JP2011223889A - アルコールの製造方法 - Google Patents

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伸宇 藤枝
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Abstract

【課題】生体外の反応系において、生体触媒などを用いた温和な条件下での反応を行うことより、カルボン酸塩、カルボン酸またはこれらの混合物をエタノール等のアルコールに変換することのできる、高効率かつ高収率のアルコールの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、カルボン酸塩、カルボン酸またはこれらの混合物を、アルデヒド酸化還元酵素および還元剤の存在下でアルデヒドに還元するカルボン酸還元反応、および、該アルデヒドを、アルコール脱水素酵素の存在下でアルコールに還元するアルデヒド還元反応を行うことを特徴とするアルコールの製造方法である。
【選択図】なし

Description

本発明は、バイオマス資源等に由来する糖類からエタノール等のアルコールを製造する方法に関する。
従来、木材などのバイオマスから、生体触媒を基本とした発酵によりエタノールを生産する方法が知られている。その生産方法は主に2段階に分けられ、バイオマスの糖化と発酵、そして発酵物質の変換である。前者ではいかに目的の発酵物質の純度を上げるかが焦点となり、後者ではどのように変換のエネルギーロスを減らすかが焦点となる。現在まで、糖類からエタノールへの変換を取り上げた公知技術は多いが、発酵産物の主成分でもある酢酸からエタノールへの変換を取り上げた公知技術は少ない。
酢酸をエタノールへ変換する方法の一例として、特許文献1には、(a)炭水化物源からなる媒質を酢酸塩、酢酸、又はこれらの混合物に発酵させるステップと、(b)上記酢酸塩、酢酸、又はこれらの混合物をエタノールに化学的に変換させるステップとを有する、高収率のエタノールの生産方法が開示されている。すなわち、特許文献1には、発酵、変換の2段階の工程が開示され、発酵の工程では、乳酸菌およびクロストリジウム属の菌等の酢酸生成菌によるホモ型酢酸発酵を行うことで、炭水化物源から酢酸塩、酢酸、又はこれらの混合物が生成される。そして、変換の工程では、この生成した酢酸等をエステル化および水素化反応を使用してエタノールに変換する。
しかし、酢酸エステルをエタノールに変換する水素化反応は、無機触媒を用いて150〜250°Cかつ500〜3000psiという高温高圧下で行われ、また、還元剤として天然ガスの水蒸気改質から得られる水素を用いているため、変換過程におけるエネルギーロスが大きい。
一方、特許文献2には、原料としてアルデヒドを使用し、生体内での酵素と補酵素再生成系の利用により、アルデヒドをエタノールに変換する方法が開示されている。特許文献2の方法は、生体内での反応を利用したものであり、ニコチンアミドヌクレオチドなどの特殊な生体分子が還元剤として使用されるため、非常にエネルギー効率が高い。しかし、アルデヒドからエタノールへの変換方法しか開示しておらず、酢酸をエタノールに変換するための方法は開示されていない。また、生体内での反応を利用するために、生体の生育速度に依存することや生体の培養や代謝を調整するための複雑な装置が必要であるといった問題があった。
特表2002−537848号公報 特開2004−344107号公報
本発明は上記の事情に鑑み、生体外の反応系において、生体触媒などを用いた温和な条件下での反応を行うことより、カルボン酸塩、カルボン酸またはこれらの混合物をエタノール等のアルコールに変換することのできる、高効率かつ高収率のアルコールの製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、カルボン酸塩、カルボン酸またはこれらの混合物を、アルデヒド酸化還元酵素および還元剤の存在下でアルデヒドに還元するカルボン酸還元反応、および、
該アルデヒドを、アルコール脱水素酵素の存在下でアルコールに還元するアルデヒド還元反応を行うことを特徴とするアルコールの製造方法である。
上記カルボン酸塩は酢酸塩であり、上記カルボン酸は酢酸であり、上記アルデヒドはアセトアルデヒドであり、上記アルコールはエタノールであることが好ましい。
上記カルボン酸還元反応および上記アルデヒド還元反応は、同一工程で行われることが好ましい。
上記アルデヒド還元反応においては、還元剤が使用されないことが好ましい。
上記還元剤の酸化還元電位は、−0.5V以下であることが好ましい。
上記アルデヒド酸化還元酵素および/または上記アルコール脱水素酵素は、耐熱性酵素であることが好ましい。
本発明においては、生体触媒などを用いた温和な条件下での反応を用いて、酢酸をエタノールに変換することができるため、高効率かつ高収率のエタノールの製造方法が提供される。
本発明の製造方法においては、カルボン酸還元反応(カルボン酸がアルデヒドに還元される反応)およびアルデヒド還元反応(アルデヒドがエタノールに還元される反応)の2つの反応を用いて、エタノールが製造される。
上記カルボン酸還元反応においては、原料となるカルボン酸塩、カルボン酸またはこれらの混合物が、アルデヒド酸化還元酵素(以下、AORと略すことがある。)の存在下で直接的にアルデヒドに還元される。カルボン酸還元反応の触媒としてアルデヒド酸化還元酵素を用いることで、酢酸からアセトアルデヒドへの直接の変換が可能であり、反応系の簡略化が可能となる。なお、この場合のアルデヒド酸化還元酵素は、還元酵素としての触媒活性を有するものである。
このようにAORを触媒とする酢酸還元反応を用いたエタノールの製造方法として、例えば、酢酸をエタノールに変換する反応としては、以下に示す酢酸還元反応(反応式(1))およびアルデヒド還元反応(反応式(2))を組み合わせた全反応(反応式(3))により、エタノールを製造することも考えられる。
酢酸還元反応:CH3COOH+Ared→CH2CHO+H2O+Aox (1)
アルデヒド還元反応:CH2CHO+Ared→CH3CH2OH+Aox (2)
全反応:CH3COOH+2Ared→CH3CH2OH+H2O+2Aox (3)
(式中、Aは電子供与・受容体を示す。)
上記の酸化還元反応(反応式(1))、アルデヒド還元反応(反応式(2))の反応触媒として、それぞれ、AOR、アルコール脱水素酵素(以下、ADHと略すことがある。)が利用される。
AORは、例えば、還元剤(Ared)としてメチルビオローゲンを用いた場合、pH6.0程度の緩衝液中において、上記反応式(1)の反応を可逆的に触媒することが知られている(Heider et al. J. Bacteriology, 1995, 177, p.4757)。また、ADHは、アルコールの脱水素反応を触媒する酵素であるが、例えば、NADH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を還元剤として用いた場合、上記反応式(2)の反応を可逆的に触媒することが知られている(Hirakawa, H. et al., J. Bioscience. & Bioengineering., 2004, 97, p.202)。そのため、酢酸還元反応およびアルデヒド還元反応の各々において、2種類の還元剤を使い分けることで、酢酸をエタノールに変換する上記化学式(3)に示す全反応が可能になると考えられる。
一般に、AORは、比較的多くの種類の還元剤について、上記反応式(1)の反応を触媒することができる。これに対して、ADHは、NADH等の限られた還元剤についての反応しか触媒することができない。そして、NADHは複雑な構造を持つ化合物であり、調整が容易ではない。したがって、ADHを触媒とし、還元剤を用いてアルデヒドをエタノールに還元する反応(上記反応式(2))によって、エタノールを製造する方法は、実用化においての問題が予測される。
そこで、本発明においては、アルデヒド還元反応において、NADHを必要としない下記反応式(2’)に示す不均化反応(Cannizzaro反応:Cannizzaro, S. Reaction, Ann. 1853, 88, p.129参照)を利用することを考えた。
アルデヒド還元反応:2CH2CHO→CH3CH2OH+CH3COOH (2’)
上記反応式(2’)に示す反応は、アルデヒドからエタノールを生成するのに還元剤を必要としない。
ADHは、本来のアルコールの脱水素反応や、上記反応式(2)に示されるような還元反応を触媒することが知られているが、さらに、ある条件下で、この反応式(2’)で示される不均化反応(カニッツァロ反応)を触媒する活性(ジスムターゼ活性)を有することが報告されている(Dalziel, K. et al., Nature, 1965, 206, p.255)。本発明の方法は、アルデヒド還元反応において、このADHのジスムターゼ活性を利用するものである。
なお、このジスムターゼ活性は、pHが中性の条件下において高い傾向があることが報告されているため、上記不均化反応(アルデヒド還元反応)は、中性の条件下で反応が進行するカルボン酸還元反応と、同一工程(同一反応系)において進行させることが可能である。例えば、本発明においては、カルボン酸還元反応とアルデヒド還元反応とを同じ反応層中で同時に進行させることができる。
(カルボン酸還元反応)
本発明において、カルボン酸還元反応の原料となる、カルボン酸塩、カルボン酸またはこれらの混合物は、特に限定されないが、例えば、炭水化物源を原料とした発酵などによって得られた生成物である。カルボン酸塩としては、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、ギ酸塩などが挙げられ。好ましくは酢酸塩である。また、カルボン酸塩としては、カルボン酸のリン酸塩、アンモニウム塩、アルカリ金属塩などが挙げられ、好ましくはリン酸塩である。カルボン酸としては、酢酸、ギ酸、プロピオン酸などが挙げられ、好ましくは酢酸である。
カルボン酸還元反応で用いられるアルデヒド酸化還元酵素(AOR)としては、特に限定されないが、ギ酸酸化還元酵素などを用いることができ、好適にはカルボン酸還元酵素を用いることができる。また、アルデヒド酸化還元酵素として耐熱性酵素を用いることが好ましい。耐熱性酵素は熱的に非常に安定な触媒であり、耐熱性酵素を用いた装置は長期保存が可能となるといった利点がある。
アルデヒド酸化還元酵素は大腸菌等で発現しない酵素であって、酸素に弱いこともあり、一般ルートでの入手が困難であるが、嫌気性超好熱始原菌などをホストとして発現させることにより調製することができる。嫌気性超好熱始原菌としては、例えば、Thermococcus Kodakaraensis、 Pyrococcus Furiosus、Archaeoglobus fulgidus、Thermotoga maritimaなどが挙げられる。
カルボン酸還元反応では、通常、カルボン酸塩、カルボン酸またはこれらの混合物を還元するための適当な還元剤が用いられる。還元剤としては、特に限定されないが、例えば、還元剤としては、種々公知の還元剤を用いることができるが、例えば、メチルビオローゲン、ベンジルビオローゲン、ジチオナイト、硫化水素、ヒドロキシルアミンなどを用いることができる。好適には、メチルビオローゲン、ベンジルビオローゲンを単独で用いるか、あるいは、メチルビオローゲンに加えてジチオナイトまたは硫化水素を併用することができる。また、還元剤の酸化還元電位は、−0.5V以下であることが好ましい。酸化還元電位が−0.5Vより高い還元剤を用いた場合、還元反応の効率が下がる傾向がみられるからである。
カルボン酸還元反応は、室温程度以上100℃以下の温度で行われることが好ましく、さらに好ましくは70〜90℃の温度で行われる。系の蒸発を防ぐための特殊な装置を省くためである。また、カルボン酸還元反応のpH条件は、特に限定されないが、好ましくは、pH5〜7である。特に、カルボン酸還元反応とアルデヒド還元反応を同一工程で行う場合は、アルデヒド還元反応のpH条件と共通の条件となるため、アルコール脱水素酵素がジスムターゼ活性を有するpH条件と同じであることが好ましい。
(アルデヒド還元反応)
次のアルデヒド還元反応において原料となるアルデヒドは、特に限定されないが、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、プロピオアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンジルアルデヒドなどが挙げられる。アルデヒドの酒類は、上記のカルボン酸塩、カルボン酸またはこれらの混合物の種類によって決定され、カルボン酸塩として酢酸塩、カルボン酸として酢酸を用いた場合は、アセトアルデヒドとなる。
アルデヒド還元反応で用いられるアルコール脱水素酵素としては、特に限定されないが、市販品のアルコール脱水素酵素(Sigma−Aldrich社製、和光純薬工業社製)などを用いることができ、好適にはホルムアルデヒドジスムターゼを用いることができる。また、アルコール脱水素酵素として耐熱性酵素を用いることが好ましい。耐熱性酵素は熱的に非常に安定な触媒であり、耐熱性酵素を用いた装置は長期保存が可能となるといった利点がある。
アルデヒド還元反応においては、還元剤を使用しないことが好ましい。還元剤を用いる場合は、NADH等のように複雑な構造を持ち調製が困難な還元剤が必要となるからである。還元剤を使用しないアルデヒド還元反応としては、例えば、上記反応式(2’)で示されるような不均化反応が挙げられる。アルデヒド還元反応において還元剤を必要としない場合、カルボン酸還元反応とアルデヒド還元反応とを同一工程中で同時進行させことが、比較的容易になる。
アルデヒド還元反応は、アルコール脱水素酵素がジスムターゼ活性を有するような条件下で行われることが好ましい。そのような条件としては、例えばpH6〜8の条件が挙げられる。pHが6〜8の範囲において、アルデヒド還元反応に用いられるアルコール脱水素酵素がジスムターゼ活性を有し、ジスムターゼ活性を利用することで、生体由来のNADH等の特殊かつ高価な還元剤を再生する系が不要となり、細胞外で複合酵素系が構築できるため、装置の小型化が図れるといった利点がある。また、反応温度は、100℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは70〜90℃である。水系の反応において簡便な装置で可能となる最も高い温度となるためである。
上記カルボン酸還元反応および上記アルデヒド還元反応が同一工程で行われることが好ましい。この場合、上述のように、アルデヒド還元反応が還元剤を必要としない反応であることが好ましい。
以上の反応により得られるアルコールとしては、エタノール、メタノール、プロパノールなどが挙げられる。得られるアルコールの種類は、原料として用いられるカルボン酸塩、カルボン酸またはこれらの混合物の種類によって決定され、カルボン酸塩として酢酸塩、カルボン酸として酢酸を用いた場合は、エタノールとなる。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
(アルデヒド酸化還元酵素の調製)
酢酸還元反応に用いるアルデヒド酸化還元酵素の調製は以下のようにして行った。
(1) 嫌気性超好熱始原菌を用いたアルデヒド酸化還元酵素(AOR)大量発現株の作製
アルデヒド酸化還元酵素として、至適成育温度90℃の超好熱菌であるAeropyrum pernix由来のアルデヒド酸化還元酵素(以下、Ap−AORと略す。)の大量発現株の作製を行った。Ap−AORは、大腸菌をホストとして発現させることができない(不溶化する)。また、Ap−AORの酸化還元反応には、補酵素としてモリブトプテリンが必要であるが、モリブドプテリンは一般的に好気条件では分解されやすい。そこで、嫌気性の超好熱始原菌であるThermocuccus kodakaraensisをホストとして用いた。具体的には、Thermocuccus kodakaraensisにAp−AORをコードする遺伝子を挿入したシャトルベクターを形質転換し、相同的組み換えを利用することでAp−AORをコードする遺伝子をThermocuccus kodakaraensisのゲノムDNAに挿入することにより、Ap−AOR大量発現株を得た。
(2) アルデヒド酸化還元酵素の発現
上記のようにして得られた発現株を、人工海水塩、タングステン(W)、モリブデン(Mo)を添加したピルビン酸含有(Pyr)YT培地で培養し、Ap−AORを発現させた。培養条件は、85℃、嫌気下として、24時間の培養を行った。
(3) アルデヒド酸化還元酵素の精製
2Lの培養液から菌体を回収し、pH7.2の20mMリン酸バッファで懸濁し、超音波破砕後、16,000gで遠心分離し、上清を回収した。回収した上清に、タカラバイオ株式会社製のBenzonaze(登録商標)を10Unit加え、37℃で1時間放置した。さらに、Protamineを1mM加え、氷上で30min加熱し、16,000gで遠心分離後、上清を回収した。回収された上清から、Ni−セファロース担体を用いてアルデヒド酸化還元酵素を回収した。
(カルボン酸還元反応)
上記のようにして発現、精製されたアルデヒド酸化還元酵素を1mg/mLの濃度で含み、濃度50mMの酢酸および還元剤として濃度10mMのメチルビオローゲンを含有するクエン酸緩衝液中で反応させることによって、酢酸をアセトアルデヒドに還元した。反応温度は80℃、pHは5、反応時間は16hとした。
(アルデヒド還元反応)
アルコール脱水素酵素としては、アルコール脱水素酵素(Sigma−Aldrich製)を用いた。還元剤は使用せず、上記化学式(2’)の反応を行なわせることによりエタノールを製造した。反応温度は70℃、pHは7、反応時間は16hとした。
以上のようにしてエタノールの反応生成を行った。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

Claims (6)

  1. カルボン酸塩、カルボン酸またはこれらの混合物を、アルデヒド酸化還元酵素および還元剤の存在下でアルデヒドに還元するカルボン酸還元反応、および、
    該アルデヒドを、アルコール脱水素酵素の存在下でアルコールに還元するアルデヒド還元反応を行うことを特徴とするアルコールの製造方法。
  2. 前記カルボン酸塩が酢酸塩であり、前記カルボン酸が酢酸であり、前記アルデヒドがアセトアルデヒドであり、前記アルコールがエタノールである、請求項1に記載のアルコールの製造方法。
  3. 前記カルボン酸還元反応および前記アルデヒド還元反応が同一工程で行われる、請求項1または2に記載のアルコールの製造方法。
  4. 前記アルデヒド還元反応において還元剤を使用しない、請求項1に記載のアルコールの製造方法。
  5. 前記還元剤の酸化還元電位が−0.5V以下である、請求項1〜4のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
  6. 前記アルデヒド酸化還元酵素および/または前記アルコール脱水素酵素が耐熱性酵素である、請求項1〜5のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
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