JP2011191144A - 高層構造物に取り付けられた付属部材の寿命評価方法 - Google Patents

高層構造物に取り付けられた付属部材の寿命評価方法 Download PDF

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Abstract

【課題】鉄塔といった高層構造物に取り付けられるガイドレールといった付属部材の寿命評価を適切に行うことができる寿命評価方法を提供する。
【解決手段】高層構造物において付属部材が取り付けられている取付箇所で吹く風のうち、当該付属部材の最小疲労評価応力σc以上の応力を当該付属部材に付与し得る風向(疲労発生風向)を調べる。次に、上記疲労発生風向の風のうち、最小疲労評価応力σc以上の応力を当該付属部材に付与し得る最小疲労評価風速Vcを算出する。次に、最小疲労評価風速Vc以上の風速Vの発生時間に基づいて上記付属部材の寿命を算出する。上記風速Vの発生時間は、付属部材の取付箇所の風況情報から、上記取付箇所で吹く風の風速の出現率分布をワイブル分布で近似したときのワイブルパラメータを抽出し、ワイブルパラメータを利用して算出する。
【選択図】図1

Description

本発明は、鉄塔といった高層構造物に取り付けられる、ガイドレールなどの付属部材の寿命評価に好適に利用することができる高層構造物に取り付けられた付属部材の寿命評価方法に関するものである。
鉄塔、煙突、橋梁などの種々の高層構造物には、ガイドレール、梯子、ステップ部材などの種々の付属部材が取り付けられている。ガイドレールは、例えば、上記鉄塔を昇降する作業者に接続させて当該作業者の安全を確保するための墜落防止用安全器の走行レールに使用される(特許文献1参照)。
上記高層構造物は、10m以上、特に、送電用の鉄塔では、40m〜70m程度のものが多く、中には、100mを超えるものもある。上記付属部材は、このような高所に取り付けられることから、風による様々な振動現象により、亀裂が入ったり、最悪の場合、折損(破断)することがある。上述したガイドレールは、作業者の安全を確保する上で非常に重要な部材であるため、折損する前に交換する必要がある。
上記交換の際にも、作業者が上述のような高所で作業を行う必要があることから、過度の交換作業も作業者に負担が大きく、また、不経済である。そのため、上記付属部材の寿命(残存寿命)を精度よく評価することが望まれる。
特開2002-095763号公報
しかし、従来、上記ガイドレールといった、高層構造物に取り付けられる付属部材の寿命を適切に評価する方法が知られていない。
本発明者らは、上記ガイドレールといった付属部材の寿命を算定するにあたり、当該付属部材の取付箇所で吹く年平均風速の最大値を利用して、この風により寿命を算定することを検討した。しかし、送電用の鉄塔に取り付けられたガイドレールについて、実際に折損したガイドレールの使用年数と、上記年平均風速の最大値を用いて算出した寿命とを比較したところ、大きくずれていることがあった。従って、年平均風速の最大値を用いた寿命評価方法は、適切な方法とは言えない。
そこで、本発明の目的は、鉄塔などの高層構造物に付設されるガイドレールといった付属部材の寿命を適切に評価することができる高層構造物に取り付けられた付属部材の寿命評価方法を提供することにある。
上記付属部材が、風による影響を受け易い箇所と、風による影響を比較的受け難い箇所とを有する形状、例えば、I字状やL字状、T字状といった形状である場合、折損の原因となる振動を当該付属部材に与え得る応力を生じさせる風向が特定の範囲となる傾向にある。即ち、上述したような特定の形状の付属部材の場合、当該付属部材の取付箇所で吹く風のうち、一部の風向の風は、付属部材の寿命に実質的に影響を与えない。従って、全風向の年平均風速を利用して付属部材の寿命を評価すると、寿命に実質的に関与しない風(風速が小さ過ぎる風や上記特定の範囲の風向以外の風向の風)をも加味して寿命を算出することになるため、付属部材の形状によっては実際に折損し得る年数と、算出した寿命年数との誤差が大きくなると考えられる。このことから、上記付属部材の寿命評価にあたり、当該付属部材の寿命(折損)に影響を与え易い風向、及びこの風向の風速の風による被害を考慮する必要があると考えられる。
一方、風速の出現率分布は、ワイブル(Weibull)分布で近似できることが知られている。従って、ある地点に吹く風において任意の風速の発生時間(発生頻度)は、当該地点の風速の出現率分布をワイブル分布で近似したときのワイブルパラメータを利用することで、精度よく求められる、と考えられる。
以上から、
(1) 付属部材の寿命に影響を与え易い風向、
(2) 付属部材の寿命に影響を与え得る風速、
(3) 上記風向であって、かつ上記風速の発生時間、
を考慮することで、上述したような特定の形状の付属部材であっても、付属部材の寿命を適切に評価できると期待される。本発明は、上記知見に基づくものである。
本発明は、高層構造物に取り付けられた付属部材の寿命を評価する方法に係るものである。この方法では、まず、高層構造物において付属部材が取り付けられている取付箇所で吹く風のうち、当該付属部材の最小疲労評価応力σc以上の応力を当該付属部材に付与し得る風向を調べる。次に、上記調べた風向の風のうち、上記最小疲労評価応力σc以上の応力を当該付属部材に付与し得る風速Vの発生時間を、上記取付箇所で吹く風の風速の出現率分布をワイブル分布で近似したときのワイブルパラメータを利用して求める。そして、上記発生時間に基づいて上記付属部材の寿命を評価する。
上記構成によれば、後述の試験例に示すように、上記付属部材において、風による疲労被害に起因する寿命(振動による折損)の評価を適切に行える。
本発明の一形態として、上記高層構造物が鉄塔であり、上記付属部材がこの鉄塔を昇降する作業者の墜落防止用安全器を走行させるためのガイドレールである形態が挙げられる。
上述のように送電用などの鉄塔ではその高さが非常に高く、このような鉄塔に取り付けられた付属部材の高さも高くなることから、上記ガイドレールは、大きな風速の風を受け易く、このような風による振動で疲労して、折損する恐れがある。従って、上記ガイドレールの寿命評価に本発明寿命評価方法を適用することで、寿命を適切に評価することができ、過度の交換を行うことなく、作業者の安全確保に寄与することができると期待される。
本発明の一形態として、マイナー則を利用して寿命の算出を行う形態が挙げられる。より具体的には、上記付属部材のS-N線図と、上記最小疲労評価応力σcに対して上記風速Vに基づく応力変動Δσが生じたときの上記付属部材のS-N線図とに基づき、マイナー則により上記付属部材の累積疲労被害度を求め、この累積疲労被害度により上記付属部材の寿命を算定する。
上述のように最小疲労評価応力σc以上の応力を上記付属部材に付与し得る風速Vによる応力変動分を考慮し、マイナー則を利用して寿命を算出することで、上記付属部材の寿命をより適切に求められると期待される。
本発明によれば、高層構造物に取り付けられた付属部材の寿命評価を適切に行うことができる。
図1は、実施形態の寿命評価方法の手順を示す基本フローチャートである。 図2は、実施形態において、最小疲労評価風速Vc以上の風速Vにおける振動回数の算出手順を示すフローチャートである。 図3は、実施形態において、疲労被害度に基づき寿命を算出する手順を示すフローチャートである。 図4は、付属部材の一例であるガイドレールを鉄塔に取り付けた状態を示す概略構成図である。
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
ここでは、付属部材として、図4に示すガイドレールを例にして、その寿命の評価手順を説明する。まず、ガイドレールを説明する。
[ガイドレール]
ガイドレール1は、取付金具200を介して送電用鉄塔100に取り付けられ、当該鉄塔100を昇降する作業者の墜落防止用安全器(図示せず)を走行させるためのものである。このガイドレール1は、断面I字状のアルミニウム合金製の部材であり、対向する一対の短片11,12のうち、一方の短片11には、その表裏を貫通するように、上記安全器のスプロケットの歯部(図示せず)が嵌め込まれる嵌合孔111が設けられている。嵌合孔111を有する短片11の表面が、上記安全器の走行面112として利用される。嵌合孔111は、走行面112の長手方向に沿って一定の間隔で設けられている。他方の短片12は、取付金具200の把持具210が装着される取付片として利用される。ガイドレール1には、その長手方向に沿って所定の取付間隔L(m)ごとに取付金具200が配置され、ガイドレール1は、走行面112が設定方向を向くようにこれら取付金具200により送電用鉄塔100の所定の位置に固定される。
送電用鉄塔100に固定されたガイドレール1は、その取付箇所(当該鉄塔100の設置位置における設定した高さ(地上高))で吹く風を受けて振動する。特に、図4の白抜き矢印に示すように、走行面112に吹き付ける風であって、走行面112と成す角度が90°±10°程度となる風向の風のうち、ガイドレール1の最小疲労評価応力σc以上の応力をガイドレール1に付与し得る風速Vの風が走行面112に所定量吹き付けた場合、上記風向で、かつ上記風速Vの風によりガイドレール1は疲労により折損し得る。このように特定の風向(以下、疲労発生風向と呼ぶ)で、かつ特定の風速以上の風を受けたときの振動によりガイドレール1が折損すると推定し、この折損に至るまでの年数をガイドレール1の寿命として、当該寿命を以下の手順により算出する。
[寿命評価方法の手順]
《基本手順》
まず、図1を参照して、実施形態の寿命評価方法の基本的な手順を説明する。
ステップS1:高層構造物(ここでは、送電用鉄塔)に取り付けられた付属部材(ここでは、ガイドレール)の取付箇所における風況情報の取得
まず、上記ガイドレールの取付箇所で吹く風の情報、具体的には、当該取付箇所で吹く風の風向ごとの風速を取得する。
ステップS2:最小疲労評価風速Vcの演算
次に、上記取付箇所で吹く風のうち、付属部材の疲労被害に起因する振動を当該付属部材に付与し得る最小の風速(最小疲労評価風速Vcと呼ぶ)を算出する。
上述したI字状のガイドレール1では、上記疲労発生風向が存在し得る。従って、この寿命評価方法では、特に、上記疲労発生風向を調べ、この疲労発生風向における上記最小疲労評価風速Vcを算出する。また、最小疲労評価風速Vcの算出にあたり、疲労被害に関与し得るパラメータ、具体的には、取付金具の取付間隔L(m)、ガイドレール1の固有振動数f(Hz)、ガイドレール1の構造減衰率δ0を求めておく。
ステップS3:風速V(≧Vc)により付属部材が1年間に振動する振動回数nVの演算
実際の環境では、最小疲労評価風速Vcだけでなく、最小疲労評価風速Vc以上の風速Vの風が吹き得る。これら風速Vの風は、ガイドレール1の疲労被害に影響を与え得る振動を生じ得るため、風速Vによりガイドレール1が振動する振動回数nVを算出する。
なお、最小疲労評価風速Vc未満の風速の風は、ガイドレール1の疲労被害に影響を与え難い(振動によりガイドレールに付与される応力が小さい)と考えられるため、この寿命評価方法では、無視する。
ステップS4:振動回数nVに基づく1年間の累積疲労被害度Dxの演算
ここでは、マイナー則を利用して、上記風速Vによりガイドレール1に1年間に蓄積される累積疲労被害度を求める。具体的には、上記風速V(≧Vc)の風により、ガイドレール1の最小疲労評価応力σcに対して応力変動Δσが生じ、この応力変動による振動をN回受けると、ガイドレール1は疲労により折損すると推定する。上記応力変動による1年あたりの振動回数がnVであることから、累積疲労被害度Dxは、nV/Nの総和として表される。
ステップS5:寿命の算出
ガイドレール1の寿命(年)は、上記累積疲労被害度Dxを用いて、1/Dxで求められる。
上述した手順は、例えば、以下の寿命評価システムを構築することで、容易に寿命を算出できる。このシステムは、作業者が種々の情報(疲労発生風向、地上高h、取付間隔L、固有振動数f、構造減衰率δ0など)を直接入力する直接入力手段(例えば、キーボードなど)と、入力したデータを記憶する入力データ記憶手段と、入力データ記憶手段などの記憶手段から呼び出したデータなどを利用して種々の演算を行う演算手段と、演算された情報を記憶する演算データ記憶手段とを具える。その他、このシステムは、上記演算結果を視覚的に表示する表示手段(例えば、モニタなど)を具えていてもよい。上記記憶手段や演算手段などを具えるコンピュータを好適に利用することができる。
次に、基本手順で説明した種々の情報の取得方法や、パラメータなどを詳細に説明する。
《風況情報の取得》
ガイドレールの取付箇所における風向及び風速は、例えば、作業者が送電用鉄塔の設置位置に赴き、市販の風向風速計を用いることで実環境に即した情報が得られるものの、非常に時間が掛かる。一方、気象官署やNEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の地域別測定データを利用すると、上記高層構造物の設置位置、及び当該設置位置における所定の地上高の風向や風速を容易に抽出できる上に、信頼性が高いと考えられる。ここでは、NEDOがインターネット上で開示している「局所的風況予測モデル(H18年度版)」の「局所風況マップ」を利用する。「局所風況マップ」の利用に際して、インターネットが行えるように、コンピュータ、モニタ、回線などを準備しておく。
上記「局所風況マップ」では、任意の地点における所定の地上高(30m,50m,70m)ごとに、かつ以下の風況情報を開示している。
(1) 16方位の風向別の1m/s刻みの風速の出現頻度(%)、及び年平均風速(m/s)
(2) 全風向における1m/s刻みの風速の出現頻度(%)、及び全風向の年平均風速(m/s)
また、上記「局所風況マップ」では、任意の地点における所定の地上高(30m,50m,70m)ごとにワイブルパラメータ(形状係数k、尺度定数C)を開示している。
そして、上記「局所風況マップ」では、モニタの画面に表示された地図上の所望の地点を選択する、或いは所望の地点の緯度・経度を入力すると、当該地点における上記風況情報を自動的に抽出することができる。
ここでは、送電用鉄塔の設置位置の緯度・経度を入力することで、当該設置位置における風況情報を取得する。上記緯度・経度は、例えば、地名から緯度・経度を特定する市販の地図ソフトなどを利用すると簡単に求められる。
なお、所望の緯度・経度と完全一致する緯度・経度の風況情報が無い場合、上記「局所風況マップ」では、入力した緯度・経度の近傍の風況情報を自動的に抽出する。この実施形態でも、この近傍の風況情報を利用するものとする。取得した風況情報を上述した入力データ記憶手段に記憶するように、上述のシステムを構成すると、風況情報を利用した各種の演算を容易に行える。
《疲労発生風向》
送電用鉄塔100にガイドレール1が取り付けられた状態において走行面112が向いている方向(以下、取付方向と呼ぶ)を上述した疲労発生風向とする。残存寿命の評価を行う場合、ガイドレール1の取付状態を設置現場で目視確認することで、走行面112の取付方向を正確に把握することができる。新規に布設する付属部材の寿命評価を行う場合を含めて、設計情報を利用して走行面の取付(予定)方向から疲労発生風向を決定してもよい。
ここでは、16方位のうち、取付(予定)方向に最も近い方位、及び疲労被害の影響を考慮して、上記選択した方位の両隣の2方位を含めた合計3方位を疲労発生方位とする。例えば、走行面112が図4に示すように東(E)を向いて取り付けられている場合、東北東(ENE)及び東南東(ESE)を含めた3方位を疲労発生方位とする。
なお、16方位のうちの1方位のみを疲労発生方位としてもよいが、この場合、疲労被害を生じ得る振動回数が少なく、ガイドレールの寿命が実際の寿命よりも長く算出される恐れがある。ここでは、安全性を考慮して、ガイドレールの寿命が比較的短めに算出されるように、上記3方位を利用する。16方位のうち、4方位以上の複数方位を疲労発生方位とすることができるが、多過ぎると、全風向の年平均風速を利用して寿命を評価する場合と差異が無くなるため、16方位中5方位以下が妥当であると考えられる。
《地上高、取付間隔、固有振動数、構造減衰率、最小疲労評価応力》
地上高h(m)は、ガイドレールの設置位置における高さ(ここでは設計値)であり、設計情報をそのまま利用することができる。ここでは、「局所風況マップ」を利用するにあたり、設計値と完全一致する地上高が無い場合、30m,50m,70mのうちの最も近い値を利用する。
取付間隔L(m)は、設計値であり、設計情報をそのまま利用することができる。残存寿命の評価を行う場合、取付間隔Lは、設置現場において実際に測定してもよい。
固有振動数f(Hz)及び構造減衰率δ0は、ガイドレール固有の値であり、例えば、ガイドレールに対して強制振動実験を行うことで得られる。ここでは、取付間隔L(m)を適宜変更して、実規模の風洞実験及び現地実証実験を実際に行い、これらの実験により得られた測定データ(ここでは、取付間隔と固有振動数との相関データ、及び取付間隔と構造減衰率との相関データ)を利用する。このような相関データを利用することで、種々の取付間隔の場合の固有振動数や構造減衰率を容易に求められる。
種々の形状や材質の付属部材に対して、上述の実験を予め行って測定データを保存しておき、当該測定データから固有振動数、構造減衰率を抽出できるようにしておくと利用し易い。特に、上記設計値やこれらの測定データ、その他後述する種々の測定データ(最小疲労評価応力σc、S-N線図、グッドマンダイヤグラム、取付状態と初期応力との相関データ)を上述した入力データ記憶手段に記憶するように上述のシステムを構成すると、これらのデータを利用した各種の演算やデータの抽出などを容易に行える。
最小疲労評価応力σcは、ガイドレール固有の値であり、例えば、ガイドレール1に対して強制振動試験を行い、S-N線図を利用することで得られる。このS-N線図は、サンプルのガイドレールを固定し、サンプルにおいて取付金具間の中間部に、振動発生装置(加振機)により種々の応力で振動を付与し、各応力で折損する回数を求めることで得られる。
ここで、ガイドレール1が取付金具200により固定されることで、無風状態であっても、通常、初期応力が付された状態となっている。従って、この初期応力が付された状態で強制振動試験を行ったS-N線図を求め、このS-N線図から最小疲労評価応力σcを抽出する。この最小疲労評価応力は、強制振動試験において試料に振動を繰り返し与えて、試料が破断するときの最小の応力をいう。代表的には、試料が破断するまでの繰り返し回数が1×107回のときの応力(一般に疲労限と呼ばれる応力)を利用することができる。試料が破断するまでの繰り返し回数が1×107回を超えるような小さい応力で強制振動試験を行い、この応力を最小疲労評価応力とすると、寿命評価の精度が高められると期待される。初期応力0(ゼロ)の状態における最小疲労評価応力σ0を利用してグッドマンダイヤグラムを作成し、グッドマンダイヤグラムから、所定の初期応力が付されたときの修正値σ’を抽出し、この修正値を最小疲労評価応力σcとしてもよい。グッドマンダイヤグラムを利用すると、任意の初期応力の場合に対して最小疲労評価応力σcを容易に求められる。ここでは、グッドマンダイヤグラムを利用する。
上記初期応力は、残存寿命を評価する場合、例えば、以下のようにして求められる。設置現場でガイドレールの取付状態を確認し、その取付状態(変形度合い)をサンプルで再現し、このときのサンプルに付加されている応力を歪ゲージなどの測定機器により測定し、この応力を初期応力として利用する。種々の取付状態に対して上記サンプルによる初期応力の測定を行い、取付状態と初期応力との相関データを作成しておくと、設置現場でガイドレールの取付状態を確認するだけで、初期応力を容易に求められる。ここでは、上記取付状態と初期応力との相関データを予め作成しておき、この相関データを利用する。新規に布設する付属部材の寿命評価を行う場合、初期応力は、設定値とするとよい。
次に、基本手順で説明したステップS2以降の手順を詳細に説明する。
《ステップS2:最小疲労評価風速Vcの演算》
最小疲労評価風速Vc(m/s)は、最小疲労評価応力σc(kgf/mm2(≒σc×9.8MPa)、取付間隔L(m)、固有振動数f(Hz=1/s)、構造減衰率δ0、及び、ここでは風の乱れ強さに基づく変数xを用いて、式(1):Vc=(σc×L×f×δ0)/xにより求める。風の乱れ強さは、例えば、市販の風速計を用いて測定することができる。
最小疲労評価応力σc、取付間隔L(m)、固有振動数f、構造減衰率δ0は上述のように設計値、或いは予め求めた測定データといった既知値であるから、ここでは後述のようにして変数xを求めて、最小疲労評価風速Vcを演算する。求めた最小疲労評価風速Vcは、振動回数nVの演算に利用するため、演算データ記憶手段などに保存しておくと、利用し易い。
《ステップS3:風速Vにおける振動回数nV/1年間の演算》
図2を参照して、風速Vにおける1年間の振動回数nVの演算手順を説明する。
この寿命評価方法では、ガイドレールの取付箇所で吹く風の風速の出現率分布をワイブル分布で近似したときのワイブルパラメータを用いて、最小疲労評価風速Vc以上の風速Vの発生時間を求めるところを特徴の一つとする。ここでは、「局所風況マップ」を利用して、送電用鉄塔の設置位置において、ガイドレール1の取付箇所(地上高h(m))での全風向のワイブルパラメータ(形状定数k、尺度定数C)を抽出する(ステップS10)。当該ワイブルパラメータは、上述のように近似データを用いることを許容する。
次に、上記ワイブルパラメータ(形状定数k及び尺度定数C)を用いて全風向における1年間の風速発生時間TVを演算する(ステップS11)。この風速発生時間TVは、形状定数k及び尺度定数Cを用いて、以下の式(2)で表される。
Figure 2011191144
次に、上記「局所風況マップ」から抽出した、ガイドレール1の取付箇所における風向別の風速出現頻度y及び全風向の風速出現頻度Yを用いて、上記疲労発生風向の風向別に、1年間の風速発生時間Tを演算する(ステップS12)。この風速発生時間Tは、上記全風向における1年間の風速発生時間TVを用いて、T=TV×(y/Y)で表される。
ここでは、疲労発生風向として選択した3方位に対してそれぞれ、最小疲労評価風速Vc以上の風速Vの風速発生時間T/1年間を求め、その合計時間を、疲労発生風向の風速Vにおける1年間の風速発生時間Twとする。
そして、疲労発生風向の風であって、最小疲労評価風速Vc以上の風速Vにより、ガイドレール1が1年間に振動する振動回数nVを演算する(ステップS13)。振動回数nVは、固有振動数f及び上記疲労発生風向の風速発生時間Twを用いてnV=3600×f×Twで表される。求めた振動回数nVは、疲労被害度Dxの演算に利用するため、データ記憶手段などに保存しておくと、利用し易い。
ここで、上記「局所風況マップ」では、風速1m/sごとのデータが抽出できる。従って、疲労発生風向の風速Vは、上記「局所風況マップ」を利用した場合、風速1m/sごとに、少なくとも1つ求められる。上記風速Vが複数存在する場合、風速Vnごとに振動回数nVnを求める(n=1,2,3…)。
《ステップS4:1年間の疲労被害度Dxの演算》
図3を参照して、1年間の疲労被害度Dxの演算手順を説明する。
この寿命評価方法では、上記ガイドレールのS-N線図と、このガイドレールの最小疲労評価応力σcに対して、最小疲労評価風速Vc以上の風速Vによる応力変動Δσが生じたときのS-N線図(以下、修正S-N線図と呼ぶ)とに基づき、マイナー則により、上記ガイドレールの累積疲労被害度(ここでは、1年間の累積疲労被害度Dx)を利用して、当該ガイドレールの寿命を算出することを特徴の一つとする。そこで、まず、風速Vにおける応力変動Δσを求める(ステップS20)。
上記応力変動Δσは、風速V(m/s)、取付間隔L(m)、固有振動数f(Hz)、構造減衰率δ0、及び風の乱れ強さに基づく変数xを用いて、式(3):Δσ=(V×x)/(L×f×δ0)により求める。本発明者らは、ガイドレール1を用いた実規模の風洞実験及び現地実証実験で得られた実測値により、応力変動Δσを求めたところ、風速V時の風の乱れ強さIvに基づく変数x(=Iv×k、kは上記実験に基づく設計値)を利用すると、応力変動Δσが求められる、との知見を得た。そこで、ここでは、上記式(3)を利用してΔσを求める。上記式(3)において風速Vに最小疲労評価風速Vc、応力変動Δσに最小疲労評価応力σcを代入することで、上記式(1)が求められる。
次に、応力変動Δσによりガイドレールが折損に至る回数Nを、S-N線図、及び修正S-N線図から抽出する(ステップS21)。この工程にあたり、上述のようにガイドレールに対して強制振動試験などを行ってS-N線図、及び修正S-N線図を求めておき、データ記憶手段などに保存しておくと利用し易い。
次に、ステップS13で求めた、疲労発生風向の風速Vにおける1年間の振動回数nVを利用して、疲労発生風向の風速Vにおける1年間の累積疲労被害度Dxを演算する(ステップS22)。
上述のように疲労発生風向の風速Vが1つ以上存在する場合、風速Vnごとに振動回数nVnが求められる。従って、疲労発生風向の風速Vにおける1年間の累積疲労被害度Dxは、風速Vnのときの応力変動Δσnにより折損に至る回数N nに対する振動回数nVnの割合:nVn/N* nの総和、即ち、Dx=Σ(nV/N*)で表される。求めた累積疲労被害度Dxは、寿命の演算に利用するため、データ記憶手段などに保存しておくと、利用し易い。
上述のようにして求めた累積疲労被害度Dxを利用して、ガイドレールの寿命:1/Dxを算出することができる(ステップS5 図1)。
[試験例]
実際に送電用鉄塔に付設されて折損したガイドレールの使用年数(折損年数)と、上述した寿命評価方法に基づいて算出したガイドレールの寿命(年)とを比較して、上述した寿命評価方法の妥当性を評価した。その結果を表1に示す。なお、「局所風況マップ」のワイブルパラメータは、5kmメッシュのデータを利用した。
表1に示す各試料は、実際に折損したガイドレールの使用年数を調べたものである。各試料の寿命の算出にあたり、各試料に対してガイドレールの走行面の取付方向を調べ、この取付方向に最も近い方位を16方位中から選択し、この選択した方位と、この方位の両隣りの2方位の合計3方位を疲労発生風向とした。以下の表において、東:E、西:W、北:N、南:Sと示す。また、送電鉄塔に取り付けられたガイドレールにおいて、実際に折損が生じた部分の高さを調べたところ、40m〜60mであったので、各試料の寿命の算出にあたり、地上高は50mとした。取付間隔は、実際に測定した値を利用した。初期応力は、6.5kgf/mm2(≒63.7MPa)、20kgf/mm2(≒196MPa)を利用した。
Figure 2011191144
表1に示すように、初期応力を6.5kgf/mm2としてガイドレールの寿命評価を行ったところ、いずれの試料も寿命が101年以上となり、実際の寿命に適合していない。しかし、初期応力を20kgf/mm2と大きくしてガイドレールの寿命評価を行った場合、寿命が10年以下と算出され、実際の使用年数と略一致した結果が得られていると言える。なお、風速条件が厳しい地域などでは、500mメッシュのワイブルパラメータを利用して寿命を算出することができる。
次に、上記折損したガイドレールが取り付けられた送電用鉄塔と同じ送電用鉄塔に取り付けられたガイドレールであって、折損してないガイドレールの寿命評価を同様に上述した寿命評価方法に基づいて行った。その結果を表2に示す。表1,2の試料No.a-bにおいて「a」が等しい試料は、送電用鉄塔が同じことを示す。
また、送電用鉄塔の異なる二箇所に取り付けられたガイドレールであって、各箇所に取り付けられたガイドレールのいずれも折損していないガイドレールに対して、寿命評価を同様に上述した寿命評価方法に基づいて行った。その結果を表3に示す。
これら折損していないガイドレールの寿命評価に際して、いずれの試料も初期応力は、6.5kgf/mm2又は10kgf/mm2(≒98MPa)を利用し、取付間隔は、2mとし、地上高は、実際の取り付け高さに近い値(50m又は70m)を利用した。
Figure 2011191144
Figure 2011191144
表2,3に示すように示すように、折損していないガイドレールの寿命はいずれも101年以上であり、実際に折損していない状況と一致した結果が得られていると言える。特に、表2,3に示す試料は、初期応力を10kgf/mm2とした場合でも寿命が101年以上であり、実際に折損していない状況と一致すると言える。
上記試験結果から、疲労発生風向の風であって、最小疲労評価風速Vc以上の風速Vの発生時間をワイブルパラメータを利用して求め、この発生時間に基づいて寿命の評価を行う上記寿命評価方法は、墜落防止用安全器の走行用のガイドレールといった高層構造物に取り付けられる付属部材の寿命を適切に評価していると言える。
なお、上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、ガイドレールとして、嵌合孔を有していないものに変更したり、付属部材として、T字状やL字状のものに変更することができる。その他、円柱状といった、任意の風向により最小疲労評価応力以上の応力が付与され得る形状の付属部材でもよく、この場合、全風向の発生時間を利用するとよい。また、32方位、8方位を利用してもよい。
本発明寿命評価方法は、鉄塔、煙突、橋梁などの高層構造物に取り付けられるガイドレール、梯子、ステップ部材などの付属部材、特に、鉄塔に取り付けられる安全器走行用のガイドレールの寿命評価に好適に利用することができる。また、本発明寿命評価方法は、既存の付属部材に対する残存寿命の評価、新設する付属部材に対する寿命の評価のいずれにも利用することができる。
1 ガイドレール 11,12 短片 111 嵌合孔 112 走行面
100 送電用鉄塔 200 取付金具 210 把持具

Claims (3)

  1. 高層構造物において付属部材が取り付けられている取付箇所で吹く風のうち、当該付属部材の最小疲労評価応力σc以上の応力を当該付属部材に付与し得る風向を調べ、
    前記風向の風のうち、前記最小疲労評価応力σc以上の応力を当該付属部材に付与し得る風速Vの発生時間を、前記取付箇所で吹く風の風速の出現率分布をワイブル分布で近似したときのワイブルパラメータを利用して求め、
    前記発生時間に基づいて前記付属部材の寿命を評価することを特徴とする高層構造物に取り付けられた付属部材の寿命評価方法。
  2. 前記高層構造物は、鉄塔であり、前記付属部材は、前記鉄塔を昇降する作業者の墜落防止用安全器を走行させるためのガイドレールであることを特徴とする請求項1に記載の高層構造物に取り付けられた付属部材の寿命評価方法。
  3. 前記付属部材のS-N線図と、前記最小疲労評価応力σcに対して前記風速Vに基づく応力変動Δσが生じたときの前記付属部材のS-N線図とに基づき、マイナー則により前記付属部材の累積疲労被害度を求め、
    前記累積疲労被害度により前記付属部材の寿命を求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の高層構造物に取り付けられた付属部材の寿命評価方法。
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