JP2011156645A - 耐熱塑性変形性にすぐれる表面被覆wc基超硬合金製切削工具 - Google Patents
耐熱塑性変形性にすぐれる表面被覆wc基超硬合金製切削工具 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】切刃部が局部的な高温に曝される鋼や鋳鉄等の高速切削加工において、すぐれた耐熱塑性変形性を備えることにより、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具を提供する。
【解決手段】 55〜90質量%のCuと残部がCoおよび不可避不純物からなる配合組成を有する結合材4〜12質量%を含有し、あるいはさらに、VC、Cr3C2、TiC、TaC、NbCのいずれかを合計0.1〜2質量%含有し、または、TiN、(Ti,W)CNとともにTiC、TaC、NbC、(Nb,Ta)Cおよび(Ti,W)Cのいずれかを合計5〜30質量%含有(但し、N含有成分は必須)し、残部がWCおよび不可避不純物からなる配合組成を有する圧粉体の焼結体で構成されたWC基超硬合金製切削工具基体の表面(表面に結合材成分の富化層が形成されているものを含む)に、硬質被覆層として、Ti化合物からなる下部層と酸化アルミニウムからなる上部層とを蒸着形成した表面被覆WC基超硬合金製切削工具。
【選択図】 図2
【解決手段】 55〜90質量%のCuと残部がCoおよび不可避不純物からなる配合組成を有する結合材4〜12質量%を含有し、あるいはさらに、VC、Cr3C2、TiC、TaC、NbCのいずれかを合計0.1〜2質量%含有し、または、TiN、(Ti,W)CNとともにTiC、TaC、NbC、(Nb,Ta)Cおよび(Ti,W)Cのいずれかを合計5〜30質量%含有(但し、N含有成分は必須)し、残部がWCおよび不可避不純物からなる配合組成を有する圧粉体の焼結体で構成されたWC基超硬合金製切削工具基体の表面(表面に結合材成分の富化層が形成されているものを含む)に、硬質被覆層として、Ti化合物からなる下部層と酸化アルミニウムからなる上部層とを蒸着形成した表面被覆WC基超硬合金製切削工具。
【選択図】 図2
Description
この発明は、切削加工時に切れ刃が高熱となるような鋼や鋳鉄の高速切削加工において、すぐれた耐熱塑性変形性を備えることにより、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆炭化タングステン(WC)基超硬合金製切削工具(以下、被覆超硬工具という)に関するものである。
従来から、結合相形成成分としてCoを含有し、残りがWCおよび不可避不純物からなるWC基超硬合金工具基体の表面に、Tiの炭化物、窒化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化物および炭窒酸化物のうちから選ばれる1種の単層または2種以上の複層からなる下部層と、酸化アルミニウム層からなる上部層を蒸着形成してなる表面被覆WC基超硬合金製切削工具が知られており、また、特許文献1に示されるように、Co富化表面部を有するWC基超硬合金工具基体の表面に、Ti化合物層と酸化アルミニウム層とを被覆形成した表面被覆WC基超硬合金製切削工具も知られており、この表面被覆WC基超硬合金製切削工具が、鋼や鋳鉄の連続切削、断続切削において優れた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮することも知られている。
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに、高能率化、低コスト化の要求は強く、また、切削工具の汎用化も求められているところであるが、例えば、特許文献1〜3に示される従来のWC基超硬工具、被覆超硬工具を、通常条件の切削加工で用いた場合には特段の問題は生じない。
しかし、これを、鋼や鋳鉄等の高速切削加工に用いた場合には、切削時の高熱により、特に切刃部が局部的に高熱にさらされ、熱塑性変形を発生しやすくなり、また、その結果としての偏摩耗を発生しやすくなるため、これが原因となり、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
しかし、これを、鋼や鋳鉄等の高速切削加工に用いた場合には、切削時の高熱により、特に切刃部が局部的に高熱にさらされ、熱塑性変形を発生しやすくなり、また、その結果としての偏摩耗を発生しやすくなるため、これが原因となり、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、鋼や鋳鉄等の高速切削加工に用いた場合でも、すぐれた耐熱塑性変形性を発揮し、偏摩耗、欠損等が生じることなく長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆WC基超硬合金製切削工具(被覆超硬工具)について鋭意研究を行った結果、以下の知見を得た。
通常、被覆超硬工具の工具基体であるWC基超硬合金焼結体の製造は、特定の平均粒径のWC粉末、Co粉末とともに、必要に応じて、VC粉末、Cr3C2粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、あるいは、TiN粉末、(Ti,W)CN粉末、(Ti,W)C粉末、(Nb,Ta)C粉末を所定割合になるように配合した原料粉末を湿式ボールミル中で混合し、成形したのち、この圧粉成形体を温度:1400〜1450℃で約1時間焼結することにより行われている(この方法で製造されたWC基超硬合金焼結体を、以下、通常超硬焼結体という)。
本発明では、上記の通常超硬焼結体の製造方法において、結合相形成成分として、所定平均粒径および所定割合のCu粉末をさらに追加して添加配合することにより原料粉末を調製し、これを焼結することにより焼結体を作製したところ、得られたWC基超硬合金焼結体(以下、本発明超硬焼結体という)の組織には、WC粒子と結合相との界面にCu富化層の存在が観察された。
そして、通常超硬焼結体と、WC粒子と結合相との界面にCu富化層が存在する組織を有する上記本発明超硬焼結体との物性(硬度)を比較調査したところ、図1に示される興味深い現象を見出したのである。
そして、通常超硬焼結体と、WC粒子と結合相との界面にCu富化層が存在する組織を有する上記本発明超硬焼結体との物性(硬度)を比較調査したところ、図1に示される興味深い現象を見出したのである。
つまり、図1にみられるように、結合相成分として所定量のCuを含有する本発明超硬焼結体の常温硬さは、通常超硬焼結体のそれに比して若干下回っているが、900℃という高温下で高温硬さを調査したところ、本発明超硬焼結体の高温硬さは通常超硬焼結体のそれを上回っており、本発明超硬焼結体は、硬度低下の温度依存性が小さく、高温条件下でも優れた高温硬さを有することが分かる。
上記のとおり、本発明超硬焼結体は、高温条件下で優れた高温硬さを備えることから、本発明超硬焼結体から構成された工具基体表面に硬質被覆層を蒸着形成した本発明被覆超硬工具は、切刃部が局部的に高温に曝される鋼や鋳鉄等の高速切削加工に用いた場合でも、すぐれた耐熱塑性変形性を示し、偏摩耗等の発生を生じることなく長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するものである。
さらに、原料粉末の配合成分を調整することにより、表面近傍に結合材成分の富化層が形成された本発明超硬焼結体から構成された工具基体表面に硬質被覆層を蒸着形成した本発明被覆超硬工具は、耐熱塑性変形性に加えすぐれた靭性を発揮し、偏摩耗、欠損等の発生もなく長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するものである。
さらに、原料粉末の配合成分を調整することにより、表面近傍に結合材成分の富化層が形成された本発明超硬焼結体から構成された工具基体表面に硬質被覆層を蒸着形成した本発明被覆超硬工具は、耐熱塑性変形性に加えすぐれた靭性を発揮し、偏摩耗、欠損等の発生もなく長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するものである。
この発明は、上記の知見に基づいてなされたものであって、
「(1) Cuを55〜90質量%含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる配合組成を有する結合材を用い、
前記結合材:4〜12質量%、残部がWCおよび不可避不純物からなる配合組成を有する圧粉体の焼結体で構成されてなるWC基超硬合金製切削工具基体の表面に、硬質被覆層として、Tiの炭化物、窒化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化物および炭窒酸化物のうちから選ばれる1種の単層または2種以上の複層からなる下部層と、酸化アルミニウム層からなる上部層を蒸着形成してなる表面被覆WC基超硬合金製切削工具。
(2) 前記WC基超硬合金製切削工具基体が、前記結合材を4〜12質量%含有するとともに、VC、Cr3C2、TiC、TaC、NbCのうちから選ばれる1種または2種以上を合計で0.1〜2質量%含有し、残部がWCおよび不可避不純物からなる配合組成を有する圧粉体の焼結体で構成されてなることを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆WC基超硬合金製切削工具。
(3) 前記WC基超硬合金製切削工具基体が、前記結合材を4〜12質量%含有するとともに、TiNと(Ti,W)CNのうちから選ばれる1種または2種と、TiC、TaC、NbC、(Nb,Ta)Cおよび(Ti,W)Cのうちから選ばれる1種または2種以上とを合計で5〜30質量%含有し、残部がWCおよび不可避不純物からなる配合組成を有する圧粉体の焼結体で構成され、さらに、前記WC基超硬合金製切削工具基体表面から5〜30μmの深さ領域においては結合材成分が富化され、WC以外の炭化物、窒化物、炭窒化物が実質的に存在しないことを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆WC基超硬合金製切削工具。
(4) 硬質被覆層の最表面に、0.2〜1μmの平均層厚のTi窒化物層が蒸着形成されている前記(1)〜(3)のいずれかに記載の表面被覆WC基超硬合金製切削工具。」
に特徴を有するものである。
「(1) Cuを55〜90質量%含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる配合組成を有する結合材を用い、
前記結合材:4〜12質量%、残部がWCおよび不可避不純物からなる配合組成を有する圧粉体の焼結体で構成されてなるWC基超硬合金製切削工具基体の表面に、硬質被覆層として、Tiの炭化物、窒化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化物および炭窒酸化物のうちから選ばれる1種の単層または2種以上の複層からなる下部層と、酸化アルミニウム層からなる上部層を蒸着形成してなる表面被覆WC基超硬合金製切削工具。
(2) 前記WC基超硬合金製切削工具基体が、前記結合材を4〜12質量%含有するとともに、VC、Cr3C2、TiC、TaC、NbCのうちから選ばれる1種または2種以上を合計で0.1〜2質量%含有し、残部がWCおよび不可避不純物からなる配合組成を有する圧粉体の焼結体で構成されてなることを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆WC基超硬合金製切削工具。
(3) 前記WC基超硬合金製切削工具基体が、前記結合材を4〜12質量%含有するとともに、TiNと(Ti,W)CNのうちから選ばれる1種または2種と、TiC、TaC、NbC、(Nb,Ta)Cおよび(Ti,W)Cのうちから選ばれる1種または2種以上とを合計で5〜30質量%含有し、残部がWCおよび不可避不純物からなる配合組成を有する圧粉体の焼結体で構成され、さらに、前記WC基超硬合金製切削工具基体表面から5〜30μmの深さ領域においては結合材成分が富化され、WC以外の炭化物、窒化物、炭窒化物が実質的に存在しないことを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆WC基超硬合金製切削工具。
(4) 硬質被覆層の最表面に、0.2〜1μmの平均層厚のTi窒化物層が蒸着形成されている前記(1)〜(3)のいずれかに記載の表面被覆WC基超硬合金製切削工具。」
に特徴を有するものである。
この発明の被覆超硬工具について、以下に詳細に説明する。
この発明の被覆超硬工具の工具基体である本発明超硬焼結体は、
(1)WC粉末、Co粉末に加えてCu粉末を配合した原料粉末(請求項1)、
(2)上記(1)に加え、VC粉末、Cr3C2粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末のうちから選ばれる1種または2種以上を合計で0.1〜2質量%配合した原料粉末(請求項2)、
(3)上記(1)に加え、TiN粉末と(Ti,W)CN粉末のうちから選ばれる1種または2種と、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、(Nb,Ta)C粉末および(Ti,W)C粉末のうちから選ばれる1種または2種以上とを合計で5〜30質量%配合した原料粉末(請求項3)、
上記(1)〜(3)のいずれかの原料粉末を湿式ボールミル中で混合し、所定形状にプレス成形したのち、この圧粉成形体を1400〜1550℃の温度範囲で、所定圧(30〜700Pa)のHeまたはAr雰囲気中で焼結し、さらに、所定圧(3〜10MPa)のHeまたはAr雰囲気中で熱間静水圧プレス(HIP)成形することにより、本発明超硬焼結体を作製し、これを所定形状に加工することにより、本発明被覆超硬工具の工具基体を製造することができる。
ここで、焼結時の雰囲気を30〜700PaのHeまたはArとしたのは、焼結時にCu成分が蒸発し目標組成の結合相が得られなくなることを防止するためであり、また、熱間静水圧プレス(HIP)で成形するとしたのは、Cu含有による焼結性の低下を補完するためである。
また、上記(3)の原料粉末を使用した場合には、HIP後に1300〜1400℃の温度範囲で、真空中(20Pa以下)で30〜60分間保持することにより、工具基体表面から5〜30μmの深さ領域においては結合材成分が富化され、WC以外の炭化物、窒化物、炭窒化物が実質的に存在しない本発明被覆超硬工具の工具基体を製造することができる。
この発明の被覆超硬工具の工具基体である本発明超硬焼結体は、
(1)WC粉末、Co粉末に加えてCu粉末を配合した原料粉末(請求項1)、
(2)上記(1)に加え、VC粉末、Cr3C2粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末のうちから選ばれる1種または2種以上を合計で0.1〜2質量%配合した原料粉末(請求項2)、
(3)上記(1)に加え、TiN粉末と(Ti,W)CN粉末のうちから選ばれる1種または2種と、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、(Nb,Ta)C粉末および(Ti,W)C粉末のうちから選ばれる1種または2種以上とを合計で5〜30質量%配合した原料粉末(請求項3)、
上記(1)〜(3)のいずれかの原料粉末を湿式ボールミル中で混合し、所定形状にプレス成形したのち、この圧粉成形体を1400〜1550℃の温度範囲で、所定圧(30〜700Pa)のHeまたはAr雰囲気中で焼結し、さらに、所定圧(3〜10MPa)のHeまたはAr雰囲気中で熱間静水圧プレス(HIP)成形することにより、本発明超硬焼結体を作製し、これを所定形状に加工することにより、本発明被覆超硬工具の工具基体を製造することができる。
ここで、焼結時の雰囲気を30〜700PaのHeまたはArとしたのは、焼結時にCu成分が蒸発し目標組成の結合相が得られなくなることを防止するためであり、また、熱間静水圧プレス(HIP)で成形するとしたのは、Cu含有による焼結性の低下を補完するためである。
また、上記(3)の原料粉末を使用した場合には、HIP後に1300〜1400℃の温度範囲で、真空中(20Pa以下)で30〜60分間保持することにより、工具基体表面から5〜30μmの深さ領域においては結合材成分が富化され、WC以外の炭化物、窒化物、炭窒化物が実質的に存在しない本発明被覆超硬工具の工具基体を製造することができる。
WC粉末、Co粉末に加えるCu粉末は、本発明超硬焼結体中で、Co成分と共にCo−Cu相からなる結合相を形成するが、超硬焼結体における結合相の含有割合が4質量%未満では、超硬焼結体の緻密化が十分になされず、一方、結合相の含有割合が12質量%を越えると、超硬焼結体の硬度が低下し、鋼、鋳鉄等の高速切削加工において耐摩耗性が低下傾向を示すようになることから、本発明超硬焼結体における結合相の含有割合は4〜12質量%と定めた。
結合相を形成するCo−Cu相は、Co相単独の結合相に比してすぐれた熱伝導率を有すると共に、Co−Cu相におけるCu成分は、WC粒と結合相との界面にWC粒との濡れ性の低いCu富化層を形成し、これによって、焼結組織中にWCスケルトン構造が形成され、その結果として、Co−Cu相からなる結合相を有する本発明超硬焼結体は、高温硬さに優れ、かつ、高温下でのWC粒の再配列による熱塑性変形の発生を抑制することができる。
なお、結合相成分としてCu成分を含有させた場合、常温硬さについては、Cu成分を含有させない結合相(Co相)を有する通常超硬焼結体に比して若干劣るものの、すでに述べたように、Co−Cu相からなる結合相を備えた本発明超硬焼結体は、焼結組織中にWCスケルトン構造が形成されているため、Cuを含有しない通常超硬焼結体よりも、その高温硬さ、耐熱塑性変形性が優れている。
なお、結合相成分としてCu成分を含有させた場合、常温硬さについては、Cu成分を含有させない結合相(Co相)を有する通常超硬焼結体に比して若干劣るものの、すでに述べたように、Co−Cu相からなる結合相を備えた本発明超硬焼結体は、焼結組織中にWCスケルトン構造が形成されているため、Cuを含有しない通常超硬焼結体よりも、その高温硬さ、耐熱塑性変形性が優れている。
Co−Cu相からなる結合相におけるCu成分の含有割合(=Cu×100/(Co+Cu))が55質量%未満の場合には、Cu含有による熱伝導率向上効果が十分でないばかりか、WCスケルトン構造の形成も充分でないため、すぐれた高温硬さおよび耐熱塑性変形性を発揮することができず、一方、Cu成分の含有割合が90質量%を超えると、結合相の融点が著しく低下するため高温での耐熱塑性変形性が低下することから、Co−Cu相からなる結合相におけるCu成分の含有割合(=Cu×100/(Co+Cu))は55〜90質量%と定めた。
請求項2に係る本発明超硬焼結体では、WC、CoおよびCuに加えて、VC、Cr3C2、TiC、TaC、NbCのうちから選ばれる1種または2種以上の成分をさらに含有する。
VC、Cr3C2、TiC、TaC、NbCのうちから選ばれる1種または2種以上の成分は、いずれも、焼結時のWCの粒成長を抑制する作用があるが、その合計含有量が0.1質量%未満では、粒成長抑制作用が小さく、一方、2質量%を越えて含有すると複合炭化物相が析出し、硬度が低下傾向を示すようになるので、VC、Cr3C2、TiC、TaC、NbCのうちから選ばれる1種または2種以上の成分の含有量は、その合計量で0.1〜2質量%と定めた。
VC、Cr3C2、TiC、TaC、NbCのうちから選ばれる1種または2種以上の成分は、いずれも、焼結時のWCの粒成長を抑制する作用があるが、その合計含有量が0.1質量%未満では、粒成長抑制作用が小さく、一方、2質量%を越えて含有すると複合炭化物相が析出し、硬度が低下傾向を示すようになるので、VC、Cr3C2、TiC、TaC、NbCのうちから選ばれる1種または2種以上の成分の含有量は、その合計量で0.1〜2質量%と定めた。
請求項3に係る本発明超硬焼結体では、WC、CoおよびCuに加えて、TiNと(Ti,W)CNのうちから選ばれる1種または2種と、TiC、TaC、NbC、(Nb,Ta)Cおよび(Ti,W)Cのうちから選ばれる1種または2種以上とを合計で5〜30質量%含有することができる。
上記原料粉末からなる圧粉成形体を焼結する際、HIP後に1300〜1400℃の温度範囲で、真空中(20Pa以下)で30〜60分間保持すると、真空雰囲気によるNの分解と分解に伴う上記各成分の炭化物、窒化物、炭窒化物の内部への移動によって、工具基体表面から5〜30μmの深さに亘って、結合材成分であるCoとCuが富化され、WC以外の炭化物、窒化物、炭窒化物が実質的に存在しない領域が形成された本発明被覆超硬工具の工具基体を製造することができる。
上記の炭化物、窒化物、炭窒化物は、工具基体の耐熱性を向上させる作用があるが、その含有量が5%未満では所望の耐熱性を確保することができず、一方その含有量が30%を越えると靱性が低下するようになることから、その含有量は5〜30%とする必要がある。
また、結合材成分であるCoとCuが富化された領域の位置が、工具基体表面から5μm未満では所望の靱性を確保することができず、一方その深さが30μmを越えると、耐摩耗性低下の原因となることから、その深さを5〜30μmと定めた。
上記原料粉末からなる圧粉成形体を焼結する際、HIP後に1300〜1400℃の温度範囲で、真空中(20Pa以下)で30〜60分間保持すると、真空雰囲気によるNの分解と分解に伴う上記各成分の炭化物、窒化物、炭窒化物の内部への移動によって、工具基体表面から5〜30μmの深さに亘って、結合材成分であるCoとCuが富化され、WC以外の炭化物、窒化物、炭窒化物が実質的に存在しない領域が形成された本発明被覆超硬工具の工具基体を製造することができる。
上記の炭化物、窒化物、炭窒化物は、工具基体の耐熱性を向上させる作用があるが、その含有量が5%未満では所望の耐熱性を確保することができず、一方その含有量が30%を越えると靱性が低下するようになることから、その含有量は5〜30%とする必要がある。
また、結合材成分であるCoとCuが富化された領域の位置が、工具基体表面から5μm未満では所望の靱性を確保することができず、一方その深さが30μmを越えると、耐摩耗性低下の原因となることから、その深さを5〜30μmと定めた。
上記超硬焼結体からなる工具基体の表面に、硬質被覆層として、Tiの炭化物、窒化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化物および炭窒酸化物のうちから選ばれる1種の単層または2種以上の複層からなる下部層と、酸化アルミニウム層からなる上部層を蒸着形成することによって、本発明被覆超硬工具が作製されるが、硬質被覆層を蒸着形成した場合でも、WCスケルトン構造の形成、CoとCuの富化領域の形成は何ら妨げられることなく、一段と耐熱性、耐摩耗性が向上し、その結果として、工具寿命の延命化を図ることができる。
なお、下部層および上部層の平均層厚は、それぞれ、0.5〜15μm、0.5〜13μmであることが好ましい。
また、本発明被覆超硬工具は、硬質被覆層の最表面に必要に応じてTi窒化物層を蒸着形成(請求項4)し、その黄金色によって工具の使用前後の識別を可能とすることができるが、その平均層厚は0.2〜1μmで十分である。
なお、下部層および上部層の平均層厚は、それぞれ、0.5〜15μm、0.5〜13μmであることが好ましい。
また、本発明被覆超硬工具は、硬質被覆層の最表面に必要に応じてTi窒化物層を蒸着形成(請求項4)し、その黄金色によって工具の使用前後の識別を可能とすることができるが、その平均層厚は0.2〜1μmで十分である。
この発明の被覆超硬工具は、これを構成する超硬焼結体(工具基体)の結合相が、55〜90質量%のCuと残部はCoの組成からなり、結合相中のCu成分が、WC粒と結合相との界面にWC粒との濡れ性の低いCu富化層を形成することによって、焼結組織中にWCスケルトン構造が形成されているため、高温硬さに優れ、かつ、耐熱塑性変形性にも優れ、切刃部が局部的に高温に曝される鋼や鋳鉄の高速切削加工に用いた場合でも、偏摩耗、欠損等を発生することなく長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するものである。
つぎに、この発明の被覆超硬工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも0.5〜5μmの平均粒径を有する、Co粉末、Cu粉末、VC粉末、Cr3C2粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、TiN粉末、(Ti,W)CN粉末(但し、重量比で、TiC:TiN:WC=24:20:56)、(Nb,Ta)C粉末(但し、重量比で、NbC:TaC=90:10)、(Ti,W)C粉末(但し、重量比で、TiC:WC=30:70)およびWC粉末を用意し、これら原料粉末を、表1,表2に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてボールミルで72時間湿式混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の各種の圧粉体にプレス成形し、これらの圧粉体を、表3に示される条件で焼結・HIP(熱間静水圧プレス)処理した後、切刃部分にR:0.03のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のチップ形状をもった工具基体(超硬焼結体)を作製し、ついで、工具基体表面に、通常の化学蒸着装置を用いて、表4に示されるとおりの組成および平均膜厚の硬質被覆層を蒸着形成することにより、表5、表6に示される本発明被覆超硬工具1〜20を作製した。
また、比較の目的で、原料粉末を、表7に示される配合組成となるように配合し、ワックスを加えてボールミルで72時間湿式混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の各種の圧粉体にプレス成形し、これらの圧粉体を、表3に示される条件で焼結・HIP(熱間静水圧プレス)処理した後、切刃部分にR:0.03のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のチップ形状をもった工具基体(超硬焼結体)を作製し、ついで、工具基体表面に、通常の化学蒸着装置を用いて、表4に示されるとおりの組成および平均膜厚の硬質被覆層を蒸着形成することにより、表8に示される比較例被覆超硬工具1〜10を作製した。
なお、上記本発明被覆超硬工具1〜20および比較例被覆超硬工具1〜10のそれぞれについて、工具基体(超硬焼結体)の焼結組織を走査型電子顕微鏡(倍率:5000)で観察し、かつ、WC粒と結合相との界面についてはオージェ分光分析によりWCスケルトン構造の有無を観察した。
図2には、一例として、Cu富化層が形成された焼結組織を有する本発明被覆超硬工具基体(超硬焼結体)7の金属組織模式図を示す。
図3には、Cu富化層が形成されていない焼結組織の比較例被覆超硬工具基体3の金属組織模式図を示す。
本発明被覆超硬工具1〜20はいずれも、図2に示されるようなWC粒と結合相との界面にCu富化層が形成されたWCスケルトン構造を有することが確認された。
これに対して、比較例被覆超硬工具1〜10では、図3に示されるように、WC粒と結合相との界面におけるCu富化層の形成は確認できず、WCスケルトン構造の形成は不十分であった。
図3には、Cu富化層が形成されていない焼結組織の比較例被覆超硬工具基体3の金属組織模式図を示す。
本発明被覆超硬工具1〜20はいずれも、図2に示されるようなWC粒と結合相との界面にCu富化層が形成されたWCスケルトン構造を有することが確認された。
これに対して、比較例被覆超硬工具1〜10では、図3に示されるように、WC粒と結合相との界面におけるCu富化層の形成は確認できず、WCスケルトン構造の形成は不十分であった。
本発明被覆超硬工具1〜20について、オージェ分光分析によって測定したWC粒と結合相との界面に形成されたCu富化層の平均厚みおよび平均Cu組成(いずれも5か所測定の平均値)を表5、表6に示す。
ここで、オージェ電子分光装置(AES)にて、WC粒と結合相との界面を垂直に横切る方向に線分析を実施した際に、Cu/(Co+Cu)>55質量%となる領域をCu富化層であると定義し、さらに、該Cu富化層について、5本線分析した時の厚みの平均値をCu富化層の平均厚みであると定義する。
参考のため、比較例被覆超硬工具1〜10について、オージェ分光分析によって測定したWC粒と結合相との界面に形成されたCu富化層の平均厚みおよび平均Cu組成(いずれも5か所測定の平均値)を表8に示す。
ここで、オージェ電子分光装置(AES)にて、WC粒と結合相との界面を垂直に横切る方向に線分析を実施した際に、Cu/(Co+Cu)>55質量%となる領域をCu富化層であると定義し、さらに、該Cu富化層について、5本線分析した時の厚みの平均値をCu富化層の平均厚みであると定義する。
参考のため、比較例被覆超硬工具1〜10について、オージェ分光分析によって測定したWC粒と結合相との界面に形成されたCu富化層の平均厚みおよび平均Cu組成(いずれも5か所測定の平均値)を表8に示す。
また、本発明被覆超硬工具11〜20および比較例被覆超硬工具1〜10について、工具基体(超硬焼結体)の表面から5〜30μmの深さ領域におけるWC以外の炭化物、窒化物、炭窒化物の含有量をオージェ分光分析により測定した。
これらの測定値を表5、表6、表8にそれぞれ示す。
これらの測定値を表5、表6、表8にそれぞれ示す。
つぎに、上記本発明被覆超硬工具1〜20および比較例被覆超硬工具1〜10について、
被削材 :JIS・SCM440の丸棒、
切り込み:1.5 mm、
送り :0.3 mm/rev.、
切削時間:10 分、
の条件の下、420m/min(切削条件Aという)の切削速度で、乾式連続切削加工試験を行った。
また、
被削材 :JIS・FC300の丸棒、
切り込み:2.0 mm、
送り :0.35 mm/rev.、
切削時間:10 分、
の条件の下、450m/min(切削条件Bという)の切削速度で、湿式連続切削加工試験を行った。
いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表9に示した。
被削材 :JIS・SCM440の丸棒、
切り込み:1.5 mm、
送り :0.3 mm/rev.、
切削時間:10 分、
の条件の下、420m/min(切削条件Aという)の切削速度で、乾式連続切削加工試験を行った。
また、
被削材 :JIS・FC300の丸棒、
切り込み:2.0 mm、
送り :0.35 mm/rev.、
切削時間:10 分、
の条件の下、450m/min(切削条件Bという)の切削速度で、湿式連続切削加工試験を行った。
いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表9に示した。
表5、表9に示される結果から、本発明被覆超硬工具1〜10は、これを構成する工具基体(超硬焼結体)の結合相が、55〜90質量%のCuと残部はCoの組成からなり、結合中のCu成分が、WC粒と結合相との界面にWC粒との濡れ性の低いCu富化層を形成することによって、焼結組織中にWCスケルトン構造が形成されているため、高温硬さに優れ、かつ、耐熱塑性変形性にも優れることから、切刃部が局部的に高温に曝される鋼や鋳鉄の高速切削加工に用いた場合でも、偏摩耗の発生を生じることなく長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するものである。
さらに、同じく表6、表9に示される結果から、本発明被覆超硬工具11〜20は、本発明被覆超硬工具1〜10と同様、工具基体(超硬焼結体)の焼結組織中にWCスケルトン構造が形成されているため、高温硬さに優れ、かつ、耐熱塑性変形性にも優れ、さらに、工具基体表面から5〜30μmの深さ領域においては結合材成分(Co,Cu)が富化され、WC以外の炭化物、窒化物、炭窒化物が実質的に存在しない領域が形成されているために、靭性にもすぐれ、偏摩耗、欠損の発生なく長期の使用に亘ってより一段とすぐれた耐摩耗性を発揮するものである。
これに対して、表8、表9に示される結果から、比較例超硬工具1〜10においては、切刃部が局部的に高温に曝される鋼や鋳鉄の高速切削加工に用いた場合には、切刃部のチッピング・欠損発生あるいは偏摩耗の発生等により、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
さらに、同じく表6、表9に示される結果から、本発明被覆超硬工具11〜20は、本発明被覆超硬工具1〜10と同様、工具基体(超硬焼結体)の焼結組織中にWCスケルトン構造が形成されているため、高温硬さに優れ、かつ、耐熱塑性変形性にも優れ、さらに、工具基体表面から5〜30μmの深さ領域においては結合材成分(Co,Cu)が富化され、WC以外の炭化物、窒化物、炭窒化物が実質的に存在しない領域が形成されているために、靭性にもすぐれ、偏摩耗、欠損の発生なく長期の使用に亘ってより一段とすぐれた耐摩耗性を発揮するものである。
これに対して、表8、表9に示される結果から、比較例超硬工具1〜10においては、切刃部が局部的に高温に曝される鋼や鋳鉄の高速切削加工に用いた場合には、切刃部のチッピング・欠損発生あるいは偏摩耗の発生等により、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
この発明の表面被覆WC基超硬合金製切削工具は、鋼や鋳鉄の高速切削加工ばかりでなく、各種被削材の切削加工にも勿論使用可能であり、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮し、切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に適うものである。
Claims (4)
- Cuを55〜90質量%含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる配合組成を有する結合材を用い、
前記結合材:4〜12質量%、残部がWCおよび不可避不純物からなる配合組成を有する圧粉体の焼結体で構成されてなるWC基超硬合金製切削工具基体の表面に、硬質被覆層として、Tiの炭化物、窒化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化物および炭窒酸化物のうちから選ばれる1種の単層または2種以上の複層からなる下部層と、酸化アルミニウム層からなる上部層を蒸着形成してなる表面被覆WC基超硬合金製切削工具。 - 前記WC基超硬合金製切削工具基体が、前記結合材を4〜12質量%含有するとともに、VC、Cr3C2、TiC、TaC、NbCのうちから選ばれる1種または2種以上を合計で0.1〜2質量%含有し、残部がWCおよび不可避不純物からなる配合組成を有する圧粉体の焼結体で構成されてなることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆WC基超硬合金製切削工具。
- 前記WC基超硬合金製切削工具基体が、前記結合材を4〜12質量%含有するとともに、TiNと(Ti,W)CNのうちから選ばれる1種または2種と、TiC、TaC、NbC、(Nb,Ta)Cおよび(Ti,W)Cのうちから選ばれる1種または2種以上とを合計で5〜30質量%含有し、残部がWCおよび不可避不純物からなる配合組成を有する圧粉体の焼結体で構成され、さらに、前記WC基超硬合金製切削工具基体表面から5〜30μmの深さ領域においては結合材成分が富化され、WC以外の炭化物、窒化物、炭窒化物が実質的に存在しないことを特徴とする請求項1に記載の表面被覆WC基超硬合金製切削工具。
- 硬質被覆層の最表面に、0.2〜1μmの平均層厚のTi窒化物層が蒸着形成されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の表面被覆WC基超硬合金製切削工具。
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JP2010022425A JP2011156645A (ja) | 2010-02-03 | 2010-02-03 | 耐熱塑性変形性にすぐれる表面被覆wc基超硬合金製切削工具 |
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-
2010
- 2010-02-03 JP JP2010022425A patent/JP2011156645A/ja not_active Withdrawn
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