JP2010279260A - 麦芽発酵飲料用大麦種の選抜方法及び麦芽発酵飲料 - Google Patents

麦芽発酵飲料用大麦種の選抜方法及び麦芽発酵飲料 Download PDF

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Abstract

【課題】 作業が容易で、短時間で遺伝子型を判別でき、多検体を処理することが可能で、泡持ちの優れる麦芽発酵飲料用の大麦種をより確実に選抜できる選抜方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 泡持ちの優れる麦芽発酵飲料用の大麦種を選抜する選抜方法であって、被検大麦種について、Haruna型の大麦プロテインZ4遺伝子座周辺領域の塩基配列と、Copeland型の大麦プロテインZ4遺伝子座周辺領域の塩基配列とのアラインメントにより特定されるDNAマーカーの少なくとも一つについて遺伝子型を同定し、Copeland型の遺伝子型に一致する被検大麦種を、泡持ちの優れる大麦種として選抜する選抜方法を提供する。
【選択図】 なし

Description

本発明は、麦芽発酵飲料用大麦種の選抜方法及び麦芽発酵飲料に関する。
ビール等の麦芽発酵飲料の泡は、薄い液体の膜に包まれた炭酸ガスの気泡の集合体であり、気が抜けたり、香味が変化したりするのを防ぐ蓋の役目をするほか、香り立ちを向上させる働きがある。このため、泡持ちはビール等の麦芽発酵飲料の品質を左右する重要な要因の一つである。
泡持ちの良し悪しは様々な要因から成り立っているが、その要因の一つとしてタンパク質の関与が考えられており、プロテインZ(Z4、Z7)やLTP−1といったタンパク質が泡持ちに関連するタンパク質としてこれまでに取り上げられてきた(例えば非特許文献1−3を参照)。
プロテインZ4については、泡持ちに関与するとする報告(非特許文献4)、また直接泡持ちには関与していないと示唆する報告があり(非特許文献5)、プロテインZ4と泡持ちの関係にはいまだ議論の余地がある。一方、これまでに種子プロテインZ4含有量に関するRestriction Fragment Length Polymorphism(RFLP)マーカーが開発されている(非特許文献6)。
J.Agric.Food.Chem.,56巻,1458−1464頁,2008年 J.Agric.Food.Chem.,56巻,8664−8671頁,2008年 J.Am.Soc.Brew.Chem.,60巻,47−57頁,2002年 J.Inst.Brew.,105巻,171−177頁,1999年 Proc.Congr.Eur.Brew.Conv.,22巻,561−568頁,1989年 Breed.Sci.,49巻,69−74頁,1999年
麦芽発泡飲料用の大麦育種において、泡持ちの優れた大麦種の当該形質を確実に後代へと伝えていくことは必須かつ重要な課題である。近年、作物の育種において、様々な形質に関して、DNAマーカーを利用した当該形質を有する作物の選抜技術が開発されているが、これまでのところ泡持ちに関して有効なDNAマーカーは報告されていない。
これまでに大麦種子中のプロテインZ4含有量に関するRFLPマーカーが非特許文献6に開示されている。しかしながら、RFLP法はゲノムDNAの制限酵素切断とサザンハイブリダイゼーションを基にした方法であって、作業が煩雑なうえ、遺伝子型を判別するのに多大な時間を要し、さらに多検体を処理するのには不向きな選抜方法である。
そこで、本発明の目的は、作業が容易で、短時間で遺伝子型を判別でき、多検体を処理することが可能で、泡持ちの優れる麦芽発酵飲料用の大麦種をより確実に選抜できる選抜方法を提供することにある。
本発明は、泡持ちの優れる麦芽発酵飲料用の大麦種を選抜する選抜方法であって、
被検大麦種について、
Haruna型の大麦プロテインZ4遺伝子座周辺領域の塩基配列と、Copeland型の大麦プロテインZ4遺伝子座周辺領域の塩基配列とのアラインメントにより特定されるDNAマーカーの少なくとも一つについて遺伝子型を同定し、Copeland型の遺伝子型に一致する被検大麦種を、泡持ちの優れる大麦種として選抜する選抜方法を提供する。
ここで、「Haruna型」とは、プロテインZ4遺伝子座周辺領域に存在する前記DNAマーカーの遺伝子型が、はるな二条種の前記DNAマーカーの遺伝子型と一致する大麦種を表す。「Haruna型」のプロテインZ4遺伝子座周辺領域の塩基配列の一例としては、配列番号1で示される塩基配列が挙げられる。
同様に、「Copeland型」とは、プロテインZ4遺伝子座周辺領域に存在する前記DNAマーカーの遺伝子型が、Copeland種の前記DNAマーカーの遺伝子型と一致する大麦種を表す。「Copeland型」のプロテインZ4遺伝子座周辺領域の塩基配列の一例としては、配列番号2で示される塩基配列が挙げられる。
上記Haruna型の大麦プロテインZ4遺伝子座周辺領域の塩基配列及びCopeland型の大麦プロテインZ4遺伝子座周辺領域の塩基配列をアラインメントすることにより、前記両塩基配列が一致しない塩基部位が見出され、DNAマーカーとして特定することができる。大麦プロテインZ4遺伝子座周辺領域には複数の前記DNAマーカーがあり、被検大麦種において、前記DNAマーカーの少なくとも一つについて、遺伝子型を同定し、Copeland型の遺伝子型に一致する被検大麦種を選抜する。
ここで、被検大麦種において複数同定された遺伝子型のうち、少なくとも1つがCopeland型の遺伝子型と一致すればよい。
上述した本発明における選抜方法では、大麦プロテインZ4含有量と相関する新規なDNAマーカーを利用し、その遺伝子型に基づいて被検大麦種を選抜することにより、プロテインZ4含有量の高い被検大麦種をより確実に選抜することができる。
本発明者らは、後段で詳述するように、ビールにおいてプロテインZ4含有量と泡持ちとの間に有意な相関関係があることを確認し(図1参照)、プロテインZ4含有量が泡持ちの有効なマーカーになりうることを見出した。したがって、上述した選抜方法により、泡持ちの優れる被検大麦種を選抜することができる。
麦芽発酵飲料の泡持ちは、例えば、20℃の麦芽発酵飲料を泡注ぎ出し機で標準グラスに注いで生じる泡の高さが30mm降下するのに要する時間(秒)(NIBEM値)を判定基準とすることができる。
上記DNAマーカーとして、配列番号1及び配列番号2で特定される塩基配列のアラインメントにより特定されるDNAマーカーを例示できる。例えば、配列番号1で示される塩基配列の第12番目、第14番目、第46番目、第240番目、第286−288番目、第866番目又は第952番目の塩基に相当する塩基部位である(以下順にM1、M2、M3、M4、M5、M6及びM7と呼ぶ)。
本発明は、(1)上記DNAマーカーを少なくとも一つ含むポリヌクレオチドを、被検大麦種のDNAを鋳型としてPCR法によって増幅し、(2)該ポリヌクレオチドを用いて、該DNAマーカーのうち少なくとも一つについて塩基種を同定し、(3)同定された遺伝子型がCopeland型の遺伝子型と一致する大麦種を泡持ちの優れる大麦種として選抜する方法を提供する。
上記選抜方法においては、大麦からDNAを抽出する作業工程、PCR法によりDNAマーカーを含むポリヌクレオチドを増幅する作業工程、ポリヌクレオチドのシークエンスを解析する作業工程、といった基本的かつ比較的容易な操作のみで短時間でDNAマーカーの遺伝子型を同定することができるため、多検体を処理することが可能となる。
本発明はまた、(1)上記DNAマーカーを少なくとも一つ含むポリヌクレオチドを、被検大麦種のDNAを鋳型としてPCR法によって増幅し、(2)該ポリヌクレオチドを制限酵素と反応させ、(3)該DNAマーカー位置にて前記制限酵素によるポリヌクレオチドの切断が生じるか否かで遺伝子型を同定し、(4)同定された遺伝子型がCopeland型の遺伝子型と一致する大麦種を泡持ちの優れる大麦種として選抜する方法を提供する。
上記選抜方法においては、大麦種からDNAを抽出する作業工程、PCRによりDNAマーカーを少なくとも一つ含むポリヌクレオチドを増幅する作業工程、制限酵素と反応させる作業工程及びアガロースゲル電気泳動によりDNA断片サイズを検出する作業工程、といった基本的かつ比較的容易な操作のみでDNAマーカーの遺伝子型を同定することができる。また、DNA断片サイズを検出する作業工程に要する時間が短く、多検体を処理することが可能である。さらに、塩基配列の解読を必要としないため、遺伝子型の同定にかかるコストを低く抑えることができる。
本発明はまた、上記選抜方法によって選抜された大麦種の交配後代系統に由来する大麦種を提供する。
本発明は、仕込工程及び発酵工程を少なくとも備える麦芽発酵飲料の製造方法であって、前記仕込工程で使用される大麦種が、本発明の選抜方法によって選抜された大麦種である、麦芽発酵飲料の製造方法を提供する。
本発明はまた、上記製造方法で得ることのできる麦芽発酵飲料を提供する。
本発明の選抜方法によって選抜された大麦種は、プロテインZ4含有量が高く、当該大麦種から製造される麦芽発酵飲料は、泡持ちに優れる。
本発明により、泡持ちの優れる麦芽発酵飲料用の大麦種をより確実に選抜することができる。また、泡持ちの優れる麦芽発酵飲料用の大麦種を選抜する際、容易な作業によって、短時間で遺伝子型を同定でき、多検体を処理することが可能となる。
ビールにおけるプロテインZ4含有量とNIBEM値との関係を表すグラフである。 配列番号1及び配列番号2で特定されるHaruna型及びCopeland型の大麦プロテインZ4遺伝子座周辺領域の塩基配列、並びに配列番号3で特定されるKendall種の大麦プロテインZ4遺伝子座周辺領域の塩基配列のアラインメント図である。アラインメントによって特定されたDNAマーカーを矢印で示した。四角で囲われた塩基配列は、プロテインZ4の開始コドン(ATG)及び終止コドン(TAA)に相当する塩基配列である。 PCR法によりDNAマーカーM3を含むポリヌクレオチドを増幅後、制限酵素AccIと反応させ、アガロースゲル電気泳動及びエチジウムブロマイド染色により電気泳動パターンを視覚化した写真である。各レーン上部に記載されたH又はCは、被検大麦種の遺伝子型がHaruna型の遺伝子型又はCopeland型の遺伝子型と一致することを示す。 既往大麦種を図3に示した方法でHaruna型とCopeland型に選別し、平均プロテインZ4含有量を比較したグラフである。 大麦ミカモゴールデン−Harringtonの倍化半数体系統を図3に示した方法でHaruna型とCopeland型に選別し、平均プロテインZ4含有量を比較したグラフである。 DNAマーカーM1、M2、M3、M4、M6及びM7の塩基種を同定し、Haruna型とCopeland型に選別した大麦種の平均プロテインZ4含有量を比較したグラフである。 DNAマーカーM5の塩基種を同定し、Haruna型とCopeland型に選別した大麦種の平均プロテインZ4含有量を比較したグラフである。 プロテインZ4遺伝子が座上する4H染色体のマーカー地図を示したものである。 大麦ミカモゴールデン−Harringtonの倍化半数体系統をRFLPマーカーMWG2033DraでHaruna型とCopeland型に選別し,平均プロテインZ4含有量を比較したグラフである。
以下、本発明を実施するための形態について、さらに詳細に説明する。
本発明は、泡持ちの優れる麦芽発酵飲料用の大麦種を選抜する選抜方法であって、
被検大麦種について、Haruna型の大麦プロテインZ4遺伝子座周辺領域の塩基配列と、Copeland型の大麦プロテインZ4遺伝子座周辺領域の塩基配列のアラインメントにより特定されるDNAマーカーの少なくとも一つについて遺伝子型を同定し、Copeland型の遺伝子型に一致する被検大麦種を、泡持ちの優れる大麦種として選抜する選抜方法を提供する。
本発明において、大麦プロテインZ4の遺伝子座周辺領域とは、大麦プロテインZ4のエキソン、イントロンのみならず、転写制御に関わるDNA領域及びその周辺領域をも含むものである。ここで、大麦プロテインZ4遺伝子座周辺領域としては、開始コドンに相当するATG配列の上流25cM以内の範囲とすることができ、5cM以内の範囲とすることが好ましく、1cMの範囲とすることがより好ましい。また、終止コドンに相当するTAA配列の下流25cM以内の範囲とすることができ、5cMの範囲とすることが好ましく、更に1cMの範囲とすることがより好ましい。
ここで、cM(センチモルガン)とは、遺伝学的方法によって定まる染色体上での遺伝子間の距離を表す単位であって、減数分裂1回当たり、相同染色体間に平均1回の交叉が起こる距離を1Mとし、その1/100の距離を1cMという。
すなわち、プロテインZ4遺伝子座から5cM以内であれば、組換えが生じる確率が5%以内となり、さらに1cM以内であればその確率が1%以内となるため、上記DNAマーカーとプロテインZ4含有量との相関関係が、高い確率で保たれることになる。したがって、この範囲内とすることでプロテインZ4含有量の高い被検大麦種をより確実に、統計上有意に選抜することができる。
大麦プロテインZ4遺伝子座周辺領域の塩基配列は、例えば、大麦種から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、PCR法により大麦プロテインZ4遺伝子座周辺領域からDNA断片を増幅し、必要に応じて該DNA断片を精製し、該DNA断片を鋳型としたシークエンス解析によって塩基配列を決定することにより入手できる。
ここで、ゲノムDNAは大麦のどの部位から抽出されてもよく、大麦の葉、茎、根、種子等をゲノムDNAソースとして利用可能である。ゲノムDNAの抽出方法は、特に限定されるものではなく、常用される方法を一般に適用可能である。また、市販されているキット類も好適に使用可能である。
PCRのプライマーは、NCBI、Gene Bank等のデータベースを利用し、大麦プロテインZ4遺伝子座周辺領域に相当するゲノムの塩基配列を入手し、その塩基配列情報に基づいて設計することができる。プライマーの長さ、塩基配列、GC含有量等のパラメーターの決定については、当業者の通常の試行錯誤の範囲内であり、適宜決定されうる。また、PCR法、増幅DNA精製、シークエンスについては、当該技術分野で汎用されている手法を適用することができる。
本発明では、上記Haruna型の大麦プロテインZ4遺伝子座周辺領域の塩基配列及びCopeland型の大麦プロテインZ4遺伝子座周辺領域の塩基配列をアラインメントすることにより、前記両塩基配列が一致しない塩基部位が見出され、DNAマーカーとして特定することができる。
ここで、Haruna型の大麦プロテインZ4遺伝子座周辺領域の塩基配列は、代表的には大麦はるな二条種からゲノムDNAを抽出し、上述した方法により決定できる。また、はるな二条種以外の大麦種から抽出したゲノムDNAを用いることも可能であり、そのような大麦種の例として、これらに限定されるものではないが、ミカモゴールデン、りょうふう、りょううん、北育41号、Lofty Nijo、Schooner、Flanklin、Barke種などが例示できる。
Copeland型の大麦プロテインZ4遺伝子座周辺領域の塩基配列は、代表的には大麦Copeland種からゲノムDNAを抽出し、上述した方法により決定できる。また、Copeland種以外の大麦種から抽出したゲノムDNAを用いることも可能であり、そのような大麦種の例として、これらに限定されるものではないが、AC Metcalfe、Harrington、Flagship、Gairdner種などが例示できる。
本発明においてアラインメントとは、対応する塩基配列部分が並ぶよう、適宜空白(ギャップ)を入れて塩基配列を整列したものをいう。また、3つ以上の塩基配列における多重整列についても、アラインメントと呼ぶ。整列を最適化するために導入されるギャップ部分については、本発明においては塩基配列が一致しない塩基部位、すなわちDNAマーカーとして特定する。
アラインメントにあたっては、公知のアラインメント作成プログラムを利用することができる。例えばClustal W、Clustal Xなどが好適に利用可能である。
本発明におけるDNAマーカーの一例として、配列番号1で特定される塩基配列の第12番目、第14番目、第46番目、第240番目、第286−288番目、第866番目又は第952番目の塩基に相当する塩基部位を例示できる(M1、M2、M3、M4、M5、M6及びM7)。
本発明は、(1)上記DNAマーカーを少なくとも一つ含むポリヌクレオチドを、被検大麦種のDNAを鋳型としてPCR法によって増幅し、(2)該ポリヌクレオチドを用いて、該DNAマーカーのうち少なくとも一つについて塩基種を同定し、(3)同定された遺伝子型がCopeland型の遺伝子型と一致する大麦種を泡持ちの優れる大麦種として選抜する方法を提供する。
被検大麦種からのゲノムDNAの抽出方法は、特に限定されるものではなく、常用される方法を一般に適用可能である。また、市販されているキット類も好適に使用可能である。一方、ゲノムDNAは被検大麦種の葉、茎、根、種子等の部位から抽出されてもよいが、育種段階での選抜を考慮すれば、葉から抽出するのが好ましい。葉から抽出することにより、早い段階で望ましい形質を有する大麦を選抜することができる。
上記ゲノムDNAから、少なくとも一つの上記DNAマーカーを含むポリヌクレオチドをPCRにより増幅する場合においては、DNAマーカーを特定する際に決定した大麦プロテインZ4遺伝子座周辺領域の塩基配列を基にPCR用プライマーを設計することができる。該プライマーにより増幅されるポリヌクレオチドの長さとしては、20〜30000bpとすることができる。PCR法での増幅効率、増幅されたポリヌクレオチドを解析する際の取り扱いの容易さ等を勘案すれば、上限値は10000bpとするのが好ましく、より好ましくは3000bpであり、さらに好ましくは2000bpである。同様に下限値は100bpとするのが好ましく、より好ましくは300bp、さらに好ましくは500bpである。PCR法に用いるポリメラーゼの種類を当業者に良く知られたものの中から適宜選択することにより、上述した長さを有するポリヌクレオチドを増幅することができる。
上記ポリヌクレオチドを用いてDNAマーカーの塩基種を同定する方法としては、シークエンス解析により塩基配列を解読する方法などが好適に利用可能である。
該DNAマーカーの同定された塩基種と、Haruna型及びCopeland型の当該DNAマーカーの塩基種とを比較し、Copeland型の塩基種と一致する被検大麦種を選抜する。これにより、泡持ちの優れた大麦種の選抜が可能となる。
上述した塩基種の比較は、一つのDNAマーカーについて実施することもできるし、又は二つ以上のDNAマーカーについて実施することもできる。二つ以上のDNAマーカーについて比較を行なった場合は、当該DNAマーカーのうち少なくとも一つがCopeland型と一致する大麦種を選抜する。この場合も、泡持ちの優れた大麦種を選抜できる。
本発明はまた、(1)上記DNAマーカーを少なくとも一つ含むポリヌクレオチドを、被検大麦種のDNAを鋳型としてPCR法によって増幅し、(2)該ポリヌクレオチドを制限酵素と反応させ、(3)該DNAマーカー位置にて前記制限酵素によるポリヌクレオチドの切断が生じるか否かを同定し、(4)同定された遺伝子型がCopeland型の遺伝子型と一致する大麦種を泡持ちの優れる大麦種として選抜する方法を提供する。
上記DNAマーカーの遺伝子型によっては、Haruna型又はCopeland型のいずれかのみにおいて、該DNAマーカー位置に制限酵素が認識できる塩基配列が形成されうる。この場合においては、PCR法により該DNAマーカーを含むポリヌクレオチドを増幅した後、当該制限酵素により切断が生じるか否かで遺伝子型を同定できる。
被検大麦種からのゲノムDNAの抽出方法、及びゲノムDNAを抽出する部位については上述した通りである。
PCR法により上記DNAマーカーを少なくとも一つ含むポリヌクレオチドを増幅する工程において、PCR用プライマーの設計は上述した通りである。該プライマーにより増幅されるポリヌクレオチドの長さとしては、特に限定はないが、後の工程で制限酵素切断断片をフラグメントのサイズで検出することを考慮すれば、上限値を5000bpとするのが好ましく、より好ましくは3000bpであり、さらに好ましくは2000bpである。同様に下限値は、200bpが好ましく、より好ましくは300bpであり、さらに好ましくは500bpである。PCR法に用いるポリメラーゼの種類を当業者に良く知られたものの中から適宜選択することにより、上述した長さを有するポリヌクレオチドを増幅することができる。
制限酵素による反応は、公知の至適緩衝液、至適反応温度により実施することができる。また、アガロースゲル電気泳動によりDNA断片サイズを検出する工程も、当業者に常用される方法で実施することができる。
アガロースゲル電気泳動によるDNA断片サイズの検出の結果、DNA断片の数、DNA断片のサイズから、当該DNAマーカー位置にて制限酵素による切断が生じたか否かを判定できる。これを遺伝子型とし、Copeland型の遺伝子型と一致する被検大麦種を選抜すればよい。
本発明はまた、上記選抜方法によって選抜された大麦種の交配後代系統に由来する大麦種を提供する。
上記選抜方法によって選抜された大麦種は、ゲノムDNAの塩基配列がCopeland型と一致しており、該大麦種間で交配した場合、後代系統の大麦種もほぼ確実にCopeland型となり、プロテインZ4含量が高い。したがって、泡持ちの優れる麦芽発酵飲料用の大麦種として有用である。
本発明はまた、仕込工程及び発酵工程を少なくとも備える麦芽発酵飲料の製造方法であって、前記仕込工程で使用される大麦種が、本発明の選抜方法によって選抜された大麦種又は本発明の選抜方法によって選抜された大麦種の交配後代系統に由来する大麦種である、麦芽発酵飲料の製造方法を提供する。
本発明はまた、上記製造方法で得ることのできる麦芽発酵飲料を提供する。
本発明により選抜された大麦種又は本発明の選抜方法によって選抜された大麦種の交配後代系統に由来する大麦種を製麦することにより麦芽を得ることができる。製麦の方法としては特に制限されず公知の方法で行えば良い。具体的には、例えば、浸麦度が40%〜45%に達するまで浸麦後、10〜20℃で3〜6日間発芽させ、焙燥して麦芽を得ることができる。
上記仕込工程は、麦芽や大麦を含む原料と仕込用水とを混合し、得られた混合物を加温することにより麦芽や大麦を糖化させ、前記糖化された麦芽や大麦から麦汁を採取する工程である。この仕込工程には、本発明により選抜された大麦種又は本発明の選抜方法によって選抜された大麦種の交配後代系統に由来する大麦種から得られた麦芽のみならず、本発明により選抜された大麦種又は本発明の選抜方法によって選抜された大麦種の交配後代系統に由来する大麦種そのものも使用することができる。また、さらに原料として、上記麦芽や大麦以外に、コーンスターチ、コーングリッツ、米、糖類等の副原料を添加しても良い。
上記発酵工程は、前記麦汁にホップを添加し、煮沸、冷却した冷麦汁に酵母を添加して発酵させ麦芽発酵飲料(中間)品を得る工程である。ここで用いられる酵母は、例えば、サッカロミセス・セレビシェ、サッカロミセス・ウバルム等が挙げられる。
麦芽発酵飲料は、その製造に用いられる麦芽の使用比率の多少は特に制限されず、麦芽を原料の一部として発酵により製造される飲料であればよい。具体的には例えば、ビールや発泡酒が挙げられる。また、いわゆるノンアルコールビールやノンアルコール発泡酒も、ビール等と同様の製法を用いることから、麦芽発酵飲料である。
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
(予備試験;ビール中のプロテインZ4含有量とNIBEM値の関係)
400Lパイロットプラントで11品種(はるな二条、あまぎ二条、ミカモゴールデン、新田二条23号、りょうふう、りょううん、北育41号、CDC Kendall、CDC Copeland、CDC Reserve、Lofty Nijo)の麦芽それぞれから醸造された試験ビール合計42点をサンプルとして用いた。
[試験ビール中のプロテインZ4濃度の測定]
ビール中のプロテインZ4濃度の測定はサンドイッチELISA法で行った。精製した大麦プロテインZ4を抗原としたウサギ抗プロテインZ4抗体を一次抗体に、またペルオキシダーゼ標識抗プロテインZ4−Fab’を二次抗体とした。一次抗体100μLを96穴プレートにアプライし4℃で一晩放置した。カゼイン溶液でブロッキングした後、適宜希釈したビールサンプル100μLをそれぞれ添加し室温で2時間反応後、TBS(20mM Tris−HCl,150mM NaCl,0.05% Tween20, pH7.5)で3回洗浄した。その後、二次抗体を添加し、2時間反応後、TBSで3回洗浄した。検出はPOD発色キット(住友ベークライト社)にて発色させた後、492nmの吸光度を測定した。既知の濃度の精製した大麦プロテインZ4標準液の吸光度で検量線を作成し、これに対するサンプルの吸光度でサンプルのプロテインZ4濃度を算出した。大麦プロテインZ4標準液としては、大麦からプロテインZ4を精製し、凍結乾燥後秤量し、Phosphate Buffered Saline(PBS)に溶解させたものを用いた。
[試験ビールのNIBEM値の測定]
NIBEM値の測定は、HAFFMANS社のNIBEM−T装置、INPACK2000及びNIBEM値測定用の標準グラスを用いて行った。具体的には、上記の試験ビールをそれぞれ20℃の状態にし、泡注ぎ出し機により炭酸ガスを用いて標準グラスに注ぎ出し、生じた泡の高さの降下をNIBEM−T装置で追尾することにより測定した。
[プロテインZ4濃度とNIBEM値の関係]
プロテインZ4濃度とNIBEM値の間には有意な相関関係があった(図1)。一方、製麦工程中に蛋白質がどの程度分解されたかを示す指標の一つであるコールバッハ値(KI)及び、苦味の程度を表す指標で、ホップ中のイソα酸が関与しているとされるBUは泡持ちと深い関係があるとされている(J.Am.Soc.Brew.Chem.,60巻,47−57頁,2002年)。本解析に用いたサンプルはサンプル数が42、用いた麦芽品種が11、また表1のように麦芽KIやビールBUのばらつきも大きい。このようにKIやBUのばらつきの大きい母集団でプロテインZ4とNIBEM値が有意な相関関係を示したことから、プロテインZ4はNIBEM値の有効なマーカーになることが示された。

(実施例1;DNAマーカーの特定)
[塩基配列解析]
大麦はるな二条種、CDC Copeland種及びCDC Kendall種の葉から、以下の方法でゲノムDNAを抽出した。葉に抽出バッファー(200mM Tris−HCl,250mM NaCl, 25mM EDTA,pH7.5)とジルコニアボールを添加し、振とうした後、60℃で30分間保持した。遠心分離後の上清に等量のイソプロパノールを添加しDNAを析出させ、遠心分離後、沈殿に70%エタノールを添加し再び遠心分離した。生じたDNAの沈殿を滅菌水に溶解させたものをPCRの鋳型に用いた。NCBIのデータベースよりプロテインZ4の塩基配列情報を入手し、遺伝領域、及び翻訳開始位置より上流域を含むようにセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを設計し、タカラバイオ社のPremix Taq(Ex Taq Version)を用いてPCR反応を行いDNA断片を増幅した。なお、PCR反応は、センスプライマー1とアンチセンスプライマー1の組み合わせ、および、センスプライマー2とアンチセンスプライマー2の組み合わせ、により標的配列を2断片に分けて増幅した。増幅産物のサイズはそれぞれ約2.0及び1.7kbpである。プライマーの配列は以下の通りである。
センスプライマー1(配列番号4);
5’−GGAGTATATGAGGGCTCGCG−3’
アンチセンスプライマー1(配列番号5);
5’−CCCTTCGCGTAAGGAAGCTT−3’
センスプライマー2(配列番号6);
5’−GGTGGTGCAATTTGTGCTCGC−3’
アンチセンスプライマー2(配列番号7);
5’−CTTTGAAACCGCGGTCTGTAC−3’
増幅産物をアガロースゲル電気泳動で分離し、目的サイズのDNA断片をゲルごと切り取りQIAGEN社のQIAquick Gel Extraction kitでDNA断片を精製した。このDNA断片のシークエンスを決定した。シークエンス解析はSigma社への委託解析により行った。決定した大麦はるな二条種、CDC Copeland種及びCDC Kendall種の塩基配列をそれぞれ配列番号1、配列番号2及び配列番号3とした。
[塩基配列のアラインメント解析]
配列番号1、配列番号2及び配列番号3の塩基配列を用い、GENETYX Ver.8(GENETYX CORPORATION)により塩基配列のアラインメント解析を行なった。図2に示すように、プロテインZ4遺伝子の開始コドンより上流318bpの位置からプロテインZ4遺伝子終止コドンの位置までの1853bp長の領域において、7ヶ所(9塩基)を塩基配列が一致しない塩基部位として特定した。
上記塩基部位7ヶ所は、それぞれ配列番号1で特定される塩基配列の第12番目、第14番目、第46番目、第240番目、第286−288番目、第866番目及び第952番目の塩基に相当する塩基部位であった。これらをそれぞれDNAマーカーM1、M2、M3、M4、M5、M6及びM7と名づけた。
(実施例2;DNAマーカーM3を用いた既往大麦種の選抜効果の検証)
大麦CDC Kendall、AC Metcalfe、Harrington、CDC Copeland、りょううん、りょうふう、北育41号、はるな二条、Lofty Nijo、Schooner、Flagship、Franklin、Gairdner、Barke、Braemer、Scarlettの16品種を解析対象とし、上述したDNAマーカーM3を用いて遺伝子型を同定し、同定した遺伝子型に基づいてプロテインZ4含有量の高い大麦種を選抜できるか検証した。
[DNAマーカーM3の遺伝子型の同定]
前記16品種からゲノムDNAを抽出し、ゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、前記DNAマーカーM3を含む、約2000bpの増幅DNA断片を得た。プライマーは配列番号4及び配列番号5に記載されたものを用いた。
得られたPCR産物に制限酵素AccI(タカラバイオ株式会社)を添加し、37℃で、一晩反応を行った。反応産物を1.5%アガロースゲル電気泳動により分離し、エチジウムブロマイド染色により電気泳動パターンを視覚化した(図3)。
図3のアガロースゲル電気泳動結果図では、各レーンには、左から右に向けて、CDC Kendall,AC Metcalfe,Harrington,CDC Copeland,りょうふう,りょううん,北育41号,はるな二条,Lofty Nijo,Schooner,Flagship,Franklin,Gairdner,Barke,Braemer,Scarlett大麦種に由来するサンプルがロードされている。
DNAマーカーM3は、制限酵素AccIの認識サイト(GTAGAC)内に存在し、CDC Copelandはこの領域の塩基配列が「ATAGAC」のため、AccIで切断されないが、はるな二条は「GTAGAC」のためAccIで切断され、約1200bpと800bpのDNA断片が生じる。解析の結果、16種のうち、8種がはるな二条と同一のパターン、8種がCDC Copelandと同一の電気泳動パターンを示した。これらをHaruna型及びCopeland型と分類した。
[ELISAによるプロテインZ4含有量の定量]
前記16種の大麦種子中のプロテインZ4をELISA法により定量した。ELISAは、精製した大麦プロテインZ4を抗原としたウサギ抗プロテインZ4抗体を用いた以下の直接吸着法で行った。ミルで粉砕した大麦種子50mgを2mLスクリューキャップ付きチューブにとり、0.28%DTT(和光純薬工業)を含むPhosphate Buffer Saline(PBS)1mLを添加し、一晩振とうした。この液の遠心上清を大麦種子タンパク質抽出液とした。タンパク質濃度をBradford法により定量した後、適宜希釈した大麦種子タンパク質抽出液100μLをそれぞれ4反復96穴プレートにアプライし、4℃で一晩放置した。カゼイン溶液でブロッキングした後、プロテインAカラムで精製した抗プロテインZ4抗体をアプライし、室温で2時間反応後、TBSで3回洗浄した。その後、1000倍希釈した二次抗体(goat anti−rabbit IgG−AP,Santa Cruz Biotechnology社)を添加し、室温で2時間反応後、TBSで3回洗浄した。発色は1mg/mL p−ニトロフェニルリン酸二ナトリウム六水和物(10%ジエタノールアミン)(和光純薬工業)溶液150μLを入れ行い、適度な発色が見られた段階で3N NaOHを50μL添加し反応を停止後、405nmの吸光度を測定した。既知の濃度の精製した大麦プロテインZ4標準液の吸光度で検量線を作成し、これに対するサンプルの吸光度でサンプルのプロテインZ4濃度を算出した。大麦プロテインZ4標準液としては、大麦からプロテインZ4を精製し、凍結乾燥後秤量し、Phosphate Buffered Saline(PBS)に溶解させたものを用いた。
[Haruna型およびCopeland型のプロテインZ4含有量の比較]
DNAマーカーM3の遺伝子型によりグループ分けしたCopeland型とHaruna型、それぞれのプロテインZ4含量の平均値を算出し、比較した(図4)。その結果、
Copeland型;23.5±4.37ng/μg−protein、
Haruna型;16.5±2.83ng/μg−protein、
であった。t検定により検定したところ、危険率1%で有意にCopeland型の方がHaruna型と比較してプロテインZ4含有量が高かった。
(実施例3;DNAマーカーM3を用いた倍化半数体系統の大麦種の選抜効果の検証)
別の母集団で本マーカーの効果を検証するため大麦ミカモゴールデン−Harringtonの倍化半数体系統について、実施例2と同様の手順によって、プロテインZ4含量の定量及びDNAマーカーM3の遺伝子型を同定した。同定した遺伝子型に従ってCopeland型とHaruna型に分類し、それぞれのプロテインZ4含量の平均値を算出し、比較した(図5)。
その結果、
Copeland型;29.4±19.85ng/μg−protein、
Haruna型;11.6±4.64ng/μg−protein、
であり、t検定により検定したところ、危険率1%で有意にCopeland型の方がHaruna型よりもプロテインZ4含量が高かった。以上、実施例2及び実施例3の結果より、本DNAマーカーM3はプロテインZ4含有量の高い大麦種を選抜するためのDNAマーカーとして有効に利用できることが示された。
(実施例4;DNAマーカーM1、M2、M3、M4、M6及びM7を用いた既往大麦種の選抜効果の検証)
ビール醸造用大麦として使用されている主要14品種について、その他のDNAマーカーの有効性を評価した。検証に用いた14品種は、はるな二条、りょうふう、りょううん、北育41号、Lofty Nijo、Schooner、Flanklin、Barke、CDC Kendall、AC Metcalfe、CDC Copeland、Harrington、Flagship、Gairdnerである。
[塩基配列の解析]
実施例1と同様の方法により、上記14品種からゲノムDNAを抽出し、ゲノムDNAを鋳型としたPCRにより、上記DNAマーカーM1〜M7をすべて含むDNA断片を増幅し、シークエンス解析により前記DNAマーカーの塩基種を同定した。
[塩基配列の比較]
14品種の各DNAマーカーの遺伝子型と、Haruna型及びCopeland型の遺伝子型とを比較した。その結果、DNAマーカーM1、M2、M3、M4、M6及びM7の遺伝子型により、はるな二条、りょうふう、りょううん、北育41号、Lofty Nijo、Schooner、Flanklin、Barkeの8品種がHaruna型に分類され、CDC Kendall、AC Metcalfe、CDC Copeland、Harrington、Flagship、Gairdnerの6品種がCopeland型に分類された(表2)。

[ELISAによるプロテインZ4含有量の定量]
実施例2に記載したのと同様の方法により、14品種の種子中のプロテインZ4含有量を定量した。
Copeland型とHaruna型、それぞれのプロテインZ4含量の平均値を算出し、比較した(図6)。その結果、
Copeland型;25.2±3.57ng/μg−protein、
Haruna型;16.5±2.83ng/μg−protein、
であり、t検定により検定したところ、危険率1%で有意にCopeland型の方がHaruna型よりもプロテインZ4含有量が高かった。以上の結果から、本DNAマーカーM1、M2、M3、M4、M6及びM7はプロテインZ4含有量の高い大麦種を選抜するためのDNAマーカーとして有効に利用できることが示された。
また、以上の結果より、本実施例に記載されていない大麦プロテインZ4遺伝子近傍において、Haruna型及びCopeland型の塩基配列のアラインメント解析を行なった場合に、本DNAマーカーM1、M2、M3、M4、M6及びM7と同様に特定されうるDNAマーカーについても、泡持ちの優れる大麦種を選抜するDNAマーカーとして有効に利用できることは当業者にとって自明なことである。
(実施例5;DNAマーカーM5を用いた既往大麦種の選抜効果の検証)
ビール醸造用大麦として使用されている主要14品種について、その他のDNAマーカーの有効性を評価した。検証に用いた14品種は、はるな二条、りょうふう、りょううん、北育41号、Lofty Nijo、Schooner、Flanklin、Barke、CDC Kendall、AC Metcalfe、CDC Copeland、Harrington、Flagship、Gairdnerである。
[塩基配列の解析]
実施例4と同様に、上記14品種からゲノムDNAを抽出し、ゲノムDNAを鋳型としたPCRにより、上記DNAマーカーM1〜M7をすべて含むDNA断片を増幅し、シークエンス解析により前記DNAマーカーの塩基種を同定した。
[塩基配列の比較]
14品種の各DNAマーカーの遺伝子型と、Haruna型及びCopeland型の遺伝子型とを比較した。その結果、DNAマーカーM5の遺伝子型により、はるな二条、りょうふう、りょううん、北育41号、Lofty Nijo、Schooner、Flanklin、Barke、CDC Kendallの9品種がHaruna型に分類され、AC Metcalfe、CDC Copeland、Harrington、Flagship、Gairdnerの5品種がCopeland型に分類された(表2)。
[ELISAによるプロテインZ4含有量の定量]
実施例2に記載したのと同様の方法により、14品種の種子中のプロテインZ4含有量を定量した。
Copeland型とHaruna型、それぞれのプロテインZ4含量の平均値を算出し、比較した(図7)。その結果、
Copeland型;24.9±3.94ng/μg−protein、
Haruna型;17.6±4.19ng/μg−protein、
であり、t検定により検定したところ、危険率1%で有意にCopeland型の方がHaruna型よりもプロテインZ4含有量が高かった。以上の結果より、本DNAマーカーM5はプロテインZ4含有量の高い大麦種を選抜するためのDNAマーカーとして有効に利用できることが示された。
実施例4において、DNAマーカーM1、M2、M3、M4、M6及びM7によって遺伝子型を同定し、Copeland型の遺伝子型と一致する大麦種を選抜した結果、6品種が選抜された。一方、実施例5において、DNAマーカーM5の遺伝子型を同定し、Copeland型の遺伝子型と一致する大麦種を選抜した結果、前記6品種のうちKendall種が選抜されなかった。本実施例からは、DNAマーカーM1、M2、M3、M4、M6及びM7によってCopeland型に選別された大麦6品種のうち5品種で遺伝子型が一致するDNAマーカーM5によっても、プロテインZ4含有量の高い品種の選抜ができることが示された。
(参考例;RFLPマーカーMWG2033Draによる既往大麦種の選抜)
プロテインZ4遺伝子周辺領域において、本発明におけるDNAマーカーとして利用可能なDNAマーカーが存在する範囲を検証した。
図8は、RFLPマーカーに基づいて作成された、大麦ゲノム4H染色体のマーカー地図を示したものである。RFLPマーカーBamyXbaの位置を基点として、プロテインZ4遺伝子は77.6cMの位置にある。本参考例では、99.2cMの位置にあるRFLPマーカーMWG2033Draを利用して、大麦ミカモゴールデン−Harringtonの倍化半数体系統を分類し、Haruna型とCopeland型のプロテインZ4含有量を比較した。なお、ミカモゴールデン種は、遺伝子型の判定の結果、DNAマーカーM1〜M7のすべてで、Haruna型に分類された(データ示さず)。
[遺伝子型の判別]
大麦ミカモゴールデン−Harringtonの倍化半数体系統の葉を試料として、CTAB法(Murray,M.G. and Thompson,W.F.,1980年,Nucleic Acids Res.,8巻,4321−4325頁)によって、ゲノムDNAを抽出した。各ゲノムDNA5μgに制限酵素DraI(タカラバイオ株式会社)を添加し、37℃で、一晩反応を行った。反応産物を0.7%アガロースゲル電気泳動により分離し、アルカリトランスファー法(Reed,K.C. and D.A.Mann,1985年,Nucleic Acids Res.,13巻,7207−7221頁)により、ナイロンメンブレンに転写した。p-BluescriptにクローニングされたプローブとなるDNA断片をM13プライマーで、PCR法により増幅した後、DIG−high primeキット(Boehringer Mannheim社製)を用い、PCR産物を鋳型としてラベル化反応を行い、DIGラベル化プローブを得た。ハイブリダイゼーションおよびシグナルの検出は、Boehringer DIG procedureに従って実施した。
[遺伝子型の分類]
検出されたバンドパターンに基づいて大麦種を2種に分類し、ミカモゴールデン種が分類された大麦種群をHaruna型と、Harrington種が分類された大麦種群をCopeland型とした。
Copeland型とHaruna型、それぞれのプロテインZ4含量の平均値を算出し、比較した(図9)。その結果、
Copeland型;27.1±20.00ng/μg−protein、
Haruna型;19.2± 15.65ng/μg−protein、
であり、t検定により検定したところ、危険率5%で有意にCopeland型の方がHaruna型よりもプロテインZ4含有量が高かった。
参考例及び実施例2〜5における、プロテインZ4含量の平均値及びばらつきを比較すると、DNAマーカーとプロテインZ4遺伝子との距離が離れるほど、大麦種の選抜精度は低下する傾向がみられる。しかしながら、本参考例において、RFLPマーカーMWG2033Draは、プロテインZ4遺伝子から21.6cM距離が離れているものの、本発明のDNAマーカーとして利用可能なことが示された。したがって、プロテインZ4遺伝子からの距離がこの範囲内であれば、本発明におけるDNAマーカーとして好適に利用できる。
配列番号4〜7;合成プライマー

Claims (9)

  1. 泡持ちの優れる麦芽発酵飲料用の大麦種を選抜する選抜方法であって、
    被検大麦種について、
    (a)Haruna型の大麦プロテインZ4遺伝子座周辺領域の塩基配列と、(b)Copeland型の大麦プロテインZ4遺伝子座周辺領域の塩基配列とのアラインメントにより特定されるDNAマーカーの少なくとも一つについて遺伝子型を同定し、Copeland型の遺伝子型に一致する被検大麦種を、泡持ちの優れる大麦種として選抜する選抜方法。
  2. 前記(a)及び(b)の塩基配列が、それぞれ配列番号1及び配列番号2で特定される塩基配列である、請求項1に記載の選抜方法。
  3. 前記DNAマーカーが、配列番号1で特定される塩基配列の第12番目、第14番目、第46番目、第240番目、第286−288番目、第866番目又は第952番目の塩基に相当する塩基部位である、請求項1又は2に記載の選抜方法。
  4. 前記DNAマーカーが、配列番号1で特定される塩基配列の第46番目の塩基に相当する塩基部位である、請求項1又は2に記載の選抜方法。
  5. 前記遺伝子型の同定が、
    前記DNAマーカーを少なくとも一つ含むポリヌクレオチドを、被検大麦種のDNAを鋳型としてPCR法によって増幅し、
    該ポリヌクレオチドを用いて、該DNAマーカーのうち少なくとも一つについて塩基種を同定するものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の選抜方法。
  6. 前記遺伝子型の同定が、
    前記DNAマーカーを少なくとも一つ含むポリヌクレオチドを、被検大麦種のDNAを鋳型としてPCR法によって増幅し、
    該ポリヌクレオチドを制限酵素と反応させ、
    該DNAマーカー位置にて前記制限酵素によるポリヌクレオチドの切断が生じるか否かで同定するものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の選抜方法。
  7. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の選抜方法によって選抜された大麦種の交配後代系統に由来する大麦種。
  8. 仕込工程及び発酵工程を少なくとも備える麦芽発酵飲料の製造方法であって、
    前記仕込工程で使用される大麦種が、請求項1〜6のいずれか一項に記載された選抜方法により選抜された大麦種又は請求項7に記載された大麦種である、製造方法。
  9. 請求項8記載の製造方法で得ることのできる麦芽発酵飲料。
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