JP2011218531A - 硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、(Cr,Al,Ti)Nからなる硬質被覆層が蒸着形成された表面被覆切削工具において、該硬質被覆層は、粒状晶(Cr,Al,Ti)Nからなる薄層Aと柱状晶(Cr,Al,Ti)Nからなる薄層Bの交互積層構造として構成され、薄層Aおよび薄層Bはそれぞれ0.05〜2μmの層厚を有し、さらに、上記粒状晶の結晶粒径は30nm以下、また、上記柱状晶の結晶粒径は50〜500nmである。
【選択図】 なし
Description
ところで、前記従来の被覆工具においては、形成される(Cr,Al,Ti)Nからなる硬質被覆層の結晶粒組織(粒径、形態)については特に注目されておらず、実際、前記特許文献1、特許文献2でも、結晶粒組織構造については何らの言及もなく、結晶粒組織構造と成膜条件(例えば、アークイオンプレーティング条件)との関連については何ら明らかにされていない。
加えて、上記粒状晶組織からなる薄層Aは耐摩耗性に優れ、柱状晶組織からなる薄層Bは耐チッピング性、耐欠損性に優れること、さらに、薄層Aと薄層Bは同一成分組成、同一結晶構造であるため各薄層間の密着強度も大であって層間剥離の生じる恐れもないことから、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる硬質被覆層は、切刃部に対して、高送り、高切り込みの断続的・衝撃的高負荷が作用する高硬度鋼の重断続切削においても、チッピング、欠損、剥離等を発生することなく、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮することを見出したのである。
「(1) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、0.8〜5.0μmの層厚のCrとAlとTiの複合窒化物からなる硬質被覆層が蒸着形成された表面被覆切削工具において、
該硬質被覆層は、CrとAlとTiの複合窒化物の粒状晶組織からなる薄層Aと柱状晶組織からなる薄層Bとの交互積層構造として構成され、薄層Aおよび薄層Bはそれぞれ0.05〜2μmの層厚を有し、さらに、上記薄層Aを構成する粒状晶の平均結晶粒径は30nm以下、また、上記薄層Bを構成する柱状晶の平均結晶粒径は50〜500nmであることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 上記CrとAlとTiの複合窒化物は、
組成式:(Cr1−X−YAlXTiY)N
で表した場合に、0.40≦X≦0.70、0.01≦Y≦0.3(但し、X、Yはいずれも原子比)を満足することを特徴とする前記(1)記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
(Cr,Al,Ti)N層からなる硬質被覆層は、Alの含有割合の増加によって、結晶構造が立方晶から六方晶へ変化し、皮膜硬さが低下するので、少なくとも所定の皮膜硬さを保持するためには、その結晶構造を立方晶とする必要があり、そのためには、硬質被覆層の組成を、
組成式:(Cr1−X−YAlXTiY)N
で表した場合に、Xが0.70以下(但し、Xは原子比)となるようにAlの含有割合を定めることが望ましい。ただ、Xが0.40未満になると、結晶構造は立方晶を維持したままではあるが、相対的なCr含有割合の増加により、(Cr,Al,Ti)N層自体の高温硬さが急激に低下し、最小限必要とされる耐摩耗性を確保することが困難になることから、硬質被覆層を構成する(Cr,Al,Ti)N層におけるCrとTiとの合量に占めるAlの含有割合X(原子比)は、0.40≦X≦0.70を満足することが望ましい。
また、上記組成式において、Tiの含有割合Yが0.01未満では、硬質被覆層の高温強度の向上を期待できず、一方、Tiの含有割合Yが0.3を超えると、相対的にCrの含有割合が低下し、CrとAlの共存による高温耐酸化性の向上効果が低下することから、CrとAlとの合量に占めるTiの含有割合Y(原子比)は、0.01≦Y≦0.3を満足することが望ましい。
薄層Aは、粒状晶組織の(Cr,Al,Ti)Nからなり、すぐれた皮膜硬さを有し硬質被覆層の耐摩耗性を向上させる。ただ、上記粒状晶組織の平均結晶粒径が30nmを超えると、皮膜の硬さ向上効果が少なくなることから、粒状晶組織の平均結晶粒径は30nm以下とする。
なお、この発明でいう「平均結晶粒径」とは、層厚方向に直交する面(言い換えれば、基体表面と平行な面)において、透過型電子顕微鏡(TEM)観察写真によって測定し算出される結晶粒径の平均値をいい、層厚方向に沿った結晶粒の長さはこの発明では「平均結晶粒径」とは呼ばない。
また、薄層Aの層厚は、0.05μm未満では耐摩耗性向上効果が少なく、一方、層厚が2μmを超えるようになると、切刃に断続的・衝撃的高負荷が作用する高硬度鋼の重断続切削で、チッピング、欠損を発生しやすくなるため、薄層Aの層厚は0.05〜2μmと定めた。
柱状晶組織の(Cr,Al,Ti)Nからなる薄層Bは、すぐれた高温強度、靭性を示すが、薄層Bを構成する柱状晶組織の(Cr,Al,Ti)Nの平均結晶粒径が500nmを超えると結晶粒の粗大化による耐摩耗性の低下がみられ、一方、平均結晶粒径が50nm未満では、耐チッピング性、耐欠損性向上効果がみられないことから、薄層Bを構成する柱状晶組織の(Cr,Al,Ti)Nの平均結晶粒径は50〜500nmと定めた。
また、薄層Bの層厚が0.05μm未満では、耐チッピング性、耐欠損性向上効果が少なく、一方、層厚が2μmを超えると耐摩耗性の低下が顕著になることから、薄層Bの層厚を0.05〜2μmと定めた。
薄層Aと薄層Bの交互積層からなるこの発明の硬質被覆層は、薄層Aが粒状晶組織、一方、薄層Bが柱状晶組織であって、その結晶粒形態が異なるものの、同一成分系、同一結晶構造(立方晶)の硬質被覆層として構成されているため、異成分系の薄層Aと薄層Bとの交互積層に比して、薄層Aと薄層B間の密着強度が大であり、硬質被覆層全体としての高温強度向上に寄与するばかりか、層間剥離等が生じる恐れもないため、高熱発生を伴い、しかも、切刃に高送り、高切り込みの断続的・衝撃的高負荷が作用する重断続切削においてもすぐれた耐チッピング性、耐欠損性、耐剥離性を発揮する。
ただ、薄層Aと薄層Bの交互積層からなる硬質被覆層の合計層厚が0.8μm未満では、自身のもつすぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮することができないため工具寿命短命化の原因となり、一方、その合計層厚が5.0μmを越えると、チッピング、欠損が発生し易くなるため、その合計層厚は0.8〜5.0μmと定めた。
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ一方のCr−Al−Ti合金からなるカソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
(c)ついで装置内に導入する反応ガスとしての窒素ガスの圧力を表3に示す如く5〜7Paの範囲内の条件に調整すると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に同じく表3に示す如く−100〜−300Vの範囲内の直流バイアス電圧を印加した状態で、前記Cr−Al−Ti合金のカソード電極とアノード電極との間に50〜100Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、前記工具基体の表面に所定層厚の粒状晶組織の(Cr,Al,Ti)N層からなる薄層Aを蒸着形成し、
(d)ついで、窒素ガスの圧力を表3に示す如く2〜4Paの範囲内の条件に調整すると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に同じく表3に示す如く−20〜−90Vの範囲内の直流バイアス電圧を印加した状態で、前記Cr−Al−Ti合金のカソード電極とアノード電極との間に50〜100Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、前記薄層Aの表面に所定層厚の柱状晶組織の(Cr,Al,Ti)N層からなる薄層Bを形成し、
(e)前記薄層Aの形成と薄層B形成を交互に繰り返し行い、もって前記工具基体の表面に、表4、表5に示す薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる所定組成、所定結晶粒組織および所定層厚の硬質被覆層を蒸着形成することにより、本発明表面被覆超硬製スローアウエイチップ(以下、本発明被覆超硬チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
被削材:JIS・SKD61の焼入れ材(HRC52)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 50 m/min.、
切り込み: 0.6 mm、
送り: 0.1 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件A)での合金鋼の乾式高切り込み断続切削加工試験(通常の切り込みは、0.15mm)、
被削材:JIS・SKD11の焼入れ材(HRC60)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 35 m/min.、
切り込み: 0.15 mm、
送り: 0.40 mm/rev.、
切削時間: 6 分、
の条件(切削条件B)での合金鋼の乾式高送り断続切削加工試験(通常の送りは、0.10mm/rev)、
被削材:JIS・SUJ2焼入れ材(HRC60)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 30 m/min.、
切り込み: 1.2 mm、
送り: 0.15 mm/rev.、
切削時間: 3 分、
の条件(切削条件C)での軸受鋼の乾式高切り込み断続切削加工試験(通常の切込みは、0.15mm)、
を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表8に示した。
本発明被覆超硬エンドミル1〜3および比較被覆超硬エンドミル1〜3については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・SKD61(焼入れ材(HRC52))の板材、
切削速度: 35 m/min.、
溝深さ(切り込み): 1.5 mm、
テーブル送り: 150 mm/分、
の条件での合金鋼の乾式溝切削加工試験(通常の切込みは、0.3mm)を行い、
本発明被覆超硬エンドミル4〜6および比較被覆超硬エンドミル4〜6については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・SKD11(焼入れ材(HRC60))の板材、
切削速度: 30 m/min.、
溝深さ(切り込み): 0.5 mm、
テーブル送り: 450 mm/分、
の条件での合金鋼の乾式溝切削加工試験(通常の送りは、150mm/分)を行い、
本発明被覆超硬エンドミル7、8および比較被覆超硬エンドミル7,8については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・SUJ2(焼入れ材(HRC60))の板材、
切削速度: 20 m/min.、
溝深さ(切り込み): 4 mm、
テーブル送り: 100 mm/分、
の条件での軸受鋼の乾式溝切削加工試験(通常の切込みは、1mm)を行い、
上記のいずれの溝切削加工試験でも、切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。
上記の測定結果を表10、表11にそれぞれ示した。
本発明被覆超硬ドリル1〜3および比較被覆超硬ドリル1〜3については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・SKD61(焼入れ材(HRC52))の板材、
切削速度: 20 m/min.、
送り: 0.30 mm/rev、
穴深さ: 8 mm、
の条件での合金鋼の湿式穴あけ切削加工試験(通常の送りは、0.15mm/rev)を行い、
本発明被覆超硬ドリル4〜6および比較被覆超硬ドリル4〜6については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・SKD11(焼入れ材(HRC60))の板材、
切削速度: 25 m/min.、
送り: 0.25 mm/rev、
穴深さ: 10 mm、
の条件での合金鋼の湿式穴あけ切削加工試験(通常の送りは、0.15mm/rev)を行い、
本発明被覆超硬ドリル7、8および比較被覆超硬ドリル7,8については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・SUJ2(焼入れ材(HRC60))の板材、
切削速度: 30 m/min.、
送り: 0.35 mm/rev、
穴深さ: 30 mm、
の条件での軸受鋼の湿式穴あけ切削加工試験(通常の送りは、0.2mm/rev)を行い、
上記いずれの湿式高速穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも、先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表12、表13にそれぞれ示した。
また、上記の各硬質被覆層の平均層厚を透過型電子顕微鏡により断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均値(5ヶ所の平均値)を示した。
Claims (2)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、0.8〜5.0μmの層厚のCrとAlとTiの複合窒化物からなる硬質被覆層が蒸着形成された表面被覆切削工具において、
該硬質被覆層は、CrとAlとTiの複合窒化物の粒状晶組織からなる薄層Aと柱状晶組織からなる薄層Bとの交互積層構造として構成され、薄層Aおよび薄層Bはそれぞれ0.05〜2μmの層厚を有し、さらに、上記薄層Aを構成する粒状晶の平均結晶粒径は30nm以下、また、上記薄層Bを構成する柱状晶の平均結晶粒径は50〜500nmであることを特徴とする表面被覆切削工具。 - 上記CrとAlとTiの複合窒化物は、
組成式:(Cr1−X−YAlXTiY)N
で表した場合に、0.40≦X≦0.70、0.01≦Y≦0.3(但し、X、Yはいずれも原子比)を満足することを特徴とする請求項1記載の表面被覆切削工具。
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