JP2010235985A - 高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用Ni基合金、並びに蒸気タービン用部材 - Google Patents

高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用Ni基合金、並びに蒸気タービン用部材 Download PDF

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威夫 須賀
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Abstract

【課題】高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた蒸気タービンの鍛造部品用Ni基合金、このNi基合金を用いて作製された蒸気タービン用部材を提供することを目的とする。
【解決手段】高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用Ni基合金は、質量%で、C:0.01〜0.15%、Cr:18〜28%、Co:10〜15%、Mo:8〜12%、Al:1.5〜2%、Ti:0.1〜3%、B:0.001〜0.006%、Ta:0.1〜0.7%、Re:0.5〜3%を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなる。
【選択図】なし

Description

本発明は、高温の蒸気が作動流体として流入する蒸気タービンの鍛造部品を構成する材料に係わり、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用Ni基合金、このNi基合金を用いて作製された蒸気タービン用部材に関する。
火力発電プラントにおいて、地球環境を保護する観点から二酸化炭素の排出量を抑制する技術が注目されており、また発電の高効率化のニーズも高まっている。
蒸気タービンの発電効率を上げるためには、蒸気タービンの蒸気温度を高温化することが有効であり、近年の火力発電プラントにおいては、その蒸気温度は600℃以上に上昇しており、将来的には650℃、さらに700℃へと上昇することが予想される。
高温の蒸気にさらされる蒸気タービンを構成する部材は、周囲に高温の蒸気が回流し高温にさらされるとともに、それ自体に高い応力が発生する。そのため、蒸気タービン用部材は、高温、高応力に耐える必要があり、蒸気タービン用部材を構成する材料として、室温から高温度の領域において優れた強度、延性、靭性を有する合金が求められており、特に蒸気タービンの動翼、静翼、螺合部材、配管類などの蒸気タービン用部材には、良好な溶接性も必要とされるので、高温、高応力に耐えるとともに、良好な溶接性を有することも求められる。
また、蒸気温度が700℃を超える場合には、従来の鉄系材料では高温強度が不足するため、Ni基合金の適用が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。
Ni基合金は、高温強度特性、耐食性に優れていることから、主にジェットエンジンやガスタービン材料として広く用いられてきており、その代表例として、インコネル617合金(スペシャルメタル社製)やインコネル706合金(スペシャルメタル社製)が挙げられる。
Ni基合金の高温強度を強化するメカニズムとして、AlやTiを添加することによりNi基合金の母相材内にガンマプライム相(Ni(Al,Ti))、あるいはガンマダブルプライム相(NiNb)と呼ばれる析出相、又はそれらの両相を析出させて高温強度を確保するものがある。このガンマプライム相あるいはガンマダブルプライム相の両相を析出させて高温強度を確保するものとして、例えば、インコネル706合金が挙げられる。
また、インコネル617合金のように、Co、Moを添加することにより、Ni基の母相を強化(固溶強化)して高温強度を確保するようにしたNi基合金も知られている。
特開平7−150277号公報
上記したように、700℃を超える蒸気タービン用部材として、鉄系材料より高温強度の強いNi基合金の使用が検討されており、Ni基合金の鍛造性や溶接性などを維持しつつ、高温強度などを満足する組成の改良が求められている。
そこで、本発明は、高温強度特性、鍛造性および溶接性にともに優れた蒸気タービンの鍛造部品用Ni基合金、このNi基合金を用いて作製された蒸気タービン用部材を提供することを目的とする。
本発明の高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用Ni基合金の一態様は、質量%で、C:0.01〜0.15%、Cr:18〜28%、Co:10〜15%、Mo:8〜12%、Al:1.5〜2%、Ti:0.1〜3%、B:0.001〜0.006%、Ta:0.1〜0.7%、Re:0.5〜3%を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなることを特徴とする。
また、本発明の高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用Ni基合金の一態様は、質量%で、C:0.01〜0.15%、Cr:18〜28%、Co:10〜15%、Mo:8〜12%、Al:1.5〜2%、Ti:0.1〜3%、B:0.001〜0.006%、Nb:0.1〜0.4%、Re:0.5〜3%を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなることを特徴とする。
さらに、本発明の高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用Ni基合金の一態様は、質量%で、C:0.01〜0.15%、Cr:18〜28%、Co:10〜15%、Mo:8〜12%、Al:1.5〜2%、Ti:0.1〜3%、B:0.001〜0.006%、Ta+2Nb(TaとNbのモル比が1:2):0.1〜0.7%、Re:0.5〜3%を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなることを特徴とする。
また、本発明の蒸気タービン用部材の一態様は、上記したいずれかの、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用Ni基合金を用いて、少なくとも所定部位が鍛造により作製されたことを特徴とする。
本発明によれば、高温強度特性、鍛造性および溶接性にともに優れた、蒸気タービンの鍛造部品用Ni基合金、この蒸気タービンの鍛造部品用Ni基合金を用いて作製された蒸気タービン用部材を提供することができる。
以下、本発明の一実施の形態を説明する。
本実施形態における、高温強度特性、鍛造性および溶接性にともに優れた、蒸気タービンの鍛造部品用Ni基合金は、以下に示す組成成分の含有範囲で構成される。なお、以下の説明において組成成分を表す%は、特に明記しない限り質量%とする。
(合金1)C:0.01〜0.15%、Cr:18〜28%、Co:10〜15%、Mo:8〜12%、Al:1.5〜2%、Ti:0.1〜3%、B:0.001〜0.006%、Ta:0.1〜0.7%、Re:0.5〜3%を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなるNi基合金。
(合金2)C:0.01〜0.15%、Cr:18〜28%、Co:10〜15%、Mo:8〜12%、Al:1.5〜2%、Ti:0.1〜3%、B:0.001〜0.006%、Nb:0.1〜0.4%、Re:0.5〜3%を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなるNi基合金。
(合金3)C:0.01〜0.15%、Cr:18〜28%、Co:10〜15%、Mo:8〜12%、Al:1.5〜2%、Ti:0.1〜3%、B:0.001〜0.006%、Ta+2Nb:0.1〜0.7%、Re:0.5〜3%を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなるNi基合金。なお、「Ta+2Nb」は、TaとNbのモル比が1:2を意味する。
ここで、上記(合金1)〜(合金3)のNi基合金における不可避的不純物において、その不可避的不純物のうち、少なくとも、Siが0.1%以下、Mnが0.1%以下に抑制されていることが好ましい。なお、不可避的不純物としては、上記した、SiおよびMnの他に、例えば、Cu、FeおよびSなどが挙げられる。
上記した組成成分の含有範囲のNi基合金は、運転時の温度が、例えば680〜750℃となる蒸気タービンの鍛造部品を構成する材料として好適である。蒸気タービン用部材(蒸気タービンの鍛造部品)として、例えば、蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材、蒸気タービン用配管類などが挙げられる。
ここで、蒸気タービン用螺合部材として、例えば、タービンケーシングやタービン内部の各種構成部品を固定するボルトやナットなどを例示することができる。また、蒸気タービン用配管類として、例えば、蒸気タービンプラントなどに設置され、蒸気タービンに高温高圧の蒸気を供給する配管や、蒸気タービン内部の配管などを例示することができる。蒸気タービン用配管類として、具体的には、例えば、ボイラからの蒸気を高圧タービンに導く主蒸気管や、ボイラ再熱器からの蒸気を中圧タービンに導く再熱蒸気管などを例示することができる。さらに、蒸気タービン用配管類として、蒸気タービンに導入された高温高圧の蒸気をノズルボックスに導く主蒸気導入管などを例示することができる。なお、蒸気タービン用配管類は、これらに限定されるものではなく、例えば、温度が680〜750℃の蒸気が流動する配管なども含まれる。
上記した蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材、蒸気タービン用配管類は、いずれも高温高圧の環境に設置され、その中でも、蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用配管類などは、高温高圧の蒸気にさらされる環境に設置される。
なお、上記した蒸気タービン用部材のすべての部位を上記したNi基合金で構成しても、また、特に高温となる蒸気タービン用部材の一部の部位を上記したNi基合金で構成してもよい。ここで、蒸気タービン用部材が高温となるのは、具体的には、例えば、高圧蒸気タービン部の全領域、または高圧蒸気タービン部から中圧蒸気タービン部の一部分までの領域などが挙げられる。さらに、蒸気タービン用部材が高温となるのは、上記した高温高圧の蒸気を各種蒸気タービンに導く、主蒸気管や再熱蒸気管などの配管部が挙げられる。なお、蒸気タービンの鍛造部品が高温となる部分は、これらに限られるものではなく、例えば、温度が680〜750℃程度となる部分であればこれに含まれる。
また、上記した組成成分の含有範囲のNi基合金は、従来のNi基合金よりも高温強度特性に優れ、かつ鍛造性および溶接性に優れている。すなわち、このNi基合金を用いて、蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材、蒸気タービン用配管類などの蒸気タービン用部材を構成することで、高温環境下においても高い信頼性を有する、蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材、蒸気タービン用配管類などの鍛造部品を作製することができる。
次に、上記した本実施形態のNi基合金における各組成成分の含有範囲に関する限定理由を説明する。
(1)C(炭素)
Cは、強化相であるM23型炭化物の構成元素として有用であり、特に650℃以上の高温環境下では、蒸気タービンの運転中にM23型炭化物を析出させることが合金のクリープ強度を維持させる要因の一つである。また、鋳造時の溶湯の流動性を確保する効果も併せ持つ。Cの含有率が0.01%未満の場合には、炭化物の十分な析出量を確保することができないため、機械的強度(高温強度特性、以下同じ)が低下するとともに、鋳造時の溶湯の流動性が著しく低下する。ここで、本実施形態の鍛造部品用Ni基合金を作製する場合においても、まず、本実施形態の化学組成の含有範囲にあるNi基合金を溶解し、鋳塊を形成し、圧延などにより鍛造するため、鋳造時の溶湯の流動性が必要となる。一方、Cの含有率が0.15%を超えると、大型鋳塊の作製の際に成分の偏析傾向が増加するとともに脆化相であるMC型炭化物の生成を促進する。そのため、Cの含有率を0.01〜0.15%にした。
(2)Cr(クロム)
Crは、Ni基合金の耐酸化性、耐食性および機械的強度を高めるのに不可欠な元素である。さらにM23型炭化物の構成元素として不可欠であり、特に650℃以上の高温環境下では、蒸気タービンの運転中にM23型炭化物を析出させることで、合金のクリープ強度が維持される。また、Crは、高温蒸気の環境下における耐酸化性を高める。Crの含有率が18%未満の場合には、耐酸化性が低下する。一方、Crの含有率が28%を超えると、M23型炭化物の析出を著しく促進することによって粗大化傾向を高める。そのため、Crの含有率を18〜28%にした。
(3)Co(コバルト)
Coは、Ni基合金において、母相内に固溶して母相の機械的強度を向上させる。しかしながら、Coの含有率が15%を超えると、機械的強度を低下させる金属間化合物相を生成し、機械的強度が低下する。一方、Coの含有率が10%未満の場合には、加工性(鍛造性)が低下し、さらに機械的強度が低下する。そのため、Coの含有率を10〜15%にした。
(4)Mo(モリブデン)
Moは、Ni母相中に固溶して母相の機械的強度を向上させる効果を有し、また、M23型炭化物中に一部が置換することによって炭化物の安定性を高める。Moの含有率が8%未満の場合には、上記した効果が発揮されず、一方、Moの含有率が12%を超えると、大型鋳塊を作製する際に成分の偏析傾向が増加するとともに、脆化相であるMC型炭化物の生成を促進する。そのため、Moの含有率を8〜12%にした。
(5)Al(アルミニウム)
Alは、Niとともにγ’(ガンマプライム:NiAl)相を生成し、析出によるNi基合金の機械的強度を向上させる。Alの含有率が1.5%未満の場合には、機械的強度、加工性(鍛造性)ともに従来合金と比べて向上されず、一方、Alの含有率が2%を超えると、機械的強度は向上するが、加工性(鍛造性)が低下する。そのため、Alの含有率を1.5〜2%にした。
(6)Ti(チタン)
Tiは、Alと同様、Niとともにγ’(ガンマプライム:NiTi)相を生成し、Ni基合金の機械的強度を向上させる。Tiの含有率が0.1%未満の場合には、上記した効果が発揮されず、一方、Tiの含有率が3%を超えると、加工性(鍛造性)が低下する。そのため、Tiの含有率を0.1〜3%にした。
(7)B(ホウ素)
Bは、Ni母相中に析出して母相の機械的強度を向上させる効果を有する。Bの含有率が0.001%未満の場合には、母相の機械的強度を向上させる効果が発揮されず、一方、Bの含有率が0.006%を超えると、粒界脆化を招く恐れがある。そのため、Bの含有率を0.001〜0.006%にした。
(8)Ta(タンタル)
Taは、γ’(ガンマプライム:Ni(Al,Ti))相の析出強度を安定させる。Taの含有率が0.1%未満の場合には、上記した効果において従来合金と比べて向上がみられず、一方、Taの含有率が0.7%を超えると、経済性が損なわれ、製造コストが増加する。そのため、Taの含有率を0.1〜0.7%にした。
(9)Nb(ニオブ)
Nbは、Taと同様に、γ’(ガンマプライム:Ni(Al,Ti))相に固溶して強度を高め、析出強度を安定させる。Nbの含有率が0.1%未満の場合には、上記した効果において従来合金と比べて向上がみられず、一方、Nbの含有率が0.4%を超えると、機械的強度は向上するが、加工性(鍛造性)が低下する。そのため、Nbの含有率を0.1〜0.4%にした。
また、上記したTaとNbを、(Ta+2Nb)の含有率が0.1〜0.7%の範囲で含有することで、γ’相の析出強度を向上させる。(Ta+2Nb)の含有率が0.1%未満の場合には、上記した効果において従来合金と比べて向上がみられず、一方、(Ta+2Nb)の含有率が0.7%を超えると、機械的強度は向上するが、加工性(鍛造性)が低下する。なお、この場合、TaおよびNbは、それぞれ少なくとも0.01%以上含有される。
Nbの比重は、Taの約1/2(Taの比重:16.6、Nbの比重:8.57)であることからTa単独で添加する場合に比べ、TaとNbを複合添加することで固溶量を増大することができる。また、Taは、戦略物質ということもあり、材料調達が不安定であるが、Nbの埋蔵量はTaの約100倍で安定供給が可能である。Taは、Nbよりも融点が高く(Taの融点:約3000℃、Nbの融点:約2470℃)、より高温におけるγ’相が強化され、また、Nbよりも耐酸化性に優れている。
(10)Re(レニウム)
Reは、Ni母相中に固溶して母相の機械的強度を向上させる効果を有する。Reの含有率が0.5%未満の場合には、母相の機械的強度を向上させる効果が発揮されず、一方、Reの含有率が3%を超えると、脆弱な相を形成する。そのため、Reの含有率を0.5〜3%にした。Co、Moも、Reと同様に、Ni母相中に固溶して母相の機械的強度を向上させる効果を有するが、同量の含有率でReが最も機械的強度の向上に優れ、ベース金属の化学成分の組成を大きく変化させることなく機械的強度を向上させることができる。
(11)Si(ケイ素)、Mn(マンガン)、Cu(銅)、Fe(鉄)およびS(硫黄)
Si、Mn、Cu、FeおよびSは、本実施形態のNi基合金においては、不可避的不純物に分類されるものである。これらの不可避的不純物は、可能な限りその残存含有率を0%に近づけることが望ましい。また、これらの不可避的不純物のうち、少なくとも、SiおよびMnは、0.1%以下に抑制されることが好ましい。
Siは、普通鋼の場合、耐食性を補うために添加される。しかしながら、Ni基合金はCr含有量が多く、十分に耐食性を確保できることから、本実施形態のNi基合金では、Siの残存含有率を0.1%以下とし、可能な限りその残存含有率を0%に近づけることが望ましい。
Mnは、普通鋼の場合、脆性に起因するS(硫黄)をMnSとして脆性を防止する。しかしながら、Ni基合金におけるSの含有量は極めて少なく、Mnを添加する必要はない。そのため、本実施形態のNi基合金では、Mnの残存含有率を0.1%以下とし、可能な限りその残存含有率を0%に近づけることが望ましい。
本実施形態の蒸気タービンの鍛造部品用Ni基合金は、例えば、Ni基合金を構成する組成成分を真空誘導溶解(VIM)し、溶解した溶湯を所定の型枠に注入して鋳塊を形成し、その鋳塊をソーキング処理し、圧延などによって鍛造し、溶体化処理を施すことで作製される。
ソーキング処理では、1050〜1250℃の温度範囲で5〜72時間維持し、溶体化処理では、1100〜1200℃の温度範囲で4〜15時間維持することが好ましい。ここで、溶体化処理の温度は、γ’相析出物を均質に固溶化するために行われ、温度が1100℃未満では十分に固溶されず、一方、1200℃を超える温度では結晶粒の粗大化により強度が低下する。また、鍛造は、950〜1150℃の温度範囲で行われる。
また、本発明に係る蒸気タービン用部材の一実施形態である蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材は、例えば次のように作製される。まず、上記した実施形態の蒸気タービンの鍛造部品用Ni基合金を構成する組成成分を真空誘導溶解(VIM)し、エレクトロスラグ再溶解(ESR)し、減圧雰囲気で所定の型に流し込んで鋳塊を作製し、ソーキング処理を施す。そして、この鋳塊を上記蒸気タービン用部材の形状に対応する型に配置して圧延などの鍛造処理、溶体化処理を施すことで蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材が作製される。すなわち、蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材は、型鍛造によって作製される。
また、蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材は、例えば、上記した実施形態の蒸気タービンの鍛造部品用Ni基合金を構成する組成成分を真空誘導溶解(VIM)し、真空アーク再溶解(VAR)し、減圧雰囲気で所定の型に流し込んで鋳塊を作製し、ソーキング処理を施し、上記した同様の鍛造処理、溶体化処理を施す方法で作製されてもよい。
さらに、蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材は、例えば、上記した実施形態の蒸気タービンの鍛造部品用Ni基合金を構成する組成成分を真空誘導溶解(VIM)し、エレクトロスラグ再溶解(ESR)し、真空アーク再溶解(VAR)し、減圧雰囲気で所定の型に流し込んで鋳塊を作製し、ソーキング処理を施し、上記した同様の鍛造処理、溶体化処理を施す方法で作製されてもよい。
一方、他の実施形態の蒸気タービン用配管類は、例えば次のように作製される。まず、上記した実施形態の蒸気タービンの鍛造部品用Ni基合金を構成する組成成分を電気炉溶解(EF)し、アルゴン−酸素脱炭(AOD)を行い、鋳塊を作製し、ソーキング処理を施す。この鋳塊を縦型プレスで穿孔してコップ状の素管を作製し、横型プレスでマンドレルとダイスによる加工と再加熱を繰り返し、蒸気タービン用配管類の形状に成型することで蒸気タービン用配管類が作製される。この加工方法は、エルハルト―プッシュベンチ製管法である。
なお、上記した、蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材、蒸気タービン用配管類を作製する方法および取り付ける方法は、上記した方法に限定されるものではない。
以下に、上記した実施形態の蒸気タービンの鍛造部品用Ni基合金が、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れていることを説明する。
(高温強度特性、鍛造性および溶接性の評価)
表1は、高温強度特性、鍛造性および溶接性の評価に用いられた試料1〜試料30の化学組成を示す。なお、試料1〜試料6は、上記した実施形態の化学組成の含有範囲にあるNi基合金であり、試料7〜試料30は、その組成が上記した実施形態の化学組成の含有範囲にないNi基合金であり、比較例である。また、試料7は、従来合金であるインコネル617相当の化学組成を有する。なお、ここで使用した上記した実施形態の化学組成の含有範囲にあるNi基合金には、不可避的不純物として、Si、Mn以外に、Fe、Cu、Sが含まれている。
Figure 2010235985
高温強度特性を引張強度試験によって評価した。引張強度試験では、表1に示す化学組成を有する試料1〜試料30のNi基合金20kgをそれぞれ真空誘導溶解炉にて溶解し、鋳塊を作製した。続いて、この鋳塊に対して、1050℃で5時間ソーキング処理を行った。その後、950〜1100℃(再加熱が1100℃)の温度範囲で500kgfハンマー鍛造機にて鍛造し、その後、1180℃で4時間、溶体化処理を施して鍛造合金とした。そして、この鍛造合金から所定のサイズの試験片を作製した。
そして、各試料による試験片に対して、温度が23℃、700℃、800℃の条件でJIS G 0567(鉄鋼材料及び耐熱合金の高温引張試験方法)に基づいて引張強度試験を行い、0.2%耐力を測定した。ここで、引張強度試験における温度条件である700℃、800℃は、蒸気タービンの通常の運転時の温度条件およびそれに安全率を見込んだ温度を考慮して設定した。0.2%耐力の測定結果を表2に示す。
また、各試料に対して、鍛造性の評価を行った。鍛造性の評価は、鍛造比(JIS G 0701(鋼材鍛錬作業の鍛錬成形比の表わし方)に基づく鍛造比)が3となるまで鍛造処理を行い、このときの鍛造割れの有無を目視観察した。なお、鍛造処理は、950〜1100℃の範囲で行い、鍛造被対象物である試験片の温度が低下したとき、すなわち鍛造被対象物が硬化してきたときには、再加熱温度1100℃まで再度加熱して鍛造処理を繰り返し行った。鍛造性の評価結果を表2に示す。ここで、表2において、「鍛造割れ」は鍛造後に「鍛造割れ」の有無を観察した結果であり、「無」は「鍛造割れ」が無かったもの、「有」は有ったものである。「鍛造性」は鍛造性を評価した結果であり、「○」は良好と判定されたもの、「×」は鍛造性が良くなかったものである。
さらに、各試料に対して、溶接性の評価を行った。溶接性の評価において使用する試験片として、上記した鋳塊から幅が60mm、長さが150mm、厚さが40mmの試験片を製作した。この試験片に、幅が10mm、深さが5mmの溝を、試験片の幅方向のほぼ中心で長さ方向に沿って形成した。そして、その溝部分にティグ(TIG)溶接のアーク加熱を行った後、試験片を、試験片の幅方向に平行にかつ厚さ方向に切断した。そして、切断面についてJIS Z 2343−1(非破壊試験―浸透探傷試験―第1部:一般通則:浸透探傷試験方法及び浸透指示模様の分類)に基づいて、溶接熱影響部の浸透探傷試験(PT)を行い、溶接割れの有無を目視観察した。溶接性の評価結果を表2に示す。ここで、表2において、「溶接割れ」は溶接後に、「溶接割れ」の有無を観察した結果であり、「無」は「溶接割れ」が無かったもの、「有」は有ったものである。「溶接性」は溶接性を評価した結果であり、「○」は良好と判定されたもの、「×」は溶接性が良くなかったものである。
Figure 2010235985
表2に示すように、試料1〜試料6は、各温度において高い0.2%耐力が得られるとともに、鍛造性および溶接性にも優れていることがわかった。具体的には、例えば、比較合金の700℃において、鍛造割れが有った場合の0.2%耐力値が288〜345(495)MPaであるのに対し、鍛造割れが無かった場合の0.2%耐力値が146〜343MPaであり、相対的に0.2%耐力値の大きい方に鍛造割れが有る傾向が認められた。それに対し、試料1〜試料6では、0.2%耐力値が総じて鍛造割れが有った場合の0.2%耐力値(288〜345(495MPa))よりも高い(372〜406MPa)にもかかわらず、鍛造割れが無く優れていた。このことは、鍛造性における鍛造割れと溶接性における溶接割れが類似の傾向を示すことから、溶接性においてもいえる。なお、試料1〜試料6において、0.2%耐力が高い値となったのは、析出強化と固溶強化が図られたためと考えられる。
一方、例えば、試料18や試料20の比較合金では、0.2%耐力は高い値を示したが、鍛造性、溶接性が劣っていることがわかった。このように、高温強度特性、鍛造性および溶接性のすべてに優れた従来合金はなかった。
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形してもよい。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより、種々の発明を構成できる。例えば実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。

Claims (6)

  1. 質量%で、C:0.01〜0.15%、Cr:18〜28%、Co:10〜15%、Mo:8〜12%、Al:1.5〜2%、Ti:0.1〜3%、B:0.001〜0.006%、Ta:0.1〜0.7%、Re:0.5〜3%を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなることを特徴とする、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用Ni基合金。
  2. 質量%で、C:0.01〜0.15%、Cr:18〜28%、Co:10〜15%、Mo:8〜12%、Al:1.5〜2%、Ti:0.1〜3%、B:0.001〜0.006%、Nb:0.1〜0.4%、Re:0.5〜3%を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなることを特徴とする、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用Ni基合金。
  3. 質量%で、C:0.01〜0.15%、Cr:18〜28%、Co:10〜15%、Mo:8〜12%、Al:1.5〜2%、Ti:0.1〜3%、B:0.001〜0.006%、Ta+2Nb(TaとNbのモル比が1:2):0.1〜0.7%、Re:0.5〜3%を含有し、残部がNiおよび不可避的不純物からなることを特徴とする、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用Ni基合金。
  4. 前記不可避的不純物のうち、少なくとも、Siを0.1質量%以下、Mnを0.1質量%以下に抑制したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用Ni基合金。
  5. 請求項1乃至4のいずれか1項記載の、高温強度特性、鍛造性および溶接性に優れた、蒸気タービンの鍛造部品用Ni基合金を用いて、少なくとも所定部位が鍛造により作製されたことを特徴とする蒸気タービン用部材。
  6. 前記蒸気タービン用部材は、蒸気タービンの動翼、蒸気タービンの静翼、蒸気タービン用螺合部材および蒸気タービン用配管からなる群より選ばれた1種であることを特徴とする請求項5記載の蒸気タービン用部材。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2015054332A (ja) * 2013-09-10 2015-03-23 大同特殊鋼株式会社 Ni基耐熱合金の鍛造加工方法
WO2017046851A1 (ja) * 2015-09-14 2017-03-23 三菱日立パワーシステムズ株式会社 タービン動翼の製造方法

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