XPS分析は、試料を破壊することなく固体試料の表面の元素を測定できる非破壊分析であり、稼働中の感光体上の潤滑剤(保護剤)を測定するには優れた測定方法である。理論的には、感光体上の潤滑剤(保護剤)の付着量を測定、制御しながら画像形成を行っていれば、感光体表面やクリーニングブレードの摩耗が抑制され、クリーニング性能の低下が防止でき、帯電工程における感光体表面の劣化も防ぐことができる。これにより、長期に亘って高品質の画像形成が可能となる。
ところが、現実には、感光体表面の摩耗や汚れは均一に起こるのではなく、部分的に発生しやすく、この部分的な異常が画像品質に大きく影響している。すなわち、感光体上の潤滑剤(保護剤)の付着量が平均的には所定値を満足していても、部分的にばらつきが生じていると、感光体表面の部分的な汚れや摩耗を引き起こし、画像形成装置はムラのある画像を形成してしまい、画像品質の低下を招いてしまうことがある。特に、感光体の線速が速い装置については、潤滑剤を塗布しても、潤滑剤の付着ムラが起こりやすく、充分な保護剤の塗布効果が期待できないケースが多かった。
このような問題を解決するには、感光体表面の潤滑剤(保護剤)の付着量を、全体としてだけでなく、微小領域毎にきめ細かく測定し、制御する必要がある。しかし、XPS等のX線を利用した分析法では、測定装置の制約上、画像形成装置における感光体の表面をきめ細かく測定することは、現実的には難しかった。また、感光体の表面のきめ細かい分析の困難性から、感光体等の像担持体表面全体に、潤滑剤(保護剤)を均一に制御しながら付着させることのできる保護剤塗布装置も知られていなかった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、像担持体表面の保護剤の付着量をきめ細かく測定、制御し、ムラのない高画質な画像を長期間に亘って保持できる画像形成装置、この画像形成装置に用いるプロセスカートリッジ、及び像担持体への保護剤の均一な塗布を行うことのできる保護剤塗布装置、並びに稼働途中の像担持体表面の保護剤の付着量を容易にきめ細かく測定できる保護剤の付着量の測定方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、電子写真方式の画像形成装置において、画像形成時に異常画像が発生する原因を調べるため、像担持体上で異常画像が発生する場所と発生していない場所で、保護剤(潤滑剤と言うこともある。)の存在量が異なるのではないかと考え、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、像担持体の表面観察を行なった。像担持体として感光体を用いて表面観察したところ、保護剤が感光体上に付着している様子を観察することはできたが、SEM画像の観察結果と画像形成装置において形成した画像の画像品質との関係ははっきり分からなかった。
そこで、画像形成装置において形成した画像の画像品質の異常は、画像形成装置の感光体上で形成する画像の画像面積率により、異常画像の発生メカニズムが異なるのではないかと考え、さらに詳細に異常画像の発生する場所をSEM観察したところ、形成する画像の面積が狭いときには、感光体に付着した残トナーが画像の解像度を低下させていることが多く、形成する画像の面積が広いときには、感光体が部分的に磨耗し、異常画像が発生ていることが分かった。このように、異常画像の発生の仕方が、形成する画像の大きさによって異なるため、感光体上の保護剤の付着量も形成する画像の大きさによって違うのではないかと考えた。また、本発明者らは、特に感光体の線速が速い画像形成装置については、線速が速い分、保護剤が感光体に供給され、感光体上に均一に塗布された状態を維持することが困難な場合があると考えた。
そこで、感光体上の保護剤の付着量を微小領域ごとに測定することを検討した。金属石鹸のような金属成分を含有する保護剤においては、感光体上の保護剤の付着量を求める方法として、蛍光X線分析(XRF)やICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析により、感光体単位面積中の金属元素の濃度から付着量を求める方法が知られている。ICP発光分光分析法は再現性のよい分析方法であり、実際にICP発光分光分析法で測定した、感光体上の保護剤であるステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の総量の濃度が0.4〜2.0μg/cm2では、おおむね高品質の画像形成が可能である。しかし、前述のように、画像形成を行なう画像の画像面積率が少ないときには、ICPで定量を行なって、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の総量が0.4〜2.0μg/cm2の範囲内であるにも関わらず、異常画像が発生する場合があり、特に、高速タイプの画像形成装置において、部分的に画像濃度の高い領域と画像濃度が低い領域が混在する画像を、大量に画像形成した後に異常画像を生じる場合が多かった。
また、ICP発光分光分析で感光体上に薄く塗られた金属石鹸の量を測定するためには、分析サンプルとして広い面積が必要であり、感光体上の保護剤のきめ細かい場所によるムラを測定することは非常に困難であった。さらに、ICP発光分光分析では分析サンプルは溶液に溶かしてしまうため、感光体を再使用することができなかった。
そこで、狭い領域での保護剤の付着量を測定する方法として、FT−IR(フーリェ変換赤外分光分析)の一種であるATR(Attenuated Total Reflection)−IR法を用いることを試みた。ATR−IR法は、非破壊測定法であり、数μm〜数mm程度のスポット径で有機物の分析が可能であるためであり、微小領域毎の付着量(または付着量のムラ)を測定するための分析方法として好都合である。
FT−IRによって得られるIRスペクトルは、赤外光源のもつ光の波数(波長の逆数)に対する吸光強度分布が、検体試料によってどう変化するかを測定するものであり、通常は波数(単位cm−1)を横軸とし、縦軸には、赤外光の透過率(T)や吸光度(A)をとり、曲線として描かれる。透過率は、試料を透過したエネルギーと試料に入射したエネルギーとの比であり、吸光度は透過率の逆数の常用対数である。吸光度と試料濃度が比例関係にあることはよく知られており(Lambert−Beerの法則)、定量分析を行う場合は、吸光度スペクトル(通常、IRスペクトルと呼んでいる。)のピーク強度(通常、ピークの高さ、又はピーク面積で測定する。)を利用することが一般的である。このため、IRスペクトルのピーク強度は、透過率ではなく、定量性の良い吸光度を使用することが好ましい。
IRスペクトルを測定する為の赤外分光装置としては、分散型赤外分光光度計、フーリエ変換赤外分光光度計に大別され、時間効率・光量利用率・波数分解能・波数精度が高いことからフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)が現在の主流である。測定方法としては、通常の透過法の他に、種々の測定アクセサリが有り、試料の形態や知りたい情報に応じて選択することができる。種々の測定アクセサリを有するFT−IR法の中でも、ATR−IR法は、試料処理をほとんど行うことなくIRスペクトルを測定できることから、好ましい測定方法である。
ATR−IR法は、赤外吸収スペクトルを測定する方法の一つで、全反射を利用するもので、高い屈折率を持つATRプリズムを試料に密着させ、ATRプリズムを通して赤外光を試料に照射し、ATRプリズムからの出射光を分光分析する。ATRプリズムと試料との屈折率の関係から、ある角度以上の条件で赤外光をプリズムに入射させると、赤外光はATRプリズムから出ず、ATRプリズムと試料との接触面で全反射を起こす。その際、赤外光が僅かの距離だけ試料側に滲みだすので、試料で赤外光の吸収があれば反射光が減衰し、試料の吸収スペクトルを得ることができる。
ATR−IR法は、ATRプリズムと接触したごく薄い試料表層部分の吸収スペクトルを測定することができるため、厚い試料や透過性の低い試料であっても、ATRプリズムと密着させることができれば測定できるという利点を備えている。また、ATR−IR法を用いると、赤外光の吸収が起こる波数情報により、官能基の種類がわかるため、ATR−IR法は定性分析によく用いられる。しかし、試料を押さえる力によって、吸収スペクトルのピーク強度が変化するため、定量分析にはあまり用いられていなかった。
本発明者らは、ATR−IR法を用いて、感光体上の保護剤の塗布量を見積もれないものかと考え、保護剤が塗布された感光体について、様々な条件でATR−IR法による測定を行い、そのスペクトルの比較および解析を行なった。
その結果、ATR−IR法では、用いるATRプリズム(クリスタル)や入射角の条件によって赤外光の侵入深さが変化するため、同じサンプルを計測しても得られるスペクトルは異なり、用いるATRプリズムや入射角条件によって、感光体に由来するピークのみしか検出されなかったり、ほぼ保護剤のみのピークしか検出されなかったり、感光体由来のピークと保護剤由来のピークが両方検出されたりすることが分かった。そこで、用いるATRプリズムと入射角を変化させて、感光体由来のピークと保護剤由来のピークが両方とも検出される条件を探索し、得られた感光体由来のピークと保護剤由来のピークの両方を有するスペクトルから、感光体上の保護剤の塗布量を評価する方法を検討した。
ATR−IR法では、測定用の試料を押さえる力によって強度比が変化してしまうため、スペクトルの強度を、定量的に測定対象物の量に結びつけることが難しかった。そこで、測定用のサンプルのセット時に、サンプルを固定する治具とATRプリズムの間のギャップを一定に保つ事ができるようにする、又はサンプルを押さえつける力を一定にすることで、一定のIRスペクトルを得ること考えた。そして、サンプルのセット時に、サンプルを押さえつける治具とATRプリズムの間のギャップを一定に保つ事ができる装置、又はサンプルを押さえつける力が一定になるように装置のアプリケーションを工夫して、測定を行った。
このアプリケーションを備えたATR−IR装置で、表面の保護剤塗布量を変化させたサンプルを測定した。このとき、ATR−IR装置のATRプリズム、および入射角度は一定になるようにした。これにより、得られたIRスペクトル中のピークの帰属を行い、感光体由来のピークの面積に対する保護剤由来のピークの面積の比(ピーク面積比)を算出した。同じATR−IR装置で測定した保護剤塗布量を変化させたサンプルのIRスペクトルにおける前記ピーク面積比の算出結果を比べると、保護剤塗布量の増加に伴い、面積比が相関を持って増加していることがわかった。
一方、同じサンプルを測っているにも関わらず、サンプルを押さえつける力に応じて、同じ量の保護剤が均一に付着した感光体を測ってもピーク面積比が変化することも分かった。さらに、サンプルを押さえつける力によってピーク面積比が変化する現象は、感光体由来のピークと保護剤由来のピークとの波長が近づいているほど現れ難いことがわかった。このようにピーク面積比には、押さえつける力による押圧力依存性があり、ATR−IR装置のATRプリズムによるサンプルの押圧力を一定に保つことが重要であることが分かった。さらに、このピーク面積比の押圧力依存性は、ピーク面積比を測定するピーク同士を近接する波長になるように選ぶことが、特に重要であることが分かった。
離れた波長のピーク同士を使ってピーク面積比を測定する場合は、サンプルを抑える力の制御を厳密に行なって、サンプル押圧力一定の条件下でATR−IR測定を行なう必要がある。ATR−IR装置によっては、サンプルに対する押圧力制御装置や押圧力測定用の圧力計が装着されているものもあるが、十分な押圧力制御ができなかったり、サンプルの形状や測定位置によっては押圧が不十分になったりするので、ピーク面積比を測定するピーク同士の波長を近接することができれば、この方法を選ぶことの方が簡単で便利である。
上述の結果より、ATR−IR法により、感光体表面に対する保護剤の相対的な付着量を算出できることが分かった。ATR−IR法を用いれば、感光体上の任意の微小領域について、サンプルを破損することなく、保護剤の付着量がわかるようになり、保護剤の付着量のムラを把握することができる。この評価方法を用いて、感光体の形成画像の画像品質を調べたところ、保護剤の付着量のムラが小さい感光体と、付着量のムラが大きい感光体により形成された画像の品質が明らかに異なっていた。
すなわち、感光体上のすべての微小領域において、保護剤の付着量が0.4〜6.0μg/cm2とすれば、形成された画像の品質は良好であることが判った。さらに、保護剤塗布装置を試作し、実際に感光体への保護剤の塗布を行い、上述の測定方法を用いて感光体上の微小領域への保護剤の付着量を評価した。そして、感光体上のすべての微小領域に均一に、所定量の保護剤を塗布できる保護剤塗布装置を作製することができた。特に、感光体線速が速い装置については、保護剤の塗布量がバラツキやすかったり、保護剤の塗布量が少なかったりしやすくなることもわかってきたため、感光体線速が速い装置に対しても、最適な保護剤塗布装置を作製することができた。また、作製した保護剤塗布装置を備えた画像形成装置を用いることで、ある程度使用した(定形用紙1000枚相当の画像形成をした)感光体表面の1cm角以内の微小領域のすべてにおいて、保護剤の付着量が0.4〜6.0μg/cm2であれば、その後は、同じ条件で保護剤塗布装置を稼働して画像形成をしている限り、感光体表面の微小領域のすべてにおいて、保護剤の付着量が0.4〜6.0μg/cm2となり、高品質な画像を形成できる画像形成装置を提供できることが分かった。
本発明の画像形成装置は、表面にポリカーボネート結合を含む樹脂の層を有する像担持体(感光体)と、該像担持体の表面を帯電させる帯電手段と、前記像担持体上にトナー像を形成する画像形成手段と、前記像担持体上に形成されたトナー像を被転写体に転写する転写手段と、前記像担持体の表面に所定量の保護剤を供給する保護剤供給部材と前記保護剤を薄層化する保護剤薄層化部材を有する保護剤塗布装置とを備え、前記保護剤は、ステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛を含み、前記像担持体表面の線速を300mm/sec以上として画像形成を1000枚行なった後の、前記像担持体表面の主走査方向の1cm以内の間隔毎におけるステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の合計付着量が、それぞれ0.4〜6.0μg/cm2であることを特徴とする画像形成装置である。なお、本発明の画像形成装置においては、前記像担持体表面の副走査方向に対する保護剤の付着量も主走査方向同様に、1cm以内の間隔毎にそれぞれ0.4〜6.0μg/cm2に制御してもよいが、像担持体の構造上、前記像担持体表面の副走査方向に対する保護剤の付着量はばらつき難く、主走査方向の保護剤の付着量の分布を上記のように制御すれよい。
本発明において、画像形成を1000枚行なった後での感光体上の保護剤の付着量は、0.4〜6.0μg/cm2であり、好ましくは、0.6〜4.0μg/cm2であり、さらに好ましくは、1.0μg〜3.0μg/cm2である。
感光体上の保護剤の付着量が0.4μg/cm2未満では、感光体の磨耗を低減する能力として不十分なため好ましくなく、該感光体上の保護剤の付着量が6.0μg/cm2を超えると、トナーの成分が感光体に付着しやすくなったり、保護剤が感光体上に厚く存在しすぎることで画像ボケが起こったりすることから好ましくない。
また、本発明は感光体表面の線速300mm/sec以上で特に効果を発揮する。感光体表面の線速が速い場合、保護剤が感光体に供給され感光体上に保護剤が均一に塗布された状態を保つことができない場合があるが、本発明においては、感光体上の微小領域の保護剤の付着量を把握できるようになったことから、感光体上の保護剤の付着量を均一に、かつ一定量に保つことができるため、感光体表面の線速が300mm/sec以上の速い装置において効果が高い。
好ましい本発明は、前記画像形成装置において、前記保護剤薄層化部材は、前記像担持体の主走査方向に延出し、前記像担持体表面に押圧されるブレードを備えることを特徴とする。
好ましい本発明は、前記画像形成装置において、前記ブレードは、前記像担持体にカウンター方式で当接していることを特徴とする。
好ましい本発明は、前記画像形成装置において、前記ブレードは、鈍角ブレードであることを特徴とする。
好ましい本発明は、前記画像形成装置において、前記保護剤供給部材は、所定量の前記保護剤を前記像担持体表面に付着させるブラシを備えることを特徴とする。
好ましい本発明は、前記画像形成装置において、前記像担持体の汚れをクリーニングするクリーニングブレードを、さらに備えることを特徴とする。
本発明の画像形成装置においては、感光体のクリーニングを目的としたクリーニングブレードとは別に、保護剤薄層化用のブレードに代表される保護剤薄層化部材が具備されている。保護剤薄層化部材は、感光体上にステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物の保護層を形成するための機能を果たしている。
保護剤薄層化部材としてのブレードがない場合は、クリーニングブレードが感光体をクリーニングする機能と保護剤を感光体に密着させる機能を同時に果たさなければいけないことから、クリーニングによる回収トナーと感光体に供給された保護剤が混在するため、保護層の形成効率が悪い。一方、本発明における保護剤薄層化部材は、クリーニングブレードとは機能を分けているので、クリーニングブレード上で残トナーは除去され、保護層形成用の保護剤薄層化部材(ブレード)部では、残トナーは極僅かとなり、効率よく保護層の塗布が行なえる。
保護層形成用のブレードは、カウンター方式に類する角度で感光体に当接していることが好ましい。カウンター方式で当接した場合、保護剤が薄く均一に感光体に塗布されるため好ましく、薄く均一な保護層を形成することができる。
本発明においては、保護剤を感光体に供給する手段は、保護剤供給部材である。保護剤供給部材は、ブラシを備えていることが好ましい。感光体への保護剤の供給はブラシを含む保護剤供給部材で行ない、感光体上に供給された保護剤を保護剤薄層化部材のブレードで薄層化する。
本発明において、保護剤を供給する手段であるブレードは鈍角ブレードであることが好ましい。図5は、感光体と当接する側のブレードの先端が、通常の略直角(90度)の場合と鈍角の場合を比較したモデル図である。図5のように、ブレード先端が直角未満である場合は、感光体の回転によりブレード先端が回転方向に引き込まれやすいが、鈍角ブレードにおいては、感光体との当接部分のブレード先端の角度が大きく、ブレードの引き込まれが極めて起こりにくい形状である。このため、ブレードが安定的に感光体に当接し、ブレードの振動も少ない。このため、感光体への保護剤(ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛等の混合物)の均一塗布が安定的に行なわれる。また、鈍角ブレードを用いると、保護剤に窒化ホウ素(BN)が含有されている場合、BNは鈍角ブレードをすり抜け難いことから、鈍角ブレードはBN量の制御にも効果がある。
好ましい本発明は、前記画像形成装置において、前記保護剤は、ステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛を合計量で55質量%以上含むことを特徴とする。
好ましい本発明は、前記画像形成装置において、前記保護剤は、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の含有質量比が75:25〜40:60であることを特徴とする。
本発明における保護剤は、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物を含む保護剤である。本発明の画像形成装置に用いる保護剤中のステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合比は、75:25〜40:60(質量比)、好ましくは66:34〜45:55(重量比)である。ステアリン酸亜鉛は保護剤として効果が化合物である。
ステアリン酸亜鉛を保護剤塗布装置により感光体上に塗布する際に、ブロック状のステアリン酸亜鉛がブラシによりかきとられて微粉化して感光体上に塗布され、ブレードで引伸ばされ薄層化して密着される。この際、感光体表面の線速が速くなると、ステアリン酸亜鉛の引伸しが追いつかなくなり、感光体上に均一な薄層化ができなくなることがある。これに対し、ステアリン酸亜鉛よりも分子量の小さいパルミチン酸亜鉛を加えることにより、感光体の線速が速くても、感光体上へ、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物を含む保護剤の塗布、均一な薄層化が充分にできる。このことから、特に、感光体表面の線速が速い画像形成装置については、保護剤中のステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の含有質量比が75:25〜40:60であることは非常に好ましい。
ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛は、何れも脂肪酸金属塩であるが、脂肪酸部分は、ステアリン酸は炭素数18であり、パルミチン酸は炭素数が16である。このため、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛は構造がよく似ていて相溶し、ほぼ同じ材料として作用する場合が多い。保護剤中には、有効成分であるステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛を合計量で55質量%以上、さらには70質量%以上含むことが好ましい。
パルミチン酸亜鉛はステアリン酸亜鉛に比べて融点が低いため、ステアリン酸亜鉛中にパルミチン酸亜鉛が一定量以上含有していると、ブレードにより保護剤が引伸ばされやすくなる。しかし、感光体の線速が速くなると、感光体に降り注ぐ帯電のエネルギー、特にAC帯電のエネルギーはより強くなるため、保護剤による感光体の保護効果を高めるために、感光体上の保護剤の厚みを厚くしておく必要がある。このような点を考慮すると、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の含有比は、上述のようにすることが好ましい。
ステアリン酸亜鉛は、感光体上にランダムに付着しているのではなく、2分子で付着した状態が安定といわれている。即ち、ステアリン酸亜鉛を感光体上に塗布しても、ステアリン酸亜鉛の2分子分の厚みで飽和してしまう。ここにステアリン酸亜鉛に比べ、分子の長さが若干小さいパルミチン酸亜鉛が一定量以上存在すると、1分子層の高さは一定ではなくなり、低い部分と高い部分が共存すようようになる。そうすると次の分子が低い部分に入り込み、分子層を形成するようになる。このため、結果的に2分子よりも厚い保護剤層を形成することができ、感光体の保護効果が向上する。
好ましい本発明は、前記画像形成装置において、前記保護剤は、窒化ホウ素(BN)を含有することを特徴とする。
好ましい本発明は、前記画像形成装置において、前記保護剤は、アルミナを含有することを特徴とする。
本発明においては、保護剤であるステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物中に窒化ホウ素(BN)を含有していることが好ましい。BNを含有させた場合、BNが自己潤滑することから、ブレードの磨耗が低減される。BNは、感光体とブレードとの潤滑性を向上させ、ブレードの微細な振動まで抑制することにより、ブレードの姿勢を安定させ、金属石鹸の粉がブレードを通過して、帯電ローラに付着し、スジ状の異常画像の発生を抑制していると思われる。また、ブレードの振動が抑制されることにより、ブレードの磨耗が抑制される。
含有させるBN量は、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物の重量に対して、2〜30重量%、好ましくは4〜25重量%、さらに好ましくは6〜20重量%とすればよい。含有させるBNが、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物の重量に対して、30重量%よりも多くなると、BNが感光体上に厚く堆積しやすくなり、白抜けの異常画像を発生しやすくなる。また、含有させるBNが、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物の重量に対して、2重量%より少ないと、BNの自己潤滑の効果が充分発揮されないことがある。特に、感光体表面の線速が速い画像形成装置においては、保護剤中にBNを混合する効果が高い。すなわち、BNが保護剤中に混合されている場合、感光体表面の線速が速い装置においては、ブレードの姿勢の変化や、ブレードの微細な振動が起こりやすく、BNを保護剤中に混合することにより、これらのブレードの異常を抑え、感光体表面に均一に保護剤を塗布することが容易になる。
BNをステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物に含有させる場合、アルミナも一緒に含有させてもよい。アルミナを含有させた場合、感光体上に過剰に供給されたBNおよびステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物を研磨してくれるため好ましい。含有させるアルミナとしてはステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物の重量に対して、2〜15%、好ましくは3〜10%、さらに好ましくは4〜8%である。含有させるアルミナが、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物の重量に対して、15%以上の場合、アルミナが感光体を傷つけやすくなる。含有させるアルミナが、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物の重量に対して、2%以下の場合、BNおよびステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物を研磨する効果が充分に発揮されないことがある。
アルミナの粒径としては、0.05〜0.5μm、より好ましくは、0.1〜0.4μm、更に好ましくは、0.2〜0.3μmである。アルミナの粒径が、0.05μm以下である場合は、BNおよびステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物を研磨する効果が充分に発揮されないことがある。アルミナの粒径が、0.5μm以上である場合は、アルミナ自体が感光体を傷つけやすくなることがある。
好ましい本発明は、前記画像形成装置において、前記保護剤は、保護剤粉末を圧縮して成形された保護剤バー又は保護剤ブロックであることを特徴とする。
本発明において、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物の感光体への供給方法は、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物の粉体として直接感光体へ供給しても良いが、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物をバー又はブロックの形状(保護剤バー又は保護剤ブロック)に成型し、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物の保護剤バー又はブロックにブラシ等を擦りつけ、ステアリン酸亜鉛を微粉化して感光体に供給する方が、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物の収納性、供給装置の簡略化、均一なステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物の供給を図ることができ好ましい。
ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物を含む保護剤バーを成型する際は、ステアリン酸亜鉛およびパルミチン酸亜鉛を融点以上に溶解し、成型型に溶融したステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物を投入し、冷却してステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物バーを作製する溶融成型法、あるいは、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛を圧縮してステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物のバーを成型する圧縮成型法が用いられるが、圧縮成型法で作製したステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物バーは、溶融成型により作製したものに比べて、ブラシを押し当てる力が弱くても、安定的にステアリン酸亜鉛を感光体に供給できるため、ブラシの劣化によるステアリン酸亜鉛の供給不足が生じることなく好ましい。また、BNやアルミナ等の粉体を混合させる場合、粉体の状態で、混合を十分に行なっておけば、その混合状態を維持したままステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物バーが作製できるため、圧縮成型法は好ましい。
本発明におけるステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛を主体とする保護剤ブロックは、圧縮成型あるいは溶融成型により作製される。圧縮成型は、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛を主体とする粉体を混合後、成型型に混合した粉体を投入し、圧縮することにより作製できる。このとき、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛は、それぞれの粉体を混合して用いても良いが、それぞれの粉体粒子は一定の大きさを持っているため、感光体上にステアリン酸亜鉛の多い箇所とパルミチン酸亜鉛が多い箇所が生じやすくなることがある。この為、一つの粒子の中でステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛が相溶している状態が好ましい。一つの粒子の中でステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛を相溶させる方法としては、それぞれの材料を溶融して混合した後、冷却し、粉砕してステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛が相溶した粉体を作成する方法や、ステアリン酸とパルミチン酸とを所定量に混合したものを原料として、金属石鹸の公知の製造法である乾式法、あるいは湿式法により、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛が相溶した粒子を作製する方法が用いられる。特にステアリン酸とパルミチン酸とを所定量に混合したものを原料とする作製方法は、ステアリン酸とパルミチン酸との混合割合が、ほぼそのままステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合割合となり、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛とは完全に相溶しているばかりでなく、再現性や生産性が非常に高く好ましい。
圧縮成型により保護剤ブロックを作製する際には、圧縮の度合いにより、保護剤ブロックの硬さが異なる。保護剤の真比重、成型型への投入量は、予め分かっているため、求める圧縮度合いの厚さになるよう、圧縮することで、再現性よく、保護剤ブロックを製造することができる。
保護剤ブロックの圧縮度合いは、保護剤ブロックの比重を、保護剤の真比重の好ましくは88〜98%、さらに好ましくは90〜95%とする。保護剤ブロックの圧縮度合いが保護剤の真比重の88%より低いと、保護剤ブロックの機械的強度が低いため、保護剤ブロックの取扱の際に、割れが生じ易く好ましくない。保護剤の真比重の98%より大きいと、プレス機の能力を高くする必要があるとともに、部分的に溶融した箇所が生じ、保護剤ブロックの硬さが、場所により大きく異なる場合があり好ましくない。
保護剤ブロックは、保護剤の真比重の88〜98%である圧縮成型により作製することが好ましい。この保護剤ブロックは、溶融成型により作製した保護剤ブロックよりもブラシを押し付ける力が弱くても保護剤を微粉化することができるため、経時に使用してもブラシが劣化せず、安定して保護剤を感光体に供給できる。
作製した保護剤ブロックは、金属、合金、プラスチック等の基材に接着剤等で貼り付けて用いることができる。
本発明における保護剤ブロック中のステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の比率は、用いる材料が確実に分かっていれば、材料の投入量で計算しても良いが、材料には必ず不純物を含有しているため、製造された保護剤ブロック中のステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の比率を製造ロット毎に測定することが好ましい。保護剤ブロック中のステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の比率は、保護剤ブロックを塩酸−メタノール溶液に溶解し、80℃で加熱することで、ステアリン酸、パルミチン酸をメチル化し、ガスクロマトグラフィーにより、ステアリン酸、パルミチン酸の比率を求め、その比率をステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の比率に換算して求めることができる。
好ましい本発明は、前記画像形成装置において、前記帯電手段は、接触帯電方式または近接帯電方式の帯電器であって、直流電圧に交流電圧を重畳したAC帯電を行うことを特徴とする。ステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛は、AC帯電による接触帯電方式または近接帯電方式の帯電に対しても十分な耐性があり、好適に保護剤の機能を発揮する。
本発明は、前記いずれかの画像形成装置に具備され、少なくとも前記像担持体と、前記保護剤供給装置とを備えたことを特徴とするプロセスカートリッジである。
本発明の保護剤供給装置は、ステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛を含み、像担持体の表面に付着して前記像担持体を保護する保護剤をバー状、又はブロック状に成形した保護剤バーと、前記保護剤バーを支持する保護剤バー支持部材と、前記保護剤バーを所定の押圧力で押圧する押圧力付与機構と、前記保護剤バーと接触しながら回転し、前記保護剤を前記像担持体の表面に付着させるブラシと、前記像担持体の主走査方向に延出し、前記像担持体の表面に付着した保護剤を押圧して、前記像担持体の表面に薄層化して密着させるブレードと、を備えたことを特徴とする。
本発明の保護剤供給装置は、上述したように、本発明の画像形成装置の保護剤供給装置として、感光体上に、適量の保護剤を均一に、薄層化して塗布することができる。
本発明の保護剤の付着量を測定する測定方法は、像担持体表面に付着した保護剤の付着量を測定する測定方法であって、保護剤の付着していない使用前の前記像担持体表面の赤外吸収スペクトル(以下、赤外吸収スペクトルをIRスペクトル、使用前の像担持体表面の赤外吸収スペクトルをスペクトルAという。)を測定し、前記保護剤のIRスペクトル(以下、スペクトルMという。)を測定し、使用後の前記像担持体表面のIRスペクトル(以下、スペクトルBという。)を測定するIRスペクトル測定工程と、スペクトルMには観察されず、スペクトルAにおいて観察される任意のピークを基準ピークzとして、スペクトルAにおける前記基準ピークzの吸光度が、スペクトルBにおける前記基準ピークzの吸光度と同じになるように、スペクトルAの吸光度スケールを調整してスペクトルA'とし、スペクトルBとスペクトルA'との差スペクトルをスペクトルCとする差スペクトル合成工程と、スペクトルMには観察されず、スペクトルBにおいて観察される任意のピーク(以下、ピークaという。)の面積Sa(吸光度に相当する。)に対する、スペクトルCにおける任意のピーク(以下、ピークbという。)の面積Sb(吸光度に相当する。)の割合(Sb/Sa)を算出して指標Xとする指標算出工程と、既知量の前記保護剤が付着した像担持体に対して、前記IRスペクトル測定工程と差スペクトル合成工程と指標算出工程とにより算出した前記指標Xの値から、前記像担持体表面に付着した保護剤の付着量と、前記指標Xの値との関係を表す検量線を作成する検量線作成工程と、前記検量線によって、前記指標算出工程において算出した前記使用後の像担持体の指標Xから、前記使用後の像担持体表面への保護剤の付着量を求める付着量算出工程とを含み、前記赤外吸収スペクトルは、ATR(Attenuated Total Reflection)−IR法赤外吸収分光分析計により測定し、前記ピークaと前記ピークbの波数の差は、100cm−1以下である。
好ましい本発明の像担持体表面における保護剤の付着量の測定方法は、前記保護剤の付着量の測定方法において、前記像担持体の表面は、ポリカーボネート結合を含む樹脂層からなり、前記保護剤は、ステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛を含み、前記ピークaには、1505±10cm−1を用い、前記ピークbには、1540±10cm−1を用いることを特徴とする。
すでに説明したように、ATR−IR法によるスペクトル測定においては、赤外光は試料界面で反射するのではなく、ある微小の深さだけ試料側に入り込んでから全反射している。この際、赤外光の入りこみ深さが、赤外光を試料に照射した際、赤外光の強度が試料表面における強度の1/eになる距離と定義され、赤外光の入りこみ深さは、入射角θやATRプリズムの屈折率や波長によって異なり、入射角θが大きくなるほど、またATRプリズムの屈折率が高くなるほど、測定波長が短くなるほど入り込む深さが小さく、より表面に近い情報がスペクトルに反映される。
本発明において、ATR−IR法に用いるATRプリズムとして、屈折率が大きく、より表面に近い情報を得ることができるGeを用いることが好ましい。また、サンプルへの赤外光入射角は、例えば45°を用いる。本発明の塗布装置の評価においては赤外光入射角が45°に設定することにより、より精度が高い指標を得ることができる。これらのATRプリズムと赤外光入射角の組み合わせにより、感光体上の保護剤の塗布量として好ましい状態を把握することができる。また、ATRプリズムによるサンプルの押圧力を一定にする治具を用いることが好ましい。
測定点の間隔は、感光体の主走査方向について1cm以内の間隔、例えば、0.2〜10mmの間隔、好ましくは1〜10mmの間隔、さらに好ましくは5〜10mmの間隔で保護剤付着量を測定すれば感光体で形成する画像のムラの発生は検出でき、測定や評価が容易である。また、この間隔の範囲内毎に保護剤付着量を制御すれば感光体で形成する画像にはムラが生じない。なお、全ての測定点を等間隔とする必要はない。
ATR−IR法によるサンプルの測定領域の広さは、0.2〜5mmφ(略円形領域)または0.2〜5mm角(略正方角形領域)以下、好ましくは0.5〜2mmφまたは0.5〜2mm角である。ATRの測定領域の広さが5mmφまたは5mm角以下で測定できれば、感光体の1cm毎の間隔での保護剤付着量は確実に測定できる。また、感光体のほぼ全領域をきめ細かく測定でき、位置による保護剤付着量のムラをきめ細かく把握することができる。
測定領域の広さが0.5mmφ未満または0.5mm角未満の場合、感光体上のステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物の付着量ムラを必要以上に厳密に微小領域のみを測定してしまい、かえって十分な性能評価をできないことがある。測定広さが狭すぎる場合は、隣接する測定点を増やして、隣接領域の測定値を平均化して評価を行なってもよいが、評価にかかる時間が増加してしまう。
本発明における、ATR−IR法を用いた感光体上のステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛の総量の測定は、検量線法により行うことが好ましい。検量線法による具体的な測定方法を説明する。まず、ステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛の塗布量を段階的に変化させた感光体サンプルを用意し、それぞれの感光体上のステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛の量をICP(高周波結合誘導プラズマ)発光分析等により求めておく。ICP発光分析においては、感光体上のZn量からステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の絶対量(総量)を求める。なお、ICP発光分析において、Zn量からステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の総量に換算する際は、予め求めておいたステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の比から容易に算出することができる。感光体上のステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛の付着量の測定は、ICP発光分析以外にも、XPS(X-ray photoelectron spectroscopy)分析やXRF(X−ray Flourescence spectroscopy)分析など、各種の測定法によることが出来る。
同じステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛の塗布量の感光体サンプルに対し、ATR−IR法によりIRスペクトルを測定し、感光体由来のピークを基準にして、ステアリン酸亜鉛に由来するピークとパルミチン酸亜鉛に由来するピークの重なっているピークから、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の総量の相対値(指標X)を求める。具体的には、感光体由来のピークの面積、又は吸光強度(高さ)に対する、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛に由来するピークの面積、又は吸光強度(高さ)の比(指標X)を求めればよい。
このように、塗布量の異なる感光体サンプルについて、ICP発光分析およびATR−IR法のそれぞれの方法で、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の絶対量および相対量(指標X)をグラフにプロットして検量線を作成する。作成した検量線を用いて、保護剤付着量が未知の感光体のATR−IR法によるIRスペクトルを測定し、指標Xを算出して、検量線によりステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の絶対量求めればよい。
この検量線は、感光体の組成等が変わるごとに作成する必要がある。本発明においては、感光体として、表面にカーボネート結合を有する樹脂層が存在することが好ましい。IRスペクトルにおけるカーボネート結合に由来するピークは、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛に由来するピークと分離測定が容易である。
図1〜4を参照にして、具体的な指標Xの算出方法を説明する。なお、この例では、感光体表面は、ポリカーボネート樹脂層が形成されており、保護剤としては、ステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛のみからなるものを使用しているので、ステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛由来のピークを保護剤由来のピークと略称することがある。
図1は、保護剤塗布前の感光体のATR−IR法によるスペクトルAである。図2は、保護剤のATR−IR法によるスペクトルMである。図3は、保護剤塗布後の感光体のATR−IR法によるスペクトルBである。図4は、保護剤塗布後の感光体のスペクトルBから、保護剤塗布前の感光体のスペクトルAを吸光強度調整して差し引いた差のスペクトルCである。
図1に示すスペクトルA及び図3に示すスペクトルBにおけるピークb及びピークzは、感光体のみに由来するピークである。この位置(波数)のピークは、図2に示す保護剤のスペクトルMには存在しない。図3に示すスペクトルBにおけるピークbは、保護剤のみに由来するピークであり、この位置(波数)のピークは、図1に示す保護剤のスペクトルAには存在しない。なお、スペクトルBにおけるピークaは、スペクトルMには存在せず、感光体のみに由来するピークである。
スペクトルAにおけるピークzの吸光強度(高さ)hAzとスペクトルBにおけるピークzの吸光強度(高さ)hBzとの比(hAz/hBz)を算出して、スペクトルAにこの比(hAz/hBz)を掛け合わせてスペクトルA'を作成する。次に、スペクトルBからスペクトルA'を差し引いて、図4に示すスペクトルCを作成する。このスペクトルCは、スペクトルBから感光体に由来するピークをすべて除去し、保護剤に由来するピークのみとなっている。なお、スペクトルCが、スペクトルMと形状が異なるのは、不純物等によるものと考えられる。
スペクトルA、スペクトルM、スペクトルB、スペクトルCを観察して、感光体のみに由来するピークとしてピークa、保護剤のみに由来するピークとしてピークb、をそれぞれ任意に選択することができる。但し、ピークaとピークbの波数の差は、100cm−1以下とすることが好ましい。ピークaしては、例えば、スペクトルA(図1参照)に示した1770cm−1付近のピークzを選択することもできるが、ピークbとの波数の差が200cm−1以上あり好ましくない。ピークaとピークbの波数の差が100cm−1を超えると、感光体上に付着した保護剤の量とピークaとピークbの面積(又は吸光度)の対応関係がばらつきやすくなり、正確な保護剤付着量の測定ができなくなることがある。特に、ピークaとピークbの波数の差が100cm−1を超えると、ATR−IR測定の際のATRプリズムのサンプル表面への押圧力の変化に対するピークaとピークbの測定値の感受性が高くなり、測定結果のばらつきが大きくなりやすい。
感光体の表面層はカーボネート結合を含む樹脂で形成されており、保護剤はステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛を含んでいる。これらの化合物に対応するIRスペクトル中のピークa及びピークbとしては、1450〜1600cm−1中のピークから選択することが好ましく、それぞれ1505±10cm−1、1540±10cm−1中に存在するピークとすることがさらに好ましい。なお、ピークaは感光体に含まれるカーボネート結合由来のピークであり、ステアリン酸およびパルミチン酸に由来するピークと重ならず、保護剤塗付前の感光体において充分な強度のピークとして検出されるため、感光体上の保護剤を見積もる指標として好ましい。また、ピークbはステアリン酸およびパルミチン酸に由来するピークであり、カーボネート結合由来のピークと重ならず、充分な強度のピークとして検出されるため感光体上の保護剤を見積もる指標として好ましい。ピークaとピークbを上述のように選択すると、塗布量算出の際のピークaとピークbのピーク面積から算出される指標X(=Sa/Sb)の算出精度がよくなる。
ステアリン酸およびパルミチン酸に由来するピークbに感光体由来のピークが重なってしまうときは、そのままピークbのピーク面積を求めると、精度が悪くなってしまい、保護剤の付着量の指標としての役割を果たさなくなることがある。このため、上述のようにスペクトルCを作成して、スペクトルBとスペクトルCを観察してピークbを選択した。しかし、スペクトルA、スペクトルM、スペクトルBのみの観察から、感光体由来のピークが重ならないピークbが選択できる場合は、スペクトルCを作成してこれからピークbを選定する工程を省略することができる。
本発明によれば、感光体等の像担持体表面の保護剤の付着量をきめ細かく制御し、ムラのない高画質な画像を長期間に亘って保持できる画像形成装置、この画像形成装置に用いるプロセスカートリッジ、及び像担持体への保護剤の均一な塗布を行うことのできる保護剤塗布装置、並びに稼働途中の画像形成装置における像担持体表面の保護剤の付着量を容易にきめ細かく測定できる保護剤の測定方法を提供することができる。
以下に図面を参照して、本発明の具体的な実施形態を説明する。
[実施形態1]
図6は、本発明の実施形態1に係る保護剤塗布装置を備えた画像形成装置の概略の要部構成図である。まず、実施形態1に係る保護剤塗布装置について説明する。実施形態1に係る画像形成装置においては、保護剤塗布装置2は像担持体であるドラム状の感光体1に対向して配置されている。保護剤塗布装置2は、感光体1に保護剤を付着させる保護剤供給部材22と、感光体1に付着した保護剤を薄層化して感光体1に密着させる保護剤薄層化部材24を備えている。
保護剤供給部材22は、感光体1を保護する保護剤をバー状(円柱状、四角柱状、六角柱状等)、又はブロック状に形成した保護剤バー21と、この保護剤バー21が所定位置から自由に移動しないように支持する保護剤バー支持ガイド25と、保護剤を感光体1へ供給するブラシ22aを有している。ブラシ22aは、ブラシ支持体22bを中心に回転しながら先端が保護剤バー21及び感光体1と接触して、保護剤の一部を保護剤バー21から剥ぎ取って、感光体1に塗布する。この際、押圧力付与機構(例えばバネ、スプリング等)23により保護剤バー21を所定の押圧力でブラシ22aに押し当てることで、所望の量の保護剤をブラシ22aに移行させることができる。感光体1への保護剤の付着量は、押圧力付与機構23の押圧力、保護剤バー21の種類、及びブラシ22aの形状、材質、回転速度などにより制御される。
保護剤薄層化部材24は、感光体1の主走査方向の両端部まで到達するよう延出したブレード24aと、支持部材24cを介してブレード24aを感光体1に押圧する押圧部材24bを備えている。ブレード24aを所定の押圧力により感光体1に押し当てることにより、保護剤供給部材22により感光体1に塗布された保護剤を、感光体1上に均一に薄層化して密着させる。ブレード24aを感光体1の主走査方向の両端部まで延出することにより、保護剤を感光体1の主走査方向に均一に薄層化することができる。なお、通常、保護剤の供給量及びブレード24aの押圧力が一定であれば、感光体1の副走査方向(感光体1表面の回転方向)の保護剤層は容易に均一化される。
保護剤の薄層化の程度、及び密着の強度は、保護剤の種類、保護剤供給部材22による感光体1への塗布量などにより変化するが、ブレード24aの感光体1への押圧力によっても制御できる。押圧力が小さすぎると、保護剤の感光体1への密着力が弱く感光体1から剥離しやすいだけでなく、保護剤が十分に薄層化されず感光体上の保護剤付着量にムラが発生しやすい。押圧力が大きすぎると、保護剤が感光体1上で引き延ばされすぎ薄層が薄くなりすぎたり、付着できなくなってしまったりして、感光体上の保護剤付着量が不足したり、付着ムラが発生したりしやすい。また、感光体1やブレード24aの摩耗が起こることもある。
保護剤バー21は、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛を主体とした保護剤を溶融後、成型器に投入して、冷却する溶融成型法、あるいは、保護剤粉末を圧縮する圧縮成型法により、所定の形状に作製すればよい。
図6において、符号4は感光体1のクリーニング手段であるクリーニング装置であり、クリーニングブレード41、及びクリーニングブレード押圧機構42を備えている。クリーニングブレード41は、保護剤塗布装置2に対し感光体回転方向上流側に設置されており、保護剤塗布前に感光体表面の残トナー等の汚れをクリーニングし、次回の帯電工程、画像形成工程に備えるとともに、保護剤の塗布が良好に行なわれるようにするものである。なお、クリーニング装置4は、保護剤塗布装置2の構成部材と見做すこともできる。
本実施形態に係る保護剤バー21は、バネやスプリング等の押圧部材からなる押圧力付与機構23からの押圧力により、回転するブラシ22aに押し当てられ、ブラシ22aの先端に保護剤が付着する。ブラシ22aの先端は、感光体1と線速差をもって回転して感光体表面を摺擦しており、ブラシ22aの先端に付着した保護剤は感光体1の表面に塗布されることになる。
感光体1の表面に塗布された保護剤は、感光体1の表面に付着しているだけで、十分に均一層として密着した保護層にならない場合がある。このため、感光体表面に供給された保護剤は、バネやスプリング等の押圧部材24bにより感光体ドラム1の表面に押し当てられたブレード24aにより、感光体表面に均一に薄層化され保護層を形成する。ブレード24aは、図6に示すように、直角より少し大きい鈍角部分が、ブレード支持部材24cを介して、感光体ドラム1の表面の進行方向に対し、向かい合うように押圧されており、所謂、感光体表面に対してカウンター方式の接触をしている。これにより、感光体1の表面の保護剤を均一に薄層化する効果が向上する。
感光体1に保護剤を適量供給するとともに、保護層薄層化部材24により所定の押圧力により保護剤を薄層化し、感光体1に密着させることにより、保護剤が感光体上で均一な保護膜となって保持されやすくなる。これにより、クリーニングブレード41による残トナー等のクリーニングが順調に行われ、感光体1表面やクリーニングブレード41の摩耗が抑えられる。さらに、帯電手段(例えば帯電ローラ等)3における感光体の劣化による異常画像が起こらず、消耗品の交換頻度が少なく、長期に渡って高画質画像を出力可能な画像形成装置を実現することができる。
感光体上に付着している保護剤は、クリーニングブレードによるクリーニングや、感光体からのトナー像の転写工程において剥離したり、転写されたりして減少していく。この為、所定量の保護剤を感光体に供給し続ける必要がある。しかし、保護剤の付着していない使用前の感光体1は、例えば、定形のA4用紙1000枚分の画像形成をすることにより、感光体1表面に十分な保護剤が付着し、この時点で保護剤付着量はほぼ一定になる。この為、定形のA4用紙1000枚分の画像形成をした後の感光体表面の保護剤付着量を測定すれば、その後の感光体表面の保護剤付着量はこれとほぼ同じと考えることができる。
保護剤供給部材22においては、保護剤バー21の代わりに保護剤粉末を直接感光体表面に供給することもできる。この場合、保護剤粉末を保有する容器、保護剤粉末を搬送する保護剤搬送装置が必要となり、保護剤バー21、押圧力付与機構23、ブラシ22aなどは不要となる。なお、保護剤搬送装置としては、ポンプ、オーガー等、既存の粉体搬送手段を用いることができる。
保護層形成機構24に用いるブレード24a(ブレード状の部材)の材料は、特に制限されるものではなく、例えばクリーニングブレード用材料として一般に公知の、ウレタンゴム、ヒドリンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の弾性体を、単独またはブレンドして使用することができる。また、これらのゴムブレードは、感光体1との接点部部分を低摩擦係数材料でコーティングや含浸処理しても良い。また、弾性体の硬度を調整するために、他の有機フィラーや無機フィラーに代表される充填材を分散しても良い。
ブレード24aは、先端部が感光体表面に対しカウンター方式で押圧当接できるように、ブレード支持部材24cに接着や融着等の任意の方法によって支持される。ブレード24aの厚みについては、押圧で加える力との兼ね合いで一義的に定義できるものではないが、概ね0.5〜5mm程度であれば好ましく使用でき、1〜3mm程度であれば更に好ましく使用できる。ブレード24aの感光体表面に当接している先端部(エッジ部)は、鈍角になっていることが好ましい。図5に示したように、エッジ部が鈍角になっていることにより、押圧力が加わっても、エッジ部で応力が分散されやすく、エッジ部の変形が少なくなり、感光体1の回転に伴うブレード24aのびびりや振動が抑えられる。
また、支持体24cから突き出し、たわみを持たせることができるブレード24aの長さ、いわゆる自由長は、押圧したときの加える力との兼ね合い決めればよい。一般には、ブレード24aの自由長は、概ね1〜15mm程度であれば、均一な押圧による保護剤の薄層化ができ、2〜10mm程度であれば更に好ましく使用できる。
保護層形成用のブレード24aの他の構成としては、バネ板等の弾性金属ブレードの表面に、必要によりカップリング剤やプライマー成分等を介して、樹脂、ゴム、エラストマー等の層をコーティング、ディッピング等の方法で形成し、必要により熱硬化等を行い、更に必要であれば表面研摩等を施して用いても良い。
弾性金属ブレードの厚みは、0.05〜3mm程度であれば好ましく使用でき、0.1〜1mm程度であればより好ましく使用できる。また、弾性金属ブレードでは、ブレードのねじれを抑止するために、取り付け後に支軸と略平行となる方向に、曲げ加工等の処理を施しても良い。
弾性金属ブレードの表面層を形成する材料としては、PFA、PTFE、FEP、PVdF等のフッ素樹脂や、フッ素系ゴム、メチルフェニルシリコーンエラストマー等のシリコーン系エラストマー等を、必要により充填剤と共に、用いることができるが、これに限定されるものではない。
保護層形成機構24の押圧部材24bでブレード24aを感光体1に押圧する力は、感光体表面の保護剤が延展し、保護層や保護膜の状態になる力で十分であり、線圧として5gf/cm以上80gf/cm以下であることが好ましく、10gf/cm以上60gf/cm以下であることがより好ましい。ブレード24aの押圧力の調整により、感光体表面上の保護剤の付着量や、付着量の均一性や、保護剤の密着の強さ等が制御できる。
ブラシ22a(ブラシ状の部材)は、保護剤供給部材22に好ましく用いられるが、この場合、感光体表面への機械的ストレスを抑制するためには、ブラシ繊維は可撓性を持つことが好ましい。可撓性のブラシ繊維の具体的な材料としては、一般的に公知の材料から1種乃至2種以上を選択して使用することができる。具体的には、ポリオレフィン系樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン);ポリビニル及びポリビニリデン系樹脂(例えばポリスチレン、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニル、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルエーテル及びポリビニルケトン);塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体;スチレン−アクリル酸共重合体;スチレン−ブタジエン樹脂;フッ素樹脂(例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン);ポリエステル;ナイロン;アクリル;レーヨン;ポリウレタン;ポリカーボネート;フェノール樹脂;アミノ樹脂(例えば尿素−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ユリア樹脂、ポリアミド樹脂);などの内、可撓性を持つ樹脂を使用することができる。撓みの程度を調整するために、ジエン系ゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、エチレンプロピレンゴム、イソプレンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ヒドリンゴム、ノルボルネンゴム等を複合して用いても良い。
ブラシ22aの支持体22b(軸体)には、固定型と回動可能なロール状のものがある。ロール状の供給部材としては、例えばブラシ繊維をパイル地にしたテープを金属製の芯金にスパイラル状に巻き付けてロールブラシとしたものがある。ブラシ繊維は繊維径10〜500μm、より好ましくは、20〜300μmである。10μm以下では、保護剤の供給スピードが非常に遅くなるため好ましくなく、500μm以上では、ブラシ繊維が単位面積当たりに存在できる本数がより少なくなるため、ブラシが感光体に当たる場所と当たらない場所での塗布ムラが顕著になったり、ブラシが感光体に当たったときに感光体を傷つけやすくなったり、保護剤を掻き取る力が強くなるため、保護剤の寿命が短くなったり、感光体に供給される保護剤が大きな粒状になり、感光体に供給された粒が帯電ローラに移動して帯電ローラを汚染してしまったり、ブラシや感光体を回転させるためのトルクがより大きくなるため好ましくない。
ブラシの繊維の長さは1〜15mm、好ましくは3〜10mmである。ブラシの繊維の長さが1mm以下では、ブラシの芯金と感光体が非常に近い配置となるため芯金が像担持体と接触して、感光体に傷がつきやすくなるため好ましくなく、15mm以上では、ブラシ繊維先端で保護剤を掻きとる力やブラシ繊維先端が感光体に当たる力が弱くなり、保護剤を充分な量供給するのが困難になったり、ブラシの繊維が抜けやすくなるため好ましくない。
ブラシ密度は1平方インチ当たり1万〜30万本(1平方メートル当たり1.5×107〜4.5×108)である。ブラシ密度が1平方インチ当たり1万本以下においては、ブラシが感光体に当たる場所と当たらない場所での塗布ムラが顕著になったり、保護剤を充分な量供給することが困難になるため好ましくなく、また、ブラシ密度を1平方インチ当たり30万本以上にするためにはブラシ繊維の径を非常に小さくする必要があるため好ましくない。
保護剤供給部材22は、供給の均一性やその安定性の面から、極カブラシ密度の高い物を使用することが好ましく、1本の繊維を数本〜数百本の微細な繊維から作ることも好ましい。例えば、333デシテックス=6.7デシテックス×50フィラメント(300デニール=6デニール×50フィラメント)のように6.7デシテックス(6デニール)の微細な繊維を50本束ねて1本の繊維として植毛することも可能である。
これらの保護剤供給部材の中でも、28〜43μm、好ましくは30〜40μmの単繊維から作られたブラシが保護剤の供給の効率が高く、最も好ましい。繊維は、撚って作製されることが多いことから、繊維の径は均一でないため、デニール、デシテックスの単位が用いられてきた。しかし、単繊維の場合は、繊維径は一定であるため、繊維径で規定することの方が、保護剤供給部材を規定する上で好ましい。
単繊維の直径が28μmより小さいと、保護剤を供給する効率が低くなり、単繊維の直径が43μmを越えると、単繊維の剛性が高くなりすぎて、感光体を傷つけやすくなり好ましくない。また、28〜43μmの単繊維は、芯金に対してできるだけ垂直に植毛されていることが好ましく、ブラシを製造する際には、静電気を利用した、所謂、静電植毛により製造していることが好ましい。静電植毛は、ブラシの芯金上に接着剤を塗布し、芯金を帯電させることにより、静電電気力で28〜43μmの単繊維を飛翔させて、芯金上の接着剤に植毛し、接着剤を硬化させる方法である。このように静電植毛により、1平方インチ当たり5万〜60万本植毛したブラシが、好適に用いることができる。
ブラシ22aの表面には、必要に応じてブラシ22aの表面形状や環境安定性などを安定化することなどを目的として、被覆層を設けても良い。被覆層を構成する成分としては、ブラシ繊維の撓みに応じて変形することが可能な被覆層成分を用いることが好ましく、これらは、可撓性を保持し得る材料であれば、何ら限定される事無く使用できる。被覆層を構成する成分は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン、アクリル(例えばポリメチルメタクリレート)、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニル、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルエーテル、ポリビリケトン等のポリビニル及びポリビニリデン系樹脂;塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体;オルガノシロキサン結合からなるシリコーン樹脂またはその変成品(例えばアルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン等による変成品);パーフルオロアルキルエーテル,ポリフルオロビニル、ポリフルオロビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン等の弗素樹脂;ポリアミド;ポリエステル;ポリウレタン;ポリカーボネート;尿素−ホルムアルデヒド樹脂等のアミノ樹脂;エポキシ樹脂や、これらの複合樹脂等が挙げられる。
本実施形態に係る画像形成装置における保護剤塗布装置2以外の構成は、従来の電子写真式の画像形成装置と類似しているので、相違点のみを説明し、帯電手段、潜像形成手段、画像(トナー像)形成手段、転写手段、クリーニング手段等のその他の構成は省略する。本実施形態の画像形成装置における感光体1は、ポリカーボネート結合を有する樹脂により表面層が形成されている。これは、感光体1の表面に付着した保護剤の付着量の測定において、ATR−IR法を用い、ポリカーボネート結合由来のピークを基準とすることが有効であるためである。
また、本実施形態の画像形成装置においては、JIS規格のA4用紙1000枚分の印刷に相当する画像形成を行った後(1000枚の画像形成後と略して言うこともある。)に、感光体表面に付着している保護剤の付着量が所定の範囲内にある。すなわち、1000枚の画像形成後の感光体表面の主走査方向の1cm間隔毎におけるステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛の合計付着量が、それぞれ0.4〜6.0μg/cm2である。
[実施形態2]
本発明の実施形態2に係るプロセスカートリッジ及び画像形成装置について説明する。図7は、実施形態2に係るプロセスカートリッジ11の構成例の概略を説明するための断面図であり、本発明に係る保護剤塗布装置2を備えている。図7に示す画像形成部10は、像担持体であるドラム状の感光体1と、感光体1を帯電する帯電手段である帯電装置(図示の例では帯電ローラ)3と、帯電された感光体1にレーザー光L等を照射して静電潜像を形成する潜像形成手段(図示せず)と、感光体1上の静電潜像をトナーで現像して可視像化する現像手段である現像装置5と、感光体1上のトナー像を転写媒体(または中間転写媒体)7に転写する転写手段6と、転写後の感光体1の表面に残留するトナーを除去するクリーニング手段であるクリーニング装置4と、クリーニング装置4から帯電装置3に至る部分に配置された保護剤塗布装置2等を有している。そして、この画像形成部10では、感光体1とともに、保護剤塗布装置2、帯電装置3、現像装置5、クリーニング装置4をカートリッジ内に設けたプロセスカーリッジ11としている。なお、本実施形態においては、クリーニング装置4は、保護剤塗布前に感光体表面の残トナー等をクリーニングするとともに、保護剤の塗布が良好に行なわれるようにするものであるので、保護剤塗布装置2の構成部材と見做すこともできる。
図7において、帯電装置3、潜像形成手段(図示せず)、現像装置5は、画像形成手段を構成し、帯電装置3は、例えば図示しない高電圧電源により直流(DC)電圧に交流(AC)電圧を重畳させた電圧を印加したAC帯電方式の帯電ローラである。また、現像装置5は、トナー粒子、またはトナー粒子及びキャリア粒子の混合物からなる現像剤を担持搬送する現像剤担持体である現像ローラ51と、現像剤を攪拌しながら搬送する現像剤攪拌搬送部材52,53等で構成される。
感光体1に対向して配設された保護剤塗布装置2は、図6に示した実施形態1における保護剤塗布装置2と同様であり、保護剤バー21、保護剤供給部材22、押圧力付与機構23、保護剤薄層化部材24、保護剤バー21が左右前後に振れないように支持する保護剤バー支持ガイド25等から主に構成される。
また、感光体1は、転写工程後に部分的に劣化した保護剤やトナー成分等が残存した表面となっているが、クリーニング装置4のクリーニングブレード41により表面残存物が清掃され、クリーニングされる。図7では、ブレード状のクリーニングブレード41はクリーニングブレード押圧機構42で支持され、感光体回転方向に対し、いわゆるカウンタータイプ(リーディングタイプ)に類する角度で当接されている。また、保護剤薄層化部材24のブレード(ブレード状部材)24aもカウンタータイプに類する角度で当接させている。
クリーニング装置4により、表面の残留トナーや劣化した保護剤が取り除かれた感光体表面へは、保護剤バー21の保護剤が保護剤供給部材22により供給され、感光体表面に供給された保護剤は、保護剤薄層化部材24のブレード24aにより薄層化され、皮膜状の保護層が形成される。この際、感光体表面のうち電気的ストレスにより親水性が高くなっている部分に対して、本実施形態で使用する保護剤は、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の混合物であり、良好な吸着性を持つため、一時的に大きな電気的ストレスが掛かり、感光体表面が部分的に劣化をし始めても、保護剤の吸着により感光体自身(感光層)の劣化の進行を防ぐことができる。
保護層が形成された感光体1は、帯電ローラ3による帯電後、レーザー光Lなどの露光によって静電潜像が形成され、現像手段である現像装置5のトナーにより現像されて可視像化され、プロセスカートリッジ外の転写手段である転写装置(転写ローラ等)6により、転写紙等の転写媒体(または中間転写媒体)7へ転写される。
本実施形態のプロセスカートリッジ11に用いる帯電手段(帯電装置)3としては、装置が小型で、オゾン等の酸化性ガスの発生の少ない、帯電ローラが用いられる。帯電ローラ3は、感光体1と接触あるいは、20〜100μm近接した非接触状態で設置され、帯電ローラ3と感光体1の間に電圧を印加することにより、感光体1を帯電する。帯電ローラ3と感光体1の間に印加する電圧は、直流電圧に交流電圧を重畳したAC帯電を用いる。なお、AC帯電を行なう場合は、感光体1と帯電ローラ3の間で1秒間に数百回以上もの放電が起こることから、感光体は、放電による劣化を受けやすい。また、感光体1へ保護剤の塗布をした場合でも、保護剤は放電により劣化し、消失してしまいやすいことから、常時一定の量の保護剤を感光体1上に塗布しておくことは非常に重要である。
帯電ローラの構成としては、導電性支持体上に、高分子層と、表面層から構成されることが好ましい。導電性支持体は、帯電ローラ13の電極及び支持部材として機能するもので、例えば、アルミニウム、銅合金、ステンレス鋼等の金属または合金、クロム、ニッケル等で鍍金処理を施した鉄、導電剤を添加した樹脂、などの導電性の材質で構成される。
高分子層としては、106〜109Ωcmの抵抗を有する導電性層であることが好ましく、高分子材料に導電剤を混合して抵抗を調整したものが用いられる。本発明の画像形成装置に用いる帯電ローラの高分子層の高分子としては、ポリエステル系、オレフィン系の熱可塑性エラストマー、ポリスチレン、スチレンーブタジエン共重合体、スチレンーアクリロニトリル共重合体、スチレンーブタジエンーアクリロニトリル共重合体等のスチレン系熱可塑性樹脂、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、エピクロルヒドリン−エチレンオキシド共重合ゴム、エピクロルヒドリン−エチレンオキシド−アリルグリシジルエーテル共重合ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン3元共重合ゴム(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、天然ゴム等、及びこれらのブレンドしたゴム材料が挙げられる。ゴム材料は中でも、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、エピクロルヒドリン−エチレンオキシド共重合ゴム、エピクロルヒドリン−エチレンオキシド−アリルグリシジルエーテル共重合ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム及びこれらのブレンドゴムが好ましく用いられる。これらのゴム材は発泡したものであっても無発泡のものであってもよい。
導電剤としては、電子導電剤やイオン導電剤が用いられる。電子導電剤の例としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック;熱分解カーボン、グラファイト;アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼等の各種導電性金属または合金;酸化スズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化スズ−酸化アンチモン固溶体、酸化スズ−酸化インジウム固溶体等の各種導電性金属酸化物;絶縁物質の表面を導電化処理したもの;などの微粉末を挙げることができる。また、イオン導電剤の例としては、テトラエチルアンモニウム、ラウリルトリメチルアンモニウム等の過塩素酸塩、塩素酸塩等;リチウム、マグネシウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属の過塩素酸塩、塩素酸塩等;を挙げることができる。これらの導電剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その添加量は特に制限はないが、上記電子導電剤の場合は、高分子100質量部に対して、1〜30質量部の範囲であることが好ましく、15〜25質量部の範囲であることがより好ましい。一方、上記イオン導電剤の場合は、高分子100質量部に対して、0.1〜5.0質量部の範囲であることが好ましく、0.5〜3.0質量部の範囲であることがより好ましい。
前記表面層を構成する高分子材料としては、既述の如く、帯電ローラ13表面のダイナミック超微小硬度が0.04以上0.5以下であれば特に制限されないが、ポリアミド、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン、4フッ化エチレン共重合体、ポリエステル、ポリイミド、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、メラミン樹脂、フッ素ゴム、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、セルロース、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等を挙げることができる。これらの中では、トナーとの離型性等の観点から、ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン、4フッ化エチレン共重合体、ポリエステル、ポリイミドが好ましく用いられる。上記高分子材料は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、当該高分子材料の数平均分子量は、1,000〜100,000の範囲であることが好ましく、10,000〜50,000の範囲であることがより好ましい。
表面層は、上記高分子材料に前記導電性弾性層に用いた導電剤や各種微粒子を混合して組成物として形成される。上記微粒子としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム等の金属酸化物及び複合金属酸化物、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン等の高分子微粉体を単独または混合して用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
本実施形態のプロセスカートリッジに用いる現像手段は、現像剤を感光体に接触させ、感光体上に形成した潜像をトナー像に現像する。現像剤としては、トナーとキャリアから構成される二成分現像剤や、キャリアを含まない一成分現像剤を使用することができる。例えば、図7で示すように、現像装置5は、そのケーシングの開口から現像剤担持体としての現像ローラ51が部分的に露出している。
図示しないトナーボトルから現像装置5内に補給されたトナーは、攪拌搬送スクリュー52および53によってキャリアと撹拌されながら搬送され、現像ローラ51上に担持されることになる。この現像ローラ51は、磁界発生手段としてのマグネットローラと、その周りを同軸回転する現像スリーブとから構成されている。現像剤中のキャリアは、マグネットローラが発生させる磁力により現像ローラ51上に穂立ちした状態となって感光体ドラム1と対向する現像領域に搬送される。ここで、現像ローラ51は、現像領域において感光体ドラム1の表面よりも速い線速で同方向に表面移動する。そして、現像ローラ51上に穂立ちしたキャリアは、感光体ドラム1の表面を摺擦しながら、キャリア表面に付着したトナーを感光体ドラム1の表面に供給する。このとき、現像ローラ51には、図示しない電源から現像バイアスが印加され、これにより現像領域には現像電界が形成される。そして、感光体ドラム1上の静電潜像と現像ローラ51との間では、現像ローラ51上のトナーに静電潜像側に向かう静電力が働くことになる。これにより、現像ローラ51上のトナーは、感光体ドラム1上の静電潜像に付着することになる。この付着によって感光体ドラム1上の静電潜像はトナー像に現像される。
本実施形態に係るプロセスカートリッジにおける感光体1は、ポリカーボネート結合を有する樹脂により表面層が形成されている。これは、感光体1の表面に付着した保護剤の付着量の測定において、ATR−IR法を用い、ポリカーボネート結合由来のピークを基準とすることができるためである。
また、本実施形態のプロセスカートリッジにおいては、使用後1000枚の画像形成後に、感光体表面に付着している保護剤の付着量が所定の範囲内にある。すなわち、1000枚の画像形成後の感光体表面の主走査方向の1cm間隔毎におけるステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛の合計付着量が、それぞれ0.4〜6.0μg/cm2である。
本実施形態に係る画像形成装置は、上述の本実施形態のプロセスカートリッジを具備し手いる以外は、従来の電子写真式の画像形成装置と同様である。
[実施形態3]
本発明の実施形態3に係る画像形成装置について説明する。図8は、本発明にかかる保護剤塗布装置を具備する画像形成装置100の構成例を示す概略構成図である。この画像形成装置100は、画像形成を行う画像形成装置本体(プリンタ部)110と、この本体110の上部に設置された原稿読取部(スキャナ部)120と、その上に設置された原稿自動給紙装置(ADF)130と、画像形成装置本体110の下部に設置された給紙部200とを備えており、複写機の機能を有している。また、この画像形成装置100は、外部装置との通信機能を有しており、装置外部のパーソナルコンピュータ等と接続することにより、プリンタやスキャナとして用いることができる。また、電話回線や光回線と接続することにより、ファクシミリとして用いることができる。
画像形成装置本体110内には、同じ構成で現像装置5のトナー色が異なる画像形成部(画像形成ステーション)10が4つ並設されている。4つの画像形成部10は、それぞれトナー色の異なる画像(例えばイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の画像)を形成し、各色のトナー像を転写媒体または中間転写媒体に重ね合わせて転写して多色またはフルカラー画像を形成することができる。なお、図8の例では、4つの画像形成部10は、複数のローラに張架されたベルト状の中間転写媒体7に沿って並設されており、各画像形成部で形成された各色のトナー像は、一旦中間転写媒体7に順次重ね合わせて転写された後、二次転写装置12で紙等のシート状の転写媒体に一括して転写される。
各色の画像形成部10は図7に示した画像形成部10と同様の構成であり、ドラム状の感光体1(1Y,1M,1C,1K)の周囲に、保護剤塗布装置2、帯電装置3、潜像形成装置8からのレーザー光等の露光部、現像装置5、一次転写装置6、およびクリーニング装置4が配置されている。また、図7と同様に、各色の画像形成部10には、感光体1とともに、保護剤塗布装置2(クリーニング装置4を含む)、帯電装置3、現像装置5をカートリッジ内に設けたプロセスカーリッジ11を用いている。そして、このプロセスカートリッジは、画像形成装置本体110に対して着脱自在に設けられている。
図8に示す画像形成装置の動作を説明する。ここでは、画像形成のための一連のプロセスについて、ネガ−ポジプロセスで説明を行う。なお、各画像形成部の動作は同じであるので、ここでは一つの画像形成部の動作を説明する。
表面にポリカーボネート結合を有する樹脂を含む有機光導電層を有する有機感光体(OPC)等に代表される像担持体であるドラム状の感光体1は、除電ランプ(図示せず)等で除電され、帯電部材(例えば帯電ローラ)を有する帯電装置3で均一にマイナスに帯電される。帯電装置3による感光体1の帯電が行なわれる際には、電圧印加機構(図示せず)から帯電部材に、感光体1を所望の電位に帯電させるに適した、適当な大きさの電圧またはこれに交流電圧を重畳した帯電電圧が印加される。
帯電された感光体1は、例えば複数のレーザー光源と、カップリング光学系と、光偏向器と、走査結像光学系等からなる、レーザー走査方式の潜像形成装置8によって照射されるレーザー光で潜像形成(露光部電位の絶対値は、非露光部電位の絶対値より低電位となる)が行なわれる。すなわち、レーザー光源(例えば半導体レーザー)から発せられたレーザー光は、高速で回転する多角柱の多面鏡(ポリゴン)等からなる光偏向器により偏向走査され、走査レンズやミラー等からなる走査結像光学系を介して感光体1の表面を、感光体1の回転軸方向(主走査方向)に走査する。
このようにして形成された潜像が、現像装置5の現像剤担持体である現像ローラ51の現像スリーブ上に供給されたトナー粒子、またはトナー粒子及びキャリア粒子の混合物からなる現像剤により現像され、トナー可視像が形成される。潜像の現像時には、電圧印加機構(図示せず)から現像ローラ51の現像スリーブに、感光体1の露光部と非露光部の間にある、適当な大きさの電圧またはこれに交流電圧を重畳した現像バイアスが印加される。
上記のような動作で各色に対応した画像形成部10の感光体1上に形成されたトナー像は、転写ローラ等からなる一次転写装置6にて中間転写媒体7上に順次重ね合わせて一次転写される。一方、画像形成動作及び一次転写動作にタイミングを合わせて、給紙部200の多段の給紙カセット201a,201b,201c,201dの中の選択された給紙カセットから、給紙ローラ202及び分離ローラ203からなる給紙機構で紙等のシート状の転写媒体が給紙され、搬送ローラ204,205,206及びレジストローラ207を経て二次転写部に搬送される。そして、二次転写部において、中間転写媒体7上のトナー画像が二次転写装置(例えば二次転写ローラ)12にて、搬送されてきた転写媒体に二次転写される。なお、上記の転写工程において、一次転写装置6や二次転写装置12には、転写バイアスとして、トナーの帯電極性と逆極性の電位が印加されることが好ましい。
上記の二次転写後、転写媒体は、中間転写媒体7から分離され、転写像が得られる。また、一次転写後に感光体1上に残存するトナー粒子は、クリーニング装置4のクリーニング部材41によって、クリーニング装置4内のトナー回収室へ、回収される。また、二次転写後に中間転写媒体7上に残存するトナー粒子は、ベルトクリーニング装置9のクリーニング部材によって、クリーニング装置9内のトナー回収室へ、回収される。
図8に示した画像形成装置100は、上述の画像形成部10が中間転写媒体7に沿って複数配置された、いわゆるタンデム型で中間転写方式の画像形成装置であり、複数の画像形成部10によって各感光体1(1Y,1M,1C,1K)上に順次作成された色が異なる複数のトナー像を一旦中間転写媒体7上に順次転写した後、これを一括して紙のような転写媒体に転写する。そしてトナー像が転写された転写媒体を、搬送装置13により定着装置14へ送り、熱等によってトナーを定着する構成である。定着後の転写媒体は、搬送装置15及び排紙ローラ16により排紙トレイ17に排紙される。また、この画像形成装置100は両面プリント機能も備えており、両面プリント時には、定着装置9の下流の搬送路を切換え、片面の画像が定着された転写媒体を両面用搬送装置210を介して表裏反転し、搬送ローラ206及びレジストローラ207で二次転写部に再給紙して、裏面側に画像の転写を行う。転写後の転写媒体は、上記と同様に定着装置9に搬送されて画像が定着され、定着後の転写媒体は排紙トレイ17に排紙される。
なお、上記の構成で、中間転写媒体を用いずに、タンデム型の直接転写方式の画像形成装置とすることもでき、この直接転写方式の場合は、中間転写媒体に換えて、転写媒体を担持搬送する転写ベルト等を用い、各画像形成部10によって各感光体1(1Y,1M,1C,1K)上に順次作成された色が異なる複数のトナー像を直接、転写ベルトで搬送される紙のような転写媒体に順次転写した後、定着装置へ送り、熱等によってトナーを定着する構成としても良い。
本実施形態の画像形成装置における4つの感光体1は、それぞれポリカーボネート結合を有する樹脂により表面層が形成されている。これは、感光体1の表面に付着した保護剤の付着量の測定において、ATR−IR法を用い、ポリカーボネート結合由来のピークを基準とするためである。
また、本実施形態の画像形成装置においては、JIS規格のA4用紙1000枚分の印刷に相当する画像形成を行った後(1000枚の画像形成後と略して言うこともある。)に、それぞれの感光体表面に付着している保護剤の付着量が所定の範囲内にある。すなわち、1000枚の画像形成後の感光体表面の主走査方向の1cm間隔毎におけるステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛の合計付着量が、それぞれ0.4〜6.0μg/cm2である。感光体表面に付着している保護剤の付着量については、それぞれの画像形成部10配置されている保護剤塗布装置2の調整により制御することができる。
(感光体)
本発明に係るプロセスカートリッジや画像形成装置において好適に用いられる像担持体の代表である感光体の例について説明する。画像形成装置に用いる像担持体である感光体は、導電性支持体の上に感光層が設けられている。感光層の構成は電荷発生材と電荷輸送材を混在させた単層型、あるいは電荷発生層の上に電荷輸送層を設けた順層型、あるいは電荷輸送層の上に電荷発生層を設けた逆層型がある。また、感光体の機械的強度、耐磨耗性、耐ガス性、クリーニング性等の向上のため、感光層の上に保護層を設けることもできる。感光層と導電性支持体の間には下引き層が設けられていてもよい。また各層には必要により可塑剤、酸化防止剤、レベリング剤等を適量添加することもできる。
感光体の導電性支持体としては、体積抵抗1010Ω・cm以下の導電性を示すもの、例えば、アルミニウム、ニッケル、クロム、ニクロム、銅、金、銀、白金などの金属、酸化スズ、酸化インジウムなどの金属酸化物を、蒸着又はスパッタリングにより、フィルム状もしくは円筒状のプラスチック、紙に被覆したもの、あるいはアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ステンレスなどの板及びそれらを、押し出し、引き抜きなどの工法でドラム状に素管化後、切削、超仕上げ、研摩などの表面処理した管などを使用することができる。ドラム状の支持体としては、直径が20〜150mm、好ましくは、24〜100mm、さらに好ましくは28〜70mmのものを用いることができる。ドラム状の支持体の直径が20mm以下では、ドラム周辺に帯電、露光、現像、転写、クリーニングの各工程を配置することが物理的に難しく、ドラム状の支持体の直径が150mm以上では画像形成装置が大きくなってしまい好ましくない。特に、画像形成装置が図8に示すようなタンデム型の場合には、複数の感光体を搭載する必要があるため、直径は70mm以下、好ましくは60mm以下であることが好ましい。また、特許文献3に開示されたエンドレスニッケルベルト、エンドレスステンレスベルトも導電性支持体として用いることができる。
感光体の下引層としては樹脂、あるいは白色顔料と樹脂を主成分としたもの、及び導電性基体表面を化学的あるいは電気化学的に酸化させた酸化金属膜等が例示できるが、白色顔料と樹脂を主成分とするものが好ましい。白色顔料としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛等の金属酸化物が挙げられ、中でも導電性基体からの電荷の注入防止性が優れる酸化チタンを含有させることが最も好ましい。下引層に用いる樹脂としてはポリアミド、ポリビニルアルコール、カゼイン、メチルセルロース等の熱可塑性樹脂、アクリル、フェノール、メラミン、アルキッド、不飽和ポリエステル、エポキシ等の熱硬化性樹脂、これらの中の一種あるいは多種の混合物を例示することができる。
感光体の電荷発生物質としては、例えば、モノアゾ系顔料、ビスアゾ系顔料、トリスアゾ系顔料、テトラキスアゾ顔料等のアゾ顔料、トリアリールメタン系染料、チアジン系染料、オキサジン系染料、キサンテン系染料、シアニン系色素、スチリル系色素、ピリリウム系染料、キナクリドン系顔料、インジゴ系顔料、ペリレン系顔料、多環キノン系顔料、ビスベンズイミダゾール系顔料、インダスロン系顔料、スクアリリウム系顔料、フタロシアニン系顔料等の有機系顔料及び染料や、セレン、セレン−ヒ素、セレン−テルル、硫化カドミウム、酸化亜鉛、酸化チタン、アモルファスシリコン等の無機材料を使用することができ、電荷発生物質は一種あるいは多種混合して使用することができる。下引層は、一層であっても、複数の層で構成しても良い。
感光体の電荷輸送物質としては、例えば、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、カルバゾール誘導体、テトラゾール誘導体、メタロセン誘導体、フェノチアジン誘導体、ピラゾリン化合物、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、スチリルヒドラゾン化合物、エナミン化合物、ブタジエン化合物、ジスチリル化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、チアゾール化合物、イミダゾール化合物、トリフェニルアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アミノスチルベン誘導体、トリフェニルメタン誘導体等の一種あるいは多種を混合して使用することができる。
上記電荷発生層、電荷輸送層の感光層を形成するのに使用する結着樹脂としては、電気絶縁性であり、それ自体公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂及び光導電性樹脂等を使用することができ、適当な結着樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリエステル、フェノキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネ−ト、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、イソシアネート樹脂、アルキッド樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性アクリル樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルピレン等の光導電性樹脂など一種の結着樹脂あるいは多種と結着樹脂の混合物を挙げることができるが、特にこれらのものに限定されるものではない。ただし、電荷輸送層が最表面になる場合には、ポリカーボネートを含有した結着樹脂を用いる。
酸化防止剤としては、例えば以下のものが使用される。
・モノフェノール系化合物
2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3−t−ブチル−4−ヒドロキシニソールなど。
・ビスフェノール系化合物
2,2'−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2'−メチレン−ビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4'−チオビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4'−ブチリデンビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)など。
・高分子フェノール系化合物
1,1,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス−[メチレン−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3'−ビス(4'−ヒドロキシ−3'−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、トコフェノール類など。
・パラフェニレンジアミン類
N−フェニル−N'−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N'−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N,N'−ジ−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N'−ジメチル−N,N'−ジ−tーブチル−p−フェニレンジアミンなど。
・ハイドロキノン類
2,5−ジ−t−オクチルハイドロキノン、2,6−ジドデシルハイドロキノン、2−ドデシルハイドロキノン、2−ドデシル−5−クロロハイドロキノン、2−t−オクチル−5−メチルハイドロキノン、2−(2−オクタデセニル)−5−メチルハイドロキノンなど。
・有機硫黄化合物類
ジラウリル−3,3'−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3'−チオジプロピオネート、ジテトラデシル−3,3'−チオジプロピオネートなど。
・有機燐化合物類
トリフェニルホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、トリ(ジノニルフェニル)ホスフィン、トリクレジルホスフィン、トリ(2,4−ジブチルフェノキシ)ホスフィンなど。
可塑剤としては、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートなどの一般的な樹脂の可塑剤として使用されているものがそのまま使用でき、その使用量は結着樹脂100重量部に対して0〜30重量部程度が適当である。
電荷輸送層中にレベリング剤を添加してもかまわない。レベリング剤としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のシリコーンオイル類や、測鎖にパーフルオロアルキル基を有するポリマーあるいはオリゴマーが使用され、その使用量は、バインダー樹脂100重量部に対して、0〜1重量部が適当である。
表面層は前述のように、感光体の機械的強度、耐磨耗性、耐ガス性、クリーニング性等の向上のため設けられる。表面層としては、感光層よりも機械的強度の高い高分子、高分子に無機フィラーを分散させたものが例示できる。表面層は薄い膜厚であれば、電荷輸送能力を有していなくても支障はないが、電荷輸送能力を有しない表面層を厚く形成すると、感光体の感度低下、露光後電位上昇、残留電位上昇を引き起こしやすいため、表面層中に前述の電荷輸送物質を含有させたり、保護層に用いる高分子を電荷輸送能力を有するものを用いることが好ましい。感光層と表面層との機械的強度は一般に大きく異なるため、クリーニングブレードとの摩擦により保護層が磨耗し、消失すると、すぐに感光層は磨耗していってしまうため、表面層を設ける場合には、表面層は十分な膜厚とすることが重要であり、0.01〜12μm、好ましくは1〜10μm、さらに好ましくは2〜8μmとすることが好ましい。表面層の膜厚が0.1μm以下では、薄すぎてクリーニングブレードとの摩擦により部分的に消失しやすくなり、消失した部分から感光層の磨耗が進んでしまうため好ましくない。表面層の膜厚が12μm以上では、感度低下、露光後電位上昇、残留電位上昇が生じやすく、特に電荷輸送能力を有する高分子を用いる場合には、電荷輸送能力を有する高分子のコストが高くなってしまうため好ましくない。
表面層に用いる高分子としては、画像形成時の書き込み光に対して透明で、絶縁性、機械的強度、接着性に優れた物質が望ましく、感光体の最表面層には、ポリカーボネート結合を有する樹脂、例えば、各種のポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート共重合体樹脂等を用いる。感光体の表面に付着した保護剤の付着量の測定において、ATR−IR法を用い、ポリカーボネート結合由来のピークを基準とするためである。
表面層中には表面層の機械的強度を高めるために金属、又は金属酸化物の微粒子を分散させることができる。金属酸化物としてはアルミナ、酸化チタン、酸化錫、チタン酸カリウム、TiO2、TiN、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化アンチモン等が挙げられる。その他、耐摩耗性を向上する目的でポリテトラフルオロエチレンのような弗素樹脂、シリコーン樹脂、及びこれらの樹脂に無機材料を分散したもの等を添加することができる。
(中間転写媒体)
この実施形態に係る画像形成装置は、感光体上に形成されたトナー像を一次転写して色重ねを行い、更に転写媒体へ転写を行う、いわゆる中間転写方式による画像形成を行う際に使用する中間転写媒体を備えていてもよい。
中間転写媒体としては、体積抵抗105〜1011Ω・cmの導電性を示すものが好ましい。前記体積抵抗が105Ω・cmを下回る場合には、感光体から中間転写体上へトナー像の転写が行われる際に、放電を伴いトナー像が乱れるいわゆる転写チリが生じることがあり、1011Ω・cmを上回る場合には、中間転写体から紙などの記録媒体へトナー像を転写した後に、中間転写体上へトナー像の対抗電荷が残留し、次の画像上に残像として現れることがある。また、表面抵抗は108〜1013Ω/□を示すものが好ましい。表面抵抗が108Ω/□を下回る場合には、トナー像が乱れる、転写チリが生じる等の不具合が起こることがあり、1013Ω/□を上回る場合には、一次転写がしにくくなることがある。
中間転写媒体としては、例えば、酸化スズ、酸化インジウムなどの金属酸化物やカーボンブラック等の導電性粒子や導電性高分子を、単独または併用して熱可塑性樹脂と共に混練後、押し出し成型したベルト状もしくは円筒状のプラスチックなどを使用することができる。この他に、熱架橋反応性のモノマーやオリゴマーを含む樹脂液に、必要により上述の導電性粒子や導電性高分子を加え、加熱しつつ遠心成型を行い、無端ベルト上の中間転写媒体を得ることもできる。
中間転写媒体に表面層を設ける際には、上述の感光体表面層に使用した表面層材料の内、電荷輸送材料を除く組成物に、適宜、導電性物質を併用して抵抗調整を行い、使用することができる。
(トナー)
本発明に係るプロセスカートリッジや画像形成装置において好適に用いられるトナーについて説明する。本発明に係る画像形成装置に用いるトナーは、平均円形度が0.93〜1.00であることが好ましい。ここで、下式により得られた値を円形度と定義する。この円形度はトナー粒子の凹凸の度合いの指標であり、トナーが完全な球形の場合1.00を示し、表面形状が複雑になるほど円形度は小さな値となる。
(円形度SR)=(粒子投影面積と同じ面積の円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)。
トナーの平均円形度が0.93〜1.00の範囲では、トナー粒子の表面は滑らかであり、トナー粒子同士、トナー粒子と感光体との接触面積が小さいために転写性に優れる。また、トナー粒子に角がないため、現像装置内での現像剤の攪拌トルクが小さく、攪拌の駆動が安定するために異常画像が発生しない、ドットを形成するトナーの中に、角張ったトナー粒子がいないため、転写で転写媒体に圧接する際に、その圧がドットを形成するトナー全体に均一にかかり、転写中抜けが生じにくい、トナー粒子が角張っていないことから、トナー粒子そのものの研磨力が小さく、像担持体の表面を傷つけたり、磨耗させたりしない等の特徴も持つ。
円形度の測定方法について説明する。円形度は、東亜医用電子製フロー式粒子像分析装置FPIA−1000を用いて測定することができる。具体的な測定方法としては、容器中の予め不純固形物を除去した水100〜150ml中に分散剤として界面活性剤、好ましくはアルキルベンゼンスフォン酸塩を0.1〜0.5ml加え、更に測定試料を0.1〜0.5g程度加える。試料を分散した懸濁液は超音波分散器で約1〜3分間分散処理を行ない、分散液濃度を3000〜10000個/μlとして前記装置によりトナーの形状、粒度を測定する。
トナーは、上記の円形度に加えて、トナーの重量平均径D4が3〜10μmであることが好ましい。この範囲では、微小な潜像ドットに対して、十分に小さい粒径のトナー粒子を有していることから、ドット再現性に優れる。重量平均径D4が3μm未満では、転写効率の低下、ブレードクリーニング性の低下といった現象が発生しやすい。また、重量平均径D4が10μmを超えると、文字やラインの飛び散りを抑えることが難しい。
さらにトナーは、重量平均径D4と個数平均径D1の比(D4/D1)が1.00〜1.40であることが好ましい。(D4/D1)の値が1に近づくほど、そのトナーの粒度分布がシャープであることを意味する。よって、(D4/D1)が1.00〜1.40の範囲では、トナー粒径による選択現像が起きないため、画質の安定性に優れる。トナーの粒度分布がシャープであることから、摩擦帯電量分布もシャープとなり、カブリの発生が抑えられる。また、トナー粒径が揃っていると、潜像ドットに対して、緻密に、かつ整然と並ぶように現像されるので、ドット再現性に優れる。
トナー粒子の粒度分布の測定方法について説明する。コールターカウンター法によるトナー粒子の粒度分布の測定装置としては、コールターカウンターTA−IIやコールターマルチサイザーII(いずれもコールター社製)が挙げられる。以下に測定方法について述べる。
まず、電解水溶液100〜150ml中に分散剤として界面活性剤(好ましくはアルキルベンゼンスルホン酸塩)を0.1〜5ml加える。ここで、電解液とは1級塩化ナトリウムを用いて約1%NaCl水溶液を調製したもので、例えばISOTON−II(コールター社製)が使用できる。ここで、更に測定試料を2〜20mg加える。試料を懸濁した電解液は、超音波分散器で約1〜3分間分散処理を行ない、前記測定装置により、アパーチャーとして100μmアパーチャーを用いて、トナー粒子又はトナーの体積、個数を測定して、体積分布と個数分布を算出する。得られた分布から、トナーの重量平均径D4、個数平均径D1を求めることができる。
チャンネルとしては、2.00〜2.52μm未満;2.52〜3.17μm未満;3.17〜4.00μm未満;4.00〜5.04μm未満;5.04〜6.35μm未満;6.35〜8.00μm未満;8.00〜10.08μm未満;10.08〜12.70μm未満;12.70〜16.00μm未満;16.00〜20.20μm未満;20.20〜25.40μm未満;25.40〜32.00μm未満;32.00〜40.30μm未満の13チャンネルを使用し、粒径2.00μm以上乃至40.30μm未満の粒子を対象とする。
このような略球形の形状のトナーとしては、窒素原子を含む官能基を有するポリエステルプレポリマー、ポリエステル、着色剤、離型剤を含むトナー組成物を水系媒体中で樹脂微粒子の存在下で架橋及び/又は伸長反応させるトナーが好ましい。この反応で製造されたトナーは、トナー表面を硬化させることで、ホットオフセットの少なくすることができ、定着装置の汚れとなって、それが画像上に表れるのを抑えることができる。
トナー作製に使用できる変性ポリエステル系樹脂から成るプレポリマーとしては、イソシアネート基を有するポリエステルプレポリマー(A)が挙げられ、また、該プレポリマーと伸長または架橋する化合物としては、アミン類(B)が挙げられる。
イソシアネート基を有するポリエステルプレポリマー(A)としては、ポリオール(1)とポリカルボン酸(2)の重縮合物でかつ活性水素基を有するポリエステルをさらにポリイソシアネート(3)と反応させた物などが挙げられる。上記ポリエステルの有する活性水素基としては、水酸基(アルコール性水酸基およびフェノール性水酸基)、アミノ基、カルボキシル基、メルカプト基などが挙げられ、これらのうち好ましいものはアルコール性水酸基である。
ポリオール(1)としては、ジオール(1−1)および3価以上のポリオール(1−2)が挙げられ、(1−1)単独、または(1−1)と少量の(1−2)の混合物が好ましい。ジオール(1−1)としては、アルキレングリコール(エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなど);アルキレンエーテルグリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなど);脂環式ジオール(1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールAなど);ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSなど);上記脂環式ジオールのアルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなど)付加物;上記ビスフェノール類のアルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなど)付加物などが挙げられる。これらのうち好ましいものは、炭素数2〜12のアルキレングリコールおよびビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物であり、特に好ましいものはビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物、およびこれと炭素数2〜12のアルキレングリコールとの併用である。3価以上のポリオール(1−2)としては、3〜8価またはそれ以上の多価脂肪族アルコール(グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールなど);3価以上のフェノール類(トリスフェノールPA、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなど);上記3価以上のポリフェノール類のアルキレンオキサイド付加物などが挙げられる。
ポリカルボン酸(2)としては、ジカルボン酸(2−1)および3価以上のポリカルボン酸(2−2)が挙げられ、ジカルボン酸(2−1)単独、およびジカルボン酸(2−1)と少量の3価以上のポリカルボン酸(2−2)の混合物が好ましい。
ジカルボン酸(2−1)としては、アルキレンジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、セバシン酸など);アルケニレンジカルボン酸(マレイン酸、フマール酸など);芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸など)などが挙げられる。これらのうち好ましいものは、炭素数4〜20のアルケニレンジカルボン酸および炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸である。
3価以上のポリカルボン酸(2−2)としては、炭素数9〜20の芳香族ポリカルボン酸(トリメリット酸、ピロメリット酸など)などが挙げられる。なお、ポリカルボン酸(2)としては、上述のものの酸無水物または低級アルキルエステル(メチルエステル、エチルエステル、イソプロピルエステルなど)を用いてポリオール(1)と反応させてもよい。
ポリオール(1)とポリカルボン酸(2)の比率は、水酸基[OH]とカルボキシル基[COOH]の当量比[OH]/[COOH]として、通常2/1〜1/1、好ましくは1.5/1〜1/1、さらに好ましくは1.3/1〜1.02/1である。
ポリイソシアネート(3)としては、脂肪族ポリイソシアネート(テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエートなど);脂環式ポリイソシアネート(イソホロンジイソシアネート、シクロヘキシルメタンジイソシアネートなど);芳香族ジイソシアネート(トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなど);芳香脂肪族ジイソシアネート(α,α,α',α'−テトラメチルキシリレンジイソシアネートなど);イソシアヌレート類;前記ポリイソシアネートをフェノール誘導体、オキシム、カプロラクタムなどでブロックしたもの;およびこれら2種以上の併用が挙げられる。
ポリイソシアネート(3)の比率は、イソシアネート基[NCO]と、水酸基を有するポリエステルの水酸基[OH]の当量比[NCO]/[OH]として、通常5/1〜1/1、好ましくは4/1〜1.2/1、さらに好ましくは2.5/1〜1.5/1である。[NCO]/[OH]が5を超えると低温定着性が悪化する。[NCO]のモル比が1未満では、変性ポリエステル中のウレア含量が低くなり、耐ホットオフセット性が悪化する。末端にイソシアネート基を有するプレポリマー(A)中のポリイソシアネート(3)構成成分の含有量は、通常0.5〜40重量%、好ましくは1〜30重量%、さらに好ましくは2〜20重量%である。0.5重量%未満では、耐ホットオフセット性が悪化するとともに、耐熱保存性と低温定着性の両立の面で不利になる。また、40重量%を超えると低温定着性が悪化する。
イソシアネート基を有するプレポリマー(A)中の1分子当たりに含有するイソシアネート基は、通常1個以上、好ましくは、平均1.5〜3個、さらに好ましくは、平均1.8〜2.5個である。1分子当たり1個未満では、ウレア変性ポリエステルの分子量が低くなり、耐ホットオフセット性が悪化する。
アミン類(B)としては、ジアミン(B1)、3価以上のポリアミン(B2)、アミノアルコール(B3)、アミノメルカプタン(B4)、アミノ酸(B5)、およびB1〜B5のアミノ基をブロックしたもの(B6)などが挙げられる。ジアミン(B1)としては、芳香族ジアミン(フェニレンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、4,4'ジアミノジフェニルメタンなど);脂環式ジアミン(4,4'−ジアミノ−3,3'ジメチルジシクロヘキシルメタン、ジアミンシクロヘキサン、イソホロンジアミンなど);および脂肪族ジアミン(エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなど)などが挙げられる。3価以上のポリアミン(B2)としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどが挙げられる。アミノアルコール(B3)としては、エタノールアミン、ヒドロキシエチルアニリンなどが挙げられる。アミノメルカプタン(B4)としては、アミノエチルメルカプタン、アミノプロピルメルカプタンなどが挙げられる。アミノ酸(B5)としては、アミノプロピオン酸、アミノカプロン酸などが挙げられる。B1〜B5のアミノ基をブロックしたもの(B6)としては、前記B1〜B5のアミン類とケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)から得られるケチミン化合物、オキサゾリン化合物などが挙げられる。これらアミン類(B)のうち好ましいものは、B1およびB1と少量のB2の混合物である。
さらに、必要により伸長停止剤を用いてウレア変性ポリエステルの分子量を調整することができる。伸長停止剤としては、モノアミン(ジエチルアミン、ジブチルアミン、ブチルアミン、ラウリルアミンなど)、およびそれらをブロックしたもの(ケチミン化合物)などが挙げられる。
アミン類(B)の比率は、イソシアネート基を有するプレポリマー(A)中のイソシアネート基[NCO]と、アミン類(B)中のアミノ基[NHx]の当量比[NCO]/[NHx]として、通常1/2〜2/1、好ましくは1.5/1〜1/1.5、さらに好ましくは1.2/1〜1/1.2である。[NCO]/[NHx]が2を超えたり1/2未満では、ウレア変性ポリエステル(i)の分子量が低くなり、耐ホットオフセット性が悪化する。ウレア結合で変性されたポリエステル(i)中に、ウレア結合と共にウレタン結合を含有していてもよい。ウレア結合含有量とウレタン結合含有量のモル比は、通常100/0〜10/90であり、好ましくは80/20〜20/80、さらに好ましくは、60/40〜30/70である。ウレア結合のモル比が10%未満では、耐ホットオフセット性が悪化する。
これらの反応により、トナーに用いられる変性ポリエステル、中でもウレア変性ポリエステル(i)が作成できる。これらウレア変性ポリエステル(i)は、ワンショット法、プレポリマー法により製造される。ウレア変性ポリエステル(i)の重量平均分子量は、通常1万以上、好ましくは2万〜1000万、さらに好ましくは3万〜100万である。1万未満では耐ホットオフセット性が悪化する。ウレア変性ポリエステルの数平均分子量は、後述の変性されていないポリエステル(ii)を用いる場合は特に限定されるものではなく、前記重量平均分子量とするのに得やすい数平均分子量でよい。(i)単独の場合は、数平均分子量は、通常20000以下、好ましくは1000〜10000、さらに好ましくは2000〜8000である。20000を超えると低温定着性およびフルカラー装置に用いた場合の光沢性が悪化する。
前記ウレア結合で変性されたポリエステル(i)単独使用だけでなく、この(i)と共に、変性されていないポリエステル(ii)を結着樹脂成分として含有させることもできる。(ii)を併用することで、低温定着性およびフルカラー装置に用いた場合の光沢性が向上し、単独使用より好ましい。(ii)としては、前記(i)のポリエステル成分と同様なポリオール(1)とポリカルボン酸(2)との重縮合物などが挙げられ、好ましいものも(i)と同様である。また、(ii)は無変性のポリエステルだけでなく、ウレア結合以外の化学結合で変性されているものでもよく、例えばウレタン結合で変性されていてもよい。(i)と(ii)は少なくとも一部が相溶していることが低温定着性、耐ホットオフセット性の面で好ましい。従って、(i)のポリエステル成分と(ii)は類似の組成が好ましい。(ii)を含有させる場合の(i)と(ii)の重量比は、通常5/95〜80/20、好ましくは5/95〜30/70、さらに好ましくは5/95〜25/75、特に好ましくは7/93〜20/80である。(i)の重量比が5%未満では、耐ホットオフセット性が悪化するとともに、耐熱保存性と低温定着性の両立の面で不利になる。
(ii)のピーク分子量は、通常1000〜30000、好ましくは1500〜10000、さらに好ましくは2000〜8000である。1000未満では耐熱保存性が悪化し、10000を超えると低温定着性が悪化する。(ii)の水酸基価は5以上であることが好ましく、さらに好ましくは10〜120、特に好ましくは20〜80である。5未満では耐熱保存性と低温定着性の両立の面で不利になる。(ii)の酸価は通常1〜30、好ましくは5〜20である。酸価を持たせることで負帯電性となりやすい傾向がある。
結着樹脂のガラス転移点(Tg)は通常50〜70℃、好ましくは55〜65℃である。50℃未満ではトナーの高温保管時のブロッキングが悪化し、70℃を超えると低温定着性が不十分となる。ウレア変性ポリエステル樹脂の共存により、乾式トナーにおいては、公知のポリエステル系トナーと比較して、ガラス転移点が低くても耐熱保存性が良好な傾向を示す。結着樹脂の貯蔵弾性率としては、測定周波数20Hzにおいて10000dyne/cm2となる温度(TG')が、通常100℃以上、好ましくは110〜200℃である。100℃未満では耐ホットオフセット性が悪化する。結着樹脂の粘性としては、測定周波数20Hzにおいて1000ポイズとなる温度(Tη)が、通常180℃以下、好ましくは90〜160℃である。180℃を超えると低温定着性が悪化する。すなわち、低温定着性と耐ホットオフセット性の両立の観点から、TG'はTηより高いことが好ましい。言い換えるとTG'とTηの差(TG'−Tη)は0℃以上が好ましい。さらに好ましくは10℃以上であり、特に好ましくは20℃以上である。差の上限は特に限定されない。また、耐熱保存性と低温定着性の両立の観点から、TηとTgの差は0〜100℃が好ましい。さらに好ましくは10〜90℃であり、特に好ましくは20〜80℃である。
結着樹脂は以下の方法などで製造することができる。ポリオール(1)とポリカルボン酸(2)を、テトラブトキシチタネート、ジブチルチンオキサイドなど公知のエステル化触媒の存在下、150〜280℃に加熱し、必要により減圧としながら生成する水を溜去して、水酸基を有するポリエステルを得る。次いで40〜140℃にて、これにポリイソシアネート(3)を反応させ、イソシアネート基を有するプレポリマー(A)を得る。さらに(A)にアミン類(B)を0〜140℃にて反応させ、ウレア結合で変性されたポリエステルを得る。(3)を反応させる際および(A)と(B)を反応させる際には、必要により溶剤を用いることもできる。使用可能な溶剤としては、芳香族溶剤(トルエン、キシレンなど);ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど);エステル類(酢酸エチルなど);アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)およびエーテル類(テトラヒドロフランなど)などのイソシアネート(3)に対して不活性なものが挙げられる。ウレア結合で変性されていないポリエステル(ii)を併用する場合は、水酸基を有するポリエステルと同様な方法で(ii)を製造し、これを前記(i)の反応完了後の溶液に溶解し、混合する。
トナーは、概ね以下の方法で製造することができるが勿論これらに限定されることはない。トナーの製造に用いる水系媒体としては、水単独でもよいが、水と混和可能な溶剤を併用することもできる。混和可能な溶剤としては、アルコール(メタノール、イソプロパノール、エチレングリコールなど)、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、セルソルブ類(メチルセルソルブなど)、低級ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなど)などが挙げられる。
トナー粒子は、水系媒体中でイソシアネート基を有するプレポリマー(A)からなる分散体を、(B)と反応させて形成しても良いし、あらかじめ製造したウレア変性ポリエステル(i)を用いても良い。水系媒体中でウレア変性ポリエステル(i)やプレポリマー(A)からなる分散体を安定して形成させる方法としては、水系媒体中にウレア変性ポリエステル(i)やプレポリマー(A)からなるトナー原料の組成物を加えて、せん断力により分散させる方法などが挙げられる。プレポリマー(A)と他のトナー組成物である(以下トナー原料と呼ぶ)着色剤、着色剤マスターバッチ、離型剤、荷電制御剤、未変性ポリエステル樹脂などは、水系媒体中で分散体を形成させる際に混合してもよいが、あらかじめトナー原料を混合した後、水系媒体中にその混合物を加えて分散させたほうがより好ましい。また、着色剤、離型剤、荷電制御剤などの他のトナー原料は、必ずしも、水系媒体中で粒子を形成させる時に混合しておく必要はなく、粒子を形成せしめた後、添加してもよい。たとえば、着色剤を含まない粒子を形成させた後、公知の染着の方法で着色剤を添加することもできる。
分散の方式としては、特に限定されるものではないが、低速せん断式、高速せん断式、摩擦式、高圧ジェット式、超音波などの公知の設備が適用できる。分散体の粒径を2〜20μmにするために高速せん断式が好ましい。高速せん断式分散機を使用した場合、回転数は特に限定はないが、通常1000〜30000rpm、好ましくは5000〜20000rpmである。分散時間は特に限定はないが、バッチ方式の場合は、通常0.1〜5分である。分散時の温度としては、通常、0〜150℃(加圧下)、好ましくは40〜98℃である。高温な方が、ウレア変性ポリエステル(i)やプレポリマー(A)からなる分散体の粘度が低く、分散が容易な点で好ましい。
ウレア変性ポリエステル(i)やプレポリマー(A)を含むトナー組成物100部に対する水系媒体の使用量は、通常50〜2000重量部、好ましくは100〜1000重量部である。50重量部未満ではトナー組成物の分散状態が悪く、所定の粒径のトナー粒子が得られない。20000重量部を超えると経済的でない。また、必要に応じて、分散剤を用いることもできる。分散剤を用いたほうが、粒度分布がシャープになるとともに分散が安定である点で好ましい。
プレポリマー(A)からウレア変性ポリエステル(i)を合成する工程は、水系媒体中でトナー組成物を分散する前にアミン類(B)を加えて反応させても良いし、水系媒体中に分散した後にアミン類(B)を加えて粒子界面から反応を起こしても良い。この場合製造されるトナー表面に優先的にウレア変性ポリエステルが生成し、粒子内部で濃度勾配を設けることもできる。
トナー組成物が分散された油性相を水が含まれる液体に乳化、分散するための分散剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、リン酸エステルなどの陰イオン界面活性荊、アルキルアミン塩、アミノアルコール脂肪酸誘導体、ポリアミン脂肪酸誘導体、イミダゾリンなどのアミン塩型や、アルキルトリメチルアンモニム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、ピリジニウム塩、アルキルイソキノリニウム塩、塩化ベンゼトニウムなどの四級アンモニウム塩型の陽イオン界面活性剤、脂肪酸アミド誘導体、多価アルコール誘導体などの非イオン界面活性剤、例えばアラニン、ドデシルジ(アミノエチル)グリシン、ジ(オクチルアミノエチル)グリシンやN−アルキル−N,N−ジメチルアンモニウムべタインなどの両性界面活性剤が挙げられる。
フルオロアルキル基を有する界面活性剤を用いることにより、非常に少量でその効果をあげることができる。好ましく用いられるフルオロアルキル基を有するアニオン性界面活性剤としては、炭素数2〜10のフルオロアルキルカルボン酸及ぴその金属塩、パーフルオロオクタンスルホニルグルタミン酸ジナトリウム、3−[オメガーフルオロアルキル(C6〜C11)オキシ]−1−アルキル(C3〜C4)スルホン酸ナトリウム、3−[オメガーフルオロアルカノイル(C6〜C8)−N−エチルアミノ]−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、フルオロアルキル(C11〜C20)カルボン酸及ぴ金属塩、パーフルオロアルキルカルボン酸(C7〜C13)及びその金属塩、パーフルオロアルキル(C4〜C12)スルホン酸及ぴその金属塩、パーフルオロオクタンスルホン酸ジエタノールアミド、N−プロピル−N−(2ヒドロキシエチル)パーフルオロオクタンスルホンアミド、パーフルオロアルキル(C6〜C10)スルホンアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩、パーフルオロアルキル(C6〜C10)−N−エチルスルホニルグリシン塩、モノパーフルオロアルキル(C6〜C16)エチルリン酸エステルなどが挙げられる。
商品名としては、サーフロンS−111、S−112、S−113(旭硝子社製)、フロラードFC−93、FC−95、FC−98、FC−l29(住友3M社製)、ユニダインDS−101、DS−l02、(ダイキン工業杜製)、メガファックF−ll0、F−l20、F−113、F−191、F−812、F−833(大日本インキ社製)、エクトップEF−102、l03、104、105、112、123A、123B、306A、501、201、204、(トーケムプロダクツ社製)、フタージェントF−100、F−150(ネオス社製)などが挙げられる。
カチオン界面活性剤としては、フルオロアルキル基を右する脂肪族一級、二級もしくは二級アミン酸、パーフルオロアルキル(C6−C10)スルホンアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩などの脂肪族4級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩、商品名としてはサーフロンS−121(旭硝子社製)、フロラードFC−135(住友3M社製)、ユニダインDS−202(ダイキン工業杜製)、メガファックF−150、F−824(大日本インキ社製)、エクトップEF−l32(トーケムプロダクツ社製)、フタージェントF−300(ネオス社製)などが挙げられる。
水に難溶の無機化合物分散剤としては、リン酸三カルシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、コロイダルシリカ、ヒドロキシアパタイトなども用いることができる。また、高分子系保護コロイドにより分散液滴を安定化させても良い。例えばアクリル酸、メタクリル酸、α−シアノアクリル酸、α−シアノメタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、フマール酸、マレイン酸または無水マレイン酸などの酸類、あるいは水酸基を含有する(メタ)アクリル系単量体、例えばアクリル酸β−ヒドロキシエチル、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸β−ヒドロキシプロビル、メタクリル酸β−ヒドロキシプロピル、アクリル酸γ−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸γ−ヒドロキシプロピル、アクリル酸3−クロロ2−ヒドロキシプロビル、メタクリル酸3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル、ジエチレングリコールモノアクリル酸エステル、ジエチレングリコールモノメタクリル酸エステル、グリセリンモノアクリル酸エステル、グリセリンモノメタクリル酸エステル、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロ−ルメタクリルアミドなど、ビニルアルコールまたはビニルアルコールとのエ一テル類、例えばビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルプロピルエーテルなど、またはビニルアルコールとカルボキシル基を含有する化合物のエステル類、例えば酢酸ピニル、プロピオン酸ピニル、酪酸ビニルなど、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドあるいはこれらのメチロール化合物、アクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライドなどの酸クロライド類、ピニルビリジン、ビニルピロリドン、ビニルイミダゾール、エチレンイミンなどの窒素原子、またはその複素環を有するものなどのホモポリマーまたは共重合体、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシプロピレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリオキシプロピレンアルキルアミド、ポリオキシエチレンノニルフエニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルフェニルエステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエステルなどのポリオキシエチレン系、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース類などが使用できる。
なお、分散安定剤としてリン酸カルシウム塩などの酸、アルカリに溶解可能な物を用いた場合は、塩酸等の酸により、リン酸カルシウム塩を溶解した後、水洗するなどの方法によって、微粒子からリン酸カルシウム塩を除去する。その他酵素による分解などの操作によっても除去できる。分散剤を使用した場合には、該分散剤がトナー粒子表面に残存したままとすることもできるが、伸長および/または架橋反応後、洗浄除去するほうがトナーの帯電面から好ましい。
トナー組成物の粘度を低くするために、ウレア変性ポリエステル(i)やプレポリマー(A)が可溶の溶剤を使用することもできる。溶剤を用いたほうが粒度分布がシャープになる点で好ましい。該溶剤は揮発性であることが除去が容易である点から好ましい。該溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、四塩化炭素、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロエチリデン、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどを単独あるいは2種以上組合せて用いることができる。特に、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒および塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素が好ましく、中でもトルエン、キシレン等の芳香族系溶媒がより好ましい。プレポリマー(A)100部に対する溶剤の使用量は、通常0〜300部、好ましくは0〜100部、さらに好ましくは25〜70部である。溶剤を使用した場合は、伸長および/または架橋反応後、常圧または減圧下にて加温し除去する。
伸長および/または架橋反応時間は、プレポリマー(A)の有するイソシアネート基構造とアミン類(B)の組み合わせによる反応性により選択されるが、通常10分〜40時間、好ましくは2〜24時間である。反応温度は、通常、0〜150℃、好ましくは40〜98℃である。また、必要に応じて公知の触媒を使用することができる。具体的にはジブチルチンラウレート、ジオクチルチンラウレートなどが挙げられる。
得られた乳化分散体から有機溶媒を除去するためには、系全体を徐々に昇温し、液滴中の有機溶媒を完全に蒸発除去する方法を採用することができる。あるいはまた、乳化分散体を乾燥雰囲気中に噴霧して、液滴中の非水溶性有機溶媒を完全に除去してトナー微粒子を形成し、合せて水系分散剤を蒸発除去することも可能である。乳化分散体が噴霧される乾燥雰囲気としては、空気、窒素、炭酸ガス、燃焼ガス等を加熱した気体、特に使用される最高沸点溶媒の沸点以上の温度に加熱された各種気流が一般に用いられる。スプレイドライアー、ベルトドライアー、ロータリーキルンなどの短時間の処理で十分目的とする品質が得られる。
乳化分散時の粒度分布が広く、その粒度分布を保って洗浄、乾燥処理が行われた場合、所望の粒度分布に分級して粒度分布を整えることができる。分級操作は液中でサイクロン、デカンター、遠心分離等により、微粒子部分を取り除くことができる。もちろん乾燥後に粉体として取得した後に分級操作を行っても良いが、液体中で行うことが効率の面で好ましい。得られた不要の微粒子、または粗粒子は再び混練工程に戻して粒子の形成に用いることができる。その際微粒子、または粗粒子はウェットの状態でも構わない。また、用いた分散剤は得られた分散液からできるだけ取り除くことが好ましいが、先に述べた分級操作と同時に行うのが好ましい。
得られた乾燥後のトナーの粉体は、離型剤微粒子、帯電制御性微粒子、流動化剤微粒子、着色剤微粒子などの異種粒子とともに混合したり、混合粉体に機械的衝撃力を与えることによって、表面で固定化、融合化させ、得られる複合体粒子の表面からの異種粒子の脱離を防止することができる。具体的な手段としては、高速で回転する羽根によって混合物に衝撃力を加える方法、高速気流中に混合物を投入し、加速させ、粒子同士または複合化した粒子を適当な衝突板に衝突させる方法などがある。装置としては、オングミル(ホソカワミクロン社製)、I式ミル(日本ニューマチック社製)を改造して、粉砕エアー圧カを下げた装置、ハイブリダイゼイションシステム(奈良機械製作所社製)、クリプトロンシステム(川崎重工業社製)、自動乳鉢などがあげられる。
トナーに使用される着色剤としては、従来からトナー用着色剤として使用されてきた顔料及び染料が使用でき、具体的には、カーボンブラック、ランプブラック、鉄黒、群青、ニグロシン染料、アニリンブルー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ハンザイエローG、ローダミン6Cレーキ、カルコオイルブルー、クロムイエロー、キナクリドンレッド、ベンジジンイエロー、ローズベンガル等を単独あるいは混合して用いることができる。
さらに、必要により、トナー粒子自身に磁気特性を持たせるには、フェライト、マグネタイト、マグヘマイト等の酸化鉄類、鉄、コバルト、ニッケル等の金属あるいは、これらと他の金属との合金等の磁性成分を単独または混合して、トナー粒子へ含有させればよい。また、これらの成分は、着色剤成分として使用/併用することもできる。
トナー中の着色剤の個数平均径は0.5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.4μm以下、さらに好ましくは0.3μm以下とする。トナー中の着色剤の個数平均径が0.5μmより大きいときには、顔料の分散性が充分なレベルには到らず、好ましい透明性が得られないことがある。0.1μmより小さい微小粒径の着色剤は、可視光の半波長より十分小さいため、光の反射、吸収特性に悪影響を及ぼさないと考えられる。よって、0.1μm未満の着色剤の粒子は良好な色再現性と、定着画像を有するOHPシートの透明性に貢献する。一方、0.5μmより大きな粒径の着色剤が多く存在していると、入射光の透過が阻害されたり、散乱されたりして、OHPシートの投影画像の明るさ及び彩かさが低下する傾向がある。さらに、0.5μmより大きな粒径の着色剤が多く存在していると、トナー粒子表面から着色剤が脱離し、カブリ、ドラム汚染、クリーニング不良といった種々の問題を引き起こしやすいため、好ましくない。特に、0.7μmより大きな粒径の着色剤は、全着色剤の10個数%以下であることが好ましく、5個数%以下であることが、より好ましい。
着色剤を結着樹脂の一部もしくは全部と共に、予め湿潤液を加えた上で混練しておくことにより、初期的に結着樹脂と着色剤が十分に付着した状態となって、その後のトナー製造工程でのトナー粒子中における着色剤分散がより効果的に行なわれ、着色剤の分散粒径が小さくなり、一層良好な透明性を得ることができる。予めの混錬に用いる結着樹脂としては、トナー用結着樹脂として例示した樹脂類をそのまま使用することができるが、これらに限定されるものではない。
結着樹脂と着色剤の混合物を予め湿潤液と共に混練する具体的な方法としては、例えば、結着樹脂、着色剤及び湿潤液を、ヘンシェルミキサー等のブレンダーにて混合した後、得られた混合物を二本ロール、三本ロール等の混練機により、結着樹脂の溶融温度よりも低い温度で混練して、サンプルを得る。湿潤液としては、結着樹脂の溶解性や、着色剤との塗れ性を考慮しながら、一般的なものを使用できるが、特に、アセトン、トルエン、ブタノン等の有機溶剤や水が、着色剤の分散性の面から好ましい。中でも、水の使用は、環境への配慮及び、後のトナー製造工程における着色剤の分散安定性維持の点から、一層好ましい。この製法によると、得られるトナーに含有される着色剤粒子の粒径が小さくなるばかりでなく、該粒子の分散状態の均一性が高くなるため、OHPによる投影像の色の再現性がより一層良くなる。
トナー中に結着樹脂や着色剤とともに、ワックスに代表される離型剤を含有させることもできる。離型剤としては公知のものが使用でき、例えばポリオレフィンワッックス(ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなど);長鎖炭化水素(パラフィンワッックス、サゾールワックスなど);カルボニル基含有ワックスなどが挙げられる。
これらのうち好ましいものは、カルボニル基含有ワックスである。カルボニル基含有ワックスとしては、ポリアルカン酸エステル(カルナバワックス、モンタンワックス、トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、1,18-オクタデカンジオールジステアレートなど);ポリアルカノールエステル(トリメリット酸トリステアリル、ジステアリルマレエートなど);ポリアルカン酸アミド(エチレンジアミンジベヘニルアミドなど);ポリアルキルアミド(トリメリット酸トリステアリルアミドなど);およびジアルキルケトン(ジステアリルケトンなど)などが挙げられる。
これらカルボニル基含有ワックスのうち好ましいものは、ポリアルカン酸エステルである。これら離型剤の融点は、通常40〜160℃であり、好ましくは50〜120℃、さらに好ましくは60〜90℃である。融点が40℃未満のワックスは耐熱保存性に悪影響を与え、160℃を超えるワックスは低温での定着時にコールドオフセットを起こしやすい。また、ワックスの溶融粘度は、融点より20℃高い温度での測定値として、5〜1000cpsが好ましく、さらに好ましくは10〜100cpsである。1000cpsを超えるワックスは、耐ホットオフセット性、低温定着性への向上効果に乏しい。トナー中のワックスの含有量は通常0〜40重量%であり、好ましくは3〜30重量%である。
また、トナー帯電量及びその立ち上がりを早くするために、トナー中に、必要に応じて帯電制御剤を含有してもよい。ここで、電荷制御剤として有色材料を用いると色の変化が起こるため、無色、白色に近い材料が好ましい。帯電制御剤としては公知のものが全て使用でき、例えば、トリフェニルメタン系染料、モリブデン酸キレート顔料、ローダミン系染料、アルコキシ系アミン、4級アンモニウム塩(フッ素変性4級アンモニウム塩を含む)、アルキルアミド、燐の単体または化合物、タングステンの単体または化合物、フッ素系活性剤、サリチル酸金属塩及び、サリチル酸誘導体の金属塩等である。具体的には第四級アンモニウム塩のボントロンP−51、オキシナフトエ酸系金属錯体のE−82、サリチル酸系金属錯体のE−84、フェノール系縮合物のE−89(以上、オリエント化学工業社製)、第四級アンモニウム塩モリブデン錯体のTP−302、TP−415(以上、保土谷化学工業社製)、第四級アンモニウム塩のコピーチャージPSY VP2038、トリフェニルメタン誘導体のコピーブルーPR、第四級アンモニウム塩のコピーチャージ NEG VP2036、コピーチャージ NX VP434(以上、ヘキスト社製)、LRA−901、ホウ素錯体であるLR−147(日本カーリット社製)、キナクリドン、アゾ系顔料、その他スルホン酸基、カルボキシル基、四級アンモニウム塩等の官能基を有する高分子系の化合物が挙げられる。
荷電制御剤の使用量は、バインダー樹脂の種類、必要に応じて使用される添加剤の有無、分散方法を含めたトナー製造方法によって決定されるもので、一義的に限定されるものではないが、好ましくはバインダー樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部の範囲で用いられる。好ましくは、0.2〜5重量部の範囲がよい。10重量部を越える場合にはトナーの帯電性が大きすぎ、主帯電制御剤の効果を減退させ、現像ローラとの静電的吸引力が増大し、現像剤の流動性低下や、画像濃度の低下を招く。これらの帯電制御剤はマスターバッチ、樹脂とともに溶融混練した後溶解分散させる事もできるし、有機溶剤に直接溶解、分散する際に加えても良いし、トナー表面にトナー粒子作成後固定化させてもよい。
また、トナー製造過程で水系媒体中にトナー組成物を分散させるに際して、主に分散安定化のための樹脂微粒子を添加してもよい。使用される樹脂微粒子は、水性分散体を形成しうる樹脂であればいかなる樹脂も使用でき、熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂でもよいが、例えばビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ケイ素系樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アニリン樹脂、アイオノマー樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。樹脂微粒子としては、上記の樹脂を2種以上併用しても差し支えない。このうち好ましいのは、微細球状樹脂粒子の水性分散体が得られやすい点から、ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂及びそれらの併用が好ましい。
ビニル系樹脂としては、ビニル系モノマーを単独重合また共重合したポリマーで、例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、(メタ)アクリル酸−アクリル酸エステル重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
トナー粒子の流動性や現像性、帯電性を補助するための外添剤としては、無機微粒子を好ましく用いることができる。この無機微粒子の一次粒子径は、5mμ〜2μmであることが好ましく、特に5mμ〜500mμであることが好ましい。また、BET法による比表面積は、20〜500m2/gであることが好ましい。この無機微粒子の使用割合は、トナーの0.01〜5重量%であることが好ましく、特に0.01〜2.0重量%であることが好ましい.無機微粒子の具体例としては、例えばシリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ケイ砂、クレー、雲母、ケイ灰石、ケイソウ土、酸化クロム、酸化セリウム、ペンガラ、三酸化アンチモン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素などを挙げることができる。
この他、高分子系微粒子、例えばソープフリー乳化重合や懸濁重合、分散重合によって得られるポリスチレン、メタクリル酸エステルやアクリル酸エステル共重合体やシリコーン、ベンゾグアナミン、ナイロンなどの重縮合系、熱硬化性樹脂による重合体粒子が挙げられる。
このような流動化剤は表面処理を行って、疎水性を上げ、高湿度下においても流動特性や帯電特性の悪化を防止することができる。例えばシランカップリング剤、シリル化剤、フッ化アルキル基を有するシランカップリング剤、有機チタネート系カップリング剤、アルミニウム系のカップリング剤、シリコーンオイル、変性シリコーンオイルなどが好ましい表面処理剤として挙げられる。
感光体や中間転写媒体に残存する転写後の現像剤を除去するためのクリーニング性向上剤としては、例えばステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸など脂肪酸金属塩、例えばポリメチルメタクリレート微粒子、ポリスチレン微粒子などのソープフリー乳化重合などによって製造された、ポリマー微粒子などを挙げることかできる。ポリマー微粒子は比較的粒度分布が狭く、体積平均粒径が0.01から1μmのものが好ましい。
これらのトナーを用いることにより、上述の如く、現像の安定性に優れる、高画質なトナー像を形成することができる。しかしながら、転写装置にて転写媒体もしくは中間転写媒体に転写されず、像担持体上に残存してしまったトナーは、その微細さや転動性の良さのために、クリーニング装置による除去が困難で通過してしまうことがある。トナーを像担持体から完全に除去するには、例えばクリーニングブレードのようなトナー除去部材を像担持体に対して強力に押しつける必要がある。この様な負荷は、像担持体やクリーニング装置の寿命を短くするだけでなく、余計なエネルギーを使用してしまうことになる。像担持体に対する負荷を軽減した場合には、像担持体上のトナーや小径のキャリアの除去が不十分となり、これらはクリーニング装置を通過する際に、像担持体表面を傷つけ、画像形成装置の性能を変動させる要因となる。
本発明に係る画像形成装置は、前述の如く、感光体表面状態の変動、特に低抵抗部位の存在に対しての許容範囲に優れ、感光体への帯電性能変動等を、高度に抑制した構成であるため、上記構成のトナーと併用することにより、極めて高画質な画像を、長期にわたって安定して得ることができるものである。また、本発明の画像形成装置は、上述のような、高品質な画像を得るに適した構成のトナーとの併用ばかりでなく、粉砕法による不定形のトナーに対しても適用でき、装置寿命を大幅に延ばすことは言うまでもない。
このような、粉砕法のトナーを構成する材料としては、通常、電子写真用トナーとして使用されるものが、特に制限なく、適用可能である。該トナーに使用される一般的な結着剤樹脂の例としては、ポリスチレン、ポリp−クロロスチレン、ポリビニルトルエン等のスチレン及びその置換体の単重合体;スチレン/p−クロロスチレン共重合体、スチレン/プロピレン共重合体、スチレン/ビニルトルエン共重合体、スチレン/ビニルナフタレン共重合体、スチレン/アクリル酸メチル共重合体、スチレン/アクリル酸エチル共重合体、スチレン/アクリル酸ブチル共重合体、スチレン/アクリル酸オクチル共重合体、スチレン/メタクリル酸メチル共重合体、スチレン/メタクリル酸エチル共重合体、スチレン/メタクリル酸ブチル共重合体、スチレン/α−クロルメタクリル酸メチル共重合体、スチレン/アクリロニトリル共重合体、スチレン/ビニルメチルケトン共重合体、スチレン/ブタジエン共重合体、スチレン/イソプレン共重合体、スチレン/マレイン酸共重合体等のスチレン系共重合体;ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル系単重合体やその共重合体;ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル等のポリビニル誘導体;ポリエステル系重合体、ポリウレタン系重合体、ポリアミド系重合体、ポリイミド系重合体、ポリオール系重合体、エポキシ系重合体、テルペン系重合体、脂肪族または脂環族炭化水素樹脂、芳香族系石油樹脂などが挙げられ、単独あるいは混合して使用できるが特にこれらに限定するものではない。中でも、スチレン−アクリル系共重合樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオール系樹脂より選ばれる少なくとも1種以上であることが、電気特性、コスト面等から、より好ましいものである。更には、良好な定着特性を有するものとして、ポリエステル系樹脂および/またはポリオール系樹脂の使用が、一層好ましい。
また、上述の事由により、帯電部材の被覆層に含まれる前記トナーの結着樹脂を構成する樹脂成分と同じものは、線状ポリエステル樹脂組成物、線状ポリオール樹脂組成物、線状スチレンアクリル樹脂組成物、またはこれらの架橋物の内、少なくとも一種を好ましく用いることができる。
粉砕法のトナーでは、これらの樹脂成分と共に、前述のような着色剤成分、ワックス成分、電荷制御成分等を、必要により前混合後、樹脂成分の溶融温度近傍以下で混練して、これを冷却後、粉砕分級工程を経て、トナーを作成すれば良く、また、必要により前述の外添成分を、適宜、添加混合すれば良い。
[実施例]
実施例において本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1〜5、比較例1、2(以下、単に本実施例と総称する。)における画像形成装置(又はプロセスカートリッジ)の画像形成部の構成は図7に示したものと同様であり、実施形態1で詳述した保護剤塗布装置2を具備している。
(感光体の作製)
本実施例で使用する感光体1の製造は、以下のように行った。直径60mmのアルミニウムドラム(導電性支持体)上に、下引き層、電荷発生層、電荷輸送層および保護層を、その順に塗布した後、乾燥し、3.6μmの下引き層、約0.14μmの電荷発生層、22μmの電荷輸送層、約5μmの保護層からなる、有効長さ300mmの感光層を有する感光体を作製した。このとき、保護層の塗工はスプレー法により行ない、それ以外は浸漬塗工法により行なった。
(保護層塗工液の組成)
Z型ポリカーボネート:10質量部
トリフェニルアミン化合物(下記の構造式1):7質量部
アルミナ微粒子(粒径0.3μm):5質量部
テトラヒドロフラン:400質量部
シクロヘキサノン:150質量部
(保護剤バー1乃至5の作製)
画像形成装置に使用する保護剤バー5種類(バーの番号1乃至5)を、以下のようにして製造した。
ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛が、それぞれ所定の混合比(質量比)になるように、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛を秤量後、各混合原料毎に160〜250℃に温度制御したホットスターラーにより攪拌しつつ溶融し、溶融したステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛を160〜250℃で保持しながら混合した。予め150℃に加熱した内寸法12mm×8mm×350mmのアルミニウム製の金型を満たすように、攪拌溶融したステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛を流し込み、木製の台の上で40℃まで放冷後、固形物を型から外し、反り防止のため重りを乗せ室温まで冷却した。冷却後の固形物から長手方向の両端を切断し、底面を切削して7mm×8mm×310mmの保護剤バーを作成した。保護剤バーの底面に両面テープを貼り付け金属製支持体に固定した。切断後に残った破片を、塩酸-メタノール溶液に溶解し、80℃で加熱することで、ステアリン酸、パルミチン酸をメチル化し、ガスクロマトグラフィーにより、ステアリン酸、パルミチン酸の比率を求め、さらにステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の比率に換算して算出した。ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の比率(質量比)を変えた5種類の保護剤バーを作製し、保護剤バーの1〜5とした。保護剤バー1〜5のステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の比率(質量比)を表1に示した。
なお、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛を含む保護剤のパウダーを製造する場合は、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の溶融物を、前記のアルミニウム製の金型に流し込んで冷却固化した後、固形物を粉砕して粉状にし、パウダーとすればよい。
(保護剤バー6の作製)
上記記載のパウダー1を77質量部、BN(NX5:モメンティブ製)を17質量部、粒径0.3μmの球形アルミナ粒子を6質量部の各粉末を、混合して攪拌し、攪拌後の粉を内寸法8mm×350mmのアルミニウム製の金型に入れ、油圧式プレス機で圧力をかけ、真比重に対して95%まで圧縮して、厚み7mmの保護剤バー6を作製した。作製した保護剤バーを、長手方向の両端を切断し、底面を切削して7mm×8mm×310mmの保護剤バー6を作製した。保護剤バー6の底面に両面テープを貼り付け金属製支持体に固定した。保護剤バー6のステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の比率(質量比)を表1に示した。
(検量線の作成)
図6に示すような構成を備えた感光体1、保護剤バー1を備えた保護剤塗布装置2、及び帯電器を装着した模擬画像形成装置を用いて、感光体1の表面に保護剤を均一に塗布した。なお、保護剤塗布において、画像形成は実施していない。保護剤塗布装置2による保護剤(ステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛)の塗布条件を調整して、保護剤付着量の異なる感光体サンプル8本を作製した。作製した8本の感光体サンプルにつき、それぞれICP発光分析法により感光体表面のステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛の合計付着量を測定した。一方、ATR−IRによる本発明の保護剤の測定方法により、それぞれの感光体表面における指標X(指標X1〜X8)を算出した。ICP発光分光分析によるステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛の合計付着量と本発明の保護剤の測定方法による指標Xとから、感光体1の表面におけるステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛の合計付着量と指標Xの関係を表す検量線を作成した。検量線作成の詳細を以下に示す。
<ステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛の合計付着量の測定>
ICP発光分光分析では、Znの付着量が測定できる。保護剤バー1中のステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の含有比率はわかっているので、Zn総付着量からステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の総和の量を求めた。ICP発光分光分析用サンプルは、保護剤塗布後の感光体から感光体長手方向(軸に平行な方向)に25cm幅(ほぼ印刷領域の幅に等しい。)、周方向に3cm幅の大きさでアルミニウムドラムから感光層を剥がして作成した。
<IRスペクトルの測定>
前記の感光体サンプル8本、新品感光体の分析用サンプル、及び保護剤バー1(粉状に粉砕したサンプル)を、それぞれFT−IR Avatar370(サーモエレクトロン株式会社、サンダードーム(1回反射ATR、Ge、入射角45°))、を用いて、ATR−IR分析を行った。その結果、得られたIRスペクトル(吸光度スペクトル)の一部を図11〜13に示す。図11のスペクトルA1は、新品感光体のIRスペクトルであり、図12のスペクトルM1は保護剤バー1のIRスペクトルであり、図13のスペクトルB1は、保護剤塗布後の感光体のIRスペクトルを示す。なお、図13のスペクトルB1は、8本の保護剤付着量の異なる感光体サンプルそれぞれにつき測定しているが、第1の感光体サンプルについての例である。
<指標Xの算出>
測定したスペクトルA1、スペクトルB1、スペクトルMを用いて、第1の感光体サンプルを例に、カーボネート結合由来のピークaとして、1505cm−1のピークを用いた場合の指標X1 1505の算出方法を説明する。
図11のスペクトルA1中には、ポリカーボネート(カーボネート結合)由来のピークaが1505cm−1に見られた。図13のスペクトルB1中には、ポリカーボネート由来のピークaが1505cm−1に、ステアリン酸及びパルミチン酸由来のピークbが1540cm−1に見られた。スペクトルB1中のステアリン酸およびパルミチン酸由来のピークbは、スペクトルA1の観察により、感光体由来のピークとの重なりはないことが分かる。しかし、ピークbの面積Sbを算出する際に、ベースを引くエリアに感光体由来のピークが重なっていた。そこで、スペクトルB1から感光体に由来するピークを差し引き、スペクトルB1のベースラインが平らになるようにスペクトルB1の加工を行なった。すなわち、ポリカーボネート由来の1776cm−1のピークを基準ピークzとし、スペクトルA1に、スペクトルA1とスペクトルB1における基準ピークzの強度の比(hBZ/hAZ)を掛けて、基準化されたスペクトルA1'を作成し、スペクトルB1から基準化されたスペクトルA1'を差し引き、図14に示す差スペクトルC1を作成した。
次に、スペクトルB1を用いてピークaの面積Saを求め、差スペクトルC1を用いてピークbの面積Sbを求める。ピークaの面積Saは、図13に示すスペクトルB1からピークaを中心とした1478〜1526cm−1の波数領域をベースとして、1501〜1509cm−1の波数領域をピーク領域としたピークaのピーク面積とする。ピークbの面積Sbは、図14示すスペクトルC1から1483〜1589cm−1の波数領域をベースとして、1533〜1547cm−1の波数領域をピーク領域としたピークbのピーク面積とする。ピークaの面積Saとピークbの面積Sbとの比(Sb/Sa)を求めて、指標X1 1505とする。
<検量線の作成>
第1の感光体サンプルにおける指標X1 1505と、ICP発光分析で求めておいたステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛の合計付着量とから、指標X1 1505とステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛の合計付着量が関係付けられる。同様にして、第2〜8の感光体サンプルについて、それぞれ指標X2 1505〜指標X8 1505についてステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛の合計付着量との関係付けを行い、これらの関係から、指標X1505に対するステアリン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛の合計付着量の検量線を作成し、検量線1とする。検量線1を図15に示す。
[実施例1]
市販の画像形成装置(imagio MPC7500(タンデム型カラー画像形成装置、リコー社製))の感光体を取り替えて、実施形態1で説明した保護剤塗布装置2を装着し、実施形態3で説明した、図8に示すような画像形成装置を準備した。この画像形成装置は、図7に示すような、画像形成部(プロセスカートリッジ)を複数有するをものでもある。感光体は作成しておいた上述の感光体を用い、感光体表面の線速は353mm/秒とし、感光体と帯電ローラの間に、−600Vの直流電圧に周波数1450Hz、振幅1100Vの交流電圧を重畳印加して、画像形成を行った。なお、保護剤塗布装置2には、作製しておいた保護剤バー1を使用した。その他の保護剤塗布装置条件としては、保護剤供給部材22のブラシ22aにはブラシC(太さ:10デニール、密度:1平方インチ当たり5万本)、保護層形成機構24のブレード24a、及びクリーニング装置4のクリーニングブレード41にはウレタンブレードを用い、押圧力付与機構23には8Nの押圧力のバネを用いた(各部品、装置の番号は、図7,8を参照。以下、同じ)。保護剤バーの種類及びブラシの種類、仕様、押圧力付与機構23の押圧力、感光体表面の線速を表2に示した。なお、後述の、実施例2〜5および比較例1,2における、保護剤バーの種類及びブラシの種類、仕様、押圧力付与機構23の押圧力、感光体表面の線速についても表2に示した。
画像評価用の出力チャートとして用いた画像パターンとしては、図9に示すような画像パターンを用いた。図9に示す画像パターンを1000枚出力した後、上述の感光体表面の保護剤の付着量測定方法により、感光体表面の保護剤の付着量を測定した。測定用の赤外分光計は、Avatar370(アプリケーションとしてサンダードーム装着)を用いた。得られたIRスペクトルから指標X1505を求めて、検量線1(図15)を用いて、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の合計付着量を求めた。なお、各感光体サンプル(感光体の軸方向(主走査方向)の有効長さは30cmである。)につき、図10に示すように、軸方向に1cm毎に合計30点の測定位置に対する測定をした。各測定位置に対する測定結果を表3に示す。
上述の感光体と同じ新しい感光体を上述の画像形成装置に搭載し直して、上述と同じ条件で、図9に示す画像パターンを60,000枚画像形成した後、全面ベタ画像および図9に示す画像パターンを出力し、目視及び顕微鏡で確認(実機評価)したところ、両者とも高画質な画像が保持されていた。60,000枚出力した後の画像評価結果を、表3に示した。なお、表3の評価結果の欄における記号の意味は以下の通りである。
○:高画質(顕微鏡観察でも、不良画像なし。)
△:実使用上は問題なし(目視では確認できないが、顕微鏡で拡大観察すると濃度が薄い箇所がある)。
×:異常画像あり。
[実施例2]
実施例1において、保護剤バー1を保護剤バー3に変更し、表2に示すように、ブラシCをブラシAに変更し、押圧力付与機構の押圧力を5Nに変更した以外は、実施例1と同様にして、1000枚の画像形成をした。その後感光体の表面を、Avatar370(アプリケーションとしてサンダードーム装着)を用いて、実施例1と同様にしてIRスペクトルを測定した。IRスペクトルから指標X1505を求め、検量線1を用いて、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の合計付着量を求めた。また、上述の感光体と同じ新しい感光体を上述の画像形成装置に搭載し直して、上述と同じ条件で、図9に示す画像パターンを60,000枚画像形成した後、全面ベタ画像および図9に示す画像パターンを出力し、目視及び顕微鏡で確認したところ、高画質な画像が保持されていた。感光体の各測定位置のステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の合計付着量の測定結果と、60,000枚出力した後の画像評価結果を表3に示した。
[実施例3]
実施例1において、保護剤バー1を保護剤バー2とし、押圧力付与機構23の押圧力を8Nから4Nに変更した以外は、実施例1と同様にしてにして、1000枚の画像形成をした。その後感光体の表面を、Avatar370(アプリケーションとしてサンダードーム装着)を用いて、実施例1と同様にしてIRスペクトルを測定した。IRスペクトルから指標X1505を求め、検量線1を用いて、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の合計付着量を求めた。また、上述の感光体と同じ新しい感光体を上述の画像形成装置に搭載し直して、上述と同じ条件で、図9に示す画像パターンを60,000枚画像形成した後、全面ベタ画像および図9に示す画像パターンを出力し、目視及び顕微鏡で確認したところ、高画質な画像が保持されていた。感光体の各測定位置のステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の合計付着量の測定結果と、60,000枚出力した後の画像評価結果を表3に示した。
[実施例4]
実施例1において、保護剤バー、ブラシ条件、及び押圧力付与機構の押圧力を、表2の実施例4に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の合計付着量測定用の感光体サンプルを作成した。この感光体サンプルに対して、Avatar370(アプリケーションとしてサンダードーム装着)を用いて、主走査方向30点のIRスペクトルを測定して、指標X1505を用いてステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の合計付着量を測定した。結果を表3に示す。
同じ感光体サンプルの表面を、周方向(副走査方向)に剥離して評価サンプルとし、この評価サンプルにつき周方向に1cm毎にIRスペクトルを測定し、指標X1505を算出し、検量性1を用いて感光体表面のステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の合計付着量を算出した。各サンプルのステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の合計付着量は、主走査方向の測定結果とほとんど変わらず、0.49〜0.52μg/cm2の範囲内であった。本発明の画像形成装置においては、感光体の周方向への保護剤の付着は、構造上ばらつき難く、この結果は、予想どおりであった。
次に、主走査方向にならんだ感光体サンプルのIRスペクトル測定において、FT/IR−6100(日本分光株式会社、1回反射ATR、Ge、入射角45°、アプリケーション(ATR−PRO−410S))により、測定サンプルを押さえる力を3通りに変化させて、IRスペクトルを測定して、このIRスペクトルからステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の合計付着量を測定した。圧力を変えた測定結果においても、各サンプルのステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の合計付着量は、0.49〜0.52μg/cm2の範囲内と、表3に示す結果と変わらなかった。測定サンプルの押圧力の変化によるばらつきが少ないのは、ピークaとピークbが100cm−1以内に近接していることによるものと考えられる。
一方、測定サンプルを押さえる力を3通りに変化させて得たIRスペクトルに対して、指標Xの算出過程において、感光体由来のピークaとして、1505cm−1のピークを用いた指標X1505の替わりに、感光体由来のピークaとして、1776cm−1のピークを用いた指標X1776を用いたところ、指標X1505から算出した場合は、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の合計付着量が0.49〜0.52μg/cm2とほぼ一定であったのに対し、指標X1776から算出した場合は0.44〜0.56μg/cm2と指標X1505から算出した場合よりばらつく結果となった。
なお、FT−IR Avatar370は、アプリケーション(サンダードーム)に装着された治具によって、サンプルを押さえつける力が一定に制御されている。一方、FT/IR−6100では、サンプルを押さえつける力が可変なアプリケーションATR−PRO−410Sを用いてサンプルを押さえつける力を制御した。
[実施例5]
実施例4において、感光体表面の線速を353mm/secから434mm/secに変えた以外は、実施例4と同様にして、感光体の主走査方向の評価サンプルにつきステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の合計付着量を測定した。結果を表3に示す。
なお、実施例4と同様に、測定サンプルを押さえる力を3通りに変化させて、指標X1505からステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の合計付着量を測定した。この測定結果においても、各サンプルのステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の合計付着量は、0.40〜0.43μg/cm2と上記の結果と同様であった。
実施例4と同様にして、60,000枚出力した後の画像評価をおこなったが、実用上問題のない画質が保たれていた。画像評価結果を表3に示した。
[比較例1]
実施例1において、保護剤バー、ブラシ条件、及び押圧力付与機構の押圧力、線速を、表2の比較例1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の合計付着量測定用の感光体サンプルを作成した。その感光体の表面を、Avatar370(アプリケーションとしてサンダードーム装着)を用いて、実施例1と同様にしてIRスペクトルを測定した。IRスペクトルから指標X1505を求め、検量線1を用いて、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の合計付着量を求めた。測定結果において、各サンプルのステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の合計付着量は、平均値としては、0.40μg/cm2以上であるが、各サンプルは0.38〜0.42μg/cm2と0.40μg/cm2を下回るデータが5点あった。
上述と同じ装置条件で新しい感光体を搭載し直して、60,000枚画像形成した後、実施例1と同様の画像評価をおこなった。60,000枚画像形成した後の画像には、微かな縦帯および白筋が見られた。評価結果を表3に示す。
[比較例2]
実施例1において、保護剤バー、ブラシ条件、及び押圧力付与機構の押圧力、線速を、表2の比較例2に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の合計付着量測定用の感光体サンプルを作成した。その感光体の表面を、Avatar370(アプリケーションとしてサンダードーム装着)を用いて、実施例1と同様にしてIRスペクトルを測定した。IRスペクトルから指標X1505を求め、検量線1を用いて、ステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の合計付着量を求めた。測定結果において、各サンプルのステアリン酸亜鉛とパルミチン酸亜鉛の合計付着量は、0.36〜0.42μg/cm2であり、平均値としても0.39μg/cm2と0.40μg/cm2を下回っていた。
上述と同じ装置条件で新しい感光体を搭載し直して、60,000枚画像形成した後、実施例1と同様の画像評価をおこなった。60,000枚画像形成した後の画像には、縦帯が数箇所に見られた。評価結果を表3に示す。