JP2011089199A - 潤滑特性に優れた硬質皮膜およびその被覆方法ならびに、金属塑性加工用工具 - Google Patents

潤滑特性に優れた硬質皮膜およびその被覆方法ならびに、金属塑性加工用工具 Download PDF

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Abstract

【課題】 優れた潤滑特性と高硬度を有した硬質皮膜とその被覆方法、そして、これらの硬質皮膜を作業面に被覆した金属塑性加工用工具を提供する。
【解決手段】 他材と接する基体表面にアークイオンプレーティング法によって被覆される硬質皮膜であって、その硬質皮膜はNaCl型結晶構造における(111)面の半値幅が1.75°以上のチタン炭化物である。そして、これらの硬質被膜を作業面に被覆してなることを特徴とする金属塑性加工用工具である。
さらには、アークイオンプレーティングによる基体表面への硬質皮膜の被覆方法であって、チタンターゲットを用いたアークイオンプレーティング中には、基体に−120〜−150Vのバイアス電圧を印加しかつ、炉内圧力が2.8Pa〜3.8Paのメタンガスを導入することによって、基体表面にチタン炭化物からなる皮膜を被覆する硬質皮膜の被覆方法である。
【選択図】図1

Description

本発明は、例えば、金型といった治工具においては、その他材と接する作業面に被覆される機能性皮膜について、潤滑性に優れた硬質皮膜およびその被覆方法に関するものである。そして、これらの硬質皮膜を作業面に被覆してなる金属塑性加工用工具に関するものである。
従来、鍛造やプレスといった塑性加工には、冷間ダイス鋼、熱間ダイス鋼、高速度鋼といった工具鋼に代表される鋼や、超硬合金等を母材とする治工具が用いられてきた。そして、例えば金属の塑性加工に用いられる治工具の場合、その作業面は被加工材と激しく摺動することによって、表面が著しい損耗を起こす。このため、治工具の作業面には何らかの表面処理を施しておくことで、その耐摩耗性を高める対策が広く行われている。その中でもコーティング(被覆)技術は、ビッカース硬度で1000HVを超えるような硬質皮膜を、基体表面に密着性よく形成できることから、金型や切削工具の寿命改善に大きく寄与している。
しかしながら、このような治工具においては、特に上記の塑性加工用工具の作業環境がそうであるように、表面の耐摩耗性を高めるだけではなく、被加工材が凝着を起こさないよう、その潤滑特性をも高めることが非常に効果的である。この課題においては、例えばチタン(Ti)の炭化物は、高い耐摩耗性と摺動特性を兼ね備えることから、皮膜として治工具の表面に積極的に利用されている。このチタン炭化物の皮膜は、主に化学蒸着法(CVD法)によって形成されるものであるが(非特許文献1)、その他では、物理蒸着法(PVD法)の一種であるアークイオンプレーティング法によっても形成される(非特許文献2)。また、バナジウム炭化物(VC)の皮膜においても、従来のTD処理に加えて、上記のアークイオンプレーティング法による形成手段が提案されている(特許文献1)。
そして、上記の従来技術に対しては、本出願人は、チタン炭化物皮膜中にダイヤモンドライクカーボン(DLC)に代表されるspおよび/またはsp結合構造からなる炭素原子を分散させた硬質皮膜を提案した(特許文献2、3)。この硬質皮膜は、高硬度かつ潤滑特性にも優れるものであり、アークイオンプレーティング法によって金属塑性加工用工具の作業面に被覆される。
特開2002−371352号公報 国際公開第2008/078675号パンフレット 特開2009−091647号公報
テクノナレッジ・ネットワーク(2006)[独立行政法人産業技術総合研究所が運営する技術情報サイト](インターネット<URL:http://www.techno-qanda.net/dsweb/Get/Document-5294>) 株式会社東洋硬化ホームページ(2003)(インターネット<URL:http://www.toyokoka.com/bumon/arkion/arkion.htm>)
非特許文献1にある従来のCVD法や、そしてTD処理は、いずれも成膜温度が1000℃以上と高温であるため、基体に変形や変寸を生じやすい。よって、これらの被覆処理の結果、その被覆後の工具(金型を含む)形状を調整する必要が生じれば、そのための削り出し作業は容易ではない。一方、特許文献1や非特許文献2のPVD法は、処理温度が低いため、工具の変形や変寸の問題は少ない。そして皮膜特性としても、高い耐摩耗性と摺動特性を兼ね備える。しかし、更なる工具の寿命向上のためには、皮膜が優れた潤滑特性を有した上で、更に皮膜硬度を高めて、工具の耐摩耗性を向上させることが、大きな課題となっている。
そこで、本出願人が提案した特許文献1、2の硬質皮膜は、その潤滑特性に優れ、硬度も3000HVに及ぶものではあるが、更なる高硬度(例えば3300HV以上)の安定した達成を狙うとなれば、改良の余地があった。本発明は、優れた潤滑特性を維持した上では、特許文献1、2に比して更なる高硬度を達成し得る硬質皮膜とその被覆方法、そして、これらの硬質皮膜を作業面に被覆した金属塑性加工用工具を提供するものである。
本発明者らは、優れた潤滑特性を有しながらも、特許文献1、2に比して更に硬度を高めた硬質皮膜を達成するために、詳細な検討を重ねた。その結果、NaCl型結晶構造からなるチタン炭化物(TiC)の硬質皮膜においては、その皮膜中の結晶粒を微細化することで、皮膜の硬度が飛躍的に向上することを突きとめた。そして、この革新的な知見に併せて、この微細な結晶粒を達成するに好ましいチタン炭化物皮膜の被覆条件をも確立したことで、本発明に至った。
すなわち本発明は、他材と接する基体表面にアークイオンプレーティング法によって被覆される硬質皮膜であって、その硬質皮膜はNaCl型結晶構造における(111)面の半値幅が1.75°以上のチタン炭化物であることを特徴とする、潤滑特性に優れた硬質皮膜である。この硬質皮膜は、硬さが3300HV以上、および/または、非晶質炭素を含むことが望ましい。あるいはさらに、この硬質皮膜は、その基体表面との間にチタン窒化物からなる皮膜を有することがよい。そして、これらの硬質被膜を作業面に被覆してなることを特徴とする金属塑性加工用工具である。
また本発明は、アークイオンプレーティングによる基体表面への硬質皮膜の被覆方法であって、チタンターゲットを用いたアークイオンプレーティング中に、基体に−120〜−150Vのバイアス電圧を印加し、かつ、炉内圧力が2.8Pa〜3.8Paのメタンガスを導入することによって、基体表面にチタン炭化物からなる皮膜を被覆することを特徴とする、潤滑特性に優れた硬質皮膜の被覆方法である。メタンガスを導入する前には、窒素ガスを導入することによって、基体表面にチタン窒化物からなる皮膜を被覆しておくことが望ましい。
本発明によれば、その基本構成自体は従来のチタン炭化物でありながらも、潤滑特性に優れかつ、硬度は従来より飛躍的に高い硬質皮膜の提供が可能となる。そして、この被覆方法も特別高価な装置を必要としない。よって、この硬質被膜を作業面に適用した金属塑性加工用工具であれば、低コストにて、より長い寿命を達成できる。
本発明の硬質皮膜で得られるX線スペクトルの一例を示す図である。 本発明の硬質皮膜で観察される組織の一例を示す走査型電子顕微鏡写真である。 従来の硬質皮膜で得られるX線スペクトルの一例を示す図である。
本発明の特徴は、従来のチタン炭化物でなる硬質皮膜であっても、その結晶粒を微細化させることで皮膜硬度が飛躍的に向上できた点にある。そして、その皮膜の作製方法としては、PVD法の一種であるアークイオンプレーティング法を採用したことと、更にそれによる皮膜作製中のガス雰囲気にはメタンガスを積極的に導入して炉内圧力を制御し、かつ基体に印加するバイアス電圧こそを高い値で制御した点にある。
一般的に炭化物は、窒化物や酸化物によりも潤滑特性に優れており、その中でもチタン炭化物は、高い潤滑特性を有している。しかしながら、チタンと炭素のNaCl型でなる結晶質のチタン炭化物の場合、それを単純に被覆した従来の硬質皮膜の硬さは3000HV以下であった。そこで、チタン炭化物の結晶粒を微細化する本発明の手法を採用することで、上記の皮膜硬度は3000HVを超える域にまで向上し、更なる高硬度化を付加することができる。
そして一方では、結晶構造を有する物質中の結晶粒の大きさは、X線回折法によって得られる回折パターンに正確に反映される。つまり具体的には、物質中の実際の結晶粒(微結晶)の大きさに対しては、上記の回折パターンに現れる本物質のピークの広がり(半値幅)は決まりをもった反比例の関係にある。よって、物質中の結晶粒の大きさは、この半値幅によって間接的に特定することが可能である。
そこで、本発明では、その硬質皮膜であるチタン炭化物の結晶粒の大きさの程度を、NaCl型結晶構造における(111)面の半値幅が1.75°以上になるまで微細化することで、該皮膜の硬度が飛躍的に向上し、具体的には3300HV以上、更には3500HV以上、3700HV以上の高硬度皮膜を達成できる。本発明の半値幅は、Cu−Kα線によるθ−2θ法で測定したX線回折線において、その(111)面の相対強度が、バックグラウンドからそのピーク高さの2分の1になる部位の回析線の幅(全幅である)とした。そして、この半値幅が1.75°のときの、上記のチタン炭化物の結晶粒径は、約4.86nmであった。
一方、上記の半値幅が大きすぎる場合、これは結晶粒の微細化が進んで、非晶質の状態に近くなっていることを示している。そして、皮膜の基地自体が非晶質になると、本発明の結晶粒微細化効果に比しては、皮膜硬さが得られなくなる可能性が高い。よって、本発明の上記半値幅は、その基地皮膜自体の特性を害しない範囲、すなわちチタン炭化物の持つ結晶構造が極度に崩れない範囲とすることが好ましい。例えば、半値幅が1.90°以下であれば、その1.90°のときのチタン炭化物の結晶粒径は、約4.48nmであった。
本発明のチタン炭化物の微細化機構は、それを達成するための好ましい被覆方法は後述するが、その作用根幹は、上述の結晶粒を微細化するための成膜時の基体に印加する高いバイアス電圧と、メタンガスを導入して炉内圧力を特定の範囲で制御して、チタン炭化物を形成する炭素量に比しては、過剰量の炭素を導入することである。これは、チタン炭化物をPVD法で被覆する本発明においては、その成膜中の雰囲気を炭素リッチにすることであり、チタン炭化物の形成に使われない炭素原子が同炭化物結晶の成長抑制に作用するものである。そして、この結果としては、チタン炭化物の結晶質相でなる皮膜基地中に、好ましくは一部あるいは全部が非晶質相の炭素原子(非晶質炭素と呼ぶ)が分散することで、これは更なる皮膜の高硬度化と潤滑特性の向上に寄与する。
ここで上記の場合だと、CVD法などで形成される、実質がチタン炭化物の結晶質相のみでなる従来の硬質皮膜(3000HV程度)に比しては、本発明の硬質皮膜は非晶質を構成する以外の炭素(フリーカーボン等)も含み得ることから、この炭素自体が硬さ低下の要因となり得る。しかし、本発明の硬質皮膜は、上記の通り、基体となるチタン炭化物の結晶質相が微細に制御されていることから、上記炭素の存在をしてもなお、それを十分に補完できる3300HV以上の硬度を容易に達成することができる。そして、非晶質炭素に加えては、上記のフリーカーボン等であっても、それ自体は優れた潤滑特性(低い摩擦係数)を有することから、これらの結果として、本発明の好ましい硬質皮膜は、従来の粗大なチタン炭化物粒よりなる硬質皮膜に比べて、高硬度かつ優れた潤滑特性を同時に達成する。
また、本発明の場合、上記の基体表面と硬質皮膜の間には、チタン窒化物(TiN)でなる中間皮膜を形成することが、それら相互間の密着性を向上する点で好ましい。本発明が硬質皮膜に採用するチタン炭化物は高硬度であるため、基体上に直接被覆すると、その基体との硬度差が大きい場合、密着性が乏しくなる。そこで、チタン炭化物よりも硬さが低いチタン窒化物を中間層として用いれば、これが基体と硬質皮膜との硬度差を緩和する役割を果たすので、硬質皮膜の密着性を補償する。そして、その金属要素は、硬質皮膜と同じチタンとしているので、密着性の向上には好ましい。
さらに、上記の中間皮膜にチタン窒化物を適用すれば、それは金色という特別な色を呈している。よって、その上の硬質皮膜には異なる色の皮膜を被覆すれば、使用中に硬質皮膜が摩耗すると金色の層が露出してくるため、皮膜自体の摩耗状況(寿命)を色で判断することができる。このような理由からも、基体表面と硬質皮膜との間には、チタン窒化物を適用することが好ましい。そして、銀色を呈したチタン炭化物を硬質被膜に採用した本発明にとっては、このチタン窒化物との組合わせが、皮膜特性と色判断能の両機能を向上させる上で、より望ましい。
続いて、本発明の硬質皮膜の被覆方法について説明する。つまり具体的には、アークイオンプレーティングによる基体表面への硬質皮膜の被覆方法であって、チタンターゲットを用いたアークイオンプレーティング中には、前記の基体に−120〜−150Vのバイアス電圧を印加しかつ、炉内圧力が2.8Pa〜3.8Paのメタンガスを導入することによって、基体表面にチタン炭化物からなる皮膜を被覆する方法である。
まず、本発明の硬質皮膜の形成装置には、アークイオンプレーティング法を用いる。従来広く利用されているCVD法、そしてTD処理に代表される塩浴処理法は、その処理温度が高温であることから、被覆物質を形成時の化学反応が平衡状態に近い形で進行し、安定な化合物が形成される。これに対して、プラズマ状態を利用するアークイオンプレーティング法は、被覆物質の形成反応が非平衡を含む状態で進行する。よって、本発明のチタン炭化物の微細化機構に従っては、アークイオンプレーティング法であれば、化合物の形成に使われない炭素が多く存在する成膜環境を得られ易いので、本発明にとって好ましい装置要件である。
次に、微結晶のチタン炭化物でなる本発明の硬質皮膜を達成するためには、アークイオンプレーティング中の基体に印加するバイアス電圧の管理が重要となる。つまり、成膜中の基体に衝突するイオンのエネルギーは、バイアス電圧によって変化し、該電圧を高くする程(つまり、負圧の絶対値を大きくする程)、イオンエネルギーは大きくなる。また、このイオンエネルギーが大きくなると共に、皮膜の形成に必要なイオン同士の衝突エネルギーも大きくなる。この結果、本発明の硬質皮膜は、その結晶構造を保った状態ながらも、結晶粒の成長は抑制され、微細な結晶構造になると考えられる。よって、硬質皮膜の微細化を達成する本発明にとっては、上記のバイアス電圧を高く制御することが重要であり、具体的には、その負圧の絶対値にて120V以上とする。
なお一方では、上記のバイアス電圧が高くなりすぎると(負圧の絶対値が大きくなりすぎると)、成膜中の放電が不安定となり、皮膜の性質が安定しない。更には、異常放電が基体に損傷を与える懸念もある。よって、本発明では、上記のバイアス電圧は、その負圧の絶対値にて150V以下とする。以上のバイアス電圧の条件に従ったことで、あとはチタンターゲットの使用にメタンガスの導入をもって成膜された本発明の硬質皮膜(チタン炭化物)は、そのNaCl型結晶構造における(111)面の半値幅が1.75°以上の微結晶であり、ビッカース硬さも3300HV以上を達成し得る。
ここで、チタン炭化物の成膜中に導入するガスは実質、上記のメタンガスの1種とし、炉内圧力は2.8Pa〜3.8Paとする。そしてこの炉内圧力の時にはメタンガスの流量は、アークイオンプレーティング装置の容積(すなわち基体を装入するチャンバの容積)に対し、メタンガス流量/装置容積の値にて0.8×10−5〜1.5×10−5(s−1)である。
炉内圧力を2.8Pa〜3.8Paとするのは、これは、健全なチタン炭化物自体の形成に加えては、過剰炭素による結晶粒の成長抑制作用にとっても最適な条件のためである。つまり、炉内圧力が2.8Pa以上で、結晶粒成長抑制に起因する炭素の働きが強まり、皮膜の更なる硬さ向上が達成される。但し、3.8Paを越えると、チャンバ内および皮膜表面に“すす”状の物質が発生し、製品外観を悪くするばかりか、アークイオンプレーティング中のアーク放電が不安定となり易く、生産性に影響を及ぼすことになる。
また、メタンガス自体の流量については、炉内圧力を2.8Pa〜3.8Paとした上では、1.0×10−5(m/s)以上とすることが、硬質皮膜としてのトータル特性を維持する上で好ましい。より望ましくは、1.1×10−5(m/s)以上である。これに併せては、1.5×10−5(m/s)を上限に管理することが、更に望ましい。なお、メタンガスは他の炭化水素ガスよりも取り扱いが容易で好ましい。
また、メタンガスを導入する前には、窒素ガスを導入することによって、基体表面にチタン窒化物からなる皮膜を被覆しておくことが、既に述べた通りの、密着性の向上の点では好ましい。
本発明の硬質皮膜は、その基体となる金属材質について特段に定めるものではない。そして、例えば上記の通りの、冷間ダイス鋼、熱間ダイス鋼、高速度鋼および超硬合金等が使用できる。特には工具鋼が好ましい。これについては、JIS等による規格金属種(鋼種)を含め、従来工具への使用が可能な鋼種として提案のされてきた改良金属種も適用できる。
[試料の作製]
表面処理を行う基体として、硬さ64HRCに調整したJIS高速度工具鋼SKH51の板状試験片(幅15mm×長さ18mm×厚さ2mm)と、同円盤状試験片(直径20mm×厚さ5mm)を準備した。板状試験片はコーティングした皮膜の分析用、円盤状試験片は潤滑特性の評価試験用である。そして、これらの平面を鏡面機械研磨した後、アルカリ超音波洗浄を行った。
次に、これら2種の基体を一対とした試料No.1〜14に対し、チャンバ容積が1.4m(処理品の挿入空間は0.3m)のアークイオンプレーティング装置内において、温度773K、1×10−3Paの真空中で加熱脱ガスを行った後、723Kの温度でのArプラズマによるクリーニングを行った。
そして、装置内にはメタンガスを導入し、炉内圧力2〜5Pa、基体に印加するバイアス電圧は−50V〜−150Vに設定して、純Tiターゲット上にアーク放電を発生させ、723KのもとでアークイオンプレーティングによるTiC硬質皮膜のコーティングを行った。TiC硬質皮膜の厚さは、およそ2〜3μmとなる様、コーティング時間を調整した。
なお、試料No.2〜14は、TiC硬質皮膜を被覆する前の基体直上には、炉内圧力3Pa、基体に印加するバイアス電圧を−50V、723Kのもとで、窒素ガスのみを導入することで[流量:4.15(10−5/s)]、厚さがおよそ1〜2μmのTiN中間皮膜を被覆している。
そして一方では、上記の基体に対しては、その直上にCVD法によってTiCを被覆した試料No.15と、同じくTD法によってVCを形成した試料No.16を準備した。各試料のコーティング条件を表1に示す。
[試料の評価]
<硬質皮膜の半値幅の測定>
まず、板状試験片を用いて、その最表面に被覆された硬質皮膜の結晶構造を調べた。つまり、試料No.1〜16の硬質皮膜(TiC、VC)においては、そのNaCl型結晶構造における(111)面の半値幅を測定することで、その結晶粒の微細度を評価した。半値幅は、Cu−Kα線によるθ−2θ法で測定したX線回折線にて、その(111)面の相対強度がバックグラウンドからそのピーク高さの2分の1になる部位の回析線の幅(全幅である)とした。
<硬質皮膜の硬度の測定>
次に、板状試験片の最表面に被覆された硬質皮膜の硬度を、超微小硬度計を用いて測定した。測定装置には、CSM Instruments社製ナノハードネステスターを使用し、バーコビッチ圧子を用いて、試験片表面への最大荷重9.8mN、押し込み速度19.60mN/分、除荷速度19.60mN/分の条件で測定した。圧子の押し込み深さは、膜厚の10分の1の深さになるように設定した。そして、以上の条件による硬度測定を、各試験片毎に10点行い、その平均値を評価した。
<硬質皮膜の摩擦係数の測定>
そして、円盤状試験片を用い、その最表面に被覆された硬質皮膜の摩擦係数を測定することで、潤滑特性を評価した。摩擦係数は、相手材をJIS軸受鋼SUJ2とした時の動摩擦係数であり、測定装置には、ボールオンディスク型摩擦試験機(CSM Instruments社製トライボメーター)を使用した。測定条件は、常温、大気中にて、硬質皮膜の表面にSUJ2球(直径6mm)を2Nの荷重で押し付けながら、円盤状試験片を150mm/秒の速度で回転させたものである。試験距離は100mとし、その10〜100mの距離範囲において、10m刻み毎に測定した値(計10点)の平均値を、摩擦係数とした。以上の結果を、表2に示す。
〈硬質皮膜の密着性測定〉
皮膜表面に対し、ロックウェル硬さ試験機(株式会社ミツトヨ製AR−10)にてCスケールで圧痕を付けた、そして、その圧痕部位を光学顕微鏡にて観察することで、圧痕周辺の皮膜隔離有無を評価した。
アークイオンプレーティング法で被覆した炉内圧力3Paの試料No.1とNo.7〜13そして炉内圧力3.5Paの試料No.14の硬質皮膜については、そのチタン炭化物のNaCl型結晶構造を示す(111)面の半値幅は、成膜時のBias電圧の増加(負圧である)に比例して、拡がっている。そして、これに伴っては、皮膜硬さが向上している。特に、3300HV以上の高硬度を安定して達成するには、Bias電圧は120V以上(負圧である)が好ましい。
なお、Bias電圧または炉内圧力が外れる試料No.2〜8は、皮膜硬さが3300HV以下と従来水準である。
図1は、本発明試料No.13の硬質皮膜の表面のX線スペクトルであり、本発明で得られる典型的なX線スペクトルである。図1にはチタン炭化物のNaCl型結晶構造を示す(111)、(200)、(220)面からのピークが検出されており、本発明の硬質皮膜の基本構造が結晶質のチタン炭化物であることがわかる。そして、図2は、同硬質皮膜の断面組織を示す走査型電子顕微鏡写真(400万倍)であって、本発明の好ましい皮膜組織である。図2の場合、その皮膜構造は、チタン炭化物を基本とする微細な結晶質相(測定部においてTi:C[原子比]=46:54)と、それを取り囲む炭素主体の非晶質相(同39:61)からなっており、結晶質相のチタン炭化物粒径は約5nmである。本発明の好ましい硬質皮膜は、この微細な結晶質相に非晶質相を併せ持つことで、更なる高硬度化と低い摩擦係数を達成する。なお、本発明試料No.7〜14の皮膜構造も、チタン炭化物を基本とする微細な結晶質相と、それを取り囲む炭素主体の非晶質相からなっていた。
一方、CVD法で被覆した試料No.15の硬質皮膜のX線スペクトルは、図3の通りであり、その(111)面の半値幅は試料No.1〜14のそれに比較して狭い値である。つまり、試料No.15は、その実質が結晶質相のみで構成された従来のチタン炭化物(粒径約32.71nm)であることから、硬さも約3000HV程度であり、そして潤滑特性(摩擦係数)も従来の水準である。これについては、TD法によった試料No.16の硬質皮膜も同様である。
なお、比較試料No.2〜8の硬質皮膜については、その(111)の半値幅は従来試料No.15、16のそれに比べて大きいにもかかわらず、皮膜硬さは同等である。これは試料No.2〜8の硬質皮膜が、そのチタン炭化物の結晶粒は試料No.15、16よりも微細化されているものの、一方では、その微細化効果を薄めるフリーカーボン等も含んでいるからである。
本発明は、冷間ならびに温熱間における鍛造およびプレス加工など、金属の塑性加工に用いる工具の作業面に使用できる。また、その摺動特性を考慮すれば、ダイカストおよび鋳造に使用される金型、もしくは鋳抜きピンや、ダイカストの射出機に使用されるピストンリング等の、溶融金属に接して使用される鋳造用部材としても、その作業面への転用が可能である。更に、金型以外の治工具として、例えば機械の摺動部品や、切断刃などに適用することも可能である。

Claims (7)

  1. 他材と接する基体表面にアークイオンプレーティング法によって被覆される硬質皮膜であって、その硬質皮膜はNaCl型結晶構造における(111)面の半値幅が1.75°以上のチタン炭化物であることを特徴とする潤滑特性に優れた硬質皮膜。
  2. ビッカース硬さが3300HV以上であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑特性に優れた硬質皮膜。
  3. 硬質皮膜は、非晶質炭素を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の潤滑特性に優れた硬質皮膜。
  4. 硬質皮膜は、その基体表面との間に、チタン窒化物からなる皮膜を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の潤滑特性に優れた硬質皮膜。
  5. アークイオンプレーティングによる基体表面への硬質皮膜の被覆方法であって、チタンターゲットを用いたアークイオンプレーティング中には、前記の基体に−120〜−150Vのバイアス電圧を印加しかつ、炉内圧力が2.8Pa〜3.8Paのメタンガスを導入することによって、基体表面にチタン炭化物からなる皮膜を被覆することを特徴とする潤滑特性に優れた硬質皮膜の被覆方法。
  6. メタンガスを導入する前には、窒素ガスを導入することによって、基体表面にチタン窒化物からなる皮膜を被覆することを特徴とする請求項5に記載の潤滑特性に優れた硬質皮膜の被覆方法。
  7. 請求項1ないし4のいずれかに記載の硬質被膜を作業面に被覆してなることを特徴とする金属塑性加工用工具。
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