JP2011254778A - 微生物によるl−グリセリン酸の製造方法 - Google Patents

微生物によるl−グリセリン酸の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】微生物によるL−グリセリン酸の製造方法を提供する。
【解決手段】ディエジア(Dietzia)属に属するL−グリセリン酸生産菌を、グリセリン酸への変換可能な炭素源を含む培地で培養し、培地中にL−グリセリン酸を生成させるL−グリセリン酸の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、微生物によるL−グリセリン酸の製造方法に関する。
近年、化石燃料に代わる燃料として、バイオディーゼル(BDF)の生産が欧州などにおいて盛んに行われてきている。バイオ燃料であるBDFは油脂から製造される燃料であるが、製造過程においてグリセリン等が付随して生産されてくる。また、グリセリンは天然油脂から高級アルコールや脂肪酸を合成する過程においても副産物として生産されてくる。環境問題等の観点から、副産物であるグリセリンを廃棄物として出すことなく有効利用することが望まれている。
このような観点から、グリセリンを種々の化学合成品の原材料として利用することが検討されており、現在のところ、グリセリンは主にエピクロロヒドリンやプロピレングリコールなどの合成原料として用いられている。また、微生物を用いてグリセリンを有用物質に変換する検討も種々行われており、例えば放線菌を用いた糖含有化合物への変換が報告されている(非特許文献1参照)。しかしながら、このような用途だけでは上記副産物であるグリセリン廃棄物を十分に有効利用することはできず、環境問題、エネルギー問題の解決には課題が残る。
グリセリン酸は、ポリマーの原料や、有機材料の原料として有用な化合物である。グリセリン酸は、グリセリンの酸化反応により化学合成することができ、例えば、グリセリンからDL−グリセリン酸を合成する方法が知られている。しかしながら、この方法ではコストがかかることに加え、L−グリセリン酸を得るためには、DL−グリセリン酸からL−グリセリン酸を分離する必要があり、操作が煩雑になる。また、L−アスコルビン酸からL−グリセリン酸を化学合成により製造する方法も知られているが、マスキング、環の開裂、酸化反応による鎖長変換、保護基の脱離という多段階の操作を必要とする(非特許文献2参照)。
一方、微生物を用いたグリセリン酸の製造方法も検討されており、例えば、酢酸菌を用いてグリセリンからD−グリセリン酸を製造する方法(特許文献1参照)、グリセリン酸生産能の高い微生物を用いた、効率的なD−グリセリン酸の製造方法(非特許文献3参照)が提案されている。しかしながら、微生物を培養することにより得られるグリセリン酸はD体のみであり、微生物を培養することにより光学異性体であるL−グリセリン酸を得る方法は知られていない。一方、1,2−プロパンジオールを含むグリセリン培地で培養したグラム陰性の菌体を用いて、休止菌体反応によりL−グリセリン酸が作られることをグリコシルオキシダーゼを用いた酵素反応でアッセイした報告(非特許文献4参照)がある。しかしながら、ここでのL−グリセリン酸分析方法は、例えば1,2−プロパンジオールより乳酸を生成する場合において擬陽性になるという問題がある。
特公平7−51069号公報
Folia Microbiol., 2007, 52, 451-456 Tetrahedron Asymmetry,1991, 2, 359-362 Appl. Microbiol. Biotechnol., 2009, 81, 1003-1039 甲子園大学紀要,2008, 36, 109-112
本発明は、L−グリセリン酸の製造方法の提供を課題とする。また、本発明は、前記方法に用いる微生物の提供を課題とする。
本発明者等は上記課題に鑑み、グリセリンを有効利用し、かつ、工業的に利用価値の高いL−グリセリン酸を生産しうる微生物について鋭意検討を行った。その結果、ディエジア(Dietzia)属細菌がL−グリセリン酸生産能を有することを見い出した。本発明はこの知見に基づいて完成するに至ったものである。
本発明は、ディエジア(Dietzia)属に属するL−グリセリン酸生産菌を、グリセリン酸への変換可能な炭素源を含む培地で培養し、培地中にL−グリセリン酸を生成させることを特徴とするL−グリセリン酸の製造方法を提供する。
また、本発明は、ディエジア(Dietzia)属に属し、グリセリン酸への変換可能な炭素源からのL−グリセリン酸生産能を有する微生物を提供する。
本発明によれば、L−グリセリン酸を効率的に製造することができる。また、本発明の微生物は、前記方法に好適に用いることができる。本発明の製造方法により得られたL−グリセリン酸を用いれば、例えば、D−グリセリン酸と任意の割合で配合することで、グリセリン酸を原料とする多様な合成物、変換物を製造することができる。
実施例におけるグリセリン酸の光学純度を測定した結果を示す図である。(a)は3.2mM D−グリセリン酸の溶出プロファイル、(b)は2.8mM L−グリセリン酸の溶出プロファイル、(c)はグリセリン含有LB培地で培養したディエジア・エスピー(Dietzia sp.)KSM−TB427株の培養上清に由来する光学純度測定用サンプルの溶出プロファイルを示す。図中にグリセリン酸の保持時間を、またその保持時間におけるUV吸収スペクトラムを示した。
以下、本発明について、その好ましい実施態様に基づき詳細に説明する。
本発明のL−グリセリン酸の製造方法は、ディエジア(Dietzia)属に属するL−グリセリン酸生産菌を、グリセリン酸への変換可能な炭素源を含む培地に培養し、培地中にL−グリセリン酸を生成させることを特徴とする。ディエジア(Dietzia)属に属する微生物がL−グリセリン酸生産能を有することは、本発明者らによって初めて見い出された知見である。
本発明のL−グリセリン酸の製造方法に用いられるL−グリセリン酸生産菌は、L−グリセリン酸を生成することができ、ディエジア属に属するものであれば特に制限はない。
本発明のL−グリセリン酸の製造方法において、配列番号1に示す塩基配列、又は配列番号1に示す塩基配列と16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づく分子系統学上同等の塩基配列、を含む16S rRNA遺伝子を有し、下記の菌学的性質を示す、L−グリセリン酸の生産能を有するディエジア属に属する微生物を用いることが好ましい。
(菌学的性質)
(1)グラム染色性 陽性
(2)菌の形状 桿形
(3)酸素に対する態度 好気性
(4)運動性 有せず
(5)グルコースの酸化 陰性
(6)カタラーゼ反応 陽性
(7)オキシダーゼ反応 陰性
本発明のL−グリセリン酸の製造方法に用いられるL−グリセリン酸生産菌は、L−グリセリン酸生産能を有するディエジア属に属する微生物の中でもL−グリセリン酸生成能が高いがディエジア・エスピー(Dietzia sp.)KSM−TB427株であることが、更に好ましい。なお、ディエジア・エスピー(Dietzia sp.)KSM−TB427株は、2009年9月17日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1−1−1つくばセンター中央第6)に、受託番号 FERM P−21848として寄託された。
本発明に用いることができるL−グリセリン酸生産菌の取得方法に特に制限はなく、例えば任意の場所の土壌中の細菌を、寒天を添加したグリセリンを含有するLB培地「ダイゴ」(日本製薬)で培養し、以下に記載の菌学的性質(培養的性質、形態的性質、生理学的性質、化学分類学的性質)を適宜組み合わせた指標によりコロニーをスクリーニングすることで、本発明に用いることができる微生物を見い出すことができる。
本発明のL−グリセリン酸の製造方法に特に好ましく用いることができるディエジア・エスピー(Dietzia sp.)KSM−TB427株(受託番号 FERM P−21848)の菌学的性質は、以下の通りである。
(a)培養的性質
1.DifcoTM Marine Agar 2216培地 (BD社製):25℃、3日間で良好に生育
2.グリセリンを10%含有するLB−人工海水寒天培地(1.25% LB培地「ダイゴ」(日本製薬)、10% グリセリン、3.6% 人工海水、1.5% 寒天、pH9)における生育:25℃、6日間で良好に生育
3.10%グリセリンを含むMA寒天培地(10% グリセリン、3.5% DifcoTM Marine Broth 2216培地 (BD社製)、1.5% 寒天、pH9)における生育:25℃、6日間で良好に生育
(b)形態的性質
DifcoTM Marine Agar 2216培地 (BD社製)における、25℃、72時間培養後のコロニー形態を示す。
1.直径:1.0mm
2.色調:オレンジ色
3.形状:円形
4.隆起状態:レンズ状
5.周縁:全縁
6.表面形状:スムーズ
7.透明度:不透明
8.粘稠度:バター様
(c)生理学的性質
1.生育温度試験
37℃ 生育する
45℃ 生育せず
2.カタラーゼ反応:陽性
3.オキシダーゼ反応:陰性
4.嫌気状態での生育:陰性
5.グルコースからの酸/ガス産生
酸産生:陰性
ガス産生:陰性
6.O/Fテスト
酸化:陰性
醗酵:陰性
7.生化学試験
硝酸塩還元 :陰性
ピラジンアミダーゼ :陰性
ピロリドニルアリルアミダーゼ :陰性
アルカリフォスフォターゼ :陽性
β−グルクロニダーゼ :陰性
β−ガラクトシダーゼ :陰性
α−グルコシダーゼ :陽性
N−アセチル−β−グルコサミニダーゼ:陰性
エスクリン(β−グルコシダーゼ) :陰性
ウレアーゼ :陰性
ゼラチン加水分解 :陰性
カタラーゼ :陽性
8.醗酵性試験
グルコース :陰性
リボース :陰性
キシロース :陰性
マンニトール :陰性
マルトース :陰性
乳糖 :陰性
白糖 :陰性
グリコーゲン :陰性
9.資化試験
グリセロール :陰性
エリスリトール :陰性
D−アラビノース :陰性
L−アラビノース :陰性
リボース :陰性
D−キシロース :陰性
L−キシロース :陰性
アドニトール :陰性
β−メチルD−キシロシド :陰性
ガラクトース :陽性
グルコース :陽性
フラクトース :陽性
マンノース :陽性
ソルボース :陰性
ラムノース :陽性
ズルシトール :陰性
イノシトール :陰性
マンニトール :陽性
ソルビトール :陰性
α−メチル−D−マンノシド :陰性
α−メチル−D−グルコシド :陰性
N−アセチルグルコサミン :陰性
アミグダリン :陰性
アルブチン :陰性
エスクリン :陰性
サリシン :陰性
セロビオース :陰性
マルトース :陰性
ラクトース :陰性
メリビオース :陰性
サッカロース :陰性
トレハロース :陰性
イヌリン :陽性
メレチトース :陰性
ラフィノース :陰性
でんぷん :陰性
グリコーゲン :陽性
キシリトール :陰性
ゲンチオビオース :陰性
D−ツラノース :陰性
D−リキソース :陰性
D−タガトース :陰性
D−フコース :陰性
L−フコース :陰性
D−アラビトール :陰性
L−アラビトール :陰性
グルコネート :陰性
2−ケトグルコネート :陰性
5−ケトグルコネート :陰性
10.最適生育温度範囲:25〜30℃
11.最適生育pH範囲:7〜9
12.生育可能上限温度:37℃
13.生育可能pH範囲:5〜9
(d)化学分類学的性質
ディエジア・エスピーKSM−TB427株の16S rRNAをコードする塩基配列は、ディエジア・マリス(Dietzia maris)DSM43672株の16S rRNAをコードする塩基配列との間で99.8%、ディエジア・シマエ(Dietzia schimae)YIM65001株の16S rRNAをコードする塩基配列との間で99.7%の同一性を有する。
(e)その他の特徴
上記に示した性質は、ディエジア・エスピーKSM−TB427株が、ディエジア・マリス及びディエジア・シマエの性状に類似するディエジア属細菌であることを支持するが、これらの性質と完全に一致する菌種はディエジア属の中に見当たらないことから、ディエジア・エスピーであると同定される。
本発明のL−グリセリン酸の製造方法において、ディエジア属に属し、16S rRNA遺伝子が、ディエジア・エスピーKSM−TB427株の16S rRNAをコードする塩基配列(配列番号1)と16S rRNAをコードする塩基配列に基づく分子系統学上同等の塩基配列を含むと共に前記の菌学的性質を示し、グリセリン酸への変換可能な炭素源からのL−グリセリン酸生産能を有する微生物を用いることができる。
分子系統樹に基づいて生物や遺伝子の進化を研究する手法は、分子系統学として確立されている(例えば、木村資生編分子進化学入門(培風館)第164〜184頁、「7分子系統樹の作り方とその評価」参照)。16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づく分子系統樹は、対象の微生物の16S rRNA遺伝子の塩基配列を、菌学的性質から同微生物と同種又は類縁と推定される公知の微生物の16S rRNA遺伝子の塩基配列とともに、多重アラインメント及び進化距離の計算を行い、得られた値に基づいて系統樹を作成することにより、得ることができる。分子系統樹の作成に用いる公知の微生物の16S rRNA遺伝子の塩基配列は、既存のデータベースの同一性検索によっても、取得することができる。ここで、進化距離とは、ある遺伝子間の座位(配列の長さ)あたりの変異の総数をいう。
本発明において「分子系統学上同等」とは、前記分子系統樹において同属と認められる微生物を指すが、その中でも、16S rRNA遺伝子の塩基配列の同一性(identity)が97%以上であればより類縁であり、99%以上であれば同一種である可能性が高いと認められる。ここで、塩基配列の同一性とは、比較する2つの塩基配列を必要に応じて間隙を導入して整列(アラインメント)させ、得られる最大の塩基配列の同一性(%)をいう。塩基配列の同一性を決定する目的のためのアラインメントは、通常の方法を用いて行うことができ、例えばBLASTのような公に入手可能なコンピュータソフトウエアや、DNASIS Pro(日立ソフトウェアエンジニアリング(株))並びにGENETYX((株)ゼネティックス)等の市販のソフトウェアを使用することもできる。
上記のようなディエジア属に属する微生物を、グリセリン酸への変換可能な炭素源を含む培地に好気的条件下で培養することにより、同培地中にL−グリセリン酸を生成させることができる。ディエジア属に属する微生物は単独で使用することができるが、任意の1種又は2種以上の微生物を同時に使用してもよい。
本発明において、培地は、通常液体培地が用いられる。このような培地の具体例として、LB培地(2.5%グリセリン、1.8%ダイゴ人工海水(日本製薬)、1.25%LB培地「ダイゴ」(日本製薬)、pH9)等が挙げられる。培地に含まれるグリセリン酸への変換可能な炭素源としては、ディエジア属に属する微生物を好気的に培養したときにL−グリセリン酸に変換されるものであれば特に制限されず、グリセリン、グルコース、フルクトース、マンニトール等が挙げられ、グリセリンが好ましい。これらのグリセリン酸への変換可能な炭素源は、市販品を購入することや、当業者に周知の方法で合成することで入手することができる。また、グリセリン酸への変換可能な炭素源としては、前記化合物を所定量含んでいるものであればよい。
また、グリセリン酸への変換可能な炭素源としてグリセリンを用いる場合においては、バイオ燃料の製造時に生じる副産物であるグリセリンを用いることもできる。副産物であるグリセリンをグリセリン酸への変換可能な炭素源とするときは、余剰物質処理にかかるエネルギー低減、廃棄による環境汚染の低減といった副次的な効果もあり、本発明の製造方法の実施が環境負荷の低減につながる。更に、これらの副産物は安価に購入できるので、コストの面でも大きなメリットがある。副産物は、グリセリン酸への変換可能な炭素源としてそのまま用いてもよく、当業者に周知の方法によりグリセリン酸への変換可能な炭素源を分離、精製して用いてもよい。
培地中に含まれるグリセリン酸への変換可能な炭素源の濃度は、L−グリセリン酸を産生することができれば特に制限はないが、2.5〜10g/dlの濃度であることが望ましい。グリセリン酸への変換可能な炭素源は段階的に培地中に追添してもよい。
さらに、必要に応じて微生物の生育に必要な炭素源、窒素源、無機塩類、各種の有機物、無機物、界面活性剤あるいは通常用いられる消泡剤などを培地中に添加することができる。これらの培地成分は、必要に応じて培地中に追添してもよい。
ディエジア属に属するL−グリセリン酸生産菌の培地へ接種は、例えば、生理食塩水に懸濁したディエジア属に属するL−グリセリン酸生産菌を生産培地に直接摂取する方法や、生産培地にディエジア属に属するL−グリセリン酸生産菌を1白金耳直接接種することにより行うことができる。
本培養の培養温度は、ディエジア属に属するL−グリセリン酸生産菌が生育しうる範囲内、即ち通常10〜45℃で行われるが、好ましくは25〜30℃の範囲である。また、培地のpHは通常5〜9、好ましくは7〜9の範囲で調節される。培養期間は使用する培地の種類及び炭素源の濃度により異なり、通常24時間から14日間程度である。本発明における培養は、グリセリン酸への変換可能な成分が最大限に利用され、かつ培地中に生成するL−グリセリン酸の蓄積量が最大に達した時点で培養を終了させることが好ましい。
なお、培養液中のL−グリセリン酸の生成量は高速液体クロマトグラフィー、LC−MSなどの通常の方法を用いて速やかに測定することができる。本発明により得られたL−グリセリン酸は、当該分野において通常使用されている周知の手段、例えばろ過、遠心分離、真空濃縮、イオン交換又は吸着クロマトグラフィー、溶媒抽出、蒸留、結晶化などの操作を必要に応じて適宜組み合わせて用いることにより、培養液中から採取できるが、これらの方法に特に制限されることはない。
本発明の製造方法により、L−グリセリン酸を微生物により製造することができる。
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
試験例1
(1)菌株の取得
0.85%(w/v)食塩水5mLに土壌(東京湾の土壌)を適量加え、撹拌し、静置後、pH9に調整した10%(w/v) グリセリン(和光純薬工業)、1.25%(w/v) LB培地「ダイゴ」 (日本製薬)、1.5%(w/v) 寒天(和光純薬工業)からなる寒天培地に適量塗抹し、25℃にて6〜10日間培養した。生育してきた菌株をモノコロニー化し、KSM−TB427株を取得した。
(2)菌株の同定
形態観察並びにBARROWらの方法(G.I.BARROW and R.K.A.FELTHAM: Cowan and Steel’s Manual for the Identification of Medical Bacteria,3rd edition,1993,Cambridge University Press参照)に基づきカタラーゼ反応、オキシダーゼ反応試験を行った。その結果、KSM−TB427株が運動性を有さないグラム陽性菌で、胞子を形成しない桿菌(0.7−0.8×1.5−2.0μm)で、嫌気条件下で生育せず、37℃で生育するが45℃では生育しないこと、MB2216寒天培地上でオレンジ色のコロニーを形成し、グルコースを酸化せず、カタラーゼ反応に対し陽性を示し、オキシダーゼ反応に対し陰性を示すことがわかった。
APICORYNE(bioMerieux, Lyon, France)を用いて、生化学試験、醗酵性試験、資化性試験などの各試験を行ったところ、硝酸塩を還元せず、アルカリフォスファターゼ及びグルコシダーゼ活性を示し、ウレアーゼ活性を示さず、各糖を酸化せず、ガラクトース、グルコース及びフラクトースを資化し、L−アラビノース、アドニトール及びエスクリンなどを資化しない性質を示した。
生理・生化学試験の結果からは、ディエジア・エスピーKSM−TB427株が、ディエジア・マリス及びディエジア・シマエの性状に類似性があるものの、硝酸塩を還元しない、グリコーゲン、イヌリン及びL−ラムノースを資化する点で異なっておりディエジア属細菌であることを支持するが、一致した属種は認められなかった。
KSM−TB427株の染色体DNAを鋳型とし、配列番号2の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号3からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて、常法に従いPCRを行い(中川恭好、川崎浩子:遺伝子解析法 16S rRNA遺伝子の塩基配列決定法、日本放線菌学会編 放線菌の分類と同定 88−117pp、日本化学会事務センター、2001)、16S rRNAをコードする領域を増幅させた。得られた増幅断片の塩基配列を解読し、16S rRNAの部分配列(配列番号1:1477塩基)を決定した。
解読した配列と同一性のある配列をBLAST検索したところ、ディエジア・マリス(Dietzia maris)DSM43672株の16S rRNAとの間で99.8%、ディエジア・シマエ(Dietzia schimae)YIM65001株の16S rRNAとの間で99.7%、の高い同一性を有していた。そのため、KSM−TB427株は、ディエジア・マリス又はディエジア・シマエに帰属する可能性も考えられるが、それぞれ3塩基及び4塩基の相違点が認められる。
以上の結果から、KSM−TB427株がディエジア属に属するディエジア・エスピーであると同定した。
試験例2 グリセリン酸の製造
LB培地(2.5%グリセリン、1.8%ダイゴ人工海水(日本製薬)、1.25%LB培地「ダイゴ」(日本製薬)、pH9)にディエジア・エスピーKSM−TB427株を1白金耳植菌し、5日間振盪培養(30℃、250rpm)した。培養液を遠心分離(12000rpm、20分)し、上清画分を分画した。
培養液上清中に含まれる化合物の分析は、有機酸分析用イオン排除型ポリマーカラムICSep ION−300(Transgenomic社製)を用い、日立LaChrom Elite装置(HITACHI社)にて行った。サンプルを溶離液(0.1%(v/v)ギ酸溶液)で適宜希釈し、流速0.4mL/min、溶離液0.1%(v/v)ギ酸、カラム温度50℃、サンプル注入量10μL、分析時間40minの条件にてHPLCを行い、CoronaTM CADTM荷電化粒子検出器(SEA社)及びUV検出器(HITACHI社)にて分析した。分析サンプルはいずれもDISMIC−13CP Cellulose Acetate 0.2μm(ADVANTEC社製)にてフィルター濾過処理して用いた。
その結果、LB培地には存在しない物質の特徴的なピーク(溶離時間18.7分)が認められた。比較用に、溶離時間が既知のD−グリセリン酸(0.02%(w/v))を同様の条件にてHPLC分析したところ、溶離時間が一致し、本ピークがグリセリン酸であることが確認された。
実施例 L−グリセリン酸の製造
LB培地(2.5%グリセリン、1.8%ダイゴ人工海水(日本製薬)、1.25%LB培地「ダイゴ」(日本製薬)、pH9)及び前記LB培地とグリセリンを含まないこと以外は同じ組成の培地にディエジア・エスピーKSM−TB427株を1白金耳植菌し、6日間振盪培養(30℃、250rpm)した。培養液を遠心分離(12000rpm、20分)し、上清画分を分画した。
培養液上清中に含まれる化合物の分析は、試験例2と同様に有機酸分析用イオン排除型ポリマーカラムICSep ION−300(Transgenomic社製)を用い、日立LaChrom Elite装置(HITACHI社)にて行った。
その結果、グリセリン酸のピーク(溶離時間18.7分)はLB培地にのみ認められ、グリセリンを抜いたLB培地には認められなかった。LB培地上清中のグリセリン酸生産量は、対照に用いたD−グリセリン酸のピーク面積から換算して1.8g/Lであった。
LB培地培養上清を、Sephadex LH−20(Pharmacia Biotech社)を用いて分画した。LH−20を10%メタノールで膨潤させた後、20mmΦ×1000mmカラム(山善社)に充填(950mm)した。DISMIC−13CP Cellulose Acetate 0.2μm(ADVANTEC社)にてフィルター濾過した培養上清1.5mLをカラムに供し、10%メタノール溶液で室温にて1mL/minの流速で溶出した。溶出液を5mL/試験管(16mmΦ×100mm)に分画した後、目的の化合物が含まれる画分を濃縮乾固し、ミリQ水(日本ミロポア社)に溶解して、光学純度測定用サンプルとした。
溶解したサンプルを硫酸銅濃度が2mMとなるように適宜希釈し、移動層である2mM硫酸銅溶液で安定化させたCHIRALPAK MA(+)カラム(ダイセル化学工業)を用い、流速0.5mL、カラム温度30℃、サンプル注入量10μL、分析時間20minの条件にてHPLCを行い、RI検出器及びUV(210nm)検出器にて分析した。対照として、3.2mMのD−グリセリン酸と、2.8mMのL−グリセリン酸についても同様に分析した。結果を図1(a)〜(c)に示す。
図1に示すように、KSM−TB427株の生産するグリセリン酸のピーク(UV検出器での溶離時間5.213分)は、試薬のL−グリセリン酸のピーク(UV検出器での溶離時間5.293分)と実質的に一致することが確認された。一方、D−グリセリン酸のピーク(UV検出器でのピークの溶離時間5.653分)とは一致しなかった。
以上の結果より、ディエジア・エスピーKSM−TB427株は、L−グリセリン酸生産能を有し、ティエジア属に属するL−グリセリン酸生産菌を用いた本発明の製造方法により、グリセリンからL−グリセリン酸を効率的に製造できることがわかった。

Claims (8)

  1. ディエジア(Dietzia)属に属するL−グリセリン酸生産菌を、グリセリン酸への変換可能な炭素源を含む培地で培養し、培地中にL−グリセリン酸を生成させることを特徴とするL−グリセリン酸の製造方法。
  2. 前記グリセリン酸への変換可能な炭素源がグリセリンであることを特徴とする請求項1記載のL−グリセリン酸の製造方法。
  3. 前記L−グリセリン酸生産菌が、配列番号1に示す塩基配列、又は配列番号1に示す塩基配列と16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づく分子系統学上同等の塩基配列、を含む16S rRNA遺伝子を有し、下記の菌学的性質を示し、グリセリン酸への変換可能な炭素源からのL−グリセリン酸生産能を有する微生物である請求項1又は2記載のL−グリセリン酸の製造方法。
    (1)グラム染色性 陽性
    (2)菌の形状 桿形
    (3)酸素に対する態度 好気性
    (4)運動性 有せず
    (5)グルコースの酸化 陰性
    (6)カタラーゼ反応 陽性
    (7)オキシダーゼ反応 陰性
  4. 前記L−グリセリン酸生産菌がディエジア・エスピー(Dietzia sp.)KSM−TB427株(FERM P−21848)である請求項1〜3のいずれか記載のL−グリセリン酸の製造方法。
  5. ディエジア(Dietzia)属に属し、グリセリン酸への変換可能な炭素源からのL−グリセリン酸生産能を有する微生物。
  6. 前記グリセリン酸への変換可能な炭素源がグリセリンであることを特徴とする請求項5記載の微生物。
  7. 配列番号1に示す塩基配列、又は配列番号1に示す塩基配列と16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づく分子系統学上同等の塩基配列、を含む16S rRNA遺伝子を有し、下記の菌学的性質を示すことを特徴とする請求項5又は6記載の微生物。
    (1)グラム染色性 陽性
    (2)菌の形状 桿形
    (3)酸素に対する態度 好気性
    (4)運動性 有せず
    (5)グルコースの酸化 陰性
    (6)カタラーゼ反応 陽性
    (7)オキシダーゼ反応 陰性
  8. ディエジア・エスピー(Dietzia sp.)KSM−TB427株(FERM P−21848)である請求項5〜7のいずれか記載の微生物。
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