JP2010229851A - 宇宙飛翔体用触媒分解式スラスタ - Google Patents
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Abstract
【解決手段】液体推進薬を収容するための中空のタンクと、液体推進薬を分解させ、反応ガスを噴射する燃焼器と、タンクから前記燃焼器への前記液体推進薬の供給を制御する推薬弁とを備え、燃焼器はさらに、液体推進薬を触媒分解させるための触媒を有する触媒部材と、触媒部材を加熱するための加熱装置と、触媒部材に対して液体推進薬を供給するインジェクタとを備え、触媒部材がセラミックスの一体成形物からなる、宇宙飛翔体用触媒分解式スラスタ。
【選択図】図3
Description
宇宙飛翔体用の一液推進系に使用する燃料としては、ヒドラジンを使用することが多い。ヒドラジンは、反応性が高い点で優れた燃料であるといえるが、取り扱いに危険を伴う。このため、近年、ヒドラジンに代わる低毒性の液体推進薬として、硝酸ヒドロキシルアンモニウム(「HAN」)系の液体推進薬が注目されている。
例えば、特開2007−023135号公報には、一液のみで機能を果たす推進剤であるモノプロペラント(一液推進薬)等に用いられる安全性の高い液体酸化剤として、ヒドロキシルアンモニウムナイトレート(HAN)及びヒドラジニウムナイトレート(HN)を水(H2O)に溶解し、さらに10重量%以下の燃料成分を含む液体酸化剤が開示されており、この液体酸化剤と、固体燃料又は液体燃料を別々に保管し、使用直前に混合又は接触させて着火し高温ガスを発生させる高温ガス発生方法が開示されている。
また、特開2004−340148号公報には、HAN基推進薬を反応器に導入し、推進薬内のHANの少なくとも大部分を解離させるように推進薬を分解し、反応器の出力物を燃焼器に導き、解離HANの解離生成物を推進薬内の未反応燃料と燃焼させるように、反応器の出力物を燃焼器内で燃焼させる方法が開示されている。
図1に示されている触媒分解式スラスタにおいて採用されている触媒層14についてさらに詳細にみると、触媒層14は、図2に示すような構造を有している。すなわち、従来の触媒層14は、液体推進薬を触媒分解させる粉末状の触媒8を、金網9で保持したものであった。
さらに、触媒分解式スラスタ10が宇宙環境のような無重力状態にある場合、あるいは地上での組立て工程や輸送の際に、摩擦や燃焼による損耗、破壊により触媒粉が発生し、粒径の小さい触媒が逆流してインジェクタ15の噴出口あるいは液体推進薬の流路や推薬弁11を閉塞したり、燃焼器13のノズルを閉塞したりすることがある。
ここで、「一体成形物」とは、従来の粉末状の触媒と金網からなる触媒層のように、別個独立の複数の部品から構成されるものではなく、一体のものとして成形されるものを意味する。 本発明の触媒分解式スラスタにおいて、燃焼器と触媒部材とが同一の材料により一体成形されているのが好ましい。
図3に、本発明による触媒分解式スラスタの断面模式図を示す。触媒分解式スラスタ1は、液体推進薬を触媒で分解させて得られる反応ガスを噴射して推進力を得る、触媒分解式スラスタである。この触媒分解式スラスタ1は、液体推進薬を収容するための中空のタンク(図示せず)と、液体推進薬を分解させ、反応ガスを噴射する燃焼器2と、タンクから燃焼器への液体推進薬の供給を制御する推薬弁3とを備えている。
本発明で使用するタンクとしては、特に制限はないが、例えば内径50mmの円筒形状のタンクを使用することができる。HAN系液体推進薬が強酸性であることに鑑みて、タンクの材質は、材料適合性試験により適合性が確認されているステンレスやチタン系の材料とするのが望ましい。
タンクは気液分離機構の一例としてピストンを備えており、ピストンがタンクの内部に液体推進薬が充填された区画を形成し、ピストンが作動することにより、液体推進薬が推薬弁3の開閉に従って燃焼器2へ送出されるようにすることができる。タンクがこのような気液分離機構を備えていることは、本発明の触媒分解式スラスタが宇宙飛翔体に用いられる際に重要となる。すなわち、タンクの内部に気液分離機構を設けて液体推進薬が充填された区画を形成しておけば、タンクを宇宙環境で使用する場合に、無重力下で液体推進薬がタンクの内壁付近に偏在してしまい、液体推進薬をタンクから排出する際にガスが排出されてしまうのを防ぐことができる。HAN系液体推進薬に対する耐性の観点から、ピストン等の気液分離機構もステンレスや高分子材料製とするのが望ましい。
タンクの内面は、鏡面仕上げとなっている。また、タンクは、安全率を2倍以上(地上試験においては安全率を4倍以上)として、内圧3MPa程度の、宇宙飛翔体の軌道上で想定される圧力にも十分に耐えられるような、耐圧構造としておくのが望ましい。タンクへ液体推進薬を充填する場合には、次のように、宇宙飛翔体における液体推進薬の充填方法として一般的に用いられる所謂真空充填方式を採用することができる。なお、HAN系推進薬は長期保管が可能なので、タンクに充填した状態で液体推進薬を保存することも可能である。
燃焼器2はステンレス合金系であるのが望ましい。燃焼器2の材質は、高温(1000℃以上)の反応ガスおよび強酸性である未反応の液体推進薬に触れても材料適合性があるものを選定すればよい。燃焼器2の形状は、宇宙飛翔体で使用されている一般的な耐圧形状であればよく、例えば円筒形状とすることができる。燃焼器2の構造としては、反応ガスの圧力が1MPa弱の圧力を有することから、これに十分耐えられるような構造とし、さらに安全率2倍以上(地上試験においては安全率4倍以上)を確保するのが望ましい。
燃焼器2により得られるスラスト力としては、15N程度が得られるのが望ましい。得られるスラスト力の大きさは、スラスタ形状を調整することなどにより変更することが可能である。
燃焼器2のノズル4としては、宇宙飛翔体において通常使用されている種類のものを採用することができる。ノズル4については、ノズル4のスロートで反応ガスがチョークすることで、反応ガスの圧力が計測でき、計測結果からスラスタ性能を評価することができる。そして、評価されたスラスタ性能に基づいて、チョークできるノズル系を選定することが可能である。
ノズル4から反応ガスを排出して推進力を得るプロセスは、反応ガスがノズル4のスロートでチョークされ、音速となってスロートを通過し、その後適正に膨張することで推進力が得られる、というものである。
本発明で使用する推薬弁3としては、宇宙飛翔体に使用するものとして十分に実績のあるものを選定するのが望ましい。例えば、ステンレス系の合金構造であり、ソレノイドにより弁体を駆動してシールするスライディングフィット式もしくはサスペンデッドアーマチャ式のソレノイドバルブを好適に使用することができる。この推薬弁3は、宇宙用飛翔体において、燃焼器2へ液体推進薬を供給する役割を持ち、液体推進薬の供給を制御することで燃焼を制御するものである。
推薬弁3は、具体的には次のように機能する。すなわち、上流にあるタンクから加圧、圧送された液体推進薬は、推薬弁3が閉じていることにより、触媒層5を備える燃焼器2への供給が停止されている。そして、触媒分解式スラスタ1による推力の発生が求められるときにのみ、推薬弁3が開けられ、触媒層5に液体推進薬が供給されて、触媒分解により推力が発生する。このように、推薬弁3は、燃焼を制御する機能を持つ要素である。
本発明で使用する燃焼器2はさらに、液体推進薬を触媒分解させるための触媒部材5と、触媒部材5を加熱するための加熱装置6と、触媒部材5に対して液体推進薬を供給するインジェクタ7とを備えている。
本発明による触媒分解式スラスタが採用する触媒部材は、セラミックスの一体成形物からなるものである。
触媒部材5を構成するセラミックス材料としては、液体推進薬の触媒として機能し、一体成形可能なものであれば、特に制限はないが、触媒部材5及び燃焼器2の構造として共通化可能であって、触媒部材5と燃焼器2とを同一の材料により一体成形することのできる材料として、無機材料の金属酸化物を好適に使用できる。特に、入手容易性と構造強度の観点から、チッ化ケイ素系のセラミックスを使用するのが好ましい。このような材料としては、例えば、発電所のタービン材料として開発された、京セラ株式会社製のSN282というチッ化ケイ素系のセラミックスが挙げられ、この材料を使用して、有効に機能する触媒部材5を作製し、燃焼器2の構造材料とすることができる。
触媒部材5を、上記セラミックス材料を用いて一体成形する方法としては、セラミックス原料をスラリー状態で円盤状等の形状の型に流し込み、所定の温度で焼結させる方法がアある。その後、所望によりダイヤモンドカッターなどを用いて研磨して成型した円板に、反応ガスを排出するための孔を機械加工等により施工すればよい。触媒部材5の触媒としての機能の観点から、触媒部材5の形状は、できるだけ液体推進薬と接触する表面積が大きくなるようなものとするのが望ましいと考えられる。例えば、触媒部材5に設ける孔の数は、触媒部材5の厚さ等を勘案して、必要とされる強度を確保できるように配慮した上で、最大限に孔の数を増やして表面積を拡大できるように工夫するのが望ましい。
触媒部材5の寸法は、これを組み込む燃焼器2の寸法に応じて、適宜決定することができる。
加熱装置6としては、特に制限はなく、例えば電熱線をテープ状に加工したテープヒータを使用することができる。このようなヒータは、例えば10Ωの電熱線に24Vの電圧をかけて発熱させるものである。加熱装置6の施工は、テープヒータを使用する場合には、触媒部材5付近の燃焼器2の外側に、テープヒータを巻きつけることにより行うことができる。そして、ステンレス製の燃焼器2の熱伝達を利用して、触媒部材5を加熱する。
インジェクタ7も、他の要素と同様の理由から、ステンレスやチタンなどの材料適合性、高温耐性のある材料で構成するのが望ましい。このインジェクタ7は、触媒部材5に対して液体推進薬を供給可能なものであれば、特に制限はないが、好ましくは燃焼器2内で触媒部材5の上流に配置される噴霧器である。インジェクタ7から噴霧された液体推進薬が、触媒部材5に均一に噴霧されるようにするためには、スプレーの拡散角度を計測から50°とするのが好適であると考えられる。
インジェクタにより噴霧された液体推進薬の液滴の粒径は、0.1mm〜0.7mm程度であるのが望ましく、さらに望ましくは0.3mm〜0.5mm程度である。小さ過ぎる液滴は、慣性力が小さく、移動速度が低下するため、液体推進薬が効率良く触媒部材5に到達するのが困難になる。また、液滴が大き過ぎても小さ過ぎても、未反応の液体推進薬が形成される原因となる。未反応の液体推進薬の大量の液滴は、大きな塊となり、触媒温度の低下をもたらす一方、突然反応することにより爆発を起こす危険も有する。
本発明による触媒分解式スラスタは、上記のようなタンクのピストンに所定の圧力を印加することにより、インジェクタ7が触媒部材5に対して液体推進薬を噴霧するものとすることができる。その際、ピストンに印加する圧力は、液体推進薬の粘度等を考慮して、押し圧を0.75MPa以上とするのが望ましい。押し圧が低すぎると液体推進薬は噴霧されずに水流となってしまう。また、押し圧の上限は、宇宙環境での使用の観点から、4MPa程度であるものと考えられる。
触媒部材5を一体成形するのに使用するセラミックス材料を用いて、燃焼器2を製作することができる。その場合、セラミックス原料をスラリー状態で燃焼器2の形状に応じた型に流し込み、焼結させる。その後、設計した燃焼器の形状までダイヤモンドカッターなどを用いて研磨して成型すればよい。
燃焼器2と触媒部材5とを同一の材料により一体成形するには、上記のような燃焼器2の形状に応じた型に、触媒部材5となる部分として必要な構造箇所を追加すればよい。あるいは、燃焼器2の触媒部材5となるべき部分よりもインジェクタ7側(ノズル4とは反対の側)の部分がブランクとなるような型を用意し、型に流し込んだスラリー状態のセラミックス原料を焼結させた後に、ブランクに機械加工を施して、所望の寸法・形状を有する触媒部材5を形成することもできる。
製作した触媒部材5の触媒としての反応性を見るために、触媒のオープンカップ試験を実施した。具体的には、触媒部材5を加熱して活性化させておき、そこ触に液体推進薬を滴下し、その分解ガスの温度を計測した。その結果、触媒がおよそ175℃以上となったところから急激な推薬の分解が起こっているのが確認された。これは、触媒部材5をおよそ175℃以上に予熱することで、上記セラミックスの一体成形物からなる触媒部材が触媒として機能し、液体推進薬を分解できることを示している。
同様のセラミックス材料を使用して、構造が脆弱になりやすい大型(高さ460mm、ノズルスカート直径280mm)の燃焼器2を製作した。この燃焼器2について燃焼試験を実施したところ、燃焼器温度が1350℃もの高温に達しても問題がないことが確認された。また、この燃焼器2については、衛星が遭遇する機械環境、熱環境にも耐性があることが検証された。
これらの実験から、同一のセラミックス材料を用いて燃焼器2と触媒部材5とを作成した場合にも、ともに十分な性能を発揮することが予想される。
2 燃焼器
3 推薬弁
4 ノズル
5 触媒部材
6 加熱装置
7 インジェクタ
Claims (2)
- 液体推進薬を触媒で分解させて得られる反応ガスを噴射して推進力を得る、宇宙飛翔体用の触媒分解式スラスタであって、当該触媒分解式スラスタは、
前記液体推進薬を収容するための中空のタンクと、
前記液体推進薬を分解させ、反応ガスを噴射する燃焼器と、
前記タンクから前記燃焼器への前記液体推進薬の供給を制御する推薬弁と、
を備え、
前記燃焼器はさらに、
前記液体推進薬を触媒分解させるための触媒部材と、
前記触媒部材を加熱するための加熱装置と、
前記触媒部材に対して前記液体推進薬を供給するインジェクタと、
を備え、前記触媒部材がセラミックスの一体成形物からなることを特徴とする、前記触媒分解式スラスタ。 - 前記燃焼器と前記触媒部材とが同一の材料により一体成形されていることを特徴とする、請求項1に記載の触媒分解式スラスタ。
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