JP2011505813A - ρ0細胞を生成させる方法 - Google Patents

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Abstract

ミトコンドリアに標的化された制限エンドヌクレアーゼを用いた、ρ細胞の生成方法を記載する。この方法は、(a)適したプロモータに作動可能となるように連結されている、ミトコンドリア標的化配列(MTS)及び制限エンドヌクレアーゼを含む融合タンパク質をコードする遺伝子を含有する発現ベクタで細胞を形質転換するステップ、(b)該形質転換細胞を十分な時間培養するステップ、及び(c)ρ細胞を、例えば、FACS分析を介して選択するステップを含む。
【選択図】なし

Description

本発明は、ミトコンドリアを標的とする制限エンドヌクレアーゼを用いたρ細胞の生成方法に関する。
ミトコンドリアは、ほとんどの真核細胞に見られる細胞小器官である。ミトコンドリアは、細胞のクレブス回路又は好気的エネルギー供給等、極めて重要な生物化学プロセスの場となっている。しかし、最近、それらが加齢プロセス及びプログラム細胞死における中心的存在であることが示された。これらの全ての機能に密接に結びついている1つの因子が、この細胞小器官のゲノム、すなわちミトコンドリアDNAである。様々な症状を示す多数の神経疾患及び神経筋疾患が、ミトコンドリアゲノムの変異と関連づけられてきている(Wallace(2001)、Novartis.Found.Symp.、235、247−263)。例えば、ミトコンドリア脳症は、ミトコンドリアの酸化的リン酸化系(OXPHOS)の機能障害から生じる疾患の一種である。普通の状態では、この系は細胞呼吸及びエネルギー生産の役割を担っている。関連する疾患では、好気的代謝の要求が高い組織(例えば、脳、骨格筋、心臓)において障害が現れる。酸化的リン酸化系には、核DNA(nDNA)及びミトコンドリアDNA(mtDNA)によってコードされたサブユニットが集合してなる5つの酵素複合体が関与している。ミトコンドリアゲノムは、環状に構成され、16569bpを包含し、OXPHOSに関与する13のポリペプチド、1セットの22の必須tRNA、並びにミトコンドリア翻訳に必要なラージリボソームRNA(16S)及びスモールリボソームRNA(12S)をコードしている。mtDNAは完全に配列決定された最初のゲノムであるにも拘らず、核とミトコンドリアとの相互作用、mtDNA遺伝子とnDNA遺伝子との発現の連携、又はmtDNAの細胞内における維持プロセス(核因子によって厳密に決定されるプロセス)についてはほとんど何も知られていない。このように知見が不足していることから、mtDNAの損傷によってヒト疾患を生じる分子機序についてはほとんど知られていない。これは一部には、実験条件下でミトコンドリアの調節及び発生プロセスを研究することができないことによるものである。
このような問題を克服する1つの試みが、King及びAttardi(1989)、Science、246、500−503によって行われた実験であり、酵母遺伝学において知られる実験と同様の実験において、ヒト骨肉腫細胞系(骨肉腫由来の143B.TK−)を4〜6週間にわたって少用量のエチジウムブロマイドで処置している。この試薬は、mtDNAと相互作用して、DNA複製を妨げる複合体を形成することが知られている。一連の細胞分裂の後、内因性mtDNAは失われ、一方、核DNAは維持される。mtDNAの欠失は、数日後に酸化的リン酸化系を消失させるため、内因性mtDNAを欠いた細胞(いわゆる、ρ(ロー)細胞)の生存を維持するために栄養素の補給が必要となる。増殖培地にピルビン酸及びウリジンを添加することにより、呼吸鎖電子移動が失われ、ジヒドロオロト酸脱水素酵素(DHODH)が阻害されていても、ピリミジンを生成し、細胞のエネルギー要求を満たすことができる。
また、mtDNA複製を妨げる他の試薬(ジテルカリニウム、ddC等)によるρ細胞の生成が調べられている。しかし、用いられた全ての化学物質は、変異原性効果、又はmdr(多薬物耐性)ファミリー遺伝子発現の誘導等、重大な欠点を示し、mtDNA複製の阻害作用が失われている。更に、これらの方法の一番の制限は、異なる細胞株に適用できないことである。例えば、多くの試みについて事例証拠があるにもかかわらず、これらの方法で産生されたラットρ細胞株に関する報告は公表されていない。
よって、本発明の根底にある技術的課題は、従来技術の方法における問題を克服するρ細胞の生成方法を提供することである。
上記の技術的課題を解決するため、特許請求の範囲に記載された態様を提供する。本発明者らは、全ての内因性mtDNAの破壊を可能にする、ミトコンドリアマトリックスを標的とする制限エンドヌクレアーゼに基づく方法を開発した。制限エンドヌクレアーゼがmtDNAを切断し、内因性のヌクレアーゼがmtDNAを完全に分解する。この方法は、ヒトmtDNAを約3〜5回切断することが知られている制限エンドヌクレアーゼEcoRI遺伝子を選択することによって実現した。EcoRI遺伝子は、ヒトチトクロームcオキシダーゼのサブユニットVIII(COX VIII)遺伝子に由来するミトコンドリアターゲッティング配列、及び、光学マーカであるEGFP(強化緑色蛍光タンパク質)遺伝子に融合させて、ミトコンドリアに局在化させた。形質転換し、ジェネテシン又はFACS分析のいずれかにより選択して、143B.TK−K7と命名された細胞クローンを増殖させた。その後、代謝試験、PCR及びサザンブロット分析によって、全ての内因性ミトコンドリアDNAが失われていることを確認した。これらの細胞がρ状態となったことによる、増殖、代謝及び形態変化を特徴づけるため、追加の比較試験を行った。
ρクローン143B.TK−K7誘導後、EcoRI融合タンパク質のEGFP蛍光は検出されなかった。よって、mtDNAの破壊後に制限エンドヌクレアーゼ構築物の遺伝子を細胞が欠失しているか、又は、一部の遺伝子部分が核ゲノムの中に組み込まれて、微量の制限エンドヌクレアーゼが連続的に発現され、当該細胞株を、細胞質体融合試験におけるアクセプター細胞株として使えないものとなっているかどうかをPCRによって確認した。EcoRI遺伝子の異なる領域を増幅する様々なプライマ対を用いた分析の結果、増幅産物は観察されなかった。明らかに、EcoRIの遺伝子は、143B.TK−K7細胞の核ゲノム内に組み込まれていなかった。この結果は、ミトコンドリアゲノムを完全に、非可逆的に、かつ安定的に破壊するには、ミトコンドリアを標的とする制限エンドヌクレアーゼの一時的な発現のみで十分であることを示し、かつ、ミトコンドリア内のDNA修復系にはこのDNA損傷に十分対応するだけの効力はないことを示す。
最後に、低用量のエチジウムブロマイドと共に培養することによって生成された143B.TK−ρ細胞株、及び新しく生成した143B.TK−K7細胞クローンと野生型とを、増殖速度、グルコース消費量、並びに乳酸及びプロトン生産率について比較した。
mtDNAが欠失している全ての生成された培養細胞が、ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化が欠けているにもかかわらず増殖する。しかし、ρ遺伝子型を有する143B.TK−細胞は、野生型と比べて増殖速度が低減する。この特徴は、新規に確立されたρ細胞系143B.TK−K7では、解糖を介した嫌気性エネルギー生産に限定されることにから、明らかに見られた。よって、全てのρ細胞株がピルビン酸及びウリジンの補給に依存する。また、それらは、乳酸により培養培地の酸性化を増強する(Jakobsら(1994)、Biochim.Biophys.Acta.、1211、37−43)。本研究において、ピルビン酸及びウリジンの補給への依存、及び、乳酸発酵による培養培地の酸性化は、正常増殖条件下において、143B.TK−K7細胞で明らかであった。
培養培地の検査の結果、野生型の培地と比べて、ρ細胞のpH値が実質的に低下していた。高細胞密度によって引き起こされた細胞死により、143B.TK−細胞の62時間後の値を決定することはできなかったが、mtDNAが欠失している細胞では、pH6.7〜6.8まで更に低下した。10細胞に標準化した場合、143B.TK−K7及び143B.TK−ρ細胞のグルコース消費量、並びに乳酸及びプロトン生産は増加した。これは、野生型細胞とは対照的に、ρ細胞が解糖に完全に依存してATPを生産し、それゆえ、乳酸発酵の促進によって酸性化したことによるものである。MOLT−4細胞では、野生型と比べて、乳酸生産が4倍増加したことが示されている(Armandら(2004)、Toxicol.Appl.Pharmacol.、196、68−79)。しかし、本研究では、mtDNAが欠失している細胞の乳酸生産は、野生型と対比して1.5〜2倍に増加しただけであった。
細胞内及び細胞間における乳酸及び他のモノカルボン酸は、1ファミリーのモノカルボン酸輸送タンパク質(MCT)が輸送する。ミトコンドリアの乳酸/ピルビン酸交換体は、活性な呼吸細胞内の乳酸の酸化を可能とするミトコンドリア乳酸デヒドロゲナーゼと協働すると思われる(Brooks(2002)、Biochem.Soc.Trans.、30、258−264)。この経路は、ρ細胞では働くことができないことから、生産された乳酸の全量が周囲の培地中に放出されなければならない。乳酸はプロトンと共に原形質膜を通過して共輸送され(Poole及びHalestrap(1993)、Am.J.Physiol.、264、C761−C782)、ρ細胞の培養培地のpH値の低下の原因となる。
MitoTracker Red CMXRosを用いて細胞小器官を染色し、上記細胞株におけるミトコンドリアの形態を共焦点顕微鏡で観察した。ρ細胞ではのミトコンドリアは腫脹しているように見えることの多い点状であるのに対し、野生型細胞で広範なミトコンドリアネットワークが観察され、ミトコンドリアゲノムの欠失による、ミトコンドリア形態の典型的な変化を表している。また、全ミトコンドリア量は、正常細胞とρ細胞との間で変化が見られなかった。ρミトコンドリアの更なる形態変化が、超微細構造検査によって検出された。正常な143B.TK−細胞におけるミトコンドリア網状構造が、高電子密度のマトリックスで、規則的に配列されたクリステ構造を完全に有するのとは対照的に、ρ細胞のTEMイメージは、ミトコンドリア形態の明白な変化を示す。ネットワークは、腫脹した外観であることが多く、おそらく水分の流入が増大して希釈されたことにより電子が空となったマトリックスを有する単体ミトコンドリアユニットに分解されている。ほとんどのクリステが、マトリックス中の同心円の輪状である2枚の膜からなる「ぼやけたタマネギ(fuzzy onion)」様の構造(Hales及びFuller(1997)、Cell.、90、121−129)として存在する。また、これらの膜の輪は、ミトコンドリア境界膜とわずかな接触部位しかもたなかった。これらの二重膜が、2枚の内膜からなるのか、1枚の外膜及び1枚の内膜からなるかは明確でない。
膜の包含及び複数の同心円状のクリステを有する腫脹したミトコンドリアと同様のρ表現型は、細胞を逆転写阻害剤ジドブジンと共に培養した後に観察されている(Semino−Moraら(1994)、Lab Invest.、71、773−781)。しかし、L−カルニチンを添加することにより、これらの変化を避けることができた。これは、これらの形態変化において、脂肪酸経路の欠陥が関与している可能性があることを示す。
本願に記載した新規方法を用いることによって、化学物質(例えば、エチジウムブロマイド)の変異原性作用を回避した、極めて制御された穏和な条件下で新規のρ細胞株を生成することを初めて可能とした。よって、ミトコンドリア表現型に関連する疾患を研究する今後の実験において、様々な核バックグラウンドを示すρ細胞株を用いることができる。
ミトコンドリアを標的とするEcoRIの構築及び発現を示す図である。COX VIII標的化配列(MTS)をコードするDNA断片を、制限エンドヌクレアーゼ遺伝子EcoRIの5’末端に付加し、「光学」マーカとして、強化緑色蛍光タンパク質EGFP遺伝子を3’末端に融合させた。この構築物を、pTRE2hygベクタにサブクローニングし、AgeI及びNotIを用いてpEGFP−Mitoに再クローニングし、その結果、構成的CMVプロモータを有するpMEE−conベクタを得た(A)。最終構築物で143B.DsRed1−Mito細胞を形質転換した。形質転換の24時間後、EcoRI融合タンパク質が点状にミトコンドリアに局在化していること(白い矢尻)を、共焦点蛍光顕微鏡を用いてDsRed1−Mitoとの共局在によって確認した(B)。目盛は10μmに相当する。 143B.TK−K7(点線)、143B.TK−ρ(実線)及び143B.TK−(破線)細胞株の増殖速度の培養経時変化を示すグラフである。表示されている値は、4回の個々の測定の平均値である。標準偏差はエラーバとして示す。野生型と比べて、ρ細胞は増殖速度が低下していた。 ミトコンドリアを標的とするEcoRIの発現後における143B.TK−K7細胞株でのmtDNAの欠失を示す図である。核DNAのヒストンH1を増幅するプライマ、及びmtDNAのDループ領域に対応するプライマを用いたPCRによって、143B.TK−野生型、143B.TK−ρコントロール、及び単離された143B.TK−K7細胞を分析した。143B.TK−ρ及び143B.TK−K7細胞株では、該mtDNA領域を増幅することができず、これらの細胞におけるミトコンドリアゲノムの欠失を確認した。ヒストンH1の陽性増幅は、全てのプローブにおいてゲノムDNAの量が十分であったことを示す(A)。これらの細胞をBamHI又はPvuIIで消化後、mtDNAのヌクレオチド4831〜5651をコードするプローブを用いてサザンブロット分析することにより、143B.TK−ρ及び143B.TK−K7細胞のmtDNAが存在しないことが示された(B)。 EcoRIをコードする遺伝子が143B.TK−K7細胞の核ゲノム内に組み込まれていないことを示すPCR分析の図である。PCR分析は、表示されたようにEcoRI遺伝子の異なる領域を増幅する様々なプライマ対を用いて、143B.TK−K7、143B.TK−ρ、143B.TK−細胞株において行った。陽性コントロールとして50pg pMEE−conを用いた。結果は、ゲノムへの制限エンドヌクレアーゼ遺伝子の組み込みがないことを示す。 10細胞に標準化された、純粋な培養培地(一点短鎖線)、143B.TK−K7細胞株(点線)、143B.TK−ρ細胞株(実線)、及び143B.TK−細胞株(破線)の培養培地中のグルコース消費量(A)、乳酸生産率(B)及びプロトン生産率(C)の培養経時変化を示すグラフである。表示されている値はそれぞれ4回の個々の測定、8回の独立した測定(ρ細胞のpH値)の平均値である。標準偏差はエラーバとして示す。10細胞に標準化すると、143B.TK−K7及び143B.TK−ρ細胞のグルコース消費量並びに乳酸及びプロトン生産量は、143B.TK−野生型の量を超える。しかし、測定された全ての細胞株における培養培地のpH値はほぼ同様であった。細胞を添加していない純粋な培地のpH値は、培地がCOで飽和することによりわずかな低下を示す。プロトン生産率の分析では、値が最初低下しその後増大する特有の曲線的経過が観察できた。野生型の細胞における62時間培養における値は、アポトーシスをもたらす高細胞密度のため測定できなかった。 野生型細胞及びρ143B.TK−細胞におけるミトコンドリア組織を示す図である。細胞をMitoTracker Red CMXRosで染色した。A1は、野生型細胞における、主として桿状形態の細胞小器官である、大部分が網状組織であるミトコンドリアを示す。MitoTracker Red CMXRosで染色された143B.TK−ρ細胞(A2)及び143B.TK−K7細胞(A3)では、ミトコンドリア網が破壊されて、高頻度で腫脹しているように見える単体ユニットになっていることを示されている。目盛は10μmに相当する。 TEMによる野生型及びρミトコンドリアの超微細構造観察を示す図である。超薄切片の電子顕微鏡写真を示す。143B.TK−野生型ミトコンドリアは、多数の規則的に配列されたクリステを有し、相互に連結した網構造を示す(A1)。143B.TK−ρ細胞(A2)及び143B.TK−K7細胞(A3)のミトコンドリアは、歪んだクリステを有する単体小胞性細胞小器官となっており、マトリックス中で同心二重膜円を形成している。挿入図は、四角で囲まれた領域をより高倍率で示す。バー(A1〜A3)は、1μmを示す。
したがって、本発明は、ρ細胞を生成させる方法であって、(a)適したプロモータに作動可能となるように連結されている、ミトコンドリア標的化配列(MTS)及び制限エンドヌクレアーゼを含む融合タンパク質をコードする遺伝子を含有する発現ベクタでmtDNA含有細胞を形質転換させるステップと、(b)形質転換させた細胞を十分な時間培養するステップと、(c)ρ細胞を選択するステップとを含む方法を提供する。
例えば、リン酸カルシウムによる形質転換等、原核細胞又は真核細胞内に外来DNAを導入する様々な当業者に周知の方法が利用可能である。形質転換の他の方法には、エレクトロポレーション、ヒートショック、マグネトフェクション、又はLipofectamine(商標)、Fugene(商標)、jetPEI(商標)、Effectene(商標)又はDreamFect(商標)等の独占的権利で守られている形質転換試薬の使用に基づく方法が含まれる。組換(発現)ベクタ(及び融合タンパク質をコードする遺伝子)は、当業者によく知られた方法に従って構築でき、例えば、Sambrook(1989)、Molecular Cloning A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory N.Y.を参照することができる。様々な発現ベクタ、好ましくは安定的発現用の発現ベクタを本発明の融合タンパク質をコードする配列を含有及び発現させるために利用してもよい。これには、組換バクテリオファージ、プラスミド又はコスミドDNA発現ベクタ、例えば、酵母発現ベクタ、ウイルス発現ベクタ(例えば、バキュロウイルス);植物細胞発現ベクタ(例えば、カリフラワーモザイクウイルス、CaMV;タバコモザイクウイルス、TMV)、細菌発現ベクタ(例えば、Ti又はpBR322プラスミド)又は動物発現ベクタ、例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス又はアデノ随伴ウイルスベースのベクタが含まれる。また、形質転換用のナノ工学物質を使用してもよい。
細胞培養の方法及び適切な培地は当業者に知られており、培養される細胞の種類に依存する。「十分な時間形質転換細胞を培養する」という用語は、mtDNAの完全な破壊、すなわち外来遺伝子の発現、すなわち融合タンパク質の合成、該融合タンパク質のミトコンドリア内への送達、及び融合タンパク質の一部である制限酵素によるmtDNAの切断を可能にする培養を意味する。この目的を達成するために十分な時間は、様々な因子、例えば、使用されるベクタ及びプロモータの種類、特定の培養条件及び細胞の種類に依存するが、確立されているアッセイ、例えば、下記の実施例に記載のアッセイを用いて当業者が容易に決定することができる。動物細胞用には、「十分な時間」は、12時間から20日間の範囲内であってもよい。
本発明の方法の好ましい実施形態では、上記制限エンドヌクレアーゼは、mtDNAを1から10回、好ましくは3から7回、切断するいわゆる「レアカッター」である。そのような制限酵素は、当業者にはよく知られており、これらの酵素をコードする遺伝子は公開されているため、ミトコンドリア標的配列を追加して含む融合タンパク質を構築するのに使用できる。好ましい制限酵素としては、AflII、BamHI、BclI、EcoRI、HaeIII、HindII、HindIII、NdeI、PvuII及びSpeIが挙げられる。
本発明の方法は、通常、ミトコンドリアを含有するいかなる細胞にも、すなわちいかなる真核細胞にも適用できる。好ましい真核細胞は動物細胞である。哺乳動物細胞、例えば、サル、ラット、モルモット、ブタ又はヒト細胞が特に好ましい。
適したプロモータに作動可能となるように連結された、ミトコンドリア標的化配列(MTS)及び制限エンドヌクレアーゼを含む融合タンパク質をコードする挿入遺伝子を発現させるため、CMV前初期(IE)プロモータ、ラウス肉腫ウイルス(RSV)LTR、ジオキサン応答エレメントを有するマウス乳癌ウイルスプロモータ、β−アクチン遺伝子プロモータ;NRE又はGREエレメントを有するメタロチオニン(Metallothionin)プロモータ、及びSV40ウイルス初期プロモータ等、強力な真核細胞プロモータを用いることが好ましい。CMV IEプロモータは、ヒトプロモータ(HCMV IE)、マウスプロモータ(MCMV IE)又は代わりに別の起源、例えばサル、ラット、モルモット又はブタ起源のCMV IEプロモータであってもよい。一般に、構成的発現用のプロモータが好ましい。
本発明の方法の好ましい実施形態では、発現ベクタは動物細胞用のベクタである。適したベクタは当業者によく知られており、そのようなベクタの例は前述の通りである。特に特に好ましい動物ベクタは、ヒトパポーバウイルスベースベクタ(BKV)、SV40由来ベクタ、ワクシニア由来ベクタ、アデノウイルス由来ベクタ、バキュロウイルスベクタ又はレトロウイルス由来ベクタである。代わりに、TRE2hyg等の非ウイルス性哺乳類ベクタを利用することができる。
タンパク質は、複数のシグナル及びいくつかの経路によって、亜ミトコンドリアコンパートメント(外膜、膜間スペース、膜及びマトリックス内)へと標的化される。ほとんどのミトコンドリアタンパク質が、取込みペプチドシグナルを含有するサイトゾル前駆体として合成される。サイトゾルシャペロンは、プレタンパク質をミトコンドリア膜中のチャネル結合型受容体に送達する。ミトコンドリアへと標的化されたプレ配列を有するプレタンパク質は、外膜で、受容体及びジェネラルインポート孔(General Import Pore)(GIP)(受容体及びGIPは集合的に外膜トランスロカーゼ、すなわちTOMとして知られている)によって結合する。プレタンパク質は、TOMを通って、ヘアピンループとして移行する。プレタンパク質は、小さいTIM(これらも分子シャペロンとして働く)によって膜間スペースを通り、内膜のTIM23又は22(内膜トランスロカーゼ)へと輸送される。マトリックス中で、標的化された配列はmtHsp70により切除される。3つのミトコンドリア外膜受容体である、TOM20、TOM22及びTOM70が知られている。TOM70は、内部標的化ペプチドに結合して、サイトゾルシャペロンの結合部位として働く。TOM20はプレ配列と結合し、TOM22は、プレ配列及び内部標的化ペプチドの両方と結合する。TOMチャネルは、410kDaの分子量及び21Åの孔径を有する陽イオン特異的な高伝導性チャネルである。プレ配列トランスロカーゼ23(TIM23)は、ミトコンドリア内膜に局在しており、そのN末端で前駆体タンパク質と結合する孔形成タンパク質として働く。TIM23は、ミトコンドリアマトリックス、ミトコンドリア内膜、及び膜間スペースのプレタンパク質の輸送体として働く。TIM50は、ミトコンドリアの内側でTIM23に結合しており、プレ配列と結合することが見出されている。TIM44は、マトリックス側に結合しており、mtHsp70に結合することが見出されている。プレ配列トランスロカーゼ22(TIM22)は、ミトコンドリア内膜に向けて移動するプレタンパク質にのみ結合する。ミトコンドリアマトリックスを標的とする配列は、正電荷のアミノ酸及びヒドロキシル化されたアミノ酸に富んでいる。
本発明の方法に適したミトコンドリア標的化配列(MTS)は当業者によく知られている。ミトコンドリアマトリックスへのMTSが好ましく、そのようなMTSとして好ましくは、チトクロームcオキシダーゼサブユニット4(COX IV)又はサブユニット8(COX VIII)からの標的化ペプチドである。原則的には、核にコードされたあらゆるミトコンドリアマトリックス酵素又は内膜酵素に由来するあらゆる標的配列、あるいは、融合タンパク質をミトコンドリアに導入することができる人工配列(5.5以上の疎水性モーメント、少なくとも2つの塩基性残基、両親媒性αヘリックスコンフォメーション;Bedwellら(1989)、Mol Cell Biol.9(3)、1014−1035を参照)を、本発明の目的で使用することができる。
本発明の方法の更に好ましい実施形態では、前記融合タンパク質は、検出可能なポリペプチド、好ましくは蛍光タンパク質を含み、(a)細胞内における融合タンパク質をコードした遺伝子の発現をモニターすることを可能とし、かつ/又は(b)ロー細胞のための形質転換細胞を選択するためのFACS分析を可能とする。適した蛍光タンパク質は、造礁サンゴ蛍光タンパク質、AmCyan蛍光タンパク質、AsRed蛍光タンパク質、DsRed蛍光タンパク質、HcRed蛍光タンパク質、ZsGreen蛍光タンパク質、ZsYellow蛍光タンパク質、GFP、YFP、CFP、EGFP等、当技術分野で知られている。
好ましい蛍光タンパク質としては、GFP及びEGFPを挙げることができる。広範な用途の可能性及び研究者の要求の進化により、今のところGFPの多くの異なる変異体が利用可能である。最初の主要な改良は、GFPの分光特性を劇的に改善し、蛍光の増強、光安定性、及びピーク発光を509nmに保ったまま主要励起ピークを488nmへシフトさせた単一点変異(S65T)であった。このGFPに、37℃フォールディング効率点変異(F64L)を追加することにより強化GFP(EGFP)を得た。スーパーフォルダGFP、すなわちあまりフォールディングされていないペプチドに融合された場合でもGFPが迅速にフォールディングし、かつ成熟することを可能にする一連の変異が2006年に報告された。色変異体を含めた他の多くの変異、特に、青色蛍光タンパク質誘導体(EBFP、EBFP2、Azurite)、シアン蛍光タンパク質誘導体(ECFP、Cerulean、CyPet)、及び黄色蛍光タンパク質誘導体(YFP、Citrine、Venus、YPet)も作成されている。BFP誘導体はY66H置換を含む。シアン誘導体における重要な変異は、Y66W置換であり、これによって、フェノール成分ではなくインドール成分で発色団が形成される。YFP誘導体の波長はT203Y変異によって赤方にシフトする。これらの蛍光タンパク質の全てを本発明の方法に使用することができる。
ρ細胞を分析する方法及びρ又はρ細胞からρ細胞を分離する方法も当業者に知られている。本発明の方法の更に好ましい実施形態では、ロー細胞は、FACS分析、組織培養クローン化技術(クローニングリング法、細胞希釈法等)、代謝試験(ウリジン/ピルビン酸を補完した培地で増殖し、一方、ウリジン/ピルビン酸が枯渇した増殖培地では死滅する)、遺伝的試験、例えばPCR又はサザンブロット分析によって選択される。下記の実施例は本発明を更に詳細に説明するものである。
実施例1.材料及び方法
(A)クローニング
クローニングは、標準的手順に従って行い、全てのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)産物は配列決定によって確認した。PCRでは、EcoRI遺伝子をコードするプラスミドpAN4(P.Modrichらにより構築され、A.Kissから提供を受けた、Newmanら(1981)、J.Biol.Chem.、256、2131−2139)を鋳型として使用し、以下のプライマ:EGFP遺伝子の3’末端に相補的な短い配列を付加する、EcoRIR−001−FOR(Andersonら(1981)、Nature、290、457−465)5’−catggacgagctgtacaagatgtctaataaaaaac−3’、及び、NotI制限部位を生成する、EcoRIR−834−REV(Andersonら(1981)、Nature、290、457−465)5’−ggccaaatcacttagatgtaagctgttcaaac−3’を用いた。プラスミドpEGFP−Mito(クロンテック ヨーロッパ、サンジェルマン・アン・レ、フランス)から得たEGFP遺伝子は、NotI制限部位を生じさせるプライマpEGFP−Mito−0597−FOR 5’−ggccaaatgtccgtcctgacg−3’、及び終止コドンのないEGFPを増幅するpEGFP−Mito−1421−REV 5’−cttgtacagctcgtccatgccg−3’で増幅した。両方の断片を組換PCRで使用し、そのリン酸化産物を、PvuIIで線状化されたベクタpTRE2hyg(クロンテック ヨーロッパ、サンジェルマン・アン・レ、フランス)内にサブクローニングした。EGFP遺伝子及びEcoRI遺伝子からなる融合遺伝子産物をAgeI及びNotIでpEGFP−Mito内にクローニングし、ベクタpMEE−conを得た。
(B)細胞培養、形質転換及びミトコンドリア染色
ヒト骨肉腫細胞143B.TK−(ATCC CRL−8303)は、Glutamaxx(インビトロゲン、カルルスルーエ、ドイツ)を含み、10%ウシ胎児血清、1%ブロモデオキシウリジン、100ユニットのペニシリン、及び100μg/mlストレプトマイシンを添加した、ダルベッコ改変イーグル培地(高グルコース)中で、標準条件下で培養した。143B.TK−ρと命名したρ細胞株は、低用量のエチジウムブロマイド存在下で143B.TK−を培養することにより生成した。親143B.TK−のρ細胞株、及び形質転換操作後の細胞は、100μg/mlピルビン酸及び50μg/mlウリジンを追加で添加して示す通りに維持した。
143B.TK−及び143B.DsRed1−Mito(pMEE−conとの共局在検出のため、ミトコンドリアを標的とするDsRed1を安定的に発現する143B.TK−細胞)の一過性形質転換は、Effectene(キアゲン、ヒルデン、ドイツ)を用いて製造者の条件に従って行った。700μg/mlのジェネテシンによる選択を、形質転換の24時間後に5日間行った。143B.TK−K7と命名した単離されたクローンをアリコートに分け、Glutamaxx、10%透析FCS、1%ブロモデオキシウリジン、100ユニットのペニシリン、及び100μg/mlストレプトマイシンを含み、ピルビン酸及びウリジンを含まないDMEM(高グルコース)で30日間、存在する酸化的リン酸化について代謝試験を行った。
このアプローチの適用可能性を齧歯動物細胞まで拡張するため、2つの他の細胞株:マウス株LMTK−(ATCC CCL−1.3)及びラット株NRK52E(ATCC CRL−1571)を用いた。ミトコンドリアを標識するのに、MitoTracker CMXRos(インビトロゲン、カルルスルーエ、ドイツ)を製造者のプロトコールに従って100nMの濃度で用いた。
(C)FACS分析
形質転換細胞の試料(0.05%BSAを含むPBS中で2×10細胞/ml)を、フローサイトメータ及びそのソフトウェア(FACSCAN、FACS Vantage SE、Cell Quest Software、BD Biosciences)で分析した。データの取得は、EGFPに融合し、ミトコンドリアに標的化された制限エンドヌクレアーゼを発現する100.000個以上の細胞を、フローサイトメータでゲーティングすることによって行った。
(D)PCRによるクローンの特徴づけ
得られた143B.TK−K7細胞クローン内の全ての内因性mtDNAが失われていることを確かめるため、ゲノムDNAを単離して、PCRの鋳型として用いた。対照には、143B.TK−野生型、及び前述の通りエチジウムブロマイドと共に培養して生成された対応するρ細胞株から単離されたゲノムDNAを用いた。mtDNA領域で結合する以下のプライマ:15501−FOR 5’−acccagacaattataccctagc−3’及び630REV 5’−gagcccgtctaaacattttcaatg−3’を使用した。対照PCRは、ヒトヒストンH1遺伝子を増幅するプライマ(Histon H1 5’ 5’−atgagctcatgaccgagaattccacgtccg−3’及びHiston H1 3’ 5’−atcccgggcaaacttcttcttgcc−3’)を用いて行った。アニーリング温度は55℃で、35サイクル行い、伸長時間を1分間とした。
143B.TK−K7細胞のゲノム内へのEcoRI遺伝子の潜在的な組込みを調べるため、EcoRI遺伝子の異なる領域を増幅する以下に列挙するいくつかのプライマセット:EcoRI−001−FOR(Wallace(2001)、Novartis.Found.Symp.、235、247−263)5’−aattcccggatcccaccatgtctaataaaaaacagtcaaa−3’、EcoRI−220−FOR 5’−gaccctgatcttggcggtactttatttg−3’、EcoRI−392−FOR 5’−gaggagatcaagatttaatggctgctg−3’、EcoRI−653−REV 5’−catagattactatttataggcattccataattagctgc−3’、EcoRI−819−REV 5’−ctgttcaaacaagtcacgcc−3’、EcoRI−834−REV(King及びAttardi(1989)、Science.、246、500−503)5’−attcccccgggtcacttagatgtaagctgttca−3’を用いてPCRを行った。最初の5サイクルのアニーリング温度は45℃とし、その後、30サイクルは55℃で伸長時間を2分間とした。
(E)サザンブロット分析
細胞から抽出した全DNA(15μg)を制限エンドヌクレアーゼBamHI又はPvuIIで消化した。制限断片を0.6%アガロースゲルで分離し、ナイロン膜上に転写して、ヌクレオチド4831〜4846(For)及び5628〜5651(Rev)にアニーリングするmtDNAプライマで増幅されたジゴキシゲニン−dUTP標識ヒトmtDNAプローブとハイブリダイズさせた。膜を洗浄し、断片をDIG核酸検出キット(ロシュ・アプライド・サイエンス、マンハイム、ドイツ)を用いて、製造者の指示に従って検出した。断片の化学発光は、バイオイメージングシステム(Alpha Imager、Biozym、ヘッシシュ オルデンドルフ、ドイツ)で分析した。
(F)培養培地の代謝物分析
4×10細胞を35mmディッシュに播種し、100μg/mlピルビン酸及び50μg/mlウリジンを添加した2.5ml培養培地中で、標準条件下で培養した。培養24、40、48及び62時間後、細胞数を定量化し、pH値を分析し、グルコース濃度及び乳酸濃度をHitachi917臨床化学分析装置(ロシュ・ダイアゴニスティックス)で測定した。pH値は、水素イオン濃度(mol/l)=10−PHの式によって、培地中水素イオン濃度に変換し、更に、他の全てのデータを10細胞に標準化し、グラフで分析した。表示されている値は、それぞれ、4回の個々の測定又は8回の独立した測定(ρ細胞のpH値)の平均値である。標準偏差はエラーバとして示した。
(G)共焦点顕微鏡法
ガラス底ディッシュ(MatTek Corporation、アシュランド、米国)上で培養した生細胞を、逆位共焦点レーザー顕微鏡TCS SP5(ライカ・マイクロシステムズ)で観察した。染色された複数の化合物の励起によるクロストークを避けるために、共焦点顕微鏡で順次走査モードのみを用いた。画像を光電子増倍管で取得し、顕微鏡写真の処理及び分析を、ライカ・アプリケーション・スーツ・アドバンスト・フルオレッセンス1.5.1ソフトウェア及びAdobe Photoshop CSで行った。
(H)電子顕微鏡観察
カバーガラス上で培養した細胞を2.5%グルタルアルデヒド、2%ホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドから作られたもの)を含むpH7.4の100mMカコジル酸緩衝液中、4℃で1.5時間固定し、カコジル酸緩衝液で2回洗浄し、その後、2%四酸化オスミウムを含む50mMカコジル酸緩衝液(pH7.4)で固定した。標本を蒸留水で2回洗浄し、水性0.5%酢酸ウラニルを用いて、4℃で一晩染色した。細胞を脱水して、Epon812中に平板包埋した。超薄切片をZeiss EM10(Oberkochen、ドイツ)で分析した。陰画を走査によってデジタル化し、Adobe Photoshop CSで処理した。
実施例2.ミトコンドリアに標的化された制限エンドヌクレアーゼを使用したρ細胞の生成及びρ状態の確認
本実験の目的は、エチジウムブロマイド、ジテルカリナム(ditercalinum)又は2’3’−ジデオキシシチジン等の変異誘発物質を使用せずに、全ての内因性ミトコンドリアDNAを欠いた細胞を生成する系を開発することである。当該系の基本となるのは、細胞内への形質転換の後に、機能単位として制限エンドヌクレアーゼEcoRIを構成的に発現するベクタpMEE−conである。EcoRIは、ヒトmtDNAを、細胞の民族的背景に応じて、3〜5回切断することが知られている。実験マウスmtDNAは3箇所の、NRK52E細胞株の元であるラット(Rattus norvegicus)は7箇所のEcoRI部位を有する。ヒトチトクロームcオキシダーゼサブユニット8(COX VIII)に由来するミトコンドリア標的化ペプチドにEcoRIを融合させた。更に、一つには細胞内の発現を観察し(図1B)、もう一つにはFACS分析に適した選択マーカを持たせて、それによって、純粋になるまで形質転換細胞を選択できるようにするために、生成した構築物に強化緑色蛍光タンパク質EGFPを融合させた(図1A)。共焦点蛍光顕微鏡により、このポリペプチドが発現され、おそらく核様体のmtDNAと密接に接触して、ミトコンドリアに点状に局在していることが示された(図1B)。抗生物質ジェネテシンの存在下で5日間、一過性形質転換細胞を選択することにより、又は代わりにFACS選択することにより、143B.TK−クローンを単離することができた。143B.TK−K7と命名したこの細胞クローンのピルビン酸及びウリジンへの依存について代謝試験を行った。これらの細胞は、ピルビン酸及びウリジンを含まない培地で培養中は弱い増殖しか示さず、最終的には死滅した。このことは、該細胞株がρ状態であることを強く示唆している。
62時間の培養時間の間の細胞増殖の分析(図2)により、野生型(破線)とは対照的に、143B.TK−K7細胞(点線)の増殖速度が明白に低下していることが示された。これは、低用量のエチジウムブロマイドで培養することにより生成された143B.TK−ρと呼ぶρ細胞株(実線)で観察された結果と一致している。両方のρ細胞株は類似した遺伝的背景を示すが、図は、143B.TK−K7細胞は、143B.TK−ρ細胞よりわずかに遅い増殖速度を有することを示している。
mtDNAが失われていることを更に確認するため、Dループ内に位置する1698bp領域を増幅するプライマを用いて、143B.TK−K7細胞から単離されたゲノムDNAのPCR分析を行った(図3A)。増幅の陽性対照は、野生型のゲノムDNAで行い、143B.TK−ρ細胞を陰性対照とした。試料中の鋳型DNAが十分な量であることを示すため、核遺伝子ヒストンH1の領域を増幅するプライマで追加の実験を行った。野生型細胞株とは対照的に、143B.TK−ρ細胞及び143B.TK−K7細胞では増幅産物を観察することができなかった。更に、これらの結果は、サザンブロット試験によっても確認され、143B.TK−ρ細胞及び143B.TK−K7細胞における、mtDNAの完全な欠失を示した(図3B)。LMTK−及びNRK52E細胞株の複数の独立したクローンでも同様の結果が得られた(データは非図示)。
実施例3.ゲノム内への制限エンドヌクレアーゼ遺伝子の組込みの分析
安定的なρクローン143B.TK−K7を継代させた後、EcoRI融合タンパク質発現のEGFP蛍光は検出できず、細胞がプラスミドを失ったことが示された。その後、細胞が制限エンドヌクレアーゼ遺伝子をそのゲノム内に組み込んでいたかどうかをEcoRI遺伝子の様々な領域を増幅するPCRによって試験した。様々なプライマ対を用いた分析を、ゲノムDNAについて行った(図4)。143B.TK−K7細胞及び対照において、増幅産物は観察されず、EcoRIの遺伝子が143B.TK−K7細胞の核ゲノム内に組み込まれていないことを示した。更に、これらの結果は、ミトコンドリアゲノムを完全に破壊するためには、短時間の一時的なミトコンドリアに標的化された制限エンドヌクレアーゼの発現のみで十分であることを示した。1年を超える培養の間、PCR並びにピルビン酸及びウリジンの代謝依存性による試験で、143B.TK−K7細胞内のmtDNAは回復していなかった。
実施例4.培養培地の比較分析
ρ細胞のエネルギー生産は、嫌気性解糖に完全に依存している。加えて、今まで知られている全てのρ細胞株が、ピルビン酸及びウリジンの補給に依存し、かつ過度の乳酸生産による培養培地の酸性化を示す。両方の特性が、143B.TK−K7細胞並びにマウス及びラットのρクローンで観察することができた。143B.TK−K7細胞を24、40、48及び62時間培養後、細胞数の測定に加えて、培養培地中のグルコース濃度、乳酸濃度及びpH値を分析した。グルコース及び乳酸濃度、並びに水素イオン濃度は、10細胞に標準化してグラフ表示した。基準値は、143B.TK−細胞及び143B.TK−ρ細胞の測定によって得た。10細胞に標準化した場合、ρ細胞のグルコース消費量(図5A)(7.5〜8.5g/l、143B.TK−ρ、実線、及び143B.TK−K7、点線)は、野生型細胞の量(5g/l、破線)を超えていた。更に、グルコース消費量は、培養時間中に明らかに低下した(ρ細胞で約88%、野生型細胞で75%)。
10の細胞に標準化された乳酸生産のグラフ(図5B)は、野生型よりρ細胞(143B.TK−ρ、実線、及び143B.TK−K7、点線)の乳酸生産率が高いことを示す。これらの値は最初、培養24時間から40時間までの間は増大するが、曲線の経過はその後、飽和に似た状態となり、その後ほぼ一定のレベルに留まる(143B.TK−K7:17g/l、143B.TK−ρ:15g/l、143B.TK−:11g/l)。
細胞が添加されていない純粋な培地のpH値は、COで培地が飽和することにより、pH8.0からpH7.7への若干低下するだけである(図5C、一点短鎖線)。一方、測定した細胞株の培地のpH値は、48時間の培養後、野生型細胞(破線)で7.8から、ρ細胞(143B.TK−ρ、実線、及び143B.TK−K7、点線)で7.5から、全ての細胞株でpH7.3まで変化する(図5C)。143B.TK−細胞の62時間後の値は、高細胞密度によって生じた細胞死のため決定することができなかったが、mtDNAが欠失している細胞では、pH値は更に6.7〜6.8まで低下した。
様々な培養時間における、細胞数で標準化した水素イオン濃度(図5D)は、ρ細胞の培地中への水素イオン放出率(143B.TK−ρ、実線、及び143B.TK−K7、点線)が、野生型細胞(2.5〜3.5×10−8mol/l、破線)の要求をはるかに超えることを示す。その上、ρ細胞において、値が最初に7×10−8から6×10−8mol/lに低下し、その後1.0〜1.5×10−7mol/lまで増大する特別な曲線経過が観察された。
実施例5.共焦点顕微鏡を用いた形態比較試験
表示された細胞株におけるミトコンドリアの形態は、MitoTracker Red CMXRosを用いて細胞小器官を染色し、共焦点顕微鏡で検査して試験した(図6)。143B.TK−野生型細胞(図6A1)のミトコンドリアは、細胞内で均等に分布した網状ネットワークとして存在する。多くみられるミトコンドリアの構造は、細長く、桿状形態であった。これらの細胞のρ形態(図6A2、A3)では、ネットワーク構造が破壊されているようであり、小さな個別のミトコンドリアユニットの分布を生じている。この断片化は、より高倍率の画像で強調表示されている。更に、これらの単体細胞小器官の一部は、腫脹しているように見えた。この結果は、野生型では観察できなかった。
野生型細胞における相互に連結したミトコンドリアネットワークと、対照的なρ細胞における点状ミトコンドリアは、ミトコンドリアDNAが失われていることによる、ミトコンドリア形態の典型的な変化である(Gilkersonら(2000)、FEBS Lett.、474、1−4;Rizzutoら(1998)、Science.、280、1763−1766)。
実施例6.透過電子顕微鏡(TEM)を用いた形態比較試験
ρミトコンドリアの、更に多くの形態変化が超微細構造検査により検出された(図7)。図7A1は、野生型における高度に相互連結されたミトコンドリアネットワーク構造の詳細を示す。正常な143B.TK−細胞におけるミトコンドリア網を通る横断切片は、高電子密度のマトリックス、規則的に配列された完全なクリステ構造を有する明確な外膜及び内膜を示した。対照的に、ρ細胞(図7A2、A3)のTEM画像は、ミトコンドリア形態の明らかな変化を示す。ネットワークは、腫脹した外観を有することの多い単体ミトコンドリア単位に分解されている。マトリックスは、おそらく水の流入の増加によるマトリックスの希釈により電子が疎らに見え、これは腫脹した外観についての説明にもなる。ρ細胞内のミトコンドリアは依然として、正常細胞内で見られる明確な外膜及び内膜を示すが、クリステは全体的な構造変化を示した。ほとんどのクリステが曲がっているか、密接に接触した2枚の膜からなる同心円状の輪、すなわち「ぼやけたタマネギ」(Hales及びFuller(1997)、Cell.、90、121−129;Halestrap(1989)、Biochim.Biophys.Acta.、973、355−382)と呼ばれる外観に見える。加えて、これらの膜の輪は、ミトコンドリア境界膜との接触部位をわずかに示すのみであった。これらの二重膜が、2枚の内膜からなるものであるか、1枚の外膜及び1枚の内膜からなるものであるかは識別できなかった。

Claims (15)

  1. ρ細胞を生成させるインビトロの方法であって、
    (a)適したプロモータに作動可能となるように連結されている、ミトコンドリア標的化配列(MTS)及び制限エンドヌクレアーゼを含む融合タンパク質をコードする遺伝子を含有する発現ベクタでmtDNA含有細胞を形質転換するステップ、
    (b)該形質転換細胞を十分な時間培養するステップ、及び
    (c)ρ細胞を選択するステップと
    を含む方法。
  2. 前記制限エンドヌクレアーゼがmtDNAを1から10回切断する、請求項1に記載の方法。
  3. 前記制限エンドヌクレアーゼが、AflII、BamHI、BclI、EcoRI、HaeIII、HindII、HindIII、NdeI、PvuII、又はSpeIである、請求項2に記載の方法。
  4. 前記細胞が動物細胞である、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記動物細胞が哺乳動物細胞である、請求項4に記載の方法。
  6. 前記プロモータが、CMV前初期(IE)プロモータ、ラウス肉腫ウイルス(RSV)LTR、又はSV40ウイルス初期プロモータである、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 前記発現ベクタが動物細胞用のベクタである、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 前記ベクタが、ヒトパポーバウイルスベースのベクタ(BKV)、SV40由来ベクタ、ワクシニア由来ベクタ、アデノウイルス由来ベクタ、バキュロウイルスベクタ、又はレトロウイルス由来ベクタである、請求項7に記載の方法。
  9. 前記MTSがミトコンドリアマトリックスを標的とする、請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の方法。
  10. 前記MTSが、チトクロームcオキシダーゼサブユニット8(COX VIII)由来の標的化ペプチドである、請求項9に記載の方法。
  11. 前記融合タンパク質が、検出可能なポリペプチドを更に含む、請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載の方法。
  12. 前記検出可能なポリペプチドが蛍光タンパク質である、請求項11に記載の方法。
  13. 前記蛍光タンパク質がGFP又はEGFPである、請求項12に記載の方法。
  14. 前記ρ細胞が、FACS分析、代謝試験、及び/又は遺伝子試験によって選択される、請求項1〜請求項13のいずれか一項に記載の方法。
  15. 前記遺伝子試験がPCR又はサザンブロット分析である、請求項14に記載の方法。
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