JP2011057457A - 水素吸蔵方法、水素吸蔵装置、及び水素吸蔵用炭素材料 - Google Patents

水素吸蔵方法、水素吸蔵装置、及び水素吸蔵用炭素材料 Download PDF

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Abstract

【課題】体積又は質量当たりに吸蔵できる水素密度が高く、貯蔵・輸送上の取扱が容易な水素吸蔵技術を提供する。
【解決手段】水素吸蔵方法は、炭素材料にガス賦活を施す工程(S1)と、ガス賦活工程により調整された前記炭素材料にアルカリ賦活を施す工程(S2)と、アルカリ賦活工程により作製された多孔質炭素を容器内に収容する工程(S3)と、容器内部を77〜150Kの範囲内の温度に保持しながら、平衡状態圧力が0.5〜6MPaになるように水素を該容器内部に導入する工程(S4)と、を含む。アルカリ賦活を施す工程(S2)では、炭素原料との重量比で3〜8倍の水酸化カリウムを添加することが好ましい。
【選択図】図1

Description

本発明は、炭素材料を用いた水素吸蔵方法及び水素吸蔵装置に関するものである。
昨今、石油資源の枯渇化と化石燃料による環境問題が懸念され、石油に代替する新たなエネルギー源の開発が喫緊の課題となっている。このエネルギー源の代替候補として、水素が注目されている。水素は燃焼生成物が水であるため、環境破壊の心配が無いクリーンなエネルギーである。
この水素エネルギーを実際に利用していくには、水素を有効に吸蔵、貯蔵、運搬する技術の確立が必要不可欠となる。現在、水素を輸送、貯蔵する技術としては、高圧ガス、液化水素、水素貯蔵合金、水素吸蔵材料などが提案されている(非特許文献1)。
(1)高圧ガス
この方法は、危険な高圧ガス(20〜35MPa)を取り扱うこと、容器は高圧に耐えるために主材料の鋼が厚肉化され重量が増大する(つまり体積又は質量当たりのエネルギー密度は小さい)といった問題点を抱えている。
(2)液化水素
液化水素は、気体と比べて体積が約800分の1であるため水素の優れた貯蔵方法である。しかし、水素の気化熱が小さいことに起因する気化(ボイルオフ)、超低温に耐える特殊な容器を要する点などが課題となる。また、液化温度が20K(−253℃)という極低温であるため取り扱いにくい。さらに、液化に必要なエネルギーが膨大であり(水素1kg当たりの液化工程で10〜14kWhの電力を要するため)トータルとしてのエネルギー効率が低いといった問題点がある。
(3)水素吸蔵合金
水素吸蔵合金への吸蔵も有力な方法である。しかし、水素吸蔵密度は通常2%程度であり、移動体などに用いるためには不十分であるばかりか重量が重くなりすぎる(1kgの水素を貯蔵するための水素吸蔵合金の重量は約50kgである)。さらに、水素放出時に多くの熱が必要であるためエネルギー効率が低くなることや、システムが複雑になるなどの欠点を有している。
(4)水素吸蔵材料
この技術は、水素の放出が常温で可能であるのでシステムが簡素である上、一般に水素放出時に熱を必要とせずエネルギー効率が高いなどの特徴があるため、材料の開発が盛んになされている。その中でも、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーなどの細孔炭素系材料が高い吸蔵量を示すとの報告(非特許文献2)があるが、再現性が疑問視されており、十分な再現性を持ちながら高い吸蔵性能を持つ水素吸蔵材料あるいは水素凝集材料の開発は未だ実現したとは言えない状況である。
大角泰章 編、「水素吸蔵合金‐その物性と応用‐」、アグネ技術センター、1993年 エー・チャンバース(A. Chambers)外,ジャーナル・オブ・フィジカル・ケミストリー(J. Phys. Chem.),(米国),B102巻,1998年,p.4253−4256
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、体積又は質量当たりに吸蔵できる水素密度が高く、貯蔵・輸送上の取扱が容易な水素吸蔵技術を提供することである。
本願の発明者は、鋭意検討の末、多孔質炭素内に配置された水素の周囲温度が水素液化温度(20.3K)より高くかつ通常気化状態とみなされる温度範囲であっても、水素液化温度に近い所定の温度域では、水素は液化水素が行う凝縮と同様な吸蔵挙動を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の一形態における水素吸蔵方法は、
炭素材料に炭化を施す工程と、
前記炭化工程により処理された前記炭素材料にアルカリ賦活を施す工程と、
前記アルカリ賦活工程により作製された多孔質炭素を容器内に収容する工程と、
前記容器内部を77〜150Kの範囲内の温度に保持しながら、平衡状態圧力が0.5〜6MPaになるように水素を該容器内部に導入する工程と、を含むことを特徴とするものである。
なお、前記炭化を施す工程は、炭化された前記炭素材料にガス賦活を施す工程をさらに含むことが好ましい。
また、本発明の一形態における水素吸蔵装置は、
炭素材料に炭化を施す手段と、
前記炭化手段により処理された前記炭素材料にアルカリ賦活を施す手段と、
前記アルカリ賦活手段により作製された多孔質炭素を容器内に収容する手段と、
前記容器内部を77〜150Kの範囲内の温度に保持しながら、平衡状態圧力が0.5〜6MPaになるように水素を該容器内部に導入する手段と、を含むことを特徴とするものである。
また、本発明の一形態における水素吸蔵用炭素材料は、
複数のミクロ孔を含んだ多孔質炭素からなり、
ミクロ孔比表面積が700〜2060m/gであり、かつ、
該ミクロ孔のポアサイズが1.1〜1.2nmの範囲においてミクロ孔容積が0.5〜5.07cm/g・nmであることを特徴とするものである。
以上のような構成をなす本発明は、次のような顕著な効果を奏する。
本発明によれば、非常に高い比表面積(700〜2060m/g)とミクロ孔(平均ミクロ孔径0.81〜1.2nm)を有した水素吸蔵用の多孔質炭素を作製することができる。
本発明によれば、水素を液化温度まで冷却しなくても、非常に高い水素吸蔵量(1.6〜4.03wt.%)を達成することができる。言い換えれば、本発明によれば、燃料電池自動車等に実際に要求される水素吸蔵量を満足することが可能である。
本発明に係る水素吸蔵方法の各工程を示したフローチャートである。 本発明によって作製された多孔質炭素のBET比表面積と水酸化カリウム(KOH)添加量の関係を示した図である。 本発明に係る多孔質炭素のミクロ孔の細孔径分布と細孔容積を示した図である。 細孔径分布から求めた平均細孔径とBET比表面積との関係を示した図である。 水素吸蔵特性評価装置の概略を示した図である。 水素平衡圧力と水素吸蔵量とを示した図である。 ミクロ孔比表面積と水素吸蔵量との関係を示した図である。 ミクロ孔容積と水素吸蔵量との関係を示した図である。 水素吸蔵量をもとに算出された水素密度を示した図である。
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づき説明するが、本発明は、下記の具体的な実施形態に何等限定されるものではない。
図1は、本発明に係る水素吸蔵方法の各工程を示したフローチャートである。図1では、まず炭素材料にガス賦活を施す(工程S1)。ここで、「賦活」とは、炭素材料に細孔構造を発達させ多孔質化する処理のことを意味する。さらに「ガス賦活」とは、炭素原料を400〜700℃で炭化し、さらに、この炭化物を750〜950℃の温度下で水蒸気や二酸化炭素と反応させることで微細孔を形成させる手法である。上記のように過熱水蒸気を利用したガス賦活を過熱水蒸気賦活と呼ぶ。
なお、炭素材料の出発原料として廃コーヒー豆や籾殻、椰子殻等の植物由来の材料が挙げられる。特に、廃コーヒー豆は大量に排出される割にリサイクルが進んでいない産業廃棄物であるため、これを有効利用することが望ましい。また、出発原料に廃コーヒー豆を使用する場合には、上述したガス賦活工程S1を行うことが望ましいが、他の出発原料、例えば、籾殻を使用する場合は、炭化がなされればよく、必ずしも上記ガス賦活を行う必要は無い。
次に、ガス賦活工程S1(又は炭化処理)により処理された炭素材料にアルカリ賦活を施す(工程S2)。
ここで、「アルカリ賦活」とは、薬品賦活の一種であり、炭素材料にアルカリ金属化合物を添加し、これを不活性雰囲気中で500〜800℃で焼成し、微細孔を持つ多孔質炭素を作製する方法である。このアルカリ賦活工程S2では、触媒のアルカリ金属元素(例えば、カリウム(K))がC−C結合の壊裂・分解を引き起こすことによって炭素原料は多孔質化する。添加するアルカリ金属化合物には、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)が挙げられる。
なお、KOHは、NaOHやLiOHに比べて触媒活性が高い点で好ましい。つまり、KOHは賦活プロセス中にカリウム(K)と水酸化物イオン(OH)とに分離し、直ちにカリウムKが炭素質のガス化反応の触媒として作用する。カリウムKは他のアルカリ金属と比較して、原子半径が大きく最外殻電子の束縛エネルギーが小さく、電気陰性度が低いため、ガス化反応の触媒としての能力が高い。また、植物由来の炭(炭素材料)にはカリウムKが本来数%以下程度含まれているので炭素材料との親和性の面からもKOHは好ましい。
アルカリ金属化合物の添加量としては、炭素材料との重量比で、好ましくは3〜8倍(さらに好ましくは約5倍)のアルカリ金属化合物を添加する。
具体的に説明すると、炭素材料は多数のグラフェンからなるグラファイト層が多数積層されているが、アルカリ賦活工程S2はグラファイト層間にミクロ孔の形成を促進することになる。ここで、「ミクロ孔」とは2nm以下の大きさの孔のことであり、これより大きな孔は、メソ孔(2〜50nmの孔)やマクロ孔(50nm以上の孔)と呼ばれる。言い換えれば、アルカリ賦活工程S2によって、比表面積の極めて高い多孔質炭素を作製することが可能になる。本発明の水素吸蔵方法により作製された多孔質炭素の比表面積(BET比表面積)は、700〜2100m/gとなり、その比表面積の大半が0.4〜2nmの大きさのミクロ孔で占められる。特に、アルカリ賦活工程S2においてアルカリ金属化合物を最適な量(例えば、炭素重量比で約5倍)にて添加すれば、比表面積が2000m/gで、かつ、0.8〜1.2nmの寸法に調整されたミクロ孔を備えた多孔質炭素を作製することができる。
以上のように作製された多孔質炭素を耐圧容器内に収容する(工程S3)。次に、この容器内部を水素の液化温度(20.3K)よりも高い77〜150Kの範囲内の温度に保持しながら、高圧の水素を該容器内部に導入する(工程S4)。ここで、水素導入後の平衡状態圧力が、好ましくは0.5〜6MPa(さらに好ましくは1〜2MPa)になるように水素を導入する。平衡状態圧力が0.5MPaより低いと多孔質炭素のミクロ孔に水素分子が十分に凝集・吸着されず、一方6MPaより高いと、過圧状態となり、多孔質炭素内での凝集・吸着性能が生かされない。
なお、容器内部(すなわち、多孔質炭素と水素)の温度は、室温に近づいて高ければ高い程、多くの利点がある。すなわち、温度を維持するための電力が少なくて済むとともに、温度維持のための装置を小型化することが可能となり、貯蔵・輸送上の水素の取扱が容易となる。しかしながら、容器内の水素が、液化水素のように高い水素密度で多孔質炭素のミクロ孔空間全体内に凝縮されていなければならない。そこで、本願発明者らの後述する検証によれば、容器内の水素が、液化温度に近い77〜150Kの温度であれば、液化状態の水素密度に近い密度で吸着挙動を示すことが明らかになった。
なお、本発明の多孔質炭素の比表面積の測定は、窒素ガスなどの吸着によって得られた吸着等温線から解析を行うBET吸着法を利用している。このBET吸着法によって測定された比表面積を以下、「BET比表面積」と呼ぶ。なお、このBET比表面積のうち、マクロ孔及びメソ孔が占める比表面積を除いた比表面積つまりミクロ孔が占める比表面積を「ミクロ孔比表面積」と呼ぶ。
また、本発明におけるミクロ孔の細孔径(ポアサイズ)測定には、Mikhailらによって提案されたMicro−pore法(MP法)を利用している。MP法では、まずBET吸着法により得られた単分子吸着量を用いて吸着層の厚みt(及び標準t−plot)が算出され、その後、細孔の表面積及び容積が算出されて、細孔径(ポアサイズ)が導かれる。
本発明の多孔質炭素の水素吸蔵量の測定には、容量法を利用している。容量法とは、一定体積の系内の水素量の変化を測定前後の圧力差、温度から求めるものである。具体的には、水素吸蔵合金の圧力−組成等温線(PCT線)を測定する方法(JIS H 7201)に準じて行われる方法であり、「ジーベルツ法」と呼ばれる。
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例においては、賦活処理工程前及び賦活工程中の炭素原料を「炭素材料」、賦活工程後の炭素原料を「多孔質炭素」と称する。
(実施例)
(ガス賦活工程S1)
炭素材料の出発原料として、廃コーヒー豆を用いた。廃コーヒー豆を恒温乾燥機中で120℃、24h(hは時間)乾燥処理した。メッシュ状ステンレス製容器に導入し、さらに通気性のステンレス製容器に挿入した後、直径1.0mm程度の竹炭粒子で周囲を覆った状態で過熱水蒸気発生装置(第一高周波工業製)内に設置した。まず、水蒸気流量45g/minの雰囲気下で500℃、1〜3hで炭化を行った後、水蒸気流量45g/min、COガス流量10l/minの雰囲気下で800℃、2hの水蒸気賦活を行うことで炭素材料を調製した。さらに得られた炭素材料を上記条件と同じ水蒸気賦活条件で4回賦活を繰り返し行うことで高比表面積活性炭様の炭素材料とした。
(アルカリ賦活工程S2)
水蒸気賦活工程S1により炭化及び調製された炭素材料にアルカリ賦活剤として水酸化カリウム(ナカライテスク製:KOH)を添加し、熱処理によって多孔質炭素を調製した。まず、炭素材料5.0gに該炭素材料の重量比で1〜8倍量のKOHを添加した後、ムライト製ルツボに導入し、上部をセラミックスウールで覆った。更に、SiC製ルツボに挿入した後、周囲を粒子炭で覆った状態で電気炉にセットし、大気密閉状態で昇温速度10℃/min、850℃、2hの条件でアルカリ賦活処理を行った(工程S2)。アルカリ賦活工程S2後、蒸留水による超音波洗浄を30分行った後、恒温乾燥機中で100℃、24hの条件で乾燥処理して多孔質炭素を得た。なお、表1にアルカリ賦活工程S2の賦活条件及び賦活後の比表面積を示す。ここで、表1に示すように、本発明の水素吸蔵用炭素材料(多孔質炭素)においては、比表面積全体(つまり、BET比表面積)のうち、ミクロ孔比表面積がその大半(九割以上)を占有していることに留意されたい。
Figure 2011057457
(多孔質炭素の比表面積)
図2に上記工程S1,S2によって作製された多孔質炭素のBET比表面積と水酸化カリウムKOH添加量の関係を示す。図示のように、KOH添加が1〜5倍量の範囲ではKOH添加量の増加と共に比表面積が増大し、5倍量の条件で2070m/gとなった。さらにKOH添加量を増加させて5〜8倍量の範囲で処理すると、多孔質炭素の比表面積はKOH添加量の増加と共に減少し、8倍量では1760m/gであった。なお、参考として、水蒸気賦活工程S1のみによって得た(つまり、KOH添加量が零の場合)炭素材料の比表面積は890m/gであった。
(多孔質炭素のミクロ孔の細孔径分布)
図3に、上記多孔質炭素について、MP法から算出したミクロ孔の細孔径分布と細孔容積を示す。細孔径(「ポアサイズ」とも呼ぶ。)0.6nm付近においては、KOHの添加量を1倍量から3倍量(図中KC1とKC3とを参照。つまり、BET比表面積を730m/gから1500m/g)にした場合、細孔容積(dV/dD)が1.06cm/g・nmから2.34cm/g・nmへと増大したが、KOHの添加量を3倍量から5倍量(図中KC3とKC5とを参照。つまり、BET比表面積が1500m/gから2070m/g)にした場合、余り増大しなかった。また、細孔径(ポアサイズ)1.1〜1.2nm付近では、細孔容積は、KOHの添加量を1倍量から5倍量(図中KC1〜KC5を参照。つまり、BET比表面積が780m/gから2070m/g)にした場合、0.58cm/g・nmから5.07cm/g・nmへと上昇した。
図4は、上記細孔径分布から求めた平均細孔径とBET比表面積との関係を示す。全ての多孔質炭素において、平均細孔径はミクロ孔サイズの範囲内にあった。BET比表面積が780m/gから2070m/gへと増大すると共に平均細孔径は0.81nmから1.11nmへと拡大した。
(水素吸蔵特性評価)
以上のようにして作製された多孔質炭素の水素吸蔵特性を上記ジーベルツ法により評価した。図5に水素吸蔵特性評価装置の概略を示す。多孔質炭素を約0.5g充填した容器をマントルヒーターにより150℃に加熱し、ターボ分子ポンプとロータリーポンプにより1.0×10−3Paの減圧下にて10hの脱ガス処理を行った。脱ガス処理後、容器を恒温槽に浸漬させ多孔質炭素を77Kに保持した(実施例1)。なお、77Kの場合、恒温槽として、液体窒素を満たしたデュワー瓶を利用した。
また、恒温槽温度つまり多孔質炭素の温度を77Kに代えて、100K(実施例2)又は150K(実施例3)に保持した場合についても評価した。
水素吸蔵量の測定は、図5の導入バルブVを開放して導入バルブVを閉鎖し、水素導入室に水素を導入する。水素導入室の圧力が一定になったら導入バルブVを解放して容器に水素を導入し、水素導入室と容器の圧力変化を測定した。水素導入室および容器の平衡圧力を0.5MPaから12.0MPaへと導入圧力を段階的に加圧することで吸蔵特性を測定し、さらに12.0MPaから0.5MPaへと導入圧力を段階的に減圧し、放出特性を測定することで水素吸蔵量を評価した。得られた水素吸蔵量から、Zuttelらの水素吸着理論式を用いて水素密度を算出した。
(比較例)
恒温槽の温度つまり多孔質炭素の温度を298K(比較例1)又は210K(比較例2)に設定した以外は、実施例と同様の方法で水素吸蔵特性を評価した。
(水素吸蔵特性結果)
図6に実施例1〜3の水素吸蔵特性と比較例1,2の水素吸蔵特性とを示した図である。図6に示す実施例及び比較例の結果は、該炭素原料との重量比で5倍の水酸化カリウムKOHを添加した多孔質炭素(表1のKC5を参照)を使用した場合の結果である。横軸は水素導入時の平衡圧力であり、縦軸は水素吸蔵量である。比較例1,2の場合、水素吸蔵量は水素平衡圧力0MPaから12MPaへと加圧するにつれて増加した。
一方、実施例1の場合、水素平衡圧力が0〜1MPa付近で水素吸蔵量が急激に増大し、2MPa程度で4.03wt.%と最大値を示した。なお、平衡圧力を2MPaからさらに増大させると却って水素吸蔵量が減少してしまい、10MPaでの水素吸蔵量は3.32wt.%となった。
また、実施例2の場合、水素平衡圧力が0〜1MPa付近で水素吸蔵量が急激に増大し、2〜3MPa程度で約2.6wt.%と最大値を示した。なお、平衡圧力を4MPaからさらに増大させると却って水素吸蔵量が減少してしまい、9MPaでの水素吸蔵量は約2.0wt.%となった。
また、実施例3の場合、水素平衡圧力が0〜3MPa付近で水素吸蔵量が増大し、4〜6MPa程度で約1.5wt.%と最大値を示した。なお、平衡圧力を6MPaからさらに増大させると却って水素吸蔵量が減少してしまい、9MPaでの水素吸蔵量は約1.3wt.%となった。ここで、実施例3は、実施例1,2の場合と同様に水素平衡圧力の上記制御範囲内で水素吸蔵量が上昇から下降に変曲点を有するが、その変化は顕著ではない。また、実施例1から実施例3に進む(つまり、多孔質温度を室温に近付ける)に従って、変曲点(つまり水素吸蔵量が最大となる点)が生じる平衡圧力は徐々に高圧側にシフトすることがわかる。
(比表面積と水素吸蔵量との関係)
表1に示す通り、実施例及び比較例の水素吸蔵特性評価においては、水酸化カリウムKOHの添加量の異なる多孔質炭素を幾つか用意して評価を行った。KOH添加量によって、ミクロ孔の比表面積や容積が調整された多孔質炭素が作製される。従って、図7では、横軸にミクロ孔比表面積を取り、縦軸にその比表面積を有した多孔質炭素の最大水素吸蔵量(実施例1では平衡圧力2MPa時の水素吸蔵量、比較例1では平衡圧力12MPa時の水素吸蔵量)を示す。
この図7に示すように、比較例1の場合、ミクロ孔比表面積の増大に伴い水素吸蔵量は低勾配で直線的に上昇している。これに対し実施例1の場合、ミクロ孔比表面積の増大に伴い水素吸蔵量は著しく増大しており、具体的には、ミクロ孔比表面積700〜2060m/gの範囲で1.59〜4.03wt.%と指数関数的に上昇している。
図8は、図7に使用したミクロ孔比表面積に代えてミクロ孔容積を横軸に取り、縦軸にそのミクロ孔容積を有した多孔質炭素の最大水素吸蔵量(実施例1では平衡圧力2MPa時の水素吸蔵量、比較例1では平衡圧力12MPa時の水素吸蔵量)を示す。この図8から、実施例1の場合、ミクロ孔容積に対して水素吸蔵量は直線的に増大していることがわかる。
図9は、上記水素吸蔵量をもとに算出された比較例1(298K)及び実施例1(77K)における水素密度を示す。比較例1では3.2〜5.7mg/cmと水素密度は非常に小さいが、実施例1では47.4〜69.6mg/cmと水素密度が大幅に上昇していることがわかる。なお、液体水素の理論密度が70.8mg/cmである。
以上のように、実施例1の場合、水素吸蔵量がミクロ孔容積に比例すること及び水素密度が液体水素の理論密度の約7〜9割に達することから、多孔質炭素内部に水素が限りなく液体状態に近い状態で充填されており、少なくとも液体に近い状態でミクロ孔の孔全体に万遍なく凝縮されている可能性が示唆される。一方、比較例1の場合、水素吸蔵量がミクロ孔比表面積に直線的に上昇することから、気化状態の水素が多孔質炭素のミクロ孔表面のみに吸着されている可能性が示唆される。
本発明は、燃料電池自動車の高性能化、これに関連する水素の製造、貯蔵、輸送技術に貢献できるものと考えられる。
また、近年、水素を液化状態で貯蔵する水素ステーション構想が提唱されているが、絶対温度20.3Kの下で水素を冷却・管理する必要があること、液化水素から発生する水素ガスを一時的に貯蔵しておくバッファーのような装置が必要とされることが課題として挙げられている。本発明を上記技術構想に適用すれば、必ずしも水素温度を液化温度に設定しなくてもよく(より室温に近付けた温度に設定すればよく)、水素貯蔵用のバッファー装置もより実現し易くなるものと考えられる。
以上のように、本発明は産業上の利用可能性が非常に高い。

Claims (9)

  1. 炭素材料に炭化を施す工程と、
    前記炭化工程により処理された前記炭素材料にアルカリ賦活を施す工程と、
    前記アルカリ賦活工程により作製された多孔質炭素を容器内に収容する工程と、
    前記容器内部を77〜150Kの範囲内の温度に保持しながら、平衡状態圧力が0.5〜6MPaになるように水素を該容器内部に導入する工程と、を含むことを特徴とする水素吸蔵方法。
  2. 前記炭化を施す工程は、炭化された前記炭素材料にガス賦活を施す工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵方法。
  3. 前記水素の平衡状態圧力を1〜2MPaに維持することを特徴とする請求項1又は2に記載の水素吸蔵方法。
  4. 前記アルカリ賦活を施す工程では、前記炭素材料との重量比で3〜8倍の水酸化カリウムを添加することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水素吸蔵方法。
  5. 前記アルカリ賦活を施す工程では、前記炭素材料との重量比で5倍の水酸化カリウムを添加することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水素吸蔵方法。
  6. 前記炭素材料の出発原料が、廃コーヒー豆、籾殻、又は椰子殻であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水素吸蔵方法。
  7. 前記多孔質炭素は、複数のミクロ孔を含み、ミクロ孔比表面積が700〜2060m/gであり、かつ、該ミクロ孔のポアサイズが1.1〜1.2nmの範囲においてミクロ孔容積が0.5〜5.07cm/g・nmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の水素吸蔵方法。
  8. 炭素材料に炭化を施す手段と、
    前記炭化手段により処理された前記炭素材料にアルカリ賦活を施す手段と、
    前記アルカリ賦活手段により作製された多孔質炭素を容器内に収容する手段と、
    前記容器内部を77〜150Kの範囲内の温度に保持しながら、平衡状態圧力が0.5〜6MPaになるように水素を該容器内部に導入する手段と、を含むことを特徴とする水素吸蔵装置。
  9. 複数のミクロ孔を含んだ多孔質炭素からなり、
    ミクロ孔比表面積が700〜2060m/gであり、かつ、
    該ミクロ孔のポアサイズが1.1〜1.2nmの範囲においてミクロ孔容積が0.5〜5.07cm/g・nmであることを特徴とする水素吸蔵用炭素材料。
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