JP2010255095A - 異物環境下での転動疲労特性に優れた軸受部品の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】質量%でC:0.7%〜1.3%、Si:0.1〜0.8%、Mn:0.2〜1.2%、P:0.025%以下、S:0.02%以下、Al:0.1%以下、Cr:0.9%〜1.8%、N:0.01%以下およびO:0.003%以下を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼材に、浸炭窒化深さが2mm以上となる浸炭窒化−焼入れ処理を行ったのち、高周波焼戻しを行い、その後の成形加工において、硬さの向上代がビッカース硬さで20ポイント以上の加工を少なくとも鋼材の表層部分に加えた後、該表層部分に加熱温度:820〜900℃として高周波焼入れし、さらに焼戻しを行う。
【選択図】なし
Description
そこで、本発明は、特に異物環境下での転動疲労寿命の大幅な向上を実現する方途について提案することを目的とする。
まず、浸炭窒化−焼入れにより表層に浸炭窒化層を作る。その後、高周波焼戻しを行うと、浸炭窒化層のマルテンサイト中に固溶していたCおよび残留γの分解により微細な炭化物が生成する。この後、引抜きや鍛造などの加工により、少なくとも表層部分にはビッカース硬さで20ポイントの上昇に相当する加工歪みを導入する。さらに、加工歪みが導入された表層部に高周波焼入れを行うと、高周波の特徴である短時間加熱の効果によって旧オーステナイト粒は微細化する。また、加工歪みが導入されているため、転位がオーステナイトの核生成サイトとなるとともに、焼戻しで生成した炭化物がピン二ング効果を示し、旧オーステナイト粒の微細化が進み、平均旧オーステナイト粒径3.0μm以下の組織が得られる。この旧オーステナイト粒径の微細化は、耐水素性が向上するため、水素が原因として発生する白色組織(WEC)変化による低寿命剥離を抑制する効果がある。また、旧オーステナイト粒の微細化に伴い、残留γが均一でかつ微細に分布することで、異物噛み込みに伴う加工誘起変態が均一に起こりやすくなり、摩耗により生じた金属粉や切削時に生じた金属の削りくずなどへの耐異物性が向上する。また、高周波焼入れを行うことで残留圧縮応力も増加し、これらの結果、異物環境での転動疲労寿命が4倍以上も向上する。
(1)質量%で
C:0.7%〜1.3%、
Si:0.1〜0.8%、
Mn:0.2〜1.2%、
P:0.025%以下、
S:0.02%以下、
Al:0.1%以下、
Cr:0.9%〜1.8%、
N:0.01%以下および
O:0.003%以下
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼材に、浸炭窒化深さが2mm以上となる浸炭窒化−焼入れ処理を行ったのち、高周波焼戻しを行い、その後の成形加工において、硬さの向上代がビッカース硬さで20ポイント以上の加工を少なくとも鋼材の表層部分に加えた後、該表層部分に加熱温度:820〜900℃として高周波焼入れし、さらに焼戻しを行うことを特徴とする、異物環境下での転動疲労寿命に優れた軸受部品の製造方法。
Ti:0.03%以下、
Mo:0.3%以下、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.05〜0.50%、
Sb:0.003%以下、
B:0.003%以下、
Nb:0.01〜0.03%および
V:0.05〜0.5%
のうちから選ばれる1種もしくは2種以上を含有する異物環境下での転動疲労寿命に優れた軸受部品の製造方法。
まず、各成分の限定理由について述べる。なお、以下に示す「%」表示は、特に断らない限り「質量%」を示すものとする。
C:0.7%〜1.3%
Cは、焼入れ性への影響が最も大きい元素であり、焼入れ硬化層の硬さを高めて、転動疲労寿命を向上させる上で有用な成分である。すなわち、0.7%に満たないと必要とされる転動疲労寿命を確保できないため、0.7%以上とする。一方、1.3%を超える含有は、焼入れ処理前の切断や成形鍛造などの加工性を著しく劣化させるため、0.3%以下とする。従って、Cは0.7%以上1.3%以下の含有とする。好ましくは、0.75〜1.1%である。
Siは、転動疲労寿命の向上に有効な元素であるため積極的に添加するが、0.1%未満だとその効果が乏しいため0.1%以上の含有とする。しかし0.8%を超えて含有させると、Cと同様に焼入れ処理前に行われる、切断や成形鍛造などの加工性を著しく劣化させるため、0.8%以下とする。従って、Siの含有範囲は0.1%〜0.8%とする。好ましくは、0.15〜0.6%である。
Mnは、焼入れ性を向上させ、焼入れ時の硬化深さを確保する上で必須の成分であり、かつ残留γ量を増加するのに有効な元素であるため、積極的に含有させる。すなわち、0.2%未満の含有ではその効果に乏しく、一方1.2%を超えて含有させると、Cと同様に焼入れ処理前に行われる。切断や成形鍛造などの加工性を著しく劣化させるため、1.2%以下とする。従って、Mnの含有範囲は、0.2%〜1.2%とする。好ましくは、0.25〜1.0%である。
Pは、オーステナイトの粒界に偏析し、粒界強度を低下させることにより、焼入れ時に焼割れを助長する。従って、その含有量は極力低下させることが望ましいが、0.025%以下であれば許容される。なお、好ましくは0.020%以下とする。
Sは、鋼中でMnSを形成し、鍛造性、切削性を向上させるため、好ましくは0.003%以上で添加してもよいが、0.02%を超えて添加すると、転動疲労試験での破壊起点となり転動疲労強度が低下する可能性があるため、0.02%以下の添加とする。好ましくは、0.015%以下とする。
Alは、脱酸に有効な元素であり低酸素化のために有用な元素であり、そのためには0.01%以上で添加することが好ましい。一方で、Alの酸化物は転動疲労特性を低下させるため、必要以上の添加は行わない方が良い。このため0.1%以下の添加とする。好ましくは、0.05%以下とする。
Crは、軸受鋼の場合、球状化焼鈍において炭化物を球状化するのに有用な元素であり、積極的に添加するが、0.9%に満たない場合その効果に乏しく、1.8%を超えると、その効果が飽和しコストが高くなるのみである。従って、0.9%〜1.8%とする。好ましくは、1.0〜1.6%である。
Nは、AlやTiと窒化物あるいは炭窒化物を形成し、焼入れのための加熱時に、オーステナイトの成長を抑制する効果がる。一方で、粗大な窒化物、短窒化物は転動疲労寿命の低下を招くため0.01%以下とする。なお、好ましくは0.006%以下とする。
Oは、硬質の酸化物系非金属介在物として存在し、この量の増大は酸化物系非金属介在物のサイズを粗大化させる。これらは、特に転動疲労特性に有害であるため、極力低減することが望ましく、0.0030%以下に低減する必要がある。好ましくは0.0010%以下とする。
Ti:0.03%以下、
Tiを添加すると、TiNとなることによって、オーステナイト域でピン二ング効果を発揮し粒成長を抑制するため、好ましくは0.001%以上で添加しても良いが、多量に添加するとTiNが多量析出することで転動疲労寿命を低下させるため、その添加量を0.03%以下とする。好ましくは、0.02%以下とする。
Moは、転動疲労寿命を向上させるため、好ましくは0.05%以上で添加してもよいが、コストが高いためその添加量を0.3%以下とする。
Cuは、焼入れ性を向上させる元素であるため添加しても良い。0.05%未満の添加ではその効果が乏しいことから、この効果を得るためには、0.05%以上の添加とすることが好ましい。しかし、0.50%を超えて添加すると熱間加工性を阻害するため、0.50%以下の添加とする。
Niは、焼入れ性を向上させる元素であり、焼入れ性を調整する場合に用いることができる。その際、0.05%未満の添加では効果が小さいため、0.05%以上で添加する。一方、Niは極めて高価な元素であり、添加量が多くなると鋼材価格が高くなるため、0.50%以下の添加とする。
Sbは、スクラップ等の製鋼原料から混入することがあり、その量が0.003%を超えると転動疲労寿命を低下させるため、上限を0.003%とする。
Bは、焼入れ性を向上させ、焼入れ焼もどし後の強度を高め、転動疲労寿命を向上させる元素であるため、好ましくは0.0010%以上で添加してもよいが、過剰な添加は加工性を劣化させるので0.003%以下とする。
Nbは、CおよびNと結合してNbC、NbN、Nb(CN)を形成することによって、オーステナイト域でピンニング効果による粒成長を抑制し、オーステナイト粒微細化により疲労寿命を向上させるために添加しても良い。しかし、多量に添加すると、NbCが多量析出することで破壊起点となり、転動疲労寿命を低下させるため、その添加量を0.03%以下とする。
Vは、転動疲労寿命向上に有効な元素であるため添加してもよく、0.05%未満だとその効果が乏しいため0.05%以上の添加とする。しかし、0.5%を超えて添加しても、効果が飽和し、鋼材コストが高くなるのみであるため、上限を0.5%とする。したがって、Vの添加範囲は0.05〜0.5%とする。
浸炭窒化は、処理温度820〜900℃にて行うことが好ましい。浸炭窒化温度が820℃より
低いと、焼入れ時に内部まで十分に焼きが入らないことがあり、浸炭窒化層が薄くなることを避けるために、820℃以上で処理することが好ましい。一方、処理温度が900℃を超えると、炭化物がマルテンサイト中に固溶しすぎてマルテンサイトが脆くなり、転動疲労寿命が低下する、おそれがあるため、900℃以下とすることが好ましい。
浸炭窒化の処理時間は、120分以上とすることが好ましい。なぜなら、120分に満たない場合、浸炭窒化深さが不十分となり転動疲労試験結果のばらつきが大きくなるためである。
浸炭窒化処理後は、高周波焼戻しによる短時間焼戻しを行う。通常の炉焼戻しではなく、高周波焼戻しを行う理由は、急速加熱することで母相中(浸炭窒化部分)に微細かつ均一に炭化物を生成させることができ、最終工程の高周波加熱における、旧オーステナイト粒の粗大化を抑制できるからである。さらに、高周波焼入れ層に炭化物が微細かつ均一に分散することにより、残留γ量を増加しても表層部で十分な硬度を確保できる。このときの焼戻し温度は、400℃以上AC1点(フェライト+炭化物相からオーステナイトが生成し始める温度)以下とし、そのときの浸炭窒化層の硬さはビッカース硬さでHv500以下に調整することが好ましい。なお、急速加熱時の加熱時間は、60s以内であることが好ましい。高周波加熱後の冷却は、水冷、油冷、空冷など特に規定しない。
高周波焼戻し後の鋼材は、軸受部品に成形する。該成形は、引抜きあるいは、鍛造、鍛伸および圧延などの加工によるが、その際歪みを加えることとする。この歪み導入により、引き続く高周波焼入れ工程において、旧オーステナイト粒が微細化する。この加工歪みについては、ビッカース硬さで管理するものとし、焼入れ表層部から0.5mm位置において、ビッカース硬さで20ポイント以上は上昇させることが肝要である。ビッカース硬さの上昇が20ポイントに満たない場合、高周波焼入れによって旧オーステナイト粒が十分に微細化しない。
焼入れは高周波焼入れとする。通常の炉加熱では旧オーステナイト粒径が微細化しない。高周波加熱とすることで、急速加熱によりオーステナイトの核生成量が増加し、旧オーステナイト粒が微細化する。高周波焼入れの加熱温度は820℃〜900℃とする。すなわち、820℃に満たない場合、焼入れが不十分になることがあり、転動疲労寿命がばらつく場合がある。一方、900℃を超えて加熱した場合、旧オーステナイト粒径が粗大化し、白色組織起因の破壊が起こりやすくなり、転動疲労寿命が低下する、おそれがある。
以内であることが好ましい。高周波焼入れ回数についても特に限定はしない。回数を増やすことによって、旧オーステナイト粒径を均一化することはできるが、その転動疲労寿命向上への効果はさほどではない。ただし、焼入れ回数を増やすことで、焼割れの危険やコスト増加の問題が発生するため、2回以内とするのが好ましい。
焼入深さに関しては、ビッカース硬さでHv450以上となる焼入れ硬化層が、0.6mm以上であることが好ましい。焼入れ硬化層が0.6mmに満たない場合、転動疲労寿命が大幅に低下することがある。
高周波焼入れ後は焼戻しを行う。この焼戻し処理方法は、高周波加熱、炉加熱など特に規定はしないが、内部まで焼戻しを行うことを考え、炉加熱戻しを推奨する。なお、焼戻し条件については、用途に応じて適宜設定するものとするが、転動疲労特性以外にも圧壊特性なども要求されることから、ビッカース硬さで20ポイント〜80ポイント程度低下するように焼戻しを実施することとする。焼戻し後の表面硬さについては、ビッカース硬さでHv700以上とする。Hv700に満たない場合、転動疲労特性は大幅に低下する。
以上の工程を経て得た軸受部品では、その鋼組織中の残留γ量が20〜35%となる。すなわち、残留γ量は異物環境での転動疲労寿命向上に有効であり、その量が20%に満たないと十分な転動疲労寿命が得られない場合がある。一方、残留γ量が35%以上では硬化層部の硬さが十分に得られず、その結果、転動疲労寿命が劣化する場合がある。なお、残留γ量の測定は表層部で行う。すなわち、軸受部品に仕上た後の転動体転送部において、X線回折を行い、測定する。
表1に示す化学組成の鋼を転炉−連続鋳造プロセスにより溶製し、サイズ300×400mmの鋳片を製造した。この鋳片を、ブレークダウン工程を経て150mm角ビレットに圧延したのち、1050℃に再加熱後、直径20mmの棒鋼に圧延した。
さらに、高周波焼戻し後に成形加工として、12.6mmもしくは12.3mmの径へ引抜く加工を行った。引抜き後の材料でも、ビッカース硬さ測定(表層0.5mm位置を5点測定し、平均値を算出)を行い、引抜き前後のビッカース硬さ向上代を計算した。
最後に、高周波焼入れは、周波数200kHzの高周波焼入装置を使用し、860℃に加熱後に焼入れる高周波焼入れを行った。その後、オイルバスを使用し170℃で80分間の焼戻しを行った。焼戻し後の試験片は、直径12.0mmおよび長さ22.0mmの円柱状試験片に仕上げた。
なお、比較として、浸炭窒化−焼入れ処理のみを行った試験片についても作製し仕上げた。
潤滑油中に異物として、Hv800程度並びに粒径74〜150μmの鉄粉を300ppm混入させて試験を行った。評価は、各作製条件について10回の転動疲労試験を行い、累積破損確率と転動寿命の関係をワイブルプロット紙で整理し、累積破損確率10%の寿命であるB10寿命を求めた。得られたB10寿命を、各鋼種の浸炭窒化−焼入れ処理のみとした試験片で得られたB10(表2中の基準例のB10)で割り、転動疲労寿命比(/基本熱処理のB10)として評価した。
これらの測定結果を、表2、表3、表4に示す。なお、表における基準例とは、浸炭窒化−焼入れ処理のみを行った材料のことを表す。
Claims (3)
- 質量%で
C:0.7%〜1.3%、
Si:0.1〜0.8%、
Mn:0.2〜1.2%、
P:0.025%以下、
S:0.02%以下、
Al:0.1%以下、
Cr:0.9%〜1.8%、
N:0.01%以下および
O:0.003%以下
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼材に、浸炭窒化深さが2mm以上となる浸炭窒化−焼入れ処理を行ったのち、高周波焼戻しを行い、その後の成形加工において、硬さの向上代がビッカース硬さで20ポイント以上の加工を少なくとも鋼材の表層部分に加えた後、該表層部分に、加熱温度:820〜900℃として高周波焼入れし、さらに焼戻しを行うことを特徴とする、異物環境下での転動疲労寿命に優れた軸受部品の製造方法。 - 請求項1において、前記鋼材に、さらに質量%で
Ti:0.03%以下、
Mo:0.3%以下、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.05〜0.50%、
Sb:0.003%以下、
B:0.003%以下、
Nb:0.01〜0.03%および
V:0.05〜0.5%
のうちから選ばれる1種もしくは2種以上を含有する異物環境下での転動疲労寿命に優れた軸受部品の製造方法。 - 請求項1または2において、前記高周波焼入れ後の焼入表層部における旧オーステナイト粒径の平均値が3μm以下、当該部分での残留オーステナイト量が20〜35%である異物環境下での転動疲労寿命に優れた軸受部品の製造方法。
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