JP5454787B2 - 表面被覆切削工具 - Google Patents

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Description

本発明は、例えば、Ti合金、ステンレス鋼などの難削材を、高い発熱を伴う高送り切削条件下で切削加工を行なった場合でも、硬質被覆層がすぐれた高温硬さ、高温強度を備えることによって、チッピング、欠損、剥離等の発生を防止するとともに、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
一般に、表面被覆切削工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるスローアウエイチップ、前記被削材の穴あけ切削加工などに用いられるドリルやミニチュアドリル、さらに前記被削材の面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルなどがあり、また前記スローアウエイチップを着脱自在に取り付けて前記ソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うスローアウエイエンドミル工具などが知られている。
従来、表面被覆切削工具の一つとして、例えば、特許文献1に示されるように、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、TiとAlとVとを含んだ複合窒化物から構成される硬質被覆層を形成した被覆工具が知られている。
さらに、前記従来の被覆工具は、例えば、図1に概略説明図で示される物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング(AIP)装置に工具基体を装入し、装置内を加熱した状態で、硬質被覆層の組成に対応した組成を有する複数のカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間にアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、前記工具基体表面に、所望の成分組成を有する(Ti,Al,V)N層からなる硬質被覆層を蒸着することによって製造されることも知られている。
特開平3−120354号公報
近年の切削加工装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は高速化の傾向にあるが、前記従来の被覆工具においては、これを特に高熱発生を伴うとともに切刃部に高負荷が作用するTi合金、ステンレス鋼などの難削材の高送り切削条件で用いた場合には、硬質被覆層にチッピング、欠損、剥離等が発生しやすくなり、その結果、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者らは、前述のような観点から、硬質被覆層がすぐれた高温硬さ、高温強度、高温耐酸化性を備えるとともに、特にTi合金、ステンレス鋼などの難削材を、高い発熱を伴い、かつ、切刃部に高負荷が作用する高送り切削条件で切削加工を行なった場合にも、チッピング、欠損、剥離等を発生することなく長期の使用に亘って、すぐれた耐摩耗性を発揮する被覆工具を開発すべく、硬質被覆層を構成する(Ti,Al,V)N層の結晶粒組織構造に着目し、研究を行った結果、以下の知見を得た。
前記従来の被覆工具の硬質被覆層を構成する(Ti,Al,V)N層の構成成分であるTi成分には高温強度を向上させると共に、TiとAlが共存含有した状態で高温耐酸化性を向上させる作用があり、また、V成分は潤滑性を向上させる作用があり、そして、硬質被覆層は、これら各成分を含有することによって、所定の耐欠損性、耐酸化性、耐熱性および耐摩耗性等を発揮する。
ところで、前記従来の被覆工具においては、前記(Ti,Al,V)N層は、結晶質相とアモルファス相とで構成されているが、アークイオンプレーティング(AIP)装置で硬質被覆層を成膜するにあたり、蒸着条件として、例えば、装置内に導入する窒素ガスの圧力と、工具基体に印加するバイアス電圧を制御することによって、形成される(Ti,Al,V)N結晶粒の結晶粒組織(粒径、形態)を調整できることを本発明者らは見出した。
そして、前記の蒸着条件の制御によって、微細な粒径の(Ti,Al,V)N粒状晶組織からなる薄層Aと、相対的に大粒径の(Ti,Al,V)N柱状晶組織からなる薄層Bとの交互積層構造によって硬質被覆層を形成したところ、粒状晶組織からなる薄層Aは耐摩耗性に優れ、一方、柱状晶組織からなる薄層Bは耐チッピング性、耐欠損性に優れ、さらに、薄層Aと薄層Bは同一成分組成、同一結晶構造であるため各薄層間の密着強度も大であって層間剥離の生じる恐れもないことから、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる硬質被覆層は、高い発熱を伴うとともに切刃部に対して、高負荷が作用するTi合金、ステンレス鋼などの難削材の高送り切削においても、チッピング、欠損、剥離等を発生することなく、従来の被覆工具に比して、より一段とすぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮することを見出したのである。
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、
「(1)炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、0.8〜5.0μmの層厚のTiとAlとVの複合窒化物からなる硬質被覆層が蒸着形成された表面被覆切削工具において、
前記硬質被覆層は、TiとAlとVの複合窒化物の粒状晶組織からなる薄層Aと柱状晶組織からなる薄層Bとの交互積層構造として構成され、前記薄層Aおよび薄層Bはそれぞれ0.05〜2.0μmの層厚を有し、さらに、前記薄層Aを構成する粒状晶の平均結晶粒径は30nm以下、また、前記薄層Bを構成する柱状晶の平均結晶粒径は50〜500nmであることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記TiとAlとVの複合窒化物は、
組成式:(Ti1−X−YAl)N
で表した場合に、0.40≦X≦0.65、0.02≦Y≦0.3(但し、X、Yはいずれも原子比)を満足することを特徴とする(1)の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
つぎに、本発明の被覆工具の硬質被覆層に関し、より詳細に説明する。
(a)硬質被覆層の組成
(Ti,Al,V)N層からなる硬質被覆層は、Alの含有割合の増加によって、結晶構造が立方晶から六方晶へ変化し、皮膜硬さが低下するので、少なくとも所定の皮膜硬さを保持するためには、その結晶構造を立方晶とする必要があり、そのためには、硬質被覆層の組成を、
組成式:(Ti1−X−YAl)N
で表した場合に、Xが0.65以下(但し、Xは原子比)となるようにAlの含有割合を定めることが望ましい。ただ、Xが0.40未満になると、結晶構造は立方晶を維持したままではあるが、相対的なTi含有割合の増加により、(Ti,Al,V)N層自体の高温硬さが急激に低下し、高送り切削加工において最小限必要とされる耐摩耗性を確保することが困難になることから、硬質被覆層を構成する(Ti,Al,V)N層におけるTiとVとの合量に占めるAlの含有割合X(原子比)は、0.40≦X≦0.65を満足することが望ましい。
また、前記組成式において、Vの含有割合Yが0.02未満では、硬質被覆層の潤滑性向上効果は少なく、一方、Vの含有割合Yが0.3を超えると、相対的にTiの含有割合が低下し、高温強度が低下傾向を示すようになることから、TiとAlとの合量に占めるVの含有割合Y(原子比)は、0.02≦Y≦0.3を満足することが望ましい。
(b)薄層A
薄層Aは、粒状晶組織の(Ti,Al,V)Nからなり、すぐれた皮膜硬さを有し硬質被覆層の耐摩耗性を向上させる。ただ、前記粒状晶組織の平均結晶粒径が30nmを超えると、皮膜の硬さ向上効果が小さくなることから、粒状晶組織の平均結晶粒径は30nm以下とする。
なお、本発明でいう「平均結晶粒径」とは、層厚方向に直交する面(言い換えれば、基体表面と平行な面)において、透過型電子顕微鏡(TEM)観察写真によって測定し算出される結晶粒径の平均値をいい、層厚方向に沿った結晶粒の長さは本発明では「平均結晶粒径」とは呼ばない。
また、薄層Aの層厚は、0.05μm未満では耐摩耗性向上効果が少なく、一方、層厚が2μmを超えるようになると、切刃に高負荷が作用する高硬度鋼の高速切削で、チッピング、欠損を発生しやすくなるため、薄層Aの層厚は0.05〜2μmと定めた。
(c)薄層B
柱状晶組織の(Ti,Al,V)Nからなる薄層Bは、すぐれた高温強度、靭性を示すが、薄層Bを構成する柱状晶組織の(Ti,Al,V)Nの平均結晶粒径が500nmを超えると結晶粒の粗大化による耐摩耗性の低下がみられ、一方、平均結晶粒径が50nm未満では、耐チッピング性、耐欠損性向上効果がみられないことから、薄層Bを構成する柱状晶組織の(Ti,Al,V)Nの平均結晶粒径は50〜500nmと定めた。
また、薄層Bの層厚が0.05μm未満では、耐チッピング性、耐欠損性向上効果が少なく、一方、層厚が2μmを超えると耐摩耗性の低下が顕著になることから、薄層Bの層厚を0.05〜2μmと定めた。
(d)薄層Aと薄層Bの交互積層
薄層Aと薄層Bの交互積層からなる本発明の硬質被覆層は、薄層Aが粒状晶組織、一方、薄層Bが柱状晶組織であって、その結晶粒形態が異なるものの、同一成分系、同一結晶構造(立方晶)の硬質被覆層として構成されているため、異成分系の薄層Aと薄層Bとの交互積層に比して、薄層Aと薄層B間の密着強度が大であり、硬質被覆層全体としての高温強度向上に寄与するばかりか、層間剥離等が生じる恐れもないため、高熱発生を伴い、しかも、切刃に高負荷が作用する高送り切削においてもすぐれた耐剥離性を発揮する。
ただ、薄層Aと薄層Bの交互積層からなる硬質被覆層の合計層厚が0.8μm未満では、自身のもつすぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮することができないため工具寿命短命化の原因となり、一方、その合計層厚が5.0μmを越えると、チッピング、欠損が発生し易くなるため、その合計層厚は0.8〜5.0μmと定めた。
本発明の被覆工具は、硬質被覆層が、すぐれた皮膜硬さ、耐熱性を有する粒状晶組織の(Ti,Al,V)N層からなる薄層Aと、すぐれた高温強度、靭性、耐熱性を示す柱状晶組織の(Ti,Al,V)N層からなる薄層Bの交互積層構造として構成されているので、硬質被覆層全体としてすぐれた高温硬さ、高温強度、耐熱性を有しており、その結果、高熱発生を伴い、切刃に高負荷が作用するTi合金やステンレス鋼などの難削材の高送り切削においても、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐欠損性、耐剥離性を備えるとともに、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するものである。
表面被覆切削工具を構成する硬質被覆層を形成するのに用いたアークイオンプレーティング装置を示し、(a)は概略平面図、(b)は概略正面図である。
つぎに、本発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、TiN粉末、TaN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6Paの真空中、温度:1400℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.03のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A−1〜A−10を形成した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(重量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を2kPaの窒素雰囲気中、温度:1500℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.03のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体B−1〜B−6を形成した。
(a)ついで、前記工具基体A−1〜A−10およびB−1〜B−6のそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図1に示されるアークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着し、カソード電極(蒸発源)として、所定成分組成のTi−Al−V合金を、例えば、前記回転テーブルを挟んで対向配置し、
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、一方のCr−Al−V合金からなるカソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
(c)ついで装置内に導入する反応ガスとしての窒素ガスの圧力を表3に示す如く5〜7Paの範囲内の条件に調整すると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に同じく表3に示す如く−100〜−300Vの範囲内の直流バイアス電圧を印加した状態で、前記Ti−Al−V合金のカソード電極とアノード電極との間に50〜100Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、前記工具基体の表面に所定層厚の粒状晶組織の(Ti,Al,V)N層からなる薄層Aを蒸着形成し、
(d)ついで、窒素ガスの圧力を表3に示す如く2〜4Paの範囲内の条件に調整すると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に同じく表3に示す如く−20〜−90Vの範囲内の直流バイアス電圧を印加した状態で、前記Ti−Al−V合金のカソード電極とアノード電極との間に50〜100Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、前記薄層Aの表面に所定層厚の柱状晶組織の(Ti,Al,V)N層からなる薄層Bを形成し、
(e)前記薄層Aの形成と薄層B形成を交互に繰り返し行い、もって前記工具基体の表面に、表4、表5に示す薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる所定組成、所定結晶粒組織および所定層厚の硬質被覆層を蒸着形成することにより、本発明表面被覆超硬製スローアウエイチップ(以下、本発明被覆超硬チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、これら工具基体A−1〜A−10およびB−1〜B−6を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、それぞれ図1に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、カソード電極(蒸発源)として、所定組成のTi−Al−V合金を装着し、まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、カソード電極の前記Ti−Al−V合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、ついで装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して表3に示す圧力条件に調整すると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に同じく表3に示す直流バイアス電圧を印加した状態で、前記Ti−Al−V合金のカソード電極とアノード電極との間にアーク放電を発生させ、もって前記工具基体A−1〜A−10およびB−1〜B−6のそれぞれの表面に、表6、表7に示される組成、結晶粒組織および層厚の(Ti,Al,V)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより、比較表面被覆超硬製スローアウエイチップ(以下、比較被覆超硬チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
つぎに、前記の各種の被覆超硬チップを、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆超硬チップ1〜16および比較被覆超硬チップ1〜16について、
被削材:JIS・SUS304(HB180)の丸棒、
切削速度: 180 m/min.、
切り込み: 0.8 mm、
送り: 0.15 mm/rev.、
切削時間: 4 分、
の条件(切削条件A)でのステンレス鋼の乾式高速切削加工試験(通常の切削速度は、80m/min.)、
被削材:JIS・SU316(HB180)の丸棒、
切削速度: 150 m/min.、
切り込み: 1.2 mm、
送り: 0.20 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件B)でのステンレス鋼の乾式高速切削加工試験(通常の切削速度は、80m/min.)、
被削材:JIS・S15C(HB130)の丸棒、
切削速度: 200 m/min.、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.18 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件C)での炭素鋼の乾式高速切削加工試験(通常の切削速度は、100m/min.)を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表8に示した。
Figure 0005454787
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原料粉末として、平均粒径:5.5μmを有する中粗粒WC粉末、同0.8μmの微粒WC粉末、同1.3μmのTaC粉末、同1.2μmのNbC粉末、同1.2μmのZrC粉末、同2.3μmのCr32粉末、同1.5μmのVC粉末、同1.0μmの(Ti,W)C[質量比で、TiC/WC=50/50]粉末、および同1.8μmのCo粉末を用意し、これら原料粉末をそれぞれ表9に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の各種の圧粉体にプレス成形し、これらの圧粉体を、6Paの真空雰囲気中、7℃/分の昇温速度で1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この温度に1時間保持後、炉冷の条件で焼結して、直径が6.5mm、10.5mm、および20.5mmの3種の超硬基体形成用丸棒焼結体を形成し、さらに前記の3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、表9に示される組合せで、切刃部の直径×長さがそれぞれ6mm×13mm、10mm×22mm、および20mm×45mmの寸法、並びにいずれもねじれ角30度の4枚刃スクエア形状をもったWC基超硬合金製の工具基体(エンドミル)C−1〜C−8をそれぞれ製造した。
ついで、これらの超硬基体(エンドミル)C−1〜C−8の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、実施例1と同一の条件で、層厚方向に沿って表10に示される組成、結晶粒組織および層厚の薄層A、薄層Bを交互に蒸着形成し、粒状晶組織の薄層Aと柱状晶組織の薄層Bとの交互積層構造からなる硬質被覆層を備える本発明表面被覆超硬製エンドミル(以下、本発明被覆超硬エンドミルと云う)1〜8を製造した。
また、比較の目的で、前記工具基体(エンドミル)C−1〜C−8の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、実施例1と同一の条件で、同じく表11に示される組成、結晶粒組織および層厚の(Ti,Al,V)N層からなる硬質被覆層を蒸着することにより、比較表面被覆超硬製エンドミル(以下、比較被覆超硬エンドミルと云う)1〜8を製造した。
つぎに、本発明被覆超硬エンドミル1〜8および比較被覆超硬エンドミル1〜8のうち、
本発明被覆超硬エンドミル1〜3および比較被覆超硬エンドミル1〜3については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・SUS304(HB180)の板材、
切削速度: 45 m/min.、
溝深さ(切り込み): 1.2 mm、
テーブル送り: 80 mm/分、
の条件でのステンレス鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は、20m/min.)を行い、
本発明被覆超硬エンドミル4〜6および比較被覆超硬エンドミル4〜6については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・SU316(HB180)の板材、
切削速度: 50 m/min.、
溝深さ(切り込み): 1.5 mm、
テーブル送り: 70 mm/分、
の条件でのステンレス鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は、25m/min.)を行い、
本発明被覆超硬エンドミル7、8および比較被覆超硬エンドミル7,8については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・S15C(HB130)の板材、
切削速度: 40 m/min.、
溝深さ(切り込み): 3.5 mm、
テーブル送り: 65 mm/分、
の条件での炭素鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は、25m/min.)を行い、
前記のいずれの溝切削加工試験でも、切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。
前記の測定結果を表10、表11にそれぞれ示した。
Figure 0005454787
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実施例2で製造した直径が6.5mm(超硬基体C−1〜C−3形成用)、10.5mm(超硬基体C−4〜C−6形成用)、および20.5mm(超硬基体C−7、C−8形成用)の3種の丸棒焼結体を用い、この3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、溝形成部の直径×長さがそれぞれ 4mm×13mm(超硬基体D−1〜D−3)、8mm×22mm(超硬基体D−4〜D−6)、および16mm×45mm(超硬基体D−7、D−8)の寸法、並びにいずれもねじれ角30度の2枚刃形状をもったWC基超硬合金製の工具基体(ドリル)D−1〜D−8をそれぞれ製造した。
ついで、これらの工具基体(ドリル)D−1〜D−8の切刃に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、実施例1と同一の条件で、表12に示される組成、結晶粒組織および層厚の薄層A、薄層Bを交互に蒸着形成し、粒状晶組織の薄層Aと柱状晶組織の薄層Bとの交互積層構造からなる硬質被覆層を備える本発明表面被覆超硬製ドリル(以下、本発明被覆超硬ドリルと云う)1〜8を製造した。
また、比較の目的で、前記の工具基体(ドリル)D−1〜D−3、D−4〜D−6、D−7、D−8の表面に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、実施例1と同一の条件で、同じく表13に示される組成、結晶粒組織および層厚の(Ti,Al,V)N層からなる硬質被覆層を蒸着することにより、比較表面被覆超硬製ドリル(以下、比較被覆超硬ドリルと云う)1〜8を製造した。
つぎに、本発明被覆超硬ドリル1〜8および比較被覆超硬ドリル1〜8のうち、本発明被覆超硬ドリル1〜3および比較被覆超硬ドリル1〜3については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・SUS304(HB180)の板材、
切削速度: 50 m/min.、
送り: 0.15 mm/rev、
穴深さ: 10 mm、
の条件でのステンレス鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は、20m/min.)を行い、
本発明被覆超硬ドリル4〜6および比較被覆超硬ドリル4〜6については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・SU316(HB180)の板材、
切削速度: 45 m/min.、
送り: 0.1 mm/rev、
穴深さ: 15 mm、
の条件でのステンレス鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は、25m/min.)を行い、
本発明被覆超硬ドリル7、8および比較被覆超硬ドリル7,8については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・S15C(HB130)の板材、
切削速度: 250 m/min.、
送り: 0.3 mm/rev、
穴深さ: 25 mm、
の条件での炭素鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は、100m/min.)を行い、
前記いずれの湿式高速穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも、先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表12、表13にそれぞれ示した。
Figure 0005454787
Figure 0005454787
この結果得られた本発明表面被覆切削工具としての本発明被覆超硬チップ1〜16、本発明被覆超硬エンドミル1〜8、本発明被覆超硬ドリル1〜8、および、比較表面被覆切削工具としての比較被覆超硬チップ1〜16、比較被覆超硬エンドミル1〜8、比較被覆超硬ドリル1〜8の硬質被覆層の組成を、透過型電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分析法により測定したところ、それぞれ目標組成と実質的に同じ組成を示した。
また、前記の各硬質被覆層の平均層厚を透過型電子顕微鏡により断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均値(5ヶ所の平均値)を示した。
さらに、本発明表面被覆切削工具の薄層A、薄層Bを構成する(Ti,Al,V)N層および比較表面被覆切削工具の硬質被覆層を構成する(Ti,Al,V)N層について、各層の結晶粒組織を透過型電子顕微鏡により求め、その結果を表4〜7、10〜13に示した。
表8、10〜13に示される結果から、本発明表面被覆切削工具は、硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を示す薄層Aと、すぐれた耐チッピング性、耐欠損性を示す薄層Bとの交互積層構造からなり、さらに、耐熱性を有し、層間密着強度も大であるので、その結果、高熱発生を伴い、切刃に対し高負荷が作用する高硬度鋼の高速切削加工でも、すぐれた耐チッピング性、耐欠損性とともにすぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するのに対して、硬質被覆層が粒状晶のみあるいは柱状晶のみからなる単一結晶粒組織の(Ti,Al,V)N層からなる被覆工具は、耐チッピング性、耐欠損性あるいは耐摩耗性のいずれかが劣るため、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
前述のように、この発明の表面被覆切削工具は、各種の鋼や鋳鉄などの通常の切削条件での切削加工は勿論のこと、特に高熱発生を伴い切刃に対して高負荷が作用する難削材の高送り切削加工でも、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するものであるから、切削加工装置の高性能化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。

Claims (2)

  1. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、0.8〜5.0μmの層厚のTiとAlとVの複合窒化物からなる硬質被覆層が蒸着形成された表面被覆切削工具において、
    前記硬質被覆層は、TiとAlとVの複合窒化物の粒状晶組織からなる薄層Aと柱状晶組織からなる薄層Bとの交互積層構造として構成され、前記薄層Aおよび薄層Bはそれぞれ0.05〜2.0μmの層厚を有し、さらに、前記薄層Aを構成する粒状晶の平均結晶粒径は30nm以下、また、前記薄層Bを構成する柱状晶の平均結晶粒径は50〜500nmであることを特徴とする表面被覆切削工具。
  2. 前記TiとAlとVの複合窒化物は、
    組成式:(Ti1−X−YAl)N
    で表した場合に、0.40≦X≦0.65、0.02≦Y≦0.3(但し、X、Yはいずれも原子比)を満足することを特徴とする請求項1記載の表面被覆切削工具。
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