相当するのに対して、固定化EstB_NJ70の場合の反応の進行は、初速度は低いが、その後、測定期間中一定に保たれた。
短鎖および長鎖基質に対するエステル分解
いずれの場合も、実施例10に記載の反応混合物35 mlをpH 9.0、温度37℃に調整した。次いで、いずれの場合も、実施例11に記載のエステラーゼ350ユニット、および分子量30000の短鎖PMA(Sigma Aldrich)(図11のPMAshort)もしくは分子量40000の長鎖PMA(図11のPMAlong)のいずれか一方(どちらの場合も単量体エステル基として1.75mmolに相当する)を添加し、平衡に達するまで(図6)または指定された時間(図11)、反応を行った。エステル分解に起因するpH低下は、10 mM NaOHの添加により補正し、図11において、加水分解されたエステル基のパーセンテージはNaOHの消費量から算出した。図11から、短鎖および長鎖PMAはともに、酵素により分解されることが分かる。変性酵素(図11のNJ70_den)の場合、補正剤(NaOH)消費量のばらつきは、反応混合物への各成分の添加によって説明することができるが、それは、この反応混合物に緩衝能がないので、pHの異なる溶液はたとえ少量であっても全体のpHに影響を及ぼすためである。
本明細書に引用された文献の開示を明示して参照する。
配列番号および使用菌株名の一覧
配列番号1
Burkholderia gladioli由来EstBのタンパク質配列(野生型)
配列番号2
Burkholderia gladioli由来EstCのタンパク質配列(野生型)
配列番号3
変異型タンパク質配列であって、野生型EstB(配列番号1)に対して次のようなアミノ酸交換:Ser17Leu; Gly132Ser; Glu251Gly; Ala311Val; Glu316Lysが行われた、前記配列(社内名称:N27:EstB_NJ70)
配列番号4
変異型タンパク質配列であって、野生型EstB(配列番号1)に対して次のようなアミノ酸交換:Pro8Leu;Gly132Ser;Trp134Arg;Arg155Cys;Glu251Gly;Ala311Val;Glu316Lysが行われた、前記配列(社内名称:NJ70;NJ_70;EstB_NJ70)
配列番号5
Humicola insolens由来クチナーゼ
配列番号6
Candida antarctica由来リパーゼB
配列番号7
Burkholderia ambifaria由来エステラーゼ(社内名称:A0TF86_9BURK@1)
配列番号8
Burkholderia cenocepacia由来エステラーゼ(社内名称:Q1BK05_BURCA@1)
配列番号9
Burkholderia cenocepacia由来エステラーゼ(社内名称:A2W245_9BURK@1)
配列番号10
Burkholderia cenocepacia由来エステラーゼ(社内名称:A0U6R7_9BURK@1)
配列番号11
Burkholderia cenocepacia由来エステラーゼ(社内名称:A0B440_BURCH@1)
配列番号12
Burkholderia cepacia由来エステラーゼ(社内名称:Q0B5R9_BURCM@1)
配列番号13
Burkholderia dolosa由来エステラーゼ(社内名称:A2WH69_9BURK@1)
配列番号14
鼻疽菌(Burkholderia mallei)由来エステラーゼ(社内名称:ZP_00928253@1)
配列番号15
鼻疽菌(Burkholderia mallei)由来エステラーゼ(社内名称:Q629M1_BURMA@1)
配列番号16
鼻疽菌(Burkholderia mallei)由来エステラーゼ(社内名称:A5XMR0_BURMA@1)
配列番号17
鼻疽菌(Burkholderia mallei)由来エステラーゼ(社内名称:A3MH33_BURM7@1)
配列番号18
鼻疽菌(Burkholderia mallei)由来エステラーゼ(社内名称:A1UXM8_BURMS@1)
配列番号19
Burkholderia multivorans由来エステラーゼ(社内名称:A0UE35_9BURK@1)
配列番号20
類鼻疽菌(Burkholderia pseudomallei)由来エステラーゼ(社内名称:ZP_0131527(3) 1)
配列番号21
類鼻疽菌(Burkholderia pseudomallei)由来エステラーゼ(社内名称:ZP_01209854@1)
配列番号22
類鼻疽菌(Burkholderia pseudomallei)由来エステラーゼ(社内名称:ZP_00893464@1)
配列番号23
類鼻疽菌(Burkholderia pseudomallei)由来エステラーゼ(社内名称:Q3JIF4_BURP1@1)
配列番号24
類鼻疽菌(Burkholderia pseudomallei)由来エステラーゼ(社内名称:A4LP64_BURPS@1)
配列番号25
類鼻疽菌(Burkholderia pseudomallei)由来エステラーゼ(社内名称:A3PA33_BURP0@1)
配列番号26
類鼻疽菌(Burkholderia pseudomallei)由来エステラーゼ(社内名称:A3NPJ8_BURP6@1)
配列番号27
Burkholderia属由来エステラーゼ(社内名称:Q39BM9_BURS3@1)
配列番号28
Burkholderia thailandensis由来エステラーゼ(社内名称:Q2T2Q0_BURTA@1)
配列番号29
Burkholderia vietnamensis由来エステラーゼ(社内名称:A4JKI4_BURVG@1)
配列番号30
Mycobacterium smegmatis由来エステラーゼ(社内名称:A0R6Y0_MYCS2@1)
配列番号31
Saccharopolyspora erythraea由来エステラーゼ(社内名称:A4FPB3_SACEN@1)
配列番号32
Saccharopolyspora erythraea由来エステラーゼ(社内名称:A4FDC0_SACEN@1)
配列番号33
Saccharopolyspora erythraea由来エステラーゼ(社内名称:A4F6M6_SACEN@1)
配列番号34
Stigmatella aurantiaca由来エステラーゼ(社内名称:Q096X7_STIAU@1)
配列番号35
Streptomyces ambofaciens由来エステラーゼ(社内名称:A3KIK7_STRAM@1)
配列番号36
Streptomyces coelicolor由来エステラーゼ(社内名称:NP_630279@1)
配列番号37
EstB_Short4(もしくはEstB_N27_Short4)と名付けられたEstB_N27の欠失変異体であって、アミノ酸317-319(RGP)が配列番号3(Est_N27)から除去された前記変異体
配列番号38
EstB_Short5(もしくはEstB_N27_Short5)と名付けられたEstB_N27の欠失変異体であって、配列番号3(Est_N27)のアミノ酸248-255(PLPGGHGA)が、それより短い配列SLGTTで置き換えられた前記変異体
配列番号39〜配列番号49
実施例2に記載のPCRプライマー
配列番号50
EstB(配列番号1に記載)の核酸配列
配列番号51
EstC(配列番号2に記載)の核酸配列
配列番号52
クチナーゼ(配列番号5に記載)の核酸配列
配列番号53
リパーゼB(配列番号6に記載)の核酸配列
配列番号54
EstB_N27(配列番号3に記載)の核酸配列
配列番号55
EstB_NJ70(配列番号4に記載)の核酸配列
配列番号56
EstB_N27_Short 4(配列番号37に記載)の核酸配列
配列番号57
EstB_N27_Short 5(配列番号38に記載)の核酸配列
配列番号58
パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)(GenBank No. AAC49184)由来ヒドロキシニトリルリアーゼ
配列番号59
キャッサバ(Manihot esculenta)(SwissProt No. P52705)由来ヒドロキシニトリルリアーゼ

Claims (24)

  1. ポリアクリル酸エステルを酵素触媒により加水分解するための方法であって、
    a) 少なくとも1つのポリアクリル酸エステルを調製し、
    b) 前記少なくとも1つのポリアクリル酸エステルを、該ポリアクリル酸エステルに含まれるエステル基を加水分解するために、エステル結合に作用する酵素(EC 3.1)から選択される少なくとも1つの酵素とともにインキュベートし;ならびに、必要に応じて
    c)改変ポリマーを単離する、
    前記方法。
  2. 酵素が、カルボン酸エステル加水分解酵素(EC 3.1.1)、とくにカルボキシエステラーゼ(EC 3.1.1.1)、トリアシルグリセロールリパーゼ(EC 3.1.1.3)およびクチナーゼ(3.1.1.74)から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  3. ポリアクリル酸エステルがホモポリマーもしくはコポリマーであることを特徴とする。請求項1または2に記載の方法。
  4. ポリアクリル酸エステルが交互コポリマー、ランダムコポリマー、グラジエントコポリマー、ブロックコポリマーまたはグラフトコポリマーであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
  5. ポリマーが、一般式I
    R1R2C=CR3-COOR4 (I)
    のモノマービルディングブロックを含んでなり、
    式中、
    R1、R2およびR3は、同一でも、異なっていてもよいが、H、直鎖C1-C20ヒドロカルビル基および分岐C3-C20ヒドロカルビル基から選択され、R4は、H、直鎖C1-C20ヒドロカルビル基、分岐C3-C20ヒドロカルビル基、および環状C3-C20ヒドロカルビル基から選択されるが、ヒドロカルビル基は1つもしくは複数の、同一または異なる基で置換されていてもよく、こうした基はヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基、チオール基およびハロゲン原子から選択されること、
    ならびに、ポリマー中、少なくとも1つの式Iのモノマービルディングブロックにおいて、R4は、Hを表すものではないことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
  6. ポリアクリル酸エステルが式Iのモノマーに加えて、それとは別の少なくとももう1つのモノマー成分をモル比で0から15モル%まで含有し、その成分は好ましくは、N-ビニルホルムアミド、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、イタコン酸、イタコン酸エステル、ビニルホスホン酸、ビニルスルホン酸、ビニルアルコール、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルホルムアミド、スチレン、マレイン酸、マレイン酸エステル、エチレンおよび/またはプロピレン、ならびにアクリルアミドおよび置換アクリルアミドから選択されるが、この置換基は、直鎖 C1-C20ヒドロカルビル基、分岐C3-C20ヒドロカルビル基および環状C3-C20ヒドロカルビルから選択され、ヒドロキシカルビル基は1つもしくは複数の、同一または異なる基で置換されていてもよく、こうした基は、ヒドロキシ、アミノ、エポキシ、チオール基およびハロゲン原子から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
  7. 酵素が、ファミリーVIIIのエステラーゼ、タイプCエステラーゼ、配列番号5に記載のクチナーゼまたはそれに由来するクチナーゼ、および配列番号6に記載のトリアシルグリセロールリパーゼもしくはそれに由来するトリアシルグリセロールリパーゼから選択されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
  8. 酵素が、配列番号1に記載のタンパク質(Burkholderia gladioli由来エステラーゼB)、配列番号2に記載のタンパク質(Burkholderia gladioli由来エステラーゼC)またはそれに由来する機能性変異体から選択されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
  9. 酵素が、配列番号1もしくは配列番号2と同等もしくは増加した、ポリアクリル酸エステルの加水分解に関する活性を有する、配列番号1もしくは配列番号2に記載のエステラーゼ変異体であること、および/または、配列番号1もしくは配列番号2と比べて増加した安定性を有する、配列番号1もしくは配列番号2に記載のエステラーゼ変異体であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
  10. 変異体が、配列番号1または配列番号2に記載のエステラーゼと比較して、ポリアクリル酸メチルエステルおよび/またはポリアクリル酸ブチルエステルに対して加水分解活性の増加を示すことを特徴とする、請求項8または9に記載の方法。
  11. (a)配列番号1に記載のエステラーゼの変異体が、アミノ酸残基Ser17、Gly132、Trp134、Arg155、Glu251、Ala311およびGlu316のうち1つもしくは複数において、少なくとも1つの変異を有すること;または
    (b)配列番号2に記載のエステラーゼの変異体が、アミノ酸残基Phe138、Val150、Leu160、Thr188およびLeu193のうち1つもしくは複数において、少なくとも1つの変異を有すること
    を特徴とする、請求項8〜10のいずれか1つに記載の方法。
  12. 変異体が配列番号1に由来し、
    (a)変異Ser17Leu、Gly132Ser、Glu251Gly、Ala311ValおよびGlu316Lysのうち少なくとも1つを有すること;および/または
    (b)変異Pro8Leu、Gly132Ser、Trp134Arg、Arg155Cys、Glu251Gly、Ala311Val およびGlu316Lysのうち少なくとも1つを有すること
    を特徴とする、請求項8〜11のいずれか1つに記載の方法。
  13. 変異体が配列番号2に由来し、下記の変異もしくは変異の組み合わせ:
    (a) Phe138Ala
    (b) Phe138Ala、Thr188Ser
    (c) Phe138Ala、Leu160Ala、Thr188Ser
    (d) Leu193Ala
    (e) Leu193Ala、Phe138Ala、Thr188Ser、Val150Ala
    (f) Leu193Ala、Phe138Ala、Thr188Ser
    (g) Leu193Ala、Phe138Ala、Thr188Ser、Leu160Ala、Val150Ala
    (h) Val150Ala
    (i) Val150Ala、Thr188Ser
    (j) Leu193Ala、Phe138Val
    (k) Leu193Ala、Phe138Val、Thr188Ser、Val150Ala
    (l) Leu193Ala、Thr188Ser
    (m) Leu193Ala、Phe138Val、Thr188Ser
    (n) Leu193Ala、Phe138Val、Thr188Ser、Leu160Ala
    (o) Phe138Val、Val150Ala、Thr188Ser
    (p) Phe138Val
    (q) Phe138Val、Thr188Ser
    のうち1つを有することを特徴とする、請求項8〜10のいずれか1つに記載の方法。
  14. 変異体がファミリーVIIIのエステラーゼまたはタイプCエステラーゼの欠失変異体であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
  15. 欠失変異体に少なくとも1つのループの短縮があることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
  16. 欠失変異体が、配列番号37および配列番号38から選択されるアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項15に記載の方法。
  17. 請求項8〜16のいずれか1つの定義による、エステラーゼの機能性変異体。
  18. a) 請求項17に記載のエステラーゼをコードする核酸、または
    b) a)と相補的な核酸配列を表す核酸、または
    c) ストリンジェントな条件下でa)もしくはb)の核酸とハイブリダイズする核酸であって、具体的には、少なくとも80%の配列同一性を有し、ポリアクリル酸エステルを加水分解するファミリーVIIIのエステラーゼの変異体、またはタイプCエステラーゼ変異体をコードする前記核酸。
  19. 請求項18に記載の核酸を含有するベクター。
  20. 核酸が、機能しうるようにプロモーターに連結されていることを特徴とする、請求項19に記載のベクター。
  21. 請求項19または20に記載の、少なくとも1つのベクターを含有する微生物。
  22. a) 請求項21に記載の、エステラーゼを発現することができる宿主生物を培養する、
    b) 必要に応じて、エステラーゼの発現を誘導する、さらに
    c) 必要に応じて、宿主生物および/または培地からエステラーゼを単離する
    ことを特徴とする、請求項17に記載のエステラーゼを製造する方法。
  23. 請求項1から16のいずれか1つに記載の方法を実施するための、請求項7〜17のいずれか1つに記載のエステラーゼ、請求項19もしくは20に記載のベクター、または請求項21に記載の微生物の使用。
  24. 請求項1〜16に記載の方法により得られる、ポリマー反応生成物。
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