以下に本発明の実施形態につき図面を参照して説明する。ただし、以下は本発明の実施形態であって本発明を限定するものではない。
(第1実施形態)
(インクジェット記録装置の構成)
まず図1を参照して、本発明の第1実施形態のインクジェット記録装置の全体構成について説明する。図1は本発明の第1実施形態のインクジェット記録装置の全体構成図である。
インクジェット記録装置1は、記録媒体Pに対してインクを吐出し、記録媒体P上に画像を記録するものである。インクジェット記録装置1には、図示しない搬送手段が備わっており、この搬送手段が記録媒体Pを、図1における記録領域Cを通過させながら主走査方向Aと直交した副走査方向に搬送するようになっている。
記録領域Cの上方には、主走査方向A(水平方向)に沿って延在するキャリッジレール2が配置されていて、このキャリッジレール2には、キャリッジレール2によって案内されるキャリッジ3が移動自在に設けられている。
キャリッジ3は、記録媒体Pに対してインクを吐出するインクジェットヘッド4を搭載し、キャリッジレール2に沿ってホームポジション領域Bからメンテナンス領域Dにかけて矢印A方向に移動するようになっている。
この主走査中にインクジェットヘッド4が、記録媒体Pに向けてインクdを吐出することで記録媒体Pに画像を形成する。本実施形態では、水平方向に主走査を行い、ノズルからのインク吐出方向が鉛直方向下向きとなるようにインクジェットヘッド4が設置される。
本実施形態に係るインクジェット記録装置1では、ブラック(K)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の4色のインクを吐出できるよう、合計で4個のインクジェットヘッド4がキャリッジ3に設置されている。図1においては、3個のインクジェットヘッド4,4、4が矢印A方向に1列に配置されていて、この矢印A方向に並んだインクジェットヘッド4,4、4の中央のインクジェットヘッド4の奥側(紙面垂直方向の奥側)にその他の1個のインクジェットヘッド4(不図示)が配置されている。
これら各インクジェットヘッド4には、ブラック、イエロー、マゼンタ、シアンの各色のインクを貯蔵するインクタンク5が、それぞれインク供給管6を介して連結されている。つまり、インクタンク5内のインクは、インク供給管6によって各インクジェットヘッド4に供給されるようになっている。すなわち本実施形態においてインクタンク5は、インク供給源に相当する。
本実施形態におけるインク供給管6は、インクタンク5に接続され主走査方向A(水平方向)とは異なる鉛直方向に延びる第1の直線部分と、主走査方向Aに延びる第2の直線部分と、インクジェットヘッド4に接続され主走査方向Aとは異なる鉛直方向に延びる第3の直線部分(図4参照)とで構成され、図示していないが、第1の直線部分と第2の直線部分の接続部は、キャリッジ3の移動に追従できるように円弧状に形成されている。
メンテナンス領域Dには、インクジェットヘッド4に対してメンテナンスを行うメンテナンスユニット7が設けられている。このメンテナンスユニット7には、インクジェットヘッド4の吐出面41Sを覆って、ノズル内のインクを吸引するための複数の吸引キャップ8と、吐出面41Sに付着したインクを拭き取る清掃ブレード9と、インクジェットヘッド4から空吐出されたインクを受けるインク受器10と、吸引ポンプ11と、廃インクタンク12とが設けられている。
吸引キャップ8は吸引ポンプ11を介して廃インクタンク12と連通しており、メンテナンス動作時には上昇してインクジェットヘッド4の吐出面41Sを覆うようになっている。吸引キャップ8,8,…は、上述のように上昇した時に全てのインクジェットヘッド4の吐出面41Sを覆うことができるよう、各インクジェットヘッド4に対応するように4個配列されている。
吸引ポンプ11はシリンダーポンプやチューブポンプを有して構成されていて、吸引キャップ8が吐出面41Sを覆った状態で作動することにより、ノズルからインクジェットヘッド4内部のインクを異物とともに吸引するための吸引力を発生するようになっている。
ホームポジション領域Bには、インクジェットヘッド4を保湿する保湿ユニット13が設けられている。保湿ユニット13には、インクジェットヘッド4が待機状態にあるとき、吐出面41Sを覆うことでインクジェットヘッド4のインクを保湿する4個の保湿キャップ14が設けられている。これら4個の保湿キャップ14,14,…は、4個のインクジェットヘッド4の吐出面41Sを同時に覆うことができるよう、インクジェットヘッド4の配列に対応して配列される。
制御部83(図8参照)は、CPU(中央演算装置)等を有して構成され、インクジェット記録装置1の各構成要素を制御するようになっている。
次に、図2、図3を参照して本発明に係るインクジェットヘッド4について説明する。
図2は本実施形態のブラック(K)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の4色のインクジェットヘッド4のうち、ブラック(K)のインクジェットヘッド4の分解斜視図であり、図3は組み立てた状態の斜視図である。なお、他の色のインクジェットヘッド4についてもそれぞれ同じ構成となっているので、これらの説明については省略する。
本実施形態のインクジェットヘッド4には、インクを吐出する2枚のインクジェットヘッドチップ(以下「ヘッドチップ」と称す。)41が重ねて設けられている。ヘッドチップ41は長尺な外形をしていて、その吐出面41Sには多数のノズル(図示せず)が配列されている。(以下ノズルの配列を「ノズル列」と称す。)
本実施の形態のインクジェットヘッド4は、ノズル列が2列設けられている。インクジェットヘッド4は矢印X方向(ノズル列方向)と図1に図示された主走査方向Aとが直交するようにキャリッジ3に搭載される。
このように、ヘッドチップ41には、複数のノズルと、複数のノズルに対応して設けられた複数の圧力室が矢印X方向に配列されて設けられている。ヘッドチップ41において、この圧力室の配列方向に沿って延びる面を側面と称する。
また、重ねられた2枚のヘッドチップ41のそれぞれの外側面には略方形状のインク供給口43が設けられていて、インク供給口43とノズルとがヘッドチップ41の内部に形成されたインク吐出流路(図示せず)を介して連通するようになっている。インク吐出流路の一部は圧力室を形成しており、図示しない圧電素子の作用により圧力を変動させて、インク滴をノズルから吐出させる構造になっている。そして、ヘッドチップ41には、各圧電素子に対して制御部83からの制御信号を送信する2組のヘッド駆動基板46、コネクタ57のそれぞれが、フレキシブル配線板47を介して各圧電素子に接続されている。
2枚のヘッドチップ41の両側部には、外部からのインクをヘッドチップ41に供給する2組のマニホールド48a,マニホールド48bが取り付けられている。マニホールド48a,マニホールド48bは、耐インク性に優れた材料からなり、共通インク室50a、50bを形成するための凹みが形成されている。マニホールド48a,マニホールド48bの一端部には、共通インク室50a、50bにインクを流入させる注入口481a、481bが設けられている。
60は筐体フレーム54の側部に装着されてインク供給管6に接続されるインク導入口である円筒形状のインク供給管接続部であり、注入口481a、481bに連通している連結部56に接続される。
連結部56は、コの字形状の板状部材で側部にはインク供給管接続部60に接続される円筒形状の接続部が設けられていて、筐体フレーム54の側部に係合し、内部にインク供給路が形成されるようになっている。
図2に示すように、ヘッドチップ41の下部には、ノズル面が露出するようにマニホールド48a,マニホールド48b及びヘッドチップ41を保持する保持板53が取り付けられている。
また、インクジェットヘッド4には、上記したヘッドチップ41、マニホールド48a,マニホールド48b、ヘッド駆動基板46、保持板53などのインクジェットヘッド4の構成要素が取り付けられ固定される筐体フレーム54が設けられており、この筐体フレーム54はカバー52によって覆われている。筐体フレーム54の上部にはコネクタ支持部55が取り付けられる。
次に、インク注入時のインクの流路について説明する。
インクタンク5からインク供給管6を経由してインクが供給されると、インクジェットヘッド4内では先ずインクは、インク供給管接続部60のインク供給路59を通過して、連結部56に流入し、各マニホールド48a,マニホールド48bの注入口481a、481bに分岐し、共通インク室50a,50bに進入する。共通インク室50a,50bに至ったインクは、インク供給口43からヘッドチップ41内に進入する。
(インクジェット記録装置の動作)
次に、インクジェット記録装置1による画像形成時における動作について説明する。
インクジェット記録装置1の電源がONとなると、インクジェット記録装置1の各部に対して給電が行われる。
その後、画像記録の開始指示が入力されると、キャリッジ3の往復走査が開始されると共に、制御部83は、画像データを基とした制御信号をヘッド駆動基板46及びその他の駆動部に送信し、画像記録を開始する。搬送手段に搬送される記録媒体P上には、インクジェットヘッド4からインクが吐出されて画像が形成される。
そして、インクジェットヘッド4の吐出状態を回復するためのメンテナンスタイミングになると、制御部83は、各部を制御してインクジェットヘッド4のメンテナンスを行わせる。詳細に説明すると、制御部83は、メンテナンスタイミングに伴って走査用モータを制御し、インクジェットヘッド4と吸引キャップ8とが対峙する位置までキャリッジ3を移動させる。インクジェットヘッド4と吸引キャップ8とが対峙すると、制御部は、昇降用モータを制御して、インクジェットヘッド4の吐出面41Sと吸引キャップ8とが密着するまでメンテナンスユニット7を上昇させる。
メンテナンスユニット7の上昇完了後、制御部83は、所定時間だけ吸引キャップ8内部が吸引されるように吸引ポンプ11を制御する。
吸引ポンプ11の作動により、インクジェットヘッド4内部が負圧になる。インクジェットヘッド4の上流側のインク供給管6も負圧になり、インク供給管6内のインクは、インクジェットヘッド4に流入するようになっている。
(インク供給路の構成)
本発明のインクジェット記録装置は、圧力室内のインクを吐出するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドの圧力室にインク供給源からのインクを供給するとともに少なくとも一部がインク供給管で構成されたインク供給路と、インクが連通可能な状態で前記インク供給管の内部に挿入され該インク供給管の内面との間に形成される空間の少なくとも一部に空気を保持する空気保持部材と、前記インク供給管に接続される他の部材とを備え、前記空気保持部材と前記他の部材とを一体の構造物として構成したことを特徴とする。詳細は後述するが、本実施形態では、インク供給管6が6A、6B、6Cの3本のインク供給管を連結して構成され、6Cの内部に空気保持部材が挿入されている。
本発明によれば、空気保持部材と、インク供給管に接続される他の部材とを一体の構造物として構成したので、部品点数が減少し、空気保持部材をインク供給管に接続される他の部材とは別の部品として製作する必要がなく、他の部材と一体に容易に形成することが可能になる。
また、他の部材とインク供給管の接続と同時に空気保持部材を挿入することができるので接続作業も極めて簡単になり、組立作業性が大幅に向上し、生産ラインのスピード低下を防止することができる。また、空間の少なくとも一部に保持される空気により、モータやポンプ等の外部振動やキャリッジ走査等によるインクの供給圧力の変動を緩和し、吐出安定性を向上することができると共に、インク供給管に空気保持部材を挿入するだけで良く、インク供給管やインクジェットヘッドをそのまま利用できるのでインクジェット記録装置に大きな構成変更を加えることなく空間を簡便に且つ低コストで設けることができる。
まず、図4を参照して本発明に係るインク供給管の接続構造ついて説明する。
図4は、本発明の第1実施形態に係るインク供給管の接続構造の模式図で、(a)は接続前の状態を示す斜視図、(b)は接続前の状態を示す断面図、(c)は接続されたインク供給管がインクジェットヘッドに取り付けた後、インク26を供給したところを模式的に示した斜視図である。
インク供給管6は、図4(b)に示すように、インクタンク5からインク供給管6Bまでのインク供給路であるインク供給管6Aと、インク供給管6Bと、インク供給管6Bからインクジェットヘッド4までのインク供給路であるインク供給管6Cとが連結されて構成されている。
空気保持部材20Aは、円筒形状の部材で一端部にはインク供給管6Bに接続される円筒形状のジョイント33が一体的に設けられていて(以下、一体の構造物と言う場合がある。)、インクタンク側のインク供給路となるインク供給管6Bの端部に接合され、内部にインク供給路が形成されるようになっている。
インクタンクからのインク供給管6Aの内径部に、インク供給管6Bの外形部76を圧入するようにして両者が接続され、インク供給管6Bの内径部に、ジョイント33の外形部が接続され、インクジェットヘッドからのインク供給管6Cの内径部に、空気保持部材20Aの外形部を圧入するようにして両者が接続され、インクタンク5内のインクがインク供給管6A、インク供給管6B,ジョイント33、空気保持部材20A、インク供給管6Cを経由してインクジェットヘッドに供給される。
インク供給管6Cの内部には、空気保持部材20Aが挿入され、インク供給管6Cの内面と空気保持部材20Aとの間には少なくとも一部に空気21を保持することができる空間22が形成されている。
空気保持部材20Aと、インク供給源側のインク供給路(インク供給管6B)と空気保持部材20Aが挿入されたインク供給管6Cとを接続するジョイント33とを一体の構造物として構成したので、部品点数が減少し、またジョイント33によりインク供給管6Bとインク供給管6Cを接続するのと同時に空気保持部材20Aを挿入することができるので接続作業も極めて簡単になり、組立作業性が大幅に向上し、生産ラインのスピード低下を防止することができる。
空気保持部材20Aは、インクの非浸透性、インク供給管6の内部への挿入のしやすさ及びインクに対する耐腐食性に優れるステンレススチール等の金属で構成されており、インクに直接接触しても変形、変質等を生じないようになっている。なお、空気保持部材20Aを構成する材料はステンレススチール等の金属に限定されず、インクに直接接触しても変形等を生じないものであればセラミック、樹脂等の他の材料で形成しても構わない。
空気保持部材20Aは、図4(b)に示すように、一端がインクジェットヘッドに接続されたインク供給管6におけるインクジェットヘッド4の近傍に挿入されることが好ましい。本実施形態では、インクジェットヘッド4に接続されたインク供給管6Cに空気保持部材20Aが挿入されており、挿入された位置から上流側のインク供給管において生じる圧力変動をより効果的に緩和できる。
また、インクジェットヘッドは所定方向に往復移動可能であり、空気保持部材20Aは、一端がインクジェットヘッドに接続されたインク供給管における一端から前記所定方向とは異なる方向に延びる部分に挿入されることが好ましい。
本実施形態においては、インクジェットヘッドは主走査方向A(水平方向)に往復移動可能であるので、一端がインクジェットヘッド4に接続されたインク供給管6における主走査方向A(水平方向)とは異なる鉛直方向に延びる第3の直線部分に空気保持部材20Aが挿入されている。
本実施形態のインク供給系において、キャリッジ3の主走査方向Aの往復運動(往復走査)及びこれに伴うインク供給管6の運動によりこの供給管内のインクに圧力変動が生じるわけだが、この圧力変動は、主として主走査方向Aに延びる第2の直線部分で生じるため、キャリッジ3と共に移動し主走査方向Aとは異なる鉛直方向に延びる第3の直線部分に空気保持部材20Aを挿入することにより、その圧力変動がインクジェットヘッド4の内部に伝達されることによりインクの安定した吐出を妨げる現象の発生をより効果的に緩和できる。
また、一端がインクジェットヘッドに接続されたインク供給管をインクジェットヘッドあるいはインクジェットヘッドが搭載される搭載部に固定する固定部を有し、空気保持部材が、固定部により固定されるインク供給管に挿入されることが好ましい。固定部により固定されたインク供給管は、キャリッジ3の移動に伴う動きが規制され、振動等が抑えられるため、より効果的に圧力変動を緩和できる。
本実施形態においては、図4(c)における27が、一端がインクジェットヘッド4のインク供給管接続部60に接続されたインク供給管6Cをインクジェットヘッド4に取り外し可能な状態で固定する固定部であり、固定部27により固定されたインク供給管6Cは、キャリッジ3の移動に伴う動きが規制される。尚、インク供給管6Cをインクジェットヘッド4が搭載される搭載部であるキャリッジ3に固定する様にしてもよい。
キャリッジ3と共に移動し走査方向Aとは異なる鉛直方向に延びる第3の直線部分が固定部27により固定されており、この部分のインク供給管に空気保持部材20Aが挿入されている。
また、空気保持部材は、インク供給管の内面に当接する当接部を有し、インク供給管及び空気保持部材の少なくとも一方は、空気保持部材の挿入に伴い変形可能な材料で構成されていることが好ましく、その弾性変形を利用して容易にインク供給管の内部に空気保持部材を挿入して保持できる。
本実施形態においては、インク供給管の内面に当接する当接部としての大径部23を有し、空気保持部材20Aは、ステンレススチール等の金属で構成され、インク供給管6Cは樹脂あるいはゴム等の伸縮可能な弾性体で構成されている。空気保持部材20Aは、インク供給管6Cにおけるインク供給管接続部60に接続される側と反対側の開口に挿入されることによってインク供給管6Cの内部に保持される。インク供給管6Cは弾性を有しているため、大径部23をインク供給管6Cの開口に挿入するとき、開口がスムーズに膨張して弾性変形するので容易に挿入することができる。そして、インク供給管6Cが弾性復元して大径部23の外周面に密着しインク供給管6Cの弾性により空気保持部材20Aのインク供給管6Cの軸方向に沿った変位を規制することができるため、インク供給管6Cに固定用の溝等を設けなくても空気保持部材20Aをインク供給管6Cの内部に簡便且つ確実に保持することができる。
また、空気保持部材は、インク供給管の内面に当接する大径部と、大径部よりも径の小さい小径部とを有し、インク供給管の内面と小径部との間に空間が形成されることが好ましい。大径部により空気保持部材を保持することができるとともに、より簡単に空間を形成することができる。
また、空間が環状に形成されている部分を有することが好ましい、環状の空間によりインク供給管の内部のスペースを有効に活用できる。
本実施形態においては、空気保持部材20Aは、外周面がインク供給管6Cの内周面に当接する大径部23と、大径部23と一体かつ略同軸に形成されインク供給管6Cの内周面との間に形成される環状の空間22の少なくとも一部に空気21を保持することができる小径部24を有し、インク供給管6の軸方向の回りに形成された環状の空間22の少なくとも一部に空気21が保持される。
ここで、内径、外径とは、その形状が円の場合は、その直径を意味し、形状が円でない場合は、面積を円に換算したときの直径に相当するものであり、インク供給管あるいは小径部、大径部の形状は円形に限定されない。
また、空間のインク供給源側の面は閉鎖され、圧力室側の面は開口していることが好ましい。空間の圧力室側の開口している面からインクが進入するが、空間のインク供給源側の面は閉鎖されて袋小路になっているため空間のインク供給源側に空気が封じ込められ、インクが進入しない空間が容易に確保できる。空間への上流からの直接的なインクの進入は遮蔽されるので、空気が保持される空間の位置はインクの流れの少ない部分であり、従来のようなインクの流れによる空気の流出を抑えることができ、安定して圧力変動を緩和することができる。即ち、従来技術のインクジェットヘッドにおいては、通常の使用状態で共通インク室にインクが充填されていると共に隣接した空気室に空気が保持されており、ノズルからインクを吸引するメンテナンス動作時には、空気室に保持されている空気までが排出されてインクに置換されることがあり、かかる場合、圧力変動を吸収できなくなり、安定吐出に支障を斉らす虞がある。
本実施形態においては、大径部23は、小径部24よりもインクタンク5側に位置し、空間のインクタンク5側の面を閉鎖しているので、より簡単に空間のインク供給源側の面は閉鎖することができる。
また、空間22は、第1の領域と、第1の領域よりもインクジェットヘッド側(圧力室側)に位置し流路断面積が第1の領域よりも小さい第2の領域を有することが好ましい。
本実施形態においては、空気保持部材20Aは、小径部24よりも圧力室側に位置しインク供給管6Cの内面に当接する第2の大径部29を有し、第2の大径部29は、インク供給管6Cの内面に当接する外周面の一部にインク供給管6Cの軸方向に沿って延びる溝部30を有し、インク供給管6Cの内面と小径部24の間に第1の領域が形成され、溝部30との間に第2の領域が形成されている。流路断面積(インク供給管の軸方向に直交する断面の断面積)は、第1の領域の方が第2の領域よりも大きい。
第2の大径部29の外径d4は、大径部23の外径d1と略同一に形成されている。
この溝部30の流路抵抗により、インク供給管の上流から移動してきた溶存ガス濃度の低い新たなインク26と空間22の空気21との接触が妨げられる。即ち、溝部30を介して空間22に進入したインク26は、入れ替わることなく溶存ガス濃度が飽和した状態で滞留し、このインク26と空気21とが接触する気液界面Mにおいて、空気21がインク26に溶けてしまうことによる空気の減少を抑制できる。
ここで、気液界面Mのメニスカス保持力は、インクの表面張力に比例し、その気液界面の径(接触面積に相当)に反比例する。気液界面Mを溝部30内に形成することで、触面積を小さくしてメニスカス保持力を高めることができるので、振動や傾斜に対して気液界面が動きにくく、強い構造とすることができる。
また、前述のように、インク供給管6Cが膨張した状態で空気保持部材20Aが挿入されるので、大径部23と当接している近傍のインク供給管6Cが小径部24に向けて若干傾斜して対向する。このため、大径部23の外径d1と小径部の外径d2の差が小さすぎる場合や小径部の長さが長い場合、インク供給管の内周面が小径部d2の外周面に接触してインク26と空気21の気液界面Mの形成が妨げられることが懸念されるが、本実施形態では、大径部23に加えて第2の大径部29により、インク供給管が支持されるので、より簡単な構成で、このような接触が生じないようにすることができる。
また、空気保持部材は、インク供給管の軸方向に沿って延び、且つ、インクが連通可能な貫通穴を有することが好ましい。貫通穴により、インクジェットヘッドへの十分なインク供給が可能となる。
本実施形態においては、空気保持部材20Aは、一体化されたジョイント33の端面と後述する第2の大径部29の端面とを貫通してインク供給管6の軸方向に沿って延び、且つインクが連通可能な貫通穴25が形成されている断面形状が略円形の中空筒状体を用いている。
なお、貫通穴25の径d3は、ジョイント33,大径部23、小径部24、第2の大径部29の各部で異ならせてもよいし、本実施形態のように同じにしても良い。大径部の貫通穴25の径を小径部の貫通穴25の径よりも大きくするとインクジェットヘッド4へのより一層十分なインク供給を達成することができる。
さらに、インクジェット記録装置の使用時の姿勢においてインク供給源側の面は圧力室側の面よりも上方に位置することが好ましい。空間の上部に保持された空気を移動しにくくすることができ、メンテナンスプロセスにおけるノズルからのインクの吸引時等における、空間からの空気の流出を、簡便な構造で有効に防止することができる。
本実施形態のインクジェット記録装置1では、略水平状態に設置されて使用される。空気保持部材20Aにより形成される空間22のインク供給源側の面は閉鎖され、圧力室側の面は開口しているとともに、空気保持部材20Aが挿入されている部分のインク供給管6Cをその軸方向がインクジェットヘッド4のインク供給管接続部60から上方に向かって略鉛直方向になるように設けている。このようにインクジェット記録装置の使用時の姿勢において空間22の閉鎖されている側の面が開口している側の面よりも上方に位置するようにするようにしている。
具体的には、実使用状態において、インクタンク5からインクが供給されると、インク供給管6の上流からのインクは貫通穴25を通過し、インク供給管接続部60のインク供給路59に進入する。また、空間22の下側の開口している側の面からインクが進入するが大径部23により袋小路になっているため空間22の上部に空気21が封じ込められ、インクが進入しない空間が確保される。尚、詳細は後述するが、本実施形態では、大径部23に大気連通孔71が形成されており、実際はシール部材75によりインクの進入しない空間が確保されている。
また、インク供給管6Cの内周面に当接する大径部23により、小径部24の外周面とこの外周面に対向するインク供給管6Cの内周面との空間22への上流からの直接的なインクの進入は遮蔽され、インク供給時におけるインクの流れは、貫通穴25を通過し、上から下へ向く方向である。そのため、空気21が保持される空間22の位置はインクの流れの少ない部分であり、従来のようなインクの流れによる空気の流出を抑えることができ、安定して圧力変動を緩和することができる。
このように初期のインク導入時の動作により、空間22の少なくとも一部(上部)に空気21が封じ込められた状態で、インクタンク5からインクジェットヘッド4の圧力室までのインク供給路にインクが満たされることになる。
実使用状態においては、図4(b)に示すように、ノズルを下側とした場合、空間22の所定高さまでインク26が充填され、その上部には空気21が閉じ込められている。
空間22の流路断面積(インク供給管の軸方向に直交する断面の断面積)を大きくすることによって、空間22の体積を大きくし、内部に保持される空気21の量を多くすることができる。そのため、圧力変動を緩和する機能を増大させることができる。また、小径部24の長さL2を長くして空気の量を多くすることもできる。空間22の体積は、圧力変動を緩和してノズル内のインクメニスカスの位置ずれ(体積変化)を抑えられるように、圧力変動の大きさ等に応じて適宜変更すればよい。
ここで空気保持部材の大きさは、用途やインク供給管の内径等により適宜に決めれば良い。本実施形態である空気保持部材20Aでは、インク供給管の内径をDmmとしたとき、例えば、大径部23は外径d1がD+0.1mm〜D+0.5mm程度、長さL1が1mm〜5mm程度、貫通穴25の径d3がd1−2.0mm〜d1−0.5mm程度、小径部24は外径d2がd1−2.0mm〜d1−0.8mm程度、長さL2が2mm〜20mm程度、貫通穴25の径d3がd2−2.0mm〜d2−0.5mm程度、第2の大径部29は外径d4がD+0.1mm〜D+0.5mm、長さL3が1mm〜5mm程度、貫通穴25の径d3がd1−2.0mm〜d1−0.5mm程度、溝部30は幅が0.2mm〜0.5mm程度、深さが0.2mm〜0.5mm程度である。
また、インク供給管は、少なくとも保持された空気に接する部分が空気透過性を有していることが好ましい。このことにより、空気とインクが接触する気液界面Mにおいて、空気がインクに溶けてしまうことによる空気の減少を、空気透過性を有するインク供給管を透過して空間に供給される空気により、補充することができ、簡便な構造で長期間にわたり圧力変動の吸収効果を維持することができる。
本実施形態では、インク供給管6Cの全体が空気透過性を有している材料で構成され、インク供給管6Cの外側が大気に接している。また、インク供給管の空気透過性は、100(ml/m2・24h・atm)以上1000(ml/m2・24h・atm)以下が好ましく、この空気透過性は40℃の恒温槽内に置かれたインク供給管にHeを流し、He中に透過してくる空気をガスクロマトグラフィーにて酸素と窒素に分離して定量することにより測定する。
インク供給管6Cは、空気透過性や耐インク性、弾性などを考慮して、本実施形態例ではポリエチレン、フッ素樹脂やナイロン等の高分子樹脂材料による単層または多層構造チューブを採用しているが、ゴム材料を用いても良い。
インク供給管6Cの厚さは、空気透過性と弾性、強度を考慮して、概ね0.5mm〜2mmが好ましい。
インク供給管6Cの好ましい内径は、使用するインクの粘度やインクジェットヘッドの吐出能力等によって多少異なってくるが、インク供給管6の内径(直径)としては1〜6mmが好ましい。
また、インク供給管は、少なくとも保持された空気に接する部分が透明であることが好ましい。空間に空気が残存しているか否かを検知することができるため、所定量以下である場合は、後述するような新たに空気を補充するための空気回復機構を設けたり、新しいインクに置換することで空気の再導入をおこなうことで確実に空気が残存している状態を維持できる。空気が残存しているか否かを検知するのは、目視による方法でも良いが、たとえば後述するような空間の光透過率を測定することで空気が残存しているか否かを検知する空気量検知手段を設けることにより、自動的に検知する構成にしてもよい。もし、所定量以下になっている場合は、空気の補充をおこなえばよい。あるいは、その旨を作業者に報知するようにしてもよい。
本実施形態では、インク供給管6Cの全体が透明性を有している材料で構成されている。なお、透明とは空気とインクが判別できる程度でよく、前述の高分子樹脂材料による単層または多層構造チューブを採用することで達成できる。
(空気回復機構)
次に、空気を補充するための空気回復機構について、図4及び図5を参照して詳細に説明する。
ここで、図5は本発明の第1実施形態に係るインク供給管の接続構造の模式図で、(a)は空間が大気と閉鎖された状態を示す拡大正面図と断面図、(b)は空間が大気と連通された状態を示す拡大正面図と断面図である。
図4に示すように、インク供給管6Bは、樹脂や金属により中空状に形成されており、インク供給管6Bの内部流路は、空気保持部材20Aとジョイント33の一体構造物を介してインク供給管6Cと接続されている。また、このインク供給管6Bは、インクタンク5側から小径部74と大径部72とを備えている。
また、ジョイント33は、インクタンク5側から小径部79と大径部78とを備えている。
また、空気保持部材20Aとジョイント33の一体構造物において、ジョイント33の大径部78と空気保持部材20Aの大径部23をインク供給管の軸方向に沿って貫通し、空間22に連通する大気連通孔71が形成されている。この大気連通孔71は、ジョイント33の大径部78の上端から空気保持部材20Aの大径部23の下端に至るまで伸びており、外部から導入される空気を空間22の上部へ導くためのものである。
図5に示すように、インク供給管6Bは空気保持部材20Aとジョイント33の一体構造物に対して相対移動可能に装着され、インク供給管6Bが大気連通孔71を大気と閉鎖することで空間22を大気と閉鎖する大気閉鎖位置(図5(a)参照)と、インク供給管6Bが大気連通孔71を大気に連通することで空間22が大気と連通する大気連通位置(図5(b)参照)との間をインク供給管の軸方向に移動可能に構成されている。尚、インク供給管6Bは本願発明の開閉部材として機能する。
具体的には、図4に示すように、インク供給管6Bの大径部72の内周部には、ジョイント33の大径部78における大気連通孔71の開口面に当接するOリング等のシール部材73が設けられており、このシール部材73により、インク供給管6Bとジョイント33とが隙間なく密着されるとともに、インク供給管6Bが大気閉止位置にある状態において、大気連通孔71から空間22内に大気が流入するのが防止される。また、大気開放位置にある状態において、インク供給管6Bは、大径部78におけるシール部材73が大気連通孔71の開口面から離間する位置に移動して大気連通孔71を介して空間22を大気に連通させる。
また、インク供給管6Bの小径部74の内周部には、ジョイント33の小径部79の外周部に摺接するOリング等のシール部材75が設けられており、このシール部材75により、小径部74の内周部と小径部79の外周部とが隙間なく密着されるとともに、インク供給管6Bが大気開放位置にある状態において、隙間からインクが漏れるのが防止される。さらに、インク供給管6Bが大気閉鎖位置にある状態において、大気連通孔71から空間22内にインクが流入するのが防止される。
このように空気回復機構は、大別して一体構造物に形成された大気連通孔と、大気連通孔を開閉する開閉部材として機能するインク供給管6Bと、開閉部材の移動機構からなる。
図4において、この移動機構は、一体構造物の大径部78の外周部に形成されたピン70、および、これに案内されて軸方向の下方に移動するとともに回転方向に移動するインク供給管6Bからなる。インク供給管6Bの大径部72は、上から見て円形の中空筒状部材で、その外周部に軸方向Uと円周方向Vからなる階段状の案内溝77を設ける。
一体構造物は、大径部78の外周部に、ピン70を立設して、これをインク供給管6Bの案内溝77と係合させる。空間22の上部と大気とを大気連通孔71、案内溝77を介して連通させる。
まず、図5(a)に示すように、通常時、即ち、空間22に空気を導入する必要のないときには、インク供給管6Bは空間22を大気と閉鎖する大気閉鎖位置にある。インク供給管6Bがシール部材73を圧縮するように付勢した状態で係止され、押圧が持続されており、空間22が閉鎖されている。
そして、空間22に空気を補充するときには、図5(a)において、ピン70と案内溝77の係合を介して、インク供給管6Bを円周方向に回転させ(案内溝77の円周部分Vによる)、次に、インク供給管6Bを上方に変位させ、図5(b)に示す最終段階でインク供給管6Bがシール部材73を大気連通孔71の開口面に対し離間した状態で係止される(案内溝77の軸方向部分Uによる)。これで大気連通孔の開放動作が終了し、次の吸引動作に移り、空気を補充する。
次に、大気連通孔71を閉鎖するときには、図5(b)において、ピン70と案内溝77の係合を介して、インク供給管6Bを下方に変位させ、シール部材73を大気連通孔71の開口面に対し押圧させ(案内溝77の軸方向部分Uによる)、次にインク供給管6Bを円周方向に回転させ、図5(a)に示す最終段階でインク供給管6Bがシール部材73を圧縮するように付勢した状態で係止され、押圧が持続される(案内溝77の円周部分Vによる)。
以上説明したインクジェット記録装置によれば、空間22の空気21が所定量以下になってしまった場合に、手動または自動により、インク供給管6Bを移動させて空間22を大気に対して連通することにより簡便且つ早急に空気を補充できる。自動の場合は、空気の残存量を検知する手段を設け、制御部83の制御下で、その検知動作に連動してインク供給管6Bを移動させ大気に連通するようにすればよい。
また、インク供給管6Bを開閉部材として機能させ、その動作により空間22を大気に対して閉鎖及び連通することができるため、別途に大気開閉する開閉部材等を設ける必要がなく、部品数を減らして構造を簡略化でき、製造コストを低減できる。
(第2実施形態)
第2実施形態のインクジェット記録装置は、インク供給管6Bが開閉部材駆動手段としてのソレノイド82により動作する点が第1実施形態との相違点であり、以下相違点のみ説明する。
第1実施形態のインクジェット記録装置では、手動で空気を補充する場合、ユーザーがインク供給管6Bを動かして大気連通孔を開放しなければならず、それを忘れると空気量を正常に回復できない。
第2実施形態のインクジェット記録装置では、空間の空気量を把握し、自動で大気連通孔を開放し空気を補充することで、空気量が所定量以下の状態における吐出の不安定化を確実に防止する。
図6は、本発明の第2実施形態に係るインク供給管の接続構造の模式図で、(a)は接続前の状態を示す斜視図、(b)は接続後の状態を示す正面図である。
図7は、本発明の第2実施形態に係るインク供給管の接続構造の模式図で、(a)は開閉部材駆動手段としてのソレノイド82がオフの時を示し、空間が大気と閉鎖された状態を示す拡大正面図と断面図、(b)はソレノイド82がオンの時を示し、空間が大気と連通された状態を示す拡大正面図と断面図である。尚、図7においてはソレノイド82が省略してある。
図6に示すように、ソレノイド82は、本体82Aと、本体82Aが励磁されると吸引されるプランジャ82Bで構成される。
インク供給管6Bには駆動力伝達部81が一体的に設けられ、駆動力伝達部81には、開閉部材駆動手段としてのソレノイド82のプランジャ82Bの一端が取り外し可能な状態で固定されている。
図6の符号1000は、図示しないインクジェット記録装置本体(例えば、枠体)に上下方向に位置調整可能な状態で固定されたソレノイド保持部であり、ソレノイド82の本体82Aは、ソレノイド保持部1000に取り外し可能な状態で固定されている。
案内溝77は軸方向部分Uのみが設けられ、ピン70との係合を介して、インク供給管6Bはその軸方向(図6のH方向)に往復移動する。
図7(b)に示すように、ソレノイドに通電し、ソレノイドをオンすることにより、プランジャ82B、駆動力伝達部81及びインク供給管6Bがソレノイド本体82Aに吸引される方向に移動し、大気連通孔71が大気に開放される。図7(a)に示すように、ソレノイドがオフになると、プランジャ82B、駆動力伝達部81及びインク供給管6Bがソレノイド本体82Aに吸引される方向とは逆方向に移動し、大気連通孔71が大気に密閉される。
以上説明した第2の実施形態のインクジェット記録装置によれば、開閉部材としてのインク供給管6Bを開閉部材駆動手段としてのソレノイド82のオンオフにより移動させ空間22を大気に対して連通、閉鎖することができるため、第1の実施形態の効果に加えて、インク供給管6Bの移動による大気連通孔の開閉をより確実にかつ容易に行うことができるという効果を奏する。
開閉部材駆動手段には、電磁式ソレノイド以外に、ステッピングモータ,DCモータ,電磁式ソレノイド,リニアモータの各種のアクチュエータを用いることも可能である。
(空気回復及びインク吸引の制御構成)
図8は、本発明の第2の実施形態に係るインクジェット記録装置の空気回復及びインク吸引の制御構成を示すブロック図である。ここでは、空気回復及び吸引の制御に関する部分のみを示し、他の部分については省略している。
制御部83には、以下の各部が接続されている。記憶部86は、空気回復及びインク吸引の制御に関するプログラムやデータを記憶しており、制御部83によって制御対象を制御する際に用いられる。
空気量検知手段85は、空間22内の空気量が所定量以下になると出力を行うセンサで、具体的には、空気の増減によりインク供給管の軸方向に移動するインク液面を検知するための光学式のセンサであり、インク26によってセンサのセンサ領域の遮光又は非遮光が切り換えられることで、センサの受光量が変化して、これによりセンサ信号の出力状態を切り換える。すなわち、空気量検知手段85は、そのセンサ領域にインク26が存在する場合に空気量が所定量以下であることを検知して制御部83に対してセンサ信号を出力し、センサ領域にインク26が存在しない場合に空気量が所定量以下であることを検知せずに制御部83に対してセンサ信号を出力しない。
インク供給管6Bは、空気保持部材20Aとジョイント33の一体構造物に設けられた大気連通孔71を開閉可能に構成された開閉部材として機能する。そして、インク供給管6Bは、制御部83の制御下で開閉されることで大気連通孔71を介して空間22の上部に空気を補充する。
開閉部材駆動手段としてのソレノイド82は、制御部83の制御下で駆動することにより、駆動力伝達部81を介してインク供給管6Bを軸方向(図6のH方向)に移動させる。具体的には、ソレノイド82は、その駆動によりインク供給管6Bを下方向に大気閉鎖位置まで移動させ、また、インク供給管6Bを上方向に大気開放位置まで移動させる。
タイマー84は、新規のインクジェットヘッドが装着されてからの経過時間を計測する。
カウンタ87は、新規のインクジェットヘッドが装着されてからのインク吸引量を測定する。本実施形態では、インク吸引回数をカウントしてインク吸引量を測定する。
また、上述した吸引ポンプ11も接続され、制御部83によって動作される。
(空気回復及びインク吸引の制御)
次に、空気回復及びインク吸引の制御について、図9及び図10を参照して詳細に説明する。
ここで、図9は空気回復動作を実施するタイミングの一例を示すタイムチャートである。
この空気回復動作は、例えば、インクジェットヘッドが所定量のインク吸引を行った後や、空気量検知手段が空気量が所定量以下であることを検知した際、或いは所定の時間が経過した後等を空気回復動作の開始タイミングとして、制御部83の制御下で行われる。
まず、新規のインクジェットヘッドが装着され使用が開始されると、タイマー84がスタートする。またカウンタ87は各色毎にインクジェットヘッドから吸引動作を行った回数を累積的にカウントしている。
なお、前述のように初期のインク導入時の動作により、インクタンク5からインクジェットヘッド4のノズルまでのインク供給路において、空間の少なくとも一部に空気が保持された状態でインクが満たされることになる。
そして制御部83は、毎回のインク吸引終了時に、累積の吸引回数をカウンタ87から算出し、各色毎に設定された所定回数に達していれば、そのインクジェットヘッドについて空気回復動作を行う。ここで所定回数は、インク吸引動作の繰り返しにより空間内の空気の量が減少しても画像劣化に繋がらない程度の空気量を維持するように設定される。この所定回数はインクの組成等によって異なるが、通常数回〜数百回の吸引を目安にすれば良い。
尚、この空気量が減少は、インク吸引動作時に図4(c)に示す空間22における空気21が膨張してインク26と空気21の気液界面Mが下降し、インクジェットヘッド4側に引き寄せられ、その後吸引終了時に元の位置に戻ろうとするが、このとき実際は若干量の空気がインクに置換されて空気量が減少し、吸引回数の累積と共に徐々に空気量が減少していくことにより生じるものと考えられる。
また、制御部83は、タイマー84が所定時間に達したときは、空気回復動作を行う。ここで所定時間は、経時でのインク中への空気の溶解等により空間内の空気の量が減少しても画像劣化に繋がらない程度の空気量を維持するように設定される。この所定時間はインクの組成等によって異なるが、通常数ケ月を目安にすれば良い。
もし、何らかの理由により、タイマー84が所定時間に達しない場合やカウンタ87が所定回数に達していない状態で空気量が所定量以下になった場合には、空気量検知手段85が検知した段階で強制モードの空気回復処理を行う。
図10は空気回復動作時の流れの一例を示すフローチャートである。この制御は、空気回復動作時に、記憶部86に記憶されている制御プログラムに基づいて制御部83によってされる。前提として、図1においてインクジェットヘッド4が吸引キャップ8に対向するようにキャリッジ3が位置し、またメンテナンスユニット7が上昇してインクジェットヘッド4の吐出面41Sが吸引キャップ8に密着しているものとする。
まず、制御部83は、大気連通孔71を開状態にする(ステップS100)。すなわち、ソレノイド82を駆動することにより、駆動力伝達部81を介してインク供給管6Bを図7(a)に示す大気閉鎖位置から図7(b)に示す大気開放位置まで移動させる。これにより、空間22の上部に連通する大気連通孔71が大気に開放される。
本実施形態のように、大気連通位置をインクジェットヘッドのノズル面に対して相対的に高い位置に設定することにより、インクジェットヘッドのノズル内のインク背圧が負圧になるように適宜設定することで、空間22内のインク液面とインクジェットヘッドのノズルのインク液面との間の水頭差を利用して、外部の空気を空間22内に吸い込むことができる。
次に、制御部83は、吸引ポンプ11を所定時間だけ駆動させ、ヘッド吸引を行う(ステップS200)。これにより、吸引ポンプ11によりインクジェットヘッド4からのインクの吸引が開始されるとともに、インク供給路内部が減圧され、空間22の上部に補充するための空気が大気連通孔71を介して供給される。このとき、空間22内のすべてに空気が満たされる空気量を最大として、これ以下の空気量となるようなインクの吸引量で吸引することが好ましい。
この吸引動作(ステップS200)は、インク供給系を積極的に負圧にしてより確実に外部の空気を空間22内に吸い込むことができる点で好ましい。
次に、制御部83は、大気連通孔71を閉状態にする(ステップS300)。すなわち、ソレノイド82を駆動することにより、駆動力伝達部81を介してインク供給管6Bを図7(b)に示す大気開放位置から図7(a)に示す大気閉鎖位置まで移動させる。これにより、空間22の上部に連通する大気連通孔71が大気と閉鎖される。
次に、制御部83は、吸引ポンプ11を所定時間だけ駆動させ、ヘッド吸引を行う(ステップS400)。この吸引動作は、通常のヘッド回復動作であり、その後の印字開始時に吐出不良等が生じる虞をなくすことができる点で好ましい。
ステップS200の吸引動作において、空間22内のすべてに空気が満たされる空気量を最大として、この最大値を超えて空気が補充されてしまうと、インク供給路内に空気が侵入してしまう。そして、インクジェットヘッドからのインクの吐出が正常に行われなくなる虞がある。しかし、このステップS400の吸引による回復動作により、インク供給路内の内部に存在する空気をインクと共に除去することができ、インクジェットヘッドから正常にインクを吐出することができる。
上記実施の形態では、ステップS100で大気連通孔71を開状態にした後にステップS200でインク吸引を開始するようにしたが、これに限られるものではなく、大気連通孔71を開状態で吸引ポンプを作動させインクを吸引すれば良い。そのため、例えば、大気連通孔71を閉状態でインク吸引を開始し、所定時間だけ大気連通孔71を開状態にした後、閉状態にし、吸引を終了するようにしても良い。
但し、インク吸引を開始後に、インク供給路の内部と大気の差圧が所定値以上に大きくなったときに大気連通孔が開放されると、差圧により急激に空気が流入し、空気量の制御が難しくなるので、本実施形態のように大気連通孔71を開状態にした後にインク吸引を開始するようにして、徐々にインク供給路を負圧状態にしながら空気を流入させることが好ましい。
本実施形態では、空間22の空気量を把握する手段としては、タイマー84、カウンタ87、空気量検知手段85の少なくとも1つを備えていれば良く、タイマー84及びカウンタ87の少なくとも一方を備えることで、空気量検知手段を必要とせず、空気室内の空気量の減少を予測し、空気回復動作を行うことにより、効率的に空気量の減少に起因とする印字画像の劣化を抑制することができる。また、空気量検知手段を備えることにより、精度良く空気室内の空気量の減少を検知することができる。
また、本実施形態では、インク供給源側のインク供給路(インク供給管6B)と空気保持部材20Aが挿入されたインク供給管6Cとを接続するジョイント33と、空気保持部材20Aとを一体の構造物として構成したが、空気保持部材と、空気保持部材が挿入されるインク供給管に接続される他の部材とを一体の構造物として構成すれば良い。例えば、インクジェットヘッド4のインク供給管接続部60と空気保持部材とを一体の構造物として構成してもよい。前者の構成の方が、空気回復が容易になるため好ましい。
また、実施形態ではインク供給管6Cに1つの空気保持部材20Aが設けられているが、その数は特に問わない。
また、実施形態ではメインのインクタンクのみが設けられたインクジェット記録装置に適用したが、サブタンクが設けられているインクジェット記録装置にも適用可能である。
また、実施形態ではシリアル方式のインクジェット記録装置に適用したが、ライン方式のインクジェット記録装置にも適用可能である。インクジェットヘッドを静止させた状態で記録するライン方式の場合においても、ポンプやモータ等の外部振動の影響によりインク供給圧力が変動することがあり、本発明のインクジェット記録装置によれば、インクの供給圧力の変動を緩和し、吐出安定性を向上させることができる。
また、実施形態ではインクジェットヘッドは、ヘッドチップに圧電素子を備える構成とは限らず、例えばヒータを備える構成としてもよい。
また、空気保持部材の形状や位置関係等も適宜変更して実施可能である。例えば、第2の大径部29を設けない構成、溝部30を直線ではなく螺旋状にした構成なども可能である。