JP2011208772A - 摺動式等速自在継手 - Google Patents
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Abstract
【課題】 旋削加工を不要としてコスト低減を図ると共に、簡易な手段により確実な抜け止めを実現容易にする。
【解決手段】 一端に開口部11を有するカップ状をなし、内周面に軸方向に延びる三本のトラック溝12が形成されると共に各トラック溝12の内側壁に互いに対向するローラ案内面14が形成された外側継手部材10と、径方向に突出した三本の脚軸22を有するトリポード部材20と、トリポード部材20の脚軸22に回転自在に支持されると共に外側継手部材10のトラック溝12に転動自在に挿入されてローラ案内面14に沿って案内されるローラユニット30とを備え、ローラユニット30およびトリポード部材20が外側継手部材10に軸方向摺動自在に収容されたトリポード型等速自在継手であって、ローラ30が軸方向変位時に係止する膨出部50を、外側継手部材10の開口部11のローラ案内面14への球状治具の押圧による塑性変形でローラ案内面14の治具押圧部位の周囲に形成する。
【選択図】 図1
【解決手段】 一端に開口部11を有するカップ状をなし、内周面に軸方向に延びる三本のトラック溝12が形成されると共に各トラック溝12の内側壁に互いに対向するローラ案内面14が形成された外側継手部材10と、径方向に突出した三本の脚軸22を有するトリポード部材20と、トリポード部材20の脚軸22に回転自在に支持されると共に外側継手部材10のトラック溝12に転動自在に挿入されてローラ案内面14に沿って案内されるローラユニット30とを備え、ローラユニット30およびトリポード部材20が外側継手部材10に軸方向摺動自在に収容されたトリポード型等速自在継手であって、ローラ30が軸方向変位時に係止する膨出部50を、外側継手部材10の開口部11のローラ案内面14への球状治具の押圧による塑性変形でローラ案内面14の治具押圧部位の周囲に形成する。
【選択図】 図1
Description
本発明は、自動車、航空機、船舶や各種産業機械の動力伝達系において使用され、例えば4WD車やFR車などで使用されるドライブシャフトやプロペラシャフト等に組み込まれて駆動側と従動側の二軸間で軸方向変位および角度変位を許容する摺動式等速自在継手に関する。
例えば、自動車のエンジンから車輪に回転力を等速で伝達するドライブシャフトやプロペラシャフト等に組み込まれる等速自在継手には、固定式等速自在継手と摺動式等速自在継手の二種がある。これら両者の等速自在継手は、駆動側と従動側の二軸を連結してその二軸が作動角をとっても等速で回転トルクを伝達し得る構造を備えている。
自動車のエンジンから駆動車輪に動力を伝達するドライブシャフトは、エンジンと車輪との相対的位置関係の変化による角度変位と軸方向変位に対応する必要があるため、一般的に、エンジン側(インボード側)に摺動式等速自在継手を、駆動車輪側(アウトボード側)に固定式等速自在継手をそれぞれ装備し、両者の等速自在継手をシャフトで連結した構造を具備する。
このドライブシャフトに組み付けられる摺動式等速自在継手の一つに、トルク伝達部材としてローラを用いたローラタイプのトリポード型等速自在継手(TJ)がある。また、他の摺動式等速自在継手としては、トルク伝達部材としてボールを用いたボールタイプのダブルオフセット型等速自在継手(DOJ)がある。
トリポード型等速自在継手は、一端に開口部を有するカップ状をなし、内周面に軸方向に延びる三本のトラック溝が形成されると共に各トラック溝の内側壁に互いに対向するローラ案内面が形成された外側継手部材と、径方向に突出した三本の脚軸を有するトリポード部材と、そのトリポード部材の脚軸に回転自在に支持されると共に外側継手部材のトラック溝に転動自在に挿入されてローラ案内面に沿って案内されるローラとで主要部が構成され、ローラおよびトリポード部材が外側継手部材に軸方向摺動自在に収容された構造を具備する。
この種のトリポード型等速自在継手を自動車に組み付けるに際しては、このトリポード型等速自在継手をエンジン側(インボード側)に組み付けた後、固定式等速自在継手を駆動車輪側(アウトボード側)に組み付けるのが一般的である。その駆動車輪側では、固定式等速自在継手にハブベアリングを組み付け、ナックルにより車体の懸架装置に組み付けるが、固定式等速自在継手にハブベアリングを組み付けた時点では、ハブベアリングおよびナックルを車体の懸架装置に組み付けていないため、前述のトリポード型等速自在継手には、固定式等速自在継手、ハブベアリングおよびナックルの総荷重(例えば、0.3kN以上)がかかる場合がある。このような荷重がトリポード型等速自在継手にかかると、ローラおよびトリポード部材が外側継手部材の開口部から飛び出すスライドオーバーが生じることがある。そこで、従来では、このスライドオーバーを防止するため、以下のような抜け止め機構が採用されている。
抜け止め機構の一つとしては、外側継手部材の開口部内周面に環状凹溝を設け、その環状凹溝にサークリップを嵌着した構造がある(例えば、特許文献1参照)。このような構造とすることにより、ローラおよびトリポード部材の軸方向変位時、ローラがサークリップと干渉することでローラの軸方向変位量を規制するようにしている。
ところで、前述の特許文献1で開示された従来の等速自在継手では、ローラの軸方向変位量を規制するサークリップを外側継手部材に組み付けるため、外側継手部材の開口部内周面に環状凹溝を形成しなければならず、外側継手部材の開口部内周面を旋削加工する必要があり、サークリップも必要となることから、旋削加工および部品点数の増加により製品のコストアップを招くことになる。
そこで、本発明は前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、旋削加工を不要として部品点数を削減することでコスト低減を図ると共に、簡易な手段により確実な抜け止めを実現容易にし得る摺動式等速自在継手を提供することにある。
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、一端に開口部を有するカップ状をなし、軸方向に延びるトラック溝が内周面の円周方向複数箇所に形成された外側継手部材と、その外側継手部材のトラック溝に挿入配置された転動体を介して外側継手部材と間で角度変位を許容しながらトルクが伝達される内側継手部材とを備え、転動体および内側継手部材が外側継手部材に軸方向摺動自在に収容された摺動式等速自在継手であって、転動体が軸方向変位時に係止する膨出部を、外側継手部材の開口部のトラック溝面への球状治具の押圧による塑性変形でトラック溝面の治具押圧部位の周囲に形成したことを特徴とする。
本発明における摺動式等速自在継手では、外側継手部材の開口部のトラック溝面を球状治具で押圧することにより塑性変形させた膨出部を、トラック溝面の治具押圧部位の周囲に形成したことにより、転動体および内側継手部材の軸方向変位時、転動体が膨出部と干渉することで転動体および内側継手部材の軸方向変位量を規制することにより、転動体および内側継手部材が外側継手部材の開口部から飛び出すスライドオーバーを未然に防止することができる。特に、この摺動式等速自在継手をドライブシャフトとして自動車に組み付けるに際して、固定式等速自在継手、ハブベアリングおよびナックルの総荷重が摺動式等速自在継手にかかっても、スライドオーバーを確実に防止できる点で有効である。
一方、転動体が軸方向変位時に係止する膨出部は、外側継手部材の開口部のトラック溝面への球状治具の押圧による塑性変形により形成されることにより、従来のような環状凹溝形成のための旋削加工、サークリップのような別部品を不要とすることができてコスト低減が図れる。また、外側継手部材の開口部のトラック溝面への球状治具の押圧という簡易な手段により抜け止め機能を確実に発揮させることができる。
本発明において、トラック溝面の治具押圧部位およびその周囲が非熱処理領域であることが望ましい。外側継手部材のトラック溝は転動体が摺動する部位であることから、一般的に、そのトラック溝面に熱処理により硬化層を形成しているが、外側継手部材の開口部であれば、等速自在継手の作動時に転動体および内側継手部材が軸方向変位してもその転動体が接触しない部位であることから、その外側継手部材の開口部を非熱処理領域とする。このように、外側継手部材の開口部において、トラック溝面の治具押圧部位およびその周囲が非熱処理領域であれば、球状治具の押圧による塑性変形が容易に実現できる。
本発明における非熱処理領域は、外側継手部材の開口端面から7mmまでの領域とすることが望ましい。このように、外側継手部材の開口端面から7mmまでの領域であれば、等速自在継手の作動時に転動体および内側継手部材が軸方向変位してもその転動体が確実に接触しない部位であるため、球状治具の押圧による塑性変形で膨出部が形成される非熱処理領域とすることが可能である。
本発明における球状治具は、その先端球状部の硬度がHRC63以上であることが望ましい。このように球状治具の先端球状部がHRC63以上の硬度を有すれば、外側継手部材の開口部のトラック溝面を容易に塑性変形させることができる。なお、この球状治具の先端球状部の硬度がHRC63よりも小さいと、外側継手部材の開口部のトラック溝面を塑性変形させることが困難となる。
本発明における球状治具は、その先端球状部の外径が1〜5mmであることが望ましい。このように、球状治具の先端球状部が1〜5mmの外径を有すれば、適正な大きさの膨出部を形成することができ、転動体および内側継手部材の軸方向変位時、転動体が膨出部と確実に干渉する。なお、球状治具の先端球状部の外径が1mmよりも小さいと、転動体を係止可能な大きさの膨出部を形成することが困難となり、また、5mmよりも大きいと、外側継手部材の開口部のトラック溝面を塑性変形させることが困難となる。
本発明における外側継手部材は、軸線方向に延びる三本のトラック溝が内周面に形成されると共に各トラック溝の内側壁に互いに対向するローラ案内面が形成され、内側継手部材は、先端がトラック溝内に挿入された三本の脚軸を有するトリポード部材であり、転動体は、脚軸に回転自在に支持されると共に外側継手部材のトラック溝に挿入されてローラ案内面に沿って案内されるローラである構造を具備することが望ましい。つまり、前述のような構造を具備するトリポード型等速自在継手に適用可能である。
そのトリポード型等速自在継手におけるローラは、脚軸に外嵌されたインナローラの外周側に配置されたアウタローラであり、インナローラの内周面は凸円弧状をなし、脚軸は、縦断面において継手の軸線と直交するストレート形状をなし、横断面において継手の軸線と直交する方向でインナローラの内周面と接触し、かつ、継手の軸線方向でインナローラの内周面との間に隙間が形成されている構造を具備することが望ましい。つまり、このような構造を具備するダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手に適用可能である。
このトリポード型等速自在継手における膨出部は、各トラック溝の両側に互いに対向する一対のローラ案内面の少なくとも片側のローラ案内面に形成されていることが望ましい。このようにすれば、膨出部を適正な位置に形成することができ、ローラおよびトリポード部材の軸方向変位時、ローラが膨出部と確実に干渉する。なお、前述の「少なくとも片側」とは、トラック溝の内側壁に互いに対向する一対のローラ案内面のうちの片側に膨出部を形成する場合、あるいは、一対のローラ案内面の両側に膨出部を形成する場合の両方を含むことを意味する。
また、本発明における内側継手部材は、軸方向に延びる直線状トラック溝が外側継手部材のトラック溝と対をなして外周面の複数箇所に形成され、転動体は、外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に配されたボールであり、外側継手部材の内周面と内側継手部材の外周面との間に介在してボールを保持するケージを備えた構造が望ましい。つまり、このような構造を具備するダブルオフセット型等速自在継手やクロスグルーブ型等速自在継手に適用可能である。
このダブルオフセット型等速自在継手やクロスグルーブ型等速自在継手における膨出部は、各トラック溝の底部に形成されていることが望ましい。このようにすれば、膨出部を適正な位置に形成することができ、ボールおよび内側継手部材の軸方向変位時、ボールが膨出部と確実に干渉する。
本発明によれば、外側継手部材の開口部のトラック溝面を球状治具で押圧することにより塑性変形した膨出部を、トラック溝面の治具押圧部位の周囲に形成したことにより、転動体および内側継手部材の軸方向変位時、転動体が膨出部と干渉することで転動体および内側継手部材の軸方向変位量を規制することにより、転動体および内側継手部材が外側継手部材の開口部から飛び出すスライドオーバーを未然に防止することができる。また、転動体が軸方向変位時に係止する膨出部は、外側継手部材の開口部のトラック溝面への球状治具の押圧による塑性変形により形成されることにより、従来のような環状凹溝形成のための旋削加工、サークリップのような別部品を不要とすることができてコスト低減が図れる。また、外側継手部材の開口部のトラック溝面への球状治具の押圧という簡易な手段により抜け止め機能を確実に発揮させることができる。
このように、転動体が軸方向変位時に係止する膨出部を、外側継手部材の開口部のトラック溝面への球状治具の押圧による塑性変形でトラック溝面の治具押圧部位の周囲に形成したことにより、安価で信頼性の高い摺動式等速自在継手を提供できる。
本発明に係る摺動式等速自在継手の実施形態を以下に詳述する。以下の実施形態では、シングルローラタイプのトリポード型等速自在継手を例示する。なお、本発明は、このシングルローラタイプ以外に、作動時の低振動化を可能としたダブルローラタイプ等の他のトリポード型等速自在継手にも適用可能である。また、本発明は、トリポード型等速自在継手以外に、ダブルオフセット型等速自在継手やクロスグルーブ型等速自在継手のような他の摺動式等速自在継手にも適用可能である。
図1および図2はシングルローラタイプのトリポード型等速自在継手の基本構成を示し、図1は継手の軸線に対する縦断面を示し、図2は図1のA方向から見た矢視図を示す(但し、一つのローラ30のみを断面で示す)。この実施形態のトリポード型等速自在継手は、外側継手部材10と、内側継手部材であるトリポード部材20と、転動体であるローラ30とで主要部が構成されている。
外側継手部材10は、一端に開口部11を有するカップ状をなし、その底部中央に回転軸13(例えば駆動軸)が一体的に形成されている。外側継手部材10の内周面には、軸方向に延びる三本の直線状トラック溝12が円周方向等間隔に形成される。各トラック溝12は、その内側両壁に互いに対向する一対のローラ案内面14を有する。ローラ案内面14は円弧状断面を有し、外側継手部材10の軸線方向に直線状に延びる。外側継手部材10の外周面は、軽量化のため、トラック溝12間と対応する部位が減肉されて凹所15が軸方向に形成されている。この外側継手部材10の内部には、トリポード部材20とローラ30が収容されている。ここで、外側継手部材10は、例えば、中炭素鋼からなる素材を鍛造により概略形状に成形し、その後、旋削加工、高周波熱処理や研削加工などを経て製作される。
トリポード部材20は、円筒状をなすボス21の外周面に三本の脚軸22が円周方向等間隔(120°間隔)で放射状に一体形成されたものである。脚軸22は、その先端がトラック溝12の底部付近まで半径方向に延在し、その外周面は一般的に円筒面とされている。ボス21の軸孔に回転軸40(例えば従動軸)の軸端がスプライン嵌合により連結され、環状のスナップリング41によりトリポード部材20に対して抜け止めされている。
外側継手部材10のトラック溝12のローラ案内面14と脚軸22の外周面との間に針状ころ31を介してローラ30が回転自在に配設される。ローラ30の外周面は縦断面円弧状とされ、ローラ案内面14とアンギュラ接触により二箇所で接触する場合と、サーキュラ接触により一箇所で接触する場合がある。一方、ローラ30の内周面は、円筒状に形成されている。このローラ30と脚軸22との間に、複数の針状ころ31が、保持器のない、いわゆる単列総ころ状態で配設されている。脚軸22の外周面は針状ころ31の内側転動面を構成し、ローラ30の内周面は針状ころ31の外側転動面を構成している。
これら針状ころ31は、脚軸22の付け根部に外嵌されたインナワッシャ32と半径方向内側で接すると共に、脚軸22の先端部に外嵌されたアウタワッシャ33と半径方向外側で接している。このアウタワッシャ33は、脚軸22の先端部に形成された環状溝23に丸サークリップ等の止め輪34を嵌合させることにより抜け止めされている。
この等速自在継手では、トリポード部材20の脚軸22と外側継手部材10のローラ案内面14とがローラ30を介して二軸の回転方向に係合することにより、駆動側から従動側へ回転トルクが等速で伝達される。また、ローラ30が脚軸22に対して回転しながらローラ案内面14上を転動することにより、外側継手部材10とトリポード部材20との間の相対的な軸方向変位や角度変位が許容される。
この実施形態の等速自在継手では、トリポード部材20およびローラ30が外側継手部材10の開口部11から飛び出すスライドオーバーを防止するため、図1および図2に示すように、ローラ30が軸方向変位時に係止する膨出部50を、外側継手部材10の開口部11のローラ案内面14への球状治具の押圧による塑性変形でローラ案内面14の治具押圧部位の周囲に形成した抜け止め機構を採用している。
つまり、この抜け止め機構をなす膨出部50は、図3に示すように、外側継手部材10の開口部11の円周方向三箇所に位置する各トラック溝12の両側に互いに対向する一対のローラ案内面14に形成される。また、この膨出部50は、外側継手部材10の開口部11のローラ案内面14に球状治具60の先端球状部61を押圧することにより凹陥部51を形成し、この凹陥部51の形成による余肉がその周囲へ流動することによる塑性変形でもって治具押圧部位の周囲に形成される。
このように、外側継手部材10の開口部11のローラ案内面14を球状治具60で押圧することにより塑性変形させた膨出部50を、ローラ案内面14の治具押圧部位の周囲に形成したことにより、図4に示すように、ローラ30およびトリポード部材20の軸方向変位時、ローラ30が膨出部50と干渉することでローラ30およびトリポード部材20の軸方向変位量を規制することにより、ローラ30およびトリポード部材20が外側継手部材10の開口部11から飛び出すスライドオーバーを未然に防止することができる。特に、この摺動式等速自在継手をドライブシャフトとして自動車に組み付けるに際して、固定式等速自在継手、ハブベアリングおよびナックルの総荷重が摺動式等速自在継手にかかっても、スライドオーバーを確実に防止できる点で有効である。
一方、ローラ30が軸方向変位時に係止する膨出部50は、外側継手部材10の開口部11のローラ案内面14への球状治具60の押圧による塑性変形により形成されることにより、従来のような環状凹溝形成のための旋削加工、サークリップのような別部品を不要とすることができてコスト低減が図れる。また、外側継手部材10の開口部11のローラ案内面14への球状治具60の押圧という簡易な手段により抜け止め機能を確実に発揮させることができる。
この膨出部50をトラック溝面のうちでローラ案内面14に形成したことにより、その膨出部50を適正な位置に形成することができ、ローラ30およびトリポード部材20の軸方向変位時、ローラ30が膨出部50と確実に干渉する。なお、この実施形態では、トラック溝12の内側壁に互いに対向する一対のローラ案内面14のうちの両側に位置するローラ案内面14に膨出部50を形成したが、一対のローラ案内面14の片側のみに膨出部50を形成するようにしてもよい。
ここで、外側継手部材10のローラ案内面14はローラ30が摺動する部位であることから、図3に示すように、そのローラ案内面14に熱処理により硬化層16を形成しているが、外側継手部材10の開口部11、つまり、ローラ案内面14の治具押圧部位およびその周囲が、等速自在継手の作動時にローラ30およびトリポード部材20が軸方向変位してもそのローラ30が接触しない部位であることから、そのローラ案内面14の治具押圧部位およびその周囲を生のままの非熱処理領域Xとする。このように、外側継手部材10の開口部11において、ローラ案内面14の治具押圧部位およびその周囲を非熱処理領域Xとすることにより、球状治具60の押圧による塑性変形が容易に実現できる。
この非熱処理領域Xは、外側継手部材10の開口端面から7mmまでの領域とする。このように、外側継手部材10の開口端面から7mmまでの領域であれば、等速自在継手の作動時にローラ30およびトリポード部材20が軸方向変位してもそのローラ30が確実に接触しない部位であるため、球状治具60の押圧による塑性変形で膨出部50が形成される非熱処理領域Xとすることが可能である。
一方、膨出部50を形成するための球状治具60は、その先端球状部61の硬度がHRC63以上のものを使用する。このように球状治具60の先端球状部61がHRC63以上の硬度を有することにより、外側継手部材10の開口部11のローラ案内面14を容易に塑性変形させることができる。なお、この球状治具60の先端球状部61の硬度がHRC63よりも小さいと、外側継手部材10の開口部11のローラ案内面14を塑性変形させることが困難となる。
また、この球状治具60は、その先端球状部61の外径が1〜5mmのものを使用する。このように、球状治具60の先端球状部61が1〜5mmの外径を有することにより、適正な大きさの膨出部50を形成することができ、ローラ30およびトリポード部材20の軸方向変位時、ローラ30が膨出部50と確実に干渉する。なお、球状治具60の先端球状部61の外径が1mmよりも小さいと、ローラ30を係止可能な大きさの膨出部50を形成することが困難となり、また、球状治具60の先端球状部61の外径が5mmよりも大きいと、外側継手部材10の開口部11のローラ案内面14を塑性変形させることが困難となる。
以上の実施形態では、シングルローラタイプのトリポード型等速自在継手について説明したが、図5および図6に示すダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手にも適用可能である。図5は継手の軸線に対する縦断面を示し、図6は図5のB方向から見た矢視図を示す。
このダブルローラタイプの等速自在継手は、図5および図6に示すように、外側継手部材110、トリポード部材120およびローラユニット130で主要部が構成されている。この場合も、ローラユニット130が軸方向変位時に係止する膨出部150を、外側継手部材110の開口部111のローラ案内面114への球状治具60(図3参照)の押圧による塑性変形でローラ案内面114の治具押圧部位の周囲に形成する。この膨出部150の形成要領については、前述のシングルローラタイプの実施形態と同様であるため、重複説明は省略する。
ローラユニット130は、アウタローラ131と、このアウタローラ131の内側に配置されて脚軸122に外嵌されたインナローラ132と、アウタローラ131とインナローラ132との間に介在された針状ころ133とで構成されている。インナローラ132の内周面は凸円弧状をなしている。脚軸122は、縦断面において継手の軸線と直交するストレート形状をなし、横断面において継手の軸線と直交する方向でインナローラ132の内周面と接触し、かつ、継手の軸線方向でインナローラ132の内周面との間に隙間nが形成されている(図7参照)。
この等速自在継手では、継手の軸線方向で脚軸122とインナローラ132との間に隙間nが形成され、ローラ案内面114上を転動するローラユニット130に対して脚軸122が傾動自在となっていることから、継手が作動角をとっても、ローラユニット130がローラ案内面114に対して傾くことはない。このようにして、脚軸122の傾きに伴ってローラユニット130とローラ案内面114とが互いに斜交した状態となることを回避し、誘起スラストやスライド抵抗の低減を図るようにしている。
また、以上の実施形態ではトリポード型等速自在継手について説明したが、トリポード型等速自在継手以外に、図8および図9に示すダブルオフセット型等速自在継手にも適用可能である。図8は継手の軸線に対する縦断面を示し、図9は図8のC方向から見た矢視図を示す。
このダブルオフセット型等速自在継手は、図8および図9に示すように、外側継手部材210、内側継手部材220、転動体であるボール230およびケージ240で主要部が構成されている。この場合も、ボール230が軸方向変位時に係止する膨出部250を、外側継手部材210の開口部211のトラック溝212への球状治具60(図3参照)の押圧による塑性変形でトラック溝面212の治具押圧部位の周囲に形成する。膨出部250は各トラック溝212の底部に形成され、6個ボールの等速自在継手では6箇所、8個ボールの等速自在継手では8箇所に設けられる。この膨出部250の形成要領については、前述のトリポード型等速自在継手の実施形態と同様であるため、重複説明は省略する。
この実施形態における等速自在継手は、軸方向に延びる直線状トラック溝222が外側継手部材210のトラック溝212と対をなして外周面の複数箇所に形成された内側継手部材220と、外側継手部材210のトラック溝212と内側継手部材220のトラック溝222との間に配されたボール230と、外側継手部材210の内周面と内側継手部材220の外周面との間に介在してボール230を保持するケージ240を備えた構造が具備する。
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
10 外側継手部材
11 開口部
12 トラック溝
14 トラック溝面(ローラ案内面)
20 トリポード部材
22 脚軸
30 ローラ
50 膨出部
60 球状治具
61 先端球状部
X 非熱処理領域
11 開口部
12 トラック溝
14 トラック溝面(ローラ案内面)
20 トリポード部材
22 脚軸
30 ローラ
50 膨出部
60 球状治具
61 先端球状部
X 非熱処理領域
Claims (10)
- 一端に開口部を有するカップ状をなし、軸方向に延びるトラック溝が内周面の円周方向複数箇所に形成された外側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝に挿入配置された転動体を介して前記外側継手部材と間で角度変位を許容しながらトルクが伝達される内側継手部材とを備え、前記転動体および内側継手部材が前記外側継手部材に軸方向摺動自在に収容された摺動式等速自在継手であって、
前記転動体が軸方向変位時に係止する膨出部を、前記外側継手部材の開口部のトラック溝面への球状治具の押圧による塑性変形で前記トラック溝面の治具押圧部位の周囲に形成したことを特徴とする摺動式等速自在継手。 - 前記トラック溝面の治具押圧部位およびその周囲が非熱処理領域である請求項1に記載の摺動式等速自在継手。
- 前記非熱処理領域は、外側継手部材の開口端面から7mmまでの領域とした請求項2に記載の摺動式等速自在継手。
- 前記球状治具は、その先端球状部の硬度がHRC63以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の摺動式等速自在継手。
- 前記球状治具は、その先端球状部の外径が1〜5mmである請求項1〜4のいずれか一項に記載の摺動式等速自在継手。
- 前記外側継手部材は、軸線方向に延びる三本のトラック溝が内周面に形成されると共に各トラック溝の内側壁に互いに対向するローラ案内面が形成され、前記内側継手部材は、先端が前記トラック溝内に挿入された三本の脚軸を有するトリポード部材であり、前記転動体は、前記脚軸に回転自在に支持されると共に前記外側継手部材のトラック溝に挿入されて前記ローラ案内面に沿って案内されるローラである請求項1〜5のいずれか一項に記載の摺動式等速自在継手。
- 前記ローラは、前記脚軸に外嵌されたインナローラの外周側に配置されたアウタローラであり、前記インナローラの内周面は凸円弧状をなし、前記脚軸は、縦断面において継手の軸線と直交するストレート形状をなし、横断面において継手の軸線と直交する方向で前記インナローラの内周面と接触し、かつ、継手の軸線方向で前記インナローラの内周面との間に隙間が形成されている請求項6に記載の摺動式等速自在継手。
- 前記各トラック溝の両側に互いに対向する一対のローラ案内面の少なくとも片側のローラ案内面に前記膨出部が形成されている請求項6又は7に記載の摺動式等速自在継手。
- 前記内側継手部材は、軸方向に延びる直線状トラック溝が前記外側継手部材のトラック溝と対をなして外周面の複数箇所に形成され、前記転動体は、外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に配されたボールであり、前記外側継手部材の内周面と内側継手部材の外周面との間に介在して前記ボールを保持するケージを備えた請求項1〜4のいずれか一項に記載の摺動式等速自在継手。
- 前記各トラック溝の底部に前記膨出部が形成されている請求項9に記載の摺動式等速自在継手。
Priority Applications (1)
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---|---|---|---|
JP2010078921A JP2011208772A (ja) | 2010-03-30 | 2010-03-30 | 摺動式等速自在継手 |
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Publications (1)
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JP2011208772A true JP2011208772A (ja) | 2011-10-20 |
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ID=44940038
Family Applications (1)
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Country Status (1)
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JP (1) | JP2011208772A (ja) |
-
2010
- 2010-03-30 JP JP2010078921A patent/JP2011208772A/ja active Pending
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