JP2011127115A - インクジェットエマルジョンインク - Google Patents
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Abstract
【課題】 顔料が安定に分散され乾燥性に優れるとともに、紙媒体に高品質な画像を形成することが可能なインクジェットエマルジョンインクを提供する。
【解決手段】 顔料と、水性液体と、油性液体と、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを含有するインクジェットエマルジョンインクである。前記ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、前記水性液体と前記油性液体とを乳化する。前記油性液体の少なくとも一部は、炭素数6〜9の脂肪族モノアルコールである。
【選択図】 なし
【解決手段】 顔料と、水性液体と、油性液体と、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを含有するインクジェットエマルジョンインクである。前記ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、前記水性液体と前記油性液体とを乳化する。前記油性液体の少なくとも一部は、炭素数6〜9の脂肪族モノアルコールである。
【選択図】 なし
Description
ここに記載する実施形態は、一般的にはインクジェットエマルジョンインクに関する。
近年では、水性成分と油性成分とを含むエマルジョンタイプのインクジェットインクが提案されている。そのようなインクは、水性インクおよび油性インクの双方の長所を、兼ね備えることができるためである。
紙媒体への記録に適したインクジェットエマルジョンインクに対する要求は、高まりつつある。すなわち、より優れた乾燥性および浸透性が求められ、より高品質な画像を紙媒体に形成できることが求められている。
本発明は、顔料が安定に分散され乾燥性に優れるとともに、紙媒体に高品質な画像を形成することが可能なインクジェットエマルジョンインクを提供することを目的とする。
一般的には、一実施形態によれば、インクジェットエマルジョンインクは,顔料と、水性液体と、油性液体と、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを含有する。前記ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、前記水性液体と前記油性液体とを乳化する。前記油性液体の少なくとも一部は、炭素数6〜9の脂肪族モノアルコールである。
以下、実施形態を具体的に説明する。
図1に示すインクジェット記録装置においては、用紙カセット100および101は、サイズの異なる用紙Pを収容している。供紙ローラ102または103は、選択された用紙サイズに対応した用紙Pを用紙カセット100または101から取り出し、搬送ローラ対104、105およびレジストローラ対106に搬送する。
搬送ベルト107は、駆動ローラ108と2本の従動ローラ109とによって張力が与えられている。搬送ベルト107の表面には所定間隔で穴が設けられ、搬送ベルト107の内側には用紙Pを搬送ベルト107に吸着させるため、ファン110に連結された負圧チャンバ111が設置されている。搬送ベルト107の用紙搬送方向下流には、搬送ローラ対112、113、および114が設置されている。
搬送ベルト107の上方には、画像データに応じてインクを用紙に吐出するインクジェットヘッドが4列配列されている。上流から、シアン(C)インクを吐出するインクジェットヘッド115C、マゼンタ(M)インクを吐出するインクジェットヘッド115M、イエロー(Y)インクを吐出するインクジェットヘッド115Y、ブラック(Bk)インクを吐出するインクジェットヘッド115Bkの順である。さらに、インクジェットヘッド115C、115M、115Y、および115Bkには、対応したインクが収容されているシアン(C)インクカートリッジ116C、マゼンタ(M)インクカートリッジ116M、イエロー(Y)インクカートリッジ116Y、ブラック(Bk)インクカートリッジ116Bkが設けられている。カートリッジは、それぞれチューブ117C、117M、117Y、117Bkによって、インクジェットヘッドに連結されている。
こうした構成のインクジェット記録装置の画像形成動作について述べる。
まず、画像処理手段(図示しない)により記録のための画像処理が開始され、記録のための画像データが各インクジェットヘッド115C、115M、115Y、115Bkに転送される。また、用紙カセット100または101から給紙ローラ102または103により選択された用紙サイズの用紙Pを一枚ずつ取り出し、搬送ローラ対104、105およびレジストローラ対106に搬送する。レジストローラ対106は用紙Pのスキューを補正し、所定のタイミングで搬送を行なう。
負圧チャンバ111は搬送ベルト107の穴を介して空気を吸い込んでいるので、用紙Pは搬送ベルト107に吸着された状態でインクジェットヘッド115C、115M、115Y、115Bkの下側を搬送される。このことで、インクジェットヘッド115C、115M、115Y、115Bkと用紙Pとは一定の間隔を保つことができる。レジストローラ対106から用紙Pが搬送されるタイミングに同期させて、各インクジェットヘッド115C、115M、115Y、115Bkから各色のインクを吐出させる。こうして、用紙Pの所望に位置にカラー画像が形成される。画像が形成された用紙Pは搬送ローラ対112、113および114によって排紙トレイ118に排紙される。
各インクカートリッジには、一実施形態にかかるインクジェットエマルジョンインクが収容される。
本実施形態にかかるインクジェットエマルジョンインクは、水性液体と油性液体とポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と顔料とを含有している。油性液体は、いわゆる非水溶性液体である。顔料は、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油により乳化した水性液体と油性液体との乳化液中に分散される。
そのような乳化液が分散媒として用いられるので、本実施形態にかかるインクジェットエマルジョンインクは、水性インクと油性インクとの両方の特性を有している。すなわち、本実施形態のインクは、乾燥性および浸透性に優れ、高品質の画像を紙媒体に形成することができる。しかも、インク中における顔料の分散安定性が優れているので、プリンターヘッドのノズルから安定して吐出することが可能である。
本明細書において、紙媒体とは、一般的には、印刷されることを目的に使用される紙製の媒体をさす。印刷特性を高めるための材料が塗布されたアート紙やコート紙などの塗工用紙と、紙自体の特性を生かした非塗工用紙とに大別される。紙媒体は、本、書籍、新聞、包装、およびプリンター用紙など、種々の用途に用いられる。また、段ボール、紙製の容器、およびボール紙などの厚紙も紙媒体に含まれる。例えば、オフィスや家庭で使用する複写機、プリンターに使用されるコピー用紙のような、いわゆる普通紙は、典型的な紙媒体である。
上述したように一実施形態においては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油により水性液体と油性液体とが乳化され、この乳化液中に顔料が分散される。
顔料は特に限定されず、無機顔料および有機顔料のいずれを用いてもよい。無機顔料としては、例えば酸化チタンおよび酸化鉄が挙げられる。さらに、コンタクト法、ファーネス法、またはサーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料(アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、およびアニリンブラックなどを使用できる。
ブラックインクとして使用されるカーボンブラックとしては、具体的には、No.2300,No.900,MCF88,No.33,No.40,No.45,No.52,MA7,MA8,MA100,No2200B等(三菱化学製)、Raven5750,Raven5250,Raven5000,Raven3500,Raven1255,Raven700等(コロンビア社製)、Regal 400R,Regal 330R,Regal 660R,Mogul L,Monarch 700,Monarch 800,Monarch 880,Monarch900,Monarch 1000,Monarch 1100,Monarch 1300,Monarch 1400等(キャボット社製)、Color Black FW1,Color Black FW2,Color Black FW2V,Color Black FW18,Color Black FW200, Color Black S150,Color Black S160,Color Black S170,Printex 35,Printex U,PrintexV,Printex 140U,Special Black 6,Special Black 5,Special Black 4A,およびSpecial Black 4等(デグッサ社製)などが挙げられる。
イエローインクに使用される顔料としては、具体的には、C.I.Pigment Yellow 1,C.I.Pigment Yellow2,C.I.Pigment Yellow 3,C.I.Pigment Yellow 12,C.I.Pigment Yellow 13,C.I.Pigment Yellow 14C,C.I.Pigment Yellow 16,C.I.Pigment Yellow 17,C.I.Pigment Yellow 73,C.I. Pigment Yellow 74,C.I.Pigment Yellow 75,C.I.Pigment Yellow 83,C.I.Pigment Yellow93,C.I.Pigment Yellow95,C.I.Pigment Yellow97,C.I.Pigment Yellow 98,C.I.PigmentYellow 109,C.I.Pigment Yellow 110,C.I.Pigment Yellow 114,C.I.Pigment Yellow 128,C.I.Pigment Yellow 129,C.I.Pigment Yellow 138,C.I.Pigment Yellow 150,C.I.Pigment Yellow 151,C.I.Pigment Yellow 154,C.I.Pigment Yellow 155,C.I.Pigment Yellow 180,およびC.I.Pigment Yellow 185等が挙げられる。
マゼンタインクに使用される顔料としては、具体的には、C.I.Pigment Red 5,C.I.Pigment Red7,C.I.Pigment Red 12,C.I.Pigment Red 48(Ca),C.I.Pigment Red 48(Mn),C.I.Pigment Red 57(Ca),C.I.Pigment Red 57:1,C.I.Pigment Red 112,C.I.Pigment Red 122,C.I.Pigment Red 123,C.I.Pigment Red 168,C.I.Pigment Red 184,C.I.Pigment Red 202,およびC.I.Pigment Violet19等が挙げられる。
シアンインクに使用される顔料としては、具体的には、C.I.Pigment Blue 1,C.I.Pigment Blue 2,C.I. Pigment Blue 3,C.I.Pigment Blue 15:3,C.I.Pigment Blue 15:4,C.I.Pigment Blue 15:34,C.I.Pigment Blue 16,C.I.Pigment Blue 22,C.I.Pigment Blue 60,C.I.Vat Blue 4,およびC.I.Vat Blue 60が挙げられる。
インクジェットインクであるので、顔料の平均粒径は10〜300nm程度の範囲内であることが好ましい。さらに顔料の平均粒径は、10〜200nm程度の範囲内であることがより好ましい。
顔料の平均粒径は、動的光散乱法を用いた粒度分布計を用いて測定することができる。粒度分布計としては、例えば、HPPS(マルバーン社)が挙げられる。
顔料は、顔料分散体の状態で用いることができる。顔料分散体は、例えば、分散剤により水やアルコール中などに顔料を分散させて調製することができる。分散剤としては、例えば、界面活性剤、水溶性樹脂、および非水溶性樹脂などが挙げられる。あるいは、分散剤を使用せずに、水等に分散可能な自己分散顔料の形態として用いてもよい。自己分散顔料とは、顔料に表面処理を施して、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、およびスルホン基の少なくとも一種の官能基またはその塩を結合させた顔料である。表面処理としては、例えば、真空プラズマ処理、ジアゾカップリング処理、および酸化処理等が挙げられる。こうした表面処理により官能基または官能基を含んだ分子を顔料の表面にグラフトさせることによって、自己分散顔料が得られる。
インク中における顔料の含有量は、インク全量の2〜20wt%の範囲が好ましい。この範囲内であれば、インクの保存安定性や吐出性能に関して不都合を伴なうことなく、必要な画像濃度を有する印刷物を形成することができる。インク中における顔料の含有量は、2〜10wt%の範囲がより好ましい。
顔料分散体と、所定の混合液からなる分散媒とを配合することによって、本実施形態にかかるインクジェットエマルジョンインクが得られる。分散媒は、水性液体および油性液体と、乳化剤としてのポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを含む。分散媒は、水性液体と油性液体との乳化液である。こうした分散媒が用いられるので、本実施形態のインクは、水性インクの利点と油性インクの利点とを有している。すなわち、紙媒体へのインクの浸透は、水性インクより迅速となって油性インクのレベルに近づけることできる。紙媒体からのインクの乾燥も同様に、水性インクよりも迅速となって油性インクのレベルに近づけることできる。しかも、形成される画像の品質は水性インク並みに高い。
本実施形態のインクジェットエマルジョンインクにおいて、水性液体の含有量は、インク全量の60〜75wt%の範囲内であることが好ましい。水性液体の含有量が少なすぎる場合には、油性液体の作用が大きくなりすぎて、紙媒体へのインクの浸透を抑制するのが難しくなる。水性液体の含有量が多すぎる場合には、得られる画像の品質は高められるものの、所望の浸透力を十分に確保することができない。インクの浸透による乾燥も遅くなる。水性液体の含有量は、インク全量の65〜70wt%であることがより好ましい。
水性液体の少なくとも60wt%は、水であることが望まれる。水性液体の全量が水の場合には、顔料の分散安定性に及ぼす影響がより小さくなるので、インク保存安定性が高められる。
水性液体は、水溶性化合物を含むことができる。この場合には、インクの粘度を調整し、保存安定性、保湿性が高められる。インクの吐出安定性も、よりいっそう高められる。水溶性化合物は、固体および液体のいずれであってもよい。
水溶性化合物としては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−ブタントリオール、3−メチルー1,3,5−ペンタントリオール、ソルビトール、マンニトール、およびマルチトールなどが挙げられる。
水性液体は、水溶性樹脂を含有してもよい。水溶性樹脂を配合することによって、本実施形態のインクジェットエマルジョンインクの粘度を所望の範囲に調整することができる。また、水溶性樹脂は、得られる印刷物の擦過性を高める作用を有する。水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、水溶性アクリル樹脂、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、デキストリン、カゼイン、およびペプチン等が挙げられる。特に、水溶性アクリル樹脂が好ましい。水溶性アクリル樹脂が含有されたインクは、紙などの記録媒体への定着性が向上する。しかも、インク中における顔料の分散性は、何等損なわれることもない。
本実施形態のインクジェットエマルジョンインクにおいて、油性液体の含有量は、インク全量の10〜30wt%の範囲内であることが好ましい。油性液体の含有量が多すぎる場合には、得られる画像の品質が劣化するおそれがある。一方、油性液体の含有量が少なすぎる場合には、水性液体の作用が大きくなって乾燥性が低下する。また、紙媒体の変形も生じやすくなる。油性液体の含有量は、インク全量の15〜20wt%がより好ましい。
油性液体の少なくとも一部は、炭素数6〜9の脂肪族モノアルコールである。モノアルコールとは、水酸基(OH基)が1つのアルコールをさす。炭素数6〜9の脂肪族アルコールは、浸透性の点では優れている。すなわち、炭素数6〜9の脂肪族アルコールを含有するインクは、紙中に染み込みやすい。しかしながら、炭素数6〜9の脂肪族アルコールは、安定な乳化液を調製することが困難であった。本発明者らは、炭素数6〜9の脂肪族モノアルコールと水性液体との乳化液を得るための最適な乳化剤を見出した。すなわち、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油である。この乳化剤については後述する。
炭素数6〜9の脂肪族モノアルコールのなかでも、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、およびn−ノナノールが好ましい。
脂肪族モノアルコールは、油性液体の少なくとも80wt%を占めることが好ましい。油性液体が紙中に残った場合には、にじみや光沢感が生じて印刷品質が低下する。前述の脂肪族モノアルコールは紙中に残りにくいので、油性液体の全量が前述の脂肪族モノアルコールの場合には、印刷品質を高めることができる。
油性液体は、以下のような非水溶性有機溶媒を含んでもよい。例えば、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、スピンドル油、およびマシン油などの鉱物油;アマニ油、ヒマシ油、大豆油、およびキリ油などの植物油などである。
油性液体の20wt%以下であれば、こうした非水溶性有機溶媒が含まれても、得られるインクの特性は何等損なわれることはない。例えば、ナフテン系オイルが油性液体の10wt%程度を占める場合には、浸透による乾燥性のさらなる向上といった効果が得られる。
本実施形態のインクジェットエマルジョンインクには、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が含有される。このポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、乳化剤として作用する。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の具体例を、以下に列挙する。例えば、エマノーンCH−25、エマノーンCH−40、エマノーンCH−60(K)、およびエマノーンCH−80(いずれも花王社製);NIKKOL HCO−5、NIKKOL HCO−10、NIKKOL HCO−20、NIKKOL HCO−30、NIKKOL HCO−40、NIKKOL HCO−50、NIKKOL HCO−60、NIKKOL HCO−80、およびNIKKOL HCO−100(いずれも日光ケミカルズ社製);EMALEX HC−10、EMALEX HC−20、EMALEX HC−30、EMALEX HC−40、EMALEX HC−50、EMALEX HC−60(いずれも日本エマルジョン社製)などである。
ここで、n=a+b+c+x+y+zであり、10≦n≦60を満たす。
エマノーンCH−25、エマノーンCH−40、エマノーンCH−60(K)、およびエマノーンCH−80は、一般式(A)に該当する。
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、インクジェットインク全量の5〜20wt%で含有されていれば、何等不都合を伴なうことなく効果を発揮することができる。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の量は、インク全量の10〜20wt%より好ましい。
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を配合することによって、炭素数6〜9の脂肪族モノアルコールと水性液体との安定な乳化液を得ることが可能となった。
本実施形態のインクジェットエマルジョンインクにおいては、水性液体と油性液体とが乳化液に含まれている。水性液体と油性液体とは、紙媒体への浸透速度が異なる。具体的には、水性液体の浸透速度は遅く、油性液体は水性液体より速く浸透する。インクが紙媒体に浸透すると、水性液体と油性液体とは分離し始める。
インク中に含有される顔料は、水性液体と油性液体とが乳化した状態の乳化液中では安定に分散できる。水性液体と油性液体とが分離すると、インク中における顔料の分散安定性が低下する。水性液体と油性液体との相溶性が崩れるので、自ずと顔料の凝集が進むようになる。その結果、紙中への顔料の浸透が抑制される。
顔料が紙の表面近傍近に留まることから、得られる画像の濃度は油性インクを用いた場合より高められる。油性液体が分散媒の一部として含まれることによって、インク中の水性液体の含有量は、一般的な水性インクよりも低減される。その結果、カールやコックリングなど紙媒体に与える影響も抑制することができる。
またさらに、油性液体はそれ自体の表面張力が低いことから、インクの表面張力が低下する。油性液体を含まない水性インクでは、表面張力を抑制するために、界面活性剤を添加しなければならなかった。水性液体とともに油性液体が含有されることによって、必ずしも界面活性剤を配合する必要がなく、処方が簡素化された。
本実施形態にかかるインクジェットエマルジョンインクは、水性液体と油性液体とがポリオキシエチレン硬化ヒマシ油により乳化された乳化液と、顔料分散体とを混合して、調製することができる。得られた混合物に、必要に応じて添加剤を加えて、目的のインクジェットエマルジョンインクが得られる。
インクジェット記録用であるので、本実施形態にかかるインクジェットエマルジョンインクは、インクジェットプリンターにおけるヘッドのノズルからの吐出に適切な粘度を有することが必要である。具体的には、25℃における粘度が3〜50mPa・sであることが好ましい。30mPa・s以下であれば、吐出動作時におけるヘッド制御温度を比較的低く設定できる。
インクジェットエマルジョンインクの吐出性能、保湿性、保存安定性および適正物性値など、最適な特性条件に調整するために、効果が損なわれない範囲で、界面活性剤、保湿剤、樹脂などを別途配合してもよい。
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、およびジメチロールヘプタンEO付加物などが挙げられる。
さらに、アセチレングリコール系界面活性剤またはフッ素系界面活性剤を用いることもできる。アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチンー3,6−ジオール、および3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等が挙げられる。具体的には、サーフィノール104、61、465、485あるいはTG等(エアープロダクツ社製)である。
フッ素系界面活性剤としては、例えばパーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキルアミンオキシド、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、およびパーフルオロアルキルスルホン酸等が挙げられる。具体的にはメガファックF−443、F−444、F−470、F−494(大日本インキ化学工業社)、ノベックFC−430、FC−4430(3M社)、サーフロンS−141、S−145、S−111N、S−113(セイミケミカル社)である。
界面活性剤は、インク全重量の1.0%程度以下の重量で含有されていれば、何等不都合を伴なわずに効果を発揮することができる。
必要に応じて、pH調整剤、防腐剤・防かび剤等の添加剤を配合することができる。pH調整剤としては、例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、および水酸化ナトリウム等が挙げられる。
防腐剤・防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、および1,2−ジベンズイソチアゾリン−3−オン(ICI社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)などを使用することができる。
こうした添加剤を配合することによって、印字画像品質や保存安定性がさらに高められる。
以下に、インクジェットエマルジョンインクの具体例を示す。
上記表2に示した化合物のうち、OL1、OL2、およびOL3は、炭素数6〜9の脂肪族モノアルコールである。なお、OL6のグリコールエーテル系化合物は、具体的にはブチルプロピレングリコールであり、炭素数6〜9の脂肪族モノアルコールに該当する。OL7のジグリコールエーテル系化合物は、具体的にはブチルプロピレンジグリコールである。
ここで、n=a+b+c+x+y+zであり、10≦n≦60を満たす。
まず、下記表5に示す処方で各成分を配合して、No.1〜25のインクサンプルの分散媒(乳化液)を調製した。下記表5中、水性液体(W.lq)、油性液体(OL.lq.)、および乳化剤についての数値は、インク中におけるwt%を示している。
次に、下記表6に示されるように色成分をそれぞれ加えて、No.1〜25のインクサンプルを得た。
顔料としては、以下の自己分散型顔料を用意した。
D1:Cab−O−JET400B(Cabot社製)
D2:Cab−O−JET465M(Cabot社製)
D3:Cab−O−JET470Y(Cabot社製)
D4:Cab−O−JET450C(Cabot社製)
いずれにおいても、表面に官能基を有する顔料が水中に分散されている。この分散体中の水の量は、上記表5中の水性液体の量に含まれている。固形分(色顔料)の量を、下記表6に示した。
D2:Cab−O−JET465M(Cabot社製)
D3:Cab−O−JET470Y(Cabot社製)
D4:Cab−O−JET450C(Cabot社製)
いずれにおいても、表面に官能基を有する顔料が水中に分散されている。この分散体中の水の量は、上記表5中の水性液体の量に含まれている。固形分(色顔料)の量を、下記表6に示した。
得られたインクサンプルについて、保存安定性を調べた。
インクを、65℃の恒温槽に保管した。1週間後、インクの分離の有無、および粘度増加率を調べた。分離の有無は目視により確認した。粘度増加率は、100((V7−V0)/V0)にしたがって算出した。V7は1週間後の粘度であり、V0は初期の粘度である。粘度は、コーンプレート型粘度計VISCOMETER TV−22(東機産業社製)により測定した。
インクの分離の有無、および粘度増加率を総合して、以下の基準にしたがって保存安定性を評価した。
A:分離なし、かつ粘度増加率±10%未満
B:攪拌により消える分離が発生、かつ粘度増加率±10%未満
C:分離あり、または粘度増加率±10%以上
次に、普通紙として東芝コピーペーパー紙を用意し、印刷を行なって乾燥性および印刷品質を調べた。用いた記録装置に搭載されているヘッドは、CB−1(東芝テック製)である。
B:攪拌により消える分離が発生、かつ粘度増加率±10%未満
C:分離あり、または粘度増加率±10%以上
次に、普通紙として東芝コピーペーパー紙を用意し、印刷を行なって乾燥性および印刷品質を調べた。用いた記録装置に搭載されているヘッドは、CB−1(東芝テック製)である。
乾燥性の評価にあたっては、まず、普通紙の10mm×10mmの領域に、100%dutyでベタ印刷を行なった。所定の時間放置した後、印刷部分に新品の同普通紙を積層し、300gの重りを載置した。10秒経過後、積層された普通紙を剥離して、インクサンプルが付着しているかどうかを確認した。
ベタ印刷後、新品の普通紙を積層するまでの時間は、5秒後、10秒後、および30秒後の3種類とした。それぞれにおけるインク付着を目視により調べて、以下の基準にしたがって判定した。
A:5秒後で付着なし
B:5秒の場合付着あり、10秒後で付着なし
C:10秒の場合付着あり、30秒後で付着なし
印刷品質の評価にあたっては、まず、前述の普通紙に文字印刷およびベタ画像印刷を行なった。印刷された文字を目視により、にじみやフェザリングを判断した。また、X−Rite画像濃度測定器を用いてベタ印字画像濃度を調べ、表における画像濃度と裏における画像濃度とを調べた。
B:5秒の場合付着あり、10秒後で付着なし
C:10秒の場合付着あり、30秒後で付着なし
印刷品質の評価にあたっては、まず、前述の普通紙に文字印刷およびベタ画像印刷を行なった。印刷された文字を目視により、にじみやフェザリングを判断した。また、X−Rite画像濃度測定器を用いてベタ印字画像濃度を調べ、表における画像濃度と裏における画像濃度とを調べた。
また、(円周長)2/(4π×面積)により、印字画像のドットの形状係数を算出した。形状係数は、にじみの程度を定量化した評価値である。円周長および面積は、ドットアナライザーによる画像分析により求めた。ドット形状の不規則性が小さいと1に近い。表の画像濃度、裏の画像濃度、および形状係数を総合して、下記表7に示す基準にしたがって評価した。
3つの評価のうち、いずれか1つでも“C”の場合にはNGである。
上記表8に示されるように、No.10のインクは、保存安定性が劣っている。上記表5に示したように、No.10のインクに含有される油性液体はOL5であり、このOL5は炭素数10のn−デカノールであることが上記表2に示されている。脂肪族モノアルコールであっても、炭素数が6〜9でなければ、保存安定性を確保することができない。
No.12のインクは、保存安定性が劣っている。上記表5に示したように、No.12のインクに含有される油性液体はOL7であり、このOL7はジグリコールエーテル系化合物であることが上記表2に示されている。モノアルコールでないので、No.12のインクは保存安定性を確保することができない。
No.13のインクにおいては、保存安定性、乾燥性、および印刷品質が全て劣っている。上記表5に示したように、No.13のインクに含有される油性液体はOL8であり、このOL8は鉱物油であることが上記表2に示されている。油性液体が炭素数6〜9の脂肪族モノアルコールでなければ、所望の特性を備えたインクジェットエマルジョンインクが得られない。
No.16のインクにおいては、保存安定性が劣っている。上記表5に示したように、No.16のインクに含有される油性液体はOL4であり、このOL4は炭素数5のn−ペンタノールであることが上記表2に示されている。また、n−ペンタノールは揮発性が高く、安定な吐出性能を得ることが難しい。このように脂肪族モノアルコールであっても、炭素数が6〜9でなければ保存安定性を確保することができない。
No.25のインクにおいては、保存安定性が劣っている。上記表5に示したように、No.25のインクに含有される乳化剤はE6であり、このE6はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油ではない。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が含有されなければ、炭素数6〜9の脂肪族モノアルコールと水性液体とは安定に乳化しないことが、No.25の結果から確認された。
No.1〜9,11,14,15,17〜24のインクに含有される油性液体は、いずれも炭素数6〜9の脂肪族モノアルコールである。しかも、これらのインクにはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が含有されている。
こうした条件を備えているので、乾燥性および浸透性に優れたインクジェットエマルジョンインクが得られた。しかも、かかるインクは高品質の画像を紙媒体に形成することができる。
No.23,24のインクは、液体成分の含有量が異なる以外は、基本的にはNo.1と同様の組成である。No.1のインクは、保存安定性、乾燥性および印刷品質の全てにおいて、No.23,24より優れた結果が得られている。したがって、No.1の組成はNo.23,24より好ましいことがわかる。すなわち、本実施形態のインクにおいては、水性液体の含有量は60〜75wt%が好ましく、ポリオキシエチレン硬化ヒマシの含有量は、5〜20wt%が好ましい。
本実施形態のインクジェットエマルジョンインクは、顔料が安定に分散され乾燥性に優れるとともに、紙媒体に高品質な画像を形成することが可能である。
また、本実施形態のインクジェット記録方法により、顔料の分散安定性および乾燥性に優れたインクジェットエマルジョンインクを用いて、高品質な画像を形成することができる。
p…用紙; 100…用紙カセット; 101…用紙カセット; 102…給紙ローラ
103…給紙ローラ; 104…搬送ローラ対; 105…搬送ローラ対
106…レジストローラ対; 107…搬送ベルト; 108…駆動ローラ
109…従動ローラ; 110…ファン; 111…負圧チャンバ
112…搬送ローラ対; 113…搬送ローラ対; 114…搬送ローラ対
115C,115M,115Y,115Bk…インクジェットヘッド
116C,116M,116Y,116Bk…インクカートリッジ
117…チューブ; 118…排紙トレイ。
103…給紙ローラ; 104…搬送ローラ対; 105…搬送ローラ対
106…レジストローラ対; 107…搬送ベルト; 108…駆動ローラ
109…従動ローラ; 110…ファン; 111…負圧チャンバ
112…搬送ローラ対; 113…搬送ローラ対; 114…搬送ローラ対
115C,115M,115Y,115Bk…インクジェットヘッド
116C,116M,116Y,116Bk…インクカートリッジ
117…チューブ; 118…排紙トレイ。
Claims (18)
- 顔料と、
水性液体と、
少なくとも一部が炭素数6〜9の脂肪族モノアルコールである油性液体と、
前記水性液体と前記油性液体とを乳化するポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と
を含有することを特徴とするインクジェットエマルジョンインク。 - 前記脂肪族モノアルコールは、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、およびn−ノナノールからなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットエマルジョンインク。
- 前記油性液体は、前記インクジェットエマルジョンインクの10〜30wt%を占めることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェットエマルジョンインク。
- 前記脂肪族モノアルコールは、前記油性液体の少なくとも80wt%を占めることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェットエマルジョンインク。
- 前記水性液体は、前記インクジェットエマルジョンインクの60〜75wt%を占めることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェットエマルジョンインク。
- 前記水性液体の少なくとも60wt%は水であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェットエマルジョンインク。
- 前記一般式(A)において、n=25であることを特徴とする請求項7に記載のインクジェットエマルジョンインク。
- 前記一般式(A)において、n=40であることを特徴とする請求項7に記載のインクジェットエマルジョンインク。
- 前記ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、前記インクジェットエマルジョンインクの5〜20wt%を占めることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のインクジェットエマルジョンインク。
- 前記顔料は、前記インクジェットエマルジョンインクの2〜10wt%を占めることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のインクジェットエマルジョンインク。
- 前記顔料は、10〜300nmの平均粒径を有することを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載のインクジェットエマルジョンインク。
- 前記顔料は、表面に官能基またはその塩を有することを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載のインクジェットエマルジョンインク。
- 前記官能基は、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、およびスルホン基からなる群から選択されることを特徴とする請求項13に記載のインクジェットエマルジョンインク。
- 前記インクは、25℃における粘度が3〜50mPa・sであることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか1項に記載のインクジェットエマルジョンインク。
- 紙媒体に少なくとも1種のインク組成物をインクジェットヘッドから噴射して画像を形成する工程を具備し、
前記インク組成物は請求項1乃至15のいずれか1項に記載のインクジェットエマルジョンインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。 - 前記画像の形成は、1種類のインク組成物を用いて行なわれることを特徴とする請求項16に記載のインクジェット記録方法。
- 前記画像の形成は、異なる色の2種類以上のインク組成物を用いて行なわれることを特徴とする請求項16に記載のインクジェット記録方法。
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