以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の電磁波発生装置1の構成図である。第1実施形態の電磁波発生装置1は、光源10、ビーム径変更光学系20、パルス面傾斜部30、ビーム径調整光学系40および光学的作用部50を備える。
光源10は、ポンプ光パルスを出力するものであり、好適にはパルス幅がフェムト秒程度であるパルスレーザ光を出力するフェムト秒パルスレーザ光源である。ビーム径変更光学系20は、光源10から出力されたポンプ光パルスのビーム径を変更する。ビーム径変更光学系20は、レンズ21およびレンズ22を含む。前段のレンズ21の後側焦点位置と後段のレンズ22の前側焦点位置とは互いに一致している。ビーム径変更光学系20は、前段のレンズ21の焦点距離と後段のレンズ22の焦点距離との比に応じて、ポンプ光パルスのビーム径を変更することができる。
パルス面傾斜部30は、ビーム径変更光学系20から出力されたポンプ光パルスのパルス面を傾斜させる。パルス面傾斜部30は、例えば、プリズム,グリズム,反射型回折格子,透過型回折格子または空間光変調器を用いて、ポンプ光パルスのパルス面を傾斜させることができる。パルス面とは、ある瞬間において、光パルスのビームライン上の最大出力を示す位置をつないだ面のことである。これに対し、波面とは、光の等位相面をいう。
ビーム径調整光学系40は、パルス面傾斜部30から出力されたポンプ光パルスのビーム径を調整する。ビーム径調整光学系40は、レンズ41およびレンズ42を含む。前段のレンズ41の後側焦点位置と後段のレンズ42の前側焦点位置とは互いに一致している。ビーム径調整光学系40は、前段のレンズ41の焦点距離と後段のレンズ42の焦点距離との比に応じて、ポンプ光パルスのビーム径を調整することができる。
光学的作用部50は、ビーム径調整光学系40から出力されたポンプ光パルスが入力されることで電磁波を発生する。光学的作用部50として例えば非線形光学結晶が用いられる。ポンプ光パルスの入力によりテラヘルツ波を発生させる光学的作用部50としては定比組成ニオブ酸リチウム結晶などが用いられる。
ビーム径変更光学系20およびビーム径調整光学系40それぞれは、レンズ対により構成されてもよいし、曲面ミラー対により構成されてもよい。ビーム径変更光学系20およびビーム径調整光学系40それぞれは、拡大光学系であってもよいし、縮小光学系であってもよい。また、ビーム径変更光学系20およびビーム径調整光学系40の全体が、拡大光学系であってもよいし、縮小光学系であってもよい。
この電磁波発生装置1では、光源10から出力されたポンプ光パルスは、ビーム径変更光学系20によりビーム径を変更され、パルス面傾斜部30によりパルス面を傾斜され、ビーム径調整光学系40によりビーム径を調整されて、光学的作用部50に入力される。光学的作用部50ではポンプ光パルスが入力されることで電磁波が発生する。
光源10から出力されてパルス面傾斜部30に入力されるまでのポンプ光パルスのパルス面S1は、主光線方向に垂直な面に平行であり、傾斜角度が0度である。パルス面傾斜部30から出力されてビーム径調整光学系40に入力されるまでのポンプ光パルスのパルス面S2は、主光線方向に垂直な面に対して傾斜角度γ2だけ傾斜する。ビーム径調整光学系40から出力されて光学的作用部50に入力されるポンプ光パルスのパルス面S3は、主光線方向に垂直な面に対して傾斜角度γ3だけ傾斜する。ただし、パルス面S2の時間範囲T2とパルス面S3の時間範囲T3とは互いに等しい。
パルス面S2の傾斜角度γ2は、ビーム径変更光学系20の有無には依らず、ポンプ光パルスの波長およびパルス面傾斜部30の角分散に依り決まる。パルス面S2の傾斜角度γ2からパルス面S3の傾斜角度γ3への変化は、ビーム径調整光学系40によるポンプ光パルスのビーム径の拡大・縮小の率に応じたものとなる。すなわち、光学的作用部50に入力されるポンプ光パルスのパルス面S3の傾斜角度γ3は、ポンプ光パルスの波長,パルス面傾斜部30の角分散およびビーム径調整光学系40の拡大縮小率により決定される。一方、光学的作用部50に入力されるポンプ光パルスのビーム径は、ビーム径変更光学系20およびビーム径調整光学系40の全体の拡大縮小率により決定される。
したがって、電磁波発生装置1は、ビーム径変更光学系20およびビーム径調整光学系40それぞれによるポンプ光パルスのビーム径の拡大・縮小ならびにパルス面傾斜部30によるポンプ光パルスのパルス面の傾斜により、光学的作用部50に入力されるポンプ光パルスのパルス面傾斜角度およびビーム径それぞれを互いに独立に適切な値に設定することができ、光学的作用部50における位相整合条件および単位面積当りのポンプ光パルスのエネルギーそれぞれを調整することができる。
例えば、ポンプ光パルスの中心波長が800nmであり、ビーム径変更光学系20に入力されるポンプ光パルスのビーム径が3mmであるとし、パルス面傾斜部30として2000grooves/mmの回折格子を利用する場合を想定する。ビーム径変更光学系20のビーム径の拡大率を1.07倍とし、ビーム径調整光学系40のビーム径の縮小率を0.625倍とすると、ビーム径調整光学系40から出力されるポンプ光パルスのパルス面傾斜角度γ3を77°とし、ビーム径を2mmとすることができる。また、ビーム径変更光学系20のビーム径の拡大率を2.67倍とし、ビーム径調整光学系40のビーム径の縮小率を0.625倍とすると、ビーム径調整光学系40から出力されるポンプ光パルスのパルス面傾斜角度γ3を上記の例と同様に77°とし、ビーム径を5mmとすることができる。
本実施形態では、パルス面傾斜部30の種類(例えば、パルス面傾斜部30として回折格子を用いた場合は回折格子の単位長さ当りの刻線本数など)を変えることなく、パルス面傾斜角度を調整することができる。また、パルス面傾斜部30として用いられる回折光学素子のうち大きな角度分散を有するもの(すなわち、パルス面の傾斜角度を大きく傾けることができるもの)は一般的に高価で且つ光利用効率が低いが、本実施形態では、角度分散が小さくて光利用効率が高い回折光学素子を用いつつパルス面の傾斜角度を大きくすることができ、かつ調整することができる。
ビーム径変更光学系20による像はパルス面傾斜部30に位置するのが好ましい。また、ビーム径調整光学系40はパルス面傾斜部30と光学的作用部50との間に結像関係を有するのが好ましい。このようにすることで、ポンプ光パルスのビーム品質が向上し、光学的作用部50において高効率に所望の波長の電磁波を発生させることができる。
ビーム径変更光学系20およびビーム径調整光学系40それぞれは、像面歪曲等の収差に因る像の歪みを取り去る光学系となっているのが更に好ましく、その為に例えば4f光学系となっているのが好ましい。
また、ビーム径変更光学系20およびビーム径調整光学系40それぞれは、上記結像関係における物面と像面との位置関係を保ったまま拡大率・縮小率を任意に変えることができるズームレンズ型光学系となっているのが好ましい。このようにすることで、任意のパルス面傾斜角度とビーム径とを容易に変化させることができる。
(第2実施形態)
図2は、第2実施形態の電磁波発生装置2の構成図である。この図に示される第2実施形態の電磁波発生装置2は、光学的作用部50においてテラヘルツ波を発生させるものであって、パルス面傾斜部30として透過型回折格子を用い、また、光学的作用部50としてテラヘルツ波を発生する非線形光学結晶を用いる。
近年、テラヘルツ波発生技術に関して、通常はテラヘルツ波発生の為の位相整合条件が満たされない光学的作用部を用いた場合であっても、光学的作用部に入力されるポンプ光パルスのパルス面を傾斜させることで位相整合条件を満たすことができることが知られている(非特許文献1〜5)。本技術では光学的作用部としてテラヘルツ波発生用の非線形光学結晶(ニオブ酸リチウム結晶やZnTe結晶など)などが用いられる。
従来では、光学的作用部における位相整合条件を合わせるために、パルス面傾斜部によりポンプ光パルスのパルス面が傾斜され、その後にビーム径調整光学系によりポンプ光パルスのビーム径が調整される。しかし、この方法では、光学的作用部(テラヘルツ波発生用の非線形光学結晶)に入力されるポンプ光パルスのパルス面傾斜角度およびビーム径を互いに独立に調整することはできない。
テラヘルツ波発生用の非線形光学結晶には損傷閾値が存在することから、或る閾値以上のエネルギー密度を有するポンプ光パルスが入力されると、テラヘルツ波発生用の非線形光学結晶に損傷が生じたり、意図しない効果が発生してしまったりする可能性がある。また、単位面積あたりのポンプ光パルスのエネルギーが高くなりすぎると、テラヘルツ波への変換効率が低くなり、出力が飽和するという報告がなされている(非特許文献5)。このことから、テラヘルツ波発生用の非線形光学結晶の位相整合条件を合わせるためにポンプ光パルスのパルス面傾斜角度を調整しようとすると、ポンプ光パルスのビーム径を所望値とすることができなくなるのは大きな問題である。
第2実施形態の電磁波発生装置2は、上記のような問題を解消し得るものである。すなわち、第2実施形態の電磁波発生装置2は、ビーム径変更光学系20およびビーム径調整光学系40それぞれによるポンプ光パルスのビーム径の拡大・縮小ならびにパルス面傾斜部30によるポンプ光パルスのパルス面の傾斜により、光学的作用部50に入力されるポンプ光パルスのパルス面傾斜角度およびビーム径それぞれを互いに独立に適切な値に設定することができ、光学的作用部50における位相整合条件および単位面積当りのポンプ光パルスのエネルギーそれぞれを調整することができる。そして、光学的作用部50は、最適な条件でテラヘルツ波を発生することができる。
第2実施形態においても、パルス面傾斜部30として、前述の透過型回折格子のみでなく、例えば、プリズム,グリズム,反射型回折格子または空間光変調器が用いられ得る。ビーム径変更光学系20による像はパルス面傾斜部30に位置するのが好ましい。また、ビーム径調整光学系40はパルス面傾斜部30と光学的作用部50との間に結像関係を有するのが好ましい。ビーム径変更光学系20およびビーム径調整光学系40それぞれは、像面歪曲等の収差に因る像の歪みを取り去る光学系となっているのが更に好ましく、その為に例えば4f光学系となっているのが好ましい。
また、ビーム径変更光学系20およびビーム径調整光学系40それぞれは、上記結像関係における物面と像面との位置関係を保ったまま拡大率・縮小率を任意に変えることができるズームレンズ型光学系となっているのが好ましい。このようにすることで、任意のパルス面傾斜角度とビーム径とを容易に変化させることができ、光学的作用部50を損傷させることなく光学的作用部50における位相整合条件を容易に満たすことができる。
(第3実施形態)
図3は、第3実施形態の電磁波発生装置3の構成図である。この図に示される第3実施形態の電磁波発生装置3は、光学的作用部50において非同軸光パラメトリック増幅をするものであって、パルス面傾斜部30としてプリズムを用い、光学的作用部50として光パラメトリック増幅作用を有する非線形光学結晶を用い、また、被増幅光を出力する被増幅光源60を更に備える。
非同軸光パラメトリック増幅法を用いた極短パルス光の発生が報告されている(非特許文献6)。この技術では、光学的作用部50に被増幅光とポンプ光パルスとが互いに非同軸で入力される。この際、光学的作用部50内において被増幅光およびポンプ光パルスそれぞれのパルス面を互いに一致させるために、パルス面傾斜部30が利用される。非同軸光パラメトリック増幅法で用いられる光学的作用部50にも、第2実施形態で説明したような損傷閾値が存在する。第3実施形態の電磁波発生装置3は、ポンプ光パルスによる光学的作用部50の損傷の問題を解決することができる。
また、非同軸光パラメトリック増幅法において、光学的作用部50における被増幅光およびポンプ光パルスそれぞれのビーム径は、最も効率よくポンプ光パルスのエネルギーを被増幅光へ移せる大きさとなっていることが望ましい。第3実施形態の電磁波発生装置3は、このような要求にも対応することができる。
第3実施形態の電磁波発生装置3は、ビーム径変更光学系20およびビーム径調整光学系40それぞれによるポンプ光パルスのビーム径の拡大・縮小ならびにパルス面傾斜部30によるポンプ光パルスのパルス面の傾斜により、光学的作用部50に入力されるポンプ光パルスのパルス面傾斜角度およびビーム径それぞれを互いに独立に適切な値に設定することができ、光学的作用部50における位相整合条件および単位面積当りのポンプ光パルスのエネルギーそれぞれを調整することができる。そして、光学的作用部50は、最適な条件でポンプ光パルスと被増幅光とを互いに非同軸として入力し、入力したポンプ光パルスにより励起され、入力した被増幅光を光パラメトリック増幅して出力することができる。
第3実施形態においても、パルス面傾斜部30として、前述のプリズムのみでなく、例えば、グリズム,反射型回折格子,透過型回折格子または空間光変調器が用いられ得る。ビーム径変更光学系20による像はパルス面傾斜部30に位置するのが好ましい。また、ビーム径調整光学系40はパルス面傾斜部30と光学的作用部50との間に結像関係を有するのが好ましい。ビーム径変更光学系20およびビーム径調整光学系40それぞれは、像面歪曲等の収差に因る像の歪みを取り去る光学系となっているのが更に好ましく、その為に例えば4f光学系となっているのが好ましい。
また、ビーム径変更光学系20およびビーム径調整光学系40それぞれは、上記結像関係における物面と像面との位置関係を保ったまま拡大率・縮小率を任意に変えることができるズームレンズ型光学系となっているのが好ましい。このようにすることで、任意のパルス面傾斜角度とビーム径とを容易に変化させることができ、光学的作用部50を損傷させることなく光学的作用部50における位相整合条件を容易に満たすことができる。
また、光学的作用部50においてポンプ光パルスのパルス面傾斜角度およびビーム径が調整されていることに加えて、被増幅光のパルス面傾斜角度およびビーム径が調整されていてもよい。