ところで、体内埋植用の医療機器は、生体組織に対する毒性がなく、組織に対する刺激性の低い材料を用いて製作されているが、それでも、生体組織が体内に埋め込んだ機器を異物として捉え、線維芽細胞がその外周を取り囲んでカプセル化し、体内の正常な組織から隔離する反応が生じる。
そして、体内埋植機器に対するこのような反応は、1カ月前後で安定することが一般的であるが、上記従来の電極体を体内に埋植した場合には、治療のために送られる電気エネルギーの刺激などによって、生体組織の過度な線維化あるいは炎症を伴う線維化が発生する場合があった。
また、電極体を心嚢膜表面に設置すると、心臓の内部に設置する場合と比較し、心臓の拍動を妨げることなく、より広い接触面積(放電面、作用面の面積)を確保でき、低い電気エネルギー密度で除細動を行うことが可能になる。一方で、過度な生体組織の線維化が電極と心嚢膜との間で進行すると、除細動の閾値が上昇し、この閾値の上昇に伴って除細動に必要な電気エネルギー量が増加する。このため、電極体を心嚢膜表面に設置した場合であっても、生体組織の線維化の進行によって、効果的に電気エネルギー密度を低くすることができず、心臓への負担や患者の苦痛の増加、さらに電池寿命の短命化を招くことになる。
本発明は、上記事情に鑑み、生体組織の炎症、過度の線維化など、好ましくない生体反応を抑制可能な治療用電極体及びこれを備えた除細動器を提供することを目的とする。
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
本発明の治療用電極体は、治療対象の生体組織の表面に装着して、前記生体組織に電気エネルギーを印加するための治療用電極体であって、電気エネルギーを放出する電極と、非導電性材料を用いて形成され、前記治療対象の生体組織の表面に接する前記電極の一面のみを一面側に露出させて前記電極を保持する電極保持部と、前記電極保持部に一体に設けられ、薬剤を収容するとともに、収容した前記薬剤を前記電極保持部の一面側に放出させる薬剤収容/放出部とを備えて構成されていることを特徴とする。
この発明においては、治療対象の生体組織の表面に、電極保持部の一面側から露出した電極の一面を接触させるようにして体内に装着(埋植)することにより、電極から発せられた電気エネルギーが、非導電性材料を用いて形成した電極保持部によって治療対象の生体組織の反対側に漏出することがなく、電極の一面から治療対象の生体組織にのみ電気エネルギーを印加する(放出させる)ことが可能になる。
また、薬剤収容/放出部を備え、体内に埋植して体液が接触するとともに、この薬剤収容/放出部に収容した薬剤を電極保持部の一面側に溶出(放出)させることができる。このため、治療用電極体を体内に埋設することにより、生体組織の炎症、過度な線維化など、好ましくない生体反応を薬剤によって抑制することが可能になる。
また、本発明の治療用電極体においては、前記薬剤収容/放出部が多孔体を用いて形成されていることが望ましい。
この発明においては、薬剤収容/放出部が多孔体を用いて形成されていることにより、多孔体に薬剤を吸収させて収容保持することが可能になる。また、体液が多孔体に接触することにより、収容した薬剤を確実に放出させることができる。
さらに、本発明の治療用電極体においては、前記多孔体が多孔化されたシリコン系ポリマーであることがより望ましい。
この発明においては、多孔体として多孔化したシリコン系ポリマーを用いることにより、生体組織に対する毒性がなく、組織に対する刺激性が低い薬剤収容/放出部を形成することが可能になる。
また、本発明の治療用電極体においては、前記多孔体が焼結体であってもよい。
この発明においては、多孔体を焼結体にすることにより、気孔率を調節して、比較的容易に薬剤の収容量と放出速度を調節することが可能になる。これにより、所望の期間、適量の薬剤を順次放出させることが可能になり、効果的に生体組織の線維化、炎症などの好ましくない生体反応を抑制することが可能になる。
また、本発明の治療用電極体においては、前記薬剤収容/放出部が、前記電極保持部の一面の一部または全面を多孔化して形成されていてもよい。
この発明においては、電極保持部の一面に例えばレーザー照射などによって孔を形成することで、薬剤収容/放出部を形成することが可能になり、別途多孔体を電極保持部に保持させて薬剤収容/放出部を形成することを不要にできる。また、所望の薬剤収容量、薬剤放出速度に合わせて、薬剤収容/放出部の面積、数、配置(孔径、数、位置)を容易に調節することが可能になる。
さらに、本発明の治療用電極体においては、前記薬剤収容/放出部が、前記電極保持部の内部に形成されて前記薬剤を収容する空洞と、前記電極保持部の一面に開口し、前記空洞に連通させて形成した薬剤放出孔とを備えて形成されていてもよい。
この発明においては、空洞に薬剤を収容保持させ、薬剤放出孔から電極保持部の一面側に薬剤を放出させることが可能になる。また、電極保持部に空洞と薬剤放出孔を形成して薬剤収容/放出部を形成することが可能になるため、別途多孔体を電極保持部に保持させて薬剤収容/放出部を形成することを不要にできる。さらに、薬剤収容量に合わせて空洞の容積、配置、薬剤放出速度に合わせて薬剤放出部の孔径、数、位置をそれぞれ容易に調節することが可能であり、容易且つ確実に所望の薬剤収容量と所望の薬剤放出速度を設定することが可能になる。
また、本発明の治療用電極体においては、前記薬剤収容/放出部が繊維状材料を用いて形成されていてもよい。
この発明においては、繊維状材料を絡み合わせるなどして薬剤収容/放出部を形成することにより、絡み合った繊維状材料の間隙部分で収容した薬剤を、体液が接触するとともに放出させることが可能になる。
さらに、本発明の治療用電極体においては、前記繊維状材料が中空糸であることが望ましい。
この発明においては、中空糸の内部に薬剤を収容保持させることができ、この中空糸の内部から順次薬剤を放出させることが可能になる。
また、本発明の治療用電極体においては、前記電極保持部の一面側に露出する前記薬剤収容/放出部の一面内に前記電極の一面が配されるように形成されていることが望ましい。
この発明においては、電極の近傍から薬剤が放出されるため、生体組織の過度な線維化、炎症などの好ましくない生体反応をより効果的に抑制することが可能になる。
さらに、本発明の治療用電極体においては、前記電極保持部に、前記治療対象の生体組織の表面に固定するための縫合穴が設けられていることがより望ましい。
この発明においては、電極保持部に設けた縫合穴に縫合糸を通して、治療用電極体を生体組織に容易且つ確実に固定して装着することが可能になる。
また、本発明の治療用電極体においては、生体への埋植前に前記薬剤が前記薬剤収容/放出部に収容されていることが望ましい。
この発明においては、薬剤収容/保持部に予め薬剤を収容した状態で、治療用電極体を体内に埋植することができるため、患者への負担を軽減することが可能になる。
さらに、本発明の治療用電極体においては、前記薬剤がステロイド剤または免疫抑制剤であることが望ましい。
この発明においては、薬剤としてステロイド剤を用いることにより、確実に生体組織の炎症などを抑制することが可能になる。また、薬剤として免疫抑制剤を用いることにより、生体組織の炎症などを抑制することが可能になるとともに、体内に治療用電極体を埋植することによる拒絶反応を抑制することが可能になる。
本発明の除細動器は、心嚢膜表面に電極体を装着し、パルス発生器で生成した電気パルスを該電極体から心臓に印加することによって前記心臓の機能を回復させる除細動器において、前記電極体が上記のいずれかの治療用電極体であることを特徴とする。
この発明においては、上記の治療用電極体による作用効果を得ることが可能になる。
本発明の治療用電極体及び除細動器においては、電極の一面から治療対象の生体組織にのみ電気エネルギーを印加する(放出させる)ことが可能になる。また、薬剤収容/放出部に収容した薬剤を電極保持部の一面側に溶出(放出)させることができるため、治療用電極体を体内に埋設することにより、生体組織の炎症、過度な線維化など、好ましくない生体反応を薬剤によって抑制することが可能になる。
これにより、本発明の治療用電極体を植え込み型除細動器の電極体として用い、この治療用電極体を心嚢膜表面に埋植した場合であっても、生体組織の炎症や過度な線維化を抑制でき、除細動の閾値の上昇に伴う電気エネルギー量の増加を抑制することが可能になる。よって、放電面積を大きく確保することが可能になるとともに、心臓への負担や患者が受ける苦痛を軽減することが可能になる。また、除細動器(パルス発生器)に内蔵された電池寿命を長期化することが可能になる。すなわち、安全性の高い治療用電極体及び除細動器を提供することが可能になる。
以下、図1から図3を参照し、本発明の第1実施形態に係る治療用電極体及び除細動器について説明する。
本実施形態の除細動器Aは、例えば図1に示すように、不整脈が発生した心臓1に電気的な刺激を与えて、心臓1の機能を正常な状態に回復させるための植え込み型除細動器であり、電池とマイクロコンピュータを搭載したパルス発生器(不図示)と、リード線を介してパルス発生器に接続され、心臓1の心嚢膜表面1aに装着(体内に埋植)される一対の電極体Bとを備えて構成されている。
また、本実施形態の電極体B(治療用電極体B1)は、図2及び図3に示すように、一対の電極2、3と、電極保持部4と、薬剤収容/放出部5とを備えて形成されている。
一対の電極2、3は、パルス発生器で生成した電気パルス(電気エネルギー)を放出させるためのものであり、それぞれ、生体への溶出が少なく、耐食性に優れた白金イリジウムなどの合金を例えばプレス加工して、環状、且つ薄板状又は箔状に形成されている。また、これら一対の電極2、3はそれぞれ、リード線6の導線6aに接続して設けられている。なお、電極2、3は、線材やより線を用いて形成されていてもよい。また、電気エネルギーの伝達効率を上げる目的で、電極2、3の表面に窒化チタン、白金黒、酸化イリジウムなどをコーティングして、微細凹凸加工を施して形成されていてもよい。
電極保持部4は、略平板状に形成されるとともに、電極2、3の平面形状を維持し、心嚢膜1aの形状や心臓1の拍動に伴う変形に対して柔軟に追従可能で、且つ生体適合性に優れ、電気的に絶縁性を備えるシリコンゴム(非導電性材料)を用いて形成されている。例えばDow Corning社のMDX−4−4210やSilastic Q7−4840などのシリコンゴムが使用可能であり、また、Applied Silcon Incや、NuSil Technology LLCなどが製造する医療用グレードのシリコンゴムも使用可能である。
また、この電極保持部4は、短絡が生じないように間隔をあけた状態で一対の電極2、3を保持するように形成されている。このとき、電極保持部4は、その一面4aに、一対の電極2、3の電気パルスを放出する一面2a、3a(放出面、作用面)を露出させ、各電極2、3の他の表面を被覆して保持するように形成されている。これにより、各電極2、3から発せられる電気パルス(電気エネルギー)は、電極保持部4の一面4a側(各電極2、3の一面2a、3a側)にのみ放出され、他の表面から漏出することがない。
薬剤収容/放出部5は、非導電性の多孔体を用いて形成されており、この多孔体は、シリコンゴムを多孔化して形成されている。すなわち、本実施形態の薬剤収容/放出部5は、多孔化したシリコン系ポリマーを用いて形成されている。また、多孔体の材料には、電極保持部4と同様に、例えばDow Corning社のMDX−4−4210やSilastic Q7−4840などのシリコンゴムが使用可能であり、さらに、Applied Silcon Incや、NuSil Technology LLCなどが製造する医療用グレードのシリコンゴムも使用可能である。なお、このような薬剤収容/放出部5を多孔化して形成する場合には、適宜手段を用いればよいが、例えば、塩化ナトリウムの粒子を混入したシリコンゴムを硬化させた後に、塩化ナトリウムを洗浄除去することによって、多孔体を得ることが可能である(例えば、特開2004−195694号公報参照)。
そして、このように形成した薬剤収容/放出部(多孔体)5は、一対の電極2、3とともに電極保持部4に保持されている。このとき、本実施形態では、薬剤収容/放出部5が円板状に形成され、複数の薬剤収容/放出部5が環状の各電極2、3の内側や、一対の電極2、3の間に所定の間隔をあけて分散配置されている。また、各薬剤収容/放出部5は、その一面5aを電極保持部4の一面4a側に露出させた状態で保持されている。
さらに、薬剤収容/放出部(多孔体)5には、薬剤が収容保持されている。薬剤としては、ステロイド剤、免疫抑制剤などが用いられる。
ステロイド剤としては、例えばリン酸ベタンメゾンナトリウム、リン酸デキサメサゾンナトリウム、リン酸ベタメタゾンなどの水溶性ステロイド剤が挙げられる。なお、難水溶性、脂溶性のステロイド剤も、水性懸濁液として調製することにより利用可能である。この難水溶性、脂溶性のステロイド剤としては、デキサメタゾン、プロピオン酸デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、ベタメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、酪酸プロピオン酸ベタメタゾン、安息香酸ベタメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、プロピオン酸ベタメタゾン、酢酸パラメタゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、フルオロシノロンアセトニド、フルオロメトロン、ハルシノニド、デスオキシメタゾン、酢酸ジフロラゾン、酪酸クロベタゾン、ジフロラゾン、ゲンタマイシン、硫酸ゲンタマイシンなどが挙げられる。
免疫抑制剤としては、ラパマイシン、シロリムス、タクロリムス水和物、シクロスポリン、アザチオプリン、塩酸グスペリウム、ミゾリビンなどが挙げられる。
そして、上記構成からなる本実施形態の治療用電極体B1を製作する場合には、キャビティー内に一対の電極2、3及び多孔化して形成された薬剤収容/放出部5を配置して金型を型締めし、この金型のキャビティー内に電極保持部4を形成するための溶融シリコンゴムを充填する。充填したシリコンゴムが硬化し、金型を取り外すと、シリコンゴムの電極保持部4に一対の電極2、3と複数の薬剤収容/放出部5が一体に保持され、且つ電極保持部4の一面4aに各電極2、3の一面2a、3a及び薬剤収容/放出部(多孔体)5の一面5aが露出した治療用電極体B1が得られる。
また、このように製作した治療用電極体B1を、体内への埋植手術の前に、薬剤に浸漬させたり、一面2a、3a、4a、5a側(放電面、作用面側)に塗布するなどして、薬剤収容/放出部(多孔体)5に薬剤を吸収させ、収容保持させる。
そして、このように薬剤収容/放出部5に薬剤を収容保持させた段階で、患者の体内に一対の治療用電極体B1を埋植する。このとき、一対の治療用電極体B1は、一対の電極2、3、電極保持部4、薬剤収容/放出部5の各一面2a、3a、4a、5aが心嚢膜表面1aに接するようにして装着される。
このように一対の治療用電極体B1を装着した後に、リード線6をパルス発生器に接続し、このパルス発生器で生成した電気パルスを心臓1に放電させる(放電可能な状態にする)。このとき、本実施形態の治療用電極体B1及び除細動器Aにおいては、電極2、3の露出した一面2a、3aを心嚢膜表面1a側に配し、電極2、3の他の表面が非導電性の電極保持部4で被覆されているため、胸腔側などに電気パルスが漏出することがない。
一方、本実施形態の治療用電極体B1においても、従来の電極体と同様に、生体組織が体内に埋植した治療用電極体B1を異物として捉え、線維芽細胞がその外周を取り囲んでカプセル化し、体内の正常な組織から隔離する反応が生じる。また、治療のために送られる電気パルス(電気エネルギー)の刺激などによって、生体組織の線維化あるいは炎症を伴う線維化の発生を招くおそれがある。
これに対し、本実施形態においては、治療用電極体B1が多孔化したシリコン系ポリマーを用いた薬剤収容/放出部5を備えている。そして、埋植後の薬剤収容/放出部5に体液が接触すると、薬剤が体液に溶解し、薬剤収容/放出部5の一面5aから拡散溶出して、生体組織に放出される。このため、薬剤によって生体組織の炎症や過度な線維化が抑制される。また、薬剤収容/放出部5が多孔体を用いて形成されているため、電極2、3の一面2a、3a側に、順次溶出した適量薬剤が広範に放出されてゆく。
そして、薬剤収容/放出部5から放出される薬剤がステロイド剤である場合には、生体組織の炎症などが抑制される。また、薬剤が免疫抑制剤である場合には、生体組織の炎症などが抑制されるとともに、体内に治療用電極体B1を埋植することによる拒絶反応が抑制される。さらに、薬剤が免疫抑制剤である場合には、生体組織の炎症などが抑制されるとともに、体内に治療用電極体Bを埋植することによる拒絶反応が抑制される。
したがって、本実施形態の治療用電極体B1及び除細動器Aにおいては、心臓1の表面1a(治療対象の生体組織の表面)に、電極保持部4の一面4a側から露出した電極2、3の一面2a、3aを接触させるようにして治療用電極体B1を装着(埋植)することにより、電極2、3から発せられた電気エネルギー(電気パルス)が、非導電性材料を用いて形成した電極保持部4によって心臓1の反対側(胸腔側)に漏出することがなく、電極2、3の一面2a、3aから心臓1にのみ電気エネルギーを印加する(放出させる)ことが可能になる。
また、治療用電極体B1が薬剤収容/放出部5を備え、体内に埋植して体液が接触するとともに、この薬剤収容/放出部5に収容した薬剤を電極保持部4の一面4a側に溶出(放出)させることができる。このため、治療用電極体B1を体内に埋設することにより、生体組織の炎症、過度な線維化など、好ましくない生体反応を薬剤によって抑制することが可能になる。
これにより、治療用電極体B1を心嚢膜表面1aに埋植した場合であっても、生体組織の炎症や過度な線維化を抑制でき、除細動の閾値の上昇に伴う電気エネルギー量の増加を抑制することが可能になる。よって、放電面積を大きく確保することが可能になるとともに、心臓1への負担や患者が受ける苦痛を軽減することが可能になる。また、パルス発生器に内蔵された電池寿命を長期化することが可能になる。すなわち、安全性の高い治療用電極体B1及び除細動器Aを提供することが可能になる。
また、本実施形態の治療用電極体B1及び除細動器Aにおいては、薬剤収容/放出部5が多孔体を用いて形成されていることにより、多孔体に薬剤を吸収させて収容保持することが可能になる。さらに、体液が多孔体に接触することにより、収容した薬剤を確実に放出させることができる。
また、多孔体として多孔化したシリコン系ポリマーを用いることにより、生体組織に対する毒性がなく、組織に対する刺激性が低い薬剤収容/放出部5を形成することが可能になる。
さらに、生体への埋植前に薬剤が薬剤収容/放出部5に収容されているため、このように薬剤収容/保持部5に予め薬剤を収容した状態で、治療用電極体B1を体内に埋植することができる。このため、患者への負担をより確実に軽減することが可能になる。
また、薬剤としてステロイド剤を用いることにより、確実に生体組織の炎症などを抑制することが可能になる。さらに、薬剤として免疫抑制剤を用いることにより、生体組織の炎症などを抑制することが可能になるとともに、体内に治療用電極体B1を埋植することによる拒絶反応を抑制することが可能になる。
また、例えばリード線6に薬剤を封入することも考えられるが、このようにリード線6に薬剤を封入した場合、リード線6が受ける滅菌処理の多くがEOG(Eto)を使用するガス滅菌であり、本実施形態のように薬剤を治療用電極体B1の製造工程の後に付与することができない。すなわち、本実施形態の治療用電極体B1においては、滅菌工程に薬剤の品質が影響されることがない。
以上、本発明に係る治療用電極体及びこれを備えた除細動器の第1実施形態について説明したが、本発明は上記の第1実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、電極保持部4や薬剤収容/放出部5がシリコンゴムを用いて形成されているものとしたが、生体組織に対する毒性がなく、組織に対する刺激性が低い材料であれば、必ずしもシリコンゴムを用いることに限定しなくてもよい。
また、薬剤収容/放出部5が多孔化したシリコン系ポリマー(シリコン系ポリマーの多孔体)を備えて構成されているものとしたが、薬剤収容/放出部5は、繊維状材料を用いて形成されていてもよい。この場合においても、繊維状材料を絡み合わせるなどして薬剤収容/放出部5を形成することにより、絡み合った繊維状材料の間隙部分で収容した薬剤を、体液が接触するとともに放出させることが可能になる。また、この繊維状材料として高分子製の中空糸を用いてもよく、この場合には、中空糸の内部に薬剤を収容保持させることができ、この中空糸の内部から順次薬剤を放出させることが可能になる。
また、本実施形態では、円板状の薬剤収容/放出部(多孔体)5が電極保持部4の一面4aに分散配置して保持されているものとしたが、薬剤収容/放出部5の形状、数、配置を限定する必要はない。例えば図4及び図5に示すように、電極保持部4の一面4a側に露出する薬剤収容/放出部5の一面5a内に電極2、3の一面2a、3aが配されるように(例えば薬剤収容/放出部5と電極2、3を重ねたり、薬剤収容/放出部5と電極2、3を交差させるなどして)、治療用電極体B1が形成されていてもよい。このように構成した場合には、電極2、3の近傍から薬剤が放出されることになるため、生体組織の過度な線維化、炎症などの好ましくない生体反応をより効果的に抑制することが可能になる。すなわち、電極2、3から放出される電気エネルギーが、生体組織の線維化、炎症の原因である場合には、電極2、3近傍から薬剤が溶出することによって、刺激の影響を確実に軽減することが可能になる。
さらに、本実施形態では、一対の環状の電極2、3を備えて治療用電極体B1が構成されているものとしたが、電極2、3の数、形状を特に限定する必要はない。
また、例えば図6から図8に示すように、治療対象の生体組織1の表面1aに固定するための縫合穴7を設けて電極保持部4が形成されていてもよい。この場合には、電極保持部4に設けた縫合穴7に縫合糸を通して、治療用電極体B1を生体組織1に容易且つ確実に固定して装着することが可能になる。
次に、図1、図9及び図10を参照し、本発明の第2実施形態に係る治療用電極体及びこれを備えた除細動器について説明する。本実施形態は、第1実施形態と同様、不整脈が発生した心臓1に電気的な刺激を与えて、心臓1の機能を正常な状態に回復させる植え込み型の除細動器Aの治療用電極体に関するものである。よって、本実施形態では、第1実施形態と同様の構成に対し、同一符号を付して、その詳細な説明を省略する。
図9及び図10に示すように、本実施形態の治療用電極体B2(B)は、第1実施形態の治療用電極体B1と同様、一対の環状の電極2、3と、略平板状の電極保持部4と、環状の各電極2、3の内側や、一対の電極2、3の間に所定の間隔をあけて分散配置された複数の薬剤収容/放出部10とを備えて構成されている。
一方、本実施形態において、各薬剤収容/放出部10は、別途形成して電極保持部4に保持されたものではなく、電極保持部4の一面4a(表面)に、この一面4aから他面側に凹む複数の孔10aを設け、これら複数の孔10aが集合した形で形成されている。すなわち、本実施形態の薬剤収容/放出部10は、電極保持部4の一面4aの一部を多孔化して形成されている。
本実施形態の薬剤収容/放出部10を形成する手法(薬剤収容/放出部10の孔10aを形成する手法)としては、シリコンゴム製の電極保持部4の一面4a(表面)にレーザーを照射する方法を利用することができる(例えば、特公昭62−16188号公報参照)。
このような薬剤収容/放出部10を形成した段階で、治療用電極体B2を、埋植手術の前に、薬剤に浸漬させたり、薬剤を塗布するなどして、薬剤収容/放出部10の孔10aに薬剤が吸収され、収容保持される。このとき、孔10aの数、径、深さ、配置を調節して薬剤収容/放出部5を形成しておくことにより、所望の収容量の薬剤が収容保持される。
そして、この治療用電極体B2を患者の体内に埋植する。埋植後の薬剤収容/放出部10に体液が接触すると、薬剤収容/放出部10の各孔10aに収容した薬剤が体液に溶解し、これとともに薬剤収容/放出部10から拡散溶出して、生体組織(心嚢膜1a)に放出される。このため、薬剤によって生体組織の炎症や過度な線維化が抑制される。また、分散配置した各薬剤収容/放出部10が多数の孔10aの集合として形成されているため、薬剤が広範に放出されるとともに、適量の薬剤が順次放出されてゆく。
したがって、本実施形態の治療用電極体B2及びこれを備えた除細動器Aにおいては、第1実施形態に記載した作用効果に加え、薬剤収容/放出部10が、例えばレーザー照射などによって孔10aを形成し、電極保持部4の一面4aの一部を多孔化して形成されているため、別途多孔体を電極保持部4に保持させて薬剤収容/放出部を形成することを不要にできる。また、所望の薬剤収容量、薬剤放出速度に合わせて、薬剤収容/放出部10の面積、数、配置(孔10aの径、数、位置)を容易に調節することが可能になる。
そして、本実施形態の治療用電極体B2及びこれを備えた除細動器Aによれば、第1実施形態と同様に、治療用電極体B2を心嚢膜表面1aに埋植した場合であっても、生体組織の炎症や過度な線維化を抑制でき、除細動の閾値の上昇に伴う電気エネルギー量の増加を抑制することが可能になる。よって、放電面積を大きく確保することが可能になるとともに、心臓1への負担や患者が受ける苦痛を軽減することが可能になる。また、パルス発生器に内蔵された電池寿命を長期化することが可能になる。すなわち、安全性の高い治療用電極体B2及び除細動器Aを提供することが可能になる。
以上、本発明に係る治療用電極体及びこれを備えた除細動器の第2実施形態について説明したが、本発明は上記の第2実施形態に限定されるものではなく、第1実施形態の変更例を含め、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、電極保持部4の一面4a(表面)に複数の薬剤収容/放出部10を設けるものとしているが、電極保持部10の表面全体に孔10aを形成し、電極保持部4の表面全体に薬剤収容/放出部10を形成するようにしてもよい。この場合には、確実に薬剤が広範に放出され、より確実に生体組織の炎症や過度の線維化進行などの好ましくない生体反応を抑制することが可能になる。
次に、図1、図11及び図12を参照し、本発明の第3実施形態に係る治療用電極体及び除細動器について説明する。本実施形態は、第1、第2実施形態と同様、不整脈が発生した心臓1に電気的な刺激を与えて、心臓1の機能を正常な状態に回復させる植え込み型の除細動器Aの治療用電極体に関するものである。よって、本実施形態では、第1、第2実施形態と同様の構成に対し、同一符号を付して、その詳細な説明を省略する。
図11及び図12に示すように、本実施形態の治療用電極体B3(B)は、第1、第2実施形態の治療用電極体B1、B2と同様、一対の環状の電極2、3と、略平板状の電極保持部4と、環状の各電極2、3の内側や、一対の電極2、3の間に所定の間隔をあけて分散配置された複数の薬剤収容/放出部11とを備えて構成されている。
一方、本実施形態において、各薬剤収容/放出部11は、電極保持部4の内部に形成された空洞11aと、電極保持部4の一面4a(表面)に開口し、内部の空洞11aと外部とを連通させるように形成された薬剤放出孔11bとを備えて構成されている。また、空洞11aは、薬剤の所望の収容量に応じた容積となるように形成され、また、薬剤放出孔11bは、薬剤の所望の放出量、放出速度に応じた径となるように形成されている。
そして、本実施形態の治療用電極体B3においては、薬剤収容/放出部11の空洞11a(及び薬剤放出孔11b)に薬剤を注入するなどして収容保持させ、患者の体内に埋植して電気パルスを心臓1に印加する。この治療用電極体B3においては、埋植後の薬剤収容/放出部11(薬剤放出孔11bの開口)に体液が接触すると、薬剤放出孔11b及び空洞11aに収容した薬剤が体液に溶解し、これとともに薬剤収容/放出部11から拡散溶出して、生体組織(心嚢膜1a)に放出される。このため、薬剤によって生体組織の炎症や過度な線維化が抑制される。また、空洞11aが所望の薬剤収容量に応じた容積を備えて形成され、また、薬剤放出孔11bが所望の薬剤放出量、放出速度に応じた径を備えて形成されているため、電極2、3の一面2a、3a側に薬剤が広範に放出されるとともに、適量の薬剤が順次放出されてゆく。
したがって、本実施形態の治療用電極体B3及びこれを備えた除細動器Aにおいては、第1実施形態に記載した作用効果に加え、薬剤収容/放出部10が、電極保持部4の内部に形成された空洞11aと、電極保持部4の一面4aに開口し、空洞11aと連通して形成された薬剤放出孔11bを備えて形成されているため、空洞11aに薬剤を収容保持させ、薬剤放出孔11bから電極保持部4の一面4a側に薬剤を放出させることが可能になる。また、別途多孔体を電極保持部4に保持させて薬剤収容/放出部11を形成することを不要にできる。さらに、薬剤収容量に合わせて空洞11aの容積、配置、薬剤放出速度に合わせて薬剤放出部11bの孔径、数、位置をそれぞれ容易に調節することが可能であり、容易且つ確実に所望の薬剤収容量と所望の薬剤放出速度を設定することが可能になる。
そして、本実施形態の治療用電極体B3及びこれを備えた除細動器Aによれば、第1、第2実施形態と同様に、治療用電極体B3を心嚢膜表面1aに埋植した場合であっても、生体組織の炎症や過度な線維化を抑制でき、除細動の閾値の上昇に伴う電気エネルギー量の増加を抑制することが可能になる。よって、放電面積を大きく確保することが可能になるとともに、心臓1への負担や患者が受ける苦痛を軽減することが可能になる。また、パルス発生器に内蔵された電池寿命を長期化することが可能になる。すなわち、安全性の高い治療用電極体B3及び除細動器Aを提供することが可能になる。
以上、本発明に係る治療用電極体及びこれを備えた除細動器の第3実施形態について説明したが、本発明は上記の第3実施形態に限定されるものではなく、第1、第2実施形態の変更例を含め、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
次に、図1、図13及び図14を参照し、本発明の第4実施形態に係る治療用電極体及びこれを備えた除細動器について説明する。本実施形態は、第1、第2、第3実施形態と同様、不整脈が発生した心臓に電気的な刺激を与えて、心臓の機能を正常な状態に回復させる植え込み型の除細動器の治療用電極体に関するものである。よって、本実施形態では、第1、第2、第3実施形態と同様の構成に対し、同一符号を付して、その詳細な説明を省略する。
図13及び図14に示すように、本実施形態の治療用電極体B4(B)は、第1、第2、第3実施形態の治療用電極体B1、B2、B3と同様、一対の環状の電極2、3と、略平板状の電極保持部4と、環状の各電極2、3の内側や、一対の電極2、3の間に所定の間隔をあけて分散配置された複数の薬剤収容/放出部12とを備えて構成されている。
一方、本実施形態の各薬剤収容/放出部12は、セラミックスや白金系合金などの焼結体(多孔体)13を用いて形成されており、焼結体は、円板状の収容部13aとこの収容部13aの中央から上方に突出した断面円形の放出部13bとを備えて形成されている。また、電極保持部4には、第3実施形態のように、その内部に円板状の収容部13aと略同等の大きさで形成された空洞11aと、円柱状の放出部13bと略同等の大きさで形成され、電極保持部4の一面4aに開口し、内部の空洞11aと外部とを連通させるように形成された薬剤放出孔11bとを備えている。
また、電極保持部4の空洞11aに収容部13aを、薬剤放出孔11bに放出部13bをそれぞれ挿入、係合させて焼結体13を配設し、薬剤収容/放出部12が形成されている。
本実施形態の治療用電極体B4においては、治療用電極体B4を、体内への埋植手術の前に、薬剤に浸漬させたり、薬剤を塗布するなどして、薬剤収容/放出部12の焼結体(多孔体)13に薬剤を吸収させ、収容保持させる。
そして、このように薬剤収容/放出部12の焼結体13に薬剤を収容保持させた段階で、患者の体内に治療用電極体B4を埋植する。この治療用電極体B4においては、埋植後の薬剤収容/放出部12(焼結体13の放出部13b)に体液が接触すると、焼結体13の放出部13b及び収容部13aに吸収して収容された薬剤が体液に溶解し、これとともに薬剤収容/放出部12から拡散溶出して、生体組織(心嚢膜1a)に放出される。このため、薬剤によって生体組織の炎症や過度な線維化が抑制される。また、このような焼結体13は、気孔率を調節して、比較的容易に薬剤の収容量と放出速度の調節が行える。
したがって、本実施形態の治療用電極体B4及びこれを備えた除細動器Aにおいては、第1実施形態に記載した作用効果に加え、多孔体を焼結体にすることにより、気孔率を調節して、比較的容易に薬剤の収容量と放出速度を調節することが可能になる。これにより、所望の期間、適量の薬剤を順次放出させることが可能になり、効果的に生体組織の線維化、炎症などの好ましくない生体反応を抑制することが可能になる。
そして、本実施形態の治療用電極体B4及びこれを備えた除細動器Aによれば、第1、第2、第3実施形態と同様に、治療用電極体B4を心嚢膜表面1aに埋植した場合であっても、生体組織の炎症や過度な線維化を抑制でき、除細動の閾値の上昇に伴う電気エネルギー量の増加を抑制することが可能になる。よって、放電面積を大きく確保することが可能になるとともに、心臓1への負担や患者が受ける苦痛を軽減することが可能になる。また、パルス発生器に内蔵された電池寿命を長期化することが可能になる。すなわち、安全性の高い治療用電極体B4及び除細動器Aを提供することが可能になる。
以上、本発明に係る治療用電極体及びこれを備えた除細動器の第4実施形態について説明したが、本発明は上記の第4実施形態に限定されるものではなく、第1、第2、第3実施形態の変更例を含め、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。