〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施形態について図面を参照して説明する。
基板処理装置として、アモルファス太陽電池や微結晶太陽電池や液晶ディスプレイ用TFT(Thin Film Transistor)などに用いられる非晶質シリコン、微結晶シリコン、窒化シリコン等からなる膜の高速製膜処理を行うことが可能な薄膜製造装置、基板の表面処理を行う大気圧プラズマ装置の他、大面積のプラズマ処理が必要な表面改質装置やオゾナイザ等、真空から大気圧の広い圧力領域でのプラズマ生成装置などが挙げられる。本実施形態においては、基板処理装置の一例として、薄膜製造装置について説明する。
図1は、太陽電池パネルに用いられるシリコン薄膜の製膜に用いる薄膜製造装置の構成を示す概略構成図であり、図2は、薄膜製造装置1の側面から見た図である。薄膜製造装置1は、真空容器である製膜室6、導電性の板である対向電極2、対向電極2の温度分布を均一化する均熱板5、均熱板5および対向電極2を保持する均熱板保持機構11、対向電極2との間にプラズマを発生させる放電電極3、膜が形成される範囲を制限する防着板4、防着板4を支持する支持部7、後述する高周波電源からの高周波電力を放電電極3に供給する同軸給電部12a,12b、整合器13、製膜室6内の気体を排気する高真空排気部31、低真空排気部35及び製膜室6を保持する台37を備えている。なお、本図において、ガス供給に関する構成は省略している。
製膜室6は、真空容器であり、その内部で基板8に微結晶シリコン膜などを製膜する。製膜室6は、台37上で鉛直方向に対してθ=7°〜12°傾けて保持されている。このため、対向電極2の基板8の製膜処理面の法線が、水平方向に対して7°〜12°上に向く。基板8を鉛直方向から僅かに傾けることは、装置の設置スペースの増加を抑えながら基板8の自重を利用して少ない手間で基板8を保持し、更に基板8と対向電極2の密着性を向上して基板8の温度分布と電位分布を均一化することが出来て好ましい。
対向電極2は、基板8を保持可能な保持手段(図示せず)を有する非磁性材料の導電性の板である。セルフクリーニングを行う場合は耐フッ素ラジカル性を備えることが好ましく、ニッケル合金やアルミやアルミ合金の板を使用することが望ましい。対向電極2は、放電電極3に対向する電極(例えば、接地側電極)となる。対向電極2は、一方の面が均熱板5の表面に密接し、製膜時に他方の面が基板8の表面と密接するようになっている。
均熱板5は、内部に温度制御された熱媒体を循環させたり、または温度制御されたヒーターを組み込むことで、自身の温度を制御して、全体を概ね均一な温度とし、接触している対向電極2の温度を所定温度に均一化する機能を有する。ここで、熱媒体は、非導電性媒体であり、水素やヘリウムなどの高熱伝導性ガス、フッ素系不活性液体、不活性オイル、及び純水等が使用でき、特に、150℃〜250℃の範囲でも圧力が上がらずに制御が容易であることから、フッ素系不活性液体(例えば商品名:ガルデン、F05など)の使用が好適である。
均熱板保持機構11は、均熱板5及び対向電極2を製膜室6の側面(図1の右側)に対して略平行となるように保持するとともに、均熱板5、対向電極2および基板8を、放電電極3に接近離間可能に保持する。また、均熱板保持機構11は、製膜時に均熱板5等を放電電極3に接近させて、基板8を放電電極3から、例えば3mmから10mmの範囲内に位置させることができる。
防着板4は、接地されプラズマの広がる範囲を抑えることにより、膜が製膜される範囲を制限するものであり、電極3における対向電極2と反対側の空間を覆うように支持部7で保持されている。本実施形態の場合、図1に示すように、製膜室6の内側における防着板4の後ろ側(基板8と反対の側)の壁に膜が製膜されないようにしている。
支持部7は、製膜室6の側面(図1における左側の側面)から内側へ垂直に延びる部材であり、支持部7は防着板4と結合され、放電電極3における対向電極2と反対側の空間を覆うように防着板4を保持している。また、支持部7は放電電極3と絶縁的に結合され、放電電極3を製膜室6の側面(図1における左側の側面)に対して略平行に保持している。
高真空排気部31は、粗引き排気された製膜室6内の気体をさらに排気して、製膜室6内を高真空とする高真空排気用の真空ポンプである。弁32は、高真空排気部31と製膜室6との経路を開閉する弁である。
低真空排気部35は、初めに製膜室6内の気体を排気して、製膜室6内を低真空とする粗引き排気用の真空ポンプである。弁34は、低真空排気部35と製膜室6との経路を開閉する。
台37は、上面に配置された保持部36を介して製膜室6を保持するものである。台37の内部には低真空排気部35が配置される領域が形成されている。
図2は、本発明の薄膜製造装置の構成の一部を示す部分斜視図であり、図3は、放電電極3に対する電力の供給等を説明する概略図である。図2中に矢印でXYZ方向を示す。放電電極3は、二本の横電極の間に設けられた各棒状の縦電極を略平行に組み合わせて構成されている。なお、放電電極3を、更に複数の電極単位に分割構成しても良い。放電電極3を分割構成する場合は、好ましくは給電点の数に合わせて分割形成する。
放電電極3は、本実施の形態では、例えば、8個の放電電極3a〜3hを備えており、各放電電極3a〜3hは、互いに略平行にY方向へ伸びる二本の横電極と、二本の横電極20の間に設けられ互いに略平行にX方向へ伸びる複数の棒状の縦電極とを備えている(図示せず)。ただし、放電電極の数は必ずしも8個ではなく、これよりも多い場合と少ない場合があり、特に限定されるものではない。放電電極3a〜3hへの電力供給を、8個を超えるまたは8個未満の整合器13a、13b及び高周波給電伝送路14a、14bとの組みで行うことも可能である。また各々個別の高周波電源部60から電力を供給しても良い。これらの場合、その組の数に対応するように、放電電極3a〜3hを加減して組み分けることが好ましい。また放電電極の数は、真空中およびプラズマ生成時の高周波電力の波長による定在波の影響を低減させるように各放電電極の幅を定めることが好ましく、複数の放電電極を並べて設置した状態で基板8の幅よりも少し大きくなるように配置することがプラズマの均一化に好ましい。
放電電極3aの給電点(端部)53側には、整合器13atと、高周波給電伝送路14aと、同軸給電部12aと、熱媒体供給管15aおよび原料ガス配管16aが設けられている。また、給電点(端部)54側には、整合器13abと、高周波給電伝送路14bと、同軸給電部12bと、熱媒体供給管15bおよび原料ガス配管16bが設けられている。
同様に、放電電極3b〜3hのそれぞれに対して、給電点53側には、整合器13at〜13htと、高周波給電伝送路14aと、同軸給電部12aと、熱媒体供給管15aおよび原料ガス配管16aがそれぞれ設けられている。また、給電点54側には、整合器13ab〜13hbと、高周波給電伝送路14aと、同軸給電部12bと、熱媒体供給管15bおよび原料ガス配管16bがそれぞれ設けられている。なお、図2においては、図を見やすくするために整合器13at,13ab,13htのみを表示し、他の整合器の表示を省略している。ここで、整合器13at〜13ht,13ab〜13hbは、何れも出力側のインピーダンスを整合するものであり、後述する高周波電源から供給された高周波電力に対してインピーダンスを整合して、高周波給電伝送路14a,14b、同軸給電部12a,12bを介して高周波電力を放電電極3へ送電する。
高周波給電伝送路14aにおける整合器13at〜13htと放電電極3a〜3hとの間と、高周波給電伝送路14bにおける整合器13ab〜13hbと放電電極3a〜3hとの間は電気的に接続されループ回路20を形成している。すなわち、高周波給電伝送路14aにおける整合器13at〜13htの出口と高周波給電伝送路14bにおける整合器13ab〜13hbの出口とは、図3に示すように、ループ回路20によりそれぞれ電気的に接続されている。ループ回路20は、高周波電源から出力される高周波電力の周波数に対して、その線路内電圧波長の整数倍の長さを有する短絡線21と短絡線21の両端部に接続されたインピーダンス素子としてのインダクタ20a,20bとを備えている。ここで、インダクタ20a,20bのインダクタンスは、放電電極3a〜3hで反射される反射電力をループ回路20に効率的に回生させるように調整され、例えば、320nHとされている。短絡線21としては、例えば、同軸ケーブルを適用することができる。
また、高周波給電伝送路14a,14bにおける同軸給電部12a,12bとループ回路20の接続点との間には、インピーダンス素子としてのキャパシタ30a,30bがそれぞれ接続されている。ここで、キャパシタ30a,30bの静電容量は、放電電極3a〜3hで反射される反射電力を抑制するように調整され、例えば、50pFとされている。
ところで、後述する高周波電源17aと高周波電源17bとは、一方の高周波電源から供給する高周波電力の位相を基準として、他方の高周波電源から供給する高周波電力の位相を可変とすることで位相変調を行いつつ放電電極3a〜3hへ電力を供給している。この高周波電源17a,17bによる電力供給時、すなわち、位相変調時における位相差が0°又は180°のとき、電気的特性が対極の関係にある。従って、位相変調時に高周波電源17a,17bへの反射電力を低減させるためには、位相差が0°又は180°となるときの特性に着目して、高周波電源17a,17bのインピーダンスと位相差が0°又は180°のときの放電電極側のインピーダンスとを近づけることが必要となる。そこで、高周波電源17a,17bから見て直列素子と並列素子の2素子を接続することで、回路定数を位相差に応じて変化させること無く、位相差0°又は180°のときのインピーダンスを個別に調整できるようにする。
上記したように、本実施形態においては、高周波電源17a,17bからみた並列素子として、ループ回路20の短絡線21の両端部にインダクタ20a,20bを直列に接続する。ループ回路20の短絡線21は1波長の整数倍とされているので、位相差0°又は180°において、インダクタ20a,20bと短絡線21の関係はそれぞれ、インダクタ+開放(アース電位に対して高インピーダンス)、インダクタ+短絡(アース電位)となる。そのため、位相差0°の時のインダクタは回路の電気特性に寄与しない。一方、位相差180°の時のインダクタは回路の電気特性に寄与するため、インダクタの調整によって位相差180°の電気特性のみを調整できるという特徴がある。
また、高周波電源17a,17bからみた直列素子として、高周波給電伝送路14a,14bにおける同軸給電部12a,12bとループ回路20の接続点との間に直列にキャパシタ30a,30bを接続する。位相差が0°のときと180°のときとでは、放電電極側のインピーダンスが大きく異なるので、キャパシタ30a,30bによるインピーダンス変化量が異なり、この差が直列素子によるインピーダンス調整代となる。
このように高周波電源から見て並列素子と直列素子とを接続することで、これらの組み合わせにより、位相差が0°のときと180°のときのインピーダンスを一致させることができ、位相変調時においても高周波電源から放電電極側のインピーダンスが変化せず、反射電力を理論上ゼロとすることができる。
インダクタ20a,20b及びキャパシタ30a,30bのインピーダンス及び静電容量についても、高周波電源による位相変調時における位相差が0°又は180°のとき、回路の電気的特性が対極の関係にあることから、位相差が0°又は180°となるときの特性に着目して決定する必要がある。
具体的には、高周波電源17a,17bの位相差が0°のときは、高周波電源17a,17bから見て直列側、すなわち高周波給電伝送路14a,14b上に見かけ上無限大の抵抗値の抵抗が接続されたのと等しい状態となり、すなわち、ループ回路20に接続されたインダクタ20a,20bが存在しないのと等しい状態となる。このため、反射電力をループ回路に回生させるべく高周波電源17a,17bと放電電極3a〜3hとのインピーダンスを整合させるには、高周波給電伝送路14a,14bに接続されたインピーダンス素子(キャパシタ30a,30b)のみが有効となる。
他方、高周波電源17a,17bの位相差が180°のときは、高周波給電伝送路14a,14bに接続されたインピーダンス素子(キャパシタ30a,30b)だけでなく、ループ回路20に接続されたインピーダンス素子(インダクタ20a,20b)も有効となる。また、一般に高周波電源17a,17bは、概ね50Ωのインピーダンスを有するものが適用されている。従って、このような特性に基づいて、最も効率的に反射電力を低減させることができるように各インピーダンス素子(インダクタ20a,20b及びキャパシタ30a,30b)のインピーダンス及び静電容量を定めることで反射電力を低減させる。
なお、本実施形態においては、ループ回路に接続するインピーダンス素子にインダクタを適用したが、キャパシタを適用することも可能である。同様に、高周波給電伝送部14a,14bに接続するインピーダンス素子としてキャパシタを適用したが、インダクタを適用することも可能である。ループ回路に接続するインピーダンス素子及び高周波給電伝送部14a,14bに接続するインピーダンス素子は、上記した特性に基づいて最も効率的に反射電力を低減させることができるものを適用する。
放電電極3a〜3hは、複数のショートバー28およびアースバー29を介して防着板4と電気的に接続され、防着板4は接地されている。対向電極2は放電電極3a〜3hに対向して設けられ、対向電極2は接地されている。放電電極3a〜3hの給電点53には、図3に示すように、高周波電源17aから高周波電力が供給され、給電点54には、高周波電源(電源部)17bから高周波電力が供給されている。図1に示すように、電極3a〜3hと平行な位置には、基板8を乗せる対向(接地)電極2が配置され、電極3a〜3hと対向(接地)電極2との間には、高周波電力が給電されることによりプラズマが生成される。
具体的には、高周波電源17aから分配器(図示せず)、高周波給電伝送路14a、整合器13at〜13ht、同軸給電部12aの順に介して放電電極3a〜3hの給電点53にそれぞれ高周波電力が供給される。同様に、高周波電源17bから分配器(図示せず)、高周波給電伝送路14b、整合器13ab〜13hb、同軸給電部12bの順に介して放電電極3a〜3hの給電点54にそれぞれ高周波電力が供給される。
各放電電極3a〜3hには、同軸給電部12a、12bを接続する給電点53、54を介して後述する高周波電源からそれぞれ高周波電力が供給され、さらに、給電点53と給電点54の近傍に接続された原料ガス配管16aと16bから原料ガスが供給される。そして、各放電電極3a〜3hは、図2中の矢印に示す方向(対向電極側)へ略均一に原料ガスのプラズマガスを放出することで、基板8に膜を製膜する。
放電電極3a〜3hの温度調節を行う場合、同軸給電部12a,12bは、例えば、その円管の中心部分に設けた細管を用いて熱媒体を通し、その周辺部を用いて電力を給電することが可能である。放電電極3の給電点54側へ熱媒体を供給し、放電電極3の給電点53側から熱媒体供給装置へ熱媒体を送出する。熱媒体の温度を熱媒体供給装置で制御することで、放電電極3の温度を所望の温度に制御して製膜室6内のヒートバランスを適切に保つことができる。これにより、基板8の表裏温度差に伴うソリ変形を抑制することができる。
図4は、整合器13at〜13ht,13bb〜13hbの概略構成を説明する模式図である。(以下、全ての整合器を示すときは単に符号「13」を付し、各整合器を示すときは符号「13a」、「13b」等を付す。)整合器13は、出力側のインピーダンスを整合可能とするものである。整合器13には、図4に示すように、高周波電力の周波数を調整する第1コンデンサ(位相調整部)23、コイル24及び高周波電力の振幅を調整する第2コンデンサ(振幅調整部)25が設けられている。
第1コンデンサ23および第2コンデンサ25は、ともに可変容量コンデンサであり、第1コンデンサ23の容量Ctおよび第2コンデンサ25の容量Cmを調節することにより、整合器13のインピーダンスの値が調節される。
第1コンデンサ23およびコイル24は、高周波給電伝送路14aおよび同軸給電部12aの間、または、高周波給電伝送路14bおよび同軸給電部12bの間に直列に配置されている。また、第2コンデンサ25の一方の端部は、高周波給電伝送路14aまたは高周波給電伝送路14bと電気的に接続され、他方の端部は整合器13の筐体を介して接地されている。
整合器13ab〜13hbには、図2に示すように、熱媒体供給装置(図示せず)から熱媒体供給管15bを介して熱媒体が供給される。供給された熱媒体は同軸給電部12bを介して放電電極3a〜3hへ供給される。そして、熱媒体は放電電極3a〜3hから同軸給電部12aを介して整合器13at〜13htに流入し、整合器13at〜13htから熱媒体供給管15aを介して熱媒体供給装置(図示せず)へ送出される。
熱媒体は上述のように、下側の整合器13bb〜13hbから上側の整合器13at〜13htへ向って流されることが好ましい。このように流すことで滞留箇所や未到達の箇所が発生することなく、熱媒体を放電電極3内に行き渡らせることができるからである。
同軸給電部12a,12bは、図3に示すように、整合器13から供給される高周波電力を放電電極3へ供給するものである。同軸給電部12a,12bは、一方を放電電極3a〜3hに電気的に接続され、他方を整合器13に電気的に接続されている。
高周波電源17a,17bは高周波電力、例えばVHF(Very High Frequency:30MHzから300MHz)の周波数帯域の電力、より好ましくは40MHzから100MHz程度の周波数を有する電力を供給するものである。また、高周波電源17a,17bは、供給する高周波電力の周波数を変動可能に、例えば、60MHzの高周波電源においては、周波数を58.5MHzから59.9MHz、または、60.1MHzから61.5MHzのように変動可能に構成されている。
また、高周波電源17aと高周波電源17bとは、一方の高周波電源から供給する高周波電力の位相を基準として、他方の高周波電源から供給する高周波電力の位相を可変とすることで位相変調を行いつつ規定の周波数を有する高周波電力を供給している。これにより、放電電極3a〜3h上に生成される定在波が動き、高周波電力を供給している間の時間平均的に電圧を平均化させることができる。従って、放電電極3a〜3から放出されるプラズマガスも平均化され、製膜された膜が均一化される。
次に、上記の構成からなる薄膜製造装置1において、高周波電源17a,17bにより高周波電力を供給した場合について説明する。薄膜製造装置1が起動すると、高周波電源17a,17bにより所定の周波数の高周波電力が高周波給電伝送路14a,14b、整合器13及び同軸給電部12a,12bを介して放電電極3a〜3hへ供給される。
本実施形態においては、整合器13と同軸給電部12a,12bとの間にループ回路20が形成されている。また、ループ回路20には、インダクタ20a,20bが接続されており、このインダクタ20a,20bのインダクタンス値は、放電電極3a〜3hで反射される反射電力をループ回路20に効率的に回生させるように調整されていることから、高周波電源から見た放電電極3a〜3h側で反射された反射電力を高周波電源17a、17bに戻さずにループ回路20に回生させることで、この反射電力を高周波電源17a、17bから供給された進行波としての高周波電力と同様に放電電極3a〜3hに供給する。
さらに、ループ回路20に接続されたインダクタ20a,20bと、高周波給電伝送路14a,14bに接続されたキャパシタ30a,30bにより、整合器13をインピーダンスの基準とした場合に、高周波電源17aからの高周波電力と高周波電源17bからの高周波電力との位相差が0°または180°のとき、高周波電源から見た放電電極3a〜3h側と高周波電源17a,17bとのインピーダンスが一致し、放電電極3a〜3hで反射される反射電力を低減することができる。
より具体的には、高周波電源17a,17bの位相差が0°のときは、高周波給電伝送路14a,14b、同軸給電部12a,12b及び高周波電源から見た放電電極3a〜3h側を含む全体が、整合器13により、高周波電源17a,17bのインピーダンスと同等の50Ωに近づくように調整される。そして、キャパシタ30a,30bによって、高周波電源17a,17bと高周波電源から見た放電電極3a〜3h側のインピーダンスが略一致するように調整される。
また、高周波電源17a,17bの位相差が180°のときは、同様に、周波給電伝送路14a,14b、同軸給電部12a,12b及び放電電極3a〜3hを含む全体が、整合器13により、高周波電源17a,17bのインピーダンスと同等の50Ωに近づくように調整される。その後、インダクタ20a,20bにより高周波電源17a,17bの位相差が0°のときと略同じと看做せる状態に調整され、最終的に、キャパシタ30a,30bによって、高周波電源17a,17bと高周波電源から見た放電電極3a〜3h側のインピーダンスが略一致するように調整される。このように、高周波電源17aからの高周波電力と高周波電源17bからの高周波電力との位相差が0°または180°のとき、高周波電源から見た放電電極3a〜3h側と高周波電源17a,17bとのインピーダンスが略一致するので、高周波電源から見た放電電極3a〜3h側で反射される反射電力を低減することができる。
このように、本実施形態によれば、放電電極3a〜3hで反射された反射電力を高周波電源17a、17bに戻さずにループ回路20に回生させることで、この反射電力を高周波電源17a、17bから供給された進行波としての高周波電力と同様に放電電極3a〜3hに供給するので、放電電極における反射電力を抑制することができると共に、高周波電力の利用効率を向上させ、延いては、プラズマ発生効率を向上させ、基板上における製膜速度を向上させることができる。また、高周波電源17a、17bの破損を防止することができる。
なお、本実施形態において、高周波給電伝送部14a,14bに接続するインピーダンス素子としてキャパシタ30a,30bを適用したが、これに代えて、例えば、エアバリコン等のインピーダンスが可変可能なインピーダンス素子を適用することも可能である。この場合には、反射電力を低減するためのインピーダンス又は静電容量を容易に定めることができるという利点がある。また、ループ回路20の両端部に夫々インダクタ20a,20bを接続する構成として説明したが、これに限られるものではなく、ループ回路20の短絡線21の中央部に一つのインダクタを設ける構成とすることも可能である。インダクタ20a,20b等のインピーダンス素子をループ回路の両端に接続した場合と、中央部に接続した場合とでは、電気特性的には同じ効果が得られる。即ち、中央部に接続した場合にも、高周波電源のインピーダンスと高周波電源から見た放電電極側のインピーダンスとを略一致させ、高周波電力へ戻る反射電力を低減させることができる。上記したように、インピーダンス素子をループ回路20の両端部に接続した場合は、電極両端の整合器出口に各々取り付ける必要があり、インピーダンス素子の調整の際には整合器出口部にアクセスする必要がある。この場合、インピーダンス素子に隣接するチャンバに基板処理装置の駆動部があるために、基板処理装置の運転中には作業員が入れず、運転中にはインピーダンス素子の調整を行うことができない。一方、インピーダンス素子を中央部に接続する場合は、ループ回路のケーブル長を利用して、生産中でも人がアクセスできる場所にて素子を調整できるようにすることができる。
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態の薄膜製造装置の基本構成は、第1の実施形態と同様であるが、本実施形態は第1の実施形態と比較して、高周波給電伝送路14a,14bに接続されるインピーダンス素子及びループ回路20が設けられる位置が異なっている。及び第1の実施形態とは、整合器のインピーダンス調整方法が異なっている。以下、本実施形態においては、高周波給電伝送路14a,14bに接続されるインピーダンス素子及びループ回路20が設けられる位置について主に説明し、その他の第1の実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図5は、本実施形態における放電電極3に対する電力の供給等を説明する概略図である。
高周波給電伝送路14aにおける高周波電源17aと整合器13at〜13htとの間と、高周波給電伝送路14bにおける高周波電源17bと整合器13ab〜13hbとの間は、電気的に接続されループ回路20を形成している。すなわち、高周波給電伝送路14aにおける整合器13at〜13htの入口と高周波給電伝送路14bにおける整合器13ab〜13hbの入口とは、図5に示すように、ループ回路20によりそれぞれ電気的に接続されている。ループ回路20は、高周波電源から出力される高周波電力の周波数に対して、その線路内電圧波長の整数倍の長さを有する短絡線21と短絡線21との両端部に接続されたインピーダンス素子としてのキャパシタ22a,22bとを備えている。ここで、キャパシタ22a,22bの静電容量は、放電電極3a〜3hで反射される反射電力をループ回路20に効率的に回生させるように調整され、例えば、50pFとされている。短絡線21としては、例えば、同軸ケーブルを適用することができる。
また、高周波給電伝送路14a,14bにおける整合器13at〜13ht,13ab〜13hbとループ回路20の接続点との間には、インピーダンス素子としての同軸ケーブル26a,26bがそれぞれ接続されている。ここで、同軸ケーブル26a,26bのインピーダンスは、放電電極3a〜3hで反射される反射電力を抑制するように調整され、例えば、320nHとされている。
ところで、後述する高周波電源17aと高周波電源17bとは、一方の高周波電源から供給する高周波電力の位相を基準として、他方の高周波電源から供給する高周波電力の位相を可変とすることで位相変調を行いつつ放電電極3a〜3hへ電力を供給している。この高周波電源17a,17bによる電力供給時、すなわち、位相変調時における位相差が0°又は180°のとき、電気的特性が対極の関係にある。従って、位相変調時に高周波電源17a,17bへの反射電力を低減させるためには、位相差が0°又は180°となるときの特性に着目して、高周波電源17a,17bのインピーダンスと位相差が0°又は180°のときの放電電極側のインピーダンスとを近づけることが必要となる。そこで、高周波電源17a,17bから見て直列素子と並列素子の2素子を接続することで、回路定数を位相差に応じて変化させること無く、位相差0°又は180°のときのインピーダンスを個別に調整できるようにする。
上記したように、本実施形態においては、高周波電源17a,17bからみた並列素子として、ループ回路20の短絡線21の両端部に直列にキャパシタ22a,22bを接続する。ループ回路20の短絡線21は1波長の整数倍とされているので、位相差0°又は180°において、キャパシタ22a,22bと短絡線21の関係はそれぞれ、キャパシタ+開放(アース電位に対して高インピーダンス)、キャパシタ+短絡(アース電位)となる。そのため、位相差0°の時のキャパシタは回路の電気特性に寄与しない。一方、位相差180°の時のキャパシタは回路の電気特性に寄与するため、キャパシタの調整によって位相差180°の電気特性のみを調整できるという特徴がある。
また、高周波電源17a,17bからみた直列素子として、高周波給電伝送路14a,14bにおける同軸給電部12a,12bとループ回路20の接続点との間に直列に同軸ケーブル26a,26bを接続する。位相差が0°のときと180°のときとでは、放電電極側のインピーダンスが大きく異なるので、同軸ケーブル26a,26bによるインピーダンス変化量が異なり、この差が直列素子によるインピーダンス調整代となる。
このように高周波電源から見て並列素子と直列素子とを接続することで、これらの組み合わせにより、位相差が0°のときと180°のときのインピーダンスを一致させることができ、位相変調時においても高周波電源から放電電極側のインピーダンスが変化せず、反射電力が理論上ゼロとすることができる。
キャパシタ22a,22b及び同軸ケーブル26a,26bの静電容量及びインピーダンスについても、高周波電源による位相変調時における位相差が0°又は180°のとき、回路の電気的特性が対極の関係にあることから、位相差が0°又は180°となるときの特性に着目して決定する必要がある。
具体的には、高周波電源17a,17bの位相差が0°のときは、直列側、すなわち高周波給電伝送路14a,14b上に見かけ上無限大の抵抗値の抵抗が接続されたのと等しい状態となり、すなわち、ループ回路20に接続されたキャパシタ22a,22bが存在しないのと等しい状態となる。このため、反射電力をループ回路に回生させるべく高周波電源17a,17bと放電電極3a〜3hとのインピーダンスを整合させるには、高周波給電伝送路14a,14bに接続されたインピーダンス素子(同軸ケーブル26a,26b)のみが有効となる。
他方、高周波電源17a,17bの位相差が180°のときは、高周波給電伝送路14a,14bに接続されたインピーダンス素子(同軸ケーブル26a,26b)だけでなく、ループ回路20に接続されたインピーダンス素子(キャパシタ22a,22b)も有効となる。また、一般に高周波電源17a,17bは、概ね50Ωのインピーダンスを有するものが適用されている。従って、このような特性に基づいて、最も効率的に反射電力を低減させることができるように各インピーダンス素子(キャパシタ22a,22b及び同軸ケーブル26a,26b)の値を定めることで反射電力を低減させる。なお、位相差0°のインピーダンスを整合器で50Ωに調整する場合には、位相差0°のインピーダンスは同軸ケーブル(特性インピーダンス50Ω)の長さに依存しないため、同軸ケーブルの長さを変えることで位相差0°と独立して位相差180°のインピーダンスを調整することができる。
なお、本実施形態においては、ループ回路に接続するインピーダンス素子にキャパシタを適用したが、インダクタを適用することも可能である。同様に、高周波給電伝送部14a,14bに接続するインピーダンス素子として同軸ケーブルを適用したが、インダクタを適用することも可能である。ループ回路に接続するインピーダンス素子及び高周波給電伝送部14a,14bに接続するインピーダンス素子は、上記した特性に基づいて最も効率的に反射電力を低減させることができるものを適用する。
次に、上記の構成からなる薄膜製造装置1において、高周波電源17a,17bにより高周波電力を供給した場合について説明する。薄膜製造装置1が起動すると、高周波電源17a,17bにより所定の周波数の高周波電力が高周波給電伝送路14a,14b、整合器13及び同軸給電部12a,12bを介して放電電極3a〜3hへ供給される。
本実施形態においては、整合器13と同軸給電部12a,12bとの間にループ回路20が形成されている。また、ループ回路20には、キャパシタ22a,22bが接続されており、このキャパシタ22a,22bの静電容量は、放電電極3a〜3hで反射される反射電力をループ回路20に効率的に回生させるように調整されていることから、放電電極3a〜3hで反射された反射電力を高周波電源17a、17bに戻さずにループ回路20に回生させることで、この反射電力を高周波電源17a、17bから供給された進行波としての高周波電力と同様に放電電極3a〜3hに供給する。
さらに、ループ回路20に接続されたキャパシタ22a,22bと、高周波給電伝送路14a,14bに接続された同軸ケーブル26a,26bにより、整合器13をインピーダンスの基準とした場合に、高周波電源17aからの高周波電力と高周波電源17bからの高周波電力との位相差が0°または180°のとき、高周波電源から見た放電電極3a〜3h側と高周波電源17a,17bとのインピーダンスが一致し、放電電極3a〜3hで反射される反射電力を低減することができる。
より具体的には、高周波電源17a,17bの位相差が0°のときは、高周波給電伝送路14a,14b、同軸給電部12a,12b及び高周波電源から見た放電電極3a〜3h側を含む全体が、整合器13により、高周波電源17a,17bのインピーダンスと同等の50Ωに近づくように調整される。そして、同軸ケーブル26a,26bによって、高周波電源17a,17bと高周波電源から見た放電電極3a〜3h側のインピーダンスが略一致するように調整される。
また、高周波電源17a,17bの位相差が180°のときは、同様に、周波給電伝送路14a,14b、同軸給電部12a,12b及び放電電極3a〜3hを含む全体が、整合器13により、高周波電源17a,17bのインピーダンスと同等の50Ωに近づくように調整される。その後、キャパシタ22a,22bにより高周波電源17a,17bの位相差が0°のときと略同じと看做せる状態に調整され、最終的に、同軸ケーブル26a,26bによって、高周波電源17a,17bと高周波電源から見た放電電極3a〜3h側のインピーダンスが略一致するように調整される。このように、高周波電源17aからの高周波電力と高周波電源17bからの高周波電力との位相差が0°または180°のとき、高周波電源から見た放電電極3a〜3h側と高周波電源17a,17bとのインピーダンスが略一致するので、高周波電源から見た放電電極3a〜3h側で反射される反射電力を低減することができる。
このように、本実施形態によれば、放電電極3a〜3hで反射された反射電力を高周波電源17a、17bに戻さずにループ回路20に回生させることで、この反射電力を高周波電源17a、17bから供給された進行波としての高周波電力と同様に放電電極3a〜3hに供給するので、放電電極における反射電力を抑制することができると共に、高周波電力の利用効率を向上させ、延いては、プラズマ発生効率を向上させ、基板上における製膜速度を向上させることができる。また、高周波電源17a、17bの破損を防止することができる。
なお、本実施形態において、ループ回路20に接続するインピーダンス素子としてキャパシタ22a,22bを適用したが、これに代えて、例えば、エアバリコン等のインピーダンスが可変可能なインピーダンス素子を適用することも可能である。この場合には、反射電力を低減するためのインピーダンス又は静電容量を容易に定めることができるという利点がある。また、キャパシタ22a,22bを、ループ回路20の両端部に接続する構成として説明したが、これに限られるものではなく、ループ回路20の短絡線21の中央部に一つのキャパシタを設ける構成とすることも可能である。
〔第1の実施形態及び第2の実施形態の変形例〕
上述した第1の実施形態及び第2の実施形態にかかる薄膜製造装置においては、高周波電力の周波数を調整する第1コンデンサ(位相調整部)23、コイル24及び高周波電力の振幅を調整する第2コンデンサ(振幅調整部)25を備えた、バリコンと称される整合器を適用した。
ところで、上述した実施形態では、ループ回路20及び高周波給電伝送路14a,14bにそれぞれインピーダンス素子を接続することで、これらのインピーダンス素子により高周波電源17a,17bと放電電極3a〜3hのインピーダンスを略一致するように調整できることから、整合器としては、上述した整合器13at〜13ht,13ab〜13hbに代えて、より簡素かつ安価な整合器を適用することができる。
具体的には、図6(a)に示すように、整合器50は、高周波電力と直列に接続されるインダクタ40と、インダクタ40の両端にインダクタ40に対してそれぞれ並列に接続される同軸ケーブルからなるコンデンサ41,42を備えている。コンデンサ41,42はそれぞれ接地されており、整合器50は、所謂π型の整合器となっている。
また、図6(b)に示すように、整合器51は、高周波電力と直列に接続されるインダクタ40及び同軸ケーブルからなるコンデンサ42と、インダクタ40の高周波電源側にインダクタ40に対して並列に接続される同軸ケーブルからなるコンデンサ41を備えている。コンデンサ41は接地され、所謂逆L型の整合器となっている。
図6(a)、(b)に示すπ型整合器及び逆L型整合器においては、コンデンサ41,42として何れも同軸ケーブルが適用されていることから、コンデンサ41,42は同軸ケーブルの長さを適宜変更することでその静電容量を調整することができる。従って、π型の整合器50及び逆L型の整合器51は何れも簡易且つ安価な構成となり、このような整合器を適用することで、放電電極における反射電力を抑制しつつ、薄膜製造装置の設備コストを低減することができる。
〔第3の実施形態〕
次に、本発明の第3の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態の薄膜製造装置の基本構成は、第1の実施形態と同様であるため、異なる構成についてのみ説明し、その他第1の実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図7は、本実施形態における放電電極3に対する電力の供給等を説明する概略図である。
本実施形態は第1の実施形態における整合器13at〜13ht,13ab〜13hbに代えて、整合器13at〜13ht,13ab〜13hbよりも構成が簡素であり低コストの整合回路43at〜43ht,43ab〜43hbが設けられている。具体的には、整合回路43at〜43ht,43ab〜43hbは、可変キャパシタとしてのエアバリコン44at〜44ht,44ab〜44hb及びインダクタ45at〜45ht,45ab〜45hb。
高周波給電伝送路14aにおける高周波電源17aと整合回路43at〜43htとの間と、高周波給電伝送路14bにおける高周波電源17bと整合回路43ab〜43hbとの間は、電気的に接続され第1ループ回路40を形成している。すなわち、高周波給電伝送路14aにおける整合回路43at〜43htの入口と高周波給電伝送路14bにおける整合回路43ab〜43hbの入口とは、図7に示すように、第1ループ回路40によりそれぞれ電気的に接続されている。第1ループ回路40は、高周波電源から出力される高周波電力の周波数に対して、その線路内電圧波長の整数倍の長さを有する短絡線21と短絡線21との両端部に接続されたインピーダンス素子としてのインダクタ20a,20bとを備えている。ここで、インダクタ20a,20bのインダクタンスは、放電電極3a〜3hで反射される反射電力をループ回路20に効率的に回生させるように調整され、例えば、320nHとされている。短絡線21としては、例えば、同軸ケーブルを適用することができる。
また、高周波給電伝送路14a,14bにおける整合回路43at〜43ht,43ab〜43hbとループ回路20の接続点との間には、インピーダンス素子としてのエアバリコン32a,32bがそれぞれ接続されている。ここで、エアバリコン32a,32bの静電容量は、放電電極3a〜3hで反射される反射電力を抑制するように調整されている。
更に、エアバリコン32a,32bの両端に、第2ループ回路41及び第3ループ回路が夫々接続されている。即ち、高周波給電伝送路14a,14bに接続されたエアバリコン32a,32bの接続点側の各端部が第2ループ回路41により電気的に接続されている。第2ループ回路41は、高周波電源から出力される高周波電力の周波数に対して、その線路内電圧波長の整数倍の長さを有する2つの短絡線46と、短絡線46の間に接続された可変インピーダンス素子としてのエアバリコン47とを備えている。同様に、高周波給電伝送路14a,14bに接続されたエアバリコン32a,32bの放電電極3a〜3h側の各端部が第3ループ回路42により電気的に接続されている。第3ループ回路42は、高周波電源から出力される高周波電力の周波数に対して、その線路内電圧波長の整数倍の長さを有する2つの短絡線48と、短絡線48の間に接続された可変インピーダンス素子としてのエアバリコン49とを備えている。
ところで、後述する高周波電源17aと高周波電源17bとは、一方の高周波電源から供給する高周波電力の位相を基準として、他方の高周波電源から供給する高周波電力の位相を可変とすることで位相変調を行いつつ放電電極3a〜3hへ電力を供給している。この高周波電源17a,17bによる電力供給時、すなわち、位相変調時における位相差が0°又は180°のとき、電気的特性が対極の関係にある。従って、位相変調時に高周波電源17a,17bへの反射電力を低減させるためには、位相差が0°又は180°となるときの特性に着目して、高周波電源17a,17bのインピーダンスと位相差が0°又は180°のときの放電電極側のインピーダンスとを近づけることが必要となる。そこで、高周波電源17a,17bから見て直列素子と並列素子の2素子を接続することで、回路定数を位相差に応じて変化させること無く、位相差0°又は180°のときのインピーダンスを個別に調整できるようにする。
上記したように、本実施形態においては、高周波電源17a,17bからみた並列素子として、第1ループ回路40の短絡線21の両端部に直列にインダクタ20a,20bを接続する。第1ループ回路40の短絡線21は1波長の整数倍とされているので、位相差0°又は180°において、インダクタ20a,20bと短絡線21の関係はそれぞれ、インダクタ20a,20b+開放(アース電位に対して高インピーダンス)、インダクタ20a,20b+短絡(アース電位)となる。そのため、位相差0°の時のインダクタ20a,20bは回路の電気特性に寄与しない。一方、位相差180°の時のキャパシタは回路の電気特性に寄与するため、キャパシタの調整によって位相差180°の電気特性のみを調整できるという特徴がある。
また、高周波電源17a,17bからみた直列素子として、高周波給電伝送路14a,14bにおける同軸給電部12a,12bとループ回路20の接続点との間に直列にエアバリコン32a,32bを接続する。位相差が0°のときと180°のときとでは、放電電極側のインピーダンスが大きく異なるので、エアバリコン32a,32bによるインピーダンス変化量が異なり、この差が直列素子によるインピーダンス調整代となる。
さらに、高周波電源17a,17bからみた並列素子として、第2ループ回路41の短絡線46,46の間にエアバリコン47を、同様に並列素子として第3ループ回路42の短絡線48,48の間にエアバリコン49を接続している。短絡線46及び短絡線48は、それぞれ1波長の整数倍とされているので、位相差0°又は180°において、エアバリコン47,49と短絡線46,48の関係はそれぞれ、エアバリコン47,49+開放(アース電位に対して高インピーダンス)、エアバリコン47,49+短絡(アース電位)となる。そのため、位相差0°の時のエアバリコン47,49は回路の電気特性に寄与しない。一方、位相差180°の時のエアバリコン32a,32bは回路の電気特性に寄与するため、エアバリコン32a,32の調整によって位相差180°の電気特性のみを調整できるという特徴がある。
このように高周波電源から見た並列素子と直列素子とを接続することで、これらの組み合わせにより、位相差が0°のときと180°のときのインピーダンスを一致させることができ、位相変調時においても高周波電源から放電電極側のインピーダンスが変化せず、反射電力が理論上ゼロとすることができる。
整合回路43at〜43ht,43ab〜43hbのエアバリコン44at〜44ht,44ab〜44hb及びインダクタ45at〜45ht,45ab〜45hbはもちろん、インダクタ20a,20b、エアバリコン32a,32b、エアバリコン47及びエアバリコン49の静電容量及びインピーダンスについても、高周波電源による位相変調時における位相差が0°又は180°のとき、回路の電気的特性が対極の関係にあることから、位相差が0°又は180°となるときの特性に着目して決定する必要がある。
具体的には、高周波電源17a,17bの位相差が0°のときは、直列側、すなわち高周波給電伝送路14a,14b上に見かけ上無限大の抵抗値の抵抗が接続されたのと等しい状態となり、すなわち、第1ループ回路40に接続されたインダクタ20a,20b、第2ループ回路41に接続されたエアバリコン47及び第3ループ回路に接続されたエアバリコン49が存在しないのと等しい状態となる。このため、反射電力を第1ループ回路40、第2ループ回路41及び第3ループ回路42に回生させるべく高周波電源17a,17bと放電電極3a〜3hとのインピーダンスを整合させるには、高周波給電伝送路14a,14bに接続されたインピーダンス素子である、エアバリコン32a,32bのみが有効となる。
他方、高周波電源17a,17bの位相差が180°のときは、高周波給電伝送路14a,14bに接続されたエアバリコン32a,32bだけでなく、第1ループ回路40、第2ループ回路41及び第3ループ回路に接続されたインピーダンス素子(インダクタ20a,20b、エアバリコン47及びエアバリコン49)も有効となる。また、一般に高周波電源17a,17bは、概ね50Ωのインピーダンスを有するものが適用されている。従って、このような特性に基づいて、最も効率的に反射電力を低減させることができるように各インピーダンス素子(インダクタ20a,20b及びエアバリコン32a,32b、エアバリコン47及びエアバリコン49)の値を定めることで反射電力を低減させる。なお、位相差0°のインピーダンスを整合器で50Ωに調整する場合には、位相差0°のインピーダンスは同軸ケーブル(特性インピーダンス50Ω)の長さに依存しないため、同軸ケーブルの長さを変えることで位相差0°と独立して位相差180°のインピーダンスを調整することができる。
なお、本実施形態においては、ループ回路に接続するインピーダンス素子にインダクタ又はエアバリコンを適用したが、他のインピーダンス素子を適用することも可能である。同様に、高周波給電伝送部14a,14bに接続するインピーダンス素子として同軸ケーブルを適用したが、インダクタを適用することも可能である。ループ回路に接続するインピーダンス素子及び高周波給電伝送部14a,14bに接続するインピーダンス素子は、上記した特性に基づいて最も効率的に反射電力を低減させることができるものを適用する。
次に、上記の構成からなる薄膜製造装置1において、高周波電源17a,17bにより高周波電力を供給した場合について説明する。薄膜製造装置1が起動すると、高周波電源17a,17bにより所定の周波数の高周波電力が高周波給電伝送路14a,14b、整合器13及び同軸給電部12a,12bを介して放電電極3a〜3hへ供給される。
本実施形態においては、整合器13と同軸給電部12a,12bとの間に第1ループ回路40が形成されている。また、第1ループ回路40、第2ループ回路41及び第3ループ回路には、夫々インダクタ20a,20b、エアバリコン47及びエアバリコン49が接続されており、このインダクタ20a,20b、エアバリコン47及びエアバリコン49のインピーダンス又は静電容量は、放電電極3a〜3hで反射される反射電力を第1ループ回路40、第2ループ回路41及び第3ループ回路42に効率的に回生させるように調整されていることから、放電電極3a〜3hで反射された反射電力を高周波電源17a、17bに戻さずに第1ループ回路40、第2ループ回路41及び第3ループ回路42に回生させることで、この反射電力を高周波電源17a、17bから供給された進行波としての高周波電力と同様に放電電極3a〜3hに供給する。
さらに、第1ループ回路40、第2ループ回路41及び第3ループ回路に接続されたインダクタ20a,20b、エアバリコン47及びエアバリコン49と、高周波給電伝送路14a,14bに接続されたエアバリコン32a,32bにより、整合回路43をインピーダンスの基準とした場合に、高周波電源17aからの高周波電力と高周波電源17bからの高周波電力との位相差が0°または180°のとき、高周波電源から見た放電電極3a〜3h側と高周波電源17a,17bとのインピーダンスが一致し、放電電極3a〜3hで反射される反射電力を低減することができる。
より具体的には、高周波電源17a,17bの位相差が0°のときは、高周波給電伝送路14a,14b、同軸給電部12a,12b及び高周波電源から見た放電電極3a〜3h側を含む全体が、整合器13により、高周波電源17a,17bのインピーダンスと同等の50Ωに近づくように調整される。そして、同軸ケーブル26a,26bによって、高周波電源17a,17bと高周波電源から見た放電電極3a〜3h側のインピーダンスが略一致するように調整される。
また、高周波電源17a,17bの位相差が180°のときは、同様に、周波給電伝送路14a,14b、同軸給電部12a,12b及び放電電極3a〜3hを含む全体が、整合回路43により、高周波電源17a,17bのインピーダンスと同等の50Ωに近づくように調整される。その後、ンダクタ20a,20b、エアバリコン47及びエアバリコン49により高周波電源17a,17bの位相差が0°のときと略同じと看做せる状態に調整され、最終的に、エアバリコン32a,32bによって、高周波電源17a,17bと高周波電源から見た放電電極3a〜3h側のインピーダンスが略一致するように調整される。このように、高周波電源17aからの高周波電力と高周波電源17bからの高周波電力との位相差が0°または180°のとき、高周波電源から見た放電電極3a〜3h側と高周波電源17a,17bとのインピーダンスが略一致するので、高周波電源から見た放電電極3a〜3h側で反射される反射電力を低減することができる。
このように、本実施形態によれば、放電電極3a〜3hで反射された反射電力を高周波電源17a、17bに戻さずに第1ループ回路40、第2ループ回路41及び第3ループ回路に回生させることで、この反射電力を高周波電源17a、17bから供給された進行波としての高周波電力と同様に放電電極3a〜3hに供給するので、放電電極における反射電力を抑制することができると共に、高周波電力の利用効率を向上させ、延いては、プラズマ発生効率を向上させ、基板上における製膜速度を向上させることができる。また、高周波電源17a、17bの破損を防止することができる。
また、本実施形態の整合回路43は、インダクタ44とエアバリコン45とから構成されるものであるため、簡易かつ低コストの回路を実現することができる。さらに、第2ループ回路及び第3ループ回路にはインピーダンス素子として、エアバリコン47、エアバリコン49を適用しているため、静電容量の調整を容易に行うことができる。特に、第2ループ回路及び第3ループ回路を、例えば制膜室6の外部に設けるなどして、作業員の操作が可能な場所に設置することでより一層、静電容量の調整を容易に行うことができる。
また、上述した全ての実施形態において、高周波電源と整合器または整合回路との間に、高周波電源から見た放電電極側のインピーダンスを算出するための電流、電圧及び位相差を計測するセンサを設けることができる。この場合には、電流、電圧及び位相差を所望のタイミングで計測することができ、電流、電圧及び位相差に基づいて高周波電源から見た放電電極側のインピーダンスを算出することができる。特に、このような電流、電圧及び位相差を計測するセンサとして、容量分圧器、適用する基板処理装置に応じて抵抗分圧器、及びロゴスキーコイル等を用いた電流プローブを組み合わせた回路を適用することができる。そして、このような回路によって計測された電流、電圧及び位相差に基づき、例えば、汎用の表計算ソフトウェアなどを用いてインピーダンスを算出する。
このような回路によれば、低コストのセンサを実現することができるため、電流、電圧及び位相差を計測する度に逐一基板処理装置に対してセンサを取り付ける必要がなく、基板処理装置に電流、電圧及び位相差を計測するセンサを常設することが可能となる。従って、電流、電圧及び位相差を計測する際に、センサに所定のケーブル等を取り付けるのみで、容易に電流、電圧及び位相差を計測することができ、これらに基づいて高周波電源から見た放電電極側のインピーダンスを算出することができる。各インピーダンス素子のインピーダンス又は静電容量を、算出されたインピーダンスに基づいて調整することができるので、インピーダンス調整に要するコスト及び時間を大幅に低減することができる。