しかしながら、車載PLCにてアクチュエータから発生するインパルス性雑音の検出は、上述の検出方法では不十分であった。図38乃至図40は、電力線に発生したインパルス性雑音の例を示す波形図である。図38乃至図40では、横軸に時間、縦軸に電圧値を示し、図39及び図40は、図38の内の一部を拡大したものである。
図39及び図40に示すように、車載PLCの電力線に発生する雑音は、減衰正弦波である。したがって、振幅値に対して閾値以上か否かで雑音を検出する場合(非特許文献1,2)、図40に示すように1つのインパルス性雑音を複数の雑音(1〜3)に細分化して検出することになる。
これに対し、観測窓の長さの分散値を基に、インパルス性雑音を検出する方法など(非特許文献3,4)等があるが、測定に用いる観測窓の長さ及び分散値の閾値の決定には、波形を観測した者による主観的な検出の条件が含まれることが多い。当該インパルス性雑音検出条件により、検出されるインパルス性雑音の区間が影響されるという欠点がある。したがって、人間の主観を排除した雑音の検出が望まれていても実現されていなかった。
インパルス性雑音の発生源であるアクチュエータが動作するタイミングは、イベントドリブンである。定期的に発生する雑音であれば、定期的なある期間における信号の信頼性を低く見積もれば済む。例えば、屋内PLCの場合は、インパルス性雑音が発生する周期が、商用電源の周期に同期することが知られており、当該周期に基づいて検出することにより、比較的高精度にインパルス性雑音を検出することができる。しかしながら、イベントドリブン型、つまりアクチュエータの動作、例えば、車両における電動のドアロックの施錠/解錠は、運転者又は同乗者のスイッチのオン/オフ操作に対応する動作に応じて行なわれ、ドアロックのスイッチのオン/オフによってドアロックアクチュエータ等からインパルス性雑音が発生するから、上述のような時間的な特性を学習しておくことができない。
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、通信媒体で発生するインパルス性雑音を、主観的な検出条件をでき得る限り排除し、観測された雑音自身の統計的性質から自動的にインパルス性雑音を精度よく検出することが可能な雑音検出方法、雑音検出装置を提供することを目的とする。
本発明は、通信媒体として例えば、車載PLCの電力線を考慮し、電力線に接続されるアクチュエータの動作に応じて突発的に発生するインパルス性雑音を精度よく検出することを可能とする雑音検出方法、雑音検出装置を提供することを目的とする。
また、本発明の他の目的は、主観的な検出条件をでき得る限り排除して検出されたインパルス性雑音の特徴量に基づき、インパルス性雑音を高精度に再現したシミュレーション方法、シミュレーション装置、及び、前記インパルス性雑音の特徴量に基づき、インパルス性雑音の影響をでき得る限り受けない周波数を用いることができる通信システムを提供することにある。
更に、本発明の他の目的は、通信媒体にて発生するインパルス性雑音を統計的情報量を用いてより高精度に検出することが可能な雑音検出方法、雑音検出装置を提供することを目的とする。
第1発明に係る雑音検出方法は、通信媒体を介して情報を送受信する通信装置を含む通信システムで、前記通信媒体に発生するインパルス性雑音を検出する方法において、前記通信媒体における信号レベルを所定の間隔で時系列的に測定し、所定の測定単位期間分の測定結果を観測系列として抽出し、抽出した観測系列から、隠れマルコフ性ガウス雑音モデルに基づき雑音特性を求め、求めた雑音特性及び前記観測系列から、雑音発生状態であるか否かの列である推定状態系列を推定し、推定状態系列から、前記測定単位期間内の各時点でのインパルス性雑音を各別に検出することを特徴とする。
第2発明に係る雑音検出方法は、第1発明における前記推定状態系列は、前記抽出した観測系列と、前記測定単位期間に求めた雑音特性とを用いて各時点での状態の事後確率を算出し、算出した事後確率が最大となる状態の列を推定状態系列として求めることを特徴とする。
第3発明に係る雑音検出方法は、第2発明において前記事後確率を算出するに際し、各時点における状態の前の状態に関係する前方状態確率、及び後の状態に関係する後方状態確率を算出し、算出した前方状態確率及び後方状態確率を用いて各時点における状態の事後確率を算出することを特徴とする。
第4発明に係る雑音検出方法は、第2又は第3発明における前記推定状態系列は、前記観測系列と前記測定単位期間におけるインパルス性雑音の時間的集中度、インパルス性雑音発生率、インパルス対背景雑音比、及び背景雑音電力を用い、各時点での状態の事後確率が最大となるように推定されることを特徴とする。
第5発明に係る雑音検出方法は、第1乃至第4発明のいずれかにおいて前記インパルス性雑音の検出に際し、求めた雑音特性に基づき、前記測定単位期間毎にインパルス性雑音の発生の有無を判断することを特徴とする。
第6発明に係る雑音検出方法は、第5発明において前記雑音特性に基づき判断するに際し、前記測定単位期間におけるインパルス性雑音の時間的集中度、インパルス性雑音発生率、インパルス対背景雑音比、及び背景雑音電力の内の少なくとも1つに基づいて判断することを特徴とする。
第7発明に係る雑音検出方法は、第1乃至第6発明のいずれかにおける前記所定の測定単位期間は、前記通信媒体に接続される通信装置と他の通信装置の間の通信方式に基づく単位期間であることを特徴とする。
第8発明に係る雑音検出方法は、第1乃至7発明における前記推定状態系列は、前記所定の間隔の1又は複数からなる区間毎のインパルス性雑音の発生状態又は不発生状態の系列として求めることを特徴とする。
第9発明に係る雑音検出方法は、第3乃至第8発明のいずれかにおいて前記所定の測定単位期間毎に雑音特性を求めるに際し、隠れマルコフ性ガウス雑音モデルにおけるインパルス性雑音の発生状態か否かの2状態夫々の雑音電力の初期値を決定し、前記2状態間の4つの状態遷移確率の初期値を決定し、前記観測系列、並びに、決定した状態遷移確率及び状態雑音電力の初期値を用いて前方及び後方状態確率を求め、求めた前方及び後方状態確率から前記所定の測定単位期間における4つの状態遷移確率、及び前記2状態夫々の状態雑音電力を決定し、決定した状態遷移確率及び状態雑音電力を用いた前方及び後方状態確率の算出、及び、算出した前方及び後方状態確率からの状態遷移確率及び状態雑音電力の決定を繰り返し、前記観測系列の尤度を極大化する状態遷移確率及び状態雑音電力を求め、求めた状態遷移確率及び状態雑音電力により、前記雑音特性を特定することを特徴とする。
第10発明に係る雑音検出方法は、第9発明における前記2状態における状態雑音電力の初期値の決定に際し、前記所定の測定単位期間における観測系列から、モーメント法に係る所定の3つのモーメントを求め、求めた3つのモーメントから、前記2状態夫々の状態雑音電力の初期値を求めることを特徴とする。
第11発明に係る雑音検出方法は、第9又は第10発明における前記4つの状態遷移確率の初期値の決定に際し、求めた前記2状態夫々の雑音電力の初期値から、前記観測系列の信号レベル値に対する閾値を求め、求めた閾値と、前記観測系列の各信号レベル値との比較によって推定状態系列を求め、求めた推定状態系列により、前記4つの状態遷移確率の初期値を求めることを特徴とする。
第12発明に係る雑音検出方法は、第9乃至第11発明のいずれかにおいて前記所定の測定期間におけるインパルス性雑音発生率が所定の範囲に含まれるか否かを判断し、含まれると判断した場合、決定した前記4つの状態遷移確率の初期値、及び前記2状態夫々の状態雑音電力の初期値のいずれか一方又は両方に基づき所定の統計的情報量規準を求め、求めた統計的情報量規準に基づきインパルス性雑音を含むか否かを判断し、含まないと判断した場合、前記前記観測系列の尤度を極大化する状態遷移確率及び状態雑音電力の算出を省略することを特徴とする。
第13発明に係る雑音検出方法は、第12発明における前記所定の統計的情報量規準は、対数尤度、竹内情報量規準、赤池情報量規準、及び前記竹内情報量規準、又は赤池情報量規準における自由パラメータ数に基づく規準のいずれか一又は複数であることを特徴とする。
第14発明に係る雑音検出方法は、第13発明における前記自由パラメータ数に基づく規準は、
を満たすか否かであり、満たす場合にインパルス性雑音を含むと判断することを特徴とする。
第15発明に係る雑音検出方法は、第1乃至第14発明における前記通信媒体は車両に配策される電力線であり、前記通信システムは車載PLCシステムであることを特徴とする。
第16発明に係る雑音検出装置は、通信媒体を介して情報を送受信する通信装置を含む通信システムで、前記通信媒体に発生するインパルス性雑音を検出する装置において、前記通信媒体における信号レベルを所定の間隔で時系列的に測定する手段と、所定の測定単位期間分の測定結果を観測系列として抽出する手段と、抽出した観測系列から、隠れマルコフ性ガウス雑音モデルに基づき雑音特性を求める手段と、求めた該雑音特性及び前記観測系列から、雑音発生状態であるか否かの列である推定状態系列を推定する手段と、前記推定状態系列から、前記測定単位期間内の各時点でのインパルス性雑音を各別に検出する手段とを備えることを特徴とする。
第17発明に係るシミュレーション方法は、通信媒体を介して情報を送受信する通信装置を含む通信システムの前記通信媒体に発生するインパルス性雑音のシミュレーションを実行する方法において、複数の異なる既知の状況における通信媒体での信号レベルを所定の間隔で時系列的に測定し、所定の測定単位期間分の測定結果を観測系列として抽出し、抽出した観測系列から、隠れマルコフ性ガウス雑音モデルに基づき雑音特性を求め、求めた雑音特性及び前記観測系列から、雑音発生状態であるか否かの列である推定状態系列を推定し、前記推定状態系列から、前記測定単位期間内の各時点でのインパルス性雑音を各別に検出し、検出したインパルス性雑音の周波数を算出しておき、所定の測定単位期間毎に求めた雑音特性及び算出したインパルス性雑音の周波数を前記既知の状況と対応付けて記録しておき、シミュレーション対象の通信媒体の特性に基づき、該特性に対応する状況に対応付けられた雑音特性を用いて、隠れマルコフモデルに基づく状態系列を生成し、生成した状態系列と前記インパルス性雑音の周波数から疑似雑音を生成することを特徴とする。
第18発明に係るシミュレーション装置は、通信媒体を介して情報を送受信する通信装置を含む通信システムの通信媒体に発生するインパルス性雑音のシミュレーションを実行する装置において、複数の異なる既知の状況における前記通信媒体での信号レベルを所定の間隔で測定する手段と、所定の測定単位期間分の測定結果を観測系列として抽出する手段と、抽出した観測系列から、隠れマルコフ性ガウス雑音モデルに基づき雑音特性を求める手段と、求めた雑音特性及び前記観測系列から、雑音発生状態であるか否かの列である推定状態系列を推定する手段と、前記推定状態系列から、前記測定単位期間内の各時点でのインパルス性雑音を各別に検出する手段と、検出したインパルス性雑音の周波数を算出しておく手段と、所定の測定単位期間毎に求めた雑音特性及び算出したインパルス性雑音の周波数を前記既知の状況と対応付けて記録しておく手段と、シミュレーション対象の通信システムの構成に基づき、該構成に対応する状況に対応付けられた雑音特性を用いて、隠れマルコフモデルに基づく状態系列を生成する手段と、生成した状態系列と前記インパルス性雑音の周波数から疑似雑音を生成する手段とを備えることを特徴とする。
第19発明に係る通信システムは、通信媒体を介して情報を送受信する通信装置と、通信媒体上に帯域制限フィルタとを含む通信システムにおいて、複数の異なる既知の状況における通信媒体での信号レベルを所定の間隔で時系列的に測定し、所定の測定単位期間分の測定結果を抽出した観測系列に基づき、隠れマルコフ性ガウス雑音モデルを用いて前記測定単位期間毎に、雑音特性、並びに該雑音特性及び観測系列から推定される推定状態系列により検出されるインパルス性雑音の周波数を求めて前記既知の状況と対応付けてある記憶手段と、前記記憶手段から前記雑音特性及びインパルス性雑音の周波数を読み出す手段と、前記通信装置の送信機の搬送波周波数を前記インパルス性雑音とは異なる周波数帯に調整する手段と、前記インパルス性雑音を抑圧するように帯域制限フィルタを調整する手段とを備えることを特徴とする。
第20発明に係る通信システムは、通信媒体を介して情報を送受信する通信装置と、前記通信媒体上に帯域制限フィルタとを含む通信システムにおいて、前記通信装置の送信機の搬送波周波数及び受信機の帯域制限フィルタを適応制御する制御装置を含み、該制御装置は、前記通信媒体における信号レベルを所定の間隔で時系列的に測定する手段と、所定の測定単位期間分の測定結果を観測系列として抽出する手段と、抽出した観測系列から、隠れマルコフ性ガウス雑音モデルに基づき雑音特性を求める手段と、求めた雑音特性及び前記観測系列から推定される推定状態系列に基づき、インパルス性雑音を各別に検出する手段と、検出したインパルス性雑音の周波数から、前記通信装置の搬送波周波数及び前記帯域制限フィルタを制御する手段とを備えることを特徴とする。
第21発明に係る通信システムは、第19又は第20発明における前記通信媒体は車両に配策される電力線であり、車載PLCシステムであることを特徴とする。
本発明では、通信媒体における雑音を検出する装置により、通信システムの通信媒体における信号レベル(電圧値、電流値、電力値等)が所定の間隔で時系列に測定される。雑音検出装置は、測定単位期間分の各時点kでの信号レベルの時系列である観測系列(時点1から時点Kまでの信号レベルnの時系列)を抽出する。抽出された観測系列は、観測系を経て得られた情報であり、インパルス性雑音が発生しているか否かの真の状態、又各状態での真の電力ではない。そこで、隠れマルコフ性ガウス雑音モデルが適用され、測定単位期間における雑音特性が観測系列から求められる。更に、抽出された観測系列と、求められた雑音特性とを用いて統計確率的に、インパルス性雑音発生状態であるか否かの状態系列が推定される。各時点でのインパルス性雑音は、推定された状態系列から検出される。
このとき、本発明の雑音検出方法では、推定状態系列は、雑音特性から求めることができる各時点における各状態の事後確率(後述にて説明)が最大となるように推定算出される。これにより、推定状態が精度よく推定される。また、各時点における各状態(2つの状態)の事後確率により、各時点でのインパルス性雑音の発生の有無が判断される。ここで2つの状態とは例えば、状態「0」(:インパルス性雑音が発生していないインパルス性雑音フリーな状態)と、状態「1」(:インパルス性雑音が発生している状態)である(「0」と「1」は逆でも良い)。測定単位期間内の各時点において推定される状態は、2つの状態の内の、事後確率が最大となる状態とする。
更に、雑音検出方法では、事後確率は、各時点の状態について前の時点での状態に関係する前方状態確率、及び後の時点での状態に関係する後方状態確率を用いて求められる。且つ、本発明の雑音検出方法では、前方及び後方状態確率を雑音特性から特定することができることが利用される。このとき、事後確率が最大となる前方及び後方状態確率を特定する雑音特性は、観測系列自体の統計量から求められる。
図1は、マルコフ性雑音における状態と観測結果との関係を示す概念図である。図1にて、sは各時点における状態を示し、nは各時点における観測値(ここでは電力線における電圧値)を示す。マルコフ性雑音は、時点k+1における状態sk+1は1つ前の時点kにおける状態sk のみに依存するという特性を有する。図1に示すように、観測結果nk は状態sk には対応しているものの、状態sk 自体を得ることはできない。したがって、本発明の雑音検出方法では、雑音特性が、観測系列を基に隠れマルコフ性ガウス雑音モデルを用いて求められる。そして、観測系列と求められた雑音特性とから、各時点における前方状態確率及び後方状態確率が用いられ、各状態の事後確率が求められる。各状態の事後確率から、上述のように推定状態行列が求められる。
図2は、隠れマルコフ性雑音の雑音発生メカニズムを概念的に示す概念図である。図2において、インパルス性雑音が発生していないインパルス性雑音フリーな状態は「0」、インパルス性雑音が発生している状態は「1」で表されている。図2中qstは、状態sから状態tへの状態遷移確率を示す。インパルス性雑音が発生していない状態「0」と発生している状態「1」との2つの状態間の状態遷移確率はq00、q01、q11、q10の4つである。また、雑音の振幅は各時点でガウス分布に従って定まる。図2中のσG 2及びσI 2は、夫々、背景ガウス(G:Gaussian)雑音の電力(状態「0」/「1」に関わらず発生)、インパルス(I:Impulse)雑音の電力(状態が「1」のときのみ発生)を意味する。このように、隠れマルコフ性ガウス雑音は、4つの状態遷移確率及び雑音電力(雑音特性)により記述が可能である。
本発明では、インパルス性雑音を検出するため、状態系列は、観測系列n(k=1〜K)=n1 n2 …nk …nK から、上述の雑音特性を用いて推定される。このとき、状態系列の推定に際し、所謂MAP(Maximum A Posteriori)推定に基づく方法が用いられる(参考文献1:R. Durbin, S. Eddy, A. Krogh, and G. Mitchison、Biological Sequence Analysis.(生物学的配列解析)、Cambridge University Press.、1998年、参考文献2:L. E. Baum、“An equality and associated maximization technique in statistical estimation for probabilistic functions of markov processes”(マルコフ過程の確率的関数を統計的に推定するための等式及びその最大化手法)、in Inequalities-III(不等式に関するシンポジウムの論文集3)、pp. 1-8.、1972年)。
図3は、2つの状態の隠れマルコフ性ガウス雑音のトレリスダイヤグラムである。図3は、横軸に時間経過を示し、各状態の遷移を表す。状態系列の推定に際し、2状態隠れマルコフ性ガウス雑音チャネルにおける状態sの雑音の確率密度関数は、以下の式1のように表される。
このように、状態sの雑音の確率密度関数は、雑音特性の1つである各状態の電力の分散を用いて求まる。そして、図2に示すマルコフ過程では、現時点の状態は、過去1つ前の時点での状態に依存する(図3でも示されている)。つまり、現時点での状態は、一つ前の時点における状態からの現時点への状態への状態遷移確率、即ち雑音特性によって特定できる。したがって、図3に示す時点1から時点K+1までの状態系列s(1〜K+1)の状態系列の確率は、以下の式2のように表される。なおPs は、状態sの定常確率を表す。
更に本発明では、図2及び図3に示すように各時点における状態が、前の状態、又は後の状態に関係する前方状態確率、及び後方状態確率を用い、式2の各時点での状態確率を事後確率として求められる。更に、当該事後確率が最大となる状態は、MAP法を用いて推定される。測定単位期間内の各時点において推定される状態は、状態「0」と「1」のうち事後確率が最大となる状態を表す。
各状態sに対し、時点kにおける前方状態確率(Forward確率)αk (s)及び後方状態確率(Backward確率)βk (s)は、図4に示すように、以下の式3及び式4のように表される。図4は、前方状態確率(Forward確率)αk (s)及び後方状態確率(Backward確率)βk (s)を概念的に示す説明図である。
図3及び4に示すように、トレリスダイヤグラムに沿って、各時点kにおける前方状態確率(Forward確率)αk (s)は前から遂次的に求めることができ、後方状態確率(Backward確率)βk (s)は後ろから、遂次的に求めることができる(式5及び式6)。
時点k+1において状態がs´となる前方状態確率αk+1(s´)は、1つ前の時点kにて状態がsとなる確率αk (s)に、時点kにおける状態がsである場合の観測結果がnであって且つ時点k+1における状態がs´である確率pをかけて和をとったものである。そして確率pは、式1により、状態sからs´への遷移確率と時点kにおける観測結果がnであった場合の確率密度関数とにより特定される。
一方、時点kにおいて状態がsとなる後方状態確率βk (s)は、1つ後の時点k+1にて状態がs´となる確率βk+1(s´)に、時点kにおける状態がsである場合の観測結果がnであって且つ時点k+1における状態がs´である確率pをかけて和をとったものである。
観測系列を取得したことによる時点kにおける時点kにおける状態sk の事後確率は、式5及び6のように求められる前方状態確率(Forward確率)αk (s)、及び後方状
態確率(Backward確率)βk (s)により、式7のように求められる。
そして、本発明では、最大の事後確率を有する状態系列s(k=1〜K+1)を推定する。最大の事後確率は式7により表される。状態系列は以下の式8のように推定される。推定された状態が「1」であればインパルスが発生しているとみなすことができる。以下の説明では、各数式において、記号(シルコンフレクス)により推定値であることを示す。
ここで、状態系列を推定するためには、状態遷移確率qss'、雑音電力σs 等のパラメータが必要である。状態系列は、式1乃至式7を用いて求められる式8によって求まるからである。言い換えれば、各パラメータを求めることによって、状態系列を推定することが可能である。なお、以下の説明にて2つの状態における雑音の分散を、N=[σ0 2,σ1 2]Tで表す(Tは行列の転置)。また、マルコフ性雑音を記述する4つの状態遷移確率q00、q01、q11、q10を、夫々を要素に持つ行列Qで表す(Q={q00、q01、q11、q10})。更に、パラメータθ=(Q,N)として以下説明する。
なお、状態遷移確率qss'、雑音電力σs は、測定単位期間におけるインパルス性雑音の時間的集中度(以下、チャネルメモリーという)γ、インパルス性雑音発生確率(定常状態におけるインパルス発生率)P1 、インパルス対背景雑音比R、及び背景雑音電力σG 2にて表してもよい。隠れマルコフ性ガウス雑音は、これらのパラメータによっても完全に記述される。
本発明では、式8にて推定される状態系列s(k=1〜K)は、測定単位期間におけるチャネルメモリーγ、インパルス性雑音発生確率P1 、インパルス対背景雑音比R、及び背景雑音電力σG 2を用いて、各時点での状態の事後確率が最大となるように推定算出される。本発明では、観測系列からチャネルメモリーγ、インパルス性雑音発生確率P1 、インパルス対背景雑音比R、及び背景雑音電力σG 2を求められる。そして、観測系列内の各時点におけるインパルス性雑音の発生有無は、これらの雑音特性を用いて判断される。
パラメータθ=(Q,N)と、チャネルメモリーγ、インパルス性雑音発生確率P1 、インパルス対背景雑音比R、及び背景雑音電力σG 2とは、以下のように対応する。
図3に示すように、状態が「0」のときの雑音の分散σ0 2は、σ0 2=σG 2、状態が「1」のときの雑音の分散σ1 2は、σ1 2=σG 2+σI 2=(1+R)σG 2で表わされる。つまりインパルス対背景雑音比Rは、R=σI 2/σG 2である。
そして、状態「0」即ちインパルス性雑音が発生していない状態の定常確率P0 、状態「1」即ちインパルス性雑音が発生している状態のインパルス性雑音発生確率P1 は、夫々状態遷移確率を用いてP0 =q10/(q01+q10)、P1 =q01/(q01+q10)と表される。ここで行列P=[P0 P1 ]Tで表す。なお、インパルス性雑音の希少性から、P1 <1/2と仮定できる。
状態「0」及び「1」の平均持続時間T0 、T1 は、T0 =1/q10、T1 =1/q01で与えられる。チャネルメモリーγは、γ=1/(q01+q10)で定義される。つまり、チャネルメモリーは異なる状態s及び状態t間で遷移する確率の和の逆数であって、同じ状態にとどまる期間の目安となる。状態「0」及び状態「1」夫々の平均持続時間T0 及びT1 は、チャネルメモリーγがγ<1のときに共に1より大きくなり、メモリーは発散的である。平均持続時間T0 及びT1 が共に1より大きい状態は、インパルス性雑音の雑音モデルには当てはまらない。したがって、インパルス性雑音を記述するチャネルメモリーγはγ≧1と仮定できる。チャネルメモリーγがγ=1のとき、チャネルはメモリレスとなり、状態「0」と状態「1」のいずれになるかは完全にランダムになる。このときの雑音を、ベルヌーイ性ガウス雑音と呼ぶ。
チャネルメモリーγの値が1に近いほど(γ≧1)、ランダムな雑音が発生している期間であることを表すことができる。そして、チャネルメモリーγの値が1より大きく、且つ数値が大きいほど集中的に雑音が発生していることがわかる。図5は、チャネルメモリーに対する隠れマルコフ性ガウス雑音振幅を示す波形図である。いずれも、インパルス性雑音発生率P1 =0.1、インパルス対背景雑音比R=100、背景雑音電力σG 2=1である。上段はチャネルメモリーγ=1、中段はチャネルメモリーγ=3、下段はチャネルメモリーγ=10である。図5に示すように、チャネルメモリーの値により、インパルス性雑音の時間的集中度を表現することができる。チャネルメモリーγ=1の場合、インパルス性雑音は散発的に現れ、チャネルメモリーγ=10の場合、インパルス性雑音は集中的に現れる。インパルス性雑音であるか否かは状態系列により決定される。しかしながら状態系列は分かり得ないので、インパルス性雑音を検出するために、状態系列を適切に推定する必要がある。
なお、雑音特性から、測定単位期間毎のインパルス性雑音の発生の有無の判断も可能である。例えば、4つの状態遷移確率の内、測定単位時間で平均して異なる状態間の遷移確率q01、q10が大きい場合、つまりチャネルメモリーγの値が小さい場合は、状態はいずれか一方に集中しておらず、ランダムな雑音が発生している可能性が高い。インパルス性雑音が発生している状態の電力σ1 2が、発生していない状態の電力σ0 2と比較して大きい場合、即ちインパルス対背景雑音比Rの値が大きい場合は、大きな振幅を有するインパルス性雑音が観測される可能性が高い。このように、各時点でのインパルス性雑音の有無のみならず、測定単位期間全体におけるインパルス性雑音の有無の判断をマクロ的に行なうことができる。測定単位期間を通信装置間のコミュニケーションサイクルに係る期間とすることで、当該期間における通信の支障に対するインパルス性雑音の影響を考慮することもできる。更に、測定単位期間毎にマクロ的な判断を行なうことにより、インパルス性雑音が発生している期間のみ各状態系列を推定して、詳細に各時点でのインパルス性雑音の検出を行なうようにして処理を簡略化することも可能である。
チャネルメモリーγ、インパルス性雑音発生確率P1 、インパルス対背景雑音比R、及び背景雑音電力σG 2と、状態遷移確率の行列Q及び平均雑音電力Nとの対応をまとめると、以下のようになる。
チャネルメモリーγ : γ =1/(q01+q10)
インパルス性雑音発生確率P1 : P1 =q01/(q01+q10)
インパルス対背景雑音比R : R =σI 2/σG 2=(σ1 2−σ0 2)/σ0 2
背景雑音電力σG 2 : σG 2=σ0 2
このように、状態系列は、式8によって推定することができる。式8は、雑音特性(状態遷移確率の行列Q及び平均雑音電力N、又はチャネルメモリーγ、インパルス性雑音発生確率P1 、インパルス対背景雑音比R、及び背景雑音電力σG 2)により、式1乃至式7を用いて求められる。ただし、インパルス性雑音を精度よく検出するためには、精度良く状態系列を推定することが必要である。このためには更に、観測系列を尤もらしくする雑音特性を求める必要がある。本発明では、雑音特性は、EM(Expectation-maximization )アルゴリズムの一種であるBWアルゴリズムに基づき以下のように推定される。
具体的にはまず、雑音特性、つまり観測系列により求められる状態遷移確率及び平均雑音電力の初期値が決定される。決定された初期値と上述の式1乃至式6を用いて、取得された観測系列における各時点での前の状態に基づく2状態の確率を示す前方状態確率、及び後の時点での状態に基づく2状態の確率を示す後方状態確率が求められる。そして、前方状態確率及び後方状態確率を用いて観測系列全体における状態遷移確率及び雑音電力が更に求められる。インパルス性雑音を検出するために、前方及び後方状態確率の算出、及び、状態遷移確率及び雑音電力の算出が繰り返す。これにより、観測系列全体の尤度を極大化する状態遷移確率及び雑音電力(状態遷移確率及び雑音電力の最大化期待値)を求める。更新を繰り返す過程で求められた状態遷移確率及び雑音電力から、各時点における前方状態確率及び後方状態確率が求められ、この前方状態確率及び後方状態確率から各時点における各状態の事後確率が求められる(式3、4)。これにより、各時点における状態の事後確率が最大となるであろう状態系列が推定されることとなる。詳細は以下である。
時点kとk+1における状態対(状態s及び状態s´)の事後確率、つまり観測系列n(k=1〜K)を取得した場合に、時点kにおける状態sから時点k+1にて状態s´へ遷移する確率は、式9により与えられる。
式7及び式9により、状態系列s(k=1〜K+1)における状態遷移確率と雑音電力の推定値は夫々式10及び式11のように求められる。つまり、
本発明では、抽出された観測系列n(k=1〜K)に対して状態遷移確率及び雑音電力の初期値(θ)を決定され、式5,6,10,11の計算が繰り返される。繰り返しの過程で、対数尤度の増分が規定された閾値より低い値となるか、又は計算回数が所定の回数Lを超過した場合に、状態遷移確率及び平均雑音電力の計算、即ち更新を停止する(式12)。
このように、本発明により、BWアルゴリズム及びMAP法を用いて事後的に各時点での状態を確率的に再現し、測定単位時間における雑音特性を表す状態遷移確率及び雑音電力を精度よく求め、前記観測系列の尤度を極大化する値として求められた状態遷移確率qss'、雑音電力σs 2 を用い、上述の式5〜式8により、各時点における状態の状態系列を精度よく推定することができる。したがって、各時点におけるインパルス性雑音の検出精度が高まる。
更に本発明では、上述のBWアルゴリズムにおける初期値の決定に際し、モーメント法が用いられる(参考文献3:K. Fukunaga and T. E. Flick、“Estimation of the parameters of a Gaussian mixture using the method of moments”(モーメント法を用いた混合ガウス分布のパラメータ推定)、IEEE Trans. Pattern Anal. Mach. Intell.、vol. PAMI-5、no. 4、pp. 410-416,、1983年7月)。なぜならば、本発明において計算が停止される対数尤度には、多数の局所解があるので、初期値の影響を強く受けるからである。本発明では初期値の決定を検出装置にて観測系列自体の統計量に基づいて行なうので、誤った局所解への収束が回避される可能性が高まり、且つ人間により与える工程が不要となり検出の自動化が可能である。これにより、システムにおける人間によって設定される情報の影響をでき得る限り排除することが可能となる。
決定方法は具体的に、本発明におけるBWアルゴリズムにおける状態遷移確率及び雑音電力の初期値の決定、即ち行列Qの初期値及びNの初期値の決定を、取得した観測系列からモーメント法の3つのモーメントから行なう。本発明の雑音検出方法では、3つのモーメントを算出し、算出したモーメントを用いて雑音電力及び観測系列の振幅値に対する閾値を算出し、算出した雑音電力を雑音電力Nの初期値と決定し、算出した閾値から推定状態系列を求めて状態遷移確率の行列Qの初期値を決定する。詳細は以下である。
状態系列s(k=1〜K)における雑音電力(平均雑音電力)の推定値Nの推定は、以下のように行なわれる。まず、2状態隠れマルコフ性ガウス雑音の観測系列n(k=1〜K)の確率分布は、式13のように混合ガウス分布として与えられる。
式13のようにガウス分布として与えられるからモーメント法を用い、状態「0」の定常確率P0 及び状態「1」の定常確率P1 、つまり行列P(=[P0 P1 ]T)と、各状態の雑音電力である雑音のk=1〜Kにおける分散、つまり行列N(=[σ0 2,σ1 2]T)とが最尤推定される。
モーメント法では観測系列n(k=1〜K)から式14の3つのモーメントa,b,cが計算される。
式14により求められる3つのモーメントから、各状態における雑音の標準偏差の推定値は、式15及び式16により計算可能である。
式15及び式16により、式11の雑音電力の推定値の初期値を決定できる。
なお、式15及び式16にて計算される雑音の標準偏差の推定値により、N(=[σ0 2,σ1 2]T)の推定値、及びインパルス対背景雑音比Rが特定できる。そして、インパルス性雑音発生確率P1 の推定値は、式17に示すように計算される。
式17にて求められる状態「1」の定常確率、即ちインパルス性雑音発生確率P1 の値が0以下又は0.5以上である場合(インパルス性雑音の希少性から、P1 <1/2と仮定)、抽出した観測系列には、白色ガウス雑音(背景ガウス雑音)が含まれるがインパルス性雑音は含まれないと判断することが可能である。したがって、本発明では第1に、定常確率P1 が0<P1 <1/2の範囲に含まれるか否かを判断し、含まれない場合は、抽出した観測系列には白色ガウス雑音しか含まれないとして、無理にインパルス性雑音モデルに当てはめて検出を行なわずともよい。
また、モーメント法にて得られる式15乃至式17に基づくインパルス性雑音発生確率P1 、並びに、式15及び式16にて得られる雑音の標準偏差を用いて求められるインパルス対背景雑音比Rは、観測系列の系列長が大きい場合、即ち観測結果である電圧値の測定数が十分に多い場合に、精度よく推定が可能である。
そして、状態遷移確率の行列Qの初期値も、上述の3つのモーメントから与えられる雑音の標準偏差(式15及び式16)により求められる平均雑音電力に基づく閾値Λを用い、推定状態系列s(k=1〜K)を求めることで決定する。閾値Λは、以下の式18のように与えられる。式18に示すように、推定される状態系列sは、取得した観測系列の内のk番目のサンプル(電圧値)nk が閾値Λ以下であれば、状態sk は「0」、閾値Λを超過していれば状態sk は「1」である。
式18により推定された状態系列s(k=1〜K)の推定値から、各状態間の状態遷移確率の行列Qの初期値が求められる。具体的には、推定された状態系列s(k=1〜K)の内、状態sから状態s´へ遷移したものの個数Ass'と、推定された状態系列s(k=1〜K)の内、s(k=1〜K−1)における状態sの個数As とから、状態sから状態s´への状態遷移確率の初期値qss'は、qss'=Ass'/As …(19)により求められる。
本発明では、上述のように観測系列のモーメント法に基づく3つのモーメントから得られる平均雑音電力の初期値、並びに状態遷移確率の初期値を用い、BWアルゴリズムにより、観測系列の尤度を極大化する平均雑音電力及び状態遷移確率が算出される。モーメント法のみによる推定状態系列からインパルス性雑音の発生の有無を判断することも可能である。モーメント法では、上述のようにモーメントから求められる閾値Λと各時点での電圧値との比較のみで推定状態系列が求められる。しかしながら、当該閾値のみでの判断では、1つのインパルス性雑音が細分化されて検出されるなど、精度が不足である。ただし、BWアルゴリズムの初期値を決める程度には十分な精度があり、人間によって与えられる初期値、初期値を決定する閾値のような主観的な検出条件も排除でき、人間により初期値を与える工程も不要であるから自動化が可能である。このように求められた初期値を用いて、本発明における観測系列の尤度を極大化する平均雑音電力及び状態遷移確率を求めることにより、雑音特性から求められる推定状態系列も精度が高まるから、インパルス性雑音をより精度よく自動的に検出することが可能である。
なお、上述のBWアルゴリズムによる観測系列の尤度を極大化する平均雑音電力及び状態遷移確率の算出、状態系列の推定にあたっては、インパルス性雑音以外の成分を排除してインパルス性雑音を抽出することが望ましい。インパルス性雑音が発生していない観測系列から、インパルス性雑音が含まれることを前提として状態系列を求める場合、白色ガウス雑音を無理にインパルス性雑音の一部として誤って解析する可能性が残る。このため、統計学的な情報規準を用いて観測系列にインパルス性雑音が発生しているか否かを判断し、発生していない場合には、上述のBWアルゴリズム及びMAP法に基づく状態遷移確率及び雑音電力の推定を省略する。このとき当該測定期間における雑音はほぼ白色ガウス雑音であるとしてよい。これにより、インパルス性雑音の検出精度がより高まる。
なお上述の情報規準として、上述のインパルス性雑音発生確率P1 の値のほかに、対数尤度、竹内情報量規準(TIC:Takeuchi Information Criterion、参考文献4を参照)、赤池情報量規準(AIC:Akaike Information Criterion、参考文献5を参照)、又はTIC若しくはAICの補正項即ち自由パラメータ数に着目した規準を用いる。これらの内の複数を組み合わせて用いてもよい。
(参考文献4:M.Stone、”An asymptotic equivalence of choice of model by cross-validation and Akaike's criterion”(交差検定及び赤池情報量規準に基づくモデル選択の漸近等価性)、J.Roy.Statist.Soc.、vol.39、pp.44-47、1977年)
(参考文献5:H.Akaike、”A new look at the statistical model identification”(統計的モデル同定の新見解)、IEEE Trans. Autom. Control, vol.AC-19、no.6、pp.716-723、1974年12月)
特に、自由パラメータ数における規準では、以下の式20を満たすか否かに基づきインパルス性雑音を含むか否かを判断することにより、検出精度を高めることが可能である。なお、式20における左辺のAICの補正項は、観測系列の振幅確率分布がガウス分布である場合には「1」に近い値が得られ、混合ガウス分布である場合には「3」よりも大きい値が得られるものと期待される。したがって例えば、式20の右辺を少なくとも「2」即ちz=1とすることによって混合ガウス分布である、つまりインパルス性雑音を含む可能性が高いか否かを判断することが可能である。ただし、式20の右辺を「2」と固定とせずに、zとして微調整を行なえるようにし、検出精度を高めることが可能となる。
なお本発明では、所定の測定単位期間は、前記電力線に接続される通信装置間の通信に係る単位期間である。つまり、通信における物理層の通信パラメータを変更可能な単位にすることにより、各期間内のインパルス性雑音の特徴量に応じて通信パラメータの変更要否の判断のための評価を、良好に行なうことが可能である。例えば、通信プロトコルにおける通信周期、フレーム長とすることが好ましい。通信方式にTDMA(Time Division Multiple Access)を採用する場合も同様に、通信周期、フレーム長、スロット長などの単位期間とすることもできる。
本発明では、例えば通信はFlexRay(登録商標)により行なわれ、したがって、所定の測定単位期間は、メディアアクセスの単位となるコミュニケーションサイクルとする。これにより、FlexRayにおける最適な通信パラメータの選定が可能となる。
なお、インパルス性雑音が発生しているか否かを検出するために推定状態系列を求めるに際し、信号レベルをサンプリングした所定の間隔毎にインパルス性雑音を検出するとは限らない。所定の間隔の1又は複数分が、デジタル情報における1ビット情報分に対応する場合は、複数分の所定の間隔を1つの区間として各区間についてインパルス性雑音の有無を検出してもよい。これにより、各ビットに対応する時点でのインパルス性雑音の発生の有無を判断できる。通信により受信されるデジタル情報の内、インパルス性雑音が発生した時点でのビットには、誤りがある可能性があると推定することができる。
本発明では、インパルス性雑音のシミュレーションも可能である。複数の異なる既知の状況にて、通信システムの通信媒体における信号レベルを所定の間隔で時系列的に測定した観測系列に基づき、隠れマルコフ性ガウス雑音モデルを用いて上述のように各状況に対応する雑音特性を求めておく。各状況に対応して、観測系列と求められた雑音特性とから、上述の検出方法によってインパルス性雑音が検出され、更に、検出されたインパルス性雑音の周波数が算出される。そして、各状況に対応付けて、雑音特性と算出されたインパルス性雑音の周波数とが記録される。複数の異なる既知の状況とは、通信システムの接続構成のパターンである。例えば、通信システムが車載PLCシステムである場合、電力線に接続されるアクチュエータの種類、例えばドアロックに係るアクチュエータなのか、ミラーに係るアクチュエータなのか、更に、アクチュエータが動作を開始した場合なのか、動作を停止した場合なのか、また、電力線の端までの長さなどを変えた場合など、各状況毎に観測系列を抽出しておき、夫々から測定単位期間毎の雑音特性とインパルス性雑音の周波数が求めておく。そして、シミュレーション対象の通信システムの構成に応じて予め求めておいた各状況に対応する雑音特性により、隠れマルコフ性ガウス雑音モデルによる状態系列が生成される(式5乃至式8)。通信システムが車載PLCシステムである場合、前記電力線の長さ、接続される通信装置及びアクチュエータの数、種類等に応じて、状態系列が生成される。そして、生成された状態系列とインパルス性雑音の周波数とから疑似雑音が生成される。
本発明のシミュレーションの実行により、観測系列の統計的性質から自動的に推定されたインパルス性雑音の雑音特性とインパルス性雑音の周波数に対して有効な通信方式などの詳細な事前検討が可能となる。効率的なシミュレーションを実現することができる。
また、本発明では、予め設定した方式からの最適な通信方式等の選択を、コンピュータを用いて自動化することも可能である。本発明では、複数の異なる既知の状況での車載PLCシステムの電力線における電圧値を所定の間隔で時系列に測定した観測系列に基づき、隠れマルコフモデルを用いて求められた各状況に対応する雑音特性と、上述のようにして検出したインパルス性雑音の周波数が記録されてある。このとき、雑音特性は、観測系列に基づき、誤った局所解が求められる事態を回避するように、自動的に求められた情報である。そして当該コンピュータでは、設計対象の回路構成に基づき、予め求められて記録されてある各状況の雑音特性を用いて隠れマルコフモデルの推定状態系列が推定算出され、当該推定状態系列とインパルス性雑音の周波数とが用いられて疑似雑音が生成される。更に、設計対象のPLCシステムにおける候補の通信方式、通信周波数及び通信パラメータを受け付け、それらの各候補について、生成した疑似雑音を用いて通信エラーの発生シミュレーション(通信シミュレーション)が行なわれ、シミュレーション結果により得られる通信エラー率に基づき、最適な候補が特定される。
本発明では、各状況かでの観測により得られた観測系列と、観測系列自身の統計的性質から自動的に推定されたインパルス性雑音の雑音特性と周波数に基づき、状況に応じた疑似雑音が生成され、当該疑似雑音にてシミュレーションが実行されるため、多種多様な車種又はオプション等によって現れるインパルス性雑音に対して有効な通信方式などの詳細な事前検討が可能となる。
また本発明では、通信システムに通信方式、通信周波数、パラメータを最適化する最適化装置を含める構成としてもよい。最適化装置は、通信媒体における信号レベルの観測系列を取得し、取得した観測系列に基づき隠れマルコフ性ガウス雑音モデルを用いて雑音特性を求め、求めた雑音特性から周波数等の雑音特徴量を求める。観測系列の取得及び雑音特徴量は、遂次的に行って更新を続けることが望ましい。そして最適化装置は、予め候補として記録してある複数の通信方式、通信周波数及び通信パラメータと、雑音特徴量との比較に基づき、遂次、最適な通信方式、周波数及びパラメータを決定する。
これにより、実際に発生する雑音の統計的性質を用いて自動的に検出されたインパルス性雑音の特徴量に基づき、インパルス性雑音の影響をでき得る限り受けない通信方式、周波数及びパラメータの適切な選定が可能となる。
本発明では更に、通信システムの通信装置の送信機に搬送波の周波数を調整する手段を備え、受信機のリミッタ前段に、帯域を調整できる帯域制限フィルタを備える構成とした上で、上述のインパルス性雑音検出方法にて検出されたインパルス性雑音の周波数を回避させてもよい。通信システムに、解析装置などを備えておき、当該解析装置は予め異なる複数の既知の状況に応じて求めておいた周波数を読み出すことができるようにしておく。解析装置が通信システムの現在の状況に応じてインパルス性雑音の周波数を回避するように、送信機の搬送波の周波数及び受信機の前の帯域制限フィルタの周波数を調整する。これにより、通信システムは各状況に応じてインパルス性雑音の影響を受けることなく通信を行なうことが可能となる。
なお、解析装置は、既知の状況に応じて予め記憶しておいたインパルス性雑音の周波数を回避するように調整する構成に限らない。更に解析装置は、リアルタイムにインパルス性雑音を検出し、その周波数を求め、求めた周波数を回避するように送受信機における搬送周波数及び帯域制限フィルタの周波数を調整する構成としてもよい。
本発明による場合、通信システムの通信媒体に、イベントドリブン型に発生する突発的なインパルス性雑音の特性に応じて、隠れマルコフ性ガウス雑音モデルを適用し、従来は困難であったインパルス性雑音を自動的に高精度に検出することが可能となる。
特に、通信システムがPLCシステムである場合、通信媒体である電力線には多様な機器が接続しているために突発的なインパルス性雑音が発生する可能性が高く、当該インパルス性雑音を高精度に検出することにより、より良好な通信が可能となる。
特に、PLCシステムが車載である場合、送受信される情報は安全性を維持するために重要な情報である可能性が高い。突発的に発生するインパルス性雑音を高精度に検出し、当該インパルス性雑音が発生している期間を回避して通信を行なうことは、車載PLCシステムの場合に、非常に有用である。
また、通信システムにおける各状況にて発生するインパルス性雑音を自動的に、かつ高精度にモデル化することができるので、通信システムの設計段階から、雑音について高精度のシミュレーションを実現することができ、これにより、インパルス性雑音を有効に回避する最適な周波数を用いた通信システムを実現させることができる。周波数に限らず、通信方式、通信周波数、その他通信パラメータを選定することも可能となる。
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
なお、以下に説明する実施の形態では、本発明を車両に搭載されるECU間の通信をPLCにて実現する車載PLCシステムに適用した例を挙げて説明する。
(実施の形態1)
図6は、実施の形態1における車載PLCシステムの構成を示す構成図である。車載PLCシステムは、複数のECU1,1,…と、ECU1,1,…から送信される制御データにより作動するアクチュエータ2,2,…と、ECU1,1,…及びアクチュエータ2,2,…夫々に電力を供給するための電力線3,3,…と、電力線3,3,…を介して各装置へ電力を供給するバッテリ4と、電力線3,3,…の分岐及び中継のためのジャンクションボックス5と、電力線3における雑音を検出する雑音検出装置6とを含む。
図6に示すように、実施の形態1では、ECU1,1,…及びアクチュエータ2,2,…は、電力線3へバス型に接続されている。接続形態は、他にスター型で接続されてもよいし、バス型とスター型との混載型でもよい。
バッテリ4は、エンジンからの動力を得て発電する図示しないオルタネータにより蓄電される。バッテリ4は一端(マイナス端子)が接地されており、他端(プラス端子)は電力線3を介してジャンクションボックス5に接続されている。バッテリ4は、例えば12Vの駆動電圧を各装置へ供給する。
ジャンクションボックス5は、電力線3の分岐及び中継回路を備える。ジャンクションボックス5は、複数の電力線3,3,…が分岐接続する。これらの複数の電力線3,3,…は各ECU1,1,…及びアクチュエータ2,2,…へ夫々接続される。ジャンクションボックス5は、バッテリ4から供給される電力を、車両内に配置されるECU1,1,…、アクチュエータ2,2,…及び雑音検出装置6へ分配する。
ジャンクションボックス5から分岐する複数の電力線3,3,…の内の一の電力線3は1つのECU1に接続されている。これにより、ECU1はバッテリ4からの電力の供給を受けることができる。電力線3は、他の1つのECU1にも接続され、当該ECU1へ電力を供給する。ECU1,1の間を接続している電力線3は分岐し、スイッチを介してアクチュエータ2に接続されている。スイッチがオンの場合にはアクチュエータ2へバッテリ4からの電力がアクチュエータ2へ供給され、アクチュエータ2が作動するように構成されている。
なお、ECU1,1,…及びアクチュエータ2,2,…はいずれも、内部で、接続されている電力線3が自身に含まれる各構成部及び負荷を介してボディーアースへ接続(接地)されるように構成されている。
そして実施の形態1における車載PLCシステムでは、各ECU1,1,…は電力線3,3,…を介してバッテリ4からの電力の供給を受けて動作するのみならず、各ECU1,1,…間を接続する電力線3,3,…に通信用の搬送波を重畳してデータを送受信することができる。これにより、車載PLCシステムでは、各ECU1,1,…間に、走行制御に用いるデータ、又は映像データ等を送受信するための通信用の信号線を別途配設する必要がない。車両に配されるハーネスの省線化及び軽量化を実現することができる。
図7は、実施の形態1における車載PLCシステムに含まれるECU1及び雑音検出装置6の内部構成を示すブロック図である。ECU1は、制御部10と、電源回路11と、通信制御部12と、電力線通信部13と、通信信号分離・結合部14とを備える。
制御部10はマイクロコンピュータを用い、電源回路11を介して電力の供給を受け、通信制御部12によるデータの送受信、又は図示しない他の構成部の動作を制御する。電源回路11は、制御部10、通信制御部12、電力線通信部13及び図示しない他の構成部に接続されており、各構成部に電力を供給する。例えば電源回路11は、電力線3を介してバッテリ4から受ける例えば12Vの駆動電圧を、構成部夫々に必要な電圧へ適宜調整して供給するようにしてある。
通信制御部12は、ネットワークコントローラを用い、他のECU1,1,…及びアクチュエータ2,2,…との制御データを含む各種データの送受信を実現する。実施の形態1におけるECU1の通信制御部12による他の装置とのデータの送受信は、FlexRay(登録商標)プロトコルに準ずる。なお、通信プロトコルはFlexRayに限らず、CAN(Controller Area Network)、LIN(Local Interconnect Network)等でもよい。
電力線通信部13は、送信時には信号で搬送波を変調、受信時には搬送波から信号を復調する機能を実現する回路である。通信信号分離・結合部14は、送信時には電力線3へ搬送波を結合、受信時には電力線3から搬送波を分離する機能を実現する回路である。FlexRayに準じた既存の通信制御部12に対し、既存の通信部を取り去り、代わりに電力線通信部13と通信信号分離・結合部14とを加えることにより、電力線通信の機能を付加することができる。
雑音検出装置6は、制御部60と、記憶部61と、一時記憶部63と、測定部64とを備える。制御部60は、CPU(Central Processing Unit)を用い、記憶部61に記憶されている雑音検出プログラム62に基づき、雑音検出処理を実行する。記憶部61は、ハードディスク、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリを用い、雑音検出プログラム62を記憶している他、検出された雑音のデータを記憶しておく。一時記憶部63は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)等のメモリを用い、制御部60の処理によって発生するデータを一時的に記憶する。
測定部64は、電力線3における電圧値を所定の間隔で測定し、測定結果を記憶部61又は一時記憶部63に記憶する。測定部64は、複数の端子を有して夫々、電力線3における複数の測定箇所における電圧値を測定できるようにしてあってもよい。測定における所定の間隔は、例えば0.01μsec(100MHz)である。
なお、雑音検出装置6は、パーソナルコンピュータを用いてもよいし、雑音検出専用の装置とすべく、各構成部の機能を発揮する構成要素を含むFPGA、DSP、ASIC等により構成されてもよい。
雑音検出装置6の制御部60は、雑音検出プログラム62に基づき、図8に示すような各機能を発揮し、測定部64にて測定して取得した所定の間隔毎の電圧値(観測系列)からインパルス性雑音を検出する処理を実行する。図8は、実施の形態1における車載PLCシステムに含まれる雑音検出装置6にて実現される機能を示す機能ブロック図である。
制御部60は、雑音検出プログラム62に基づき、パラメータ推定部601、及びインパルス性雑音検出部605として機能する。パラメータ推定部601の機能は、パラメータの初期値を決定する初期値決定部602、BWアルゴリズムを用いて、観測系列の尤度を極大化する雑音特性を算出するBWアルゴリズム算出部603、及びパラメータ出力部604としての機能を含む。
制御部60は、測定部64により取得した観測系列から、所定期間(測定単位期間)分の電圧値データを抽出する。制御部60は、抽出した電圧値データに対し、パラメータ推定部601の機能により、雑音特性を表すパラメータ、及び当該パラメータから状態系列を推定し、出力する。制御部60は、推定した状態系列を用い、インパルス性雑音検出部605の機能により、所定期間の内の各区間(所定の間隔=0.01μsec単位、1又は複数分でもよい)についてインパルス性雑音が発生したか否かを判断する。
制御部60は、パラメータ推定部601の機能により、4つの状態遷移確率q00、q01、q11、q10(=Q)及びN=[σ0 2,σ1 2]Tからなるパラメータθ=(Q,N)を求め、更に、θから以下の各パラメータを求める。
チャネルメモリーγ : γ =1/(q01+q10)
インパルス性雑音発生確率P1 : P1 =q01/q01+q10
インパルス対背景雑音比R : R =σI 2/σG 2=(σ1 2−σ0 2)/σ0 2
背景雑音電力σG 2 : σG 2=σ0 2
制御部60は、上述のパラメータを求めるため、まず初期値決定部602の機能により、パラメータθの初期値、つまり状態遷移確率の行列Q(=qss'、s,s´=0,1)、平均雑音電力N(=[σ0 2,σ1 2]T)の初期値を求める。このとき、制御部60は、初期値の決定を、上述の式14乃至式16に基づき行なう。制御部60は、BWアルゴリズム算出部603の機能により、観測系列の尤度を極大化するパラメータθ(状態遷移確率及び状態雑音電力)を算出する。観測系列の尤度を極大化するパラメータθの算出は、上述の式10乃至式12に基づく。制御部60は、BWアルゴリズム算出部603の機能によって求めた観測系列の尤度を極大化するパラメータθの推定値に基づき、パラメータ出力部604により上述の各パラメータ(チャネルメモリーγ、インパルス性雑音発生確率P1 、インパルス対背景雑音比R、背景雑音電力σG 2)を求め、記憶部61に記憶する。また、制御部60は、パラメータ出力部604により推定状態系列を求め、インパルス性雑音検出部605へ出力する。
制御部60によるインパルス性雑音の検出処理の過程を、フローチャートを参照して詳細に説明する。図9は、実施の形態1における雑音検出装置6により実行される処理の一例を示すフローチャートである。
制御部60は、測定部64により測定データ(観測系列)を取得する(ステップS1)。そして制御部60は、取得した測定データの内の所定期間分のデータを抽出し、パラメータ推定部601に与える(ステップS2)。このとき所定期間は、例としてFlexRayのコミュニケーションサイクルを単位とし、実施の形態1では1msecとする。上述のように、測定部64による電圧値の測定間隔は0.01μsecであるから、抽出データは、100,000サンプル分の電圧値の系列である(K=100000)。
制御部60は、パラメータ推定部601の初期値決定部602及びBWアルゴリズム算出部603の機能により、抽出された1msec分の抽出データ(K=100000サンプルの時系列電圧値)に基づき、隠れマルコフ性ガウス雑音モデルを用いて、観測系列の尤度を極大化するパラメータθ(雑音特性)を算出する(ステップS3)。当該雑音特性を表す各パラメータの算出については、後述の図10のフローチャートを用いて詳細を説明する。
制御部60は、パラメータ推定部601のパラメータ出力部604の機能により、ステップS3にて算出したパラメータθに基づき、推定状態系列を推定算出し(ステップS4)、更に、雑音特性を表すパラメータ(チャネルメモリーγ、インパルス性雑音発生確率P1 、インパルス対背景雑音比R、背景雑音電力σG 2)を求める(ステップS5)。
制御部60は、インパルス性雑音検出部605の機能により、ステップS5にて算出した雑音特性に基づき、1msecの期間毎に、当該期間内にてインパルス性雑音が発生したか否かを判断する(ステップS6)。なお、パラメータ(γ、P1 、R、σG 2)に基づく判断基準は例えば、チャネルメモリーγが所定値(例えば10)よりも大きいか否かにより判断する。また、インパルス性雑音検出部605の機能により制御部60は、インパルス性雑音発生確率P1 が0.5以上である場合、取得される観測系列は、白色ガウス雑音であって、インパルス性雑音ではないと判断することが可能である。
制御部60は、インパルス性雑音が発生していないと判断した場合(S6:NO)、そのまま検出処理を終了する。なお、ステップS5及びS6は必須ではない。パラメータ(チャネルメモリーγ、インパルス性雑音発生確率P1 、インパルス対背景雑音比R、背景雑音電力σG 2)を求めず、期間毎にインパルス性雑音の発生の有無を判断せずともよい。
制御部60は、インパルス性雑音検出部605の機能により、インパルス性雑音が発生したと判断した場合(S6:YES)、当該抽出データにおける期間の各所定の間隔におけるインパルス性雑音を推定状態系列に基づき検出し(ステップS7)、検出結果を含む雑音データを記憶部61に記憶し(ステップS8)、処理を終了する。ステップS7において、インパルス性雑音の検出は、所定の間隔(実施の形態1では、0.01μsec)毎とした。しかしながらこれに限らず、2以上のサンプル分を1つのビット分と扱い、ビット単位でインパルス性雑音を検出してもよい。
ステップS8にて記憶される雑音データは、ステップS3又はステップS5にて算出した雑音特性(θ又はγ、P1 、R、σG 2)でもよいし、抽出データ(観測系列)を含んでもよい。更に、ステップS4にて推定される状態系列を含んでもよい。これにより、当該雑音データによってインパルス性雑音を再現するなどの際に有用である。
図10は、実施の形態1における雑音検出装置6のパラメータ推定部601の機能により実行されるモーメント法を用いたBWアルゴリズムによる観測系列の尤度を極大化するパラメータθ(雑音特性)の算出処理の手順の一例を示すフローチャートである。図10に示す処理手順は、図9のフローチャート中のステップS3の詳細に対応する。
制御部60は、与えられる抽出データ、つまりK=100000サンプルの電圧値から、初期値決定部602の機能により、上述の式14によってモーメント法に基づく3つのモーメントa,b,cを計算する(ステップS301)。
そして制御部60は、初期値決定部602の機能により、雑音電力N(=[σ0 2,σ1 2]T、推定値の記号略)の初期値を求める。このため制御部60は、ステップS301で計算した3つのモーメントa,b,cに基づき、式15及び式16によって各状態の雑音の分散の標準偏差σ0 及びσ1 を算出する(ステップS302)。制御部60は、初期値決定部602の機能により、各状態の雑音の分散の標準偏差σ0 及びσ1 から、抽出したデータの雑音電力Nの推定値の初期値を算出する(ステップS303)。
次に制御部60は、初期値決定部602の機能により、状態遷移確率の行列Qの初期値を求める。このため、制御部60は、ステップS302で式15及び式16によって算出した各状態の雑音の分散の標準偏差σ0 及びσ1 の推定値から、抽出されたデータ(観測系列)の100000サンプルの各電圧値に対する閾値Λを式18により算出する(ステップS304)。そして制御部60は、抽出データの100000サンプルの各電圧値と、算出した閾値Λとの比較により(式18)、推定状態行列s(k=1〜K)を算出する(ステップS305)。更に制御部60は、求めた推定状態行列s(k=1〜K)から4つの状態遷移確率の行列Qの推定値の初期値を算出する(ステップS306)。具体的には、制御部60は、推定状態行列s(k=1〜K)から状態s(=0又は1)から状態s´(=(0又は1)への状態遷移の個数Ass'を夫々4つ求め、各状態s(=0又は1)の個数As を求め、状態遷移確率の初期値qss'(qss'=Ass'/As )を求める。
制御部60は、初期値決定部602の機能により、ステップS303及びS306で求めたQ、Nの推定値の初期値を、パラメータθの推定値の初期値に決定する(ステップS307)。
次に、制御部60は、ステップS307にて決定した初期値を用い、BWアルゴリズム算出部603の機能により、BWアルゴリズム及びMAP法を用い、観測系列の尤度を極大化するパラメータθ(雑音特性)を求める。つまり、求まるパラメータθは、与えられた初期値に対して、取得した観測系列の尤もらしさを高める値である。詳細には制御部60はまず、計算回数l(エル)に0を代入し(ステップS308)、1を加算し(ステップS309)、上述の式1乃至式6に基づき、前方状態確率(Forward確率)αk (s)及び後方状態確率(Backward確率)βk (s)を算出する(ステップS310)。
制御部60は、ステップS310によって求めた前方状態確率αk (s)及び後方状態確率βk (s)を用い、上述の式10及び式11により、パラメータθ(状態遷移確率の行列Q及び雑音電力Nの推定値)を算出する(ステップS311)。
制御部60は、BWアルゴリズム算出部603の機能により、ステップS311の結果得られるパラメータθの推定値に対し、対数尤度が閾値Δよりも大きいか、又は計算回数l(エル)が上限値L以上となったか否かを判断する(ステップS312)。制御部60は、対数尤度が閾値Δ以下であり、且つ計算回数l(エル)も上限値L未満である場合(S312:NO)、より尤もな値を求めるために処理をステップS309へ戻して処理を繰り返す。
制御部60は、BWアルゴリズム算出部603の機能により、ステップS311の結果得られるパラメータθの推定値に対し、対数尤度が閾値Δよりも大きいか、又は計算回数l(エル)が上限値L以上となったと判断した場合(S312:YES)、観測系列の尤度を極大化するパラメータθを求める処理を終了し、図9のフローチャートの内のステップS4へ処理を戻す。
このように、制御部60のパラメータ推定部601により求められる隠れマルコフ性ガウス雑音モデルのパラメータθ(=(Q,N))は、検出の際の条件として人間が与える主観的な初期値又は閾値等をでき得る限り排除して求められたものである。図9のフローチャートのステップS4により推定される推定状態系列(式5〜式8)により、精度よくインパルス性雑音を検出することが可能である。
実施の形態1における雑音検出装置6によるインパルス性雑音の検出の精度の評価を、検出誤り率を求めることによって行なった。検出誤り率は、既知の2状態隠れマルコフ性ガウス雑音を用いて測定した。まず、チャネルメモリーγ、インパルス性雑音発生確率P1 、インパルス対背景雑音比Rを与えて、状態系列s(k=1〜K)(なお、以下の例ではK=20000)及び雑音系列を生成した。生成した状態系列sを真の状態系列とし、生成した雑音系列に対し、実施の形態1における雑音検出装置6によるインパルス性雑音の検出を行なった。また、比較として、上述の式14乃至式18によって求められる閾値Λを用い、雑音系列の各電圧値に対し閾値Λより大きいか否かのみで、大きい場合にインパルス性雑音として検出するという方法(Moment−ML法という)によってインパルス性雑音の検出を行なった。Moment−ML法では、ステップS307からステップS312までは行なわれない。
図11乃至図13は、実施の形態1における雑音検出装置6による検出誤り率を示すグラフである。
図11は、横軸にチャネルメモリーγの変化、縦軸に検出誤り率を示し、インパルス性雑音発生確率P1 、インパルス対背景雑音比Rに夫々固定値P1 =0.01、R=100を与え、チャネルメモリーγを1から100まで変化させて生成した雑音系列に対して算出したチャネルメモリーγの誤り率を示す。2つの線は一方がMoment−ML法による検出誤り率、他方の線にて実施の形態1における雑音検出装置6による検出誤り率を示している(図中にてBW−MAPと示す)。
図12は、横軸にインパルス性雑音発生確率P1 の変化、縦軸に検出誤り率を示し、チャネルメモリーγ、インパルス対背景雑音比Rに夫々固定値γ=10、R=100を与え、インパルス性雑音発生確率P1 を0.001から0.01まで変化させて生成した雑音系列に対して算出したインパルス性雑音発生確率P1 の誤り率を示す。一方の線にてMoment−ML法による検出誤り率、他方の線にて実施の形態1における雑音検出装置6による検出誤り率を示している。
図13は、横軸にインパルス対背景雑音比Rの変化、縦軸に検出誤り率を示し、チャネルメモリーγ、インパルス性雑音発生確率P1 に夫々固定値γ=10、P1 =0.01を与え、インパルス対背景雑音比Rを10から1000まで変化させて生成した雑音系列に対して算出したインパルス対背景雑音比Rの誤り率を示す。一方の線にてMoment−ML法による検出誤り率、他方の線にて実施の形態1における雑音検出装置6による検出誤り率を示している。
図11乃至図13のグラフに示されるように、BWアルゴリズム及びMAP法を用いた実施の形態1における雑音検出装置6によるインパルス性雑音の検出方法の優位性が明確である。なお、図13に示すように、検出誤り率は、インパルス対背景雑音比Rの増加に対して単調減少である。これは、背景雑音電力σG 2に対し、インパルス性雑音の雑音電力σI 2が大きくなることにより、インパルス性雑音が発生している期間と、発生していない期間との区別の精度が高くなることを意味する。これに対し、図11及び図12に示すように、実施の形態1における雑音検出装置6によるインパルス性雑音の検出方法では、チャネルメモリーγ、インパルス性雑音発生確率P1 の変化に対して検出誤り率の極小値が存在することから、インパルス性雑音が発生していることを精度よく検出できるチャネルメモリーγ及びインパルス性雑音発生確率P1 が存在することがわかる。このとき、チャネルメモリーγ、インパルス性雑音発生確率P1 に関する推定精度は、観測系列の内の抽出データ長(K)に依存するので、Kを考慮した解析が必要である。
図14は、実施の形態1における雑音検出装置6によるインパルス性雑音の検出結果を示す波形図である。図38乃至図40に示した車載PLCシステムにおける雑音の波形図に対応する。矢印により示される区間が、雑音検出装置6によりインパルス性雑音が発生していると検出された区間である。従来の振幅値と閾値とを比較するのみなどの方法による場合よりも、「インパルス性雑音が発生している状態」を検出する精度が上がっている。
観測された電圧値に対し、Moment−ML法により閾値に基づきインパルス性雑音を検出する方法と、実施の形態1の雑音検出装置6による検出方法とを比較すると、図15に示すように、雑音検出装置6にて正確にインパルス性雑音を推定検出することが出来ていることがわかる。図15は、実施の形態1における雑音検出装置6により検出されたインパルス性雑音の雑音特性の一例を示す説明図である。比較として、上述のMoment−ML法によって推定した各パラメータの内容例も示している。
実施の形態1の雑音検出装置6によって検出されたインパルス性雑音について推定算出される雑音特性のパラメータは、記憶部61に記憶しておくとよい。これらの情報は、観測系列の統計的性質から自動的に取得されたインパルス性雑音の情報として有用である。
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1に示した雑音検出装置6によるインパルス性雑音の検出処理の過程に、統計的情報量を用いた判断を加える。つまり、ガウス雑音のみを含む測定データには、BWアルゴリズム及びMAP法による推定処理を省略する。これにより、検出精度を上げることが可能となる。
実施の形態2における車載PLCシステム及び雑音検出装置6の構成は実施の形態1における構成と同様であり、雑音検出装置6により実行される処理の詳細が異なるのみである。したがって、以下の説明では、実施の形態1における構成と共通する構成については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
図16は、実施の形態2における雑音検出装置6にて実現される機能を示す機能ブロック図である。制御部60は、雑音検出プログラム62に基づき、パラメータ推定部601、及びインパルス性雑音検出部605として機能すると共に、情報量規準判定部606として機能する。制御部60は、情報量規準判定部606の機能により、観測系列から抽出された電圧値データから求められたパラメータに基づく統計的情報量を用い、BWアルゴリズムに基づく処理に先んじてインパルス性雑音の有無を判定する。制御部60は、情報量規準判定部606の機能によりインパルス性雑音無と判定した場合にはBWアルゴリズム算出部603による処理を省略する。この場合、制御部60は、パラメータ出力部604の機能により、白色ガウス雑音のみからなるとして推定状態系列及び雑音電力を求め、インパルス性雑音検出部605へ出力する。
図17は、実施の形態2における雑音検出装置6により実行される処理の一例を示すフローチャートである。なお、以下に示す処理手順の内、実施の形態1の図9のフローチャートに示した処理手順と共通する手順には同一のステップ番号を付して詳細な説明を省略する。
制御部60は、ステップS2にて抽出された1msec分の抽出データに基づき、パラメータ推定部601の初期値決定部602により、モーメント法を用いて雑音電力の行列N(=[σ0 2,σ1 2]T)の推定値、及び各状態の定常確率の行列P(=[P0 P1 ]T)の推定値の初期値を求める(ステップS51)。なお、実施の形態2では、サンプリング周波数を200MHzとしたので、抽出データはK=200000サンプルの時系列電圧値である。
制御部60は、情報量規準判定部606の機能により、ステップS51で求めた初期値から、インパルス性雑音を含むか否かをマクロ的に判定するための規準に係る情報量を算出する(ステップS52)。ステップS52の処理の詳細については後述する。
制御部60は、情報量規準判定部606の機能により、ステップS52にて算出した情報量に基づきインパルス性雑音を含むか否かを判定する(ステップS53)。ステップS53における判定は具体的に、後述する第5規準を満たすか否か、即ち、上述のインパルス発生状態の定常確率、即ちインパルス性雑音発生確率の推定値の初期値P1 が0≦P1 <0.5であり(第1規準)、且つ、後述する式32(第5規準)を満たすか否かである。
制御部60はステップS53にて、インパルス性雑音を含まないと判定した場合(S53:NO)、抽出データに含まれる雑音は白色ガウス雑音であるとして推定状態系列を推定算出し、雑音の分散σを算出し(ステップS54)、処理を終了する。なお、制御部60は白色ガウス雑音であるとして推定算出した推定状態系列、雑音の分散σを記憶部61に記憶しておいてもよい。
一方制御部60はステップS53にてインパルス性雑音を含むと判定した場合(S53:YES)、ステップS51で求めた雑音電力Nの推定値の初期値からML(最尤)法に基づき4つの状態遷移確率の行列Qの推定値の初期値を求める(ステップS55)。
次に制御部60は、初期値決定部602の機能によりステップS51及びステップS55で求めた初期値から、Q、Nの推定値の初期値をパラメータθの推定値の初期値と決定する(ステップS56)。
制御部60は、ステップS56で決定した初期値を用い、BWアルゴリズムに基づき、観測系列の尤度を極大化するパラメータθ(雑音特性)を算出する(ステップS57)。次に制御部60は、ステップS57で算出したパラメータθ=(Q,N)に基づき、推定状態系列を推定算出する(ステップS58)。
制御部60は、推定算出した状態系列に基づき各時点のインパルス性雑音を検出し(S7)、記憶部61に記憶し(S8)、処理を終了する。
なお、ステップS52の情報量の算出、及びステップS53のインパルス性雑音を含むか否かの判定ステップの手順は、他の順序で実行されてもよい。例えば、ステップS52での算出工程が、後述する規準のみならず行列Qの初期値を用いる場合にはステップS55又はステップS56の後となる。
ステップS52に関し、インパルス性雑音を含むか否かを判定するための規準の例として、第1乃至第5規準が挙げられる。なお本実施の形態2では、上述したように第1規準及び第5規準の両方を採用する。ここで第1乃至第5規準とは夫々以下である。
第1規準:インパルス性雑音の希少性
0≦P1 <0.5
これは、インパルス性雑音は偶然的に発生するものであって頻繁に発生するものではないという希少性から、定常確率は1/2未満と仮定したことに基づく。
第2規準:対数尤度
第2規準では、第1規準に加え、観測系列の振幅確率分布の対数尤度を用いる。観測系列即ち抽出データが白色ガウス雑音のみ含む系列であって振幅確率分布がガウス分布であるとした場合の対数尤度と、抽出データがインパルス性雑音も含む系列であって振幅確率分布が混合ガウス分布であるとした場合の対数尤度との大小を比較する。そして、混合ガウス分布であるとした場合の振幅確率分布の対数尤度がガウス分布であるとした場合よりも大きい場合、抽出データはインパルス性雑音を含むと判断する規準となる。
ここで、観測系列n(k=1〜K)の振幅確率分布は、式21のように表すことができ、その対数尤度は式22で定義される。
混合ガウス分布の対数尤度及びガウス分布の対数尤度は夫々式23のように表す。なお、ガウス分布の対数尤度は式24のようになる。
混合ガウス分布であるとした場合の振幅確率分布の対数尤度がガウス分布であるとした場合よりも大きい場合、抽出データはインパルス性雑音を含むと判断するから、混合ガウス分布が以下の式25を満たすことを第2規準として定義できる。
第3規準:竹内情報量規準(TIC)
第3規準では、第1規準に加え、モデルの尤もらしさを評価する指標としてよく知られたTICを用いる。モーメント法を利用したML(最尤)法(Moment−ML)を用いて推定算出したパラメータθの推定値の初期値は、真の分布に基づいた推定値ではない。TICは、当該真の分布からの誤差に対する補正項を追加した情報量規準として知られている。
ML法により推定されたパラメータθ及び観測系列n(k=1〜K)の振幅確率分布が与えられたときのTICの補正項は以下に示す式26で定義される。なお、式26中のTrは行列のトレースであり、I(θ)及びJ(θ)は夫々式27及び式28で定義されるp×pフィッシャー情報行列である。なお、p×pフィッシャー情報行列のpはモデルのパラメータθに含まれる自由パラメータの数を表す。
TICを用いた第3規準では、抽出データが白色ガウス雑音のみ含む系列であって振幅確率分布がガウス分布であるとした場合のTICg と、インパルス性雑音を含み、振幅確率分布が混合ガウス分布であるとした場合のTICgmとの大小を比較する。そして、TICg >TICgmであればインパルス性雑音を含まず、逆にTICg <TICgmであればインパルス性雑音を含むと判断する規準となる。
したがって具体的に、混合ガウス分布の対数尤度及びその補正項を追加した値が、以下の式29を満たすことを第3規準として定義できる。
第4規準:赤池情報量規準(AIC)
第4規準は、第1規準に加え、AICを用いる。第3規準のTICに係る補正項では、フィッシャー情報行列に対して経験分布に基づく標本平均EK を施している。そのため、標本平均処理の数値計算による不安定性を含む。このような数値計算による不安定性を排除した赤池情報量基準(AIC)が知られている。モデル化した確率密度関数p(nk |θ)が真の確率密度関数を含むとき、フィッシャー情報行列がI(θ0 )=J(θ0 )を満たし、θ0 は真の分布によるML推定値である。このことから、AICは、観測系列n(k=1〜K)の振幅確率分布に対する補正項c(θ)をp(式30)としたものである。
これにより、具体的にAICでは、以下の式31を満たすことを第4規準として定義できる。
第5規準:自由パラメータ数による規準
第5規準では、第1規準に加え、AICの補正項である自由パラメータ数に着目し、これを利用して規準を定義する。混合ガウス分布が真の分布を含む場合、AICの補正項cGM(θGM)=3が得られる。そして、ガウス分布が真の分布を含む場合、AICの補正項cG (σ2 )=1が得られる。このため、観測系列の振幅確率分布がガウス分布である場合にはAICの補正項は1に近い値が得られ、混合ガウス分布である場合にはAICの補正項は3より大きい値が得られるものと期待される。この補正項の値を利用して以下の式32を満たすことを、インパルス性雑音を含むことの第5規準として定義する。
なお、上述のようにAICの補正項は、混合ガウス分布である場合、つまりインパルス性雑音を含む可能性が高い場合は3より大きい値を得られると期待できるから、式32における右辺の値を2、即ちz=1とすればよい。ただし、式32の右辺を2と固定せず、zをz=1から微調整を行なうようにする。
ステップS53では、このようにして求められる規準を用いて事前にインパルス性雑音を含む観測系列であるか否かを判断する。次に、図17のフローチャートに示した処理手順の詳細を説明する。
図18は、実施の形態2における雑音検出装置6によるモーメント法を用いた雑音電力及び定常確率の初期値の算出処理の詳細を示すフローチャートである。図17のフローチャートに示した処理手順の内のステップS51の詳細に対応する。
制御部60は、与えられる抽出データ、つまりK=200000サンプルの電圧値から、初期値決定部602の機能により、上述の式14によってモーメント法に基づく3つのモーメントa,b,cを計算する(ステップS61)。
そして制御部60は、初期値決定部602の機能により、雑音電力の初期値N(=[σ0 2,σ1 2]T、推定値の記号略)を求める。このため制御部60は、ステップS61で計算した3つのモーメントa,b,cに基づき、式15及び式16によって各状態の雑音の分散の標準偏差σ0 及びσ1 を算出する(ステップS62)。制御部60は、初期値決定部602の機能により、各状態の雑音の分散の標準偏差σ0 及びσ1 から、抽出したデータの雑音電力Nの推定値の初期値を算出する(ステップS63)。
更に制御部60は、初期値決定部602の機能により、ステップS61で求めたモーメントから、式17に基づき各状態の定常確率の初期値を算出し(S64)、図17のフローチャートに示した処理手順ステップS52へ処理を戻す。
図19は、実施の形態2における雑音検出装置による4つの状態遷移確率の算出処理の詳細を示すフローチャートである。図17のフローチャートに示した処理手順の内のステップS55の詳細に対応する。
制御部60は、初期値決定部602の機能により、状態遷移確率の行列Qの初期値を求める。このため、制御部60は、図18のフローチャートに示したステップS62で式15及び式16によって算出した各状態の雑音の分散の標準偏差σ0 及びσ1 の推定値から、抽出されたデータ(観測系列)の200000サンプルの各電圧値に対する閾値Λを式18により算出する(ステップS71)。そして制御部60は、抽出データの200000サンプルの各電圧値と、算出した閾値Λとの比較により(式18)、推定状態行列s(k=1〜K)を算出する(ステップS72)。更に制御部60は、求めた推定状態行列s(k=1〜K)から4つの状態遷移確率の行列Qの推定値の初期値を算出する(ステップS73)。具体的には、制御部60は、推定状態行列s(k=1〜K)から状態s(=0又は1)から状態s´(=(0又は1)への状態遷移の個数Ass'を夫々4つ求め、各状態s(=0又は1)の個数As を求め、状態遷移確率の初期値qss'(qss'=Ass'/As )を求める。
制御部60は、行列Qの推定値を算出すると、図17のフローチャートに示した処理手順の内のステップS56へ処理を戻す。
図20は、実施の形態2における雑音検出装置6によるBWアルゴリズムに基づく観測系列の尤度を極大化するパラメータθ(雑音特性)の算出処理の手順の一例を示すフローチャートである。なお、図20のフローチャートに示す処理手順は、図17のフローチャートに示した処理手順の内のステップS57の詳細に対応する。
制御部60は、ステップS56にて決定されたパラメータθの推定値の初期値を与えられると、BWアルゴリズム算出部603の機能により、BWアルゴリズム及びMAP法を用い、観測系列の尤度を極大化するパラメータθ(雑音特性)を求める。(与えられた初期値に対して、取得した観測系列の尤もらしさを高める最大化期待値)
詳細には制御部60はまず、計算回数l(エル)に0を代入し(ステップS81)、1を加算し(ステップS82)、上述の式1乃至式6に基づき、前方状態確率(Forward確率)αk (s)及び後方状態確率(Backward確率)βk (s)を算出する(ステップS83)。制御部60は、ステップS83で算出した前方状態確率αk (s)及び後方状態確率βk (s)を用い、上述の式10及び式11により、パラメータθ(雑音特性:状態遷移確率の行列Q及び雑音電力Nの推定値)を算出する(ステップS84)。
制御部60は、BWアルゴリズム算出部603の機能により、ステップS84の結果得られるパラメータθの推定値に対し、対数尤度が閾値Δよりも大きいか、又は計算回数l(エル)が上限値L以上となったか否かを判断する(ステップS85)。制御部60は、対数尤度が閾値Δ以下であり、且つ計算回数l(エル)も上限値L未満である場合(S85:NO)、より尤もな値を求めるために処理をステップS82へ戻して処理を繰り返す。
制御部60は、BWアルゴリズム算出部603の機能により、ステップS84の結果得られるパラメータθの推定値に対し、対数尤度が閾値Δよりも大きいか、又は計算回数l(エル)が上限値L以上となったと判断した場合(S85:YES)、観測系列の尤度を極大化するパラメータθ(雑音特性)を求める処理を終了し、図17のフローチャートの内のステップS58へ処理を戻す。
実施の形態2における雑音検出装置6によるインパルス性雑音の検出の精度の評価を行なった。検出誤り率の測定方法は、実施の形態1における方法と同様である。ただし、ステップS52及びS53に示した規準に係る情報量と、インパルス性雑音を含むか否かの判断規準とについては、第1乃至第5規準に基づき判断基準を変え、夫々に対応する検出誤り率を求めた。
図21乃至図23は、実施の形態2における雑音検出装置6による検出誤り率を示すグラフである。
図21は、横軸にチャネルメモリーγの変化、縦軸に検出誤り率を示し、インパルス性雑音発生確率P1 、インパルス対背景雑音比Rに夫々固定値P1 =0.001、R=100を与え、チャネルメモリーγを10から1000まで変化させて生成した雑音系列に対して算出したチャネルメモリーγの誤り率を示す。点線及び白抜きのひし形にて第1規準を用いた場合の検出誤り率、2点鎖線及び白抜きの逆三角形にて第2規準を用いた場合の検出誤り率を示している。また、1点鎖線及びアスタリスクにて第3規準を用いた場合、破線及び十字にて第4規準を用いた場合、実線及びバツ印にて第5規準を用いた場合の検出誤り率を示している。
図22は、横軸にインパルス性雑音発生確率P1 の変化、縦軸に検出誤り率を示し、チャネルメモリーγ、インパルス対背景雑音比Rに夫々固定値γ=100、R=100を与え、インパルス性雑音発生確率P1 を0.0001から0.01まで変化させて生成した雑音系列に対して算出したインパルス性雑音発生確率P1 の誤り率を示す。各規準に対する凡例は、図21と同様である。
図23は、横軸にインパルス対背景雑音比Rの変化、縦軸に検出誤り率を示し、チャネルメモリーγ、インパルス性雑音発生確率P1 に夫々固定値γ=100、P1 =0.001を与え、インパルス対背景雑音比Rを10から1000まで変化させて生成した雑音系列に対して算出したインパルス対背景雑音比Rの誤り率を示す。各規準に対する凡例は、図21と同様である。
実施の形態1の図11乃至図13に示した検出誤り率と比較しても、図17のフローチャートに示したステップS52及びS53にて規準を用いた判定処理を行なうことにより、検出の精度が高まっていることが分かる。なお第2乃至第4規準を用いた場合であっても、第1規準のみを用いた場合よりも精度が高まっており、特に第5規準を用いることにより精度がより高まっている。特に、ガウス雑音発生状態「0」からインパルス性雑音発生状態「1」への状態遷移確率q01が極端に低い場合であっても、誤り検出確率を低くすることができる。
このように、統計的情報量を用いて、インパルス性雑音を含まない抽出データをBWアルゴリズム及びMAP法の適用対象として除外することにより、白色ガウス雑音を無理にインパルス性雑音として検出することを避けることができ、インパルス性雑音の検出精度をより高めることが可能となる。
(実施の形態3)
実施の形態3では、既知の状況下で観測系列を取得し、実施の形態1又は2における雑音検出装置6にて行なった状態系列及び雑音特性の算出結果と、算出結果を用いて検出したインパルス性雑音の周波数とを求め、各状況に対応付けて記憶しておき、雑音特性とインパルス性雑音の周波数とを用いてシミュレーションを行なう。
図24は、実施の形態3におけるシミュレーション装置の構成を示す構成図である。シミュレーション装置7は、パーソナルコンピュータを用い、制御部70と、記憶部71と、一時記憶部74と、条件入力部75と、疑似雑音生成部76とを備える。制御部70は、CPUを用い、記憶部71に記憶されているシミュレーションプログラム72に基づき、シミュレーションを実行する。記憶部71は、ハードディスク、EEPROM、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリを用い、シミュレーションプログラム72を記憶している他、各既知の状況下で測定された測定データを含む雑音記録73が記憶されている。一時記憶部74は、DRAM、SRAM等のメモリを用い、制御部70の処理によって発生するデータを一時的に記憶する。
条件入力部75は、マウス、キーボード、ディスプレイなどを含むユーザインタフェースであって、ユーザは、シミュレーション対象の車載PLCシステムにおけるシミュレーション条件を条件入力部75により入力することが可能である。例えば、電力線の長さ、電力線に接続されるECUの数、位置(基準となる点からの電力線の長さ)、アクチュエータの数、位置、シミュレーション対象の時間幅、当該時間幅内におけるアクチュエータが動作するタイミングである。
疑似雑音生成部76は、シミュレーション対象の時間幅における状態系列及び状態系列における雑音の雑音特性とインパルス性雑音の周波数とに基づき、疑似雑音を発生させる。具体的には、インパルス性雑音が発生している状態か否かの2値の列である状態系列と、インパルス性雑音が発生している場合の当該インパルス性雑音の雑音電力とから、当該時間幅における電圧値の列を生成する。
制御部70は、記憶されている雑音記録73から、各状況における雑音特性を求める。詳細には、制御部70は、シミュレーションプログラム72に基づき、実施の形態1又は2における制御部60のパラメータ推定部601の機能と同じ機能を発揮し、雑音特性として、各パラメータ(チャネルメモリーγ、インパルス性雑音発生確率P1 、インパルス対背景雑音比R、背景雑音電力σG 2)を求めることが可能である。
また、制御部70は、各状況下の測定データについて求めた雑音特性と、記憶されている雑音記録73とから、各状況におけるインパルス性雑音の周波数を求める。詳細には、制御部70は、シミュレーションプログラム72に基づき、実施の形態1又は2における制御部60のインパルス性雑音検出部605の機能と同じ機能に加えて、インパルス性雑音の検出のみならず、高速フーリエ変換機能を発揮し、検出されたインパルス性雑音の周波数を求めることが可能である。制御部70は求めたインパルス性雑音の周波数をも雑音記録73に加えておく。
制御部70は、疑似雑音生成部76を用い、各状況下の測定データについて求めた雑音特性と条件入力部75により入力されるシミュレーション条件とに基づき、シミュレーション対象の時間幅におけるアクチュエータの動作に応じた状態系列を生成し、生成した状態系列、各状態における状態雑音電力及びインパルス性雑音の周波数に基づき、疑似雑音を生成する。
図25は、実施の形態3におけるシミュレーション装置7の記憶部71に記憶されている雑音記録73の内容例を示す説明図である。
図25に示すように、雑音記録73は、状況の内容と測定部データとを含む。また、雑音記録73は、後述する処理によって求められる雑音特性を表すパラメータ(チャネルメモリーγ、インパルス性雑音発生確率P1 、インパルス対背景雑音比R、背景雑音電力σG 2)及びインパルス性雑音の周波数を含む。生成される状態系列が予め含まれてもよい。図25では、アクチュエータの1つであるドアロックが動作してから0〜1msecの期間の測定データ、及び雑音特性のパラメータの内容例が示されている。このように、既知の状況下における期間毎の雑音データを雑音記録73として記憶しておくことにより、後にシミュレーションを実行することが可能である。
図26は、実施の形態3におけるシミュレーション装置7により実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、図26のフローチャートに示す処理手順の内、実施の形態1の図9のフローチャートと共通する手順には、同一のステップ番号を付して詳細な説明を省略する。
制御部70は、記憶部71に記憶してある各既知の状況下の測定データ(観測系列)を取得し(ステップS21)、測定データの内のコミュニケーションサイクル分のデータを抽出する(S2)。なお、図25の内容例に示したように、コミュニケーションサイクル長で既に抽出した測定データが記憶されている場合は、ステップS2は省略されてもよい。
制御部70は、実施の形態1又は2における制御部60のパラメータ推定部601の機能と同じ機能を発揮し、ステップS2にて抽出したデータ(観測系列)の尤度を極大化するパラメータθ(雑音特性)を算出する(S3)。当該算出の詳細は、実施の形態1の図10(又は実施の形態2における図17乃至図20)のフローチャートを参照して説明したとおりである。
また制御部70は、実施の形態1又は2における制御部60のパラメータ出力部604の機能と同じ機能を発揮して、推定状態行列を推定算出し(S4)、実施の形態1における制御部60のインパルス性雑音検出部605の機能と同じ機能を発揮し、ステップS2にて抽出したデータのインパルス性雑音を検出する(S7)。そして制御部70は、高速フーリエ変換機能を用いて検出インパルス性雑音の周波数を算出する(ステップS22)。
制御部70は、各状況下の測定データに対して算出した雑音特性及び算出したインパルス性雑音の周波数を雑音データとして雑音記録73に含めて記憶し(ステップS23)、全ての既知の状況下で取得した測定データについて雑音特性とインパルス性雑音の周波数を算出したか否かを判断する(ステップS24)。制御部70は、全ての既知の状況下で取得した測定データにについて雑音特性を算出していないと判断した場合(S24:NO)、処理をステップS21へ戻し、他の状況下の測定データについて雑音特性及びインパルス性雑音の周波数を算出する処理を継続する。
制御部70は、全ての既知の状況下で取得した測定データについて雑音特性及びインパルス性雑音の周波数を算出したと判断した場合(S24:YES)、シミュレーション条件を条件入力部75により入力する(ステップS25)。なお、制御部70は、ステップS24にて全ての状況下での算出が完了した場合に(S24:YES)、図示しないディスプレイにシミュレーション条件の入力を促す画面を表示させるなどしてもよい。制御部70は、入力されたシミュレーション条件、例えば、電力線の回路構成、即ち前記電力線の長さ、接続される通信装置及びアクチュエータの数、種類等に応じて予め求めておいた各状況に対応する雑音特性とインパルス性雑音の周波数とから、疑似雑音を生成し(ステップS26)、シミュレーションを終了する。
ステップS26では詳細には、制御部70は、シミュレーション条件に応じた状況を特定し、特定した状況に対応する測定データから求められている雑音特性(チャネルメモリーγ、インパルス性雑音発生確率P1 、インパルス対背景雑音比R、背景雑音電力σG 2)と、インパルス性雑音の周波数とを記憶部71に記憶される雑音記録から読み出す。制御部70は、読み出した雑音特性を表すパラメータにより、シミュレーション対象の時間幅におけるアクチュエータの動作に応じた状態系列を生成する。生成した状態系列に、雑音特性に含まれる雑音電力(σ1 2、σ0 2)とインパルス性雑音の周波数とを反映させて疑似雑音を生成する。なお、シミュレーション対象の時間幅は、例えば5msecとする。そして制御部70は、その内の0msecの時点に1つのアクチュエータが動作した場合の状態系列、状態雑音電力及びインパルス性雑音の周波数、2msecの時点で他のアクチュエータが動作した場合の状態系列、状態雑音電力及びインパルス性雑音の周波数から、5msecの期間全体における疑似雑音を生成する。
このように、例えば車種毎に異なる車載PLCの物理構成に対して、夫々電力線に発生する雑音の疑似雑音を高精度に生成することができる。各状況にて発生するインパルス性雑音の統計的性質に忠実なモデル化を行なうことができるので、車載PLCシステムの設計段階から、効率的なシミュレーションを実現することができ、インパルス性雑音を有効に回避する最適な周波数、通信方式等を用いた車載PLCを実現させることができる。
(実施の形態4)
実施の形態4では、実施の形態1及び2で説明したように既知の状況下の雑音特性とインパルス性雑音の周波数を算出して記録しておき、実施の形態3のシミュレーション装置7が生成する疑似雑音を用い、車種、オプション等によって異なる車載PLCシステムの物理的構成に最適な通信方式を決定し、車載PLCの設計を行なうことができる装置の例を説明する。
図27は、実施の形態4における車載PLC設計装置8の構成を示すブロック図である。車載PLC設計装置8は、制御部80と、記憶部81と、一時記憶部85と、入出力部86と、疑似雑音生成部87と、通信シミュレーション実行部88とを備える。制御部80はCPUを用い、記憶部81に記憶されている車載PLC設計プログラム82に基づき、後述する各機能を実現する。記憶部81は、ハードディスク、EEPROM、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリを用い、車載PLC設計プログラム82を記憶している他、各既知の状況下で測定された測定データから求められた雑音特性とインパルス性雑音の周波数を含む雑音記録83が記憶されている。また、記憶部81には、実施の形態4における設計対象の車載PLCシステムに適する通信方式、通信周波数、又は通信パラメータ等の通信条件の候補(通信条件候補群84)が記憶されている。一時記憶部85は、DRAM、SRAM等のメモリを用い、制御部80の処理によって発生するデータを一時的に記憶する。
入出力部86は、設計者の操作入力を受け付け、設計者へ情報を出力するインタフェースである。入出力部86には、キーボード861、マウス862及びディスプレイ863が接続される。入出力部86は、キーボード861又はマウス862により入力される情報を取得して制御部80へ通知し、制御部80からの指示に基づいて、文字情報又は画像情報をディスプレイ863へ出力する。具体的には、制御部80は、入出力部86により、設計対象の車載PLCシステムの回路構成を受け付けることが可能である。つまり、制御部80は、設計者がキーボード861又はマウス862による操作を行なうことによって入力する設計対象の車載PLCシステムの電力線の長さ、接続される通信装置及びアクチュエータの数、種類等の情報を、入出力部86を介して受け付ける。また、制御部80は、記憶部81に記憶してある通信条件候補群84の通信方式、通信周波数又は夫々における通信パラメータの候補の情報を、入出力部86を介してディスプレイ863へ出力し、ディスプレイ863で選択可能に表示させる。設計者は、ディスプレイ863に表示される候補から、いずれかをキーボード861又はマウス862により選択する。この場合、キーボード861又はマウス862から選択された候補を、制御部80にて特定可能である。
疑似雑音生成部87は、シミュレーション対象の時間幅における状態系列及び状態系列における状態雑音電力及びインパルス性雑音の周波数に基づき、疑似雑音を発生させる。具体的には、インパルス性雑音が発生している状態か否かの2値の列である状態系列と、インパルス性雑音が発生している状態か否かの夫々の状態における雑音電力(σ1 2、σ0 2)と、インパルス性雑音の周波数とから、当該時間幅における電圧値の系列を生成する。
通信シミュレーション実行部88は、通信条件候補群84の内の選択された通信方式、通信周波数、及び通信パラメータに基づき、与えられる疑似雑音に基づき、通信シミュレーションを実行し、結果を出力する。結果は、一時記憶部85又は記憶部81に記憶されてもよい。制御部80は、通信条件候補群84の内の各候補について、疑似雑音生成部87にて生成された疑似雑音を通信シミュレーション実行部88へ与えて通信シミュレーションを実行する。
制御部80は、車載PLC設計プログラム82に基づき、通信条件の各候補について実行した通信シミュレーションの結果から、通信エラー率を求める。そして、制御部80は、各候補について求めた通信エラー率を比較し、最もエラー率が低い候補を、最適な候補として特定する。
このように構成される車載PLC設計装置8の制御部80により実行される処理を、フローチャートを参照して説明する。図28は、実施の形態4における車載PLC設計装置8により実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。
制御部80は、入出力部86により、設計対象のシステム回路構成の情報を受け付け(ステップS31)、受け付けた回路構成に応じた各状況下の雑音データ(雑音特性とインパルス性雑音の周波数とを含む)を記憶部81の雑音記録83から読み出す(ステップS32)。制御部80は、ステップS32にて読み出した雑音データの雑音特性とインパルス性雑音の周波数とから、疑似雑音生成部87により疑似雑音を生成する(ステップS33)。
制御部80は、入出力部86により、通信条件候補群84の通信方式、通信周波数又は夫々における通信パラメータを含む通信条件の候補の入力を受け付ける(ステップS34)。具体的には、制御部80は、ディスプレイ863に候補の入力を受け付ける画面を表示させ、キーボード861又はマウス862による入力を受け付ける。
制御部80は、生成した疑似雑音を用い、入力された候補の通信条件を与えて通信シミュレーション実行部88により、通信シミュレーションを実行させる(ステップS35)。
制御部80は、ステップS35における通信シミュレーションの実行結果から、通信エラー率を算出する(ステップS36)。制御部80は、入力された候補について夫々通信エラー率を算出し、各通信エラー率を比較することによって最適な通信条件の候補を特定する(ステップS37)。制御部80は、ステップS37で特定した通信条件の候補の情報を入出力部86により、ディスプレイ863に表示させるべく出力し(ステップS38)、処理を終了する。
上述のような処理により、各状況下での観測により得られた観測系列に基づき、当該観測系列自体の統計的性質を用いて自動的に推定されたインパルス性雑音の雑音特性と周波数とに基づき、インパルス性雑音の統計的性質に忠実に再現する疑似雑音が生成される。実施の形態4における車載PLC設計装置8により、生成された疑似雑音と、候補となる通信条件(通信方式、通信周波数及び通信パラメータ)とによって通信シミュレーションが実行されるから、実際の車種又はオプション等によって異なるインパルス性雑音の影響をでき得る限り受けない有効な通信方式などの詳細な事前検討が可能となる。
(実施の形態5)
実施の形態5では、最適な通信方式、通信周波数、通信パラメータを特定する最適化装置を含む車載PLCシステムの例を説明する。当該最適化装置は、自身が含まれる車載PLCシステムにおけるインパルス性雑音を検出して雑音の特性を学習し、最適な通信方式、通信周波数、通信パラメータを決定する。車載PLCシステムでは、最適化装置にて特定された通信条件にて通信を行なうように、例えば、車両の組み立て後の試験終了時、車検時などに設定を行なう。
図29は、実施の形態5における車載PLCシステムの構成を示すブロック図である。なお、実施の形態5における車載PLCシステムの内、最適化装置9以外の構成については、実施の形態1における車載PLCシステムと共通する。共通する構成部については、実施の形態1と同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
実施の形態5における車載PLCシステムは、ECU1,1,…と、ECU1,1,…から送信される制御データにより作動するアクチュエータ2,2,…と、ECU1,1,…及びアクチュエータ2,2,…夫々に電力を供給するための電力線3,3,…と、電力線3,3,…を介して各装置へ電力を供給するバッテリ4と、電力線3,3,…の分岐及び中継のためのジャンクションボックス5と、当該車載PLCシステムにおける通信を最適化する最適化装置9とを含んで構成される。実施の形態5でも、ECU1,1,…は、電力線3,3,…を介し、FlexRayのプロトコルに基づく通信を行なうようにしてある。
図29に示すように、実施の形態5における最適化装置9は、電力線3,3,…の任意の箇所に接続される。最適化装置9は、各電力線3における電圧値(信号レベル)を所定の間隔で測定した結果に基づいてインパルス性雑音の特徴量を求め、当該特徴量から各電力線3,3,…での最適な通信方式、通信周波数及びその他のパラメータを決定する機能を発揮する。
図30は、実施の形態5における車載PLCシステムに含まれる最適化装置9の内部構成を示すブロック図である。最適化装置9は、制御部90と、記憶部91と、一時記憶部93と、測定部94とを備える。制御部90は、CPUを用い、記憶部91に記憶されている最適化プログラム92に基づき、最適化処理を実行する。記憶部91は、ハードディスク、EEPROM、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリを用い、最適化プログラム92を記憶している他、検出された雑音について求められたインパルス性雑音特徴量95を記憶しておく。また、記憶部91には、実施の形態5における車載PLCシステムにおいて適した通信方式、通信周波数、又は通信パラメータ等の通信条件の候補(通信条件候補群96)が記憶されている。一時記憶部93は、DRAM、SRAM等のメモリを用い、制御部90の処理によって発生するデータを一時的に記憶する。
測定部94は、電力線3,3,…における電圧値を所定の間隔で測定し、測定結果を記憶部91又は一時記憶部93に記憶する。測定部94は、複数の端子を有して夫々、電力線3における複数の測定箇所における電圧値を測定できるようにしてあってもよい。測定における所定の間隔は、例えば0.01μsec(100MHz)である。
なお、最適化装置9は、パーソナルコンピュータを用いてもよいし、雑音検出及び最適化専用の装置とすべく、各構成部の機能を発揮する構成要素を含むFPGA、DSP、ASIC等により構成されてもよい。
最適化装置9の制御部90は、最適化プログラム92に基づき、図30に示すような各機能を発揮し、測定部94にて測定して取得した所定の間隔毎の電圧値(観測系列)からインパルス性雑音を検出する処理を実行し、インパルス性雑音を検出した場合は当該インパルス性雑音の特徴量を求め、当該特徴量から最適な通信条件を特定する処理を実行する。図31は、実施の形態5における車載PLCシステムに含まれる最適化装置9にて実現される機能を示す機能ブロック図である。
制御部90は、最適化プログラム92に基づき、観測系列の雑音特性に対応するパラメータを推定するパラメータ推定部901、推定されたパラメータに基づきインパルス性雑音の発生の有無を判断して検出するインパルス性雑音検出部905として機能する。パラメータ推定部901の機能は、パラメータの初期値を決定する初期値決定部902、BWアルゴリズムを用いて初期値から、観測系列の尤度を極大化する雑音特性を算出するBWアルゴリズム算出部903、及びパラメータ出力部904としての機能を含む。
なお、最適化装置9のパラメータ推定部901、及び当該パラメータ推定部901の詳細に対応する初期値決定部902、及びBWアルゴリズム算出部903及びパラメータ出力部904の機能は、実施の形態1における雑音検出装置6の制御部60によるパラメータ推定部601、及び当該パラメータ推定部601の詳細に対応する初期値決定部602、及びBWアルゴリズム算出部603及びパラメータ出力部604の機能と同一である。また、インパルス性雑音検出部905の機能も、インパルス性雑音検出部605の機能と同一である。したがって、詳細な説明は省略する。
更に、制御部90は、最適化プログラム92に基づき、検出したインパルス性雑音の特徴量を算出するインパルス性雑音特徴量算出部906、及びインパルス性雑音特徴量に基づき、最適な通信条件を決定する最適候補決定部907としても機能する。なお、インパルス性雑音特徴量と、最適候補との対応を予め記憶部91に記憶しておき、制御部90が最適候補決定部907としての機能により参照するようにしてもよい。
図32は、実施の形態5における最適化装置9により実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、図32のフローチャートに示す処理手順の内、ステップS1〜S8までの処理は、実施の形態1の図9のフローチャートに示したステップS1〜S8の処理手順と同一である。又は、実施の形態2の図17のフローチャートに示したステップS1、S2、S51〜S58、S7及びS8の処理手順と同一でもよい。したがって、これらの手順については図示を省略し、詳細な説明を省略する。
なお、以下に示す処理手順は、車両の組み立て時の試験中、又は出荷後に随時行なわれる。
制御部90は、測定部94により取得した測定データ(観測系列)(S1)から、FlexRayのコミュニケーションサイクル単位分のデータを抽出する(S2)。抽出されるデータの期間は、実施の形態5でも1msecとする。測定部94がサンプリングを行なう所定の間隔を100MHzとしたから、抽出データは100,000サンプル分の電圧値の系列である(K=100000)。
制御部90は、抽出された1msec分の抽出データ(K=100000サンプルの時系列電圧値)について、インパルス性雑音が発生している場合には(S6:YES、又はS53:YES)、隠れマルコフ性ガウス雑音モデルに基づく雑音特性を算出し(S3又はS57)、推定状態系列を算出し(S4、又はS58)、各時点でのインパルス性雑音を検出し(S7)、雑音データを記憶部91に記憶する(S8)。このとき雑音データは、ステップS3にて算出した雑音特性を表すパラメータ(チャネルメモリーγ、インパルス性雑音発生確率P1 、インパルス対背景雑音比R、背景雑音電力σG 2)である。なお、抽出データを含んでもよいし、推定される状態系列を含んでもよい。
次に制御部90は、ステップS3で算出したパラメータθ(雑音特性)から、雑音の特徴量を算出する(ステップS41)。抽出された当該期間におけるデータの内のインパルス性雑音のデータ、又は推定された状態系列を用いて算出してもよい。雑音の特徴量として例えば、インパルス性雑音の周波数、インパルス性雑音の発生間隔周期がある。
制御部90は、ステップS41で算出した雑音特徴量を、記憶部91に記憶し、インパルス性雑音特徴量95に追加する(ステップS42)。これにより、記憶部91のインパルス性雑音特徴量95は更新される。制御部90は、古い過去の特徴量を削除するようにしてもよい。
制御部90は、更新した記憶部91のインパルス性雑音特徴量95に基づき、通信条件候補群96から、最適な候補を特定し(ステップS43)、特定した候補を記憶部91に記憶しておき(ステップS44)、処理を終了する。
図32のフローチャートに示した最適化装置9の処理により、組み立て後又は出荷後の車両の車載PLCシステムにて実際に発生したインパルス性雑音のデータが蓄積される。そして、当該蓄積に基づき、最適化装置9の処理により、当該車両にて発生するインパルス性雑音を回避して良好に通信を行なうための最適な通信方式、通信周波数、又は他の通信パラメータが特定される。特定された通信方式、通信周波数又は通信パラメータは、記憶部91に記憶されているから、組み立て後、又は車検時などの機会に設定を行なうことにより、以後、インパルス性雑音を有効に回避する最適な周波数、通信方式等を用いた車載PLCが可能となる。したがって、経時的に変化し得る状況に応じて、インパルス性雑音の影響をでき得る限り受けない通信方式、周波数及びパラメータの適切な選定も可能である。
(実施の形態6)
実施の形態6では、発生するインパルス性雑音の周波数を避けて通信を行なう車載PLCシステムの例を説明する。
図33は、実施の形態6における車載PLCシステムの構成を示すブロック図である。なお、実施の形態6における車載PLCシステムの内、解析装置100、フィルタ部20、及び各ECUの詳細以外の構成については、実施の形態1における車載PLCシステムと共通する。共通する構成部については、実施の形態1と同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
実施の形態6における車載PLCシステムは、ECU1,1,…と、ECU1,1,…から送信される制御データにより作動するアクチュエータ2,2,…と、ECU1,1,…及びアクチュエータ2,2,…夫々に電力を供給するための電力線3,3,…と、電力線3,3,…を介して各装置へ電力を供給するバッテリ4と、電力線3,3,…の分岐及び中継のためのジャンクションボックス5と、当該車載PLCシステムにおけるインパルス性雑音を解析する解析装置100と、電力線3,3,…に夫々接続されている複数のフィルタ部20,20,…とを含んで構成される。実施の形態6でも、ECU1,1,…は、電力線3,3,…を介し、FlexRayのプロトコルに基づく通信を行なうようにしてある。
図33に示すように、実施の形態6における解析装置100は、電力線3,3,…の任意の箇所に接続される。解析装置100は、各電力線3における信号レベル(電圧値)を所定の間隔で測定した結果に基づき、インパルス性雑音の周波数を求める。解析装置100は、求めた周波数を基に、ECU1,1,…間の通信の搬送波の周波数を調整し、フィルタ部20が含む帯域制限フィルタを適応制御する。
図34は、実施の形態6における車載PLCシステムに含まれるフィルタ部20の内部構成を示すブロック図である。フィルタ部20は、帯域制限フィルタ(BRF:Band Rejection Filter)21と、AGC(Automatic Gain Control)アンプ22と、A/D変換器23とを含む。
帯域制限フィルタ21は、解析装置100の制御部からの指示に基づき、制限する周波数を調整することができる。AGCアンプ22は、搬送波の周波数が変化したとしても自動的に増幅率を調整する。
図35は、実施の形態6における車載PLCシステムに含まれる解析装置100の内部構成を示すブロック図である。解析装置100は、制御部101と、記憶部102と、一時記憶部104と、測定部105と、調整部106とを備える。制御部101は、CPUを用い、記憶部102に記憶されている解析プログラム103に基づき、電力線3に発生するインパルス性雑音を検出するか、又は発生するインパルス性雑音の周波数を推定して搬送波の周波数を変更するなどの処理を実行する。記憶部102は、ハードディスク、EEPROM、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリを用い、解析プログラム103を記憶している。また、記憶部102にはインパルス性雑音周波数情報107が記憶されている。インパルス性雑音周波数107は、複数の異なる既知の状況を定義する情報と、該情報に対応付けられたインパルス性雑音の周波数とからなる。一時記憶部104は、DRAM、SRAM等のメモリを用い、制御部101の処理によって発生するデータを一時的に記憶する。
測定部105は、電力線3,3,…における信号レベル(電圧値)を所定の間隔で測定し、測定結果を記憶部102又は一時記憶部104に記憶する。測定部105は、複数の端子を有して夫々、電力線3における複数の測定箇所における信号レベルを測定できるようにしてあってもよい。測定における所定の間隔は、例えば0.01μsec(100MHz)である。
調整部106は、各ECU1,1,…及び各フィルタ部20の帯域制限フィルタ21に接続されている。調整部106は、制御部101からの制御により、ECU1へ電力線通信部13の送受信機に内蔵される変調器及び復調器のローカルオシレータの周波数を調整するように、インパルス性雑音の周波数を通知する。また調整部106は、制御部101の制御により、インパルス性雑音の周波数を制限すべく帯域制限フィルタ21を適応制御する。
解析装置100は、パーソナルコンピュータを用いてもよいし、雑音検出及び周波数調整専用の装置とすべく、各構成部の機能を発揮する構成要素を含むFPGA、DSP、ASIC等により構成されてもよい。
解析装置100の制御部101は、解析プログラム103に基づき、図36に示すような各機能を発揮し、測定部105にて測定して取得した所定の間隔毎の信号レベル(観測系列)からインパルス性雑音を検出する処理を実行する。制御部101は、車両の組み立て時の試験中に予め、インパルス性雑音を検出しておき、検出したインパルス性雑音の周波数を求めて記憶する。又は制御部101は車両の出荷後、通信が行なわれる間に随時、インパルス性雑音を検出し、周波数を求めてもよい。
そして制御部101は、調整部106を用いて、算出して記憶してあるインパルス性雑音の周波数を基に搬送波の周波数を調整し、帯域制限フィルタ21を適応制御する処理を実行する。制御部101は、調整処理を組み立て時に予め行なう。又は制御部101は、随時発生するインパルス性雑音を検出して、リアルタイムにその周波数を求め、調整処理を行なってもよい。また、制御部101は、予め検出したインパルス性雑音について記憶してあるインパルス性雑音周波数情報107を記憶部102から読み出し、状況に応じて調整を行なってもよい。
図36は、実施の形態6における車載PLCシステムに含まれる解析装置100にて実現される機能を示す機能ブロック図である。制御部101は、解析プログラム103に基づき、観測系列の雑音特性に対応するパラメータを推定するパラメータ推定部1001、推定されたパラメータに基づきインパルス性雑音の発生の有無を判断して検出するインパルス性雑音検出部1005として機能する。パラメータ推定部1001の機能は、パラメータの初期値を決定する初期値決定部1002、BWアルゴリズムを用いて初期値から、観測系列の尤度を極大化する雑音特性を算出するBWアルゴリズム算出部1003、及びパラメータ出力部1004としての機能を含む。
解析装置100のパラメータ推定部1001、及び当該パラメータ推定部1001の詳細に対応する初期値決定部1002、及びBWアルゴリズム算出部1003及びパラメータ出力部1004の機能は、実施の形態1における雑音検出装置6の制御部60によるパラメータ推定部601、及び当該パラメータ推定部601の詳細に対応する初期値決定部602、及びBWアルゴリズム算出部603及びパラメータ出力部604の機能と同一である。また、インパルス性雑音検出部1005の機能も、インパルス性雑音検出部605の機能と同一である。したがって、詳細な説明は省略する。
更に、制御部101は、解析プログラム103に基づき、検出したインパルス性雑音の周波数を算出する周波数算出部1006としても機能する。制御部101は、周波数算出部1006の機能により算出したインパルス性雑音の周波数を、記憶部102のインパルス性雑音周波数情報107として記憶する。
図37は、実施の形態6における解析装置100により実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、図37のフローチャートに示す処理手順の内、ステップS1〜S7までの処理は、実施の形態1の図9のフローチャートに示したステップS1〜S7の処理手順と同一である。又は、実施の形態2の図17のフローチャートに示したステップS1、S2、S51〜S58、及びS7の処理手順と同一でもよい。したがって、これらの手順については図示を省略し、詳細な説明を省略する。
制御部101は、測定部105により取得した測定データ(観測系列)(S1)から、FlexRayのコミュニケーションサイクル単位分のデータを抽出する(S2)。抽出されるデータの期間は、実施の形態6でも1msecとする。測定部105がサンプリングを行なう所定の間隔を100MHzとしたから、抽出データは、100,000サンプル分の電圧値の系列である(K=100000)。
制御部101は、抽出された1msec分の抽出データ(K=100000サンプルの時系列電圧値)について、インパルス性雑音が発生している場合には(S6:YES、又はS53:YES)、隠れマルコフ性ガウス雑音モデルに基づく雑音特性を算出し(S3又はS57)、推定状態系列を算出し(S4、又はS58)、各時点でのインパルス性雑音を検出する(S7)。
制御部101は、ステップS3で算出したパラメータθ(雑音特性)から、雑音の周波数を算出し(ステップS91)、算出した周波数を、状況が既知である場合にはその状況を示す定義と対応付けて、記憶部102のインパルス性雑音周波数情報107に記憶する(S92)。
制御部101は、記憶した周波数を読み出して調整部106を用い、ECU1の送受信機へ送受信機に内蔵される変調器及び復調器のローカルオシレータの周波数を調整するように周波数を通知する(ステップS93)。制御部101は、調整部106を用い、インパルス性雑音の周波数を制限すべく帯域制限フィルタ21を適応制御し(ステップS94)、処理を終了する。
制御部101は、図37のフローチャートに示した処理手順の内、ステップS91及びS92については、車両の組み立て時に行なっておき、別途、車両PLCシステムの状況に応じて、ステップS93及びS94の処理を行なうようにしてもよい。
図37のフローチャートに示した解析装置100の処理により、組み立て後又は出荷後の車両の車載PLCシステムにて実際に発生するインパルス性雑音の周波数がインパルス性雑音周波数情報107として蓄積される。そして、当該蓄積に基づき、解析装置100の制御部101の処理により、当該車両にて発生するインパルス性雑音を回避して良好に通信を行なうことが可能となる。
実施の形態1乃至6では、事後確率の算出方法として図4及び式3〜式7に示した前方及び後方状態確率を用いた。事後確率を最大とするパラメータの算出方法はEM法による他の方法を用いてもよい。
また実施の形態1乃至6では、車載PLCシステムを例に電力線(通信媒体)に発生するインパルス性雑音の検出について説明した。しかしながら、本発明が電力線ではない通信線を介した通信におけるインパルス性雑音の検出にも適用できることは明らかである。更には、通信における雑音のみならず、信号線に発生するインパルス性雑音の検出に適用することも可能である。
なお、開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。