JP2010266416A - フェーズドアレイ開口合成処理方法並びにその適用効果評価方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】検査対象物内に想定される欠陥の位置に応じて、開口合成法による方位分解能向上に適した周波数・振動子寸法をもつ探触子を選定可能とする。
【解決手段】評価式に基づいて、フェーズドアレイの振動子の周波数と振動子寸法から、予測される探触子からの傷の距離との関係で開口合成法による方位分解能の改善効果を評価し、開口合成処理の適用するか否かを評価したり、検査対象の材料に基づいて使用周波数を決定し、該使用周波数と予測される傷の探触子からの距離とで最大振動子寸法を選定し、その範囲内で前記フェーズドアレイの送信素子として用いる素子数を最大値に設定する。
【選択図】図20
【解決手段】評価式に基づいて、フェーズドアレイの振動子の周波数と振動子寸法から、予測される探触子からの傷の距離との関係で開口合成法による方位分解能の改善効果を評価し、開口合成処理の適用するか否かを評価したり、検査対象の材料に基づいて使用周波数を決定し、該使用周波数と予測される傷の探触子からの距離とで最大振動子寸法を選定し、その範囲内で前記フェーズドアレイの送信素子として用いる素子数を最大値に設定する。
【選択図】図20
Description
本発明は、超音波探傷法における開口合成処理方法並びにその適用効果評価方法関する。さらに詳述すると、本発明は、フェーズドアレイを用いた超音波探傷における開口合成処理方法とそれを適用する場合の効果を評価する方法に関する。
超音波探傷試験は、多くの非破壊検査技術の中で、内在き裂を検出する有効な手法として広く用いられており、最近では探触子を走査させながらAスコープ波形を輝度変調してプロットしていくBスコープ画像が、実際の探傷現場で用いられている。Bスコープ画像は欠陥の位置・形状・分布の状況を把握し易い特徴を持つ。
一方、検査精度を向上させるためには方位分解能の向上を図ることが重要である。また、クリープボイドのような微小欠陥や、疲労き裂のように閉じたき裂の先端からの微弱なエコーを捉えるためには、SN比の向上も不可欠である。
これらの超音波探傷試験における問題点を解決し、検査の高精度化を実現する方法として広く認知されているものに開口合成法がある。開口合成法は探触子を走査し、得られた振幅が各点で集束するように、ビームの拡がりを考慮しながら合成していく技術であり、近年ではフェーズドアレイ法にも適用されている(特許文献1〜3、非特許文献1〜3)。開口合成法を適用すると、方位分解能やSN比が向上し、距離による減衰特性が改善されると考えられている。
H. Karasawa, M. Izumi, T. Suzuki, S. Nagai,M. Tamura and S. Fujimori, "Development of under sodium 3D visual inspection technique by using matrix-arrayed ultrasonic transducer", Journal of Nuclear Science and Technology, 37 (2000), pp. 769-779.
阿部素久、黒沢博一著 「ポータブルタイプ3D超音波検査装置Matrixeye」東芝レビューVol.60 No.4、48-51、2005年
唐沢博一、磯部英夫、浜島隆之著「3次元開口合成(3D-SAFT)アレイと適用事9例」非破壊検査Vol.56 No.10、520-524、2007年
しかしながら、実際に開口合成処理を実施しても、探触子に近い欠陥についての方位分解能は適用前よりも低下する場合がある。また、従来の開口合成フェーズドアレイ法は、1つの振動素子で送信して複数の振動素子で受信するようにしているため、振動子からきずまでの距離が長いと、ビームの空間的分散が起こり易く(ビームが広がるため)感度が良くならないことから、厚肉検査対象物に対する全厚検査が難しいという問題を含んでいる。さらに、微小な亀裂やきずの端などを検出することが困難となる問題を伴う。このため、従来では、開口合成処理の適用効果が不透明で、開口合成処理の適用の評価を事前に行うことが望まれる。
本発明は、探触子の周波数・振動子寸法に応じて、開口合成処理の適用前より方位分解能が向上する探触子からの距離を予測し、検査対象物内に想定される欠陥の位置に応じて、開口合成法による方位分解能向上に適した周波数・振動子寸法をもつ探触子を選定可能とする開口合成処理適用評価方法を提供することを目的とする。
かかる目的を達成するため、本発明者等が種々実験・研究した結果、開口合成法を適用すると必ずしも指示(欠陥に起因するエコーの分布)の広がりが収束するとは限らない。逆に補正前より広がることがある。開口合成法により方位分解能が向上する探触子からの距離が周波数並び振動子寸法(素子数)に依存しており、探触子からの傷までの距離がある値(本明細書においては、開口合成下限界距離と呼ぶ)を超えて探傷面側に存在する(浅い位置にきずが在る)と逆に指示の広がりが拡大されることが判明した。また、開口合成法による方位分解能の改善効果は、振動子寸法と周波数に依存しており、両者が小さい探触子を用いた方が改善効果が顕著であることが判った。
本発明は、かかる知見に基づいて、開口合成法による方位分解能の改善効果についての予測を可能とする開口合成下限界距離を明らかにし、各種探触子に応じた開口合成法の効果を予備試験を行うことなく予測できるようにし、かつ検査対象物に応じた最適な探触子を選定できるようにしたものである。
即ち、請求項1記載の発明にかかるフェーズドアレイ開口合成処理の適用効果評価方法は、フェーズドアレイの振動子の周波数と振動子寸法から、数式1の評価式に基づいて、予測される探触子からの傷の距離との関係で開口合成法による方位分解能の改善効果を評価し、開口合成処理の適用するか否かを評価するようにしている。
ここで、
f:周波数
l:振動子寸法
c:音速
r:方位分解能が向上する探触子からの距離
である。
f:周波数
l:振動子寸法
c:音速
r:方位分解能が向上する探触子からの距離
である。
また、請求項2の発明にかかるフェーズドアレイ開口合成処理方法は、検査対象の材料に基づいて使用周波数を決定し、該使用周波数と予測される傷の探触子からの距離とで数式2の評価式に基づいて最大振動子寸法を選定し、その範囲内で前記フェーズドアレイの送信素子として用いる素子数を最大値に設定するようにしている。
ここで、
f:周波数
l:振動子寸法
c:音速
r:方位分解能が向上する探触子からの距離
である。
f:周波数
l:振動子寸法
c:音速
r:方位分解能が向上する探触子からの距離
である。
請求項1記載の発明にかかるフェーズドアレイ開口合成処理の適用効果評価方法では、検査対象物内に想定される欠陥の位置に応じて、開口合成法による方位分解能向上に適した周波数・振動子寸法をもつ探触子を選定できる。
上述の評価式によって、各種探触子に応じた開口合成法による方位分解能の改善効果を予備試験を行うことなく予測できるため、実際の探傷では、検査対象物の厚さと想定される欠陥の位置を決定しさえすれば、それに応じた最適な探触子を選定することができる。
さらに、フェーズドアレイの周波数及び振動子寸法が決まると、想定される振動子からのきずの距離において開口合成処理による方位分解能の改善効果が期待できるか否かの評価ができる。つまり、開口合成処理が適用できる実質上限(開口合成下限界距離)が判定できる。したがって、開口合成下限界距離より遠くに亀裂がある場合、開口合成法により方位分解能が向上することが判明する。
また、請求項2記載のフェーズドアレイ開口合成処理方法の場合、検査対象物の材質などから使用できる周波数が定まると、開口合成法による方位分解能の改善効果を妨げない範囲で、妥当な振動子寸法の上限(最大の振動子寸法)を求めることができる。したがって、開口合成法による方位分解能を向上させ得る範囲で探触子の数を増大させ、超音波ビームの指向性を良くして、検出感度を向上できる。このため、きずを見落とす可能性が低減すると共に微小なきずや亀裂なども検出可能となる。依って、厚肉検査物の全厚検査を容易かつ精度良く行うことができる。
以下、本発明の構成を実施形態に基づいて詳細に説明する。尚、開口合成処理技術は周知であり、その原理はよく知られているので詳細は省略する。
開口合成フェーズドアレイ法は、フェーズドアレイによる探傷を対象とし、1つの振動素子で送信して、同一点(探傷範囲の着目されたある点,探傷範囲をメッシュ状に区画したときのあるメッシュ)からの反射エコーが重なるように複数の振動素子で受信した受信波形信号を加算することにより、反射源における対象物の像を再生するようにしたものである。
ここで、同一点からの反射エコーが複数の振動素子で受信される時間は、振動素子の位置と探傷範囲の着目した点との距離に応じて変化し、遅れが生じる。この遅れは、探傷範囲において着目された点と走査位置との幾何学的関係により容易に計算できる。そこで、複数の受信波形信号を探傷範囲において着目された点(即ち該当メッシュ)において焦点を結ぶために必要な斜角とビーム路程となるように受信素子の遅延時間を制御することにより、同一点からの反射エコーを複数の振動素子で受信する。そして、各受信素子で受信されるAスコープ波形信号の遅れを修正するように波形の位相をシフトし、波の位相を揃えた状態で重ね合わせる開口合成処理を行うと、ビームの中心に傷がある場合の散乱波の振幅が強調され、逆にきずがビームの中心からずれていたり存在しない場合には互いの波の位相が異なることにより振幅が逆に弱まったりノイズ成分が打ち消されバックグランドレベルが低減される。したがって、きずからの散乱波の振幅と、ビームの中心からに傷がない場合の散乱波の振幅との差が大きくなり、きずがあるメッシュにおける振幅が相対的に大きくなり、方位分解能が向上する。
実際の検査においては、傷の位置は探傷範囲において不明であるので、探傷範囲をメッシュ状に区画して各メッシュ毎に焦点が合うように各受信素子の遅延時間パターンを予め作成(マッピング)してテーブルとしてメモリに格納しておき、遅延時間パターンに従って各受信素子を電子制御する開口合成処理を全領域について行う。
例えば、測定装置は、複数の小さな振動子(以下、素子と呼ぶ)を一列に配置したフェーズドアレイ探触子(本明細書では単にフェーズドアレイと呼ぶ)と、このフェーズドアレイの各振動子に与えるパルス電圧の遅延時間を個別に制御することにより、超音波ビームの収束や偏向を容易に制御する送受信装置と、受信した超音波波形信号をA/D変換してから画像化する画像化処理装置とで主に構成されている。そして、フェーズドアレイでは、1つの素子から放射された超音波は、材料内部を伝播し、複数の素子で受信される。そこで、振動素子を順次送信し、その都度他の振動素子で超音波波形を受信すると共に、受信した超音波波形信号をA/D変換し、ディジタル信号として画像化処理装置に保存する。
ここで、フェーズドアレイの各受信素子で得られたAスコープ波形信号を用いて開口合成処理を行う。開口合成処理は、画像化処理装置に内蔵の演算回路で、各受信素子毎の波形データから、各ビーム路程でのフライトタイム(欠陥からの反射波の遅れ時間に相当)の振幅値を取り出し探傷範囲を区分した対応するメッシュの画像メモリーに加算し、引き続き、他の受信素子で得られた波形データについても同様の処理を施すことにより、多数の反射波形のピーク値が同位相で加算される。例えば、きずからの反射エコーの場合、多数の欠陥からの反射波形のピーク値が同位相で加算され、さらに輝度変調処理により鮮明な欠陥画像・画素が得られる。きずの存在しないバックグランド画像では、ノイズ成分が打ち消されバックグランドレベルが低減される。これら処理を画像化処理領域の全てのメッシュに対して行うことにより、鮮明なBスコープ画像が合成される。
この開口合成処理を適用すると、どのような条件においても指示(欠陥に起因するエコーの分布)の広がりが収束するとは限らない。逆に補正前より広がることがある。開口合成法により方位分解能が向上する探触子からの距離が周波数並び振動子寸法(素子数)に依存しており、探触子からの傷までの距離がある値(開口合成下限界距離と呼ぶ)を超えると逆に指示の広がりが拡大されることが本発明者等の実験・研究により判明した。また、開口合成法による方位分解能の改善効果は、振動子寸法と周波数に依存しており、両者が小さい探触子を用いた方が改善効果が顕著であることも本発明者等の実験・研究により判明した。
一方、開口合成処理は、送信の際の振動素子の寸法即ち数が少ない方が走査方向の指示拡がりが小さくなり、分解能の改善効果が大きいことが本発明者等の実験・研究により判明した。このため、振動素子数を増やしてエネルギーを増やすと開口合成処理の効果がなくなる恐れもある。このため、厚肉試験体の内部に存在する欠陥の検出には、エネルギー強度が不足してきずを見落とす可能性が生ずる。
そこで、開口合成処理による方位分解能の改善効果の評価法について検討し、探触子からの傷までの距離に関して開口合成法の適用効果があるか否かの境界即ち開口合成下限界距離を求め、さらにはある探触子からの距離と周波数における方位分解能を向上させる振動子の寸法の選定(選択した振動子が妥当かどうか)について以下に示すように種々実験・研究した。
開口合成法の原理を以下に示す。図1に示すように、振動子の遠距離音場が指向角φ0の拡がりをもつような探触子を用いて、内部に横穴を含む試験体を位置x-3からx3まで走査する。このとき各探触子位置x-2〜x2において受信されるAスコープ波形を図2(a)に示す。各探触子位置x-2〜x2では、横穴による後方散乱波が受信され、その振幅は、横穴が超音波ビームの中心にある探触子位置x0において最大となり、x0から離れるにしたがって小さくなる。また、後方散乱波が受信される時間は、探触子位置と横穴との距離に応じて変化し、探触子位置x0の散乱波の現れる時間を基準とすると、探触子位置x-2、x-1、x1、x2はそれぞれ図2(a)に示すΔt-2、Δt-1、Δt1、Δt2だけの遅れが生じる。この遅れは、横穴と走査位置との幾何学的関係により容易に計算できる。
ここで、図2(b)に示すように、探触子位置x-2、x-1、x1、x2で受信されるAスコープ波形に関して、遅れを修正するようにΔt-2、Δt-1、Δt1、Δt2だけ波形の位相をシフトし、波の位相を揃えた状態を重ね合わせると、図2(c)に示すように散乱波の振幅が強調される。図2では、探触子位置x-2〜x2の波形しか示していないが、実際には探触子位置x-3、x3の波形も位相シフトして重ね合わせている。また、図3に示すように、探触子位置x1で散乱波が受信される時間を基準として、幾何学的関係から各探触子位置における遅れを計算し、これを修正するように位相シフトすると、互いの波の位相が異なり、波を重ね合わせても、位相が揃った状態ほどエコーは強くならない。
したがって、ビームの中心に横穴がある探触子位置での散乱波の振幅と、ビームの中心に横穴がない探触子位置での散乱波の振幅との差が大きくなり、横穴がある探触子位置における振幅が相対的に大きくなる。このような処理を行うことで、方位分解能の向上させることができる。実際には、横穴の位置は不明であるので、全領域について以下の処理を行う。
探触子位置xi における探触子で得られたAスコープ波形のビーム路程yiでの振幅を
とする。Bスコープ画像内の開口合成処理を適用する領域S内において、以下の演算を行う。k番目の探触子位置でのAスコープ波形を以下のようにビーム路程をシフトする。
ここで、
であり、探触子のθは屈折角を示す。ビームの拡がりを考慮して、領域Sの情報を含む探触子位置pからqまでの得られた波形を、シフトし合算すると、次式に示すように開口合成処理された点(xi,yi)の振幅が得られる。
開口合成法は、Aスコープ波形の位相シフトにより、図2(c)に示すように位相が揃って重ね合わさった波の振幅と、図3(c)に示すように位相がずれて重ね合わさった波の振幅との差が、位相シフト前より相対的に大きくなることによって方位分解能が向上する効果が現れる。したがって、その振幅差が開口合成処理前と相対的に同程度であるならば方位分解能向上の効果は現れず、また、処理前より小さくなると、逆に方位分解能が落ちてしまう。
一探触子法(1つの探触子を用いた測定法)において、図4に示すように試験体内の任意の点Fについて、振動子の指向性から点Fの情報を含む探触子位置である点G,H,Iを考える。探触子は、垂直探触子で、振動子は指向角φ0の指向性をもち、点Fからの距離が最小となる探触子位置が点Gであり、点Fからの距離が最大となる探触子位置が点H,Iである。指向角φ0が小さいならば、点FG間の距離をrとしたとき、点FH間の距離とrとの距離差Δr は次式で示される。
ここで、xは点GH間の距離を示し、rとφより次式のように示される。
また、矩形振動子の指向角φ0は次式で示される。
ここで、lは矩形振動子の一辺長、fは周波数、cは音速である。点Fに欠陥があった場合、欠陥による後方散乱波が各探触子位置で受信され、点Gで振幅が最大となる波を、点H,Iで振幅が最小となる波を受信する。このとき、点Gで受信される波の振幅を基準に正規化すると、点GとIの間にある探触子位置Jで受信される波の振幅Dは次式で示される。
ここで、kは波数、φは点FとGを結ぶ線分FGと、点FとJを結ぶ線分FJの成す角である。また、振幅Dが−6dB(半分)になるときの角度、すなわち実効指向角φ-6は次式で近似される。
ここで、φ=φ-6となる探触子位置Kの真下で、点FK間と同じ距離にある点Lに開口合成処理を行うことを考える。幾何学的関係から、点Gで受信される波と点H、Iで受信される波の位相シフト後のそれぞれの位相差はともに約0.88Δrとなる。いま、点HG間と点GI間に等間隔に10、50、100個の探触子位置を考え、点HからIまで全ての探触子位置で送受信される波を位相シフトし重ね合わせたときの点Lにおける振幅を図5に示した。横軸は点Gで受信される波と点H、Iで受信される波のそれぞれの位相差を示し、縦軸は位相差が0のときを基準に正規化した振幅を示す。図5より、重ね合わせた波の点Lにおける振幅は、波の数とは関係なく、振幅が最大の波と最小の波の位相差のみに関係している。開口合成処理前の点Kでの受信波の振幅は点Gでの受信波の振幅の−6dBであるが、位相差が小さいときには振幅が−6dB以上になってしまい、方位分解能が低下してしまうことが判る。本発明では、開口合成法の方位分解能について、処理前の受信波の振幅Dが−6dBとなる探触子位置において、処理後の波の振幅が−6dB以下となるとなるときに、改善効果が現れると定義する。図5より位相差が波長λの約0.32倍のときが重ね合わせられた波の振幅が−6dBになる。数式7において、Δr=0.32/0.88λとしてrについて整理すると、
ここで、
f:周波数
l:振動子寸法
c:音速
r:方位分解能が向上する探触子からの距離
が導出される。
f:周波数
l:振動子寸法
c:音速
r:方位分解能が向上する探触子からの距離
が導出される。
数式12は開口合成法により方位分解能改善効果が現れるために必要な探触子の振動子面からの点Fまでの最低限の距離を示す。点Fより遠くにき裂がある場合、開口合成法により方位分解能が向上する。数式12より、方位分解能が向上するために必要な点F までの距離は、振動子寸法l と周波数Fに依存しており、特に振動子寸法の影響が大きいことがわかる。この数式12に示す関係を示すグラフを図20に示す。したがって、振動子寸法が大きく高周波数の探触子を用いると、振動子面から点Fまでの距離が短い場合では、方位分解能が逆に悪くなることがわかる。また、図5から振幅が最大の波と最小の波の位相差が大きくなると、重ね合わせた波の振幅が著しく小さくなっており、方位分解能改善の効果が大きいことが判る。換言すると、振動子寸法が小さく低周波数の探触子を用いると、振動子面から点F までの距離が短くても、開口合成法による方位分解能改善効果が大きいと考えられる。
本発明では、数式12で求めたrを開口合成下限界距離と呼ぶことにする。この数式12は、各種探触子に応じた開口合成法による方位分解能の改善効果を予備試験を行うことなく予測できるため、実際の探傷では、検査対象物の厚さと想定される欠陥の位置を決定しさえすれば、それに応じた最適な探触子を選定することができる。
例えば、厚肉検査体の全厚検査を可能とするには、可能な範囲で素子数を多くすることが望まれる。通常、超音波探傷する場合には、欠陥の位置がどこにあるか予め予測しながら実施するが、実際の欠陥の位置が開口合成下限界距離よりも下に存在しないと、開口合成処理を一律に適用すると、検出結果は却って悪化する(図19参照)。図20のグラフから読み取って最適な探触子の条件例えば振動子の主に振動子の寸法(周波数は材質(結晶粒の大きさ)や検出しようとする欠陥の長さ(大きさ)などによって決められることが多い)が求められる。周波数などが固定されない場合には、振動子寸法以外の要因も選定の対象となり得る。また、振動子の周波数、寸法並びにきずの想定される振動素子からの距離の全てを特定すれば、開口合成の適用効果が発揮されるか否かの判断基準ともなる。検査体の表層近くのきずはもともと信号レベルが強いので開口合成を適用して信号を増幅する必要はないので、逆に開口合成を適用することによって指示がぼけることもある。さらに、何素子を使って送受信を行うかは重要なパラメータとなる。振動素子数を増やすことは、エネルギーを大きくすること、即ち検査可能な厚みを大きくできることとなる。しかし、あまり素子数を増やすと、開口合成の効果が出にくくなる。これら、使用する振動素子の寸法即ち素子数と開口合成の適用効果との評価が事前に可能となる。
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本発明は、音を出す素子が細い素子(線音源)を前提とするものであり、フェーズドアレイを用いる全ての超音波探傷法に適用でき、SPOD法に限られず、TOFD法などでも使える。
開口合成法の基本特性を検証するため、特許出願人が開発した超音波探傷試験シミュレーションツール(山田,福冨,林,緒方,電力中央研究所報告,Q07005,(2008.7))を用いて、探傷試験をシミュレートし、その結果に開口合成法を適用した。このシミュレーションツールは、幾何光学的回折理論を用いて探傷波形を求める手法であり、計算の高速化を図る上で、平面ひずみ近似と探触子の音場計算に遠距離近似を用いている。
モデルは、図6に示すように直径2 mm の横穴が配置された試験体について、左から右に探触子を走査した場合を考え、縦波垂直探傷(図6(a))と横波斜角探傷(図6(b))の2通りについて行った。試験体はSUS316Lを想定し、密度7,930 kg/m3、縦波音速5,810 m/s、横波音速3,190 m/s とした。図6において、探傷面側から底面側に向かって、横穴をSDH 1〜4と定義した。探触子は、公称中心周波数2MHz、矩形振動子寸法10mm×10mm を基本条件とし、斜角探傷に用いるウェッジはアクリル樹脂を想定して、密度1,180kg/m3、縦波音速2,730 m/s、屈折角を45度、ウェッジ内伝搬距離10mm とした。また、走査間隔は0.5 mm とした。
まず、垂直探傷において、基本条件の公称中心周波数だけを1、2、4 MHzと変化させた場合の開口合成処理前と処理後のBスコープ画像を図7に示す。また、周波数2MHz、振動子寸法10mmで、垂直探傷を行ったときの方位分解能が低下する領域と向上する領域との境界を開口合成下限界距離により示したものを図19に示す。
また、処理前後の各反射体の探触子の走査方向についての-6dB指示長さを図8に、横穴からの反射によるエコー強度を探触子からの距離で整理した距離振幅特性曲線を図9に示した。また、各周波数について数式12で定義した開口合成下限界距離を計算したものを表1に示す。図7〜図9より、処理前の画像では、探触子と反射体との距離が大きくなるにつれて、ビームの拡がりのため、指示が走査方向に拡がっており、また、探触子の距離振幅特性のため、横穴によるエコーが弱くなっていた。一方、開口合成処理後の画像では、1MHzについてはSDH 2〜SDH4、2MHzについてはSDH3とSDH4の走査方向の指示拡がりが小さくなっており、その幅が探触子からの距離に依らずほぼ一定となっていた。しかし、4MHzについては全ての横穴の走査方向の指示拡がりが処理前より大きくなっていた。この結果は、数式12で定義される開口合成下限界距離より説明され、図8より処理前後の−6dB指示幅が交わる距離において、開口合成法による方位分解能の改善効果が現れる境界があると考えられるが、表1に示される値はそれと概ね一致している。また、距離振幅特性曲線については、いずれの周波数の結果についても、処理前より処理後の方が減衰傾向が緩やかになっており、周波数に依らず同じ傾向を示していることが判った。
次に、基本条件の振動子寸法だけを5mm ×5mm、10mm×10mm、20mm×20mmと変化させた場合の開口合成処理前と処理後のBスコープ画像を図10に示し、処理前後の各反射体の走査方向についての-6dB指示長さと、距離振幅特性曲線をそれぞれ図11、図12に示す。また、各振動子寸法についての開口合成下限界距離を表2に示す。図10〜図12より、5mm ×5mm についてはSDH 1〜 SDH 4、10mm ×10mm についてはSDH3とSDH 4の走査方向への指示拡がりが小さくなっており、その長さが探触子からの距離に依らずほぼ一定となっていた。しかし、20mm ×20mm については全ての横穴の指示の走査方向への拡がりが処理前より大きくなっていた。この結果についても、周波数を変化させた場合と同じく開口合成下限界距離と対応している。数式13は、周波数よりも振動子寸法から大きく影響を受けるため、20mm×20mmの探触子について開口合成法が効果をもつために必要な距離は非常に大きく、今回の探傷条件では効果が現れない。距離振幅特性については、処理前と比較して減衰傾向が緩やかになっており、振動子寸法に依らず同じ傾向を示していた。
つぎに横波斜角探傷について、開口合成処理前と処理後のBスコープ画像を図13に示す。斜角探傷ついても、処理後の画像では、処理前と比較して、各横穴についての指示の走査方向への拡がりが小さくなり、距離振幅特性曲線の減衰傾向が緩やかになっていた。これより、斜角探傷においても開口合成法により方位分解能が向上したことが判った。
以上の結果をまとめると、開口合成法により方位分解能の改善効果を発揮するためには数式14に従って、探触子の特性に合わせた適切な距離をとる必要があることがわかった。換言すると、検査対象物に想定される欠陥の探傷面からの距離によって、適切な探触子の条件を決定することができると言える。
実際の探傷により取得したBスコープ画像に、本発明の開口合成フェーズドアレイ法を適用し、その有効性を検証した。尚、試験体としては、横穴を有する2.25Cr-1Mo 鋼ブロックを、フェーズドアレイ探触子を用いて水浸探傷し、開口合成フェーズドアレイ法処理を行い、その有効性を検証した。試験体を図14に示す。水距離は10 mm とし、フェーズドアレイ探触子の主な仕様を表3に示す。ここでは、64素子のうち中心付近に配置されている16素子のみを用い、水の音速を1,480m/s、2.25Cr-1Mo 鋼の縦波音速を5,900 m/s とした。
まず、1素子を電子走査させる場合を考える。図15は、表面から12 mm離れた横穴に関して、開口合成フェーズドアレイ法を適用したときのエコー強度の最大値を表す。ここで、T1R1は送受信に同じ素子を用いた場合を表す。すなわち、A1、 1、 A2、 2、 …、A16、 16の信号を用いることを意味する。また、T1R2は送信に用いた素子の走査方向1つ前方に位置する素子を受信に用いること意味し、A1、 2、 A2、 3、 …、 A15、16の信号を用いることを意味する。同様に、T1R3は送信に用いた素子の走査方向2つ前方の素子を、T1R4は3つ前方の素子を、T1R5は4つ前方の素子を、T1R6は5つ前方の素子を受信に用いることを意味する。また、T1R1-T1R6は、T1R1〜 T1R6すべてのデータを用いたことを意味する。図15より、開口合成に用いる信号Aij を増やすにつれて、エコー強度は線形な関係を保ちつつ大きくなっており、T1R1-T1R6はT1R1の約4倍のエコー強度を得ることができる。また、T1R1とT1R1-T1R6のBスコープ画像を図16に示す。エコー強度のカラーコンターは最大値で正規化されているが、T1R1における指示とT1R1-T1R6における指示拡がりは同程度であることがわかった。また、図14の試験体の表面と裏面の両面を探傷することで、T1R1とT1R1-T1R6のエコー強度を探傷面からの距離6mm、12mm、18mm、24mm で整理したものを図17に示す。
つぎに、表面から12 mm離れた横穴について、電子走査に用いる素子数を2素子、4素子、8素子とした場合の開口合成フェーズドアレイ法の処理前と処理後のBスコープ画像を図18に示す。処理前の画像では、電子走査に用いる素子数が多くなるにつれて、見かけ上の振動子寸法が大きくなるので、分解能が向上し、走査方向の指示拡がりが小さくなっていることがわかる。一方、処理後の画像では、素子数が少ない方が走査方向の指示拡がりが小さくなっており、分解能の改善効果が大きいことがわかる。この結果は、振動子寸法を変化させたときの開口合成処理後の分解能の改善効果を検証した図10の結果と対応している。
Claims (2)
- フェーズドアレイの振動子の周波数と振動子寸法から、式1の評価式に基づいて、予測される探触子からの傷の距離との関係で開口合成法による方位分解能の改善効果を評価し、開口合成処理の適用するか否かを評価する特徴とするフェーズドアレイ開口合成処理の適用効果評価方法。
f:周波数
l:振動子寸法
c:音速
r:方位分解能が向上する探触子からの距離
である。 - 検査対象の材料に基づいて使用周波数を決定し、該使用周波数と予測される傷の探触子からの距離とで式1の評価式に基づいて最大振動子寸法を選定し、その範囲内で前記フェーズドアレイの送信素子として用いる素子数を最大値に設定することを特徴とするフェーズドアレイ開口合成処理方法。
f:周波数
l:振動子寸法
c:音速
r:方位分解能が向上する探触子からの距離
である。
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