以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
《発明の前提技術1》
本発明の前提技術1について説明する。
この前提技術に係る圧縮機(1)は回転式圧縮機であり、図1に示すように、ケーシング(10)内に、2つの圧縮機構部(第1圧縮機構部(20)及び第2圧縮機構部(30))が駆動軸(53)の軸方向に積み重ねられた圧縮機構(40)と、駆動機構である電動機(50)とが収納され、全密閉型に構成されている。上記圧縮機(1)は、例えば、空気調和装置の冷媒回路において、蒸発器から吸入した冷媒(作動流体)を圧縮して凝縮器へ吐出するために用いられる。
上記ケーシング(10)は、円筒状の胴部(11)と、該胴部(11)の上端部に固定された上部鏡板(12)と、胴部(11)の下端部に固定された下部鏡板(13)とから構成されている。上記胴部(11)には、詳細について後述する第1圧縮機構部(20)及び第2圧縮機構部(30)の環状のシリンダ室(23a,…,23d,33a,…,33d)に冷媒を導くための吸入管(60,…,64)と、上記シリンダ室(23a,…,23d,33a,…,33d)において圧縮された冷媒を吐出するための吐出管(66,…,68)とが貫通して設けられている。上部鏡板(12)には吐出管(69)が設けられている。
上記電動機(50)は、上記ケーシング(10)内において、上記圧縮機構(40)よりも上方に配置され、ステータ(51)とロータ(52)とを備えている。ステータ(51)は、ケーシング(10)の胴部(11)に固定されている。一方、ロータ(52)には駆動軸(53)が一体となって回転するように連結されている。該駆動軸(53)はロータ(52)から下方に延伸し、下部には第1偏心部(53a)及び第2偏心部(53b)が形成されている。上側の第1偏心部(53a)は、該第1偏心部(53a)の上下の主軸部分よりも大径に形成され、駆動軸(53)の軸心から所定量だけ偏心している。一方、下側の第2偏心部(53b)は、上記第1偏心部(53a)と同径に形成され、第1偏心部(53a)と同じ量だけ駆動軸(53)の軸心から偏心している。第1偏心部(53a)と上記第2偏心部(53b)とは、駆動軸(53)の軸心を中心として互いに180°位相がずれている。
上記第1圧縮機構部(20)及び第2圧縮機構部(30)は上下二段に重ねられて、ケーシング(10)に固定されたフロントヘッド(16)からリアヘッド(17)までの間に構成されている。第1圧縮機構部(20)が電動機(50)側(図1の上側)に配置され、第2圧縮機構部(30)がケーシング(10)の底部側(図1の下側)に配置されている。本前提技術では、フロントヘッド(16)は本体部(16a)と蓋部(マフラカバー)(16b)とによって構成され、リアヘッド(17)も本体部(17a)と蓋部(マフラカバー)(17b)とによって構成されている。また、フロントヘッド(16)とリアヘッド(17)の間には、ミドルプレート(19)が設けられている。
上記ミドルプレート(19)は、第1圧縮機構部(20)及び第2圧縮機構部(30)に共有されている。また、ミドルプレート(19)は、駆動軸(53)の軸方向に並ぶ2つの部材(19a,19b)によって構成されている。具体的には、ミドルプレート(19)は、第1圧縮機構部(20)側の本体部(19a)と、該本体部(19a)の下方に重ね合わされた蓋部(19b)とを備えている。ミドルプレート(19)の中心部には、駆動軸(53)が貫通する貫通孔(19c)が形成されている。この貫通孔(19c)は、上記駆動軸の第1偏心部(53a)及び第2偏心部(53b)の直径よりも内径が少し大きな孔である。
図2から図5に示すように、上記第1圧縮機構部(20)は、ケーシング(10)の胴部(11)に固定された第1シリンダ(21)と、駆動軸(53)の第1偏心部(53a)に取り付けられて第1シリンダ(21)に対して偏心回転をする第1ピストン(環状ピストン)(22)と、これら第1シリンダ(21)と第1ピストン(22)との間に形成される4つのシリンダ室(23a,23b,23c,23d)を高圧室(23aH,23bH,23cH,23dH)と低圧室(23aL,23bL,23cL,23dL)とに区画する第1ブレード(24)とを備えている。
一方、上記第2圧縮機構部(30)は、該第1圧縮機構部(20)に対して上下反転している。該第2圧縮機構部(30)は、ケーシング(10)の胴部(11)に固定された第2シリンダ(31)と、駆動軸(53)の第2偏心部(53b)に取り付けられて第2シリンダ(31)に対して偏心回転をする第2ピストン(32)と、これら第2シリンダ(31)と第2ピストン(32)との間に形成される4つのシリンダ室(33a,33b,33c,33d)を高圧室(33aH,33bH,33cH,33dH)と低圧室(33aL,33bL,33cL,33dL)とに区画する第2ブレード(34)とを備えている。
この前提技術では、フロントヘッド(16)の本体部(16a)が第1シリンダ(21)を構成し、リアヘッド(17)の本体部(17a)が第2シリンダ(31)を構成している。また、本前提技術では、第1シリンダ(21)及び第2シリンダ(31)が固定側で、第1ピストン(22)及び第2ピストン(32)が可動側である。そして、第1ピストン(22)が第1シリンダ(21)に対して偏心回転運動をし、第2ピストン(32)が第2シリンダ(31)に対して偏心回転運動をするように構成されている。
上記第1シリンダ(21)は、駆動軸(53)と同心上に位置して環状空間(シリンダ空間)を形成する内側シリンダ部(21a)及び外側シリンダ部(21b)と、該外側シリンダ部(21b)の外周部から下方に延伸する最外側シリンダ部(21c)と、内側シリンダ部(21a)及び外側シリンダ部(21b)の上端部を連接するシリンダ側鏡板部(21d)とを備えている。内側シリンダ部(21a)は円環の一部分が分断されたC型形状に形成されている(図3(A)参照)。内側シリンダ部(21a)の分断箇所にはスライド溝(21g)が形成されている。
上記第2シリンダ(31)は、駆動軸(53)と同心上に位置して環状空間(シリンダ空間)を形成する内側シリンダ部(31a)及び外側シリンダ部(31b)と、該外側シリンダ部(31b)の外周部から上方に延伸する最外側シリンダ部(31c)と、内側シリンダ部(31a)及び外側シリンダ部(31b)の下端部を連接するシリンダ側鏡板部(31d)とを備えている。内側シリンダ部(31a)は円環の一部分が分断されたC型形状に形成されている(図3(A)参照)。内側シリンダ部(31a)の分断箇所にはスライド溝(31g)が形成されている。
上記第1ピストン(22)は、第1偏心部(53a)に嵌合して該第1偏心部(53a)と同心上に位置する内側ピストン部(22a)と、該内側ピストン部(22a)の外周側の環状空間内で該内側ピストン部(22a)と同心上に位置する外側ピストン部(環状ピストン部)(22b)と、該2つのピストン部(22a,22b)の下端部を連結するとともに外周面が内側ピストン部(22a)及び外側ピストン部(22b)と同心上に位置するピストン側鏡板部(22c)とを有している。
内側ピストン部(22a)は、外周面に切欠部(n1)が形成され、外側ピストン部(22b)は円環の一部分が分断されたC型形状に形成されている(図3(A)参照)。また、ピストン側鏡板部(22c)の外周部には切欠部(n2)が形成されている(図3(B)参照)。ピストン側鏡板部(22c)は、主シリンダ室(C1)を構成する3つのシリンダ室(シリンダ空間)(23a,23b,23c)を閉塞するように構成されている。また、上記第1シリンダ(21)は、上記第1ピストン(22)が有するピストン側鏡板部(22c)を偏心回転運動可能に収納する鏡板収納空間(副シリンダ室)(C2)を有している。
上記第2ピストン(32)は、第2偏心部(53b)に嵌合して該第2偏心部(53b)と同心上に位置する内側ピストン部(32a)と、該内側ピストン部(32a)の外周側の環状空間内で該内側ピストン部(32a)と同心上に位置する外側ピストン部(環状ピストン部)(32b)と、該2つのピストン部(32a,32b)の上端部を連結するとともに外周面が内側ピストン部(32a)及び外側ピストン部(32b)と同心上に位置するピストン側鏡板部(32c)とを有している。
内側ピストン部(32a)は、外周面に切欠部(n1)が形成され、外側ピストン部(32b)は円環の一部分が分断されたC型形状に形成されている(図3(A)参照)。また、ピストン側鏡板部(32c)の外周部には切欠部(n2)が形成されている(図3(B)参照)。ピストン側鏡板部(32c)は、主シリンダ室(C1)を構成する3つのシリンダ室(シリンダ空間)(33a,33b,23c)を閉塞するように構成されている。また、上記第2シリンダ(31)は、上記第2ピストン(32)が有するピストン側鏡板部(32c)を偏心回転運動可能に収納する鏡板収納空間(副シリンダ室)(C2)を有している。
フロントヘッド(16)の本体部(16a)を構成する第1シリンダ(21)とリアヘッド(17)の本体部(17a)を構成する第2シリンダ(31)には、それぞれ上記駆動軸(53)を支持するための軸受部(21e,31e)が形成されている。本前提技術の圧縮機(1)は、上記駆動軸(53)が上記第1圧縮機構部(20)及び上記第2圧縮機構部(30)を上下方向に貫通し、第1偏心部(53a)及び第2偏心部(53b)の軸方向両側の主軸部分が軸受部(21e,31e)を介してケーシング(10)に保持される貫通軸構造となっている。
次に、第1、第2圧縮機構部(20,30)の内部構造について説明するが、第1、第2圧縮機構部(20,30)は、シリンダ容積を変えるために外側ピストン部(22,32)の軸方向長さ寸法とそれに対応するシリンダ(21,31)の軸方向長さ寸法を除いては互いに実質的に同一の構成であるため、第1圧縮機構部(20)を代表例として説明する。第2圧縮機構部(30)は符号が30番台となる。
上記第1ブレード(24)は、厚みを有する板状の長尺部(24a)及び短尺部(24b)と、断面形状が略半円形状の一対の揺動ブッシュ部(24c)とを有し、これら3つの部分は一体に形成されている。長尺部(24a)及び短尺部(24b)を合わせてブレード部(24a,24b)という。
具体的には、上記第1ブレード(24)は、上記外側ピストン部(22b)に揺動可能に連結される揺動ブッシュ部(24c)と、該揺動ブッシュ部(24c)に対して圧縮機構(40)の径方向内側に位置するとともに後述する最内側シリンダ室(23a)と内側シリンダ室(23b)を吸入側と吐出側に区画する内側ブレード部(B1)と、該揺動ブッシュ部(24c)の径方向外側に位置して後述する外側シリンダ室(23c)を吸入側と吐出側に区画する外側第1ブレード部(B2)と、該該揺動ブッシュ部(24c)の径方向外側に位置して後述する最外側シリンダ室(23d)を吸入側と吐出側に区画する外側第2ブレード部(B3)とを備えている。そして、上記長尺部(24a)は揺動ブッシュ部(24c)と内側ブレード部(B1)と外側第1ブレード部(B2)とから構成され、上記短尺部(24b)は、外側第2ブレード部(B3)により構成されている。上記内側ブレード部(B1)は先端が内側ピストン部(22a)の外周面に径方向外側から対向し、上記外側第2ブレード部(B2)は先端がピストン側鏡板部(22c)の外周面に径方向外側から対向している。
上記長尺部(24a)は、シリンダ側鏡板部(21d)とピストン側鏡板部(22c)との間において径方向に長く延び、外端部が、外側シリンダ部(21b)に形成された溝(スライド溝)(21f)に径方向(ブレードの面方向)へ摺動自在に収容されている。長尺部(24a)の揺動ブッシュ部(24c)よりも内側の部分(内側ブレード部(B1))は、内側シリンダ部(21a)の分断箇所に形成されているスライド溝(21g)に摺動可能に挿入され、内端は内側ピストン部(22a)の切欠部(n1)にミクロンオーダーの微細隙間を挟んで対向している。また、上記シリンダ(21)には、スライド溝(21f)の後端部の位置に、該スライド溝(21f)が連通する給油孔(油溜まり)(28a)が形成されている。この給油孔(28a)には、圧縮機(1)内の高圧の潤滑油が導入されるようになっている。
図6において、上記切欠部(n1)は、上記揺動ブッシュ部(24c)を中心とする上記内側ブレード部(B1)の相対的な揺動動作を許容する第1揺動許容面を構成している。この第1揺動許容面(n1)は、上記揺動ブッシュ部(24c)を中心とする上記内側ブレード部(B1)の相対的な揺動動作の軌跡よりもわずかに大きい径寸法の円弧形状を基準にして形成され、内側ブレード部(B1)が揺動動作をする際にその先端が描く軌跡と第1揺動許容面(n1)との間に微細隙間が形成されるようになっている。なお、図6では微細隙間を誇張して表している。
上記短尺部(24b)は、長尺部(24a)とミドルプレート(19)との間において径方向に延び、最外側シリンダ部(21c)に形成された溝(スライド溝)(21f)に径方向に摺動自在に収容されている。短尺部(24b)の内端は、ピストン側鏡板部(22c)の切欠部(n2)にミクロンオーダーの隙間を挟んで対向している。
上記切欠部(n2)は、上記揺動ブッシュ部(24c)を中心とする上記外側第2ブレード部(B3)の相対的な揺動動作を許容する第2揺動許容面を構成している。この第2揺動許容面(n2)は、上記揺動ブッシュ部(24c)を中心とする上記外側第2ブレード部(B3)の相対的な揺動動作の軌跡よりもわずかに小さい径寸法の円弧形状を基準にして形成され、外側第2ブレード部(B3)が揺動動作をする際にその先端が描く軌跡と第2揺動許容面(n2)との間に微細隙間が形成されるようになっている。なお、図6では微細隙間を誇張して表している。
上記一対の揺動ブッシュ部(24c)は、長尺部(24a)の径方向中央部付近において、長尺部(24a)の両側に膨出するように形成されている。一対の揺動ブッシュ部(24c)の外周面は、所定半径の円筒の外周面の一部を構成している。そして、一対の揺動ブッシュ部(24c)は、外側ピストン部(22b)の分断箇所に形成されたブッシュ溝(c1,c2)に揺動自在に収容されている。一対の揺動ブッシュ部(24c)は、外側ピストン部(22b)が第1ブレード(24)に対して揺動するように構成されている。
このような構成により、第1ピストン(22)は、第1偏心部(53a)の偏心回転に伴って、第1ブレード(24)に対して一対の揺動ブッシュ部(24c)の中心点を揺動中心として揺動すると共に、上記溝(21f)及び上記内側シリンダ部(21a)のスライド溝(21g)に対する上記第1ブレード(24)の長手方向(面方向)への摺動に伴って同方向に進退する。
上記第1ブレード(24)には、上記内側ブレード部(B1)とシリンダ(21)の内側シリンダ部(21A)との間に形成されるブレード部摺動面(P1)と、上記揺動ブッシュ部(24c)と環状ピストン(22)の外側ピストン部(22b)との間に形成されるブッシュ部摺動面(P2)に、油供給源(28)である給油孔(28a)から油を供給する油供給通路(25)が形成されている。
上記給油孔(28a)は、上記第1ブレード(24)における圧縮機構(40)の径方向外側端を受け入れるように形成された後端部油供給源である。そして、上記油供給通路(25)は、上記後端部油供給源(28a)からブレード部摺動面(P1)とブッシュ部摺動面(P2)に連通する通路である。
具体的には、上記油供給通路(25)は、上記ブッシュ部摺動面(P2)に形成されたブッシュ部給油溝(25a)と、ブレード部(24a,24b)の径方向内側端部である上記内側ブレード部(B1)に形成されたブレード部給油溝(25b)と、上記後端部油供給源(28)である給油孔(28a)と上記ブッシュ部給油溝(25a)及びブレード部給油溝(25b)とを連通するように上記ブレード(24)の表面に形成された連通溝(25c)とから構成されている。ブッシュ部給油溝(25a)とブレード部給油溝(25b)はブレード(24)の側面に形成され、連通溝(25c)はブレード(24)の上面に形成されている。
また、上記圧縮機構(40)の下端には、図4に示すように、ケーシング(10)の底部に溜まる潤滑油に浸かるように給油管(26)が設けられている(図1では図示省略)。圧縮機構(40)には、この給油管(26)から上方へのびる給油通路(27)が形成されている。この給油通路(27)は、上記後端部油供給源である給油孔(28,38)に連通している。
以上の構成により、給油孔(28a)の油は、図6に油の流れを矢印で示しているように油供給通路(25)を通り、ブレード部摺動面(P1)とブッシュ部摺動面(P2)を潤滑する。なお、外側ブレード部(B2)の側面の摺動面には油供給通路(25)を通らずに油が供給される。
上記主シリンダ室(C1)は、上述したように、径方向内周側から外周側に向かって順に形成された最内側シリンダ室(23a)、内側シリンダ室(23b)及び外側シリンダ室(23c)を含み、上記副シリンダ室(C2)により、上記外側シリンダ室(23c)の径方向外周側に位置する最外側シリンダ室(23d)が形成されている。シリンダ室の具体的な構成は以下の通りである。
上記内側ピストン部(22a)は内側シリンダ部(21a)の内径側に配置され、外側ピストン部(22b)は内側シリンダ部(21a)と外側シリンダ部(21b)の間に配置されている。第1偏心部(53a)に摺動自在に嵌合する内側ピストン部(22a)と、該内側ピストン部(22a)の外周面よりも大径の内周面を有する内側シリンダ部(21a)との間に、最内側シリンダ室(23a)が形成されている。また、同心上に位置する内側シリンダ部(21a)の外周面と外側シリンダ部(21b)の内周面との間には環状空間が形成されている。この環状空間は、該環状空間内に配置された外側ピストン部(22b)によって、内外2つのシリンダ室(23b,23c)に区画されている。具体的には、内側シリンダ部(21a)の外周面と外側ピストン部(22b)の内周面との間に内側シリンダ室(23b)が形成され、外側ピストン部(22b)の外周面と外側シリンダ部(21b)の内周面との間に外側シリンダ室(23c)が形成されている。さらに、ピストン側鏡板部(22c)は、上面が上記3つのシリンダ室(23a,23b,23c)に面する一方、下面がミドルプレート(19)の上面(本体部(19a)の上面)に面するように設けられ、外周面は最外側シリンダ部(21c)の内周面と対向している。これにより、ピストン側鏡板部(22c)の外周面と最外側シリンダ部(21c)との間に最外側シリンダ室(23d)が形成されている。
このように、上記圧縮機(1)は、それぞれが4つのシリンダ室(23a,…,23d,33a,…,33d)を有する第1圧縮機構部(20)と第2圧縮機構部(30)を備えている。
第1圧縮機構部(20)と第2圧縮機構部(30)の内側ピストン部(22a,32a)と内側シリンダ部(21a,31a)は、内側ピストン部(22a,32a)の外周面と内側シリンダ部(21a,31a)の内周面とが1点(第1接点)で実質的に接する状態(厳密にはミクロンオーダーの隙間があるが、その隙間での冷媒の漏れが問題にならない状態)において、その接点と位相が180°異なる位置で、内側シリンダ部(21a,31a)の外周面と外側ピストン部(22b,32b)の内周面とが1点(第2接点)で実質的に接し、その接点と位相が180°異なる位置(第1接点と位相が同じ位置)で、外側ピストン部(22b,32b)の外周面と外側シリンダ部(21b,31b)の内周面とが1点(第3接点)で実質的に接すると共に、ピストン側鏡板部(22c,32c)の外周面と最外側シリンダ部(21c,31c)の内周面とが1点(第4接点)で実質的に接するようになっている。
以上の構成において、駆動軸(53)が回転すると、第1ピストン(22)は、揺動ブッシュ部(24c)の中心点を揺動中心として揺動し、第1ブレード(24)と共に該第1ブレード(24)の長手方向へ進退する。また、駆動軸(53)が回転すると、第2ピストン(32)は、揺動ブッシュ部(34c)の中心点を揺動中心として揺動し、第2ブレード(34)と共に該第2ブレード(34)の長手方向へ進退する。
上記動作により、第1ピストン(22)と第1シリンダ(21)の各接点(第1接点〜第4接点)がそれぞれ図7(A)〜(D)、図8(A)〜(D)へ順に移動する。一方、第2ピストン(32)と第2シリンダ(31)の各接点(第1接点〜第4接点)は、第1ピストン(22)と第1シリンダ(21)の対応する接点に対して駆動軸(53)の軸心回りに180°ずれている。つまり、駆動軸(53)の上側から見て、第1圧縮機構部(20)の動作状態が図7(A)及び図8(A)のとき、第2圧縮機構部(30)の動作状態は図7(C)及び図8(C)となる。
また、本前提技術では、圧縮機構(40)は、8つのシリンダ室(23a,…,23d,33a,…,33d)において冷媒を4段階に圧縮する4段圧縮機構に構成されている。
具体的には、第1圧縮機構部(20)及び第2圧縮機構部(30)の最外側シリンダ室(23d,33d)によって第1段圧縮機構のシリンダ室が形成されている。また、第2圧縮機構部(30)の外側シリンダ室(33c)と内側シリンダ室(33b)とによって第2段圧縮機構のシリンダ室が形成され、第1圧縮機構部(20)の外側シリンダ室(23c)と内側シリンダ室(23b)とによって第3段圧縮機構のシリンダ室が形成されている。さらに、第1圧縮機構部(20)及び第2圧縮機構部(30)の最内側シリンダ室(23a,33a)によって第4段圧縮機構のシリンダ室が形成されている。
このように、本前提技術の圧縮機(1)は、環状のシリンダ空間を有するシリンダ(21,31)と、該シリンダ(21,31)に対して偏心して配置された環状のピストン(22,32)とを有し、該シリンダ(21,31)とピストン(22,32)の間に複数のシリンダ室(23a,…,23d,33a,…,33d)が形成されるとともに、下記のように各シリンダ室(23a,…,23d,33a,…,33d)に連通する吸入ポートと吐出ポートが形成された圧縮機構(20,30)を有する回転式圧縮機であって、一組のシリンダ(21,31)とピストン(22,32)の間に4つのシリンダ室(23a,…,23d,33a,…,33d)が形成され、これらのシリンダ室(23a,…,23d,33a,…,33d)により、低圧冷媒を第1段圧縮する第1段圧縮機構のシリンダ室(23d,33d)、第1段圧縮機構の吐出冷媒を第2段圧縮する第2段圧縮機構のシリンダ室(33c,33b)、第2段圧縮機構の吐出冷媒を第3段圧縮する第3段圧縮機構のシリンダ室(23c,23b)、及び第3段圧縮機構の吐出冷媒を第4段圧縮する第4段圧縮機構のシリンダ室(23a,33a)が形成されているものである。なお、冷媒は、第1段圧縮機構と第2段圧縮機構の間、第2段圧縮機構と第3段圧縮機構の間、そして第3段圧縮機構と第4段圧縮機構の間において、それぞれ冷却機構によって冷却される。
また、上記圧縮機構(40)には、各シリンダ室(23a,…,23d,33a,…,33d)の吸入ポート(P1,P2,P3)及び吐出ポート(P11,P12,P13,P14)がそれぞれ形成されている。
具体的には、ミドルプレート(19)には、上記第1圧縮機構部(20)及び第2圧縮機構部(30)の最外側シリンダ室(23d,33d)の吸入ポート(P1)及び吐出ポート(P11)がそれぞれ形成されている。
また、フロントヘッド(16)には、第1圧縮機構部(20)の外側シリンダ室(23c)及び内側シリンダ室(23b)が共用する吸入ポート(P2)と、第1圧縮機構部(20)の最内側シリンダ室(23a)の吸入ポート(P3)とが形成されている。吸入ポート(P2)は、第1圧縮機構部(20)の外側シリンダ室(23c)及び内側シリンダ室(23b)に別々に設けてもよい。また、フロントヘッド(16)には、第1圧縮機構部(20)の外側シリンダ室(23c)の吐出ポート(P12)と、第1圧縮機構部(20)の内側シリンダ室(23b)の吐出ポート(P13)と、第1圧縮機構部(20)の最内側シリンダ室(23a)の吐出ポート(P14)とが形成されている。
一方、リアヘッド(17)には、第2圧縮機構部(30)の外側シリンダ室(33c)及び内側シリンダ室(33b)が共用する吸入ポート(P2)と、第2圧縮機構部(30)の最内側シリンダ室(33a)の吸入ポート(P3)とが形成されている。吸入ポート(P2)は、第2圧縮機構部(30)の外側シリンダ室(33c)及び内側シリンダ室(33b)に別々に設けてもよい。また、リアヘッド(17)には、第2圧縮機構部(30)の外側シリンダ室(33c)の吐出ポート(P12)と、第2圧縮機構部(30)の内側シリンダ室(33b)の吐出ポート(P13)と、第2圧縮機構部(30)の最内側シリンダ室(33a)の吐出ポート(P14)とが形成されている。
また、上記圧縮機構(40)には、各シリンダ室(23a,…,23d,33a,…,33d)の吸入ポート(P1,P2,P3)に接続されて、各シリンダ室(23a,…,23d,33a,…,33d)に冷媒を吸入させるための吸入通路(71,…,75)が形成されている。
具体的には、ミドルプレート(19)に、第1圧縮機構部(20)及び第2圧縮機構部(30)の最外側シリンダ室(23d,33d)の吸入ポート(P1,P1)に連通する吸入通路(71)が形成されている。
また、フロントヘッド(16)に、第1圧縮機構部(20)の外側シリンダ室(23c)及び内側シリンダ室(23b)の共用の吸入ポート(P2)に連通する吸入通路(72)と、第1圧縮機構部(20)の最内側シリンダ室(23a)の吸入ポート(P3)に連通する吸入通路(73
)とが形成されている。 また、リアヘッド(17)に、第2圧縮機構部(30)の外側シリンダ室(33c)及び内側シリンダ室(33b)の共用の吸入ポート(P2)に連通する吸入通路(74)と、第2圧縮機構部(30)の最内側シリンダ室(33a)の吸入ポート(P3)に冷媒を導く吸入通路(75)とが形成されている。
上記各吸入通路(71,…,75)には、ケーシング(10)の外部から内部に冷媒を導く吸入管(60,…,64)がそれぞれ接続されている。
また、上記圧縮機構(40)には、各シリンダ室(23a,…,23d,33a,…,33d)の吐出ポート(P11,P12,P13,P14)に接続されて、各シリンダ室(23a,…,23d,33a,…,33d)から冷媒が吐出される吐出空間(81,…,85)が形成されている。
具体的には、ミドルプレート(19)に、第1圧縮機構部(20)及び第2圧縮機構部(30)の最外側シリンダ室(23d,33d)の吐出ポート(P11,P11)に連通する吐出空間(81)が形成されている。
また、フロントヘッド(16)に、第1圧縮機構部(20)の外側シリンダ室(23c)及び内側シリンダ室(23b)の吐出ポート(P12,P13)に連通する吐出空間(82)と、第1圧縮機構部(20)の最内側シリンダ室(23a)の吐出ポート(P14)に連通する吐出空間(83)とが形成されている。吐出空間(82)は、各吐出ポート(P12,P13)に別々に設けてもよい。吐出空間(82)はフロントヘッド(16)の上端側が閉塞された空間である。吐出空間(82)を上端が閉塞された空間にするために、フロントヘッド(16)の本体部(16a)は、駆動軸(53)に直角でかつ該吐出空間(82)を通る平面で分割した2つの部材で構成するとよい(図4の仮想線参照)。
一方、リアヘッド(17)に、第2圧縮機構部(30)の外側シリンダ室(33c)と内側シリンダ室(33b)から冷媒が吐出される吐出空間(84)と、上記第2圧縮機構部(30)の最内側シリンダ室(33a)から冷媒が吐出される吐出空間(85)とが形成されている。吐出空間(84)は、各吐出ポート(P12,P13)に別々に設けてもよい。吐出空間(84)はリアヘッド(17)の下端側が閉塞された空間である。吐出空間(84)を下端が閉塞された空間にするために、リアヘッド(17)の本体部(17a)は、駆動軸(53)に直角でかつ該吐出空間(85)を通る平面で分割した2つの部材で構成するとよい(図4の仮想線参照)。
上記各吐出空間(81,…,85)は、脈動を抑制するマフラー空間部(81a,…,85a)を有している。また、マフラー空間部(81a,82a,84a)には通路部(81b,82b,84b)が連通している。マフラー空間部(83a,85a)は、マフラカバーである蓋部(16b,17b)の内側空間(83b,85b)に開口している。図示していないが、蓋部(17b)の内側空間(85b)は蓋部(16b)の内側空間(83b)に連通している。
また、蓋部(16b)には、内側空間(83b)とケーシング(10)の内部空間とを連通する吐出開口(83c)が形成されている。このため、第4段圧縮機構から吐出された高圧の冷媒はケーシング(10)の内部空間に満たされる。また、ケーシング(10)内に充満した冷媒をケーシング(10)から外部へ吐出するために、ケーシング(10)の上部鏡板(12)には上記吐出管(69)が設けられている。
上記各吐出空間(81,…,85)のマフラー空間部(81a,…,85a)には、各吐出ポート(P11,…,P14)を開閉する吐出弁(88)がそれぞれ設けられている。一方、上記各吐出空間(81,…,85)の通路部(81b,82b,84b)には、吐出冷媒をケーシング(10)の外部へ導く吐出管(67,66,69)がそれぞれ接続されている。
上記吐出空間(81)は、ミドルプレート(19)の本体部(19a)と蓋部(19b)に跨るように形成されている。具体的には、吐出空間(81)のマフラー空間部(81a)が、ミドルプレート(19)の2つの部材である本体部(19a)と蓋部(19b)とに跨るように形成されている。
−運転動作−
次に、圧縮機(1)の運転動作について説明する。ここで、第1、第2圧縮機構部(20,30)の動作は、位相が互いに180°異なる状態で行われる。
電動機(50)を起動すると、第1圧縮機構部(20)では、ロータ(52)の回転が駆動軸(53)の第1偏心部(53a)を介して第1ピストン(22)に伝達され、該第1ピストン(22)は、揺動ブッシュ部(24c)の中心点を揺動中心として揺動すると共に、第1ブレード(24)と共に該第1ブレード(24)の長手方向へ進退する。これにより、第1ピストン(22)が第1シリンダ(21)に対して揺動しながら公転し、第1圧縮機構部(20)の4つのシリンダ室(23a,23b,23c,23d)において所定の圧縮動作が行われる。
このとき、内側ブレード部(B1)の先端と内側ピストン部(22a)の切欠部(n1)の表面との間には、ミクロンオーダーの微細隙間が形成される状態となり、両者は非接触となる。また、外側第2ブレード部(B3)の先端とピストン側鏡板部(22c)の切欠部(n2)の表面との間にも、ミクロンオーダーの微細隙間が形成される状態となり、両者は非接触となる。上記の微細隙間には、潤滑油の油膜が形成される。したがって、シリンダ室(C1,C2)の高圧側から低圧側への冷媒の漏れは、実質的に問題にはならない。
最内側シリンダ室(23a)及び外側シリンダ室(23c)では、図7(A)の状態から駆動軸(53)が図の右回りに回転して図7(B)〜図7(D)の状態へ変化するのに伴い、低圧室(23aL,23cL)の容積が増大し、冷媒が吸入ポート(P3,P2)から低圧室(23aL,23cL)にそれぞれ吸入される。また、駆動軸(53)が一回転して再び図7(A)の状態になると、上記低圧室(23aL,23cL)への冷媒の吸入が完了する。そして、上記低圧室(23aL,23cL)は冷媒が圧縮される高圧室(23aH,23cH)となり、第1ブレード(24)を隔てて新たな低圧室(23aL,23cL)が形成される。駆動軸(53)がさらに回転すると、上記低圧室(23aL,23cL)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(23aH,23cH)の容積が減少し、該高圧室(23aH,23cH)で冷媒が圧縮される。高圧室(23aH,23cH)の圧力が所定値となって吐出空間(83,82)との差圧が設定値に達すると、該高圧室(23aH,23cH)の冷媒の圧力によって吐出弁(88,88)が開く。したがって、冷媒は、吐出空間(82)からは吐出管(66)を通ってケーシング(10)から流出し、吐出空間(83)からは吐出開口(83c)を通ってケーシング(10)内に流出した後に吐出管(69)を通ってケーシング(10)から流出する。
また、最外側シリンダ室(23d)では、図8(A)の状態から駆動軸(53)が図の右回りに回転して図8(B)〜図8(D)の状態へ変化するのに伴い、低圧室(23dL)の容積が増大し、冷媒が吸入ポート(P1)から低圧室(23dL)にそれぞれ吸入される。また、駆動軸(53)が一回転して再び図8(A)の状態になると、上記低圧室(23dL)への冷媒の吸入が完了する。そして、上記低圧室(23dL)は冷媒が圧縮される高圧室(23dH)となり、第1ブレード(24)を隔てて新たな低圧室(23dL)が形成される。駆動軸(53)がさらに回転すると、上記低圧室(23dL)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(23dH)の容積が減少し、該高圧室(23dH)で冷媒が圧縮される。高圧室(23dH)の圧力が所定値となって吐出空間(81)との差圧が設定値に達すると、該高圧室(23dH)の冷媒の圧力によって吐出弁(88)が開き、冷媒が吐出空間(81)から吐出管(67)を通ってケーシング(10)から流出する。
一方、内側シリンダ室(23b)では、図7(C)の状態から駆動軸(53)が図の右回りに回転して図7(D)〜図7(B)の状態へ変化するのに伴い、低圧室(23bL)の容積が増大し、冷媒が吸入ポート(P2)から低圧室(23bL)にそれぞれ吸入される。また、駆動軸(53)が一回転して再び図7(C)の状態になると、上記低圧室(23bL)への冷媒の吸入が完了する。そして、上記低圧室(23bL)は冷媒が圧縮される高圧室(23bH)となり、第1ブレード(24)を隔てて新たな低圧室(23bL)が形成される。駆動軸(53)がさらに回転すると、上記低圧室(23bL)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(23bH)の容積が減少し、該高圧室(23bH)で冷媒が圧縮される。高圧室(23bH)の圧力が所定値となって吐出空間(82)との差圧が設定値に達すると、該高圧室(23bH)の冷媒の圧力によって吐出弁(88)が開き、冷媒が吐出空間(82)から吐出管(66)を通ってケーシング(10)から流出する。
なお、外側シリンダ室(23c)と内側シリンダ室(23b)とでは、冷媒の吸入開始のタイミング及び吐出開始のタイミングがほぼ180°異なる。このことにより、吐出脈動が小さくなり、振動や騒音が低減される。
一方、第2圧縮機構部(30)では、ロータ(52)の回転が駆動軸(53)の第2偏心部(53b)を介して第2ピストン(32)に伝達され、該第2ピストン(32)は、揺動ブッシュ部(34c)の中心点を揺動中心として揺動すると共に、第2ブレード(34)と共に該第2ブレード(34)の長手方向へ進退する。これにより、第2ピストン(32)が第2シリンダ(31)に対して揺動しながら公転し、第2圧縮機構部(30)の4つのシリンダ室(33a,33b,33c,33d)において所定の圧縮動作が行われる。
上記第2圧縮機構部(30)における圧縮動作は、実質的に第1圧縮機構部(20)の圧縮動作と同じであり、冷媒が各シリンダ室(33a,33b,33c,33d)内で圧縮される。各シリンダ室(33a,33b,33c,33d)において、高圧室(33aH,33bH,33cH,33dH)の圧力が所定値となって各吐出空間(85,84,84,81)との差圧が設定値に達すると、該高圧室(33aH,33bH,33cH,33dH)の冷媒の圧力によって吐出弁(88,88,88,88)が開く。冷媒は、吐出空間(84,81)からは吐出管(68,67)を通ってケーシング(10)から流出し、吐出空間(85)からは吐出空間(83)を通ってケーシング(10)内に流出した後に、吐出管(69)を通ってケーシング(10)から流出する。
圧縮機構(40)の動作中に、冷媒は、吸入管(62)から第1段圧縮機構のシリンダ室である第1圧縮機構部(20)の最外側シリンダ室(23d)と第2圧縮機構部(30)の最外側シリンダ室(33d)に吸入されて圧縮され、第1段圧縮機構のシリンダ室から吐出管(67)を通って吐出される。第1段圧縮機構のシリンダ室から吐出された冷媒は、冷却された後、吸入管(63)から第2段圧縮機構のシリンダ室である第2圧縮機構部(30)の外側シリンダ室(33c)と内側シリンダ室(33b)に吸入されてさらに圧縮され、第2段圧縮機構のシリンダ室から吐出管(68)を通って吐出される。第2段圧縮機構のシリンダ室から吐出された冷媒は、冷却された後、吸入管(61)から第3段圧縮機構のシリンダ室である第1圧縮機構部(20)の外側シリンダ室(23c)と内側シリンダ室(23b)に吸入されてさらに圧縮され、第3段圧縮機構のシリンダ室から吐出管(66)を通って吐出される。第3段圧縮機構のシリンダ室から吐出された冷媒は、冷却された後、吸入管(60,64)から第4段圧縮機構のシリンダ室である第1圧縮機構部(20)の最内側シリンダ室(23a)と第2圧縮機構部(30)の最内側シリンダ室(33a)に吸入されてさらに圧縮され、第4段圧縮機構のシリンダ室から、ケーシング(10)内の空間に充満した後に吐出管(69)を通って吐出される。
第4段圧縮機構のシリンダ室から吐出された冷媒は、図示していない冷媒回路の放熱器、膨張機構、蒸発器を順に流れ、再度圧縮機(1)に吸入される。そして、圧縮機(1)における圧縮行程、放熱器における放熱工程、膨張機構における膨張行程、蒸発器における蒸発行程を順に繰り返すことにより、冷凍サイクルが行われる。
圧縮機(1)が運転されているとき、ケーシング(10)内は冷媒が充満しているために高圧圧力となる。したがって、ケーシング(10)の底部に溜まる潤滑油も高圧圧力になる。この潤滑油は、給油管(26)と給油通路(27)を通って給油孔(28a,38a)に流入する。給油孔(28a,38a)は高圧圧力であり、シリンダ室の中は吸入行程時には圧力が下がるので、給油孔(28a,38a)の潤滑油は、その圧力差により、上記油供給通路(25)を通ってブレード部摺動面(P1)やブッシュ部摺動面(P2)に供給される。
−前提技術1の効果−
本前提技術によれば、圧縮機構(40)の後端部油供給源(28,38)から、潤滑油が、ブレード(24,34)に形成されている油供給通路(25)を通ってブレード部摺動面(P1)とブッシュ部摺動面(P2)に供給されるので、潤滑油がブレード(24)の全体に行き渡る。したがって、本前提技術のように圧縮機構(40)に4室のシリンダ室が形成された揺動ピストン式圧縮機(1)であっても、内周側の摺動部に潤滑油が供給されなくなったりはせず、ブレード部摺動面(P1)とブッシュ部摺動面(P2)の給油量を確保できるので、潤滑性能が低下するのを抑えられる。また、差圧が係る摺動面に潤滑油を供給することによりシール性能を高め、ひいては圧縮機の効率を高めることもできる。
また、この前提技術ではブレード部(24a,24b)と揺動ブッシュ部(24c)とが一体に形成されたブレード(24)を用いており、その表面に油供給通路(25)を形成しているので、構成を簡単にすることができる。
具体的には、上記油供給通路(25)を、上記ブッシュ部摺動面(P2)に形成されたブッシュ部給油溝(25a)と、ブレード部(24a,24b)の径方向内側端部である上記内側ブレード部(B1)に形成されたブレード部給油溝(25b)と、上記後端部油供給源である給油孔(28a)と上記ブッシュ部給油溝(25a)及びブレード部給油溝(25b)とを連通するように上記ブレード(24)の表面に形成された連通溝(25c)とから構成しており、複雑な通路を設けなくてもよいため、簡単な構成で潤滑性能を高めることができる。
−前提技術1の変形例−
(変形例1)
上記油供給通路(25)は、図9に示すように構成してもよい。
この変形例では、上記油供給通路(25)が、上記ブッシュ部摺動面(P2)に形成されたブッシュ部給油溝(25a)と、少なくとも上記ブレード部(24a,24b)の径方向内側端部である内側ブレード部(B1)に形成されたブレード部給油溝(25b)とを有している点は上記前提技術1と同じである。一方、この変形例の油供給通路(25)では、上記連通溝(24c)の代わりに、上記後端部油供給源(28)と上記ブッシュ部給油溝(25a)及びブレード部給油溝(25b)とを連通するように上記ブレード(24)の内部に連通路(25d)が形成された構成になっている。
油供給通路(25)をこのように構成しても、潤滑油は、後端部油供給源(28)からブレード(24)の内部の連通路(25d)を通ってブッシュ部給油溝(25a)とブレード部給油溝(25b)に流入するので、ブッシュ部摺動面(P2)とブレード部摺動面(P1)とに油を確実に供給できる。したがって、ブレード部摺動面(P1)とブッシュ部摺動面(P2)の給油量を確保できるので、潤滑性能が低下するのを抑えることができ、構成が複雑になるのも抑えられる。
(変形例2)
上記圧縮機構(40)について、第4段圧縮機構の吸入管(60,64)を1本にしてミドルプレート(19)に設けるようにしてもよい。その場合、第4段圧縮機構の吸入管から吸入通路(73,75)に分岐して連通する分岐連通通路を、ミドルプレート(19)、フロントヘッド(16)及びリアヘッド(17)にわたって形成するとよい。このようにすると、第4段圧縮機構の吸入管の本数を減らせるので、冷媒回路側の配管を簡単にすることができる。
(変形3)
上記圧縮機構(40)について、第1段圧縮機構のシリンダ室を第1圧縮機構部(20)の最外側シリンダ室(23d)と第2圧縮機構部(30)の最外側シリンダ室(33d)とから構成し、第2段圧縮機構のシリンダ室を第1圧縮機構部(20)の外側シリンダ室(23c)と第2圧縮機構部(30)の外側シリンダ室(33c)とから構成し、第3段圧縮機構のシリンダ室を第1圧縮機構部(20)の内側シリンダ室(23b)と第2圧縮機構部(30)の内側シリンダ室(33b)とから構成し、第4段圧縮機構のシリンダ室を第1圧縮機構部(20)の最内側シリンダ室(23a)と第2圧縮機構部(30)の最内側シリンダ室(33a)とから構成してもよい。
その場合、第1圧縮機構部(20)の外側シリンダ室(23c)と内側シリンダ室(23b)について吸入管(61)と吐出管(66)をそれぞれ共用せずに別々に設け、第2圧縮機構部(30)の外側シリンダ室(33c)と内側シリンダ室(33b)についても吸入管(63)と吐出管(68)をそれぞれ共用せずに別々に設けるとよい。また、この構成では、第1圧縮機構部(20)と第2圧縮機構部(30)とで、内側ピストン部(22a,32a)や外側ピストン部(22b,32b)の軸方向長さ寸法を変えなくてもよい。
このようにしても、図1の前提技術と同様の効果を奏することができる。
《発明の前提技術2》
本発明の前提技術2について説明する。
本発明の前提技術2は、上記ブレード(24,34)を一体の部品では構成せずに、複数の部材を組み合わせたものにした例である。
この前提技術2では、図10に示すように、内側ブレード部(B1)と外側第1ブレード部(B2)を一体の部品で形成する一方、外側第2ブレード部(B3)と揺動ブッシュ部(24c)を別部材にして、これらを組み合わせた例である。この構成において、内側ブレード部(B1)と外側第1ブレード部(B2)と外側第2ブレード部(B3)に対して揺動ブッシュ部(24c)が一体化されないので、図11に示すように、内側ピストン部(22a)の切欠部(n1)とピストン側鏡板部(22c)の切欠部(n2)を形成しなくてもよいが、内側ブレード部(B1)の先端を内側ピストン部(22a)に押し付け、外側第2ブレード部(B3)の先端をピストン側鏡板部(22c)に押し付ける背圧押し付け機構(70)が必要になる。
この前提技術2においても、上記ブレード(24)には油供給通路(25)が形成されている。そして、油供給通路(25)が、上記ブッシュ部摺動面(P2)に形成されたブッシュ部給油溝(25a)と、ブレード部(24a,24b)の径方向内側端部である上記内側ブレード部(B1)に形成されたブレード部給油溝(25b)と、上記後端部油供給源(28)である給油孔(28a)と上記ブッシュ部給油溝(25a)及びブレード部給油溝(25b)とを連通するように上記ブレード(24)の表面に形成された連通溝(25c)を有している点は上記前提技術1と同じである。一方、この前提技術2では、上記ブレード部(24a,24b)と揺動ブッシュ部(24c)との間の摺動面に、上記油供給通路から該摺動面に油を導入する分岐油通路(25e)が形成されている。
その他の構成は前提技術1と同様であるため、具体的な説明は省略する。
この前提技術2においては、油供給源(28)から、分岐油通路(25e)を含む油供給通路(25)を介して、ブレード部摺動面(P1)とブッシュ部摺動面(P2)に油を供給することができる。したがって、上記前提技術1と同様に十分な潤滑性能を得ることができる。
(変形例1)
図12に示す変形例1は、内側ブレード部(B1)と外側第1ブレード部(B2)と外側第2ブレード部(B3)を一体の部品で形成する一方、揺動ブッシュ部(24c)を別部材にして、これらを組み合わせた例である。この場合も、内側ピストン部(22a)の切欠部(n1)とピストン側鏡板部(22c)の切欠部(n2)を形成しなくてもよいが、図11と同様に背圧押し付け機構が必要である。
また、油供給通路(25)としては、図10の例と同様に、ブッシュ部給油溝(25a)とブレード部給油溝(25b)と連通溝(25c)と分岐油通路(25e)とがブレード(24)に形成されている。そして、この変形例においても、油供給源(28a)から、分岐油通路(25e)を含む油供給通路(25)を介して、ブレード部摺動面(P1)とブッシュ部摺動面(P2)に油を供給することができるので、十分な潤滑性能を得ることができる。
(変形例2)
図13に示す例は、内側ブレード部(B1)と外側第1ブレード部(B2)と外側第2ブレード部(B3)を一体部品で形成し、揺動ブッシュ部(24c)を長尺部(24a)の中間位置の溝(24d)にはめ込んで固定するようにした例である。この場合はブレード(24)が図3のように一体化されるため、内側ピストン部(22a)の切欠部(n1)とピストン側鏡板部(22c)の切欠部(n2)を形成する一方、背圧押し付け機構は設けなくてもよい。
また、油供給通路(25)は、図5の前提技術1と同じでよい。つまり、この変形例では、揺動ブッシュ部(24c)がブレード部(24a,24b)に対して固定されて、ブレード部(24a,24b)と揺動ブッシュ部(24c)とが摺動しないため、分岐油通路(25e)を形成しなくてもよい。
そして、この変形例においても、油供給源(28)から油供給通路(25)を介して、ブレード部摺動面(P1)とブッシュ部摺動面(P2)に油を供給することができるので、十分な潤滑性能を得ることができる。
《発明の実施形態》
本発明の実施形態について説明する。
この実施形態では、油供給源(28)の構成と油供給通路(25)の構成を上記各前提技術とは異なるようにしている。図14は、この実施形態の圧縮機構(40)を示す断面図であり、図15は、ブレード(24)の拡大斜視図である。
この実施形態の油供給源(28)は、環状ピストン(22)を駆動する駆動軸(53)の周囲の油を、環状ピストン(22)における上記ブレード(24)の中間位置との接触部に保持する中間部油供給源(28b,28c)である。具体的には、油供給源(28)は、ピストン側鏡板部(22c)に形成された油導入通路(28b)と、環状ピストン(22)における上記ブレード(24)の中間位置との接触部に形成された油保持孔(28c)とから構成されている。油導入通路(28b)の径方向内側端部は、上記ミドルプレート(19)における駆動軸(53)の第1偏心部(53a)と第2偏心部(53b)の間の位置に形成される油溜まり空間に連通し、油導入通路(28b)の径方向外側端部は、上記油保持孔(28c)に連通している。
また、上記油供給通路(25)は、上記中間部油供給源(28)からブレード部摺動面(P1)とブッシュ部摺動面(P2)に連通する通路である。具体的には、油供給通路(25)は、上記ブッシュ部摺動面(P2)に供給されたブッシュ部給油溝(25a)と、上記ブレード部(24a,24b)の径方向内側端部である内側ブレード部(B1)に形成されたブレード部給油溝(25b)と、上記中間部油供給源(28b,28c)と上記ブッシュ部給油溝(25a)及びブレード部給油溝(25b)とを連通するように上記ブレード(24)の表面に形成された連通溝(25f)とを有している。
なお、駆動軸(53)の下端部には給油ポンプ(54)が設けられている。また、駆動軸(53)には、その中心部を上下方向にのびる主給油通路(55)が形成されている。主給油通路(55)は、駆動軸(53)の軸受け部と、駆動軸と環状ピストン(22,32)との摺動部に連通している。そして、ケーシング(10)の底部に溜まる油は、駆動軸(53)の軸受け部と、駆動軸と環状ピストン(22,32)との摺動部に供給される一方、上記ミドルプレート(19)に形成される上記油溜まり空間を介して中間部油供給源(28)にも供給される。
その他の構成は上記各前提技術と同様であるため、具体的な説明は省略する。
この実施形態においては、潤滑油が、中間部油供給源(28)からブレード(24)の表面の連通溝(25f)を通ってブレード部給油溝(25b)とブッシュ部給油溝(25a)に流入し、ブレード部摺動面(P1)とブッシュ部摺動面(P2)に供給される。したがって、上記各前提技術と同様に、ブレード部摺動面とブッシュ部摺動面の給油量を確保できるので、潤滑性能が低下するのを抑えることができ、構成が複雑になるのも抑えられる。
《その他の実施形態》
上記前提技術及び実施形態については、以下のような構成としてもよい。
例えば、図16〜図18には、シリンダ(21)及び環状ピストン(22)にも給油構造を設けた例を示している。図16は、図6に示した前提技術を変更した参考技術を示す圧縮機構部分拡大図であり、図17及び図18は、それぞれ図5及び図9を変更した参考技術を示すブレードの拡大斜視図である。
この参考技術では、上記ブレード部摺動面(P1)には、上記ブレード部給油溝(25b)と対向するとともに該ブレード部給油溝(25b)と連通するようにシリンダ(21)の内側シリンダ部(21a)にブレード部連通溝(29a)が形成されている。また、上記ブッシュ部摺動面(P2)には、上記ブッシュ部給油溝(25a)と対向するとともに該ブッシュ部給油溝(25a)と連通するように環状ピストン(22)の外側ピストン部(22b)にブッシュ部連通溝(29b)が形成されている。
このように構成すると、後端部油供給源(28b,28c)からブレード部給油溝(25b)に供給された潤滑油はブレード部連通溝(29a)に入り、ブレード部摺動面(P1)に広がってブレード部摺動面(P1)が潤滑される。また、後端部油供給源(28b,28c)からブッシュ部給油溝(25a)に供給された潤滑油はブッシュ部連通溝(29b)に入り、ブッシュ部摺動面(P2)に広がってブッシュ部摺動面(P2)が潤滑される。ブレード部連通溝(29a)とブッシュ部連通溝(29b)を設けたことにより、ブレード部摺動面(P1)とブッシュ部摺動面(P2)の潤滑性能を安定させることができる。
ブレード部連通溝(29a)とブッシュ部連通溝(29b)を設ける構成は、上記前提技術1,2及び実施形態のいずれの構成に適用してもよい。
また、上記各前提技術及び実施形態の圧縮機構(40)の構成を変更してもよい。
例えば、上記前提技術及び実施形態では、4段圧縮を行うように圧縮機構(40)を構成しているが、本発明では圧縮段数は適宜変更してもよい(単段圧縮でもよい)。
また、上記前提技術及び実施形態では、シリンダ(21,31)とピストン(22,32)の1組で4室のシリンダ室(23a,…,23d,33a,…,33d)を形成するようにしているが、主シリンダ室(C1)を2室にして副シリンダ室(C2)を1室にしたり、主シリンダ室(C1)の3室のみで副シリンダ室(C2)を設けないようにしたりするなど、シリンダ室の数を変更してもよい。その場合、ブレード(24)の形状はシリンダ室の構成に応じて適宜変更すればよい。
さらに、上記前提技術及び実施形態では、シリンダ(21,31)とピストン(22,32)の組を2組用いるようにしているが、1組にしたり、3組以上にしたりするなど、シリンダ(22,32)とピストン(22,32)の組の数に関して構成を変更してもよい。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。