JP2011185809A - 非破壊検査装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】アレイコイルの一部が空気層を検出しても検査作業を阻害することなく円滑に検査を行うことができる非破壊検査装置を提供すること。
【解決手段】非破壊検査装置1は、被測定物2に磁場を印加して磁束密度を発生させ、当該磁場を遮断後に、被測定物2の複数位置から放出される磁束を誘導起電力検出部17により測定し、過渡変化の時定数を算出し、当該時定数の分布状態から被測定物2の内部構造を検出する処理部20を有する。誘導起電力検出部17は、複数の微小コイルが配置されて構成されている。処理部20は、複数の微小コイルのそれぞれの測定結果からそれぞれの時定数を算出して、異常な時定数になっている微小コイルを抽出し、抽出した微小コイルの時定数を他の正常な時定数になっている微小コイルの時定数に置換する。
【選択図】図1

Description

本発明は、被測定物の溶接部位等を非破壊で検査する非破壊検査装置に関する。
各種薄板金属製品の組立に用いられる溶接として、スポット溶接が一般的に用いられている。スポット溶接とは、重ね合わせた金属の板材における溶接部位に、先端が所定の形状に成形されている電極によって上下方向から所定の圧力で挟み、両電極に所定の電流を所定の時間だけ流すことによって、当該溶接部位を局部的に加熱して溶接する方法である。
また、スポット溶接により溶接された溶接部位の表面は、加圧によって溶接部外に比べ凹んでいる。この凹み部をインデテーション部といい、凹みの寸法をインデテーション径という。
また、溶接部位の内部は、ナゲット部(溶着部)と、その周辺の圧着部とで形成される。ナゲット部は、金属が一旦溶解して固化した部分である。一方、圧着部は、金属の表面同士で圧着された部分である。ナゲット部の寸法をナゲット径といい、ナゲット部と圧着部とを総合して接合部といい、接合部の寸法を接合径という。なお、接合部は、実際に接合している部分である。
また、スポット溶接では、重ね合わせた金属の板材を点(スポット)で溶接するため、溶接強度が十分であるか否かを検査する必要がある。
溶接強度の測定を非破壊にて行う方法として、ナゲット径を測定することにより溶接強度を推定する方法が有効である(例えば、特許文献1を参照。)。従来から、ナゲット径を測定する方法として、電流を流したコイルにより発生した磁界を、溶接部位に印加し、その結果発生したコイルのインダクタンスの変化からナゲット径を求める方法が知られている。この従来方法では、ナゲット部とナゲット部以外の部分とでは透磁率(μ)が変化する性質があるので、この性質を利用して、透磁率(μ)の変化をインダクタンスの変化として検出し、ナゲット径を求めている。
特許第3098193号公報
ここで、検査装置のセンサは、外部から視認できる溶接部位を目安に配置される。ところで、外部から視認できる凹み部(インデテーション部)の中心位置と、ナゲット部の中心位置が一致しない場合がある。これは、スポット溶接する際に、電極の先端同士が厳密に対向せずに、ある角度をもって対向するような場合等に発生する。
このように、溶接部位の中心位置とナゲット部の中心位置がずれていると、検査装置のセンサが配置されている直下にナゲット部が形成されていない、又外れているために、ナゲット径を正確に測定することができなくなる。このような場合には、検査装置のセンサを様々な位置にずらして再検査を繰り返さねばならず、ナゲット径の測定に多大な労力を必要とする。
また、溶接の打点は、金属の板材のフランジの近傍に存在するものもある。このような場合、検査装置は、金属の板材のフランジ近傍を移動させているときに、センサのアレイコイルの一部が板材から外れてしまうことがある。そうすると、板材から外れた一部のアレイコイルは、板材からの漏れ磁界を検出することができず、何もない場所(空気層)を検出し、異常な値を示してしまう。また、このような異常な値は、隣接するアレイコイルの検出値にも影響を与えてしまうことがある。特に、2つの板材のフランジ同士を溶接し、その溶接打痕の品質(ナゲットの大きさ)を検査しようとした場合、フランジがセンサよりも小さいため、センサヘッドをフランジに当接させようとすると、センサヘッドの一部がフランジの外にはみ出てしまう。
このようにして、検査装置では、アレイコイルの一部が空気層を検出してしまうと、正しい検査が行えなくなってしまい、場合によっては全く検査が行えなくなってしまう。
本発明は、上述のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、アレイコイルの一部が空気層を検出しても検査作業を阻害することなく円滑に検査を行うことができる非破壊検査装置を提供することである。
本発明に係る非破壊検査装置は、上記課題を解決するために、被測定物に磁場を印加して磁束密度を発生させ、当該磁場を遮断後に、被測定物の複数位置から放出される磁束を磁束検出素子により測定し、複数の磁束の過渡変化の時定数を算出し、当該時定数の分布状態から被測定物の内部構造を検出する検出処理部を有する非破壊検査装置において、前記複数の過渡変化の時定数の中で異常な過渡変化の時定数のデータを時定数の大きさに基づいて特定することを特徴とする。
また、非破壊検査装置では、前記磁束検出素子は、複数の微小コイルが配置されて構成されており、前記検出処理部は、前記複数の微小コイルのそれぞれの測定結果からそれぞれの時定数を算出して、異常な時定数になっている微小コイルを抽出し、抽出した微小コイルの時定数を他の正常な時定数になっている微小コイルの時定数に置換することが好ましい。
また、非破壊検査装置では、前記磁束検出素子は、複数の微小コイルが線対称に配置されて構成されており、前記検出処理部は、前記他の正常な時定数になっている微小コイルとして、前記抽出した微小コイルの線対称の位置に配置されている微小コイルの時定数に置換することが好ましい。
また、非破壊検査装置では、前記被測定物が前記磁束検出素子の直下に存在しない又は所定の距離以上離れているときの時定数を記憶する記憶部を備え、前記検出処理部は、前記複数の微小コイルのそれぞれの測定結果からそれぞれの時定数を算出して、前記記憶部に記憶されている時定数に近似している微小コイルを前記異常な時定数になっている微小コイルとして抽出し、抽出した微小コイルの測定結果を線対称の位置に配置されている微小コイルの測定結果に置換することが好ましい。
また、非破壊検査装置では、前記検出処理部により検出された前記被測定物の内部構造を表示部に表示する表示制御部を備え、前記表示制御部は、前記異常な時定数になっている微小コイルの位置を前記被測定物の端部として前記表示部に表示するように制御することが好ましい。
本発明によれば、アレイコイルの一部が空気層を検出しても検査作業を阻害することなく円滑に検査を行うことができる。
本実施形態に係る非破壊検査装置の構成を示すブロック図である。 本実施形態に係る非破壊検査装置の誘導起電力検出部の構成を示す図である。 本実施形態に係る非破壊検査装置の誘導起電力検出部を被測定物のフランジ近傍に移動させたときの様子を模式的に示す図である。 異常な時定数を正常な時定数に置換する際の説明に供する図である。 ワークに対して2段階で磁界を印加する際の説明に供する図である。 磁界を加えて磁束密度を発生させたときの様子を模式的に示す図である。 残留磁気の消失過程を模式的に示す図である。 図7(b)に示す磁束密度の閉ループを磁気等価回路に置換した回路図を示す図である。 静磁界を遮断した直後のアレイセンサの任意の一つを通過する磁束の閉ループCを模式的に示す図である。 アレイセンサで測定される磁束の変化についての説明に供する図である。 センサプローブの外観を示す図である。 センサプローブがフランジ部に配置される様子を示す図である。
2つ以上の部材を溶融し、一体化させる方法として、スポット溶接がある。スポット溶接を行う装置は、2枚の金属板を純銅又は銅合金の棒状の電極の間に挟んで強く加圧しながら短時間大電流を通し、部材を溶接する。また、溶接部位の表面には、電極で押えたわずかの凹みができ、その内部には、ナゲット部(溶接金属が凝固したもの)が形成される。本実施形態に係る非破壊検査装置1は、非破壊によりナゲット部を検査する。なお、本実施例においては、スポット溶接により溶接された溶接部位の検査について説明するが、溶接方法は、スポット溶接に限定されない。また、「内部構造」とは、化学的、物理的及び機械的に変化している構造を意味する。
また、非破壊検査装置1は、磁性体から構成される被測定物2(例えば、自動車のボディ)の溶接部位3に対する検査を行う装置であり、溶接部位3に対して磁場を与え、放出される磁束密度を測定することでナゲット部の検査を行う非破壊の検査方法を採用する。以下、本発明の実施の形態について説明する。
非破壊検査装置1は、図1に示すように、磁束発生部16と、誘導起電力検出部17(磁束検出素子)と、センサ出力切替部18と、センサ出力制御部19と、処理部20(検出処理部)と、記憶部21とを備える。磁束発生部16は、励磁磁極11及び回収磁極12から構成される鉄心13と、鉄心13を励磁する励磁コイル14と、励磁コイル14の通電状態と遮断状態を制御する励磁制御部15とを有する。
ここで、鉄心13の形状について説明する。鉄心13は、図1に模式的に示すように、一方端側に励磁磁極11が形成され、他方端側に回収磁極12が形成されるコ字状に形成されている。また、励磁磁極11の端面に形成されるコイルC1乃至Cn(nは、2以上の自然数。)は、溶接部位から発生する誘導起電力を検出する。なお、鉄心13の形状は、上述したものに限られない。
また、磁束発生部16は、励磁制御部15により励磁コイル14を通電状態に制御して励磁磁極11と回収磁極12との間に磁束を発生させ、溶接部位3に磁界を加える。励磁コイル14は、導体が鉄心13の所定の部位に、密接に螺旋状に巻かれており、ソレノイドコイルにより構成されている。なお、本実施例では、励磁コイル14が巻かれている方を励磁磁極11として説明するが、励磁コイル14に流す電流の向きによって、励磁コイル14が巻かれている方が励磁磁極になったり回収磁極になったりするので、励磁コイル14が巻かれている方を回収磁極としても良い。
また、誘導起電力検出部17は、励磁磁極11の端面に配置され、溶接部位3から発生する誘導起電力を検出する。また、誘導起電力検出部17は、複数のコイルCが配置されたアレイコイルにより構成されている。
また、誘導起電力検出部17は、図2に示すように、複数の微小コイルが線対称に配置されている。図2では、誘導起電力検出部17では、16個(C1乃至C16)の微小コイルが均等に配置されている様子を示している。具体的には、コイルC1とコイルC16、コイルC2とコイルC15、コイルC3とコイルC14、コイルC4とコイルC13、コイルC5とコイルC12、コイルC6とコイルC11、コイルC7とコイルC10、コイルC8とコイルC9は、それぞれ線対称になるように均等に配置されている。なお、本実施形態では、微小コイルは、一列16個で構成されているものとして説明するが、これに限られず、複数行複数個によって構成されていても良い。
また、溶接部位3においては、溶接された痕(以下、溶接打痕(ナゲット部)という。)が表面において視認できる。非破壊検査装置1による検査においては、この溶接打痕の表面に磁界を加えて磁束密度を発生させ、コイルC1乃至C16によりその内部における溶接状態の検査を行う。
また、センサ出力制御部19は、アレイコイルに含まれる複数のコイルC1〜C16からの出力を順次選択する。センサ出力切替部18は、センサ出力制御部19により選択されたコイルCからの信号を処理部20に出力する。
処理部20は、センサ出力切替部18から供給される信号に基づいて、磁気エネルギーの減衰時定数τと、渦電流損失の減衰時定数τとを算出する。詳細は、後述するが、溶接打痕(ナゲット部)の磁気エネルギーの減衰時定数τの分布を測定し、これを分析すれば、ナゲット部のような金属的に組成変化の生じている部分の形状・寸法を求めることができる。
処理部20は、算出した磁気エネルギーの減衰時定数τと、渦電流損失の減衰時定数τとに基づいて、被測定物2の内部構造を検出する。
また、処理部20は、算出した各コイルC1乃至C16の磁気エネルギーの減衰時定数τと、渦電流損失の減衰時定数τとに基づいて、記憶部21を参照し、時定数τ1及び/又は時定数τ2が異常な時定数となっているかどうかを判断し、異常な時定数となっている場合には、該当するコイルの線対称の位置に配置されているコイルの時定数に置換する。処理部20は、例えば、コイルC16から検出された時定数が異常値であれば、コイルC1の時定数が正常な値であることを条件に、コイルC16の時定数を線対称の位置に配置されているコイルC1の時定数に置換する。
ここで、誘導起電力検出部17を被測定物2に近接させてナゲット部の検査をしているときに、誘導起電力検出部17の一部(コイルC1乃至コイルC4)が被測定物2から外れてしまった場合を想定して説明する。なお、コイルC5乃至コイルC16は、被測定物2から外れていないコイルである。また、図3では、誘導起電力検出部17と被測定物2との関係を図示している。
コイルC1乃至コイルC4は、下方向に被測定物2がないため、空間(空気層)を検出することになる。コイルC4は、被測定物2と空気層の境界付近にかかるため、通常時とは異なる時定数を示すことになる。そうすると、コイルC4に近接するコイルC5等に対して影響を与えてしまうことがある(図4を参照)。これは、空隙部分(空気層)は、被測定物と比較して透磁率が低くなっている。そのため、磁束は、透磁率の高い被測定物の端部に集中する。よって、端部に近傍部分にあるコイル(本実施例では、コイルC4)に多くの磁束が通過するため、通常とは異なる小さい時定数、すなわち傾きの大きな波形になる(図4を参照)。
非破壊検査装置1では、このような影響を除去するために、コイル(コイルC1乃至コイルC4)の時定数を、線対称の位置に配置されているコイル(コイルC13乃至コイルC16)の時定数に置換する。具体的には、処理部20は、コイルC1の時定数をコイルC16の時定数に置換し、コイルC2の時定数をコイルC15の時定数に置換し、コイルC3の時定数をコイルC14の時定数に置換し、コイルC4の時定数をコイルC13の時定数に置換する。なお、図4(a)は、置換前の各コイルの時定数を示し、図4(b)は、置換後の各コイルの時定数を示す。
このようにして、非破壊検査装置1は、空気層を検出したコイルの時定数を被測定物2の磁界を検出したコイルの時定数に置換することによって、コイルの一部が空気層を検出しても、他のコイルの検出結果に影響を与えず、検査作業を阻害することなく円滑に検査を行うことができる。
なお、非破壊検査装置1は、線対称の位置に配置されているコイルの時定数に置換すると説明したが、これに限られず、線対称の位置に配置されていなくても、被測定物2の磁界を正しく検出しているコイルの時定数に置換する構成であっても良い。
また、記憶部21は、被測定物2が誘導起電力検出部17の直下に存在しない又は所定の距離以上離れているときの時定数を記憶している。具体的には、記憶部21は、コイルによって空気層を検出したときの時定数を記憶している。
このような構成の場合には、処理部20は、誘導起電力検出部17を構成する複数のコイルのそれぞれの測定結果からそれぞれの時定数を算出し、その時定数のそれぞれを記憶部21に記憶されている時定数と比較する。処理部20は、比較結果に基づいて、空気層を検出しているコイルを抽出し、抽出したコイルの時定数を線対称の位置に配置されているコイルの時定数に置換する。
このようにして、非破壊検査装置1は、空気層を検出したコイルの時定数を被測定物2の磁界を検出したコイルの時定数に置換することによって、コイルの一部が空気層を検出しても、他のコイルの検出結果に影響を与えず、検査作業を阻害することなく円滑に検査を行うことができる。
また、非破壊検査装置1は、図1に示すように、処理部20により検出された被測定物2の内部構造を表示部23に表示する表示制御部22を備える構成であっても良い。
このような構成の場合には、表示制御部22は、異常な時定数になっているコイルの位置を被測定物2の端部として表示部23に表示するように制御する。
よって、非破壊検査装置1は、被測定物2の内部状態を表示部23を介して使用者に把握させることができる。
<測定原理>
ここで、非破壊検査装置1による測定原理について説明する。磁束は、磁気を発生するための励磁コイル14(励磁磁極11)から出て、励磁コイル14直下に配置された誘導起電力検出部17を通り抜け、被測定物2(ワーク)内に入り、溶接打痕(ナゲット部)を通り抜け、回収磁極12を通って、元の励磁コイル14(励磁磁極11)に戻ってくる。
ここで、アレイコイルを構成するコイルCに注目すると、コイルCの表面積をSとし、磁路の長さをLとし、透磁率をμとすると、磁気抵抗Rmは、Rm=L/S×μで算出することができる。磁界を加えて磁束密度を発生させたときの様子(詳細は、図10を用いて後述する)は、磁界がゆっくり作られ、やがて直流になる。そして、所定のタイミングで磁界を遮断して磁気を減少させると、コイルCには、磁束密度の変化に比例してe=−dΦ/dtの波形が現れる(後述する図10(a)を参照)。また、すべてのコイルC1〜C16に発生した磁束密度の変化を総合し、指数関数で表される曲線の切片と時定数を求めることによって、各コイルを通り抜ける磁束の磁気抵抗を推定することができる。各コイルの磁気抵抗を求めて、スムージング処理して、ディスプレイに表示させると、被測定物2の内部構造を模式的に視覚化することができる。
また、磁気抵抗に影響を与える因子は、形状(空気層)、残留応力及び硬度の3つに大別できる。
図5に示すように、励磁コイル14により発生した磁束は、誘導起電力検出部17を介して空隙を通り抜けて被測定物2(ワーク)の内部に入る。その後、磁束は、ワーク内部において残留応力及び硬度の影響を受けることになる。
ここで、非破壊検査装置1は、図5に示すように、励磁コイル14によりワークに対して、磁界を2度発生させる。具体的には、励磁コイル14は、1度目の磁界として、短時間の磁界印加であって、表皮効果によってワークを浅く磁界を加えて磁束密度を発生させる(図5中のB1)。また、励磁コイル14は、2度目の磁界として、十分に長い時間の磁界印加であって、溶接部位3まで到達するくらいまで、ワークを深く磁界を加えて磁束密度を発生させる(図5中のB2)。
そして、処理部20は、浅く磁界を加えて磁束密度を発生させることによって得られた測定結果(磁気抵抗R)と、深く磁界を加えて磁束密度を発生させることによって得られた測定結果(磁気抵抗R)の差分磁気抵抗Rを求める。
=R+R+Rw0
=R+R+R
R=R−R=R−Rw0
なお、Rは、鉄心13と誘導起電力検出部17から構成されるセンサ自体の持つ磁気抵抗を示し、Rは、ワークとセンサ間に存在する磁気抵抗を示している。また、Rw0は、ワーク表面の磁気抵抗を示し、Rは、ワーク内部の磁気抵抗を示している。
よって、差分磁気抵抗Rは、センサ自体の持つ磁気抵抗Rと、ワークとセンサ間に存在する磁気抵抗Rが取り除かれた(キャンセルされた)抵抗値である。非破壊検査装置1は、このようにして2段階の測定結果から差分磁気抵抗Rを求めることによって、ワークの表面形状に左右されずに、精度の良い磁気抵抗Rを求めることができる。
なお、上述では、非破壊検査装置1は、最初に浅く磁界を加えて磁束密度を発生させることによって磁気抵抗Rを測定し、その後、深く磁界を加えて磁束密度を発生させることによって磁気抵抗Rを測定するとしたが、これに限らず、最初に深く磁界を加えて磁束密度を発生させることによって磁気抵抗R2を測定し、その後、浅く磁界を加えて磁束密度を発生させることによって磁気抵抗Rを測定しても良い。
<時定数の算出方法>
つぎに、処理部20によって磁気エネルギーの減衰時定数τと、渦電流損失の減衰時定数τを算出する具体的な方法について説明する。非破壊検査装置1のコイルC1乃至C16は、被測定物2の検査対象となる部位の上面に配置される。そして、非破壊検査装置1は、励磁コイル14を通電状態にし、励磁磁極11と回収磁極12との間に発生した磁束により被測定物2に対して磁界を加えて磁束密度を発生させる。ここで、磁界を加えて磁束密度を発生させたときの模式的な様子を図6(a)に示す。被測定物2は、図6(a)に示すように、磁界の強さに応じて磁束通過部分が磁界が加えられて磁束密度が発生する。
また、非破壊検査装置1の励磁コイル14が遮断状態にされた場合には、磁束のループは、励磁コイル14の周辺の閉ループと被測定物2の周辺の閉ループとに分離する(図6(b)を参照)。励磁コイル14周辺の磁束の閉ループは、急速に減少して消失する。一方、被測定物2周辺における磁束の閉ループは、直ちには消失せず(残留磁気)、磁気エネルギーとして磁性体に保持され、徐々に消失していき最終的には静磁場印加以前の状態に戻る。
非破壊検査装置1は、コイルC1乃至C16により被測定物2の磁束の時間に対する変化を検出する。静磁場遮断後にコイルC1乃至C16で検出される磁束の変化は、理想的には指数関数的に単調減少するが、実際には損失があるので、所定のカーブを描いて減少する。
図7は残留磁気の消失過程を示す。この磁気エネルギー消失過程では、図7(a)に示すように、コイルC1乃至C16の任意の一つを通過する磁束密度をφとする。また、磁束密度φの変化によって誘導される渦電流をIn、In、In・・・とし、それらの誘導係数をそれぞれM、M、M・・・とする。磁束密度φの変化から誘導された渦電流In、In、In・・・は、それぞれ独立であると考える。このとき、渦電流In、In、In・・・は、磁束密度φの変化に応じて、誘導係数M=ΣMi(i=1,2,3,・・・)で誘導されるひとつの渦電流iに置き換えることができる。すなわち、コイルC1乃至C16の任意の一つを通過する磁束の消失過程は、磁束密度φと、磁束密度φから誘導係数Mで誘導される渦電流iで表すことができる。図7(b)は、図7(a)の等価回路を示している。ここで、Rは、渦電流iの電気抵抗を示し、Lは、渦電流i2のインダクタンスを示す。
図8は、磁束密度φの閉ループを磁気等価回路に置き換えたものである。ここで、iは、磁束密度を示し、Rは、磁束を保持している測定部位の磁束の戻り難さ(抵抗)を示し、Lは、磁束を保持している磁束空間のインダクタンスを示し、iは、測定部位の渦電流を示し、Rは、渦電流ループの電気抵抗を示し、Lは、渦電流が発生している空間の体積を示している。
図9は、静磁界を遮断した直後のコイルC1乃至C16の任意の一つを通過する磁束i(=φ)の閉ループCを示している。この時、静磁場印加中に蓄えられた磁気エネルギーは、直ちに消失せずに、徐々に消失していく。この磁気エネルギーは磁束の閉ループ空間に保持され、空間の与えられた磁束の戻りにくさによって徐々に消失していくと考えられる。磁気エネルギーWは、(1)式で表すことができる。なお、図9中のLは、磁界が加えられて発生した磁束密度の長さを示している。
Figure 2011185809
ここで、Lは、磁束を保持している空間(すなわち、磁気エネルギーを保持する空間)の体積に比例する値である。一方、(1)式は、インダクタンスLのコイルに電流iを流した時に蓄積されるエネルギーと同じ式である。これらのことから、図8のインダクタンスLは、磁束を保持している全空間の体積に相当することがわかる。
また、図8に示す等価回路を式に表すと(2a)式及び(2b)式のようになる。
Figure 2011185809
(2a)式及び(2b)式を解くと、(3a)式及び(3b)式が得られる。
Figure 2011185809
ここで、初期条件として、静磁界遮断時(t=0)の磁束密度iをIとして、(3)式の定数を定める。この時、誘導係数Mが小さく磁束密度iの変化から誘導される渦電流iが小さい場合、すなわちL1・L2>>M・Mとすると、以下の結果を得る。
Figure 2011185809
(4a)式及び(4b)式を(3a)式に代入すると、次の(5)式が得られる。
Figure 2011185809
現実に測定できる値は、(5)式の左辺の磁束密度iである。図10(a)は、(5)式で与えられる磁束密度iの過渡変化を示す。ここで、(4d)式から明かなように、(5)式の右辺第2項は無視することができ、第1項のみで近似できる。一方、磁気センサとして一般に用いられるループコイルで測定される電圧は、磁束密度の変化率、すなわち微分磁束密度に比例した値である。そこで、(5)式を時間tで微分し、(6)式に示す微分磁束密度の式を得る。
Figure 2011185809
図10(b)は、(6)式で与えられる微分磁束密度の過渡変化を示す。(5)式は、コイルC1乃至C16で得られる磁束密度iの変化を示す式であり、(6)式は、微分磁束密度(di/dt)の変化を示す式である。
ここで、(6)式の右辺第1項の時定数τは、(4a)式で与えられるように、「L1/R1」に等しい。また、(6)式の右辺第1項は、静磁場遮断後の被測定物2の近傍における磁束密度の減少特性、すなわち、磁気エネルギーの減衰特性を示す項である。スポット溶接部においては、ナゲット部(金属組成又は構造的な強度の変化が生じている部分)とナゲット部以外の部分(金属組成又は構造的な強度の変化が生じていない部分)とでは、この時定数τに変化が生じる。従って、スポット溶接部における時定数τの分布を測定し、これを分析すれば、ナゲット部のような金属的に組成変化の生じている部分の形状・寸法を求めることができる。
また、(6)式の右辺第2項の時定数τは、(4b)式で与えられるように、「L/R」に等しい。従って、この項は、図8に示す渦電流iの等価回路の時定数に相当する。すなわち、(6)式の右辺第2項は、渦電流損失の減衰特性を示す項である。図9に示すように、被測定物2内の磁束密度の長さをL、磁束通過面積をdsとすると、Lを(7)式で示すことができる。
Figure 2011185809
従って、(4b)式及び(7)式から、渦電流損失の減衰特性の時定数τは、(8)式に示すように、渦電流が発生する磁路、すなわち鉄鋼板内を通過する磁路の長さに比例する。
Figure 2011185809
つまり、スポット溶接部付近を通過する磁束の磁路の長さの変化を、(6)式の右辺第2項の減衰特性の時定数τの変化として検出することができる。
非破壊検査装置1は、上述の測定原理で示したように、浅く磁界を加えて磁束密度を発生させたときの時定数と、深く磁界を加えて磁束密度を発生させたときの時定数に基づいて、センサ自体の持つ磁気抵抗Rfと、ワークとセンサ間に存在する磁気抵抗Raをキャンセルした時定数を算出し、かつ、空気層を検出しているコイルの時定数を、線対称の位置に配置されているコイルの時定数に置換するので、コイルの一部が空気層を検出しても、他のコイルの検出結果に影響を与えず、検査作業を阻害することなく円滑に検査を行うことができる。
<応用例>
ここで、非破壊検査装置1の応用例について図11を用いて説明する。なお、以下では、使用者が手に持って被測定物2上を移動するものをセンサプローブ5という。また、センサプローブ5は、鉄心13、励磁コイル14、誘導起電力検出部17を含む概念である。また、本実施例では、センサプローブ5は、使用者が手に持って自由に操作可能なハンディタイプであるとして説明するが、これに限られず、機械制御によって操作されても良い。また、大きさも用途に応じて自在に変更可能である。
センサプローブ5は、図11に示すように、フランジ同士の接合部分に対して、誘導起電力検出部17が直角になるように配置することを条件として、フランジ幅fwが小さくても(センサプローブ5の走査面よりも狭くても)、フランジ部分から外れているコイルの時定数を、線対称の位置に配置されているコイルの時定数に置換するので、検査作業を阻害することなく円滑に検査を行うことができる。
ここで、センサプローブ5の誘導起電力検出部17がフランジに対して並行に配置される場合(以下、並列配置という)(図12(a))と、直角に配置される場合(以下、直角配置という)(図12(b))について説明する。なお、図12は、フランジを上面から見たときの様子を模式的に示す図である。
並列配置の場合には、鉄心13の回収磁極12が被測定物2のフランジ部分から外れてしまうため、フランジ部分を十分に磁界を加えて磁束密度を発生させることができず、センサプローブ5は、検査を行うことができない。一方で、直角配列の場合には、鉄心13の回収磁極12の一部のみが被測定物2のフランジ部分から外れるだけなので、フランジ部分に対して磁界を加えて磁束密度を発生させることができ、センサプローブ5は、検査を行うことができる。
よって、非破壊検査装置1は、センサプローブ5に応用させた場合においても、浅く磁界を加えて磁束密度を発生させたときの時定数と、深く磁界を加えて磁束密度を発生させたときの時定数に基づいて、センサ自体の持つ磁気抵抗Rfと、ワークとセンサ間に存在する磁気抵抗Raをキャンセルした時定数を算出し、かつ、空気層を検出しているコイルの時定数を、線対称の位置に配置されているコイルの時定数に置換するので、コイルの一部が空気層を検出しても、他のコイルの検出結果に影響を与えず、検査作業を阻害することなく円滑に検査を行うことができる。
1 非破壊検査装置
2 被測定物
5 センサプローブ
11 励磁磁極
12 回収磁極
13 鉄心
14 励磁コイル
15 励磁制御部
16 磁束発生部
17 誘導起電力検出部(磁束検出素子)
18 センサ出力切替部
19 センサ出力制御部
20 処理部(検出処理部)
21 記憶部
22 表示制御部
23 表示部

Claims (5)

  1. 被測定物に磁場を印加して磁束密度を発生させ、当該磁場を遮断後に、被測定物の複数位置から放出される磁束を磁束検出素子により測定し、複数の磁束の過渡変化の時定数を算出し、当該時定数の分布状態から被測定物の内部構造を検出する検出処理部を有する非破壊検査装置において、
    前記複数の過渡変化の時定数の中で異常な過渡変化の時定数のデータを時定数の大きさに基づいて特定することを特徴とする非破壊検査装置。
  2. 前記磁束検出素子は、複数の微小コイルが配置されて構成されており、
    前記検出処理部は、前記複数の微小コイルのそれぞれの測定結果からそれぞれの時定数を算出して、異常な時定数になっている微小コイルを抽出し、抽出した微小コイルの時定数を他の正常な時定数になっている微小コイルの時定数に置換することを特徴とする請求項1記載の非破壊検査装置。
  3. 前記磁束検出素子は、複数の微小コイルが線対称に配置されて構成されており、
    前記検出処理部は、前記他の正常な時定数になっている微小コイルとして、前記抽出した微小コイルの線対称の位置に配置されている微小コイルの時定数に置換することを特徴とする請求項1記載の非破壊検査装置。
  4. 前記被測定物が前記磁束検出素子の直下に存在しない又は所定の距離以上離れているときの時定数を記憶する記憶部を備え、
    前記検出処理部は、前記複数の微小コイルのそれぞれの測定結果からそれぞれの時定数を算出して、前記記憶部に記憶されている時定数に近似している微小コイルを前記異常な時定数になっている微小コイルとして抽出し、抽出した微小コイルの測定結果を線対称の位置に配置されている微小コイルの測定結果に置換することを特徴とする請求項3記載の非破壊検査装置。
  5. 前記検出処理部により検出された前記被測定物の内部構造を表示部に表示する表示制御部を備え、
    前記表示制御部は、前記異常な時定数になっている微小コイルの位置を前記被測定物の端部として前記表示部に表示するように制御することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の非破壊検査装置。
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