上記特許文献1、2、および3は、本件の発明者が過去に出願したものである。その後の経緯で上記特許文献4、5、および6の存在が明らかになった。特許文献4、および5は基本的に特許文献1、2、3、および本件と同じ目的とシステムを持つものであり、6は目的が少々異なっているが、機構としては同種のものである。これらの4、5、および6に共通する不備は、次の3点に要約できる。
一つ目は、視野の問題が検討されていないと考えられることである。この種のシステムではその目的から、通常の眼鏡と同様に、必要最小限の視野が確保され、かつ可能な限り広い視野が求められるのである。望遠鏡や双眼鏡あるいは顕微鏡の場合、使用者の全視界のごく一部分を取り出して拡大すれば足りるのであるが、本発明の目的である画像、映像の鑑賞や読書や手作業にとっては、一定の視野がなければ用途が限られてしまうためである。
二つ目は、視対象の距離、使用者の瞳孔間距離、顔面の形状、等々の変動要素と反射鏡のサイズと位置角度との関係が考慮されていないことである。反射鏡のサイズは視野と同様、これらの要素と大きく関わってくるので、これらの要素を検討しない限り実用化は困難である。
三番目は、快適に使用できるような構造が追求されていないことである。上記の目的からも、この種の器具は可能な限り、快適に使用できる構造を追求する必要がある。
本発明者による上記特許文献1、2、および3においても、以上の3点の問題は十分に考察、追求はされていなかった。ただ、視野に関して言及はあり、特定の瞳孔間距離と反射鏡と瞳孔間の距離において、試行錯誤的作図により、36度の視野が得られるとしているが、瞳孔間距離の変化に対応しておらず、請求の範囲でも触れていなかった。
今回の課題は当該目的のシステムが原理的に可能であることを示すことではなく、実用になる具体的なシステムと構造を見いだすことであり、そのための手段が上記三つの問題を解決することにあったといえる。具体的には、1)視野と多くの変数との関係を数量的に明らかにし、各々の瞳孔距離と顔面の形状に即した必要かつ最大の視野を得るための設計条件を求めること、2)瞳孔間距離の変化に応じた調節が可能な構造を見いだすこと、および3)快適に使用できるような構造と形態とを見いだすことにあった。
まず、最大の視野を得るための基本となる反射光学系を決定しなければならない。まず特定の角度、すなわち特定の視野2αと反射鏡角度βおよびβ-xとが与えられ、それらの角度で視差を縮小する光学系が可能な場合に両反射鏡の反射面を有効に利用できる位置関係と幅を定めるための基本図が図2および図3である。この図3では基本的な要素を検討するため、視対象を実際に用いられるような近距離ではなく、遠距離として照準を合わせ、対物反射鏡と接眼反射鏡とが平行になっている。従って顔面に対する両反射鏡の角度は等しく、βで表されている。また視野は2αで表される。設計の最終段階で対物反射鏡の角度を観察対象の距離に合わせて若干(x度、1度程度)変動させることになるので対物反射鏡の角度は最終的にβ−xになるものとする。以下、視対象側の反射鏡を対物反射鏡、瞳孔側の反射鏡を接眼反射鏡と呼ぶ。
後述するように、図2のシステムで利用できる最大の視野(2α)は35度程度である。この視野で利用できる幅は大型書籍の1ページ程度であり、小型書籍の読書や携帯電話、携帯ゲーム機などには十分である。しかし机上の大型ディスプレーや大型本の見開き、机上を全体見渡すには必ずしも十分では無い。しかし机上でもある程度距離を置けば通常のPCディスプレーを対象に、実用的に使用することは可能であり、室内で中型のテレビを鑑賞する目的にも使用できるであろうと思われる。だだし、それ以上の視野を得るためには瞳孔間距離や装用距離の制限を受けないシステムを開発する必要がある。
視野が瞳孔間距離や装用距離の制限を受けるのは、左右の対物反射鏡の幅が顔の中心線を越えることができないという事と、対物反射鏡に入射する光の範囲を接眼反射鏡が妨害するためである。ハーフミラーを利用するようなシステムも前記の特許諸文献に見られるが、ミラ―の大きさや実用的な構造の事を考慮すると、それを実用化することは困難であることが判明する。一つの方策として、対物反射鏡と視対象とが作る光学系と、接眼反射鏡と瞳孔とが作る光学系とを異なった平面におき、図2および3において平面に対して直角であった両反射鏡を前後方向にも傾け、三次元的な光学系にする方法が考えられる(図8参照)。
但し、この場合も両側の対物反射鏡の幅が顔面の中央を越えて広がることはできない(左右の対物反射鏡の平面をずらせることによって可能ではあるが、左右の像の形と大きさに差ができるので実用的ではない)。この三次元的システムでは対物反射鏡の平面幅の中心は接眼反射鏡に近づくことになって視差の低減量は小さくなるが、輻輳角度を0度にすることはできる。平面画像を見る目的に関する限り、輻輳角度を0度にするだけでも大きな効果が得られるので実用価値はある。また、立体物をルーペで観察する場合には、レンズの収差を軽減する効果は変わらずに得られる。
但し、この三次元的な反射光学系は、そのメリットを生かすと大型になり、普通の顔面装着形式の眼がねにも応用はできるが、それよりはスタンド形式に適している。また倍率の高いルーペを併用するのには向かないが、他方、スタンド形式にすると通常の視力矯正眼がねをかけたままでも楽に使用できるメリットがあり、また後述するような他のメリットもある。
以上の基本型(平面型)と視野拡張型(三次元型)の両形式で、まず平面型からから考察する。まず、図2から、αおよびβが与えられている場合、何れか1つの長さが決まれば他の全ての長さも一意的に定まることが分かる。要するに、d、A、B、E、およびDの全ての長さは角度が一定である限り、正比例の関係にある。つまり、αとβを変えずに何れかの長さを変えると全体が相似形の図形に変化するのみであるからである。
図4の線acとbcはβが45度のときに、対物反射鏡の前方の光線を対物反射鏡に鏡面対称にて反転させ、接眼反射鏡から瞳孔までの部分を、やはり接眼反射鏡面に鏡面対称にて反転させたもので、反射面における反射光を単一方向に展開した図形に相当する。以後このab とbcに囲まれた図形にもとづき、それぞれの角度と長さの関係を考察する。
図5および図6は、それぞれ有効な対物反射鏡の幅A、接眼反射鏡の幅B、接眼反射鏡と瞳孔のあるべき位置との距離E、使用者の瞳孔距離d、および両反射鏡と顔面との角度βと視野を表す角度2αとの関係を考察するための図形である。但しこれがこのまま有効であるのはβが45度である場合だけであり、βが45度以外の場合は図7および図8に示すように、展開図の両反射面と中心線とのなす角度はβとは異なるので、βに相当する角度を一般化してωと表示する。また、dに相当する長さを2Dとする。ωとβとの関係およびdと2Dとの関係は後述する(パラグラフ0036)。
図5から、
従って
正弦定理より
上記数式3および数式4より
一方
また
であるから数式1、数式5、および数式6から
以上がD、A、およびBと角度α、およびωとの関係である。
次にAとBとのあいだに次の関係が成立する。
正弦定理により
および
以上の2式から
参考までに付け加えると、αが15度、βが45度のときはA=2Bとなり、AはちょうどBの2倍となる。
次に図6から接眼距離(瞳孔と接眼反射鏡中心との距離)Eはα、ω、およびBとの関係で定まることが分かる。
図6において
正弦定理により
ゆえに
よって接眼距離Eと接眼反射鏡の幅B、α、およびωとはこの数式14によって表される。
ωが45度の場合、βはωに一致し、Dはd/2となるが、ωが45度以外の場合にはβの値はωとは異なってくるので、βとωとの関係、およびdとDとの関係すなわちdとA、B、α、ωとの関係を図7および図8によって算出する。
図7および図8において線 m n は顔面に平行な面と水平面との交線とすると、βは両反射鏡と顔面とのなす角度となり、dは瞳孔間距離となる。さらに図7および図8において
また、
また、
したがって
また、
したがって
以上の図と数式から、瞳孔距離dと接眼距離Eおよび角度αとβが与えられた場合に(従ってαとωが与えられた場合)両反射鏡の位置と幅AとBを決定し、最大視野すなわち2αという可能な視野を完全に利用するための計算式が得られた。次に最大のαを得るためのβ(ω)を求めるための考察が必要になる。
βの変化によって影響を受ける要素はαだけではなく、5つの長さ、すなわちA、B、D、d、Eの比例関係、さらに両反射鏡と顔面との位置関係にも影響が及ぶものであるため、まずこの5つの長さにおける比例関係と諸要素の位置関係が現実の要請に適合することが条件になり、その条件の下で最大のαが得られる値を見いださなければならない。
それらの長さの中で明らかに制限があるのは瞳孔間距離dおよび接眼距離Eであるが、諸要素の位置関係で問題になるのは対物反射鏡が顔面、特にその凸部、鼻や額の位置に適合できるかということで、これは接眼距離Eとも関わる。
調節できる瞳孔間距離は、あらゆる可能性を考慮に入れるのであれば最低5 cm、最大8 cmの範囲内をカバーする必要があるが、この範囲は狭いほど無理のない設計が可能になる。したがって、一つの設計ですべてをカバーするのではなく、大小、大中小、あるいはそれ以上の何種類かで対応することも考慮に入れる必要がある。
接眼距離Eは、広い視野を確保するには近距離であるほど有利であるが、眼に近づけるには限度があり、これに相当する普通眼鏡の装用距離は、レンズまでの距離として日本では1.2 cmが標準とされている。装着方法により、可能な装用距離は変化するが、反射鏡の視野の中心までの距離として、この1.2 cmを基準として問題無いと思われる。しかし、Eはdと比例関係にあり、角度を一定に保ったままでdを変化させるとEも変化する。すなわち、dを増加させるように調節すると、Eも増加する。
最も一般的な瞳孔間距離の値とされるd値の6.2
cmに対応するEを1.2 cmとした場合、Eはdの約19パーセントに相当する。したがってdが6 cmから6.8 cmまで変化した場合、その差0.8 cmの19パーセントである0.15 cm、すなわち1.5mm程度変化することになる
一方dの調節範囲を5 cmから8 cmまで全域にとると、8 cmまでの3 cmは5 cmに対して60%の増加であり、5 cmのdに対応するEを1.2
cmとすると、dを8 cmまで動かせばEは0.72 cm増加して1.92 cmとなり、相当な移動幅になるが、こういう設計も想定する必要はある。
さらに、装着方法によっては、例えば通常眼鏡の上から使用するような設計を想定すればEを2.5
cm程度までとる場合も想定する必要がある。
また、一般日本人に比べて著しく彫りの深い顔立ちに適合させる場合にも、Eを大きくとる必要が出てくる可能性がある。
以上を考慮し、とりあえず、d値として5 cmから8 cm程度の範囲、E値として1 cmから2.5 cmまでの範囲をカバーする領域でαとβが取り得る範囲を調査することによって、殆どあらゆる成人の瞳孔間距離に対してαを最大にするβを見いだすことが可能になる。そこで、瞳孔間距離dとして5 cm〜8 cmを満足し、接眼距離Eが1.2〜2.0 cmを満足させる範囲におけるαの最大値とそれを満足させるβとを求める必要がある。
この場合、当座の一つの基準として設計の容易な角度としてαに15度、βに45度、そしてEに1.5cmを適用した場合、dは5.20 cmとなり、上記の範囲内に適合ているのでこの近辺に、すなわちEとして1.5cm近辺に対してαとして15度近辺に、かつβとして45度近辺に、dの適正値(5cm〜8cm)を満たす最適値が存在する筈である。そこで、一方でαとしての15度を固定値としてβの取り得る範囲を調査し、他方でβとして45度を固定値としてαの取り得る範囲を調査するのが便利である。
そこでまず、αを15度に固定して上記dおよびEの範囲を満足させるβの範囲を求めるため、各数値の表とグラフを作成すると、以下の表と、これに基づく図9のグラフが得られる。
グラフではβを20度から60度まで5度刻みでプロットしているが、表ではdの最小値を与えるβを求めるために最小値付近すなわちβ=41度前後を1度刻みで表示している。グラフではβ=40度のときに特定のE値におけるdの最小値が与えられるようになっているが、この表から、特定のE値に対するdの最小値を与えるβは1度刻みでは41度であることがわかる。
つぎにβを45度に固定した上で上記dおよびEの範囲を満足させるαの最大値を求めるため、各数値の表とグラフを作成すると次の表2と図10のグラフが得られる。
図10のグラフより、βが45度の場合、αが大きいほどグラフの直線が左の方に移動する。したがって特定のdに対してはEを小さくするほどαが増加し、視野2αが広がり、広い視野を確保することができる。
上記はβが45度の場合であるが、βが45度以外の場合でも、数式8および数式14から、同じ傾向のグラフになることが分かる。なぜなら数式14から、α+ωが90度以下である限りαが増加するにしたがってBが増加することが正弦曲線から明らかであり、したがって数式8から、同様にα+ωが90度以下である限り、αが増加すればdが増加することが明らかであるからである。すなわちα+ω<90である限り、したがって数式15より、α<βである限りαを増加することは図8の直線グラフを左に移行することになる。
したがって図9のα=15とした場合の各β値に対する何れの直線グラフについてもαを増加するとすなわちグラフの線が左に移行する。したがって満足すべきE値とd値の範囲内で右方向にある直線ほど左に移行する余地が大きく、αを増加させる余地が大きいことになる。このグラフではそれがβ=40のときであるが、表1における1度刻みのデータでは、それはβが41度のときであり、データをとった範囲内でのdの極小値はβが41度前後の場合に与えられ、グラフからは、βが35°から50°までの間のd値に大きな差が見られないことが分かり、βが大体この範囲にあればまだαを増加させる余地があることが分かる。
上記より、2αの最大値が与えられるβは40<β<42の範囲内にある。言い換えると事実上βが41度のときに視野2αの最大値が得られることが分かるが、βを制限する要素は他にもある。
パラグラフ0040でも述べたように、βの値によって両反射鏡と顔面との位置関係が異なってくる。これは図7および図8から読みとることができる。図7および図8ではβが45度以下である30°のときと、45度を超える50度のときとを図示しているが、両図で顔面に平行な線が線m nで示されている。
少なくとも顔面の平坦部、すなわち眼の両端部分は両図の線m0 n0より前に出ることはできない。したがってβが45度以下になると(b)図から、接眼反射鏡が顔面から遠ざかることが分かる。接眼反射鏡が顔面から遠ざかることは、眼と接眼反射鏡との間隔が開き、Eを増加させる必要が生じる。したがって広い視野が得られない。また対物反射鏡の角度が小さくなると鼻の位置に重なってくる可能性が大きくなり、対物反射鏡を含む光学系全体を顔面から遠ざける必要も生じてくる。この点から、事実上βを45度よりも小さくとることには無理がある。
一方、βを45度以上にすると逆の傾向になることが図8から明らかであり、接眼反射鏡が眼に近づき、反射鏡の位置が鼻の位置と重なる可能性も減少する。したがってこの点ではβを45度よりも大きくとる方が望ましい。
上記パラグラフ0054から、βが35度から50度の間にあれば事実上、同程度の視野2αが得られるのであるから、この点を考慮し、βを50度付近にとるのが実際的であると考えられる。これで、改めてβを50度にとり、表2と図8と同様のデータを作成したのが次の表3および図11である。
図10および図11のグラフから、1度刻みのαの値それぞれに対する各系列の直線間の間隔はβが45度の場合と殆ど変わらないことが分かるが、同じE値とd値におけるαの値は50度の場合は45度の場合に比べて約0.3度小さくなることが分かる。したがってβを50度にとると45度に比べて視野の点で若干不利であるが、視野全体の2%以下であり、大きな差ではないので誰にでも使用出来るような設計を優先すれば50度はある方が望ましい。実際の対物反射鏡の角度はこの値からx度(約1度)差し引いた値になる(パラグラフ0025参照)。
以上から、βを50度にとった場合、装用距離1.2cm、瞳孔間距離6.2cmという平均的な条件ではαとして18度弱が得られ、瞳孔間距離を5cmから7cmの範囲にとれば、αとして約16度から約18度強まで変化する。一方、αを16度に固定すると、瞳孔間距離5cmから7cmの範囲で装用距離が1.2cmから1.7cmまで変化する。
図11のグラフ平面上で、調節する範囲のd値とE値とを満たす部分を通過するグラフを満たすαにもとづいた設計をすれば良いのであるが、この平面上でE値を一定に保ってdを動かす場合はこのグラフ上を縦に移動することになり、異なったα値の直線を横断する形になるが、αを一定に保ってd値を動かす場合は、そのαにおける直線に沿ってd値を変動させることになる。またその中間的な動かし方も可能である。
αを一定に保ってd値を調節する場合、E値もdに比例して変化し、両反射鏡の有効な反射面の幅A、Bも変化するのでそれに対応しなければならない。Eが増加することはそれほど支障にはならないが、AとBを含め、変化する幅を小さくするにはdの調節範囲が小さくする必要がある。またdの調節範囲を小さくとる方が、大きなd値に対しては大きな視野2αが得られるので有利である。dの範囲が5cmから8cmであるとすれば、それを3〜5段階程度に分けるのが適当であると思われる。
E値を一定に保ってd値を調節する場合、図11の各グラフ直線を横断することになるので、大きなd値に対しては大きな視野2αが得られるような設計が可能であるが、前項と同様にAとBも変化するのでそれに対応できる設計が可能であるかどうかが問題になる。また何れの場合も顔面と両反射鏡あるいは顔面と接眼反射鏡との距離に変化が生じるので、調節範囲を小さめに設計する方が実際的である。
次に現実の光学系で以上の調節を行うためのメカニズムを検討する。調節する要素は片側2つ、したがって両側で4つの反射鏡の位置関係とシステム全体と両眼、すなわち顔面との距離であるが、システム内ではそれぞれ片側両反射鏡の位置関係だけである。その中で対物反射鏡は左右両側の反射鏡が接触しているので角度を調節することは可能でも、移動することはできず、両側対物反射鏡の接触部の位置を基準として接眼反射鏡の位置を調節し、その上でシステム全体の顔面からの距離を調節する他はない。
この場合、より大きなd値に対応するために接眼反射鏡を顔面に平行な方向に移動すると、光学系を相似形に保つために光学系全体を比例して大きくする必要が出てくるが、そのためにフレーム、反射鏡を含め、すべての部品を物理的に拡大することは困難である。 この困難は、αを一定に保って調節する場合には、接眼反射鏡を顔面に平行ではなく、図5における線a cに沿って平行移動することによって避けることができる。ただしこの場合も両反射鏡の必要な反射面の幅は広がるので、それに対応できなければならない。それに対応するには、両反射鏡の幅を調節範囲の最大値に合わせ、最大値に調節されているとき以外は図5の線a
cからはみ出すことなく、線b
cからはみ出すように設計する必要がある。このはみ出しは、調節範囲が広いほど大きくなり、顔面の方に突出することになる。したがってこの意味でも調節範囲は小さい方が有利である。
次に、E値を一定に保ってd値を変化させる場合であるが、それは接眼反射鏡外端を図4の線a
cから更に内側、すなわち顔面側に寄せながらd値を増加させるように平行移動することによって可能になる。これは図12に図示されている。この図12では、ωが一定、この場合はβを45度にてDを約1.5倍に変化させる際にE値を固定し、αを変化させる場合を図示している。この場合、αは3度だけ増加している。2点鎖線にて重ねた線は上述したようなαを変化させずにEを変化させる場合であり、それぞれに付いての移動範囲は17の二重矢印線にて示されている。dを1.5倍に変化させることは、5cmから7.5cmまで調節する場合がそうであり、ほぼ瞳孔間距離全域の調節域に相当し、実用上は無理な調節範囲であるが、角度変化が約3度と分かりやすいので、この大きさに表示している。いずれの場合もdの変化に比例するか、比例に近い程度で反射鏡の必要有効幅が増大するので、それだけの増大分を見込んだ大きさの反射鏡で設計することには無理があり、実用上は最大でも1度程度にすべきであることが、この図からも読み取れる。1度程度にすると、17二重矢印で示した調節範囲は上述のαが一定の場合の調節範囲に可成り近くなる。この際の接眼反射鏡を移動させる軌跡は直線にはならないが、精度上直線と見なして差し支えないので、調節範囲のdの最大値に相当するαにおける接眼反射鏡の位置を図示し、最小値における接眼反射鏡の位置とを結んだ直線(図12の二重矢印線17)を移動させればよい。
接眼反射鏡は線a cと線a c’との中間の範囲内で移動してもよく、その場合も、dの増加に応じてαはa c’に沿って移動した場合以内の範囲で増加することになる。
これまでは対物反射鏡の角度を接眼反射鏡の角度と同一のβとして考察してきたが、これは遠方の視対象に照準を合わせた(視野の中心に合わせる)場合であって、実用に供するには近距離の視対象に合わせなければならない。そのために何れかの反射鏡の角度を変化させる必要があり、その変化量をx度とすると、対物反射鏡の角度を変化させる場合にはβ−xとなり(図13)、接眼反射鏡の角度を変化させる場合にはβ+xとなる(図15)。
図15のように接眼反射鏡の角度を変化させると対物反射鏡のあるべき位置に可成りの変化が生じ、対物反射鏡の位置をも大幅に移動する必要が生じ、結局は両方の反射鏡を動かす必要が生じる。一方、対物反射鏡の角度を変化させた場合は図13に見られるように接眼反射鏡のあるべき位置に及ぼす影響はわずかであるので、無視できる可能性があり、対物反射鏡の角度をβ−xとする調節方式が有利になる。
図13はxを3度として作図したもので、対物反射鏡の角度をβ−xとすると、当然反射光路に変化が生じ、接眼反射鏡の外側端がわずかに光路を遮ることがわかる。この場合に同じ視野2αを得ようとする場合、視野の端は図の2点鎖線b” e’ で表される。この線は図のh(接眼反射鏡の外端で線b’ eが通る)を通らず、b” e’と反射面との交点h'を通らなければならず、接眼反射鏡側にずれることになり、視野の一部が遮られるが、この図のように、βが45度、xが3度の場合はこの位置関係の変化はわずかであって無視できることが見て取れる。しかし、xが大きい場合は無視できない可能性がある。したがってこの点でもxが現実にはどの程度になるかを確定する必要があるので、次に実用上、xをどの程度の範囲に収まるかを検討する。
図2において、この角度xと顔面から視対象Oまでの距離V(正確には視対象Oと左右の視野の中心を通る光線が両側の対物反射鏡面で反射する2点pとp’を結ぶ線pp’の中点qとの距離)とは次式の関係がある。
この式においてd
1xは特定のxにおけるd
1、すなわち図13におけるd
1xである。また、図13から、次式が得られる。
ある特定のV値に対するxを求めるにはVを定数とし、xとd1xを未知数とする数式23と数式24を連立方程式として解く必要が出てくるが、数式24におけるd1自体が数式5および数式17によって定まるようなα、β、ω、d、Eの関数であって非常に複雑な式になる。しかし、視対象の距離は厳密に固定しているわけでもなく、一定の範囲が問題になるのであり、xも2桁を超える精度で調節する必要はない。そこで数式23のxに一連の現実的な値を代入し、想定される範囲内のd1xとVとを縦軸と横軸にとったグラフを作成し、その範囲内で数式24を満足させる領域を確定し、一定のVに対応するxの範囲を求める方法を検討する。
グラフを作成するにあたり、範囲を設定する必要がある。実用上、机上のディスプレーや書面を見る場合、Vは25cmから80cm程度の範囲内と考えられ、平均的には40cm程度が適当であろうと思われる。しかし室内で更に遠くを見る場合などは3m程度になるであろう。更にルーペを使用する場合、明視距離である25cmを倍率で割った距離付近になるので、1.3倍のルーペでは19cm程度、1.5倍のルーペでは17cm程度、2倍のルーペでは13cm程度、5倍のルーペでは5cm程度、10倍のルーペでは2.5cm程になる。これらすべてをカバーする場合は相当広い範囲になるので、3とおりの範囲の一連のxについてVとd
1の相関関係を表す表とグラフを作成すると次の各表と各グラフ(図13、14、15)が得られる。
図15、16、および17がそのグラフであり、図15はVが1cmから13cmまで、図16ではVが10cmから90cmまで、図17では1mから5mまでを範囲としている。これらのグラフは見方を変えると、数式23をd1xとVとxの3軸を持つ3次元空間中の曲面で表し、その曲面に含まれる複数の直線としての各xに対するグラフをd1xとVの平面(x=0)に投影したものであるといえる。
これらのグラフと重ね合わせるべき数式24はそのままではプロットできない。d
1xとd
1の値はxだけではなくβによって変化するが、これまでの考察より、βが45度から50度の範囲が実用上の条件と視野確保の点で最適であることが結論づけられている。そこで45度の場合と50度の場合、それぞれd(瞳孔距離)についてのd
1xは次式のようになる。
これら数式25および数式26を表すグラフを、上記数式23を表すグラフに重ね合わせた交点が、βがそれぞれ45度と50度のときにおけるd
1x値とV値とx値とを示すことになる。
数式25と数式26はVに無関係であるので上記立体座標中ではV軸に平行な面となるが、投影図に相当する上記各グラフではそれぞれのxに対応する各直線上の特定の1点で交わるはずである。したがって、数式25と数式26にそれぞれの直線におけるxを代入して得られるd1x値をその各直線上にプロットした1点になるはずである。しかしd1xを得るにはさらにd1が確定している必要があり、数式5および数式17からd1を求めるには、α、ω、およびその他の長さが定まっている必要があるが、βが45度の場合にはωも45度であり、50度の場合、ωは40度になる。そこで最適値であるαとして17度のときをとると、βが45度の場合、図10のグラフから平均的な瞳孔間距離6.3cmのときには、接眼距離1.4cmとなり、数式14および数式11からA=3.0となり、d1は1.39cmとなる。一方βが50度の場合には図9のグラフからαが17度のとき、同じ瞳孔間距離6.3cmのときには接眼距離1.3cmとなり、数式14および数式11からAは3.3cmとなり、d1は1.64cmとなる。これらの数値は上記の図13、14、および15のグラフではそれぞれの2点鎖線で表されている。
一方、対物反射鏡の角度がβ−xであるときのd
1xは対物反射鏡の角度がβであるとき、すなわちxがゼロであるときのd
1を超える値でなければならない。したがってd
1xはそれぞれのグラフで上記2点鎖線より若干上に来るはずであり、グラフ領域の中でこの2点鎖線より上にある直線だけに存在する。したがってこの2本の2点鎖線と交わるか少し上になる直線を与えるxについてだけd
1xを求めればよいことになる。d
1xはそれぞれの直線上で2点鎖線との交点より少し上に来るはずである。
以下の表にそれぞれのxに対応するd
1x値を示す。
図15、16および17の各グラフの線上にプロットした×印がそのx値に対応するd
1xであり、その点に対応する横軸の値V値が対応する視対象の距離になる。したがって×印に対応するV値とx値が互いに対応することになる。
本フレームの想定する基本的な用途は手持ちあるいは机上で使用する書籍や文書、画像類やテレビ、パソコン用ディスプレー、PDAなどであり、老眼鏡程度の低倍率ルーペ併用の場合を含め、通常の視対象の距離は20cmから50cmとして差し支え無いと思われ、この範囲は図16でカバーされており、xは0.75度から2.5度の範囲に収まっている。したがって通常はこの範囲内で問題無く調節出来れば問題無く使用できると考えられる。
室内空間でテレビなどを鑑賞する場合、本装置を使用するとすれば比較的小型の画面になるので3m程度に照準を合わせると十分と考えられ、図15から、0.1〜0.2度の範囲で固定すれば問題無いと思われる。
拡大凸レンズを挿入使用する場合、倍率によって非常に視対象の距離が変化する。10倍の高倍率ルーペレンズになると視距離は2.5cm付近となり、図13から、10度を遙かに超えることがわかり、5倍のルーペの視距離に相当する5cmでも10度を超え、このとおりに対物反射鏡を調節すると、他の要素に相当な影響が及ぶ事が予想される。しかし、2倍のルーペの標準的な視距離に相当する12.5cmでは3〜4度であり、20cmの場合とそれほど変わらないと言える。また、2倍を超える高倍率のルーペを使用する場合は通常、きわめて狭い範囲を観察する場合に使用するので、必ずしも通常の距離と同じ視野を確保する必要は無いと思われる。通常は2倍程度のルーペにまで同じ視野が確保できれば問題が無いと考えると、xとして最大で3度までの範囲で一定の視野が確保できれば通常の目的での実用に問題は無いであろうと思われる。最高倍率のルーペ用に向けてはそれに応じた専用の設計にすることも可能である。
最大で3度までをxの値として確保すれば実用上に問題無いことが判明したので、パラグラフ0071の問題に戻り、xを3度以内に収めた場合に接眼反射鏡がどの程度視野を妨害するかどうかを検討する。図13に見られるように、この妨害範囲は小さく、無視できる程度であることが図から読み取れる。数値的には、この妨害範囲はつぎのようにして算出する。
妨害範囲は図13(βが45度)においても図14(βが50度)においてもh h’間でありこれは接眼反射鏡の外端からh h’の幅の範囲であり、p hとp h’との比を取れば視野の比が表されることになる。h h’はp hとp h’の差であり、p hは三角形p e h、p h’は三角形p e’ h’からそれぞれp eとp e’に対する比として正弦定理より求められ、p eとp e’の比は三角形p e e’において正弦定理より求められる。そしてp eは対物反射鏡の幅Aに相当する。そこでp e’をA’とすると、以下の各式が成立する。
正弦定理により、
また、三角形pehから、正弦定理により、Aとphの比は次のようになる。
また、三角形peh’から、正弦定理によりA’とph’の比は次のようになる。
妨害される視野の範囲はph−ph’となり、妨害される割合はその値をphで割った数値である。それを関係式で表すと複雑になるので省略し、上述のようにαを17度、ωを45度および40度とし、xを3度として、この妨害範囲を計算する。
図13はβが45度であるので図5と重なり、βとωとが重なっている。しかい45度以外の場合、βとωとは重ならない。図14はβが50度の場合で、βとωとが重なっていない。この場合ωは上述の数式15より、40度である。接眼反射鏡が妨害する視野の範囲はp h−p h’間となり、妨害される視野の割合はその値をp h’で割った数値である。それを関係式で表すと複雑になるので省略し、上述のようにαを17度、βを45度および50度とし、xを3度として、この妨害範囲をA(対物反射鏡幅)に対する比として計算すると次表のようになる:
表8から、ωが45度すなわちβが45度の場合は妨害される視野は0.3%であり、完全に無視できるのに対し、βが50度の場合は2.8%の大きさになる。これは片側であり、左右両眼では妨害される側は反対側になるので、左右で5.4%の視野が妨害される事になる。視野2αが34度の場合、34度の5.4%となり、これは1.8度であり、左右で約2度だけ視野が狭くなることになる。
但し、これはxを調節範囲の最大の3度に取った場合であり、通常の視対象の距離である50cm程度の場合には、xは1.5度程度であり、ちょうど半分程度になるので、視野の妨害はその半分、すなわち左右合わせて1度以下である。これは事実上問題無い大きさであると言える。
ある程度は接眼反射鏡の視野を妨害する部分を削ることによって一定の補正は可能である。しかし、xの最大調節範囲である3度に合わせて妨害領域を削った場合、xを3度以内に調節した場合の反射領域が削られることになるので望ましくない。従って通常使用される視対象に合わせてxを1.5度とした場合の妨害部分を削る事になるが、削った部分だけ、妨害される側と反対側の反射領域を削ることになる。この場合に反対側で減少する視野の領域は、p h’ではなく、h jに対する比で表される。p h’とh jとの比はAとBの比に大体等しく、BはAの約1/2になるので、接眼反射鏡の妨害範囲を削ると、回復できた視野の2倍が反対側で削減されることになり、左右の視野減少域はむしろ大きくなる。しかし、妨害領域の一部を削ることによって、両眼それぞれにとって左右両側が同じだけの視野が減少するようにすれば左右両眼共に両端の同一部分の視野が減少することになるので、両眼での視野減少域を少なくすることができる。そのためには反射鏡幅の妨害領域の1/3を削除することになる。こうすることで視野の妨害率は両側それぞれ削除しない場合の視野妨害率の2/3ずつとなり、合計で4/3となり、むしろ妨害範囲は増加するが、左右両眼では妨害範囲が重なり合うので2倍になることがなく、ωが50度の場合は左右で1.2度に押さえることが可能になる。視野のパーセントでは1.8パーセントであり、これはそのまま接眼反射鏡の幅を削るパーセントになり、0.3mm弱になる。
以上は視差の輻輳角度をゼロ付近に持ってくることを前提にした設計である。しかし輻輳角度を0にすると、人によっては慣れるまで時間がかかる場合もあり、照準を合わせた距離よりも遠方の対象を見るには輻輳角度が負になるので、見づらくなる可能性もある。したがって照準を合わせた距離の対象に対してある程度の輻輳角度を持たせるか調節するような設計も想定できる。ある程度の輻輳角度を持たせると、視野の中心に照準を合わせた距離よりも遠方を見る場合に輻輳角度がマイナスになることを防止できるという利点がある。しかし輻輳角度を調節する設計はさらに複雑な設計になる。
上記の設計でそのまま視対象に輻輳角度を付けるには、目的の視対象よりも遠方に視野の中心の照準を合わせることによって簡単に実現できるが、この場合には反射鏡の有効幅が減少し、左右の視野対象領域が完全に一致せず、視野の左右に無駄な部分が生じ、視野が狭くなる(図2の視野図O’参照)。この場合にも視野全域を確保し、反射鏡の有効な幅を維持するように設計するにはやや複雑な機構が必要になる。具体的には左右の接眼反射鏡の左右の外端の一部が無効になり、反対側部分が不足するため、視野を保つには両側の接眼反射鏡をその幅方向と平行にずらせる必要がある。その距離はわずかであるが、他方で対物反射鏡をも前方へ移動させる必要が生じるので対物反射鏡を前後に移動させる機構が必要になる。
あるいは、最初から一定の固定した輻輳角度を付けた設計も可能で、以上の設計手順をそのまま利用できる。たとえば図3において両眼を結ぶ線を(I)ではなく(II)とすることによってそのような設計が可能になる。しかし、この場合は接眼反射鏡が眼から遠ざかり、対物反射鏡が顔面の方に近づいて来るので、輻輳角度を大きくとることは難しい。しかし本来、輻輳角度を大きくとることは無意味であり、本システムの趣旨に反することでもあり、ごくわずかな輻輳角度を付けたい場合には利用できる方法であると思われる。
以上が問題を解決する手段としての平面型の光学系と使用者の瞳孔距離に合わせてそれを変化させる方法である。次に三次元型、すなわち視野拡張タイプを考察する。視差を低減するシステムは、基本的に両眼の間に全ての光学系を収めなければならないという問題がある。しかし、これは両眼の高さにある平面のみで考察している場合であって、両眼の高さの平面以外の平面を考慮し、三次元的なシステムにすることによって、少なくとも部分的に制約を打ち破ることが可能になり、ある程度の視野を拡張することができる。
同一平面上で視野を拡大しようとすれば図19のように、どうしても対象からの光線に対し、二つの反射鏡に重なる部分が生じ、視野が妨害される事になる。図19〜図21は二次元型の平面的反射光学系に対して垂直な反射光学系を加味したものであり、具体的には対物反射鏡を接眼反射鏡とは異なる上部の平面に持ってきた場合を図示したものである。これはこうすることによって、対物反射鏡の一端と接眼反射鏡の一端とが同一平面では重なってしまうという問題が除去される。さらに左右の対物反射鏡の光学系平面も異なる平面にすることによって、左右の視差をゼロにすることは可能であるが、こうすれば左右の対称性が損なわれ、対象から左右の眼に到達するまでの距離が可成り変化し、画質に影響する。従って左右の光学系を非対称な平面に持ってくることは避けることが望ましい。
図20において対物反射鏡と接眼反射鏡のそれぞれの平面を異なった高さに持ってくる場合の、各長さの関係を示す。この図は図5と同様、実際の反射光路を示すものではなく、反射光路を1つの方向に展開した図である。
図20において対物反射鏡の位置は図4と同一の作図により、図4と同一の条件、すなわちωが45度、αが15度の場合の対物反射鏡の反射面の位置が「対物鏡面1」で表されており、αを25度にまで拡大した場合の位置が「対物鏡面2」で表されている。一方、接眼反射鏡の位置は対物反射鏡とは異なった高さ、この場合はhだけ下方の位置とする。そうすると対物反射鏡と接眼反射鏡との距離は平面上の距離D
2に上下方向の距離hをも加味する必要がある。したがって現実の両反射鏡の距離はピタゴラスの定理により次のようになる。
この図は投影図ではなく光路の展開図であるため、接眼反射鏡面はD
hだけ離れた位置である「接眼反射鏡面2」の位置に来ることになる。それ以外の主要数値、すなわち瞳孔距離に対応する長さのD、視野の1/2であるδ、対物反射鏡の反射面の下端幅A、接眼反射鏡の下端幅B、および接眼距離に対応する長さE
pとの関係式は下記のようになる。
但し、
また、数式5はD1をD12に、αをδに置き換える事ができ、数式14のαもδに置き換える事ができる。
いまD
2を0とおくと、数式31は次のようになる
ここで仮にEを1cm、hを2cmとすると、AはBの3倍の長さとなる。実用上、Eが1cm、hが2cmという値は最低限以下であろうと思われる。またこの場合の視野δは、すでに検討した平面型で得られる最大の18度以上を期待する場合には平面型の場合よりも大幅に大きなB値(接眼反射鏡の幅)が必要となる。一例として図19のようにδを25度とし、Eを1.2cmとすると数式14からBは約2cmとなり、A値はその3倍を超えるので6cmを大幅に超えるものとなる。また、次項で述べるように反射鏡の上端の幅は更に増加する。
これまですべての図において、視野、すなわち光路を表す線は縦に位置する反射鏡の上端と下端の中間付近、すなわち、視線の高さの平面上であるものとする。図1から図20までの視野を表すすべての図もすべて視線の高さにある平面上と見なされるが、平面型、すなわち図1から図15までの場合は投影図あるいは水平成分と考えれば両反射鏡の有効面の上端の平面であっても下端の平面であっても同じ事であるのに対し、この三次元型の場合、両反射鏡を前後方向にも、すなわち上方を前方に向けても傾けなければならない。したがって、高さ、すなわち視線の平面から上下方向に角度の付いた高さによって水平成分あるいは視線の平面と同一の平面に投影した図形は異なってくる。具体的には、上方では反射面がより前方に移動するので、それだけ前方への距離成分が加わることになる。
図21は図20で展開された光路を実際の反射面での反射光路に置き換えたものを1つの平面に投影した図である。これも実線は反射鏡中間付近の高さである視線の高さの平面における視野を表しているが、2点鎖線は反射鏡上端を通る、角度の付いた光路の水平成分を表している。この図でAuは対物反射鏡の上端の幅を表している。三次元型では両反射鏡を前のめりに傾けるため、投影すると上端面は例えばこの図のp’ e’の位置に来る。ところがp’ rは中心線を超えた左眼の領域であり、カットせざるを得ない。したがって、視野の上方で左右の視野が狭まるという欠陥が生じる。
以上のような欠点はあるが、視野を拡大する手法としての三次元型を作成することは可能である。ただし、反射鏡、特に対物反射鏡が非常に大きくなり、形も複雑になるので、眼鏡のように装着する方式では難しく、スタンド形式が向いている。
さらに、平面型と三次元型の中間的なものとして、対物反射鏡と接眼反射鏡の高さを、それぞれの反射鏡の高さ全体として異なった平面におくのではなく、若干高さをずらせることも考えられる。これは視野を拡大する目的ではなく、対物反射鏡をやや高い位置に持ってくることにより、鼻の高さなど、顔面の凹凸による障碍を避ける目的で採用できる可能性がある。この場合も上記の設計基準が適用可能である。