≪実施形態1≫
本発明の実施形態について、図面に基づいて説明すると以下の通りである。本実施形態では、本発明の化学物質判定装置を、蛍光物質の一例として生体組織(例えば、血管など)内に含まれるAGEsを判定するためのシステムに用いた場合について説明する。
なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付すものとし、それらの説明は重複して行わない。なお、図面における長さ、大きさ、幅などの寸法関係は、図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法を表してはいない。
〔化学物質判定システムの概要〕
図2Aは、本発明の一実施形態における化学物質判定システムの概要を示す図である。図2Aに示すとおり、本発明の化学物質判定システム100は、大きくは、化学物質を検出してデータ化する化学物質検出システム120と、検出されたデータを処理して判定を行う化学物質判定装置1との二つから構成される。化学物質検出システム120には、光源2、分光器3、および、対象物格納セル4が含まれる。化学物質判定装置1と、化学物質検出システム120の分光器3とは、通信ケーブル7を介して接続され、互いに通信することが可能である。なお、分光器3と化学物質判定装置1とが無線通信機能を有する場合には、通信ケーブル7を用いなくてもよい。
化学物質判定装置1は、化学物質検出システム120から送信された化学物質の電子化データを処理し、対象物Oに含まれる化学物質の同定または定量を行うものである。化学物質判定装置1は、例えば、通信機能を備えた各種情報処理装置(パソコンなど)で実現される。
光源2は、対象物格納セル4に格納された対象物Oに、励起光を照射するための照射手段である。光源2では、出力する励起光の波長、出力強度、照射時間等の条件の切り替えや調整を行うことができる。この条件の切り替えおよび調整は、光源2本体に設けられた操作ボタンなどによって手動で行われてもよいし、図示しない、他のパソコンなどの制御装置(または、化学物質判定装置1としても機能するパソコン)からの遠隔制御によって自動で行われてもよい。また、光源2は、任意の複数の波長の励起光を照射することができる。図2Aに示す例では、一例として、光源2は、LED(light-emitting diode)素子で実現されており、LED素子の光放射部2aから出力された励起光は、対象物格納セル4に進入する。対象物格納セル4の側面には、光放射部2aの形状に合わせて凹部が設けられており、これにより、光源2の光放射部2aを対象物格納セル4に接続することができる。また、対象物格納セル4の凹部中央、すなわち、光放射部2aの先端が接触する部分には、光放射部2aの先端が入る穴が設けられており、光放射部2aからの励起光をできるだけ発散させずに透明ケース4a内に進入させるような構造となっている。
それでもなお、LEDチップのみでは光の発散が大きく、対象物Oからの蛍光が微弱になってしまうことが考えられる。このような場合には、集光レンズを組み合わせて用いることが可能である。詳細には、集光レンズを対象物格納セル4の凹部中央に設けてもよいし、光源2の光放射部2aの先端に設けてもよい。
光源2は、複数の波長を照射できる構造となっていれば特に制限はなく、LEDの他に、LD(Laser Diode)、それらを集積化した光源ユニット、ハロゲン系ランプ等を用いることができる。本実施形態では、光源2には、複数波長にそれぞれ対応したLED素子が組み込まれ、手動にて自由に発光、切り替え、集光照射ができるようになっている構造のものを用いることとする。
対象物格納セル4は、判定の対象となる対象物O(検出対象となる蛍光物質を含んだ溶媒など)を格納するものである。対象物格納セル4は、対象物Oを収納した透明ケース4aを固定的に収容できる外箱の構成になっている。対象物格納セル4は、励起光の強い反射を防ぐため、黒色でつや消し処理が施してある。
上述したとおり、光放射部2aを対象物格納セル4の凹部にはめ込むことで光源2と対象物格納セル4とは接続されており、対象物格納セル4と分光器3とは中空ネジ3aを介して接続されている。例えば、分光器3側に所定規格の中空ネジ3aのオスネジが、対象物格納セル4側に同規格の中空ネジ3aのメスネジが設けられており、両者を固定できるようになっている。この中空ネジ3aの規格については特に限定されないが、例えば、光学系プローブによく用いられる「SMA905」を採用することができる。
また、対象物格納セル4には、光放射部2aの先端が入る穴と、対象物Oの蛍光を分光器3に集光させるための穴とが2ヶ所空いており、この穴の方向は、光放射部2aの入射光と、分光器3と対象物格納セル4とを接続する中空ネジ3aを通じて透明ケース4aから分光器3へと進入する出射光とが互いに直交する方向となり、各穴は、対象物格納セル4の一角に近接して空けられている。
こうして、対象物格納セル4内に固定された透明ケース4aの一角の所定位置で、光放射部2aを通る入射光と中空ネジ3aを通る出射光とが互いに直交するように、光源2および分光器3が固定され、これにより、光源2からの入射光の進入経路および対象物格納セル4内部の対象物Oからの放射光の放出経路が確保される。光放射部2aおよび中空ネジ3aの先端は、透明ケース4aの一角に近接して固定されるので、対象物Oから放射される微弱な放射光を効率よく分光器3に集光させ、分光器3がその放射光を検出することが可能となる。なお、対象物Oから放射される蛍光も発散光であるので、この蛍光をさらに効率よく集光するために、透明ケース4aと分光器3との間に集光レンズを設けることが好ましい。
対象物格納セル4の材質に関しては、励起光以外の外部の光が対象物Oに当たるのを遮蔽する効果、励起光の強い反射を防止する効果を奏するものであれば何でもよく、限定されない。例えば、PP(ポリプロピレン)、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂類でもよい。本実施形態では、コストおよび加工性の面から、PP製の対象物格納セル4を用いることとする。
なお、化学物質判定装置1は、自装置が備える標本特徴量データベース31にあらゆる蛍光物質の特徴量(標本特徴量)を蓄積するために、既知の蛍光物質の標本を透明ケース4aに収容し、化学物質検出システム120において、あらゆる既知の蛍光物質についての特徴量を収集することも行う。
分光器3は、中空ネジ3aを介して透明ケース4aから取得した放射光を検出・分析し、分析結果を電気信号に変換したものである光特性データを、通信ケーブル7を介して化学物質判定装置1に送信するものである。本実施形態では、化学物質判定装置1または他のパソコンから、通信ケーブル7を介して分光器3を制御することが可能であり、検出の積算時間設定やデータ取り込み等の制御を行うことができる。
分光器3の仕様としては、目的とする波長帯の光を検出できるものなら特に制限はない。本実施形態では、サイズおよび目的波長帯選択の面から、ALS社製小型分光器SEC2000−UV/VISを用いることとする。
化学物質判定装置1は、分光器3を制御し、分光器3から受信した光特性データを処理して、対象物Oに含まれる蛍光物質または該蛍光物質が属する蛍光物質群を判定する。この判定結果を表示部に出力してユーザに提示してもよい。化学物質判定装置1は、検出された蛍光物質の同定または定量を行うために必要な情報を格納したデータベースを保持している。化学物質判定装置1は、分光器3から得られた光特性データを処理して導出された近似関数を、上記データベース内の関数データと比較することにより蛍光物質の同定または定量を行う。本実施形態では、化学物質判定装置1が備える分光器制御ソフトとしてVisualSpectra2.1Srを用いることとする。
本発明の化学物質判定システム100は、上記構成に限定されず、光源2、対象物格納セル4、および、分光器3のそれぞれの間をプローブを用いて接続し、さらに効率よく光を検出できる構成としてもよい。
図2Bは、本発明の一実施形態における化学物質判定システムの概要の他の例を示す図である。図2Aの構成と同様に、化学物質判定システム100は、化学物質検出システム120と、化学物質判定装置1との二つから構成される。図2Bに示す化学物質判定システム100において、図2Aの構成と異なる点は、化学物質検出システム120が、光源2、分光器3、および、対象物格納セル4に加えて、さらに、照射プローブ5、および、検出プローブ6とを含む点である。化学物質判定装置1と、化学物質検出システム120の分光器3とは、通信ケーブル7を介して接続され、互いに通信することが可能である。なお、分光器3と化学物質判定装置1とが無線通信機能を有する場合には、通信ケーブル7を用いなくてもよい。
光源2は、対象物格納セル4に格納された対象物Oに、励起光を照射するための照射手段である。光源2では、出力する励起光の波長、出力強度、照射時間等の条件の切り替えや調整を行うことができる。この条件の切り替えおよび調整は、光源2本体に設けられた操作ボタンなどによって手動で行われてもよいし、図示しない、他のパソコンなどの制御装置(または、化学物質判定装置1としても機能するパソコン)からの遠隔制御によって自動で行われてもよい。また、光源2は、任意の複数の波長の励起光を照射することができる。光源2から出力された励起光は、照射プローブ5を経由して、対象物格納セル4に進入する。
対象物格納セル4は、判定の対象となる対象物O(検出対象となる蛍光物質を含んだ溶媒など)を格納するものである。図3は、対象物格納セル4の透視斜視図である。図3に示すとおり、対象物格納セル4は、対象物Oを収納した透明ケース4aを固定的に収容できる外箱の構成になっている。対象物格納セル4は、励起光の強い反射を防ぐため、黒色でつや消し処理が施してある。また、対象物格納セル4には、照射プローブ5および検出プローブ6の先端が入る穴が2ヶ所空いており、この穴の方向は、プローブが互いに直交する方向で、対象物格納セル4の一角に近接して空けられている。こうして、対象物格納セル4内に固定された透明ケース4aの一角の所定位置で、照射プローブ5および検出プローブ6が互いに直交するように固定され、これにより、光源2からの入射光の進入経路および対象物格納セル4内部の対象物Oからの放射光の放出経路が確保される。各プローブの先端は、透明ケース4aの一角に近接して固定されるので、検出プローブ6は、対象物Oから放射される微弱な放射光を検出することが可能となる。
なお、プローブの先端が接触する穴の、対象物格納セル4の底面からの高さは、プローブ径を通すことが可能な範囲でできるだけ底面に近い(低い)位置であることが好ましい。これにより、透明ケース4aに収容するサンプル量が少量であっても蛍光の検出が可能となる。
照射プローブ5の発光部一端と検出プローブ6の受光部の一端は、対象物格納セル4の穴に挿入され、対象物格納セル4の内部の透明セル表面と近接して設置されている。照射プローブ5の他端は、光源2に、検出プローブ6の他端は、分光器3にそれぞれ接続されている。
なお、各プローブの材質については、導きたい光の波長帯に対して吸収性を持たない材質であれば特に制限はない。本実施形態では、石英光ファイバー(ともにファイバー径1800μm、長さ約25cm)を用いることとする。
波長、出力強度、照射時間等の条件が調整された励起光が、光源2より出力されると、対象物格納セル4内において、対象物Oに照射される。励起光の影響を受けて、対象物Oに含まれる蛍光物質より放射された放射光は、検出プローブ6を介して集約され、分光器3に伝達される。
分光器3は、検出プローブ6から取得した放射光を図2Aに示す分光器3と同様に検出・分析し、分析結果を電気信号に変換したものである光特性データを、通信ケーブル7を介して化学物質判定装置1に送信する。
次に、化学物質判定装置1の構成およびデータベースについてさらに詳細に説明する。
〔化学物質判定装置〕
図1は、本発明の実施形態における化学物質判定装置1の要部構成を示すブロック図である。図1に示すとおり、本実施形態における化学物質判定装置1は、制御部10、記憶部11、通信部12、表示部13、および、操作部14を備える構成となっている。
操作部14は、ユーザが化学物質判定装置1に指示信号を入力するためのものである。操作部14は、キーボード、マウス、ボタン(十字キー、決定キー、文字入力キーなど)、タッチパネル、タッチセンサ、タッチペン、もしくは、音声入力部と音声認識部などの適宜の入力装置で構成される。
通信部12は、通信網または有線ケーブルを介して外部の装置と通信を行うものである。本実施形態では、通信部12は、通信ケーブル7を介して分光器3に接続し、分光器3から光特性データなどの各種データを受信したり、分光器3に指示を送信したりする。
表示部13は、化学物質判定装置1が取得、保存する各種情報を表示したり、化学物質判定装置1が行った、判定結果を表示したり、ユーザが化学物質判定装置1を操作するための操作画面をGUI(Graphical User Interface)画面として表示したりするものである。表示部13は、例えば、LCD(液晶ディスプレイ)などの表示装置で構成される。
記憶部11は、制御部10が実行する制御プログラムおよびOSプログラム、ならびに、制御部10が、化学物質判定装置1が有する各種機能を実行するときに読み出す各種データを記憶するものである。特に、記憶部11は、化学物質判定装置1が、蛍光物質の判定を行う際に読み出す各種プログラム、データを記憶する。具体的には、記憶部11には、対象特徴量記憶部30および標本特徴量データベース31が含まれる。
制御部10は、化学物質判定装置1が備える各部を統括制御するものであり、機能ブロックとして、少なくとも、分光器制御部20、特徴量抽出部21、特徴量比較部22、および、物質判定部23を備えている。
上述した制御部10の各機能ブロックは、CPU(central processing unit)が、ROM(read only memory)等で実現された記憶装置(記憶部11)に記憶されているプログラムを不図示のRAM(random access memory)等に読み出して実行することで実現できる。
分光器制御部20は、分光器3を制御するものであり、必要なデータを分光器3から取得するものである。例えば、分光器制御部20は、CPUが、記憶部11に分光器制御ソフトとして記憶されているVisualSpectra2.1Srを読み出して実行することで実現される。
特徴量抽出部21は、分光器3から取得された、光特性データを分析し、その特徴量を抽出するものである。
具体的には、本実施形態では、分光器3から出力される光特性データには、光源2が、特定の励起光波長(Ex)で対象物Oを照射したときに、対象物Oから放射される放射光の蛍光波長(Em)と、その蛍光波長における強度を示したスペクトルが含まれる。特徴量抽出部21は、上記スペクトルから、ピーク強度を検出しピーク時の蛍光波長を対象物Oの特徴量として抽出する。
本実施形態では、特徴量抽出部21は、少なくとも、上記光特性データが得られたときの特定の励起光波長と、スペクトルから抽出したピーク時の蛍光波長とを、対象物Oに関連付けて、対象特徴量記憶部30に記憶する。対象特徴量記憶部30には、例えば、「対象物OのID」、「励起光波長Ex(nm)」および「ピーク時の蛍光波長Empeak(nm)」が対応付けて記憶される。さらに、特徴量抽出部21は、ピークの蛍光強度(以下、ピーク強度P)と、ベースの蛍光強度(ベース強度B)とを、上記光特性データから取得して、ピーク強度Pをベース強度Bで割って求めた強度比P/B値を対象物Oに対応付けて記憶しておいてもよい。このP/B値は、物質が同定された後に当該物質の濃度判定に利用することができる。
なお、特徴量抽出部21は、対象物Oが、溶媒であって、判定を行いたい目的の蛍光物質以外にバックグラウンド成分を有する場合には、蛍光物質のより正確なスペクトルを抽出するために、ガウス関数を用いて、バックグラウンド成分のスペクトルと、蛍光物質のスペクトルとを分離する処理を実行し、その上で、ピーク蛍光波長の抽出を行ってもよい。
特徴量比較部22は、特徴量抽出部21によって抽出された対象物Oの対象特徴量と、標本特徴量データベース31にあらかじめ記憶されている標本特徴量とを比較するものである。
標本特徴量データベース31は、あらゆる既知の蛍光物質(群)を標本とし、各標本について、あらかじめその特徴量(標本特徴量)を記憶するものである。以下では、既知の蛍光物質(群)の特徴量を、標本特徴量と称し、未知の測定対象物から得られた対象特徴量と区別する。これらを区別する必要がないときには、単に特徴量と記載する。
図4Aは、本実施形態における標本特徴量データベース31に格納される標本特徴量の具体例を示す図である。標本特徴量データベース31には、既知の蛍光物質(群)について、標本特徴量が格納されている。図4Aに示すとおり、例えば、「蛍光物質(群)名」、「励起光波長Ex(nm)」および「ピーク時の蛍光波長Empeak(nm)」が対応付けて記憶される。なお、1つの蛍光物質について、異なる波長の励起光を照射した光特性データが得られている場合は、その複数の励起光波長ごとにピーク蛍光波長のレコードを記憶する。また、1つの蛍光物質について、1つの励起光波長に対し、ピークが複数抽出される場合は、1つの励起光波長のレコードに対応付けて、それぞれのピークの情報を記憶する。
特徴量比較部22は、標本特徴量データベース31に格納される各レコードの標本特徴量と、対象特徴量記憶部30に記憶されている対象特徴量とを比較するものである。特徴量比較部22は、対象特徴量と一致する標本特徴量、もしくは、類似する標本特徴量を物質判定部23に通知することができる。特徴量比較部22は、対象特徴量と、標本特徴量データベース31の各標本特徴量とを比較した際、対象特徴量と、比較したそれぞれの標本特徴量との合致度を比較結果として物質判定部23に通知する。
物質判定部23は、特徴量比較部22から得られた比較結果に基づいて、対象物Oに含まれる蛍光物質(群)の判定を行うものである。例えば、対象物Oについて、励起光波長が「325nm」の場合に、ピーク蛍光波長が「***nm」になるという対象特徴量が得られた場合、特徴量比較部22は、図4Aに示すr4のレコードの標本特徴量の合致度が90%以上であるとの比較結果を出力する。この比較結果を受けて、物質判定部23は、レコードr4の標本特徴量に基づいて、対象物Oに含まれる蛍光物質を「A1」であると判定する。
なお、物質判定部23は、特徴量比較部22からの比較結果に基づいて、判定の成否を判断してもよい。物質判定部23は、対象特徴量と一致(類似)するレコードが複数検出された場合や、逆に、特徴が一致するレコードが1つも検出されなかった場合や、あるいは、合致度が所定の基準に満たなかった場合などに、判定失敗と判断する。合致度の閾値としては、例えば、対象特徴量と標本特徴量との合致度が90%未満の場合には判定失敗であると判断してもよい。そして、判定が失敗であると判断した場合、物質判定部23は、光特性データの再取得を分光器制御部20に指示したり、対象特徴量の再抽出を特徴量抽出部21に指示したり、特徴量の再比較を特徴量比較部22に指示したりする。これにより、判定制度を向上させることが可能となる。あるいは、特徴量の合致度に応じて、物質判定部23が行った判定結果の信頼度を併せて表示制御部24に通知するようにしてもよい。
ここで、上記合致度の閾値「90%以上」は、閾値の一例であって、本願発明の構成を限定する意図はない。合致度の閾値は、これまで蓄積した経験や実績などに基づいて、条件として最適な値が適宜定められればよい。
表示制御部24は、分光器制御部20によって取得された光特性データが物質判定部23によって判定されるまでの間に処理された各情報を判定結果としてユーザに可視化するための表示用データを生成するものである。表示制御部24が生成した表示用データは映像信号として表示部13に出力される。表示用データには、同定された蛍光物質(群)名、判定結果の信頼度、スペクトルのグラフなどが表示される。
〔単一波長の励起光入射による判定−ペントシジン(Pentosidine)の判定〕
以下では、具体例としてAGEsの一つであるペントシジンを同定するときの化学物質判定装置の動作を説明する。
ペントシジンは、その他のAGEsとは異なる波長の蛍光特性がある。励起光波長Ex=325nmにおいて、AGE−1群から6群までの各AGE群の蛍光波長のピークは、410nmあたりに見られるが、ペントシジンに限っては、379nmにピークが来ることが分かっている。このように、特定の励起光波長において、特徴的な蛍光波長ピークが検出される蛍光物質については、単一波長の励起光(上記の例では、325nmの励起光)を用いて、その同定を行うことが可能である。
(判定フロー)
これより、対象物Oを溶媒(PBS;Phosphate buffered saline)とし、ここに含まれる蛍光物質を同定するときの化学物質判定システム100、とりわけ、化学物質判定装置1の処理の流れについて説明する。図5は、本実施形態における化学物質判定装置1の処理の流れを示すフローチャートである。
透明ケース4aに、ペントシジン(ただし、測定の時点では、蛍光物質がペントシジンであるとは判明していない)が含まれる溶媒を収容し、波長が325nmの励起光を光源2から照射する。分光器3は、図6(a)および(b)に示す光特性データを検出する。図6(a)および図6(b)は、励起光波長Ex=325nmの場合における、ペントシジン(および比較対照としてAGE−3)のスペクトルを示すグラフである。図6(b)は、図6(a)に示すグラフの破線枠内のスペクトルを、光強度を拡大して示したグラフである。
このグラフの横軸は、蛍光波長(nm)を示し、縦軸は蛍光強度(単位は任意)を示す。なお、図6(a)および(b)には、参考までに、他のAGEsのグループの一例として、AGE−3群のスペクトルを併せて示す。太い曲線は、AGE−3群のスペクトル50を示し、細い曲線は、ペントシジンのスペクトル51を示す。
化学物質判定装置1の分光器制御部20は、スペクトル51を光特性データとして、分光器3から取得する(S101)。
次に、特徴量抽出部21は、分光器制御部20が取得した上記光特性データに基づいて、対象物Oの対象特徴量を抽出する。まず、本実施形態では、特徴量抽出部21は、目的の蛍光物質についてのより正確な対象特徴量を取得するために、図6(a)および(b)に示すスペクトル51から、溶媒中の蛍光物質以外のバックグラウンド(BG)成分についてのBG成分スペクトル(すなわちノイズ)を分離する処理を行う(S102)。
図7は、対象物Oから取得したスペクトル51から、ノイズとなるBG成分スペクトルと、目的の蛍光物質のスペクトルとを分離した状態を示すグラフである。図7に示すとおり、特徴量抽出部21は、ガウス関数を用いてフィッティングし、スペクトル51を、BG成分スペクトル60と、判定対象の蛍光物質のスペクトル61とに分離する。
ペントシジンの蛍光強度のピークと、PBSのBGピークとは、ほぼ同じ波長にて検出される。このような場合でも、上記構成によれば、目的の蛍光物質の蛍光強度ピークおよびピーク時蛍光波長をより正確に抽出することが可能となる。特徴量抽出部21は、分離後のスペクトル61に基づいて、「対象物Oの光特性は、励起光波長325nmにおけるピーク蛍光波長が379nmである」という対象特徴量を抽出し、対象特徴量記憶部30に記憶する(S103)。
続いて、特徴量比較部22は、対象特徴量記憶部30に記憶された対象特徴量と、標本特徴量データベース31に記憶された標本特徴量とを比較する(S104)。上述の例では、具体的には、まず、特徴量比較部22は、励起光波長325nmのレコード(図4A参照)を抽出し、対象物Oの「379nm」と、抽出した各レコードの「ピーク蛍光波長Empeak」とを比較する。例えば、特徴量比較部22は、r1、r2、r4、・・・の各レコードのピーク蛍光波長を対象特徴量の「379nm」と比較し、比較結果として、例えば、「r1(ペントシジン):合致度100%」、「r2(AGE−3):合致度80%」、および、「r4(A1):合致度5%」の情報を物質判定部23に通知する。
物質判定部23は、上記比較結果に基づいて、対象物Oに含まれる蛍光物質の候補を特定する(S105)。上述の例では、物質判定部23は、ペントシジンの標本特徴量と、対象物Oの対象特徴量とが一致すると判定し、対象物Oの蛍光物質をペントシジンと同定する。
さらに、物質判定部23は、この判定の成否、判定結果の信頼度などを検証する処理を続けて行ってもよい。例えば、物質判定部23は、1つの候補(上述の例では、ペントシジン)に絞ることができ、なおかつ、絞った候補の合致度が90%以上であった場合に(S106においてYES)、この判定は成功であると判断する。そして、物質判定部23は、判定結果を出力する(S107)。例えば、判定結果は、物質判定部23から表示制御部24を介して表示部13に出力され、ユーザに対して可視化される。
一方、合致度が90%以上の候補がなかった場合、または、候補を1つに絞り込めなかった場合には、物質判定部23は、分光器制御部20、特徴量抽出部21および/または特徴量比較部22に対して、対象物Oに対する測定、分析の処理を再度指示する。例えば、S101に戻り、前述の波長(325nm)とは異なる単一波長による光特性データを取得して、S101以降の処理を繰り返すことにより、より正確な判定を行ってもよい。あるいは、後述の実施形態2に示すより精度の高い判定処理(図15のAへ)に移行してもよい。
なお、上述のS102において、ガウス関数を用いてノイズを分離する方法は、具体的には、例えば、以下の工程で実行される。
(工程1)まず、予め、あらゆるバックグラウンド(BG)成分の蛍光データを取得し、ガウス関数に擬似してデータベースに記憶させておく。
(工程2)実際に得られた測定データ(光特性データ)に対し、想定されるBG成分を入力しておき、上記データベースからそのBG成分のガウス関数を呼び出して、上記測定データから差し引く。
(工程3)残ったピークに対し、ガウス関数を合わせ、そのピーク波長から物質を同定する。
ここで、想定されるBG成分がない場合には、上記(工程2)の代わりに、以下の(工程2’)が実施される。
(工程2’)測定データの各ピークとそのときの波長を読み取り、上記データベースに同等の物質があればガウス関数を呼び出し、測定データから差し引く。
また、上述のS107において、蛍光物質の同定を行ったのち、化学物質判定装置1の物質判定部23は、濃度の測定を以下の手順で実行してもよい。
まず、予め、既知の物質を用いて、あらゆる物質のあらゆる濃度ごとに、特定の励起光波長Ex時における蛍光強度比P/Bを得て、標本特徴量データベース31に記憶させておく。例えば、物質「ペントシジン」の場合は、図4Bに示すとおり、ペントシジンの濃度ごとに、濃度特有のP/B値を関連付けて記憶させておく。この濃度判定に用いられるデータベースを、同定に用いるデータベースと区別して濃度判定データベースと称する。
対象物Oが「ペントシジン」と同定された場合、物質判定部23は、図4Bに示す、「ペントシジン」の濃度判定データベースを参照する。そして、特徴量抽出部21が、対象物Oの光特性データから得たP/B値と、上記濃度判定データベースに格納されているP/B値とを比較して、濃度判定データベースのレコードのうち、対象物OのP/B値と一致するP/B値をもつレコードの濃度に基づいて、対象物O「ペントシジン」の濃度を特定する。なお、比較の結果、一致するP/B値が上記濃度判定データベースに無かった場合には、最も近いP/B値をもつ2つのレコードの2つの濃度に基づいて、物質判定部23が、対象物O「ペントシジン」の濃度を算出してもよい。
≪実施形態2≫
本発明の化学物質判定装置の他の実施形態について、図面に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、説明の便宜上、上述の実施形態1にて説明した図面と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
上述の実施形態1では、単一波長の励起光を照射することにより得られた光特性データに基づいて、蛍光物質を同定する例について説明した。しかしながら、励起光を異なる波長で複数回照射することにより得られた複数の光特性データを用いれば、より多種多様な蛍光物質の判定をより精度よく行うことが可能になる。
〔特徴量のデータ構造について〕
本実施形態の化学物質判定装置の構成は、図1に示した化学物質判定装置1の構成と同様である。本実施形態において、実施形態1と異なる点は、特徴量比較部22が比較する特徴量(対象特徴量と標本特徴量と)が、異なる励起波長ごとの複数の光特定データから抽出されたものであるという点である。そこで、本実施形態において、化学物質判定装置1が扱う特徴量の抽出方法について説明する。特徴量抽出部21が、対象物Oについて対象特徴量を抽出する方法と、標本特徴量データベース31に格納されている標本特徴量を抽出する方法とは同様である。そこで、以下では、標本特徴量データベースの構築方法を説明することにより、特徴量抽出部21における対象特徴量の抽出方法を併せて説明したこととする。なお、既知の蛍光物質について標本特徴量を生成する場合にも、分光器制御部20が分光器3から光特性データを取得し、特徴量抽出部21が該光特性データに基づいて標本特徴量を生成し、標本特徴量データベース31に格納する。
図8は、分光器制御部20が取得する複数の光特性データ(光特性データセット)を模式的に示す図である。本実施形態では、まず、任意の既知の蛍光物質(ここでは、蛍光物質A1とする)について、任意の既知の濃度(ここでは、濃度M1とする)において、光源2から励起光波長(Ex1、Ex2、・・・、Exn)をそれぞれ照射し、分光器3が励起光波長ごとの蛍光特性を検出して、光特性データを生成する。
図8は、濃度M1の蛍光物質A1が、波長Ex1、波長Ex2・・・、波長Exnのそれぞれの励起光により照射されたときに、それぞれ取得された、光特性データ80、光特性データ81、・・・、光特性データ82を示している。
本実施形態では、蛍光特性の検出時に、化学物質判定装置1に対して、蛍光物質A1、濃度M1、照射励起光波長Exnの情報があらかじめ入力される。これらの情報は、ユーザによって入力されてもよいし、外部の装置から通信網を介して取得されてもよい。これにより、分光器制御部20は、図8に示すとおり、分光器3から取得した光特性データを、それが得られたときの励起光波長の情報に関連付けて取得することができる。そして、特徴量抽出部21は、各光特性データから抽出した特徴量を、蛍光物質名(A1)および濃度(M1)と関連付けて標本特徴量データベース31に格納することができる。
続いて、特徴量抽出部21は、まず、分光器制御部20によって励起光波長ごとに得られた光特性データのそれぞれについて特徴量を抽出する。具体的には、図8に示すように、蛍光強度が最も大きいときのピーク強度P、そのときの蛍光波長Empeak、および、蛍光強度が最も小さいときのベース強度Bを少なくとも取得する。ここでさらに、ベース強度Bのときの蛍光波長Embaseを取得してもよい。
次に、特徴量抽出部21は、励起光波長ごとに得たピーク強度P(P1、P2、・・・、Pn)を、同じく励起光波長ごとに得たベース強度B(B1、B2、・・・、Bn)でそれぞれ割って求めた強度比P/B(P1/B1、P2/B2、・・・、Pn/Bn)を算出する。
続いて、特徴量抽出部21は、ピーク時の蛍光波長Empeakと、強度比P/Bとの相関関数を導出する。そして、蛍光物質名(A1)と濃度(M1)とに対応付けて上記相関関数を含む標本特徴量を生成し、標本特徴量データベース31に格納する。
図9は、図8に示す各光特性データに基づいて、特徴量抽出部21がプロットした各点から導出した相関関数の一例を示す図であり、図10は、上記相関関数に基づいて特徴量抽出部21が作成した標本特徴量のデータ構造を模式的に示す図である。
特徴量抽出部21は、ピーク時の蛍光波長EmpeakをX軸に、強度比P/BをY軸にとったグラフに、各光特性データから取得した値をプロットする。なお、ここでは、n種類の波長の励起光を照射してn個の光特性データを取得したので、プロットされた点の数はn個となる。特徴量抽出部21は、プロットされた各点を最も相関が高くなる関数にて近似し、例えば、図9に示す相関関数83を抽出する。相関関数83は、例えば、
として表される。
最後に、特徴量抽出部21は、図10に示すとおり、あらかじめ取得した蛍光物質名(A1)および濃度(M1)と、抽出した上記相関関数83とを対応付けて標本特徴量84を生成する。さらに、特徴量抽出部21は、図10に示すとおり、特徴量を抽出する対象となった照射励起光波長の集合(Ex1、Ex2、・・・、Exn)と、何の情報をプロットして導出された相関関数であるのかを示すX軸情報およびY軸情報とを上記標本特徴量に含めてもよい。特徴量抽出部21は、上述のようにして生成した標本特徴量84を標本特徴量データベース31に格納する。
特徴量抽出部21は、様々な蛍光物質の様々な濃度ごとに標本特徴量84を作成して、標本特徴量データベース31に蓄積する。図11Aは、上述の標本特徴量84が蓄積された標本特徴量データベース31のデータ構造の一例を示す図である。図11Aに示すとおり、特定の蛍光物質、特定の濃度ごとに抽出された濃度相関関数が、蛍光物質名および濃度ごとに関連付けて蓄積されている。
なお、本実施形態では、特徴量抽出部21は、さらに、蛍光物質ごとの物質相関関数を、1蛍光物質につき得られた各濃度相関関数から導出し記憶しておいてもよい。実際の測定においては、測定誤差等により、同一物質で同一濃度だとしても、相関関数の係数が完全に一致することは少ない。しかし、相関関数の形態(例えば線形であるなど)までが大きくばらつくことはない。
そこで、同一蛍光物質のさまざまな濃度につき得られた各濃度相関関数に共通する係数部分を抜き出して、当該蛍光物質に特徴的な相関関数として、物質相関関数を導出し、蛍光物質ごとに記憶しておいてもよい。この構成によれば、物質相関関数を標本特徴量として用いることが可能となり、濃度に依る厳密な同定、定量が難しい場合に、ひとまず蛍光物質の同定を行うということが行えるようになる。
さらに、各蛍光物質、各濃度、各励起光波長ごとに、ピーク時蛍光波長Empeakと、強度比P/Bとを関連付けた濃度判定データベースを、さらに標本特徴量として、標本特徴量データベース31に記憶しておき、上記濃度と強度比P/Bとの対応関係に基づいて、物質判定部23が、蛍光物質を同定した後、さらに濃度を算出する構成としてもよい。図11Bに、上記濃度判定データベースのデータ構造を示す。
物質判定部23は、完全に一致する相関関数のレコードが見つからなかった場合は、関数の形態(係数など)が最も近い(合致度が高い)候補の標本特徴量を1以上特定し、それらの標本特徴量に基づいて、対象物Oの蛍光物質を同定する。
この場合、物質判定部23は、濃度については、対象物Oの蛍光物質が同定された後に算出する。例えば、物質判定部23は、対象物Oの蛍光物質をA1であると判定したとすると、図11Cに示すとおり、判定後の対象物Oの対象特徴量を対象特徴量記憶部30に記憶する。次に、現時点で不明な濃度を算出するために、図11Bに示す濃度判定データベースを参照する。そして、物質判定部23は、同定された蛍光物質A1のレコードのうち、対象物Oのとある励起光波長Ex1のときの、ピーク時蛍光波長Empeakおよび強度比P/Bに近い値を有するレコードを選択する。図11Bおよび図11Cに示す例では、濃度判定データベースのレコードr6、r7、r8のうち、図11Cの対象物Oの強度比P/Bに最も近い値を有するレコードr7が選択される。そして、対象物Oから得られた蛍光強度比P/Bと、その選択されたr7の標本特徴量の蛍光強度比P/Bとに基づいて、当該標本特徴量の濃度(ここではM2)に補正をかけて、対象物Oの蛍光物質の濃度を算出する。なお、濃度の補正の算出式については、具体的な数値例を用いて別図(図19A、図19B、および、図31)を参照して後述する。
〔特徴量の比較と判定〕
まず、化学物質検出システム120において、未知の蛍光物質が含まれている対象物Oについての光特性データが検出される。上述したのと同様の方法で、光源2が、複数の励起光波長にて対象物Oを照射し、分光器3が、励起光波長ごとに、対象物Oの放射光を分析してその蛍光特性を光特性データとしてデータ化する。化学物質判定装置1の分光器制御部20は、励起光波長ごとに得られた各光特性データを取得し、特徴量抽出部21がこれを分析する。
特徴量抽出部21は、すでに説明したのと同様の方法で、各光特性データから、照射励起光波長の集合(Ex1、Ex2、・・・、Exn)と、励起光波長それぞれにつき、ピーク時の蛍光波長Empeakと、ピーク強度Pと、ベース強度Bとを取得する。そして、蛍光波長Empeakと、強度比P/Bとについてプロットし、相関関数を、対象物Oの対象特徴量として抽出する。特徴量抽出部21は、例えば、「対象物OのID」に、「照射励起光波長の集合(Ex1、Ex2、・・・、Exn)」および「相関関数(
)」を対応付けたものを対象特徴量として、対象特徴量記憶部30に記憶する。
特徴量比較部22は、対象特徴量記憶部30に記憶された、対象物Oの対象特徴量と、標本特徴量データベース31に蓄積されている各標本特徴量(図11A参照)とを比較する。
物質判定部23は、比較結果に基づいて、対象特徴量と合致する相関関数があれば、その相関関数が対応付けられている物質名と濃度とを出力し、対象物Oにおける未知の蛍光物質の定性および定量を完了する。
例えば、上述の例では、特徴量比較部22が、対象物Oの相関関数
と、図11Aに示す標本特徴量データベース31とを比較すると、対象物Oの相関関数が、レコードr5の濃度相関関数と合致すると判断する。そして、物質判定部23が、対象物Oに含まれる未知の蛍光物質はA2であり、濃度はM1であると判定する。
なお、本実施形態では、化学物質判定装置1は、各種相関関数の一例として、累乗の近似関数を導出し、比較する構成であるとして説明したが、本発明の化学物質判定装置1の構成はこれに限定されない。蛍光物質の光特性データによっては、一次関数などの線形関数や、二次以上の関数や、あるいは、対数関数などの非線形関数が導出されてもよい。また、特徴量抽出部21が、同一の蛍光物質について、同一のプロット手順にて、複数の相関関数を導き出した場合には、特徴量抽出部21は、プロットされたデータに基づいて、最も相関係数の大きい関数を、その蛍光物質の特徴量として選択すればよい。
なお、実際の測定においては、測定誤差等により、同一物質で同一濃度だとしても、相関関数の係数が完全に一致することは少ない。しかし、同一物質であれば、濃度に多少の変化があっても、相関関数の形態(例えば線形であるなど)までが大きく変わることはない。そこで、物質判定部23は、完全に一致する相関関数が見つからなかった場合は、関数の形態(係数など)が最も近い(合致度が高い)候補の標本特徴量を1以上特定し、それらの標本特徴量に基づいて、対象物Oの蛍光物質を同定してもよい。あるいは、上述したとおり、蛍光物質ごとに設けられた物質相関関数に基づいて、対象物Oの蛍光物質を同定してもよい。
この場合、物質判定部23は、濃度については、対象物Oの蛍光物質が同定された後に算出する。すなわち、まず、図11Bに示す同定された蛍光物質のレコードの中から、対象物Oのとある励起光波長Exのときの、ピーク時蛍光波長Empeakおよび強度比P/Bと近いデータを有する濃度の標本特徴量を選択する。そして、対象物Oの蛍光強度と、その選択された標本特徴量との蛍光強度との比を用いて、当該標本特徴量の濃度に補正をかけて、対象物Oの蛍光物質の濃度を出力する。濃度の補正方法については、具体例を用いて後述する。
〔複数波長の励起光入射による判定−AGEs群の判定〕
以下では、本実施形態2における化学物質判定装置1を、各AGEs群のグループ判定に用いるものとし、この場合の化学物質判定装置1の構成および動作について、さらに具体的に説明する。
(AGEsの合成)
まず、標本特徴量として標本特徴量データベース31に登録するAGEsを合成する。非特許文献1に記載のTAGE病因説に従い、AGE−1〜AGE−6を作製した。タンパク質として和光純薬工業社製BSA(bovine serum albumin)を各80mg、計480mg用意した。糖質および糖化物質として、和光純薬工業社製D(+)−グルコース72mg、Sigma社製DL−グリセルアルデヒド36mg、Sigma社製グリコールアルデヒド24mg、Sigma社製40%メチルグリオキサール39ml、和光純薬工業社製40%グリオキサール39ml、および、Tronto Research Chemicals社製3−デオキシグルコソン48mgを用意した。溶媒としては、和光純薬工業社製PBS用粉末を超純水に溶かし、pH7.4、モル濃度67mMのPBS1Lを用意した。
PP(ポリプロピレン)製遠沈管に40mLのPBSを入れ、BSA粉末を80mgずつ投入し、拡散させて溶解させた。そこへ、前述のとおり秤量された各糖質および糖化物質をそれぞれ混合し、攪拌装置(ボルテックス)にて十分拡散させて溶解した。これらを遠沈管ラックに立て、40℃に設定された恒温槽に入れ、加熱反応させた。約50日後、各反応液を数mLずつ採取し、限外ろ過フィルターを用いてカットオフ値10kDaという条件で反応液を分離した。これにより、糖質および糖化物質とタンパク質とを分離できるため、放射光特性測定までの間の経時的な糖化反応進行を阻止して正確なAGEs量を得ることができる。本実施形態では、Novagen社製U−Tube(登録商標)Concentrator,2−10を用い、日立ハイテク社製遠心分離機にて限外ろ過を行った。得られた濃縮物(分子量10kDa以上)を適宜PBSにて希釈し、データベース登録のための、光特性データ検出用のAGEs溶液とした。
(標本特徴量データベースの構築)
作製したAGEs溶液を蛍光分光測定用石英透明セル(透明ケース4a)に入れ、対象物格納セル4にセットし、光源2から励起光を照射して放射光を検出した。ここで、光源2において、励起光は、波長365〜485nmまで各40nm間隔で照射し、分光器3においては、放射光を400〜600nmの範囲で検出した。
また、PBSのみ、および、希釈倍率(濃度)の異なるAGEs溶液数種類も用意し、同様に放射光検出実験を行った。各励起光波長につき、それぞれ、蛍光波長に対応する光強度を示すスペクトルが光特性データとして分光器3から出力され、化学物質判定装置1に入力された。なお、本実施形態においては、光特性検出用AGEs溶液の原液を濃度1とし、希釈溶液については希釈倍率の逆数を濃度とした。たとえば、原液を5倍希釈した場合は、濃度0.2とし、100倍希釈した場合は濃度0.01とした。
図12は、AGE−1からAGE−6までの各AGEs群について、ある濃度(例えば、濃度0.01)における、異なる励起光波長ごとの光特性データの具体例を示す図である。
図12に示す各光特性データセットのグラフについて、図6(a)および(b)と同様に、横軸は、蛍光波長(nm)を示し、縦軸は蛍光強度(単位は任意)を示す。
図12の光特性データセット85は、蛍光物質「AGE−1群」の濃度「0.01」における4つの光特性データを含み、各光特性データは、それぞれ、励起光波長365nmの場合、励起光波長405nmの場合、励起光波長445nmの場合、励起光波長485nmの場合に得られたスペクトルを含んでいる。光特性データセット86は、蛍光物質「AGE−2群」の濃度「0.01」における4つの光特性データを含み、各光特性データは、それぞれ、励起光波長365nmの場合、励起光波長405nmの場合、励起光波長445nmの場合、励起光波長485nmの場合に得られたスペクトルを含んでいる。光特性データセット87は、蛍光物質「AGE−3群」の濃度「0.01」における4つの光特性データを含み、各光特性データは、それぞれ、励起光波長365nmの場合、励起光波長405nmの場合、励起光波長445nmの場合、励起光波長485nmの場合に得られたスペクトルを含んでいる。光特性データセット88は、蛍光物質「AGE−4群」の濃度「0.01」における4つの光特性データを含み、各光特性データは、それぞれ、励起光波長365nmの場合、励起光波長405nmの場合、励起光波長445nmの場合、励起光波長485nmの場合に得られたスペクトルを含んでいる。光特性データセット89は、蛍光物質「AGE−5群」の濃度「0.01」における4つの光特性データを含み、各光特性データは、それぞれ、励起光波長365nmの場合、励起光波長405nmの場合、励起光波長445nmの場合、励起光波長485nmの場合に得られたスペクトルを含んでいる。光特性データセット90は、蛍光物質「AGE−6群」の濃度「0.01」における4つの光特性データを含み、各光特性データは、それぞれ、励起光波長365nmの場合、励起光波長405nmの場合、励起光波長445nmの場合、励起光波長485nmの場合に得られたスペクトルを含んでいる。
図12に示すような励起光波長ごとの光特性データが含まれた光特性データセットが、あらゆる蛍光物質のあらゆる濃度について、標本特徴量データベース登録用として化学物質判定装置1に入力される。
続いて、特徴量抽出部21が、1つの光特性データセットにつき、励起波長ごとのピーク時蛍光波長Empeakと強度比P/Bとをプロットし、近似関数を導出する。特徴量抽出部21は、これを相関関数とし、蛍光物質(群)名(AGE−1〜6)および濃度(ここでは、0.01)と対応付けて、標本特徴量として標本特徴量データベース31に保存する。
図13は、図12に示す光特性データセットに基づいて、特徴量抽出部21がプロットした各点から導出した各AGE群の濃度0.01のときの相関関数の具体例を示す図である。図12および図13に示す例では、濃度0.01の各AGE群につき、4種類(365nm、405nm、445nmおよび485nm)の波長の励起光を照射して4個の光特性データを取得したので、プロットされた点の数はそれぞれ4個となる。プロットされたグラフの説明は、図9を参照しながら説明したとおりであるのでここでは説明を繰り返さない。
相関関数91は、図12の光特性データセット85に基づいて得られたAGE−1の特徴量を示す。図10に示す標本特徴量84に倣えば、特徴量抽出部21は、「蛍光物質(群)名:AGE−1」、「濃度:0.01」、「照射励起光波長:365nm、405nm、445nmおよび485nm」、「X軸:ピーク時蛍光波長Empeak」、「Y軸:強度比P/B」、および、「相関関数91」の各種情報を含む標本特徴量を生成し、これを、濃度0.01のAGE−1の標本特徴量として、標本特徴量データベース31に格納する。
相関関数92は、光特性データセット86に基づいて得られたAGE−2の特徴量を示す。相関関数93は、光特性データセット87に基づいて得られたAGE−3の特徴量を示す。相関関数94は、光特性データセット88に基づいて得られたAGE−4の特徴量を示す。相関関数95は、光特性データセット89に基づいて得られたAGE−5の特徴量を示す。相関関数96は、光特性データセット90に基づいて得られたAGE−6の特徴量を示す。これらも、上述のAGE−1と同様に、濃度0.01のそれぞれのAGE群の標本特徴量として、標本特徴量データベース31に格納される。
図14は、図13に示す相関関数を含む標本特徴量を格納する標本特徴量データベース31の具体例を示す図である。図14に示すとおり、特定の蛍光物質(群)、特定の濃度ごとに抽出された濃度相関関数が、蛍光物質名かつ濃度ごとに関連付けて蓄積されている。
(判定フロー)
これより、未知の濃度で、AGE−1から6までのいずれかであることまでは判明しているサンプルAGEs溶液を、対象物Oとし、該サンプルAGEs溶液について定性および定量を行うときの、化学物質判定装置1の処理の流れについて説明する。図15は、本実施形態における化学物質判定装置1の処理の流れを示すフローチャートである。
まず、上記サンプルAGEs溶液を対象物格納セル4に収容し、前述したとおり、複数(ここでは、365nm、405nm、445nmおよび485nmの4種類)の波長の励起光を光源2から照射する。分光器3は、図16に示す4つの光特性データを検出する。図16は、励起光波長Ex=365nm、405nm、445nmおよび485nmのそれぞれ場合における、サンプルAGEsのスペクトルのセットを示すグラフである。グラフの見方については、図6(a)および(b)、ならびに、図12に示すグラフと同様である。
化学物質判定装置1の分光器制御部20は、図16に示す4つのスペクトルを含む光特性データセットを、分光器3から取得する(S201)。ここで、必要に応じてノイズを分離する処理を行ってもよい。
次に、特徴量抽出部21は、得られた光特性データそれぞれについて、特徴量を抽出する。すなわち、まず、各光特性データから、蛍光の強度比P/Bとピーク時蛍光波長Empeakとを取得して、それらをプロットする(S202)。特徴量抽出部21は、プロットされた各点によって成される近似関数を、サンプルAGEsの相関関数として導出し、これを、サンプルAGEs(対象物O)の対象特徴量として対象特徴量記憶部30に記憶する(S203)。
図17は、図16に示す光特性データセットに基づいて、特徴量抽出部21がプロットした各点から導出した、サンプルAGEs(濃度は未知)の相関関数の具体例を示す図である。図18は、図17に示す相関関数を含む対象特徴量の具体例を示す図である。特徴量抽出部21は、図17に示す相関関数に、対象物OのIDと、X軸およびY軸の情報とを対応付けて、対象特徴量記憶部30に記憶する。なお、濃度は現時点では不明であるので、上記対象特徴量については、濃度のフィールドを設けないか、あるいは、空の状態にして対象特徴量記憶部30に記憶すればよい。
続いて、特徴量比較部22は、対象特徴量記憶部30に記憶された対象特徴量と、標本特徴量データベース31に記憶された標本特徴量とを比較する(S204)。具体的には、特徴量比較部22は、図18に示すサンプルAGEsの相関関数「y=−0.2932x+158.66」と、図14に示す各標本特徴量の濃度相関関数(91〜96を含む)とを比較する。特徴量比較部22は、各レコードの合致度の情報を物質判定部23に通知する。上述の例では、サンプルAGEsにおける、P/BとEmpeakとの相関関数は、「y=−0.2932x+158.66」であり、線形であることから、特徴量比較部22は、同じく、線形の相関関数94「y=−0.2366x+129.27」などを有するレコードの合致度を最も高く設定して(例えば、90%以上)、物質判定部23に通知する。
物質判定部23は、上記比較結果に基づいて、対象物Oに含まれる蛍光物質(群)の候補を特定する(S205)。上述の比較結果の例では、対象物Oと全く同じ相関関数を有するレコードは含まれていなかった。しかし、対象物Oと同じ線形の相関関数を有し、合致度が90%以上のレコードがあり、それらは、蛍光物質「AGE−4」のレコードのみである(S206においてYES)。したがって、物質判定部23は、サンプルAGEsを、AGE−1〜6のうちの、AGE−4であると同定する(S207)。
次に、物質判定部23は、濃度判定データベースを参照し、AGE−4であると同定したサンプルAGEsの濃度を判定する(S208)。物質判定部23は、標本特徴量の強度比P/Bを用いて、AGE−4の濃度を判定することが可能である。詳細には以下のとおりである。
図19Aは、標本特徴量データベース31に含まれる濃度判定データベースの具体例を示す図である。図19Aに示すとおり、各蛍光物質(群)、各濃度および各励起光波長ごとに、ピーク時蛍光波長Empeakと、強度比P/Bとが関連付けて記憶されている。強度比P/Bは、濃度判定のために参照される標本特徴量である。図19Aに示すのは、AGE−4についての標本特徴量であるが、他のAGEs(群)についても同様にして、強度比P/Bなどが格納されている。
図19Bは、対象物Oの光特性データから得られる、とある励起光波長(365nm)のときの対象特徴量を示す図である。対象物Oの光特性データを分析して得られたこれらの対象特徴量は、適宜、物質判定部23が読み出せるように対象特徴量記憶部30などに記憶されているものとする。現時点では、サンプルAGEsは、AGE−4と同定されているので、同定された物質名を対象物IDの代わりに記憶してもよい。
物質判定部23は、AGE−4と同定したサンプルAGEs溶液の対象特徴量と、濃度判定データベースのAGE−4の標本特徴量とを用いて、サンプルAGEsの濃度を算出する。
物質判定部23は、同定された蛍光物質AGE−4のレコードのうち、サンプルAGEsのとある励起光波長Ex1(ここでは、365nm)のときの、ピーク時蛍光波長Empeakおよび強度比P/Bに近い値を有する標本特徴量を選択する。図19Aおよび図19Bに示す例では、濃度判定データベースのレコードr9、r10、r11のうち、図19BのサンプルAGEsの強度比P/B(ここでは、28.72)に最も近い値を有するレコードr10が選択される。
そして、物質判定部23は、レコードr10の標本特徴量の強度比P/B「23.99」と、濃度「0.01」とを取得し、これらと、サンプルAGEsの強度比P/B「28.72」とを用いて、次の式1にしたがって、サンプルAGEsにおけるAGE−4の濃度を算出する。式1とはすなわち、
である。
具体的には、上記式1に基づいて、物質判定部23は、サンプルAGEsにおけるAGE−4の濃度を、
対象物の濃度M=28.72/23.99×0.01≒0.012
と算出する。
上述の本願発明の方法によって得られたAGEsの種類および濃度の正しさは、サンプルAGEs溶液について、例えば、従来公知のELIZA法を用いて確認し得られた結果と比較することにより明らかになる。
一方、S206において、合致度が90%以上の候補がなかった場合、または、1つの蛍光物質に絞り込めなかった場合には、物質判定部23は、分光器制御部20、特徴量抽出部21および/または特徴量比較部22に対して、対象物Oに対する測定、分析の処理を再度指示する。例えば、S201に戻り、前述の4つの波長とは異なる複数波長による光特性データセットを取得して、S201以降の処理を繰り返すことにより、絞込み判定を行ってもよいし、後述の実施形態3に示す、さらに他の特徴量を用いた判定処理(図27のBへ)に移行してもよい。なお、同定の成否を判断するための閾値として、合致度90%以上としているが、これは一例であって、本願発明がこのような構成に限定されないことを理解されたい。また、同定の成否を判断する方法としては、閾値によって合致度で判断する構成に限定されない。これまで蓄積した経験や実績などに基づいて、成否を判断するための条件が適宜定められればよい。
S208にて濃度が算出された後、最後に、物質判定部23は、判定結果を出力する(S209)。判定結果には、少なくとも、サンプルAGEsについて同定された蛍光物質(群)名と、算出された濃度とが含まれる。例えば、判定結果は、物質判定部23から表示制御部24を介して表示部13に出力され、ユーザに対して可視化される。
なお、上述の実施形態においては、特定のAGEsについてモル量等を記載していないが、一般的に、蛍光物質の蛍光強度とその物質量は、ある濃度までは比例関係にあることがわかっているので、別途(モル量等の表示において)既知濃度のAGEsについて蛍光特性を測定すれば、その蛍光強度と希釈倍率から物質量を導出できることは明白である。
(判定結果の表示)
図20は、化学物質判定装置1の表示部13に表示される判定結果の画面の一例を示す図である。図20に示す例では、判定結果として、まず、光源2から取得された入射光の光特性201と、分光器3から取得された放射光の光特性202とが表示される。そして、放射光の光特性にピークが複数含まれる場合に、ピークのそれぞれについて、判定結果が表示される。図20に示す例では、ピーク(A)は、蛍光物質から生じた蛍光の光特性であるので、ピーク(A)について、同定された蛍光物質名203と、定量された濃度204とが表示される。ピーク(B)は、ノイズであるので、分離された光特性であることが示される。さらに、特徴量比較部22が算出した合致度205を表示してもよい。ユーザは、これにより、判定結果の信頼性を判断することができる。なお、図20に示す表示画面のデザインおよび表示内容は発明を説明するための一例であって、本発明の化学物質判定装置1の構成を限定するものではない。
上述した実施形態2の構成および方法によれば、さらに多くの蛍光物質について、さらに詳細に精度よく同定および定量を行うことが可能となる。本実施形態における化学物質判定装置1の利点について、以下の比較例1と比較して説明すれば以下のとおりである。
(比較例1)
励起光波長を365nmのみとし、単一の光特性データを取得して、上記サンプルAGEsの同定および定量を試みる。
図21Aは、励起光波長Ex=365nmの場合における、サンプルAGEsのスペクトルを示すグラフである。図21Bは、図21Aに示す光特性データに基づいて、特徴量抽出部21がプロットしたサンプルAGEs(濃度は未知)のグラフの具体例を示す図である。
比較例1では、励起光波長が1種類であるので、データ点数が1点のため、相関関数を特徴量として導出することができない。また、AGEsの各グループは、特定の励起光波長に対して、ピーク時蛍光波長にグループ特有の特徴が現れない。したがって、単一の励起光波長を照射する方法では、AGEsのグループの判別ができない。また、強度比P/BとAGEs量との相関はAGEsのグループごとに導出されるため、グループの判別ができなければ定量も不可能である。
以上のとおり、複数の励起光波長を用いて判定を行う本実施形態の化学物質判定装置1の構成は、AGEsのグループの判定および定量を、簡便に行えるという、特に大きな効果がある。
≪実施形態3≫
本発明の化学物質判定装置のさらに他の実施形態について、図面に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、説明の便宜上、上述の実施形態1および実施形態2にて説明した図面と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
上述の実施形態2では、複数波長の励起光を照射することにより得られた光特性データセットに基づいて、強度比P/Bとピーク時蛍光波長Empeakとの相関関係を特徴量として用いて、蛍光物質の同定および定量を行う例について説明した。しかしながら、蛍光物質の蛍光特性によっては、異なる蛍光物質(群)でも、類似の相関関係を有するもの同士が存在することも考えられ、P/BとEmpeakとの相関関係のみでは、蛍光物質の判定を正しく行えない可能性がある。そこで、本実施形態では、上記相関関係に加えて、他の特徴量を組み合わせて用いることにより、多種多様な蛍光物質についてさらに詳細に精度よく同定および定量を行うことが可能な化学物質判定システム100について説明する。
〔特徴量のデータ構造について〕
本実施形態の化学物質判定装置の構成は、図1に示した化学物質判定装置1の構成と同様である。本実施形態において、特徴量比較部22が比較する特徴量(対象特徴量と標本特徴量と)が、異なる励起波長ごとの複数の光特定データから抽出されたものであるという点では、実施形態2と同じであるが、実施形態2と異なる点は、P/BとEmpeakとの相関関係に加えて、さらに、強度比P/Bと励起光波長Exとの相関関係を新たに導出して、これを特徴量として比較に用いる点である。
そこで、本実施形態において、化学物質判定装置1が扱う複数の特徴量の抽出方法について説明する。
化学物質判定装置1の分光器制御部20は、実施形態2のときと同様に、図8に示す励起光波長ごとの光特性データのセットを分光器3から取得する。なお、本実施形態では、実施形態2と同様に、蛍光特性の検出時に、化学物質判定装置1に対して、蛍光物質A1、濃度M1、照射励起光波長Exnの情報があらかじめユーザまたは外部の装置から入力されるものとする。
続いて、特徴量抽出部21は、光特性データ(励起光波長)ごとに、それぞれ、ピーク強度P、ベース強度Bを取得して、強度比P/Bを算出し、強度比P/Bとピーク時の蛍光波長Empeakとの相関関数(図9の相関関数83)を導出する。ここまでは、実施形態2と同様に行う。さらに、本実施形態では、特徴量抽出部21は、強度比P/Bとそれが得られたときの励起光波長Exとの相関関係を導出する。
図22は、図8に示す光特性データセットに基づいて、特徴量抽出部21がプロットした別の各点から導出した他の相関関係の一例を示す図である。図23は、図9および図22に示すそれぞれの相関関数に基づいて特徴量抽出部21が作成した、標本特徴量のデータ構造を模式的に示す図である。
特徴量抽出部21は、一つ一つの光特性データの励起光波長ExをX軸に、強度比P/BをY軸にとったグラフに、各光特性データから取得した値をプロットする。ここでは、n個の光特性データを取得したので、プロットされた点の数はn個となる。特徴量抽出部21は、プロットされた各点を最も相関が高くなる関数にて近似し、例えば、図22に示す相関関数97を抽出する。相関関数97は、例えば、
として表される。
最後に、特徴量抽出部21は、図23に示すとおり、あらかじめ取得した蛍光物質名(A1)および濃度(M1)に、抽出した2つの相関関数(相関関数83と相関関数97)を対応付けて標本特徴量98を生成する。さらに、特徴量抽出部21は、何の情報をプロットして導出された相関関数であるのかを示すX軸情報およびY軸情報を、それぞれの相関関数ごとに上記標本特徴量に含めて生成してもよい。特徴量抽出部21は、上述のようにして生成した標本特徴量98を標本特徴量データベース31に格納する。
特徴量抽出部21は、実施形態2と同様に、様々な蛍光物質の様々な濃度ごとに標本特徴量98を作成して、標本特徴量データベース31に蓄積する。
図24は、標本特徴量98が蓄積された標本特徴量データベース31のデータ構造を示す図である。図24に示す本実施形態の標本特徴量データベース31において、図11Aに示す実施形態2の標本特徴量データベース31と異なる点は、各蛍光物質の各濃度につき、X軸を励起光波長Exとし、Y軸を強度比P/Bとする、濃度相関関数を含む標本特徴量のレコードが2種類目の特徴量として追加される点である。この第2の濃度相関関数に共通する第2の物質相関関数もさらに格納してもよい。
〔特徴量の比較と判定〕
上述のようなデータ構造を持つ標本特徴量が蓄積されていることにより、特徴量比較部22は、強度比P/Bとピーク時蛍光波長Empeakとの第1の相関関数と、強度比P/Bと励起光波長Exとの第2の相関関数との両方が、対象物Oのそれと一致するか否かを比較する。物質判定部23は、2つの相関関数が一致する標本特徴量のレコードに基づいて、対象物Oに含まれる蛍光物質の同定を行うことができる。
例えば、対象物Oの対象特徴量のうち、第1の相関関数が、
で、第2の相関関数が、
であった場合に、特徴量比較部22が、上記対象特徴量と、図24に示す標本特徴量データベース31の各標本特徴量と比較したとする。第1の相関関数のみの比較では、一致する候補が、蛍光物質A1、A2、および、A3と3つあるため、物質判定部23は、候補を1つに絞ることができない。しかしながら、第2の相関関数を用いて絞り込みを行うと、第2の相関関数が一致するのは、蛍光物質A2のレコードのみであり、候補の蛍光物質を1つに絞ることが可能となる。したがって、この場合、物質判定部23は、未知の蛍光物質について、蛍光物質A2、濃度M1と判定することができる。
〔複数波長の励起光入射による、複数の特徴量に基づく判定−AGEs群の判定〕
以下では、本実施形態3における化学物質判定装置1を、各AGEs群のグループ判定に用いるものとし、この場合の化学物質判定装置1の構成および動作について、さらに具体的に説明する。AGEsの合成については、実施形態2と同様に行った。標本特徴量データベース構築については、実施形態2と同様に行ったものに加えて、さらに、強度比P/Bと励起光波長Exについてプロットしたグラフから得られた近似関数を、第2の特徴量として、標本特徴量データベース31に加えた。
図25は、図12に示す光特性データセットに基づいて、特徴量抽出部21がそれぞれプロットした各点から導出した、各AGE群の濃度0.01のときの第1の相関関数(EmとP/B)および第2の相関関数(ExとP/B)の具体例を示す図である。第1の相関関数91〜96については、図13を参照して既に説明したとおりであるので、ここでは説明を繰り返さない。
第2の相関関数91’は、図12の光特性データセット85に基づいて得られたAGE−1の第2の特徴量を示す。図23に示す標本特徴量98に倣えば、特徴量抽出部21は、「蛍光物質(群)名:AGE−1」、「濃度:0.01」、「照射励起光波長:365nm、405nm、445nmおよび485nm」、および、第1の相関関数についての各種情報に加えて、「X軸(2):励起光波長Ex」、「Y軸(2):強度比P/B」、および、「相関関数91’」の各種情報を含む標本特徴量を生成し、これを、濃度0.01のAGE−1の標本特徴量として、標本特徴量データベース31に格納する。残りの相関関数92’〜96’についても同様に、AGEs群ごと濃度ごとに標本特徴量データベース31に蓄積される。
図26は、図25に示す標本特徴量を含む標本特徴量データベース31の具体例を示す図である。図26に示すとおり、特定の蛍光物質(群)、特定の濃度ごとに抽出された、第1および第2の濃度相関関数が、蛍光物質名かつ濃度ごとに関連付けて蓄積されている。図14に示す標本特徴量データベース31と異なる点は、第2の特徴量のレコードが追加されている点である。
(判定フロー)
これより、未知の濃度で、AGE−1から6までのいずれかであることまでは判明しているサンプルAGEs溶液を、対象物Oとし、該サンプルAGEs溶液について定性および定量を行うときの、化学物質判定装置1の処理の流れについて説明する。図27は、本実施形態における化学物質判定装置1の処理の流れを示すフローチャートである。
まず、実施形態2と同様に、上記サンプルAGEs溶液に対し、励起光波長がそれぞれ365nm、405nm、445nmおよび485nmの励起光を光源2から照射する。分光器3は、図28に示す4つの光特性データを検出する。図28は、励起光波長Ex=365nm、405nm、445nmおよび485nmのそれぞれ場合における、サンプルAGEsのスペクトルのセットを示すグラフである。グラフの見方については、図6(a)および(b)、図12、ならびに、図16に示すグラフと同様である。
化学物質判定装置1の分光器制御部20は、図28に示す4つのスペクトルを含む光特性データセットを、分光器3から取得する(S301)。ここで、必要に応じてノイズを分離する処理を行ってもよい。
次に、特徴量抽出部21は、得られた光特性データそれぞれについて、特徴量を抽出する。すなわち、まず、各光特性データから、蛍光の強度比P/Bとピーク時蛍光波長Empeakとを取得して、それらをプロットする(S302)。さらに、蛍光の強度比P/Bと励起光波長Exとを取得して、それらをプロットする(S303)。特徴量抽出部21は、S302にてプロットされた各点によって成される近似関数を、サンプルAGEsの第1の相関関数として、S303にてプロットされた各点によって成される近似関数を、第2の相関関数として導出しする。そして、それぞれを、サンプルAGEs(対象物O)の第1の対象特徴量、第2の対象特徴量として対象特徴量記憶部30に記憶する(S304)。
図29は、図28に示す光特性データセットに基づいて、特徴量抽出部21がそれぞれプロットした各点からそれぞれ導出した、サンプルAGEs(濃度は未知)の第1および第2の相関関数の具体例を示す図である。図29に示すグラフの見方は、図25に示す各グラフと同様である。図29に示す例では、相関関数291が、第1の相関関数(EmとP/B)を示し、相関関数292が、第2の相関関数(ExとP/B)を示す。
図30は、図29に示す2つの相関関数を含む対象特徴量の具体例を示す図である。特徴量抽出部21は、図29に示す相関関数291、相関関数292のそれぞれに、対象物OのIDと、それぞれのX軸およびY軸の情報とを対応付けて、対象特徴量記憶部30に記憶する。なお、濃度は現時点では不明であるので、上記対象特徴量については、濃度のフィールドを設けないか、あるいは、空の状態にして対象特徴量記憶部30に記憶すればよい。
続いて、特徴量比較部22は、対象特徴量記憶部30に記憶された対象特徴量(図30)と、標本特徴量データベース31(図26)に記憶された標本特徴量とを比較する(S305)。なお、本実施形態では、比較できる特徴量が2種類あるが、比較結果を出力する順番は、どちらの特徴量が先でもかまわないし、2つの特徴量について一度に比較結果を出力してもよい。以下の説明では、特徴量比較部22は、まず、第1の相関関数(P/BとEm)について、比較を行う。
具体的には、特徴量比較部22は、図30に示すサンプルAGEsの第1の相関関数291「y=7×1032x−11.789」と、図26に示す各標本特徴量の濃度相関関数(91〜96を含む)とを比較する。特徴量比較部22は、各レコードの合致度の情報を物質判定部23に通知する。上述の例では、サンプルAGEsにおける、P/BとEmpeakとの相関関数は、上述のとおり、累乗関数であることから、特徴量比較部22は、同じく、累乗関数を有するレコードの合致度を高く設定して(例えば、90%以上)、物質判定部23に通知する。図26に示す例では、相関関数91、92、93、95、96をそれぞれ有するAGE−1、2、3、5、6のレコードが合致度90%と通知される。
物質判定部23は、上記比較結果に基づいて、合致度が90%以上のAGE−1、2、3、5、6をサンプルAGEsの候補物質として特定する(S306)。したがって、ここでは、候補の蛍光物質を1つに特定することができない(S307においてNO)。そこで、物質判定部23は、特徴量比較部22がまだ比較していない別の種類の特徴量があれば(S308においてYES)、その特徴量を用いて、上記候補の蛍光物質AGE−1、2、3、5、6について、再度比較を行うように特徴量比較部22に指示を送る。
上記指示にしたがって、特徴量比較部22は、S305に戻り、図30に示すサンプルAGEsの第2の相関関数292「y=−0.3412x+167.87」と、図26に示す各標本特徴量の濃度相関関数(91’〜96’を含む)とを比較する。上述の例では、サンプルAGEsにおける、P/BとExとの相関関係は、線形であることから、特徴量比較部22は、同じく、線形関数を有するレコードの合致度を高く設定して(例えば、90%以上)、物質判定部23に通知する。図26に示す例では、AGE−1、2、3、5、6のうち、第2の相関関数について線形を有するのは、相関関数93’を有するAGE−3のレコードのみである。特徴量比較部22は、このレコードの合致度を90%以上に設定して、物質判定部23に通知する。
物質判定部23は、上記比較結果に基づいて、AGE−3のレコードを、サンプルAGEsの候補として特定する(S306)。今度は、合致度90%以上の候補物質を1つに特定することができたため(S307においてYES)、物質判定部23は、サンプルAGEsを、AGE−1〜6のうちの、AGE−3であると同定する(S309)。
以上のように、物質判定部23は、未知の蛍光物質を最終的に1つの蛍光物質と同定するために、特徴量比較部22に、複数の種類の特徴量を用いて繰り返し比較を行わせて、候補の絞り込みを行う。
続いて、物質判定部23は、実施形態2と同様の方法で、図19Aに示す、濃度判定データベースを参照し、サンプルAGEs(AGE−3)の濃度を算出する(S310)。
図31は、対象物O(サンプルAGEs)の光特性データから得られる、とある励起光波長(365nm)のときの対象特徴量の具体例を示す図である。図19Bに示す対象特徴量と同様に、これらの対象特徴量は、適宜、物質判定部23が読み出せるように対象特徴量記憶部30などに記憶されている。
物質判定部23は、図19Aに示す濃度判定データベースの蛍光物質AGE−3のレコードのうち、サンプルAGEsのとある励起光波長Ex1(ここでは、365nm)のときの、ピーク時蛍光波長Empeakおよび強度比P/Bに近い値を有する標本特徴量を選択する。ここでは、図31に示すサンプルAGEsの強度比P/B(ここでは、45.46)に最も近い値を有するレコードr12が選択される。
そして、物質判定部23は、レコードr12の標本特徴量の強度比P/B「45.69」と、濃度「0.01」とを取得し、これらと、サンプルAGEsの強度比P/B「45.46」とを用いて、実施形態2にて既に示した式1にしたがって、サンプルAGEsにおけるAGE−3の濃度を算出する。式1にしたがって、物質判定部23は、サンプルAGEsにおけるAGE−3の濃度を0.00995であると算出する。
上述の本願発明の方法によって得られたAGEsの種類および濃度の正しさは、サンプルAGEs溶液について、例えば、従来公知のELIZA法を用いて確認し得られた結果と比較することにより明らかになる。
S310にて濃度が算出された後、最後に、物質判定部23は、判定結果を出力する(S311)。例えば、判定結果は、物質判定部23から表示制御部24を介して表示部13に出力され、図20に示すような表示画面でユーザに対して可視化される。
一方、S307において、合致度が90%以上の候補がなかった場合、または、候補を1つの物質に絞り込めなかった場合であって、特徴量比較部22がまだ比較していない別の種類の特徴量がなければ(S308においてNO)、物質判定部23は、これ以上の蛍光物質の定性は不可能であるとして、判定が失敗したと判断する(S312)。物質判定部23は、判定が失敗した旨を通知するエラー表示を表示部13に対して行ってもよい。また、物質判定部23は、判定の途中経過として、候補として挙げられた複数の蛍光物質名を表示したり、90%に満たない場合であっても合致度を表示したりしてもよい。
なお、上述の実施形態においては、特定のAGEsについてモル量等を記載していないが、一般的に、蛍光物質の蛍光強度とその物質量は、ある濃度までは比例関係にあることがわかっているので、別途(モル量等の表示において)既知濃度のAGEsについて蛍光特性を測定すれば、その蛍光強度と希釈倍率から物質量を導出できることは明白である。
上述した実施形態3の構成および方法によれば、特徴量が1種類では同定および定量が無理な場合でも、候補の絞り込みをさらに行うことが可能であるので、さらに多くの蛍光物質について、さらに詳細に精度よく同定および定量を行うことが可能となる。本実施形態における化学物質判定装置1の利点について、以下の比較例2と比較して説明すれば以下のとおりである。
(比較例2)
分光器3から取得された光特性データセットについて、強度比P/Bとピーク時蛍光波長Emについてのみプロットし、近似関数を1種類求めて、上記上記サンプルAGEsの同定および定量を試みる。
上記比較例2によれば、判定基準となる特徴量としては、図29および図30に示す相関関数のうち、相関関数291の一つしか得ていない。この相関関数291だけを、図25に示す、各相関関数91〜96と比較しても、物質判定部23は、AGE−3なのかAGE−6なのかを判別することが困難である。また、強度比P/BとAGEs量との相関はAGEsのグループごとに導出されるため、グループの判別ができなければ定量も不可能である。
以上のとおり、複数の励起光波長を用いて判定を行う化学物質判定装置1において、ひとつの特徴量を用いて対象物質の候補を絞り込めない場合、本実施形態のように、化学物質判定装置1を、さらに、ひとつ以上の異なる特徴量を用いて判定を行うという構成にすることにより、AGEsのグループの判定および定量を、さらに正確に行えるという、特に大きな効果がある。そして、AGEsのグループ判別を可能にすることは、健康に悪影響のある(糖尿病などと関連性がある)AGEsか否かを判断することを可能にするので、本発明の化学物質判定装置1を、健康管理手段として好適に用いることができる。
(変形例1)
上述の実施形態では、分光器3から取得した光特性データから特徴量を抽出する構成について説明したが、本発明の化学物質判定装置1の構成はこれに限定されない。対象物Oについて、上記光特性データ以外の他の測定データを取得し、該測定データから抽出した特徴量を、蛍光物質の判定に用いてもよい。例えば、吸光度、反応速度(励起光を照射してから蛍光が減衰するまでの速度)などを測定して得られた測定データを用いることが可能である。あるいは、励起光波長Ex以外に、温度や湿度など光源照射環境についての情報を取得して、それらをあらゆる特徴量の抽出に用いてもよい。比較に用いる特徴量の種類を多く持つ標本特徴量データベース31を構築すれば、より多種多様な蛍光物質について、より詳細に精度よく蛍光物質の定性を行うことが可能となる。
(変形例2)
本発明の化学物質判定装置1は、対象物Oの由来や予め判明しているバックグラウンド成分を識別し、その由来やBG成分に応じて一連の判定処理をカスタマイズしてもよい。
例えば、光特性データに、当該データの測定対象となった対象物Oが、生体内から採取されたものであるか、人為的に作製されたものであるのかを示すフラグを付与し、フラグ付の光特性データを化学物質判定装置1に入力する。あるいは、光特性データに、由来情報を格納するためのフィールドを設けて、どのような溶媒であるのか、または、どの生体組織を照射したのか、などを示す情報を含めてもよい。例えば、“前腕血管組織照射”、“前腕皮膚組織照射”などの情報を含めることが考えられる。
上記のようなデータ構造の光特性データが取得された場合、特徴量抽出部21は、対象物Oの由来やBG成分に基づいて、対象物Oの光特性データに含まれうるノイズを予測し、より正確にノイズを分離することが可能となる。
また、標本特徴量データベース31が、標本特徴量を、生体組織ごとに蓄積している場合に、特徴量比較部22は、対象物Oの生体組織と同じ組織から得られた標本特徴量のみを用いて比較を行うことが考えられる。
さらに、物質判定部23は、対象物Oが、人為的に作製されたものであるのか、生体組織から採取されたものであるのかに応じて、判定結果の成否の判断基準を変えてもよい。例えば、物質判定部23は、人為的に作製された試料は再現性が高いため、成否の判断基準となる合致度の閾値を高く設定し、生体組織から採取された対象物Oの場合は、合致度の閾値を低く設定することが考えられる。また、生体組織から採取された対象物Oの場合は、再現性に乏しいため、物質判定部23は、測定、特徴量抽出、比較、判定の一連の処理を、少なくともn回行ってから最終的な同定を行うというように構成されてもよい。
以上各実施形態に基づいて、本発明の化学物質判定システム、とりわけ、化学物質判定装置について説明してきた。以上のとおり、本発明の化学物質判定システム100(化学物質判定装置1)によれば、大掛かりな装置や熟練者の専門知識を要せずとも、安価、簡易、かつ、省スペースな化学物質判定装置、および、そのシステムを実現することが可能である。
例えば、本発明の化学物質判定装置1は、対象物Oが血液、血管組織、皮膚組織などの生体組織である場合に、生体内蛍光物質のAGEsグループを判別することが可能になる。これにより、対象物Oに含まれているAGEsが、健康に悪影響のある(糖尿病などと関連性がある)AGEsか否かを判断することが可能となり、ユーザが自身の健康状態の把握・管理のために、簡易に用いる健康管理手段として採用することができる。
また、本発明の化学物質判定システム100は、測定対象物の測定、分析、判定の一連の動作を自動で行うことが可能である。よって、研究者や実験者らが、測定対象物の定性や、試料の作製を簡便に行うことができ、本発明の化学物質判定システム100を、研究者向け簡易分光分析器としても採用することができる。
また、本発明の化学物質判定システム100を、AGEsのグループ判別だけではなく、例えば、NADH、リボフラビン、エラスチンなどの蛍光物質の定性に用いることができる。なお、原理的に全く同一のピークスペックを持つ複数物質や、ピーク分離が困難なほどに近接し酷似している複数物質を除けば、本願発明の化学物質判定装置1によれば、すべての蛍光物質を定性定量することが可能である。
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
最後に、化学物質判定装置1の各ブロック、特に、特徴量抽出部21、特徴量比較部22、および、物質判定部23は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
すなわち、化学物質判定装置1は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである化学物質判定装置1の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記化学物質判定装置1に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
また、化学物質判定装置1を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを、通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。