JP2011021100A - デポジット付着防止材料および燃料噴射弁 - Google Patents
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Abstract
【課題】内燃機関において燃料燃焼の際に発生するデポジットの付着を防止するために燃料噴射弁の表面等に形成されるコーティング層用のデポジット付着防止材料であって、高温にさらされても耐久性良く付着防止機能を維持するデポジット付着防止材料を提供する。
【解決手段】フッ素原子を含んでいる主部位にベンゼン環を導入することで、ベンゼン環部分のみでなく、その前後各1つの部位の結合も強化されることを見出した。そこで、デポジット付着防止材料を、基板材料との結合のための基材結合部位と、その基材結合部位に結合し、且つ、フッ素原子を含んでいる主部位とから構成する。この構成により、主部位と基材結合部位との間の結合が切れにくくなる。その結果、フッ化物が基板材料から脱離してしまうことを抑制できるので、高温にさらされても耐久性良く付着防止機能を維持することができる。
【選択図】図21
【解決手段】フッ素原子を含んでいる主部位にベンゼン環を導入することで、ベンゼン環部分のみでなく、その前後各1つの部位の結合も強化されることを見出した。そこで、デポジット付着防止材料を、基板材料との結合のための基材結合部位と、その基材結合部位に結合し、且つ、フッ素原子を含んでいる主部位とから構成する。この構成により、主部位と基材結合部位との間の結合が切れにくくなる。その結果、フッ化物が基板材料から脱離してしまうことを抑制できるので、高温にさらされても耐久性良く付着防止機能を維持することができる。
【選択図】図21
Description
本発明は、内燃機関において燃料燃焼の際に発生するデポジットが付着する事を防止するために、燃料噴射弁の表面等に形成されるコーティング層用のデポジット付着防止材料に関し、特に、高温にさらされても耐久性良く材料の主要な構造を維持するようにしたデポジット付着防止材料に関する。また、そのデポジット付着防止材料でコーティング層が形成されている事によりデポジットの付着防止機能を耐久性良く維持している燃料噴射弁に関する。
直噴ガソリンエンジンの燃料噴射弁はエンジン内筒に装着されているため高温度の燃焼ガスにさらされる。この状態では、燃料噴射弁の先端にガソリンの燃焼によって発生するデポジットが堆積しやすい。デポジットが堆積すると、噴霧されるガソリンの噴霧安定性が悪くなりエンジン内筒に設定された噴霧形状が崩れ、燃料の流量低下、及び混合気形成が悪化し燃焼が不安定になる。
デポジットの生成要因は燃焼室で発生したすす、及びガソリンが熱分解して生成したガム状物等の堆積物と考えられている。また、特許文献1の実施例で述べているように、燃料の高留分が燃料噴射弁表面に残留し、その残留物が核となって脱水素反応や重合反応を起こしてデポジットが生成すると考えられており、特に燃料噴射弁の周辺温度が160℃以上の場合に発生しやすいと報告されている。
そのため、デポジットを低減する方法としては特許文献1で述べてあるように噴射弁の先端温度を下げる工夫が数多く試みられている。また、デポジットを洗浄する目的でガソリン中に添加剤を混入する方法や燃料噴射弁の表面粗さを小さくする方法も試みられている(非特許文献1参照)。しかし、いずれも、有効にデポジットを低減することは困難である。また、上記特許文献1では、燃料噴射弁の表面を撥油性にし、デポジットの剥離を容易にし、燃料の流量低下を防止できるといった報告がなされている。この方法は撥油性のフルオロアルキル化合物を燃料噴射弁表面に反応固定し、表面を撥油性にする方法である。しかし、燃料噴射弁の先端部の温度が使用する燃料の90%蒸留温度を超えると、燃料噴射弁にはデポジットの堆積が進行する。そのため、燃料噴射弁の噴口の開口面積が低減し、流量低下が生じてしまう。
前述のように、燃料噴射弁の表面にフルオロアルキル化合物を反応固定し、デポジットの剥離性を向上する方法がある。しかし、この方法は、燃料噴射弁の先端部の温度を上げデポジットの生成量が多くなると効果がなくなってしまう。この理由は、フルオロアルキル化合物の分子鎖長が1nm以下と短いため、5〜12MPaの燃料圧力で燃料噴射弁表面に押し付けられたとき、デポジットが膜厚1nmのフルオロアルキル化合物からなる膜を突き破り、直接表面に接触したデポジットがその表面に固着されてしまうからだと考えられてきた。
これを解決するには、燃料噴射弁の表面を硬い高分子状のフッ素皮膜で覆う、あるいは鎖長が長いフッ素系化合物を用い厚い皮膜を反応固定することが考えられる。このようにすると、燃料であるガソリンで簡単にデポジットを洗浄することができ、デポジットの表面への固着付着を防止することができる。その結果、直噴ガソリンエンジンの燃焼が安定し、信頼性の高い直噴ガソリンエンジンを完成することができる。しかし、これを実現するためには、以下の解決すべき課題がある。
即ち、燃料圧力を5〜12MPa、燃料噴射弁の表面温度150〜200℃の条件で燃料噴射弁の表面に安定して存在が可能で、しかも低表面エネルギーを付与できる材料であることが必要である。安定して存在が可能であるためには、長時間ガソリンの燃焼にさらされるため不燃性であることが必要であり、さらに、酸化安定性,耐熱性及び耐ガソリン安定性が良好であること、および燃料噴射弁の表面への高い接着性も必要である。これら問題を解決することが課題となる。
これに対し、たとえば特許文献2では、ガソリン燃焼の際に発生するデポジットが直噴ガソリンエンジン用燃料噴射弁の表面に付着することを防止し、あるいは付着したデポジットが脱離し易くするために、不燃性のパーフルオロ化合物を用いている。また、このパーフルオロ化合物は、低表面エネルギーを付与するための材料としても最も優れ、また酸化安定性,耐熱性及びガソリン耐久性にも優れていると同文献は記述している。
ただし、これらのパーフルオロ化合物は低表面エネルギーであるため基板との接着性はきわめて悪いという課題があり、この課題を解決するために、特許文献2では、パーフルオロ化合物の末端に基板と反応固定するカップリング剤を結合している。また、パーフルオロポリエーテル化合物とすることにより厚みを作り、さらにこのパーフルオロポリエーテル化合物を基板に強力に接着するため、末端にアルコキシシランを結合させる事で、課題解決を図っている。
自動車技術会:学術講演会前刷り集976(1997−10)
燃料噴射弁のエンジンへの搭載方法や過給吸気の採用により、燃料噴射弁の表面温度は 300℃程度まで高温化するので、その条件で長時間使用すると、パーフルオロ化合物の耐熱温度が不足する可能性がある。そのため、例えばSiO2によって形成されている基板材料の構成原子:Siに対するフッ素原子の比率が低下している可能性があると本発明者は考えた。そこで、GC-MSを用いて高温下で検出できる原子を確認したところ、実際に、300℃程度の高温ではフッ素原子を検出することができた。この実験により、高温下においてフッ素比率の低下を確認した。
300℃の高温下ともなると、上記フッ素比率の低下は基板との接合だけに特定すべきものではなく、分子自体も分解していることは以下のようにして容易に分かる。
加熱分解ガス分析(トラップGC/MS)を、アルキル基とフルオロアルキル基から構成される分子を基板材料:SiOに接合したサンプルで実施すると、260℃近傍からフッ素含有物質の発生が始まり、多種の物質が温度の変化に伴い変化し発生することが確認できる。このことから、フルオロアルキル基を含む材料自体が300℃の高温に耐えられるわけではなく分解を起こす事が分かる。すなわち、基板とコーティング材の結合に必ずしも問題があるわけではなく、分子内のどこかで結合が途切れ分解している事が上記多種の物質の発生で示唆されており、パーフルオロ化合物の耐久性は十分ではないといえる。
また、過去には、分析しながら実験を重ねて、試行錯誤を繰り返すしか方法がなかった。その結果、分析の分解能により解明するスケールが決まってしまうため、原子レベルの微視的な環境までの直視的な解明は難しい技術レベルであった。すなわち、数十〜数百nm程度の分析は十分にできる環境であるが、原子レベル:数Åまでの要因分析はできず、結果、分子内の原子−原子の結合までも明確に比較する事は到底できなかった。
したがって、原子−原子間の結合力もしくは結合エネルギーという潜在的な物性値の推定を分析・実験により行うことはなお更困難である。原子−原子間の結合距離が、化合物の種類、圧力、温度、濃度によって少ししか変わらない事から、分析・実験では、材料の長さが予想できる程度であり、原子の配置までもが厳密に、少なくとも直視的に分かるまでには至っていなかった。
本発明の目的は、内燃機関において燃料燃焼の際に発生するデポジットの付着を防止するために燃料噴射弁の表面等に形成されるコーティング層用のデポジット付着防止材料であって、高温にさらされても耐久性良く材料の主要な構造を維持して付着防止機能を維持するデポジット付着防止材料を提供することを目的とする。また、そのデポジット付着防止材料によりコーティング層が形成されている事によりデポジット付着防止機能を耐久性良く維持している燃料噴射弁を提供することも目的とする。
この目的のため、本発明者は、分子内の一原子、原子−原子間の一結合までも比較して、デポジット防止機能の低下要因を特定した。これにより、原子レベルまで変更して分子内までも強化することで耐久性向上を図った。
本発明では、要因解明の手段として、量子力学による第一原理計算を使用した。第一原理計算は、実験によるデータを必要とせずに厳密に計算できる手法であり、既知の原子の情報から厳密に原子、分子、結晶を再現することができる。つまり上記第一原理計算手法では、上記実験と分析技術による試行錯誤では少なくとも直視的には解明できない、あるいは解明が難しい微視的な情報までをも掴む事ができる。
第一原理計算に代表される計算技術は、近年突然出現したわけではなく、昔から計算手法の発展のための研究がなされている。例えば、原子のモデルを作成し、原子−原子間の結合のタイプを選択して係数を当てはめて計算させる分子力場計算やそれを動力学的にビジュアル化した分子動力学、あるいは2つ以上の状態の自由エネルギーを紙上で計算・比較して安定構造を決めたり、温度や濃度による安定構造の変化を見出す手法他、さまざまな手法がある。
上記各種計算技術では、個々に問題がある。たとえば、ある計算技術では、計算が複雑で、モデルを簡素化しなければならず、現実のモデルからはかけ離れているデメリットがある。また、ある計算技術では、何の情報もなく計算できるわけではなく、ある程度の実験情報を取り入れなければならず、結局多くの時間を費やす事になるデメリットがある。また、何の情報も要らない第一原理計算では、電子レベルまで扱うために計算自体に膨大な時間を費やしてしまうデメリットがある。このように、それぞれの計算手法に、それぞれ固有のデメリットがある。そのため、おおよそ全般的には、実験による研究を計算によるデータが後を追い、計算が実験結果、現象の裏づけをする役割になるケースが多かった。
しかし近年、第一原理計算に、密度による汎関数を取り入れて計算を簡素化する計算手法が開発され、さらに、ここ十年前後のパソコンの目まぐるしい性能向上もあって、数年前にはワークステーションで一週間以上費やしていた計算(前述の第一原理計算)も1日から2日でできるようになってきており、原子数や電子数が多くなる複雑なモデルでも数日から数週間で計算できるようになった。
すなわち、分析の限界を超えた原子・電子レベルの厳密な効果を上記第一原理計算により予測できるようになり、実験における試行錯誤を減らして、さらには、実験では解明できない事までも予測でき、迅速に研究を進める手段として活用できるようになった。これにより、従来技術ではできなかった分子内の一原子、原子−原子間の一結合までも比較することが可能となった。
本発明者は、第一原理計算により原子−原子間の一結合の計算・比較を行うことで、従来の文献などに公表されている原子種−原子種による結合エネルギーなどとは異なり、周囲の原子、分子構造、電子の分布という間接的影響による違いまでも取り入れて結合力を算出・比較できる可能性があると考えた。間接的影響による違いまでも取り入れて結合力を算出・比較できれば、文献情報とは異なり、分子内にある同種の原子間の結合でも分子構造における結合の位置による違いまでも比較できることになる。ただし、第一原理計算で直接結合力の数値を求められるわけではなく、後述するとおり一工夫しないと、結合力の数値を求めることはできない。
なお、上記においては、原子−原子間の結合の強さを表記するのに、文献による原子−原子間の結合の強さを結合エネルギー、計算による原子−原子間の結合の強さに比例する数値を結合力と表記した。以下でも、上記と同じ意味で結合エネルギーと結合力とを区別して用いる。
上記結合エネルギーで区別できる範囲と上記結合力において区別できる範囲の違いを以下に具体的に一例を挙げて示す。結合エネルギーについては、例えば、炭素(C)原子−炭素(C)原子間の結合があり、文献には、C原子に結合している原子を区別することなくC原子−C原子間の結合エネルギーが記されている。
しかし、4価の炭素の一重結合では、各炭素原子にはいろんな原子種が結合する可能性があり、同じC原子―C原子の一重結合であっても、結合の強さは異なる事もあり得る。これを結合力では個々に算出し区別する事ができる。
例えば、直鎖状に一重に結合しているC原子に水素(H)原子が飽和して結合しているアルキル基もしくはアルキル化合物において、一部のH原子がフッ素(F)原子に置換されF原子が結合しているとする。このような物質においては、C原子同士の結合の中でも、C原子以外にF原子が結合しているC原子同士(CF2−CF2結合と以下表記)、C原子以外にH原子が結合しているC原子同士(CH2−CH2結合と以下表記)他、CF2−CH2など様々な結合種があるはずである。本発明者は、上記結合種による結合力の違いを新たに算出・比較する手法を確立した。また、アルキル化合物の最端部のC−C結合とアルキル化合物中心付近でのC−C結合のように、分子内の位置による結合力の違いも算出・比較する手法を確立した。
次に本課題解決の手段の詳細及び作用効果を記述する。前記目的を達成するための請求項1に係る発明は、内燃機関を備えた装置において燃料燃焼の際に発生するデポジットの付着防止のためのコーティング層に使用されるデポジット付着防止材料であって、
基板材料との結合のための基材結合部位と、その基材結合部位に結合し、且つ、フッ素原子を含んでいる主部位とからなり、
前記主部位は、ベンゼン環を有し、そのベンゼン環と前記基材結合部位が直接結合しているか、または、そのベンゼン環と前記基材結合部位とを結合している原子が1つであることを特徴とする。
基板材料との結合のための基材結合部位と、その基材結合部位に結合し、且つ、フッ素原子を含んでいる主部位とからなり、
前記主部位は、ベンゼン環を有し、そのベンゼン環と前記基材結合部位が直接結合しているか、または、そのベンゼン環と前記基材結合部位とを結合している原子が1つであることを特徴とする。
後に詳述するように、本発明者は、フッ素原子を含んでいる主部位、すなわち、撥油性を発揮する部分にベンゼン環を導入することで、ベンゼン環部分のみでなく、その前後各1つの部位の結合も強化されることを見出した。そのため、上記請求項1のように、主部位がベンゼン環を有し、そのベンゼン環と基材結合部位が直接結合しているか、または、原子1つのみを介して結合している場合には、主部位と基材結合部位との間の結合が切れにくくなる。その結果、フッ化物が基板材料から脱離してしまうことを抑制できるので、高温にさらされても耐久性良く付着防止機能を維持することができる。
ここで、主部位において、フッ素原子は、ベンゼン環に直接結合していてもよく(請求項2)、また、ベンゼン環に炭素原子が結合しており、その炭素原子にフッ素原子が結合していてもよい(請求項3)。また、その両方でもよい。
ベンゼン環と基材結合部位との間の結合は切れにくいことから、請求項2のようにベンゼン環にフッ素原子が直接結合している場合、そのフッ素原子も耐久性よく保持されることになる。その結果、より耐久性よく付着防止機能が維持される。
また、請求項3のようにすれば、炭素原子の鎖長を長くすることにより、多くのフッ素原子を持つことができる。そのため、高い付着防止機能を発揮できる。なお、炭素原子の鎖長に特に制限はないが、あまり長すぎるとコーティング層が不必要に厚くなってしまうことから、1〜6の範囲が適当である。たとえば、各炭素原子は、隣接する炭素原子との結合以外は全てフッ素原子が結合しているとすると、先端の炭素原子には3つのフッ素原子が結合し、他の炭素原子には2つのフッ素原子が結合することになるので、化学式としては、(CF2)j-CF3 (j=0〜5)となる。また、ベンゼン環にフッ素原子が直接結合している場合、そのフッ素原子によりある程度のデポジット付着防止機能が期待できることから、この炭素数は0でもよい。
また、請求項4のように、前記主部位は、前記ベンゼン環と前記基材結合部位とを結合している原子として1つの炭素原子を有し、その炭素原子にフッ素原子が結合していることも好ましい。このようにしても、フッ素原子を多く持つことができるため、デポジット付着防止機能が向上する。加えて、ベンゼン環と基材結合部位とを結合している原子の結合は、ベンゼン環側も、また、基材結合部位側も切れにくいため、耐久性よく付着防止機能を維持できる。
また、主部位のベンゼン環は1つである必要はなく複数でもよい。主部位のベンゼン環の数に特に制限はないが、コーティング層の厚さを考慮すると、3つ以下が好ましい。また、主部位のベンゼン環の数を2つとする場合、請求項5のように、主部位は、前記基材結合部位に直接または1つの原子を介して結合している第1のベンゼン環と、その第1のベンゼン環に対して、直接または1つの原子を介して結合している第2のベンゼン環とを備えてもよい。第1のベンゼン環をR1、第2のベンゼン環をR2として、この請求項5の態様を化学式で記載すると、基材結合部位にR1が直接結合し、R1にR2に直接結合している場合は、「(基材結合部位)-R1−R2-」となる。また、基材結合部位に1つの原子を介してR1が結合し、R1に1つの原子を介してR2が結合している場合であって、それら基材結合部位とR1、R2の間の介在原子を炭素とし、その炭素にフッ素原子が2つ結合しているとすると、化学式は「(基材結合部位)-CF2−R1-CF2-R2-」となる。また、R1、R2にもフッ素原子を結合させることができる。したがって、ベンゼン環を2つ備えることで、ベンゼン環に直接結合させることができるフッ素原子を多くすることが可能となり、その結果、より耐久性および付着防止機能を向上させることができる。
また、請求項6のように、ベンゼン環はテトラフルオロフェニル基であることが好ましい。このようにすれば、フッ素原子が特に多くなるので、付着防止機能がパーフルオロアルキル基と同等の良好な性能となる。なお、前述のように、ベンゼン環を2つ備えている場合には、両方のベンゼン環が4フッ素置換されていることが好ましい。この場合、たとえば、オクタフルオロビフェニル基(図21参照)を備える構造となる。
また、請求項7のように、基材結合部位は下記式で示される構造が好ましい。
-(CH2)n- (n=1〜4)
すなわち、基材結合部位は炭素数1〜4までの直鎖アルキル基であることが好ましい。これは、基材結合部位の鎖長があまり長くなると基材結合部位の中の結合が切れてしまう可能性が高くなるからである。そのため、炭素数4までが好ましいとしているが、炭素数4よりは炭素数3が好ましく、炭素数2がさらに好ましい。なお、この請求項7においてアルキル基に限定しているのは、アルキル基は、基板材料との結合性がよく、かつ、内部のC-C結合も強固だからである。ただし、上位の請求項においては、基材結合部位はアルキル基に限定されず、水素原子の一部がフッ素等の他の原子で置換されたもの(すなわちフルオロアルキル基)でもよい。また、炭素原子に代えて、Si等他の原子を用いてもよい。また、二重結合を備えていてもよい。また、これら以外に、従来周知の構造により、基板材料と主部位とを結合してもよい。
-(CH2)n- (n=1〜4)
すなわち、基材結合部位は炭素数1〜4までの直鎖アルキル基であることが好ましい。これは、基材結合部位の鎖長があまり長くなると基材結合部位の中の結合が切れてしまう可能性が高くなるからである。そのため、炭素数4までが好ましいとしているが、炭素数4よりは炭素数3が好ましく、炭素数2がさらに好ましい。なお、この請求項7においてアルキル基に限定しているのは、アルキル基は、基板材料との結合性がよく、かつ、内部のC-C結合も強固だからである。ただし、上位の請求項においては、基材結合部位はアルキル基に限定されず、水素原子の一部がフッ素等の他の原子で置換されたもの(すなわちフルオロアルキル基)でもよい。また、炭素原子に代えて、Si等他の原子を用いてもよい。また、二重結合を備えていてもよい。また、これら以外に、従来周知の構造により、基板材料と主部位とを結合してもよい。
また、請求項8のように、架橋によって耐久性を向上させてもよい。すなわち、その請求項8は、内燃機関を備えた装置において燃料燃焼の際に発生するデポジットの付着防止のためのコーティング層に使用されるデポジット付着防止材料であって、基板材料との結合のための基材結合部位と、その基材結合部位に結合し、且つ、フッ素原子を含んでいる主部位とからなり、前記基材結合部位および主部位のいずれかまたは両方に、少なくとも1つの分子間架橋構造をもつことを特徴とする。このように、分子間架橋構造をもつようにすれば、熱振動などの負荷により、1つの分子の結合がどこかで切れたとしても、分子間の架橋による結合が切れていなければ、その分子が流されてしまうことが防止でき、原子−原子間に作用する結合力により自ずから修復し、一時的に原子もしくは分子が離れる、すなわち、原子もしくは分子の一部が振動しただけにとどめることができる。そのため、全体の構成としては耐久性を向上させることができる。
また、分子間架橋構造としては、たとえば、請求項9のように、酸素原子を介した架橋構造とすることができる。
結合が2つある酸素原子で分子間架橋構造を提供すると、耐久性が強化すると共に、架橋構造形成のために介入した原子に余分な原子もしくは分子が付いて、分子の配向を阻害させる事を防止できる。そして、分子の配向が崩れないため、基板表面の部分的な露出を防ぎ、基板への付着物形成を未然に防ぐ事ができる。
請求項10は、直噴ガソリンエンジン用の燃料噴射弁に係る発明であり、請求項1〜9のいずれか1項に記載のデポジット付着防止材料が用いられたコーティング層を、デポジット付着部位に備えていることを特徴とする直噴ガソリンエンジン用の燃料噴射弁である。
ここで、デポジット付着部位とは、コーティング層がない場合にデポジットが付着する部位であり、たとえば、インジェクタの噴口を形成する内壁、その内壁に連続するノズル先端面、噴口内部のサックの表面、ニードル(特にその先端部分)などがデポジット付着部位である。これら例示したデポジット付着部位の全部にコーティング層が形成されている必要はなく、一部にのみコーティング層が形成されていてもよい。
なお、請求項10は直噴ガソリンエンジン用の燃料噴射弁であったが、この請求項において直噴ガソリンエンジン用の燃料噴射弁に限定したのは、直噴ガソリンエンジン用の燃料噴射弁は特にデポジットが発生しやすいからである。
ただし、本発明のデポジット付着防止材料は、直噴ガソリンエンジン用の燃料噴射弁以外の部材のコーティング層に使用されてもよい。
燃料の使用方法には、直噴、ポート噴射、あるいは直噴とポート噴射の双方が採用されたものなどがあり、デポジットの対策は、直噴に限らずポート噴射の場合も必要である。また、吸気系及び噴射系部品全般にも、デポジット対策は必要である。(例えば、エンジンの排ガスの再循環を利用するEGRにおいては、高温の排ガスを再循環させるためEGR弁や、排ガスを冷却するEGRクーラーフィン、マルチポートインジェクション(MPI)でもデポジットは発生する場合があり、また吸気調量のためのスロットルにおいてもデポジットが発生する。)そのため、本発明のデポジット付着防止材料は、直噴ガソリンエンジン用の燃料噴射弁以外の部材のコーティング層に使用されてもよい。
なお、上述の吸気系及び噴射系部品、全てにおいて温度が高くなるわけではないので、例えばフッ素系樹脂によりコーティングを施し対策する事も試みられている。しかし例えば、主にパーフルオロアルキル基からなるコーティング材料では、コーティングを施しても、260℃ないし300℃に至るようなところでは、コーティング材料が分解してデポジットが付着する。このような耐熱性を要する部位において本発明の材料は特に有効であり、現状のガソリン燃料においては、上記耐熱性を要する部位は、燃焼室に近い部位、すなわち直噴インジェクタである。そのため、請求項10では、直噴ガソリンエンジン用の燃料噴射弁に限定している。
上記効果を示す材料の構成を探すために、下記2つのステップを踏んだ。
(1)第一原理計算の数値を使用して求める2つの指標(吸着エネルギー、結合力)と、既知の文献値とを照らし合わせて、採用する上記指標の妥当性を検証する。
(2)次に(1)で検証した指標により、結合力が強く、デポジットが付着しにくい材料の構成を求める。なお、結合力とは、前述のとおり、原子−原子間の結合の強さを表す、計算値から求める指標である。
(1)第一原理計算の数値を使用して求める2つの指標(吸着エネルギー、結合力)と、既知の文献値とを照らし合わせて、採用する上記指標の妥当性を検証する。
(2)次に(1)で検証した指標により、結合力が強く、デポジットが付着しにくい材料の構成を求める。なお、結合力とは、前述のとおり、原子−原子間の結合の強さを表す、計算値から求める指標である。
付着しやすさ/付着しにくさを表す指標としては、以下の式1から算出される吸着エネルギーを使用した。
(式1)吸着エネルギー:E=E1+2(コーティング材料の表面分子+吸着する物質のモデル)
―E1(コーティング材料の表面分子だけのモデル)
―E2(吸着する物質だけのモデル)
上記E及びEα(α=1+2、1、2)はエネルギーを表し、Eα(α=1+2、1、2)における添え字αは括弧内に表記したモデルで計算したことを表す。また、上記式(1)に示すように、E1+2―E1―E2により算出した Eを吸着エネルギーと呼ぶ。以下、吸着エネルギーという表記は全て上記式1から求めた計算値を示す。
(式1)吸着エネルギー:E=E1+2(コーティング材料の表面分子+吸着する物質のモデル)
―E1(コーティング材料の表面分子だけのモデル)
―E2(吸着する物質だけのモデル)
上記E及びEα(α=1+2、1、2)はエネルギーを表し、Eα(α=1+2、1、2)における添え字αは括弧内に表記したモデルで計算したことを表す。また、上記式(1)に示すように、E1+2―E1―E2により算出した Eを吸着エネルギーと呼ぶ。以下、吸着エネルギーという表記は全て上記式1から求めた計算値を示す。
従来技術においても、初期の段階ではデポジット防止の効果を持つ材料があるので、上記材料での吸着エネルギーと同等の吸着エネルギーをもつ材料で、なおかつ結合力が強化される材料を発掘することを後述のとおり試みた。すなわち、結合力を強化する材料を探し、その中で、吸着エネルギーについては維持するという付帯条件に止めた。
以下に、上記吸着エネルギーを付帯条件に止めた理由を記す。一般的に、ある媒体にある物質が付着しやすいかどうかは、撥水性、撥油性、疎水性、親水性によって決まる要素が大きい。これらはお互いに混ざり合わない水と油のどちらに似た性質を持つかにより決まる。撥水性や撥油性については表面の粗さなども影響するが、上記水と油どちらに似ているかという要素も含まれている。
上記親水性、疎水性については、三共出版株式会社によって発行されている新界面活性剤(1993年発行5刷)の中のP.12〜P.13において、分子内の原子団(アルキル基、エーテル基、カルボキシル基他)毎に、親水性、疎水性の強弱が一部分だけであるが表記されている。その中で、強い、弱いという表記以外にやや強い、極めて強いという表記もある。すなわち、上記親水性と疎水性は相反する性質ではあるが、一律どちらかに決まるわけではなく、程度によって分類されており、親水性が緩めば同時に疎水性に近づく事になる。親水性が水に馴染みやすい性質、疎水性が水に馴染みにくい、すなわち油に馴染みやすい性質である。
親水性、疎水性に似た表現に撥油性、撥水性があり、これらの性質にも上記分子内の原子団が影響する。さらに表面の粗さなども影響する。これらを総じて表す物理量として表面自由エネルギー/表面張力がある。表面の自由エネルギーが大きいと不安定であるため、表面の自由エネルギーが低くなるように付着できるか否かにより、付着するかどうかが決まると考えられる。しかし、表面自由エネルギーの文献値には同分野における研究要素・条件が影響している可能性があり、第一原理計算の計算結果だけから予測する物理量としては、煩雑/もしくは計算結果が不十分である可能性があると考えた。そのため、撥油性もしくは撥水性は維持することに止め、それを向上する事までは踏み込まない事とした。
上述のように、表面自由エネルギー/表面張力そのものは第一原理計算の計算結果だけから予測する物理量としては問題があると考えたので、上記表面自由エネルギー/表面張力そのものを扱うのではなく、上記表面自由エネルギー/表面張力の差によって付着、混合しやすいかどうかが決まる事に着目した。表面自由エネルギー/表面張力の差であれば、上記研究要素・条件の相違に基づく相違があっても、差をとることにより相違のかなりの部分が相殺されて、研究要素・条件の相違の影響を受けにくいので、第一原理計算の計算結果だけから予測することが可能であろうと考えた。この考えに基づき、モデル分子とH2Oとの表面張力の差を文献値に基づき算出した。(表1)
上記データ、すなわち後述のヘキサン、パーフルオロヘキサン、1−ブタノール、1−オクタノールの表面張力の値は、文献:化学便覧 基礎編II(丸善)のP.82〜86 界面現象のところの「有機化合物の表面張力」という表に関連数値が記載されており、上記文献に記載されている式に従い、20℃における数値を算出することで得る事ができる。あるいは、「界面化学(第3版)」三共出版(株)、著者:近藤保 のP.62、75など、界面に関わる文献には、使用した数値そのものが書かれている事もある。
次に、第一原理計算におけるモデルをモデル分子とH2Oから構成し、下記式(2)により、水の吸着エネルギーを算出した。
水の吸着エネルギー:E=E1+2(コーティング材料の表面分子+水のモデル)
―E1(コーティング材料の表面分子だけのモデル)
―E2(水だけのモデル)
Eα(α=1+2、1、2)は括弧内に表記したモデルで計算したエネルギーを表す。
水の吸着エネルギー:E=E1+2(コーティング材料の表面分子+水のモデル)
―E1(コーティング材料の表面分子だけのモデル)
―E2(水だけのモデル)
Eα(α=1+2、1、2)は括弧内に表記したモデルで計算したエネルギーを表す。
上記水の吸着エネルギーと前述の表面張力の差との間に、後述のとおり相関がある事を新たに見出したことで、デポジットの付着性を上記吸着エネルギーにより評価するに至った。なお、水の吸着エネルギーと表面張力の差との間の相関を、後述の<説明1>で示す。
次に、結合エネルギーを分子内の各結合ごとに評価する手法として、原子と原子の間にバネがあるものとみなし、バネ定数に比例する値を求めることを試みた。そのために、評価する目的の結合部だけが安定状態から伸びた変位状態のモデルを形成し、第一原理計算でエネルギーを計算した。ここで計算するエネルギーは、構造を最適化しないで、伸びた状態(変位状態)で固定したまま計算して得るエネルギーである。
上記変位状態におけるエネルギーと、事前に構造を最適化して計算したエネルギーとの差をy座標に当てはめ、上記変位の2乗をx座標としてプロットし、最小二乗法によりカーブフィットして、得られた直線の傾きを求める。
原子と原子の間にバネがあるものとみなしていることから、下式(3)に示す弾性エネルギーの式が成り立つ。そのため、上記直線の傾きは下式(3)におけるバネ定数の半分に該当する。
(3) ΔE=(1/2)kx2
ΔE:安定状態と変位状態のエネルギー差
k:バネ定数
x:変位もしくは、結合部の伸び
一般的には、原子と原子の間にはさまざまな結合が混在する。ファン・デル・ワールス力、イオン結合、共有結合など様々であり、これらが複数含まれていることが多い。例えば、上記第一原理計算のような電子レベルの計算までするよりはもう少しマクロな原子レベルの計算をする分子力場法、分子動力学において、各原子―原子間に当てはめるポテンシャルをみれば明らかなように、計算する材料の金属、酸化物などの種類、気相・液体、固体などにより、いろんな形態のポテンシャルが存在する。中には、研究を重ねてフィットする事を求めた人の名前を使用した河村ポテンシャルというポテンシャルすらあり多種多様である。また、そのポテンシャルは、原子―原子間距離の累乗の指数が異なったり、複数の同累乗の指数を使用して多項式で表されているものがほとんどである。
(3) ΔE=(1/2)kx2
ΔE:安定状態と変位状態のエネルギー差
k:バネ定数
x:変位もしくは、結合部の伸び
一般的には、原子と原子の間にはさまざまな結合が混在する。ファン・デル・ワールス力、イオン結合、共有結合など様々であり、これらが複数含まれていることが多い。例えば、上記第一原理計算のような電子レベルの計算までするよりはもう少しマクロな原子レベルの計算をする分子力場法、分子動力学において、各原子―原子間に当てはめるポテンシャルをみれば明らかなように、計算する材料の金属、酸化物などの種類、気相・液体、固体などにより、いろんな形態のポテンシャルが存在する。中には、研究を重ねてフィットする事を求めた人の名前を使用した河村ポテンシャルというポテンシャルすらあり多種多様である。また、そのポテンシャルは、原子―原子間距離の累乗の指数が異なったり、複数の同累乗の指数を使用して多項式で表されているものがほとんどである。
ポテンシャルとは、無限に離れた位置から目的の原子位置までに受ける力を積分して求める物性値であり、上記原子―原子間の結合エネルギーと一対一に対応する物性値であり、上記ポテンシャルの複雑さが、原子―原子間の結合エネルギーの複雑さを示している。すなわち、原子―原子間の結合エネルギーは単純にバネ定数と想定できるわけではなくモデルでの小さな違いにより大小が入れ替わることも想定できる。そのため、何らかの工夫が必要である。上記結合力のばらつき、及び、結合力の計算における工夫点とその結果である結合エネルギーとの相関は<説明2>で示す。
また、<説明3>では、アルキル基とフルオロアルキル基からなる材料での各分子内結合の結合力を計算し、計算結果に基づいて分子内結合における弱い結合部位を示し、<説明4>では、結合の弱い部分を強化する方法を示すと共に、その方法により結合の弱い部分を強化し分解温度を高温化した分子とその効果を示す。
なお、いずれにおいても計算には、アクセルリス(株)において販売されているマテリアルスタジオという計算ソフトを使用し、計算時にはDmol3という計算方法で計算している。この Dmol3という計算方法は、量子力学の計算を密度汎関数法により簡略化した計算手法のうち、実空間を使った計算方法である。Dmol3の中の計算手法には、構造最適化計算(Geometrical Optimization)とエネルギー計算があり、後者は与えたモデルで原子に関わる状態を固定して、その系でのエネルギーを計算するだけの手法であり、類似の計算ソフト、手法ではSingle point energyと呼ぶ場合もある。前者の構造最適化計算については、計算がやや煩雑であり、まずは上記エネルギー計算をし、そのとき同時に求まる電子状態から安定な移動方向に原子、電子を微小に変化させて再度エネルギー計算、そしてまた原子、電子の移動、と繰り返し計算をする事で安定状態を形成しながら、その安定状態でのエネルギーを求める。以下、構造最適化計算、エネルギー計算という表記により、上記計算を区別して記述する。
なお、上記計算項目における設定項目:Functionalにおいては、一般勾配近似:GGAのPBEを使用した。またCoreについては、荷電子帯の全電子(All electron)について計算するのではなく、DFTsemi-core pseudopotentialを使用した。
<説明1> 「水の吸着エネルギー」と「表面張力の差」との間の相関
上記水の吸着エネルギーと上記表面張力の差との間の相関を以下に示す。
表1に示した水と媒体(すなわち上述の中で記載したコーティング材料の候補となる材料もしくはそれに似た分子構造の材料)との表面張力の差を横軸にとってプロットしたのが図1である。縦軸は、各媒体材料上での水の吸着エネルギーであり、当該媒体材料上に水を配置したモデルで構造最適化計算をすることにより求めた。
上記水の吸着エネルギーと上記表面張力の差との間の相関を以下に示す。
表1に示した水と媒体(すなわち上述の中で記載したコーティング材料の候補となる材料もしくはそれに似た分子構造の材料)との表面張力の差を横軸にとってプロットしたのが図1である。縦軸は、各媒体材料上での水の吸着エネルギーであり、当該媒体材料上に水を配置したモデルで構造最適化計算をすることにより求めた。
上記モデルにおける媒体は、分子の長手方向(C−C結合により分子全体が長くなっている方向)が同一方向になるように2次元的に配置したものを層状に積み重ねた配置とした。層状に積み重ねたのは計算ソフト上の制約からであり、現実のコーティング層は、このような層状配置をしていないので、層と層との間隔は互いの影響がないと考えられるような広い間隔とした。そして、各層の表面に水分子が吸着しているモデルとした。図1中のモデルを囲む直線が周期境界条件を表す。
上記水の吸着エネルギーの計算手順としては、図中から水を省いたモデル、すなわち上記媒体の材料分子からなる層状の系の構造最適化計算をし、一方、全く別のところで水の単一分子の系で構造最適化計算をし、最後に上記構造最適化計算後の媒体の材料分子からなる層状の系に、上記構造最適化計算後の水を加えた図1のモデルで、さらに構造最適化計算をする。
これにより、上述の式(2)に基づいて水の吸着エネルギーを算出し、図1の横軸の数値として使用した。そして、図1中の4つのモデルに対するプロットに基づいてカーブフィットさせた。また、前述の第一原理計算における構造最適化計算において、下記の(A)、(B)の2種の計算誤差が考えられ、その中の最大値を本計算における誤差として扱い、図1中各点に誤差棒として記述した。
(A)各エネルギー計算を収束させるための設定値:Density mixingのChargeでの値、Spinでの値を変えたときの構造最適化後のエネルギー計算値の差。
(B)初期の原子または分子の配置を微小に変えたモデルでの構造最適化後のエネルギー計算値の違い。
(A)各エネルギー計算を収束させるための設定値:Density mixingのChargeでの値、Spinでの値を変えたときの構造最適化後のエネルギー計算値の差。
(B)初期の原子または分子の配置を微小に変えたモデルでの構造最適化後のエネルギー計算値の違い。
誤差棒を考慮すると、大小の区別が付かない材料間の違いもあるが、図1の場合、(ヘキサン、パーフルオロヘキサン)と(1−ブタノール、1−オクタノール)という具合に、大まかに2つの集団に分類する事ができる。このことから、モデルを用いて計算した吸着エネルギーと文献値から算出した表面張力の差とは相関があり、吸着エネルギーによって材料を分類することで、吸着性を示す指標として一般に知られている表面張力の差による材料の分類と同様の分類が大まかにではあるが可能であるといえる。
<説明2> 結合力(計算値)と結合エネルギー(文献値)の相関
次に結合力(計算値)と結合エネルギー(文献値)の相関を以下に示す。扱う材料は、図2に示す燃料噴射弁に施すコーティング層の基板1を含めた構成から、基板1を取り除いたコーティング層に使用する材料である。上記コーティング層に使用する材料、すなわちコーティング材料は基板1の上に複数並んでいる事は言うまでもない。なお、基板1は、たとえば、周知の基板材料と同様に、SiO2から構成されるものであり、SUS板に代表される壁面部材と接合するための部材である。
次に結合力(計算値)と結合エネルギー(文献値)の相関を以下に示す。扱う材料は、図2に示す燃料噴射弁に施すコーティング層の基板1を含めた構成から、基板1を取り除いたコーティング層に使用する材料である。上記コーティング層に使用する材料、すなわちコーティング材料は基板1の上に複数並んでいる事は言うまでもない。なお、基板1は、たとえば、周知の基板材料と同様に、SiO2から構成されるものであり、SUS板に代表される壁面部材と接合するための部材である。
計算用のモデルは、図3に示すように、基板1から上記コーティング材料だけを取り出し、基板1との接合部はHをつけることで電荷保障を施した。なお、図3に示すモデルは、従来からコーティング材料として知られている材料(従来品)である。
また、分子内のC―C結合を個々に区別するために、図3に示すように、基板から最も離れていたC−C結合部を1として順に番号をつける。また、各C原子についている元素も区別できるように、例えば最端のCF3基とCF2基との結合部であれば1CF−CF、7番目のCF2基とCH2基との結合部であれば7CF−CHと記述し、以下この名称で統一する事とする。またCとFとの結合については最端部を1Fとし順に番号をつけて表記する。
まずは、図3のモデルにおいて構造最適化計算を実施する事により、安定状態における各C−C結合の距離を定め、また同時にエネルギーを計算する。その結果のうち、7CF−CHの結果を表2に記述した。ここでは、7CF−CHの結果を例に挙げて以下説明する。
7CF−CHの結合距離を表2のようにいくつか伸ばし、エネルギー計算を実施した。安定状態における距離との差が上記伸びに相当する。表2の中から、安定状態と2つの変位状態を小さい方から順に取り出して、安定状態からの変位の2乗を横軸にとり、変位に伴うエネルギーの増加を縦軸にとってプロットした(図4)。「ΔE=(1/2)kx2」である事から、このグラフの傾きが(1/2)kに相当し、これを結合力と表記する。
図4のグラフをカーブフィットさせると、傾きは0.3047となった。次に、変位状態をもう一点取り上げて同様にして結合力を求めると(図5)、0.2498となった。さらにもう一点増やして同様に結合力を求めると(図6)、0.194となった。このように、傾き(すなわち結合力)は、伸び(変位状態)によって変化する。すなわち、変位状態を形成して計算し上記のようにグラフ化するだけでは、結合力は定まらず、大きくばらつく結果となった。
そこで、上記図4〜6のグラフ内で、個々に、最も変位の大きな点の変位の2乗の値を読み取り、変位の2乗の最大値として採用した。そして、上記変位の2乗の最大値を横軸にとり、対応するグラフから求めた上記結合力を縦軸にとった(図7)。各結合部についても同様にして結合力を求め、1点ないし2点同様に図7にプロットした。図7において、四角の塗りつぶした点が上記の7CF−CHである。また、分子内の各CF―CF結合部を丸の塗りつぶしで、8CH−CHを三角の塗りつぶしで、分子内の各C―F間結合部を塗りつぶしなしの丸印でプロットした。
図7のグラフから、変位の2乗の最大値を大きくすると結合力が小さくなる傾向がある事が分かる。また、図中各点を結ぶとCF−CF結合の結合力よりも7CF−CHや8CH−CHの結合力の方が大きな値を示す傾向がある。各C−F間の結合力はさらに大きな値を示している。図7のように、変位の2乗の最大値と結合力の関係をグラフ化する手法を取る事で、定性的ではあるが、結合力の違いを示す事ができた。
次に上記の違いがどの程度の精度を持っているかを、以下の手法により示す。図7中、各CF−CF結合を示す塗りつぶしの丸印でカーブフィットして直線を得た。その結果とカーブフィットより得た直線の式を図8に示す。なお、図8および後述の図11では、図7において塗りつぶしの丸印で示したばね定数CFを塗りつぶしの菱形に変え、小さく表示している。また図9に示すように、図3の分子モデルのF原子をCl原子に変えたモデルで、同様な手順により結合力を計算し、CCl3側最端部と最端部から4番目のC−Cl結合(図3の1F、4Fの位置)の結合力を図8にプロットした。またさらに、同様な手順により、図3の分子モデルのF原子をBr原子に変えたモデル(図10)での同CBr3側最端部と最端部から4番目のC−Br結合の結合力を図11にプロットした。
そして各種原子−原子間結合力を、上記各CF−CF結合のデータによりカーブフィットして出した直線式(図8、図11に記載)の傾きを使用して補正を行う事で、結合力の補正値を出した。具体的には、CF−CF間結合力については、上記カーブフィットによる直線式でx=0.2を当てはめて結合力を算出した。他の結合力については、上記各CF−CF結合のデータによりカーブフィットして出した直線式(図8、図11に記載)の傾きと同じ傾きをもつとみなし、各結合力を上記直線の傾きで移動させ、x=0.2での結合力を新たに算出し、結合力の補正値とみなした。
上述のようにして得た補正後の結合力と、結合エネルギー(文献値:出典は「耐熱高分子絶縁材料」(株)シーエムシー 吉岡 浩 著 ; P.11 原子間結合エネルギーの表を参照)を表3に、また、表3をグラフ化したもの、すなわち、上記補正後の結合力と結合エネルギーとの相関を示すグラフを図12に示す。図12中いずれの点も大小関係が入れ替わるような事はなく、また、カーブフィットさせたときの相関係数が0.96と非常に精度良く求められるようにすることができた。
<説明3> 直鎖アルキル化合物の分子内結合の結合力
図3に示した従来のコーティング材料において、C−F結合部(図3中、1F〜7F)については、各CF−CF結合部、7CF−CH結合部、8CH−CH結合部よりも、明らかに結合力は強い(図7及び図12)。よって、耐久性において問題となる、分解しやすい結合部はC−C結合部の中にある。
図3に示した従来のコーティング材料において、C−F結合部(図3中、1F〜7F)については、各CF−CF結合部、7CF−CH結合部、8CH−CH結合部よりも、明らかに結合力は強い(図7及び図12)。よって、耐久性において問題となる、分解しやすい結合部はC−C結合部の中にある。
そこで、1CF−CFから8CH−CHまでの各結合部の中でどの結合部が弱いかを知るために、1CF−CFから8CH−CHまでの各結合部について、<説明2>と同じ手法を用い、変位の2乗の最大値:0.2での値に補正した結合力を求めた。また、上記CF2基の個数を変化させた分子モデルについても、同様な手順により補正済み結合力を求めた。扱った分子モデルは図13から図16と図3のモデルであり、上記補正済み結合力を図17に示す。なお、図13から図16に示すモデルは、いずれも、図3に示す従来品に対してF置換の炭素数を変えたモデルであり、図13はF置換の炭素数が5、図14はF置換の炭素数が6、図15はF置換の炭素数が8、図16はF置換の炭素数が9である。
図17のグラフの横軸:結合位置に使用した数値は、Hとの結合を持つC側から、各C−C結合に順に番号をふった数値である(図3のモデルでは、8CH−CH結合が、図17の結合位置:1に相当する)。この番号は、基板に結合させたときに同じ位置に相当するC−C結合の結合力を比較するために使用した番号であり、具体的には、図13から図16の材料の各C−C結合部に上記番号を記載した。図3のモデルについては記載していないが、図13から図16の材料と同じように、基板側、すなわちHとの結合を持つC側から、各C−C結合部に順につけた数値である。(図3の1CF−CFが、図17の結合位置:8に相当し、同8CH−CH結合が、図17の結合位置:1に相当する。)
また、図17に使用したデータのサンプルの表示について以下に説明する。5CF2CHとは、具体的には図13のモデルであり、F置換されたC原子が5個とHとの結合を持つC原子が2つ直鎖状に結合して構成されており、F置換されたC原子が5個という意味で5CF、Hとの結合を持つC原子が2つという意味で2CHとし、これらを合わせて5CF2CHと表記してある。
また、図17に使用したデータのサンプルの表示について以下に説明する。5CF2CHとは、具体的には図13のモデルであり、F置換されたC原子が5個とHとの結合を持つC原子が2つ直鎖状に結合して構成されており、F置換されたC原子が5個という意味で5CF、Hとの結合を持つC原子が2つという意味で2CHとし、これらを合わせて5CF2CHと表記してある。
6CF2CH、7CF2CH、8CF2CH、9CF2CH、何れも同様な意味で略して記載しており、上記5CF2CHに比べて、F置換されたC原子が直鎖状に1つずつ増加している構成であることを表す。すなわち、6CF2CHが図14のサンプル(モデル)、7CF2CHが図3、8CF2CHが図15、9CF2CHが図16のサンプル(モデル)を表す。
図17から分かるように、いずれのモデルでも、Hと結合しているC原子同士である結合位置:1、Hと結合しているC原子とF置換されているC原子との結合である結合位置:2では比較的結合力が大きく強固であり、F置換されているC原子同士の結合位置では結合力が比較的小さく弱い。
特に結合位置:3から結合位置:6に結合力の弱い結合部があり、いずれのモデルにおいても、結合位置:3から結合位置:6の結合力は、結合位置:1や同2の結合力に比して弱く、また、いずれのモデルも結合位置:3から結合位置:6の結合力に大差はないことから、図3のサンプル(モデル)のC数を変えても、結合力の改善は見られず、本案件の問題解決には至らないといえる。
特に結合位置:3から結合位置:6に結合力の弱い結合部があり、いずれのモデルにおいても、結合位置:3から結合位置:6の結合力は、結合位置:1や同2の結合力に比して弱く、また、いずれのモデルも結合位置:3から結合位置:6の結合力に大差はないことから、図3のサンプル(モデル)のC数を変えても、結合力の改善は見られず、本案件の問題解決には至らないといえる。
ここで特に留意すべき事は、図17の結合位置:1が基板とコーティング材料との接合部に最も近いC原子を含む位置であることから、コーティング材料が分解しにくくなって耐久性がよくなるためには、結合位置:1から連続して結合力が強固である必要があり、例えば結合位置3の結合力が弱い場合、結合位置:4、5、6、7、8、9、10の全てもしくは一部の結合力だけが仮に強固になったとしても無意味である事である。
図17の各サンプルは、結合位置:1から順に結合力をみていくと、結合位置:2までは、いずれのサンプルも比較的強固であるが、前述のとおり結合位置:3において共通して結合力が低下し、その後比較的大差のない結合力を有する。このような場合、結合位置:1,2では分解せず、結合位置:3よりも先で分解する。
結合位置:3でも分解するため、結合位置:4よりも先で結合力が強くなったとしても、分解しやすい結合部として結合位置:3が少なくとも残されてしまい、結合位置:3で途切れるとその先はどんなに強固な構造であったとしても、基板から離れて流されてしまい、結果として耐久性の向上には繋がらない。
上記問題を根本的に解決するには、上述のとおり、結合位置:1から連続して結合力が強固である必要がある。但し、例外として、架橋を分子と分子の間に予め作っておき、分解が複数の分子で同時に起こらなければ基板から離れないようにしておく方法が、延命措置としては考えられる。
これは弱い結合力の根本的な解決策ではなく、分解する確率が同じであったとしても、分解された部位が基板から離れて流されてしまう確率だけは低下させるという考えによるものである。また、架橋を形成しておけば、局所的に高温になって分解したという場合には、他の比較的低温の結合部、あるいはそれを有する分子によって、基板から離れずに存在し、温度が低下したときに、上記分解した原子同士が再度引付け合って元の結合に戻る事が考えられる。
<説明4> 環を含むコーティング材料の分子内結合の結合力
図18〜27に示す材料内の結合力を、上述の<説明3>記載の方法と同一の方法で計算した。その結果の一部を図28と表4に示す。図28は、図20、21に示す分子の結合力の計算結果を図17に加えた図であり、表4は、図24に示す分子の計算結果である。なお、図20は、テトラフルオロフェニル基を入れたモデルの一例を示している(図28ではF4benzFASと記載)。この図20のモデルは、4つのF置換のベンゼン環に、2つの側鎖のC原子が結合しているモデルであり、2つの側鎖のC原子は、ベンゼン環を挟んで互いに反対側に結合している。また、図21は、オクタフルオロ−4、4’ビフェニル基を入れたモデルの一例を示している(図28では2F4benzFASと記載)。この図21のモデルは、F置換を4つもつベンゼン環構造が2つ直接結合しており、2つのベンゼン環を互いに結合しているC原子から数えて3つ隣のC原子に側鎖のC原子が結合している構造を持っている。なお、図21、22において、側鎖のC原子の結合部位はあくまで例示であり、他の部位に結合していてもよい。
図18〜27に示す材料内の結合力を、上述の<説明3>記載の方法と同一の方法で計算した。その結果の一部を図28と表4に示す。図28は、図20、21に示す分子の結合力の計算結果を図17に加えた図であり、表4は、図24に示す分子の計算結果である。なお、図20は、テトラフルオロフェニル基を入れたモデルの一例を示している(図28ではF4benzFASと記載)。この図20のモデルは、4つのF置換のベンゼン環に、2つの側鎖のC原子が結合しているモデルであり、2つの側鎖のC原子は、ベンゼン環を挟んで互いに反対側に結合している。また、図21は、オクタフルオロ−4、4’ビフェニル基を入れたモデルの一例を示している(図28では2F4benzFASと記載)。この図21のモデルは、F置換を4つもつベンゼン環構造が2つ直接結合しており、2つのベンゼン環を互いに結合しているC原子から数えて3つ隣のC原子に側鎖のC原子が結合している構造を持っている。なお、図21、22において、側鎖のC原子の結合部位はあくまで例示であり、他の部位に結合していてもよい。
図18に示すモデルはベンゼン環が一つである事から、環構造が一つという観点から図20と同様な結果が予想できる。実際に、図18に示すモデルは、分子内の結合力の数値が図20に示すモデルからほとんど変化しない事を確認した。
同様に分子構造における環の個数とその周囲の結合という観点で構造を分類すると、図19、21、26、27に示したモデル分子は、環と環が直接結合している2環構造であり、また、図19、21、26は、その環がベンゼン環、もしくは置換原子をもったベンゼン環に類似の不飽和6員環構造である一方、図27だけはその環が飽和6員環である。環がベンゼン環、もしくは置換原子をもったベンゼン環に類似の不飽和6員環構造である図19、21、26に示した分子では、CH側からの結合部位の位置と結合力との関係は、全て、図21の分子モデルと同様の関係となった。一方、図27に示したモデル分子は、環の前後の結合力の強化は見られなかった。また、図22、23、24、25の分子モデルは、何れも2つの環があって、その間に結合基/もしくは環に直接結合している原子が一つ挟まれている構造で、各結合の環に対する位置は同じである。そのため、これらのモデル分子は結合力に差異が生ずる構造ではないと考えられた。そして、実際に同等の結合力であった。
図28に示した結合力では環の結合力には触れず、環以外の結合力を計算し比較した。図20に示した環構造が一つの分子モデルの結合力は、図28中、塗りつぶしの菱形でプロットされている。ただし、この塗りつぶしの菱形のプロットは、x座標:5,6にはプロットがない。この理由は、図20に示した分子モデルは、基板側から数えて4番目の炭素の次に環構造が結合しており、環構造は炭素原子よりも大きいので、「5」,「6」2つ分の位置を環構造が占める位置としたためである。そして、前述のように、図28に示した結合力では環の結合力には触れないことにしている。そのため、塗りつぶしの菱形のプロットは、x座標:5,6にはプロットがないのである。
同分子モデルでは、x座標:4,7の位置の結合力が0.22{Ha/(Å^2)}となっており、図28中に比較サンプルとしてプロットした図17での分子モデル内の結合力よりも大きい。すなわち、図28中の5CF2CH、6CF2CH、7CF2CH、8CF2CH、9CF2CHの分子モデルのx座標:3以上の部分での結合力は、強いところで0.20{Ha/(Å^2)}、平均的には0.19{Ha/(Å^2)}であり、上記環構造を一つ持つ分子モデルのx座標:4,7の位置の結合力には到底及ばない。
同様に、環と環が直接結合している2環構造の結合力は、図28中、塗りつぶしの丸印でプロットされている。ただし、この塗りつぶしの丸印のプロットは、x座標:3,4と同x座標6,7にはプロットがない。これは、2つの環はx座標:3,4と同x座標:6,7に位置するとみなしているからである。同分子モデルでは、x座標:2、5、8において、結合力が0.23{Ha/(Å^2)}以上の大きな値を示した。
上記環を取り入れた分子モデルにおいて、特に留意すべきは、環の前後の結合力が全て向上している事である。すなわち、環構造を取り入れる事により、環そのものだけではなく、環の前後までも結合力を強化することができた。
環の構造が強化される事は、例えば、ベンゼン環だけのような類似構造の分子を単独で扱い、分子全体が壊れる条件、たとえば分解温度などを調べることで、強い構造/結合を類推する事ができる。すなわち、本計算を使用しなくても実験だけでも類推できる事である。分子内での環の強い結合そのものの直視的な確認までは難しいとしても、例えば、分解温度における発熱量や、分解温度における放出ガスの構成により類推することで、環の結合力の強さを間接的な手法ではあるが類推する事ができる。
しかし、環の前後の結合力については、実験で間接的な手法を使っても難しく、仮にC原子もしくはC元素が遅れて発生することを分析により求めたとしても、そのC原子ないしC元素が環の前後のところに結合していたものであることを特定するのは容易なことではない。また、構成原子もしくは構成元素を変えて、環の前後にある原子と他の部分にある原子とを区別できるようにしたとしても、そのときは原子種による結合力の違いと結合部位による結合力の違いとが同時に発生するという要因と、上記変更した構成原子もしくは構成元素が環との間の結合だけでなく、反対側の直鎖部との結合をももつ事から、どちらの結合力が変化したか決める事ができないという要因という少なくとも2つの要因がある。これらのことから、環の前後の結合力の変化を実験による手法で特定し比較する事は難しい。
よって、環の前後での結合力の強化は、実験では求められない事を、計算を取り入れる事で求めることができた結果といえる。
次に表4に、図24に示す分子の環の前後の結合力の計算値を示す。
表4には、図4,5,6と同様にして得た変位の2乗の最大値と、結合力に準ずる同グラフの傾きを表記し、最後に、図8、11の近似曲線の傾きを使用して変位の2乗の最大値が0.2であった場合のグラフの傾きを予測して求めた結果、すなわち結合力の補正値を表記した。表4に示すように、環の前後の結合力の補正値は、0.23から0.24{Ha/(Å^2)}であり、同表の最下段に示したCH−CH間の結合力と同等ないし上回る値を示す結果となった。なお、前述のように、「ΔE=(1/2)kx2」における「(1/2)k」であることから、単位は、上記のように{Ha/(Å^2)}となる。(なお、本明細書において、「^」とは2乗という意味である。)
先に述べたように、燃料噴射弁の従来の例に挙げたコーティング材料は、基板材料にCH側が結合している構成をとっており(図2参照)、上記コーティング材料が途切れて流される事なく耐久性よく機能するためには、基板材料側から連続して結合力が強化されていないといけない。
すなわち、図18から図27のいずれの分子モデルにおいても、環を取り入れた事により結合力が一部強化されてはいるが、例えば、図28に示した塗りつぶしの菱形の結合力を見ると、x座標:4、7は結合力が0.22{Ha/(Å^2)}まで強化されているが、同図x座標:3の結合力が、5CF2CH、6CF2CH、7CF2CH、8CF2CH、9CF2CHと同等の0.19{Ha/(Å^2)}程度のままである。そのため、上記結合力の強化部分(同図x座標:4、7)が途切れないままであったとしても、同図x座標:3のところは途切れる可能性が十分に残る。その結果、ある条件において図3の分子モデルが途切れるようであれば、同一条件下では、図28のx座標:3の結合部も途切れて流されてしまい、上記結合強化部(同図x座標:4、7)は意味を成さない。
上述において図28のx座標:3の結合部とは、図18の分子モデルの結合部181、図20の分子モデルの結合部201である。すなわち、結合力が弱いCF−CF結合部が、環よりも基板側にあってはならない。言い換えると、環によって構成される剛体部分よりも基板側に、CF2基が2つ以上直鎖状に並ばない事が、上記環状構造を取り入れる事による結合力強化の効果を、燃料噴射弁におけるコーティング材料の機能を維持して耐久性を向上する効果に結びつけるために必要な条件となる。
図17において、CH−CF結合の部位である結合位置:2は、結合力が0.215ないし0.22{Ha/(Å^2)}であり、CH−CH結合の部位である結合位置:1は、結合力が0.23から0.24{Ha/(Å^2)}であり、いずれの結合部位もCF−CF結合の結合力:0.19{Ha/(Å^2)}よりも強固である。よって、上記材料における結合力強化の効果を、燃料噴射弁の機能の耐久性に結びつける条件には、CH基が含まれる結合部は関与しない。
以上により、環状構造が一つのモデルで、燃料噴射弁の機能の耐久性にも望ましいコーティング材料の構造の一例として、図29や図30の構造が挙げられる。これらは、先に示した図18、20の材料の構造から、CF2基を1つ減らした構造のモデルである。当然のことであるが、図29に挙げた分子モデルでは、CF2 基292がなくても結合力の強い構造となることは言うまでもない。また、図30の分子モデルでも同様に、CF2基302がなくても結合力の強い分子を得る事ができる。また図29、30の、環状構造よりも先端部として扱われるCF2基群293やCF2基群303のCF2基の個数については、束縛する条件は何もない。これは本案件について挙げる分子モデル全てに当てはまる。
先に述べたとおり、図19、21、26のモデル分子は、結合部位の位置と結合力との関係が何れも図21のモデルと同様の関係であった。そこで、これらのモデルを代表して図21のモデルの結合力を図28の塗りつぶしの丸印で示した。その結果を基板側のCH−CH結合部から順を追って観ていくと、CH−CH結合部の結合力、すなわち図28中、結合部位の位置:1における結合力よりも結合力は強化されている部分が続き、結合部位の位置:8で、上記位置:1の部位と同等の結合力となり、その後、5CF2CH、6CF2CH、7CF2CH、8CF2CH、9CF2CH並みの結合力となる。環を2つ取り入れた事により、先端の撥水もしくは撥油対応の構造を除き、CH―CH結合部よりも強固な結合力の構造を得た。
上記分子モデルにおいては、先端の撥水もしくは撥油対応の構造部が比較的弱い結合となっているが、5CF2CH、6CF2CH、7CF2CH、8CF2CH、9CF2CHにおいて最も弱い結合力を示した結合部位の位置:5近傍の結合力よりは強固な結合を有する。
すなわち、上記CFとCHから構成されている材料では、分子内の中央部の結合が途切れやすい状況にあり、劣化すると分子の半分前後が途切れて流されるため、撥水もしくは撥油効果が大きく低下する構造であったが、上記2環構造を取り入れる事により、分子内の結合が途切れても先端だけであり大半が残るというメリットを有すると共に、上記先端部以外の結合力は、上記CFとCHから構成されている分子の分子内の結合力よりも強固であり、途切れにくい。
ここで特に留意すべきは、上記2環構造を取り入れた材料では、撥水、撥油効果を有する部位は先端部のみではなく、環状構造においても撥水、撥油効果があることである。これについては後述の<説明5>において示す。
また、2環を持つ材料の場合、環と環が結合している必要はなく、たとえば、図24、25に示す分子モデルのように、一つまでであればCF2基が入ってもよい。これは、上述のとおり、環を入れる事により、環だけでなく環の前後の結合力も強化される事によるものである。よって、当然のことではあるが、環と環の間に直鎖状にC原子が2つ以上入ると、上記環状構造が入った事による結合力強化の効果が現れない結合部がC−C結合間にできてしまい、上記CFとCHから構成されている分子内の結合力と同等の結合力にまで低下する。よって環と環の間に入るC原子は1つまでに限る。
図24、25ではCF2基を環と環の間に入れたが、上記環状構造を入れる事による結合力強化の範囲から逸脱する結合部位が直鎖状部分にできなければ、上記結合力の強化の目的は満たすので、図22、23のように、環と環の間にはC原子を挟み、上記C原子にCF3基が2つ結合した構造でも、主骨格の部位の結合力は強化される。ここで環と環の間に挟まれる原子はCでなくてもよいが、燃料噴射弁のところに来る材料との反応において活性度の低い原子で構成する必要がある。そのため、C以外では、たとえば、NやSなどが考えられる。
図24の分子の結合力(表4の補正値)を見ていくと、CH−CH結合の結合力(表4の最下段)よりも強い結合部のみである。よって、上記CFとCHから構成されている分子(5CF2CH、6CF2CH、7CF2CH、8CF2CH、9CF2CH )のCF−CF結合の結合力:0.19{Ha/(Å^2)}よりも強固な0.23{Ha/(Å^2);CH−CH結合部}まで、燃料噴射弁のコーティング材料としても耐える事が可能となる。
<説明5> 環構造を取り入れた分子モデルにおける撥水、撥油効果の確認
図3及び図18〜図26の分子モデルについて、水の吸着エネルギーを計算した。個々の結果を図31〜35に示す。図3の分子モデルを比較の基準とするため、図31〜35全ての最左部には、図3の分子モデルでの水の吸着エネルギーが表示してある。
図3及び図18〜図26の分子モデルについて、水の吸着エネルギーを計算した。個々の結果を図31〜35に示す。図3の分子モデルを比較の基準とするため、図31〜35全ての最左部には、図3の分子モデルでの水の吸着エネルギーが表示してある。
吸着エネルギーを求めるにあたり、分子モデルを図1と同様に配置した。すなわち周期境界条件があるため、各分子モデルは長手方向の向きを揃えて並ばせ、かつ層を形成するように配置している。上記のように配置され構造最適化された分子の層構造に対し、水を以下の(A)〜(G)の中から5〜7とおりの場所に初期配置して構造最適化計算を実施した。
(A)層の表面に水分子を配置
(B)層の表面近傍で、分子モデルの最先端が屈曲している場合は、分子の最先端に水を配置(層の表面よりもやや内部に配置された形となる。)
(C)環の中心部の近傍に水を配置
(D)環の端部の原子上に水を配置
(E)2環の境界部に水を配置
(F)環とは異なる部分のF原子近傍に水を配置
(G)環とは異なる部分のH原子近傍に水を配置
(A)、(B)を図中で「表面」、(C)〜(G)を図中では「隙間」と表示した。
(A)層の表面に水分子を配置
(B)層の表面近傍で、分子モデルの最先端が屈曲している場合は、分子の最先端に水を配置(層の表面よりもやや内部に配置された形となる。)
(C)環の中心部の近傍に水を配置
(D)環の端部の原子上に水を配置
(E)2環の境界部に水を配置
(F)環とは異なる部分のF原子近傍に水を配置
(G)環とは異なる部分のH原子近傍に水を配置
(A)、(B)を図中で「表面」、(C)〜(G)を図中では「隙間」と表示した。
<説明1>の図1中に示しているように、本計算の計算誤差は±0.0025/2程度であるが、このことを考慮しても、図31では7CF2CHよりも吸着エネルギーが小さくなる部位がある。吸着エネルギーが小さい事は、吸着しやすい事を意味するので、撥水性、撥油性の特性がやや異なる材料になっている。
5CF2CH、6CF2CH、7CF2CH、8CF2CH、9CF2CHのようなCF基とCH基からなる材料において、初期には燃料噴射弁に付着物、堆積物が残らない効果を確認しているので、上記CF基とCH基からなる材料の撥油性、撥水性を維持するという意味では望ましくない。ただし、上述における望ましくないという表記は、燃料噴射弁への付着物、堆積物の残存を確認できていない事による表記であり、必ずしも付着防止効果が悪くて使用できないという意味ではない。
次に図32を見ると、上記7CF2CHの吸着エネルギーに対し、図20の分子モデルは、計算誤差を考慮すれば、吸着エネルギーの有意な差はない。そのため、撥水性、撥油性の性質が同等である可能性がある。さらに、図21のモデルは吸着エネルギーがほぼ7CF2CHと同等であり、撥水性、撥油性が維持されている可能性がより高い。すなわち図21の分子モデルにより、初期の燃料噴射弁への付着物防止機能が従来の上記CF基とCH基からなる材料と同等の性能に維持され、さらに結合力が強いことから耐久性にも優れた材料が得られる。
次に、図33、図34を見ると、図31と同様、吸着エネルギーが7CF2CHより低いので、撥油性、撥水性の性質が異なる。一方、図35を見ると、7CF2CHと図25の分子モデルとでは、計算誤差を考慮すれば吸着エネルギーに優位な差はない。よって、図25の分子モデルは、7CF2CHと同程度に撥水性、撥油性が維持されていると言える。また、図36を見ると、図32と同様、吸着エネルギーが7CF2CHとほぼ同等であり、撥水性、撥油性が維持されている。すなわち、環構造にF置換が一つあるだけでも十分な撥水、撥油機能があると言える。
<説明6> 環自体の結合力
次に環自体の結合力を以下に示す。代表として、ベンゼン環、テトラフルオロフェニル基、F結合により完全に飽和結合させた環状構造をそれぞれ2つもつ材料について計算した。具体的には図37、38、39の分子モデルである。
次に環自体の結合力を以下に示す。代表として、ベンゼン環、テトラフルオロフェニル基、F結合により完全に飽和結合させた環状構造をそれぞれ2つもつ材料について計算した。具体的には図37、38、39の分子モデルである。
いずれの場合も、まずは構造最適化計算により安定状態と安定状態におけるエネルギーを計算する。安定状態を得る事で、個々の原子―原子間の距離、方位が一義的に定まる。上記構造最適化計算では、分子を長軸方向、例えば図37の分子モデルで上下方向を、ほぼ揃えて、上記長軸方向に対して垂直方向に分子をならべたモデルを形成し、周期境界条件により分子による層を形成する。すなわち図1に示した分子モデルと同様な並べ方である。層の上下には真空部分を広く形成し、一つ上もしくは下の層の分子からの引力、斥力は受けないようにすることで、実際の表面状態に近い状態の配置を作成した状態で、構造最適化計算をする。上述において、分子モデルをほぼ揃えるという曖昧な表現が入っているが、これは初期状態の形成における事なので、その後の構造最適化計算により、一義的な安定状態となる。
次に結合力を計算した結合部位と、そのための変位状態の形成と変位量について、図37の分子モデルで詳細に説明する。一つ目の結合力は、図37中上方のベンゼン環の中のC原子371とC原子372との間の結合力とC原子371とC原子373の間の結合力双方を同時に計算した。(以下、環端部の2結合と表記する。)
そのための変位状態は、C原子372とC原子373及びその下方の複数の原子を固定し、一方、C原子371とその上方の複数の原子を図中上方に平行移動させる事により形成した。上記変位状態の変位量は、C原子376とC原子371の距離の変化により算出できる。上記要領により形成した変位状態のモデルで、構造最適化を伴わない、エネルギー計算を計算ソフトにより実施する。
そのための変位状態は、C原子372とC原子373及びその下方の複数の原子を固定し、一方、C原子371とその上方の複数の原子を図中上方に平行移動させる事により形成した。上記変位状態の変位量は、C原子376とC原子371の距離の変化により算出できる。上記要領により形成した変位状態のモデルで、構造最適化を伴わない、エネルギー計算を計算ソフトにより実施する。
上記変位状態の形成とその状態でのエネルギー計算を2回行い、この計算結果と、安定状態と安定状態でのエネルギーとを用いて、前述の図4ないし図7と同様にして、所望の結合力を算出する。すなわち、環自体の結合力も、前述のとおり図4,5ないし6のように、変位の2乗とエネルギー差をグラフ化し、その傾きを結合力として求め、図7のグラフに当てはめて、変位の2乗の最大値が0.2のときの結合力に補正する。このとき、前述の<説明2>と同様に、図8でC原子―F原子間の結合力のデータに対しカーブフィットして求めた傾き:−0.2186を他の結合力でも使用して平行移動し補正する。
二つ目の結合力は、図37中上方のベンゼン環の中のC原子372とC原子374との間の結合力とC原子373とC原子375の間の結合力双方を同時に計算した。(以下、環の中心の2結合と表記する。)そのための変位状態は、C原子374とC原子375及びその下方の複数の原子を固定し、一方、C原子372とC原子373及びその上方の複数の原子を図中上方に平行移動させる事により形成した。上記変位状態の変位量は、C原子376とC原子371の距離の変化により算出できる。上記要領により変位状態のモデルを形成しながら、以下は上記一つ目の結合力と同様の手順により、補正済みの結合力を求める。以上により求める一つ目、二つ目の結合力を、図37の分子モデルと同様にして、図38、図39の分子モデルについても計算した。
図38、39の分子モデルでの変位状態の形成は、図37と同様にして実施する。図37、38、39の分子モデルは、図中上端、下端のCF基、CH基に違いはなく、分子構造の中央付近の環構造における環の種類が異なるだけである。よって、環構造の中で変位状態を形成して結合力を求めた手順について詳細な説明はしないが、図中の対応する部位の結合力を、上述の方法と同様にして計算した。
上述の環構造における対応する部位を図38に限って説明すると、図37内の1番目の原子を意味する371に対応するのが、図38内の1番目の原子381である。原子につけたラベル番号は、図の番号の後に序列の数字をつけているので、図37での原子に対応する図38での原子は3桁の数字の真ん中の7を8に変えて見ればよい。図39については、環399を図40に拡大して示した。上記同様に、図37の原子の3桁の数字の真ん中の7を9に変えて見ればよい。個々の結合力を表5に示す。
図37に示したベンゼン環2つを含む分子モデル、図38に示したオクタフルオロビフェニル基を含む分子モデル、双方ともに環端部の2結合の結合力、環の中心の2結合の結合力ともに、大きな値を示しており、一結合あたりの結合力に換算するために、2で除した数値を算出しても、図37のモデルの環端部の結合力は0.284であり、環の中心の結合力は0.369である。同様に、図38のモデルの環端部の結合力は0.295であり、環の中心の結合力は0.364である。
図17に示した環状構造を持たない分子モデルの結合力は、CH−CH結合部(図中、結合位置:1のところ)で0.23から0.24程度、CH−CF結合部(図中、結合位置:2のところ)で、0.21から0.22程度、その他はさらに結合力が弱いので、それに比して、上記環状構造自体の結合力は十分強固であることが分かる。
次に環状構造を入れた分子内で、環の部分とその他の部分の結合力を以下に比較する。
図28に示したテトラフルオロフェニル基、オクタフルオロビフェニル基を入れた分子モデル内の結合力で、最も大きな値を示した結合力:0.28(図28中、横軸:5における塗りつぶしの丸印)に比べ、上記環内の結合力は同等ないしそれ以上の値であり、環状構造を入れた分子モデルで、環状構造自体は結合力が強固であり、分解開始温度には影響せず、<説明3>において比較したとおり、環内部を除く部位での結合力の比較だけで耐久性の優劣が定まる。
図39に示したビフェニル基をF結合により完全に飽和結合させた分子モデルの結合力は、上記図37や図38に示した分子モデルの結合力よりも極度に小さく(表5)、一結合あたり、環端部の結合力で0.187、環の中心の結合力で0.179であり、図17に示した環状構造を持たない分子モデルのCF−CF結合部の結合力並みであった。
また、上記ビフェニル基をF結合により完全に飽和結合させた分子モデルの環以外のところでの結合力を表6に示す。
CF−CF結合、CF基とC、Fからなる環状構造との結合部、C、Fからなる環状構造同士の間の結合部の結合力は、それぞれ、0.192、0.178、0.179であり、図17に示した環状構造を持たない分子モデルのCF−CF結合部の結合力並みとなった。
また、C、Fからなる環状構造とCH基との結合部、CH−CH結合部の結合力は、それぞれ、0.216、0.237であり、図17に示した環状構造を持たない分子モデルの同位置の結合、すなわち、CF−CH結合、CH−CH結合と同等の値となった。
すなわち、本発明の最も望ましい第一の効果を発揮するためには、環状の構造を持てば何でも良いわけではなく、上述のごとく、ベンゼン環の一部を置換するだけに止め、結合を飽和結合に変える事は望ましくない。なお、ここではベンゼン環の中のHをFに変える例だけを挙げているが、置換原子を限定するものではない。また、置換もHもしくはFの部位に限定するわけではなく、環内のCを一部変えても良い。
上記図39に示したビフェニル基をF結合により完全に飽和結合させた分子モデルについては、分子内部に一部架橋を施した材料のようにみなす事もできるので、次に示す<説明7>において、第二の作用効果を有する構造として詳細を別の観点から説明する。
すなわち、耐久性を向上させるための手法は、上述のごとく、限られた範囲でベンゼン環の構造を変化させて導入し、分子の結合自体を強化させる事が最も望ましい第一の手法として挙げられ、上記耐久性を向上する第二の手法としては、分子の結合自体は強化させる事ができないが、原子―原子間、分子−分子間の結合を多岐にわたらせ増加させる事により、結合が一時的に途切れそうになっても、他の結合により構造を維持して上記結合の途切れを阻止するか、途切れた結合部の結合が元に戻らなくても、他の結合により、分子もしくは分子群の全体的な構造を維持することで、マクロ的なコーティング材料の構成は維持し、デポジットの防止効果を維持する事が挙げられる。
<説明7> 架橋による耐久性向上
図41には、テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソールコポリマーの環状の部分を、図17に示した環状構造を持たない分子モデルの中央部に取り入れた分子構造を示した。環状になっている部分のC−O結合部411と同結合部412の結合力を上述と同じ方法により計算した。
図41には、テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソールコポリマーの環状の部分を、図17に示した環状構造を持たない分子モデルの中央部に取り入れた分子構造を示した。環状になっている部分のC−O結合部411と同結合部412の結合力を上述と同じ方法により計算した。
具体的にはC原子4111とC原子4121及び図中上下に伸びたC−C結合からなる部位全体を固定し、O原子4112とO原子4122及びその先の、図中右の =C(CF3)2からなる原子群全体を平行移動させて、上記C−O結合部411と同結合部412だけが伸びるようにして変位状態を形成した。変位は、上記C−O結合部411の距離の変化分と同結合部412の距離の変化分との平均をとった。上述のようにして変位状態を形成し、構造は変化させずにエネルギーを計算して、結合力を算出した。ここでの結合力の算出方法は前述と同様である。
また、CC結合部414、CC結合部415およびCC結合部416についても、結合力を算出した。CC結合部414とCC結合部416については、同結合部よりも図中上の構成原子を全て固定したまま、図中下の構成原子を全て平行移動し、変位状態を形成した。CC結合部415については、=C(CF3)2は固定したまま、他の構成原子でCC結合部415よりも上の原子群を平行移動し、さらに同結合部415よりも下の原子群を平行移動し、上記2つの平行移動距離は同等となるように移動させた。すなわち、他の場合と異なり、上記CC結合部415の結合力には、OC結合部417とOC結合部418の結合エネルギーが多少なりとも影響する事になる。
表7に各結合部の結合力の計算結果を示す。
C−O結合部である結合部411と結合部412については2で除して一結合あたりの結合力を表記した。CC結合部415は環内であるにも関わらず、結合力は、図3の分子モデルのCF−CF結合並みである。また、環の前後の結合部に相当するCC結合部414、CC結合部416も同等の結合力であり、環状構造を入れた事による結合力向上効果はみられない。結合部411と結合部412については、結合力が強くなっているが、上記CC結合部415の結合力が大きくなっていない事を考えると、環状による効果ではなくO原子を入れた事による効果と考えられる。
しかし、CC結合部の結合力自体は大きくなっていなくても、図41の分子モデルのCC結合部415は、図3のCF−CF結合よりも途切れにくい。その理由は、図39の分子モデルの環399と同様に、CC結合部415が途切れそうになっても、結合部411、OC結合部417、OC結合部418、結合部412が存在し、上記4つの結合力による慣性力でCC結合部415は維持されるからである。また、仮にCC結合部415が途切れても、上述の4つの結合力により、マクロ的には分子構成は維持される。その結果、耐久性が向上する。なお、上述においては、一分子内での結合の多岐化、架橋の形成により、結合部の維持を説明したが、多数の分子で分子間架橋を形成していてもよい。
具体的な一例を図42に示す。この図42に示すように、結合力の弱いCF―CF結合部に、O原子による架橋を入れる事で補強し合ってもよい。また、図中は2分子での架橋の形成を例示したが、多数の分子で、多数の架橋を形成してもよい。このとき補強し合う分子は、互いに構造が異なる分子でもよい。
さらには、図43に示したように、上述の第一の効果、すなわち環状構造による結合力の強化を入れると共に、環状構造をもつ分子内の残された弱い部位に架橋を形成してもよい。また、環状構造で結合力が全て強化された材料の一部に、結合力の補強が必要な材料との間の架橋を形成してもよい。このときもまた、分子は同じものである必要はない。
<説明8> HCの吸着エネルギーの計算
上述において、水の吸着エネルギーを使用したため、図31〜36において吸着エネルギーは全て負の値を示した。すなわち、得られた構造最適化後の状態が安定である事を意味する。
上述において、水の吸着エネルギーを使用したため、図31〜36において吸着エネルギーは全て負の値を示した。すなわち、得られた構造最適化後の状態が安定である事を意味する。
撥水性/撥油性を図3に示した分子モデルと同等にするという目的から、水との吸着エネルギーを計算し同等となるかどうか比較したが、デポジット防止という本来の目的からすれば、燃料成分に含まれるHCなどが吸着しにくい、すなわちHCの吸着エネルギーが高い事の確認が必要である。
そこで、この<説明8>では、HCの吸着エネルギーを計算した。燃料成分に含まれるHCにはいろんな物質が含まれるが、C数が多くなればなるほど物質の構造が複雑に変化し、最も安定な状態を見出すために初期条件をいろいろな形(方位)で与えて計算する必要があって煩雑となる。そこで、ここでは、比較的C数の少ないC3H6を表面に初期配置して構造最適化計算を実施した。
上記のC3H6は、特開2008−043943号公報の各表に記載されているとおり、C数の少ない物質の中でも、置換物を含むPt系材料に吸着しやすく、吸着エネルギーの低い物質である。(全般的に、他のHCよりも、C3H6の吸着エネルギーは低い。)
図44はPt表面でのC3H6の安定状態であり、C3H6内の2重結合のC−C部分がPt原子に接した状態となって安定状態を形成している。一方で、図45に示すとおり、図3に示した分子モデルからなる層表面上での構造最適化計算後の安定状態では、C3H6は、図3に示した分子モデルに接していない。
図44はPt表面でのC3H6の安定状態であり、C3H6内の2重結合のC−C部分がPt原子に接した状態となって安定状態を形成している。一方で、図45に示すとおり、図3に示した分子モデルからなる層表面上での構造最適化計算後の安定状態では、C3H6は、図3に示した分子モデルに接していない。
図44と図45の安定状態の違いから、図3に示した分子モデルでは、Ptのような触媒性能を有する材料とは異なり、C3H6は表面上に吸着しにくいことが予想される。
図21の分子モデルについても同様で、図46に示すとおり、分子モデルにC3H6は接触しない状態で安定状態を形成した。
図21の分子モデルについても同様で、図46に示すとおり、分子モデルにC3H6は接触しない状態で安定状態を形成した。
また上記3種の表面上での安定状態の吸着エネルギーを表8に示した。
表8に示されるように、Pt表面では、C3H6の吸着エネルギーはマイナスである。一方、図3の分子モデルからなる層表面、図21の分子モデルからなる層表面では、ともに、C3H6の吸着エネルギーはプラスになっている。ここで、吸着エネルギーがマイナスである事は以下を意味する。
吸着エネルギーは2種の物質が共存する状態のエネルギーから、それぞれ単独で存在するときのエネルギーを引いているので、正か負かによって、共存状態が安定であるか、それぞれが単独状態の方が安定であるかを示す指標である。
Ptでは、上記吸着エネルギーがマイナスなので、PtとC3H6は共存状態の方が、それぞれ単独で存在する状態よりも安定であり、C3H6の吸着が生じやすい事を表す。よって、その後の反応も起こりやすく、触媒として適している。
しかし、図3に示した分子モデルや図21に示した分子モデルでは、上記吸着エネルギーがプラスであり、上記分子モデルとC3H6は、共存状態よりも、それぞれ単独で存在する状態の方が安定である。したがって、C3H6の吸着は生じにくい。すなわち、図3の分子モデルや図21の分子モデルは、Pt系の表面上とは異なる性状をもつといえる。
また、TiO2の表面でのC3H6の吸着エネルギーを表9に示す。
また、TiO2の表面でのC3H6の吸着エネルギーを表9に示す。
Ptでは活性面が[111]面と分かっていたので、結晶面の詳細については触れず、[111]面上でのC3H6の吸着エネルギーを計算し上述において説明した。また有機物については、面という概念はないので、上述において触れずに説明し比較した。
しかし、TiO2においては、若干事情が異なる。一般的な材料では、結晶の活性面は分かっておらず、Ptのように盛んに研究がなされている材料だけが、特別に、活性面が分かる。
通常の多結晶の材料では、多結晶の塊の表面には、結晶のいろんな角度からみた面が露出していると考えるのが一般的である。その中で活性化している面が、反応/吸着に最も寄与する。よって、活性面の分かっていない一般的な材料では、いくつかの代表的な結晶面での反応/吸着を比較し、活性な面と不活性な面を個々に分類して議論する必要がある。
よってTiO2では、表9のごとく[001]面、[110]面、[111]面を代表的に挙げ、これらの個々の表面上でのC3H6の吸着エネルギーを算出した。その結果、吸着エネルギーが最も低いのは[110]面であった。この[110]面が最も活性な面である。
TiO2[110]面でのC3H6の吸着エネルギーは負の値(-0.022Ha)であり、表8に示すようにPt表面の吸着エネルギーに比較的近い値である。吸着エネルギーが負であることから、TiO2[110]面の表面にC3H6が存在する方が、C3H6が孤立状態であるときよりも安定であると言える。すなわち、C3H6が吸着しやすいと言える。
TiO2[110]面でのC3H6の吸着エネルギーは負の値(-0.022Ha)であり、表8に示すようにPt表面の吸着エネルギーに比較的近い値である。吸着エネルギーが負であることから、TiO2[110]面の表面にC3H6が存在する方が、C3H6が孤立状態であるときよりも安定であると言える。すなわち、C3H6が吸着しやすいと言える。
さらには、同じ酸化物の中でもMgOの[111]面では、C3H6の分子が一部分解され、MgO表面に接触して吸着する事が計算により分かった。そのときの吸着エネルギーもマイナスとなり、C3H6が、孤立して存在するよりも、MgOの[111]面に接して吸着した状態の方が安定であることを示す結果となった。
以上のことから、本案の分子でコーティングした表面では、HCの吸着が特に起こりにくく、その吸着しにくい表面状態は、Ptのような金属、TiO2やMgOのような金属酸化物とは異なる、特に吸着しにくい状態である事が示された。
触媒などに使用される金属、金属酸化物の材料においては、表面における反応性が求められ、吸着しやすくて反応を促進する機能が求められる事から、デポジットの吸着、付着を防止する本案とは、反対の機能を求めたものである。
触媒などに使用される金属、金属酸化物の材料においては、表面における反応性が求められ、吸着しやすくて反応を促進する機能が求められる事から、デポジットの吸着、付着を防止する本案とは、反対の機能を求めたものである。
<説明9> 上記コーティング材によりコーティング層が形成されたインジェクタ
次に、コーティング材料によりコーティング層25が形成されたインジェクタ11の構造を、図47、48を用いて説明する。図47はインジェクタ11の先端部分切り欠き側面図であり、図48はノズル先端部の断面図である。
次に、コーティング材料によりコーティング層25が形成されたインジェクタ11の構造を、図47、48を用いて説明する。図47はインジェクタ11の先端部分切り欠き側面図であり、図48はノズル先端部の断面図である。
インジェクタ11は、噴射制御用電磁弁部12と燃料噴射ノズル13とからなる。噴射制御用電磁弁部12は、そのハウジング10の内部に、励磁コイル(図示せず)と、励磁コイルに通電されたとき発生する電磁吸引力により吸引移動する可動片(図示せず)とを収容する。
インジェクタ11は、往復動可能な前記可動片に連結されるノズルニードル14と、このノズルニードル14を軸方向に摺動可能に収容するノズルボディ15とを備える。このノズルボディ15は、ノズルニードル14を軸方向に摺動可能に案内する案内孔、ノズルニードル14の当接可能なシート面、噴孔を有する。
インジェクタ11は、さらにノズルボディ15を備え、また、図示しないが、スプリング、可動鉄心、固定鉄心、電磁コイルを備える。スプリングはノズルニードル14を閉弁方向に付勢するものであり、可動鉄心はノズルニードル14に固定される筒状部材であり、固定鉄心は、可動鉄心と同軸上に可動鉄心に対して配置される。電磁コイルは、固定鉄心の外周に設けられ、固定鉄心および可動鉄心に磁束を形成することにより可動鉄心およびノズルニードル14をスプリングの付勢力に抗して開弁方向に移動させる。
燃料噴射ノズル13の一部を構成するノズルボディ15の内部には軸方向に延びる空間部16が形成され、この空間部16にノズルニードル14が収容されている。インジェクタ11の燃料導入口17から導入された燃料はノズルボディ15の内部の空間部16に充満されている。またノズルニードル14は、図示しないスプリングにより弁閉側に付勢されている。
ノズルニードル14の円環状の当接部18とノズルボディ15の円錐斜面状のシート面19との当接時に弁閉状態(図48に示す状態)となり、その状態からノズルニードル14の当接部18がシート面19からリフトすると、当接部18とシート面19との間に隙間ができ、この隙間より燃料が燃料溜り室5と噴孔20とを通って燃焼室21内に噴射される。
このインジェクタ11は、エンジンヘッド6の内部の燃焼室21と外部とを連通する燃料噴射ノズル用取付孔22に外部から挿入されて、エンジンヘッド6にねじ結合されている。ノズルボディ15の先端部に形成されるノズル先端面23は円錐斜面状に形成されており、その先端部が噴孔20の出口側内壁面に連通している。
そして、燃料噴射ノズル13のノズル先端面23と噴孔20の内壁とに本発明のコーティング材料を使用したコーティング層25が形成されている。このコーティング層25は、噴孔20の内壁からノズル先端面23まで連続し、噴孔20の内壁を被覆するコーティング層251と、ノズル先端面23を被覆するコーティング層252とからなる。
なお、ノズルボディ15のシート面19にコーティング層は形成されない。シート面19は精密加工により寸法精度が精密に形成されているから、このような精密加工された部分にコーティング層が形成されないため、弁閉時におけるノズルニードル14の当接部18とシート面19との油密確保がされている。
このインジェクタ11は次のように作動する。燃料噴射ノズル13の作動時、シート面19からノズルニードル14がシート面19より離間すると、空間部16に充満する燃料が当接部18とシート面19との円環状の隙間、燃料溜り室(すなわちサック)5、噴孔20を通して燃焼室21内に噴射される(弁開状態)。その後、ノズルニードル14の当接部18がシート面19に着座したとき、噴孔20からの燃料の噴射が遮断される(弁閉状態)。エンジンの停止時、噴孔20の後垂れ燃料などの燃料が一時的にノズル先端部に残存するが、この残存燃料はコーティング層251、252の表面には付着しにくい。これはコーティング層251、252の表面が油の付着しにくい撥油性のコーティング層となっているからである。仮に燃料が付着したとしてもエンジン始動時の次回噴射によりこの付着燃料がコーティング層251、252の表面から剥離し易い。
エンジンの停止直前、インジェクタの最終の弁開動作直後に噴孔20の内壁のコーティング層251からノズル先端面23のコーティング層252に沿って流れる流速の遅い燃料は揮発し易い。またコーティング層251、252が形成されているためコーティング層251、252の燃料付着量は少なく、付着燃料が熱等により変質し生成するデポジットの量は少ない。このためエンジンを再始動するときの噴射量の低下や噴射特性への影響は小さい。また撥油性のコーティング層251、252であるから表面エネルギーが金属面に比べ小さいため、生成されたデポジットの付着力が弱く例えば噴孔20の内壁に生成したデポジットは次回以降の燃料噴射時に燃料の液圧によって取り除かれ、デポジットが成長し難い。
1:基板、 5:燃料溜り室、 6:エンジンヘッド、 10:ハウジング、 11:インジェクタ、 12:噴射制御用電磁弁部、 13:燃料噴射ノズル、 14:ノズルニードル、 15:ノズルボディ、 16:空間部、 17:燃料導入口、 18:当接部、 19:シート面、 20:噴孔、 21:燃焼室、 22:燃料噴射ノズル用取付孔、 23:ノズル先端面、 25:コーティング層、 251:コーティング層、 252:コーティング層
Claims (10)
- 内燃機関を備えた装置において燃料燃焼の際に発生するデポジットの付着防止のためのコーティング層に使用されるデポジット付着防止材料であって、
基板材料との結合のための基材結合部位と、その基材結合部位に結合し、且つ、フッ素原子を含んでいる主部位とからなり、
前記主部位は、ベンゼン環を有し、そのベンゼン環と前記基材結合部位が直接結合しているか、または、そのベンゼン環と前記基材結合部位とを結合している原子が1つであることを特徴とするデポジット付着防止材料。 - 請求項1において、
前記主部位は、前記ベンゼン環に直接結合しているフッ素原子を有することを特徴とするデポジット付着防止材料。 - 請求項1または2において、
前記主部位は、前記ベンゼン環に炭素原子が結合しており、その炭素原子に結合しているフッ素原子を有していることを特徴とするデポジット付着防止材料。 - 請求項1〜3のいずれか1項において、
前記主部位は、前記ベンゼン環と前記基材結合部位とを結合している原子として1つの炭素原子を有し、その炭素原子にフッ素原子が結合していることを特徴とするデポジット付着防止材料。 - 請求項1〜4のいずれか1項において、
前記主部位は、前記基材結合部位に直接または1つの原子を介して結合している第1のベンゼン環と、その第1のベンゼン環に対して、直接または1つの原子を介して結合している第2のベンゼン環とを備えていることを特徴とするデポジット付着防止材料。 - 請求項1〜5のいずれか1項において、
前記ベンゼン環はテトラフルオロフェニル基であることを特徴とするデポジット付着防止材料。 - 請求項1〜6のいずれか1項において、
前記基材結合部位は下記式で示されることを特徴とするデポジット付着防止材料。
-(CH2)n- (n=1〜4) - 内燃機関を備えた装置において燃料燃焼の際に発生するデポジットの付着防止のためのコーティング層に使用されるデポジット付着防止材料であって、
基板材料との結合のための基材結合部位と、その基材結合部位に結合し、且つ、フッ素原子を含んでいる主部位とからなり、
前記基材結合部位および主部位のいずれかまたは両方に、少なくとも1つの分子間架橋構造をもつことを特徴とするデポジット付着防止材料。 - 請求項8において、
前記分子間架橋構造として、酸素原子を介した架橋構造をもつことを特徴とするデポジット付着防止材料。 - 請求項1〜9のいずれか1項に記載のデポジット付着防止材料が用いられたコーティング層を、デポジット付着部位に備えていることを特徴とする直噴ガソリンエンジン用の燃料噴射弁。
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2009
- 2009-07-15 JP JP2009167131A patent/JP2011021100A/ja active Pending
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