ところで、上述したような回転式圧縮機では、その運転条件によって、圧縮室内の圧力が変化する。具体的には、例えば蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行う冷凍装置等に、この回転式圧縮機を適用する場合、冷凍サイクルの圧力条件に応じて、圧縮室内の圧力が大きく変化する。一方、上記のように油ポンプによって潤滑油を圧縮室へ供給する構成において、圧縮室の内圧が変動してしまうと、これに応じて圧縮室へ供給される油の量も変化してしまう。従って、運転条件によっては、圧縮室内へ供給される油が過剰となって油上がりを招いたり、圧縮室内へ供給される油が不足して潤滑不良を招いたりする、という問題が生じる。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、圧縮室の圧力変化により、圧縮室へ供給される油の流量が変動してしまうことを抑制することである。
第1の発明は、電動機(20)と、該電動機(20)と連結する駆動軸(23)と、該駆動軸(23)の偏心部(25,26)に外嵌して回転駆動される可動部材(32,42)と、該可動部材(32,42)との間に圧縮室(S11,S12,S21,S22)を形成する固定部材(31,41,51,57)とを有する少なくとも1つの圧縮機構(30,40)と、上記圧縮室(S11,S12,S21,S22)へ油を供給するための油供給機構(60)を備えた回転式圧縮機を対象とする。そして、この回転式圧縮機は、上記油供給機構(60)が、油を搬送する油搬送部(28)と、該油搬送部(28)によって搬送された油が流れる油供給路(61)と、上記可動部材(32,42)の偏心回転に伴って上記油供給路(61)と間欠的に連通する油補給室(83,86)とを有し、上記圧縮機構(30,40)は、上記可動部材(32,42)の1回の偏心回転中に、上記油供給路(61)と上記油補給室(83,86)とが連通すると同時に油供給路(61)と上記圧縮室(S11,S12,S21,S22)とが遮断される第1状態と、上記油供給路(61)と上記油補給室(83,86)とが遮断されると同時に該油補給室(83,86)と圧縮室(S11,S12,S21,S22)とが連通する第2状態とに、切り換わるように構成されていることを特徴とする。
第1の発明では、可動部材(32,42)が固定部材(31,41,51,57)に対して偏心回転することで、圧縮室内で流体が圧縮される。本発明の油供給機構(60)は、油搬送部(28)と油供給路(61)と油補給室(83,86)とを有する。油搬送部(28)によって搬送された油は油供給路(61)を流れる。回転式圧縮機の運転時に可動部材(32,42)が偏心回転すると、油補給室(83,86)が油供給路(61)と間欠的に連通する。
具体的に、可動部材(32,42)の1回の偏心回転中において、圧縮機構(30,40)は、第1状態と第2状態とに切り換わる。第1状態では、油供給路(61)と油補給室(83,86)とが連通する。この状態では、油補給室(83,86)が圧縮室(S11,S12,S21,S22)と遮断されているため、油補給室(83,86)には、所定量の油が充填される。第2状態となると、油補給室(83,86)と圧縮室(S11,S12,S21,S22)とが連通する。これにより、油補給室(83,86)内の油が圧縮室(S11,S12,S21,S22)へ流出する。従って、圧縮室(S11,S12,S21,S22)へは油補給室(83,86)に充填された所定量の油が供給され、この油が摺動部の潤滑に利用される。
その後、再び第1状態になると、油供給路(61)の油が油補給室(83,86)に再び充填される。その後、第2状態になると、油補給室(83,86)の油が再び圧縮室(S11,S12,S21,S22)へ供給される。以上のようにして、回転式圧縮機の運転中には、圧縮機構(30,40)が第1状態と第2状態とに交互に切り換わる。その結果、圧縮室(S11,S12,S21,S22)には、油補給室(83,86)の容積に応じた一定量の油が間欠的に供給される。
第2の発明は、第1の発明において、上記可動部材(32,42)と固定部材(31,41,51,57)のいずれか一方に、上記油供給路(61)に連通可能な上記油補給室(83,86)が形成され、上記可動部材(32,42)と固定部材(31,41,51,57)の他方には、上記圧縮室(S11,S12,S21,S22)の一部を成す油補給溝(84)が形成され、上記圧縮機構(30,40)は、上記可動部材(32,42)の1回の偏心回転中に、上記油供給路(61)と上記油補給室(83,86)とが連通すると同時に該油補給室(83,86)と上記油補給溝(84)とが遮断される第1状態と、上記油供給路(61)と上記油補給室(83,86)とが遮断されると同時に該油補給室(83,86)と上記油補給溝(84)とが連通する第2状態とに、切り換わるように構成されている。
第2の発明では、可動部材(32,42)及び固定部材(31,41,51,57)の一方に油補給室(83,86)が形成され、他方に油補給溝(84)が形成される。このため、可動部材(32,42)と固定部材(31,41,51,57)との相対的な偏心運動に伴い、油補給室(83,86)と油補給溝(84)とが間欠的に断続する。具体的に、圧縮機構(30,40)が第1状態になると、油供給路(61)と油補給室(83,86)とが連通し、油補給室(83,86)に油が充填される。その後、第2状態になると、油補給室(83,86)と油補給溝(84)とが連通し、油補給室(83,86)内の油が油補給溝(84)に供給される。これにより、圧縮室(S11,S12,S21,S22)の摺動部が潤滑される。
第3の発明は、第2の発明において、上記可動部材(32,42)は、上記偏心部(25,26)が外嵌する可動側鏡板部(32a,42a)と、該可動側鏡板部(32a,42a)から軸方向に突設される環状ピストン部(32b,42b)とを有するピストン(32,42)で構成され、上記固定部材(31,41,51,57)は、固定側鏡板部(31a,41a)と、該固定側鏡板部(31a,41a)から上記可動側鏡板部(32a,42a)に向かって突設される内側シリンダ部(31c,41c)及び外側シリンダ部(31b,41b)を有するシリンダ(31,41)で構成され、上記内側シリンダ部(31c,41c)と外側シリンダ部(31b,41b)との間には、上記環状ピストン部(32b,42b)が収容されて該環状ピストン部(32b,42b)の内側と外側とに圧縮室が区画されるシリンダ室(S11,S12,S21,S22)が形成され、上記可動側鏡板部(32a,42a)の内部には、流入端が上記油供給路(61)と連通し、流出端が該可動側鏡板部(32a,42a)における環状ピストン部(32b,42b)の内側部位に臨むように連通路(82)が形成され、上記油補給室(83,86)は、上記内側シリンダ部(31c,41c)の先端面に形成される凹溝(83)で構成され、上記油補給溝(84)は、上記可動側鏡板部(32a,42a)における上記内側圧縮室(S12,S22)に臨む部位に形成され、上記圧縮機構(30,40)は、上記ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、上記凹溝(83)と上記連通路(82)の流出端とが連通すると同時に上記油補給溝(84)が開放される第1状態と、上記凹溝(83)と上記連通路(82)とが遮断されると同時に上記凹溝(83)と上記油補給溝(84)とが連通する第2状態とに、切り換わるように構成されていることを特徴とする。
第3の発明では、内側シリンダ部(31c,41c)と外側シリンダ部(31b,41b)との間のシリンダ室(S11,S12,S21,S22)に環状ピストン部(32b,42b)が収容される。ピストン(32,42)がシリンダ(31,41)に対して偏心回転することで、環状ピストン部(32b,42b)の内側の内側圧縮室(S12,S22)と、環状ピストン部(32b,42b)の外側の外側圧縮室(S11,S21)とでそれぞれ流体が圧縮される。
本発明の圧縮機構(30,40)は、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、第1状態と第2状態とに切り換わる。圧縮機構(30,40)が第1状態になると、内側シリンダ部(31c,41c)の先端に形成された凹溝(83)が連通路(82)を介して油供給路(61)と連通する。これにより、凹溝(83)の内部に油が充填される。その後、圧縮機構(30,40)が第2状態になると、凹溝(83)が油補給溝(84)に連通し、凹溝(83)内の油が油補給溝(84)内に供給される。その後、圧縮機構(30,40)が再び第1状態になると、油供給路(61)の油が凹溝(83)内に再び充填される。同時に、油補給溝(84)が開放されて圧縮室(S11,S12,S21,S22)の摺動部の潤滑がなされる。以上のようにして、回転式圧縮機の運転中には、ピストン(32,42)とシリンダ(31,41)との相対的な偏心運動に伴い、圧縮機構(30,40)が第1状態と第2状態と交互に切り換わる。その結果、圧縮室(S11,S12,S21,S22)内には、凹溝(83)の容積に応じた一定量の油が間欠的に供給される。
第4の発明は、第1の発明において、上記可動部材(32,42)は、上記偏心部(25,26)が外嵌する可動側鏡板部(32a,42a)と、該可動側鏡板部(32a,42a)から軸方向に突設される環状ピストン部(32b,42b)とを有するピストン(32,42)で構成され、上記固定部材(31,41,51,57)は、固定側鏡板部(31a,41a)と、該固定側鏡板部(31a,41a)から上記可動側鏡板部(32a,42a)に向かって突設される内側シリンダ部(31c,41c)及び外側シリンダ部(31b,41b)を有するシリンダ(31,41)で構成され、上記内側シリンダ部(31c,41c)と外側シリンダ部(31b,41b)との間には、上記環状ピストン部(32b,42b)が収容されて該環状ピストン部(32b,42b)の内側と外側とに圧縮室(S11,S12,S21,S22)が区画されるシリンダ室(S11,S12,S21,S22)が形成され、上記可動側鏡板部(32a,42a)の内部には、流入端が上記油供給路(61)と連通し、流出端が該可動側鏡板部(32a,42a)における環状ピストン部(32b,42b)の内側部位に臨むように、上記油補給室としての貫通穴(86)が形成され、上記圧縮機構(30,40)は、上記ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、上記貫通穴(86)の流入端が上記油供給路(61)と連通すると同時に該貫通穴(86)の流出端が上記内側シリンダ部(31c,41c)の先端面に閉塞される第1状態と、上記貫通穴(86)の流入端が上記油供給路(61)と遮断されると同時に該貫通穴(86)の流出端が上記内側圧縮室(S12,S22)に開放される第2状態とに、切り換わるように構成されていることを特徴とする。
第4の発明では、第3の発明と同様、ピストン(32,42)がシリンダ(31,41)に対して偏心回転することで、内側圧縮室(S12,S22)と外側圧縮室(S11,S21)との双方で流体が圧縮される。圧縮機構(30,40)が第1状態になると、油供給路(61)と貫通穴(86)とが連通する。この状態では、貫通穴(86)の流出端が内側シリンダ部(31c,41c)に閉塞されているため、貫通穴(86)の内部に油が充填される。この第1状態から第2状態になると、貫通穴(86)の流出端が内側圧縮室(S12,S22)に開放される。これにより、内側圧縮室(S12,S22)の摺動部の潤滑がなされる。
第5の発明は、第3又は第4の発明において、上記駆動軸(23)が貫通する環状に形成されて上記可動側鏡板部(32a,42a)の背面側に設けられる環状部材(51)と、上記駆動軸(23)を囲むように上記可動側鏡板部(32a,42a)と上記環状部材(51)との間に介設されるシールリング(52,53)とを更に備え、上記油供給路(61)は、上記偏心部(25,26)の外周に油を供給するための偏心部給油路(62,63)と、上記駆動軸(23)と上記環状部材(51)との間に形成される筒状空間(S)と、上記筒状空間(S)と上記連通路(82)又は該筒状空間(S)と上記貫通穴(86)とを連通させるように上記環状部材(51)の軸端内周縁部に形成される内溝(81)とを含んでいることを特徴とする。
第5の発明では、可動側鏡板部(32a,42a)の背面側に環状部材(51)が設けられ、且つ可動側鏡板部(32a,42a)と環状部材(51)との間にシールリング(52,53)が設けられる。油搬送部(28)によって搬送された油は、偏心部給油路(62,63)を通じて偏心部(25,26)の外周に供給される。これにより、偏心部(25,26)の摺動部の潤滑がなされる。偏心部(25,26)の外周に供給された油は、環状部材(51)の内周壁と駆動軸(23)のとの間の筒状空間(S)に流入する。このため、シールリング(52,53)の内側は、筒状空間(S)の油の圧力と同等の圧力状態となる。その結果、可動側鏡板部(32a,42a)の背面側に押し付け力が作用し、ピストン(32,42)がシリンダ(31,41)側に向かって押し付けられる。筒状空間(S)の油は、環状部材(51)の内溝(81)を介して上記連通路(82)や貫通穴(86)に送られ、更に油補給室(83,86)を介して圧縮室(S11,S12,S21,S22)へ供給される。
第6の発明は、第5の発明において、上記駆動軸(23)には、軸方向に2つの偏心部(25,26)が並設され、上記各偏心部(25,26)に外嵌する可動部材(32,42)と、該可動部材(32,42)との間に圧縮室(S11,S12,S21,S22)を形成する固定部材(31,41,51,57)とをそれぞれ有する2つの圧縮機構(30,40)と、上記各偏心部(25,26)の外周に油をそれぞれ供給するための2つの偏心部給油路(62,63)とを備え、上記環状部材(51)は、上記2つの可動部材(32,42)の可動側鏡板部(32a,42a)の間に介設され、上記各可動側鏡板部(32a,42a)と上記環状部材(51)との間にそれぞれシールリング(52,53)が設けられていることを特徴とする。
第6の発明の回転式圧縮機には、2つの圧縮機構(30,40)が設けられる。各偏心部給油路(62,63)より各偏心部(25,26)へ供給された油は、筒状空間(S)に流出する。筒状空間(S)の周囲には、2つのシールリング(52,53)が設けられる。このため、各シールリング(52,53)の内側は、筒状空間(S)の油の圧力と同等の圧力状態となる。その結果、各可動側鏡板部(32a,42a)にそれぞれ押し付け力が作用する。
一方、このようにして筒状空間(S)に油を供給する構成において、仮に筒状空間(S)内に油が滞留してしまうと、この油の温度が徐々に上昇していく。そうすると、筒状空間(S)の近傍の各偏心部(25,26)の摺動部周りの油の温度も上昇していき、この油の粘度が低下してしまう。その結果、各偏心部(25,26)の摺動部が潤滑不良となり、焼き付き等の原因となる。そこで、本発明では、筒状空間(S)に溜まった油を該筒状空間(S)から速やかに流出させるようにしている。
即ち、筒状空間(S)の油は内溝(81)に流出した後、連通路(82)又は貫通穴(86)を経由して油補給室(83,86)に送られ、その後に圧縮室(S11,S12,S21,S22)へ供給される。このため、筒状空間(S)での油の滞留を抑制でき、この油の温度上昇も回避できる。従って、各偏心部(25,26)の摺動部周りの油の温度上昇も防止でき、所望とする潤滑性能を得ることができる。
第7の発明は、第1乃至第6のいずれか1つの発明において、冷媒を圧縮する低段側圧縮機構(30,40)と、該低段側圧縮機構(30,40)で圧縮した冷媒を更に圧縮する高段側圧縮機構(30,40)とから成る2つの圧縮機構(30,40)を備え、上記低段側圧縮機構(30,40)と高段側圧縮機構(30,40)のうち、該高段側圧縮機構(30,40)のみに上記油補給室(83,86)が設けられることを特徴とする。
第7の発明では、低段側圧縮機構(30,40)で圧縮された冷媒が、更に高段側圧縮機構(30,40)で圧縮される。つまり、本発明の回転式圧縮機は、2段圧縮式に構成されている。このような2段圧縮式の回転式圧縮機では、高段側圧縮機構(30,40)の圧縮室(S11,S12,S21,S22)の内圧の方が、低段側圧縮機構(30,40)の圧縮室の内圧よりも高くなる。このため、低段側圧縮機構(30,40)と比べると、高段側圧縮機構(30,40)の方が、圧縮室への油の供給が困難となる。よって、両者の圧縮機構(30,40)では、高段側圧縮機構(30,40)の圧縮室(S11,S12,S21,S22)の方が潤滑油の油量が不足し易くなる。これに対し、本発明では、この高段側圧縮機構(30,40)に上記の油補給室(83,86)を設けているため、高段側圧縮機構(30,40)の圧縮室へ所定量の油を確実に供給することができる。
本発明によれば、可動部材(32,42)の1回の偏心回転中に、油供給路(61)と油補給室(83,86)とを連通させ、その後に油補給室(83,86)を圧縮室(S11,S12,S21,S22)と連通させている。これにより、可動部材(32,42)の1回の偏心回転中に、油補給室(83,86)の容積に相当する油を該油補給室(83,86)に充填させ、その後に、この充填された油を圧縮室(S11,S12,S21,S22)に供給することができる。このため、本発明では、例えば圧縮室(S11,S12,S21,S22)の内圧が変動しても、一定の量の油を圧縮室(S11,S12,S21,S22)へ安定して供給することができる。従って、圧縮室(S11,S12,S21,S22)へ供給する油の量が過剰となって、油上がりを招いたり、圧縮室(S11,S12,S21,S22)へ供給する油の量が不足して摺動部の潤滑不良を招いたり、することを回避できる。その結果、この回転式圧縮機の信頼性を確保できる。
第2の発明では、固定部材(31,41,51,57)と可動部材(32,42)の相対的な偏心回転運動に伴って、油補給室(83,86)の油を油補給溝(84)に貯めながら、この油を圧縮室(S11,S12,S21,S22)の摺動部の潤滑に利用することができる。
第3の発明では、環状ピストン部(32b,42b)の内側圧縮室(S12,S22)と内側圧縮室(S11,S12,S21,S22)との双方で流体を圧縮する構成において、内側シリンダ部(31c,41c)の凹溝(83)を用いながら、該凹溝(83)内に充填した油を内側圧縮室(S12,S22)に安定して供給することができる。
第4の発明では、ピストン(32,42)の可動側鏡板部(32a,42a)に形成した貫通穴(86)を用いながら、該貫通穴(86)に充填した油を内側圧縮室(S12,S22)に安定して供給することができる。
第5の発明では、油供給路(61)を流れる油により偏心部(25,26)の潤滑を行いつつ、更にシールリング(52,53)の内側の内圧を利用してピストン(32,42)をシリンダ(31,41)側に押し付けることができる。
特に、第6の発明では、2つのシールリング(52,53)の内側の内圧を利用して各ピストン(32,42)を、対応するシリンダ(31,41)側に押し付けることができる。また、筒状空間(S)に溜まった油を速やか且つ安定的に圧縮室(S11,S12,S21,S22)内へ供給することで、筒状空間(S)内の油の温度上昇、ひいては各偏心部(25,26)の摺動部の潤滑油の温度上昇も回避できる。従って、各偏心部(25,26)の摺動部の潤滑油の粘度が上昇して潤滑不良を招いてしまうことも確実に回避できる。
更に、第7の発明では、特に潤滑不良を招きやすい、高段側圧縮機構(30,40)の圧縮室(S11,S12,S21,S22)に安定的に油を供給することができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態1に係る回転式圧縮機は、例えば空気調和装置の冷媒回路に設けられ、蒸発器から吸入した冷媒を圧縮して凝縮器へ吐出する。
図1に示すように、回転式圧縮機(10)は、縦長で密閉容器状のケーシング(11)を備えている。ケーシング(11)は、縦長の円筒状に形成された胴部(12)と、椀状に形成されて、胴部(12)の両端に外側に凸に配設される一対の端板部(13)とによって構成されている。ケーシング(11)の内部には、電動機(20)と、低段側の第1圧縮機構(30)及び高段側の第2圧縮機構(40)を有して冷媒を二段圧縮する圧縮機部(50)とが収納されている。
ケーシング(11)の胴部(12)には、低段側の第1圧縮機構(30)に接続される第1吸入管(14)及び第1吐出管(15)が、該胴部(12)を厚み方向に貫通するように設けられている。また、胴部(12)には、高段側の第2圧縮機構(40)に接続される第2吸入管(16)が、該胴部(12)を貫通するように設けられている。さらに、胴部(12)の上方側を塞ぐ端板部(13)には、第2吐出管(17)が該端板部(13)を貫通するように設けられ、該第2吐出管(17)はケーシング(11)の内部空間(S10)と連通している。なお、図示を省略するが、第1吐出管(15)と第2吸入管(16)とは、ケーシング(11)の外部において接続されている。
このような構成により、回転式圧縮機(10)は、高段側の第2圧縮機構(40)において圧縮された冷媒がケーシング(11)の内部空間(S10)に吐出され、第2吐出管(17)を介してケーシング(11)の外部へ排出されるように構成されている。つまり、回転式圧縮機(10)は、ケーシング(11)の内部空間(S10)が高圧圧力状態となる、いわゆる高圧ドーム型の圧縮機に構成されている。
ケーシング(11)の内部には、胴部(12)と平行に延びる駆動軸(23)が設けられている。電動機(20)及び圧縮機部(50)は、該駆動軸(23)を介して連結されている。密閉容器状のケーシング(11)の底部には、圧縮機部(50)の各摺動部に供給される潤滑油を貯留する油溜まり(18)が形成されている。
駆動軸(23)は、主軸部(24)と2つの偏心部(25,26)とを有している。駆動軸(23)では、2つの偏心部(25,26)が所定の間隔を介して軸方向に並設されている。本実施形態では、上側偏心部(26)は、主軸部(24)の中央寄りに設けられ、下側偏心部(25)は、主軸部(24)の下端寄りの位置に設けられている。両偏心部(25,26)は、主軸部(24)よりも大径の円柱状に形成され、それぞれ軸心が主軸部(24)の軸心に対して偏心している。また、上側偏心部(26)と下側偏心部(25)とは、主軸部(24)の軸心を中心として互いに180°位相がずれるように形成されている。また、駆動軸(23)では、上側偏心部(26)と下側偏心部(25)との間の部位が中間軸部(27)を構成している。
駆動軸(23)の下端には、油溜まり(18)に浸漬する給油ポンプ(28)が設けられている。給油ポンプ(28)は、油溜まり(18)に溜まった油を搬送するための油搬送部を構成している。駆動軸(23)の内部には、給油ポンプ(28)が吸い上げた潤滑油が流通する軸内流路(61a)が軸方向に延びて形成されている。軸内流路(61a)は、油溜まり(18)の油を潤滑油として、圧縮機構(30,40)の各摺動部へ供給するための油供給路(61)の一部を構成している。また、上記給油ポンプ(28)と油供給路(61)とは、第2圧縮機構(40)の圧縮室等の摺動部へ潤滑油を供給するための油供給機構(60)の一部を構成している。この油供給機構(60)の詳細は後述する。
電動機(20)は、ステータ(21)とロータ(22)とを備えている。ステータ(21)は、ケーシング(11)の胴部(12)に固定されている。一方、ロータ(22)は、ステータ(21)の内側に配置され、駆動軸(23)の主軸部(24)に連結されている。電動機(20)は、インバータ装置からの出力周波数が制御されることで、駆動軸(23)の回転速度を調整できるように構成されている。つまり、本実施形態の回転式圧縮機(10)は、容量が可変に構成されている。
圧縮機部(50)は、第1圧縮機構(30)と第2圧縮機構(40)とミドルプレート(51)とが一体的に組み込まれて構成されている。圧縮機部(50)では、軸方向の下側から上側に向かって、第1圧縮機構(30)、ミドルプレート(51)、第2圧縮機構(40)が順に並んでいる。
図2及び図3に示すように、第1圧縮機構(30)は、第1シリンダ(31)と第1ピストン(32)とを有し、第1シリンダ(31)と第1ピストン(32)との間に圧縮室を構成している。第1ピストン(32)は、下側偏心部(25)に外嵌して回転駆動される可動部材を構成している。第1シリンダ(31)は、ケーシング(11)に固定される固定部材を構成している。これにより、第1シリンダ(31)と第1ピストン(32)とは、相対的に偏心回転運動を行う。
第1シリンダ(31)は、中央に軸受部が形成された平板状の鏡板部(31a)と、該鏡板部(31a)から上方に突出するように形成された筒状の外側シリンダ部(31b)及び内側シリンダ部(31c)とを備えている。外側シリンダ部(31b)は、鏡板部(31a)の径方向外側部位に突設される環状の外歯部を構成している。内側シリンダ部(31c)は、鏡板部(31a)の径方向内側部位に突設される環状の内歯部を構成している。外側シリンダ部(31b)及び内側シリンダ部(31c)は、駆動軸(23)の軸心と同軸となっている。
第1シリンダ(31)では、内側シリンダ部(31c)の内側に第1軸受収容室(39)が形成される。第1軸受収容室(39)には、第1ピストン(32)の軸受部(32c)が収容される。内側シリンダ部(31c)の外周面と外側シリンダ部(31b)の内周面との間には、環状の第1シリンダ室(S11,S12)が形成される。第1シリンダ室(S11,S12)には、第1ピストン(32)の環状ピストン部(32b)が収容される。これにより、第1シリンダ室(S11,S12)には、環状ピストン部(32b)の外側に外側圧縮室(S11)が区画され、環状ピストン部(32b)の内側に内側圧縮室(S12)が区画される。
第1シリンダ(31)は、鏡板部(31a)及び外側シリンダ部(31b)がケーシング(11)の胴部(12)の内面に溶接されることにより固定されている。つまり、第1シリンダ(31)の鏡板部(31a)は、固定側となる固定側鏡板部を構成している。また、第1シリンダ(31)の内部には、駆動軸(23)の主軸部(24)が挿通される軸受部(31d)が形成される。駆動軸(23)の主軸部(24)は、軸受部(31d)によって回転自在に支持されている。
第1シリンダ(31)の鏡板部(31a)には、外周面から径方向の内側向きに延びる第1吸入ポート(14a)が形成されている。この第1吸入ポート(14a)の一端は、外側圧縮室(S11)及び内側圧縮室(S12)に連通するように構成され、他端には第1吸入管(14)が接続されている。つまり、第1吸入ポート(14a)は第1吸入管(14)から外側圧縮室(S11)及び内側圧縮室(S12)に吸入される冷媒を流通させる第1吸入通路を構成している。
第1シリンダ(31)の鏡板部(31a)には、外周面から径方向の内側向きに延びる第1吐出ポート(15a)が形成されている。この第1吐出ポート(15a)の一端は、外側圧縮室(S11)及び内側圧縮室(S12)に連通するように構成され、他端には第1吐出管(15)が接続されている。具体的には、第1吐出ポート(15a)には、外側圧縮室(S11)及び内側圧縮室(S12)の吐出口(35,36)が開口し、該両吐出口(35,36)には吐出弁(37,38)が設けられている。外側圧縮室(S11)の吐出弁(37)は、該外側圧縮室(S11)の高圧室(S11H)と第1吐出ポート(15a)との差圧が設定値に達すると吐出口(35)を開くように構成されている。同様に、内側圧縮室(S12)の吐出弁(38)は、該内側圧縮室(S12)の高圧室(S12H)と第1吐出ポート(15a)との差圧が設定値に達すると吐出口(36)を開くように構成されている。
第1ピストン(32)は、平板状の鏡板部(32a)と、該鏡板部(32a)の径方向外側部位に突設される環状の環状ピストン部(32b)と、鏡板部(32a)の径方向内側部位に突設される筒状の軸受部(32c)とを備えている。第1ピストン(32)の鏡板部(32a)は、可動側となる可動側鏡板部を構成している。環状ピストン部(32b)は、円環の一部分が分断されたC型形状に形成され、第1シリンダ室(S11,S12)に収容される。軸受部(32c)は、駆動軸(23)の下側偏心部(25)に外嵌し、第1軸受収容室(39)に収容されている。第1軸受収容室(39)では、内側シリンダ部(31c)の内周面に対して軸受部(32c)が一定の間隔を確保しながら偏心回転する。これにより、内側シリンダ部(31c)の内部では、流体が実質的に圧縮されることはない。つまり、第1軸受収容室(39)は、冷媒の圧縮に寄与しない、いわゆる無効空間を構成している。
第1圧縮機構(30)は、第1シリンダ室(S11,S12)の外側圧縮室(S11)と内側圧縮室(S12)とを更に高圧室(S11H,S12H)と低圧室(S11L,S12L)とに区画するブレード(33)を備えている。第1ブレード(33)は、第1シリンダ室(S11,S12)の径方向に、外側シリンダ部(31b)の内周面から内側シリンダ部(31c)の外周面に亘って延びている。そして、第1ブレード(33)は、環状ピストン部(32b)の分断箇所を挿通して第1シリンダ室(S11,S12)を高圧室(S11H,S12H)と低圧室(S11L,S12L)とに区画するように構成されている。なお、本実施形態では、第1ブレード(33)は、外側シリンダ部(31b)及び内側シリンダ部(31c)と一体形成されているが、該両シリンダ部(31b,31c)と別部材として形成し、これらに固定するものであってもよい。
第1圧縮機構(30)は、環状ピストン部(32b)の分断箇所に設けられ、第1ピストン(32)と第1ブレード(33)とを揺動可能に連結する第1揺動ブッシュ(34)を備えている。第1揺動ブッシュ(34)は、第1ブレード(33)に対して高圧室(S11H,S12H)側に位置する吐出側ブッシュ(34a)と、該第1ブレード(33)に対して低圧室(S11L,S12L)側に位置する吸入側ブッシュ(34b)とから構成されている。この吐出側ブッシュ(34a)及び吸入側ブッシュ(34b)は、いずれも断面形状が略半円形の同一形状に形成されている。該両ブッシュ(34a,34b)の対向面の間には、上記第1ブレード(33)が進退自在に挟まれている。そして、第1揺動ブッシュ(34)は、該第1ブレード(33)を挟み込んだ状態において、第1ピストン(32)に対して揺動可能に形成されている。なお、両ブッシュ(34a,34b)は一部において連結されて一体的に形成されていてもよい。
第1圧縮機構(30)では、第1ピストン(32)が第1シリンダ(31)に対して偏心回転運動を行う。この偏心回転運動では、環状ピストン部(32b)の外周面と外側シリンダ部(31b)の内周面とが実質的に1点で摺接し、その摺接点と位相が180°ずれた位置において環状ピストン部(32b)の内周面と内側シリンダ部(31c)の外周面とが実質的に1点で摺接する。
第2圧縮機構(40)は、上記第1圧縮機構(30)と同様の機械要素によって構成されている。また、第2圧縮機構(40)は、ミドルプレート(51)を挟んで第1圧縮機構(30)を反転させた状態で設けられている。なお、図2では、第2圧縮機構(40)の構成要素に関する符号を括弧内に示している。
具体的には、第2圧縮機構(40)は、第2シリンダ(41)と第2ピストン(42)とを有し、第2シリンダ(41)と第2ピストン(42)との間に圧縮室を構成している。第2ピストン(42)は、上側偏心部(26)に外嵌して回転駆動される可動部材を構成している。第2シリンダ(41)は、ケーシング(11)に固定される固定部材を構成している。これにより、第2シリンダ(41)と第2ピストン(42)とは、相対的に偏心回転運動を行う。なお、上述のように、下側偏心部(25)と上側偏心部(26)とは、180°位相がずれている。このため、これらの偏心部(25,26)に駆動される第1ピストン(32)及び第2ピストン(42)も、互いに180°位相がずれた状態を保持しながら偏心回転する。
第2シリンダ(41)は、平板状の鏡板部(41a)と、該鏡板部(41a)から下方に突出して形成された筒状の外側シリンダ部(41b)及び内側シリンダ部(41c)とを備えている。外側シリンダ部(41b)は、鏡板部(41a)の径方向外側部位に突設される環状の外歯部を構成している。内側シリンダ部(41c)は、鏡板部(41a)の径方向内側部位に突設される環状の内歯部を構成している。外側シリンダ部(41b)及び内側シリンダ部(41c)は、駆動軸(23)の軸心と同軸となっている。
第2シリンダ(41)では、内側シリンダ部(41c)の内側に第2軸受収容室(49)が形成される。第2軸受収容室(49)には、第2ピストン(42)の軸受部(42c)が収容される。内側シリンダ部(41c)の外周年と外側シリンダ部(41b)の内周面との間には、環状の第2シリンダ室(S21,S22)が形成される。第2シリンダ室(S21,S22)には、第2ピストン(42)の環状ピストン部(42b)が収容される。これにより、第2シリンダ室(S21,S22)には、環状ピストン部(42b)の外側に外側圧縮室(S21)が区画され、環状ピストン部(42b)の内側に内側圧縮室(S22)が区画される。
第2シリンダ(41)は、鏡板部(41a)及び外側シリンダ部(41b)がケーシング(11)の胴部(12)の内面に溶接されることにより固定されている。つまり、第2シリンダ(41)の鏡板部(41a)は、固定側となる固定側鏡板部を構成している。また、第2シリンダ(41)の内部には、駆動軸(23)の主軸部(24)が挿通される軸受部(41d)が形成される。駆動軸(23)の主軸部(24)は、軸受部(41d)によって回転自在に支持されている。
第2シリンダ(41)の鏡板部(41a)には、外周面から径方向の内側向きに延びる第2吸入ポート(16a)が形成されている。この第2吸入ポート(16a)の一端は、外側圧縮室(S21)及び内側圧縮室(S22)に連通するように構成され、他端には上記第2吸入管(16)が接続されている。つまり、該第2吸入ポート(16a)は第2吸入管(16)から外側圧縮室(S21)及び内側圧縮室(S22)に吸入される冷媒を流通させる第2吸入通路を構成している。
第2シリンダ(41)の鏡板部(41a)には、上面から下方に向かって延びる第2吐出ポート(17a)が形成されている。この第2吐出ポート(17a)の一端は、外側圧縮室(S21)及び内側圧縮室(S22)に連通するように構成され、他端はケーシング(11)の内部空間(S10)に開口している。具体的には、第2吐出ポート(17a)には、外側圧縮室(S21)及び内側圧縮室(S22)の吐出口(45,46)が開口し、該両吐出口(45,46)には吐出弁(47,48)が設けられている。外側圧縮室(S21)の吐出弁(47)は、該外側圧縮室(S21)の高圧室(S21H)と第2吐出ポート(17a)との差圧が設定値に達すると吐出口(45)を開くように構成されている。同様に、内側圧縮室(S22)の吐出弁(48)は、該内側圧縮室(S22)の高圧室(S22H)と第2吐出ポート(17a)との差圧が設定値に達すると吐出口(46)を開くように構成されている。
第2ピストン(42)は、平板状の鏡板部(42a)と、該鏡板部(42a)の径方向外側部位に突設される環状の環状ピストン部(42b)と、該鏡板部(42a)の径方向内側部位に突設される筒状の軸受部(42c)とを備えている。環状ピストン部(42b)は、円環の一部分が分断されたC型形状に形成され、第2シリンダ室(S21,S22)に収容される。軸受部(42c)は、駆動軸(23)の上側偏心部(26)に外嵌し、第2軸受収容室(49)に収容されている。第2軸受収容室(49)では、内側シリンダ部(41c)の内周面に対して軸受部(42c)が一定の間隔を確保しながら偏心回転する。これにより、内側シリンダ部(41c)の内部では、流体が実質的に圧縮されることはない。つまり、第2軸受収容室(49)は、冷媒の圧縮に寄与しない、いわゆる無効空間を構成している。
第2圧縮機構(40)は、第2シリンダ室(S21,S22)の外側圧縮室(S21)と内側シリンダ室(S22)とを更に高圧室(S21H,S22H)と低圧室(S21L,S22L)とに区画するブレード(43)を備えている。第2ブレード(43)は、第2シリンダ室(S21,S22)の径方向に、外側シリンダ部(41b)の内周面から内側シリンダ部(41c)の外周面に亘って延びている。そして、第2ブレード(43)は、環状ピストン部(42b)の分断箇所を挿通して第2シリンダ室(S21,S22)を高圧室(S21H,S22H)と低圧室(S21L,S22L)とに区画するように構成されている。なお、本実施形態では、第2ブレード(43)は、外側シリンダ部(41b)及び内側シリンダ部(41c)と一体形成されているが、該両シリンダ部(41b,41c)と別部材として形成し、これらに固定するものであってもよい。
第2圧縮機構(40)は、環状ピストン部(42b)の分断箇所に設けられ、第2ピストン(42)と第2ブレード(43)とを揺動可能に連結する第2揺動ブッシュ(44)を備えている。第2揺動ブッシュ(44)は、第2ブレード(43)に対して高圧室(S21H,S22H)側に位置する吐出側ブッシュ(44a)と、該第2ブレード(43)に対して低圧室(S21L,S22L)側に位置する吸入側ブッシュ(44b)とから構成されている。この吐出側ブッシュ(44a)及び吸入側ブッシュ(44b)は、いずれも断面形状が略半円形の同一形状に形成されている。該両ブッシュ(44a,44b)の対向面の間には、上記第2ブレード(43)が進退自在に挟まれている。そして、第2揺動ブッシュ(44)は、該第2ブレード(43)を挟み込んだ状態において、第2ピストン(42)に対して揺動可能に形成されている。なお、両ブッシュ(44a,44b)は一部において連結されて一体的に形成されていてもよい。
第2圧縮機構(40)では、第2ピストン(42)が第2シリンダ(41)に対して偏心回転運動を行う。この偏心回転運動では、環状ピストン部(42b)の外周面と外側シリンダ部(41b)の内周面とが実質的に1点で摺接し、その摺接点と位相が180°ずれた位置において環状ピストン部(42b)の内周面と内側シリンダ部(41c)の外周面とが実質的に1点で摺接する。
ミドルプレート(51)は、第1圧縮機構(30)と第2圧縮機構(40)との間に設けられている。ミドルプレート(51)は、環状の平板部(51b)と、該平板部(51b)の外周縁部に形成される筒状の筒部(51a)とによって構成されている。平板部(51b)は、軸方向に扁平な環状に形成され、その内部に駆動軸(23)の中間軸部(27)が貫通している。平板部(51b)は、第1ピストン(32)の鏡板部(32a)と、第2ピストン(42)の鏡板部(42a)との間に介設されている。筒部(51a)は、ケーシング(11)の内壁に沿うように軸方向に延出する筒状に形成され、その外周面の少なくとも一部がケーシング(11)の内壁に溶接されている。以上のような構成のミドルプレート(51)は、第1圧縮機構(30)との間に第1空間(S1)を区画し、第2圧縮機構(40)との間に第2空間(S2)を区画している。
ミドルプレート(51)の平板部(51b)には、軸方向の両側の端面にそれぞれ環状溝が形成されており、この環状溝にそれぞれシールリング(52,53)が嵌め込まれている。具体的に、第1ピストン(32)の鏡板部(32a)とミドルプレート(51)との間には、第1シールリング(52)が設けられている。この第1シールリング(52)により、第1空間(S1)は、内側の第1内側背圧室(S3)と外側の第1外側背圧室(S4)とに区画されている。同様に、第2ピストン(42)の鏡板部(42a)とミドルプレート(51)との間には、第2シールリング(53)が設けられている。この第2シールリング(53)により、第2空間(S2)は、内側の第2内側背圧室(S5)と外側の第2外側背圧室(S6)とに区画されている。
第1内側背圧室(S3)及び第2内側背圧室(S5)は、上述した軸内流路(61a)を介してケーシング(11)の内部空間(S10)と連通している。このため、第1内側背圧室(S3)及び第2内側背圧室(S5)は、軸内流路(61a)を流れる高圧の潤滑油と同等の圧力状態(換言すると、ケーシング(11)の内部空間(S10)の内圧と同等の圧力状態)となっている。このため、第1内側背圧室(S3)の内圧により、第1ピストン(32)の鏡板部(32a)を第1シリンダ(31)側へ押し付けることができる。同様に、第2内側背圧室(S5)の内圧により、第2ピストン(42)の鏡板部(42a)を第2シリンダ(41)側へ押し付けることができる。なお、本実施形態の第1外側背圧室(S4)は、第1シリンダ(31)の鏡板部(31a)に形成された低圧導入孔(55)を介して吸入ポート(14a)と連通している。このため、第1外側背圧室(S4)は、第1圧縮機構(30)に吸入される低圧冷媒の圧力と同等の圧力状態となる。これにより、第1ピストン(32)の押し付け力が大きくなり過ぎるのを抑制している。
図4に示すように、本実施形態の油供給機構(60)の油供給路(61)は、上述した軸内流路(61a)に加えて、第1から第4までの流出路(62,63,64,65)を有している。なお、図4では、上述した吸入管(14,16)や吐出管(15,17)等の一部の冷媒の流路の図示を省略している。第1から第4までの流出路(62,63,64,65)は、駆動軸(23)の内部を径方向に延びて形成され、それらの流入端がそれぞれ軸内流路(61a)と接続している。
より詳細に、第1流出路(62)は、下側偏心部(25)の内部に形成され、第1の偏心部給油路を構成している。第1流出路(62)の流出端は、下側偏心部(25)の外周面に開口している。第2流出路(63)は、上側偏心部(26)の内部に形成され、第2の偏心部給油路を構成している。第2流出路(63)の流出端は、上側偏心部(26)の外周面に開口している。第1流出路(62)と第2流出路(63)とは、各偏心部(25,26)の偏心方向に対して90°位相がずれ、且つ互いに180°位相がずれる方向に延びている。第3流出路(64)は、駆動軸(23)のうち下側偏心部(25)の下側近傍の部位に形成されている。第3流出路(64)の流出端は、第1シリンダ(31)の内部に形成される軸受部(31d)に臨んでいる。第4流出路(65)は、駆動軸(23)のうち上側偏心部(26)の上側近傍の部位に形成されている。第4流出路(65)の流出端は、第2シリンダ(41)の内部に形成される軸受部(41d)に臨んでいる。
油供給路(61)は、第1から第4までの縦溝(66,67,68,69)を有している。第1から第4までの縦溝(66,67,68,69)は、駆動軸(23)の外周面を軸方向に延びて形成されている。より詳細に、第1縦溝(66)は、下側偏心部(25)の外周面において、第1流出路(62)の流出端を跨ぐように形成されている。第1縦溝(66)の底部では、その長手方向の中間部位に第1流出路(62)の流出端が形成されている。第2縦溝(67)は、上側偏心部(26)の外周面において、第2流出路(63)の流出端を跨ぐように形成されている。第2縦溝(67)の底部では、その長手方向の中間部位に第2流出路(63)の流出端が形成されている。第3縦溝(68)は、駆動軸(23)のうち第1シリンダ(31)側の軸受部(31d)に対応する位置に形成されている。第4縦溝(69)は、駆動軸(23)のうち第2シリンダ(41)側の軸受部(41d)に対応する位置に形成されている。
油供給路(61)は、第1環状溝(70)と第2環状溝(71)とを有している。第1環状溝(70)と第2環状溝(71)とは、駆動軸(23)の外周面の全周に亘って形成されている。第1環状溝(70)は、下側偏心部(25)の下側近傍であって、上記1縦溝(66)と第3縦溝(68)との間に形成されている。第1縦溝(66)と第3縦溝(68)とは、第1環状溝(70)を介して互いに連通している。また、第1環状溝(70)の底部には、第3流出路(64)の流出端が形成されている。第2環状溝(71)は、上側偏心部(26)の上側近傍であって、上記第2縦溝(67)と第4縦溝(69)との間に形成されている。第2縦溝(67)と第4縦溝(69)とは、第2環状溝(71)を介して互いに連通している。
本実施形態では、上述のように、ミドルプレート(51)の内部を駆動軸(23)の中間軸部(27)が貫通している。このため、ミドルプレート(51)の内周壁と中間軸部(27)との間には、所定のクリアランスを確保するための筒状空間(S)が形成されており、この筒状空間(S)が油供給路(61)の一部を構成している。
図4〜図7に示すように、本実施形態では、第2圧縮機構(40)の内側圧縮室(S22)へ油を供給するための油供給機構(60)として、内溝(81)と連通路(82)と凹溝(83)と油補給溝(84)とが設けられている。
内溝(81)は、ミドルプレート(51)の上端の内周縁部に形成されている。内溝(81)は、筒状空間(S)から径方向外側に膨出する円弧状に形成されている(図5を参照)。また、内溝(81)は、ミドルプレート(51)の内周縁部のうち、上記第2吸入管(16)に近接する部位に形成されている。更に、内溝(81)は、第2ピストン(42)の偏心回転時において、連通路(82)の流入端の偏心軌跡を含む範囲に形成されている。従って、本実施形態では、筒状空間(S)と連通路(82)とが、回転角度に拘わらず、常時連通することになる。
連通路(82)は、第2ピストン(42)の鏡板部(42a)の内部を貫通している。連通路(82)は、鏡板部(42a)における圧縮室側の面に向かうに連れて径方向外方に近づくように斜めに傾斜している。また、連通路(82)は、上記内溝(81)と同様にして、第2吸入管(16)に近接するように径方向外側へ延びている。連通路(82)の流出端には、縮径されて軸方向に延びる流出ポート(82a)が形成されている。流出ポート(82a)は、鏡板部(42a)において、軸受部(42c)と環状ピストン部(42b)との間で、且つ軸受部(42c)側寄りに形成されている(図7及び図8を参照)。
凹溝(83)は、第2シリンダ(41)の内側シリンダ部(41c)の先端面(歯先)に形成されている。凹溝(83)は、上記内溝(81)や連通路(82)と対応するようにして、内側シリンダ部(41c)のうち第2吸入管(16)に近接する部位に形成されている。内溝(81)は、横断面が略円形に形成され、その内部に円柱状の空間が形成されている。内溝(81)の内部空間は、内側圧縮室(S22)へ供給する油を一時的に貯留する油補給室を構成している。この油補給室の容積は、内側圧縮室(S22)へ最適な量の油を供給するための所定容積に設定されている。
油補給溝(84)は、第2ピストン(42)の鏡板部(42a)における圧縮室側の面に形成されている。油補給溝(84c)は、軸受部(42c)と環状ピストン部(42b)との間で、且つ環状ピストン部(42b)寄りに形成されている。これにより、油補給溝(84)は、環状ピストン部(42b)と内側シリンダ部(41c)との間の空間に臨んでいる。つまり、油補給溝(84)は、内側圧縮室(S22)の一部を成す部位に形成されている。また、油補給溝(84)は、上記内溝(81)、連通路(82)、及び凹溝(83)に対応するようにして、内側シリンダ部(41c)のうち第2吸入管(16)に近接する部位に形成されている。つまり、内溝(81)、連通路(82)、凹溝(83)、及び油補給溝(84)は、径方向において概ね同一線上に配列されている。また、油補給溝(84)は、流出ポート(82a)よりも大径となる扁平な円柱状に形成されている。
以上のような構成の第2圧縮機構(40)では、第2ピストン(42)の偏心回転に伴って凹溝(82)が油供給路(61)と間欠的に連通する。即ち、第2圧縮機構(40)では、第2ピストン(42)の1回の偏心回転中に、筒状空間(S)と凹溝(82)とが連通すると同時に凹溝(82)と油補給溝(84)とが遮断される第1状態と、筒状空間(S)と凹溝(82)とが遮断されると同時に凹溝(82)と油補給溝(84)とが連通する第2状態とに、切り換わるように構成されている。このような、油の供給動作の詳細については後述する。
−運転動作−
次に、回転式圧縮機(10)の運転動作について説明する。まず、第1圧縮機構(30)について説明する。第1圧縮機構(30)では、低圧冷媒が圧縮されて中間圧の冷媒となる。
電動機(20)を起動すると、第1ピストン(32)の環状ピストン部(32b)が第1ブレード(33)に沿って往復運動(進退動作)を行うと共に揺動動作を行う。その際、第1揺動ブッシュ(34)は、環状ピストン部(32b)及び第1ブレード(33)に対して実質的に面接触をする。そして、環状ピストン部(32b)が外側シリンダ部(31b)及び内側シリンダ部(31c)に対して揺動しながら公転し、第1圧縮機構(30)が圧縮動作を行う。
具体的には、外側圧縮室(S11)では、図2(B)の状態で低圧室(S11L)の容積がほぼ最小となり、ここから駆動軸(23)が図の矢印の方向に回転して図2(C)〜図2(A)の状態へ変化するのに伴って該低圧室(S11L)の容積が増大し、第1吸入ポート(14a)の冷媒が外側圧縮室(S11)の低圧室(S11L)に吸入される。
そして、上記駆動軸(23)が一回転して再び図2(B)の状態になると、上記低圧室(S11L)への冷媒の吸入が完了する。そして、該低圧室(S11L)は、冷媒が圧縮される高圧室(S11H)となり、第1ブレード(33)を隔てて新たな低圧室(S11L)が形成される。駆動軸(23)がさらに回転すると、低圧室(S11L)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(S11H)の容積が減少し、該高圧室(S11H)で冷媒が圧縮される。高圧室(S11H)の圧力が所定値となって第1吐出ポート(15a)との差圧が設定値に達すると、吐出弁(37)が開き、高圧室(S11H)の中間圧の冷媒が第1吐出ポート(15a)を通じて第1吐出管(15)へ流出する。
上記内側圧縮室(S22)では、図2(F)の状態で低圧室(S12L)の容積がほぼ最小となり、ここから駆動軸(23)が図の矢印の方向に回転して図2(G)〜図2(E)の状態へ変化するのに伴って該低圧室(S12L)の容積が増大し、第1吸入ポート(14a)の冷媒が内側圧縮室(S12)の低圧室(S12L)に吸入される。
そして、上記駆動軸(23)が一回転して再び図2(F)の状態になると、上記低圧室(S12L)への冷媒の吸入が完了する。そして、該低圧室(S12L)は、冷媒が圧縮される高圧室(S12H)となり、第1ブレード(33)を隔てて新たな低圧室(S12L)が形成される。駆動軸(23)がさらに回転すると、低圧室(S12L)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(S12H)の容積が減少し、該高圧室(S12H)で冷媒が圧縮される。高圧室(S12H)の圧力が所定値となって第1吐出ポート(15a)との差圧が設定値に達すると、吐出弁(38)が開き、高圧室(S12H)の中間圧の冷媒が第1吐出ポート(15a)を通じて第1吐出管(15)へ流出する。
上記外側圧縮室(S11)ではほぼ図2(E)のタイミングで冷媒の吐出が開始され、内側圧縮室(S12)ではほぼ図2(A)のタイミングで吐出が開始される。つまり、外側圧縮室(S11)と内側圧縮室(S12)とでは、吐出のタイミングが約180°ずれている。第1吐出管(15)へ流出した中間圧の冷媒は、第2吸入管(16)に流入して第2圧縮機構(40)に吸入される。
第2圧縮機構(40)では、第1圧縮機構(30)とほぼ同様にして中間圧の冷媒が圧縮されて高圧冷媒となる。
電動機(20)を起動すると、第2ピストン(42)の環状ピストン部(42b)が第2ブレード(43)に沿って往復運動(進退動作)を行うと共に揺動動作を行う。その際、第2揺動ブッシュ(44)は、環状ピストン部(42b)及び第2ブレード(43)に対して実質的に面接触をする。そして、環状ピストン部(42b)が外側シリンダ部(41b)及び内側シリンダ部(41c)に対して揺動しながら公転し、第2圧縮機構(40)が圧縮動作を行う。
具体的には、外側圧縮室(S21)では、図2(B)の状態で低圧室(S21L)の容積がほぼ最小となり、ここから駆動軸(23)が図の矢印の方向に回転して図2(C)〜図2(A)の状態へ変化するのに伴って該低圧室(S21L)の容積が増大し、第2吸入ポート(16a)の冷媒が外側圧縮室(S21)の低圧室(S21L)に吸入される。
そして、上記駆動軸(23)が一回転して再び図2(B)の状態になると、上記低圧室(S21L)への冷媒の吸入が完了する。そして、該低圧室(S21L)は、冷媒が圧縮される高圧室(S21H)となり、第2ブレード(43)を隔てて新たな低圧室(S21L)が形成される。駆動軸(23)がさらに回転すると、低圧室(S21L)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(S21H)の容積が減少し、該高圧室(S21H)で冷媒が圧縮される。高圧室(S21H)の圧力が所定値となって第2吐出ポート(17a)との差圧が設定値に達すると、吐出弁(47)が開き、高圧室(S21H)の高圧冷媒が第2吐出ポート(17a)を通じてケーシング(11)内の内部空間(S10)へ流出する。
上記内側圧縮室(S22)では、図2(F)の状態で低圧室(S22L)の容積がほぼ最小となり、ここから駆動軸(23)が図の矢印の方向に回転して図2(G)〜図2(E)の状態へ変化するのに伴って該低圧室(S22L)の容積が増大し、第2吸入ポート(16a)の冷媒が内側圧縮室(S22)の低圧室(S22L)に吸入される。
そして、上記駆動軸(23)が一回転して再び図2(F)の状態になると、上記低圧室(S22L)への冷媒の吸入が完了する。そして、該低圧室(S22L)は、冷媒が圧縮される高圧室(S22H)となり、第2ブレード(43)を隔てて新たな低圧室(S22L)が形成される。駆動軸(23)がさらに回転すると、低圧室(S22L)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(S22H)の容積が減少し、該高圧室(S22H)で冷媒が圧縮される。高圧室(S22H)の圧力が所定値となって第2吐出ポート(17a)との差圧が設定値に達すると、吐出弁(48)が開き、高圧室(S22H)の中間圧の冷媒が第2吐出ポート(17a)を通じてケーシング(11)内の内部空間(S10)へ流出する。
上記外側圧縮室(S21)ではほぼ図2(E)のタイミングで冷媒の吐出が開始され、内側圧縮室(S22)ではほぼ図2(A)のタイミングで吐出が開始される。つまり、外側圧縮室(S21)と内側圧縮室(S22)とでは、吐出のタイミングが約180°ずれている。ケーシング(11)内の内部空間(S10)へ流出した高圧冷媒は、第2吐出管(17)から吐出される。なお、冷媒回路において、回転式圧縮機(10)から吐出された冷媒は、凝縮行程、膨張行程および蒸発行程を経て、再び該回転式圧縮機(10)に吸入される。
〈油供給動作について〉
次に、上述した運転時における、各摺動部への油の供給動作について、図4、図9〜図11を参照しながら説明する。
回転式圧縮機(10)の運転時に駆動軸(23)が回転すると、油溜まり(18)の潤滑油は、給油ポンプ(28)の遠心ポンプ作用により上方に汲み上げられる。この油は、軸内流路(61a)を上方に流れ、各流出路(62,63,64,65)に分流する(図4を参照)。
第1流出路(62)に分流した油は、下側偏心部(25)の外周面に形成された第1縦溝(66)に流出する。これにより、下側偏心部(25)と第1ピストン(32)の軸受部(32c)との間の摺動部に油が供給され、この摺動部が潤滑される。第2流出路(63)に分流した油は、上側偏心部(26)の外周面に形成された第2縦溝(67)に流出する。これにより、上側偏心部(26)と第2ピストン(42)の軸受部(42c)との間の摺動部に油が供給され、この摺動部が潤滑される。
第3流出路(64)に分流した油は、第1環状溝(70)及び第3縦溝(68)に流出する。これにより、第1シリンダ(31)の軸受部(31d)と主軸部(24)との間の摺動部に油が供給され、この摺動部が潤滑される。第4流出路(65)に分流した油は、第2環状溝(71)及び第4縦溝(69)に分流する。これにより、第2シリンダ(41)の軸受部(41d)と主軸部(24)との間の摺動部に油が供給され、この摺動部が潤滑される。
下側偏心部(25)や上側偏心部(26)に供給された油の一部は、軸受部(32c,42c)の隙間を通じて筒状空間(S)に流入する。これにより、筒状空間(S)と連通する第1内側背圧室(S3)や第2内側背圧室(S5)(図3を参照)は、潤滑油の高圧圧力状態となる。その結果、第1ピストン(32)は、第1シリンダ室(S11,S12)の離反力に抗して、第1シリンダ(31)側へ押し付けられる。同様に、第2ピストン(42)は、第2シリンダ室(S21,S22)の離反力に抗して、第2シリンダ(41)側に押し付けられる。
一方、筒状空間(S)に流入した油は、内溝(81)、連通路(82)を流れ、第2圧縮機構(40)側へ送られる。ここで、第2圧縮機構(40)では、第2ピストン(42)の偏心回転に伴い、流出ポート(82a)及び油補給溝(84)と、凹溝(83)との相対位置が変化する。具体的に、例えば図9(A)に示す回転角度0°の状態では、連通路(82)の流出ポート(82a)と、凹溝(83)とが軸方向に重なり、流出ポート(82a)と凹溝(83)とが連通する。このため、筒状空間(S)の油は、内溝(81)、連通路(82)を経由して凹溝(83)の内部に流入する(図11(A)を参照)。この状態から図9(B)、図9(C)のように、第2ピストン(42)が更に偏心回転すると、流出ポート(82a)と凹溝(83)とが遮断される(図11(B)を参照)。その結果、凹溝(83)への油の供給が終了する。この状態では、凹溝(83)内に十分な油が満たされている。つまり、凹溝(83)への油の供給動作が終了した時点では、凹溝(83)の容積に相当する油が、凹溝(83)内に充填される。
凹溝(83)への油の供給が終了した後、図9(D)、図10(A)のように、第2ピストン(42)が更に回転すると、凹溝(83)と補給油溝(84)とが軸方向に重なり、凹溝(83)と油給油溝(84)とが連通する(図11(C)を参照)。その結果、凹溝(83)内の油が油補給溝(84)に流出する。このような凹溝(83)から油補給溝(84)への油の流出は、図10(B)、図10(C)のように、第2ピストン(42)が更に回転し、凹溝(83)と油補給溝(84)とが遮断される状態(例えば図10(D)、及び図11(B)に示す状態)となるまで継続される。
この状態から第2ピストン(42)が更に回転すると、流出ポート(82a)と凹溝(83)とが再び連通し、凹溝(83)内に油が供給される(図9(A)及び図11(A)を参照)。一方、凹溝(83)と油補給溝(84)とが遮断された状態では、油補給溝(84)が開放される(例えば図11(A)を参照)。従って、油補給溝(84)内の油は、その外部へ放出され、内側圧縮室(S22)の各摺動部へ送られる。これにより、例えば第2ピストン(42)と第2シリンダ(41)との間の摺動部等が、油によって潤滑される。
以上のように、本実施形態の第2圧縮機構(40)は、流出ポート(82a)と凹溝(83)とが連通すると同時に油補給溝(84)が開放される第1状態(図11(A)に示す状態)と、流出ポート(82a)と凹溝(83)とが遮断されると同時に凹溝(83)と油補給溝(84)とが連通する第2状態(図11(C)に示す状態)とが、これら第1状態と第2状態との間の中間状態(図11(B)に示す状態)を挟んで、交互に切り換わる。その結果、回転式圧縮機の第2ピストン(42)の1回の偏心回転毎に、凹溝(83)の容積に相当する油が、内側圧縮室(S22)に間欠的に供給される。
−実施形態1の効果−
上記実施形態1では、回転式圧縮機(10)の運転時において、凹溝(83)内に油を充填する動作と、凹溝(83)内に充填した油を内側圧縮室(S22)に供給する動作とを交互に繰り返すようにしている。このため、第2ピストン(42)の偏心回転毎に、凹溝(83)の容積に相当する油を内側圧縮室(S22)に供給できる。このようにすると、例えば空気調和装置の運転条件に応じて、冷媒回路の高圧や低圧が変化し、これに伴い圧縮室(S21,S22)の圧力やケーシング(11)内の内部空間(S10)の圧力が変化したとしても、このような圧力変化の影響により油の供給量が大幅に変化してしまうことを防止できる。即ち、本実施形態の回転式圧縮機(10)では、このような圧力変化によらず、圧縮室(S21,S22)へ一定の量の油を供給することができる。従って、圧縮室(S21,S22)へ供給する油の量が過剰となって、油上がりを招いたり、圧縮室(S21,S22)へ供給する油の量が不足して摺動部の潤滑不良を招いたり、することを回避できる。その結果、この回転式圧縮機(10)の信頼性を確保できる。
上記実施形態1では、油補給溝(84)に油を流出させることで、内側圧縮室(S22)に確実に油を供給できる。また、連通路(82)の流出ポート(82a)、凹溝(83)、及び油補給溝(84)は、圧縮室(S21,S22)の第2吸入管(16)の近傍(即ち、圧縮室(S21,S22)のうち圧力が低い吸入開始位置)に設けられている。従って、連通路(82)内の油を一層確実に圧縮室(S21,S22)へ供給することができる。
また、実施形態1では、低段側圧縮機構を成す第1圧縮機構(30)と、高段側圧縮機構を成す第2圧縮機構(40)のうち、第2圧縮機構(40)の圧縮室(S21,S22)のみに油を供給するようにしている。ここで、第2圧縮機構(40)の圧縮室(S21,S22)の内圧は、第1圧縮機構(30)の圧縮室(S11,S22)の内圧よりも高くなっている。このため、第2圧縮機構(40)では、シリンダ(41)の外部から隙間を通じて圧縮室(S21,S22)に流入する油の量も少なくなる。従って、第2圧縮機構(40)では、そもそも圧縮室(S21,S22)内の潤滑油が不足し易い。しかしながら、本実施形態では、この第2圧縮機構(40)の圧縮室(S21,S22)へ安定的に油を供給することができ、圧縮室(S21,S22)での潤滑不良を防止できる。
また、上記実施形態では、ミドルプレート(51)の内周壁と駆動軸(23)の中間軸部(27)との間の筒状空間(S)に流出した油を、圧縮室(S21,S22)側へ送るようにしている。このため、筒状空間(S)での油の滞留を防止でき、ひいては筒状空間(S)内の油の温度上昇を防止できる。従って、各偏心部(25,26)の周囲の油の温度上昇、並びにこの油の粘度の低下も未然に回避でき、各偏心部(25,26)の摺動部を十分に潤滑することができる。よって、この回転式圧縮機(10)の信頼性を確保できる。同時に、上記実施形態1では、筒状空間(S)に流出した油の圧力を利用して、2つのピストン(32,42)の押し付け力を得ることができる。
《発明の実施形態2》
実施形態2に係る回転式圧縮機(10)は、上記実施形態1と、油供給機構(60)の構成が異なるものである。以下には、上記実施形態1と異なる点について説明する。
図12に示すように、実施形態2の回転式圧縮機(10)では、上記実施形態1の凹溝(83)や油補給溝(84)が設けられていない。一方、ミドルプレート(51)の上端の内周縁部には、筒状空間(S)と連通するように内溝(81)が形成されている。この内溝(81)は、圧縮室(S21,S22)の吸入側に向かって径方向外方に延びている。内溝(81)の最外周側端部は、軸方向において内側シリンダ部(41c)と重なっている。
実施形態2では、第2ピストン(42)の鏡板部(42a)を軸方向に貫通する貫通穴(86)が形成されており、この貫通穴(86)が油補給室を構成している。貫通穴(86)は、鏡板部(42a)において、環状ピストン部(42b)と軸受部(42c)との間の部位に形成されている。第2ピストン(42)の回転時における貫通穴(86)の偏心軌跡は、軸方向において内側シリンダ部(41c)と重なる位置と、内側圧縮室(S22)に臨む位置とを含んでいる。これにより、実施形態2の第2圧縮機構(40)は、第2ピストン(42)の1回の偏心回転中に、貫通穴(86)の流入端が筒状空間(S)と連通すると同時に該貫通穴(86)の流出端が内側シリンダ部(41c)の先端面に閉塞される第1状態と、貫通穴(86)の流入端が筒状空間(S)と遮断されると同時に該貫通穴(86)の流出端が内側圧縮室(S22)に開放される第2状態とに切り換わる。
具体的に、図12(A)に示す第1状態になると、内溝(81)と貫通穴(86)とが連通するため、筒状空間(S)の油は内溝(81)を介して貫通穴(86)に流入する。一方、貫通穴(86)の流出端は、内側シリンダ部(41c)によって閉塞されている。このため、貫通穴(86)には、この貫通穴(86)の容積に相当する油が充填される。
この状態から、第2ピストン(42)が更に偏心回転して、図12(B)に示す中間状態になると、貫通穴(86)の流入端は内溝(81)から遮断されてミドルプレート(51)の平坦部(51b)に閉塞される。この状態から、第2ピストン(42)が更に偏心回転して、図12(C)に示す第2状態になると、貫通穴(86)の流出端が内側圧縮室(22)に開放される。これにより、貫通穴(86)と内側圧縮室(S22)とが連通し、貫通穴(86)内の油が内側圧縮室(S22)へ供給される。その結果、内側圧縮室(S22)の各摺動部が油によって潤滑される。
その後、第2ピストン(42)が、図12(B)、図12(A)の順に偏心回転すると、筒状空間(S)と貫通穴(86)とが再び連通し、貫通穴(86)内に油が充填される。その後、第2ピストン(42)が、図12(B)、図12(C)の順に偏心回転すると、貫通穴(86)と内側圧縮室(S22)とが連通し、貫通穴(86)内の油が内側圧縮室(S22)へ供給される。
以上のように、実施形態2においても、油補給室としての貫通穴(86)の容積に相当する油を圧縮室(S21,S22)へ間欠的に供給することができる。このため、運転条件の変化等によらず、圧縮室(S21,S22)へ安定的に油を供給することができる。また、本実施形態では、上記実施形態1のような凹溝(83)や油補給溝(84)を形成しなくても良いため、加工工数や加工コストも低減できる。
《発明の実施形態3》
実施形態3に係る回転式圧縮機(10)は、上記実施形態1や2と各圧縮機構(30,40)の構成が異なっている。図13及び図14に示すように、実施形態3の各圧縮機構(30,40)は、いわゆるスイング式の圧縮機構で構成されている。
実施形態3では、上方から下方に向かって順に、フロントヘッド(56)、第2シリンダ(41)、ミドルプレート(51)、第1シリンダ(31)、及びリアヘッド(57)が順に積層されており、これらはケーシング(11)に固定される固定部材を構成している。そして、第1シリンダ(31)の内部に第1ピストン(32)が収容され、第1シリンダ(31)と第1ピストン(32)との間に第1圧縮室(91)が形成されている。また、第2シリンダ(41)の内部に第2ピストン(42)が収容され、第2シリンダ(41)と第2ピストン(42)との間に第2圧縮室(92)が形成されている。第1ピストン(32)及び第2ピストン(42)は、各偏心部(25,26)に外嵌して回転駆動される可動部材を構成している。
各ピストン(32,42)は、環状のピストン本体部(32d,42d)と、該ピストン本体部(32d,42d)と一体的に形成されて、径方向外方に延びるブレード(42d)を有している。また、各シリンダ(31,41)の内部には、ブレード(42d)を進退自在に保持する一対のブッシュ(95,95)が設けられている。
実施形態3では、上記実施形態1や2と同様にして、油供給路(61)が形成されている。一方、実施形態3では、第2ピストン(42)のピストン本体部(42d)の下端に、油補給室(83)が形成されている。油補給室(83)は、円柱状の溝によって形成され、その開口部がミドルプレート(51)側に臨んでいる。油補給室(83)は、ピストン本体部(42d)のうち第2圧縮室(92)に繋がる吸入管(93)に近接する部位に形成されている。
実施形態3では、固定部材としての環状のミドルプレート(51)の上面に、油補給溝(84)が形成されている。油補給溝(84)は、第2圧縮室(92)の一部を成すように、第2シリンダ(41)の内部に臨んでいる。油補給溝(84)は、上記油補給室(83)に対応するように、吸入管(93)側に近接している。
実施形態3においても、第2圧縮機構(40)は、第2ピストン(42)の1回の偏心回転中に、筒状空間(S)と油補給室(83)とが連通すると同時に筒状空間(S)と第2圧縮室(92)とが遮断される第1状態と、筒状空間(S)と油補給室(83)とが遮断されると同時に油補給室(83)と第2圧縮室(92)とが連通する第2状態とに切り換わる。
具体的には、まず、図15(A)に示す第1状態になると、筒状空間(S)と油補給室(83)とが連通し、油補給室(83)内に油が充填される。この状態から、第2ピストン(42)が更に偏心回転して、図15(B)に示す中間状態になると、油補給室(83)がミドルプレート(51)に閉塞される。この状態から、第2ピストン(42)が更に偏心回転して、図15(C)に示す第2状態になると、油補給室(83)の開口部が油補給溝(84)に連通する。これにより、油補給室(83)に充填された油が、油補給溝(84)に流入する。その後、第2ピストン(42)が図15(B)、図15(A)に示すように、更に偏心回転すると、油補給溝(84)が開放されて第2圧縮室(92)の摺動部の潤滑がなされる。
以上のように、実施形態3においても、油補給室(83)の容積に相当する油を第2圧縮室(92)に間欠的に供給できる。このため、運転条件の変化等によらず、圧縮室(S21,S22)へ安定的に油を供給することができる。
〈実施形態3の変形例1〉
図16に示す変形例では、油補給室(83)がピストン本体部(42d)を軸方向に貫通している。また、油補給溝(84)は、フロントヘッド(56)の下端に形成されている。図16(A)に示す第1状態となり、油補給室(83)と筒状空間(S)とが連通すると、筒状空間(S)の油が油補給室(83)に充填される。その後、図16(B)に示す中間状態を経て、図16(C)に示す第2状態となると、油補給室(83)が油補給溝(84)と連通し、油補給室(83)の油が油補給溝(84)に供給される。その後、図16(B)、図16(A)の状態となると、油補給溝(84)内の油が第2圧縮室(92)に供給される。
〈実施形態3の変形例2〉
図17に示す変形例では、ミドルプレート(51)の内周縁部に、内溝(81)が形成されている。この内溝(81)は、筒状空間(S)からブッシュ(95)側に向かって径方向外方へ膨出した形状をしている。一方、第2ピストン(42)のブレード(42e)には、内溝(81)に跨るようにして、油補給室(83)が軸方向に貫通形成されている。更に、フロントヘッド(56)の下端面には、ブレード(95)に跨るようにして、油補給溝(84)が形成されている。第2ピストン(42)が偏心回転すると、油補給室(83)は、図17のRで示す軌跡で変位する。この変形例では、油補給室(83)の軌跡Rの範囲内に、内溝(81)と油補給溝(84)とが軸方向に重なっている。
これにより、第2ピストン(42)の偏心回転に伴い内溝(81)と油補給室(83)とが連通すると、筒状空間(S)の油が油補給室(83)に充填される。その後、油補給室(83)が軌跡Rのように変位すると、その途中位置において、油補給室(83)と油補給溝(84)とが連通する。これにより、油補給室(83)の油が油補給溝(84)に流入し、第2圧縮室(92)の摺動部が潤滑される。
〈その他の実施形態〉
上述した各実施形態では、高段側の圧縮機構(40)に油補給室(83,86)を設けているが、同様にして、低段側の圧縮機構(30)のみに油補給室(83,86)を設けても良いし、双方の圧縮機構(30,40)に油補給室(83,86)を設けても良い。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。