JP2010246476A - 心筋細胞分化誘導促進剤およびその使用方法 - Google Patents

心筋細胞分化誘導促進剤およびその使用方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 心筋細胞分化誘導促進剤、およびその使用方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の心筋細胞分化誘導促進剤は、IL−10あるいはプロゲステロンを有効成分として含有し、間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を促進する。また、本発明の心筋細胞分化促進方法は、IL−10あるいはプロゲステロン存在下において間葉系幹細胞を処理することを特徴とする。この間葉系幹細胞は、心筋細胞へ分化する能力を有する細胞である。さらに、本発明の間葉系幹細胞を心筋細胞へ分化させる分化誘導方法は、IL−10あるいはプロゲステロン存在下で処理した間葉系幹細胞をフィーダー細胞上で培養する工程を含む。
【選択図】なし

Description

本発明は、心筋細胞分化誘導促進剤およびその使用方法に関する。
間葉系幹細胞は、骨芽細胞、骨細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、筋肉細胞、ストローマ細胞、腱細胞等間葉系細胞への多分化能及び自己増殖能を有しているため、骨や軟骨、筋肉等の再生医療への応用が期待されている。
現在までに、心筋細胞に分化する能力を有する細胞として、子宮内膜、月経血、臍帯血、又は胎児付属臓器から単離された間葉系幹細胞が同定されている。この間葉系幹細胞は、フィーダー細胞との共培養により、心筋細胞に分化することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
WO2006/078034号公報
本発明は、心筋細胞分化誘導促進剤、およびその使用方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、以下の実施例に示すように、間葉系幹細胞をフィーダー細胞と共培養して心筋細胞に分化誘導させる際、予めIL−10またはプロゲステロンの存在下で間葉系幹細胞を前処理することによって、間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を促進できることを明らかにし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係る心筋細胞分化誘導促進剤は、間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を促進する促進剤であって、IL−10あるいはプロゲステロンを有効成分として含むことを特徴とする。ここで、間葉系幹細胞が子宮内膜、羊膜、胎盤、臍帯血、月経血由来であることが好ましい。
また、本発明に係る心筋細胞分化誘導促進方法は、間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を促進する方法であって、IL−10あるいはプロゲステロン存在下において間葉系幹細胞を培養することを特徴とする。この心筋細胞分化誘導促進方法において、間葉系幹細胞が、IL−10あるいはプロゲステロンの存在下で、2週間以上培養されることが好ましい。また、間葉系幹細胞が子宮内膜、羊膜、胎盤、臍帯血、月経血由来であることが好ましい。
本発明に係る分化誘導方法は、間葉系幹細胞を心筋細胞へ分化させる方法であって、間葉系細胞をIL−10あるいはプロゲステロンで処理する工程と、IL−10あるいはプロゲステロンで処理したその間葉系幹細胞をフィーダー細胞上で培養する工程と、を包含することを特徴とする。ここで、フィーダー細胞が、哺乳類胎仔由来の心筋細胞であることが好ましい。また、間葉系幹細胞が、IL−10あるいはプロゲステロンの存在下で、2週間以上培養されることが好ましい。さらに、間葉系幹細胞が子宮内膜、羊膜、胎盤、臍帯血、月経血由来であることが好ましい。
本発明に係る間葉系幹細胞は、心筋細胞へ分化する能力を有する間葉系幹細胞であって、IL−10あるいはプロゲステロンで処理されたことを特徴とする。このIL−10あるいはプロゲステロンによる処理が、IL−10あるいはプロゲステロン存在下において2週間以上培養することにより行われることが好ましい。また、間葉系幹細胞が、子宮内膜、羊膜、胎盤、臍帯血、月経血由来であることが好ましい。
本発明によって、心筋細胞分化誘導促進剤及びその使用方法を提供することができるようになった。
本発明の一実施形態である、羊膜、臍帯、胎盤の各組織1gあたりの間葉系幹細胞数を示すグラフである。 本発明の一実施形態である、フィーダー細胞との共培養によるヒト羊膜由来間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導促進を示すグラフである。 本発明の一実施形態において、羊膜由来間葉系幹細胞の心筋梗塞巣への移植による心機能の回復を示すグラフ(A)および、心臓組織の顕微鏡写真(B)である。 本発明の一実施形態である、GFP標識ヒト羊膜由来間葉系幹細胞移植後2週間目の心臓組織の写真である。 本発明の一実施形態である、JEG−3細胞抽出物、プロゲステロン、IL−10、あるいは、INF−γの存在下で間葉系幹細胞を2週間培養した場合のHLA−Gタンパク質の発現を示したウエスタンブロットである。 本発明の一実施形態である、プロゲステロン(A)あるいはIL−10(B)の存在下で間葉系幹細胞を培養した場合の心筋細胞分化誘導を示すグラフである。 本発明の一実施形態である、対照群、IL−10処理群、プロゲステロン処理群およびFK506処理群における、移植後2週間目の間葉系幹細胞の心筋分化細胞率を示したグラフである。
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されない。
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.等の標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例等は、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
(1)薬理作用
IL−10またはプロゲステロン存在下において間葉系幹細胞を培養し、この培養後の間葉系幹細胞をフィーダー細胞である哺乳類胎仔由来の心筋細胞と共培養すると、間葉系幹細胞の心筋細胞への分化を促進することができる。このことから、IL−10またはプロゲステロンは、分化誘導前の間葉系幹細胞に作用することによって、その間葉系幹細胞の分化状態を心筋細胞の方向へ進めると考えられる。
(2)IL−10あるいはプロゲステロンを含有する薬剤の有用性
前述の通り、IL−10およびプロゲステロンは分化誘導前の間葉系幹細胞に作用することによって、その間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を促進することができる。従って、IL−10あるいはプロゲステロンを有効成分として含有する薬剤は、間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を促進する心筋細胞分化誘導促進剤として有用である。本発明に係る心筋細胞分化誘導促進剤は、IL−10とプロゲステロンのどちらかを有効量含有しても、または、その両方を含有してもよい。
間葉系幹細胞は、それ自身、自己複製能、自己増殖能、および多分化能を有するため、これらの薬剤あるいは製剤を用いることによって、in vitroで培養することにより、間葉系幹細胞から多量の心筋細胞を産生することが可能になる。現在、新薬の開発において、薬物スクリーニング試験、毒性試験、安全性薬理試験等に用いることが可能な心筋細胞の供給が求められているので、本発明の心筋細胞分化誘導方法を用いれば、このような試験の実施に合わせて十分な量の心筋細胞を確保することが可能になる。
また、本発明に係る薬剤で間葉系幹細胞を処理することにより、他家移植可能な細胞を得ることができる。このようにして得られた細胞は、再生医療分野において高い利用価値を有する。例えば、本発明に係る薬剤で処理した間葉系幹細胞を、ダメージを受けたり機能不全に陥ったりした心臓組織に必要量移植することにより、移植部位において新たな心筋細胞分化を促し、組織再生および心機能改善することができる。この場合、移植細胞である間葉系幹細胞の由来動物種(ドナー)と、移植を受ける動物種(レシピエント)は同一であることが好ましいが、IL−10あるいはプロゲステロンにより処理された間葉系幹細胞は高い免疫寛容性を有するため、特に限定されず、例えばヒトの間葉系幹細胞をマウスの心臓に移植することも可能である。心筋へ分化する能力を有する間葉系幹細胞の移植のための調製法は特に制限されず、当業者が適宜選択できるが、例えば、培地やバッファーに懸濁して調製しても、あるいは細胞塊や細胞シートに調製してもよい。ここで、上記レシピエントの疾病は、心筋の再生により病状の改善が期待される疾病であれば特に限定されず、例えば、心筋梗塞が挙げられる。
(3)本発明に係る薬剤の製造
IL−10は生体から単離されたものであっても、遺伝子組み換え技術を用いて製造された組み換え体であってもよい。なお、IL−10が由来する動物は心筋細胞分化誘導機能を有する範囲で特に制限されないが、間葉系幹細胞が由来する動物種と同じであることが好ましく、例えば、ヒト由来の間葉系幹細胞を培養する場合には、ヒト由来のIL−10を用いることが好ましい。本薬剤に含まれるIL−10濃度は、下記分化誘導方法に必要な最終濃度を考慮し、当業者が適宜決定できる。
本発明に係るプロゲステロンは、生体から単離、精製された天然プロゲステロン(化学名4−prehnene−3,20−dione)であっても、あるいは、人工プロゲステロン(カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、化学名17−hydroxy−4−pregnene−3,20−dione hexanoate)であってもよく、間葉系幹細胞の心筋細胞分化誘導機能を有する範囲で制限されない。生体から単離するために用いる動物については、プロゲステロンが間葉系幹細胞の心筋細胞分化誘導機能を有する範囲で特に制限されないが、間葉系幹細胞が由来する動物種と同じであることが好ましく、例えば、ヒト由来の間葉系幹細胞を培養する場合には、ヒト由来のプロゲステロンを用いることが好ましい。これらの天然および人工プロゲステロンは、試薬や医薬品として市販されているものであってもよい。天然プロゲステロンの市販医薬品としては、例えばプロゲホルモン(Progehormon、 持田製薬株式会社)がある。また、人工プロゲステロンの市販医薬品としては、例えばプロゲデボー(持田製薬株式会社)がある。いずれの医薬品も、製剤化のために必要に応じてプロゲステロン以外の添加物等が含まれていてもよい。本薬剤に含まれるプロゲステロン濃度は、下記心筋細胞分化誘導方法に必要な最終濃度を考慮し、当業者が適宜決定できる。
さらに、本発明に係る心筋細胞分化誘導促進剤は、IL−10とプロゲステロン以外の物質であって、間葉系細胞に作用して心筋細胞への分化誘導を促進する物質を一種類、あるいは複数種含有してもよい。この物質として、例えば、テルミサルタンやバルサルタン等のアンギオテンシンII受容体薬、および、ピオグリタゾン等が挙げられるが、これらに限定されない。
また、この薬剤は、必要に応じて上記有効成分以外の、薬学的に許容される担体を含有し製剤化される。ここで用いられる薬学的に許容される担体は、調製される医薬組成物の形態に応じて、慣用されている担体の中から適宜選択して用いることができる。例えば、医薬組成物が溶液形態として調製される場合、担体として、精製水(滅菌水)または生理学的緩衝液、グリコール、グリセロール、オリーブ油のような注射投与可能な有機エステルなどを使用することができる。また、この医薬組成物には、慣用的に用いられる安定剤、賦形剤などを含むことができる。
(4)間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導方法
本発明に係る間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導促進方法は、IL−10あるいはプロゲステロンの存在下で間葉系幹細胞を処理することを特徴とする。以下、間葉系幹細胞を心筋細胞へ分化誘導する方法について、詳細を述べる。
(i)間葉系幹細胞の調製及び前処理
間葉系幹細胞は、心筋細胞に分化する能力を有する間葉系幹細胞であればよく、例えば、子宮内膜、羊膜、胎盤、臍帯、臍帯血、月経血から採取することができる。これら間葉系幹細胞の材料は、月経あるいは出産の際に十分な量を容易に確保することができるため、通常の臓器移植のようにドナー不足に陥ることがない。また、自家移植の場合には必要性が生じてから、原料となる移植細胞や組織を採取するため、移植前処理のための待ち時間が必要であるが、間葉系幹細胞の場合には事前に必要な処理を行って移植に備えておくことができる。
これらの材料から間葉系幹細胞を調製する際、用いる材料に対して適切な前処理を行う。例えば、間葉系幹細胞を巻き込んだ細胞塊になっている場合には、含まれている細胞を解離するために、材料に対してピペッティング等による物理的処理や、酵素等による化学的処理を行えばよい。酵素としては、トリプシン、コラゲナーゼ等、常法で用いられている酵素が挙げられる。また、例えば、臍帯血、月経血等の血液から間葉系幹細胞を調製する際は、低張溶液(例えば、水等)で処理することにより、赤血球を溶血しておくことが好ましい。
このようにして得られた間葉系幹細胞を遠心分離(500〜2000rpm、3〜10分)し、沈殿させた細胞に培地を入れて細胞浮遊液を調製した後、細胞を10,000〜20,000/cmでプレートに播種し、5日以上、好ましくは2週間以上、最も好ましくは2週間、37℃、5%COインキュベーターで培養する。
ここで用いる培地は、間葉系幹細胞を培養することができる培地であれば特に限定されず、例えば、α−MEM(α−minimum essential medium)、DMEM(Dulbecco’s modified Eagle’s medium)、IMDM(Isocove’s modified Dulbecco’s medium)等が挙げられる。また、培地は、5〜10%ウシ胎仔血清(FCS)を含んでいることが好ましく、ペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質を含んでいてもよい。また、後にフィーダー細胞と共培養して心筋細胞へ分化誘導する際、その分化を促進するために、培地にはIL−10あるいはプロゲステロンを含む心筋分化誘導促進剤を添加しておく。添加するIL−10の濃度は、例えば、1〜100ng/mLであることが好ましく、10ng/mLであることが特に好ましい。プロゲステロンの濃度は、1〜100ng/mLであることが好ましく、10ng/mLであることが特に好ましい。このような条件下で培養した結果、間葉系幹細胞は心筋へ分化する能力が亢進した間葉系幹細胞となる。
なお、IL−10またはプロゲステロンの存在下で間葉系幹細胞を培養する際、他の分化誘導促進方法を組み合わせてもよく、例えば、フィーダー細胞(例えば、心筋細胞)との共培養、5−アザシチジン、DMSO、またはオキシトシン等の投与が挙げられる。また、IL−10およびプロゲステロンの両方の存在下で間葉系幹細胞を培養してもよい。
(ii)フィーダー細胞の調製
フィーダー細胞は、間葉系幹細胞の分化誘導を起こさせることができる細胞であれば特に限定されないが、心筋細胞の初代培養細胞等が挙げられる。なお、フィーダー細胞として培養細胞を用いる場合、細胞の増殖を防ぐために、用いる培養細胞に対して、γ線照射やマイトマイシン等による処理を予め施しておくことが好ましい。ここでは、哺乳類胎仔由来の心筋細胞を用いたフィーダー細胞の調製方法の一例について述べる(詳細は、The Journal of Gene Medicine, 6, 833-845, 2004 を参照のこと)。
まず、胎生14〜16日目の哺乳類(例えば、マウス等)の胎仔の心臓を切除し、5〜10%FCS含有DMEM培地、又は5〜10%FCS含有DMEM/F−12培地に入れ、眼科用ハサミを用いて細かく切る。次に、心筋組織から心筋細胞を解離するために、組織の間質を消化するトリプシンなどの酵素を上記培養皿に入れて、37℃で5分間インキュベートする。
酵素処理後、上記手法によって調製した細胞を遠心分離(500〜2000rpm、3〜10分)し、沈殿物にDMEMなどの培地を入れて細胞浮遊液を調製する。また、培地は、5〜10%FCSを含んでいることが好ましく、ペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質を含んでいてもよい。細胞浮遊液を培養皿に入れて、37℃、5%COインキュベーターで培養する。培養皿は、予めゼラチン等でコーティングしておくことが好ましい。培養後、培養上清を吸引によって除去し、培養皿に付着した細胞を、以下の実験に用いるフィーダー細胞とする。
(iii)間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導
得られた間葉系幹細胞を心筋細胞へ分化誘導するため、フィーダー細胞上に、1×10〜1×10細胞/cmの濃度になるように間葉系幹細胞を添加し、37℃、5%COインキュベーターで培養する。この際、培地には、IL−10またはプロゲステロンを添加してもしなくてもよく、IL−10およびプロゲステロンの両方を添加してもよい。
ここで用いるフィーダー細胞は、間葉系幹細胞と同じ動物種から調製することが好ましいが、これに限定されず、例えばヒト間葉系幹細胞との共培養のために、入手が比較的容易なマウスやラットの心筋細胞を用いることができる。
なお、フィーダー細胞と間葉系幹細胞とを区別するために、フィーダー細胞を予め標識しておいてもよい。標識方法としては、例えば、Green fluorescent protein(GFP)遺伝子を体全体で発現するトランスジェニック動物からフィーダー細胞を調製したり、GFP遺伝子をフィーダー細胞に遺伝子導入して標識したり、細胞に無害な色素を微細注入することにより標識したりする方法等が挙げられる(Takeda et al., The Journal of Gene Medicine, 6, 833-845, 2004 を参照のこと)。
(iv)分化誘導された心筋細胞の同定
分化誘導された心筋細胞は、一つ一つの細胞の辺縁が細胞の中心方向に集合するように拍動し、収縮時に細胞質が厚くなるため、間葉系幹細胞を予めGFP等で蛍光標識しておけば、心筋細胞を細胞レベルで同定することができ、容易に心筋細胞を観察できるようになる。また、複数の細胞の拍動が同期化して、一群の細胞で拍動を打つようになることもある。分化誘導された心筋細胞はこのような特徴を有するので、顕微鏡下において、容易に同定することができる。
あるいは、心筋細胞に特異的なマーカーを用いて、分化誘導した心筋細胞数を測定してもよい。例えば、in situ hybridization 法や免疫染色法などにより、心筋細胞に特異的なmRNAやタンパク質の発現を検出することができる。心筋細胞に特異的なマーカーとしては、例えば、Nkx2.5/Csx、GATA4、TEF−1、MEF−2C、MEF−2D、MEF−2A、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、α−ミオシン重鎖(α−MHC)、β−ミオシン重鎖(β−MHC)、ミオシン軽鎖−2a(MLC−2a)、ミオシン軽鎖−2v(MLC−2v)、α−心筋アクチン、心筋Troponin T、心筋Troponin I、Connexin43(Cx43)等が挙げられる(J. Clin. Invest., 103, 697-705, 1999)を参照のこと)が、これらに限定されない。
[実験方法]
==抗体==
一次抗体として、抗ヒト心筋Troponin IマウスIgG抗体(Monoclonal mouse anti-cardiac Troponin I for human(カタログ番号4T21、Lot 98/10-T21-C2、HyTest社))、抗Sarcomeric-alpha actininマウスIgG抗体(カタログ番号A7811、Sigma-aldrich社)、抗Connexin43ウサギIgG抗体(カタログ番号C6219、Sigma-aldrich社)、抗HLA−GマウスIgG抗体(Ab7758、Abcam社)を用いた。なお、Troponin Iは心筋を標識する。また、Sarcomeric-alpha actininはアクチン結合タンパク質であり、これに対する抗体によりアクチンの局在を検出することができる。Connexin43は心臓のギャップジャンクションに存在するタンパク質で、心臓の分化・発達に関与しているとされる。
免疫組織化学染色法の二次抗体として、TRITC標識抗マウスIgG抗体(Sigma社)、Cy5標識抗ウサギIgG抗体(Sigma社)を適宜用いた。
==GFP標識間葉系幹細胞の調製==
慶應大学病院倫理委員会で承認されたプロコールに従って、インフォームドコンセントを行ったボランティアから、出産の際に羊膜、胎盤、あるいは臍帯を採取した。各組織を、20mlのDMEM培地(1% FCS、100U/mlペニシリン、100ng/mlストレプトマイシン、及び500U/L ヘパリン含有)を入れた50mlポリプロピレンチューブに移した。チューブ内で組織を軽く洗浄した後、10cm培養皿に移した。眼科用ハサミを用いて、組織を約1〜5mm大に細かく切り、数分間静置した後、血液細胞が含まれる上清を除去し、再び、DMEM培地で洗浄した。この操作を3〜4回繰り返し、最終的に、切断された各組織を10%FCS含有α―MEM培地に入れ、この組織片が3〜5個/cmの濃度になるように培養皿に静置し、37℃、5%COインキュベーターで培養した。その後、Takeda et al. (J. Gene Med., 6, 833-845, 2004)の方法に従って、組織から自然に遊走してきた間葉系幹細胞にGFP遺伝子発現アデノウイルスを感染させ、間葉系幹細胞をGFPで標識した。さらに4日間培養を続けた後、共焦点蛍光顕微鏡(FV1000、 Olympus社)を用いて、間葉系幹細胞におけるGFPの発現を確認した。
==フィーダー細胞の調製==
フィーダー細胞としては、マウス(BALB/C)胎仔由来の心筋細胞を用いた。その調製は以下のようにして行った。
まず、胎生14〜16日目の心臓を切除し、10%FCS含有DMEM培地中で、眼科用ハサミを用いて、細かく切った。心筋組織から心筋細胞を解離させるために、組織の間質を消化するタンパク質分解酵素(0.05%トリプシンおよび0.25mmol/L EDTA含有PBS)を培地に添加し、37℃で5分間インキュベートした。
酵素処理後、遠心分離(1500rpm、3分)し、沈殿した細胞を10%FCS含有DMEM培地に懸濁して細胞浮遊液を調製し、培養皿に播種して37℃でインキュベートした。30分〜3時間後、培養上清を吸引によって除去し、5×10細胞/cmの濃度になるように培養皿に播種した。これをフィーダー細胞として、各実施例に用いた。
==心筋細胞分化誘導の評価法==
本実施例では、Troponin I発現を心筋細胞の分化マーカーとして用い、GFP標識間葉系幹細胞数に対するTroponin I陽性細胞数の頻度を算出し(Exp. Cell Res., 15, 313 (12), 2550-62, 2007)、間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を評価した。
<in vitroでの分化誘導評価>
間葉系幹細胞とフィーダー細胞である心筋細胞との共培養開始から1週間後、培養皿に存在する細胞に対して、ヒト心筋細胞に特異的なタンパク質であるTroponin Iに対する抗体を用いて、免疫染色を行った。
まず、1%HCL含有70%エタノールで洗浄したスライドグラスに、10倍希釈したPoly-L-Lysine溶液 (P8920、 Sigma社)を上層し、室温で5分間放置した後、Poly-L-Lysine溶液を除去し、スライドグラスを十分乾燥することによって、免疫染色を行うスライドグラスをリジンコートした。次に、間葉系幹細胞とフィーダー細胞である心筋細胞を共培養した後の細胞を0.25mmol/L EDTA含有PBSで剥がし、遠心分離(1500rpm、3分)し、沈殿した細胞を10%FCS含有DMEM培地に入れて細胞浮遊液を調製した。この細胞浮遊液を、リジンコートしたスライドグラスの上にのせて1時間放置し、スライドグラスに細胞を接着させた後、4%ホルムアルデヒド溶液を用いて細胞を固定し、0.02% Triton−X含有PBS溶液に20分間浸して、細胞膜を破壊した。一次抗体として、PBSで希釈した抗Troponin I抗体(400倍希釈)を上層し、保湿しながら冷蔵庫内で1日反応させた後、PBSで洗浄し、次に、二次抗体として、TRITC標識抗マウスIgG抗体(200倍希釈)を上層し、保湿しながら室温で30分反応させた。細胞をPBSで洗浄後、共焦点レーザー顕微鏡(FV1000、Olympus社)を用いて観察した。
<in vivoでの分化誘導評価>
ラットから摘出した心臓組織を4%ホルムアルデヒトで固定した後、凍結心臓短軸切片を作製した。この切片にPBSで希釈した抗Troponin I抗体(400倍希釈)を上層し、4℃で12時間反応させた後、PBSで洗浄した。二次抗体としてPBSに希釈したTRITC標識抗マウスIgG抗体(100倍希釈)を上層し、20℃で1時間反応させた後、細胞をPBSで洗浄し、共焦点レーザー顕微鏡(FV1000、Olympus社)を用いて観察した。
==心筋梗塞モデルラット作製==
ラット(Wister Rat、6〜8週齢、雄雌)を2%イソフルレンにより麻酔し、人工呼吸器を装着した。このラットの胸部を切開し、心臓冠状動静脈を絹糸で結紮して心臓血管障害を誘発した。その後胸部を縫合し、ラットが回復後、飼育を続けた。この心臓血管障害によって血流のなくなった組織において、通常心筋梗塞が引き起こされる。
==間葉系幹細胞処理試薬のストック溶液==
IL−10(I9276、Sigma-aldrich社)、プロゲステロン(p7556、Sigma-aldrich社)、JEG−3細胞抽出物(GTX14841、GeneTex社)、INF−γ(R&D systems社)、FK506(免疫抑制剤、F4679、Sigma-aldrich社)について、0.1mMの各ストック溶液を作製し、この溶媒が間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導に影響がないことを確認した。
[実施例1]
本実施例では、妊娠付属器中に間葉系幹細胞が含まれることを示す。
まず、ボランティアから羊膜、胎盤、および臍帯を得て、GFP標識間葉系幹細胞を調製した。各組織1gあたり、得られたGFP標識間葉系幹細胞数を図1に示す。
羊膜、胎盤、臍帯の全てに間葉系幹細胞が含まれるが、中でも羊膜に顕著に高い割合で含まれていた。この結果は、羊膜、胎盤、臍帯をはじめとする妊娠付属器官から間葉系幹細胞が採取できるが、特に羊膜から効率よく採取できることを示す。
[実施例2]
本実施例では、心筋細胞との共培養によるヒト羊膜由来間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を示す。
==心筋細胞への分化誘導==
GFP標識ヒト羊膜由来間葉系幹細胞を、5×10細胞/cmの濃度になるように10%FCS含有DMEM培地で調製した。この間葉系幹細胞を、フィーダー細胞に重層し、37℃、5%COインキュベーターで培養した(J. Gene Med., 6, 833-845, 2004を参照)。対照群の間葉系幹細胞は、フィーダー細胞を用いずに同条件下で培養した。共培養開始から1週間後、培養間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を評価した。
図2はGFP標識間葉系幹細胞数に対する心筋細胞に分化した細胞数(Troponin I陽性細胞数)を示す。フィーダー細胞と共培養した羊膜由来間葉系幹細胞における心筋細胞率は33%であり、共培養しなかった間葉系幹細胞における心筋細胞率(0%)と比較して有意に高かった(p<0.05、t検定)。
このように、フィーダー細胞との共培養は、間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を促進する。
[実施例3]
本実施例では、心筋梗塞巣に間葉系幹細胞を移植することにより心機能が改善することを示す。
==間葉系幹細胞移植==
心筋梗塞モデルラットを作製するための梗塞巣作製手術から2週間後、再びラットの胸部を切開した。ここで、GFP標識ヒト羊膜由来間葉系幹細胞を2〜4×10細胞/mLの濃度でDMEM−H(高グルコースDMEM)に懸濁し、心筋梗塞巣に移植した。移植後、ラットの胸部を再び縫合し、さらに2週間飼育を続けた(移植群、N=11)。
本実施例では対照群として、梗塞、移植共に偽手術をした群(偽群、N=6)、および、梗塞巣を作製したが偽移植手術をした群(偽移植群、N=8)を用いた。
==心機能改善の評価==
本実施例では、左心室収縮能を示す左室径短縮率(LVFS)を心機能改善の評価法として用いた。心筋梗塞巣作製手術後2週間目(移植前)および移植後2週間目に、各ラット個体の心エコー図を取得し、この画像からLVFSを算出した(臨床心エコー図学 吉川純一著、分光堂、参照)。
また、実験群、および偽移植群のラットにおいて、移植後2週間目に心臓を摘出した。この心臓組織を4%ホルムアルデヒドで固定した後、心臓短軸凍結切片を作製した。これをマッソン染色し、光学顕微鏡下で心臓組織を観察した。
図3Aに示すように、偽移植群(白丸)では梗塞巣作製後、PVSFは低下した。一方、心筋梗塞巣作製後間葉系幹細胞を移植した群(黒丸)では、移植後2週間目までにLVSFが上昇し、偽移植群と比較し有意に高くなった(p<0.05、ANOVA法、Bonferroni比較法)。また図3Bは、偽移植群の心臓組織に比較し、移植群の心臓組織では心筋層(矢印)が肥厚化することを示す。
このように、間葉系幹細胞の移植により、心筋梗塞巣における新たな心筋細胞分化および心機能改善が促進される。
[実施例4]
本実施例では、羊膜由来間葉系幹細胞が免疫学的寛容性を有することを示す。
心筋梗塞巣作製後2週間目のモデルラットにGFP標識ヒト羊膜由来間葉系幹細胞を移植した。このラットを、さらに2週間あるいは2か月飼育を続けた後、組織学的解析のため心臓組織を採取した。
この心臓組織を4%ホルムアルデヒドで固定した後、心臓短軸凍結切片を作製した。この切片を、抗Sarcomeric-alpha actinin 抗体(300倍希釈、4℃一晩)と抗Connexin43抗体(300倍希釈、4℃一晩)で二重標識し、それぞれ、TRITC標識抗マウスIgG抗体(100倍希釈)とCy5標識抗ウサギIgG抗体(100倍希釈)を二次抗体として用いて可視化した。あるいは、抗Troponin I 抗体(300倍希釈、4℃一晩)で標識し、TRITC標識抗マウスIgG抗体(100倍希釈)を二次抗体として用いた。さらに、各切片をDAPI(Wako社)で対比染色し、蛍光顕微鏡下で観察した。
図4はGFP標識ヒト羊膜由来間葉系幹細胞の移植2週間後の心臓組織の写真である。図4AはTroponin I(Trop I、グレー)およびGFP(EGFP、矢じり)の局在を示す。図4BはAと同じ切片のGFPの局在のみを示した顕微鏡像である。GFPの局在は、移植した標識間葉系幹細胞の局在を示す。通常、本実施例に用いたWister Ratにおいては免疫学的な拒絶が移植後2週間以内に完了することが、当業者間では広く知られているが、本実施例では移植2週間後にも移植された間葉系幹細胞が多く残っている。
図4Cの写真上方に左右に見られる白い部分(*)はGFPの局在を示し、組織全体に散在する白点はConnexin43の局在を示している(Cx43、矢じり)。GFP非標識細胞は、ホスト細胞であるが、GFP標識細胞とホスト細胞との接合部に特に濃くConnexin43タンパク質を発現している(矢印)。
図4Dは心筋(Trop I、グレー)とGFP陽性移植間葉系幹細胞(EGFP、*)の局在を示す。GFPで標識された移植細胞はTroponin Iにより標識された明瞭な横紋を有し、これは間葉系幹細胞が心筋細胞に分化したことを示している。
このように、羊膜由来間葉系幹細胞は、in vivoで心筋細胞への優れた分化能を有し、さらに、移植後2週間においても多くが残留し、すなわち優れた免疫寛容性を有する。
[実施例5]
HLA−G(human leukocyte antigen-G)は妊娠時に、母体の胎児に対する免疫寛容性に関与することが知られている(Hunt et al., FASEB Journal, vol. 19, 681-693, 2005)。本実施例では、各種条件下で培養した間葉幹細胞の免疫寛容性の指標として、HLA-Gタンパク質発現量の変化を解析した。
==間葉系幹細胞の処理==
GFP標識ヒト羊膜由来間葉系幹細胞を、5×10細胞/cmの濃度になるように10%FCS含有DMEM培地で調製した。ここに、最終濃度10ng/mLになるようにIL-10、プロゲステロン、JEG−3細胞抽出物、INF−γの各ストック溶液を加え、37℃、5%COインキュベーターで2週間培養した。なお、対照群は、上記いずれの試薬も加えずに、同様にして培養を行った。
==ウエスタンブロット法==
培養細胞を50 mM 細胞溶解バッファー(Tris-HCl(pH 8.0)、1% NP40、250 mM NaCl、50 mM NaF、1 mM NaVO4、1 mM プロテアーゼ阻害剤 (PMSF、aprotinin、leupeptin)、1 mM DDT)中で溶解し、遠心分離した。ここで得られた上清を変性SDS-ポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、PVDF膜にブロットした。この膜を抗HLA−G抗体(200倍希釈、4℃一晩)で標識し、二次抗体としてGoat f(ab’)2 anti-mouse Ig’s,HRP conjugate(8000倍希釈、室温、30分、カタログ番号AMI4404、 BIOSOURCE社)を用いて可視化した。ここで得られた特異的バンドをNIH-Image(アメリカ国立衛生研究所)を用いて定量化し、各条件下でのHLA−Gタンパク質の発現を比較した。内部標準およびゲルに泳動したタンパク質量補正のため、βアクチンを用いた。
図5Aはウエスタンブロットの結果を示している。このバンドを定量化した結果を図5Bに示す。対照群に比較したHLA−Gタンパク質の発現量は、JEG−3細胞抽出物存在下で培養した場合には100倍、プロゲステロン存在下では1000倍、IL−10存在下では10000倍、INF−γでは15倍に増加した。
このように、IL−10あるいはプロゲステロン存在下でヒト羊膜由来間葉系幹細胞を培養することによって、HLA−Gタンパク質発現が顕著に増加する、すなわち、間葉系幹細胞の免疫寛容性が向上する。
[実施例6]
本実施例では、IL−10とプロゲステロンによる、間葉系幹細胞の心筋細胞へのin vitroでの分化誘導効率を検討する。
GFP標識ヒト羊膜由来間葉系幹細胞を、5x10細胞/cmの濃度になるように10%FCS含有DMEM培地で調製した。この間葉系幹細胞をフィーダー細胞に重層し、37℃、5%COインキュベーターで培養した(J. Gene Med., 6, 833-845, 2004を参照)。この際、フィーダー細胞との共培養開始48時間前から共培養開始まで、培地にIL−10(最終濃度10ng/mL)、あるいは、プロゲステロン(最終濃度10ng/mL)を加え、間葉系幹細胞を処理した。培養を始めて4日後、間葉系幹細胞から心筋細胞への分化を検出した。
図6Aに示すように、プロゲステロン処理を全く行わない場合と比較し、フィーダー細胞との共培養開始前2週間プロゲステロンで処理した場合に有意に心筋細胞分化誘導効率が高かった(p<0.05、ANOVA法、Bonferroni比較法)。また、図6Bに示すように、IL−10については、共培養前、共培養開始後、あるいはその両方のいずれの条件であってもIL−10で処理した間葉系幹細胞は非処理群と比較して有意に心筋細胞への分化誘導率が高いが、共培養前にIL−10の処理を行った群の心筋細胞分化誘導率はさらに高かった(p<0.05)。
この結果は、間葉系幹細胞を心筋細胞誘導のためフィーダー細胞と共培養する前にIL−10あるいはプロゲステロンで処理することにより、心筋細胞分化誘導が促進されることを示す。
[実施例7]
本実施例では、間葉系幹細胞をIL−10あるいはプロゲステロンで処理することにより、心臓組織へ移植後の間葉系幹細胞の心筋分化細胞率が改善されることを示す。
GFP標識ヒト羊膜由来間葉系幹細胞を、5x10細胞/cmの濃度になるように10%FCS含有DMEM培地で調製し、ここにIL−10(最終濃度10ng/mL)、あるいは、プロゲステロン(最終濃度10ng/mL)を加え2週間培養した。対照群の間葉系幹細胞は、これらのいずれの試薬も加えずに、同様に培養を行った。これらの細胞を、2〜4×10細胞/mLの濃度でDMEM−Hに懸濁した。
心筋梗塞モデルラットを作製するための梗塞巣作製手術から2週間経過したラットの胸部を再び切開し、この間葉系幹細胞溶液を、心筋梗塞巣に移植した。移植後、ラットの胸部を再び縫合し、さらに2週間飼育を続けた(各N=6)。
また、対照群と同様の処理をしたラット(N=6)において、移植後2週間にわたりFK506(1mg/kg/日)を筋肉注射により投与し、これをFK506処理群とした。
2週間後、ラットから心臓を摘出した。上述のin vivoでの分化誘導評価法に従って1mm厚凍結切片を作製し、心筋梗塞巣における移植間葉系幹細胞の心筋細胞への分化を検出した。
心筋分化細胞率(%)は、心筋梗塞巣に移植した間葉系幹細胞数当たりのTroponin I陽性細胞数の割合(%)として算出した。
切片中に観察されるTroponinI陽性細胞数をAとし、式 Ax1000/30を用いた。この式は、心筋の標準的な長さおよび直径(Cric. Res., 68, 1501-1526, 1991参照)から算出された、切片中に心筋細胞が出現する頻度を考慮したものである。
各処理を施した間葉系幹細胞の、移植後2週間目の心筋分化細胞率を図7に示す。対照群およびFK506処理群と比較し、IL−10またはプロゲステロンで処理した間葉系幹細胞では心筋分化細胞率が有意に高かった(p<0.05、ANOVA法、Bonferroni比較法)。
このように、心筋再生を目的とした間葉系幹細胞の移植に際し、移植前にIL−10やプロゲステロンで処理することにより移植細胞の心筋細胞分化を促進することができる。

Claims (12)

  1. 間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を促進する促進剤であって、
    IL−10あるいはプロゲステロンを有効成分として含むことを特徴とする心筋細胞分化誘導促進剤。
  2. 前記間葉系幹細胞が子宮内膜、羊膜、胎盤、臍帯血、月経血由来であることを特徴とする、請求項1に記載の促進剤。
  3. 間葉系幹細胞の心筋細胞への分化誘導を促進する方法であって、
    IL−10あるいはプロゲステロン存在下において間葉系幹細胞を培養することを特徴とする、心筋細胞分化誘導促進方法。
  4. 前記間葉系幹細胞が、前記IL−10あるいはプロゲステロンの存在下で、2週間以上培養されることを特徴とする請求項3に記載の心筋細胞分化誘導促進方法。
  5. 前記間葉系幹細胞が子宮内膜、羊膜、胎盤、臍帯血、月経血由来であることを特徴とする、請求項3または4に記載の心筋細胞分化誘導促進方法。
  6. 間葉系幹細胞を心筋細胞へ分化させる分化誘導方法であって、前記間葉系細胞をIL−10あるいはプロゲステロンで処理する工程と、
    IL−10あるいはプロゲステロンで処理した前記間葉系幹細胞をフィーダー細胞上で培養する工程と、を包含する分化誘導方法。
  7. 前記フィーダー細胞が、哺乳類胎仔由来の心筋細胞であることを特徴とする請求項6に記載の分化誘導方法。
  8. 前記間葉系幹細胞が、前記IL−10あるいはプロゲステロンの存在下で、2週間以上培養されることを特徴とする請求項6または7に記載の心筋細胞分化誘導方法。
  9. 前記間葉系幹細胞が子宮内膜、羊膜、胎盤、臍帯血、月経血由来であることを特徴とする、請求項6〜8のいずれかに記載の心筋細胞分化誘導方法。
  10. 心筋細胞へ分化する能力を有する間葉系幹細胞であって、
    IL−10あるいはプロゲステロンで処理されたことを特徴とする間葉系幹細胞。
  11. 前記IL−10あるいはプロゲステロン存在下において2週間以上培養されたことを特徴とする請求項10に記載の間葉系幹細胞。
  12. 前記間葉系幹細胞が、子宮内膜、羊膜、胎盤、臍帯血、月経血由来であることを特徴とする、請求項10または11に記載の間葉系幹細胞。
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