JP2011033620A - 質量分析用基板及びその製造方法並びに質量分析法 - Google Patents

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Abstract

【課題】マトリックスフリーなイオン化法を更に高性能化することができると共に、ノイズや検出感度低下の原因になるおそれがあるイオン化剤を必要とせずに、レーザー脱離イオン化質量分析を行うことができる質量分析用基板、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】プロトン及び/又はカチオンを供給可能な有機物が付着した金属酸化物を、基材上に備える質量分析用基板であり、また、プロトン及び/又はカチオンを供給可能な有機物で金属酸化物を分散させた金属酸化物分散液を、基材上に塗布して乾燥させる質量分析用基板の製造方法である。
【選択図】図1

Description

この発明は、レーザー脱離イオン化質量分析(LDI-MS)法において分析対象の試料を支持するための質量分析用基板、及びその製造方法、並びにこの質量分析用基板を用いた質量分析法に関する。
質量分析(MS)は、測定(分析)対象の試料分子(タンパク質、ペプチド、多糖類といった生体関連の天然高分子化合物や合成高分子化合物)をイオン化して質量別に分離し、分子量の測定、および解離生成物(フラグメントイオン)による構造解析を可能とする分析法である。この方法では、試料分子をイオン化し、質量(m)とそのイオンの価数(z)の商(m/z)の差により分離・検出が行われる。質量分析は検出感度や選択性が高く、生体関連物質、環境規制物質、そして薬物の分析など、多くの分野で利用されている。ここで、イオン化とは、試料分子から電子を奪いイオンの状態にする、或いはプロトンやアルカリ金属イオンが試料に付加してイオンの状態にすることであり、その方法の一つとして測定対象物質へレーザーを照射しイオン化するレーザー脱離イオン化(Laser Desorption/Ionization,LDI)法が挙げられる。LDI法によりイオン化されたイオンは、飛行時間型(Time-of-Flight,TOF)等の質量分離部を通ることによってm/zの差で分離され、検出器で観測される。また、検出された時の分子イオン濃度によってピークに強度が現れる。得られた質量スペクトルを解析することで測定対象とする試料分子の構造解析が行える(LDI-MS)。
LDI−MSは、レーザーを試料分子へ照射し、気化とイオン化を引き起こすが、試料分子の種類によっては著しく分解する傾向があり、効率的なイオン化ができないといった課題がある。この点を解決するため、一般にはレーザー光を吸収する媒体上に試料を塗布するか、試料分子をイオン化補助剤(マトリックス)に混合してレーザーを照射し、ソフトにイオン化(分子の分解を抑えたイオン化)する方法が用いられている。その代表的な方法として、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS:Matrix-Assisted Laser Desorption Ionization-Mass Spectrometry)がある(非特許文献1及び2参照)。このMALDI−MSは、レーザー光のエネルギーを吸収しやすいマトリックスに混合した試料分子を基板上に配置し、レーザーを照射するMS法である。レーザー光を効率よく吸収したマトリックスと試料分子は、ほぼ同時に気化及びイオン化され、イオン化したマトリックスとの電子の授受によって、試料分子はほとんど分解せずにイオン化することができるとされている。
ところが、MALDI−MSによる測定に際しては、適当なマトリックスを選定して試料と混合する手間を要し、また、低分子量領域においてマトリックス由来のバックグラウンドノイズが生じるため、得られた質量スペクトルの解析が困難になる場合がある。そこで、マトリックスを用いないLDI法が報告されている(特許文献1〜4及び非特許文献3参照)。これらの方法は、マトリックス由来の複雑なピークを排除することができ、表面支援レーザー脱離イオン化(Surface Assisted Laser Desorption/Ionization:SALDI)法と呼ばれている。
具体的には、上記特許文献1及び非特許文献3の方法では、多孔性の表面を有するシリコン基板の表面に電気化学的エッジング処理を施すことで、サブミクロンオーダーの多孔質層を備えたポーラスシリコンプレートを得て、この基板上に、試料を配置してレーザー光を照射することで試料をソフトにイオン化する。通常、この方法は、DIOS(Desorption/Ionization On (porous) Silicon:DIOS)法と呼ばれる。ところが、DIOS法で使用されるシリコン基板は、表面が酸化されることで経時による検出感度の低下が起こるため、使用できる時間に制限があるといった課題がある。
また、上記特許文献2の方法は、ワイヤ状の金属からなるワイヤ状金属層、樹枝状の金属からなる樹枝状金属層、又は花弁状の金属酸化物からなる花弁状金属酸化物層を有した基板を用いる方法であり、試料を付着させてレーザー光を照射することで、試料をソフトにイオン化することができる。ところが、この方法は、上記のような質量分析用基板の作成に多数の工程を必要とするため、分析用基板が高価になる。
更に、上記特許文献3の方法は、TiO2、ZnO、SnO2、ZrO2等の金属酸化物からなる膜又はこれら金属酸化物微粒子を備えた基板を用いるものであり、特にTiO2は化学的に安定であり、製造上容易であることから、ゾル−ゲル法によって得られたTiO2膜を有した基板を用いた質量分析結果が報告されている。ところが、TiO2は光触媒作用を有することから試料が分解してしまうおそれがある。更にまた、上記特許文献4の方法は、ナノサイズの金属又は金属酸化物粒子を備えた基板を用いるものであり、試料分子を吸着し、レーザーを照射することで試料をソフトにイオン化することができる。この方法では、分子量が1000以下のマトリックスから生ずる妨害ピークを著しく低減させられるため、低分子量の試料分子の測定が可能になるとする。
これらに加えて、MALDI−MS法とDIOS法を組み合わせた方法も報告されている(非特許文献4)。この方法によると、プロトン化剤及びカチオン化剤としてマトリックスおよびその塩を添加することで、ポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリエチレングリコール(PEG)を検出することを可能にする。
米国特許第6288390号公報 特開2008−107209号公報 米国特許第7122792号公報 特開2008−204654号公報
Karas, M.;Hillenkamp, F. Anal. Chem. 1988, 60, 2299. Tanaka, K.;Eaki, H.;Ido, Y.:Akita, S.;Yoshida, Y.;Yoshida, T. Rapid Commun. Mass Spectrom. 1988, 2, 151. Wei, J.;Buriak, J.;Siuzdak, G. Nature 1999, 401, 243. R. Arakawa, N. Miyake, S. Okuno, H. Yamaoka, Rapid Commun. Mass Spectrom. 2006, 20, 2063.
近年、生体試料や高分子試料の定性・定量分析における質量分析の適用は益々拡大しており、上述したような状況のもと、マトリックスフリーなイオン化法を更に高性能化する必要があり、特に、イオン化効率の向上が強く求められている。しかしながら、上記で述べたようなマトリックスを用いない特許文献1〜4及び非特許文献1〜3の方法や、MALDI−MS法とDIOS法を組み合わせた非特許文献4の方法では、試料のイオン化を促進させるために、別途有機酸や金属塩といったイオン化剤を付与する必要がある。そのため、測定のたびに、イオン化剤を試料に添加する必要があり、作業が煩雑になるほか、イオン化剤自体がノイズの原因となることや、その添加量によっては測定感度が変化するといった問題が生じるおそれもある。
そこで、本発明者等は、これらに対応すべく鋭意検討した結果、プロトンや金属イオンを供給することができるような所定の有機物を、予め金属酸化物と一体にしておくことで、分析の際に別途イオン化剤を供給する手間を省くことができるようになると共に、驚くべきことには、ノイズの発生や検出感度の低下等の問題をも解消することができて、従来の方法では分析が困難であった試料においても高い分解能で精度良く分析できるようになることを見出し、本発明を完成した。
したがって、本発明の目的は、マトリックスフリーなイオン化法を更に高性能化することができると共に、ノイズや検出感度低下の原因になるおそれがあるイオン化剤を必要とせずに、レーザー脱離イオン化質量分析を行うことができる質量分析用基板を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、上記のような質量分析用基板の製造方法を提供することにある。更に本発明の別の目的は、分析の際にイオン化剤を別途添加する工程を省くことができて、高精度かつ高感度に質量分析を行うことができる分析法を提供することにある。
すなわち、本発明は、レーザー脱離イオン化質量分析において分析対象の試料を付着させて使用する質量分析用基板であって、プロトン及び/又はカチオンを供給可能な有機物が付着した金属酸化物を、基材上に備えることを特徴とする質量分析用基板である。
また、本発明は、レーザー脱離イオン化質量分析において分析対象の試料を付着させて使用する質量分析用基板の製造方法であって、プロトン及び/又はカチオンを供給可能な有機物と金属酸化物とを分散させた金属酸化物分散液を、基材上に塗布して、乾燥させることを特徴とする質量分析用基板の製造方法である。
更に、本発明は、分析対象の試料を所定の溶媒に溶解させた試料溶液を、上記の質量分析用基板に滴下し、レーザーを照射してイオン化して分析することを特徴とする質量分析法である。
本発明の質量分析用基板は、分析対象の試料にプロトンやカチオン或いはこれら両方の供給が可能な有機物が付着した金属酸化物を、基材上に備えてなるものであり、レーザー照射によって有機物及び金属酸化物からそれぞれプロトンやカチオンが供給されることで、分析対象の試料のイオン化が促進される。
レーザー照射によってプロトンやカチオンを供給可能な有機物として、好適には以下のようなものを挙げることができず。すなわち、(1)少なくとも2個のカルボキシ基と少なくとも1個のヒドロキシ基とを有して、一部のカルボキシ基の水素がアルカリ金属で置換された有機酸塩、(2)少なくとも2個のカルボキシ基と少なくとも1個のヒドロキシ基とを有して、カルボキシ基の水素がすべてアルカリ金属に置換された有機酸塩、(3)少なくとも2個のカルボキシ基と少なくとも1個のヒドロキシ基とを有して、カルボキシ基及びヒドロキシ基の水素はいずれも置換されていない有機酸、及び(4)少なくとも2個のカルボキシ基を有して、カルボキシ基の水素はいずれも置換されておらず、かつ、ヒドロキシ基を有さない有機酸、である。
このうち、(1)の有機酸塩としては、クエン酸二水素一ナトリウム〔NaOOCCH2C(OH)(COOH)CH2COOH〕、クエン酸一水素二ナトリウム〔NaOOCCH2C(OH)(COONa)CH2COOH〕、酒石酸一水素一ナトリウム〔NaOOCCH(OH)CH(OH)COOH〕、コハク酸一水素一ナトリウム〔NaOOC(CH2)2COOH〕等を例示することができる。このうち、より高い分解能で精度良く分析できる観点から、好ましくはクエン酸二水素一ナトリウム、又はクエン酸一水素二ナトリウムが良い。
(2)の有機酸塩としては、クエン酸三ナトリウム〔NaOOCCH2C(OH)(COONa)CH2COONa〕、酒石酸二ナトリウム〔NaOOCCH(OH)CH(OH)COONa〕、コハク酸二ナトリウム〔NaOOC(CH2)2COONa〕等を例示することができる。このうち、より高い分解能で精度よく分析できる観点から、好ましくはクエン酸三ナトリウムが良い。
(3)の有機酸としては、クエン酸〔HOOCCH2C(OH)(COOH)CH2COOH〕、酒石酸〔HOOCCH(OH)CH(OH)COOH〕、リンゴ酸〔HOOCCH2CH(OH)COOH〕等を例示することができる。このうち、より高い分解能で精度よく分析できる観点から、好ましくはクエン酸が良い。
(4)の有機酸としては、コハク酸〔HOOC(CH2)2COOH〕、シュウ酸〔(COOH)2〕、ケイ皮酸〔HOOCCH=CHC6H4OH〕、ジグリコール酸〔HOOCCH2OCH2COOH〕、セバシン酸〔HOOC(CH2)8COOH〕等を例示することができる。このうち、より高い分解能で精度良く分析できる観点から、好ましくはコハク酸が良い。
これらの有機酸塩や有機酸は、(1)〜(4)のそれぞれ同種において2以上を混合して用いてもよく、(1)〜(4)の異なる種類のものを2以上混合して用いるようにしてもよい。
本発明の質量分析用基板を用いた質量分析では、金属酸化物と、それに付着した有機酸又は有機酸塩とから、プロトン([H+])やカチオン(例えば[Na+])といったイオンが供給されるため、これまで、試料のイオン化を促進させるために分析の際に試料に添加されていたクエン酸やクエン酸ナトリウムといったイオン化剤を用いることなく、これらを効率良くイオン化することができる。なお、これまでに使用されているイオン化剤と、本発明で金属酸化物に付着させる有機酸又は有機酸塩とが同じ化合物からなる場合も含まれるが、従来のイオン化剤は測定の際にノイズとして検出されるのに対して、本発明では金属酸化物に予め付着させておくことで、イオン化剤の役割をする有機物自身のイオン化が試料よりも起こりにくく、したがって、バックグラウンドノイズとしても検出されにくくなる。
上記のような有機酸や有機酸塩を金属酸化物に付着させる手段については特に制限されないが、好適には、予めこれらの有機物と金属酸化物とを分散させて微粒化した金属酸化物分散液を得るようにするのが良く、この金属酸化物分散液を基材上に塗布し、乾燥させて、質量分析用基板を得るようにするのが良い。以下、金属酸化物分散液を用いて質量分析用基板を得る方法の例について説明するが、本発明はこれらに限定されない。
金属酸化物を含んだ分散液を基材に塗布した場合には、所定の有機物が付着した金属酸化物は、少なくとも一部が凝集体として基材に固定化されると考えられる。この際、基材上で有機物が付着した金属酸化物のBET値が0.1m2/g以上、好ましくは1〜1000m2/gの比表面積を有するようにするのが良い。固定化された金属酸化物のBET値が0.1m2/g以上であれば、金属酸化物の粒子サイズ(凝集体サイズ)が大きくなり過ぎることがなく、分析対象の試料を効率良くイオン化できて、フラグメント化のおそれを排除することができる。BET値が1〜1000m2/gの範囲であればより高い分解能で分析を行うことができる点で有利である。金属酸化物の比表面積と質量分析時における検出感度との関係については、未だ十分に解明されていないが、本発明では、上記範囲のBET値を有することで、分析対象の試料である測定分子同士がある程度の距離を保つことができて、効率良く脱離及びイオン化されるものと推測される。
また、金属酸化物分散液とする金属酸化物については、1nm〜3000nmの粒子径を有するものが良く、好ましくは10nm〜1000nmの粒子径を有するものが良い。粒子径が1nm以上であると、分散液における粒子間相互作用の影響が少なく、分散液の分散安定性の面で有利である。金属酸化物の粒子径が1nm〜3000nmであれば、分析対象の試料を効率良くイオン化することができ、フラグメント化が起こるおそれも排除できる。
金属酸化物の形状については、例えば球状、針状、多角面体、無定形、階層状、リーフ状、スノーフレイク状等のような様々な形状を有するものであってよいが、好ましくは球状、針状又は無定形であるものが良い。金属酸化物分散液を基材に塗布し、乾燥させた際、分散していた金属酸化物が凝集体を形成し易いように、球状のものを用いることで、試料の検出感度の一層の向上が期待され、また、部分的に針状形状を形成するようにしても良い。
有機酸や有機酸塩を付着させる金属酸化物については、レーザー脱離イオン化質量分析において効率良く分析対象の試料を脱離及びイオン化できる観点から、酸化鉄であるのが良く、好ましくはFe23(三酸化二鉄)、より好ましくはα-Fe23であるのが良い。例えば、酸化鉄としてFe23を用いる場合は、単独で使用してもよく、別の酸化鉄と組み合わせて使用してもよい。或いは酸化鉄をCoやCu等の他の金属酸化物と組み合わせて用いるようにしてもよい。
金属酸化物分散液を得る際には、例えば、溶剤中に分散剤として上記有機酸や有機酸塩のような有機物を溶解しておき、金属酸化物を加えて分散させるようにする。無論、これらの有機物、金属酸化物、及び必要な溶剤の3成分を同時に混合し、分散させるように調製してもよい。これらの分散操作は、常法によればよく、例えば、通常の攪拌操作のほか、ペイントシェーカー、ボールミル、サンドミル、セントリミル、三本ロール等を用いて行うことができる。好ましくは、溶剤中に金属酸化物と共にガラスビーズ、ジルコンビーズ、ジルコニアビーズ、スチールボール等の分散ビーズを入れて練合するのが良い。
分散液を得る際に添加する金属酸化物と有機物との添加量比については、金属酸化物1molに対して、有機酸及び/又は有機酸塩の合計が0.003〜0.3molとなるようにするのが良く、好ましくは、金属酸化物1molに対して、有機酸及び/又は有機酸塩の合計が0.03〜0.2molとなるようにするのが良い。この添加量比となるように調整した条件で、金属酸化物を分散することで、金属酸化物が1nm〜3000nmの粒子径に分散した分散液を好適に得ることができる(レーザー回折型粒度測定器(Honeywell製、Microtrac UPA)により粒度を測定)。
金属酸化物を含んだ分散液を得る際に使用する溶剤については、揮発性溶媒であり、尚且つ、分散剤である有機酸や有機酸塩を充分に溶解して金属酸化物に吸着させながら、金属酸化物を安定に分散させることができるものであれば特に制限はないが、例えば水のほか、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、2−ブタノン、アセチルアセトンなどのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル類、ヘキサン、石油エーテルなどの脂肪族系炭化水素類、クロロホルム、塩化メチレン、クロロベンゼンなどの脂肪族系及び芳香族系ハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、トルエンなどの芳香族系炭化水素類等を挙げることができ、これらを単独又は2種以上を混合して用いることができる。
金属酸化物分散液における溶剤の使用量については、金属酸化物を分散させて最終的に得られる分散液の粘性が、基材に塗布又は印刷する際に適したものとなるように調製するのが良く、好ましくは分散液の粘度が2〜10000cps(E型粘度計:20℃)の範囲内に収まるように調製することが適当である。なお、本発明においては、分析対象の試料以外のピークが出現することを防止する観点から、分散液が金属酸化物、分散剤、及び溶剤の3成分のみからなるようにすることが望ましい。しかし、分析対象となる試料の分析に大きな影響を及ぼさない程度に、粒子表面に有機酸や有機酸塩以外の界面活性剤、高分子、シランカップリング剤等を用いるようにしてもよい。
金属酸化物分散液を基材に塗布する手段については特に制限はなく、公知の方法を採用できる。例えば刷毛塗り、ロール塗り、グラビアコーター、ナイフコーター、ロールコーター、コンマコーター、スピンコーター、バーコーター、ディッピング塗布、スプレー塗布等の方法のほか、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、シルク印刷、インクジェット印刷等の印刷法を用いることができる。また、基材への塗布(又は印刷)は、分析対象の試料を付着させる部分を選択して行うようにしても良い。分散液を基材に塗布した後は、乾燥させて(必要に応じて加熱して)溶剤を蒸発させ、有機物が付着した金属酸化物を基材上に固定させる。図1は、得られた質量分析用基板の一実施態様を示す模式図であり、有機物が付着した金属酸化物2が基材1の表面に備えられている。この例では、分散液を基材1上の所定の範囲に滴下し(又は塗布し、或いは印刷し)、溶剤を蒸発させて、有機物の付着した金属酸化物2が凝集体として基材1に固定された様子を示す。勿論、分散液を基材1の表面全体に塗布して、全面に有機物が付着した金属酸化物2を形成することもできる。
本発明の質量分析用基板に用いる基材については、質量分析の手法上、導電性を備えるものであれば特に制限はなく、例えば不純物半導体であるシリコン(n型、p型)やSUS304といった金属等からなる基材を挙げることができる。一般に、熱伝導率が小さい材質からなる基材を使用すると、レーザーからのエネルギーが分析用基板に散逸し難いことから、比較的低いレーザーエネルギーで試料を分析することができ、分析対象の試料の破壊を抑えることができる点で好都合である。
本発明の質量分析用基板を用いた質量分析は、公知の方法と同様に行うことができる。例えば、分析対象の試料を揮発性の溶媒に溶解させ、適量を本発明の質量分析用基板に滴下したり、塗布したり、印刷するなどして付着させて、質量分析を行うことができる。ここで、試料を溶解する溶媒としては、先に説明した金属酸化物の分散液を得る際に用いられる溶媒と同様なものを例示することができる。但し、本発明の質量分析用基板であれば、高感度で質量分析を行うことができるため、従来の質量分析に比べて試料濃度を極めて低くすることができる。例えば、ホルモンの一種であるテストステロンの場合、fmolオーダーの濃度で分析することもでき(1fmol=0.001pmol)、実施例に示すように、試料濃度が100fmol以下であってもノイズの影響を受けずに正確な分析が可能である。なお、分析対象の試料は、金属酸化物の分散液と一緒に混合して基材上に滴下するなどして、質量分析用基板を得ると同時に、分析対象の試料を付着させることもできる。
分析対象の試料を付着させた質量分析用基板は、公知の質量分析装置を用いて分析に使用することができる。分析条件については、適宜設定して行うことができるが、例えば、照射するレーザーとしては、3〜10ns程度のパルスレーザー光(波長:337nm、520nm、又は1020nm等)を照射することで、レーザー光が有機物や金属酸化物に吸収されて急激な温度上昇が起こり、これらに付着した分析対象の試料(測定分子)がソフトにイオン化される。この際、有機物と金属酸化物とから供給されるプロトンやカチオンにより、イオン化がより促進される。生じたイオンは、例えば飛行時間型、四重極型、イオントラップ型、セクター型、フーリエ変換型、又はこれらの複合型等からなる質量分離部の作用によりm/zの差で分離され、検出器で観測される。その結果、各m/zに相当する分子イオンピークから対象とする分子の構造解析や質量の算出が行える。
本発明の質量分析用基板は、種々の高分子を分析するのに用いることができ、例えば、タンパク質、合成高分子等の分析に適している。特に、本発明の質量分析用基板を用いれば、質量分析における検出感度が向上するため、アンジオテンシンI、アンジオテンシンII、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレングリコール、ペラパミル塩酸塩、テストステロン、パーフルオロオクタニルスルホン酸、インスリン(ヒト)等の分析に好適であり、なかでも、従来検出が不可能であった分子や、検出が困難であったポリビニルアルコールやポリアクリル酸等の高分子化合物についても質量分析が可能になる。
本発明の質量分析用基板によれば、効率良く分析対象の試料を脱離、イオン化でき、高い分解能での分析が可能になる。また、分子量分布の大きい高分子化合物などの質量分析が簡便かつ高精度に行えると共に、低分子化合物の部分構造解析、モル分布、分子量分布などの測定にも利用できる。また、従来の分析用基板では検出が不可能又は困難であったような試料の分析も可能である。加えて、本発明の質量分析用基板は、比較的穏やかな条件で試料をイオン化することができ、かつ変質しにくいため、例えば真空パッケージ等に収容されたものを開封した後であっても、長期に亘って信頼性良く使用することができる。更には、本発明の方法によれば、これらの性能を備えた質量分析用基板を簡便に得ることができ、大面積化も容易であり、安価に高性能の質量分析用基板を製造することができる。
図1は、本発明の質量分析用基板の一実施形態を説明する模式図である。 図2は、実施例1の質量分析用基板を用いたアンジオテンシンIIの質量スペクトルである。 図3は、実施例2の質量分析用基板を用いたアンジオテンシンIIの質量分析スペクトルである。 図4は、実施例3の質量分析用基板を用いたアンジオテンシンIIの質量スペクトルである。 図5は、実施例4の質量分析用基板を用いたアンジオテンシンIIの質量スペクトルである。 図6は、図5のスペクトルの一部領域を拡大したものである。 図7は、実施例5の質量分析用基板を用いたテストステロンの質量スペクトルである。 図8は、実施例6の質量分析用基板を用いたテストステロンの質量スペクトルである。 図9は、実施例7の質量分析用基板を用いたテストステロンの質量スペクトルである。 図10は、実施例8の質量分析用基板を用いたテストステロンの質量スペクトルである。 図11は、実施例9の質量分析用基板を用いたテストステロンの質量スペクトルである。 図12は、実施例10の質量分析用基板を用いたテストステロンの質量スペクトルである。 図13は、実施例11の質量分析用基板を用いたテストステロンの質量スペクトルである。 図14は、実施例12の質量分析用基板を用いたテストステロンの質量スペクトルである。 図15は、実施例13の質量分析用基板を用いたポリ(メチルメタクリレート)の質量スペクトルである。 図16は、比較例1の質量分析用基板を用いたテストステロンの質量スペクトルである。
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例の内容に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中で用いる部は、特に断りのない限り重量部を表す。
[実施例1]
50mLの容器にエタノール(9.58部)、蒸留水(0.4部)、クエン酸無水物(0.29部)、市販品の球状α-Fe23(2.5部)、及びジルコニアビーズ(40部)を加え、ペイントシェーカーにて12時間分散して液状物(分散液)を得た。この分散液を分散時に用いたものと同じ溶媒により約100倍に希釈し、レーザー回折型粒度測定器(Honeywell製:Microtrac UPA)を用いて、分散液中のα-Fe23の粒度を測定したところ、平均粒子径(D50)は468nmであった。
次に、AXIMAシリーズ用サンプルプレート(島津製作所製、製品名「AXIMA target」、スポット周囲の溝深さ40μm、製品番号:223-25579-17。以下「純正プレート」と記す。)上に、上記で得た分散液をマイクロピペッターにて0.6μL滴下し、乾燥させて、直径1.5mm、高さ0.5μmの測定スポットを純正プレート上に作製し、実施例1に係る質量分析用基板を得た。
上記で得られた質量分析用基板を用いて、次のようにしてアンジオテンシンII(Asp-Arg-Val-Try-Ile-His-Pro-Phe)の質量分析を行った。先ず、アンジオテンシンIIを10μMになるようにアセトニトリル水溶液と純水の混合溶液(アセトニトリル:純水=1:4、体積比)に溶解させた。この試料溶液0.6μLを得られた質量分析用基板の測定スポット上に滴下して乾燥させた(滴下したアンジオテンシンIIの濃度は6pmol)。次いで、試料を付着させた質量分析用基板をMALDI−TOF/MS装置(島津製作所製 AXIMA-CFR)の試料台に固定させ、励起光源として337nmのN2パルスレーザー(3 ns)を用いて照射し、飛行時間型質量分析計を用いて測定した。得られた質量スペクトルを図2に示す。図2の質量スペクトルから明らかなように、バックグラウンドノイズはほとんど検出されず、高い分解能で試料のプロトン付加分子とその試料の同位体ピークが検出され、試料のイオン化は良好であった。また、フラグメントイオン由来のピークもほとんど検出されず、アンジオテンシンIIの質量分析を高精度に行えることが確認された。
[実施例2]
クエン酸の代わりに酒石酸(0.45部)を用いた以外は実施例1と同様にして液状物(分散液)を得た。得られた液状物を分散時に用いたものと同じ溶媒により約100倍に希釈し、実施例1と同様にして分散液中のα-Fe23の粒度を測定したところ、平均粒子径(D50)は666nmであった。そして、得られた分散液0.6μLを実施例1と同様に純正プレート(島津製作所製)上に滴下し、乾燥させて、実施例2に係る質量分析用基板を得た。
上記で得られた質量分析用基板を用いて、実施例1と同様にしてアンジオテンシンIIの質量分析を行った。得られた質量スペクトルを図3に示す。図3の質量スペクトルからもわかるとおり、アンジオテンシンIIに相当するピークが検出された。試料のイオン化は良好であり、アンジオテンシンIIの質量分析を行えることが確認された。ただし、ナトリウムイオンおよびカリウムイオン由来のピークが大きく検出され、低分子量域にも多くのバックグラウンドノイズが検出された。
[実施例3]
クエン酸の代わりにリンゴ酸(0.40部)を用いた以外は実施例1と同様にして液状物(分散液)を得た。得られた液状物を分散時に用いたものと同じ溶媒により約100倍に希釈し、実施例1と同様にして分散液中のα-Fe23の粒度を測定したところ、平均粒子径(D50)は572nmであった。そして、得られた分散液0.6μLを実施例1と同様に純正プレート(島津製作所製)上に滴下し、乾燥させて、実施例3に係る質量分析用基板を得た。
上記で得られた質量分析用基板を用いて、実施例1と同様にしてアンジオテンシンIIの質量分析を行った。得られた質量スペクトルを図4に示す。図4の質量スペクトルからも明らかなように、試料のピークは非常に小さいが検出された。バックグラウンドノイズがある程度検出されたものの、試料の同位体ピークは高い分解能で検出され、試料のイオン化は良好であり、アンジオテンシンIIの質量分析を行えることが確認された。ただし、ナトリウムイオンおよびカリウムイオン由来のピークが大きく検出され、低分子量域にもバックグラウンドノイズが検出された。
[実施例4]
クエン酸の代わりにコハク酸(0.18部)を用いた以外は実施例1と同様にして液状物(分散液)を得た。得られた液状物を分散時に用いたものと同じ溶媒により約100倍に希釈し、実施例1と同様にして分散液中のα-Fe23の粒度を測定したところ、平均粒子径(D50)は2551nmであった。そして、得られた分散液0.6μLを実施例1と同様に純正プレート(島津製作所製)上に滴下し、乾燥させて、実施例4に係る質量分析用基板を得た。
得られた質量分析用基板を用い、実施例1と同様にしてアンジオテンシンIIの質量分析を行ったところ、図5に示す質量スペクトルが得られた。図5に示した質量スペクトルにおいてm/z 1000-1100付近を拡大したものを図6に示す。図6から明らかなように、アンジオテンシンIIは痕跡程度と極めて低感度ながらも検出された。分解能はほとんど認められず、試料のイオン化がわずかながら起こることが確認された。
[実施例5]
50mLの容器に蒸留水(9.98部)、クエン酸二水素一ナトリウム(0.32部)、市販品の球状α-Fe23(2.5部)、及びジルコニアビーズ(40部)を加え、ペイントシェーカーにて12時間分散して液状物(分散液)を得た。得られた液状物を分散時に用いたものと同じ溶媒により約100倍に希釈し、実施例1と同様に分散液中のα-Fe23の粒度を測定したところ、平均粒子径(D50)は38nmであった。
次に、純正プレート(島津製作所製)上に、上記で得た分散液をマイクロピペッターにて0.6μL滴下し、乾燥させて直径1.5mm、高さ0.5μmの測定スポットを純正プレート上に作製し、実施例5に係る質量分析用基板を得た。
上記で得られた質量分析用基板を用いて、次のようにしてテストステロンの質量分析を行った。先ず、テストステロンを100μMになるようにアセトニトリルに溶解させ、この試料溶液0.6μLを得られた質量分析用基板の測定スポット上に滴下して乾燥させた(滴下したテストステロンの濃度は60pmol)。次いで、試料を付着させた分析用基板をMALDI−TOF/MS装置(島津製作所製 AXIMA-CFR)の試料台に固定させ、励起光源として337nmのN2パルスレーザー(3 ns)を用いて照射し、飛行時間型質量分析計を用いて測定した。得られた質量スペクトルを図7に示す。図7の質量スペクトルから明らかなように、ナトリウムイオンのピークが大きく検出されてはいるものの、それ以外のバックグラウンドノイズはほとんど検出されず、高い分解能でナトリウムイオン付加分子とその試料の同位体ピークが検出され、試料のイオン化は良好であった。また、フラグメントイオン由来のピークもほぼ検出されず、テストステロンの質量分析を高精度に行えることが確認された。
[実施例6]
テストステロンを10μMになるようにアセトニトリルに溶解させ、この試料溶液0.6μLを得られた質量分析用基板の測定スポット上に滴下して乾燥させた(滴下したテストステロンの濃度は6pmol)以外は実施例5と同様の操作を行い、テストステロンの質量分析を行った。得られた質量スペクトルを図8に示す。図8の質量スペクトルから、テストステロンの質量分析を行えることが確認された。ただし、バックグラウンドノイズのピークも多く検出された。そのいくつかはテストステロンよりも大きい強度で検出された。
[実施例7]
クエン酸二水素一ナトリウムの代わりに、クエン酸一水素二ナトリウム(0.39部)を用いた以外は実施例5と同様にして液状物(分散液)を得た。分散後に得られた液状物を分散時に用いたものと同じ溶媒により約100倍に希釈し、実施例1と同様に分散液中のα-Fe23の粒度を測定したところ、平均粒子径(D50)は41nmであった。そして、得られた分散液0.6μLを実施例1と同様に純正プレート(島津製作所製)上に滴下し、乾燥させて、実施例7に係る質量分析用基板を得た。
上記で得られた質量分析用基板を用い、実施例5と同様にしてテストステロンの質量分析を行った。テストステロンは100μMになるようアセトニトリルに溶解させ、この試料溶液0.6μLを得られた質量分析用基板の測定スポット上に滴下して乾燥させた(滴下したテストステロンの濃度は60pmol)。測定で得られた質量スペクトルを図9に示す。図9の質量スペクトルから明らかなように、高い分解能でナトリウムイオン付加分子とその同位体ピークが検出された。また、バックグラウンドノイズがいくつか検出されたものの、試料のピーク強度は良好であった。
[実施例8]
テストステロンを10μMになるようにアセトニトリルに溶解させ、この試料溶液0.6μLを得られた質量分析用基板の測定スポット上に滴下して乾燥させた(滴下したテストステロンの濃度は6pmol)以外は実施例7と同様の操作を行い、テストステロンの質量分析を行った。得られた質量スペクトルを図10に示す。図10の質量スペクトルから明らかなように、試料自身のピークも検出され、テストステロンの質量分析を行えることが確認された。ただし、ナトリウムイオンのピークやその他のバックグラウンドノイズが大きく検出された。
[実施例9]
クエン酸二水素一ナトリウムの代わりに、クエン酸三ナトリウム(0.44部)を用いた以外は実施例5と同様にして液状物(分散液)を得た。分散後に得られた液状物を分散時に用いたものと同じ溶媒により約100倍に希釈し、実施例1と同様に分散液中のα-Fe23の粒度を測定したところ、平均粒子径(D50)は41nmであった。
得られた質量分析用基板を用い、実施例5と同様にしてテストステロンの質量分析を行った。テストステロンは100μMになるようアセトニトリルに溶解させ、この試料溶液0.6μLを得られた質量分析用基板の測定スポット上に滴下して乾燥させた(滴下したテストステロンの濃度は60pmol)。測定で得られた質量スペクトルを図11に示す。図11の質量スペクトルから明らかなように、高い分解能でナトリウムイオン付加分子とその同位体ピークが検出された。また、バックグラウンドノイズがいくつか検出されたものの、試料のピーク強度は良好であった。
[実施例10]
テストステロンを10μMになるようにアセトニトリルに溶解させ、この試料溶液0.6μLを得られた質量分析用基板の測定スポット上に滴下して乾燥させた(滴下したテストステロンの濃度は6pmol)以外は実施例9と同様の操作を行い、テストステロンの質量分析を行った。得られた質量スペクトルを図12に示す。図12の質量スペクトルから明らかなように、ナトリウムイオンのピークが大きく検出されてはいるものの、高い分解能でナトリウムイオン付加分子とその試料の同位体ピークが検出され、試料のイオン化は良好であった。また、フラグメントイオン由来のピークもいくつか検出されたが、テストステロンの質量分析を高精度に行えることが確認された。
[実施例11]
テストステロンを2μMになるようにアセトニトリルに溶解させ、この試料溶液0.3μLを得られた質量分析用基板の測定スポット上に滴下して乾燥させた(滴下したテストステロンの濃度は600fmol)以外は実施例7と同様の操作を行い、テストステロンの質量分析を行った。得られた質量スペクトルを図13に示す。図13の質量スペクトルから明らかなように、ナトリウムイオンのピークが大きく検出されてはいるものの、高い分解能でナトリウムイオン付加分子とその試料の同位体ピークが検出され、試料のイオン化は良好であった。また、フラグメントイオン由来のピークもいくつか検出されたが、テストステロンの質量分析を高精度に行えることが確認された。
[実施例12]
テストステロンを0.2μMになるようにアセトニトリルに溶解させ、この試料溶液0.3μLを得られた質量分析用基板の測定スポット上に滴下して乾燥させた(滴下したテストステロンの濃度は60fmol)以外は実施例7と同様の操作を行い、テストステロンの質量分析を行った。得られた質量スペクトルを図14に示す。図14の質量スペクトルから明らかなように、ナトリウムイオンのピークが大きく検出されてはいるものの、高い分解能でナトリウムイオン付加分子とその試料の同位体ピークが検出され、試料のイオン化は良好であった。また、フラグメントイオン由来のピークもいくつか検出されたが、テストステロンの質量分析を高精度に行えることが確認された。
[実施例13]
ポリ(メチルメタクリレート)(Mw/Mn=2680)を1mg/mLになるようにアセトニトリルに溶解させ、この試料溶液0.6μLを得られた質量分析用基板の測定スポット上に滴下して乾燥させた(滴下したポリ(メチルメタクリレート)の濃度は223pmol)以外は実施例7と同様の操作を行い、ポリ(メチルメタクリレート)の質量分析を行った。得られた質量スペクトルを図15に示す。図15の質量スペクトルから明らかなように、ナトリウムイオンのピークが大きく検出されてはいるものの、高い分解能でナトリウムイオン付加分子とその試料の同位体ピークが検出され、試料のイオン化は良好であった。また、フラグメントイオン由来のピークもいくつか検出されたが、ポリ(メチルメタクリレート)の質量分析を高精度に行えることが確認された。
[比較例1]
50mLの容器にエタノール(9.58部)、蒸留水(0.4部)、ヨウ化ナトリウム(0.23部)、市販品の球状α-Fe23(2.5部)、及びジルコニアビーズ(40部)を加え、ペイントシェーカーにて12時間分散して液状物(分散液)を得た。得られた液状物を分散時に用いたものと同じ溶媒により約100倍に希釈し、実施例1と同様に分散液中のα-Fe23の粒度を測定したところ、平均粒子径(D50)は1672nmであった。そして、得られた分散液0.6μLを実施例1と同様に純正プレート(島津製作所製)上に滴下し、乾燥させて、比較例1に係る質量分析用基板を得た。
得られた質量分析用基板を用いて、実施例5と同様にしてテストステロンの質量分析を行ったところ、図16に示す質量スペクトルが得られた。図16に示した質量スペクトルから明らかなように、試料のピークはほとんど検出されず、ナトリウムイオンなどのバックグラウンドノイズ類が検出される結果であった。
1:基材
2:有機物が付着した金属酸化物

Claims (13)

  1. レーザー脱離イオン化質量分析において分析対象の試料を付着させて使用する質量分析用基板であって、プロトン及び/又はカチオンを供給可能な有機物が付着した金属酸化物を、基材上に備えることを特徴とする質量分析用基板。
  2. 少なくとも2個のカルボキシ基と少なくとも1個のヒドロキシ基とを有し、かつ、一部のカルボキシ基の水素がアルカリ金属で置換された有機酸塩が、金属酸化物に付着してプロトン及び/又はカチオンを供給可能にする請求項1に記載の質量分析用基板。
  3. クエン酸二水素一ナトリウム、クエン酸一水素二ナトリウム、酒石酸一水素一ナトリウム、及び、コハク酸一水素一ナトリウムからなる群から選ばれた1種又は2種以上の有機酸塩が金属酸化物に付着している請求項2に記載の質量分析用基板。
  4. 少なくとも2個のカルボキシ基と少なくとも1個のヒドロキシ基とを有し、かつ、カルボキシ基の水素がすべてアルカリ金属に置換された有機酸塩が、金属酸化物に付着してプロトン及び/又はカチオンを供給可能にする請求項1に記載の質量分析用基板。
  5. クエン酸三ナトリウム、酒石酸二ナトリウム、及び、コハク酸二ナトリウムからなる群から選ばれた1種又は2種以上の有機酸塩が金属酸化物に付着している請求項4に記載の質量分析用基板。
  6. 少なくとも2個のカルボキシ基と少なくとも1個のヒドロキシ基とを有し、かつ、カルボキシ基及びヒドロキシ基の水素はいずれも置換されていない有機酸が、金属酸化物に付着してプロトン及び/又はカチオンを供給可能にする請求項1に記載の質量分析用基板。
  7. クエン酸、酒石酸、及び、リンゴ酸からなる群から選ばれた1種又は2種以上の有機酸が金属酸化物に付着している請求項6に記載の質量分析用基板。
  8. 少なくとも2個のカルボキシ基を有して、カルボキシ基の水素はいずれも置換されておらず、かつ、ヒドロキシ基を有さない有機酸が、金属酸化物に付着してプロトン及び/又はカチオンを供給可能にする請求項1の質量分析用基板。
  9. コハク酸、シュウ酸、ケイ皮酸、ジグリコール酸、及び、セバシン酸からなる群から選ばれた1種又は2種以上の有機酸が金属酸化物に付着している請求項8の質量分析用基板。
  10. 金属酸化物がFe23粉末からなる請求項1〜9のいずれかに記載の質量分析用基板。
  11. レーザー脱離イオン化質量分析において分析対象の試料を付着させて使用する質量分析用基板の製造方法であって、プロトン及び/又はカチオンを供給可能な有機物と金属酸化物とを分散させた金属酸化物分散液を、基材上に塗布して、乾燥させることを特徴とする質量分析用基板の製造方法。
  12. 分散液における金属酸化物の粒子径が、1nm〜3000nmである請求項11に記載の質量分析用基板の製造方法。
  13. 分析対象の試料であるアンジオテンシンI、アンジオテンシンII、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレングリコール、ペラパミル塩酸塩、テストステロン、糖類、又は、インスリン(ヒト)を所定の溶媒に溶解させた試料溶液を、請求項1〜10のいずれかに記載の質量分析用基板に滴下し、レーザーを照射してイオン化して分析することを特徴とする質量分析法。
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