JP2010246476A - 心筋細胞分化誘導促進剤およびその使用方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 本発明の心筋細胞分化誘導促進剤は、IL−10あるいはプロゲステロンを有効成分として含有し、間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を促進する。また、本発明の心筋細胞分化促進方法は、IL−10あるいはプロゲステロン存在下において間葉系幹細胞を処理することを特徴とする。この間葉系幹細胞は、心筋細胞へ分化する能力を有する細胞である。さらに、本発明の間葉系幹細胞を心筋細胞へ分化させる分化誘導方法は、IL−10あるいはプロゲステロン存在下で処理した間葉系幹細胞をフィーダー細胞上で培養する工程を含む。
【選択図】なし
Description
現在までに、心筋細胞に分化する能力を有する細胞として、子宮内膜、月経血、臍帯血、又は胎児付属臓器から単離された間葉系幹細胞が同定されている。この間葉系幹細胞は、フィーダー細胞との共培養により、心筋細胞に分化することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
IL−10またはプロゲステロン存在下において間葉系幹細胞を培養し、この培養後の間葉系幹細胞をフィーダー細胞である哺乳類胎仔由来の心筋細胞と共培養すると、間葉系幹細胞の心筋細胞への分化を促進することができる。このことから、IL−10またはプロゲステロンは、分化誘導前の間葉系幹細胞に作用することによって、その間葉系幹細胞の分化状態を心筋細胞の方向へ進めると考えられる。
前述の通り、IL−10およびプロゲステロンは分化誘導前の間葉系幹細胞に作用することによって、その間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を促進することができる。従って、IL−10あるいはプロゲステロンを有効成分として含有する薬剤は、間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を促進する心筋細胞分化誘導促進剤として有用である。本発明に係る心筋細胞分化誘導促進剤は、IL−10とプロゲステロンのどちらかを有効量含有しても、または、その両方を含有してもよい。
IL−10は生体から単離されたものであっても、遺伝子組み換え技術を用いて製造された組み換え体であってもよい。なお、IL−10が由来する動物は心筋細胞分化誘導機能を有する範囲で特に制限されないが、間葉系幹細胞が由来する動物種と同じであることが好ましく、例えば、ヒト由来の間葉系幹細胞を培養する場合には、ヒト由来のIL−10を用いることが好ましい。本薬剤に含まれるIL−10濃度は、下記分化誘導方法に必要な最終濃度を考慮し、当業者が適宜決定できる。
本発明に係る間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導促進方法は、IL−10あるいはプロゲステロンの存在下で間葉系幹細胞を処理することを特徴とする。以下、間葉系幹細胞を心筋細胞へ分化誘導する方法について、詳細を述べる。
間葉系幹細胞は、心筋細胞に分化する能力を有する間葉系幹細胞であればよく、例えば、子宮内膜、羊膜、胎盤、臍帯、臍帯血、月経血から採取することができる。これら間葉系幹細胞の材料は、月経あるいは出産の際に十分な量を容易に確保することができるため、通常の臓器移植のようにドナー不足に陥ることがない。また、自家移植の場合には必要性が生じてから、原料となる移植細胞や組織を採取するため、移植前処理のための待ち時間が必要であるが、間葉系幹細胞の場合には事前に必要な処理を行って移植に備えておくことができる。
フィーダー細胞は、間葉系幹細胞の分化誘導を起こさせることができる細胞であれば特に限定されないが、心筋細胞の初代培養細胞等が挙げられる。なお、フィーダー細胞として培養細胞を用いる場合、細胞の増殖を防ぐために、用いる培養細胞に対して、γ線照射やマイトマイシン等による処理を予め施しておくことが好ましい。ここでは、哺乳類胎仔由来の心筋細胞を用いたフィーダー細胞の調製方法の一例について述べる(詳細は、The Journal of Gene Medicine, 6, 833-845, 2004 を参照のこと)。
得られた間葉系幹細胞を心筋細胞へ分化誘導するため、フィーダー細胞上に、1×101〜1×102細胞/cm2の濃度になるように間葉系幹細胞を添加し、37℃、5%CO2インキュベーターで培養する。この際、培地には、IL−10またはプロゲステロンを添加してもしなくてもよく、IL−10およびプロゲステロンの両方を添加してもよい。
分化誘導された心筋細胞は、一つ一つの細胞の辺縁が細胞の中心方向に集合するように拍動し、収縮時に細胞質が厚くなるため、間葉系幹細胞を予めGFP等で蛍光標識しておけば、心筋細胞を細胞レベルで同定することができ、容易に心筋細胞を観察できるようになる。また、複数の細胞の拍動が同期化して、一群の細胞で拍動を打つようになることもある。分化誘導された心筋細胞はこのような特徴を有するので、顕微鏡下において、容易に同定することができる。
==抗体==
一次抗体として、抗ヒト心筋Troponin IマウスIgG抗体(Monoclonal mouse anti-cardiac Troponin I for human(カタログ番号4T21、Lot 98/10-T21-C2、HyTest社))、抗Sarcomeric-alpha actininマウスIgG抗体(カタログ番号A7811、Sigma-aldrich社)、抗Connexin43ウサギIgG抗体(カタログ番号C6219、Sigma-aldrich社)、抗HLA−GマウスIgG抗体(Ab7758、Abcam社)を用いた。なお、Troponin Iは心筋を標識する。また、Sarcomeric-alpha actininはアクチン結合タンパク質であり、これに対する抗体によりアクチンの局在を検出することができる。Connexin43は心臓のギャップジャンクションに存在するタンパク質で、心臓の分化・発達に関与しているとされる。
慶應大学病院倫理委員会で承認されたプロコールに従って、インフォームドコンセントを行ったボランティアから、出産の際に羊膜、胎盤、あるいは臍帯を採取した。各組織を、20mlのDMEM培地(1% FCS、100U/mlペニシリン、100ng/mlストレプトマイシン、及び500U/L ヘパリン含有)を入れた50mlポリプロピレンチューブに移した。チューブ内で組織を軽く洗浄した後、10cm培養皿に移した。眼科用ハサミを用いて、組織を約1〜5mm3大に細かく切り、数分間静置した後、血液細胞が含まれる上清を除去し、再び、DMEM培地で洗浄した。この操作を3〜4回繰り返し、最終的に、切断された各組織を10%FCS含有α―MEM培地に入れ、この組織片が3〜5個/cm2の濃度になるように培養皿に静置し、37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。その後、Takeda et al. (J. Gene Med., 6, 833-845, 2004)の方法に従って、組織から自然に遊走してきた間葉系幹細胞にGFP遺伝子発現アデノウイルスを感染させ、間葉系幹細胞をGFPで標識した。さらに4日間培養を続けた後、共焦点蛍光顕微鏡(FV1000、 Olympus社)を用いて、間葉系幹細胞におけるGFPの発現を確認した。
フィーダー細胞としては、マウス(BALB/C)胎仔由来の心筋細胞を用いた。その調製は以下のようにして行った。
本実施例では、Troponin I発現を心筋細胞の分化マーカーとして用い、GFP標識間葉系幹細胞数に対するTroponin I陽性細胞数の頻度を算出し(Exp. Cell Res., 15, 313 (12), 2550-62, 2007)、間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を評価した。
間葉系幹細胞とフィーダー細胞である心筋細胞との共培養開始から1週間後、培養皿に存在する細胞に対して、ヒト心筋細胞に特異的なタンパク質であるTroponin Iに対する抗体を用いて、免疫染色を行った。
ラットから摘出した心臓組織を4%ホルムアルデヒトで固定した後、凍結心臓短軸切片を作製した。この切片にPBSで希釈した抗Troponin I抗体(400倍希釈)を上層し、4℃で12時間反応させた後、PBSで洗浄した。二次抗体としてPBSに希釈したTRITC標識抗マウスIgG抗体(100倍希釈)を上層し、20℃で1時間反応させた後、細胞をPBSで洗浄し、共焦点レーザー顕微鏡(FV1000、Olympus社)を用いて観察した。
ラット(Wister Rat、6〜8週齢、雄雌)を2%イソフルレンにより麻酔し、人工呼吸器を装着した。このラットの胸部を切開し、心臓冠状動静脈を絹糸で結紮して心臓血管障害を誘発した。その後胸部を縫合し、ラットが回復後、飼育を続けた。この心臓血管障害によって血流のなくなった組織において、通常心筋梗塞が引き起こされる。
IL−10(I9276、Sigma-aldrich社)、プロゲステロン(p7556、Sigma-aldrich社)、JEG−3細胞抽出物(GTX14841、GeneTex社)、INF−γ(R&D systems社)、FK506(免疫抑制剤、F4679、Sigma-aldrich社)について、0.1mMの各ストック溶液を作製し、この溶媒が間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導に影響がないことを確認した。
本実施例では、妊娠付属器中に間葉系幹細胞が含まれることを示す。
本実施例では、心筋細胞との共培養によるヒト羊膜由来間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を示す。
GFP標識ヒト羊膜由来間葉系幹細胞を、5×104細胞/cm2の濃度になるように10%FCS含有DMEM培地で調製した。この間葉系幹細胞を、フィーダー細胞に重層し、37℃、5%CO2インキュベーターで培養した(J. Gene Med., 6, 833-845, 2004を参照)。対照群の間葉系幹細胞は、フィーダー細胞を用いずに同条件下で培養した。共培養開始から1週間後、培養間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を評価した。
本実施例では、心筋梗塞巣に間葉系幹細胞を移植することにより心機能が改善することを示す。
心筋梗塞モデルラットを作製するための梗塞巣作製手術から2週間後、再びラットの胸部を切開した。ここで、GFP標識ヒト羊膜由来間葉系幹細胞を2〜4×107細胞/mLの濃度でDMEM−H(高グルコースDMEM)に懸濁し、心筋梗塞巣に移植した。移植後、ラットの胸部を再び縫合し、さらに2週間飼育を続けた(移植群、N=11)。
本実施例では、左心室収縮能を示す左室径短縮率(LVFS)を心機能改善の評価法として用いた。心筋梗塞巣作製手術後2週間目(移植前)および移植後2週間目に、各ラット個体の心エコー図を取得し、この画像からLVFSを算出した(臨床心エコー図学 吉川純一著、分光堂、参照)。
本実施例では、羊膜由来間葉系幹細胞が免疫学的寛容性を有することを示す。
HLA−G(human leukocyte antigen-G)は妊娠時に、母体の胎児に対する免疫寛容性に関与することが知られている(Hunt et al., FASEB Journal, vol. 19, 681-693, 2005)。本実施例では、各種条件下で培養した間葉幹細胞の免疫寛容性の指標として、HLA-Gタンパク質発現量の変化を解析した。
GFP標識ヒト羊膜由来間葉系幹細胞を、5×104細胞/cm2の濃度になるように10%FCS含有DMEM培地で調製した。ここに、最終濃度10ng/mLになるようにIL-10、プロゲステロン、JEG−3細胞抽出物、INF−γの各ストック溶液を加え、37℃、5%CO2インキュベーターで2週間培養した。なお、対照群は、上記いずれの試薬も加えずに、同様にして培養を行った。
培養細胞を50 mM 細胞溶解バッファー(Tris-HCl(pH 8.0)、1% NP40、250 mM NaCl、50 mM NaF、1 mM NaVO4、1 mM プロテアーゼ阻害剤 (PMSF、aprotinin、leupeptin)、1 mM DDT)中で溶解し、遠心分離した。ここで得られた上清を変性SDS-ポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、PVDF膜にブロットした。この膜を抗HLA−G抗体(200倍希釈、4℃一晩)で標識し、二次抗体としてGoat f(ab’)2 anti-mouse Ig’s,HRP conjugate(8000倍希釈、室温、30分、カタログ番号AMI4404、 BIOSOURCE社)を用いて可視化した。ここで得られた特異的バンドをNIH-Image(アメリカ国立衛生研究所)を用いて定量化し、各条件下でのHLA−Gタンパク質の発現を比較した。内部標準およびゲルに泳動したタンパク質量補正のため、βアクチンを用いた。
本実施例では、IL−10とプロゲステロンによる、間葉系幹細胞の心筋細胞へのin vitroでの分化誘導効率を検討する。
本実施例では、間葉系幹細胞をIL−10あるいはプロゲステロンで処理することにより、心臓組織へ移植後の間葉系幹細胞の心筋分化細胞率が改善されることを示す。
Claims (12)
- 間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を促進する促進剤であって、
IL−10あるいはプロゲステロンを有効成分として含むことを特徴とする心筋細胞分化誘導促進剤。 - 前記間葉系幹細胞が子宮内膜、羊膜、胎盤、臍帯血、月経血由来であることを特徴とする、請求項1に記載の促進剤。
- 間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を促進する方法であって、
IL−10あるいはプロゲステロン存在下において間葉系幹細胞を培養することを特徴とする、心筋細胞分化誘導促進方法。 - 前記間葉系幹細胞が、前記IL−10あるいはプロゲステロンの存在下で、2週間以上培養されることを特徴とする請求項3に記載の心筋細胞分化誘導促進方法。
- 前記間葉系幹細胞が子宮内膜、羊膜、胎盤、臍帯血、月経血由来であることを特徴とする、請求項3または4に記載の心筋細胞分化誘導促進方法。
- 間葉系幹細胞を心筋細胞へ分化させる分化誘導方法であって、前記間葉系細胞をIL−10あるいはプロゲステロンで処理する工程と、
IL−10あるいはプロゲステロンで処理した前記間葉系幹細胞をフィーダー細胞上で培養する工程と、を包含する分化誘導方法。 - 前記フィーダー細胞が、哺乳類胎仔由来の心筋細胞であることを特徴とする請求項6に記載の分化誘導方法。
- 前記間葉系幹細胞が、前記IL−10あるいはプロゲステロンの存在下で、2週間以上培養されることを特徴とする請求項6または7に記載の心筋細胞分化誘導方法。
- 前記間葉系幹細胞が子宮内膜、羊膜、胎盤、臍帯血、月経血由来であることを特徴とする、請求項6〜8のいずれかに記載の心筋細胞分化誘導方法。
- 心筋細胞へ分化する能力を有する間葉系幹細胞であって、
IL−10あるいはプロゲステロンで処理されたことを特徴とする間葉系幹細胞。 - 前記IL−10あるいはプロゲステロン存在下において2週間以上培養されたことを特徴とする請求項10に記載の間葉系幹細胞。
- 前記間葉系幹細胞が、子宮内膜、羊膜、胎盤、臍帯血、月経血由来であることを特徴とする、請求項10または11に記載の間葉系幹細胞。
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