JP2011141273A - Cyp3a4の代謝機能測定方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】CYP3A4の代謝機能を簡易且つ安全に測定・評価する方法の提供。
【解決手段】CYP3A4及びCYP2C19の基質となり、被験哺乳類に投与した後にCYP2C19によって13CO2を生成する能力を有する13C標識基質化合物を含有するCYP3A4の代謝機能測定剤。13C標識基質化合物が、13C-パントプラゾールであるCYP3A4の代謝機能測定剤。CYP3A4及びCYP2C19の基質となり、哺乳類に投与した後にCYP2C19によって、13CO2を生成する能力を有する、13C標識基質化合物又はこれを含有する製剤を被験哺乳類に投与し、呼気中に排出された、13CO2の排出パターンを測定する工程を有するCYP3A4の代謝機能測定方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、チトクロムP450 3A4アイソザイム(CYP3A4)の代謝機能を測定・評価する方法に関する。
治療特異的診断(別名、「セラノスティック」)は、疾患の診断、正しい治療計画の選択及び患者の反応をモニターするために有用な試験を提供する。すなわち、セラノスティックは、個々の患者における薬物反応を予測し評価するために有用であり、その投薬治療によって利益が得られる可能性が特に高い患者を選択するために有用である。従って、セラノスティックによれば、個々の患者にとって有効な治療方針を早期に客観的に提供することが可能となり、治療の遅延を最小限にしながら、最適な治療を行うことに役立つ。
医薬品の代謝には、チトクロムP450、グルクロン酸転移毒素、硫酸転移酵素、アセチル転移酵素など多くの酵素が関わっている。このうち、P450は、その代謝過程が生体から薬物が消失する際の律速となることが多いという点、代謝を受ける医薬品が多種多様であり,その数が著しく多いという点から、最も重要な薬物代謝酵素といえる。P450が多種類の薬物の代謝に関与しうる理由の一つは、多くのアイソザイム(CYPs)が存在することであり、現在、ヒトの薬物代謝に関わるものだけでも約20種のアイソザイムの存在が知られている。これらは、遺伝子の相同性からCYP1からCYP4までの4つのファミリーに分類され、更に個々のファミリーはCYP2A、CYP2B、CYP2C等のようにさらに細分類され、一つのサブファミリーは1〜5個のアイソザイムから構成されている。このうち、医薬品の代謝に最も関与の割合の高いアイソザイムは、CYP3A4であり、これにCYP2D6、CYP2C19、CYP2C9、CYP1A2等が続く。
従って、前記セラノスティックの観点から、主要なチトクロムP450アイソザイム(CYPs)の代謝活性を評価すること、しかも簡易に評価診断することは、代謝不全者における潜在的な薬物関連毒性を回避し、かつ薬効を上げるために、有用性が高い。
中でも、CYP3A4は、ヒト肝臓において最も豊富なCYPであり、ヒト治療において使用される薬物の約50%の代謝に関与すると云われており、また、CYP3A4の酵素活性には個体差があることが知られていることから、当該酵素の機能を評価することは極めて有用である。一方、CYP3A4をコードする遺伝子には28種以上の一塩基多型が同定されているが、これらは生体内における個体差に反映されないことが知られており、遺伝子診断でCYP3A4の機能を評価することは不可能であり、CYP3A4の代謝活性を簡易に評価検査できる方法が切望されている。
現在、CYP3A4の代謝活性は、エリスロマイシン呼気検査 (erythromycin breath test, ERMBT)によって非侵襲的に測定されている。すなわち、点滴静脈注射によって、14C−エリスロマイシンを投与し、呼気中に含まれる同位体標識されたCO2を測定するこ
とにより、生体内のCYP3A4活性を決定する方法(非特許文献1参照)が知られているが、当該方法は、アイソトープを用いる点から操作性及び安全性の面でデメリットがある。また、14C−エリスロマイシンの14Cを、13Cに変換した化合物を合成することも容易ではなく(非特許文献2参照)、検出できるほどの量を使用しようとした場合、薬効以上の量が必要となり実際的ではない。
Fundamental & Clinical Pharmacology (2003), 17(3), 349-353 Ther Drug Monit. 2007 Apr;29(2):225-30.
本発明は、CYP3A4の代謝機能を簡易且つ安全に測定・評価する方法を提供することに関する。
プロトンポンプ阻害剤であるパントプラゾールは、CYP2C19によって脱メチル化され、4−ハイドロキシパントプラゾールと炭酸ガスを生成することから、本出願人は、13C−パントプラゾールを患者に投与し、呼気中に排出された13CO2量を測定することにより、CYP2C19の代謝機能を測定する方法について特許出願を行った(国際公開第2008/028116号パンフレット)。
一方、13C−パントプラゾールは、CYP3A4によっても酸化されスルフォン体を生成するが、本発明者らは、当該代謝系にエリスロマイシンを競合的に存在させたところ、CYP2C19の作用によって呼気中に排出される13CO2量がエリスロマイシンの投与量に依存して増加することを見出した。すなわち、CYP3A4とCYP2C19の代謝機能は連関し、13C−パントプラゾールの如く、CYP3A4及びCYP2C19双方の基質となり、哺乳類に投与した後にCYP2C19によって同位体標識CO2を生成する能力を有する化合物を被験哺乳類に投与し、呼気中に排出される13CO2の増加の程度を測定することにより、CYP3A4の代謝機能低下の有無又はその程度を測定できることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の1)〜10)に係るものである。
1)CYP3A4及びCYP2C19の基質となり、被験哺乳類に投与した後にCYP2C19によって13CO2を生成する能力を有する13C標識基質化合物を含有するCYP3A4の代謝機能測定剤。
2)13C標識基質化合物が、13C-パントプラゾールである上記1)のCYP3A4の代謝機能測定剤。
3)CYP3A4及びCYP2C19の基質となり、哺乳類に投与した後にCYP2C19によって13CO2を生成する能力を有する13C標識基質化合物又はこれを含有する製剤を被験哺乳類に投与し、呼気中に排出された13CO2の排出パターンを測定する工程を有するCYP3A4の代謝機能測定方法。
4)更に、呼気中に排出された13CO2の排出パターン又はそれから得られる薬物動態パラメータを、正常なCYP3A4代謝機能を有する健常哺乳類における対応する当該排出パターン又はパラメータと比較し評価する工程を有する上記3)のCYP3A4の代謝機能測定方法。
5)13C標識化合物が、13C-パントプラゾールである上記3)又は4)のCYP3A4の代謝機能測定方法。
6)CYP3A4及びCYP2C19の基質となり、哺乳類に投与した後にCYP2C19によって13CO2を生成する能力を有する13C標識基質化合物又はこれを含有する製剤を被験者に投与し、呼気中に排出された13CO2の排出パターンを測定し、得られた当該被験者における13CO2の排出パターン又はそれから得られる薬物動態パラメータを評価する工程を有する、被験者におけるCYP3A4の代謝機能の低下の有無若しくはその程度の測定方法。
7)13C標識化合物が、13C-パントプラゾールである上記6)のCYP3A4の代謝機能の異常の有無又はその程度の測定方法。
8)下記の工程を有する、疾患を予防又は治療するための化合物の有効性を測定するための臨床試験に加わる被験者の選択方法:
(a)被験者にCYP3A4及びCYP2C19の基質となり、哺乳類に投与した後にCYP2C19によって13CO2を生成する能力を有する13C標識基質化合物又はこれを含有する製剤を投与する、
(b)被験者の呼気中に排出された13CO2の排出パターンを測定する、
(c)上記工程(b)で測定された13CO2の排出パターンを正常なCYP3A4代謝機能を有する健常者における対応する当該排出パターンと比較する、
(d)上記工程(c)の比較に基づいて、不全代謝者、中間代謝者及び正常代謝者からなる群から選択される代謝表現型に従って分類する、及び
(e)上記工程(d)において正常代謝者として分類された被験者を、臨床試験参加者として選択する。
9)CYP3A4及びCYP2C19の基質となり、哺乳類に投与した後にCYP2C19によって13CO2を生成する能力を有する13C標識基質化合物又はこれを含有する製剤、呼気収集袋、及びCYP3A4代謝機能の測定方法を記載した説明書を含むキット。
10)被験動物に、CYP3A4及びCYP2C19の基質となり、哺乳類に投与した後にCYP2C19によって13CO2を生成する能力を有する13C標識基質化合物及び被験物質を投与する工程、及び呼気中に排出された13CO2の増加の有無又はその程度を測定する工程を含むことを特徴とする、前記被験物質のCYP3A4に対する親和性の有無又はその程度の評価方法。
本発明の測定方法は、非侵襲的であり、被験者に呼気試験を行うことのみを要求する。また、試験の実行のために高度な訓練を受けた技術者を必要とせず、高度な分析装置も必要としないことから、一般的な医師のオフィスにて実施することができる。
従って、本発明によれば、被験体の負担を減らし、簡易迅速、且つ安全に、CYP3A4の代謝機能低下の有無又はその程度を測定評価することが可能となる。そして、当該CYP3A4代謝機能のインビボ測定は、薬剤反応性、副作用、もしくは最適投与量に関して個体を分類するために有用な指標となる。また、本発明の測定方法には、CYP3A4の代謝機能低下の有無を評価できるのと同時に、CYP2C19の代謝機能低下の有無も評価できるという利点がある。
エリスロマイシン存在下13C-パントプラゾール呼気試験の呼気曲線を示す図。
(A)CYP3A4の代謝機能測定剤
本発明のCYP3A4の代謝機能測定剤の有効成分である13C標識基質化合物は、CYP3A4及びCYP2C19双方の基質となり、哺乳類に投与した後にCYP2C19によって13CO2を生成する能力を有するものである。
ここで、哺乳類としては、ヒトの他、動物、例えば、イヌ、ネコ等の家畜や、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、サル、ラット、ネズミ、テンジクネズミ等が挙げられる。
また、投与は、その経路に限定されず、経口、非経口の何れでもよい。
斯かる13C標識基質化合物は、分子中の少なくとも一つの炭素原子が、CYP2C19によって代謝され安定13CO2を生成する能力を有するが、具体的には、分子内にN−メチル基又はO−メチル基を有し、これがCYP2C19によって脱メチル化され、放出されたメチル基が酸化されて最終的に13CO2として呼気中に排出されるものが挙げられる。
斯かる13C標識基質化合物の代表例として、13C-パントプラゾールが挙げられる。13C-パントプラゾールは、以下に示すとおり、CYP2C19によりピリジン環の4位メトキシ基が脱メチル化されて4−ハイドロキシパントプラゾールと13CO2を生成する。一方、CYP3A4により酸化されてスルフォン体を生成する。
Figure 2011141273
13C標識基質化合物を得るための標識方法は、特に制限されないが、従来法(Sasaki, "5.1 Application of Stable Isotopes in Clinical Diagnosis": 化学の領域(Journal of Japanese Chemistry)107, "Application of Stable Isotope in Medicine, Pharmacy, and Biology", pp. 149-163 (1975), 南江堂: Kajiwara, RADIOISOTOPE, 41, 45-48 (1992))を用いることができる。本発明において、特に有用である13C-パントプラゾールは、ケンブリッジ・アイソトープ・ラボラトリーズ、インコーポレーティド(Andover, MA, USA)から市販されている。
後記実施例に示すとおり、マウスにおいて、エリスロマイシンのようなCYP3A4の代謝経路をブロックする化合物を共存させて、13C−パントプラゾールを代謝させた場合に、呼気中の13CO2量がエリスロマイシンの容量に依存して増加する。
従って、13C−パントプラゾールの如く、CYP3A4及びCYP2C19双方の基質となり、哺乳類に投与した後にCYP2C19によって同位体標識CO2を生成する能力を有する化合物を、被験哺乳類に投与して呼気中に排出された13CO2を測定し、その増加の程度を測定することにより、CYP3A4の代謝機能低下の有無を判定することが可能である。
すなわち、CYP3A4及びCYP2C19の基質となり、哺乳類に投与した後にCYP2C19によって13CO2を生成する能力を有する13C標識基質化合物は、個々の被験哺乳類におけるCYP3A4代謝機能を測定又は評価するためのCYP3A4の代謝機能測定剤となり得る。当該13C標識基質化合物又はこれを含有する製剤を用いることにより、被験哺乳類におけるCYP3A4の代謝挙動(behavior)の測定、代謝機能の評価、更には該被験哺乳類におけるCYP3A4活性に関する臨床応答及び/又は正常・異常の同定を行うことができる。
本発明のCYP3A4の代謝機能測定剤は、上記の13C標識基質化合物の単独製剤であってもよく、また薬学的に許容可能な担体と共に製剤化されていてもよい。
当該製剤は、その意図される投与経路と適合するような剤型にすることができる。投与経路の例は、非経口(例えば静脈内、皮内、皮下)、経口(例えば吸入)、経粘膜、及び直腸投与が挙げられる。
剤型は、本発明の目的に好適な任意の形態とすればよく、好適な形態の例として、注射剤、静脈注射剤、坐薬、点眼剤、点鼻剤、及び他の非経口形態;及び液剤(シロップ剤を含む)、懸濁剤、乳剤、タブレット(非被覆又は被覆のいずれでもよい)、カプセル剤、錠剤、散剤、細粒剤、粒剤及び他の経口形態が挙げられる。経口組成物は一般的に不活性希釈剤又は可食性担体を含有する。
上記製剤が錠剤である場合、有用な担体としては、例えばラクトース、スクロース、塩化ナトリウム、グルコース、尿素、澱粉、炭酸カルシウム、重炭酸ナトリウム及びカリウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、及び他の賦形剤;単純シロップ(simple syrups)、グルコース溶液、澱粉溶液、セラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン及び他の結合剤;乾燥澱粉、アルギン酸ナトリウム、寒天粉末、ラミナラン粉末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン、脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、澱粉、ラクトース及び他の崩壊剤;スクロース、ステアリン酸、カカオバター、硬化油、及び他の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム、及び他の吸収促進剤;グリセリン、澱粉、及び他の湿潤剤;澱粉、ラクトース、カオリン、ベントナイト、ケイ酸コロイド、及び他の吸収剤;ならびに精製タルク、ステアラート、ホウ酸粉末、ポリエチレングリコール、及び他の滑沢剤が挙げられる。
当該錠剤は、通常のコーティング(糖衣錠、セラチンコーティング錠、又はフィルムコーティング錠のような)、二層コーティング、又は多層コーティングを有するものであり得る。
また、カプセル剤とする場合は、有効成分と任意の上記担体とを混合し、そしてこの混合物を硬化ゼラチンカプセル、ソフトカプセルなどに充填する等の所定の手法により調製される。
上記製剤が坐薬である場合、有用な担体としては、例えばポリエチレングリコール、カカオバター、高級アルコール、高級アルコールのエステル、ゼラチン、及び半合成グリセリド等が挙げられる。
上記製剤が経口液剤である場合は、有効成分と通常使用される任意の担体とを混合する等の所定の手法により調製される。経口液剤の具体例としては、シロップ製剤を包含する。該シロップ製剤は液状である必要はなく、粉末又は粒状の形態を有するドライシロップ製剤であってもよい。
上記製剤が注射剤である場合は、注射液剤、乳剤又は懸濁液は滅菌され、血液と等張であることが好ましい。該注射剤を調製するために有用な希釈剤としては、例えば水、エチルアルコール、マクロゴール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
該注射剤は、等張溶液を作成するのに十分量の塩化ナトリウム、グルコース又はグリセリンを含有し得る。また、通常の可溶化剤、緩衝剤、無痛化剤などを該注射剤に添加することもできる。
さらに、上記任意の剤型の製剤には、着色剤、保存剤、風味剤、香り改善剤、呈味改善剤、甘味剤、又は安定剤等の薬学的に許容される添加剤を配合することができる。上記担体及び添加剤は、単独で又は組み合わせて使用され得る。
上記製剤に含有される本発明の13C標識基質化合物の割合は、特に制限されないが、組成物の全乾燥重量の約0.1質量%〜約99質量%であり得る。該割合は、上記範囲内において好適に調整することができる。
上記製剤の単位用量あたりの本発明の13C標識基質化合物の量は、有効成分の種類によって異なるが、好ましい量としては、例えば、単位用量あたり1〜300mg/人が挙げられる。
(B)CYP3A4の代謝機能測定、病状又は臨床応答の評価
上述した本願発明の、哺乳類に投与した後にCYP2C19によって13CO2を生成する能力を有する13C標識基質化合物(単に、「13C標識基質化合物」とも称する)又はこれを含有する製剤(「CYP3A4の代謝機能測定剤」)を、被験哺乳類に投与し、その後呼気中に排出された13CO2の排出パターンを測定することにより、CYP3A4酵素活性(すなわち、CYP3A4代謝機能)を間接的に測定・評価することができる。従って、本発明は斯かるCYP3A4の代謝機能測定方法を提供するものである。
本発明のCYP3A4の代謝機能測定方法において、「被験哺乳類」とは、好ましくはヒトのような哺乳類である被験者を意味するが、ヒトの他、動物、例えば、イヌ、ネコ等の家畜や、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、サル、ラット、ネズミ、テンジクネズミ等であってもよい。
また、投与は、その経路に限定されず、経口、非経口の何れでもよい。
呼気中に排出された13CO2は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば、赤外分光分析により分光学的に測定すること、あるいは、質量分析器を用いて測定することができる。そして、その排出パターン(排出量、排出率、経時的な量及び比率の変化を含む)が測定される。
13CO2測定機器の典型例としては、Meratek(デンバー,コロラド州,アメリカ合衆国)より商業的に入手可能な、UBiT−IR300赤外分光計が挙げられる。
具体的な測定手順を挙げれば、例えば、本発明の13C標識基質化合物又はこれを含有する製剤を投与された被験者より、呼気収集袋等を用いて呼気を回収し、その後、その袋が赤外分光計(例えばUBiT−IR300)に取り付けられる。次いで、赤外分光計によって、呼気中の12CO2に対する13CO2の割合が測定される。測定結果を、標準又は13Cで標識された13C標識基質化合物投与前の呼気の結果と比較することによって、排出された13CO2の量を実質的に算出することができる。
斯くして測定された13CO2排出パターンを、正常なCYP3A4代謝能を有する健常哺乳類における対応の排出パターンと比較する。即ち、被験哺乳類におけるCYP3A4代謝機能は、例えば、上記の測定によって得られる13CO2排出パターン(経時の排出量又は排出速度の挙動)と、同一の方法で測定される標準における13CO2の排出パターンとを比較することによって、評価される。
また、13CO2排出パターンの代わりに、又はこれに加えて、曲線下面積(AUC)、排出速度(特に、初期排出速度)、最大排出濃度(Cmax)、時間関数としての用量回収率、又は時間関数としてのδ13CO2の勾配、被験哺乳類における排出パターン(排出量の遷移曲線)から得られる特定の時点でのベースラインに対するデルタ(DOB)又は類似のパラメータ(好ましくは、薬物動態パラメータ)が、標準における対応のパラメータと比較される。ここで、標準は、正常な代謝能を有する1又はそれ以上の健常哺乳類において観察される排出パターンである。
斯くして、呼気中に排出された13CO2の排出パターン又はそれから得られる薬物動態パラメータを、正常なCYP3A4代謝機能を有する健常哺乳類における対応する当該排出パターン又はパラメータ(標準)と比較し、その値が標準よりも高い場合、CYP3A4の代謝機能が低下していると評価でき、また、その低下の程度(不全代謝、中間代謝、正常代謝等)を併せて評価することができる。尚、上記測定値が、標準よりも低い場合は、CYP2C19の代謝機能が低下していると評価できる。
更に、本発明のCYP3A4の代謝機能測定方法を用いることにより、疾患を予防又は治療するための化合物の有効性を測定するための臨床試験に加わる被験者の選択を行うことが可能となる。具体的には、以下の(a)〜(e)工程に従って行われる。
(a)被験者にCYP3A4及びCYP2C19の基質となり、哺乳類に投与した後にCYP2C19によって13CO2を生成する能力を有する13C標識基質化合物又はこれを含有する製剤を投与する、
(b)被験者の呼気中に排出された13CO2の排出パターンを測定する、
(c)上記工程(b)で測定された13CO2の排出パターンを正常なCYP3A4代謝機能を有する健常者における対応する当該排出パターンと比較する、
(d)上記工程(c)の比較に基づいて、不全代謝者、中間代謝者及び正常代謝者からなる群から選択される代謝表現型に従って分類する、及び
(e)上記工程(d)において正常代謝者として分類された被験者を、臨床試験参加者として選択する。
(C)キット
本発明のCYP3A4代謝機能を測定するためのキットは、CYP3A4及びCYP2C19の基質となり、哺乳類に投与した後にCYP2C19によって13CO2を生成する能力を有する13C標識基質化合物又はこれを含有する製剤、呼気を収集するための呼気収集袋、CYP3A4代謝機能をどのように測定するかを記載した説明書等を含む。
13C標識基質化合物又はこれを含有する製剤は、錠剤、パウダー、粒状、カプセル又は溶液として供給することができる。説明書は、前述した曲線下面積、勾配又は他の薬物動態パラメータを用いて、CYP3A4代謝機能を測定する方法を記載しものが包含される。該キットは、さらにCYP3A4修飾剤を含むものであってもよい。
(D)CYP3A4に対する親和性の有無又はその程度の評価
被験動物に、CYP3A4及びCYP2C19の基質となり、哺乳類に投与した後にCYP2C19によって13CO2を生成する能力を有する13C標識基質化合物及び被験物質を投与し、呼気中に排出された13CO2の増加の有無又はその程度を測定することにより、前記被験物質のCYP3A4に対する親和性の有無を評価すること、すなわち当該被験物質を13C標識基質化合物のCYP3A4への結合を阻害するCYP3A4阻害剤としてスクリーニングすること、或いは前記被験物質のCYP3A4に対する親和性の程度を評価することができる。
例えば、被験物質と13C-パントプラゾールを投与した場合に、呼気中に排出された13CO2量が13C-パントプラゾールのみを投与した場合に比べて上昇すれば、当該被験物質は3A4の基質であるといえる。また、被験物質の用量を変化させ、13CO2量の変化率をエリスロマイシン等の既知のCYP3A4基質を投与した時の13CO2量の変化率と比較することにより、被験物質のCYP3A4に対する親和性の強さを評価できる。
実施例1
1)使用動物:マウス(n=3) BALB/C ♀ 8週齢 非絶食(体重:約18g)
2)各種代謝阻害剤:13C-パントプラゾール混合液を調製する。(13C-パントプラゾールとして20μmol/8mL)
3)実験方法
各投与液を4mL/kgで調製し、投与前に1:1の割合で13C-パントプラゾールと各阻害液を混合した(コントロールは生理食塩液と13C-パントプラゾールの混合液を使用)。
Preの呼気を採取後、マウス尾静脈に投与液を8mL/kg投与(使用材料:針30G,1mLシリンジ,ポリチューブSP10)し、13C-パントプラゾール投与前、並びに投与後10、20、30分、40分、50分及び60分まで10分間隔で呼気を採取した。
<投与液調製>
(a)13C-パントプラゾール(20μmol/4mL)MW:433
13C-パントプラゾール(Cambridge Isotope Laboratories, Inc. Andover,Mass.,USA)を6.49mg量り、注射用蒸留水(OTSUKA PHARMACEUTICAL CO.,LTD. Tokyo,Japan)を加え3mLとした。
(b)エリスロマイシン(10mg/4mL・13.6μmol/4mL)MW:733.93
「注射用エリスロシン」(エリスロマイシンが500mg/1バイアル・ABBOTT JAPAN CO., LTD. Tokyo,Japan)1バイアルに注射用蒸留水(OTSUKA PHARMACEUTICAL CO.,LTD. Tokyo,Japan)を10mL加え50mg/mLを調製した。この50mg/mL液を20倍希釈(1mL量り、生理食塩液(OTSUKA PHARMACEUTICAL CO.,LTD. Tokyo,Japan)を19mL加えた)した。
(c)エリスロマイシン(20mg/4mL・27.2μmol/4mL)MW:733.93
「注射用エリスロシン」(エリスロマイシンが500mg/1バイアル・ABBOTT JAPAN CO., LTD. Tokyo,Japan)1バイアルに注射用蒸留水(OTSUKA PHARMACEUTICAL CO.,LTD. Tokyo,Japan)を10mL加え50mg/mLを調製した。この50mg/mL液を10倍希釈(1mL量り、生理食塩液(OTSUKA PHARMACEUTICAL CO.,LTD. Tokyo,Japan)を9mL加えた)した。
(d)エリスロマイシン(40mg/4mL・54.4μmol/4mL)MW:733.93
「注射用エリスロシン」(エリスロマイシンが500mg/1バイアル・ABBOTT JAPAN CO., LTD. Tokyo,Japan)1バイアルに注射用蒸留水(OTSUKA PHARMACEUTICAL CO.,LTD. Tokyo,Japan)を10mL加え50mg/mLを調製した。この50mg/mL液を5倍希釈(1mL量り、生理食塩液(OTSUKA PHARMACEUTICAL CO.,LTD. Tokyo,Japan)を4mL加えた)した。
(e)エリスロマイシン(100mg/4mL・136μmol/4mL)MW:733.93
「注射用エリスロシン」(エリスロマイシンが500mg/1バイアル・ABBOTT JAPAN CO., LTD. Tokyo,Japan)1バイアルに注射用蒸留水(OTSUKA PHARMACEUTICAL CO.,LTD. Tokyo,Japan)を10mL加え50mg/mLを調製した。この50mg/mL液を2倍希釈(1mL量り、生理食塩液(OTSUKA PHARMACEUTICAL CO.,LTD. Tokyo,Japan)を1mL加えた)した。
(f)エリスロマイシン(200mg/4mL・272μmol/4mL)MW:733.93
「注射用エリスロシン」(エリスロマイシンが500mg/1バイアル・ABBOTT JAPAN CO., LTD. Tokyo,Japan)1バイアルに注射用蒸留水(OTSUKA PHARMACEUTICAL CO.,LTD. Tokyo,Japan)を10mL加え50mg/mLを調製した。
マウスを呼気採取フォルダーに保定した。20 mLディスポーザブル注射筒に三方活栓に取り付けた器具を用いて、呼気を20mL,約2 mL/sの速度で採取した。採取した呼気を真空試験管(LABCO LIMITED HIGH WYCOMBE)に約11 mL移し入れ、呼気中13C−炭酸ガス濃度はABCA-G(呼気分析用質量分析計:PDZ-EuropaLtd社)にて測定した。
4)結果
図1に示すとおり、CYP2C19の作用によって呼気中に排出される13CO2量は、エリスロマイシンの容量に依存して増加していた。

Claims (10)

  1. CYP3A4及びCYP2C19の基質となり、被験哺乳類に投与した後にCYP2C19によって13CO2を生成する能力を有する13C標識基質化合物を含有するCYP3A4の代謝機能測定剤。
  2. 13C標識基質化合物が、13C-パントプラゾールである請求項1記載のCYP3A4の代謝機能測定剤。
  3. CYP3A4及びCYP2C19の基質となり、哺乳類に投与した後にCYP2C19によって13CO2を生成する能力を有する13C標識基質化合物又はこれを含有する製剤を被験哺乳類に投与し、呼気中に排出された13CO2の排出パターンを測定する工程を有するCYP3A4の代謝機能測定方法。
  4. 更に、呼気中に排出された13CO2の排出パターン又はそれから得られる薬物動態パラメータを、正常なCYP3A4代謝機能を有する健常哺乳類における対応する当該排出パターン又はパラメータと比較し評価する工程を有する請求項3記載のCYP3A4の代謝機能測定方法。
  5. 13C標識化合物が、13C-パントプラゾールである請求項3又は4記載のCYP3A4の代謝機能測定方法。
  6. CYP3A4及びCYP2C19の基質となり、哺乳類に投与した後にCYP2C19によって13CO2を生成する能力を有する13C標識基質化合物又はこれを含有する製剤を被験者に投与し、呼気中に排出された13CO2の排出パターンを測定し、得られた当該被験者における13CO2の排出パターン又はそれから得られる薬物動態パラメータを評価する工程を有する、被験者におけるCYP3A4の代謝機能の低下の有無又はその程度の測定方法。
  7. 13C標識化合物が、13C-パントプラゾールである請求項6記載のCYP3A4の代謝機能の異常の有無又はその程度の測定方法。
  8. 下記の工程を有する、疾患を予防又は治療するための化合物の有効性を測定するための臨床試験に加わる被験者の選択方法:
    (a)被験者にCYP3A4及びCYP2C19の基質となり、哺乳類に投与した後にCYP2C19によって13CO2を生成する能力を有する13C標識基質化合物又はこれを含有する製剤を投与する、
    (b)被験者の呼気中に排出された13CO2の排出パターンを測定する、
    (c)上記工程(b)で測定された13CO2の排出パターンを正常なCYP3A4代謝機能を有する健常者における対応する当該排出パターンと比較する、
    (d)上記工程(c)の比較に基づいて、不全代謝者、中間代謝者及び正常代謝者からなる群から選択される代謝表現型に従って分類する、及び
    (e)上記工程(d)において正常代謝者として分類された被験者を、臨床試験参加者として選択する。
  9. CYP3A4及びCYP2C19の基質となり、哺乳類に投与した後にCYP2C19によって13CO2を生成する能力を有する13C標識基質化合物又はこれを含有する製剤、呼気収集袋、及びCYP3A4代謝機能の測定方法を記載した説明書を含むキット。
  10. 被験動物に、CYP3A4及びCYP2C19の基質となり、哺乳類に投与した後にCYP2C19によって13CO2を生成する能力を有する13C標識基質化合物及び被験物質を投与する工程、及び呼気中に排出された13CO2の増加の有無又はその程度を測定する工程を含むことを特徴とする、前記被験物質のCYP3A4に対する親和性の有無又はその程度の評価方法。
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