JP2011512149A - ガンの検出の方法および手法 - Google Patents

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Abstract

患者におけるCYP1B1の形態の酵素の存在を、前記患者におけるガンの検出のために検出および/または測定する方法が提供される。
この方法は、レポーター基質を患者に投与するステップと、予め決定された1つまたは複数の期間の後、患者から体液および/または組織試料を採取するステップと、前記患者における前記酵素によりレポーター基質の代謝の結果として生じるレポーター基質の代謝産物の存在および/または測定値について、前記予め決定された期間中、インビトロの体液および/または組織試料を分析するステップとを含む。
【選択図】なし

Description

本発明は、ヒトおよび/または動物患者においてガンを検出するための改良された検出の方法および手法に関する。
ヒト患者においてガンを検出および/または診断できるように現在用いられているいくつかの方法がある。そのような検出方法の1つは、患者または医学的に訓練を受けた従事者が、それぞれ手(複数可)を用いて、自身の体または患者の体の一部について、普通でない成長または塊を手作業で検出することである。一旦検出されると、患者は、その塊または成長が悪性かどうか確認するために多様な検査を受けなくてはならない。この手法に伴う問題は、成長または塊が、ガン発生の後期段階の、塊または成長が比較的大きいときでしか検出されない場合が多いことである。加えて、そのような手法は、患者の体の特定部分においてガンを検出することしかできず、塊または成長が存在することに気づくように患者が自身の体の部分を定期的にチェックすることに頼っている。さらに、ある種のガンの塊または成長の場所によっては、患者は、治療が成功するようにガン発生の十分初期の段階で医療従事者に塊または成長をチェックさせることを極度に恥ずかしがることがある。
ガン検出のさらなる従来方法としては、患者の体の一部または複数部分をスキャニングまたはスクリーニングすることが挙げられる。これは高額な手法であることから、特定の種類のガンを発症するリスクの高い患者に対してのみ行われることが普通である。加えて、スキャニングまたはスクリーニングは、現在、特定の種類のガン(乳ガンなど)、および、典型的には、発症の比較的後期段階にあるガンを検出するためにしか用いることができない。
組織バイオプシーまたは試料(子宮頸部のスメア試験など)の目視検査は、ガン検出のさらなる方法である。しかし、この方法に伴う問題は、バイオプシーまたはスメア試験は侵襲性で、とりわけガンが初期段階にある場合には、ガン細胞を試料採取できないことが多いということである。
ガン検出の比較的新しい分野は、患者から採取した組織試料、血または他の体液中のガン特異的な腫瘍マーカータンパク質の生化学的測定である。この検出方法は、初期段階のガンを検出できる可能性があることから、既存の検出法を上回る潜在的利点を有する。しかし、この方法は、まだ新興技術であるため高価であり、また、この方法論を用いては、これまでのところ比較的少数種類のガンしか検出されていない。加えて、腫瘍マーカータンパク質を使用する最初のガン診断は、現在でも、患者から採取したバイオプシーまたは他の体試料を使用して検証しなくてはならない。
ガン(または腫瘍)マーカーは、非ガン細胞による場合より顕著に多いか、または顕著に少ない量でガン細胞により産生されるタンパク質である。腫瘍特異的なタンパク質は、腫瘍細胞により能動的に分泌されるか、または、こうした細胞の壊死およびアポトーシスにより患者の循環系中に放出されることがある。こうした状態のいずれかが、患者の血清タンパク質プロファイルの変質をもたらすと考えられる(1)。したがって、前述の問題があるとはいえ、血および他の体液中のガンマーカーの検出は、ガン診断の将来的な主要構成要素である可能性があると考えられる。
ガンマーカーの現在の研究開発は、これまでのところ、特定の種類のガンに特異的な腫瘍マーカータンパク質に着目してきたが、その目的は、患者における前記ガンの種類を同定することである。現在のこのアプローチの深刻な限界は、特定のマーカーが発見され確認される特定の種類のガンしか検出できないことである。異なる種類のヒトのガンには、可能性のある多数のガンマーカーが存在する傾向があることから、また、ガンマーカーの発見および確認は、現在のところ高コストで長期に及ぶ事業であるという理由から、腫瘍タンパク質マーカーを使用したガン検出は、これまでのところ、限定用途のみを有するものである。
National Academy of Clinical Biochemistry guidelines:ガンを診断するためのMALDI−TOF質量分析プロファイリングの使用。http://www.aacc.org/AACC/members/nacb/LMPG/OnlineGuide/DraftGuidelines/TumorMarkers/TumorMarkersPDF.htm シトクロムP450 CYP1B1の腫瘍特異的な発現。GI.Murray、MC.Taylor、MCE.McFadyenら、Cancer Research、57、3026〜3031(1997)。 シトクロムP450 1B1(CYP1B1)は、正常な大腸と比較して、ヒト大腸腺ガンにおいて過剰発現する:薬物開発についての示唆。P.Gibson、JH.Gill、PA.Khanら、Molecular Cancer Therapeutics、2、527〜534(2003)。 http://www.dana−farber.org/res/technology/printable.asp?case_number=641 乳ガンにおけるシトクロムP450 CYP1B1の、CYP1B1に特異的なモノクローナル抗体との免疫組織化学的な局在。M.McFadyen、S.Breeman、S.Payneら、Journal of Histochemistry and Cytochemistry、47、1457〜1464(1999)。 関連の過形成組織および前悪性組織中でのタンパク質発現を用いた、前立腺ガンにおけるシトクロムP450 CYPB1の標的確認。D.Carnell、R.Smith、F.Daleyら、International Journal of Radiation Oncology Biology and Physics、58、500〜509(2004)。 原発性および転移性の卵巣ガンにおけるシトクロムP450 CYP1B1の過剰発現。M.McFadyen、M.Cruickshank、I.Millerら、British Journal of Cancer、85、242〜246(2001)。 ヒト子宮頸部の上皮内新生物におけるシトクロムP450 CYP1B1の発現。TTV.Hoang、MD.Burke、M.Ballら、British Journal of Cancer、85(補遺1)、78(2001)。 大腸腫瘍形成におけるシトクロムP450 CYP1B1。LA.Stanley、M.Ball、J.Eadenら、Drug Metabolism Reviews、33(補遺1)、77(2001)。 前立腺ガンにおいては、CYP1B1は過剰発現し、低メチル化により制御される。T.Tokizane、H.Shiina、M.Igwaら、Clinical Cancer Research、11、5793〜5801(2005)。 ヒトCYP1B1のプロテオソーム分解:Asn453Ser多形の効果、および、CYP1B1発現の翻訳後制御。S.Bandiera、S.Weidlich、V.Harthら、Molecular Pharmacology、67、435〜443(2005)。 マイクロRNAはヒトのシトクロムP450 1B1の発現を制御する。Y.Tsuchiya、M.Nakajima、S.Takagiら、Cancer Research、66、9090〜9098(2006)。 共有される腫瘍関連抗原シトクロムP450 1B1は特異的な細胞傷害性T細胞により認識される。B.Maecker、DH.Sherr、RH.Vonderheideら、Blood、102、3287〜3294(2003)。 表面強化レーザー脱離およびイオン化質量分析を用いた膵臓腺ガンの血清診断。J.Koopman、Z.Zhang、N.Whiteら、Clinical Cancer Research、10、860〜868(2004)。 タンパク質の発現および変異レベルの定量化のためのMSに基づく免疫親和性アプローチ。E.WarrenおよびC.Borchers。http://www.med.miami.edu/mnbws/documents/WarrenSR05.pdf 集団プロテオミクス:ガンのバイオマーカー調査のためのコンセプト、属性および可能性。D.Nedelkov、UA.Kiernan、EE.Niederkoflerら、Molecular and Cellular Proteomics、5、1811〜1818(2006)。 イメージング質量分析;哺乳動物の組織におけるタンパク質発現の分析のための新技術。M.Stoeckli、P.Chaurand、DE.Halahanら、Nature Medicine、7、493〜496。 診断病理学におけるプロテオミクス:組織切片中でタンパク質を直接プロファイリングおよび画像化する。P.Chaurand、ME.Sanders、RA.JensenおよびRM.Caprioli。American Journal of Pathology、165、1057〜1068。 ガンのバイオマーカー検出のためのマススペクトルの使用。H.Roder、J.GrigorievaおよびM.Tsypin。(2005)。http://www.efeckta.com/Documents/MarkerWhitePaper.pdf MALDI画像化によるヒト胃ガンの評価。S−O.Deininger、M.Schurenberg、M.EbertおよびC.Rocken。(2006)。http:/www.bdal.de/data/files/temp/ABRF06_characterization−of−human−gastric−cancer.pdf 野兎病菌検出のための免疫親和性タンデム質量分析(iMALDI)アッセイ。J.Jiang、CE Parker、JR Fullerら。Analytica Chimica Acta、605、70〜79(2007)。
こうしたことから、過去数10年にわたるめざましい科学的、医学的および技術的な成果にかかわらず、ガンは未だに主要な死因であり、その理由は主に、大部分のガンは疾患が進行した際に診断されるからであることがわかる。現在の問題は、既存のガン検出方法は、発症の十分初期の段階でガンの成長を検出できないことである。
したがって、本発明の目的は、共通のガンマーカーを用いて、ヒトおよび/または動物患者においてガンを検出する方法を提供することである。
本発明のさらなる目的は、ガン発生における任意の段階でガンを検出する方法、とりわけ、ガン発生の比較的初期の段階でガンを検出する方法を提供することである。
本発明のまたさらなる目的は、前記患者から採取した血、尿、および/または他の体液または組織試料を使用して、ヒトおよび/または動物患者においてガンを検出する方法を提供することである。
さらなる主要な問題は、抗ガン薬の大多数は患者にとって過剰に有毒であることである。したがって、本発明の目的は、抗ガン薬、および/または、患者の要求にもっと合った治療の量または用量を決定する方法を提供することである。
本発明の第1の態様によれば、酵素、またはその少なくとも一部もしくは断片、または任意の抗体、ペプチド、他の酵素関連試薬、および/または該酵素の代謝活性の少なくとも1つの産物の存在を測定することにより、患者における酵素の存在を直接的または間接的いずれかで検出および/または測定する方法であって、該酵素はCYP1B1であることを特徴とする方法が提供される。
CYP1B1酵素、その断片、または任意の抗体、ペプチド、他のCYP1B1関連試薬、および/またはCYP1B1の触媒活性もしくは代謝活性の少なくとも1つの産物の存在の検出により、患者におけるCYP1B1酵素、ひいてはガンの存在が示される。一旦検出されると、CYP1B1酵素、その断片、または任意の抗体、ペプチド、他のCYP1B1関連試薬、および/またはCYP1B1の触媒活性の少なくとも1つの産物の量を試料中で測定して、患者におけるガンの程度を決定し、および/または適当な薬物用量もしくは治療計画を決定することができる。
本発明の基礎となっているのは、酵素CYP1B1は全てのヒト原発腫瘍中で高度に過剰発現するようであるが、正常な決定組織中では、多くの場合検出不可能な程度まで最小限にしか発現されないことである(2〜4)。そこで、本件出願人は、CYP1B1、またはCYP1B1の断片の少なくとも一部を、潜在的な共通の腫瘍マーカータンパク質として同定した。本発明の一態様では、本件出願人は、患者においてガンを検出および/または測定する方法においてCYP1B1を使用した。
例えば、異なる種類および段階の乳ガンにおいては、CYP1B1は、60名の患者の試料の77%の腫瘍細胞中に存在することが見出されたが、これらの患者から採取した結合組織の間質細胞中では検出不可能であった(5)。CYP1B1は、22例の膀胱ガン(中等度〜高度)の100%において強く発現されることが見出されたが、こうした患者から採取された周囲の間質組織にはなかった(6)。多様な種類および段階の卵巣ガンにおいては、CYP1B1は、172名の患者の原発腫瘍の92%超において存在したが、患者から採取した正常な卵巣組織においては依然として検出不可能であった(7)。
本件出願人は、腫瘍(ガン)マーカーとしてCYP1B1を使用すれば、現在使用されているガンタンパク質マーカーより高度に、ガンの細胞および組織が正常な細胞および組織と区別されることになると考える。患者におけるCYP1B1の存在は、前記患者が、自身の体内に存在する何らかの形態のガンを有する指標として用いることができ、また、前ガン細胞および転移の両方においてCYP1B1が過剰発現する(7〜9)ことから、ガンの指標としてのその適用性はガン発生の初期段階から進行段階に及ぶことになろう。
ガン検出においてCYP1B1を使用することができることは驚くべきことであるが、それは、科学界における一定の研究グループの間では、CYP1B1はガン細胞中のみならず正常な細胞中でも高度に過剰発現すると考えられているからである。こうした主張は、実質的に全て、ヒトにおけるmRNAまたは実験動物におけるタンパク質の測定(CYP1B1の既知の誘導因子を予め投与することが多い)に基づいており、細胞中のmRNAの存在は、そのmRNAがコードするタンパク質の存在も保証するという、または実験動物がヒトにとっての絶対確実な生化学モデルであるという明白な仮説を伴うものである。しかし、独立した研究では、前記の仮説は不正確である傾向があることが示されている(2)。それ以降、mRNAが正常細胞および罹患細胞の両方において見出されるタンパク質のさらなる例がいくつか発表されているが、そのmRNAによりコードされるタンパク質は、両方の細胞型ではなく、正常細胞または罹患細胞の一方の中にのみ存在する。少なくとも3つの証拠に基づく仮説が近年発表され、この例外について可能性のある説明がなされている。このような説明としては、以下が挙げられる:
(i)CYP1B1遺伝子のプロモーター/エンハンサー領域の低メチル化による転写制御(10)、
(ii)タンパク質のポリユビキチン化により標的化された、正常細胞中のCYP1B1タンパク質のプロテオソーム分解による転写後制御(11)、および
(iii)マイクロRNA(それ自体、比較的新しく発見された種類のRNA)は、正常細胞中のmRNAの「スイッチを切る」(その存在により結果としてタンパク質が産生しないように)が、ガン細胞中のmRNAについては「スイッチを入れ」たままである(結果としてタンパク質が産生するように)(12)という最も説得力ある説明。
CYP1B1は、小胞体上に位置する細胞内酵素であるが、ペプチド断片はガン細胞表面上に現れる(13)。ガン細胞は、CYP1B1ペプチド断片を血中に放出することになる。同様に、CYP1B1ペプチド断片は、膀胱ガンにより尿中に、または前立腺ガンにより精液中に、放出されるはずである。しかし、血、尿または精液中のペプチド断片の濃度は低い傾向があり、高度に特殊化された超高感度の装置を用いてのみ検出できる。したがって、本発明のさらなる一態様は、体液または組織試料中(例えば、血中、尿中および精液中など)において非常に低濃度でもCYP1B1の触媒産物および/またはペプチド断片を検出および測定し、体におけるガンの存在を評価するために必要な手段を提供することである。
本発明の第2の態様によれば、酵素CYP1B1、またはその少なくとも一部もしくは断片、または任意の抗体、ペプチドおよび/または他のCYP1B1関連試薬、または患者における酵素CYP1B1の触媒活性の産物の存在を直接的または間接的いずれかで検出および/または測定する方法であって、検出の手段はイムノタンデム質量分析(iMALDI)の使用を含む方法が提供される。
iMALDIは、きわめて感度の高い手法である(21)。固形の腫瘍組織から取り出される微細ニードル吸引物の使用は、日常的なガン診断法である。しかし、そのような吸引物は、それらが含有するガン細胞は非常に低レベルで存在することが多いことから、正常な組織、血球、組織片などが高度に混入し、このため分析が混乱し分析の質が低下するという点で問題がある。iMALDI法を使用すると、前述の問題が克服され、個々の細胞(微細ニードル組織吸引物を用いて試料採取したものなど)中のCYP1B1ペプチド断片の検出および/または測定が可能になることから、これを用いて患者におけるガンの存在を特定することができる。
より具体的には、本発明において用いる質量分析法を用いて、患者におけるガンの存在を検出、診断、評価、査定、格付け、段階付けおよび/または測定することができる。
本発明と共に用いられる質量分析法についてのより詳細な説明および基礎は以下の参考文献中に見出すことができ、その開示内容は本明細書中に組み込まれる。特に予め免疫親和性を強化しておいた場合の、質量分析を用いたタンパク質(ガンマーカーを含む)およびそのペプチド断片の超高感度検出(14〜16)および「質量分析は、バイオマーカーの発見を容易にし、組織の画像化およびバイオマーカーレベルの定量化を可能にすることにより、ガンの診断に革命を起こす可能性がある」(1)。
ガンを診断するさらなる従来方法は、組織バイオプシー中での形態学的に異常な細胞の視覚的同定である。腫瘍マーカー用の特異的な組織染色は、これに関する場合、バイオプシー評価に分子次元を加える目的で徐々に使用されている。組織染色により、バイオプシー切片の細胞毎の視覚的分析を行うことができるが、そうした染色は感度が非常に限られているという難点があり、マーカーが1細胞当たり高いレベルで存在するとき以外はマーカーが検出される可能性は低い。本発明において用いられるイメージング質量分析法は、組織バイオプシーの顕微鏡タイプの切片の単一細胞中のガンマーカーの分子数個でも検出可能であり、その切片にわたり細胞毎にガンマーカーをマッピングできる(17〜20)。
本発明に係わるヒトの体内においてルテオリンを用いたCYP1B1の触媒ステップを示す簡略図。 本発明に係わる13C−オイパトリンを用いたCYP1B1の触媒ステップを示す簡略図。 ヒトの膀胱からの正常な尿生成、膀胱ガン患者からの尿生成の簡略図、ならびに、正常な膀胱細胞および膀胱ガン細胞それぞれの詳細図。 ヒトの膀胱からの正常な尿生成、膀胱ガン患者からの尿生成の簡略図、ならびに、正常な膀胱細胞および膀胱ガン細胞それぞれの詳細図。 ヒトの膀胱からの正常な尿生成、膀胱ガン患者からの尿生成の簡略図、ならびに、正常な膀胱細胞および膀胱ガン細胞それぞれの詳細図。 本発明に係わる質量分析法を用いたCYP1B1断片の検出および測定に関わるステップを示す簡略図。 最も高得点のヒトイソ型を用いたCYP1B1ペプチド配列のアラインメントを示すBLASTp分析から得たスクリーンショット。 最も高得点のヒトイソ型を用いたCYP1B1ペプチド配列のアラインメントを示すBLASTp分析から得たスクリーンショット。 CYP1B1タンパク質の多形変異体および知られている翻訳後の特徴を示すUniProt(http://beta.uniprot.org)およびEnsembl(http://www.ensembl.org)データベースから得たスクリーンショット。 CYB1P1アッセイ開発のために選択された10種のCYP1B1ペプチド(A1〜A10)のほぼ等モルの混合物のMRM分析(液体クロマトグラフィーMRM/質量分析LC−MRM/MS)の結果を示す図。 CYB1P1アッセイ開発のために選択された10種のCYP1B1ペプチドのほぼ等モルの混合物のMALDI−TOF分析の結果を示す図。 還元SDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミンゲル電気泳動)分析による、バキュロウイルスにより発現されたCYP1B1(Becton Dickson)を含有する昆虫細胞のミクロソーム分画のSDS−PAGE分析の結果を示す図。 組み換えCYP1B1(Becton−Dickinson)のゲルトリプシン消化のLC−MRM/MS分析の結果を示す図。
本発明の一態様によれば、患者において酵素の存在を検出および/または測定する方法であって、
a)レポーター基質を患者に投与するステップと、
b)予め決定された1つまたは複数の期間の後、患者から体液および/または組織試料を採取するステップと、
c)患者における酵素によりレポーター基質の代謝の結果として生じるレポーター基質の代謝産物の存在および/または測定値についてインビトロの体液および/または組織試料を分析するステップと
を含む方法が提供される。好ましくは、この酵素はCYP1B1である。
前述の手法は、典型的には、表現型検査として記載される。したがって、本発明は、表現型検査を用いて、共通の腫瘍マーカーとしてCYP1B1を使用したガンの検出および測定の方法を提供する。
本発明の一態様によれば、インビトロの患者試料中での酵素CYP1B1の存在を検出および/または測定する方法であって、インビトロの患者の体液および/または組織試料を、ヒトまたは動物患者においてCYP1B1により代謝されることが既知であるレポーター基質の代謝産物の存在および/または測定値について分析するステップを含む方法が提供される。
レポーター基質は、試験に先立ち、特別に投与されるか、もしくは患者により摂取されてもよく、または、試験を目的として、患者の食餌中にレポーター基質が自然に存在することに頼ってもよい。
一実施形態では、レポーター基質は、天然に由来する産物または基質である。さらに好ましくは、このレポーター基質は、植物由来の化合物である。しかし、レポーター基質は、例えば、同位体標識または非同位体標識された供給原料、産物などから生合成するか、または必要に応じ化学的に合成してもよいと考えられる。
レポーター基質は、経口的に、および/または、任意の他の適当な経路を介して患者に投与してもよい。
好ましくは、使用されるレポーター基質としては、スチルベン、フラボノイド、タンニンなどのいずれかまたは任意の組み合わせが挙げられる。
一実施形態では、レポーター基質はルテオリンであり、レポーター代謝産物は6−ヒドロキシルテオリンである。ルテオリンは、典型的には、正常な哺乳動物細胞中では代謝されず、投与された後の予め決定された時間に患者から尿中で排泄される。しかし、哺乳動物のガン細胞中では、ルテオリンはCYP1B1酵素により代謝されて6−ヒドロキシルテオリンを産生し、次いでそれが、投与された後の予め決定された時間に患者から尿中で排泄される。
一実施形態では、レポーター基質は、オイパトリンなど、メトキシル化されたフラボンである。オイパトリンは、CYP1B1酵素により代謝されてO−脱メチルオイパトリンおよびホルムアルデヒドになる。ホルムアルデヒドは、次いで患者の体内で二酸化炭素に生体内変換されてから、患者の呼気中に吐き出される。したがって、本発明の一態様では、二酸化炭素呼気試験を用い、共通の腫瘍マーカーとしてCYP1B1を使用したガンの検出および測定の方法が提供される。
予め決定された期間は、レポーター基質が、患者の消化管に入り、患者の消化器系により血流中に吸収され、患者の細胞の1つまたは複数により取り込まれ、レポーター基質、またはレポーター基質の代謝産物が、患者の尿または体液中へ排泄される、十分な時間を有するような期間である。例えば、この期間は、30分〜48時間の間であってもよい。
レポーター代謝産物が検出されることにより、体液および/または組織試料が採取された患者において酵素が存在する、したがって当該患者においてガン細胞が存在することが示される。
一実施形態では、レポーター代謝産物の量の、レポーター基質または他の産物の量に対する割合を、体液および/または組織試料中で測定する。この割合の増加は、レポーター基質の代謝の存在、ひいては当該患者におけるガン細胞の存在を示すことができる。例えば、一例では、放射性同位体または安定同位体で標識されたレポーター基質または代謝産物の、天然の、または非同位体標識されたレポーター基質または代謝産物に対する割合を使用できる。
レポーター基質および/またはレポーター代謝産物は、患者の体から結合体の形態で排泄されることがあることは理解されよう。
使用される体液および/または組織試料は、患者が吐き出す呼気または空気、血、血漿、血清、尿、大便、精液、唾液、微細ニードル吸引物、バイオプシー、組織切片などのいずれかまたは任意の組み合わせを含んでもよい。体液および/または組織試料は、予め決定された期間の後で患者から採取してもよく、または、予め決定された期間でいくつかの試料を採取してもよい。
一実施形態では、患者から採取したインビトロ試料は、CYP1B1の代謝産物またはレポーター基質の存在についてそれを分析および/または測定する前またはその間に、CYP1B1および1つまたは複数の抗体、ペプチド、試薬などを使用して免疫濃縮する。例えば、CYP1B1、レポーター基質および/または代謝産物に対する抗体(モノクローナルおよび/またはポリクローナル)を使用できる。こうした抗体は、CYP1B1、レポーター基質および/または代謝産物と結合してその検出の感度を増加させる。
一実施形態では、iMALDI法を用いてCYP1B1、レポーター基質および/またはレポーター代謝産物の量を測定および/または検出する。さらなる実施形態では、高性能液体クロマトグラフィー(hplc)を用いてCYP1B1、レポーター基質および/またはレポーター代謝産物の量を測定および/または検出する。
さらに好ましくは、iMALDI法は、分析および/または測定ステップの前またはその間に加えてCYP1B1、レポーター基質および/またはレポーター代謝産物を単離および/または凝縮させる抗体を使用することにより改変される。こうした抗体は、CYP1B1、レポーター基質および/または(1つまたは複数の)代謝産物と結合してその検出感度を増加させる。
したがって、本発明の一態様では、iMALDIを用いて、非タンパク質性の天然化合物(例えば、ルテオリン、オイパトリン、フラボノイド、スチルベン、その代謝産物など)を測定する方法が提供される。
好ましくは、抗体は、例えば、分析および/または測定ステップの間またはその前にセファロースビーズと共有結合させるなどにより、不溶性のビーズ上で実質的に固定する。
一実施形態では、同位体標識されたレポーター基質を患者に投与することにより、CYP1B1酵素の検出感度を増加させる。この結果、同位体標識された少なくとも1つのレポーター代謝産物がCYP1B1酵素の存在下で産生されることになる。例えば、レポーター基質としては、13C−ルテオリンまたは2H−ルテオリンを使用できよう。13Cまたは2H同位体標識の存在は、質量分析検出法におけるシグナル対ノイズ比を高めることにより、感度を増加させる。
一実施形態では、タンデムガスクロマトグラフ−同位体選択的質量分析計を使用して、ガス状のレポーター代謝産物(例えば、患者により生成される同位体標識された二酸化炭素など)を測定する。
患者としては、ヒトまたは動物など、任意の哺乳動物患者を挙げることができる。
本発明のさらなる一態様によれば、患者においてガンを検出および/または測定する方法であって、患者から採取したインビトロの体液または組織試料中のガン関連タンパク質、前記ガン関連タンパク質の少なくとも断片、抗体、ペプチド、タンパク質もしくは酵素関連試薬、および/または前記ガン関連タンパク質の代謝産物もしくは触媒産物の存在を検出するステップを含み、このガン関連タンパク質はCYP1B1である方法が提供される。
本発明のさらなる一態様によれば、患者におけるガンの検出および/または測定のための、CYP1B1またはCYP1B1代謝産物またはその触媒産物の使用が提供される。
本発明の(1つまたは複数の)方法は、CYP1B1活性を検出および/または測定し、および/または、患者におけるガンの存在を評価、査定、格付け、段階付けするために使用できる。
一実施形態では、ガンの診断および測定を容易にするために、コンピュータ作動アルゴリズムを使用する。
本発明のまたさらなる態様によれば、前記方法において使用するための装置が提供される。
これより、添付の図面を参照しながら、本発明の実施の形態の詳細な説明を記載することにする。
まず、図1を参照しながら、天然の食用植物由来化合物であるレポーター基質ルテオリン上のCYP1B1酵素の触媒産物を測定することにより、患者におけるCYP1B1酵素活性の存在を検出および/または測定する方法を例証する。
この方法では、ルテオリン1を患者2に経口投与するが、ステップ4の矢により示すように、ルテオリンは、消化されて、血流中で循環するように消化管から血流中に入る。ルテオリンが患者2の正常細胞6中に入ると、CYP1B1はガン細胞にしか実質的にないので、ルテオリンは細胞から出て、患者の尿8中で排泄される。患者から採取した尿試料は、患者がガンに罹患していなければ、CYP1B1酵素によるルテオリンの触媒分解はないか、またはごくわずかであることが示されることになる。ルテオリンがガン細胞10中に入ると、CYP1B1はガン細胞中に存在するので、CYP1B1酵素はルテオリンを生体内変換(代謝)して6−ヒドロキシルテオリン12(レポーター代謝産物)を産生する。その後、6−ヒドロキシルテオリンは患者の尿14中で排泄される。ガン患者から採取した尿試料を分析すれば、ルテオリンが代謝されたこと、また、その患者がガンに罹患していることが示される。
より詳細には、抗体を使用することにより尿試料中のレポーター基質および/または代謝産物の存在を測定して、尿からルテオリンおよび6−ヒドロキシルテオリンを単離および凝縮させてから、iMALDI法を用いて試料を処理する。
1回の尿試料を採取してもよく、または、予め決定された期間にわたり、いくつかの尿試料を採取してもよい。尿中のルテオリンおよび/または6−ヒドロキシルテオリンの予想レベルが十分に高いときは、普通の高性能液体クロマトグラフィー(hplc)により試料を分析できる。一方、尿中のルテオリンおよび/または6−ヒドロキシルテオリンのレベルが非常に低いときは、iMALDiにより試料を分析できる。
iMALDIを使用する場合、尿試料は重水素化ルテオリンおよび重水素化6−ヒドロキシルテオリンと混合した後、両方の化合物を単離および凝縮するために、ビーズでルテオリンおよび6−ヒドロキシルテオリンに固定した抗体と混合する。次に、ビーズを回収し、適切な洗浄の後、これを質量分析計の試料皿上に載せて、その場で乾燥させる。最後に、ルテオリンおよび6−ヒドロキシルテオリンを、抗体ビーズから質量分析計のフライトパス中に放出させて、その質量により測定する。6−ヒドロキシルテオリンとルテオリンとの間の尿中での割合が増加すれば、患者の体内のどこかにガン細胞が存在することが示されることになる。
図2を参照しながら、同位体標識されたレポーター基質オイパトリン(メトキシル化されたフラボンである)上でのCYP1B1酵素の触媒産物を測定することにより、患者におけるCYP1B1酵素活性の存在を検出および/または測定する方法を例証する。
図2に示す方法では、13C−オイパトリン202を患者204に経口投与するが、ステップ206の矢により示すように、13C−オイパトリンは、消化されて、患者の血流中で循環するように消化管から血流中に入る。13C−オイパトリンが患者の正常細胞208中に入ると、CYP1B1はガン細胞にしか実質的にないので、13C−オイパトリンは細胞を出て患者の尿210中で排泄される。患者から採取した尿試料は、患者がガンに罹患していなければ、CYP1B1酵素による13C−オイパトリンの触媒分解がないか、またはごくわずかであることを示すことになる。13C−オイパトリンがガン細胞212中に入ると、CYP1B1はガン細胞中に存在するので、CYP1B1酵素213は13C−オイパトリンを代謝して、13C−ホルムアルデヒド214および同位体標識されたO−脱メチルオイパトリン216(レポーター代謝産物)を産生する。13C−ホルムアルデヒドは、矢220により示すように、患者の体により、同位体標識された二酸化炭素218に変換され、患者の呼気中で吐き出される。O−脱メチルオイパトリンは患者の尿222中で排泄される。
天然に存在する物質における主要な炭素同位体は12Cである。中では、代謝的に放出されたメトキシ基が、結果として生じるホルムアルデヒドおよび二酸化炭素の代謝産物中に13C同位体標識を含有する、合成または生合成のオイパトリンを投与することにより、13Cと12Cとの間の割合は、普通の呼気中二酸化炭素中におけるより、オイパトリンの代謝に由来する二酸化炭素中におけるほうが顕著に高くなる。結果的に、オイパトリン投与後の呼気中二酸化炭素の13Cと12Cとの測定割合の増加は、患者において、CYP1B1酵素が存在する、したがってガンが存在することを示す。あるいは、患者から採取した尿試料中で、O−脱メチルオイパトリンの存在を検出してもよい。
呼気ガスの割合は、典型的には、例えば、タンデムガスクロマトグラフ−同位体選択的質量分析計を使用して測定する。
図3a〜3cを参照しながら、膀胱ガン細胞から患者の尿中に放出されたCYP1B1のペプチド断片を測定することにより、CYP1B1酵素の存在を検出および/または測定する方法を例証する。
より詳細に、図3aでは、正常な健康患者の膀胱302を示す。尿は、矢306により示すように、患者の腎臓304から膀胱中に入り膀胱302から出て、矢308により示すように、患者の体から排泄される。
膀胱ガン細胞310中では、CYP1B1タンパク質312は細胞中で発現し、CYP1B1タンパク質314の断片は、図3cに示すように、細胞表面上で外面化する。このことは、外面化したCYP1B1タンパク質を一切有さない正常な膀胱細胞316とは対照的である。尿304がガンの膀胱318中に入ると、CYP1B1タンパク質312および断片314は尿中で混合されて、尿308中で患者から排泄される。したがって、CYP1B1タンパク質および/またはタンパク質断片の検出は、その患者においてガンが存在することを示す。
尿中のCYP1B1タンパク質および/またはタンパク質断片のレベルの低さによっては、iMALDIなどの手法を用いる。したがって、本発明の一態様では、iMALDIを用いたプロテオミクス法により腫瘍マーカーとして尿中のCYP1B1を使用して、患者における膀胱ガンを検出および測定する方法が提供される。
<多重反応モニタリング(MRM)分析に適したCYP1B1ペプチド配列のバイオインフォマティック選択>
MRM分析は、予め規定した所望のペプチドの定量化に有用な、高度に特異的な質量分析法である。予め規定した前駆体から予め規定した断片イオンが生じると、質量分析計からシグナルが記録される。酵素消化(代謝)により産生されたペプチドの大部分は、MRM分析を行いやすい。
シトクロムP450タンパク質スーパーファミリーは多くの構成要素から成ることから、CYP1B1イソ型と他のシトクロムP450イソ型とのアミノ酸配列が同一であることを確定する必要があった。BLASTp(Basic Local Alignment Search Tool)を使用してCYP1B1(受入番号:Q16678、CYP1B1.1または野生型)のアミノ酸配列を分析すると、CYP1B1は、同一性においては、ヒトにおける他のシトクロムP450イソ型(例えば同一性40%)より、他の種に由来するCYP1B1イソ型(例えば、チンパンジーとの同一性は98%、マウスとは81%)に近いことがわかる。ヒト配列のみに対する調査から、CYP1B1は、自身の他の2ファミリーの構成要素に対して最も高い同一性を有することがわかる:CYP1A1との同一性は40%、CYP1A2とは39%。この同一性は非常に低く、このことから、これらのイソ型間で共有される同一の長いペプチド配列はないことがわかる。
図5a〜5bは、最も高得点のヒトイソ型を用いたCYP1B1ペプチド配列のアラインメントを示すBLASTp分析から得たスクリーンショットを示すものである。
これらの結果から、他のヒトイソ型に対するCYP1B1のアミノ酸配列同一性はアミノ酸配列の違いを多く有し、この結果、トリプシンペプチドの質量差が生じ、質量分析によりこれを利用できることが示される。しかし、アッセイ開発のためのペプチドの選択にあたっては、本発明者らは、ヒト集団における異なるCYP1B1対立遺伝子について報告されている多形アミノ酸変異体を考慮に入れた。加えて、このタンパク質には、報告または予測されている広範な翻訳後変異体はない。
図5cは、CYP1B1タンパク質の多形変異体および知られている翻訳後の特徴を示すUniProt(http://beta.uniprot.org)およびEnsembl(http://www.ensembl.org)データベースから得たスクリーンショットを示すものである。
MRM分析は、CYP1B1のトリプシン切断の結果生じたペプチドの観察を基にした。どのCYP1B1対立遺伝子が試料中に存在するかに関係なくMRM分析によりCYP1B1タンパク質を検出できるように、多形変異を有するトリプシンペプチドは、アッセイ開発のためには選択されず、使用可能なペプチドのリストから除外された。それ以外にも、試料取扱い中に化学修飾を起こしやすいアミノ酸残基を含有するペプチド(システインおよびメチオニンなど)が除外された。したがって、CysまたはMetを含有する多形変異体、ペプチドを除外すること、および、ヒトプロテオーム内に特有のペプチド配列を選択することにより、MRM CYP1B1アッセイの開発に使用することができると考えられる12種のペプチドが残った。ペプチド合成中の長さには限界があることから、3〜12個のペプチドを最適な候補として追求した。
次に、10種全てのCYP1B1ペプチドの天然型の合成およびMRM最適化を完了させた。下記の表1は、10種のCYP1B1ペプチドを示すものである。
Figure 2011512149
感度の最も高いCYP1B1ペプチドに開発努力を集中させるために、上記の10種全てのペプチドの混合物を作製し、2つの異なる質量分析(MS)法により分析して、各ペプチドの相対的なシグナル強度(イオン化効率)を定量した。
図6は、CYB1P1アッセイ開発のために選択された10種のCYP1B1ペプチド(A1〜A10)のほぼ等モルの混合物のMRM分析(液体クロマトグラフィーMRM/質量分析LC−MRM/MS)の結果を示すものである。各ピークは、リカーサー(recursor)断片(Q1/Q3)イオン対について観察されたシグナルを表す。各ペプチドについて、最も強度の高い5つの前駆体/断片(Q1/Q3)イオン対を使用した。ペプチドに特異的なMRMシグナルは、共溶出およびスタックするはずである。このデータから、各ペプチドおよびその相対強度の保持時間が確立された。現時点では、ペプチドA4〜A6およびA10は、MRMにより最も高い強度で観察されるペプチドと思われる。(抗体産生には、長さが6アミノ酸を超えるペプチドが必要であろうということに注意。)
図7は、CYB1P1アッセイ開発について選択された10種のCYP1B1ペプチドのほぼ等モルの混合物のMALDI−TOF分析の結果を示すものである。ペプチドA1〜A4およびA6は、MALDIにより最も高い強度で観察されるペプチドと思われた。(ペプチドA8およびA10は、MALDIイオン化によりほとんど観察されないことに注意。)
次いで、予測したCYP1B1トリプシンペプチドは組み換えにより発現されたCYP1B1の実際のトリプシン消化において観察されるという確証が得られた。こうして、バイオインフォマティック分析により予測された10種の独特なCYP1B1ペプチドを全て検出させることができた。このようにして、MALDIおよびESI(MRM)分析両方により、その相対的なイオン化強度に基づき、同位体的にコードされたバージョンの合成用にペプチドを選択することができた。
図8は、還元SDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミンゲル電気泳動)分析による、バキュロウイルスにより発現されたCYP1B1(Becton Dickson)を含有する昆虫細胞のミクロソーム分画のSDS−PAGE分析(4〜12%ポリアクリルアミドInvitrogen NuPage Bis−Trisゲル)の結果を示すものである。試料レーン全体をカットして24枚のゲル片にし、Genomic Solutions Progestを使用してゲルトリプシン消化用に加工した。
図9は、組み換えCYP1B1のゲルトリプシン消化のLC−MRM/MS分析(Becton−Dickinson)の結果を示すものである。10種のペプチド全てについて、最も強度の高いMRM Q1/Q3イオン対5つを使用した(合計50種のMRMイオン対)。10種のペプチドは全て首尾よく検出され、NAT6059A3が唯一の低シグナルであった。逆相勾配は赤い線として表し、分離条件は、C18分析カラム(150×0.075mm)、流速300nL/分であった。
Figure 2011512149
前記の表2は、MALDIおよびMRM(エレクトロスプレー)による、CYP1B1ペプチドの相対強度の概要を示すものである。MRMの強度順位は、組み換えBD CYP1B1の実際のトリプシン消化から決定した。逆相分離中の保持時間および半値ピーク幅も掲載する。合計順位は、MALDIおよびMRM両方の強度順位の合計である。したがって、本発明の一態様によれば、患者におけるCYP1B1の同定において使用するための、前記のCYP1B1またはCYP1B1代謝産物のペプチド配列の1つまたは複数の使用が提供される。
<溶液内消化>
「溶液内消化」を用いたが、その理由は、このタンパク質試料は界面活性物質を含有しないからである。タンパク質試料が、トリプシン活性と不適合な化学物質を含有するバッファ中にある場合、まず、タンパク質沈殿法を用いてバッファ交換を実施しなければならない。
下記の表3に掲載した化合物を使用して、以下の溶液を作製した。
Figure 2011512149
<溶液>
可溶化バッファ
1. 8M尿素:10mM HEPES中の8M尿素、pH8.0。10mLを作製するために、尿素4.80gとHEPES23.8mgとを水10mL中に溶解させた。NaOHを用いてpHを調節し、溶液を室温(すなわち、およそ20〜25℃)で保管した。
2. 6M尿素/2Mチオ尿素:10mM HEPES中の6M尿素、2Mチオ尿素、pH8.0。10mLを作製するために、尿素3.60g、HEPES23.8mgおよびチオ尿素1.52gを水中で溶解させた。必要に応じ、NaOHを用いてpHを調節した。チオ尿素溶液は、不溶性粒子を含有することが多いので、試料は5000xgで10分間遠心分離して清澄にしてもよい。この溶液を4℃で保管した。
3. 50mM炭酸水素アンモニウム中の10%w/vデオキシコール酸ナトリウム。
他のバッファ
4.消化バッファ:50mM炭酸水素アンモニウム(NH4HCO3)。10mLを作製するために、NH4HCO3 40mgを水10mL中で溶解させて室温で保管した。
5.ヨードアセトアミドストック溶液:消化バッファ中の0.5μg/μLヨードアセトアミド。10mLを作製するために、ヨードアセトアミド5mgを消化バッファ10mL中で溶解させた。これを100μL分量に分けて−20℃で保管した。
6.DTTストック溶液:水中の0.5μg/μL DTT。10mLを作製するために、10mL中のDTT 5mgを水中で溶解させて−20℃で保管した。
<ステップ>
1.タンパク質ペレット(溶液から沈殿させたものか、または細胞下分画からの遠心分離ペレットのいずれか)を、8M尿素、6M尿素/2Mチオ尿素または10%デオキシコール酸ナトリウム中で可溶化させる。特定の変性剤の選択は、試料特異的であると考えられるが、尿素/チオ尿素は、膜タンパク質について最もよく作用するようであった。こうしたカオトロピックな化学物質の最終濃度はトリプシン添加に先立ち希釈により低下させることが必要になるため、体積はできるだけ小さく保つ。(タンパク質1μg当たり可溶化バッファ0.5〜1.0μLを典型的に使用した)。こうして、試料タンパク質が作製される。
2. 50μg当たりDTT1μgを試料タンパク質に加え、室温で30分間インキュベートする。試料のロスを避けるため、試料中のタンパク質の質量をざっと推定する必要がある場合がある。
3. 50μg当たりヨードアセトアミド5μgを試料タンパク質に加え、室温で30分間インキュベートする。
4.次に、十分な消化バッファを用いて試料を希釈して、尿素濃度を1Mに、デオキシコール酸ナトリウム濃度を1%w/vに低下させた。
5. 50μg当たりトリプシン1μgを試料タンパク質に加え、37℃で一晩(16時間)インキュベートする。
6. 消化されたペプチドは、分析待機中は−80℃で保管することが最適であることが見出された。
次に、図4を参照しながら、患者から採取したインビトロ試料中のCYP1B1タンパク質断片の検出例を、iMALDI法を用いて記載する。
この手法では、適当な容器またはバイアル406中の尿試料中に入ったCYP1B1タンパク質および/またはタンパク質断片402を、矢410により示すようにトリプシンを使用し、トリプシン消化により、まず、より小さいペプチド408(すなわち軽いペプチド)に切断する。その結果得られるトリプシンペプチド408を、適当な手法により単離し、矢414および結果として得られる結合したトリプシンペプチド/抗体/ビーズ複合体416により示すように、不溶性のビーズ412に結合している特異的な抗体410にリガンディング(liganding)することによりこれを凝縮させる。次に、CYP1B1トリプシンペプチド408を担持するトリプシンペプチド/抗体/ビーズ複合体412を回収し、適切な洗浄の後、矢420により示すように質量分析計のターゲット皿418上に載せて乾燥させる。次に、ペプチド408を抗体ビーズ410/412から外し、その質量により測定する。重いペプチドと軽いペプチドとの量の間の割合により、CYP1B1断片をそれぞれ定量化する。以上が、単一の細胞から生じる少量のCYP1B1タンパク質断片を測定するのに十分な高度の感度をiMALDIに賦与するトリプシン断片の最初の免疫単離および凝縮である。
質量分析はペプチドをその質量により測定するため、13Cまたは2Hで同位体標識された合成ペプチドは、後者のほうが軽いであろうしそれぞれ炭素および水素の12C同位体および1H同位体を主に含有するであろうから、天然に存在する同一のペプチドと区別できる。したがって、図4に示す方法の一部として、ステップ414に先立ち、矢424により示すように、同位体標識された実質的に同一の合成ペプチド422を、尿由来のトリプシンペプチド408と混合してもよい。したがって、CYP1B1は、iMALDIを用い、比較的重い標識された合成ペプチドと比較的軽い体由来のペプチドとの間の量の割合を測定することにより定量化できる。尿試料中に存在するCYP1B1ペプチドの量が多いほど、患者においてはガンがより進行している傾向がある。
CYP1B1またはCYP1B1ペプチドに対する抗体は、ビーズ(すなわちセファロース)上に共有結合的に固定する。前述のプロセスで使用される合成ペプチドは、天然に存在するCYP1B1ペプチドに対応する、典型的には重水素標識された合成ペプチド(すなわち重いペプチド)であり、2H標識されたFMOCアミノ酸を使用して合成される。
前述の手法は、前立腺ガンなど、CYP1B1タンパク質および断片を精液中に放出する他の種類のガンに用いることができると考えられることは理解されよう。他のガンは、CYP1B1タンパク質および断片を、ガン細胞から患者の血中に放出する。したがって、精液中のCYP1B1の検出は、前立腺ガンが存在する可能性を示すのに対し、血中のCYP1B1の検出は、ガンの種類および/または位置を特定するにはさらなる調査を必要とする場合があるものの、ある種のガンの指標となる。
したがって、本発明の一態様では、iMALDIを用いたプレテオミクス法により腫瘍マーカーとして精液中のCYP1B1を使用した、患者における前立腺ガンを検出および測定する方法が提供される。本発明のさらなる一態様では、iMALDIを用いたプレテオミクス法により腫瘍マーカーとして血中のCYP1B1を使用した、患者におけるガンを検出および測定する方法が提供される。
本発明の関連手順においては、患者から採取した組織バイオプシーの細胞中のCYP1B1タンパク質または断片の存在は、iMALDIを用いた微細ニードルバイオプシー中、または、イメージング質量分析を用いた顕微鏡タイプの切片中のいずれかにおいて検出できる。固形の腫瘍組織から取り出した微細ニードル吸引物は、前述の手法と同様のトリプシン消化、抗体単離および質量分析に供され、それにより、単一の細胞中でもタンパク質の検出が可能になる。時には、組織バイオプシー中のガン細胞の空間分布を分析することが必要な場合がある。この場合、光学顕微鏡検査に関して組織バイオプシー試料を調製するが、その後、イメージング質量分析を用いてその試料を分析する。これにより、切片中の単一細胞中のCYP1B1の数分子までも検出され、それにより、2Dマップが得られ、切片にわたりガン細胞または前ガン細胞を含有するCYP1B1が定量化される。
光学顕微鏡検査に関して組織バイオプシー切片を同様に調製するが、固定は全くしないか、または最小限であり(後者の場合には、切片は凍結組織からカットする)、iMALDI質量分析計の光学的に透明なガラスターゲット皿上に載せる。必要に応じ、切片を染色して、組織形態の目視検査ができるようにしてもよい。質量分析用のエネルギー吸収マトリックス(すなわちシナピン酸)を切片上にスプレーし、切片にわたる多くの異なる位置について質量スペクトルを取得する。次に、CYP1B1についての質量シグナルを、切片にわたるCYP1B1密度の画像に再構築する。
したがって、本発明の一態様では、イメージング質量分析を用いたプロテオミクス法により腫瘍マーカーとして組織バイオプシー切片中のCYP1B1を使用して患者におけるガンを検出および測定する方法が提供される。

Claims (26)

  1. 患者において酵素の存在を検出および/または測定する方法であって、
    a)レポーター基質を患者に投与するステップと、
    b)予め決定された1つまたは複数の期間の後、前記患者から体液および/または組織試料を採取するステップと、
    c)前記患者における前記酵素により前記レポーター基質の代謝の結果として生じる前記レポーター基質の代謝産物の存在および/または測定値について、前記予め決定された期間中、インビトロの前記体液および/または組織試料を分析するステップと
    を含む方法。
  2. 前記酵素はCYP1B1である、請求項1に記載の方法。
  3. インビトロの患者試料中での酵素CYP1B1の存在を検出および/または測定する方法であって、インビトロの患者体液および/または組織試料を、ヒトまたは動物患者においてCYP1B1により代謝されることが既知であるレポーター基質の代謝産物の存在および/または測定値について分析するステップを含む方法。
  4. 前記レポーター基質は天然に由来する産物である、請求項1または3に記載の方法。
  5. 前記レポーター基質は植物由来の産物である、請求項4に記載の方法。
  6. 前記レポーター基質を生合成する、請求項1または3に記載の方法。
  7. 前記レポーター基質は、同位体標識された供給原料または産物である、請求項1または3に記載の方法。
  8. 前記レポーター基質は、スチルベン、フラボノイド、メトキシル化フラボン、ルテオリンまたはタンニンのいずれかまたは任意の組み合わせを包含する、請求項1または3に記載の方法。
  9. 前記レポーター基質はルテオリンであり、前記レポーター代謝産物は6−ヒドロキシルテオリンである、請求項1または3に記載の方法。
  10. 前記レポーター基質は13C−ルテオリンまたは2H−ルテオリンである、請求項9に記載の方法。
  11. 前記レポーター基質はオイパトリンであり、前記レポーター代謝産物は脱メチルオイパトリン、ホルムアルデヒドおよび/または二酸化炭素である、請求項1または3に記載の方法。
  12. 前記レポーター基質は13C−オイパトリンである、請求項11に記載の方法。
  13. 前記予め決定された期間は30分〜48時間の間である、請求項1に記載の方法。
  14. 前記レポーター基質対前記レポーター基質の代謝産物の割合をインビトロの前記患者試料中で測定する、請求項1または3に記載の方法。
  15. 放射性同位体または安定同位体で標識されたレポーター基質または代謝産物の、天然の、または非同位体標識されたレポーター基質または代謝産物に対する割合をインビトロの患者試料中で測定する、請求項1または3に記載の方法。
  16. 前記体液および/または組織試料は、患者の呼気、血、血漿、血清、尿、大便、精液、唾液、微細ニードル吸引物、バイオプシーまたは組織切片のいずれかまたは任意の組み合わせである、請求項1または3に記載の方法。
  17. 前記インビトロの体液および/または組織試料は、前記レポーター代謝産物の存在を分析および/または測定する前またはその間に、前記CYP1B1酵素、ならびに/または前記CYP1B1酵素、レポーター基質および/もしくはレポーター代謝産物に対する1つまたは複数の抗体、ペプチドおよび/もしくは試薬を使用して免疫濃縮される、請求項1または3に記載の方法。
  18. イムノタンデム質量分析(iMALDI)を用いて、酵素CYP1B1、レポーター基質および/またはレポーター代謝産物の量を測定および/または検出する、請求項1または3に記載の方法。
  19. 分析および/または測定ステップの前またはその間に、インビトロの前記体液および/または組織試料に抗体を加えて、前記CYP1B1、レポーター基質および/またはレポーター代謝産物を単離および/または凝縮させる、請求項18に記載の方法。
  20. 分析および/または測定ステップの前および/またはその間に、不溶性のビーズ上で前記抗体を実質的に固定する、請求項18に記載の方法。
  21. 高性能液体クロマトグラフィー(hplc)を用いて、酵素CYP1B1、レポーター基質および/またはレポーター代謝産物の量を測定および/または検出する、請求項1または3に記載の方法。
  22. タンデムガスクロマトグラフ−同位体選択的質量分析計を用いて二酸化炭素の量を測定する、請求項11に記載の方法。
  23. イメージング質量分析を用いて、酵素CYP1B1、レポーター基質および/またはレポーター代謝産物の量を測定および/または検出する、請求項1または3に記載の方法。
  24. 患者においてガンを検出および/または測定する方法であって、患者から採取したインビトロの体液または組織試料中のガン関連タンパク質、前記ガン関連タンパク質の少なくとも断片、抗体、ペプチド、タンパク質もしくは酵素関連試薬、および/または前記ガン関連タンパク質の代謝産物もしくは触媒産物の存在を検出するステップを含み、前記ガン関連タンパク質はCYP1B1である方法。
  25. 患者におけるガンの検出および/または測定のための、CYP1B1またはCYP1B1代謝産物またはその触媒産物の使用。
  26. 患者における前立腺ガンの検出および/または測定のための、患者の精液試料から採取したCYP1B1またはCYP1B1代謝産物またはその触媒産物の使用。
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