JP2011026666A - 硼化物系サーメット溶射用粉末 - Google Patents
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Abstract
【課題】硬度、耐熱性、耐摩耗性、耐酸化性、および耐溶融金属腐食性に優れ、しかも耐熱衝撃性および靭性をさらに向上させた溶射被膜を形成するための硼化物系サーメット溶射用粉末を提供する。
【解決手段】質量比にて、B:2〜12%、Co:10〜40%、Cr:5〜20%、Mo:3〜10%、Ni:0.5〜20%を含み、残部Wと不可回避的不純物から構成される複合粉末組成物からなり、好ましくは、見掛け密度が3.0〜4.0g/cm3である、硼化物系サーメット溶射用粉末である。
【選択図】なし
【解決手段】質量比にて、B:2〜12%、Co:10〜40%、Cr:5〜20%、Mo:3〜10%、Ni:0.5〜20%を含み、残部Wと不可回避的不純物から構成される複合粉末組成物からなり、好ましくは、見掛け密度が3.0〜4.0g/cm3である、硼化物系サーメット溶射用粉末である。
【選択図】なし
Description
本発明は、サーメット溶射被膜を形成するための硼化物系サーメット溶射用粉末に関する。
近年、産業の発展に伴って、産業用機械などの高性能化、高精度化、多様化およびエネルギーコストの低廉化が進むにつれて、溶射材料に金属とセラミックスとを成分とする複合材料(サーメット)を用いて形成するサーメット溶射被覆層に対する要求性能はますます厳しくなり、以前にも増して優れた性能を必要とされている。
従来、サーメット溶射被覆層(以下、単に「被覆層」または「溶射被膜」ともいう。)の形成には、その使用温度に応じて種々のサーメット材料が使用されている。常温から500℃程度までの温度範囲における代表的な材料は、タングステンカーバイド・コバルト(WC−Co)系やタングステンカーバイド・ニッケル(WC−Ni)系の材料であり、また、これより高い900℃までの高温域における代表的な材料は、クロムカーバイド・ニッケルクロム(Cr3C2−NiCr)系やクロムカーバイド・ニッケル(Cr3C2−Ni)系の材料である。これらの被覆層は、それぞれの目的に応じた、硬度、耐熱性、耐摩耗性、耐酸化性などの特性を有している。
しかしながら、サーメット溶射被覆層の使用環境が多様化するにつれて、特性のより優れた被膜材料が望まれており、上述した硬度、耐熱性、耐摩耗性、耐酸化性のほか、さらに耐熱衝撃性、靭性、耐食性(耐溶融金属腐食性)を兼ね備えた被膜材料の開発も望まれている。
たとえば、自動車などの表面処理鋼板を製造するための溶融亜鉛メッキ浴(450〜500℃)や溶融アルミニウムメッキ浴(700〜800℃)に浸漬されて、連続的に通過する鋼板を支持および案内して、該鋼板の表面に均一な亜鉛メッキまたはアルミニウムメッキを被着させるために、シンクロール、サポートロールなどが用いられている。このようなシンクロール、サポートロールなどを被覆するための被膜層には、単に高い硬度、耐熱性、および耐摩耗性のみならず、メンテナンス時(1〜2日周期)の溶融金属浴中からの出し入れに耐えうる耐熱衝撃性、鋼板との摺動に耐えうる靭性、および溶融金属に対する耐食性(耐溶融金属腐食性)がさらに要求される。
上述したような従来型のサーメット溶射被膜のうち、WC−Co系のものは、500℃までの乾燥雰囲気中では、硬度や耐摩耗性に優れているものの、耐熱性や耐食性(耐溶融金属腐食性)に劣り、特に500℃以上の酸化性雰囲気における耐熱性や耐食性(耐溶融金属腐食性)に問題がある。また、Cr3C2−NiCr系のものは、900℃の高温域まで耐熱性や耐食性(耐溶融金属腐食性)、耐酸化性を維持するものの、硬度や耐摩耗性に劣っている。
このような従来のサーメット材料を、自動車鋼板用のシンクロール、サポートロールなどの被膜層として用いた場合、特に、耐熱衝撃性、靭性、および耐食性(耐溶融金属腐食性)に劣ることに起因して、剥離しやすく、寿命が短くなるという問題がある。
これに対して、高硬度で、耐熱性、耐摩耗性、および耐食性(耐溶融金属腐食性)に優れ、かつ、耐熱衝撃性や靭性に対する要求特性をも同時に満足するサーメット溶射被膜を形成するための溶射用粉末として、特許文献1には、質量比にて、B:2.5〜4.0%、Co:15.0〜30.0%、Cr:5.0〜10.0%、Mo:3.0〜6.0%を含み、残部Wと不可回避的不純物からなる硼化物系(WB−CoCrMo系)サーメット溶射用粉末が開示されている。
しかしながら、この特許文献1に開示されたサーメット溶射用粉末により形成された溶射被膜は、溶融亜鉛メッキ浴中で使用されるシンクロールやサポートロールなどの被覆層としては十分な性能を有しているものの、より高温で使用される溶融アルミニウムメッキ浴中で使用されるシンクロールやサポートロールなどの被覆層としては、耐熱衝撃性および靭性が不足しており、そのさらなる向上が望まれている。
本発明は、上述のような事情に鑑み、従来の硼化物系サーメット溶射用粉末により形成された溶射被膜と比べて、硬度、耐熱性、耐摩耗性、耐酸化性、および耐食性(耐溶融金属腐食性)に関する性能を維持しつつ、耐熱衝撃性および靭性をさらに向上させた溶射被膜を形成できる、サーメット溶射用粉末を提供することを目的とする。
本発明の硼化物系サーメット溶射用粉末は、質量比にて、B:2〜12%、Co:10〜40%、Cr:5〜20%、Mo:3〜10%、Ni:0.5〜20%を含み、残部Wと不可回避的不純物から構成される複合粉末組成物からなることを特徴とする。
該硼化物系サーメット溶射用粉末の見掛け密度は、3.0〜4.0g/cm3であることが好ましい。
該硼化物系サーメット溶射用粉末は、WB粉末と、Co、Cr、MoおよびNiの単体金属粉末とを整粒し、焼結することにより得られ、金属結合相(Co−Cr−Mo−Ni系合金層)により表面が被覆されている複硼化物一次粒子(W2CoB2、W2NiB2粒子)が結合した二次粒子からなる粉末であって、一次粒子用原料粉末としての前記WB粉末の平均粒径が1.0〜1.5μmであることが好ましい。
なお、溶射法に応じて、二次粒子の粒度が5〜30μm、5〜38μm、5〜45μm、15〜45μmまたは15〜53μmのいずれかから選択される範囲となるように整粒されていることが好ましい。
本発明の硼化物系サーメット溶射用粉末を用いることにより、得られる溶射被膜において、WC−Co系サーメット溶射被膜と同程度の硬度および耐摩耗性と、Cr3C2−NiCr系サーメット溶射被膜を上回る耐熱性、耐酸化性および耐食性(耐溶融金属腐食性)とを有し、しかも従来の硼化物(WB−CoCrMo)系サーメット溶射被膜よりも高い耐熱衝撃性および靭性を得ることができる。
発明者は、鋭意研究を重ねた結果、従来の硼化物(WB−CoCrMo)系サーメット溶射被膜を形成するためのサーメット溶射用粉末に、適正量のNiを添加することによって、得られるサーメット溶射被膜の耐熱衝撃性および靭性を、硬度、耐摩耗性、耐食性(耐溶融金属腐食性)などの他の特性を損なうことなく向上させられるとの知見を得て、本発明を完成するに至ったものである。
本発明の硼化物系サーメット溶射用粉末は、硼化物系複合粉末組成物からなるが、該組成物は、質量比にて、B:2〜12%、Co:10〜40%、Cr:5〜20%、Mo:3〜10%、Ni:0.5〜20%を含み、残部Wと不可回避的不純物とにより構成される。以下、それぞれの成分限定理由を説明する。
Bは、WおよびCo、または、Niと結合して複硼化物相を形成するために必要な元素である。
溶射用粉末中のBの含有量が2質量%未満では、溶射被覆時の熱影響と酸化により、溶射被覆層中のB量が1質量%未満にまで低下するため、得られる溶射被覆層において十分な硬度と耐摩耗性が得られない。一方、12質量%を超えると、硬度は高くなるが、溶射被覆層の靭性が著しく低下する。従って、溶射用粉末中のB含有量は、2〜12質量%の範囲が適当であり、3〜5質量%の範囲が好ましい。
Coは、金属結合相形成の主体となる元素であるが、一方において、複硼化物相の形成にも欠かせない元素であり、得られた溶射被覆層に耐酸化性、耐熱衝撃性に影響する高温強度を付与する効果を有する。
溶射用粉末中のCoの含有量が10質量%未満では、形成される金属結合相と複硼化物相との相互固溶量が少なくなるためにその結合力が低下し、かつ、気孔などの欠陥が発生しやすくなる。一方、40質量%を超えると、金属結合相における耐食性(耐溶融金属腐食性)を低下させるとともに、金属結合相が過剰な状態となり、硬度や耐摩耗性、耐熱衝撃性に影響する高温強度が低下する。また、複硼化物中において脆弱なCoBなどの硼化物が多量に形成するようになるので、溶射被覆層の靭性が低下してしまう。従って、溶射用粉末中のCo含有量は、10〜40質量%の範囲が適当であり、11〜13質量%の範囲が好ましい。
Crは、耐食性(耐溶融金属腐食性)、耐熱性および耐酸化性の向上に寄与する元素であり、Coと結合して金属結合相を形成し、靭性を向上させる効果を有する。
溶射用粉末中のCrの含有量が5質量%未満では、かかる効果を十分に得られなくなる。一方、20質量%を超えると、得られた溶射被覆層における耐食性(耐溶融金属腐食性)、耐熱性および耐酸化性をさらに向上させるものの、靭性を低下させるので好ましくない。従って、溶射用粉末中のCr含有量は、5〜20質量%の範囲が適当であり、5〜9質量%の範囲が好ましい。
Moは、金属結合相を形成するCo、Cr、Niと結合して、該金属結合相の耐食性(耐溶融金属腐食性)と強度を一層高めるとともに、さらにはMo2CoB2、または、Mo2NiB2で表される複硼化物を形成するために必要な元素である。
溶射用粉末中のMoの含有量が3質量%未満では、かかる効果を十分に得られなくなる。一方、10質量%を超えると、金属結合相の強度がかえって低下してしまう。従って、溶射用粉末中のMo含有量は、3〜10質量%の範囲が適当であり、3〜5質量%の範囲が好ましい。
Niは、Co、Cr、Moと共に金属結合相を形成し、該金属結合相の靭性を向上させるとともに、さらにはW、Bと結合して複硼化物相を形成し、得られる溶射被覆層の耐酸化性、耐熱衝撃性と、耐熱衝撃性に影響する高温強度を向上させる効果を有する。
溶射用粉末中のNiの含有量が0.5質量%未満では、かかる効果を十分に得られなくなる。一方、20質量%を超えると、硬度や耐摩耗性、耐食性(耐溶融金属腐食性)が低下する。従って、溶射用粉末中のNi含有量は、0.5〜20質量%の範囲が適当であり、0.5〜10質量%の範囲が好ましい。
Wは、Bと同様に複硼化物相を形成するために必要な元素であり、該複硼化物相は、W2CoB2、W2NiB2で表される。なお、Wは、一次粒子用原料粉末であるWB粉末の形態で用いられ、WB粉末は、溶射被膜の硬度および耐摩耗性の向上に寄与することになる。
硼化物系サーメット溶射用粉末は、一次粒子用原料粉末であるWB粉末を、こられのバインダ的役割を担うCo、Cr、MoおよびNiの金属粉末と共に整粒し、焼結することにより得られる。
添加されるCo、Cr、MoおよびNiの金属粉末としては、それぞれの単体金属粉末を用いることが望ましい。これらの元素を合金粉末の形態、たとえばステライト合金粉末などの形態で用いた場合よりも、単体金属粉末を用いた場合の方が、CoやNiが硼化物であるWBと結合しやすく、複硼化物が形成されやすいためである。
焼結後の一次粒子は、複硼化物としてのW2CoB2、W2NiB2粒子に、金属結合相であるCo−Cr−Mo−Ni系合金層が晶出したものからなる。かかる複硼化物一次粒子の粒径は、WB粉末の粒径に比例して大きくなる。そして、その溶射被膜は、複硼化物一次粒子のそれぞれの表面に均一に金属結合相が被覆されていることが理想である。
一次粒子用原料粉末であるWB粉末の平均粒径が1.5μmより大きいと、二次粒子を構成する複硼化物一次粒子間の空孔部が大きくなり、部分的に金属結合相が過多となり、硬度、耐摩耗性、耐熱性、耐食性(耐溶融金属腐食性)の低下が生じる。一方、1.0μm未満では複硼化物一次粒子の比表面積が大きくなることから、金属結合相を形成するために必要な金属粉末の添加量を増加させた場合には、これに伴い、耐摩耗性、耐食性(耐溶融金属腐食性)などの低下が生じ、一方、添加量を増加させない場合には、金属結合相の不足による耐熱衝撃性と靭性の低下が生じることになる。従って、一次粒子用原料であるWB粉末の粒径は、1.0〜1.5μmの範囲が適当であり、1.2〜1.5μmの範囲が好ましい。
また、サーメット粉末の見掛け密度は、複硼化物一次粒子間の結合力と、サーメット粒子(二次粒子)内部の空孔率に影響するものであり、その値が3.0g/cm3未満であると、複硼化物一次粒子間の結合力が低く、内部の空孔率も大きくなるため、溶射に際して母材との衝突時に扁平状にはならずに砕けて周囲に飛散しやすく、形成された被膜もサーメット粒子内部の空孔が残存したものとなるため、耐熱衝撃性の低下を生じる。一方、4.0g/cm3より高い値であると、その緻密化には2,000℃以上の焼結温度が必要であり、WO3などの脆弱な酸化物が晶出し、さらには複硼化物が晶出せずにWBがそのまま残存するため、耐熱衝撃性と靭性が低下する。従って、サーメット粒子としての見掛け密度は、3.0〜4.0g/cm3の範囲が適当であり、3.2〜4.0g/cm3の範囲が好ましい。
本発明の硼化物系サーメット溶射用粉末を用いて、基板上にサーメット溶射被覆する方法としては、常法、つまり、溶射ガンを使用した大気または減圧プラズマ溶射法、もしくは高速ガス炎溶射法が適用される。通常、プラズマ溶射法には、15〜53μm、15〜45μmの粒径の溶射用粉末が、また、高速ガス炎溶射法には、5〜30μm、5〜38μm、5〜45μmもしくは15〜45μm、15〜53μmの粒径の溶射粉末が使用される。なお、これらの粉末が、上記粒度範囲よりも粗い場合には、緻密な溶射被覆層を形成することが困難になるとともに、加熱不足による溶射粉末の付着歩留りが低下する。この結果、低硬度および低付着歩留りの溶射被覆層しか得られず、品質低下やコスト高を招く。一方、上記各粒子が、上記粒度範囲よりも微細である場合には、粉末の流動性が低下するとともに、受熱効率の高い微細粉末が溶融して、溶射ガンのノズル内面に堆積する。この結果、溶射作業性が著しく損なわれる。
以下に本発明の実施例について説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(溶射用粉末の作製)
原料粉末として、Bを6.8質量%含有するWB粉末と、Co、Cr、MoおよびNiのそれぞれの単体金属粉末を用いた。WB粉末は、その粉砕粉を空気分級にかけることにより、その平均粒径が2.0μm以下となるように調整した。なお、レーザ回折式粒度分布測定法により測定した結果、その平均粒径は1.2μmであった。
(溶射用粉末の作製)
原料粉末として、Bを6.8質量%含有するWB粉末と、Co、Cr、MoおよびNiのそれぞれの単体金属粉末を用いた。WB粉末は、その粉砕粉を空気分級にかけることにより、その平均粒径が2.0μm以下となるように調整した。なお、レーザ回折式粒度分布測定法により測定した結果、その平均粒径は1.2μmであった。
WB粉末を65質量%、Co粉末を12.5質量%、Cr粉末を7.5質量%、Mo粉末を5質量%、Ni粉末を10質量%、それぞれ採取し、ステンレス鋼製容器に入れて、振動ボールミル内において湿式で粉砕混合した。混合時間は24時間とした。該容器から取り出したスラリーを非酸化性雰囲気中において噴霧乾燥して造粒した後、真空中で焼結して粉末を得た。
該粉末を、CuΚα線を用いたX線回折法により同定した結果、W2CoB2、W2NiB2の複硼化物粒子に、金属結合相であるCo−Cr−Mo−Ni系合金層が晶出した一次粒子が結合した二次粒子から形成されていることが確認された。
得られた粉末を回収し、これを空気分級機によって5〜45μmの粉末に整粒して溶射用粉末を調製した。
なお、見掛け密度は、焼結温度を1360℃にすることにより調整した。得られた溶射用粉末を、JIS Z 2504に記載の金属粉末の見掛け密度測定方法により測定した結果、その見掛け密度は3.6g/cm3であった。
得られた溶射用粉末の化学組成、WB粉末の平均粒径、溶射用粉末としての見掛け密度、分級粒度範囲を表1に示す。
(試験片の作製)
次に、この粉末を使用して高速ガス炎溶射法(燃料:水素−酸素)により、SS400製基板上に0.4mm厚さの溶射被覆層を形成した。その後、機械加工および表面研磨により、該被覆層表面の凹凸を取り除き、平滑度が仕上げ記号で▽▽▽(表面粗さ区分値:Rmax=6.3S、Rz=6.3Z、Ra=1.6a)となる試験片を得た。
次に、この粉末を使用して高速ガス炎溶射法(燃料:水素−酸素)により、SS400製基板上に0.4mm厚さの溶射被覆層を形成した。その後、機械加工および表面研磨により、該被覆層表面の凹凸を取り除き、平滑度が仕上げ記号で▽▽▽(表面粗さ区分値:Rmax=6.3S、Rz=6.3Z、Ra=1.6a)となる試験片を得た。
この試験片について、EPMA定量分析による被覆層の組成分析を行った結果を表2に示す。
(特性試験)
試験片をCuΚα線を用いたX線回折法により同定した結果、主として、W2CoB2およびW2NiB2の三元系複硼化物相が認められた。
試験片をCuΚα線を用いたX線回折法により同定した結果、主として、W2CoB2およびW2NiB2の三元系複硼化物相が認められた。
また、試験片の表面のビッカース硬度Hv(荷重:2.94N)は1570であった。
また、往復運動摩耗試験機を用い、JIS H 8503 第9項に規定された試験方法に従って、相手材にSiC研磨紙320番を使用し、試験荷重を29.4N、往復荷重回数を1600回として、試験片の耐摩耗性試験を行った結果、摩耗減量は0.59mg/cm2であり、高い耐摩耗性を有することが確認された。
また、試験片を750℃の電気炉中に30分間保持した後、水中で急冷する熱サイクルを繰り返し30回行い、1回毎に被覆層に生ずる亀裂や剥離の有無を目視およびカラーチェックにより観察して、耐熱衝撃性の評価を行った結果、該熱サイクル中には異常は認められなかった。この熱衝撃試験では、耐熱衝撃性と靭性の及ぼす効果が大きく、本実施例が高い耐熱衝撃性と靭性を有することが分かった。
また、試験片を900℃の電気炉中に2時間保持して、被覆層の酸化増量の測定を行ったところ、その値は3.4mg/cm2であり、高い耐酸化性を有することが確認された。
また、900℃の高温下で測定した、試験片の表面のビッカース硬度Hv(荷重:2.94N)は780であり、高い耐熱性を有することが確認された。
さらに、470℃で溶融しているZn−0.15%Al中へ試験片を120時間(5日間)浸漬する試験を行ったところ、腐食減量は89mg/cm2であり、被膜残存率は87.2%であって、高い耐溶融金属腐食性を有することが確認された。
以上の特性試験の結果を表3に示す。
[実施例2〜9、および比較例1〜6]
表1に示す、化学組成、WB粉末の平均粒径、見掛け密度、分級粒度範囲のうち、少なくとも化学組成を異ならせたこと以外は、実施例1と同様の方法で、溶射用粉末の作製、試験片の作製、および特性試験を行った。
表1に示す、化学組成、WB粉末の平均粒径、見掛け密度、分級粒度範囲のうち、少なくとも化学組成を異ならせたこと以外は、実施例1と同様の方法で、溶射用粉末の作製、試験片の作製、および特性試験を行った。
なお、見掛け密度は、焼結温度を1250〜1380℃の範囲で設定することにより、2.8〜3.9g/cm3の範囲に調整した。
実施例3においては、WB粉末を、空気分級により平均粒径が3.0μm以下となるように調整した。レーザ回折式粒度分布測定法の測定では、その平均粒径は2.6μmであった。
実施例7では、得られた粉末を、空気分級によって15〜53μmの粉末に整粒して溶射用粉末を調製した。
なお、比較例1〜6は、実施例1〜9と同じく、W、B、Co、Cr、Moに加えてNiを含有しているが、化学組成が本発明の限定範囲から外れている例である。
[従来例1〜4]
従来例1〜2では、Niを添加せずに、表1に示す化学組成のWB−CoCrMo系溶射用粉末としたこと以外は、実施例1と同様に、溶射用粉末を得て、溶射による試験片を得て、その組成分析と特性試験を行った。なお、従来例2は、15〜53μmの範囲に分級して溶射用粉末を得た。
従来例1〜2では、Niを添加せずに、表1に示す化学組成のWB−CoCrMo系溶射用粉末としたこと以外は、実施例1と同様に、溶射用粉末を得て、溶射による試験片を得て、その組成分析と特性試験を行った。なお、従来例2は、15〜53μmの範囲に分級して溶射用粉末を得た。
従来例3では、W粉末、Co粉末およびC粉末を所定量ずつ用いて、従来法によるWC−Co系サーメット溶射被膜を得るための溶射用粉末を得て、また、従来例4では、Cr粉末、Ni粉末およびC粉末を所定量ずつ用いて、従来法によるCr3C2−NiCr系サーメット溶射被膜を得るための溶射用粉末を得た。その後、実施例1と同様の方法で、試験片の作製および特性試験を行った。
[評価]
以上の結果から明らかなように、本発明の硼化物系サーメット溶射用粉末を使用して得られた溶射被膜(実施例1〜9)は、硬度、耐摩耗性、耐熱衝撃性、耐酸化性、耐熱性、および耐溶融金属腐食性のすべてについて優れているといえる。
以上の結果から明らかなように、本発明の硼化物系サーメット溶射用粉末を使用して得られた溶射被膜(実施例1〜9)は、硬度、耐摩耗性、耐熱衝撃性、耐酸化性、耐熱性、および耐溶融金属腐食性のすべてについて優れているといえる。
特に、本発明の硼化物系サーメット溶射用粉末を使用して得られた溶射被膜(実施例1〜9)は、従来型のWC−Co系サーメット溶射被膜(従来例3)と同程度の硬度と耐摩耗性を有し、また、Cr3C2−NiCr系サーメット溶射被膜(従来例4)を上回る耐酸化性と耐熱性を備えると共に、公知のWB−CoCrMo系サーメット溶射被膜(従来例1〜2)に比べて著しく高い耐熱衝撃性を有することが明らかである。
Claims (4)
- 質量比にて、B:2〜12%、Co:10〜40%、Cr:5〜20%、Mo:3〜10%、Ni:0.5〜20%を含み、残部Wと不可回避的不純物から構成される複合粉末組成物からなる硼化物系サーメット溶射用粉末。
- 見掛け密度が3.0〜4.0g/cm3であることを特徴とする、請求項1に記載の硼化物系サーメット溶射用粉末。
- WB粉末と、Co、Cr、MoおよびNiの単体金属粉末とを整粒し、焼結することにより得られ、金属結合相により表面が被覆されている複硼化物一次粒子が結合した二次粒子からなる粉末であって、一次粒子用原料粉末としての前記WB粉末の平均粒径が1.0〜1.5μmであることを特徴とする、請求項1〜2のうちのいずれか1項に記載の硼化物系サーメット溶射用粉末。
- 二次粒子の粒度が5〜30μm、5〜38μm、5〜45μm、15〜45μmまたは15〜53μmのいずれかから選択される範囲となるように整粒されている、請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載の硼化物系サーメット溶射用粉末。
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JPWO2013176058A1 (ja) * | 2012-05-21 | 2016-01-12 | 株式会社フジミインコーポレーテッド | サーメット粉体物 |
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