JP2010236960A - ねじり振動を利用した赤外線の検出方法とこれを実施したねじり振動を利用した赤外線センサ - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 本発明は、ねじり振動を赤外線センサに新しく導入し、赤外線吸収による温度上昇が生み出す振動子の変形が、共振周波数などを変化させる力学系を利用することによって、ねじり振動を利用することを特徴とする赤外線センサを実現したものである。
【選択図】 図1
Description
本発明により、小型で高感度な省電力の赤外線センサが実現可能になる。
量子型センサは、赤外線のエネルギーによって励起された半導体中の電子や正孔が、導電率の変化や起電力を発生することを利用する原理である。量子型センサは一般に感度が高いが、熱による励起電子や正孔の影響が大きいため、液体窒素等での冷却を行ってはじめて高感度が得られる。専用の冷却装置が必要となり、センサシステムの構造が大型で複雑、高価になり易い。一般用途に広く使われるために重要となる小型化には適さない。
熱型センサは赤外線吸収による物質の温度上昇に伴う応力や電気特性の変化を利用する原理である。熱型センサは室温で動作するため、特別な冷却装置が不要となり、簡易で安価になる利点を持つ。近年、半導体集積回路の微細加工技術を応用して、センサを寸法・熱容量ともに小さく作り、感度と応答性の向上をはかったデバイスが報告されている。但し、量子型と比べると、感度は低い値に甘んじている。
上記のように中遠赤外線センサには多くの方式があるが、非冷却かつ高感度のセンサが無い。例えば、赤外分光による分析を行う際には、持ち運びができるような小型センサが無いために、応用範囲が制限されている。赤外スペクトル測定にFT-IR(フーリエ変換型赤外分光)が使われる最大の理由は、高感度なセンサがないからである。FT-IRは研究装置として優れるが、移動鏡が必要という点でも、小型化に適していない。
技術開発のなかでも、熱型赤外線センサを振動型にする試みがなされている。振動型にすると、センサ出力がアナログ値ではなくなり、AD変換回路などのインターフェイス回路が必ずしも必要無くなり、センサを更に小さくできる利点もある。
特許文献1のデバイスは、両端が固定された梁の、長さ方向に対して垂直に変位する振動を利用したものである。赤外線吸収に伴う温度上昇が梁の熱膨張を促すのに対して、両端が固定されているため梁は伸びることができない。このために梁内部に応力が発生し、梁の軸力となり、振動特性を変化させる原理である。材料特性によって生じる熱応力を直接、梁に伝える。共振周波数やQ値が必ずしも大きく変化するものではなかった。
特許文献2のデバイスは、振動体をトランジスタのゲートとしても利用し、ドレインとソースに挟まれたチャネル上に配置したものである。振動式赤外線センサの感度を高めるために、トランジスタの原理と組み合わせる試みである。参照用センサを隣接することも示している。
特許文献3のデバイスは、例えば特許文献1で示されたセンサの梁内部に発生する熱応力が軸力として働かずに、梁の長さ方向に対して垂直方向に変位して逃げてしまうことを解決する試みである。熱伝導を少なくして受光部の温度上昇を大きくする設計の、細長い梁では座屈が生じ易い。センサ感度と出力信号の線形性にも関係する。片持ち梁とすることで、基板への熱伝導を少なく抑え、熱の蓄積効率を高めている。赤外線吸収の効率を高めるために、シリコン酸化膜と窒化膜を積層するなどした、吸収層を大きく張り出す構造を取っている。片持ち梁の温度変化が、材料のヤング率および、振動子の共振周波数変化を変えることを原理としている。具体的な材料には、窒化チタンを挙げている。
特許文献4では、2種類の物質による構造を用意し、吸収した赤外線による温度上昇と、材料が持つ熱膨張係数の差によって、たわみを生じるようにし、このたわみを電気的な容量変化として検出するセンサが提案されている。
非特許文献1では、二層構造の機械的変形を利用したセンサが、炭化ケイ素/アルミと炭化ケイ素/金の組み合わせで試されたことが紹介されている。センサとして期待された性能には至っていない。
非特許文献2は、ねじり振動を利用したマイクロミラーに関するものである。張力が加わった薄膜からなるトーションバーを利用すると、温度変化に対して特性が大きく変化する。文献はむしろ、この温度特性を問題視した研究発表である。トーションバーが軸に対して垂直方向に変形するために、バネ定数が硬くなることが原因であることを見出した。
この現象を利用すれば、温度変化に対して感度の高いねじり振動子を実現できる。これは赤外線センサに利用できる。
様々な分子に特有な振動スペクトルは中遠赤外線領域に現れる。より高感度な赤外線センサが得られれば、応用範囲の拡大が期待される。
本発明は、温度上昇が共振周波数等の機械特性の大きな変化を生み出し易い力学系を、小さな構造体によって実現し利用することで、振動型センサを更に高感度化することを目的とする。加えて、各センサ素子間の熱絶縁を取って一次元あるいは二次元に配列したアレイ型センサを、高いフィルファクタと共に実現することを目的とする。
本発明のねじり振動を利用した赤外線センサは、張力を加えたねじり振動を行うトーションバーを赤外線センサとして使用することにより、バネ部も含めて振動子が温度上昇により反り、共振周波数などを大きく変化させることを利用して、センサの高感度化を実現したものである。
また本発明によれば、トーションバーによって支持された振動子が赤外線吸収による温度上昇に伴って示す、機械的共振周波数またはQ値の変化を検出することを特徴とする赤外線検出方法が得られる。
また本発明によれば、赤外線センサを複数個(例えば二個)有することにより、一つのセンサから得られる参照信号との比較をすることを特徴とした差動型センサが実現できる。
実際の振動子はリボン状にでき、アレイ化に適する。片方のセンサには、赤外線のエネルギーが入らないようにすることも可能である。センサそのものに反射膜を用意しても良いし、配置の仕方によって、赤外線そのものが入射しないようにすることも可能である。一つのセンサによってノイズ等をモニタリングでき、差動によって、赤外線照射がもたらす
影響のみを測定できる。
また本発明によれば、赤外線センサを複数個配置したアレイ型センサを実現できる。実際の振動子はリボン状にでき、アレイ化に適する点が、同じ半導体微細加工技術で用意される、サーモパイル素子と異なる。サーモパイル素子は温接点と冷接点を直列に接続して信号を足し合わせる原理のため、温度分布を得るための空間と、デバイス面積が必要となる。1素子につき1mm2以上の面積が必要となる。対して、ねじり振動を利用するセンサは、〜200x10μm2の面積によっても振動子を用意することが可能である。例えば、回折格子を使った分散型の分光を行うと、波長が異なる光は異なる位置に焦点を結ぶ。アレイ化した個々の素子を波長に対応させた分光システムを実現できる。
図1は本発明のねじり振動を利用した赤外線の検出方法を実施した赤外線センサの一実施例を示した説明図である。
図1の、(a) は本発明のねじり振動を利用した赤外線センサの概略構成を示す図、(b)は本発明のねじり振動を利用した赤外線センサのねじり振動する梁に沿った断面図の低温状態を示し、(c)はねじり振動する梁に沿った断面図の高温状態の変形を強調して表示した図である。
図1において、1は入射赤外線である。2は両端が固定されたトーションバー(ねじり棒バネ)で、21はトーションバー2の二つの固定端である。3はトーションバー2の二つの固定端21を真直ぐ結ぶ直線からのトーションバーの変位、4はトーションバーに加えられた張力、5はトーションバーに生じる回転変位を示す。
8は下部電極である。8aは振動体6の駆動用電極、8bは振動体6の周波数特性を電気的インピーダンスなどで測定する検出用電極である。下部電極8は振動体6に回転を促す力を発生するようにトーションバー2の中心軸よりずれた位置に設置される。
駆動用電極8aと検出用電極8bは例示であって、別のレイアウトでも良い。時分割によって同一の電極とすることもできる。9は赤外線センサの基板である。
トーションバー2と振動体6は、トーションバー2の固定端21により機械的に支持されると同時に、電気的にも外部と接続され、駆動用電極8aとの間に駆動電圧が加えられる。
振動体6は、入射赤外線1による温度上昇によってたわみが発生するように、例えば多層構造に構成される。
振動体6の上層6aが下層6bよりも熱膨張係数が大きい場合には、上層の方がより伸びようとするため、上に凸のたわみが発生する。これが図1(b)から図1(c)の変化を生み出すので、振動体6が回転中心から外側に張り出した形になる変位3が発生し、二つの固定端21を真直ぐ結ぶ直線から外れるように変形する。
この結果、トーションバー2に沿って働く張力4と、ねじり振動にともなう変位5の関係が図1の(b)に示すような直交関係から外れて図1の(c)に示すような関係に変化する。
これによって、トーションバー2のねじりバネ定数が増加し、共振周波数など機械的特性を変化させる。
トーションバーを赤外線センサとして使用するときの感度特性のデータの一例として、シリコン窒化膜とクロム/金膜を利用した張力の加わったトーションバーを有する振動体(マイクロミラー)のデータを図6に示す。
図6の縦軸は回転角の傾き角度で、横軸は温度である。図6のデータは、温度上昇とともに回転角が減少していることを示している。これはねじりバネ定数の増加が原因であり、共振周波数の増加に対応している。
本発明のねじり振動を利用した赤外線センサが、大きな変化が得られるのは、張力がバネのねじれ運動と直交している場合には、力学的エネルギーをほとんど必要としないためバネ定数が小さいのに対して、上記直交関係が崩れると、張力のある成分に抗しながら進むねじり運動にエネルギーを必要とするようになり、トーションバーのねじりバネ定数の増加を引き起こすからである。大きな値を持つ張力を用意できることと、この向きをわずかでも変化させること、によって共振周波数の大きな変化を生み出す原理となる。
なお、低温状態の赤外線センサの形状は図1(b)に示す状態とは限らず、図1(c)の状態から高温状態になることで更に上に変形する設計も、逆に図1(c)の状態から図1(b)の状態に近づく設計も可能である。
図2において、図1と同一の部分には同一の符号を付けてその説明を省略する。
図2の実施例は、トーションバー2全体を多層構造にしたもので、図1のように振動体6を特別に設けない構成である。
図2においては、振動体6の上層6aがトーションバー2の端まで伸びることで、振動体6はトーションバーと連続した構造となっているとも言える。張力4とねじり振動にともなう変位5の関係については図1と同様の効果を得ることができる。なお、低温状態の赤外線センサの形状は図2(a)に示す状態とは限らず、図2(b)の状態から高温状態になることで更に上に変形する設計も、逆に図2(b)の状態から図2(a)の状態に近づく設計も可能である。
の実施例を示した説明図である。
図3の実施例は、図1に示したものと同様の赤外線センサを基板9上に二個並べたセンサの構成説明図である。
図3において、図1と同一の部分には同一の符号を付けてその説明を省略する。
図3において、10は、図1に示したものと同様の構成の赤外線センサである。13は、図1に示したものと同様の構成の参照用センサである。7aは、振動体に赤外線が吸収されるようにする反射防止層、7bは、振動体に赤外線が吸収されないようにする反射層である。
参照用センサ13は、ノイズ等の影響をモニタリングするために使用されるものである。
測定したい赤外線が入射する、もう片方のセンサ10との差を取ることで、入射赤外線1がもたらす信号のみを得ることができ、全体として差動型センサが実現できる。測定用センサ10には赤外線のエネルギーが吸収され易くする反射防止層7aを加えることが有効である。参照用センサ13には、反射層7bを用意して、赤外線のエネルギーが吸収され難くする。また、図3の例示とは異なり、振動子長さ方向に二個並べる配置にした上で、参照用センサに赤外線そのものが入射しないように光学系を組むことも可能である。駆動用電極8a、検出用電極8bの形状は例示である。駆動用電極を共通にすることもできる。
図4において、図1と同一の部分には同一の符号を付けてその説明を省略する。
図4において、14は、図1のセンサを基板9上に1次元に多数並べたアレイ型赤外線センサである。
図4の実施例は、図1のセンサを基板9上に1次元に多数並べたアレイ型赤外線センサ14の構成説明図である。センサ10はリボン状であり、一つのセンサ素子の占有面積が小さくできると共に、アレイ化した際にフィルファクタの高い配置が可能となる。入射光がセンサ領域に入射しない「蹴られ」を最小にして赤外線検出が可能となる。駆動用電極8a、検出用電極8bの形状は例示である。駆動用電極を共通にすることもできる。この一次元アレイを更に、振動子長さ方向にアレイ化することで、二次元アレイにすることも可能である。二次元アレイ状にしたセンサは、イメージセンサとして利用できる。
の実施例を示した説明図である。
図5において、図4と同一の部分には同一の符号を付けてその説明を省略する。
図5において、15は回折格子、16はレンズ、17は回折光である。
図5の実施例は、図4に示した一次元アレイ状にしたセンサ14を回折格子と組み合わせて、分光システムを実現する光学系を示したものである。入射赤外線1は回折格子15に入射する。レンズ16を通った回折光17は、赤外線センサ14上に集光する。集光位置は波長によって異なり、各波長と各センサ10は対応する。集光機能付き回折格子であれば15と16を一つの素子で実現することもできる。回折格子15の代わりに、プリズムを利用しても良い。
2・・・トーションバー(ねじり棒バネ)
3・・・二つの固定端を真直ぐ結ぶ直線からのトーションバーの変位
4・・・張力
5・・・トーションバーに生じる回転変位
6・・・振動体(赤外線受光部)
6a・・・振動体の上層(複数層でも良い)
6b・・・振動体の下層(複数層でも良い)
7a・・・振動体に赤外線が吸収されるようにする反射防止層
7b・・・振動体に赤外線が吸収されないようにする反射層
8・・・下部電極
8a・・・振動子駆動用電極
8b・・・振動子検出用電極
9・・・ 基板
10・・・センサ
11・・・低温状態の赤外線センサ
12・・・高温状態の赤外線センサ
13・・・参照用センサ
14・・・アレイ型赤外線センサ
15・・・回折格子
16・・・レンズ
17・・・回折光
21・・・固定端
Claims (7)
- 赤外線吸収による温度上昇に伴って、トーションバーにより支持された振動子が示す、機械的共振周波数またはQ値の変化を検出することにより赤外線を検出することを特徴とする、ねじり振動を利用した赤外線検出方法。
- 赤外線吸収による温度上昇に伴って、両端が固定され張力が加わったトーションバーにより支持された振動子が示す、機械的共振周波数またはQ値の変化を検出することにより赤外線を検出することを特徴とする、ねじり振動を利用した赤外線検出方法。
- トーションバーにより支持された振動子と、
振動子に赤外線を照射する手段と、
トーションバーをねじり運動させるための駆動手段と、
振動子の振動特性を電気的インピーダンスなどで測定する検出手段とを具備し、
振動子が赤外線吸収による温度上昇に伴って示す、
機械的共振周波数またはQ値の変化を検出することにより赤外線を検出することを特徴とする、ねじり振動を利用した赤外線センサ。 - 両端が固定され張力が加わったトーションバーにより支持された振動子と、
振動子に赤外線を照射する手段と、
トーションバーにトルクを加える駆動用電極と、
振動子の振動特性を電気的インピーダンスなどで測定する検出用電極と、
振動体と駆動用電極の間に駆動電圧を印加することで、振動体を引き付け、回転運動を発生させる駆動手段とを具備し、
振動子が赤外線吸収による温度上昇に伴って示す、
機械的共振周波数またはQ値の変化を検出することにより赤外線を検出することを特徴とする、ねじり振動を利用した赤外線センサ。 - 請求項3乃至請求項4記載の赤外線センサにおいて、トーションバーに引張応力を持つ多結晶シリコン膜または結晶シリコン膜を使用することを特徴とする、ねじり振動を利用した赤外線センサ。
- 請求項3乃至請求項4記載の赤外線センサを複数個使用し、赤外線の照射されないセンサで得られる信号を参照信号として比較をすることによりノイズ等の影響をモニタリングすることを特徴とする、ねじり振動を利用した赤外線センサ。
- 請求項3乃至請求項4記載の赤外線センサを複数個使用することを特徴とする、ねじり振動を利用したアレイ型赤外線センサ。
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